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3月23日

 今日は曇り、容量は中域。

 ラウラはまだ低値。


 マティアスはまた来て泊まって行ったらしい、薪は足されてるし、お湯は暖かいし。


 見張られてるのかしら。


「おはよう、マティアスに見張られてるのかな」

《おはようございます?いえ?執筆とお菓子作りをしてましたよ》


「そうなのか、心配して張り付いてるのかと思った」


《レーヴィは少しの音でも起きちゃうって言ってました、なのでコッチで作業してるんじゃ無いでしょうか》

「あぁ成程、レーヴィは兵士だもんな」

《主もそうだった、寝ては起きてを繰り返してな。物音1つで目が覚めると、何時間もジッとしていた》


「それはもう、戦争のトラウマやん」

《そうらしい、元に戻るまでに随分と掛かった》


 少ししんみりしつつカフェオレを作ってテラスに出ると、バーベキューコンロが置かれていた。


 隣の庭から置いてくれたらしい、なので今日はまったりエリクサー作り。

 炭を組み、バーナーで着火。

 中庭の雪で蒸留。


 合間に、昨日買ったピッチャーを洗って乾かし、製氷トレイからバケツへ氷を取り出していく。

 ハニカムや筒状、丸やダイアモンド、クマやハートをバケツに移し、水を入れて中庭に戻す。


 そして蒸留を見守りながら、朝食リゾット。

 エリクサーで流し込み、そのまま勉強へ。


 バケツから氷を出して蒸留器に追加しつつ、火加減を少し調整。

 また勉強に戻る。


 座りっぱななしで尻が痛くなったのでストレッチ、今日は気持ち良い。


 そして蒸留が2回目に突入。




 ストレッチをしては氷を確認、凍っていたらバケツへ出しトレイに水を入れる。

 そして火の調節をしては、またストレッチ。


 薔薇の氷は綺麗だから余計に勿体無い、ある程度解けるとただの丸氷になってしまうのが残念。


 コレでゼリーとか良さそう、製氷トレイなんて買おうとも思わなかったから、今度他のスーパーに行ったら見てみよう。


 再び椅子に座り、また勉強。


 もう何回読み返しただろうか、ソラちゃんの声の脳内再生が余裕過ぎて困る、困らないけど。


 応用問題集みたいなのは無いんだろうか、有っても高いか、手に入るのに時間が掛かるのか。


 氷を多めに足し、キッチン横の無線機でマティアスに呼び掛ける。


「シオンですけど、看護師長は居りますか」


【はいはーい、何でしょう】


「暇か。運送の本はコレだけでしょうか」


【昼食待ちなの。本は預かってるよ、後で渡すね】


「うい」


 時計を見ると12時過ぎ、確かにお腹が減った。


 薪を足し、テラスへ出て昼食。

 今日は肉じゃがとお米、エリクサーで流し込むと焼きそばが不意に食べたくなった。


 喉が詰まる感覚が懐かしい、後でヘルシンキで買った中華麺で塩焼きそばにしようか。


 少し氷を足し、部屋に戻って洗い物を済ます。


 ピッチャーが乾いたので、エリクサーを入れて中庭に放置。


 氷を確認すると、ハニカムや筒状のはもう出来てるのでバケツへ入れる。


 ソラちゃん、出来るだけ分かり難く暈して答えて欲しいのだが。

 エリクサーの元は、後どの位、残っているのだろうか。

 水分は除いて。


【半分には届きません】


 そうか、そんなか。


 どんだけよ、一生掛かっても作り終えられんのでは無いか。


《どうしたんだ?》

「ユスラさん、材料が使いきれないかもと思って」


《大釜の魔女の釜でも使わせて貰えば良かろうよ》

「おぉ、知ってるのか。でも亡くなって、無くなってるんじゃ?」


《近くを通った妖精が、釜は残っていると言っていたぞ。妖精女王に回収して貰わねばとイギリスへ向かう途中だったらしい》

「あー、そっちかい」


 3回目の蒸留が終わったので、全ての道具をしまい。

 ティターニアの元へ向かった。




《いらっしゃい》

「お邪魔します、大釜の魔女の大釜をお持ちで?」


《ええ、倉庫にある筈よ、でもどうして?》

「エリクサーの材料が多いので、使えないかなって」


《あらダメよ、アレに入れて作ったら秘薬になってしまうから》

「あらー、アテが外れた」


《でも良いのがある筈よ、ミアに聞いてみて》

「ありがとうございます。今日は狂信者の杏パイをどうぞ」


《まぁ、いつもありがとう》

「いえいえ」


 アヴァロンから直接ドイツの家に空間を開く。

 ドアをノックするが、中々開かない。


「もう何よ玄関からって、誰かと思ったじゃない」

「あ、ごめん、エリクサーの材料が大量にあるから、消費するのに何か借りたい。大釜を借りようとティターニアの所に行ったら、良いのがあるからミアに聞けって」


『な…考えますから、少し待ってて下さいね』

「おう。魔道具作成はどう?」

「順調よ、インクも種類が出来たから、後は何回か試験をクリアしたら出回るわ」


「治験的なやつか」

「そうね、今年中には確実よ」


「そうなったらお祝いしないとね、お酒は飲める方?」

「勿論、やっぱり蜂蜜酒が」

『あ!有りましたね!行きましょう』


 再びアヴァロンへ戻ると、最後の1口を味わっているティターニアと目が合った。


 うっとりして、お口に合った様で何よりだ。


《どう?ミア、分かったかしら》

『はい、かなり古いので存在を忘れかけてました』


《ふふふ、危なくは無いのだけれど、誤解を招くといけないからってマーリンがね》

『確かに、釜や杯に近いですからね』

「なぞなぞ分からん」


《ふふ、大丈夫、とっても簡単だから》

『ですね、では取りに行って参りますので、少しお待ち下さい』

「あいあいあさー」


 昨日のクッキーをチョコに付けて、ティターニアに渡しているとミアがもう戻って来た。


 早い。


『あ、美味しそうですね』

「少し冷めて、チョコが固まってから食べて欲しいんだけど」

《じゃあ少し我慢ね、ふふふ》


『あ、今渡しておきますね、どうぞ』


「樽」

『はい、このまま上から材料を入れて熱源の近くに置けば大丈夫です。1日で出来上がります』


「なにが」

『ネクタル、蜂蜜酒、エリクサーのお酒ですね』

 《ねぇ、もう食べて良いかしら?》


「あ、はい、どうぞ」

《うん、美味しい》

『アルコール分が付与されてしまいますけれど、手間が掛からないのでどうかと』


「良いの?長く借りる事になるよ?」

《大丈夫、それは上げるわ、いつもお菓子をくれるお礼よ》


「いや、それは急に来ても歓迎してくれてるお礼で」

《じゃあ、そのお礼にどうぞ。ミア、良く出来たわね。もう1つ持ち出しを許可するわ、行ってらっしゃい》

『はい、行ってきます』


《ミアは送り届けるから、早速使ってみて頂戴ね》

「はい、ありがとうございました」


 上手く受け取らせる方向に持っていかれた、見習わなくては。




 家へ空間を開き、暖炉の横に置く。

 半分程の上蓋を開け、魔法の鍋で使うのと同じ分量で材料を入れる。

 それでもまだ半分にも満たない、何回かに分けて入れて漸く満たされてくれた。


 その回数9回分、見た目からして容量オーバーなのだが、魔道具なんだろうし、深く考えるのは止めておく。


 蓋を閉めて、改めて樽を見回す。

 正面下部に、何とかコップが入る程度の高さに木の栓が有る。


 そして問題は出来たかどう分かるのか、密造酒は犯罪じゃ無いのか。

 コレで捕まるのは洒落にならん、刑罰なんかはどんなもんか。


 心配なのでロウヒと部屋を繋ぐ。


『お、密造酒に手を出したか』

「捕まるかな」


『売ったり配らねば大丈夫だ』

「誰にも渡さん、なんかティターニア達が杯とか釜とか誤解とか言ってたんだが」


『あぁ、そうか、北欧のネクタルの樽か』

「おう?それで、大丈夫なの?」


『心配するな、ただエリクサーを作っているとは言わぬ方が良いな、特に教会派には』

「あ、何か分かったかも」


『存在は知られぬ方が良い』

「おう、ただでさえ貰い物だしね」


『まぁ、その見守り君が動いている限りは大丈夫だろう。それでも心配なら、妖精に隠して貰うと良い』

「足をぶつけないかね、あんな大きいの」


『大丈夫だ、目や脳で認識できなくさせるが、存在は感じ取れる。面白いぞ、避ける様は』

「マジか、お願いします」

《はい》


 スズランの妖精が樽を1周すると、トロトロと溶けて見えなくなってしまった。


「完成したら分かるんかしら」

『お主が教えてやると良い、きっと分かる筈だ』

《はい》


 ニコニコ顔のスズランの妖精、あんなに自信が無いんだから、こう何かさせてあげないといかんよな。


 何か考えておかないと。

 ホッとしたからか少し口寂しくなって来たので、昨日作ったクッキーを出し、チョコをディップしてはクッキングシートの上に並べていく。


 そしてそれを端からロウヒに食べられる。


『中々良いな』

「本当に?味薄くない?」


『大丈夫だ、さてはお菓子作りは初心者か?』

「おう、数える程しかしとりません」


『欲を言えば、もっと甘いのが良い』

「そこはマシュマロ焼いて挟んだりして、味を足して」


『ほう、確かに』


 焼きマシュマロを挟んだうえに、更にチョコレートソースを掛けて食べている。


 甘々だろうに。


 妖精談義が盛り上がっているので、空間を開いたまま鍋でのエリクサー作りに戻る事に。


 クッキーをしこたま食べた後、傍らで暇だと言ったロウヒにハーブ滓を乾燥させて貰う。

 オーブンの天板に広げてはロウヒが軽く息を一吹きさせ、乾燥させていく。


 片手間にバスボムキットを取り出し、ハーブ滓の中から花びらを取り出し材料に混ぜる。

 水分は勿論エリクサー、何回か付属の霧吹きで掛けて固まるか確認。


 固まったら雪玉製造機の様なオモチャに詰めて、振る。


 かたやハーブ滓を擂り粉木で細かくし、エリクサーを垂らすロウヒさん。


 何してるん。


「何してるん」

『丸薬、弱いエリクサーだ。ただ捨てても良いが、勿体ないだろう?ユスラウメからの提案を試している』


「おぉ、どうしようか悩んでたんだ、たすかる」

『肥料にしても良いが、それは暫く先の方が良いだろうからな。今撒いては魔獣が寄ってきてしまうだろう』


「魔獣寄せにも使えるのか」

『使うで無いよ、魔禍も発生し易くなるんだそうだ』


「それ、悪用出来るじゃない」

『今出回っているモノの殆どが薄いんでな、問題無い』


「そっか、なら安心だ」

『あぁ、それより、摺り鉢はあるか?』

《ございます》




 バスボムを乾燥させ、完成させて貰ったら次は丸薬作り。


 釜を見ながらなので集中しきれないが、粒子が細かい程に良く、添加するエリクサーが少ない程に良いらしい。


 見た目通りにする為にも、日本の苦いエリクサーで作る。


 練るのが大変、マジで力と体重が要る。


 釜と鉢を交互に見つつ、釜のエリクサーが出来た頃、大きな丸薬の固まりが出来た。


《製丸器はあるか?》

「なんそれ、ソラちゃん倉庫にありそう?」

《いいえ》


《では、手で細長くして切って、それを板で丸めれば完成だ。日本では手作りである程、良しとされているらしい》

「結構手間だな、それをそこそこ簡略化できるのが製丸器なのか、残念」

『なら作って貰えば良かろう』


 ドイツへ空間を開くと、まだミアは帰って来て無いらしい。


 先ずは窓から、クッキーを差し出してみる。


「何を頼もうとしてるの」

「製丸器」

『丸薬を作る物』

《洗濯板の様な物、で通じるだろうか》


「あー、ちょっと待ってて」


 直ぐにも出て来たのは、木で出来た洗濯板2枚。

 サイズも大体そんな感じ。


《そう、それだ》

「先代が作ったんだけど引き取り手が現れずで眠ってたのよ。名前だけで説明書も無いから放置」


「頼んだのは東洋人か、とか分からない?」

『名前はね、ジャン・ジョンジーさんね、ほら』


 張仲景と書かれた下に、ドイツ語でジャン・ジョンジーと書かれていたらしい。

 もう50年以上前の注文書、生きてるか怪しいな。


「亡くなっちゃったのかな」

「戦争の時期だったし、そうかもね。はい、あげる」


「もし引き取りに来たらどうするの?」

「設計図はあるから、また作るわ」


「じゃあ、お言葉に甘えて、頂きます」

「うん、使ってる所を見せて」


 妖精談義もいよいよ華やかに、一方コチラは健康的な匂いを放つエリクサーを細長く伸ばし、洗濯板に乗せ板を前後させる。


 数回でそれらしい形になった。


 後はキッチンの大理石の上に乗せ、洗濯板をひっくり返し転がすだけ。


 コレは見た事ある。


 そうしてコロコロ転がすと、綺麗な丸い丸薬が出来た。

 それを先ほどすり鉢で粉末にした所へ入れて、まぶす。


「くっさいのぅ」

《良薬口に苦しだ》

『どれどれ』

「じゃあ私も」


「にっが」

『これは、なんと言うか』

「不味いわね」

《薬なのだ、そう多く使用するべきで無いのだから仕方無い》


「ごもっとも、すんません」


《まぁ、虚弱では仕方あるまいよ。だが健康になったなら、鍛えねばいかん》

「はい」


 丸薬作りはそこで一旦終了、後は筋トレ合戦になってしまった。

 まさかユスラウメが体育会系妖精だったとは。


『うぅ、コレはヤバい』

「かなり、効くわね」

「話すと、余計ヤバい」

《軍人の鍛錬にしてみたらお遊びよ、レーヴィを見よ、まさに健康で良い身体ではないか》


「それは先生の好みでは」

《10秒追加だな、全員だ》


「すまん」

『いいさ』

「耐えてみせるわ」


 プランクを何とか耐え抜いて、息を整えているとミアが帰って来た。


 そら不思議そうな顔をしますよね。


「おかえり、筋トレ大会をね、ちょっとしてた」

「ヤバいの、この子可愛い顔して、中々厳しいわ」

『後で、やってみると、良い』


『ふふ、考えておきますね。お夕飯はどうします?』

『おぉ、もうそんな時間か、そろそろお暇する』

「だね、コッチで食べるよ、今日はありがとう」




 ドイツとの空間を閉じ、ロウヒとも閉じると氷を回収し、夕飯の支度に入った。


 貝を煮出して味噌を溶くだけ。

 そして自作の盛り合わせにピーマンの肉詰めを添えて食べる。


 和食と言うか、お米大好き。


 食後にエリクサーを飲みつつマッタリしていると、マティアスが来た。


《あ、良い匂い、もう食べちゃった?》

「おう、盛り合わせだ」


《頂戴》

「本は」


《あ、はい、どうぞ》

「じゃあ、お礼にどうぞ」


 ソファーに座り本を広げる、中身は純然たる過去問集だった。


 解いては自己採点をしていく、教習所の勉強みたいに文言で引っ掛けて来ようとする。


《どう?》

「越えてはいる」


《そっか、受けられると良いね》

「それな。ねぇ、薔薇の製氷トレイ知ってる?」


《あぁ、ゼリー作ると可愛いよね、持ってるよ》

「あー、そういうの全部貸しておくれ」


《うん、良いけど》

「蒸留用に氷作りたいのです」


《あぁ、なるほどね》


 マティアスは夕飯を終えると、隣の家から沢山の器を持って来てくれた。

 同じ様な薔薇のお菓子型から、雪だるまや四角い物に普通の物も、全部掻き集めて来てくれたらしい。


「ありがとう」


 お菓子を作るのは勿論の事、子供がオモチャとして遊ぶ事もあるので、試しに買っていくウチに増えたらしい。

 折り紙や絵具で氷に色を付けて、飾るんだそう。


《個性が出て楽しいんだよね》

「楽しそう、今度やる。ゼリー作って」


《うん》


 サウナを準備し、中に入って2週目の外気浴をしてサウナへ入ると、マティアスが入って来た。

 もう遠慮も何も無いのな。


「もう作ったんか」

《後は冷えるの待ち、外に出したから凍っちゃうかも》


「それはそれで美味しそう」

《だね、シャリシャリゼリー。次は何が良い?》


「お菓子も良いけど、絵本が良いな」

《図書室には来れないもんね、どんなのが良い?》


「何でも、分類不能ので」

《暗い話もあるよ?》


「かまわん」

《分かった。それでお菓子は何が良い?》


「そんなに作りたいか、じゃあマドレーヌ」

《了解》


 シャワーを浴びてゼリーを取りに行くと、周りが少し凍りかけていたので収納。

 他の氷はまだまだ。


 マティアスが上がるまで、今度は塗り絵をして待つ。

 上がって来たらゼリーを食べる、ベリーのコンポートで作った紫の薔薇のゼリー。

 ほの甘くて美味しい。


「うまい」

《ちょっとシャリってて良いね》


 甘い物を食べ、今日はレーヴィが居ないので帰るそうだ。


 久し振りの独り、下の電気を消して2階の寝室で眠った。

《スズランの妖精》《ユスラウメの妖精》《ティターニア》「イデリーナ」『ミア』《ドイツの妖精》

『ロウヒ』《マティアス》

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