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2月27日

 朝早くにマティアスに起こされ、世話をされるがまま身支度をし、昨夜のスープを飲んだ。

 車で迎えに来たレーヴィと、マティアスと共にリタの宿へ向かう。


 移動魔法の事はもう知っているらしく、リタと2人でヘルシンキの市場へと直接向かう事になった。

 どんだけバラしてんのよ。


「寝起きが悪そうね、珍しい」

「すんません、寝ても寝ても眠くて」


「あら、近いのかしら」


「あ、そうかも」


「一揃え持ってる?」

「うん」


「なら良かった。あ、良いニシン、タラも、両方頂戴」

「貝も食べたい」


「クラムチャウダーだったかしら、食べた事ある?」

「ある、すき」


「じゃあコレも」


 滑り出しは順調、今回のお金はマティアスが持たせてくれたお金らしい。

 後で清算しないと。


「あの、後で換金したいのですが」

「あら、何を?」


「金を、持たせて貰ったので」

「あら、でもマティアスに甘えたら良いのに、どうせ使い道なんか無いんだろうし」


「見付かるかもですよ、夏に」

「あ、そうだったわね。でも本当に大丈夫かしら、ラウラが付いてった方が良いと思うんだけど」


「絶対邪魔になる。何か、女運の乱高下が酷いし」


「なら余計によ、ラウラも好きになってくれる子なら、マティアスも少しは気を向けてくれると思うの。身内が絡まないと動かないみたいだし、かと言って、レーヴィにいかれても困るし」

「レーヴィ、モテそう」


「仕事も出来るみたいだし良い子なんだけど、熱が低いのよね、それでフラれるって」


「旦那情報」

「そうそう。あら、野菜も安い、買い溜めして良い?」


「勿論」


 リタの買い物は、一体何人前を作るのか計算できない量になった。

 だが運送の法律にある金額内ではある、良い練習になる。


 たまに利用するらしいが、オウルまでだったそうで。

 距離が金額に直結するからで、偶の贅沢なんだとか。

 その金額を教えて貰えないのは、以前に利用した事をマティアスがチクったからだろう。


 そしてそのマティアスが指定するパン屋でカラクッコを買い、シナモンロールが有名なケーキ屋へ。




 そしてリサイクルショップへ。


《うーん、お客さん何処の方?》

「マーリン派なのよね。最近コッチに来たのよ、そのお祝いに、ね?」

「はい、身分証です、どうぞ」


《はー、治療師さんか》

「はい、何かお困りならお手伝いしましょうか」


《せやな、したら首を治してくれへんか?寝違えてしもたねん》

「はい」


 触れる事無く、先ずは診て見る。


 首の筋が炎症を起こしてる、喉も少し。

 ココで治しても時間が確実に余る筈、なので全身を見たが健康そのもの。


 首周りを治し、終了。


《はー、凄いなぁ、楽やでホンマに》

「いえいえ、宜しくお願い出来ますか?」


《よっしゃ、言い値で買い取ったる》


 出された金額をリタにも見て貰い、商談成立となった。

 金から中々の現金を得てホクホク、リタは何だか怪訝な顔。


「ラウラ、あの訛りが良く分かったわね、私は半分がやっとよ」

「あ、何か大丈夫だった、訛る人って結構多いし」


「やっぱり、子供の教育には他の言語も混ぜた方が良いのかしら」

「あんまりいっぱいはちょっと、最初は2つ位で丁度良いと思う」


「それなら、ごちゃ混ぜだと発達が遅くなるってワケでも無いのかしら」

「そこは個人差が凄いって聞くから、どうなんだろ、マティアスは何て?」


「混ぜても大丈夫って言うんだけど、ウチの親が逆に心配してきちゃって」

「なら本屋はどうだろ、そういうの無いのかな」


「そうね、行きましょ」


 本屋の育児コーナーには最新の本が揃っている、パラパラ捲ると大きな注意事項が目立つ。

 現時点での説であり、将来的に変わる可能性もあります、と。

 他の本も同様で、必ず注意事項が大きく記載されている。


 こう書かれると少し不安になりそうなものだが、リタは慣れてるのか平気らしい。


「あった?」

「うん、コレ、ママンの所でも出てるか聞いて、あるなら買う様に言っとかないと」


「あー、同じ本なら話し合えるし、良いね」

「違うの読んでたら違う話しになっちゃうものね、さ、ラウラは何か良いの?」


「笑わないで欲しいんだが」

「あら、可愛い。色鉛筆はあるの?」


「無いから安いの欲しい」

「じゃあ、とりあえず文房具の場所を見てみましょ、上よ」


 1階が本屋で、2階が文房具屋だとは全く気付かなかった。

 階段を上がるうちに油絵具や画用紙、色鉛筆の匂いがしてくる。


 良い匂い、でも、お高いんでしょう。


「たかそう」

「子供は割引があるから大丈夫、ほら」


 年齢別に割引額が書かれたポスターが壁に張ってある。

 2才から始まっていて下の子が当然1番安い、そして18才で終る、そして専門学校生はまた割引が入るんだそうだ。


 転売しそう。


「転売して儲けられそう」

「いくらリサイクルショップでも子供が持ち込む未使用品は買い取らないわよ、だって両方犯罪ですもの。それに普通は年下の子に上げちゃうし、不揃いは買い足すものよ」


「ほうほう」

「買って貰えなかったの?」


「いや、お金が勿体無いと思って遠慮してた」

「じゃあもう買っても大丈夫ね、なんせあるんだから」


「うん」


 100色以上ある色鉛筆に、どうしても興味が行ってしまったが、24色で何とか思い留まった。


 36色も捨て難かったが、使い熟せる自信が無い。


「それで良いの?」

「使い熟せる限界かと、だってこの色どうしたら良いか分らんもの」


「影に、陰影に使うのよ、この画集見て、ほら、こういうの」

「ふぇー、そういうのか、ゲロの色かと思ってた」


「もう、ふふふ」


 結局は説得され36色の色鉛筆と、妖精の塗り絵を買ってしまった。

 中々に贅沢品と思えるのだが、リタには物足りないらしい。




「何を考えてますか」

「服を買いましょう」


「いやだ」

「なんで、もう春も近いんだから少しは明るい色を着ないと、気分も明るくならないわよ」


「いや、コレでいいの、ジーンズ青い」

「もう、ちゃんと洗ってるの?」


「似たのを2枚ずつ持ってる」

「もー、楽しい?」


「大人になったら楽しむ」

「今から練習なさい」


「じゃあ、試験に受かったら」

「約束よ」


「がんばります」


 保護者が増えてしまった。

 実年齢からしても確かに年上なのだが、どうしてこうなる。


 実の姉より過保護と言うか、面倒見が良過ぎ。




 買い物が一通り終わり帰宅後、料理大会が始まった。


 先ずはメインの海老の下拵え、殻を全て剥き背わたを取り、筋切りをする。

 ある程度水分を取ったエビに、塩胡椒で下味。


 後は流れ作業、マティアスと一緒に衣を付け、レーヴィが揚がったエビを取り上げる。


 リタは下拵えの後始末を終えたかと思うと、エビの殻をオーブンへ、ソースを作るそうで、焼ける迄にと魚を捌き始めた。


 鱗と内臓は無いので、あっと言う間に三枚へ、切り身へと変身した。


 それにも塩が振られ衣を付け、油へ落とす。


 リタは人を使うのも上手いし、手際も良い。

 コチラはただ無心に、いかに上手に素早く衣を付けるかだけを考え、こなすだけで楽。


 マティアスが飽きる前に、今度はオーブン担当にリタが交代させた。


 香ばしくエビの殻が焼き上がると、今度は魚の骨や頭をオーブンへ入れさせた。

 レーヴィは変わらず熱心に揚げている。


 魚のフライが終わりそうになると、フライ用のホンビノスとイカの準備が終わっていた。

 今度はマティアスが洗い物、続いて野菜が準備されていく。

 小さい玉ねぎや芽キャベツ、アスパラガスが揚がっていく中、オーブンから取り出された魚の骨が煮出され始めた。


 揚げ物が終わると、次はクラムチャウダー。


 マティアスとレーヴィが殻を良く洗い、鍋へと入れる。

 コチラは野菜をひたすら刻む、人参にジャガイモ、玉ねぎはリタがゴーグルを使い高速で刻んでいく。


 材料を全て鍋へ入れ、休憩となった。


《お疲れ様、珈琲を淹れたわよ》

「ありがとう、買ってきたシナモンロールよ、良い匂い。はい、レーヴィの」

『ありがとうございます』

《こんなに時間を掛けても》

「食べる時は一瞬」


《そんなものよ、その一瞬の為に頑張るの》

「そうそう、時間じゃ無いの、質よ」

《こんなに大変なら程々で良いや》

「手を抜く場所を考えないと不味くなる」


「そうなのよねぇ」

《本当に、同じ素材でも味が違う時もあるから、そこを同じ味にするのがまた大変で》

「あんまり違うと文句が出るし」


「そうそう、でも」

《やっぱりお客さんの反応が楽しいのよねぇ》

《でもなぁ、お菓子でもこの量は遠慮したいな》

「パティシエは無理そう」

『僕は楽しかったですよ、綺麗に揚がると嬉しいですし』


「ピロシキが楽しみだ」

《レーヴィのピロシキかぁ、美味しいんだよねぇ》

「じゃあ、コレからやりましょう。材料なら有ると思うんだけど、何か変わったの入れてた?」

『えっと、材料は…』


 そのまま2回戦目へ、マティアスが抜け、ムンモが加わった。


 先ずは生地作り、大きめのコップで全て計量する、コップでの計量は一般的らしい。


 一次発酵を待つ合間にうっかり眠ってしまった。






 そして良い匂いで起きた。

 リタ曰く、発酵を終えるまえに材料を刻み、炒めて冷まして、もう包んだらしい。


 ムンモの生地はデザート用に、リタのは揚げる用、レーヴィのはオーブンで焼くタイプのピロシキ。

 目の前にはレーヴィのお気に入り、挽き肉とキノコと卵が入った揚げピロシキ。

 焼いたのより揚げた方が好きなのが分かる、だって美味しいんだもの。


「ほら、それは味見用、お風呂に入ってからお昼にしましょう」

《油も使ったし、サッサと入りましょうね》

「あい」


 今日は女3人でサウナ、ウッキが用意してくれてたらしい。


 後片付けもウッキの仕事なんだとか、ノロケを一通り聞かされ、先にシャワーから出て昼食の準備。


 タルタルソースとレモン、塩を卓上へ。

 そして自分用にマヨネーズと醤油を合わせたソースを作った。


 全員が揃い、パンが置かれ、フライの盛り合わせを卓上へ。


 ホンビノス、イカとタラとニシン、アスパラガスのフライ、ミニ玉ねぎと芽キャベツの素揚げ、そしてエビフライ。


 ムンモ達にはキツいかとも思われたが、意外にも完食、ホンビノスフライが良かったらしい。


 レーヴィはマヨ醤油でタラを食べるのが良かったと、リタはニシン、マティアスはエビフライがマジで気に入ったらしい。


《歯触りが好き、ブッツリいくのが良い》

「赤エビじゃ、こうはならんのよ」

「赤エビは優しくなっちゃうものね」

『イカや貝は違うんですか?』


《違う、エビは歯応え》

「イカと貝は味」

《そうね、クラムチャウダーも美味しいわ》

《サーモンスープより旨味が強いな、クセになる味だ》

「でしょ、ラウラの好きな味になってる?」


「完璧、超美味しい」

《貝をずっと噛んでたい》


 料理大会は無事終了、ストレージの食料がかなり溜まった。


 ピロシキにフライの盛り合わせ、クラムチャウダーに、それぞれで炊いたお米まである。


 暫くは安心して引きこもれる。


「これで、運送の勉強に少しは専念出来るかしら」

《マティアス、ちゃんと日に当ててあげるのよ》

《そうだぞ、お前がちゃんと面倒を見てやるんだ》

《分かってるって、ラウラもそこまで子供でも無いのにねぇ》

『それでも分かりませんよ、ラウラは日光浴に無関心な方ですから、気を付けないと』


「気を付けます」


 今度からは気を付ける。


 沢山お礼を伝え車に乗り込む、また眠いが少しの我慢。

 レーヴィとマティアスと共に基地へ。

 車内でお金の事を押し問答し、給料日に改めて話し合う事にされた。


 到着後、珍しくマティアスの仕事があるので、師長室で点滴再開。

 そしてお昼寝。






 少し眠ったと思いきや、もう夕飯の時間になっていた。


《おはよ》

「おそよう、凄い寝てしまった」


《他に変化は?》

「特に無い、お腹減った」


《じゃあ帰ろうか》

「おう」


 今日は流石に1人で家に居ても良いらしく、マティアスに送って貰い家に着いた。

 暗い家に灯りを灯し、薪を足す。


 フライの盛り合わせと白米を口腔調味。

 美味い、醤油マヨ美味い。


 洗い物を済ませ、暖炉の前で白湯を飲んでいると、車の灯りが見えた。


《ただいま》

「帰ったんじゃ無いのか」


《着替えとか洗濯に戻っただけなんだけど、点滴しなくて良いの?》

「ぐぅ、しますぅ」


 点滴の管にエリクサーが通る、キラキラが体内へ流れ込む。


 マティアスに強請られ、今日とは別の盛り合わせ出す。


 窓辺のボトルガーデンに変化は無い、早くモリモリさせたい。


《点滴したし、試す?》

「おう、生やしてみるか」


 大きな瓶の、小さな苗を成長させる。


 フカフカの土に根が入り込み、栄養を吸い上げる。


 あまり冷たい水は嫌いっぽいので、沸かしたお湯と混ぜて与える。


 充分と思えた辺りで、再び成長を促す。


 土が隠れる程に成長した頃、中心の新芽と共に妖精が生まれた。


 キラキラ光る緑色のトンボ羽根、何て特殊な環境で産まれる子なんだろうか。


《絵本の子みたい》

「どうも、初めまして、ラウラです」


『初めまして』


 丁寧にお辞儀をした女の子の妖精は、ボトルを観察しながら1周した。


 コチラとボトルを何度か見比べると、近くの如雨露へ腰を降ろした。


「察しれましたか」

『少しは。本来は魔女ロウヒの元で産まれる筈だったのですが、何かあって、アナタの元で産まれたみたいです』


「ほうほう、そのロウヒにコレから送り返そうと思いますが、宜しいか」

『少し、外が見たいのですが』


「どうぞ」


 近くの窓へ行き開けると、飛び立って消えてしまった。


 どうしようか考えていると家を1周してきたのか、反対側から窓へと戻って来た。


『他の妖精が居ないのですが』

「狩られたらしいですが、アヴァロンやドイツの黒い森では無事ですよ」


『そうなんですね』

「はい、残念ながら」


《ラウラ、その子と話してるんだよね?》


「聞こえない?」

《小さくてあまり聞こえない感じ》


『人見知りなので、彼を会話から外しています』

「そうか、他に何か望みは?」


『もう少しお水を』

「ほいほい」


『それと、ロウヒに会わせて下さい』

「あいよ、どうぞ」


 ロウヒの部屋に空間を繋ぐと、暗闇の中でライブ映像を流し、寝転がりながらも鑑賞するロウヒが居た。


 あ、目が合った。


『お、出来たんだな』

「そうなの?」


『その子が居るのだから環境は整ったのだろう、どうだ?』

『はい、もう蓋をしても大丈夫です』

「そっか、最後にウッキに見せてあげたかったな」


《カメラあるけど、撮っとく?》

『お、気が利くな、ワシも一緒に撮ってくれ』


 ボトルを抱えてピースするロウヒ、ボトルに座りおすましする妖精の写真。

 この妖精が他人にも見えたなら大事件になってしまうが、まぁ、ウッキなら大丈夫だろう。


《ラウラも》

「写真は魂をとられる」

『そうなんですか?』

『迷信だから心配するな』


 顔を半分隠しつつ写真を撮られた後、妖精が目の前で一礼し、話し始めた。


『では私に、妖精に呪いをお願いします』

「は、どういう事」

『祝福と呪いは表裏一体、妖精を守る呪いを掛ける事が、今回のお前の任務。お互いに呪いを掛け合う、良く言えば祝福を与え合うのだ』


「任意で姿を消せてしまう呪いをどうぞ、人間から、外敵から身を守って」

『アナタには偽りの魔法を、騙して、誤魔化して、どうぞ身を守って』


 そうして互いに呪い合うと、魔力が放出され、混ざり、互いの体に溶け込んだ。


 ロウヒがボトルへ栓をすると、妖精はガラスを通り抜け、葉の上で眠り始めた。


「ロウヒが面倒見るの?」

『本来は私に託されたモノだからな、面倒で放置してたんだが、妖精の話を聞いて思い出して、丁度良いと思ってな』


「ロウヒが寂しく無い様にか」

『そうなのかも知れんが、呪う内容が思い浮かばなくてな、長年放置していた』


「何十年だか」

『数百年か、兎に角、昔なのは確かだ』

《呪いって、大丈夫なの?》


「偽りの魔法らしいが」

『よし、解除してみるか』


 額を親指でグイっと拭われると、物凄い気だるさに襲われた。


 長期間の低値が初めてだからか、さっき以上にしんどい。


「マジしんどい」

『偽装の魔法を使え。こう、後追いで動く方の膜を、縮め絞るんだ』


 手の周りの膜を見る、薄くブレる大きな膜。


 薄く揺らめく膜が2枚、眠い、ダルい。


「今度じゃダメか」

『楽になる、頑張れ』


「おう」


 フワフワする膜を凝視し、何とか後追いで動く膜が確認出来た。

 内側へ、皮膚へ近づける。


 焦って縮めると、すり抜けて元へ戻ってしまう、ゆっくり手繰らないと、滑る。

 何とか座り込んでいたが、とうとう寝転がって目を瞑る。


 そも全体を締めないと意味が無いと思い至って、自分の全体像へ意識を移す。


 眠気に耐えながら、全身の膜を引き締める。

 皮膚から数センチの位置で初めて手応えを感じた、一気に体が軽くなり眠気も和らいで、瞼が開けられる。


『ふふ、てこずっていたな』

「絶対ムズい」


『柔く滑らかに逃げるんでな、コツと慣れが必要なのだ』

《血管みたいだね》

「そこ似るか、自分の事ながら少しイライラしたわ」


『解くのは簡単だぞ、ほぐし広げたら良い』

《そんな感性的な説明で分かるの?》

「分かっちゃうんだぁ」


『分からねば使えないからな、理解とは少し違う。分かると言う事が大事なんだ』

《良いなぁ、使いたい、分かりたい》


『そうか、何が使いたい?』

《ラウラに魔力を上げたい、低値を治してあげたい》


『なら私に菓子の一つでも貢ぐんだな、考えてやらんでも無いぞ』

「お、チャンス上げるなんて優しい」

《でも確約じゃ無いし》


「あれ、可愛くない」

『本当に可愛くない子だ、そんなんでは魔法は寄って来てはくれないぞ。運命を成立させるのは、ヤル気だ』


《ラウラにヤル気があるの?》

『こう見えて願いは強いぞ、具体的で素直で真っ直ぐな願い、願望は単純な程良い』

「プライバシーの侵害や」


『ふふ、複雑さを面白がる者も居るが、大抵は良い事にはならん。世界を救いたいと思うより、目の前の飢えた子を満腹にと願う方が、叶い易さが違うのは、分かるだろう?』


《分かるけど、いきなり世界が救えるなら、それに飛びつくのが普通なんじゃ?》


『道が短く平坦ならそうだが、長く険しい道では難しいだろう。そもそも大海に生まれ落ちてもがく幼子に、一瞬で世界を救う方法が分かるものかね』


《ラウラも、そうなの?》

「そも泳げないし、ずっと溺れてて、そこら中が岩礁で濃霧で泥で光は無い。そう表現すると絶望的だなぁ」

『底は分かっているし、休める岩礁があるんだ、最初よりは良いだろう』


「だね、後は水が澄んで光が差せばいいんだけど」

『ウィスプを知ってるか?偽の光で人を惑わすんだ』


「迷って疲れてる時に現れたら、ぶっ飛ばしちゃうかも」

『前世は悪い子だそうだから、まぁその位は良いだろう』


《例え話なのか何なのか分からないんだけど》

「信じるか信じないかは」

『マティアス次第だ』


 ロウヒの膝枕でひとしきりゴロゴロした後、今日作った料理達を引き渡し、空間を閉じた。




《ロウヒには懐いてるのに、何で私は、もしかして警戒してる?》

「人間だからかな、神様とか精霊じゃ無いからだ、多分」


《そんな人見知りの仕方なんてある?》

「本当かどうかは別にしても、神様や精霊の情報は沢山あるでしょ。でもマティアスやレーヴィの情報は無いじゃない、開示されてる情報量が違うじゃない。何が嫌いか、嫌がるか、好きなのは何か。どこに地雷があるかハッキリしてる方が、安心するじゃない」


《地雷が埋まってる前提なんだ》

「無い人なんて少ないでしょう。無意識に初手で踏み抜く無神経だからこうなった、子供の頃から無神経だったから」


《それは、無神経とは少し違うと思うんだけどなぁ》

「無神経ジャンルの分け方は知らないけど、無神経で不躾だと言われ続けたから気を使う、コレでも気を使ってる」


《だから、言葉も丁寧にしてるの?》

「言葉の印象は受け取る側に依存するんだから、誤解が無い様に最大限配慮する。それでもダメなら合わない、逃げろって教わった」


《誰に?》

「見習うべきと思った友達が言ってた、斬新で新鮮で衝撃的だった。真っ正面から受けるだけじゃ無いって、本当に性悪説信者で、面白かった」


《気を使って話してくれてる?》

「もう、そこまでは。そもそもが、怒りとか地雷が少ないって知ったから」


《見てみたいなぁ》

「自分で自分を見たら、変えたくなると思う。そのままの方が綺麗だから変えない方が良いよ、眠い、上行く」


《待って、ほらオーロラ、トールかな》




 窓の外には輝くオーロラ。


 ロウヒが連絡してくれたのか、偶々か、兎に角外で浴びなくては勿体無い。


 予備のコートをマティアスに渡し、テラスへ出る。

 凍らぬ様に点滴のバッグを抱えて貰い、ベンチにクッションを敷き、座った。


 マティアスの可愛い魔除けの鈴、どうしても笑ってしまう。


「ダメだ、それ可愛い過ぎるな」

《良いでしょう》


「効果ある?魔力は大丈夫そう?」

《うん、違和感無し》


「前のオーロラの時はどうやったの?」

《屋上でコートとかホットバック借りて、点滴バッグ抱えて、大変だったんだから》


「すまんね、ありがとう」

《もうならないで欲しいけど、難しいんだよねきっと》


「それでも気を付ける、ダルくて眠くて、動けなくなるのは困る」

《さっきは本当にそんな感じだったものね》


「おう、めっちゃしんどいから、マジで気を付けます」


 コートの隙間から魔素が染み込み、体へ浸透する。


《コート有っても平気なの?》

「みたい、前は温泉に引っ張られてたんだと思う。あそこはちょっと特殊なのかも」


 前より酔った感じはしない。

 アレは温泉の相乗効果だったんだろうか、今はただ心地良く感じるだけ。


 膜の様に、掴み所の無いオーロラの境目を見つめる。

 ゆっくり揺らめく色の変化。


「リタ」《宿屋のムンモ》『レーヴィ』《マティア》

『ボトルガーデンの妖精』

『ロウヒ』

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