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2月15日

前書き等を模索中。

 緊張したからなのか、合間に起きる事も夢を見る事も無く、長時間熟睡してしまっていた。

 外はまだ暗いので、枕元の明かりを付け、買った絵本をソラちゃんに読んで貰った。




【ウッコと異国の女性】


 大昔、神々と共に眠りについていた筈のウッコが、サイマー湖に雷が落ちると共に現れました。


 それから先ずは近隣の村へ赴くと、寒さを凌げる様にと結界石を置き。

 飢えを凌げる様にと、肥えたトナカイを軒下に吊し。

 村を守れる様にと、妊婦のお腹に加護を与えていきました。


 そうして雷が国を巡っていると、1人森を彷徨う神を見付けました、その神の名はロキ。


 何も知らされぬまま蘇らされたロキに同情したウッコは、近隣の村へと招待し、もてなしました。

 暫くすると精気を失っていたロキの顔色が明るくなり、何とか話せる様になりました。


「ありがとう、貴方の様に他の神々も蘇っているのかも知れない。知り合いを探しに行くよ」


 そう言ってロキが旅立ったので、ウッコも再び雷と共に国を周ります。


 そうして村々へ守りを授けていると、今度は異国の人間が森を彷徨っていました。

 とても大きな力を持った異国の女性は、力のコントロールがとても下手だったので、取り敢えずは人間へと預け様と大きな町へ行きました。


 ですが、この世界では魔法が途絶えていたので、誰も彼女を助けられませんでした。


 困ったウッコは彼女を連れ、村々を巡りながらも力をコントロール出来る様に、練習の手助けをし、魔法を教えてあげました。


 そうして覚えの早い彼女は、様々な魔法を覚え、国へと帰る事が出来ました。


 安心したウッコが再び村々を周ると、ある噂を耳にする様になりました。

 ロウヒの様に強力な魔女が隣の国にやって来た、隣の国が侵攻して来る。


 侵攻を心配したウッコは偵察に行く為に変装し、国を越えました。


 隣国へ入った途端に神の力は奪われましたが、変装はそのままだったので国中を見て回る事にしました。

 王の力も及ばぬ程に軍は腐敗し、国は荒れ切って、民は暴徒と化していました。


 そうして大きな国を回っていると、かの強力な魔女が閉じ込められているとの噂を聞き。


 その場所へ向かうと、何故か牢屋へと辿り着きました。

 その牢を覗き込むと見覚えのある顔が眠っています、あの異国の女性でした。


 動揺したウッコの気配に気付いた彼女が起き、変装したウッコに殺しに来たのかと問います。


「違う、貴女が何故ココに居るのか聞きたい」

「懐かしい話し方に似てるわね、良いわ、教えてあげる」


 国へ帰っても居場所は無かった事、なのでウッコの元へ帰ろうとした矢先に内戦に巻き込まれ、誘拐されてしまった事。

 ウッコの居る国への戦争に荷担しなければ、殺すと脅されている事を話しました。


 だからこのままココで死ぬつもりだ、と言いました。


「例えいくら拷問されても戦争には協力出来ないの。でも、これ以上の拷問にも耐えられそうに無い」


 彼女がシーツで首を括ろうとします、ですが今のウッコには牢の鍵は無く、魔法も使えません。

 そんな時、少し前にロキがくれた手紙の事を思い出しました。


 魔道具は他国でも使えてしまうので、よくよく考えて作る様にと。


 ウッコは元々持っていた斧を振り下ろし、牢を壊すと彼女を連れて帰りました。

 そうしてロウヒの子孫へ預け、ウッコは戦へ向かいます。


 暴徒化した隣国の蛮族を牽制し、領土を押し戻し、人々と国を守り抜きました。

 そうしてボロボロになったウッコを迎えに来たのは、赤子を抱える異国の女性。


 赤子をひと目見たウッコは、彼女と赤子を抱き締めた後、空へと帰ったとさ。


 おしまい。




 誰の子よ。

 つか、この異国の女性が御使い?実はウッコって名乗ってるのが御使い?

 どっちだ?

 両方?

 出版元はどこ?


【レヘト社、果樹園を意味します】


 御使いに関わってるか不明だよなぁ。

 でも、コレを調べれば糸口があるかも。


 何かしないと、ジッとしていられない。

 焦る気持ちが再燃して、ウズウズして気持ち悪い。


【主、朝の散策をなさるのであれば、シャワーを浴びて朝食の準備を、髪に涎が付いています】


 ありがとう、また髪を切ろうかなぁ。


【変装の手段としてであれば、まだ時期尚早です。尚、染髪剤は在庫にはありません】


 そうか、なるほど、ブリーチを買っときつつ、ギリギリまで我慢しますか。


【はい】


 身支度を済ませ、ロビーに降りると。

 私設の警備員が2人とも亜人に交代していた、属性は猫と蝙蝠だろか。


『おはようございます、お散歩ですか?』


 蝙蝠さんイケボ。


「おはようございます、お散歩です」

《滑る場所もありますから、気を付けてくださいね》


「ありがとう、行ってきます」


《はい、行ってらっしゃいませ》

『お気をつけて』


 外に出ると、ツンとする様な冷たい空気と潮の匂い、パンが焼ける匂い、美味しそうなスープの匂い。


 誰も居なくてとても静か、街の案内板を見るにココには何でもある。

 図書館も本屋も服屋も病院も、とりあえずコチラの服を買おうか。

 それから図書館へ行ってみて、入れなかったら本屋へ。


 病院も見学したいけれど、この体が持っている免疫がどうなるか分からないから止めとこう、自分が何か病気を広め。


 もしかして、もう広めてる?

 歴史の本にも、観光冊子の予防接種欄にも見知らぬ病気は無かったが、そもそも型が同じでは無いかも知れない。


 即発病はしないにしても、もう誰かに移しているかも知れない。


 なら弱っていたシーリーが1番危ない。

 どうしよう、迂闊だった。


 感染を広げない方法は、隔離か。

 何処に、近くに何がある?


【北極圏なら大半の生物は不活性になります】


 北極圏に施設は、人居るのか。

 居ても、受け入れてくれるか?

 そもそも、そこの人間に何かあったらどうする。


【治せば良いかと】


 でも、ウイルスとか細菌から治した事が無いんだけども。


【では、コチラの神々や大魔女に教えを請いますか】


 そうか!ロウヒにか、北極に居るみたいだし、行くか。

 鍵を、部屋を消毒してから返すか。


【了解】


 それから急いでホテルへ戻り、窓を開け、救急セットとして持たされていた消毒液で拭い、振り掛け、義体のソラちゃんに乾燥させて貰い、チェックアウトし、街の出入り口へと戻った。


 もう迂闊にコートを脱げない、失敗した。

 病弱な癖に病気の事を忘れて、だから罸が当たったんだ。


【北極のどちらに移動しますか】


 地図を広げ、最北の島を探す。

 村の名前が唯一あるのはスヴァールバル諸島、村の名前はイストィニ。


 そこに移動しよう。




 街から少し離れた場所で空間を開けると、村は真っ暗。

 建物はあるものの、どの家も暗い。

 点在する家々を回り、ようやっと明かりの付いていた家を見付けたので向かった。


「失礼します、人を探しています」


 ノックと共に声を掛けていると、3度目のノックでドアが開いた。

 出てきてくれたのは深く頭巾を被った、しゃがれ声のお婆さんだった。


『誰をお探しで』

「ロウヒ様を」


『大魔女の?』

「はい、病の治し方は知らないので、それを教えて貰おうかと」


『なんだい、治療師様か、ならお入んなさい』

「いえ、事情があって入れません。場所さえ教えて貰えば自分で行きます」


『じゃあ、コレを治してくれたら教えてやろう』


 顔を上げニヤリと笑うお婆さんが指差したのは、白内障で完全に白濁した左眼だった。


 エミールの眼を治していたのは見たけど、コレは、どうすりゃ良いんだ。


 先ずは眼を閉じ、魔力チェック。

 お婆さんなのに魔力は満ち満ちているので、魔石もエリクサーも無しでそのままいけそう。


 そして目へ、水晶体に僅かに残っていた正常な細胞を、白い細胞に上書きする様に置き換える。

 煮魚の目玉を逆再生するイメージで広げていくと、水晶体が一気に透明な細胞へ換わった。


 すると目の前が光に溢れた。

 驚いて様子を見ようと眼を開けると、目の前のお婆さんは若い女性に変わっていた。

 暗い赤毛のふわふわパーマに、黄緑色の目をした若い女の子。


「ロウヒさん?」

『うん』


「病を治す方法を教えて貰えますか?」


『お前は何を持っている?』

「他の世界の知識とか、食べ物とか」


『入れ』


「他の世界から来たので、貴女に病を移すかも知れないんですけど」

『大丈夫だ、寒い、入れ』


「はい、お邪魔します」


 そら寒いよな、申し訳無い。




 玄関で靴を脱ぎ廊下を通り部屋に入る、煉瓦造りの密閉式暖炉、床にはフカフカの毛皮が敷き詰められ、クッションは勿論、コーヒーやお菓子が載ったトレイが直起きしてあった。

 床族だ。


『適当に座れ』

「はい、どうも」


『いつ来た』

「4日前、12日にウツヨキ村近くの森です」


『ではシーリーには』

「会った」


『はぁ、御使いと疑われる様な事を』

「した、高速で病気を治したから」


『ん?病を治す方法を請いに来たのでは無いのか?』

「それとは別のです。風邪とか、熱を出す病気の治し方を知りたくて」


『どの病もそう変わらん、炎症を抑えるだけ、さっきの治し方で良い』

「そっか、ありがとうございます」


『それより、シーリーに疑われた事が不味い。いずれは軍や、国の人間に追われる事になるかも知れない』


「あー…」


『シーリーの家系は代々尋問官だ、尋問官は御使いが本物かどうか見極める役目。本物であると分かれば、一生国に囚われる事になるかもだ』

「マジか」


『名は知られてはおるまいな』

「シーリーのお付きに付けて貰った、ヘパーティカ」


『そうか、良い名だが危なくなったら捨てろ、別のをやる』


「はい…すいません」

『仕方無い、これも運命だろう』


「そうなんでしょうけど、もう帰りたい」

『お役目を果たさねば無理だ』


「それ、何したら良いんです?」


『それは分からん』

「えー…世界で大きな戦争が起こるのを止めるか、魔王退治だと仮定してるんですけど、どうでしょう」


『…4日目にしては随分と慣れているな』

「魔法のある世界から来たので、向こうでは御使いじゃなくて召喚者と呼んでました」


『召喚者か、いったい誰が招いているんだか』

「向こうでは世界が、地球が呼んだんじゃ無いかって話になってます」


『そうか…なるほど。丁寧語は面倒だ、止めてくれ』

「はい。あの、知るべき事を教えて欲しい、お礼は金銀財宝とか食べ物か、知識かで」


『何か、料理か、菓子はあるか?』

「ある」


 ストレージ使用の一時許可を受け、ケバブプレートを出す、少し嗅いで味見をした後に無言で食べ始めた。


 美人だけど、何か可愛い。


『うまい』

「とっておき、秘蔵のご褒美ごはん」


『そうか、なら私も秘蔵を与えよう』


 この世界は人間と、神々や精霊は各々別々に暮らしていた。

 だがある時、神帰りが起き融合が起きた。

 人間と獣、人間と精霊や妖精が融合し、神々は1つの次元に現れる様になった、ロウヒは400年程前だそう。

 それが他の国々でも起き、魔法使いの略奪が起こり始めた。




 絵本や歴史とはがっちはする。


「流石に詳しい」

『ロウヒの子孫で生まれ変わりだからな、人で神が私だ』


「この御使いの絵本は、知ってます?」

『あぁ、本当の話だ。この子供はウッコの子』


「あら」

『ロウヒにはウッコの血も流れてる、ロウヒ、御使い、ウッコの血が流れてる』


「おぉ」

『コレは内緒だ』


「はい。ついでにもう何個か、ウッコは何で帰れたの?」

『ウッコも御使いと同じ、何で帰れたのか分からないらしい』


「あー、このウッコは神様なの?御使いなの?」

『ロウヒが起きる前だから分からないが、神様らしい、ずっとおじさんだったっと聞いてる』


「なるほど。デザート食べます?」

『うん』


 それからロクムを出し食べて貰うと、気に入ったらしく2個3個と食べてくれた。


 つい色々と食べさせたくなってしまうのは、庇護欲を刺激されているからだろうか。


「マーリンさんは知ってる?」

『勿論、少し人間嫌いだが、お前は大事にしてくれると思う』


「会ってくれるかなぁ」

『お前の事は言っておく…そうだ、伝書鳩の魔法は出来るか?』


「出来ないので教えて下さい、出来たら製法も知りたい」

『紙を作る技能は?』


「ない」

『なら製法は諦めろ』


「へい」

『でだ。魔力を織り交ぜたこの紙に、更に魔法を掛けて飛ばすだけだ、何処の誰に届けたいかココに書く、内容はコッチ、お前の名前はコッチ。飛ぶ何かを折れば飛ぶ。折れるか?字は書けるか?』


「おう、鶴なら折れる。でも書くのは無理、ココの字は書けない」


『書けないは良くあるから気にするな…もう1つのお前の名前が必要だな、ヘルミ・メイカライネン。にしろ、さっきのお婆さんの孫の再従姉妹とする。こう書く、コレは覚えろ』


「うん、ありがとう」

『うん。じゃあ、ヘルミにはこの判子だ、そして折ってから全て言えば良い、伝言してくれる、良く見てろ』


 ロウヒが別の判を押した紙を梟に折り、マーリンへの伝言を伝え終え、息を吹き掛けると開けた窓から外へと飛び去った。


 便利。


「便利」

『ソッチに無かったのか?』


「分かんない、有ったのかも知れないけど、他の方法で連絡取ってた」

『そうか、それなら他の魔法も教えてやろうか』


「ありがたいけど、魔法は超初心者。使い初めて2~3ヶ月も無い」

『なら魔道具をやろう、何が良い』


「あ、待って。消毒とか滅菌の魔法が欲しい、自分から病気を移したくない」


『ふむ、なら清浄の魔法だな。物を分解する魔法だ、治療にも役立つぞ』

「是非、お願いします」


 大きな木箱から緑色の革袋を出し、手渡して来た。

 カチカチと音が鳴り、重さもある。


『ココでやるか?』

「あ、うん」


『ならそこの床に出すと良い』


 袋から出て来たのは虹色に輝く透明な欠片達、100はあるだろうか。

 ミルフィーユ状の欠片は冷たく重さを感じる、欠片の縁を見ると人工的に裁断された様に安定した切り口、滑らかだが鋭角、指が切れてしまいそうだ。


「コレをどうすれば?」

『組み立てい』


 パズル!リアルクリスタルパズル!

 しかもこんな綺麗なのを、何かの冗談か。


「時間掛かるけど」

『良いぞ、構わん』


 元の形がどういったカッティングかは分からないけれど、少なくとも丸では無い。

 ダイヤモンドカットか、ドロップ型、ネコ目カットか、さっぱりだ。


 取り合えず角らしきパーツから抜き出す、一個づつ他のピースと合わせながら合わない物は向きを揃え分類していく。

 ただただ1個1個合わせていく、見惚れそうになりつつも、我慢して組む。




 ある程度組み立つと、今度は全てが填らなくなった。


「行き詰った」

『休憩せい、助言はしない』


 お茶を淹れて貰ったので、今度はバクラワの詰め合わせを差し出す。


 もう躊躇う事も無くお菓子を口にすると、眉を寄せ口を尖らせお茶をすすった、そうしてまた1口食べてはお茶をすする。

 自分も端のを1口、コレは思った程甘くなくて美味しい。


 帰れたら、また買いに行こう。


「うまい」

『コッチの、この甘い方が良い』


 お茶をして暫く過ごし、トイレと柔軟を終えてから、再びパズルへ取り掛かった。


 一方向に組み立てるだけだと思っていたのだが、甘かった。

 横と縦に組み合わせなくてはいけない、作った人、凄い。


「作った人、凄い」

『可笑しなモノも作るが、腕は良い奴だったよ』


 もう完全に総当たり、縦に横にとひたすら試す。




 ようやっと半分、何処からともなく良い匂いがしてきた。


 時計を見るともうお昼、ロウヒが昼食の準備をしていたので、自分もストレージから食事を出す。


 さっさと食べたいので納豆丼を出し掛けたが止めて、牛丼を出した。


 興味があるらしかったので先に一口食べて貰うと、気に入ったご様子。

 キング盛りを1皿差し出し、新しく出した牛丼を平らげた。


 今回は交換だった様で、代りにサーモンサンドを頂いた、サーモンフライにピクルスとレモンのタルタルが美味しい。


 そうしてまた柔軟しては組み合わせ、トイレに行っては組み合わせ。


 ようやっと完成したのはダイヤモンドカットの美しい水晶、虹色で綺麗、欲しい。


「出来ました」

『では、魔法を授けよう』


 ロウヒが何かを唱え、水晶の切れ目が繋がったかと思うと、音も無くヒビが入り、そこから光り輝き出した。


 その光が持っていた手に移動し、胸に入ると同時に水晶は粉々に砕け散ってしまった。


「勿体無い」

『うん、完了だ。綺麗にする、清める、分解する。そう想像して【ポルカミネン(分解)】と唱えれば良い。但し、対象は物だけだ、生き物や生物へ向ければ腐ってしまう』


「範囲はどうコントロールすれば?」

『手を翳(かざ)し、その範囲であると思えば良い。後は実践あるのみ』


「はい」




 先ずは、自分が使わせて貰ったトイレ。


 唱えたものの変化は特に無い、不思議に思っていると後ろからロウヒの声が聞こえた。


『どうした?成功したが、思ったのとは違うか?』

「成功したの?」


『光が見えただろう』

「いや」


『なんだと、目を見せろ』


 顔を掴まれ瞳を覗き込まれる、思わず息を止めてしまったがほんの数秒でそれは終わった。


「なに」

『生れ付きか、難儀な』


「あ、眼鏡してみる」

『なんだ、有るのか』


 先日貰った眼鏡を掛けてから、カップへ清浄の魔法を行う。


 円を描く掌の内側が虹色に光り輝くと、白い靄の様な何かが立ち上り、霧散した。


「派手」

『普通の人間には見えん、お前は御使いなのだから見えると思ったが、違うのだな』


「バリバリに普通の人間ですし」

『その様だ』


「はい」

『心許ない、他にも魔道具をやろう』


「ありがとうございます」


 嘘発見器のピアス、伝書紙50枚、魔獣避けのベルを貰った。


 ピアスはカップを逆さにした様なデザインのアメリカンピアス、凄い小さいのに、細工が細かくて可愛い。

 付けていれば言動の不一致に反応し、音色や鳴り方で心の機微を教えてくれる便利グッズ。


 以前に白雨が付けていた様に、ベリサマから貰った簪で耳に穴を開け、二重に通した。


『正しい付け方だ、ソッチにもあるのか』

「分かんない、確かめて無い」


 魔獣避けも似た様なデザインだけど、大きめで格好いい、熊避けの鈴の様に腰に付けておくと、人間には聞こえない音が勝手に鳴ってくれるそうだ。


 両方とも銅よりも赤い金属で、緋色に近い。

 小屋の金具と同じ色やね。


 お返しは果物籠、淡いピンクの髪飾りを1つ、コレだけで良いらしい。


『他に何か欲しくなったり、足りなくなったら来い』

「ありがとうございます、逆に欲しい物が有ったら言って下さい、寄りますよ」


『うん、美味しいのが良い…お前は何で緊張しない、ロウヒは怖い大魔女なのに』

「向こうでは北欧のヘルさんとかと知り合いだったし…緊張した方が良い?」


『いや…ヘルか、ロキも居たのか?』

「居る、お世話になった」


『そっちでも悪い子か?』

「それほどは、ちょっと悪戯っぽい程度」


『そうか、なら良かった。コッチのロキは悪戯が過ぎて殺されてしまったらしいからな…そうだ、会うならトールにしろ、アイツは良い奴だから。隣の、スウェーデンの地図を出せ、そう、館はココだ』

「ありがとう、行けたら行く。今は用事を済ませたい」


『そうか』

「うん、流行り病を拡げたく無いし」


『心配し過ぎだ、コートを取ってみろ、診てやる』

「でも」


『いざとなればお前が私を治せ、さぁ、見せぬ事には断言出来ぬ』


「……はい」


『なんだ、見知らぬモノは無いぞ』


「ウイルスご存知?菌より小さいが凶悪、流行病は大体ウイルス」


『医学の知識もあるか。そうさな、私は目が良い…うん、問題ない』

「ありがとう」


『知識が無くては不安だろう…情報は大事だ、色々周ると良い。よし、村の入口まで送ろう、今ココは村から遠く離れた場所だから』

「大丈夫、空間移動が使える」


『は、それは使えるのか、ちぐはぐだ』

「ね」


『その体は、治さなくて良いのか?』

「女の機能は一時停止させてますけど、他に悪い所あります?」


『いや、そうか。次は何処へ行くつもりだ?』

「シーリーに会いに、一応色々確認したい」


『なら気を付けて行け』

「はい、ありがとうございました」


 自分よりは年下少女に頭をひとしきりポンポンされ、家から出ると。

 確かに最初に見た場所とは違い、荒涼とした山の上だった。


 ロウヒに見送られつつ空間移動、ウツヨキ村の入口に移動した。




 眼鏡を掛けたまま、周囲を見回す。

 薄曇りの村は以前と変わった様子も無く、相変わらず人は外に出ていない。


 ソラちゃんが調べた限り村人全体の増減も無いので、少しだけ警戒しつつも、シーリーの家に赴いた。


 扉の前に立ち、ノックしようと手を上げた所で、突然扉が開いた。


「いらっしゃい!ヘパーティカ!」

「びっ!くりした…シーリー、何で」


「村に誰か来たのが分かったから、窓から見たらアナタだって、ふふふ」

『いらっしゃいませ、どうぞお入り下さい』


「お邪魔します」


 老夫婦は役場で接客中なので、そのままシーリーの部屋へと向かった。


 顔色が良い、腫瘍の残りも無い、元気そうだ。


「少し緊張してるのね、私の噂を聞いちゃった?」

「うん、国や軍に引き渡します?」


「いいえ、とんでもない、そんな事しないわ」

「なんで」


「本物の御使い様だから!本物はアナタが初めてで嬉しかったの、それに、私を救って下さったんだから。例え御使い様で無くても、引き渡すなんてもってのほかよ」


 ピアスからの音は何も無い、嘘は無い。

 はず。


『はい、シーリー様を救って下さった方を売る様な事はしません』


 コレも何も鳴らない。

 嘘を聞きたいと思ったのは、人生でコレが初めてかも知れない。


 新鮮。


「実は、軍と少し関わってしまったんだけど。ソダンキュラの兵長と看護師長、何か知ってます?」


「あぁ、あの子達ね。御使い様が大好きな良い子達よ、特にそのお兄ちゃんの方が、御使い様の絵本が大好きなの」

「えー、上流階級の治療師と勘違いされて凄い絡まれたんですけど」


『教会派の若い子の流行りだそうで、謝礼を受け取らず、名乗らず去り。後々になって名乗り出るのがカッコイイと云う、若い子の遊びが流行ってるそうなんですよ。そうやってダシに使われた軍人が、新聞の投書欄に抗議文を出してましたね』


「あら、最近の子は悪趣味ね。昔にも名乗らないで立ち去るのがカッコイイなんて時代も有ったけれど、後から自分で言い出すなんて下品だわ」

『功を乗っ取ろうとして偽物が名乗り出たりと、争いが内外に広がって問題になってますから、それを警戒されたのでしょう。ですが、御使い様と疑われなくて良かったのかも知れませんね』


「そうね、でもマーリン派って言ったんでしょう?」

「恋仲だのライバルだの言われて誂われました」


「あら、前は良い子だったのよ、なのに、どうしたのかしら」

「さぁ、男の子の日だったんじゃないですか」


「ふふふっふ、そうかも知れないわね」

「ねー。シーリーの知り合いって言ったらどうなるかな」


「言って無かったの?」

「言ったら治った事を言わなきゃいかんでしょ、イナリでも絡まれたけど、食べれる程度には治したとしか言って無いし」


「あら、イナリでも誰かに会ったの?」

「ジョンって守衛か何かに、語学の先生もしてるって」


「彼も良い子よね、元気だった?」

「えぇ、家で朝食を頂きました。仲の良い兄妹でした」


「ふふ、前に会った時は日本語かラテン語にしようか悩んでたのよね」

「日本語にしたみたいですよ、最初は尋問かと思って警戒しちゃいましたよ」


「モテて大変ね」

「東洋人を全然見かけませんし、物珍しいんでしょう」

『この時期に来られる方は珍しいですからね、特に、単独行動されてる方は殆ど居ませんから』


「どうすりゃ良いかしら、絡まれたく無いんだけども」

「ラルフを連れて行けば怪しまれないし、絡まれないと思うわよ?」

『そうですね、夫婦と言えば私の身分証だけでも通るかも知れませんし』


「いや、そこまではまだ良いや。イザとなったらお願いします」

「えぇ、勿論よ」

『はい』


 話し疲れたのか、シーリーの目がトロンとし始めた。

 陽射しに弱いのか、暖まると特に眠くなるらしい。


「急にごめんね、おやすみ」

「えぇ、またね」


 扉を閉める途中、シーリーはそのままベッドで眠りについた様だった。

 廊下に出てラルフに向き直り、伝書鳩の紙を出す。


「もし、誰かの体に何か有ったらこの伝書鳩の紙で知らせて下さい、それを渡しに来たのも理由の1つなんで」

『体に何かとは、どういう事でしょうか?』


「熱病や流行り病とか、特にシーリーは何が起きるか分からないので。念には念をです…だから、ほい」

『はい、ありがとうございます…こんなにお気遣い戴いているのに、以前は本当に、申し訳ありませんでした』


「もう良いって、それより国や軍についてもう少し聞かせて欲しい」


『シーリー様が退役なされたのも、体調が悪化し能力が制御不能になったからで、本来は死ぬまで働かされるのです。隣国の脅威に魔獣、能力が高い程に家族をも巻き込まれる様です』

「えぐい」


『この国に限った事では無いそうで…ギフテッドや、ブレッシングをお持ちの方の宿命なのかも知れません』

「なにそれ」


『生まれついての、魔法以外の高い能力を持っている方をギフト持ち、天賦の才(ギフテッド)と呼びます。生まれつきでは無いですが、神々からの加護を得た方を加護(ブレス)持ち、ブレッシングと呼んでいます』

「ほう」


『お子様達も血族故に、ギフテッドなのです。お優しい方達で、シーリー様の為にもと軍に入りました…魔獣は勿論ですが、隣に大国が居る以上、福利厚生にお給金が良いのは軍ですから』

「なるほど」


『今後も私が知っている事でしたら、何でもお答え致します。立ち話も何ですから、部屋でお茶でも如何でしょうか?』

「ココで良い、ラルフはシーリーとどういった繋がりなの?」


『シーリー様のお祖母様に助けて頂いて以来、友人としてお仕えしております。ココの家系は代々短命でして、お祖母様はもう亡くなられておりますが…一緒に住んでるご夫婦はこの村の代表で、シーリー様の親戚でらっしゃいます』

「なるほど、ありがとう。で、はよ伝書紙を受け取れ」


『あまりにも高価な物なので、お返しはどうすべきか迷ってまして』

「アフターサービス、無料、でもコレは売り払うなよ」


『はい、ありがとうございます』

「そういや、ラルフのギフテッドは?」


『私は無いんです、亜人ですし。亜人にギフテッドは居ないそうです』


「そっか、ありがとう。じゃあ今日は帰るけど、また聞きたい事が出来たら来るよ」

『はい、ありがとうございます。是非また来て下さい、シーリー様も喜びますから』


「うん、じゃあまたね」

『はい、気を付けて』


【次はどちらへ行かれますか】


 ソダンキュラ。




 町へ入ると直ぐ、丁度兵長が哨戒している最中だった。


 なんとタイミングが良い。


『治療師様!引き返されて来たんですか?何かありましたか?』

「やっぱり少し心配になったので、皆さんは元気ですか?」


『はい、もう既に近隣の警備へ向かっています』

「そうでしたか。伝書鳩の紙が手に入ったので、もしまた大変になったら、次は連絡を貰おうかと」


『ありがとうございます、ですがお名前を伺う事になりますが、宜しいんですか?』

「勿論この事で身に危険が迫る様な事があれば、火の粉は払いますし、金輪際手助けしません」


『はい、裏切る様な事は致しませんからご安心を』

「でも、もし御使い様を名乗る者を見付けたら、軍や国に言うんですよね?」


 質問を聞いただけで音が鳴った、動揺にも反応するのか。

 調節が効くのか分らないが、少し過敏に反応しているだけなのかも知れない。


『そう名乗った者を国に引き渡さないのは、軍規違反ですね』

「なるほど、兵長さん、恋人は?」


『え、いえ、居りませんが……』


 ココでも、木琴かグラスハープみたいな中音域が鳴った。

 やはり動揺に反応しているのだろう、もしかしたら扱いが難しいかもしれない。


「今日はココに泊まろうと思ってまして、もし時間が有るなら少し街を案内して貰おうかと。お相手が居る人には、お願いしたく無いので」


『あ、はい。もう暫くで勤務が終わります、ダイナーでお待ち頂いても宜しいでしょうか?』

「はい、待ってます」




 前回同様にダイナーには人が居ない、一体どうやって生活してるんだ。

 汚いどころか清掃は行き届いてるし、珈琲も室内も暖かいし。


《コート、寒いのかい?もう少し暖めようか?》

「いえいえ、服が貧相なので脱ぐのが恥ずかしいんです。暖かいですよ、大丈夫」


《そうかい、兵長さんか看護師長さんと待ち合わせかい?》

「兵長さんと、街を案内して貰おうかと」


《そう、ならケーキを上げようね、待ってて》

「あ、いや、お構いな…」


 心遣いまで出来るのに、何でガラガラ?

 大丈夫?ダイナー。


《はいよ、今日は特に出来が良いの、食べて待ってておくれね》

「ありがとうございます。あの、ココら辺の事は詳しく無いんですけど、いつもこうなんですか?」


《あぁ、あはははは、冬の時期は特にガラガラさね。夏なんかは軍へ人が会いに来るもんだから繁盛するけど、今は軍の食事に嫌気がさした連中が来る溜まり場。後は、お祝いがあれば来てくれるかね》

「そうなんですね、軍の事とかに疎くて」


《良いの良いの、ねぇ…あんた東洋人?よね?兵長さんの文通相手か何かかい?》


「え、いや?東洋人ですけど、文通?」

《あら違うのね。いやね、最近若い子に流行りだって聞いたから、アンタもそうなのかと思っちまったんだ。なんでも、違う街や異国の人と手紙をやり取りするのが、流行ってるんだと。上手くいけば写真を交換して、結婚しちまうってのも聞いてね》


「おー、面白そう」

《私は好きじゃ無いねぇ、写真と違うって怒って刃傷沙汰なんてのもあるらしいし、子供にはするなと言いつけてあるんだ、お嬢ちゃんも気をつけておくれね》


「はい。でも止めるより、許した振りして軽く見守った方が良いんじゃ無いですか?止められると余計にやっちゃうのが若い子だし、隠れて過激な事しちゃうかも」

《やっぱりそうかねぇ、アノ子もそう言ってたんだけど、どうにも心配で》


「気を付けるべき内容と、詳しい理由を分からせれば。少しは安心しません?それと、写真じゃ無くお互いに自画像を書いて送り合うなら良いとか、条件付けるとか」


《そうね…ちょっと旦那と話してみるわ。ありがとうね》


 それから奥さんはキッチンの奥に引っ込んで、早速話し合いを始めたらしい。


 笑い声も聞こえる、平和。




 窓の外を眺めつつお茶とケーキを交互に口にし、手持ち無沙汰になったので本を取り出しソラちゃんに読んで貰う。


 ソラちゃんの声は耳心地が良い、高音の角が無くて、落ち着いてて、何より聞き取り易い。


【仕えた時、主の好みにしました】


 そうか、ありがとう。

 好みって、何処まで知ってるの?


【全てです】


 恥ずかしい。


【他と比べ特段に変わった記憶はありませんが】


 待って、他って何。


【ドリームランドに入って来た方々、主がおじさんと呼んでいらっしゃる方等の記憶から推察しました】


 う。


【無許可での情報開示は行えませんが、主の恥は一般的かと思われます】


 ありがとう?


【いえ】


 絵本の挿絵を眺めていると、不意にドアのベルが鳴り、視線を上げると兵長さんが入って来た。

 看護師長も連れて。


《来ちゃった》

『申し訳無い、付いて来られました』


《いらっしゃい、珈琲で良いわね》


《うん!ありがとうおばちゃん……顔に何か有るって書いてあって、まさかと思って来ちゃった》

「こんな無表情そうな顔に、凄い」

『面目ない』


《謝罪をね、改めて言いたくて》

「余計な事してすんませんでした」


《いやいや、どんなに時間をかけても私には、やっぱりあんな綺麗には無理だから。ムキになって拒否してごめんね、ご家族が喜んでくれたよ。最後に穏やかな顔が見れて、良かったって》


 動揺しているのか、僅かに音が鳴る。


 兵長の時とは違う数種類の悲壮な音、コレは嘘の音なのだろうか。


「複雑な心境を抱かせて申し訳無い」

《卑屈だなぁ、素直に喜んでよ》


「根暗なので。報告ありがとうございます」

《で、今日はどうして戻って来たの?》


「色々と、病や御使い様の話を聞いても?」

《うん?良いけど》


「本物の御使い様らしき人間の出現後、感染症や流行病が出たとか聞いた事は?」

《そう言った資料は存在して無いけど、その関連が示唆される事は過去に有った、御使い様の真偽は別としてね》


「あるんかぃ」


《私は移動が関連してるだけだと思うよ、本来の居住地域から離れ、長い旅路の中で何かを媒介しただけなんじゃないかな》

「あー、ですよね。自分も長距離移動してるんで、何かを媒介して無いか心配で引き返して来ました。感染を拡げてたら嫌なので」


《そっかそっか、遠くから連れて来られたなら、その心配も有るよね。でも、そのコート、魔法が掛かってるなら着てれば大丈夫なんじゃない》

「生活するには脱ぎますし、その時に撒き散らしてたらと思うと心配で」


《んー…検査してみる?》


「したいけど、信用して無いのでそれはちょっと、考えたい」

《あー、そっか。本物なら大変な事だもんねぇ》


「何の事でしょうかね」

《イナリのジョンに聞いたけど、移動魔法が随分と高度だよね、あんな短時間に移動できる治療師は早々居ない》


「へー、そんな事で御使いを騙れるんですね、チョロい」

《シーリーさんにも会ったんでしょ、それをすり抜けられるのは本物か、そう名乗ってないかのどっちかだよね》


「ただの見習い治療師と名乗りました」

《ふーん…私もね、御使い様の存在を信じてるんだ、まぁ同時に詐欺師は嫌いだよ》


「なら詐欺師では無いので安心して下さい、ただの迷子の治療師見習いですから」

《じゃあ身分証を見せてよ、君が日本人で欧州に行ってたなら、身分証を持っている筈だよ》


「残念、日本人だとは言って無いんだぁ」

《だったら今の女王の名前を言ってみてよ、言えるでしょ。イギリス人なら》


「イギリス人とも言って無いし、世間知らずの箱入りでしてね、なーんも知りません」

《どうあっても認めないかぁ》

『もう良いでしょうマティアス、この人は本物ですよ』


《だね、ごめんね》

『昨夜の時点で、アナタの事をマティアスから聞かされていました、そして先程の質問で確信したんです。それが顔に出てしまったらしくって、付いて来られました、申し訳無い。ですがアナタの事を報告するつもりは有りませんので、信じて下さい』


《うん、私も、何処にも報告しない》


 鳴らない、鳴らないが信じ切れない。

 どちらも。


「治療師見習いです、それ以上は貴方達に対しては絶対に認めない」


『これはもう、完全にマティアスのせいですよ』

《ごめんてば、尋問官に頼れないからこうするしか無かったんだもの、ごめん》


「そもそも、認めるメリットが無いでしょうに」

《あ》

『失念してましたね』


 頭が良いのか悪いのか。

 悪いのかしら。




《どうしたんだい、重い空気だ。お代わりどうだい?》

『頂きます』

「ください」

《うん、私も》


 停止した時間が再起動したかと思うと、再び停止してしまった。


 こうも御使いの尋問になるとは。


《なんだい全く、お嬢ちゃんの取り合いかい?》

《違うよぉ、異国のお嬢さんに信用して貰う方法を探してるの》


《何する気だい、悪さするつもりなら尻ひっぱたいて追い出して永久に出禁だよ》

《違う違う、遠く旅して来たそうだから身体に異常が無いか検査したいんだけど、検査が怖いって》

『マーリン派の治療師見習いの方なんです、なので困ってらっしゃってて』


《なら教会……マーリン派ね、そうかそれでかい。そら怖いわよ、異国の検査なんてどんなモノか分かったもんじゃ無いでしょうに。アンタ達、軍人さんなんだから、保護か何か出来ないのかい?》


《そうしようとしてるんだけど、少し聞き過ぎちゃって、信じてくれなくなっちゃった》

《だーかーらー、アンタはいつまでもモテないんだよマティアス。もう子供じゃ無いんだから、相手のお国柄を考慮して、少しは遠慮ってもんを知りなさいな》


《はい、反省してます》

《アンタもよレーヴィ、ちゃんと抑えてやらないと直ぐに暴走するんだから》

『はい、すみませんでした』


《大丈夫よお嬢ちゃん、私らダイナーがこの狼達から守ってやるからね》

「ありがとうございます」


 ニッコリと微笑み、キッチンへと戻ったオバちゃん。


 オバちゃん強い。


《じゃあ、教会の代わりに手伝って貰うのはどう?宿代と食費は出すから》

『手伝わせるんですか?』


《手が足りないのは事実だし、一緒に働いて私達や軍の内情が分かれば、少しは信用できるか判断が付くでしょ?移動魔法が有るなら、最悪は逃げれるだろうし》


「賃金は要らない、痕跡が残るの嫌」

《なら私と兵長が出すよ》

『良いですよ、蓄えはありますから』


「遠慮させて頂きます、無くは無い、ほれ」

《えぇー、もー、レーヴィも何か出してよ》

『そう言われても』


「検査はしたいから迷ってる、でも、検査によって感染が広がるなんてのも困るので、更に迷ってる」

《あのね、私は看護師長だよ?免疫の事は上級医師程は詳しく知らなくても、医学の知識は有るんだからね?》


「情報の摺り合わせはしたいけど、流石にココではちょっと」

《よし!じゃあ後は君の宿で話そうか、もう取った?》


「まだだが」

《大丈夫、新しく来た治療師見習いだって紹介するから》


「働くとは」

《まぁまぁ、見てから決めてよ、良い場所だから。オバちゃーん、お会計ー》


 ご馳走様と手を合わせつつ食器に清浄の魔法を掛け、ダイナーを出ると外は暗くなり始めていた。




 案内されたのは街の外れにある大きなロッジ、少し離れた場所にも小さなロッジが何棟もある。


 知り合いの若い夫婦が旦那さんの家族と共にやっているそうで、看護師長の知り合いらしく、格安で泊まらせてくれるらしい。


 二重扉を開けると、真横に受付。

 目の前には石の積まれた大きな暖炉、大きな熊の剥製。

 ランタンは鹿の角で飾られ、グラスキャンドルと共に室内を明るく照らす。


 床も壁も木製なのに隙間は無く、暖かい。


「あら、未成年連れ込むなら出禁よ?」

《違うってば、見習いの治療師様を引き留める為に連れて来たの》


「本当なら、中を案内するわね」

《宜しく》


 若奥さんだそうで、一緒に館内を案内してくれる事になった。


 本館に近い小さなロッジは、近くに家族用サウナと中庭、屋内BBQ場がある。

 そして本館で真っ先に案内された部屋には、暖炉にソファー、そして下段が広めの2段ベッド。


「直ぐに遣えるのは、この小さい部屋なんだけど、どうかしら」

《気に入らないならホテルも有るけど、料理がなぁ》

『ココなら料理も、特にオススメですよ』


「大人げ無いわね2人して、断っても大丈夫よ。ロッジは慣れないと過ごし難い所も有るんだし」

《そこは私がフォローするよ》

『ホテルも、見てみますか?』


2段ベッド、ホテルに無さそうよな。


「この部屋でお願いします」

《やった》

「じゃあ今、火を入れるわね」


 慣れた手つきで薪を組みマッチの火を入れると、ゆっくりと火が広がる。

 寒い部屋で待たせる訳にはいかないと、受付前のロビーで一緒にお茶をする事となった。


《パン好き?ココの美味しいんだよー》


「皮が固ったいのが好き」

《分かる、歯が取れそうになるのが良いよね》

「ふふ、褒めてるのよね?」


《凄い褒めてるよ、オヤツある?》

「クロップカーカよ」


《じゃあ人数分頂戴》

「はいはい」


 少しして出て来たのは、白いツヤツヤの丸い何か、中を割るとお肉が入っていた。

 塩味の効いたお肉が、モチモチの芋団子に包まれた物。


「美味しいです」

「今日の夕飯は、ヤンソンの誘惑とトナカイスープ。夜食はパンヌカック」

《夕飯までは絶対に帰らない》


「なら仕込みをしてくるから、後は任せたわね」




 宿泊客は自分だけらしい、主に夏場に軍の家族が宿泊する場所なんだそうだ。

 その時期は旅行客も来るそうで、トナカイ狩りが目当てなんだと。

 裏で捌いて燻製にして、お土産にするんだそう。


「閑散期に迷惑じゃなかろうか」

《私達みたいなのが食事しに来る事もあるし、大丈夫》

『マティアスはココかダイナーでサボってますしね』


「可愛い人だしね」

《人のだし、姉に似てるし無理だなぁ》

『気が強い所がそっくりですしね』


「幼馴染なの?」

《いや、彼女は余所の子。古い付き合いは若旦那の方だね》


 確かに、ここら辺だと珍しい茶髪系で目も茶色。

 マティアスは金髪巻毛のソバカス、銀色の目。

 じゃあレーヴィはと言うと、黒髪に近い色で、目も暗い色。


「ん?兵長さんは?」

『北カレリアです、地図を良いですか?…下の方、その右側のです』


「治安とかどう?」

『隣国とは常に緊張状態なのと、魔獣も多いので、国境付近には近寄らないで下さいね』


 そう話していた兵長の視線につられ、ふと奥のキッチンの方を見ると、若奥さんが出て来た。


 もう部屋が暖まってるだろうから、何時でも部屋へ入って良いと。




 早速部屋へ。


 先程までは無かったお湯の湧いているヤカンや、茶器セット等のポットとお菓子。

 茶葉に珈琲、砂糖にミルクまで至れり尽くせり。


 兵長さんが慣れた手つきで暖炉の火を調整し、お茶を淹れてくれた。

 クッキーは固くてむぎゅむぎゅしてて美味しい、何だか今日はやけにカフェインが美味しく感じる。


「で、先ずは君らの事が知りたい」


《18才で看護師学校を卒業して、初の戦場で彼と、レーヴィと出会ったんだ。戦争孤児でね、そういうのが多いんだ軍には、10才だったっけ?弟が欲しかったから、そのまま預かった、身内が見付かる迄》

『直ぐに親戚は見付かりましたが、どうもソリが合わなくて、ココに帰って来てしまいました。以来、そのまま居させて貰ってます』


「仲良し」

《でしょー》

『そう見えますかね』


「なら、看護師長の家族構成は?」

《姉は中央で医者してる、私はこう見えても亜人だから魔力が少なくて。医者にはなれなかったから、不貞腐れてココに居る感じ》


「少ないとなんでなれないの」

《広範囲に殺菌や滅菌の魔法が使えないからね、全部1人で準備が出来てこその医師なんだ。どんなに腕が有っても、見立てが上手くても、魔法が使えなきゃ医師にはなれない》


「逆のイメージだわ、看護師が準備して医者が手術。後始末も何もかも看護師、軍医は知らんけど」

《大昔はそうだった、だけど清浄の魔法が発見されてから大きく変わったんだ。その時代にも御使いを騙る者が多く出たそうだけど、どうなんだろうね。事実は合致する》


「世界の魔素が枯渇すれば返り咲きじゃない?そもそもココの魔素は安定してる?」


《枯渇?…考えた事も無かったな、どうだろう。地域によって濃さは違うけど》

「その濃いのが魔渦(まか)?」

『はい。国境付近以外にも魔獣が出る理由は、魔渦に引き寄せられての事ではと推測されています。その出現理由はどちらも不明です』


「んー、じゃあ御使いについて」

《公では御使いは存在してない事になってる、寓話の中だけの存在。逆に、絵本としてなら沢山ある、どの国にでも共通してる》


「どの国にも?」

《うん、でも居ると分かれば戦争の火種にもなるから、基本的には全て詐欺師として扱って、書類上死刑にする事で、身柄の隠匿と拘束を可能にしてるんじゃないかなって思う》

『あくまで彼の推測ですけどね』


《それとシーリーさんから内緒で聞いてたのは、魔力が多かったり得難い知識を持ってる人間を中心に調べるって、上層部の人から聞いたって事とかかな。だから何処であっても身分証の無い魔法使いは取り敢えず尋問される。逆に、その保護をしてるのが教会、有能そうなら秒で引き抜いて自分達のモノにしちゃう、戸籍もホイホイ作れるからね》


「排斥派では?」

《存在自体を否定してるけど、有能なのは欲しいんだろうね》


 御使いホイホイがアチコチに。


「何も知らなかったら、普通は行っちゃうか」


『その点、軍は完全に後手に回ってますからね、そのまま尋問となりますし。どちらであっても軍人として使われるとの噂も』

《実際に教会落ちの魔法師って多いんだ》


『そして実際に、今はもう、教会が気に入らない人間の処分場の様になってるんですよ。教会の治療師で無くなれば魔法師に格下げですし、そうなれば身分証も取り上げられて。後は野良の治療師になるか、マーリン派に入るか、そのまま軍の治療師か魔法師になるかです』


《でも教会落ちの治療師ってプライド高くて苦手なんだよね、左遷されて来ると杓子定規で碌に働いてくれないし。マーリン派の人はちょっと抜けてるけどキチンと働いてくれるから好きだよ、変人が多いけど》


「つか、国に差し出せば偉くなれるんじゃないの?」

《偉くなってもねぇ、医師になれるワケじゃ無いし。寧ろ君が本物なら、その知識を吸収して広めた方が病には有効だと思う。凄腕の医者1人より、万人に病の知識が行きわたる方が、効率が良いじゃない?》


『僕も彼の考えに賛成です、軍人とはいえ功を挙げても限界はありますし、争いは人が死にます。無闇に争いの火種を翳すのは、得策では無いかと』


「じゃあ医師になれるなら差し出す?知識はそこまで無いよ、看護師長さんの意に沿えるとも限らない」

《医師になりたいのは人を救いたいから、それにもう、誰か1人を犠牲にしてまで成りたいとは思えないし》


「1人の犠牲で大勢が救えるならどうする、それこそ世界中の人間を救えるなら、たった1人の犠牲で済むなら、差し出すでしょう」

《そこまでの規模ならね。でもたかが1人にそんな力が集中するかな》


「まぁ、例えばだよ」

《君にそんな役目が?》


「そこは知らん、何をしたら良いか見当もつかん」

《帰りたい?》


「そらね、途中だった事が色々と有るし」


『お湯を沸かしますけど、如何ですか?』

「おう、トイレ行く」


 半分、絡まれてるんだよなぁ。

 ミスったかなぁ。




 トイレから戻ると、変わらずめっちゃ寛いでる。

 掴み所が無いなぁ。


《ココは、居心地悪い?》


「まぁ、向こうでなら病気を広めるかもなんて心配は無いから」


《もう、癌の特効薬とか有った?》

「秘密、それよりそっちの話。衛生観念てどうなの?主な感染症とか、ヤバいの有る?」


《消毒は魔法が1番、簡易で完璧だからね。次に日光かな、後は薬品か煮沸。感染症なら狂犬病や破傷風とか、今はワクチンがあるけど、昔は致死率が凄かったから》


「流行り病は?」

《やっぱりインフルエンザかな、ワクチンが有るけど型の見極めをミスれば大流行しちゃう、グループ分けして複数種類打つ。暫く患部が腫れるから嫌いなんだよね、腕が上がらなくなるし》


「そこを魔法で治すのはダメなの?」

《そんな贅沢な使い方してくれるのはマーリン派位だよ、彼らは日常生活が送れてこその健康だって派閥でも有るから。国も軍も教会も、そこまでケアはしてくれない。ただ欠点も有るんだよね、エリクサーの生産は行って無いから、そこまで派閥が大きくなれないんだ》


『ただ、アナタの様に独学で生産出来る方、教会派からの転身でエリクサーの生産が可能な方も居ますが、無印として価格も性能も低いのが殆どだそうです』


《でも偶に良い腕してる治療師も居る、大概は治療師を辞めてエリクサーの生産者に転身するのが多いね。君みたいに移動魔法が使えない者が殆どだから、費用や運搬や移動に疲れて、どっかに定住しちゃう》


「なんか魔法には傾向が有って、使えたり苦手とか有るっぽいんだが」

《うん。それで君のあの高度な治癒魔法と移動魔法を両立させられるのは、治療師以上の存在である上級魔法師か、御使いかと思った点なんだよね。違う系統なのに使えるって、どんな原理なの?》


「そも系統って何よ、魔法は自由でしょうが。向き不向きは有るにせよ、頑張れば使えるのが魔法ってもんでしょうに」

《その原理が違うのかも、系統立てて理論構築されたのが魔法だって、コッチでは習ってるんだもの》


「そこまで詳しく無いけど、それは魔術って呼ぶんじゃ?」

《私も基礎教育以外はされてないから詳しくは知らないけど、使う者によって呼び方が変わるらしいよ。魔女は魔術、神や人は魔法って》


「ガバガバ分類、魔力が有れば誰だって何でも出来そうなのに、変なの」

《魔法を得るには資格が必要だからね、誰でも何でも出来たら危ないし》


「まぁ、赤子で火が使えたら危ないもんね」

《そうそう、だから普通は魔法の事は資格が無いと学べない。そもそも魔力が少ないと、資格試験すら受けられない》


「有効範囲が狭くなるだけで、使えそうなもんだけど」

《弾倉は多い方が良いでしょ、何回も補充しなくて済むし、効率化の結果だよ。君のその眼鏡も、在庫が豊富ってワケじゃ無いからね。そのレンズが無いと、消毒出来たかの確認が人間には出来ないし》


「眼鏡無しに見えるなんて人が居るの?」

《そりゃ御使い様なら見えるらしいよ》


「じゃあ違うな、無いと見えないもの」

《それを所持してる時点で一般人では無いけどね》

『上等な魔法が掛かったコートや眼鏡を所持出来る者は限られてます、上流階級の者か上級魔法師、どちらも教会か国へ所属しているのが殆どなんです』


「つかなんで眼鏡とかコートの事が分かるのさ、キラキラしたのが見えてるの?」

『こんな時期にその薄いコートで平気なのは、そのコートが本物か、詐欺師の強がりのどちらかですから』

《うん、つまりカマかけ》


「は」

《ふふ、ごめんね》


「兵長、他に医学の事が話せる適任者はおらんのか」

《ごめんて、詐欺師へのカマかけの常套句なんだもの、大概はでっち上げの自慢話を始めるからさ。つい本物と話せるのが楽しくて、ごめんね》


『すみません、でもカマかけは本当に最初にする事なんですよ、中にはやせ我慢で普通の道具を魔道具と思わせる輩も居るので、見抜いて救うのも義務なんです』


「そんなに居るのか、詐欺師」


『減っては居ますが、どの国でも他国からの詐欺師が多いんです。自国への身分照会は短時間で済みますが、他国へとなると数日は掛かります。その間は軟禁状態になりますが、衣食住が保障されますし。特に魔法使いや治療師なら、そのまま難民申請をして帰化する者が多いんです。その場合は御使いとは名乗らないのが殆どで、勘違いされただけ、と』


「勘違いすらすんなよ」

《はいはい、でも流石にマーリン派で御使いを騙る奴は聞いた事も無いよ、ダブルで追われる事になるだけなんだから。嘘なら2つは欲張り過ぎ、命知らず過ぎる》

『ですね、国や教会だけで無く、マーリンに直接目を付けられる事になりますからね。罰としてなのか、砂漠や南極に置き去りにされた例も有るそうですし』


《それに、マーリン派の修行はスパルタどころか拷問に近いって噂も。破門するにしてもこんな地方に置き去りなら、寧ろご褒美かって位だとか。なんなら独り立ちのお祝いに送り出してくれたんじゃ無いかって程らしいよ。今度から、そう言ったら?》


「なんでくわしい」


《大昔にマーリン派から脱落したのが教会に居てね、良く昔の愚痴を聞かせてくれたんだ》

「そこくわしく」


《極限の状態に置いて、魔力が枯渇する寸前まで消費させられてから、その人が最も嫌いな味を最大限に生かしたエリクサーで回復させられる。それ以降も多種多様な状態に置かれて、見込みが有ると思われれば、その難関をクリアする度に魔法やコツが教えて貰えるらしい。だから逃げるに逃げられない、でもその気配を察知されれば即追放。人間の女への八つ当たりだって言われてるね》


「おや?似た様な経験をしている気がしてきたぞ、マーリンからじゃ無いけど」


《お、どういった経験なの?》

「不味いエリクサー飲むのと、魔力枯渇しかけたのと…あ、膜って分かる?魔力を保持する膜」


《子供の頃は薄かったりするやつかな?魔力暴走して穴が開く事も有る》

「暴走すると開くのか」


《稀にね、体調が悪くなるのが殆ど》


「んー、硬いからだろうか」

《そうだね、柔らかいのが至高だけど、透過する体質は忌み嫌われる、魔獣を呼んでしまうから。今でもそういう子は捨てられてるから、見付けたら軍で引き受けてるよ。最近は教会も引き取ってるらしいけど、どうなったかは追え無いんだ》


「あ、ごめん、それだ。どしたら良い?」

《え、あ、魔除けは有る?》


「ある」

《なら大丈夫、長生きする子は少なかったから、確実な事は言えないんだけど。戦時中は囮に使われてたらしくて、今はもうそんな事は無いからね》

『今は魔除けが発達してますからね』


「一応対抗手段も有るし、何か有ったら呼んで。手が空いてたら支援はする、かも」

『はい、お願いします』


「じゃあ医療に話を戻そうか、ペニシリン」

《ある。アレクサンダー・フレミング》


「レントゲン」

《ある》


「エコー」

《ある》


「CT」

《ある、MRIもある》


「は、携帯電話も無いのにか」


『少し昔に、頓挫したやつですかね』

《各国での情報流出が有ってね、大規模なネットの遮断が起きたんだ。それと同時に携帯の開発が止まって、今は無線が主流。でも今は行政にネットが普及したし、国内利用だけなら問題無いよ、本体が有ればだけど。高いんだよね、重くてデカいし》


「あー、遮断の理由は?」

《海外とネット接続していた数件の病院が脅迫されて、情報の身代金を払わされたんだ。大病院が倒産しかけたけど国が支えた、でも当時ネットが身近に無い国民にとっては納得のいかない出来事で、そのままネットは一時縮小された。どの国でも同時に起きたから、どこもそうなった》


「日本もかなぁ」

《そこがね、日本は国内にサーバーを置いて管理してたらしくて、セキュリティ管理もしっかりしてたのか被害は皆無。一時は日本が主犯じゃ無いかって噂も出てたよ》

『そもそも、どの国でもセキュリティが甘かったのが原因だそうで、今は指導を受けて復旧中なんです。ただ、中々予算が通らないんですよね、ネットの恩恵を感じられない国民からの反発が大きいのと、海外まで繋げる意味を見出せて無いんですよ』


《医学的にも痛手なんだけどね。折角ヒトの遺伝子解析が終わったのに、今はその先の共同研究が大幅に遅れてる。そこが進めば国民にも恩恵がいく筈なんだけど、中々分かって貰えないんだよね》

『僕は身近に医学が詳しい人が居るので実感出来ますけど、知らない人は知らない事を、知りませんからね』


「健康で普通の人には興味が無いでしょうね、怪我や病で初めて有り難みが分かる。良い事なのかも知れないよね、それだけ健康な人間が多いって事だろうから」


《そうでも無いんだよねぇ、教会が遺伝子研究に反対してるってのも絡むんだ。神の領域だって》

「神の領域はもっと遠い所に有るのにね、解析の初期段階で出来る事なんて、まだまだでしょうに」


《やっぱりそうなの?これから時間掛かるかな》

「ネットやスパコンがあれば早いっしょ」


《スーパーコンピューターなら日本だよね、京って名前だっけか。知り合いが研究の為に日本に行ってるよ》

「え、お、おう」


 京って、向こうのじゃんか。

 転生者か召喚者が絶対居るよなぁ。


 でも、リズちゃんみたいに喜んで協力してるとも限らないし、強制されてる可能性は有る。

 それこそ牢に繋がれて出来上がった物かも知れんし、行きたいけど行きたくないな、日本。


《日本に行く予定は無いの?》

「身分証無いのに?」


《有ったら行きたい?》

「まぁ、どんなもんかは見てみたい」


《ふふ、シーリーさんが知ったら喜ぶんだろうなぁ、本物だって》

「初日でバレた、全部聞かれてた」


《そっか、体調はどうだった?痛み止めが効いてると良いんだけど》

「内緒だけど、治した。国や軍にバラしたら殺すからね」


《治療してくれたんだね!ありがとう。でも何で?尋問官なのに、ある意味敵だよ?》

「知らなかった、ココに来て直ぐにウツヨキの森に居たから、助けを求めに向かった先が役場で、流れで治してバレた」


《やっぱ魔法には敵わないよなぁ》

「いずれ魔法より医学が勝つ。今は魔法で治せても、その発生原因までは治せない筈だから」


《発生原因ね、そうか、そこなんだね》

「だから落ち込むなって、魔法すら超えるって」


《何だかんだでお人好しだよね、君の居た世界の人間は、大体こんななの?》

「まぁ、優しい人ばっか。平和で内戦も戦争も100年は無い世界」


《良いなぁ、ココは戦争ばっかだし、羨ましい》

「最後の戦争は何?」


『我が国は未だに隣国のロシア帝国と交戦中です、と言っても内部分裂の余波がコチラに来ているので、内戦の露払い程度ですが』

「どの位不安定なの?」


『女王が他国との融和政策を進めている間に、密かに軍が勢力を拡大させていたらしく、反乱が起きました。今は国民と女王、国軍の争いが常に起こっているそうで。かつて魔法を携え帰国した魔法使いも、今では我が国へ難民申請後に、正式に帰化している程、情勢は不安定です』


《日本も支援したがってるけど、女王が兵の受け入れを拒否してるんだって。自国の争いに友好国を巻き込むワケにはいかないって》


『隣国の我々ですら拒否されてますからね、戦火が拡大すれば責任が取れないからと』

《国の事だから実際はどうか知らないけどね、もう身動きが取れないのかも知れないし》


「ウクライナの、チェルノブイリ原発は?大丈夫?」


『普通に稼働してる筈ですが、問題でも?』

「いや、良いんだ。安全規格が守られて無いのは何でもヤバいから、少し心配になっただけ」


『日本は災害大国ですからね、その点はどの国も見本にしてますから、大丈夫ですよ』


 また日本、行けば何か分かるか。

 でもなぁ、怖いなぁ。


「休憩で、少し考える」

《うん、私はお菓子貰ってくるよ》

『はい、少しは遠慮して下さいね』




 さっきもビックリしたけど、シャワーブースの横にサウナ有るのよね、イナリでも有ったし、マジで何処にでも有るよサウナ。


 顔を洗い、戻ってサウナのやり方を兵長に聞く。


 暖炉の脇に置かれていた石を加熱し、設置、水を掛けて入るらしい。


「ほう」


『慣れて無いでしょうし、僕が準備しましょうか?』

「いやー…普通はどう入る?時間帯とか」

《好きな時に好きなだけ入るけど、寝る前は止めといた方が良いかな。水分はたっぷり摂ってね。ウチの時間帯は夕飯の後、暫くしてからがオススメかな》


「じゃあその時に入る、教えてくれたら自分でやるよ」

《慣れないと危ないし、最初は彼にやらせたら?》

『はい、それ位はさせて下さい』


「分かった、宜しく。ちなみにココの料金は?」

《1日食事付きで30ユーロ》


「なら自分で出すよ、結構持ってるし」

《引き留めてるのはコッチだし、その位は出させてよ。どうせ使い道の無い貯金だし》


「旅行とかしたら?」

《時間がなぁ》

『夏休みは学会ばかりに行ってしまいますもんね』


《周ってたら夏休みが終わるんだもの、しょうがないじゃない》

『態々(わざわざ)、見付けてるんじゃないんですか、帰省も避けてますし』


《帰っても楽しく無いんだもの、やれ結婚だなんだ五月蝿いし。君はまだ言われ無いから良いだろうけど、大変なんだよ?》

『手紙や電話でマメに連絡してますし、僕は養子ですからね』


《そんなに連絡してるの?なんで》

『連絡しないと向こうから来るんです、貴方の分まで』


《え、ごめん、いつから?》

『3年前です。貴方が全く帰らなくなって、代わりに僕が近況報告してるんですからね』


《ごめんね、ありがとう》

『別に良いですけど、少しは連絡してあげて下さいね。心配してましたよ』


《考えとく》

『じゃあ、そう言ってたと伝えておきますからね』


《うん》


「どっちが兄か分からなくなる」

《でしょ、良い子に育ってくれて助かってるよ》


「兵長はそれで良いのか」

『もう慣れましたし、特に苦じゃ無いので』


「そう…じゃあ再開しようか、お給料とか聞いて良い?」


《私は500万位》

『僕は公務員なので600万を超えます、各種手当が付きますが700には届きません』

「安いんだか高いんだか」


『福利厚生が充実してますし、特に困った事は無いですけどね』

《そうだね。魔獣とネットが使えないのを除けばだけど》


「何でも喋ってくれるのね」

《え、もしかして冗談だったの?》


「元々の知識が少ないんでね、年収知っても役に立たせられん」

《なんだ、社会形態が違うのかと思ってビックリしたよ》


「だから、箱入りだったから何も知らないって言ったでしょうに」

《医療系は知ってるじゃない》


「元は病弱だったからね、それ以外は本当に普通。料理と手芸が趣味の普通の人間、寧ろ普通より低スペック」

《でも、不思議な魔法の組み合わせは使えるし、魔力は多い筈だよ、あれだけの人数を治しても倒れなかったんだし》


「らしいけど、数値化ってされてる?向こうでも無理だったんだよね、総量に対して減りましたよとかは有るけど」

《へー、コッチでも厳格な数値化はされて無いけど、目安にはなってる。測定で人生が決まるからね》


「やってみたい」

《魔法省の魔道具だから難しいね、年に数回しか出されないし、管理も記録も魔法省がやるから》


「残念、2人はどの位なの?」

《あの重症患者1人治し切れずに倒れる》

『移動魔法でイナリからココまで来ても少しなら余力は有ります、マティアスだとその5分の1以下で倒れますね』


「それが平均?」

『僕は平均より少し上ですけど』

《私は亜人でも低い方だね。かと言って亜人の特性もほぼ無いし、目の色だけかな》


「綺麗だよね」

《ありがとう、でも何か良い特性が欲しかったな。耳が良いとか、足が早いとかさ》


「頭が良いんじゃない」

《そう?家族で1番頭が悪いって言われてるんだけど》


「兵長より?」

《そこは遺伝子が違うから比べられないよ》

『しかも亜人は家族内で彼だけですからね、大変だったと思います』


「んー…養子って、医者は金持ちのイメージ」


《うん、親もそうだし。しかも女系だからレーヴィの養子縁組もすんなりいったよ》

「遺産争いに巻き込まれないなら、羨ましい限りだ」


《今の家長は姉で、時点は妹。私らは好きにして良いから気が楽、嫌味を言う奴は多いけどね》

「御使いを差し出して恩返ししてやろうとか思わんのかね」


《んな事考える暇があったら、良い嫁でも見付けてさっさと姪か甥でも見せろ、この行き遅れ》

『それか、金は有るんだから研究職か、農夫にでもなれ愚弟ども』


《って、言われそう》

『絶対言いますね』

「え、めっちゃ愛されてるやん」


《頑張って翻訳して、やっとこうなんだ。日頃の口の悪さはもう、筆舌に尽くし難いの》

『最初は何度、嫌われてると思った事か』

「愛されてそうだけどな」


《どうなんだろうね、分かんないや》

『大丈夫ですよ、愛されてますって』

「近いと分からないのかも」


『そうかも知れませんね』


《ま、話を少し変えよう。年は?》

「いくつに見える?真面目に」


《19》

『18』


「幼い、21だ」


《はー、えー?本当?》

「世間知らずだから特に幼く見えるみたいでね、どうもすいませんね」


『本当に、僕の年と近いんですか?』

「君もか、幼いは嬉しくない。いよいよ怒るよ」


『すみません』


《でも15、6って事にしちゃえば、色々目を瞑ってもらえるかもだよね》

「うっ」

『そうですね』


「くっ…同じ国の人間には通じないと思うんだが」

《東洋人は殆ど居ないし、多分他の人もその位の年齢だって勘違いしてると思うよ》

『隣町のジョンさんやシーリーさんも、多分そう思ってるんでしょうね』


「だから皆絡んで来るのか?」

『子供は国の宝で、大切にしなくてはいけませんからね』

《うんうん、だからそうしとこ》


「解せぬ、メリットある?」


《難民申請で手心が加えられると思う、戸籍もそこで作れるから身分証が出来る、そしたら動き易くなるでしょ?》

『そうですね、シーリーさんにも協力して貰えれば簡単に済むと思います』


「シーリーはお勉強したがってるからほっといてあげて欲しい、国だか軍に完治がバレるまで自由にさせたい」


《でも、君が自由に動ける事の方が喜ぶと》

「ダメ、他の方法で頼む」


『では、難民申請はココでしましょうか、僕らが街で見付けた事にします』

《うん、私達が身元引受人になるよ。なんなら兄妹になる?》


「シーリーから御使いが好きって聞いてたけど、そこまでするかね」


《勿論!本物は居ない事にされてるんだよ?ある意味神様以上に会えない存在なんだから、関われるなら何だってするよ》

『僕は信じてなかったんですけどね、サンタクロースと同じ、誰かが作った架空の存在だって。でもマティアスの解説で信じる様になっちゃったんです、居る可能性が有るって』


「洗脳されちゃって、どっちかの仕込みだったらどうするのさ」


『殴ります、流石に絶縁ですね』

「とか言いつつ」

《え、レーヴィの仕込みなの?》


「かもよ、信じたいから信じちゃうって、良く有るでしょ」


《…もしかして、カマかけた仕返し?》

「バレるの早くない?」


《もー、流石にレーヴィにこんな事されたら人間不信になっちゃうよ》

『僕もですよ』

「ざまぁ」


《良い性格してるね、本当にウチの兄妹になる?多分君なら上手くやれるよ》

「相続で揉めるのは面倒そうなのでやめときます」


《えー、残念》

「はいはい。神様より会えないって事は、ロウヒには会った事あるの?」


《無いけど、居るのは知ってるよ》

『全てを見透かす能力が有るそうで。普通の人間が行っても、資格が無い、と拒否されるそうです』


《迂闊に会いに行くと、呪われたり凍らされるって子供の頃に脅されたな。調べたら実際に凍死した死体が教会に送られた事が有ったって知って、怖かったよ》


「あら、何したんだろうね」

《それは書いて無かったなぁ》


「んー、難民申請とか戸籍って具体的にどうやるの?やるかは別ね」


《生年月日に姓名が必要になるんだけど、どうしようか》


「日付は2月12日で、こっち来たのがその日だから。名は…どうしよか」

《こんだけ上手に喋れるんだし、コッチの子になっちゃえば?異国の子で、軟禁されて育ったとか、戦争孤児でも良いし》


「マーリン派を語る治療師に教えられて育てられたけど、気が強いので捨てられた16才」

《良いね、それで大丈夫》


『後は名前ですね』

「花か桜にちなんだのが良い」


《えー、ローズ》

「可愛いから却下」


『カメリア』

「却下」


《月桂樹(ラウラ)》

「それ」


《定規(エリクセン)。ラウラ・エリクセン》


「覚えやすいけど何か綺麗な響きで違和感、汚いの無い?」

《無い、我慢して》


『自己紹介がまだでしたよね、僕はレーヴィ・ローリゼン。彼はマティアス・ローリゼン』

《宜しくね》

「うん、宜しく」


『では2004年、2月12日。ラウラ・エリクセンで決まりですね』

《後は来歴かな。マーリン派を語る治療師に教えられて育てられたらしい、年頃が15、6の女性》


『それだけの記録の人間は結構居ますから、大丈夫だと思います』

《亜細亜人の誘拐は珍しく無いから疑われないだろうけど、治療師の事が問題なんだよなぁ》


「なに」


《難しいのをホイホイ治さないで欲しい、シーリーの病とかは特に。上級治療師でも抑え込めるのがやっとで、完治は難しいから》


「何で治せない」

《寧ろ、どう治したの》


「悪い細胞を置換した、正常な細胞に」

《細胞が見えるの?区別がつく?》


「良く見れば見える、元々見た事があるし、それに置き換えた」


《聞くんじゃ無かった。本当に普通の人なの?》

「おう、どうしてそうなる」


《医者って言うのは細胞の見極めだなんだと知識を詰め込んで、医療と魔法のコントロールも覚える。医学の基礎知識と魔法の融合だからこそ難しいんだ、そんな情報量が若い君に入ってるなんて知れたら、魔女か御使いに疑われるしか無いんだよ》


「おう、調べりゃ癌細胞の画像なんて直ぐに出て来たよ向こうは、ネットでな」

《情報が直ぐに満遍なく行き渡る世界かぁ、羨ましいなぁ》


『まぁまぁ、もう夕飯でしょうから、ココは一旦』

《だね》

「おうよ」


 小さな丸い填め込み窓のみ存在する廊下を、ランタンと共に歩きロビーへと向かう。

 外は真っ暗、ロビーの時計はまだ17:40。


「あら、運ぼうと思ってたのだけれど。どうする?」

「手間の掛からない方で大丈夫です」


「良いのよ、軍の話なら聞くのもアレだし、運ぶわ」

「手伝います」




 ヤンソンの誘惑とは、芋とアンチョビのグラタン。

 トナカイスープは塩味、焼き立ての黒パンは酸味が少なくて食べやすい、ハムやチーズも有る。

 確かに美味い。


 遠慮せず全て食べ切った、ヤンソンさん好き。


《足りた?》

「まぁまぁ」

『何処かで魔力を消費したんですか?』


「してないと思うけど、来てからずっと空腹。ココへの移動に魔力をもってかれたのかも」

《先人の話が聞ければ良いんだけどね、寓話しか無いんだ》


「公文書的なモノにも、形跡すら無いのか」

《子供にも字を読ませる為に、政府も目を瞑ってる感じなんだよね。一時は発禁だった程だし》

『今でも古本屋に行けば、御使いの字が塗り潰されてる本が有りますからね』


「作家に会うのも手かなと思うのだけど」

《目を付けられてるかもだし、後々に回した方が良いかも》

『ですね、片付けて来ますね』


「手伝うよ」


 綺麗に平らげた器達を見て、朝はカレリアパイとトナカイプレートにメニューが決定された。

 勿論、ベリーは別添えで。


『明日の朝食はカレリアパイとトナカイプレートだそうです』

《取っといて貰おう、朝は会議有るから来れないし》


「食いしん坊」

《序でに明後日もお願い、軍は豆のスープなんだよ。10年も食えば飽きちゃう》

『せめて付け合わせが、もう少しまともなら良いんですけどね』


《教会の人間も居ないし、メニュー変えてくれないかなぁ》

『あ、明日は軍関係者で街が少し混むかも知れませんね、何か入り用があれば僕が買って来ますよ』


「ありがとう、親切なのに信用出来無くて、申し訳無い。無事に帰るのが最優先だから」


《仕方無いよ、私でもきっとそうする。ただ、何で自分なんか呼んだのか悩みそうだけど》

「それなぁ、何すりゃ良いのよねぇ」


《あ、検査のついでに絵本読みに来るのはどう?いっぱい有るよ》

「子供に使う手じゃんかよ」


《だって、本当にいっぱい有るんだもの》


 病院も併設されているので、大人も子供も読める絵本が多いらしい。

 明らかに、彼の趣味だと思う。


「御使い隠匿の罪とか無いの?大丈夫?」

《無い無い、まして君はそう名乗って無いから大丈夫。万が一何か有っても、私達は少し夢見がちな子の話に乗ってあげた、優しいお兄さん達ってだけだし》


「おうおう、少し不穏だな」

《戦争とかで心の傷から空想がちになる子は少なく無いし、最悪はそれで押し通す。君を守る為に》


「そこは任せるけど、強制入院になる様な事は勘弁してくれ」

《そこは我慢してよ、直ぐに退院出来る様にするからさ。御使いとして酷使されるよりは、数日の入院で済んだ方が楽でしょ?》


「最悪はね、基本的には跳んで逃げるよ」


『サウナの準備が出来ました、そろそろ帰りましょうか』

《えー、もっと話したいのに、泊まる、一緒に入る》


「普通は混浴したり泊まったりするもんか?」

《するする》

『嘘言わないで下さい』


 初めて聞く嘘の音色は随分と軽い、カランカランと跳ねる様に高い音のベルが鳴っている。

 受け取り方に左右されるのか、発言者の意思に反応してるのか不明だ。


「面白い嘘ですな」

《ごめんごめん、じゃあ明日、のぼせて倒れないでね》

『僕が迎えに来ますので』


《パイ持って来てよ?》

『はい、じゃあお休みなさい』


《おやすみー》

「お休みなさい」


 少しばかりの不安をリセットする為、サウナへ入り、窓を開けてはサウナへ戻る。


 それを散々繰り返し、部屋で寛いでいると夜食のパンヌカックが運ばれて来た。


 モッチリとしたクレープに数種類のジャム、ホットミルク。


 暖炉の火。


 ランタンを消して直ぐ、瞼が落ちた。

『蝙蝠さん』

《猫耳さん》

『ロウヒ』


「シーリー」『ラルフ』《ダイナーのオバちゃん》


『兵長』→『レーヴィ』

《看護師長》→《マティアス》

「宿屋の若奥さん」


絵本、【ウッコと異国の女性】

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