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3月6日

 それからまた暗い時間に起きてトイレ、食事は要求しない限り与えられる事は無いらしい。


 そして見張りの兵士もいつの間にか交代し、今度は中堅ぽい人へと変わった。

 良く門番してる人、今日の顔つきは厳しい感じ。


 防護柵に守られた蛍光灯が煌々と輝いている。


 いつの間にか手配書は下げられてたし、何もないし。

 刑務所で筋トレしちゃう気持ちが分る、とりあえずストレッチ。


 むり、体中が痛い、腕痛い。


 後ろに反ると胃が痛い、食欲はあるのだが、何でか食べたくない気分。

 低値の可能性がある以上は、食べるしかない。


 けど痛い。


「食事、トイレ、水、氷嚢の交換をお願いします」

『はい、分りました』


 外は明るい、9時以降なのだろうが曇りで太陽の位置が分らない。


 アザは紫っぽい、これで青で緑になって、茶で黄色だっけか。

 黒くないし、少し熱があるけど大丈夫だろ。

 ただただ食事の邪魔、このまま口内炎になったら嫌だな。




 今回の食事は大きなボールいっぱいのクリームリゾット、有り難い。

 珈琲とサラダにはスライスされたソーセージ、デザートには冷凍のミックスベリーが盛られたヨーグルト。


 もしかして昨日も今日もレーヴィが用意してくれてるんだろうか、まさかな、リゾットもリタの味に似てるんだけど。


 口の中に気を付けながら、サラダを食べ。

 リゾットを流し込む、ベリーが丁度良く溶けて噛まなくても飲み込める。


 締めに珈琲、珈琲は持ってても良いのか膳だけを下げられ、氷嚢と水が届けられた。


 椅子に寄り掛かり、顔に氷嚢を乗せて腕を冷やす。




 何も無い。


 シミでもあればパレイドリアだかシミュラクラだかで遊べるのに、天井にも壁にも机にも椅子にも

 、何も無い。


 試しに机や椅子の裏も見たが、綺麗なだけ。


 使われて無いのか、手入れが凄いのか。


 何も無い。






 良く寝れるなと、自分でも関心する。


「トイレお願いします」

『はい』


 外は明るい。


 部屋に戻ると珈琲のカップはそのままに、少し多い気がする手配書と辞書が置かれていた。


 何の暗号?時間を知らせてくれてる?


 並びは前と同じ手配日順。

 なんだろ、ウロウロしてたから貸してくれただけだろうか。


 辞書には付箋も何も無い、先ずは犯罪の内容をチェック。


 強盗殺人、結婚詐欺、殺人、連続殺人、大量殺人。

 そして、増えていたのは行方不明者の手配書だった。

 おじいちゃん、おばあちゃん、普通に見える大人から未成年に幼児まで。

 他国のも含まれている、ぶっちゃけコッチを最初にすべきだった。


 ベビーカーごと、車ごと行方不明になった。

 財布も鍵も置いて行った。

 季節はバラバラだが、冬季は多め。


 自殺なんだろうか、家庭からの逃避なんだろうか。

 もしかしてこういうのも尋問官は聴取してるんだろうか、それなら忙しいのも分る。


 きっと毎日何処かで何かが起きてるからこそ。

 いや、聴取に嘘発見器の魔道具が使用されてる?

 ならシーリー達を多用徴用しないだろうに。

 じゃあ、精度が違うとかか。


 そも魔道具を使いこなせる人が少ないとか、魔道具の数が少ないとか。

 ココは軍警察的なのが居るとして、大都市には警官らしきのがどれだけ居るのか。


 謎だらけ。


「あの」

『はい』


「ココとは違って、オウルやヘルシンキには警察とか居るんですか?」

『あぁ、はい、居ますよ。人口に合わせて警察機構が組まれるのと、基地がある場合等に合わせて変わりますが』


 ドアの窓越しに会話が進む、真面目なのだろう。

 開ける素振りは皆無。


「そうなんですね、この行方不明者の家族や関係者には事情聴取ってなされてるんですかね?」

『はい、魔道具による嘘発見器で行われます』


「なら尋問官は要らないのでは?」

『精度が違うんですよ、大きな変化に対して反応するだけなので。関連する不安に反応してしまったり、逆にサイコパスやソシオパスの反応が掴めない等の事象が多いので、尋問官が多忙にならざるを得ないのです』


「網目の荒いザルなんですね、だから精度が高い尋問官が必要だと」

『はい、魔道具の精度が上がれば良いんですが、どうしても汎用的になれば精度が落ちるそうで。かと言って扱いが難しいと、特定の人間に運用して貰う事になり、賄賂や贈賄の道が出来てしまいますから』


「おー、汎用的で精度が高ければ良いが、両立が難しいと。なるほど」

『はい、魔法省へ訴えてるんですが、精度の問題から議論が膠着状態でして、どうしても尋問官が必要になってしまっているんです。魔道具で無い嘘発見器でも、精度が問題になってますから』


「低過ぎて?」

『はい、魔道具は精度が高過ぎると人権侵害になるのが問題で。魔道具では無い方は、精度が低く運用に制限があるので問題だと』


「あー、鎮静剤を使われたりとかで妨害されると、精度が下がるでしょうしね」

『そうなんですよ、窃盗にしても他国との指紋照合に時間が掛かりますし。実は私、警官なんです、首都の』


「ほう?」

『夏季は都心部で警官をやらせて頂いてるんですが、都心部では冬季の犯罪が減るので、今はコチラで勤務を。短期単身赴任中であります』


「ご苦労様です」

『いえ、内勤と町内の見回りのみなので、先輩方には頭が上がりません』


「街の治安維持も大切ですよ。この、字が読めないので辞書を借りてるんですが、解説をお願いできませんか」

『はい、喜んで』


 ドアの真ん中らへんにある、差し入れ口とでもいうのだろうか。

 そこを介して手配犯の解説が行われた。


 彼もまた警官なのもあって、事件の内容も完璧に暗記していた。


 A・Fは大量殺人犯、前科は窃盗と買春。

 被害者家族へ手紙を送りつけた事で、犯行が明らかとなった。

 人当たりが良く、写真で見る通り貧相でも悪人顔でも無いので、被害が大きくなったらしい。

 行方不明者の中の数人は、この犯人の被害者である可能性が考えられているとか。


「こっち、もっとヤバいですよね。詳しく話してくれませんか」


『…覚悟して下さいね』


 T・Bは暴行、強姦、強盗の前科があり、殺人と死体遺棄及び損壊の罪で手配された。

 怪我人を装い、親切で若い女性を連れ去るか、その場で絞殺や撲殺する手口を主とする。


 関連してW・FやG・Tも似た手口で手配されているが、被害者の数が桁違いだと。


 C・Mは集団強盗及び殺人、そして逃亡犯でもある。

 カルト教団の教祖であり、ミュージシャン。

 獄中婚もしており、逃亡後に妻を殺害し別の女と逃げた可能性が有る。

 行方不明者の独りが関係者らしい、その女の可能性もあるが、前科も無いので行方不明者の方に掲載されているんだとか。


 J・W・Gは少年への強姦の前科あり。

 そして殺人、死体遺棄及び損壊の容疑で手配、異臭のする家があるとの通報で向かうが家主は居らず、大量の警官が出動した事もあって、そのまま逃亡したと見られている。


 境遇が悲惨な場合もあれば、普遍的な家庭の人間も居る。

 被害者から加害者へ逆転する者も居るし、突然加害者になる場合もある。


 重大な交通事故を起こし逃亡した者、加害者への過剰防衛から逃亡した者。

 加害から逃げ出したまま行方知れずになっている者であっても、今は加害者かも知れないから、行方不明者リストの人間であっても用心するべきだと。




「ありがとうございます」

『いえ、気分を悪くされたりは有りませんか?こういった話しで具合の悪くなる者も多いので』


「教官をしてるんですか?」

『初期の講習だけですが、後輩には真っ先に気味悪がられます』


「良い知識なのに」

『衝撃のあまり知ると頭から離れなくて、自分までいつか悪い人間になるんじゃないかと不安になったと、泣かれた事があります。特別な犯罪者も居ますが、普通の人でも犯罪者になる恐怖に耐えられないらしく。八つ当たりだから、気にしない努力をしなくてはいけないと、カウンセラーに諭されたものです』


「八つ当たりした気が無さそう」

『その後の対応は落ち着いた頃に謝りに来るか、退職と分かれますね』


「謝りに来る子は続けられるんですか」

『結局は合わない仕事だろうからと、最後はカウンセラーに転職を勧められますね。したい事と適職が違うのは良く有る事なんですけど、この仕事に向かないのは危ない事ですから』


「深淵を覗くと深淵に引き摺り込まれると」

『はい、犯罪知識のある警官が犯罪なんて最悪ですからね。そこを未然に防ぐのも自分達の仕事の1つですから』


「ご苦労されてらっしゃる」

『いえ、では私はオヤツの時間なので交代に向かいますが、この話しはトール神には内緒でお願いします』


「勿論、ありがとうございました」


 なんだこの世界は、善人ばかりかよ。

 今が15時だと教えてくれたっぽいし、懇切丁寧だし、なんだよ。


 凶悪犯は確かに居るけど、善人多過ぎ、親切過ぎ。


 それとも何か、元々の世界もこんな人間ばかりの場所があったとでも言うのか。


 無いな、無い無い。


 少なくとも、元々よりは確実に良い。

 生活のフォローアップが段違いだ、ネット遅れてるのに優秀。


 もしかしたら、ネットが遅いからか。


『また難しい顔をして』

「おっ!もうさ、ビックリするから何か他の方法を」


『ココしか死角が無いんだ、仕方無い』

「声は大丈夫なのかよ」


『うむ、あの窓や差し入れ口、ドア等が開いていると遮断される仕様だ』

「何その便利グッズ」


『通信機の標準装備だ、内部とやり取り出来なくてはいかんだろうに』

「あ、あぁ、なるほど」


『ほれ、珈琲だ』

「どうも」


『お菓子もあるぞ』

「もうこんなに食べて」


『だって、美味しいんだもの』

「トルコのお菓子なのよ、だからコッチで買えるか分からんのに」


『あるぞ、この本に』

「マジだ、治安良いのか」


『うむ、飯が良いそうだな』

「そうなんよ、でも新しくお店を探さないとな」


『ワシの分もお願いする』

「おかのした」


『どうだ?暇か?』

「ギリ大丈夫」


『うむむ、何をした、そんなに容量を減らして』

「シバッカルが何も無いって言うから、作った」


『低値は回避しているが、あまり使うで無いよ』

「うい」


 オヤツを食べ、珈琲を飲み、雑談の後に空間は閉じられた。


 束の間の面会後、トイレに行き午睡を取る。






『ココがそうか』

『ね、また趣が違って面白いね』

「おう、ええじゃろ」


『それにしてもだ、加減を知らんか』

『良いじゃない、拡張のチャンスでもあるんだし』

「ほう?」


『君のは伸縮性があるから、縮めては伸ばしてってやれば容量が大きくなるんだよ。全体が縮み、伸びて拡張する』

「そんな、布みたいな」


『そんなものだよ』

『にしても、トールもお前も、どうして負荷を掛けたがる』


『成長のチャンスって意外と無いんだから、出来る時にしないとね』

「まぁ、投獄擬きなんて早々無いだろうね」

『でもだ、他の時で良かろうに』


『ストレスコントロールって難しいんだよ、特にラウラは病院に入院だと慣れてるから負荷にならないし。かと言って、鎮静室は長く居るには強すぎる、牢も。だからココが1番良いんだ』

「人の、覗いてるな」


『まぁね、でも立ち入って欲しく無さそうな部分は見て無いよ』

「門番の鬼に会って無いなら、そうなんでしょうよ」

『会うと、どうなるんだ?』


「多分、気付くんだろうな。そっちは、怪我とかするんじゃ無い」

『ほう、便利だな』


 自分が作ったスパを堪能する、赤と白の大きなワイン樽。

 数種のジャグジーを順番に堪能し、外に設置されたサウナの横で休憩。


 フィンランド式のサウナに入り、葉の束でシバキ合い。

 1番ぬるい水風呂へと飛び込んだ。


 今度はトルコ式のサウナへ入り、垢擦りに全身シャンプーを受ける。

 温泉郷で働いてる者もコチラに出入り出来るのか、向こうで見た顔に全身をアワアワされた。


 そのままマッサージ、オイルからストーン、物足りない者には強めのタイ式マッサージ。

 そしてヘッドスパからヘアエステ、フェイシャルマッサージを受けた。






 目を覚ますと、取調室。

 少し虚しい。


 無音で、風の揺らぎも何も無い。


 眠るデメリットは、時間の感覚が不安定になる事だろうか。


 今は何時だろうか。


「あの、トイレをお願いします」

『あ、はい』


 外は真っ暗。

 月も見えない。


 部屋へ戻り再びストレッチ、痛みから秒で諦めた。

 かなり眠っていたのか空腹感はある。


 食事をお願いして暫くすると、次はショートパスタのクリームスープだった。

 具は全て細かく刻まれてはいるが、キノコとベーコンだろうか。


 野菜ジュースが大きなグラスに並々と入っていて、デザートには生クリームたっぷりの赤色のゼリー。


 兵士が中で見張るだけでは無く、食べ難そうか報告しているのかも知れない。


 全てを完食し、氷嚢を交換して貰い、暫く冷やす。


 またトイレへ行き、患部の熱感を確認して、冷やしながら床で眠りについた。

『門番さん』『ロウヒ』『マーリン』

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