表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/204

2月13日

『ラルフ』「シーリー」《ウッキ》《ムンモ》

 空腹で目が覚めた、眠い、お腹減った。


【おはようございます、主。不審な動きは感知出来ませんでした】


 おう、見張りをありがとう。


 軽く身支度をしてから朝食セットの大盛りをストレージから出し、ひたすら食べた。


 外はまだ暗い、時間は7時過ぎ。

 一息ついてから部屋を出ると、シーリーの朝食を下げるラルフの姿が有った。

 量が少なめなのか、完食はしている様子。


『おはようございます、御使い様』

「おはようございます、それは困るんで、似合うあだ名でも下さい」


『荷が重すぎます』

「じゃあこの季節の花の名前を教えて下さい」


『ヘパーティカ、雪割草でしょうか』

「それがあだ名だと変ですか?」


『いえ、ですが一応花言葉を調べさせて下さい』

「ありがとうございます、彼女は起きてます?」


『はい、どうぞお入り下さい』


 小さくノックし入ると、窓辺に座り、外を眺める彼女は健康的な顔色。

 安心。


 でも念の為、もう1回診させて貰う。


「おはよう」

「おはようございます、御使い様」


「ヘパーティカと名乗ろうかと、変ですかね」

「素敵、とっても似合うわ」


「問題は花言葉で、ラルフさんが調べてくれてます」

「ふふ、1度町で見たけれど、素敵な花だったから、きっと大丈夫」


「そう願っておきます。で、病の件なんですが、再発する可能性があるんで気を付けて下さいね」

「覚悟はしてるから大丈夫。母も胸をこの病気に蝕まれて、取ったけれど数年で再発して、直ぐに亡くなったの」


「治したのはお節介でしたか?」

「いいえ、とても感謝しています」


「じゃあ、最後に診させて下さい」

「はい」


 脳から爪の先まで入念に、黒い染み1つ見逃さない様に、ゆっくりと。


 今は大丈夫、今は。


 後は骨が心配、スカスカ。

 コレは圧しても中々良くならない、そも栄養が足らない。

 少し密度を高めて欲しいな、暫くチーズかミルクを摂ってもらわんと。


「チーズとかミルク食べれます?」

「ミルクもチーズも大好きよ」


「それを食べたら日光浴と、でも基本的にはバランス良く食べて貰いたい」

「えぇ、頑張るわ」


「後はお医者さんに診て貰って、最終チェックをして貰いたいかな。後はリハビリも適度に」

「はい」


「散歩は無理せず、少しずつ時間を長くして、少しずつ鍛えないと他の病気になっちゃうので、ほんの少しだけ無理をして下さい」

「はい」


「他の注意事項は…ラルフさんに伝えときます。程好く頑張って」

「ふふ、ありがとう、ヘパーティカ」


 部屋から出ると、そのラルフが廊下で待っていた。


『朝食を準備してますので、下へどうぞ』

「はい」


 朝食はサラダと果物とオートミールのミルク粥、先に食べといて良かった。

 足りないわコレ。


 今日は晴れの予定だそうなので、ご夫婦さんと交代しつつ日光浴や洗濯物をするんだそう。

 その間であっても、自由に家を使って良いと言って貰えた。


《昼食の時に交代しようとは思うんだが》

《お客さんが来なければね、11時半頃かしら》

『ですね、いつも通り僕が2番目でも大丈夫ですか?』


《あぁ、ちゃんと休んだ方が良い、お昼には私がシーリーに付き添うよ》

『ありがとうございます、でも昨日はとても良く寝れましたし、もう大丈夫です』


《それでもよ、若くても無理はいけないわ》

《そうだよ、頼むから休んでくれ》


 仲の良い家族なのは結構なのだが、ただ亜人なのか獣人なのか。

 ケモ耳ラルフについて誰も説明してくれない。


 多分、常識というか居て当たり前で説明するまでも無い存在なのだろう。


 にしても、何なのか聞きたい。


「ラルフさん、後でお話を聞いても宜しいか」

『はい』


「何時が宜しいか」

『掃除と昼食の仕込みが終わり次第、大丈夫ですよ』


「わかった」




 家事や何かを手伝おうにも遠慮されてしまい、部屋へと追いやられた。

 冊子を手に取ると、部屋のドアがノックされた。


 訪ねて来たのはシーリー。


「お掃除が始まったから、遊びに来たわ。良いかしら?」

「どうぞ、お昼寝します?」


「ふふ、さっきまで寝てたから大丈夫」

「そっか、少し話してくれます?」


「えぇ、何が良いかしら?」

「御使いについて。世界を良くするって、途方も無い事を要求されても困る」


「そうね、そんなにこの世界は悪く無いと思っているのだけれど、神様は、何を良くして欲しいのかしらね?」


「平和?幸せ?」

「えぇ、とっても。娘と息子がね、国で働いてるのよ。私も国で働いていたから、凄く誇らしいし嬉しいの」


「欲しい物は何?」

「体力ね、子供達に会いに行きたいの、だから先ずはお手紙を書いて貰ったの、ラルフに」


「彼は優秀ですね」

「えぇ、とっても頭が良いのよ。大学も出てるの、ふふ」


「凄い、良いなぁ。シーリーは?」

「私は行って無いの、直ぐに国の仕事に着いてしまったから」


「じゃあ、行きたい?」

「そうね!行きたいけれど、でも、治ってしまったから、お仕事に戻らないといけないわ」


「黙ってれば良いんじゃ、検査も診察もしなければ分からないでしょ」

「夏になったら診察医が来てしまうわ、だからきっとバレてしまう」


「じゃあそれまでだけでも講座に通うとか、ラルフに勉強を教えて貰うとか」

「良いのかしら、ラルフも忙しいだろうし。私、頭が良くないのよね」


「そら、勉強しないと頭が良くならないんじゃ?」

「そう?私も頭が良くなるかしら?」


「ラルフ次第じゃ?教える人が優秀なら、大概は良くなるかと」

「ふふふ、じゃあラルフは頭が良いから大丈夫ね」


 9時近くになってようやく太陽が登り始め、長椅子に持たれていたシーリーに朝日が当たる。

 その光に照らされ暖まったからなのか、シーリーはスッと眠りについた。


 毛布を掛け静かに廊下へ出ると、丁度コチラに向かって来たラルフと会った。


 少し浮かない顔だ、花言葉がダメだったか?


「どした、花言葉がダメだった?」

『いえ、大丈夫でした。ですがその、実は疑っていた事を詫びようと思っていたんですが、その、申し訳ありませんでした』


「何をどう疑っていたのか、詳しく」

『治療師である事も少し疑っていましたが、主に御使い様である事を疑っていました。ですが今、薬が切れても痛みを全く感じていませんし、食欲も戻って居るシーリー様を見て尚、疑うのはあまりに不敬だと思い、謝罪させて頂こうかと思っていまして』


 真面目か。

 いや、マジ真面目だ、良い人だ。


「介護疲れでしょう、気にしない気にしない。それに警戒心は大事だから謝らなくても良いよ、自分だって同じ立場なら疑うし警戒する。つか検査結果を見るまで信じちゃダメだよ、ただのプラセボかも知れないんだし」


『ありがとうございます、本当に、本当に…』

「まだリハビリとかあるんだし、今は軽い風邪でも危ない位に弱ってるんだから、これからが本番です、無理せず頑張って。話は後でも良いよ、シーリーが今ソファーで眠ってるから出て来ただけ、点滴少なくなってきたから、交換まで側に居てあげて」


『はい、ありがとうございます』


 真面目なのは勿論。

 あんな臥せ耳で謝られては、誰だって許してしまうだろう。


 下に降りるとお婆ちゃんがロッキングチェアに座り、少し早いお昼寝をしていた。


 静かに本棚から歴史の本を取り出す。


 第二次世界大戦もあったし、ペストもコレラも猛威を奮った。

 自分の浅知恵でも、元々の世界とそう変わりが無いのが分かった。


 だが問題は、御使いに関する文章が一切無い事。

 来訪者や召喚者なんて言葉も一切無い、試しに例の絵本を探す。


 妖精と御使い、と書かれた絵本を見付け、開いてみた。




【妖精と御使い】


 昔々、遠い国にトンボの羽根を持った妖精達が産まれました。

 美しい緑色の羽根を一目見た人間は、その話を自慢し、信じて貰えないとなると命懸けでアヴァロンへ入り。

 トンボ妖精の羽根を毟り、皆に見せびらかしました。


 その話と共にトンボ妖精の噂は広まり、諸外国の王達が集めてくるように命じます。


 やがてその羽根を求め、競って人々が乱獲を始め、最後の妖精が捕まりそうになった瞬間。

 天から白い羽根を生やした1人の人間が降って来ました。


 その羽根の生えた青年が運良く密猟者の上に落ちたので、青年はかすり傷で済み、密猟者は死んでしまいました。


 その密猟者の上で血塗れになっている人間を妖精女王が見付け手当すると、目を覚ましました。


「ココは何処なのでしょう?貴女は一体誰ですか?」

《ココはアヴァロン、妖精の国です。そして私は妖精女王、アナタが妖精を助けたので手当をしました》


 青年は妖精女王の美しさに一目で惹かれてしまいました。

 ですが彼女には夫が居る、慎ましい青年は誉め言葉1つも言えないまま、アヴァロンを去ります。


 そして助けて貰った妖精は、青年を心配し、付いて行く事にしました。


『これから何処へ行くの?宛はあるの?』

「彼女に似た女性を探す旅にでも出るよ」


 方々を探しましたが、彼女に似た美しい女性など居る筈も無く。

 数年後、青年は再びアヴァロンへと舞い戻って来ました。


 その時は丁度、王は狩りに出ていて女王だけが森に居ました。

 彼女は変わらぬ美しさで湖の畔で水浴びをしています、ついに青年は意を決し女王に近寄ろうとした瞬間、妖精が青年の顔を目掛け粉を撒きました。


 それはとても強い毒の粉だったので、顔も眼も溶け、青年は永遠に見えなくなり、口も聞けなくなりました。


 その姿を可哀想に思った王は、青年が死ぬまでアヴァロンに居させる事と、青年の世話を女王へ命じました。


 そして最後のトンボの羽根を持った妖精は、何処かへ消えてしまいましたとさ。


 おしまい。




『あ、それ、読みましたか?』


 読んだと言うか、読んで貰ったワケだが。

 子供向けかコレ。


「読んだけど、大人向けかな?」


『いえ、古い物ですが、れっきとした児童文学書ですよ』

「どう読む?嫉妬?優しさ?」


『僕は、優しいからこそ、罪悪感から消えてしまったんじゃ無いかと思っています。逆に、優しさがあるなら、最後まで面倒を見たら良いんじゃ無いか、と、子供達が話し合ってましたね』

「子供達ってのはラルフとシーリーの?」


『いえ、シーリー様の。僕はただの友人です』

「そうか」


『はい。時間が空きましたけど、どうしましょうか?』

「じゃあ、少しお願いします」


『はい、2階の廊下の長椅子で待ってて下さい、日当たりが良いですから。少し準備してきます』


 本を何冊か持ち、2階の日当たりの良い廊下の長椅子に座り待つ。


 何の準備かと思えばオヤツの準備だったらしく、珈琲と共に2階へ上がって来てくれた。


「ありがとう。早速なんだけど、その耳は何?」

『あ、珍しいですか?』


「向こうでは見た事が無いし、存在してるなんて話も聞いた事が無い」


『私の、この種族は亜人と言います。人間から派生した新種族で、祖先が神帰りの際に巻き込まれた痕跡なんです。魔力は人間より容量が少ないんですが、長命で身体的に何かが特化しているのが特徴です』


「神帰りって何、歴史の本に無かったけども」

『それは教会出版の本ですから、国の本には載ってますよ。僕の部屋にあるので、すぐに持って来ますね』


 ラルフが持って来た本の目次には、確かにある。

 国にもよるが、凡そ300〜500年程前、神が異界から帰って来た。


 フィンランドでは大魔女ロウヒとウッコ神、ウッコ神は早々に再び天へと還り。


 イギリスでは、ティターニアが妖精と共に甦ったと噂されている。


 神話の神々全員が帰って来る事は稀だが、複数の神の甦りは確認されている。

 日本は3神が甦り、未だに国を守ってくれているらしい。


 例外なのは北欧神話の神々、ラグナロク後の生存者が全員帰ってきた。


 生死の書かれていない生存不明の者や死亡扱いの者は、ロキを除いては帰って来てはいない。

 その例外中の例外であるロキは、現在行方不明中。


 理由は不明、流石トリックスター。


 そしてバチカンには天使が降臨し、聖職者が各地へ派遣される事となった。

 そこに付随し、魔法の説明がなされた。


 神帰りが起きる以前は限られた人間にしか魔法は使えなかったが、神の出現した国に在住する全ての国民に、分け隔てなく魔力が備わった。

 それと同時に神の帰って来なかった国の国民には魔力の出現は無く、新たな魔法の格差が出来上がった。


 例え帰化しても備わるモノでは無く、海外へ渡航し、帰国した者にのみ発現。

 その為、人の流れも国政も変わった。


 1度身に付けば消える事は無く、遺伝するその性質は魔法使いを資源とみなす切っ掛けとなってしまった。

 発現した国の人間の誘拐や侵略が起き、果ては戦争が巻き起こった。


 だがその潮目を変えたのがロシア帝国のオリガ女王、1910年にオリガ大公女がラスプーチン殺害後に女王制が復活し、就任。


 以降は日本帝国と深い友好を結んでおり、魔法資源大国日本の防衛の一端を担った。

 自国に神帰りが無かったにも関わらず、だ。


 中国に現れた神、窮奇が日本への侵略を始めようとした際にも助力。

 一時は日本国民を借り受ける下心があると囁かれていたが、日本側が言い出すまで一切魔法使いの借り受けに対して言及する事は無く。

 オリガの第1子であるアンナ女王の代になり、世界大戦も収まってから初めて、日本から魔法使いを国へ送り出す事になった。


 だが、今は情勢が不安定な為に入国は自己責任におけるもののみで、どの国もロシアへの入国を認めていないらしい。

 内乱、内輪揉めが起きての事だそう。


 だから、国は進んで魔法使いを呼ばなかったのではとも噂されているんだとか。




「神帰り以前は神々は居なかったの?」

『はい、御伽噺や神話上の存在でした。その神話が上手く継承されなかったロシア帝国には神々が降りなかったんでは無いかと、国民全てが知っている事が条件では無いか、と推察されています』


「日本の神の名前が書かれて無いね」

『重要な情報ですから、防衛の観点からも機密事項に該当しているだろうと。この本も国外への持ち出しを禁じる魔法が掛かっています、情報は大事ですからね』


「それを読み聞かせて良いの?ラルフに何か罰は?」

『アナタ様の実際の国籍は知りませんし、僕は違反かどうかを監督する立場にはありませんから大丈夫です。そもそも、こんなにフィンランド語が上手な日本人は見た事がありませんから、きっとこの国の方なのでしょう』


「おうおう、そうかも知れないって事にしといて」

『はい』


「ありがとう。シーリーには、軍にも国にも関わるなと言われたけど、情報が欲しい場合はどうしたら良いと思う?」

『教会は御使い排斥派で、軍の場合は上層部が1種の兵器として御使い様を扱おうとしているとの噂です。逆に、一介の軍人に御使いファンが多いそうで、強い者への憧れなんでしょうかね』


「弱さになら自信があるんだけどな、戦闘力は最下位っぽかったし」

『治療師としての魔法が使えるのですから充分かと、他の魔法を混合して使える場合でしたら、特に貴重ですし』


「治療と火とか珍しいの?」

『本人の資質と、魔法同士の相性次第だそうです。余りに相反する魔法ですと、いずれどちらかが不得手になり、使用が上手くいかないんだとか。魔法にはまだまだ謎が多く、僕も門外漢なので詳しくは存じ上げませんが、そうらしいです』


「あー…そうそう、少し話が脱線するかもだけど連絡手段って、電話とかだけ?」


『それ以外ですと郵送もあります。早く伝えたい場合は無線、機密事項などの重要な情報は伝書鳩の魔法が掛けられた紙が存在していますので、その紙を使い行われます。移動魔法も存在しているので、大容量な情報は主に人力で運ばれますね。ネットワーク通信と違い、安定性と安全性が確立されていますから』


「その紙はどうしたら手に入る?」

『殆どが行政で使われてまして、民間には余りが高値で卸されてます。ですが購入には身分証が必要なので入手は難しいかと、購入者の情報は国へ行ってしまいますから』


「作れないかな?」

『そこも専門では無いので助言出来る事が限られますが、難しいそうです』


「ご専門は?」

『まだまだ未熟者ですが、観光案内の為に歴史を少々』


「ご立派です。そしてありがたい、凄く助かりました」

『いえいえ、お役に立てたなら光栄です』


「うん、じゃあ後は、次の街か何かに行くよ。少し大き目の所で、オススメはある?」

『近くでしたらイナリですが、バスはもう出てしまいました。近いとはいえ距離がありますし、魔獣も出ますから、車でお送りしましょうか?』


「は?魔獣?」

『森をうろつく強い獣で、特に国境周辺で見られます。ですのでこの村には特に強い結界が張られてますから、安全なのですが、結界を出てしまうと襲われる可能性が増えます。暗く人里離れた場所は勿論、道路沿いであっても、魔獣の出現が報告されているので。移動魔法か結界魔法の張られた車が無い限り、移動しない方が良いかと』


「なら大丈夫、イナリに行くよ。エリクサーも渡しておくね」

『ありがとうございます、少ないとは思いますが、コチラをお持ち下さい。心ばかりのお礼です』


 中身は様々な金額の紙幣と小銭、50万は入っているであろうこの封筒。

 掻き集めたにしても高額だ、エリクサーと治療だけでは受け取り難い。


「ありがとうございます、なら別箇で、この宝飾品を受け取って下さい」


『え、いや、受け取れません。今は特に金は値上がりしていますので、これでは貰い過ぎになってしまいます』


「じゃあコッチで」

『そういう問題では無くて、エリクサーと、治して頂いたお礼でもありますし』


「いやいやいや、詐欺師と思われたく無いので、お金と品物の交換て事にして貰えると気が楽だし、ありがたいんだけども」

『それにしてもです、エリクサーの』

「どうしたの?何を揉めているのかしら?」


「あ、ごめん、起こした?」

「お腹が空いて起きちゃっただけよ、それよりラルフ、何があったの?」


『餞別をお渡ししようとしたら、このリングをと言われまして』

「まぁ、綺麗なリング」

「現金との交換と、親切に泊めてくれたお礼です、受け取って下さい」


「それで揉めたのね、これじゃお返しのお返しになっちゃうもの」

「またいつか泊まりに来ますから、その前払いって事で」


「そう!それは楽しみ、預からせて頂くわね」

「まだあるんで、イザとなったら売り払って下さい」


「ありがとう」

『ではお昼を用意しますので、少しお待ち下さい』

「えぇ、一緒に食べましょう」


 お昼はシーフードスープと可愛らしい小さなサンドイッチ、シーリーと共に部屋で一緒に食べる。

 誰かと一緒に食べるのが好きらしく、ゆっくりではあるが美味しそうに食べていた。




「じゃあ、お世話になりました」

『コチラこそ、お世話になりました』

「気を付けて行ってらっしゃいね、ヘパーティカ」


 昨日通った渡り廊下を使い、役場へ向かい、お爺さんとお婆さんに挨拶してから村を出た。

 幸いにも車の往来が無いので、道路沿いをロキの靴の恩恵で低く早く跳ぶ。


 青い空と雪原は美しく眩しい、備品のサングラスが無かったら今頃は眼が焼けていただろう。


 あと、帰ったらリズちゃんに、このサングラスについて文句を言うんだ。


 やっぱ遠いな。


【125㎞ありますので暫くして空間移動します。主、お聞きしても宜しいでしょうか】


 なんでしょう?


【何故、私を義体に乗せ、従者の代わりとして扱わないのですか】


 修理にも限界はあるでしょ、物は磨り減る。

 君は切り札、とっておき。


【戦闘下や非常事態にはどういたしますか】


 それは前と同じで、義体でも何でも出て来て助けておくれ。


【了解】




 それから暫く道沿いを跳び、村が視認出来ない距離になってから、イナリ町へ空間移動した。


 レンガの塀に囲まれ立派な鉄の扉、その前には警備兵。

 その兵の装備にはサブマシンガンっぽい何か、エミールに詳しく聞いておけば良かった。


 そして何より重装備のせいで顔が見えん、厳つい。


「あの、ココはイナリ町で合ってますか?入れます?」


《はい、いらっしゃいませ、ようこそイナリ町へ。旅の方ですか?それとも新しい運送の方で?》


「治療師見習いで旅をしています」

《そうでしたか、では教会へご案内しましょうか?》


「いえ、少し見て回ったら直ぐに次へ行くので、大丈夫です」

《分かりました。では、失礼ですがフードを少しばかりお脱ぎ頂いても?》


「はい」


 フードを外し。

 コートも脱ごうとして止められた、寒い。


《コートはお脱ぎにならないでも大丈夫です!着て下さい!外国の方とは存じず言葉が足りませんでしたね、失礼しました。お顔を確認しただけですから、どうぞお入り下さい》

「あ、そうなんですね。早とちりしました」


《いえいえ、これから交代の時間なので少しご案内しますよ。少し待ってて下さいね》


 門は内側からのみ開くようで、守衛が無線で連絡後、直ぐに開き交代要員と共に入れ替わった。


 案内の返事も待たずに守衛室へ向かってしまった、確かに鐘は鳴っているが。

 親切で言ってるのか、警戒しての付き添いか区別がつかん。


 あの、嘘を見抜ける能力が羨ましい。


 そして門の中は少し暖かい、村の中心部と同じく雪解けの魔法か何かが発動しているらしい。

 転移魔法禁止の結界は町の中心部のみに掛けられているらしい、何処もこうなら都市部は避けた方が良いのかも。


 暫く待っていると、着替え終わった守衛が戻って来た。

 ラルフと同様に亜人、フサフサしたキツネ色の尻尾が生えている。

 毛色は地毛に直結するのか金髪にブルーアイ、彼に耳は無く尻尾のみ。


「直ぐに出て行きますから、案内は不要ですよ」

《いえいえ、短時間とはいえコートを脱いで寒かったでしょうし、お茶を御馳走させて下さい》


 警戒されているなら、断っても食い下がられるのだろうし。

 断るのは無理なのだろう。


「じゃあ、少しだけお願いします」


 そうして案内されたのは転移禁止区域内のカフェ、晴天の為かテラスが混んでいる。


 逃げられない場所は苦手だ、嫌いだ。


《モーラ!来たよ、今日は2人だ》

《ジョン、いらっしゃい。こんにちは新しい人、名物はカレリアパイ、お腹が減っていたらサーモンのムニエルがオススメよ》


 守衛のお兄ちゃんと、モーラと呼ばれた女の子はとても似ているが違いもある。

 尻尾も耳も無く、金髪で目は同じく青い、優しく懐っこい、可愛い感じ。


「ありがとうございます、生憎と現金があまり無いので、1番安いのをお願いします」


《僕が出しますから、是非パイを食べて下さい》

「じゃあ、お願いします」

《はい、ただいま》


 カレリアパイはお米の入った少し甘いパイ、添え物にはジャムと卵バターにジャガイモ。


 この甘じょっぱいならイケる。


「美味しいです、ありがとうございます」

《いえいえ。モーラの、妹の手作りなんですよ。あ、どちらまで行かれる予定で?》


「ソダンキュラでしたっけ?そこまで行こうかと、欧州へ帰ろうかと思いまして」

《そうでしたか、どちらから来られたんですか?》


「ウツヨキです」

《ならシーリー様にはお会いしましたか?御病気だそうで、帰郷の際に随分痩せてらっしゃって心配だったんです、お元気でしたか?》


「少しだけですが治療させて貰いました、食欲が戻ってましたよ。彼女は有名人なんですか?」

《良かった、彼女は軍でも有名な方で、上層部の方なのに僕ら下の者にも分け隔てなく接して下さる、数少ない奇特な方なんです。お子さん達も僕より年下なのに、大活躍しているんだそうです》


 職業聞かなかったもんな、だから軍の事を良く知ってたのか。

 信じたいけど、心配な面もあるかも。


「そうだったんですね、知らなかったです。最近来たばかりなので」

《知らなくても無理は無いですよ、ましてシーリー様は軍人には見えませんしね》


「たしかに、か弱い少女みたいでした」

《ですよね、30代なのにお若く見えて、可愛らしい方ですよね》


「ですね」


 食事の合間に周囲を見渡すと、ストレージは一般的、携帯やスマホは無し。


 そしてシーリーの言う様に確かに平和なのだ、魔獣さえ居なければ、この守衛も要らないだろうに。


《欧州へ帰られるそうですが、治療師様はどうしてコチラへ?修行か何かですか?》


「見習いなんですけどね、片っ端から治す為ですかね?」

《そうなんですね、魔法は誰に習ったんですか?》


「マーリンと名乗る方に、少し」

《マーリン派ですか、珍しいですね。東洋の方とお見受けしましたが、何処で?》


「元居た国で…コレやっぱり尋問ですか?怪しいですか?」

《違うんです、申し訳無い。こんなに言葉が上手な東洋の方は珍しいので、純粋な興味本位で。日本の方ですよね?》


「日本なんですけど、多分誰も知らない場所かと。急にコチラに来てしまったので、準備不足で、現金がほぼ無いんです」

《マーリン派は人間にはスパルタだと聞いてますからね、アナタの様な目に会う方は多いと聞きますが》


「どうなんでしょ、そのマーリン派がしたんですかね?寧ろ、どっかの神様の悪戯じゃないかと」

《でしたらロキ神かも知れません、大変でしたね》


「いえいえ…そう言えば、ロキ神や他の神々に会う事って可能なんですかね?」

《軍の上層部の方が祭事に神官と共にお会いになる、との噂はありますけど、民間の方がお会いできる方法は知りません。昔は、黒い森にロキ神が出るなんて噂がありましたけど》


「その黒い森は何処にあります?」

《この国には無いんですが…今の時期は危ないですよ、魔獣が活発的ですから》


「地図で教えてくれれば、この町を直ぐにでも出るので、お願い出来ませんか」

《質問に気分を害したなら謝ります。不躾な質問ばかりしてしまって、すみませんでした》


「いやいや、警戒してくれて大丈夫です、それがお仕事なんですし。気にしてません、大丈夫」

《ジョン、控え目な国の方にお話を強引に聞くのは良くないわ、職権乱用よ。ね?ごめんなさいね、珈琲のお代りはどう?》

《あぁ、聞き過ぎた、申し訳無い》


「じゃあ下さい。東洋人は珍しいですかね?」

《それだけ言葉が上手な人自体が珍しいわね、良い先生に教えて貰ったのが気になったのよね、ジョンはお喋りなのに口下手なのよ》

《はい、すみません、外国語の先生をしてまして。英語とロシア語は覚えたんですが、もう少し、何処かの国の言葉を覚えようかと模索中でして》


「あぁ、それで。にしても日本語は難しいんじゃ、同音異義語が多いし、地方にはとんでもない訛りがあるし」

《そこが面白いんですよ、次の休暇に行こうと思ってるんです。オススメはありますか?》


「自分が居た時の感想なので、今は少し変わってるかもですけど。本土の最北端か最南端が訛りが強かったと思うので、どちらか気候が過ごし易い方で良いと思いますよ。地域によって寒暖差が過激ですから。食事を重視するなら北の方が個人的にはオススメです」

《私は暖かい方が良いなぁ》


「最南端はかなり暑いですよ、35℃は余裕で超えるかと」

《サウナより暑くないから大丈夫よ》


「それこそ言葉が分からないかもですけど、どうするんです?」

《ジェスチャーよ、失敗したって死なないし。魔獣の居ない貴重な地域なんだもの、何とかなるわ》

《そうですね、安全に観光出来る数少ない国ですから》


「そんな評価なんですね、意外」

《魔獣が居ないのが当たり前だと、そうなっちゃうわよね。あ、バスの最終便がもう暫くして出るけれど、大丈夫?チケットはもう買った?》


「節約の為にバスは使って無いんで大丈夫です、休憩して直ぐに次の街に行こうと思ってるんで」

《ごめんね?ジョンが何かそんなに失礼な事を言ったなら、私も謝るわ。それとも急ぎ?》


「いやいや、急ぎでは無いんですけど、長居出来るお金も無いので」

《ねぇジョン、エリクサー買ってあげましょうよ。いくらあっても困らないし》

《そうですね、量り売りだと助かります。ストレージの容量が多く無いので》


《私に少し余りがあるから、大丈夫》

「あの、そこまでお気遣い頂かなくても。数日は泊まれるお金はありますし」


《清貧なんて言って旅費をケチって命を落としたら元も子もないわ、お金は大事よ》

「移動魔法もあるんで大丈夫です」


《食費をケチってそんなに痩せてるんじゃダメよ、ジョン今お金ある?》

《持ち金は少ないけど、引き出せばあるよ》

「いや、その、換金出来る物はあるので、暫くはソレで凌ごうかと」


《あら、じゃあ安心ね。でも身分証はあるの?》

「あー」

《マーリン派だそうで、急に連れて来られたらしいんだ》


《なら無いのも仕方無いわね、けど買取商には身分証が無いと売れないわよ、エリクサーも金品も》

《個人的な売価には必要無いんですけどね》

「あー…お言葉に甘えて、少しだけお願いします」


《じゃあ私はまだ仕事があるから暫くは動けないんだけれど、休憩になったら直ぐにお金を下ろして来るから、それまでジョンの案内で街を見て回るのはどう?それとも心配ならココに居てくれても良いわよ?》


「いや、そこまでは。少し換金して貰うだけで大丈夫なんで」

《守衛の仕事って危ないし、万が一にね》

《旅行までまだ時間もありますし、それ位の余裕はありますから。遠慮しないで下さい》


《そうそう、そこまでお金持ちじゃないけど、そこまで貧乏でも無いから大丈夫》


「ありがとうございます、案内を宜しくお願いします」




 待ち合わせは15時、残り2時間の間に街の案内をして貰う事となった。


《何処か行きたい所はありますか?》

「図書館ってあります?世間知らずなので、本で常識を取り入れたいんですけれど」


《それも入館の際に身分証の提示が必要になるんで…古本屋はどうでしょう?》

「あ、それでお願いします」


 近くにあったのは古本屋兼貸本屋、店内は古書の良い匂い。

 若い女性がお店番。


 貸本は身元が保証されてる人限定なので販売のみ、同様に売るのも身分証が必要。

 ただ少しなら立ち読みも許されてるらしく、ジョンも懐かしそうに絵本を取り出しては眺めていた。


 確かに絵本の題材に御使いの話は多い、そしてあの有名な絵本作家の兄弟や、かの白い妖精の本もある。


 もし日本に移動させられていたなら、早々に世界を移動させられたと気付けたか怪しい。


 続いては観光雑誌。

 フィンランドで発行された、古い日本の観光冊子の注意事項をソラちゃんに読んで貰う。


 ※身分証は常に肌身離さず持ち歩き、求められた際には常に提示出来る様に心掛けて下さい。

 万が一の紛失や破損は急ぎ大使館へ報告の後、再発行まで移動は出来ないので大切に保管して下さい。

 特に指定外国籍の方の身分証不携帯は罰せられる事もありますので、十分に注意して下さい。

 なお、治療師の詐欺に敏感な為、治療師の方は別途教会への身分照会がありますのでご留意下さい。


 マジで日本じゃ無くて良かったのかも知れない、日本語のフィンランド観光の冊子にはココまで強く入念に身分証に対して書かれて無かったし。

 例え日本人でも身分証が無いと対応は厳しいのかも知れない。


 まして御使いらしき事を匂わせたらどうなる事か、この文章を聞く限り軟禁でもされてしまいそうな雰囲気すらある。

 もうこれでは本国へ足を踏み入れるのはかなり先になりそう、そうなると目下はマーリン本人かティターニアとの接触か、それかロウヒと呼ばれる大魔女か。


 次は神話の棚へ。

 フィンランドの神話は独特らしく、カレワラと呼ばれる神話が北欧神話とは別に存在している。

 ざっと読んで貰った限りでは、少しロウヒが悪役の様に書かれている。


 だが、やられた事にしてみたら可愛いものだろうに、不誠実な侵略者を撃退し応戦しているだけだ。

 彼女には会っても大丈夫なのかも知れない、十人分に敵でないと知って貰えればだが。


 続いては特価コーナー、北欧の家庭料理の本と地図、絵本を数冊買い店を出て。

 次はリサイクルショップへ。


 何でも屋に近い品揃えの中には、新品もあり。

 食器に古着、家具から魔道具まで何でもある。


 高級な品物と同等の扱いを受けている魔道具はガラスケースに入っていて、値段は今の所持金ではどれも無理。


 そこで目を引いたのはネックレス型の嘘発見器、動力は装着者の魔力、対応年数3年ものを数回使用した程度。


 ジョン曰く、これでも安いらしい、そして本来は耐久性は永年なんだそう。

 簡易型で200万では本来の値段は想像もしたくない価格、永年物の在庫はココには無いそうで、都市部のオウルにならあるかも知れないと店主が教えてくれた。


 欲しいには欲しい、だがその前に有効な身分証が欲しい。

 欲しい物ばかりで困る、なんせ安全な入手方法が思い付かないから、更に困る。


 困ったままに外へ出ると、少し用事があるからとケーキ屋へ案内され、期間限定のセムラと言うお菓子を食べて待ってる様にと言われた。




 味が何種類かある中で、ノーマルとデカフェの珈琲を頼んでみた。

 スパイスの風味が強烈で、頭を打ちぬかれた様に仰け反ってしまった。

 珈琲で流し込み、暫く口呼吸し、何とか落ち着いた。


 お代わりの珈琲を堪能していると、ジョンが戻って来て持ち帰り用にジャムの入ったセムラを2つ頼んだ。


 色も違ったし、そっちにすれば良かったのかも。


《お待たせしました、次は何処へ行きたいですか?》

「一先ずは大丈夫です、ありがとうございました」


《いえいえ、じゃあ戻りましょうか》


 来た道とは違うルートでカフェへと向かう、半円は商業地区で、もう半円は住宅地らしい。

 その間にある大きな通りを進み、カフェの裏手に行くと空瓶と測りと共にモーラが座って待っていた。


《お帰りなさい!さ、始めましょうか》


「あの、その前に味見して貰っても良いですか?何種類かあるんで」

《わぁ!凄いサービス、良いの?》


「効能とかも試して貰って、納得してから買い取って欲しいので、コップを用意して貰っても良いですか?」

《勿論よ!待ってて》


 急いで持って来てくれたコップへ、先ずは自分で作った物、次に神様から貰った苦い物、酸っぱい物を飲んで貰った。


 苦いエリクサーを飲んでジョンが笑い出したのでビックリしたが、良薬口に苦しと言う言葉を思い出しての事らしい。


 ツボが分からん。


《この苦いのを下さい》

《私はこの甘いのが良いわ》

「ありがとうございます、沢山在庫はあるんで値段は任せます」


《効能も悪くなさそうなのに、安売りしたら良くないわ》

「じゃあ適正価格でお願いします、これからの指標にしますんで」


《えぇ、任せて》


 ジョンとモーラの相談の結果、最低価格が100ml.50ユーロとなった。

 シーリーには5㍑は渡したので、今ならあの遠慮の仕方も納得出来るかも。


「高く無いですか?もう少し安くても困らないんですけど、寧ろ在庫処分で喜べる位ですし」

《あまり安いと怪しまれちゃうわよ、コレ以上に値下げしようとして来たら売らなくて良いからね》

《はい、効き目は早いですし、これでも最低価格と思って下さい》


「ありがとうございます」

《いえいえ、もう暗くなって来るし、良かったらウチに泊まって行かない?》

《両親は週境の警備に派遣されてるので兄妹2人だけなんですが、良かったらどうぞ》


「警備って、何かあったんですか?」

《魔獣監視の警備です、毎年の事なので特に被害が拡大しているとかでは無いので、大丈夫ですよ》


「そうなんですね、ご苦労様です。でも買った本を読みたいので、今日は宿にしておきます。ありがとうございました」


《そうですか、じゃあせめて夕飯か朝食を》


「じゃあ朝食を」


《では、ホテルまで送りますよ》

「大丈夫ですよ、場所は分かってますし、少し散策してから帰るので。お疲れ様でした」

《ふふ、じゃあね!朝に迎えに行くから!》




 先ずはホテルへ向かい、キッチン付きの部屋を押さえた。


 続いて近くのスーパーへ、今回手に入った5万円を握り締め、いざ買い出し。

 向こうでの価格と大差は無く、牛乳や卵の値段に大した変わりは無い。

 1番高いのは牛肉、逆に羊や鮭、トナカイにタラが安いのは地産地消だからだろうか、ジャガイモと麦関連も安め。


 安い食材を一通りと、調味料をしこたま買い込み、部屋へ戻り料理を始める。


 先ずは少しだけ切り分けたラム肉を塩コショウだけで焼いて食べてみる、思った以上に臭く無くて柔らかい。


 骨付きラムの塊肉に下味を付け、周りに芋を散りばめ油をぶっかけてオーブンへ。

 換気の為に暖房を切り窓を開け、4つのグリルでは肉を焼き、芋を煮て、パスタを茹で、お米を鍋で炊く。


 ラムステーキが焼き終わったらケバブのお皿に乗せて一旦しまう、一通り焼き終えたら次はソース。


 ワインが身分証の関係で買えなかったので、ストレージの日本酒と玉ねぎのみじん切り、少量のニンニクを炒め、小皿に半分移す、もう半分にはお醤油とニンニクを足して小皿へ。


 続いてはサラダ風ソース、トマトとクレソンと玉ねぎを刻んで塩を振り冷蔵庫へ。

 後はレモンを何個か切っておいた物と、沸かしたお湯、炊けたお米をストレージへ。


 茹でただけのパスタには先程買ったバジルソース、たらこのチューブでタラコパスタ、バジルパスタとタラモサラダ。


 焼き加減が分からないので骨付きラムを出し確認、ギリギリ。

 芋には火が通っているので一旦全て取り出す。


 鮭に塩を振りオーブンへ入れ、再び米を炊き、今度はタラをフライにする。

 フライマジで面倒。


 油切りをしている間にタルタルソースを作り、鮭を出し休憩。


 麦茶という物がスーパーに無かったので、デカフェの紅茶で一息ついてテレビを付けた。

 番組数は5つ、自国と隣国の国営放送が3つ、放送大学、民放が1つ。

 CMは健康的な内容ばかりで、数も少ないから見やすい。


 そのまま今日の夕飯を軽めに食べる、パンに色々な味のチューブや塩を試し、食べる。

 キノコ味にベーコン味、ハーブに海老、レバーペーストにチーズもある。


 白パンには合わなくても、黒パンだと合うものもあったり中々楽しい。


 お腹も程々に再び調理に戻り、3回目の炊飯を終え、浴室へ。

 どう見ても個人用のサウナが付いている。

 だが生憎と今夜は余裕が無いので、お湯を出し窓を閉めて入浴。




 髪を切っといて良かったかも、楽。

 そしてようやっと本が読める。

 食料の備蓄が今夜の最優先事項だったので、安心出来た。


 先ずは料理本、フィンランドは中々にシンプルな調理方法が多い。

 作っといて良かった、シンプル過ぎるのは大量摂取には不向き、ぶっちゃけ耐えられない。


【主、ご提案が2つあります】


 なんでしょ?


【骨董屋に人形がありました、値段は少し高いですが修理も可能かと、魔法等で強化すれば義体の代わりも可能では】


 うむ、小さかったのしか記憶してないし値段次第だけど良いと思う、次は?


【アクゥトゥリアンの確認を】


「確かに、アクトゥリアン、おいでませアクトゥリアン」


【センサーに反応無し、後日条件を変え再度の検証を推奨します】


「了解。魔王とか、今居てくれたら心強いのにな。神獣も、従者も居てくれたらな」


【では神獣探索も目標に追加でしょうか】


「良いね、素晴らしい。ココの神々やロキさんを様子見して、神獣探し。常に帰還方法を探す、短期と長期の目標だ」


【了解、お休みになられますか】


「うん、おやすみ」

南下し、イナリまで来ましたね。

警備兵の《ジョン》

その妹でカフェ店員の《モーラ》


絵本。

【妖精と御使い】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ