表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/204

2月26日

 何で、病室。


 明るい、朝だ。


 動けない、拘束ベルト、しかも制御具まで。


《ラウラ》

「マティアス、何で」


《最後の記憶は?》


「ソファーで眠った、夢なら見たけど。それで幽体離脱したみたいになって、リリーちゃんの髪を直して、分泌物とか、配線を直した」


《それは現実、君は確かに病室に行った》


「ごめん」

《良かった、状況把握出来てるみたいだね》


「まぁ、暴走に近いんだもの、拘束されても仕方無いよね」


《もうこのままになっとく?》

「オムツは嫌だな、トイレには自由に行きたい」


《じゃあ、それ以外に、今はどうしたい?》

「誰かに全てを代わって欲しい、凄く心が疲れた」


《そうだね、何で彼女を治そうとしたの?嫌がらせはするし、親しくも無いのに》

「親しいから助けるなんて偏ってるでしょう、面白いからって人を何人も殺したとかなら悩むけど、小さな嫌がらせでしょ。マティアスでも、出来るなら治すでしょ」


《皆がそんな善人じゃ無いんだよ》

「見方次第でしょ、どうしたマティアス、何か変。誰か居る?」


《分っちゃうか、流石私の弟子』

「マーリン」


『倒れたってマティアスからロウヒに、ロウヒから私に来たんだけど、元気そうだね。昨夜のオーロラのお陰かな』

「この状態で浴びたのか」


『マティアスがね、彼は外で待ってるよ』

「このままが良いのかな、何もしない方が、良いのかな」


『彼女は元気だよ、君が来てからの記憶が少し薄いみたいだけど。極めて明朗快活な子だ、助ける為に倒れたと聞いて、病室で今も祈ってるよ』

「治った?」


『どうだろうね、発症前に戻っただけかも知れない。でもコレは内緒の話し、昨日の事件は全て内緒になった、治したとなれば君が危なくなると、皆が危ない橋を渡る事に同意した』

「何て事を、もう表に出る覚悟は出来てたのに」


『匿うって言うんだから、大人達の覚悟に乗ろう、それでもダメなら表に出たら良い。早く行動する事が全てじゃ無い時もあるし。ただ、どうしてもと言うなら、イギリスに来るかい?』


「それこそいざと言う時にとっときたい」

『ならココもそう、大事にね。師匠の言う事は聞くものだよ』


「はい、ありがとうございました」


《うむ、ではまたの》


 今度はロウヒに変身したかと思うと、病室を出て行った。

 少し焦ったけど、このままが良いのか分らない。


 覚悟が無いなら動くなと言う事なのか、マーリン師匠の話は深過ぎて、永遠に深読み出来そうだが。


《ラウラ、今外すから待ってて》

「師匠がね、このままで居るか、どうしたいか聞いて来た。今こうなって、正直どうしたいか分らん」


《違うんだ、ごめんラウラ、外すから話を聞いて》

「最悪の、想定してた出来事が今起こってて、何か逆に安心するんだ。ホッとした感じで、元の場所に戻った感じ、しっくりくる」


《ダメ、戻ろう、元の場所に戻ろうよ》


「元って何処なんだろ、パニクってるのかな、何か頭が真っ白で、動きが鈍い感じ」

《薬を使ったから残ってるのかも、トイレは?喉は乾いて無い?》


「トイレは自由に行きたい、けどこのまま暫く入院でも構わん」

《本当に、そうじゃなくて、夢遊病かと思って拘束しただけ。何か暴走してもラウラが悲しむだろうから、だから制御具も付けただけ、危ないなんて思って無い》


「別に良いのに、危ないよ、危ない」

《その話は後で、ね、起きて》


「このまま拘束されてたい、疲れた」


《膀胱押すよ》

「やめて、起きます」


 的確に膀胱の真上に拳を置いて来たので、起き上がった。


 そして扉が開く音に目を向けると、昨日の福祉士のサンテリさんと、いつもの看護師さん。


『ゆっくり起き上がって下さいね、長く眠ってたんですから』

《大丈夫ですか?何処か不調は?》


「ご心配とご迷惑をおかけしました、申し訳ない」

『いえいえ、良いんですよ』

《そうですよ気にしないで下さい。それより少し無理なさったみたいですね、リリーのお見舞いで倒れてしまう位ですから》


『そうそう、そうですとも。少し具合が悪かったリリーをお見舞いして倒れるなんて、しっかりして下さいよ』

《そうですよ。良く面倒見てあげて下さいね看護師長。治療師様といえど、まだ子供なんですから》

《はい、良く気を付けておきます》


『じゃあ清掃にはいりますから、お家に帰ってゆっくりして下さいね』

《えぇ、ゆっくりなさって下さい》

「反応に困るし、トイレ行きたいし」

《ふふ、車椅子押すよ》




 トイレから戻り、リリーちゃんの様子が見たいと言うと隣の病室を指差した。

 隣か。


「会って良いの?」

《サンテリ、大丈夫かな》


《最近の記憶が薄いので大丈夫だとは思いますが、揺り返しの兆候が見えたら直ぐに終らせます》

《それでも良い?》

「うん、分かった」


 サンテリ福祉士に車椅子を押され、病室へ入ると泣き腫らした顔のリリーちゃん。

 顔を見た瞬間に、泣かれた。


 皆、泣く。

 なんだ、自分の顔に何か呪いでも掛かってるのか。


『ごめんなさい、記憶が朧げなんだけど、酷い事をしたのは分ってるの、本当にごめんなさい』

「ゆるす、元気そうで安心した」


『ごめんなさい、本当にごめんなさい』

《大丈夫ですよ、新しい生活が始まる不安から、少し不安定になったんです。ですから、今はゆっくり休んで下さい》

「そうそう、目を治してあげる、だから早く元気になって」


『でも倒れたって』

「実は単なる寝不足、成長期だから半日位は寝ないとダメな体質なんだ、でも眠ったからもう大丈夫。学校終わりにお見舞いに来る子が心配しちゃうから、目だけでも治そう?ね?」

《少しだけでお願いしますよ、貧血で倒れたばかりなんですからね、治療師様》


「おうよ、さ、目を閉じて」

『はい、ありがとうございます、本当に、本当に』

《じゃあ少し、そのまま横になって、眠って下さい》


 彼女もまだ薬が残ってるのか、少しして眠ってしまった。


 マジで可愛い寝顔。




 そのまま静かに病室を出て、マティアスに車椅子を押され基地の出入り口へと向かった。


 少し眠そうなレーヴィ、かなり待たせたらしい。


「ごめん、お待たせしました」

『大丈夫ですよ、少し待っただけですから』

《ラウラがお見舞いしてる間に、ナースステーションから連絡したんだ》


「ご心配ご迷惑をお掛けしました、申し訳ございません」

『いえ、話は後にしてリタのご飯を食べに行きましょう』

《うん、行こうラウラ》


「おう」


 シバッカルの言葉は脅し文句だったのか、コレから来るのか。


 誰にも理解されず、理解もされない。


 あの忠告からは想像できない程に平和に解決、正確に言うと治って無いっぽいし解決はして無いけど。

 でも、病識がある今の彼女なら、暫くは大丈夫そう。


 このまま発症しないで画期的な新薬が開発されたら、辛い治療が短期で済む。

 何も知識が無いから、もう手助けは出来ないけど、またなったらまた同じ事をする。


 他の人でも、悪名高いロキでも。




「おかえり」

「ただいま、お婆ちゃん達は?」


「今日はお出かけの序にデートに行ったわ」

「らぶらぶ」

《今日はなに》


「今日はラビオリ。具はマティアスから貰ったラムを使ったの」


 右往左往してくれたらしい。

 その甲斐も有って、美味しいラビオリが食べれた。


「美味しい、流石サラブレット」

「あら、聞いちゃったのね」


「うん、勝てる気がしない」

「そんな事無いわよ、シェフを教えるなんて私でもした事無いんだから」


「お喋り」

《美味しかったぁ、醤油ってそんなに手に入りにくいの?》

「そうね、それこそオウルとかヘルシンキならあるんじゃ無いかしら」


「オウルには無かった」

「じゃあヘルシンキね」


「今度行く、何か買って来る?」

「ニシンね!新鮮で安くて、フライにすると良いらしいの」


「目利きに自信無いけど頑張る」

「宜しくね」

《カラクッコもあるみたいだから、私はそれね》

『じゃあ僕は隊の皆にシナモンロールを』


 持ち帰り用にサンドイッチまで貰い、平和に食事を終えて家へと向かう。


 見守り君を取り出し、展開。


 マティアスは流石に慣れたらしいが、今度はレーヴィが驚いていた。


「よし、オッケーどす」

『あ、はい、一応石を暖めますね』


「あ、ならミアに暖めて貰おう」


 空間を開き、窓をノックした。


 今日は都合良く、ミアが出て来た。


『あら、偽装は解除なさらないんですか?』

「色々あって、マーリンに会ったよ、改めてお礼をお願いしたい」


『はい、伝えておきます』

「それと、コッチに来て石を暖めて貰える?」


『ふふふ、はい、喜んで。少し行って来ますねー、ラウラが呼んでるのでー』

《私も行く》


 実に下らない事を頼んだのに、嬉しそうに石を熱してくれた。


 何か、確認作業みたいに皆を見てしまう、シバッカルの言葉が引っ掛かってる。


「ありがとう、それと、記憶と精神操作をゲットしたかも知れん、昨日無意識に使った、記憶はある、でも夢遊病みたいな、夢みたいな感覚だった、ごめん」


『何故、謝るんですか?誰かを助ける為に得たのでは?』


「まぁ、そうなんだけど、悪用を心配されたらと思って、滅多には使う気は無いけど告知すべきかと」

『レジストには効かないのでは?試しました?』


「いや、そこまでは、さっき起きたばかりなんだ、ぶっ倒れてたって」

『ちょっと、マティアス、点滴は』

《マティアス、点滴はどうしたのかと激怒してるわ》

《落ち着いたら、お風呂の後にする予定だったんだけど》


「後でするって、お風呂入ってから」

『もう、どうしてそう呑気に』

《ふふ、大丈夫よ、低値で倒れたのじゃ無いみたいだし》


『でしたら、少しレーヴィに試しましょう』

「は」


『察するに、コントロールが不安なんですよね?なら練習するしか無いですよ』


「にしても、昨日の今日で」

『魔法初心者なら尚更です、殺すわけじゃ無いんですから、覚えてるウチに練習しないと、それとも感覚は記憶に無いんですか?』


「いや、ありますけど」

『なら練習です、珍しい貴重な魔法なんですから、大事にしないと』


「あるにはあるんだ」

『はい、主にギフテッドの方々らしいです。国連所属なのでそこまでしか知りませんが、知り合いに1人。サム・フープって方が』

《ねぇ、今サム・フープって》


「言った」

《前に話した子だよ、魔素が溢れちゃう子の名前》


「国連に所属してるらしい、知り合いなんだって」

《そっか!良かった、生きてたんだ。彼の地元だと行方不明って事になってたから》


「彼の地元だと行方不明になってるらしいんだが」

『苛められてたから行方不明のままにしてるそうですよ、魔素が溢れて魔獣を引き付けるって、嫌がらせされたそうですから』


「ワシもそうなんじゃが、溢れて影響及ぼす系」

『なら、今回の魔法は潜在下にあった能力が目覚めたって事ですかね、おめでとうございます』


「なんだと、新規の神様に教えて貰っただけなんだが、名前はシバッカル」

『え、この前絵本を探してる時に買いましたけど、本当にいらっしゃる神様なんですか?』


「おう、その絵本持ってる?」

『はい、あ、絵本では無いんですが。どうぞ』


「少し借りる、ソラちゃん暗記して」


【了解】


 画集と詩集。

 大人の絵本的、抜け道有るのね。


 パラパラと流し見、絵は本人と同じでふんわりホンワカ。

 内容は後で読み聞かせて貰う。


「ありがとう」


『いえ、あの、ソラちゃんとは?』

「秘密。あ、マティアス、彼は苛められてたから行方不明のままなんだって」


《そっか、それもそうだよね、まして国連所属ならすり寄って来られそうだし。でも何でミアと?》


「どう知り合ったの?」

『ふふ、秘密です。まだ連絡が取れると思いますが、どうしますか?』


「信用できそう?」

『私は、ですが。ご自身で見極められるのが1番ですよね』


「すんません、出来るならそうしたい」

『では、無難にお引き合わせ出来る様に考えておきますね』


「ありがとう、お願いします」

『では、始めましょうか、レーヴィでしたね、少し良いですか』


『名前を呼ばれた気がしたんですが』


「ダメダメ、来ちゃダメ、実験する気ぞ」

『何のですか?どうしました?』


「昨日の練習と実験をした方が良いって、記憶と精神の操作。心配なら、レジストが掛かってるなら、効かないハズだって」


『なるほど、確かめてみましょう』

《私でも良いよ、もう欠落してる様なもんだし》


『これは、名乗り出てる様に見えますが』

《そうね、ヤル気よ》


「危機感が無い」

『何とかしてくれるという信頼ですよ、さ、折角ですし』


「じゃあ、害が無さそうな範囲で」


 少し怖いが、リリーちゃんの髪を直した後の行動を追従する。


 向こうのシバッカルから貰った鍵を手に額へと、差し込もうとしたが弾かれた。


『やはり、レジストには効きませんね』

《【レジスト解除】》

「あ」


『察しの良い方ですねマティアスは、では再開しましょう』


 今度は鍵が刺さり、以前と同様の配線が浮かび上がる。


 黄色は警戒心、オレンジは喜び、赤は怒り、イメージであって文字として書かれてはいないが、そう感じる。


 何本もの大小様々なサイズの線があるが、全てが繋がっているワケでは無く、違う色の配線と基盤が繋がってたりもする。


 灰色と紫の配線なんかは本数が多い、多分結婚と不安が連結してる。


 赤い配線は細くて少ない、本当に怒りが薄いんだろう。


 ピンク色は無視しといて、黒と白、善悪なのだろう、同じ色で配線されてる。


 青は男らしさか、細い、けど良い所でもあるから触らないでおこう。


 リリーちゃんと違って違和感が無い、変えた方が良いと思う色も感じも見当たらない。


 半透明の配線は怖いから無視で、緑色は少し配色が青と混ざってる部分がある、コレも綺麗だしそのままにしとこう。


 後は更に奥の、ツヤツヤの青緑の丸いスライム、プルプル。


 リリーちゃんはざらざらした汚れが付いた鉱物だった。


 全然違う。


 そして更に下に行くと、リリーちゃんのは不味い味の漬けだと思ったんだけど、マティアスは甘い花の匂いの綿飴で出来てる。


 なんだ、何処までファンシーで食いしん坊なんだ。


 いや、そもそも自分が食いしん坊なのか、マティアスなのか分らんが、ただ美味しそうには感じる。


 このままで良い気がする。


『どうでしたか?』

「無理、変えた方が良いって思えるのが無い」


『その、前はどうだったんですか?』

「それは。ソラちゃん、タブレット出すからマティアス達に翻訳して」


【了解】




 マティアスのイメージ、リリーちゃんのイメージを簡単に双方へと伝えた。


 変えてないと分かると、マティアスがガッカリした。

 怖いわ狂信者。


《はぁ、【レジスト】》


「ガッカリする所じゃ無いのよ、怖いわマティアス」

《だって、魔法が使えないなら使って貰うしか無いんだもの》

『未だに流れ星に魔法を使わせて欲しいって、お願いする程ですからね』


《流れ星に魔法が使いたいって願ったんですって》

『あら可愛い』


「まぁ、それは置いといて。こちらの思い込みなのかもだけど、そう見えたワケだ」


『聞いた話しでは後は経験だそうで、どういった方向に持っていきたいかどうか、どう変えればどうなるか』


「怖い事を言う」

『彼の担当は犯罪者ですから、特に更生が難しいと判断された者の中で、有用とされた方へ行ってるそうで。死刑か変えるか選べるんだそうですよ』


「怖いけど、有効な手段ではありそう」


『一部の悪人に大勢が困らせられるのは良くある事ですし、私は賛成派です』


《私も、良いと思う、無罪の善人にするんじゃ無いなら、良いんじゃない》

『僕は冤罪が怖いので、諸手を上げて賛成は出来ません』


《そこは尋問官が付くでしょう》

『マティアスは知らないかも知れませんが、昔は軍に不服従ってだけで撃たれた人も居たんですよ』


《それは知ってるけど、今は規律自体が見守られてるんだし。偽造の話が個人だと仮定したら良い所だと思うんだけどな、国連だって、馴染めない人にしたら特にだよ》


「紙の主犯が不明なので判断保留で」

『では、彼への接触を検討すると言う事で宜しいですか?』


「うい、接触しないかもだし、良い手段を考える段階だけでお願いします」

『はい』


「少し長くなった、ありがとうございました」

『いえ』


 空間を開くと、窓を開けたままのイデリアーナと目が合った。

 なんか頬を膨らませて、怒ってる。


「ちょっと、少しの割りに長いんだけど」


「あ、ごめん」

「今度は私も呼んでよね」


「そこか、すんません、是非招くですよ」

「うん、お願いね」

『じゃあ、失礼します』


 女子おっかないな、怖い。


 コッチは違う意味で怖いのが居るし、常識人はレーヴィだけか。


 次はロウヒの部屋へ空間を開く、怒っては無さそうだけど。


 どうだ。


『どうだ、マーリンの変身は』

「完全に、マティアスだと思って騙された」


『そうだろう、ふふふ』


「ロウヒも、特に完璧だった」

『だろうとも、お土産は?』


「どうぞ、コチラです」

『うむ、実に良いチョイスだ』


「ご心配お掛けしました」

『うん、マティアスから伝書紙が届いた時はどうなるかと思ったが、魔力容量も回復しているし、安心した』


「無茶したつもりは無いんだけど、すんません。他の神様に頼んで魔法を得た、記憶と精神の操作」

『何だ、使えなかったのか。私に言ってくれたら、もう少し穏便に済んだモノを』


「あー、焦ってて、頼んじゃった」

《それなんだけど、何処で?どうやって》


「秘密。良い魔法と思わないから、ロウヒに頼み難かったのもある」

『全ては使い方次第、そもそも悪い魔法とは何だ』


「えー、人権侵害しちゃうやつとか」

『大概の魔法をそう使えばそうなる、そう使わなければ良い。それにだ、一方的な魔法など存在せん。マティアス、その少女をどう見る』


《治ったかどうか分らない、ただ以前には戻ってる、私が知ってる子に戻った感じ。戻った事に後悔は無さそう、寧ろ、他の行動に対して後悔してるのが大きい》


『ほら、お前の会得した魔法は使用される側がそうありたいと望まねば、そうならん。一片でも治りたい、戻りたいと思えなければ治らんし戻らん。魔法と言えど強くなりたい、速くなりたい、そう思ってこそなれる可能性が出る。老人を診たのだろう?あの治りの遅さもそう、治ろうと思う力が、もう尽きてるからこそでもあるんだ』


「マティアス、行動歴を全部話したのか」

《変な事言うし、夢遊病みたいだったから倒れた原因か分らなくて》


「あれは、リリーちゃんへの感想がポロポロ出ちゃっただけで、他意は無い」

《さっき聞いた話しからそうなんだなって分かったけど、あの時は凄い悩んだんだから》


「すまん」

『マティアス、マーリンから説明はあったか?』

《それが、問題は無いから大丈夫とだけ、詳しくは後で本人に話すって》


「なんも聞いてない、後で聞く」


《もしかして、夢?》

「さぁ」

『それで、倒れた原因だが、大方その神とやらだろう、教えるのが下手なのか、教える事を得意としない神なのか知らんが。燃費の悪い神なのだろうな、酷く精神力を持ってかれたんだろう』


「あぁ、精神力か。教えてと言ったから、彼女なりの教え方なんだと思う」

『では本人に聞いてみたら良い、ワシも居るし、マーリンも居るだろうから、安心だろう』


「おう」


 透明なガラスの鍵を出し、ロウヒに触らせると倒れ込む様に眠った。


 そして自分も同様に、鍵に触れた。






 白い部屋に神々が3人。

 片方は酷く怯えている、


『成程ね、ココがそうなんだ』

『ふむ、まぁまぁだな』


《ようこ、そ、地球本来の神々よ、シバッカルと申しますぅ》

「どうした、バグったか」


《だって、どう見ても怒ってるんじゃもん》

「ん?そうか?」


『まぁ、少し。さぁ、先ずは話し合いをしましょうかね』

『うむ、任せたぞ。ではラウラ、ココの案内を頼む』

「おかのした」


 ココはソラちゃんと連なるクトゥルフの神、シバッカルのマインドパレス。

 ドリームランドの更に奥にある感じ、苦しむ人々の最後の砦。


 本が販売された事で繋がったらしい、コチラでは初めて接触するクトゥルフ神。

 他はヤバイから発禁らしい、だからなのか他の神の接触無し。


 この家具や部屋は向こうをモデルに構築した。

 最初は空白地帯だったから。


『そうか、それで元はこの本か?』

「おう、さっきミアから借りたばかりで読んで無い」


『ふむ、ほうほう、詩集に画集か。悪くないだろう』


「ほう」


『終ったよ、分かり合えて何よりだ。お互いに、平和にやろうね』

『まだだ、どういう事か、じっくり私とラウラにも聞かせて貰おうか』


《ひぃ、ごめんなさぃ》

「どうどう、マーリン、どんな話し合いしたのよ」


『君が眠ってる間に少し記憶を覗いたんだ、それで怯えていると分ってね、迫力を出す相手を間違えたねと、教えてあげただけだよ』

『だな、あんなに旅館を細かく作るのだ、本質を見ずにテンプレートの対応は良くないぞ』


《すまぬ。その、旅館とは?》

「あぁ、後ろの部屋を繋げとく」

『そうだね、行ってみると良いよ』

『ココは我らに任せ、行くと良い』


《トラップとか》

「無い無い、悪さしなきゃ安全だから」


《そうか?なら、少し》


 ココにおける時間経過とは曖昧なモノなので、別室とココの時間なんかは特に曖昧になる。

 ものの数分で戻って来たが、頬はすっかり上気してツヤツヤしてる。


『どうだ、良いだろう?』

《確かに、ヨグの系譜なだけはある、ましてかの者が世話したのであれば尚の事、本当にすまなかった》

「おじさんを知ってるの?」


《あぁ、随分と前、こうなる前じゃ。知り合いが来るだろうからと聞かされていたんじゃが、お主だと思わなんだ。こんな子供が渡りをすると誰が思う》

『渡りとは違う様なんだ、望んで来たのでは無いのだから』


《らしいのう、ただヨグの系譜を騙る面白い子供だと思っていたが、違うのじゃな。そんな子供を苛めたんじゃから、それは説教でも何でも受けねばならん》

『分ってくれれば良いんだよ、ねぇ、ロウヒ』

『あぁ、繊細でナイーブなのだ、あの旅館で分かっただろう。対応を間違うは100叩きでは足りんが、経験の浅さもあろうて、今回は見逃すが、次は無いぞ』


『ラウラ、何故イギリスで本の規制が厳しいか知っている?』

「いやー、どうだろ」


『本が、人へ根付く力を知ってるからなんだ。本の情報は正確に拡散されて人へ浸み込む、そうして御伽噺が神を甦らせたと信じてる。勿論、そんな事は無かったんだ、前までは。今はそう信じられたからこそ、こうやって具現化された神が現れた。私はね、そういった事に介入する代わりに、地上での生活を許されているんだ、彼女の元になった本も、過去にティターニアが発禁にさせた。あまりに凶悪で、あまりに残酷な神々だったから』


『早過ぎたのだ、神々の連携も無い状態で現界しそうになったのでな、封じると言う事に至った』

『その時にロウヒとね、今のイギリスにある魔法も魔道具も、彼女からもたらされたモノもある』


『だがな、その脅威を忘れたのだろうな、私の名も功労も。偽造伝書紙なんぞ、嘆かわしい事だ』

『人間は世代交代があるからね、ましてプライドが高いから、助けられた事は早く忘れたいんだろう』


「覚えてるよ、マーリンに助けられたのとか、ヨグがソラちゃんくれたのとか、覚えてるよ」


『ほら、本当はこうなんだよ、コレが本来のドリームランドでの姿』

『こんな幼女を苛めて、悪い神様だ』

《すまぬな、我の為にココも作ってくれたのに、浮かれておったのかも知れん。現界出来て、人と会えた事が、頼られた事が、嬉しくて堪らなかった》


「サービス精神が旺盛」

『そうだな、そういう事にしといてやろう』

『気を付けてくれるなら発禁にはしないよ』

《うむ、本質は我欲だけでは無いのじゃし、見抜いてこその楽園じゃ、気を付ける。また来てくれるか?》


「うん、向こうで困ってる人を見付けたら任せるからね、宜しく」

《うむ、ありがとう》


『じゃあ、少し温泉に行ってから帰ろうか、少し回復したいし』

『お主も分けたのか。全く、ラウラは大食らいだな』

《そうか、足りぬのに動かしてしもうたか、どれ、温泉のお返しじゃ》


 おでこをくっ付けられて目を閉じた、そうして瞼を開けると温泉宿へ居た。

 マーリンとロウヒと3人で浴衣で寝転んでいる、暖かい。


『まだココを利用してなかったんだってね、寂しがってたよ』

『あぁ、良い心地なのに、勿体無い』


「何か、余裕が無くて」


『良くないね、魔法は心身と直結しているんだから、ストレスを溜めたら良くないよ』

『そうだぞ、マーリンもそれで悩んで魔法が使えなくなったそうだからな』

「なに、どうして」


『それこそストレスでね、鬱って言うやつ、魔法を使える全ての人が恐れる病気。無気力になっちゃって、今日のラウラみたいに、もっと酷いのになった』

『だから、ココでお前がリラックス出来たら良いと思ってな、問題も早期に解決すべきと判断した。どうせ周りに気を使って、シバッカルの事は手が空いたら聞くか、とでも思っていたのだろう』


「なんでバレてる」

『あの過保護な保護者が居ては気を使うだろう、この身体の親もな、中々に過保護で苦労しているんだ』

『保護するだけが保護者の責じゃ無いんだけど、なんせ若いから』


『親にはもう少し、自分の人生を楽しんで欲しいんだがな、気を抜いてな、もう赤子ではないのだから』

『まだ未成年だからね、その身体も』


『まぁ、同士と言うワケでもあるし。そして何より私は強い、だからその事を忘れず頼って欲しい』

『一極集中を懸念してるのは分かるけど、ロキが生きてるかもしれないってなった以上は、ロウヒとトール中心で動くしか無いよ、2人は身内なんだから』


「身内?」


『何でか、ロキの母親と言う話しになっているんでな。民間伝承が纏め上げられる過程でそうなったらしい、だから話が一定の広まりを越えた辺りから、徐々にロキとの繋がりと情報が降りて来た、上書きと言うよりは別枠が湧いて来た感覚でな、本人とも対面してない。どうにも、しっくりこないんだ』


「なんで言わなかったし」


『隠す、隠れる天才だからか繋がりを感じられる時は極僅かで、しかも薄いんだ。トールも同様らしくな、死んだと言われた期間以降は全く感じ取れんで、だから死んだ扱いにしていたが』

『その期間以降のロキの痕跡があったから、今開示したんだよね、余計な不安を与えたく無いから』


「配慮は嬉しいが、開示された方が安心するタイプ」

『だろうが、ロキの母親なんぞは中々に悪名高いのでな、言いたく無かった』


「魔王候補みたいなもんか」

『こんな子が魔王候補とはな、どれだけ善人の世界なのだろうな、見て見たいわ』

『国や宗教にもよるからね、魔王の定義は』


「まぁ、お察しですよ。箔が付いたなとしか思わんが、ロウヒには家族が居るものね」

『守らねばいかん名誉もあるんでな、中々に苦労する』

『私なんかは子供だと名乗るのが年に20は出るからね、あの老人の何処にそんな精力があるのか問い質したいよ』


「魔法でなんとかってか」

『本当に。でもね、魔法って便利だけど無法じゃないんだよ』

『ラウラもそう誤解してる節がありそうだ、そんな規律も何も無い魔法があったら、世界はとっくに壊滅しているだろうさ』


「生まれた所では、そんな魔道具があってだな、何度滅びかけたか知らんという話しもある」


『そう分岐した世界の1つなのかな、色んなルールの世界があって、行き残った世界の1つ』

『崩壊していては行き来も何も無いだろうし、行き来の前提が、残った世界からの無作為取得なのかも知れん』


「賢そうな会話してる」

『これでも君を無事に帰す為に、試行錯誤に話し合いを重ねてるんだよ』

『トールもな、本格的にロキの追跡を始めたそうだ。今までの痕跡の再追跡からにはなるが、新たな情報が得られるかも知れんからな、礼は不要だぞ。アレは、アレ自身の為に行動している別動隊だ』


「殺す為に」

『出会った瞬間に殺すつもりは無いだろうが、まぁ、状況次第ではあるだろう』

『そこは民間人にも配慮するだろうから大丈夫』


『いざとなれば子供達も出るだろう』

『私達もね、国も、国連も』


「警戒レベルトップか」

『あぁ、国境も地形も変えたんだ、何処の国もそうだろう』

『だから御使いを警戒してるのもあるよね、ロキが御使いに化けるのも考えられてるから』


「国連の情報って手に入らん?」

『派閥によるね、良くも悪くも1枚岩では無いから』

『ワシは無理、動けぬから後方支援だ。何より北部担当、トールが南部で前線担当だ』


『でも、あんまり人と関わらなかったらしいから情報は少ないかも。でも今回動き出したから、これから入って来るかもね』

『だから少し待った方が良い、行動力もコミュ力も凄いからな。あの島も、交渉力で獲得した恐ろしい男なんだ』

「流石ロキの義兄弟」


『うん、だから焦らずに英気を養って欲しいな、トールが動き出した以上は、情報が何かしら入って来る筈だし』


「待つの苦手、おみくじでな、控えろとか待てって必ず書いてある時期があって、待つのと我慢するのと控えるの、どう違うんだと思ってたんだが、どう違うと思う?」


『おみくじとは何だ?』

『紙に書いてある占い?』

「そうそう、あ、あった、コレをこうで、出た。この紙に似たやつ、神様の神託と占いの複合っぽいやつ」


『方角、南方が良し。恋愛運、待て。ほう』

『待ても色々あるからね、まして帰還を焦がれてる者に、ただ待ては酷なのは分かる。なら、体調を整え万全の準備態勢で待て、とかならどうかな?』

「良い、凄く良い、します」


『では、その様にな』

『うん、じゃあまたね』






《良かったぁ、起こして良いか分らなかったんだけど、せめて点滴しようかと思って準備してたんだ》

「風呂だのサウナだのに入れんがな、どれだけ眠ってた?」

『えっと、30分程ですかね』


「そっか、じゃあサウナ行くべ、エリクサー飲むから向こうで待ってて」

『はい、準備して来ますね』

《じゃあ先にシャワー浴びてくる》


 レーヴィが石を準備する間に、マティアスがシャワーを浴びる。


 自分はエリクサーとトイレ、更にその合間に今度はレーヴィがシャワーを浴びる。


 そしてレーヴィが終ったら自分。

 もう、完璧な段取りでサウナへ入れた。


『変身して大丈夫ですか?消費はどうなんです?』

「大丈夫、変身の時に少し消費するだけだし、こっちの方が燃費が、体が軽く感じる」

《暫くは魔渦を解消出来なさそうだし、本当に男の子の身分証も作った方が良いのかもね》


「あー、ね、それも」

《あ、お腹鳴ってる》

『僕が掃除しますから、何か食べて大丈夫ですよ』


「すまん、凄い音したな」

《半日近く眠ってたんだから、空っぽだよねぇ、本当はすきっ腹でサウナは良くないんだけど》


「食べるから良いっしょ、サンド食べる?あ、サウナ用に冷たいパスタとか欲しいな」

《アイスにする。それでその事なんだけど、本格的にリタに作って貰ったら?量が量なんだし》


『リタは慣れてますし、機材もありますからね。勿論僕らも手伝いますよ、一緒にどうですか?』


「大食いだってバレちゃうじゃん」

《もうバレてるよ、一緒に買い物したでしょ?何かピンと来たんだって》


「あ、だから今日は多かったのか、持ち帰りも。ついいつもの買い方をしたから、失敗したな」


《少し話したら事情も察してくれた、知り合いが容量が大きいからって、好きな事を諦めた子が居たみたい。だから、素直に納得してくれたよ》


「すまん、何か誤魔化すのすら下手だ、気を引き締めます」

《大丈夫だよ、そこまで気負わなくても。シェフとだって上手にやり取り出来てたんだし。リタの事も、私もそこまで誤魔化す気が無かったんだ、その子の事を旦那の方から聞いてたし》


「どんどん巻き込む範囲が大きくなってる、看護師さんも福祉士さんまで」


《皆、事情があるんだよ、あるから協力してくれてる。あの看護師は親が病気だったから、治療魔法の可能性を信じて、黙る方が未来の為になると思った。福祉士は自分の不甲斐なさと、リリーを幼い頃から見てきた情、同情と治療魔法への期待。君の為だけじゃ無くて、本人達の理由もしっかりある。だからラウラが、そこまで重く考えなくて良いんだよ》


「それを、マティアスを使って利用してる」

《真面目も程々にね、利用されたがってる人を利用する位の気概で居てよ、向こうで世界を救うつもりなんでしょ》


「でも、ココは関係無いでしょう」

《あるかも知れないじゃない、得たモノはあったでしょ?その為かも知れないんだし》


「まぁ、それはそうかもだけど、ココの人には関係無いでしょ」

《ラウラと関係がある、ラウラと繋がりが出来た世界なんだから、関係ある。分かるでしょ》


「こっぱずかしい、幸せを願うから関係あるとか言うか」

《うん、ラウラが幸せになってくれる方が、リタもレーヴィも私も嬉しい、あの兄妹だってそうだよ》


「方向を変えて来たな、どんな心境の変化だ」

《ロウヒとマーリンから、少し過保護過ぎたって言われたのと。ブルーラグーンでの話しから読み取れる限りは、経験は君の方があるし、制限するのは悪手だと思った。周りはヒヤヒヤするけど、何とかなってる以上は、ラウラに任せるのが良いって、そう納得出来たから》


「マジ保護者、納得させなきゃいかんかったのか」

《そうだよ、何も知らない赤ん坊だと思ってたんだから》

『赤ん坊は言い過ぎですけどね、最初の幼いイメージが強かったですから』


「バリくそ成人なのにな、シオンは成人でいこうかな」

『外でも堂々と飲めますね』

《国連に徴集されそうなのが心配》


「偽装が完璧になれば良くない?無能ならほっとかれるでしょ」

《あては有るの?》


「ロウヒからね、多分、何か作るんだと思う、まだ確認してない」

《今見てみようよ、長く掛かりそうなら方針も変わるし》


「おう、ワクワクしてんな、見るか」


 サウナから出て、バスルームで袋をひっくり返す。


 ポッテリとした大きなガラスの空ボトル、観葉植物用の土と小さな苗のポット、そしてコルク栓。


《10ガロン位かな、コレをどうするの?》

「多分、ボトルガーデン作れって事だ、密閉した中で完全に循環する環境にしろって、無茶だぁ。バランスが難しいって聞いてるよコレ」


《ならリタの所で全部解決じゃないかな、ウッキは農林関係の人だから》

「だから発芽の事をあんな念入りに調べたんか、そら本職を誤魔化すのは大変だもんな」


『いっそ、植物の魔法の事を知って貰った方が良いのでは?もしかしたら何か情報があるかも知れませんし、僕らには言えなくても、ラウラになら教えてくれるかも知れません』

《でも、これ以上増やしたく無いでしょ?》

「まぁ、ボトルガーデンの助言は欲しいけど関わらせるのは最小限が良い。こうなってしまって、今更だけど」


《じゃあ明日の朝か昼にでも相談に行こうか、食事の事も、ボトルガーデンの事も》

『良いですね』

「賛成。暖まり直そう」


 ボトルガーデンセットを袋にしまい、サウナへ入り直す。


 もう大食いがバレたのなら、買い出しも一緒に行った方が良いだろうか。

 沿岸部なら安いし、良い物があるらしいし、後で提案しよう。


 2人はそのまま兄弟会議をするらしいので、先に出てシャワーを浴びる。


 食事を再開し、リタ自家製パンの生ハムサンドをウマウマしていると。


 次にマティアスが出て来た。


 上裸のままで左腕に点滴の針を刺す、ラフというか気軽というか。


 慣れてるから良いんだろうが、向こうでは想像も出来ない光景。

 寧ろ、これだけラフな方が楽かも、帰ったら流れでサクサクやってくれとでも言おうか。


《あ、痛い?》

「いや、こう、ラフにサクサクしてくれと、向こうでも頼もうかと思って」


《従者に?難しいんじゃない?》

「なー、刺しミスっても治せるから気軽にサクっとやれば良いのに」


《看護師か医師の免許を持ってて、経験者ならまだしも、そうじゃ無いんでしょ?》

「おう、緊急用の仮免ぽい」


《なら数をこなさないと、特にラウラは調子悪いとやりにくい》

「やっぱそうか、どうにかならんかね」


《そもそも、低値にならない》

「おう、血管を鍛えるのは無理か」


《うん、足はやった事ある?》

「記憶には無い」


《流石にそこまでいった事は無いんだね》

「鎖骨はあった気もする、ずっと眠ってばっかの時かな」


《えー、夢でも消費するの?》

「はい」


《夢見ちゃダメ》

「努力する。つか着替えなさいよ」


《あ、うん、温まりなおしてくる》


 入れ替わりでレーヴィが帰って来た。


 コッチはちゃんと着替えてる、パジャマだけど。


「パジャマ」

『部屋着ですよ、何処か出掛けます?』


「いや、何か新鮮、この前はスウェットだったし」

『近所への外出用ですから、ラウラはパジャマ着ないんですね』


「不意のお出掛けが多いし。今日は料理の仕込みするし、どうせまた入るでしょ」

『それなんですけど、精霊さん、熱した石をストレージにしまえませんか?』

《可能です》


『そうですか、ならまた少し加熱してからお願いしますね』

《了解》


 柔軟性が溢れてるというか、物怖じしないというか。

 何でも馴染むのが早い。


 どうしたらこうなる。


「どうしたら、そう柔軟になれる」

『家族に、特にマティアスの家で鍛えられましたから。人でも物でも堂々と使いこなさないと、周りを不安がらせて信用を落とす。使えるモノは親でも使え、仕事を任せてこそ、周りから初めて信用される。と』


「目線が高い、意識高い、帝王学か」

『使う側前提の話しですよね、使われるなら全てを先んじるつもりで常に考えよ。なんて子供に無茶を言うなと思ったんですけど、要は不器用であるならば、良く見て合わせろってだけでした』


「育ちぃ、ウチにそんなの無かったからなぁ、羨ましい」

『昔の家族はそうでしたよ、家事を手伝わないと分量を減らす、病人の食事に合わせるって、暗黙の了解程度でしたけどね』


「病人の食事に合わせるって良いな、こんな病弱なら周りが大変だろうけど」

『父方の祖母が少しの間だけ居たんですよ、病気で亡くなるまで祖母の提案するメニューで。母に料理を教える為だったらしいんですけど、当時はその大事さが分からなくて、少し恨めしく感じてましたね、自分の食べたい物が中々通らなかったんで』


「その時好きだったのは?」

『ピロシキです、今は手間が掛かる事もあって却下されたのは分かるんですけど、凄い好きだったんで、拗ねては父に怒られて、兄に窘められて。一時帰宅でレシピ帳を見付けた時にお腹が鳴って、マティアスに体が生きたがってるねって言われたんです。きっと、死にそうな顔をしてたんでしょうね』


「ピロシキを、今度、教えてくれんかね」

『はい、喜んで』


 生まれと育ちと環境とが複雑に絡み合って、揉まれて柔らかくなったんだろうけど。


 元の素養、素質もあるのだろう。

 どこでも適合率が高そう、しかも良い子だし。


 こういう人を飛ばしたら良いのに、レーヴィを飛ばすのはダメだけど。


《ふー、夕飯はどうする?何か手伝う?》

「大丈夫、つか2人は仕事に戻らないのか」


『僕は待機中なので、もし何かあったら基地に戻る予定です』

「すまん」

《私も。付き添いも兼ねてる、何かあったら嫌だし》


「心配性、もう原因が分ったんだから戻りなさいよ」

《何でレーヴィと対応が違うの》


「兵長は柔軟性と信頼感があるけど、マティアスは信じてくれないし」

《だって、現に倒れた様なものだし、心配になるでしょう》


「すまん、でも精霊が居るから大丈夫。前に魔石の話をしたでしょ、エリクサーも豊富にあるから、即死も野垂れ死にも無い、ハズ、何とかなる」

《それでも、点滴して、回復は早い方が良いでしょ?》


「まぁ、でも書かないのか、絵本」

《書くよ、ココで》


「落ち着いた家でとか」

《ココは慣れてるし、落ち着くから大丈夫》


「見張り」

《経過観察って言って欲しいなぁ》

『そうですね、今日だけは我慢して下さいね』


「うい、料理の仕込みしてきます」




 2人を置いて台所へ、先ずはお米を炊く。


 次に醤油と昆布とお酒で、漬け汁を煮切り、外の雪へ鍋を放置し。

 イクラへ取り掛かる、水道水がマジで冷たい。


 包丁を使う作業が無いので、思わず考えてしまう。

 元に戻したらしいリリーちゃん、剪定をした気がする。

 マーリンもロウヒも、ミアすら普通の事の様に受け入れてくれたが。


 そも人格を変えるなんて禁忌過ぎ。


 良く捉えて考えた場合だと、望まれてると思う方へ魔法が導いただけ。


 悪い捉え方は、自分の都合の良い様に剪定した。


 今更になって、恐怖心が沸き立つ。

 凄く、怖い事をした。


『変わりましょうか?』

「大丈夫、休み休みやってる」


『細かく取るんですね』

「舌触りとか食感が変わるらしいが、そこまで雑にやった事が無いから分らん」


『お醤油でしたっけ、不思議な香りですよね』

「嗅ぎ慣れて無いと臭くないか?」


『大丈夫ですよ、良い匂いだと思います』

「隣は塩で漬けるんだってね、レーヴィは食べないの?」


『少し高いのと、お酒がいくらでも飲めちゃうので控えてます』

「分かる、コレは無限に米が食える」


『お米が少し違うって聞きましたけど、それでも合うんですか?』

「それが合うんだな、イクラ強いから」


『そうなんですね。少し、休憩の時に試験の勉強はどうですか?日本のを借りて来ましたよ』

「ありがとう、一体どこから」


『この前頼んだ運送屋に話したら貸してくれました。ただラウラでは無く、別の隊の子に貸す名目で借りたので、少しの期間だけですが』

「ありがたい、少しで大丈夫だと思う」


 予想外に凍ってしまった汁へイクラを投入し、今度は家で1番寒い玄関へ放置。


 サーモンを刺身用に切り皿へ盛り、収納。


 そして炊けた米をケバブが乗っていた皿達に盛り、コチラも収納。




 それからロッキングチェアに座るレーヴィから本を借り、暖炉の前のソファーへ座る。


 隣には真剣な顔のマティアスが、原稿用紙にひたすら書いている。


 本の内容は一般的なマナーや挨拶、返事の仕方、避けるべき返事やジェスチャー等が載っていた。

 ネットがあれば簡単に調べられそうな事なのに、高いし、薄い。


《もう読み終ったの?》

「おう、常識が書いてあるだけだった。コレはいけますわ」

『応用編だそうですからね、基礎編はどうですか?』


「おう、これから読む」


 これは各国の常識や、共通する法律が書かれている。

 個人的な買い物の上限金額、運送出来ないモノと許可が必要なモノ、各国で差があるモノの簡易一覧。


 法律がネックか。

 運送の法律に移動魔法の法律、更に上の資格には人を雇う上での法律まである。


 移動魔法に速度規制がある事に驚き、そして魔力容量の確認で諦めた。


 偽装が出来ない事には、試験すら受けられん。


『どうしました?』

「魔力容量の確認があるって」

《実技試験の途中で倒れられたら困るからって、低値かどうか出発する前に確認するだけなんじゃ?》


「それでもよ、今年から法律変わりますんで詳しく測りますって言われたら、終る」

《それでも無いと思うんだけどね、特にラウラの移動魔法の場合は生き死に関係無いから、無闇に測れないハズなんだよ。魔力容量ってプライバシーに関する事だから、緊急事態以外は測れないハズだし。そこにコストは掛けないんじゃ無いかな?》


『数値を誤魔化すのに魔道具が必要でしょうから、測る際にレジストの掛かった部屋で行われるでしょうし、そうなれば1人1人、個別にしなくてはいけませんからね』


「でもだ。ボトルガーデン完成しそうになかったら願書取り下げる」

《お、受けるんだ》

『では、代筆は不可能なので、先ずは名前の練習からですかね』


「おう、がんばる」


 もう完全にソファーから降りて、床に座り字を書く。

 2人の生暖かい目線を感じながら、ひたすら書く。


 久し振りの紙と鉛筆かも、鉛筆が子供用なのが何とも言えん気持ちになるが。




『後は預金証明と』

《スタンプだね、サインだけじゃ偽造され易いから》

「それ、急場で間に合うのか」


《向こうのとか無いの?どんなのでも良いんだよ?》

「無い」


『試験日までに作らないとですね』

《大元の資本家の家紋をスタンプに使うとか、大きな運送屋のスタンプがそうみたい。ウチは運送屋には手を出して無いけど、言えば貸してくれると思う》

「出来るなら君達に関係無いのが良いんだが、誰か金持ち知らんかね」


《基本的には知り合いからお金を寄せ集めるか、金持ちから投資を受けるか、国から援助を受けるか。でも、投資家からの資金援助には宣伝したり交渉しなきゃだよ?》

「あら面倒臭い」


《でしょう。ならルーカスと隊の人はどう?》

『シモンやアンテロ、カールさんも協力してくれるハズですよ』


《何にも説明無しでね、他の投資家には色々と説明しなきゃだよ》

「預金証明は…コレは願書となのか、時間が無いなぁ」


《それに、来たばかりなのに投資家から援助を受けられるって事は》

「有能か、何かが際立ってるか、になるか」


《私らに直接紐付かない方法で良いと思うんだけど》

「頼む。それしか無いだろうし」


《うん》

『なら今日にも口座を作って貰いましょう、まだ銀行は空いてますから。僕は基地に話しに行きますね』


「それで1ヶ月後に試験か、がんばります」


 イクラをしまい、着替えて車へと乗り込む。




 銀行の前で降りると、車とレーヴィは基地へ戻って行った。


 国営銀行には運送信託と言うモノがあり、口座はどの年齢からでも開く事が出来る。


 送金手続きは窓口でのみ、事前に受ける側である委託者から、投資してくれる受益者を申請しておく必要もある。


 その記名はマティアスが代りにしてくれた、結局は未成年の立場である限り、保護者が必要になってしまう。


 未成年はマジで失敗したかも知れんが、代筆は助かる。

 他にも住所等をマティアスが代筆し、開設は無事に終了した。


 銀行から出ると、2台の車が目の前で停車、レーヴィとアンテロ達。


『終ったみたいですね』

《うん、何とか。後は任せたよ》

「ルーカスはどうするのさ」


《確認の為にも連絡が行くから大丈夫、半分も信託に保証金出すんだから。多分、今ルーカス宛てに伝書紙を出してると思う。入金が確認出来次第、預金証明を直接運輸省に送る手続きもしたし》

「そこはスムーズなのね」


《資金集めって難しいし、ギリギリになる人も多いから猶予があるんだって》

「下調べしてくれてるよね、ありがとう」


《いえいえ》

『彼らにお礼は不要だそうなので、帰りましょう。顔を合わせると時間が掛かるだろうから面倒だ、このままで良い。だそうです』

「なんと男らしい、ありがたい」


 3人が乗る車に一礼し、レーヴィが運転してきた車へそのまま乗り込む。


 折角なので、そのままリタの元へ向かい、食事とボトルガーデンの相談をする事になった。




「あら、お帰り」

《ウッキ帰って来た?》


「あ、まだだけど、ウッキに用なの?」

《それもあるんだけど、食事の事も、一緒に買い物に行って作ろうって》


「うん、良いわよ。いつにする?明日の早朝とかどう?市場に行きましょ」

「すみません、お世話になります。それでお願いします」


「何よ、水臭い事言って。もう、足りなかったって言ってくれて良かったのに」

「ごめんなさい、何かに巻き込むのが嫌で」


「それでも、もう遠慮したらダメよ。何が食べたい?」


「エビフライ」

「と?」


「タルタル、リタのタルタルで食べてみたい」


「じゃあ、いっぱい作りましょうね。お皿はあるの?」

「ある、お鍋とかもある」


「うん、じゃあ明日の為に、今日の夕食か夜食は軽いモノにしといてね、市場でも食べるんだから」

「うん」


《フライかぁ、楽しみだなぁ》

『一応、胃に優しい、軽い料理を教えて貰えませんか?』

「そうねぇ、バター無しのミルク粥とか良いけど、甘めにするのよねぇ。ラウラは大丈夫?」


「大丈夫だと思うけど、足りなかったらリゾット作る」

「ならチーズは控えめにね」

《そっちが良いな》


「はいはい」

「後は、ウッキに用事って?」

《ボトルガーデンってのを作ろうって、それで何か助言が貰えるかなって》


 車の停車する音が聞こえた、暫くして扉が開くと噂の人物が帰って来た。


《おや、夕飯の相談かな》

《ただいま、どうしたのかしら?》


《ウッキにボトルガーデンを教わろうって話してたんだ、ラウラが頼まれちゃって。あ、運送屋の願書も出して来たんだよ、ね》

「うん」


《そうか、サイズはどの位なんだ?》

《出しちゃおうか》


「コレ」


 デカい空瓶を出すとビックリした様子だったが、暫く考えてからウッキが口を開いた。


《投資の条件なら面白い内容だが、植物の成長の様子を見て水の量を調節しなきゃならんよ。長く掛かるだろうに》

「植物を成長させる魔法って」


《俺は使えないんだ、使える奴も知り合いに居るんだが。このサイズを安定させるなら、有料になるだろうな》

「あれま」

《あ、でも宛があれば大丈夫なんでしょ?なら初期設定だけでも、ウッキの助言を貰えないかな》


《最初なんかは意外と簡単なんだ、大体ココまで土を、そうだな、ハウスでやるか》

「お願いします」

「2人はウチの夕飯の仕込みをお願いね」

『了解です』

《はーい》




 ビニールハウスへ赴くも、芽はまだ出て無い、ウッキが道具を出してる合間に様子を伺う。


 瀕死のもある、後で芽を出させるか。


 シートを敷き、シャベルに筒状の何かと漏斗、長い金属製の箸を出し、消毒してる。


 綺麗な布で拭き上げてから、シートへ置いた。


《人間と同じで、いじる時も使い終わった後も消毒するんだぞ。で、手袋だ》

「ほい」


《瓶もなんだが、消毒してあるんだろか》「あー、多分大丈夫かと、渡されたのがコレで全部なので」


《まぁ、匂いも少しアルコールの感じがするし大丈夫だろう》

「匂います?凄く良い鼻」


《俺も亜人だ、まぁ、背中に毛が生えて鼻が良いだけ、大して役には立たん》

「へー、気付かなかった」


《だろう。残留薬品も無さそうだ、よし、土を入れるか》


 ウッキがスコップで土の入った袋を突き刺す、袋からは肉眼で確認出来る程に魔素が溢れ出した。


 見えてないのか当たり前なのか、特に気にする素振りも無く、漏斗を持たされた。


 ウッキが袋を持ち上げ土を入れる、少し湿り気がある土がボトボトと入る。


 ボトル半分に土が入った頃、袋が空になった。


 筒や箸で土を均し、真ん中を窪ませる。

 そして徐ろにポットへ箸を刺し、ひっくり返すとカップを外し。

 ボトルへ入れ込み、埋めて均す。

 豪快。


 随分と可愛らしい苗が、真ん中でちょこんと鎮座している。

 良い感じだが寂しい、知ってるのはもっとワサワサしてる。


 水を汲みに行ったウッキの隙を見て、庭の芽をほんの少し出させ、根付かせる。


 イチジクなんかは特に気を付けて、芽が土から出た瞬間に止めた。


 戻って来たウッキは気付く事も無く、如雨露を渡してくれた。


 ゆっくり優しく、水を撒く。


 水を得た土から再び魔素が湧き、ボトルの口から煙突の様に噴き出す。


「ありがとうございます、急に頼んですみません」

《道具を少し貸しただけだ。さ、道具を洗いに行くぞ》


「うい」


 洗剤で洗い、良く流してからアルコール消毒。


 後は吊り下げとくだけだそう、道具小屋の中は良く手入れされた物ばかり。


 流石。


《持てるか?》

「むり、しまいます」


《どうだ、楽しかったか?》

「はい、ガーデニングとかした事無かったので新鮮でした」


《元気な時で無いと出来ないからな。もし成長させられたんならまた持って来てくれ、水の調整をするからな。当分は蓋は開けたままで、陽が当たる様にしてやってくれ》

「はい、ありがとうございました」




 リビングで改めて取り出し、お披露目。


《まだ封はしないんだね》

《あぁ、土が見えなくなるまで葉が増えてから水を足す。まぁ、魔法が出来るのに見せれば分かるだろう》

『どう分かるんでしょうね』


《感覚らしいぞ、乾いてるとか栄養が足りないだとかが分かるんだとさ、便利で羨ましいもんだ》

「その人に来て貰ったら、イチジク食べ放題よね」

「ね」


《忙しいのを呼ぶとなると、最低でも移動費を出さんとな。個人事業主なんだ、友人でも少し割引が効く程度だ》

「良いお金になりそう」


《そらそうだ、種が死んでなきゃ何でも根付かせるんだ。金持ちの庭なんかもやっててな、良い暮らししてるらしい》

「資格ってあるのかな」


《無い、会社を立ち上げるだけだ。なんだ、成りたいのか、欲張りな治療師様だ》

「お金持ちは皆の夢かと」


《まぁな、それでも自由な時間があればだ。デートする間も無いなら、程々で良い》

《ふふふ、そうね》

「ヤバい、ノロケがくる」

《よし帰ろう》

『お邪魔しました』

「じゃあ、また明朝にね」


「うん、お邪魔しました」


 再び家に帰り、今度はリゾットを作る。

 市販のジェノバソースとお米、水を入れ、煮る。

 隣ではミルク粥を作るレーヴィ。


 マティアスはまたソファーで物書き。


 忙しい様な、ゆったりした時間の様な変な1日。


 もうそろそろ陽が落ちる。


 お粥はもうレンジで終えたらしいので、リゾットを任せ、夜食用のスープを作る。


 キャベツにベーコンとトマト、コンソメをぶち込み終了。


 少し早めの夕飯を食べ、サウナへ向かう。


《お疲れ様》

『お疲れ様でした』

「お疲れ様、長かった、疲れた」


《やっぱ足りないのが続くと疲れ易くなるんだね》

「まぁ、偽装でこれなら、倒れるのも分かる」

『早く寝ても大丈夫ですよ、適当に過ごしますから』


「君らはどうするの」

《私はソファー》

『僕は帰って、また朝に迎えに来ますよ』


「すまんね、ありがとう」


 早めにサウナを出て、ベッドへ入る寸前に、バスローブを羽織ったマティアスが点滴をしに上がって来た。


 何とか目を開けドアを開け、腕を捲り横になった。

『マーリン』《マティア》『看護師』《サンテリ》『リリー』「リタ」『ミア』『ロウヒ』『レーヴィ』《宿屋のウッキ》《宿屋のムンモ》

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ