4月5日
今朝は夢見る事無く起きた、だが横に居るマーリンはまだ夢の中らしい。
ゆっくりと布団から出て下へ降りると、まだマティアスが居た。
《早いね》
「早いのか、そうか。もうお昼かと思ってたわ」
《ふふ、少し良い?》
「なに、おこるのか」
《違うよ、お疲れ様って言おうと思って、少し聞いたけど、大変だったんでしょ?》
「いや、良い暇具合でした、ほら刺繍」
《上手、そんなに暇だったの?》
「お菓子満載の部屋に放置よ、いつ終わるか時間が読めなかったから、無心で刺繍です」
《ケガも、大した事無かった?》
「無い、ちょっと口が切れた程度」
《歯は無事?治せるの?》
「治した事無いな、後で練習してみるか」
《サメみたいにならないでよ、じゃあ後で迎えに来るから。行ってきます》
「いってらっさい」
作っておいてくれたハムとチーズのホットサンドを食べながら、まだ暖かいお湯を再加熱し、カフェオレを作る。
勿論足りないので、昨日のお子様ランチを食べてから樽の中身を入れ替え、魔力容量の計測、中域。
後片づけにストレッチ。
爪や眉等の一通りの身だしなみを整え、シャワーを浴びてから歯を治してみる。
エナメル質の修復を試みるが上手くいかず、歯磨き粉を塗布し再検証。
実験成功、被せものや何かが取れたが、ツルツル。
そして妖精達と戯れるていると、マーリンが起きて来た。
『おはよう』
「おはよう、またサウナする?」
『もう大丈夫』
「何か予定は」
『無い、暫くラウラの護衛だけ』
「お、やるか?ワシ強いぞ?」
『違うよ、連絡係とか、見張りが居ますよって示すだけだよ。分かり易く誇示した方が良いのは分かるでしょ?』
「まぁ、番犬居ますよ、か」
『飼う?』
「ねこが良い」
『ロウヒと同じだ』
「そのロウヒに報告は?」
『あ、繋いでくれる?』
「あいよー」
『おはよう』
『もう昼前だ、トールからの伝書紙で大まかな事は把握したが』
「おう、お疲れ様でした」
『省くな』
『私と妖精から報告させて』
「エリクサー作ってて良いか?」
『うん』
鍋でエリクサーを作りながら、妖精とマーリンの話を聞く。
2人の口から聞くと、どうも他人事の様に感じてしまう。
『では、ロキを呼ぶ事が可能と言う事か?』
「あ、かも、多分、向こうが答えてくれればだけどね。相性も有るかもだし。実際にラフィーちゃんだって、来てくれたかどうか」
『そうか、ならその日本の神の名を呼んで見てはどうだろうか』
「んー、思ってたのと違うとなぁ、気が進まない」
『その神は、向こうではどの様な神なのだ?』
「ちっさい、可愛くて優しい。それがゴリゴリのデカいマッチョだったら、お、おうって、なっちゃうじゃん。気まずいわ」
『ふふ、それは確かに躊躇うな』
「まぁ、呼ぶにしても、良い神様じゃないとどうなるか分らんし、呼べないのかも知れんよ」
『では、ワシは避難するか』
『じゃあ私はコッチで待機するね』
「おう、じゃあ呼ぶか」
家の庭に出てスクナヒコナの名を呼ぶが、特に変化は無い。
諦めてロウヒへ繋ぐと、かなり自分の知っている姿に近いスクナさんがそこに居た。
『おう、お前が呼んだ頃だろうか、扉を叩いて訪ねて来たぞ』
《初めまして、アナタがお噂のラウラさんですか》
似ていると、こうも切ないのだろうか。
初めてでは無いのに、初めての挨拶。
まるで悪戯にでも合っている様な感覚、物凄く胸が痛い。
「初めまして、ラウラです」
《ふふ、私の仙薬に良く似た味を作る者が、この北に住むと報告を受けて驚いたのだが。成程、日本の血が流れているのだな》
「元の世界では日本生まれ、日本育ちです」
《そこで私と会えたのか》
「まぁ、はい」
《うん?何やら複雑であるのか?》
「はい。神様を信じてないんじゃ無いんですけど」
《あんな事があったばかりだ、まだ詳しく話すのにも勇気が要るのは分る》
「人はね、警戒してしまいます。でも神様は別」
《私はお眼鏡に叶うだろうか》
「どうでしょう、色々お話を聞かせて下さいな」
《ふふふ、良いだろう》
大国主様と共に現界した事、各国から誘拐が起きた事、防ぐ所か戦争になった事。
そして御使いが助けてくれたからこそ、戦争にも勝ち、国民が誘拐や事件に巻き込まれる事が少なくなった事。
それでもまだ、0には出来ていない事に胸を痛めていると。
コチラに関しては、最初は誘拐犯との混血や何かしらの事情があるのか、または御使いの噂を探しに回っている御使いなのかと思い、何かしらの要請があるまで傍観していたらしい。
知ってて放置した事への謝罪が有ったが、コチラも接触を避けていたので問題無いと理解して貰った。
そして今回、国連へ招集された事を知り、何か有った場合に備えて勧誘を行わせて貰ったと。
連れて帰る事が叶いそうもないと聞いてはいたが、同時に神々に守られていると聞き、ホッとしたとも。
『この外見だ、心配するのも無理は無い、何せ目立つでな』
《人間とは特に、黒く動くモノに目が行くそうだからね》
「心配してくれたんですね、ありがとうございます」
《ケガはそこか、痛かったろうに》
「大丈夫です、もう痛く無い」
《それにその体、その2人は知っているのか?》
「まぁ、マーリンも知ってるよね?」
『少しなら』
《それなら良い。何か不便は無いか?足りないモノは無いか?》
「エリクサーをですね、一時切らしまして、今自作を増産中なんです。それと後で病院にお見舞いに行くので、コレが途中になるのかも知れんのです」
《そうかそうか、なら出会えた記念だ、私も何か手伝おう》
丸薬の材料と道具を取り出すと、目にも止まらぬ速さで丸薬を作り上げていく。
楽しいのか、ニコニコとこなしてくれている。
向こうと同じ様に、良い神様なのだろう。
「そちらの人の世界はどうですか、法律だとか常識だとかは」
《そうさな、君が警戒する様に国民への厳格な法律が有る。ただ分って欲しいのは、私も大国主も最初は国外へ行く事は認めていたんだ。諸外国と手を取り合って、良い方向へ行けると。ただ同盟国ですら誘拐や事件は起こってしまった、ましてや引き渡し条約も機能はしてくれず、自衛するしか無かったんだ》
「だから法的にも鎖国するしか無いと」
《そうだ、世界中に知らしめる為に、罰則を強化し国連への出資も強化したのだが、どうにものさばらせてしまった。面目ない》
『気に病まれるな、そなたの国が強権を揮えないのは良く存じている、主要国である以上は過分に手を出せぬと。まして鎖国状態では、外情を窺い知るも思う様にはいくまいて』
《有り難いお言葉、ただその言葉に甘えた結果が、同郷の、まして御、遠くから来られた方へ被害が出てしまった。これは許されない事だ、この事は大国主にも報告し、かの国への制裁も用意している最中だ》
「でっかい組織で治療師市場を占領して、傍若無人に振舞っているのが気に食わん。ただ、治療師が居なくても困る人が出るのも事実で、なので他国の民にも被害が出ない様にお願いします」
《元からそのつもりだ、ただな、甘い汁を吸う為に援助していた者、その周囲には被害が及ぶ事は呑んで欲しい。この制裁は対価では無く、代償だと知らしめねばならんのだ》
「万が一、それを手助けした場合は」
《構わんよ、捨てる神あれば拾う神あり。それは他国も理解している事と思うが、どうだろう、暫し改革の犠牲になってはくれないだろうか》
『ワシは、ココに居るだけの神、それでもお力になれますか』
《産土、氏神の神とは、その土地を守る神の事を指すのだ、日本では多くの信仰を集める神の地位の1つ。ロウヒは大きな国土を守っているのだ、強く素晴らしい神であるのだから、そう卑下してはいけない。マーリンも、神と信じられる歓びを感じた事は無いだろうか?それは君の力になる、素直に受け取る方が良い。それに私も失敗はしているんだ、戦争を回避出来なかったのだから。だからそう気落ちしてはいけないよ、彼女が無事なのだから、それを喜ばなくてはね》
「すき」
《ふふふ、ありがとう。ただそれでも、暫くはコチラに来られないのだろう?》
「そちらに迷惑が掛かるかも知れんと」
《そこは信頼して委ねて欲しい所ではあるが、まだ数時間も時を共にしていないのでは無理も無い。ましてやそなた達が国連へ赴いている以上、そろそろワシらも出向かねば箔が付かんだろうし。また、話をしよう》
『あぁ、宜しく頼む』
『はい、宜しくお願いします』
《うむ、ではまたの》
後方のドアが開くと共に、スクナさんは消えてしまった。
マティアスが、もう帰って来たらしい。
《ただい、会議中?出直す?》
「ううん、もう会える手筈に?」
《予定は組んだから休憩ついでに来ちゃったんだけど、本当に、皆大丈夫?何かあった?》
「勘の良い。ちょっと神様が来たんだ。なぁ、ぶっちゃけどうなのよ、悪い神様の可能性は?」
『アレで悪い神ならば、もうワシ凄い悪神だ』
『歴が、圧が凄いの、もう根っからに善で、励まして貰ったのに逆に自信喪失だよ』
「そんな格上的な反応?」
『格も年も上だよ、しかも他国にまで赴いて頭を下げられるなんてさ。悪神に出来るのなら、もうとっくに世界征服されてるよ』
『人には伝わらぬのだろうが、偽りの善なんぞとは桁違いの言葉の重さがあるのだ。ワシはそうして人や神を見極めるが、善である事は間違い様が無い』
《何か、凄い神様が来ちゃったんだね、邪魔してごめんね?》
『いいや、帰って助かったのやも知れん。あれ以上語られては、ワシ泣いてたかも』
『私も、なんかこう』
「何か中てられてんなぁ」
『お前はもう少し縁が繋がっていた事を感謝せんか、今のも前のもだ』
「他にも居たんだもの、沢山。それに当たり前だとも思ってたし、歴史が古いって」
『そんな世界に居ては、向こうのワシ、肩身狭いだろうに』
「もー、信じてるのは分ったけど、もう少し疑わせてよ」
『まぁ、慎重なのは良い事ではあるしな、まして今回は焦って関係を強める事でも無い』
『仲が良かったから、より慎重なの?』
「痛い所を、仲が良いと言うか、良くしてくれてた。世話になった。そしてとっても似てる、ほぼ知ってる通りだから、だからもし、マジで裏切られたら、本気で殺してしまうかも知れない」
『ロキもそうだから、名前を呼ぶ事すら頭から抜けてたんだね』
「多分そう、自覚無いけど、今回の事で自覚した。まだ対面するのは無理だ、もっと悪い情報が欲しい。会った瞬間に殺したくなる程の、情報が欲しい」
『トールには聞き難い事だなぁ』
『それに、奴とて人の目線での情報収集はしておるまいよ。ラウラが欲しいのは、人からロキへの憎悪や、恨みだろう?』
「じゃなきゃ、そっくりな顔を躊躇わずに殺せないじゃない。今みたいに、凄い良い人だったんだから」
『なら、その情報収集はマティアスに任せるかな』
《は、え、私?》
『勿論ロキ探索が前提だが、もしそう言った情報を得たなら、ラウラに提供すると言う事だ』
《でも、戻った世界でラウラに悪影響があるんじゃ》
「話すネタに丁度良い、子供が居ないとお前はダメ神だって誂うわ」
《そんなに親しいなら、余計に無理だよ。情報収集はしても》
「向こうのロキなら、寧ろ殺してくれてありがとうってお礼言うレベル」
《でも、トール神が》
「もうこうなって分ってるでしょうに、何処かで相対する可能性が有るんだ、まして躊躇ったら殺されるかも知れん。例え見知った顔でも、殺して生き残って帰りたい」
《それでも、荷担したくない、少し考えさせて欲しい》
『まぁ、情報収集だけでも助かるのだ、無理強いはすまい』
『だね、他にも手伝ってくれそうな人は居るし』
「手間掛けさせてすまんね、宜しく頼みます」
マーリンが国連へ向かい、そしてエリクサーも出来上がったのでロウヒとの空間を閉じた。
ムッツリ黙るマティアス、誰にムカついているのか。
《ごめん》
「別に無理せんでも良いよ、アレはロウヒが君にカバーしろって言いたかっただけだろうし」
《本当に、そう思う?》
「ラウラに優しくしてやってくれなんて、本人の目の前で言わんでしょうよ。遠回しに君がフォローに回れって事だ、多分。だって酷だろうに、君にレーヴィに似た人間の悪口言えって言われたら、ワシも無理よ」
《でも、そのレーヴィが悪い事して回ってたら、殺さないとって思えるのかな》
「気にするよなぁ、なら絵本からはどう?ロキっぽそうなの集めて、それを読む。それならまだマシでしょ?」
《うん、そうだね、じゃあ少し早いけど行こうか》
「おうよ」
久し振りにマティアスの車で基地へと向かう、守衛さんに手を振りながら病院へと向かった。
病院では例の2人が通常病棟の個室で横になっていた、まだまだ体力の回復途上。
問題無し、良かった。
そうして病室を出た所で、リリーちゃんに出会ってしまった。
だが軽く挨拶すると、女の子の病室へと入って行った。
《私にもあんな感じ。一応、他の子に感情転移しないかは様子見して貰ってるけど、今の所は大丈夫》
「こわいわ、それが今一番こわい」
《そうだよね、普通そう感じるよね》
「おう、ワシ普通じゃし」
《だね、じゃあご飯に行こうか》
「基地の?ダイナーが良いな」
《ふふ、そうしよう》
今日はトナカイシチューとキャベツグラタン、ニンジンケーキで様子見。
容量満タンでの食事に慣れていないので、もし余ったらお持ち帰り。
ただ少し使ったお陰か、ピッタリと満腹になった。
久し振り、お腹一杯。
ダイナーのおばちゃんに少し心配されたので、少し食べて来たとマティアスがフォローしてくれた。
それでも心配するおばちゃんにシフォンケーキを渡された、ナッツとメープルのシフォンケーキ、少し迷ったのを見られていたらしい。
「コレも作って」
《私ので良いの?シーリー先生に教わったんでしょ》
「バレてら、あ、向こうの食べ逃した」
《じゃあ私に作ってよ、交換しよう》
「えー、批評無しで手伝ってくれるなら」
《勿論、初心者には優しくしないとね》
図書館へ行き、マティアスチョイスの絵本を読む。
子を失い狂った魔女の話し、村を焼かれ孤独になった男の話し。
どうしても同情してしまう。
「同情しちゃう」
《出版社別で出してるんだけど、今のが例の出版社の本》
「多いな」
《そうなんだよね、思い返してみても、多いんだよ。他ってもっと勧善懲悪的なんだけど》
「やっぱ気にはなるよね。当人より、それを観察する立場っぽいし」
《だね》
「役目ねぇ、結構大事が起きてるのに帰れんのよな。大して役に立ってないからかな」
《そんな事無いと思うんだけどな》
「女だから、産まねばならんかね」
《それは、相手はどうするの》
「だよなぁ、ウッコ神みたいに神様とかか」
《それこそ、あの絵本しか例が無いのに》
「無いの?」
《後追いで似た話しはあるよ、マーリンとかトールの。でも事実とは違うらしいし、それに女性の御使いって少ないし》
「試しに生んで捨てるワケにもいかんし。仮に実際にそうしたとしても、失敗したらそのまま過去を封印して亡くなってるだろうし」
《成功してたら、当人は居ないワケだし》
「やっぱレアよな、あの絵本」
《ね、改めて考えると、寧ろ安かったのかもね》
「あ、お給料」
《下ろしに行く?でも全部はダメだよ、逃亡資金と思われて家なんかを捜索される事もあるらしいから》
「あー、いくらまでなら良いの?」
《1000ユーロ位かな、あ、でも初任給だし、2000でも良いかも》
「そんな入ってるのだろうか」
《ちょっと行ってみようか、銀行閉まるの早いから》
車で街の中央にある銀行へ。
金額は驚きの2万ユーロ、名目は国連からの慰謝料に、給料、軍からのエリクサー購入代金等。
人生至上最高額のお金持ち。
「ヤベェ」
《あの、初任給なんですけど。身分証が、ラウラ出して》
「あ、はい、お願いします。少し豪遊して、お世話になった人達にお礼もしたいので、多めに出したいです」
受付の人にクスクスと笑われながらも、2000ユーロまで引き出せた。
お金持ちやぁ。
銀行を出て車へ乗り込むと、先ずは半分マティアスへ。
《分割しか受け取れないよ、食費とか大変でしょ?来月余ったら受け取るから、それまで持ってて》
「ぅう、はい」
反論出来ずにそのままスーパーへと直行、アイスクリーム全種類とココアクッキー、トナカイ肉とソーセージを買って、再び基地へと戻った。
そして食堂の人間へアイスを渡し、図書室へと戻った。
赤く染まる図書室で、絵本を読む。
マティアスが言う様に、他の出版社は勧善懲悪的。
悪者のバックボーンは書かれる事無く、ただ倒されていく。
勿論悪い事はしているのだが、こう気付いてしまうと、何故あの出版社はあの内容なのか気になってしまう。
《絵は良いんだけど、悪者が出るのって単調になりがちだからかな》
「ド腐れも居て楽しいのもあるんだけどね、子供向けでマイルドだから物足りないのかも」
《禁書の中には大人向けが多いらしいんだけど、手に入りにくいし、私の職業的にね》
「コソコソ買えぬのか」
《君みたいに移動出来ないし、顔を隠して買う度胸も無いの》
「頼むか、元手もあるし」
《誰に?》
「ひみつ」
残りの絵本を読むが、港街のアホ領主程のクソ野郎には中々お目に掛かれなかった。
殆どが誰かを浚ったり、物を盗んだり、人は死んで居ないのに、悪者が殺されている。
勿論、長年の因縁物もあるが、どうにも自分に合う絵本となると、例の出版社が多くなってしまう。
《気付くと気になっちゃうよね》
「まさに認識マジック、マティアスはいつ気付いた?」
《分類分けした時、何か少し違和感があったんだけど、ハッキリ分かったのは書いてた時かな》
「マニアでもそうなんか」
《他の人はもっと早く気付いてるかも、読んだ本はココに置いちゃうから》
「表紙もな、内容知らないとどっちがどっちか分からんのもあるし」
《あー、そうかも、私は先に字に意識が行くからそう思わなかったけど、子供達も言ってたな、どっちが敵かって》
「ワシも字が不得意だからな、まして題名言われてもピンと来ないし、特にコレ」
《えー?コッチだよ》
「何でよ、服の色か?」
《何でって言われても、何でだろ》
「性差かな、視覚認識がうんたらとか」
《細かく見える方なんだけど、なんだろ》
逆に自分が何故そう見えているのかは説明が出来ない、言語化と言うのか、具現化が困難。
マティアスも同様に、何故なのかが言えない様子。
「この本欲しいな、皆の意見を比べたい」
《良いかも、普通に売れてるだろうから、古本屋にも有ると思うし》
「禁書ついでに探して貰うか」
何冊か他にもピックアップし、マティアスにリストを作って貰った。
珍しい物でも無いので安く買えるらしいが、問題は禁書。
マティアスが読みたい本だと、100ユーロを超えるモノが多いらしい。
《そうだ、返済の代わりにしてくれて良いよ》
「ええんか」
《私が欲しくても買いに行けないモノだし》
「禁書っつってるけど、希少本って事で良いんだよな?」
《コレは国外持ち出し禁止で、コレは大丈夫》
「危ないのは勘弁な、線引いて」
《はーい》
一通りの絵本を読み、購入して貰う本のリストを作成。
禁書だけで引き出した金額の半分は飛んでしまいそうだが、いきなり全部揃う筈も無いらしい。
後は爺やに任せるだけ、とにかく出来るだけ買って貰おう。
基地にマティアスを残し、先にバスで帰る。
そうして家に入って直ぐ、空間を開いた。
「爺や」
《おや、もう寂しくなりましたかな?》
「ちゃうねん、禁書が欲しいねん。あちこちウロウロしてたんでしょ?禁書が何処にあるか知らないかと」
《おぉ、存じております、はい》
「出来たら買って来て欲しいんだが」
《ふふ、ワシ以外適任がおりませんしな、良いでしょう。暫しお待ち下されや》
「あ、体はもう良いんか?」
《もう治して貰いましたのでな、大丈夫ですはい》
爺やが下へ降り、暫くして戻って来た。
ラルフへ少し昼寝すると言ってきたそうだ。
爺やが指定する場所へ送り届けるが、何ヶ所目かで全てが揃ってしまった。
そして値切りもしてくれたので、1000ユーロで収まったらしい。
「本当に?そこはキッチリで大丈夫よ?」
《ご心配なく、レシートを挟んでありますでな》
「そっか、ありがとう。お疲れ様の蜂蜜酒エリクサーです」
《ふふふ、寝酒にさせて頂きます》
蒸留器と鍋を設置。
ストレッチをしつつ、先ずは禁書を見比べる。
特に何の変哲も無い本に見えるが、表紙には国外持ち出し禁止と大きくスタンプされている。
時には他言語で破棄とスタンプされた物もあった。
中身はマティアスに読んで貰う事にし、禁書では無い絵本の表紙を見比べる。
絵師も出版社もバラバラなのだが、ノエル・アールトの居るレヘティア社の出版物が多い。
ラッパの花のマークのレヘティアさん、フィンランド語なので教会関係である可能性は少な目か。
エリクサーが出来た頃、マティアスが帰宅。
しかも他の絵本も持って来ている。
「おかえり、どしたその本」
《ただいま。子供達に聞いたら他にも色々出てきて、持って来ちゃった》
「ありがとう、お子様ランチプレート食うか?」
《食べる!》
盛り合わせを2種類出し、それぞれを食べ比べる。
お子様ランチには必ずハンバーグが入る事が、シンパシーを感じるらしい。
「禁書、後で読み上げておくれよ」
《え、熟読してからで良い?》
「だめだ」
《えー、詰まっても気にしないでよ》
「うい」
洗い物を済ませ、エリクサーをセットしてから絵本を読んで貰う事になった。
禁書と言っても大人の絵本とほぼ同じ前半、昔はコレがダメなのかと疑問に思う様な展開。
ただ後半が問題。
女の御使いが出産し帰れた話しと、出産した事で帰れないと涙する御使いらしき人物の描写。
そして主に禁書指定したのが、イギリスである事が分った。
何か事件があったのか、女王が禁止してくれたのか。
《禁書の理由ってコレなんだね、都市伝説で噂になってたんだけど、禁書の中身は女の御使いの話しだって。本当だったんだね、コレは置けないよ》
「御使いを帰す詐欺に使えるしね、自分を御使いだって思ってる人の目には毒だろうよ」
《だよね、迂闊にこんな事を試されたら困るもの、子供も本人も》
「ワシ機能して無いからへー、としか思わんけど、必死で帰りたがってる人には禁書扱いで当然だわな」
《にしても良く手に入ったね、大丈夫だった?》
「おう、半分使った」
《だよねぇ、レシートを見せれば追加で下ろせると思うけど。物がねぇ》
「プレゼントに使ったって事で」
《レーヴィに同行して貰ってよ、私は嫌だからね》
「まぁ、何とかなるべや」
エリクサーを混ぜては、マティアスに読み上げて貰う。
そしてエリクサーが作り終わる頃、サウナの準備が出来上がった。
先にサウナへ入らせてもらい、ストレッチをしてからアイスを食べていると、マーリンが帰って来た。
そして絵本へ興味を示し、マティアスと黙ってソファーで読んでいたので、先に布団へ入らせて貰った。
《マティアス》『マーリン』『ロウヒ』
《スクナヒコナ》
《爺や》