3月10日
窓の外には大きな目、カーテンを閉める。
ドアを確認すると、鍵が開いていたので閉める。
もう1個の窓を見ると、遠くには怪獣がコチラを見ている。
家が揺れる、地震だ。
《醒めて、起きて、起きて下さい》
「悪夢、なんでだ」
ずっと見て無かったのに。
昔に見てた、毎回見る悪夢のテンプレート。
体の違和感に悪夢が復活したんだろうか。
《治しましょう?》
「様子見で誰か来るかもだし、もう少しだけ待って」
時計を確認すると、今は夜中の2時。
明かりを付け、全てのカーテンをチェックして、下へ降りる。
下も明かりを付け、カーテンとドアををチェックしてから、トイレへ。
薪を入れ、リゾットを温めつつ珈琲を淹れる。
後はもう、エリクサー作りと勉強だ。
暖炉近くに椅子を置き、鍋を見つつ勉強。
疲労感、怠い。
眠い。
《寝ましょう?》
途中では有るが、ベッドに戻り睡眠へ。
寝ても寝ても眠い。
トイレに起き、水分補給し少しばかりボーっとする。
動けない。
回復したいが、マーリンは、まだ伸びるって言ってたし。
そも普通は回復には魔素が必要だろうし。
大量のエリクサーを吸収しては怪我が治ってしまうかも知れないし。
魔力容量だって精密に計測される事態になれば、どう回復したか詰められるし。
それは制御具を外した事を、バラす事にもなるんだし。
エリクサー作りと勉強だけ。
ほぼ何も出来ぬなコレ。
「なーんもできーん」
《もう、治して逃げちゃいません?》
「それは無理だぁ」
グダグダとしていると、車のライトに気が付いた。
リタの車だ。
もう危ないし、今日は鍵を返して貰おう。
「来ちゃった」
「いらっしゃい」
リタが持って来たのはライスコロッケ、フムス。
美味い。
「なんでフムス?」
「豆嫌いって多いのよ、でも栄養は良いから何か美味しく食べれるのは無いかなって、研究してるの」
「レーヴィなぁ、凄い嫌いっぽいからなぁ」
「ウチの人もだから、ふふふ、またノロケちゃいそう」
「ダメ、話し変える。リタはストレージ持って無いのは何で?」
「本当は向こうでシェフとして生きようって思ってたの、だから買い出し係になりたくないのと、ストレージでズルしてると思われたく無いから、取得しなかったのもあるかな」
「ズルって、プロはそういうのがあるのか」
「賞レースで既に作ってあった作品を出すって不正があったり、逆に隠れてライバルの味を足したりとかあったのよね。そうやって上に行く程に嫌な面が見えちゃって、少し疲れてた時に旦那と出会ったの」
「お、ノロけるか?」
「ふふふ、しがみつくのと好きな事をするのは違うって言われて、ハッとして、ちゃんと休もうって思ったの」
「ほう、良い事言う」
「マティアスからの受け売りなんですって、医者の道をすんなり諦めたのがムカついて文句を言ったらしいの、そしたら、しがみつくかなくても出来る事はあるって。マティアスって一応学校で優秀だったらしいのよ、それなのに挫折する素振りも無しで、すんなり方向転換したのが許せなかったって、何でアナタが怒るのよって話しよね」
「何か重ねてたんかしら」
「ね、そこは未だに濁されてるわね。どうせ好きな子がマティアスを好きだったとか、そんなんじゃ無いかしら」
「それなぁ、しっかりモテてるんだよなぁ」
「あんな綺麗な金髪の巻き毛って珍しいものね、普通は染めて綺麗な色にするんだし」
「そこ?」
「女々しいのって苦手なの、レーヴィの方がまだマシよ」
「ゴリマッチョだもんね、旦那さん」
「良いでしょ」
「ちょっと無理」
「若い頃はそうよね、分かるわ」
ウッキは今でこそ華奢な方だが、林業バリバリ時代の写真はかなりムキムキだったらしい。
そこも結婚のポイントだったとか、ご飯をモリモリと美味しそうに食べてくれるのが良いとか。
結局ノロケである。
「ごちそうさまでした」
「うん、大丈夫そうね。はい、鍵を返すわ」
「あ、ありがとう、心配掛けました」
「良いの良いの、また何か有ったらまた預かるから、いつでも言って頂戴ね」
「うん、ありがとう」
リタを見送り、エリクサー作りと勉強を再開。
出来上がって暫くすると、今度は軍の車両が来た。
様子を伺っていると、トールだった。
『調子はどうだ』
「見ての通り良くない」
『だろう…飯は食えてるか?』
「おう、知り合いが来てくれた。レーヴィはどうしてる?」
『兵長は巡回へ行かせている、看護師長は例の取調室のままだ』
「いつまで拘束するん?」
『お前と暫くは接触しないと約束してくれればなんだが、まぁ、頑固で困る。だが仕事はさせてるぞ、腕は良い』
「怪我人か何か出ましたか」
『大丈夫だ、命に関わるのは無い、まだ少し辛抱してくれ』
「あ、大釜の魔女について知りませんか」
『あぁ、かなり前に亡くなったそうだな。ロキが狙うのは優秀な者だろうと探った時に知った、殺されたそうだ』
「絵本でも、死んでるのは知ってますか」
『あぁ、あの絵本が出た前後の事らしい』
「今の所、絵本は事実を書いてる」
『あの基地でかなり読ませて貰ったが、俺の知る限りでは大半は創作だ。だが、お前が絵本を引き寄せたのかも知れんな、事実も有った』
「たまたまじゃ無いのかね、占いは好きだけど、何かなぁ」
『逆だな、俺は占いは嫌いだが。お前が今自由だとして、何処へ行く?何をする?』
「えー…やっぱり絵本の出版社かな、凄い気になる」
『ヤドリギ社か?』
「いや、違うけど」
『そうか…まぁ、もう少し待っててくれ』
「おう、頼むよ」
車へ乗り込むトールを見届け、再び家へと入った。
そして制御具を外し、ロウヒへ繋ぐ。
『おう、顔色は少し良さそうだな』
「リタが来た、心配だったみたいで。ノロケを聞いた、鍵も返して貰った」
『心苦しいか』
「ね、少しね」
『それで良い、慣れなくても構わん』
「トールも来た。大釜の魔女は、やっぱり亡くなってるって」
『絵本が真実なら、釜は壊されたかも知れんな』
「残念」
もう外が暗い。
早い様な遅い様な時間の進み。
『夕飯はどうする』
「ロウヒの食べたい」
『ミルク粥だぞ』
「おう」
甘さも塩気も無いミルク粥。
チーズをたっぷり入れ、バジルチューブで飲み込んだ。
『眠いだろう、ゆっくり休め』
「うん、おやすみ」
何とか歯磨きをして、ベッドへ。
《スズランの妖精》「リタ」『トール』『ロウヒ』