4月9日
今日はマーリンに起こされてから、準備をして教会へと向かった。
そこには黒い妖精を連れたマント姿の人間と、ルミ先生が待っていた。
「おはようございます」
《おはようございます》
昨日の姿を微塵も感じられない程に、妖精を気にしてソワソワしている。
スズランの君もニコニコとして、拗ねては居なさそう。
『何とか合流出来たね弟子達よ、じゃあ今日も頑張ろうね』
昼も無事に乗り越えたので、近くのオウルへ。
ルミ先生の勤務する病院で昼食をとる事になった。
その移動中、マティアスからの伝書紙を飛ばす。
先生が伝書紙に気付くと、少し顔を強張らせたが。
中身を読んで少しし、口元が綻んだ様に見えた。
昼食はパスタ、病院食かと思ったら院長のお手製。
上手、トナカイハムのカルボナーラ美味しい。
「ルミ先生、良い事でもありました?」
《えぇ、少し。今度身内の職場見学に行こうかと》
「ほう、楽しそうですね」
《はい》
美人で良い姉ちゃんなのに、相性が悪いとこうなるものか。
分かっていても、どうにも納得出来ない。
思い合う良い姉弟なのに。
そして今度はマントと別れ、ヘルシンキ目指し更に南下。
都心部に近い事もあり、人数が桁違い。
ただ、物分かりが良い。
凄く良い、逆恨みの気配がほぼ感じられない。
説明会が大人数で開催されたのが功を奏したのか、不満はあれど殆どの人間が納得している。
中には、勉強して自分で治すとまで言う子が現れ、うっかり泣いてしまいそうになった。
「人数は多いですけど、かなりスムーズですね」
《えぇ、軍の合同説明会のお陰かと。トール神の御助力のお陰でもありますね》
ならレーヴィは先行しているのだろうか、もう家に帰れているのだろうか。
そうしたらマティアスも家に戻るだろうに。
夕方になり、来訪者もかなり減った。
そして美味しそうな差し入れもチラホラ。
本当にたまたま、トイレ後。
解毒の指輪をせずに差し入れを食べた時、舌に苦みと違和感を感じた。
「“何か食べちゃったかも”」
『ちょ、何、どんな感じ』
《慌てるな、僕が診る》
どうやら、少し楽しくなる、法的に良くない植物が入ったクッキーだったらしい。
悪戯なのか、悪意なのか。
殺傷能力が無いのでまだ良いが。
「せっかく綺麗な体だったのに、すんません」
《反応が起こる前に解毒させたから大丈夫、ハナの体は綺麗なままだ》
「ありがとうございます」
《それにしても良く気付いたね》
「何でしょう、違和感と苦みを感じただけでして」
《違和感とは、麻痺する様な感覚だろうか?》
「うい、そうです」
《そうか、アレは余り味が無いんだが。どうだろうか、毒の耐性を付ける気は》
「魅力的、何なら毒手もしてみたい」
《ふふ、毒にまみれた治療師も面白いかも知れないね》
『それはちょっと、ハナちゃんもいつかお嫁に行くかもなんですし』
《冗談だ、だが生き抜く為にも毒の味を覚える位は良いだろう?》
「そうだそうだ」
『天使さん』
《良いと思うが、何を心配しているんだ?》
『普通に過ごさせてあげたいんです、ココでも向こうでも』
《今暫く無理なのは君も分っているのでは無いか?我々の居ない場所で危なくなるよりは、ずっと良いだろう》
《そう厳しいモノじゃ無いよ、それに何にでも適性は有るのだから、先ずはその見極めからだ》
日本語の会話なのもあってか、ルミ先生は気にせず仕事をこなしていたので一安心。
万が一にもマティアスに漏れたら、マーリンが怒られる事になるのだが。
楽しみ。
ウキウキと治療を再開し、それ以降は何事もなく治療を続けられた。
そして終了後、大使館で毒味実験が始まった。
着物を汚しそうなので先ずは着替え、今日はピンクと水色の訪問着だった。
髪はアップなまま、吐くのに丁度良いのでそのままに。
その合間にスクナさんが毒草を薄める。
そしてその液体を少しだけ、舌に乗せる。
どれも麻痺する様な独特の感覚と共に、苦味や刺激が来る。
そして暫くすると強烈な吐き気。
どれでもそう。
耐性を付けられる程の余白は無いらしい、残念。
「残念」
『あんなに吐いたのに残念がらないでよ』
「吐くのは得意、所定の場所に綺麗に吐けるのが子供の頃の自慢でした」
《残念なだけでも無い、しっかり体が拒絶したのは良かった。なまじ受け入れる方が心配だからね、うん。君の体はしっかり機能しているよ、君を守ろうと働いてくれている》
「ありがとう肉体」
《心もだよ、ちゃんと愛でてあげると良い》
「はい、ありがとうございました」
『ごはん、食べられる?』
「もちよ」
この極秘毒味実験の事は伏せられつつも、中華粥が提供された。
今度はホタテや貝の出汁のお粥。
空っぽの胃に、五臓六腑に染み渡る。
何なら癒されてく気がする。
今日のお気に入りは、キノコの煮びたしの菊和えと白身魚と紫蘇の実を解したモノ。
流石に肉体の事を考えて早食いしない様に、ゆっくりと食べた。
そして一息ついてから計測。
中域のまま変わらず。
入浴は控え、シャワーを浴びてから就寝。
《ルミ先生》『マーリン』《スクナさん》《ミカちゃん》