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3月31日

ドリームランドから。

 



 シバッカルの宮殿。

 目の前にはマーリンも。


《ほう、病気の子をココへ呼ぶとな》

『良いと思うよ、数も多いし科学で早々どうにか出来る事でも無いだろうからね』

「早い、もう読んだか」


『うん』


《で、我は賛成じゃよ、子供も大人も好きじゃし》

『私も賛成、筆記試験が終わったら早速始める?』


「他の病気の子は?」

『良いと思う、私もマティアスの意見とほぼ同じだよ』


「君らは親子か何かか?妖精の声も聞こえてるし」

『んー、遠く薄く血が繋がってる可能性は否定出来ないけど、親子では無いかな』


「直系の可能性は否定出来ないのか」

『自分の子供はもう追って無いんだ、魔女の子だからと隠して育ててるのも多かったから』


「無責任と言うか、仕方無いと言うか。自分の子より妹の子か」

『少し血が濃く出てる子は気にしてはいるけど、私の子孫はそれなりに生きてるのは確認したから。それより妹はね、魔女の血が多かったから』

《魔女狩りに遭いかけたんじゃと、気にしもするだろう》


「何か、仲良くなってんな」

《世間話程度じゃよ》


『それで、どうしたい?』


「治したい」


『分かった、じゃあ出来る様にしとく。詳細は明日ね』






 目の前にはマティアス。

 良い匂い


《おはよう、クロックマダム作ってみたんだけど》

「おは、たべる」


 出来立てのクロックマダムの乗ったお皿に釣られながら、下階へ降りる。

 ホワイトソースとチーズの良い匂い。


 卵トロトロ、パンカリカリ、美味い。

 付け合わせは野菜スープとカフェオレ。


《どう?》

「天才、美味しい、毎朝作ってれ」


《リタからレシピ教えて貰ったんだ、ホワイトソースはカスタードクリームとそんなに変わらないからって》

「しかもマダムの方ってマジで最高ですよ」


《今朝リタの庭木の様子を見に行ったら、ラウラにって教えてくれた。栄養付けて頑張ってって》

「はー、申し訳ない」


《明日から、またココでラウラとして少しは過ごせるんだから。その合間にでも会いに行ったら?》

「ラウラの関係者として狙われたら困る、このままフェードアウトしたい」


《本当に良いの?》

「安全第一、全部片付いたら会いに行く」


《分かった、代わりにお礼を伝えとくね》

「うん、ありがとう」


 片付けをして容量チェック、高値。

 今日は曇り。


 お腹がこなれたのでストレッチ、そしてロウヒに昨日の報告。


『おはよう』

「おはよう、試しましたよ男の方だけ」


『おうおう、どうだった』

《おはようございます、依存度は三大欲求程度。効果時間はオーロラより短いと思う。フワフワ微睡む感じで、外部の楽しそうな事には集中出来るけど、本を読むとか内省には不向き。穏やかに効果が消えてくから、完全な切れ目を自覚するのは難しいかも》


『ほう、後はラウラの方か。コレから試すのか?』

「そのつもり、マティアスがズル休みしちゃったから」

《有給だし》


『そうか、ではその前にドイツへ繋いでくれんか、用事があるで少しシオンの時間を貰うぞ』

「おかのした」

《いってらっしゃい》




 ロウヒの部屋へ移動してから、ドイツへ繋ぎ窓をノックする。

 何のタイムラグも無しにミアが窓を開けた。


 緊張した面持ち、イデリーナも緊張している。


『出来たかミア?』

『はい』


『イデリーナはどうだ?』

「はい、何とか」


 出て来たのはフィンガーブレスレット、ロウヒの瞳に似た魔石と透明な水晶が大きく飾られ、黄金で作られている。

 黄緑色の魔石を手の内側へと装着させ、甲には透明な水晶が当たる。

 手首のアジャスターを引っ張り、密着させた。


『シオン』

「あいよ」


 髪を上げられ、額に手を翳し魔石を宛てがわれる。


 ゆっくりと確実に魔素が吸い上げられている感覚が、ハッキリと全身で感じられる。

 ビリビリキリキリと痺れる様な、気が抜ける様な感覚。

 体内を紙やすりで擦られる感じ。


 正直キモイ。


『どうだ?』

「荒々しいのか、キモイ」


『ふふ、ミア、体験してみると良い』

『はい』


 額に魔石を宛がわれると、少し眉間に皺を寄せるミア。

 やはり不快らしい。


『どうだ?』

『そうですね、不快です。私達の時には平気だったんですけど』


『容量が大きいと粗も分るものだ。この感覚は大人が子供へ施した場合と受け取って貰って良い』

「容量のサイズ差補正があんま効いて無い感じか」


『そうだな、大人同士、又は容量に大した差が無ければ良いのだが。もう少し、抑えてやると良い』

「えー、折角綺麗なのに」


『ふふ、それを活かしてもう少しだ』

「えー、じゃあコッチもダメかも知れないわね」


『まぁまぁ、試してみようでは無いか』


 そう言って、今度は紫にシルバーのフィンガーブレスレットを装着し、イデリーナの額に魔石を宛てがった。


 表情は変わらず、強がってる様子も無い。


「もしかして、成功?何で?」

『魔石と言っても其々に特性が有る、簡単な事だよ、明るい魔石は素直だからそのまま吸い上げてしまうのだ。お前の紫の魔石は色として少し暗い、それが時として弁にもなるのだよ』


「ほー」

「へー、色で変わるんですね」

『そうだ、少し多めに魔力を出し入れすれば分る、分るまで魔力を出し入れせんと分らんがな、ふふふ』


「何にでも癖があるのか」

『あぁ、珍しい魔石は特にだ、2色に綺麗に分れているものがあるだろう、アレは難しいだろうよ』


「楽しそう、試す?」

「無理無理、少し休憩したい。それに、もう少しこの魔石を試したい」

『ふふ、少しだけだぞ、ミアが仕上がるまでだ』

『すみません、少し掛かるので、もう1つ出しましょうか?』


『あぁ、頼む』


 ミアが出したのは見慣れた黒髪のカツラ、長さも2種類。

 肩までの短さのと、肩甲骨辺りまでの少し長めのカツラ。


「コレ、ワシの髪?」

『はい、徽章の治療師の長さと、ラウラの長さ2つ用意しました』


「あぁ、でもコッチは少し長く無い?」

『だって、髪で遊びたいのだもの』


「おま、ロウヒの要望か」

『まぁまぁ、ラウラになり被ってみよ』


 魔力を通し、ネットも無しに後ろから前へ被ってみると、気持ち悪い程に自然。


 でも眉が金髪。


「眉が」

『どうせ化粧なんぞせんのだから、少し魔法を伝授しようと思ってな。治癒魔法の亜種じゃて、直ぐに出来る様になるさ』


「お、ありがたい」


 メラニン色素を消失させる所から始まるのだが、集合体恐怖症には少しキツい感じ。

 黒い粒々キモイ。


 そして中心部の色素も消失させ、最後に黄色いフェオメラニンを少し増やす。


 黒くする場合は、その逆の工程を辿るだけ。

 毛根に直接作用させれば、暫くはその色の毛が生えるが、代謝によって生え変わってしまうので再度変化させる必要がある。


 本来の方法はキモイので、全体をイメージし、毛先からゴムで消す様に変えていく。


『うむ、早いな』

「キモイんだもの、消しゴムで消したわ」


『ふふふ、よし、コレで偽装は完成だな。勉強はどうだ?』

「歴史を残してるだけかな、後で系統樹でも書こうと思ってる」


『良い勉強法だな』

「ちょっとドキドキしちゃうよね、前日だし」


『リラックスと唱えると、逆に緊張するそうだ、ふふ』


 ミアとイデリーナ2人の作業を暫く眺めていると、ミアが先に作業を終わらせた。

 ロウヒに差し出すと、再びミアの額へと宛てがわれた。


『はぁ、良かったぁ』

『うむ、成功だな。後はこの水晶だ、どれだけ持つか』


『改良したので、通常よりは持つかと』

「2倍はね、交換も出来るし」

『うむ、試してみよう。ラウラ』


 額を差し出すと、以前とは違い不快感は無い。

 水が引く様な、海辺で足元に波を感じる様な僅かな感覚だけが体の中を通る。


「少しひんやりして良い感じ」

『だが、お前の容量には堪えられなかった様だ』


 どれだけ吸い上げたのか、甲の水晶全体にヒビが入っている。

 どんだけ。


「どんだけ」

「本当、私とミアを合わせた容量なのに」

『少なくは無い筈なんですけどね』


「なー、それよりコレはどうするの?捨てるなら欲しい」


『魔素を取り出すと壊れてしまうので、カートリッジとしては沢山あるのですが』

「ヒビ入りが良いの?」

「うん、綺麗じゃん。宝石だって内包物とか傷があった方が綺麗なのもあるし」

『そうだな、そういう種類の物もある』


「なら加工してあげる」

『そうですね、良い土台が有るんですよ』


 シルバーの土台は蔦模様で透かし細工がなされている、同じく蔦模様の留め金で水晶を取り付けた。

 パッと見はリングなのだが、土台付近にも細工がしてありリングが開閉し、ヘアカフスにもなるんだとか。


 少し大きいので人中指に付ける、ピッタリ。

 シオンならだが。


「ありがとう、好き」

『ふふ。ね、意外と好きなんですよ』

「本当に、魔道具以外は興味無いかと思ったのに」


「全然好き、ギミックあるのも好き」

『ふふふ、似合うぞ。どれ、ついでだ、2人の前で容量を計ってみたらどうだ』


「えー、2人とも分解したがるじゃんよ」

『見せるだけじゃて、2人とも良いな?』

「はーい」

『はい、我慢します』


 計測器とタブレットを取り出し、目の前で魔力の容量測定。

 もう2人ともタブレットをガン見。


 数値は中域、まだ余裕は有るらしい。


「はー、触りたいぃ」

「替えが無いからダメ、充電も不安でして無いんだから」

『変圧器は無いんですか?』


「あるけど、電圧不安定なイメージで、ぶっちゃけコワい」


『なら、変圧器を調べさせて貰えませんか?』

「それ位なら直せる筈だし、数値測定するだけだから」

「まぁ2個あるし、お願いします」


 分解し蓋を開けてみたり、数値を測定しまくったり、2人とも楽しそう。

 そして、ものの数分で結論が出た。


「ドイツでもフィンランドでも使って大丈夫よ」

『はい、そこまで違いが無いのが残念でしたけど、問題ありません』


「ありがとう」

「あ、そのカツラの説明書とブラシあるんだ、待ってて」


『ロウヒ様、本当に私達で登録しても宜しいのですか?』

『良い、未来への投資だ。その代わりでは無いが、親族が世話になる時は宜しく頼むよ』


『はい、喜んで』

「あったー、はいどうぞ、説明書とブラシね」

「ありがとう」


『では、またな』

『はい、ありがとうございました』

「またね、ラウラ」


 ドイツへの空間を閉じると、最後にミアが渡していた箱から、両目が透明な水晶のフィンガーブレスレットを渡してくれた。

 紫の魔石と色合いもデザインも全く同じ。


『コレはお前用の精巧なフェイクだ、本物は爺やに渡してくれ。今度から動く時は、それを付けておくれよ』


「その為のフェイクなのね、お世話になります」

『あぁ、赤い魔石も特許用で返品は不可だが、良いか?』


「うん。でもコレ、どうやって髪に付けたら良いの」

『よし、では髪に付けてやろうな』


 パチンと指輪を開き、髪に留めて貰ったのだが、少し動くだけで落ちてしまう。

 それでもニコニコとしてリングに何かを唱えて息を吹きかける、そうすると今度はピッタリと留まった。


「何した」

『ふふ、使い易い様にしただけだ。まだまだひよっこだな』


「直ぐに言わないんだ」

『今は成功を喜んでおるのだ、この位はいずれ言えば良い』


「こんなに寛容なのに、コワい大魔女なのな」

『そうだぞ、食べてしまうかも知れんな』


「味付けは?」

『勿論、部位によって変えんとな。尻と頬はステーキだ』


「筋はシチューで」

『脳は蒸しだな』


「お腹減った?」

『だな、もう昼だ』




 家へと空間を繋ぎ、今日も盛り合わせやロウヒごはんを3人分け合って食べる。

 ロウヒの家のご飯はミートボールとマッシュポテト、肉とスイーツ好き過ぎ。


「肉とスイーツで出来てる」

『心は砂糖で出来ている』

《お肉じゃ無いんですね》


「ワシお肉で出来てるな、最近」

《そろそろ、お魚も取らないとね》

『ワシお魚のすり身嫌い、アレ、骨嫌い』


《分るなー、臭いし味無いし。最近は減ったけど、昔は良く基地で出てたなぁ》

『貴重なたんぱく源なのは分かるんだが、あの食感がどうもな、モサモサして嫌い』

「気になる、リタのでも美味しく無いのかな」


《サーモンのフィスクブッラなら美味しいんだけどなぁ》

『大体は缶か冷凍でな、バサバサなのだよ』

「同じすり身でも違うのか、今度買おう」


《トマトと香草たっぷりでね、小さいの買った方が良いよ》

『出来るなら焼き目も付けた方が良いぞ、覚悟しておいた方が良い』

「おかのした」


 おでんを提案したら大変な事になりそうなので、今日は大人しくテーブルでお絵描きと勉強。


 系統樹は縦書きでも横書きでも良いんだそうで、最初にサミー人とフィン人を種に見立てる。

 そこから出来事と年表を書き入れ、色を繋げていく。

 途中でロウヒやマティアスの解説が入り、かなり良い感じで出来上がった。




《後は、しっくり来なかったら縦書きにしてみたり、合う色で書き直したり、好きな色で字も書く感じかな》

『柄も図も好きに書き入れて良いのだよ、ほれ、シールもあるぞ』


「何コレ、超楽しいんですけど」


《やっぱり、どこか子供っぽいんだよねぇ》

『学校に殆ど行っておらんのだから、こうもなるだろう』

「そうだそうだ、楽しい勉強の仕方なんて知らん」


《じゃあ、合格したらシールあげないとね》

「高い高いもな、耳鼻科の先生はしてくれた」


《小さい頃でしょ》

「持ち上げられるギリギリまで頑張ってくれたぞ、今はもうおじいちゃん先生になっちゃったから無理だけど」

『ふふ、シールがたんまり溜まってそうだな』


「でもそんなに無かったな、そこらにも張って無かったし、何処いっちゃったんだろ」

『シール帳はどうした』

《あげちゃったとか?》


「あー、思い出した、入院してあげたんだ、いっぱいあるからって下の子達に」

『どんだけ』

《耳鼻科って、中耳炎とか?》


「いや、中耳炎は無い。入院は肺炎が1回位と、後は謎、覚えて無いけど血液検査の結果が悪くて長引くイメージ。てんかんの検査も何回かした」

《それも無いの?》


「おう、脳波は何も無かったと思う、その時に増えた薬も無かったし」

『甘い風邪薬が美味しいのよな、咳止めも』


「シロップ良いな、最初のは粉溶かすタイプで微妙に不味かった」

《そう言えは試した?》


「あ、まだだ」


 箱から出し蓋を開ける、黒い瓶からオレンジ色のシロップがトロリと出て来た。

 匂いはオレンジ擬き、味も言う程は美味しく無い。


『あー、味が変わっておるぅ』

《美味しいと、もっと飲みたくなっちゃうでしょ、前に味が変更されたんだ》

「ギリギリ飲める程度なのがウケル、絶妙、こんな感じだったよ溶かすのも」


『お主ってアブサンとか好きそう』

「アレは無理、苦いし、もっと甘い方が良い」

《ならエルダーフラワーのリキュールとか良いんじゃ無い?リタが漬けたの美味しかったよ》


「良いなぁ」

『作ってしまえば良いのだよ、ウチの裏に木があるでな、成長させて少し持って行くと良い』


「お、やった」


 裏庭へ向かい木を少し成長させると。

 普通とは違う、豪華で煌びやかな美しい妖精が目覚めた。


『おぉ、甦ったか』

《いいえ、少しお昼寝してただけですよ》


「どうも、枝か何か分けて頂けませんか?」

《ふふふ、シロップ?それともお酒かしら》


「じゃあ、両方で」

《美味しく作って下さいね》


 満開の花の着いた枝と、実を付けた枝を分けてくれると。

 妖精はあくびをしながら眠る様に、地面へ溶け消えてしまった。


「大丈夫なのか」

『大気の魔素が薄いでな、夏場以外に現れぬのだろう』

《真夏の世の夢に出てきそう》


『ふふふ、そうだな』

「すっぱ」

《もう、種出して、食べて良いのは紫のだけだよ、毒があるんだから》


 永遠に嗅いでいたい、マスカットの様な良い匂い。

 しまうのが勿体無い。


《ほれ、余り呆けるで無いよ、スズランの君が拗ねてしまう》

「失礼、つい」

『妖精達や、今日はワシの所に来てはどうだ?沢山甘い物があるぞ』


 梅杏ズも警戒する事無く、すっかりロウヒの部屋で寛いでいる。

 スズランも避難先として了承してくれたらしい。


「すんませんねぇ、宜しくお願いします」

『では、額を…ふふ、楽しみに待っているぞ』


 2つの魔石の魔素を注がれてしまったので、急いで空間を閉じた。

 そして暫くするとマティアスが口を開いた。


《見えた、ゆっくりだけど滲み出てる》

「耐えてくれよ」


《うん、だけど匂いは無いんだね、不思議》

「ある筈なんだけど、亜人だからかな」


《そうなのかも、うん、近いと分かる。フワフワする感じも無いし》

「ほー、意外。遅効性かもだし、レジスト解除しないでよ」


《了解》


 それからはストレッチをし、試験勉強を再開。

 100分100問。




 時間はあっという間に過ぎ、自己採点の時間になった。

 採点を始める前に、後ろでやたら大人しいマティアスの様子を伺う。


「終わった、どうでっか」

《特に無いけど、妖精達が居ないと寂しいね》


「出てるぅ、ソレや。レーヴィも居ないし、寂しいが増幅したか」

《そうなのかな、いつも居る人が居ないのは寂しく無い?》


「いつも側に人が居なかったので寂しくはありません」

《元の世界と離れて寂しく無いの?》


「寧ろ心配。寝る前は肌触りの良いモノが無いと寂しいはある」

《ライナスの毛布》


「コッチもそうか。そこまででも無いんだけどな、眠る時だけ」

《ラウラのクマ》


「おうおう、夏場でもスベスベ大事や」

《ソレが無くなったら眠れない?》


「不安に移行しそうになってるぞ、楽しい事考えてくれよ」

《あ、うん、ごめん》


「夏至は楽しい?」

《楽しい、陽が落ちないからずっと外で遊べるし、川で泳げるよ》


「寄生虫とか大丈夫なんかい」

《うん、日本の地方病って言われてた病気を心配してるなら大丈夫。そっちでも有名なんだね》


「そらもうね、検体嘆願書とか泣いちゃう」

《読んだ事無いな、原文難しいから》


「泣かれても困るから今度な、夏の話に戻そうか。料理はどんなんなの?」

《沢山のザリガニをハーブで茹でて食べるんだ、甲殻アレルギーで毎年何人か倒れちゃう位に》


「エビっぽい?」

《うん、ラウラ好きだと思う》


「剥いて」

《それまで居てくれたらね》


「マジか、凄い量剥く事になるぞ」

《あ、じゃあレーヴィと剥く》


「だめ、マティアスが全部剥くんだぞ、満腹になるまでだ」

《えー、私も食べたいのに》


「それは剥いてやろう」

《じゃあお願いね》


「おう、夏至祭りの続きお願い」

《かがり火焚いて、お酒飲んで、おまじないする》


「お、おまじないくわしく」


《7種類の花を枕の下に置くと、未来の結婚相手に夢で会えるとか。麦に糸を巻いて運勢を占ったり。井戸を覗き込むと結婚相手が見えるとか。かがり火の煙の先に結婚相手が居るとか》


「結婚系多いな」

《うん、子供の人数とか。朝露に濡れた牧草地を裸で歩き回ると、良い結婚生活が送れるって、連れ回されたなぁ》


「お姉ちゃん信心深いな」

《夢に出なかったとか言って何回か一緒に試したんだけど、見れなくて泣いてた、そこでも失言しちゃった》


「ネガティブな方向に行きがち」

《ごめんね、何か最初の感情に引っ張られてるかも》


「くすぐる?」

《やめて、笑い死にしたくない》


「やられ過ぎるとムカつくよな」

《ねー、だから止めてね》


「花火はある?どんな感じ?」

《日本程じゃないけど、やったりするよ》


「日本の勉強してるん?」

《少しね、観光雑誌てやっぱり楽しいし。花火見に行きたいなぁ》


「花火の滝がヤバいんだよ、こう川に花火がずらぁーっと」


《へー、ねぇ、夏の絵を書いてよ》


「いいよ」


 朝顔に向日葵、田舎の山の景色にスイカ、カキ氷。

 浴衣に花火、金魚にお祭り。


 コレはネガティブにはならないらしい、何がどう振れるのかさっぱり分からん。


《他にその、屋台では売って無いの?》

「ヒヨコとかカメもあったらしいよ、後はリンゴ飴とかか」


《夏だけ?》

「ある程度大きな神社仏閣なら1年中、魚の塩焼きにじゃがバター、地方のおでんとか」


《おでんって?》

「あー、ごちゃ混ぜシチュー、海藻や魚の出汁で煮ます」


《食べたい》

「出汁がムズい」


《何かで代用出来ない?》

「んー…作ってみないとなぁ、魚の出汁がこっちの水だと出ないって聞くし」


《ここら辺はそこまで硬水でも軟水でも無いよ?》

「意外と日本と変わらんのか、じゃあ出汁の材料なぁ」


《チキンはダメなの?》

「いや、イケるが乾燥昆布が無いと」


《乾燥かぁ、ヘルシンキに無かった?》

「高かった、考えてた値段の5倍ぞ。トナカイよりグラム高いんだから」


《うぅーん、まだ出せるけどぉ》

「そこまでして食いたいか、庶民の味ぞ」


《そういうのが良いじゃない、高級料理よりそこを先に食べて、色々知りたいし》


「じゃあ、在庫から作るか」

《良いの?》


「受からないとマズいってプレッシャーには丁度良い」

《やった!所で何を煮込むの》


「魚のすり身」

《え、あ、うーぅん》


「ほらぁ」


《魚のすり身だけ?》

「根菜、大根とかカブとか。卵も入れる、ウインナーにすり身巻き付けて揚げたのとか、トナカイの筋肉も良いな」


《加工品を更に加工した加工品が?》

「確かに、どんだけ食いしん坊よな」


《ふふふ、揚げるんだね、煮るか焼くかのイメージだったな》

「サメのすり身と卵白を混ぜたのを蒸すとか。確かに加工のしかたが尋常じゃ無い」


《臭くないの?》

「慣れてるからなのか特には、ほぼメレンゲよ」


《えー?うーん》

「ほらぁ、高いお金出すの躊躇するべ」


《トナカイの筋は気になるけど、魚のすり身がなぁ》

「変わり種はトマト、地域によっては小麦粉の練り物入れる、あ、鯨も入れる」


《ごちゃ混ぜに変わり種って、全部混ざったら味がグチャグチャになりそう》

「そこまでならんのよ、出汁と醤油って凄いのな」


《やっぱり食べたいな》

「すり身面倒い、普通は手作りしないで買う」


《えー、余計気になるんだけど》

「良いタラの身が手に入ったらね、ミキサーと油で一発ですよ」


《香草は?》

「んなもん入れぬ」


《えー、やっぱり不安、サーモンは?》

「えー、ちょっとなぁ」


《えー?そう?》

「身に油が無い方が良い、多分。フワフワでさらさらしてる感じ」


《そこは美味しそうに感じる》

「不味かったら食わせないから安心しろ、自分で食うから」


《1口位は良いでしょ?》

「だけな」


《ふふふ、絶対受かってね》

「おう、おでんの為に」


 一時的に眼鏡を返して貰い、魔素を確認する。


 体からはもう放出はされていないが、濃度はそこまで下がっていない。

 屋内なのもあってか散る気配も無いので、1度ロウヒの家の裏手へ空間を開き魔除けの鈴を振った。


 排出を確認し、ロウヒの部屋へと繋いだ。


《美味しい魚のすり身料理、作ってくれるって》

「口に合うか分からんよ、いつ作るかも未定だし」

『そうかそうか、機嫌が良さそうで安心した』


「いやー、まぁね」

《夏の絵も書いてくれたんだ、色とりどりなのが良いよね》

『そうだな、花が多い』


《朝顔なんだって》

「夏前の雨季も良いぞ、紫陽花が良い」

『秋は紅葉し、春は桜か』


「八重桜、枝垂れ桜、川一面の花びらを見ながら花見、外で宴会だ」

《夏至祭りと似てるね、日本は春が宴の季節なんだ》


「だな」


 自身のメンタルの変動に疲れたのか、マティアスが眠ってしまった。

 はしゃぎ疲れた子供か。


『少し面白い事になった様だな』

「最初妖精が居なくて寂しいから始まって、直ぐネガティブに行こうとするから、何とか修正させて、こうよ」


『感情の増幅で間違い無さそうだ』

「厄介だ、泣かれない様に必死でしたよ」


『本人は楽しそうだがな、ほれ、良い笑顔だ』

「子供か」


『そうだな、剥き出しになった感情が増幅されるのかも知れんな』

「はー、もう封印だな、向こうの大罪と同じだ」


『役割に囚われれば誰でも大罪になり得るだろうよ、問題は、どの役割に就くかでは無いのか?』

「役割、何かする人」


『ふふ、何かしては居るものな』

「おう、良い大人をあやしてなぁ」


 まだ暫くは目覚める気配が無いので、マティアスと共にロウヒの部屋でお昼寝。






 マティアスとロウヒがシバッカルの宮殿で浴衣とカキ氷を堪能していたので放置し、熟睡へ。

 次に目を覚ましたのは、オヤツの時間だった。


『シフォンケーキだ』

《ニンジンのシフォンケーキ作ったんだ》

「人のキッチンでか」


『ワシから頼んだのだよ、出来立てが美味しい物をとな』

《要らない?》

「いる」


 アイスクリームを添えて食べる。

 メープルがほの甘くて美味しい。


《何か、ごめんねラウラ。目が覚めたら急に変な事言ったなって思って》

「別に、想定内よ」

『まぁ、剥き出しの感情の増幅で確定だろう。睡眠を挟んだので確かでは無いが、切れ目の自覚も有りそうだな』


《うん、何か凄い眠くなっちゃって、コレも作用なのかな》

『そうなのかも知れんし、オーバーフローする前に脳がストッパーを掛けたのやも知れん』


《あー、脳内物質の暴走を抑制してなのかな》

『だとすれば、多少は安心だろう?のう、ラウラ』

「シフォンうめぇ。脳内物質の計測は出来ないのか」


《脳の活動領域とかは大都市の病院で見れるけど、物質の量は測定出来るのは特定の疾患だけだし、ほぼ無理かな》

『体の異常が無いかは見たのだろう?』

「見た時は異常は無かったんだけど、脳を詳しくは見てない。覗けば良かったか」


《それはちょっとイヤだなぁ》

「イヤなのか」


《何か、恥ずかしい》

「ウケる」

『脳内物質や活動量が正常の範囲内だったとするなら、マティアスの魔素酔いリミッターがかかったのやも知れんし、初めてゆえに一種の拒絶反応やも知れんな』


「拒絶されたったのか、悲しいなぁ」

《拒絶反応なら、結構過激なモノが魔素に折り混ざってるって事だよねぇ》


「若しくはヘルペスか」

《流石に病気扱いはしないけど、最初に反応を示すのってそうだよねぇ。今年は多かったなぁ》


「お祖母ちゃんがなってたなぁ、ビリビリするって」

『神経におるでな、抑えてやれば良い』


「だね」

《安心した?》


「封印するからもう良いや」


《ラウラで動かないんだ》


「あんまりな、なんか、少し胸も出ちゃってるし」

『確かに、ホルモンも少し前と違う様だ』

《大丈夫?》


「それ以外は大丈夫、でも元に戻られるのは困る」

『男の時間が長かったのだ、体が元に戻ろうとしているのだろう』

《なるほどね、恒常性だ》


「あー、困る、何とかして」

『ワシは無理、人理は曲げられん』


「マティアス」

《ホルモン剤とか打つ?》


「無理、キツいの知ってるし」

《婦人科系?》


「おう」

『まぁ、女の時間を長く取ってみるしかあるまいよ』


「なー、そうします」


 どこまでも足を引っ張る体。


 今回は男になるという異常な使用方法を実践してるからだが、面倒でややこしい体。

 折角好きになりかけたのに。


《勉強が大丈夫なら、回復の為に早く寝てみたら?》

『だな、早寝早起きだ』

「はい、そうしときます」


 ロウヒとお別れし、100問100分を数回こなし。


 そしてお風呂に入り、胃に優しいリゾットを食べ、早々に就寝。

《シバッカル》『マーリン』《マティアス》『ロウヒ』『ミア』「イデリーナ」《ユスラウメの妖精》


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