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4月3日

 目が覚めると隣でマーリンが横になっていた、狸寝入りなのか熟睡なのか。

 トイレに行きたいのでそのまま放置し、トイレへ。


 部屋へ戻ってみるとマーリンは本格的に寝入りだしたらしく、布団に入り込みベッドの真ん中に陣取っていた。


「寝てるのか」

『うん』


「いつ起こす」

『お昼』


 今は7時過ぎ、マーリンの寝言擬きを信じて放置し容量測定。


 低値ギリギリ手前、エリクサーをガブ飲みしつつケバブを食べる。


 そうだ、エリクサー用の盛り合わせを作りたい。

 生ハムにオリーブ、キッシュにミートパイ、イクラにスモークサーモン、ローストラムとビーフ。

 後は煮穴子とか鰻とか、海苔の佃煮でも良いな。


 ダメだコレ、完全に酒のツマミだ。


 休憩に下の様子を伺いに行くと、爺やにシーリーが既に着席し、ルーカスとラルフはキッチンで準備をしている。


《おはようございます》

「おはようラウラ」

「おはよう」


《マーリン様は?》

「昼まで寝るらしい」

「お疲れなのね」


「らしい」


 今日は爺やの提案で、イングリッシュフルブレックファーストが出された。

 小さなカップ2つにはミルク粥とフルーツヨーグルト、目玉焼きにソーセージとベーコン、煮豆にトマト、グリルされた角切り芋とマッシュルーム、そしてブラッドソーセージ。


 パンは今朝作ったばかりの白パンを軽くトーストさせた物、飲み物は勿論紅茶。

 本格的。


 シーリーには流石に重い朝食なので、半分はコチラの皿に譲って貰った。

 ブラッドソーセージはトナカイの血肉で出来ているらしいが、ニンニクやライ麦が入っていて思ったよりは食べ易い。


《どうですかな?》

「美味しい、手が込んでて凄い、大変だったんじゃない?」


『分担したのでそこまでじゃありませんよ、芋とマッシュルームとソーセージは一緒にオーブンで焼きましたし』

「私がミルク粥と煮豆、ルーカスがベーコンと目玉焼きよ」

《紅茶を淹れさせて頂きました》


「爺や、どんだけ馴染んでんのよ。ワシも何か手伝う」

「じゃあオヤツ作りを手伝って」


 食事を終え皆で片付けをした後、休憩してからオヤツ作りが始まった。




 先ずはパハス、生クリームを泡立て、サワークリームと合わせる。

 瓶詰のサクランボを半分にカットし、ドライベリーと共に混ぜ合わせ、器に入れて冷蔵庫で寝かせるだけ。


「簡単過ぎませんか」

「まだ作るから安心して」


 残ったミルク粥に砂糖とバニラを加え、器に入れ冷ます。

 瓶のベリーを鍋に入れ、少量の水で煮立たせゼラチンを入れ粗熱を取る。


 少し休憩し、粗熱が取れたら器に入れて冷蔵庫へ。


「もう終わり?」

「まだまだ」


 溶かしバターに牛乳とドライイースト、ボウルに強力粉。

 そして謎のスパイスを手に取ったので止めた。


「セムラなら、勘弁して」

「あら、じゃあカルダモンの代わりに、アーモンドにしましょうね」


 粉末のアーモンド、先程の液体と卵を入れ混ぜる。


 そこからはほぼパン作り、ひたすら纏めて捏ねる。

 出来上がりを寝かせる間に、粉末アーモンドと砂糖や牛乳を混ぜて火に掛ける。

 それも冷ます。


 そして暫しの休憩。


「さっきは危なかった、セラムのスパイス苦手って言うの忘れてたわ」

「じゃあジンジャークッキーも?」


「苦手、スパイスと香草、強いの苦手、セロリ嫌い、バジル好き」

「良かった、他のケーキに使おうと思ってたんだけれど、メニューを変えるわね」


「まだ作るんか、朝寝は良いの?」

「ふふ、もう1つ作ったらね」


 パン生地が焼き上がると、アーモンドペーストと生クリームを乗せて出来上がった。


 オヤツに珈琲と共に頂く、出来立てのフカフカ感が堪らない。

 これならいくらでも食べれる。


 次はライ麦クッキーを砕き、溶かしバターと混ぜ合わせてから四角いケーキ型に敷き詰める。

 生クリームにサワークリームを混ぜた物を入れ、一旦冷蔵庫へ。


 そこから更に瓶詰の黄桃を1つ取り出し賽の目に切り、残りはミキサーでペーストに、そこへ更にゼラチンを加え、冷ます。

 粗熱が取れたら、砕いたクッキー入りの器へ流し入れ、賽の目の桃を散りばめ冷蔵庫へ。


「これで?」

「終わり。お疲れ様、あー、楽しかった」


「乳製品取るって、この方法だったのね」

「ふふふ、柔らかくて食べ易いから」


「まだ調子悪い?」

「体力がまだ戻らなくって、きっとラルフが甘やかすからだわ、ふふ」


「そりゃあ心配だ、今から診ても良い?」

「えぇ、お願いするわね」




 後片付けはルーカスがやってくれるそうなので、シーリーと共に寝室へ向かった。

 彼女が布団へ入ると、念の為に魔石を持たせた。


 目を瞑り彼女を診る。


 僅かではあるが、完全に消した筈の黒点が戻っていた。

 それを全て消し去ると、今度は色の組み合わせがチグハグな染色体が浮かび上がる。

 同色に配列し直し、一気に全身へと転化させた。


 そして再び全身をチェック。

 ようやっと完治、寛解させられたのかも知れない。


 後は骨密度を出来るだけ高め、骨折予防。


 シーリーを見ると、やはり疲れていたのか眠っている。

 その手からゆっくりと魔石を抜き取り、部屋を後にした。


 そして静かに下階へ降りると、ルーカスが珈琲を淹れてくれていた。

 まだ筋肉痛地獄が継続しているらしく、苦悶の表情を浮かべながら珈琲を注いでいる。


《ふふ、ではそろそろ昼食の準備を始めましょうかね》

「手伝うよ、爺や」


 お昼は白パンのサンドイッチ、具は卵にハムにチーズ。

 スープはサーモンのクリームスープ。


 先ず昼食は叔父さん夫婦から。

 ルーカスと爺やと洗い物を片付けた後、昼食を摂る事になったので2階へ行き、マーリンを起こそうとしたが。

 既に出掛けた後で部屋はもぬけの殻だった。


 シーリーを起こし、下階へと向かう。


 動いたからか、朝よりも食欲旺盛。

 薄めたエリクサーを少し飲ませ、様子を見てからリハビリが開始された。


 ルーカスに付き添われながら、ストレッチや階段昇降をこなす。


 直ぐに息が上がってしまうので小まめに休憩を挟みながらのリハビリとなる、体は悲鳴を上げているだろうに愚痴の1つも溢さない。


 休憩の度に薄めたエリクサーを飲ませては、筋や腱を治していく。


 痛みが引き、治療に気付くとシーリーが再び階段へと向かった。

 後方で見守るルーカスの方が辛そう。




 それからはシーリーを見守っては治し、見守っては治し。

 1時間が過ぎた頃、ラルフとマーリンが帰って来た。


「お帰りなさい、お買い物はどうだった?」

『お陰様で、良い買い物が出来ました』

「買い物だったんか、お疲れ様です」

『お昼寝したい』


「またかマーリン」

「私も、シャワーを浴びたらお昼寝するわ」

『僕も、母さん先にどうぞ』

《妖精さん、少しお話をしましょうかね》

《はい》


 マーリンと共に2階へ行くと、再び魔石を要求された。


 今度は地の魔石、深緑色の魔石を翳すとコチラの額に向けて来たので。

 思わず跳ね上げてしまった、魔石はそのままストレージへ。


「おま、何考えてんの」

『嘘付き、運動音痴じゃ無いじゃない』


「それな、自分でもちょっとビックリだったわ。で、なに」


『人からの、魔素で回復するから』

「なら普通に言えよ」


『嫌がってるって聞いたから』

「被害が出るのが嫌なだけで、他に方法無いのかい」


『それと夢、ラウラの温泉郷』

「なら早く言えばいいのに」


『うん、一緒に行こう』


 そこまで眠くは無いので、鍵を取り出し眠る事に。






 温泉宿の部屋でぬくぬくするマーリン。

 切羽詰まった感じはどこへ。


「詳しく、説明をしろ」

『アヴァロンって結構魔素が漂ってるんだけど、フィンランドって殆ど無いじゃない?だからもう怠くって、どう説明するか考えてたらつい、体が動いちゃった』


「エリクサーを飲むとか補給したら良いのに」

『魔石からもエリクサーからも吸収出来ないんだ、魔素だけ。食べ物もダメ』


「マジで早く言えば良かったのに」

『だって、ロウヒから放出は封印するって聞いてたから』


「時と事情による、それで、コレでどの位回復するの」

『少し居れば、今日の予定がこなせる程度には回復出来ると思う』


「他に回復方法は無いのか」

『子供には言えない方法ならあるけど』


「なら花街に行ったらいいよ、娼館があるし」

『え、良いの?』


「どうぞ」

『じゃあ、少し案内してくれない?谷が怖いんだ』


 禿(かむろ)の格好になり、提灯を持ちマーリンの先を歩く。

 飛んで行くにも深い霧、マーリンはいつもココまで来ては引き返していたらしい。


 上は真っ白、下は真っ黒。

 そしてこの橋、どうにも恐怖心が沸き立つらしい。


 なんとか渡り終えると、胸をなで下ろしたマーリンに抱えられ。

 暗闇の中で明るく光る花街へと飛んだ。


 花街の灯籠や提灯のユラユラとした明かりが、花魁たちを妖しく照らす。

 艶めかしくも美しく、媚びる事無く道行く男たちへと視線を送る。


「後は頑張れ、落とせるかどうかは君に掛かっている」

『え、あ、そう言うシステムなの?』


《あら、お嬢さんやないの。禿(かむろ)の格好までして、偉い親切やね》

「何も知らなさそうなので、案内したんどす」


《ふふ、そないなら、これから先は私がご案内しはっても宜しおすな?》

「宜しゅう頼みます」


《じゃあ、お兄さん、はよコッチにいらっしゃいな》


 格子の後ろの女達が下がり、道を作ると門が出来上がった。

 太夫が手招きすると、その扉が開く。


「いってらっしゃいまし」


 深く頭を下げ、ゆっくり顔を上げると、もうマーリンも太夫も見えなくなっていた。

 まだ残る花魁達に格子からお菓子を貰い、マスターの所へと向かった。


《お帰りなさい、禿(かむろ)とは、お座敷に上がるつもりですか?》

「上がらんよ、ふざけただけ。それよりマスター、蜂蜜酒があるんだけど少し仕入れませんか」


《ありがたい、北欧のお酒ですね》

「うん、ワシも飲みに来るから安く譲るよ。それと、知り合いにも少し出してあげて」


《畏まりました》


 様々な物々交換をして貰う中でキュウリを貰ったので、裏の川の河童へと持って行く。

 長く待たせたお礼にと、全てのキュウリを渡すと河童が小舟をくれた。


「なんで」

《貰い過ぎは良くないから、余ってるの、あげる》


 なんでも、この川が王都へ続いているらしい。

 橋の修繕もまだなので、行くならこの小舟が良いそうだ。


「1人じゃ少し怖いなぁ」


 小舟には(かい)が1つ、船の先には提灯。

 少し躊躇っていると、後ろで船に人が乗る気配を感じた。


《我では不足か?》

「いやいや、めがっさ頼もしい」


《ふふ、漕いでやろうか》

「先にやらせて、漕いでみたかったんだ」


 コツを掴むまでは揺れたが、暫くすると大きく揺れる事も無く進み始めた。

 河童の先導で街を抜け、王都へと向かった。


 車の運転と同じく、試しにシバッカルに漕いで貰うと酔ってしまった。

 河童に船を支えて貰い交代し、そのまま王都まで漕がせて貰う。


 風が冷たく気持ち良い、満点の星空。

 天の川と共に流れる川を進むと、川幅が徐々に大きくなっていく。


 だが流れは穏やか、そのまま漕ぎ続ける。

 朝日が昇る頃、大きな船が沢山泊まる港へと着いた。


《着いた様じゃな》


 小舟を着けると、ネイビーブルーの軍服を来た1人の軍人が歩み寄って来た。

 浅黒く日焼けした若い軍人さん、しかも美人。


『ようこそ王都へ、何か書類はお持ちですか?』

「コレで良いでしょうか」


 招待状を渡すと、中身を取り出し読み始める。

 そして元に戻すと、綺麗な敬礼を向けてくれた。


『お待ちしておりました、ご案内致します』


 門をくぐると噎せ返る様な花の香りと共に、色とりどりの花が飾られた王都へと入った。

 中央通りは市場となっているらしく、様々な品が揃っている。


 特に多いのが生花、結婚祝いに贈るんだそう。

 どんな花が好きかも分らないので、スイートピーやカスミ草、ピンクと白のダリアの花束を作って貰った。


 そして真っ白なハンカチや青い色の装飾品を売る店が目立つ、軍人さんが言うにはサムシングフォーのお店なんだそうだ。

 新しい物、青い物、それらを売るお店だそう。


 中には借り物屋、古道具屋なんかも有る。

 結婚式が有るからなのか、常にこうなのか。


「いつもこうですか」

『いえいえ、この6月だけですよ』


 ジューンブライド。

 都を挙げての一大産業らしい、因みに7月はお祭り、8月は避暑地として開かれているんだそうだ。


 9月はウサギやロバやワニと共に月を愛でる、そこには勿論猫達も招待される。

 10月はハロウィン、11月は紅葉狩り、12月は神様達と雪まつり。


 1月はゆきまつりや仮面舞踏会、2月は節分とバレンタインデー、3月はひな祭り、4月はお花見とイースター。

 5月は端午の節句と子供の日、そうして常に何かしらイベントが行われているらしい。


《ごちゃ混ぜじゃな》

『古今東西、面白い事は何でも取り入れる王様ですから』


《その王様とは、まさかクラネスか?》

『そうですが、お知り合いでらっしゃいますか?』


《あぁ、我は知っているが、向こうはどうじゃろう》

『そうですか、でしたら先ずは謁見を手配致しましょう』

「シバッカル、良い人?」


《我の知る者であれば、お主の良き友人となるだろう》


 花束を持ったまま、王宮へと向かった。

 そこでは結婚式が行われ、王様は神父と共に結婚の誓約に立ち会うと、祝福の言葉を掛け幕間へと下がって行った。


『王よ、謁見を宜しいでしょうか』

「構わないよ、どうぞ」


 ウムルに似た外見、真っ白く長い髪に真っ白な肌。

 美しい顔立ちなのだが、目の皮膚が融合している。


「治す?」

「不便は無いし、痛くも無いから大丈夫。それにコレは代償だから、治すつもりは無いんだ。でもありがとう、良い子だね」


 そのまま抱き抱えられると、その感触や匂いはどこかおじさんにも感じる懐かしさを漂わせる。

 姿形は美しく儚げなのだが、その何処かに親しみを感じる。


《お主は、我の知るクラネスなのだろうか》

「シバッカル、少し話をしましょうか。お嬢さんは向こうで、お菓子を食べて待っていて」


 軍人に連れられ応接室へと入った、お菓子はケーキからクッキー、スコーンにサンドイッチまで何でも揃っていた。

 飲み物は勿論紅茶、軍人さんに淹れて貰いゆっくりと待つ。


 一通りお菓子を食べ終わった頃、応接室の扉が開く。

 そこにはすっかり仲良しになった2人が入って来た、何を話し合えばそこまで仲良くなれるのか。


《うむ、安心して良いぞ、味方だ》

「宜しく、君のおじさんの友人だ」

「宜しくお願いします、おじさんは元気?」


「そうだね、元気そうだよ」

《ふふ、この者もおじさんも強いでな、心配せずとも大丈夫だ》


 クラネスはおじさんとは向こうで知り合った事、それから何年も王都で過ごしている事。

 そしてこの王都の他にも、土地を治めている事を教えてくれた。


「危ない場所もあるから、行く時は気を付けるんだよ」

《じゃな、誰か連れて来れば良い、マーリンでもレーヴィでも》

「でも、巻き込むのは。レーヴィはぶっちゃけ弱いだろうし」


「戦闘や知略の知識は上だろう?君が守ってあげるんだ」

「そゆことか、了解」

《我も行くでな、ふふふ、楽しくなってきたぞ》


 瞳孔が一気に縮む、シバッカルも意外と戦闘民族らしい。

 そして次の婚礼の時間になったのか、軍人さんが口を開いた。


『申し訳御座いませんが、そろそろお時間が』

「ありがとうございました。また会えますか?」

「勿論、いつでも歓迎するよ」


 応接室を出て廊下で分れると、王様は再び式場へと戻って行った。

 そして今度は軍人さんの案内で、新郎新婦の待つ宿へと向かう。


 海の上にあるコテージ、新婚旅行も兼ねられるお得プランかよ。

 良いな、泊まりたい。


「泊まりたい」

『反対側の、あの向こうのコテージをどうぞ、招待状が有ればタダですから』


「は、成り立つのか」

『お食事等は別料金となっております、この時期はお買い物や観光で儲けていますので、ご安心下さい』

《なるほどのぅ》


 招待状にあった新郎新婦を訪ねると、見知った顔が幸せそうに微笑んでいる。

 そして灯台守の息子も、顔を見ると確かに似ている。


『あ!来て下さいましたか、お嬢さん!お噂はかねがね』

《お久しぶりです》

《初めまして》


 其々と挨拶を交わし、花束を渡す。

 気に入って貰えた様で何より、早速花瓶へと活けている。


『どうです温泉郷は、もう行かれました?』

「良かった、つか増設しちゃったけど良いか?」


『勿論ですよ!元はお嬢が温泉が好きだって話しから出来た場所でもあるんで、好きに使って頂いて構わないんですから』

《そうですよ、皆が生きていられるのもそう。御恩返しと思って下さいな》

《結婚できたのも、アナタのお陰です》


「このイチャイチャの中で、君は良く居られるな」

《うふふ、彼には家の相談をさせて貰ってるんですよ》

《えぇ、王都に建てて貰おうかと思っているんです》

『本当は結婚式が終わったら一旦帰る予定だったんですが、ほら橋が…アレ?どうやってコチラへ?』


「小舟で来た」

『あぁ!確かに川は繋がってますもんね、そうか、その手があったか』


「居心地良くて帰る気にならんかっただけでは?」

『いやいやいや、家の話しで、本当に』

《とても良く相談に乗ってくれていたので、多分本当に忘れてただけですよ》

《ちゃんと遠慮もしてくれますもの、ね?》


「そう?で、家はどうするか決まったの?」

《うふふ、大まかになんですけど、こんな感じで》


 四季のある場所なので、暖炉と中庭を中心とした一軒家を考えているんだそうだ。

 浴槽もある広い洋風家屋、木と漆喰で作り上げるらしい。


「良いなぁ」


『ならお嬢、別荘を建てられては?』

《そうね!建てましょうよ!》

《でも、お隣の街のお嬢さんですから王様の許可が無いと》

《そうか、では我の分も許可を取って来てはくれんかの?》


『承知しました』


 シバッカルが王宮へ空間を開くと、軍人さんは行ってしまった。

 そしてそのまま話しが進む。


 同じ木と漆喰の家、中庭の木をロの字で囲む。

 玄関前には生垣、裏庭にはガラスのテラスが付けられた。


 リビングには暖炉、カウンターキッチンの横には大きな窓。

 中庭を眺められるお風呂には大きな浴槽、一階建ての小さな別荘。


「海が見たいんじゃが」

『あ、じゃあ』


 そしてこのコテージの先にある、居住者用コテージを改築する案が出た。

 今度は家の海側にガラス張りのテラス、それはそのまま遠浅の海への梯子が掛けられている。


 家へと繋がるガラス張りの床には浴室を配置。

 小さなキッチンの目の前にはリビング、その横には寝室。


「冬寒そう」

『だから暖炉なんですよ、この真ん中のリビングの暖炉が、隣の浴室まで温めますから』

《冬の海は澄んでいて、眺めるだけでも楽しいですよ》

《冬が待ち遠しいわね》


《もう暗くなってるし、電気を消してみましょうか》


 明かりを消すと、ガラス張りになっている床の部分が波に合わせて輝く。

 緑色、思った色と少し違う。


《いつ見ても綺麗》

《夏は緑、冬は青く発光するんです》


 こんなモノを見せられては決断するしかあるまいよ、だが王様の許可が必要らしいし。

 そう思案していると、何と王様と共に軍人さんが帰って来た。


「あ、クラネス」

「じゃあ、作りに行こうか」


 王宮の近くの海へとへ向かい、王様が手を1つ叩く。

 それに目をやりコテージへ視界を戻すと、もう家が出来上がっていた。


《我は先程のコテージで良いぞ》

「まぁまぁ、遠慮しないで」


 シバッカルがそう言うと、再び王様が手を叩く。

 白い石造りのコテージが、海からせり上がって来た。


《ふふふ、良い別荘だ、有り難い》

「ありがとうございます」

「まだ中は出来上がっていないから、後は任せたよ」


 そう言って王様は空間を開き、立ち去った。

 そして驚いたままの3人を連れ、中へと入る。


 暖炉やキッチン、浴槽などは有るが家具が無い。

 ただテラスの横にはダイビングセットが置かれていた、ナイス配慮。


《一緒に家具を見に行きましょうよ!》


 男達とコテージで別れ、女同士徒党を組んでいざ買い物へ。

 中央通りへ行く道には、日用品や食料品店が並んでいる。


 もう少し進むと家具やカーペット、食器等が並んでいた。

 その中の、白い家具の並ぶお店へ入る。


 ラタンや籐の白い椅子やテーブル、奥には白いフカフカのベッドが展示されていた。

 試しに値段を聞いてみたが、金の粒は足りそう。


 そして念の為にと連れて来られた店には、ベージュ系のナチュラルカラーの家具が並ぶ。

 床は濃い茶色なので、グラデーション配置を進められ、試しに運び入れて貰う事に。


 空間を開き配置してみると、非常に落ち着いた空間へと変わった。

 そしてそのまま購入、金の粒で支払い次のお店へ。


 白い天蓋のレースにタオル、ラグ等を買い揃え家へ配置。

 南国風ながらも、落ち着いた家となった。


「ありがとう」


 彼女のコテージへ向かい、新郎に再度挨拶をし、帰ろうとした所で灯台の息子に呼び止められた。

 小舟を貸して欲しいらしい。


『急にすんません、親父がヤッパリ心配で』

「良いよ、1人で大丈夫?」


『大丈夫っすよ、昔は船頭もしてたんで慣れてますから』

「分かった、河童によろしくね。気をつけて」


《のぅ、我の所にも見に来ぬか?》


 シバッカルの別荘も海の中に入っているかの様に床がガラス張りになっている、そして天井も。

 柱や壁は白い大理石、目が回りそうな不思議な部屋。


「変な感じ」

《ふふ、きっと雪が降ったら面白いじゃろうな》


 床に寝そべり空を見ては海を見る、波と共に光る海。

 夜空には星座も分らなくなる程の星々、それらをただただ眺める。


「お腹減ったなぁ」

《は、少し帰って測った方が良いのでは?》


「あー、そうしときます」

《よしよし、送ってやるでな、またコチラに来ると良い》


 大きなハンモックに2人で寝そべり、シバッカルに背中をトントンされる。

 暖かくて、柔らかくて良い匂い。






 目を覚ますと胃が焼ける様な空腹感。

 温もりの提供者は今もまだ眠っている、漂っていた筈の大量の魔素は既に欠片も無い。


 どれだけ眠っていたのか確認すると、今はオヤツの時間直前。


 エリクサーを急いでガブ飲みし、下へと降りた。


「丁度良かった、さぁ食べましょ」


 桃間のゼリーパイ、桃の香りが美味しい。

 他のデザートは日を置いた方が美味しくなる物らしい。


 足りない。

 上へ戻りフライの盛り合わせとお米、エリクサーを飲み込む。


 まだ足りない。

 更に他の盛り合わせも出してエリクサー。


 試しに測るも、危険域をギリギリ抜けている程度。

 何でこんなに出た、何も作り出して無いぞ。


「ロウヒ」

『何をし…ドリームランドか?』


「だけとは思えないんだけど、向こうで何も作って無い筈だし、作っててもココまでじゃ無い筈」

『そうか、アレはどうしている』


「娼館に連れてったから、お楽しみ中かと」

『それだろうな、お前の放出に便乗してそのまま吸い上げたのだろう。何も説明が無かったのか?』


「簡単な説明は受けたが吸い上げられるとは、力尽きそうだったから同意したけど」

『今か』


「うん、今さっき」

『マーリンの馬鹿者め、良く話し合えと言ったのだがな、すまん』


「いや、それは別に良いんだけど、エリクサーがね」

『よし、手伝いなら可能だぞ』




 ロウヒに言われるがまま、アヴァロンへと空間を開く。

 ティターニアがマーリンに視線をやった後、察したのかエリクサー作りに協力してくれる事に。


 そのままアヴァロンへ移動し、泉に浸かりながらエリクサーを飲む。

 気が付けば胸は元に戻ってはいたが、今は喜べる状態では無い。

 そのまま男になり、省エネモードでエリクサーを飲む。


 傍らでは見た事も無い大きな釜を妖精と共にティターニアが掻き混ぜる。

 大釜はもっと大きいらしいが、一体どうやって掻き混ぜるんだろうか。


 そこまでサボっていたワケでは無いのだが、もうアルコールが含まれるモノか、酸っぱいの、苦いのしか残っていない。

 試飲したティターニアも驚く不味さ、それをピッチャーに出しそのままラッパ飲み。

 せめてもの口直しにと、甘く芳醇なチョコレートケーキを出してくれた。


 久しぶりに天国と地獄を味わいながら、空間を開き、ベッドで眠るマーリンを見る。

 恨めしい。


 早く言ってくれれば良いものを。


 暫く睨んでいると動きがあった、だが寝返りだけ。

 全く起きる気配が無い。


「なんで起きない」

『消化吸収するには、夢の中で無ければいかんそうだ。可哀想にな、美味い飯も身にならんとは』

《そうよね、こんなに美味しいのに。だから、貰い物はいつも私にくれるの、自分が食べたら勿体無いからって》


「馬鹿だな、言えば良いのに」

《付き合いが長くなる程に、人付き合いが下手になっちゃうんですって》


「そこは過去に引き摺られるのか、神様なのに」

《自分の事をそんなには神様だって思って無いみたい、ご飯食べないでこんなに長生きなんて、エルフでもそんな子居ないのに、可笑しい子よね》

『元は人間なのだから、その影響は何処かに出るものだ』


「自覚が無いのはどうしてさ」

『歴史だ、現界している年数もそうだが、神として自覚するには歳月も必要なのだろう』

《そうなのかも知れないわね、私やロウヒに比べたら最近の子だもの》


「若い神様なのか」

『そうだな、人間に迷惑を掛ける程度には若輩者だな』

《そうね、まだまだ子供なのかも知れないわね》


 再びエリクサーとケーキの往復を再開する。

 頭の中で天国と地獄を流しつつ、実況中継を交えながらエリクサーを飲み込む。




 ピッチャー5本目を飲み干した所で、やっと放出。

 妖精達が引き寄せられる様に近づいて来ると、泉の周りで眠り始めた。


「あら、ごめん」

《大丈夫よ、それより良かったわ回復して》

『妖精達が吸収する、もう大丈夫だろう』


「あービビったー、マジでビビったわ。またマティアスに怒られると思ってビビった」

《ふふふ、もし怒られるなら、私も一緒に謝るわ》

『そうだな、ワシも謝ろう』


「畏縮しつつも怒るのかしら、面白そうだな」

《あら、どんな感じなのかしら、ふふふ》

『見ものだな。ではお前も戻って眠ると良い、そのまま泉へ沈まれては困る』


 次のエリクサーの材料を渡し、部屋へと戻り空間を閉じた。


 機嫌良さそうに眠るマーリンを少し転がし寝場所を確保、目を閉じた。






《おかえり》

「ただいま」


 外を見ると、月日が変わったのかコテージの外の雰囲気が違う。

 空は少し濃い青に白い入道雲、空気はカラッとして暑い。


《お祭りの時期でな、もう直ぐ避暑地に変わるそうだ》

「もうそんなに、マーリンを迎えに行ってみるか」


 港へ戻ると小舟が少しだけ進化していた、帆が付いている。

 灯台守の息子の仕業らしい。


 花街へ繋がる川まで漕ぎ、帆を下ろすとグングンと進んだ。

 そして太陽が真上に来た頃、花街へ。


 河童が居た場所の少し手前には船着き場が出来上がっている。

 船便での交易が行われているらしい。


 人々と挨拶し、遊郭へと向かう。

 まだ遊んでいるならほっとこう。


 格子の前まで行くと、女将さんらしき女性に手招きされた。

 門が生えると、そのまま開いた。


 初めて中へ入る。

 甘い白粉の匂いと、お線香の匂い。


 案内された襖を開けると、1人ボーっと庭を眺めるマーリン。

 すっかり着慣れた浴衣を着崩して、布団に寝転び微睡んでいる。


「勿論、風呂には入ってくれているよな?」

『あ、おかえり』


「お前、大変だったんだからな」

『ごめんね、そのまま吸い上げるとは思わなくて』


「眠いわ空腹わで、頭が回らなかったと」

『うん、ごめんね』


「許す。で、どうでしたか」

『良い空間だった、何もしなくても勝手に消化吸収出来たし。あ、何もして無いからね、本当に』


「じゃあ何でよ」

『居心地良いんだもの、情欲と悦びに溢れてて、心地良い』


「マジでしなかったのか、勿体無い」

『勿体無いって、じゃあ君が遊んで行けば良いのに』


「それどころじゃ無いし」

『私もだよ、男も繊細なの』


「ココに住むか?」

『遊びに来る程度で良いかな』


「ならココに来る時は、誰かに送り迎えして貰え」

『うん』


 帰りにマーリンがお会計を迫られたので、代わりに支払う。

 金3粒、本当に飲食代と宿泊代だけだそう、コレも出られなかった要因の1つらしい。


「ほれ、分けてやろう」

『ありがとう、お返しを沢山しないとね』


「何も思い付かん、後で良いか」

『勿論』






 同時に目覚めた筈なのだが、既にマーリンの姿は無かった。


 時間はもう夕飯前、ロウヒとティターニアの様子伺いに空間を開く。


『起きたか』

《どうかしら》


 大鍋いっぱいのエリクサー、それと人魚でも入りそうな鉢タップリのエリクサーが何個も置いてある。

 ほんのり甘いし自分用だが、一気に在庫が増えた。


「ありがとう」

『遠慮するでないよ、まだまだだ』

《そうよ、さぁ遠慮しないで》


 念の為にとアヴァロンにはハーブ小屋を1つ置き、下へ降りると夕飯が揃っていた。


 シーフードピラフに焼きロールキャベツのケチャップ添え、ホウレン草とマッシュルームのクリーム煮、そしてスープはリタのチキンスープにそっくり。


「知ってる味に似てる」

『はい、リタさんのレシピですよ。マーリン様経由でマティアスから頂きました』

「美味しいわね、味の付いたお米って好きよ」

『うん、チキンスープも美味しい』

《ラルフ様の腕があってこそですな、坊やは生半可に真似してはいけませんぞ》


『ふふ、それでそのままマーリン様に、お買い物に連れ出して頂いてたんです』

「ラウラったら足りない筈なのに、我慢してるみたいだったから。でもそれもそうよね、苦手な物なら食べたく無いもの」


「いやいやいや、苦手な物は出なかったよ、本当に。ただお世話になってるから、食費がね、掛かるじゃない」

「もー、ウチは私以外は全員働いてるんだから、ラウラ位は養うなんて余裕よ?蓄えも有るんだし」


「あ、ごめん、借りたお金」

『それは差し上げた物ですよ、少しばかりの餞別とお礼ですから』

「それと指輪の代金」

《このご家族は一生を掛けても面倒を見る覚悟なのですから、今のウチにこの好意を受け取っておかねば、一生付き纏われますぞ。御恩返しがまだですと》


「絶妙に怖い話しに」

《ふふふ、ワシもですからな?例えいつ命尽きようとも、マーリン様、アナタ様を全力でお助けする事を既に誓っているのですから》


「なんでそんな」

《生きる道標と、幸せな家庭と言う極上の甘美な味を、味わえないと思って居たモノを味合わせて頂けているのです、それだけでは理由にはならないでしょうか》


『爺や、孤児なんだって』

《それを言い訳にするつもりは御座いませんが、大昔の人恋しさの理由でもありました。最初にマーリン様の所へ赴いたのもそう、周りの人間に世話をされているのが、羨ましかったのです》


「世話されてたんかマーリン」

《えぇ、ボケた老人が偶に人を癒しては、食料や家の世話をされて居る事が心底羨ましかった。ワシはずっと1人で、重労働をこなしても尚、明日の飯にも困っているのにです》


「それがこんな丸くなるか」

《年ですな、色々と見て経験して、そうしてやっと、こうなれました。不器用で馬鹿ですから、随分と時間が掛かりました。自分と言う人間がいかなる者か、そしてその自分が真に欲するモノとは何かを分るまで、ただただ馬鹿をしておりました》


「その欲しかったのが家族?」

《えぇ、寂しがり屋なのです、こう見た通りに》


「ふふ、見ても分らんよ」

《良く言われます》


 デザートはミルク粥とベリーゼリー、酸味の有るベリーと甘く柔らかいミルク粥。

 季節を問わずにいつでも食べられる感じが良い。


「強い味と香りが嫌いなのよね、後は酸味も。子供の頃のルーカスそっくりね」

『今でも少し苦手、特にお酢が強いのは苦手』

「わかる」

《小さい頃の写真は見ましたかな?それはもう、お2人とも天使の様でしたぞ》


「天使は居るの?」

「そうね、バチカン市国にいらっしゃるらしいけれど、お会いした事は無いわ」

《ワシもそう聞いておりますが、お会い出来るのは限られた方々だとか》


「治療師でも会えないのか、なんの天使さんなんだろ」

《それも詳しくは存じません》

「そうね、私も」

『僕も、関係者にも会えた事も無いから』


 情報皆無、君子危うきには近寄らないでおこう。

 向こうでも相性悪かったし、まだ日本に行く方がマシかも知れん。




 後片付けを手伝った後、久しぶりにサウナへ入る。

 勿論シーリーと一緒。


 カツラを外すと根元がかなり伸びていた、不味いな、マティアスにバレる。


「ふふ、伸びるのが早いのね」

「代謝が激しいから、爪もだ、面倒」


「誰かに切って貰ってるの?」

「ロウヒ、前は青に染めて貰った」


「良いなぁ、私ピンクにしたかったんだけど、仕事でダメって」

「じゃあ今したら良いのに」


「えー、ちょっと恥ずかしい」

「合う服も買って、着ちゃえば恥ずかしく無い」


「本当に?」


 サウナを堪能してから、ロウヒへと繋ぐ。

 既に夢で会っていたらしく、少し人見知りしたかと思うと直ぐに馴染んだ。


 そうしてシーリーの髪を染めながら、ネットでお買い物。

 出来るのね。


 シーリーの家はネットが役所にしか無いんだそう、しかも個人使用は退職してなお禁止なんだと。

 軍系は退職すれば良いらしいが、知らないワケだ。


「コレ良いじゃない」

「可愛過ぎよ」

『髪色がこうなのだから良いでは無いか、年相応などと他人の戯言に惑わされては息苦しいだけだぞ?』


「そうだそうだー、らしくない反対ー、好きにさせろー」

『ほれほれ、次はお前の番だぞ、コチラへ来い』


 シーリーをパソコンの前に放置し、浴室へ向かう。

 もうすっかり慣れた手付きで髪を切ってくれるロウヒ、最初はおばあちゃんポイと思ったが、かなりお母さん寄り。


 シーリーは寧ろ、お姉ちゃんか従姉弟に近い感じだろうか。


「お父さんは誰が良いかな、やっぱりラルフかな」

『そうだな、だがトールはどうだ?』


「叔父さんかお祖父ちゃんかな、お父さんにしては似てる所無さ過ぎて」

『ふふ、ならマーリンはどうだ』


「えー、近所のお兄ちゃんで良いや」

『ふふ、ではレーヴィは?』


「良いお父さんになりそう」

『マティアス』


「アレは神経質だから、寧ろお母さんでしょう」

『ふふ、ふふふふ』


「ルーカスは近所の友達の弟、自分の弟ならマジでケンカしまくりそう」

『ふふ、意外と仲良く過ごせるかも知れんぞ、なんせ姉にハンナが居るのだから』


「それはそうなんだけど。爺やは爺やでしょ」

『ふふふ』


 有り得もしない事を話していると、あっという間に髪が切り終わってしまった。


 良く考えれば自分も今は孤児なのだ、そして前の世界に戻ってもそう。

 従姉弟だのハトコ的な血の繋がりはあっても、家族は居ない。


「良く考えれば、ワシ孤児なんだよね。それでも家族は要らないと思うのは、引き摺られ過ぎよな」

『傷に気付いたのは最近なのだろう?ならまだ治っている途中なのだから、結論を急ぐには時期尚早だ』


「時間薬嫌い、どうにかならんか」

『魔法でか?対価とは別の代償が生まれるぞ。早めるのと捻じ曲げるでは随分と違うのだ、早める事の出来ないモノを早めよう、得ようとすれば代償を払う事になる』


「今日知り合った人、神様?が、代償を払ったって、目を治すのを拒否された」

『代償とは選ぶ事が出来ないのだ。仮に目を治せても、それ以上の何かが起こると知っていて、拒否したのだろう』


「こわい」

『あぁ、人理を曲げるのもそうだ。代償は持てるモノ全て、そしてコレから先に得られるモノからも選ばれてしまう』


「出来るだけ求めない方が良さそう」

『そうしておけ、今は家族が要らなくとも、欲しくなった時の後悔はキツいらしいぞ。取るに足らん代償でも、軽率に判断してはならぬよ』


「こうなると人理も怖いんだが」

『人理はぞれぞれに有るモノだ、ワシに出来なくともお前に出来る事、その逆もある。だからこそ役割が生まれる、代償を払わねばならん行いさえ避ければ、人理には反する事もなかろうよ』


 どうにも子供を作り産み育てる事が想像出来ないのだが、代償を支払うとは想像を絶する行為だと言う事は分かった。

 誰かが犠牲になる代償もあると。


 頭を良く流し部屋へ戻ると、パソコンに食い付いていた筈のシーリーが床のクッションに縋っている。


「どうした」

「迷っちゃって、もう、全部欲しいんだもの」

『ふふ、どれどれ、選んでやろう』


 年は関係無いと言いつつも、長く着られるモノを選んであげているロウヒ。

 シーリーも納得のチョイス、運送屋が代理購入し、届けてくれるそうだ。


「想像以上に早く届くのな」

「ね、それでも待ち遠しいわ」

『ふふ、そうだな』


 そこから更にロウヒからお下がりを1着貰い、興奮のままのシーリーを部屋まで送る。

 そうして今度はアヴァロンへ空間を開くと、マーリンが部屋へと戻って来た。


「ありがとう、飯の件聞いた。だからお礼は良い」

『ダメ、それはそれ、いつでも良いから考えておいて』

『それで、どうしたマーリン。寝に来ただけか?』


『あ、うん』

『もう吸い上げるで無いよ、エリクサーが尽きて補充しておるのだからな』


『うん、ごめんね、ありがとう』

「じゃあ先に布団でも暖めておくが良い、まだ用事がある」


『分かった、温めとくね』


 家へ繋ぐと、マティアスがソファーでアイスを食べていた。

 机の上は資料まみれ。


《あ、ごめん、後でちゃんと片付けるから》

「構わんよ、疲れた顔をしてどうした」


《絵本の仕上げについ熱中しちゃって》

「無理すんな、今日は早よ寝ろ」


《うん、サウナ行ってくるね》


 樽の中身を入れ替え、今日作ったミルク粥とベリーゼリーを冷蔵庫へしまって空間を閉じた。


 そして暖かいベッドへ入ると、直ぐに瞼が。


『マーリン』《爺や》「シーリー」『ラルフ』『ルーカス』《スズランの妖精》《シバッカル》

「クラネス」

『灯台守の息子』

『ロウヒ』《ティターニア》《マティアス》

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