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第二話 冤罪令嬢

 


 子爵といっても我が家は他の貴族のようにお金持ちじゃない。

 王都に屋敷がない私は貴族学校では寮に入らざるをえなかった。

 今回のパーティーはリチャード様の計らいで王宮を借りたのだけど……。


(……また書かれてる)


 貴族学校の学生寮に帰ると、自室の扉には目を背けたくなるような悪罵が書かれていた。疲れ果てて帰って来た私は掃除をする体力は残っていない。


『売女』『あばずれ』『田舎に帰れ』『気持ち悪い』『役立たず』『銀髪がキショい』『生まれてきたことを謝れ』『ブサイク』『死ね』『能無し』『不気味女』


「今日もみんな暇そうね……でもごめん、構ってる気力がないの」


 ちなみにこれは私が婚約破棄を受ける前から継続的に続いていることだ。

 王子やエミリアに心配をかけたくないから内緒にしていたけど……。

 今考えたら、これもエミリアが誰かにやらせたことかもしれないわね。


 ……あれ? もしかして全部エミリアのせい?


 いつも箒を投げ渡してくる意地悪な寮母さんも、

 腐ったパンと冷や水しか渡してくれなかった食堂の給仕さんも、

 実家から届いているはずの仕送りがなぜか減っているのも……全部?


(……なんか、ほんとに馬鹿みたい)


 何もかもがどうでもよくなってきた。

 いつもは裏庭に行く時間なのだけど……今日はもういいかな。

 私はドレスからネグリンジェに着替えてベッドに行き……あれ?


(なにこれ?)


 何か見慣れない箱が置かれてあった。

 高い袋に包まれているそれは、よくエミリアがプレゼントに渡してくるものと同じだった。あんなことがあった後だから、私は警戒しながら箱を開けたのだけど……出てきたのは、見るからに高級そうな宝石だった。


(ひゃ、ひゃわわわ! なにこれ、なんでこんなものがここにあるの!?)


 もちろん子爵令嬢である私が買えるようなものじゃなかった。

 両親が私に届けてくれる仕送りの五倍くらいの値段がつきそうな宝石だ。


(か、返さなきゃ……誰のものか知らないけど)


 とにかくこれ以上これがここにあるのはまずい。

 なぜだか嫌な予感に襲われた私は箱を閉じようとして、


「失礼。アイリ・ガラント子爵令嬢はいらっしゃいますでしょうか」

「え?」


 ──事態はもう、どうしようもないところまで進んでいた。


 突然の来訪者に戸惑いながら、私は扉を開ける。

 そこでは物々しい恰好をした警備騎士たちがこちらを睨んでいた。


「え、ええと……?」

「アイリ・ガラント様ですね?」


 凄むように言われてこくこくと頷く。

 すると、彼は書類を取り出して読み上げて見せた。


「本日未明、キシャール宝石店で窃盗がありました。盗まれたのは25カラットのビジョン・ブラッド。宝石店で一番高い代物でした。その際、店主は銀色に光る髪を見ていて、犯人はこのあたりに逃げて来たと証言しました。心当たりは……ありますよね?」


 サァ、と顔が蒼褪めているのが自分でも分かる。


(あの宝石だわ……)


 これはきっとエミリアの罠だ。

 あの子がいつも使う袋に入っていたんだから間違いない。

 おそらく自分からの『贈り物』であることを分からせたかったんだろう。

 私の顔を見た騎士様が吐き捨てるように告げた。


「失礼ですが、なかを調べさせていただきます」

「あ、あの。これは、ちが」


 力強い手で私を押しのけて部屋の中に押し入ってくる騎士様。

 机の上には、私が空けたばかりのルビーの箱があって……。

 私は騎士たちに取り押さえられた。


「アイリ・ガラント。貴様を窃盗の容疑で現行犯逮捕する」


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