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4月7日

 7時。

 今日は目覚ましを使って起きる、プレッシャーなのか涎が凄い垂れてる。


『おはよう、下に爺やが居るから、カツラ外して来て』

「うい」


 カツラを外し髪の色は黒に、長さも肩を過ぎた辺りの通常ラウラに変えさせられ。

 やっとシャワーへ。


 容量測定、中域で大丈夫だろうか。


「大丈夫かしら」

『低値じゃ無いかの確認だけだって確認してあるから、大丈夫』

《それでも万全の体制で行かないとね、今日はミルク粥》


「うい」


 ミルク粥に塩キャラメルソースを掛けて食べる、スープは豆スープ。

 リタの味。

 爺やも納得のお味。


 ストレッチしながら、予習。


『あ、移動距離が少し長くても大丈夫、例の件でそんなに誤魔化す必要も無くなったし』

「深くは聞かないでおく」


 そしてアルコール抜きの増産されたマドレーヌを受け取り、少し早めに出発。

 軍服を着たレーヴィに変身したマーリンと、マーリンに変身した爺やと共にオウルへ移動した。


 レーヴィ本人は何処かに居るらしいが、マーリン爺やは直ぐにウツヨキへと戻され、レーヴィ(マーリン)が付き添う事に。

 ややこしい。




『じゃあ、このまま一緒に行きましょうか』

「未成年は引率が必要なのか?」


『軍規ですよ、大事な治療師様なんですから』

「はあ、そうですか」


 レーヴィに見守られながら魔力容量を測定、簡易な健康診断を終えて、箱から封筒を掴む。

 それを試験官へ渡し、9時ピッタリに試験が始まった。


 場所はイナリ、渡された地図に書かれた町を適当に選び、試験官へ渡す。


 そして各々が移動する中、コチラはレーヴィと試験官と共に移動する。


 かなり薄めたエリクサーを飲みながらの移動。

 特に田舎の方面なので、移動専用の場所も無く、町や村の端へと移動して行った。


 そうして最終地点のイナリ。

 ココには本来、移動専用施設があるらしく、そこへと移動。

 9時半前。


『良いペースじゃないですかね、神々には劣りますが』

「でしょうね」


 そこでサインされると思ったのだが、レーヴィが何かしら手助けしているのでは、と疑いが掛けられた。

 そして追試験としてレーヴィを外し、ヘルシンキまで飛べとの事。


 レーヴィが承諾すると、追試が始まった。


 再び経路を書き込み移動を始めると、試験官の顔色がどんどんと悪くなっていった。


《すまないが、少し休憩させてくれないか》

「どうぞ」


《すまん、目眩がしてな》

「医者へ運ぶか、治すと賄賂になってしまいますか?」


《あぁ、治すのは不味い。暫く休ませて貰うよ》

「じゃあ、診るだけ見ますね」


 体内には異常が無いが、魔素の動きからして魔力酔いを起こしているらしかった。

 念の為に摂取したのか、何処かで曝露したのか。


《どうだ、何か分かったか?》

「魔力酔いですが、まさかオーロラが」


《あぁ、そうか、昨夜オーロラが出てな、珍しくて少し外に出てしまったんだ。本当に魔力が貯まるとは、俺のミスだ》

「何か使わないとそのままですよ、多分」


《移動魔法しか使えないんだ、すまない》

「土地勘無いんですけど、ここら辺に治療師って」


《隣のソダンキュラに》

「その治療師、ココに居ますが」


《あぁ、そうだった、すまん》

「緊急用の伝書紙無いんですか?」


《有るには有るが》

「高いですもんね、何処に行くのがベストですか?」


 オウルの試験会場がベストらしい。

 またオウルか、大丈夫かコレ、何かまた巻き込まれるんじゃ無いか。

 それか、コレすら試験なのか。


《すまんな、コレはコッチの純粋な不備だ》


 嘘は無し。

 オウルの試験会場まで戻り、代わりの試験官と追試験を継続する事に。




 そしてヘルシンキへと何とか辿り着いた。


『では、ご自分が客であると思って買い物をして下さい。運送法の実地試験です、最低3品の購入義務とします』

「やった」


 上限金額内に海苔と醤油とシオンの服を買い、試験官へ購入が終わった事を告げた。

 そうして休憩時間となり、奢らされそうになるも無事に回避、オウルへの帰路設定へ。


 今度は長めの距離を取ってみたが。


『こまめに休憩しても減点はされませんが、このルートで大丈夫ですか?』

「じゃあ変えます」


 こまめに移動した方がよっぽど消費するのだが、有り難く助言を受け取り実行。

 短距離の移動と試験官交代問題により、11時過ぎとなってしまった。


 ただ、試験官交代の時間は省かれるので問題は無いらしいが、それ書面で欲しいな。


『お帰りなさい』

「どうやって帰って来たのレーヴィ」

『試験官からの報告で呼び寄せました、では失礼しますね』


「はい、ありがとうございました」


『じゃあ、帰りましょうか、ゆっくりと』


 レーヴィことマーリンの言う通り、試験と同じ様に移動。




 家に帰る頃には、お昼ご飯の時間になっていてた。


《お帰り》

「ただいま」

『いやぁ、意外と妨害が無くて良かったねぇ』


「問題は有ったがな」

『まぁまぁ、じゃ、このまま大使館に行こうか』


 大使館では誰もがスーツ、片や自分は黒いトレーナーに黒いジーパン。


 コートが有るから良いものを。

 中身ラフ過ぎ、誰か何か言ってくれよ。


『どうしたの?』

「ラフな格好の自分を恥じております」


『ドレスコードがあるワケじゃ無いんだし、大丈夫だよ』

「でもね、大人ならもう少し弁えた服装を選ぶべきかと」


『子供なんだし、大丈夫でしょ』

「本来は大人なんだよなぁ」


「お待たせしました、いらっしゃって頂けて感謝しております」

「どうも、ラフですみません」


「いえいえ、畏まった公の場でもありませんし、ちゃんとしたスーツを拵えるにも日が要りますから」

「仕立てる事すら抜け落ちてました」


「お金も掛かりますし、気にしないで下さい」

『“そうそう、気にしない気にしない”』

「日本語を学習したかチートめ」


『ちょっとした魔法でね、だから言葉の選択が不思議でも大目に見て』

「あいよ」

「では、コチラへどうぞ」


 入口近くの応接室から、更に奥へと案内された。


 そこで大使が、秘匿の魔道具の様なガラスのベルを押し鳴らすと、正方形の黒い結界が拡がった。

 自分を透過する際に、耳鳴りの様な真空状態が一瞬だけど体を通過した。


「耳鳴りした」

「あ、今はもう大丈夫ですか?」


「うん」

「レジストの魔法が掛かっておられたんですね、先に説明せずに申し訳ありません」


「大丈夫ですんで、話をどうぞ」


「では、まず今の魔法から。秘匿の魔法を展開する魔道具です、稀にレジストの掛かってる方には先程の耳鳴りが起こりますが一時的なモノで、害は無いと聞き及んでいます。秘匿の魔法とは外部の音や光りを遮断する魔法で、内緒話に使います。ココまで質問はありますか?」


「2回、世界を移動した人の話しはありますか?」


「あ、えっと、2回、世界を移動された方のお話ですか…僕は知らないんですが、改めてお調べしましょうか?」

「追々で大丈夫です、渡りをする人が居ないか確認したいだけなので」


「宜しければ、少し理由をお伺いしたいのですが」

「向こうの御伽噺です、何度も見知らぬ土地に行かされるのは嫌だなって、不安に思ったんで」


「お帰りになったとされる御使い様の追跡調査は不可能なので、断言は出来ませんが…僕が知る限りですと、初めて異世界に来られた方しか居られないそうです」

「総数は」


「把握出来ているだけで、凡そ100人は越えるかと」

「多いですか」


「文献上、初めて確認出来た年から約20年間隔で1~2人の出現が確認されています、多い時には4人といった団体で来る場合もあり。数を比較するならば同盟国なのですが、ほぼ同じ間隔と総数でして、多いかどうかは判断しかねますね」

「聞きたい事を先取りしてくれて助かります、帰れた総数は」


「ご存じとは思いますが、我が国は天災が多く行方不明者の中に御使い様が含まれる事もあって、希望的観測を含んだ場合で3割かと」

「あら」


「情勢が安定した昨今では特に、そもそも帰郷を望む方が少なくなっている事も関係しているかと」

「最近の方はどうですか」


「30年程前に女性が1人、現在は一般の方として暮らしてらっしゃいます」

「年齢は」


「60代とだけ、申し訳ございませんが、コレ以上の情報は1度上に確認を取らせて下さい」

「じゃあ確認をお願いします」


「はい、畏まりました」


 それから先ずは、ガッツリお化粧。

 その合間にマーリンから昨日説明された内容の書面を読む、うん、コレは読める。


 そして少し着替え、写真撮影。




 書類の名前は本名と同じく、桜木花子。

 本籍地と住所も向こうに近いモノが選べた、都心部の人が良く入れ替わるアパートメントの1室。


 そして年齢や誕生日も4月1日と、元の情報を記載。


『まだ1週間経って無いし、お祝いしようね』

「やめれ、困る」


『えー』

「じゃあ2人だけで少しな、他に言うなよ」


『うーん』

「では、少しお待ち下さいね」

「はい」


『ねぇ、何て呼んだら良い?』

「ハナ」


『ハンナ、ハナ、ハナちゃん』

「はい」


「失礼します、少し時間が掛かるので中庭でお待ちになりますか?」

「はい」


 お握りを持ち戻ってきた大使に案内され、日当たりの良い中庭で待つ事となった。

 そこで昼食と日光浴をして待つ事に。




 そして満腹になりそうな頃、書類の束を持って大使が戻って来た。


「お待たせしました。身分証にパスポート、本籍や住所周辺の地図や冊子と、活動資金になります」


「ありがとうございます、お金は要らないです、税金ですよね?」

「そうですが、受け取って頂く決まりでして」

『ここら辺で日本円に換金するの難しいみたいだから、一応受け取っておいたら?』


「じゃあマーリン半分預かって」

『えー、うん、分かった。じゃあスクナヒコナ神を呼んでくれる?』


「スクナさーん」


《やぁ、どうだい?》

「一通りは受け取りました」

『後は口元のベールだけだね』


「ほい、コレでどうでしょうか」

《うん、良いね》

『声も変えたら?』


「あーーー」

『低くするんだ』

《後は服装、礼服か何か無いだろうか?》


「合うのは無いです、すまない」

《なら何か借り物でも良いんだが、大使、何か無いだろうか?》

「それでしたら用意がありますので、暫くお待ち下さい」


《うん、頼むよ》


 大使が持って来たのは、上品な訪問着。

 来賓用にと各国の大使館に用意されているんだそうで、地が淡い桜色で、足元は深い紺色をした辻が花。


 模様も桜で凄い素敵なのだが、高いのが分かるのでホイホイと借り難い。


「買い取らせて下さい、折角なんで」

「え、あ、いや、でも」

《気に入ったの?それともお金?》


「両方、一石二鳥でしょ」

「お気になさらなくとも、税金とは言え国防費ですし」


「何もしてないのに貰うのは、借りと一緒なので居心地が悪いんです」

《他国で尚、しっかりと生きていてくれてありがとうの品だ》

「はい、我々からの気持ちです、どうかお受け取り下さい」


『受け取るまで、このままかもよ』


「慎んで受け取らせて頂きます」


 帯を2本に小物や下着、草履と鞄まで揃えて頂いた。


 遠慮したら倍になってしまった悪い例、お年寄りに遠慮するとこうなる事を忘れていた。

 着付けられ、髪を結い上げられ。


 成人式以来だわ。


《うん、似合う》

「はい、お似合いです。着慣れてらっしゃいますね?」

「まぁ、良い年なんで」

『後でティターニアにも見せに行こう、ロウヒにも。きっと喜ぶよ』


「考えとく」

《じゃあ行こうか、先ずはこのフィンランドからだ》




 イギリスとかじゃ無いんかと困惑したまま、オウルへとルミ先生を迎えに行き。

 最北端のウツヨキへ。


 治療行脚が始まった。

 最初だと言う事も有るのか、軍との連携もあり混乱も無く行われた。


 問題のシーリーはスクナさんの治療で治った事にはなったが、仕事復帰までは最低でも半年以上掛かるとのお墨付きを貰えたので、シーリーは暫くの間だが確実に自由の身が約束された。




 そして次の町に着いた時、スクナさんの側近の軍人の振りをしていたミカちゃんが、とうとう殺気立ってしまった。


 余りにも治療師が居ない事に、そして医師も。

 眼鏡製造だけでなく、圧力や余波を目の当たりにしての怒りらしい。


《何と言う事か、神に仕える身でこんな状態を》

《人の世は変化が早い、何かしら変形してしまうものだよ》

『風化したり、変質したり。ねじ曲げる者が居れば余計にね』

「あんまり焚き付けるなよ」


《苦言を呈すのも無理は無い、この状況を許した我々の落ち度なのだから》

「良く知らないけど、ラフィーちゃんはあの人達の気持ちも治ると期待してたと思うんだ、だから余り怒らないで上げて欲しいのだけれど」


《あぁ、少し時間の感覚もズレている奴だしな。全てを把握したアイツを、主は既にお許しになっているだろう》

「ミカちゃんは許して無いのね」


《許すには理由と時間が必要だ、お前も、許すにはまだ時間が要るだろう》

《余りウチの子の内情を読み取らないで欲しい、人は口に出してこその気持ちと言うモノも有るのだから》

『そうですね、私からもお願いします』


《すまない、自粛しよう》

《あぁ頼むよ、人間界でのルールは多いから、ゆっくり素早く慣れておくれね》


 向こうでは見た事も無い、スクナさんの怒りの気配。

 少し滲ませたスクナさんだったが、一瞬で表情も雰囲気も元に戻ってしまった。

 小さい子供の容姿なのに、大人びているというか男らしいというか、不思議な感じ。


 そして移動の合間の休憩が終わり、次の村へと進んだ。




 移動の魔力は全てミカちゃん持ち、移動先も教会限定。

 この世界独特のルールなんだろうか。


「ミカちゃんは教会なら自由に移動出来るの?」

《あぁ、大概はどの国でも可能だが。日本等は許可が必要だ》

『大国主神が神経質なんだ、すまないが我慢しておくれね』


《あぁ》


 憤怒とスクナさんを会わせたら、こんな感じなのだろうか。

 帰ったら引き合わせてみようかしら。


『あんなケンケンした雰囲気を、良くニコニコ見てられるね。心臓がキュウキュウしちゃうよ』

「向こうに帰ったら似た状況を作ってみようかと思ったら、ついニヤニヤしてしまった」


『憤怒って人?』

「うん、どうなるんだろうなーって、似た空気になったら面白いじゃない」


『このピリピリが?』

「雰囲気がよ。コレは緊張のピリピリだし。ミカちゃん、まるで同年代の先輩が出来て、気の使い方を迷ってる感じがね。初くて宜しい」


『ドS』

「マジのケンケンした雰囲気は嫌いだよ、お腹キュウキュウしちゃう。今は牽制の仕合いで、仲悪いワケじゃ無いだろうし」


『そうだろうけど、私は苦手』

「なら焚き付ける様な事を言うなや」


『正直に腹を割って話そうって言われたから、そうしてるだけだし』

「なら加減しておくれ、あんな見た目でもナイーブじゃないとは限らないんだから」


『りょうかい』

「なにその言い方、可愛いんだけど」

《お待たせ、じゃあ始めようか》


 主にスクナさんによって患者が振り分けられ、順に治療が開始される。

 治療薬や治療法が確立されかけている者は完治させず、治療法の検討もついていない患者は完治させる。

 患者にはルミ先生とマーリンが説明にあたった、魔法で治すには難しい病気なのだとか、そう嘘をついてくれている。


 医学の進歩を妨げる可能性があると話した事が影響したのか、こうなってしまった。

 症状は軽くなっても、治らなかった患者の表情を見るのは、最初は怖かった。




 診療を終え、オヤツの時間になった。

 大勢との食事は苦手なのと、本当に休憩したいので別卓でマーリンと座る事に。


 だが着物のせいもあってか、余り入らない。


『国連と神々で話し合った結果だから、治せなかった人の事は気にしないで。君の話が無くても、こうなってたかもなんだし』

「帯がキツいねん」


『だけ?』


「難しい事を言う」

『医学の進歩の事を言わなくても同じ結果だったと思い込んで、スクナヒコナ神も納得したんだから』


「流されて良い時と悪い時がある」

『良い時』


「頑固でねぇ」


 マドレーヌを少し食べ、もうオヤツの時間が終わりそう。

 多少は着慣れてるとは言え、キツい気がする。


 もう少し腹に入れ様とエリクサーを立ち飲みしていると、ルミ先生が話し掛けて来た。


《化粧直しをしに行きませんか》

「あ、はい」


 トイレへ連れ立って向かうと、扉を閉めた瞬間に溜め息を吐かれた。


 そして数回の深呼吸の後、ルミ先生が話し始めた。


《少し聞かせて下さい、どうしたらそんなにリラックス出来るのでしょうか》

「あぁ、同じ人間と思えばそこまで緊張しないのでは?」


《難しい事を仰る、あの能力を見て同じ人間とは思えませんよ》

「中身の話しですよ。神様でも人間らしい、人間味のある内面をお持ちなんですよ、怒ったり緊張したり反省したりしますから、そこを見付けてみてはどうでしょう」


《そこですか、なるほど、少し探してみます。ありがとう桜木花子》

「いえいえ」


 ひとまずお互いに個室へ入り、洗面所へ出た頃には少し落ち着いた様子のルミ先生へと変わっていた。

 頭が良いと切り替えも早くて羨ましい。


《ありがとうございました、お先に失礼致します》

「はい」


 見様見真似で化粧を直し戻ると、次の町へ移動となった。




 行脚は休憩を挟みながら南下。

 だが説明に時間が掛かる事もあり、国の半分も回れぬまま、夕飯の時間を過ぎた辺りで解散。


 大使館へと一旦戻る事となった。


「お帰りなさいませ」

《うん、じゃあ少し会議に行ってくるから、ゆっくりしてておくれね》

『だね、終わりの時間も分からないから、待たずに寝てて』

「はい、いってらっしゃいませ」


「お疲れ様でした、お夕飯を準備させて頂いたのですが」

「着物脱いだら頂きます、キツいっす」


「はい、では暫くしたらお持ちしますので、コチラでお寛ぎ下さい」


 着付けてくれた大使館のオバサンとわちゃわちゃしながら着物を片付けていると、何処かで見た事が有る様な陶磁器の壺と、良い匂いの食事が運ばれて来た。


 山菜おこわに鶏肉とキノコの澄まし汁、香の物に鮭の味噌漬け。

 和食、シンプルイズベストよ。


「すき」

「苦いモノと酢の物、香りが強い青菜類が苦手だとお聞きしたので、気に入って頂けて何よりです」


「すみません、苦手が多くて」

「いえいえ、僕もセロリは苦手ですし、椎茸も最近克服した身ですから」


「本体も美味しいけど、椎茸は軸が美味しいです」

「分かります、そこから克服したんですよー」


 少しばかり雑談をしてから、部屋で1人食事を摂る。


 人のメシこそ至高。

 お櫃やお鍋、全てを空にし廊下にワゴンを出した。


 そしてずっと無視していた壺の蓋を開けると、嗅いだ事のある香りが漂う。

 木杓子で掬うと、まるで森を液体にした様な色の仙薬。


 一応、魔力容量を計測。


 中域ではあるが、意を決して液体を木杓子でコップに掬い、一気に飲み込む。

 ほんのりと甘いが、後から来る苦味やえぐみ、臭みも前の世界との変わりはほぼ無い。


 この為に残しておいた甘味の吹雪饅頭を齧っては、掬ってしまった仙薬を飲み干した。




 一息ついてから軽くシャワーを浴び、呆けていると部屋のドアがノックされた。


『ただいま』

「おう、おかえり、おつかれ」


『不思議だよね、疲れない筈なのに、凄い疲れた気がする』

「気疲れと言います、気持ちが疲れる」


『気持ちが疲れる、うん、それ』

「なんでよ、怒られた?」


『ハナちゃんが言う様に、天使さんは確かに緊張してたみたいだけど、ルミ先生まで緊張してお腹壊しちゃってさ、またそのフォローが大変で』

「ご苦労さまです」


『人間らしい内面が全然見えないって、愚痴ってたよ』

「助言にならなかったか、残念。申し訳ない事をしたな」


『そう思うなら、明日は愚痴を聞いてあげてね』

「りょうかい」


『もー、大目に見るって言ったのに』

「可愛いかったんだもの、永遠に忘れないわ、網膜と脳裏に焼き付けた」


『もう言わないのは、意味無いのか。じゃあ記憶を消さないと』

「一応聞くけど不死?」


『そんな事で殺す?』

「記憶は大事、つかそんな事で記憶を消すな」


『だって、何だか恥ずかしい気がするんだもの』

「その恥じらいもセットで記憶したわ」


『じゃあ寝てる間に』

「殺す可能性があるから不死か聞いたんだが、秘密?」


『うん、秘密。でも死にたく無いから消すのはやめとく、でもその代わり誰にも言わないでよ』

「向こうでも?」


『向こうなら別に、私だけど私じゃ無いし。あ、向こうの私にも言わせる気でしょう』

「名案だな、天才、そうするわ」


『ごめんよ、向こうの私』

「ふふ、じゃあ先に寝るから、おやすみ」


『うん、おやすみ』


 ベッドへ入ると、直ぐにマーリンもやってきた。

『マーリン』《マティアス》「日本大使館員」《スクナさん》《ミカちゃん》

再び巻き込まれたマティアスの姉《ルミ先生》

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