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2月22日

フィンランド語で「ぐぬぬ」に相当するのってどんなんだろう。

 起きてみると吹雪はすっかり収まっていた、ルーカス達はもう出発したらしい。


 エリクサーを飲み、軽く身支度をしてからマティアスと共に車に乗り込む。


 宿へ行く途中で、紹介された家へ寄ってみる。


 空は仄かに青く明るくなりつつある。


 着いたのは、川沿いの小さな木造の一軒家、先ずは周りを1周。


 新築感は無いものの、薄緑色のレンガに白い柱、深い青緑色の屋根。

 良く手入れされていて、傾きも腐食も無い。

 外から覗ける窓には、シンプルで可愛い蔦柄の白いレースカーテン。


 なんと弩ストライクな家なのか、早く中が見てみたい。


 帰ろうと車に乗り込むと、前方から車が来た。

 そしてそのまま目の前で停車し、人が降りて来た。


『マティアスか!俺だよ!』

《タピオ!良いタイミング!ラウラ、持ち主だよ》


「おはようございます」

『おはよう、今日見に来るって言うから、ココに寄ってから鍵を預けに行こうと思ってたんだが、良いタイミングだ。時間があるなら案内しようか?』

《折角だからお願いしよう?》


「お願いします」


 床も壁も白木で出来ていて、多少は使用感があるが大事に使用されているのが分かる。


 セントラルヒーティングは無いが、この大きな暖炉で何とかなるらしい。

 サウナとキッチンは比較的新しい、何で貸し出すんだろう。


《どうしたの?》

「何でこんな良い別荘を貸し出そうって思ったのかなって」

『4人目の子供が出来たんでね、そしたら狭くなるから。今度から夏場は、嫁の方の別荘に行こうって。でもそんなに空ける期間が長いと家が痛むから、マティアスに貸し先が出来たら連絡してくれって言ってあったんだ、まさかこんな時期に話が来るとはね、助かったよ。夏の休暇にはフランスに行っちゃうから』


《いつもはココで飲んだくれたりしてたのに、今年からはフランスなんて残念》

『お前も来たら良いじゃないか、嫁の友達に良い子が居るらしい、紹介するぞ』

「是非、可哀想な彼にお慈悲を」


『あははははっ、良い子だ。暫く向こうに行くからいつでも来いよ、このお嬢ちゃんを連れて来ても良いんだし』

《じゃあレーヴィも連れて、一緒に行こうかラウラ》

「遠慮しときます、ご兄弟でどうぞ、邪魔したく無いので」


『なら交代で来たら良いさ、子守りしてくれるなら、衣食住は保障するよ』

「ありがとうございます。是非検討させて頂きます」

《ならお小遣いもあげてよね、治療師に子守りなんて貴族みたいな好待遇になるんだから》


『この子がそうか、腕の良い治療師に貸すって言うから、こんな若い子と思ってなくてね、そうか。難民申請?』

「はい、マーリン派でして。少し早い成人祝いじゃないかと」


『そうか、マーリン派は英語かと思ったが、発音が上手いね』

「良く言われます、多国籍だったので耳が慣れてるのかも」


『成程ね、他の国の言葉もいけそうかい?例えばフランス語とか』

「多分、昨日はスペインに行きましたけど、何とかなりました」


『なら本当に子守りをお願いするかもね、それは別にしても、遠慮なく借りるかどうか決めておくれ。鍵はマティアスに渡しておくから』

「借ります、宜しくお願いします」


『よし、じゃあ今日から君に貸そう。家賃は来月分からで構わないよ、家の事で分からない事があれば、マティアスに聞くと良い』

「今払います、本当に」


『家賃が入るだけで充分だし。少し早めの成人祝いと思ってくれたら良いよ』

「ありがとうございます、じゃあせめて今直ぐ、1ヶ月分だけでも」


『そうか、じゃあ宜しく頼むよ、ようこそフィンランドへ』

「はい、宜しくお願いします」


 タピオ大家が用意していた賃貸契約書にサイン。

 本カードのコピー、マティアスの署名等が付けられ契約が完了した。


 まさか今日から、いきなり借りられるとは思って無かった、リタに沢山お礼しないと。


『じゃあ俺はこのまま仕事に行くから、後は任せたぞマティアス』

《おうよ、行ってらっしゃい》

「ありがとうございました」


『おう、じゃあな』


 鍵を貰い、先ずはリタへ報告に。




「家を借りる事になりました、今日までありがとうございました」

「おめでとう、取り敢えず朝食を用意しちゃったんだけど、どうする?」

《食べる!今日は何?》


「良かった、お祝いに今日はキノコのカンネローニ、それとガトー・デ・パターテって芋のオーブン焼き、さぁどうぞ」


「いただきます」


 太い筒状のパスタにほうれん草とチーズに黒いキノコが入り、上にはさっぱりしたトマトソース。

 キノコは香ばしい香り、コリコリして木耳みたいで美味しい。


赤熊網笠茸(コルヴァシエニ)じゃん!下拵えが大変なんだよねぇ、レーヴィにも絶対に持ってってあげないと》

「毒抜きに少し手間が掛かるだけよ。昨日片付けしてて乾燥したのを見付けたから、本カードのお祝いに良いかと思って」

「ありがとうございます、好きですこのキノコ。お礼にコレ貰って下さい、スペインの生ハムです」


「わぁ!好きなのよ、ありがとう、愛してる。明日は生ハムパーティーね!お昼に来て頂戴、色々作るからレーヴィも呼んでね!」

「やった」

《やったね、ナイスだよラウラ》


 美味しい食事の後は支払い。

 昨日は部屋を使ってないし、生ハムの事もあるから受け取れないと断られ、押し問答の末に清算が終った。


 少し寂しい気もする。


「ところで、どこら辺に住む事にしたの?」

《タピオの別荘》

『あぁ、あそこか、車で15分位の所だ、前に1回遊びに行ったろ、緑色の可愛い家だよ』

「あぁ!川沿いのね」


『去年まで使ってただろうから、一通りの物は揃ってるだろうけど』

「じゃあ、掃除用具とかは大丈夫そうね」


「リタの料理が食べたくなったら来ても良い?」

「勿論よ!寧ろ、呼ぶから食べたく無い時はちゃんと言ってね、自炊するんでしょう?」


「一応は、でも自分の料理は味が分かってるから、そんなに楽しくない」

「料理慣れすると良くあるのよね、そういう時は同じ料理でも新しい食材にチャレンジすると良いのよ、それでも納得いかない時は味見させて頂戴、アドバイスするわ」


「ありがとうございます」

《私も味見する》


「うるさいぞ。じゃあ、お世話になりました、ありがとうございました」

「うん、じゃあお掃除に行きましょう、お義母さん洗い物お願い。直ぐ準備するから2人は車で待ってて」

《あいよ、行ってらっしゃい》

『じゃあ少し薪を分けてやるよ、運ぶぞマティアス』

《じゃあ鍵渡すから、エンジン掛けて待っててラウラ》


「え、あ、はい」


 断る間も無く準備をしに行ってしまった。

 マティアスとリタを車で待つ。


 凄い連携だった、企まれてたのか。


《はい、お待たせ、少し待っててって》

「断る間が無かった、仕組んでた?」


《してないよ。皆、妹みたいに心配してるんだよ、家を見て安心したいんだって》


「盗み聞きは良くないぞ」

《ごめん、美味しくてつい気が緩んじゃって、聞こえちゃった》


「気を付けたまえ」

《はーい》


「お待たせ、さぁ行きましょ!」


 リタを連れて再び家へと戻ると、早速窓を全開にし、掃除が始まった。


 リタの指示でマティアスが水道周り、リタが暖炉に取り掛かる合間に、全てのカーテンを取り外し、洗濯場へ置く。


 次の指示で2階から埃をはたき落とし終わると、水道が開通したので1回目の洗濯。


 クッションやマットレスを干していると、1階のはたきが終わっていた。

 暖炉にも、火が灯っている。


 次は床掃除をリタが買って出てくれた、その合間にキッチン用品の整理をと指示され、使わない物は届かない高い場所へマティアスに置いて貰い、良く使いそうな物を軽く洗い自然乾燥。


 2回目の洗濯物を干す際に、1回目のレースカーテンが乾いたので取り込んで掛けていると、マティアスが珈琲を淹れてくれて軽く休憩になった。

 怒涛。


 すっかり気付かなかったが冷蔵庫が無い、避暑の度にストレージで家から持って来てるそう。

 特に困らないので、買う話は出なかった。


 3回目の最後のカーテンが干し終わる頃、オーブンの調子を見る為にリタがスコーンを作ってくれていた。


 手が空いてしまったので、マティアスと買い出しへ。

 この家のシーツやタオルは流石に使うのは気が引けるので、リネン類の新品を買いに行く。


 乾いた薪と、ベッドの上に敷く敷きパッドも見付けたので買い足し、家へ戻った。




 埃っぽい匂いはすっかり消え、スコーンの良い匂いが出迎えてくれた。

 家に帰って来た感じがする、4人目の赤ちゃんにマジ感謝、意地でも出産祝いを送らねばなるまい。


「良い匂いで、本当に家に帰って来たみたい」

「ふふ、召し上がれ。オーブンを試すのに簡単なスコーンで悪いんだけど、ジャムは持って来たから、どうぞ」


「そこまで考えて持って来てくれたの?凄いんだけど」

「昨日はクッキーを焼いたから、今日はスコーンにしようと思ってて、丁度良かったから焼いてみただけ。ウチのより左側の火力が少し弱いから、教えたのより長めにして、反対側に入れ替えて焼いてね」


「凄い、何処までも手慣れてる」

「慣れた簡単なモノで試し焼きすると良いって、ママに教えてもらったの。簡単だと、失敗してもガッカリが半分で済むって」


「ありがとう」

「いえいえ、どう?美味しい?」


「美味しい」


 リタはまだ新婚さんだけど、絶対に良いお母さんになる。

 分かる、コレは確信。


《ご馳走様、美味しかった。帰りはどうする?何処かに寄る?》

「そうね、買い出しに行くつもりだったから、スーパーまでお願い、一緒にどう?」

「いく」


 マティアスを仕事へと追い払い、楽しいスーパーデートが始まった。


 生ハムの原木は下処理してから次の日が美味しいので、明日が生ハムパーティーに最適だとか。


 ポレンタと言われるトウモロコシ粉をマッシュポテトみたいにして食べるのが好きだけど、混ぜ続けないといけないから大変で、夫婦で混ぜる時間をゲームで決めてるとかノロケられたり。

 エビフライの食材を買い込んでいると、今夜はライスコロッケにするだとか、美味しそうな話に花が咲いた。


 店の前のバス停でバスが来るまで話し込み、解散。


 少し混んでいる街中で跳ぶのは気が引けるので、自分もバスに乗り、基地へと向かった。




 病室へ戻ると、お兄ちゃんがゼリーを食べていた。

 腫れもかなり収まっていて、完食しても問題無いらしい。


『食べる?』

「たべる」


 赤いのはイチゴの匂い、結構甘い。

 お兄ちゃんはかなり満足そう、やっぱり食べるって大事。


《ラウラ、戻ってたんだ》

「おう、どした」


《お昼は?》

「まだ」


《じゃあ行こうか》

『行ってらっしゃい』

「おう、行ってきます」


 そのまま中庭へ向かい、盛り合わせプレートを出していると、無言で圧力を掛けられた。

 食堂で食べたら良いのに。


《私のも頂戴》

「リタとは買い物しかしてないよ」


《うん》

「つか食堂で食えよ、終ったとは言えリリーちゃんに逆恨みされるのはゴメンだ」


《キッシュくれたら行く》


「じゃあ少しだけ」


 オヤツ用にと小さく切ったキッシュの盛り合わせを出すと、早速食べ始めた。

 何にも言われないのも少し怖いが、ニコニコしてるので大丈夫なんだろう。


《美味しかった、ご馳走様でした》

「おう、もう行け。ロウヒんとこ行ってくるから、また後で」


《うん、また後でね》


 お昼を食べ終え、基地から離れた場所でロウヒの所へ向かう。




 今日の手土産はスペインのお土産と、スーパーで売っていた可愛い白熊のケーキ。


「ケーキと共に報告に来たお」

『うむ、入れ』


 ケーキを切る事無く、フォークでつつき合いながら珈琲を啜る。

 中身は、生クリームとイチゴのケーキ。


 美味しいけれど中が赤いイチゴで、断面図がリアルな感じで笑える。


「どうよ」

『美味しい、イチゴは好きだ、酸っぱいのもチョコフォンデュにして食べる位に好きだ』


「絶対に上手いじゃん」

『今度やろう』


「うん。家決まった」

『早いな』


「基地の人間の紹介で、ココみたいな感じの、別荘用の家」

『こういう時だな、この地を離れられぬのが少し疎ましいと思う』


「空間開いて見せようか?それもダメ?」


『考えもしなかった、そう使うのか、そうか、アリだな』

「お、じゃあ先ずは外観から、どうぞ」


 続いて玄関からの眺め、2階の寝室を見せると変な声を出した。


『ぅう…何で思い付かなかった、こうすれば離れた友達とも気軽に会える』

「空間移動魔法禁止の所もあるし、それのせいじゃない?」


『にしてもだ…あ、結界を張れる魔道具をやろう、祝いの品だから受け取れ。移動魔法、ストレージ、魔道具を禁止出来る品だ。もう既にココでは別の魔道具を使っている』

「ありがとう」


『はぁ、もっと早く気付けてたら、何十年も生きて、なんてアホなのだろう』

「まぁまぁ、しょっぱいのいらない?キッシュ作ったのがあるんだけど」


『たべる』


 キッシュの盛り合わせを半分ほど食べて、残りのケーキへ向かってから、再びキッシュへ向かう頃。

 ロウヒの気持ちが、少し持ち直した様子。


 落ち込む大魔女は可愛いかった。


「それと、偽装された国連の伝書紙を持って来たんだが」

『は、どうしてそんな物が』


「尋問官の伝書紙、手紙の行き違いで発覚した」

『一体誰がそんな事を』


「不明、一家丸々、下手したら2代続けてやられてる」

『可哀想に』


「だよね、でも暫くは様子見するって。ロウヒからの伝書紙で困ってないからって」

『そうか、やったのか。なら予備を渡してやろう』


「ロウヒは大丈夫なの?そんなにくれたら無くならない?」

『毎日出しても100年分以上はある、作れる。そうだな、困ってる者に配ってやると良い』


「ありがとう」

『代わりと言っては何だが。今度、空間を繋いでパジャマパーティーをしよう』


「お、良いね、今夜にでもする?」

『うん、する』


「こんなに親切で優しいのに、何で今まで御使いは来なかったんだろう」


『怖い悪い魔女と他国には思われてた、某国の映画で悪役として大活躍だったからな。私も見たが、近寄ろうとは思うまい』


「あら、じゃあ今度観ても良い?」

『なら今夜観よう、ウチにあるんだ、ほれ』


 悪そうな老婆のジャケット。

 【アーサー王とロウヒ大魔女】とタイトルが書かれている。


 確かに悪そうだが、何でアーサー王か。


「何でアーサー王」

『最初はそう思ったんだが、まぁ観れば分かるさ』


「楽しみだ」

『オヤツはお互いに用意しよう』


「おう」


 またケーキに手を伸ばし、すっかり気持ちを持ち直したロウヒ。


 キッシュも完食し、お開きとなった。




 基地へ帰り病室へ戻ると、シャワーを浴びて良い匂いのお兄ちゃん。

 まだ点滴はしているが、かなり元気になっていて退屈する余裕がありそう。


『お帰りなさい、お水も普通に飲んで良いんだって』

「ただいま。やったじゃん、お薬とお願いがダブルで効いたのかもね」


『うん』

「じゃあ看護師長も褒めてくるかね、ちょっと行ってくるよ」


 看護師長室へ向かうと、扉を開けたままマティアスが昼寝をしていた。

 なんて不用心。


 目の前の椅子に座っても目覚める気配が無いので、暫く借りた絵本を読む。




【黒い御使いと白いカラス】


 雪の降る季節、お昼ご飯を探しに白いカラスが森の上を飛んでいると。

 もっと奥の、更に深い森から良い匂いが漂って来ました。


 匂いを辿り森を飛んでいると、人間が倒れているのが見えました。


 白いカラスは人間を食べた事はありませんが、今は寒い冬なので食事の選り好みは出来ません。

 そして何より良い匂いに抗えなくなった白いカラスが近寄ると、突然胴体をガッチリと掴まれてしまいました。


「何だお前、俺をつつきに来たのか」

《だって、あんまりに良い匂いだから》


 話す白いカラスに驚いた人間が手を離したので、近くの枝まで逃げました。

 人間は追い掛けてきません、今度は仰向けに寝転がり、ただボーッとしています。


「何なんだ、何処なんだココは」

《迷子なのか、ココはサンタの居る村の近くだぞ、道案内してやろうか?》


「本当か?!頼む!」


 人間が着いて来られるように、飛んでは枝へ止まり。

 また飛んでは止まりを繰り返していると、人間にも村が見える場所まで辿り着きました。


《もう大丈夫だな良い匂いの人間、じゃあな》


 村に入れば他の鳥に苛められてしまうので、白いカラスは再び森へ向かいました。


 野鼠や、まだ枝に残る木の実を漁って数日が経った頃、また良い匂いがしました。


 またあの人間が森へ迷い込んだと思い、匂いを辿ると、パンを紙袋いっぱいに抱えて歩いていました。


「白いカラス、お礼にパンを持って来たんだ。白いカラス、居ないのか?」


《何だ、迷ったんじゃ無かったのか》

「あぁ、お前のお陰で命拾いしたからお礼にと思ってな、焼き立てのパンを持って来たんだ」


《熱いのは嫌いだぞ》

「千切って冷ましてやるよ」


 人間が出来立てのパンを千切り、ふーふーと息を吹きかけ冷ましてから、上空へと投げました。

 良い匂いの人間のくれる良い匂いのパンに思わず飛び付くと、とても美味しく感じました。


《もっと》

「よし、もういっちょ」


 人間は時折千切ったパンをそのまま食べたり、白いカラスにあげたりと一緒に食べていました。


《もうお腹いっぱいだ》

「じゃあコレはまた明日だな、じゃあまたな、白いカラス」


 それから3日間、続けてお昼にお腹いっぱいパンを食べられました。

 ですが、林に偵察に来ていた他の鳥にバレてしまい、真夜中に更に奥の森へと追いやられてしまいました。


 それでも、人間は深い森まで来てくれて、パンをくれました。


 そうして7日目の昼の事。

 いつもの様にパンを食べていると、白いカラスは突然眠気に襲われてしまいました。


 良く思い出してみると人間は、今日はパンを1口も食べていなかったのです。


《なんで》

「お前を食べる為だよ」


 白いカラスは、人間が泣きながら笑っている様に見えたかと思うと、そのまま眠ってしまいました。


 騒ぎに気付いた鳥達は、匂いのする人間を襲い始めます。


 鳥達は白いカラスを人間から守る為に、白いカラスを村から追い出したのです。

 白いカラスには鳥の言葉が分からないので、追い立てるしか無かったのです。


 そしてとうとう、人間によって白いカラスが命を終える頃。

 鳥達は悪い匂いの人間に呪いを掛けました。


 それを知らぬまま薬を作り終えた人間は喜び、鳥達は悲しみました。

 伝説通り、不老長寿の薬となった白いカラスは、もう目覚めません。


 それ以来、鳥達は匂いのする人間を襲う様になりました。


 呪いと薬は彼の血族へと引き継がれ、匂いのする人間の子供、その子供の子供へと引き継がれ。


 そして薬が途切れた頃、再び白いカラスが何処かで生まれるのです。


 おしまい。




 白いカラス可哀想。

 フギンとムニンは黒いけどデカいし、賢いから大丈夫だろうけど。


《フギンとムニンって》

「北欧のだよ、いつの間に起きてたの」


《少し前、お帰り》

「ただいま。どんな呪いなんだろうか」


《最後のページの挿絵、ほらこれ、この痣じゃないのかな》

「蒙古斑じゃんか。それに黒いってのは服や髪だけで、黒い翼は無いし。コレって逆に、御使いは白いカラスの方?」


《そこは賛否両論なんだよねぇ》

「倒れてるのだって、隣町か何かから来ただけかもだし、白いカラスが何処から来たか書かれて無いし。可哀想な御使いシリーズかよ」


《可哀想な御使いシリーズ…そう分類すると少し入れ替わるかも、待ってて》


 マティアスが分類を始める、そうして分類は再び3つになった。

 被害者、加害者、その他。


 またさっきと同じ分配で分かれている。


「うわ、こわっ」

《被害者はどれも死んでるか生死不明、なんだろ》


「マジか。この、その他の分類は何よ」

《両方出てたり、目撃者だったりする》


「マニア的にどうなの」

《ね、再分類するとは思ってもみなかったよ、あの分類を鵜呑みにしてたから》


「誰が分類し始めたの」

《それは分からない、本屋でも図書館でも、既に分類されてたから》


「可能性としては出版社か」


《やっぱり、行く事になっちゃうよね》

「残念ながら」


《他の選択肢を増やす方法は無い?》

「ある?尋問官か出版社しか無くない?」


《うー、もう少しだけ時間をくれない?》

「なんで、どの位」


《他の選択肢が無いか分かるまでか、出版社の安全が確認できるまで》

「何も無いかどうかなんて、悪魔の証明しようってのかい」


《だって、何かあったら私が助けてあげられる事なんて殆ど無いと思うから、だから安全な道を行って欲しい》


「じゃあ何かあるのを前提に言うけど、そうなったらロウヒに会いに行ってくれ、もしかしたら助けてくれるかもだし。君には無理だって追い返されるかもだし、そうなったら諦めろ。人間1人が出来る事なんてたかが知れてるし」

《命を大事にしようよ》


「してる、君が心配し過ぎなんだよ。そこまで、悪用するにしたってだ、使用方法は限られてるでしょうに」


《一緒に眠るだけで病気治しちゃうんだから、そこそこ便利だと思うけど》

「は」


《君が意図して治したんじゃ無いんだね》

「マジで何もして無いが」


《予想より治りが早いから、何かしたのかと思ったけど、そんな事も無さそうだし。何か原因が有るなら、君と一緒に寝てた事位で。で、多分漏れてるんだと思う、何かが》

「何かって、なに」


《魔素の測定器は反応しなかったし、予想だし、詳しくは分からないんだけど。まだ何か隠してるよね》


「まぁ」

《ほらぁ》


「利用される位なら死ぬから心配するなって、被害は出させないから」

《それを心配してるんだけど》


「自分の責任を自分で取って何が悪い」

《そうならない様にしようって話なんだってば》


「それで何も出来ないのは本末転倒なのは分かってるのか」

《何もしないで、ここで長く生きたって良いじゃない》


「戻りたい気持ちを分かってはくれないか」


《だけど》

「どっちにしたって越えないといけない壁がある以上、早めに越えたい。確認して安心出来なきゃ、コッチでだって安住の地は無いと思うが」


《ぐぅ》

「そもそも調べ漏れがあっても君の責任にはならないんだし、君の責任と思う必要も無い。勿論思うのは勝手だけど、本来の責任は行動する自分にある。大人なんだから」


《まだ子供でしょ》

「それでもだ、料理してて包丁で怪我したからって製造元に責任が無いのと一緒でしょ、ほれ、納得しなさい」


《やだ》

「もー、レーヴィもルーカスも良い子なのにな、君だけだぞマティアス」


《自分の人生を好きな様に生きて欲しいだけ》

「好きに生きる為にするんですが」


《じゃあ少し我慢してよ》

「むり」


 ノック音がし直ぐに扉が開くと、兵長がオヤツを持って入って来た。

 膠着状態を目の当たりにし、口を開く。


『また、どうしたんですか』

「兵長、この人が我儘言うんだよ、控えろって」


『昨日の兄弟の事は少し驚きましたけど、何か考えがあっての事なんでしょう』

 《あ、それも、勝手に相談も無しに》

「飛び火した」


『相談を、説得して貰えるだけの能力が僕らに無いからじゃ無いですか。それに、僕らの安全の為に言わなかったって場合も考えられますよ』

「そういう事にしといて」


『ほら、僕らの安全を考えるのも、ラウラの為になると思うんですけどね』

「そうだそうだ」


『すみませんね、心配性なんですよ』

「知ってる、過保護過ぎ。タピオの嫁さんが女紹介してくれるって言ってるみたいだから、さっさとそっちに気を向けて貰おう」


『それは良い話しですね、進めましょう』

《やだ。聞こえるのも、それを伝えるのも、嘘つくのも面倒だから、まだ良い》


「分かる、だからここで長く生きるのを考えちゃうんだよなぁ、一生嘘つき続けなきゃならんかもだし。君の様にな」

《ぐぬぬ》

『マティアスは、意思疎通が簡単に出来ると思うからこその、悩みなのかも知れませんね。案外、人は相談しないものですよ』


《そうかもだけど、コレは違うじゃん》

『傍から見ればそうかも知れませんが、人それぞれ、本人にしてみたら分かりませんよ』

「そうだそうだ、弟は現れるか分からないんだから、相談するまでも無いだろ」


『それでも、少しは聞きたかった気持ちもありますけどね』

「さーせん、つい思いついちゃって、つい」


『こういう瞬発的な問題は相談できませんし、諦めて下さいマティアス。コレから先の事でも、問題があるとすれば相談してくれるかも知れないんです、それを期待しましょう』


《絶対に、大事な事は相談しなさそうなんだもの》

『それも、気遣いとして諦めましょう、干渉し過ぎて人生を狂わせてしまったら。責任取れるんですか』

「取って欲しく無いから適当に考えてくれよ、頼む」


《努力は、してみる》

『頑張って下さいね、じゃあ僕はこのまま巡回に行きますから。ラウラはどうしますか?』


「うーん」

《安定してるって言うか、治っちゃったから帰っても大丈夫。まだ話し合う気なら、居て欲しいけど》


「帰りまーす、挨拶してくるから少し待ってて」

『じゃあ車を回しておきますね』


 病室へ戻ると、水差しとコップが置かれていた。

 身体を診ても何とも無い。


 どうやら本当に治ったらしい。


「水置いてあるのね」

『急に沢山飲むとまたお腹痛くなるから、ゆっくり飲めって』


「おう、そうしときな。吹雪も盲腸も収まったみたいだから帰るね、お邪魔しました」

『うん、またね!』




 久し振りに家と呼ばれる場所へ帰る。

 道案内せずとも、タピオの家に向かっている様だ。


 兵長も、行った事があるのだろうか。


「兵長も行った事あるのか」

『はい。夏はマティアスの逃げ場になってましたから、僕に実家に帰る様に説得されるのが嫌で、逃げ込むのがあの家か、宿屋ですから』


「だから勝手が分かるのか。何で、真っ先に紹介してくれなかったんだろう」

『僕らの家からも遠いからですかね、川を2個も渡らないといけませんし』


「過保護」

『ですよね、妹さんを構えなかった反動でしょうか。年が離れていて、しかもマティアスは寮に入ってたそうですから』


「本人に構えば良いのに」

『お姉さんに似てしっかりしてますから、逆に心配されてるんですよ』


「あぁ」

『早く姪か甥が見たい、お兄ちゃんの子ならきっと良い子だから、って。彼女にはもうしっかりした恋人も居ますし、構う隙が無いんですよ』


「構われちゃう方か」

『はい、僕もですけどね。世話好き一家なのかも知れません、諸外国ではずっと独り身だと変人かと怪しまれるぞと』


「あー、聞いた事ある。1人でカフェとかレストラン行くと、変な目で見られるって聞いた」

『たかがそんな事で変に見られるなんて、考えられませんよね。急な仕事が入る人なんて特に、一体どういう人間関係なんでしょうね』


「だから友達が多くないといけない、とかか、しんどいな」

『ですね、折角の自分の時間は好きにしたいですし』


「それでも、兵長もマティアスも結婚した方が良いと思うぞ、良い人間なんだから」

『ふふ、考えときます』


「お、着いた、ありがとう」


『はい、じゃあまた』


 家に入ると、洗いたてのカーテンの良い匂い。


 匂いを堪能してから、貰った魔道具を取り出す。

 個別操作が可能で、音声で操作するらしい。

 付属品は古い手書きの説明書のみ。


 最初の項目をソラちゃんに読み上げて貰い、魔力を流し、起動の合言葉を唱える。


「ただいま」


 発動した。

 日本語でも操作可能とは、どんな仕組みなのか。


 そもそも魔道具の仕組みなんて、考えるのは野暮か。


 そう考えていると、魔道具から広がったシャボン玉の様な虹色の膜が、1階の天井を突き抜けた。

 そして家の隅々まで到達したらしく、魔道具が強く光り輝き、浮くと消えた。


 魔道具が消えた。


【魔道具に自動で隠匿の魔法が掛かるそうです、裏の端に、小さく書いてあります】


 そうか、もう作動してるんだよね?


【はい】


 よし、じゃあソラちゃん、クマに入って。


【了解】


「久し振り、ただいま」

《お帰りなさい》


 久し振りのクマのモフモフを堪能し、抱えたまま自分の洗濯物に取り掛かる。


 洗濯機へ適当にブチ込み、暖炉へ薪を追加していると、2階から電子音が聞こえた。


 寝室にある無線機が光り、鳴っている。

 何事か。


 光るボタンを押してみると、聞き慣れた声が聞こえて来た。


【治療師様!話す時はボタン話してね】

「おう、聞こえてるかお兄ちゃん」


【うん!看護師長がお話してみるかって、部屋の無線機貸してくれたんだ】

「そうなのか、初めて使ったわ」


【やぁやぁ、看護師長ですよ。もう着いてるかと思って連絡してみたんだ】

「電話で良くないか?」


【昨日の吹雪で一部の電話線が切れてるんだ、ここらは良くあるんだよ。だから慣れてね】

「うい」


【ふふふ、お部屋掃除の時に、ココと周波数合わせたんだって】

「知らなかった、助かる。急患用に合わせてくれたのか」


【まぁね、電話線が切れた場所によっては、直るのに時間が掛かるし。まぁ、暫くはゆっくり過ごしてて、じゃあね】

「あいよ、じゃあね」


 通信網脆いな、ネット普及しないワケだわ。


 下に降り、珈琲を淹れる。


 スーパーのナッツとチョコのクッキーと合う、紅茶でも良さそう。


 少し暖炉の火を眺めていると、そのままボーっとしてしまいそうだったので。

 洗濯場へ行き、庭で使った物干しの紐を探し出す。


 そのまま2階へ行き、飾り用に付けられたらしい壁のフックにジグザグに張る。


「どうよ、良い感じじゃん」


【はい、ですが私を人形に入れて頂ければ、もう少しお手伝い出来ますが】

「癒し系だから良いの、モフモフされてくれ」


【了解】


 洗濯が終了したので干す、ひたすらに干す。


 もう家が温まっただろうかとコートを脱ぐと、まだ寒い。


 2階まで温まるには、まだ時間が掛かりそう。


 1階に降りても少し寒い、大きい暖炉だから時間が掛かるらしいが、マジで半日掛かるのか。


 こう体感してみて、本当に火を落とさないのはマジらしいのは分かった。

 ガラス蓋も締め切ったままだから確かに安全だろうが、使い慣れないと心配になる。


 1人の弱みだ。


 鍵とかの確認癖が出ちゃうかも。


【私もチェックします】

「なら安心」


【それと、魔道具も異変を感知する機能があります】

「書いてなかったぞ?感知してどうなる」


【持ち主の元へ魔道具の分身が現れるそうです。主の意志に反応し、魔道具がメッセージを表しています、眼鏡を】


 眼鏡を掛けキョロキョロすると、部屋の角に魔道具が浮かんでいるらしく、空中へとメッセージを浮かび上がらせていた。


 何で、こんな仕掛けをするかね。


【サプライズ!だそうです】


 受け取り手に遠慮させない為なのか、何なのか。

 セキュリテイとして公にしてない機能がある、とかか。


 何にせよ有り難い。


「宜しくね」


 その言葉を了承したかの様にメッセージが消えた、見守られてるのは心強い。


 後は、ミアに報告するだけだ。




 ミアの家へ行き、今後の相談を始めた。


『決まりましたか』

「決まってた、本格的に困るまで放置だそうだ」


『え、でも連絡が』

「そこは大丈夫。問題はコッチ、どうやって役目を見付けたら良いか、なんだけど」


『それは、すみません、お力になれず。出版社の情報も手に入れられませんでした』

「そっか、ありがとう。好きな時にもう仕事に戻って大丈夫だと思うよ、また伝書紙出すと思うけど、返事くれれば出し直すから」


『あの、信用して頂けないのは重々承知してますが。もう、お役御免なのでしょうか』


「いや、違う。ミアをどう活用して良いか悩んでるのはあるけど、一般人を巻き込みたくないのもある。大きく動く事も無いから、日常に戻って待機してて欲しい、必要になったらちゃんと言うから」


『大してお役に立てず、申し訳ありません』

「いやいや、偽装も見破ってくれたし、刺青も…刺青、マーリンの発案って事で特許に登録してくれないかな、無理なら他の方法で。あ、例の魔道具屋の名義とかどうよ、向こうに確認してみるけど」


『宜しいんですか?お金も名誉も譲ってしまって』

「おうよ、コレで小金持ちになれるなら、もっと大金持ちになれる情報があるから大丈夫。マーリンへのお礼か、魔道具屋か、どっちが良いかな」


『もし宜しければ、魔道具屋へ伺って頂けますでしょうか、出来れば私を連れて。便乗で申し訳無いのですが』

「いやいや、一緒に行こう」


 ミアと公園へ向かい、人形の修理屋兼、魔道具屋の家へと空間を開いた。


 隠匿の魔法を解除し、扉をノックすると直ぐに扉が開いた。


「今度は何」

「特許を譲りに来た」


「は、え?その子は?」

「魔法省のエルフ、特許譲る話しの協力者」


「待って、誰の特許?」

「話すから中に入れてくれんかね」


「あ、ごめん、どうぞ」

「お邪魔します」


『お邪魔します。では、特許の話しですので、秘匿の魔法を使わせて頂きますね』


 ミア家でも使った魔道具を出し、ミアが魔法を唱える。


 妖精も、おじさんも黙って見ている。


「で、誰の、何の特許よ」

『魔法円を刺青として人体に入れ発動させます、実験済み、魔法は主にレジストを発動させます』


「は、なんでそんな美味しい話しを」

「人形の特許の話しを聞いたし、良い譲り先かなって」


「でもだって、アンタに得が無いじゃない」

「じゃあ特許料が入ったら美味しい何かを奢ってくれ、偶にで良いから」


「そんなんで良いの?きっと成功して、登録されたら、かなりの額になる話しの筈よ」

「おう、金持ちになっても驕り高ぶる事無く、善行して下さい」


「だ、か、ら、何でよ」

《御使いだから、でしょ?》


「まぁ、そうは名乗りませんが」


「でもだって、例え話であって、余所から来た放浪の」

《その余所が、とっても不思議な所なんでしょう?》

「おう」


《もう、お金に困らなくて済むわね》

「でも、なんで」


《不思議な魔法の特許を出すなんて、御使いだと名乗る様なものよ。あの人もそうだったから、だから、今回は遠慮せず受けて。気が引けるなら、次に出会える御使いへ還元したら良いよ》


「そうそう、目立つ事になるかもだから、他の候補がマーリンなんだけど、それも無理そうなら他を探すし」


「本当に良いの?私で、そんな大役」

「分かるよ、今もそんな気持ちだから」


「あ、うん、そっか、そうよね。それに比べたら明確よね、ごめんなさい」

《客人にお茶のおかわりを淹れて、少しは落ち着いて》


「あぁ、そうね、本当にごめんなさい、今淹れるわ」


 紅茶に栗のパイ、美味しい。


 生クリームも上手い。


『美味しいです』

「ね、美味しい」

《栗も手作りなのよ、皮ごと砂糖で煮てあるの》

「ヒマだし、お金無いから」


「じゃあ、お金持ちになったら食えなくなるのか、譲るの止めようかな」

「な!そんな事で」

《そうね、生活を一変させる様な大金なら、身を滅ぼすかも知れないし。連日豪遊して、男を買い漁っちゃう様になるかも》


「そんな、成金みたいなバカな事しないわよ」

《だけど昔話に多いでしょう、アナタで無くとも、次に生まれた子供の世代がバカな事をするとか》


「それは、アナタが注意して諌めてよ。それとも、お金持ちになったら出て行っちゃうの?ならこの話しは降りる」

『なら、お金で身を滅ぼしそうになったら、お金と共に消えて貰うのはどうですか?妖精の得意技ですよ』

《古いけど良い手ね。なによ、自信が無いの?》


「あるわよ!絵本の人間じゃ無いんだから」

《じゃあ、乗るのね?》


「ええ、乗るわ」

「一応聞くけど、有名になる弊害、デメリットを理解してるなら羅列して欲しい。覚悟だけじゃ越えられない事もあるだろうから」


「任せてよ!家にわんさか人が来て、知らない親戚や友人が増えて、過去も何も、根掘り葉掘り掘り下げられて、卒アルまで晒される、とかでしょ」

《まだ出るわよ、ゴシップが大好きだから》


「だからか、なるほど。例の子供の親の事も、何か知らんかね」

「つまんない位に無いの、無駄な寄り道しない人なのかしらね。離婚すら見据えて結婚したんじゃ無いかって噂がある程、昔からのお金持ちって、そうなのかしらね」


「ほうほう、じゃあヤッパリ、接触してみようかな」


「私が教えておいて何だけど、御使いが接触するなんて、自分の話しを売る場所へ自己紹介しに行く様なものじゃない?」

「流石にそうは言わんよ、確実な何かがあるって思って行くワケでも無いし、何か有ったら良いなぁ位よ」


「それこそ有名人なんだから、向こうは迂闊に変な事はしないでしょうけど。本当に御使いが関係してるなら気を付けないと、他の絵本が本当なら、殺されたり捕らえられてるのもあるんだし」

「だから普通に生きたら、とも言われてる」


《無理でしょう、自分の声に従うのが御使い。それに、運命に抗うには相応の対価が必要らしいわ、特に大きい運命はね》

「あぁー、良く知ってらっしゃる」


《一緒に旅をして話を聞いたから、偽物も多かったけど、本物にも何人か会ったし。大半が役目を探してたり、諦めたり、最初から帰らない人もね》


「人種は?時代は?」

《人種は、その国の者が殆ど、他国へ飛ばされた者には会ってないかな。時代も、そう違わない、似た時代》


「あ、なら緑色のトンボ妖精も何か知ってるか、何処に居るんだろ」

《妖精女王が知らないなら、捕らわれてるのか、死んだままなのかも。妖精でも、魔道具の影響は有るから》


「くそぅ、折角の手がかりが」

《今の時代なら、難民申請から辿れない?》


「難しそう。帰れた人の話しは?」

《道端で子供を助けただとか、誰かを殺しただとか、バラバラ。近場で見たワケでも無いし、噂をかき集めたり、家族からの手紙で知ったりね》


「その手紙は」

《無いわ。今は亡き燃える伝書紙だから》


「バラバラって、時差式の可能性は?」

《考えたけど、何も無く帰った話は少ないと思う。あっても、良く探れば子が生まれたから、なんてのもあったし。生きているだけでも影響を及ぼし合うから、何も無いは無いと思うわ》


「長期戦かぁ」

《そうね、気長に、程々に生きてみても良いんじゃ無いかしら》


「ですよねー、残る選択をした人の連絡先って」

《無いの、安全の為にね、互いの》


「ぐぅ」

「そんなにココは嫌?」


「正直に話したら、どうなると思う」

「それはそうだけど、向こうはそんなに良い世界なのかなって」


「正直に言っても捕まらない程度にはね、嘘とか面倒くさい、馬車馬の様に働かされたくも無い。君みたいにココで暮らす感じが良い」


「慣れると退屈よ」

「暇潰しは得意よ」


『あの、妖精の件なんですが、一応、改めて妖精女王に聞いてみては?』

「おう、今度コッチで聞いとく。特許申請の紙ってある?」


『はい、今もうサインされますか?』

「忘れてた、本当に良いの?」

「良き御使いを最低1回は助ける事、傲り高ぶらない事、美味しいモノをたまに奢る事、この話しをバラさない事。コレが条件」

《私がその契約書になるわ、子々孫々、破れば私がお金と共に消える》


 妖精がくるりと横に回り、キラキラした青い粉を振り撒いた。

 彼女の体へ溶け込み消えると蔦模様の様な紋が浮かび上がった。


 血の盟約の魔法みたい。


『では、コチラを…』


 ミアも紋を確認出来たらしく、書類を進め始めた。


 初めての書類に緊張しながら書いている、ウケる。


《前の世界に妖精は居るの?》

「居るよ、女王も。少し雰囲気が似てるけど、違う感じ」


《狩られない?》

「今はね、いっぱい居るよ」


《なら私でも帰りたくなるかも、嘘も狩りも無いなら、その方が良いもの》


「ね。さっきの魔法は誰でも出来る?」

《私みたいに頭が良く、花から生まれた者で。相手と繋がりが無いとね、誰にでも掛けられる魔法じゃないのよ》


「ですよねー」




 書類作成が無事に終了し、後は帰るだけとなった。

 もうそろそろ夕飯の時間か。


《何か食べてく?》

「いや、帰る」


「ありがとう」


「おう、好物はエビとビターチョコ、嫌いなのは葉っぱが臭いのと、デザートでも無いのにベリーソース添えとか、食事なのに甘いのとか酸っぱいの、後は苦いのがダメ。じゃあ宜しく、くれぐれも内緒で」


「ふふ、分かったわ」

「おう、じゃあね」




 ミアを公園に届けると、暗い表情。


『あの、明日お時間頂けますか』

「何時頃」


『何時でも構いません』

「おう、じゃあ明朝で」


『はい、お待ちしてます』


 不穏な空気のミアと別れ、妖精女王の元へ向かった。


 マーリンは不在。


「こんばんは、お邪魔します」

《こんばんは、いらっしゃい》


 例の妖精の事を訊ねたが、葬式以来見てないそうだ。


 しかも女王の探知範囲は欧州のみだそうで、余り遠いと死んだ時すら分からないと。

 望み薄だが、探してみようか。


 リタのスコーンとクッキーを渡し、アヴァロンから家へと向かった。




 帰ってみるとかなり暖かい。

 薪を足し、シャワーを浴びる。


 再び洗濯をしつつ夕飯、エビフライは今度。


 1階の明かりを消し、ベッドに腰掛けると無線機が鳴った。


 出てみるとマティアスの声。


「なに」

【出掛けてた?】


「おう」

【ごはん食べた?】


「たべた」

【寂しく無い?】


「わからん、ねむい」

【忙しかったの?】


「おう、明日話す、明朝に少し出掛ける」

【分かった、じゃあ出掛ける前に石入れといてね、おやすみ】


「おう、おやすみ」


 過保護な兄。


 シオンの事も考えないと。


 ロウヒの家へと空間を開くと、早速パジャマパーティーが始まった。


 向こうは既に準備万端。

 お菓子が揃い、テレビにはライブ映像が流れている。


『なんだ、忙しかったのか?』

「少し、人形の修理屋と妖精女王に会って来た。序に、その系列の魔法省のエルフに拗ねられたかも」


『何をしたんだ?』

「何もしてないからっぽい、また明日話したいって」


『惚れられたか』

「あぁ、その可能性は考えて無かったな」


『ふふふ、ややこしい事になるな』

「それは困る。あ、妖精が契約の担い手になるの初めて見た、向こうの魔法に似てた、血の盟約に」


『妖精の盟約魔法か、懐かしい。それで、お前の言う魔法は、どういったモノなんだろうか』


「血を額に付けて呪文を唱える、身体に紋が浮かんで嘘を言い続けると身体がバラバラになる。最初は小指が根元からポロリ。その紋に似てた」


『中々に凶悪で素晴らしいな、私は好きだぞ。拷問にも使える』

「拷問か、でも魔力か何かが上回って無いとダメなのと、従う意志が無いとダメらしい。らしいなのは、その魔法が使えないから」


『ふむ、その魔道具の特許を出せば、かなりの金になりそうだ』

「意志を操られたら無双出来ちゃうだろうから、ダメじゃ無いか?」


『それは無効化されるだろう、従う意志の有無こそ安全装置なのだし』

「でも申請はしないかな、ロウヒもダメよ。忘れておくれ」


『しょうがない、他のは』

「魔法印を刺青で身体に刻むやつ、譲った」


『ほう、レジストか何かか?』

「おう、原案は存在してたのか」


『案だけだ、そこまでする程の魔法でも無いと立ち消えた』


「家の、あの魔道具の製作者?」


『あぁ、アレの発案だったが、個々人に掛ける必要は無いと却下した。どうだった、どうせ変な仕掛けが合ったろう』

「あった、消えたからビックリしたよ、しかもサプライズ!とか言ってさ」


『あはははは、昔のワシが既に自作していて使わなかったんだ、そうかそうか』


「もしかして、他の魔道具にもそんな仕掛けが」


『何にでも仕掛けてるワケでは無いよ、オモチャと一緒だ。アイツのセンスで、面白いと笑える余裕のありそうなモノにだけ、非常時用に仕掛けられてたら大事になるからな』

「確かに、キレちゃうかも」


『昔は余裕が無くてキレまくったが、今はやっと笑える。空気を読んで欲しかったが、ここまで見越しての事かも知れんな、今となって、ようやく笑える様になったよ』

「おふざけが過ぎると怒られるしね、空気読まないのが悪い」


『だな、本当に…こんなに仲良くしては、エルフに嫉妬されてしまうかも知れん』

「言わんよ、本当に嫉妬されても面倒」


『そんなに使えぬか、近頃の魔法省の人間は』

「いや、どう活用して良いか分からん。試作機を寄越せってのも困らせそうだし、開発させて注目が行くのも困らせそう、伝書紙の事では助かったけど、どうして良いか。持て余してる」


『ましてや、お前はある程度揃っているからなぁ』

「まぁね」


 話しながらもアイスを食べたり、キッシュを食べたり、ポテチを食べたり、ライブ観戦してみたり。

 アイスにキャラメルソースを掛け、クッキーを入れてみたり、盛り合わせをつついたり。


『学校の話はもう出たか?』

「うん、今は時期じゃ無いかなって」


『基礎があるなら問題無いだろう』

「生きてく上でのマナーとかが難しい、ナイフだのフォークだのとか」


『国で変わるモノはな、今度練習するか?』

「良いね、食事はどうする?」


『頼めるか?』

「おう」


『ならココにこう…』


 食事が用意出来次第、マナーレッスンが開催される事となった。


 ライブ映像も終わり、パーティーはお開きへ。


「またね、おやすみ」

『うん、おやすみ』


 下へ降り、薪を足して歯磨き。


 廊下の小さな明かりだけを付け、ベッドへ入った。

家の大家さん『タピオ』

《マティアス》「リタ」『若旦那』『お兄ちゃん(ヴェリ)』『レーヴィ』『ロウヒ』《ソラちゃん》

『ミア』「イデリーナ」《ドイツの妖精》《ティターニア》


映画

【アーサー王とロウヒ大魔女】


絵本

【黒い御使いと白いカラス】

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