2月6日
ドリームランドから。
『おじさん』「蜜仍君」『ロキ』【ソラちゃん】「ショナ」『ベリサマ』《ヘル》『エイル先生』
《定食屋のオバちゃん》『ノードンスさん』『マーリン』
柔らかい毛並みが頬に当たり、目を開ける。
いつの間にか猫街の理事長さんのお腹に顔を埋めていた様だった、暖かいせいか子猫達も蜷局を巻いて眠っている。
『起こさない様に静かに行こうか』
「うん」
猫達の隙間を何とか跨ぎながら、街の出入口へ向かった。
門番さんは宴会には参加しなかった様で、静かにお辞儀し見送ってくれた。
『よし、もう良いだろう。紹介してくれるかな?』
「土蜘蛛族の蜜仍君」
「初めまして蜜仍です、宜しくお願いします」
「緊張してる」
「だって初めてなんですもん、同族以外の夢は緊張します」
『そうか、じゃあ行き先は歩きながら決めるとしよう』
おじさんが白いガグの事や、ガースト達の事を説明をしながら歩いていると、道路は煉瓦から石畳の道になっていた。
どうやらこの道は山へと続いている様で、眼前には濃い緑色の山々が並んでいた。
「山だ」
「綺麗な山々ですね」
『どうやら安全そうだね、ハイキングコースだそうだ』
そのまま、ハイキングコース入口と書かれた看板の先へ歩いて行く。
山道は木々が鬱蒼と繁り少し暗いが、歩道は広く、石や木材で補強されているので歩きやすい。
「長い」
「競争します?」
『気を付けて競争しておくれよ、よーいスタート!』
全力で野山を駆け抜ける、当然蜜仍君には追い付けないけれど、途中からコツが掴めたので楽しくなってきた。
途中途中では蜜仍君が木の実や野いちごを見付けてくれて、憂鬱な山登りとは程遠い、楽しい遠足の様相。
「山登り嫌いだったけど、コレは楽しい」
「早駆けですね、全然運痴じゃ無いじゃないですか」
「早駆けかぁ、コレなら山登りしまくれる」
「ですよねー、今はもうゆっくり歩けって言われたら嫌ですもん」
『ふぅ、早いなぁ若者達よ…お、もう直ぐ山頂みたいだね、ほら』
「お、後ちょっと」
「はい、気を引き締めて行きましょうね」
指された方向へ目を向けると、開けた場所が僅かに見えた。
そうして山道を登り頂上に着くと、太陽が山々と雲海から顔を出し始めていた。
『良い眺めだ、折角だから後ろの山小屋で休憩しようか』
その言葉で後ろを向くと、素朴で小さな山小屋があった。
丸太小屋と言うべきなのか、映画で良く見る様な山小屋。
「素敵、誰か居るかな」
「やぁ、おはようお客さん達、コーヒーは如何かな?」
「カフェオレで!」
「僕も!」
『私もお願いしようかな』
金の粒は使えないそうなので、港町の海産物と物々交換でコーヒーを出して貰った。
程よく甘くて温かくて、とても美味しい。
「丁度ワカメが切れていたんだ、味噌汁にはやっぱりワカメだろう?」
「うん、柔らかくてクタクタのが好き」
「じゃあ、出来たばかりのおにぎりとお味噌汁は如何かな、海苔と魚の干物と交換だ」
「オーケー!」
鰹節とお醤油が塗られた焼おにぎりと、山菜がたっぷり入ったお味噌汁。
ココに住んでいると言うお爺さんと共に、皆で食べた。
『美味しいですね、お1人ですか?』
「えぇ、ですがこの先の街に息子夫婦が居ります、孫の顔を見せに定期的に来てくれるので寂しくはありません」
「おー、えらい」
「ですね」
「それに、こうやって登山しに来て下さる人も居ますし。この裏の神社には若いのが神主として住んでましてね、良く遊びに来てくれるので安心です」
「よし、お参りに行こう。ご馳走さまでした」
「ご馳走さまでした」
『ご馳走さまでした』
山小屋の裏手に行くと、神社への長い長い石階段が見えた。
どうやら本当の山頂はコッチの様だ。
「ジャンケンしながら上がりましょ」
「おうさ」
パイナップル、チョコレート、グミのオマケとジャンケンしながら上って行く。
百段近く登った先に、神社の赤い鳥居が見えた。
「後ちょっとですよー」
「じゃあ負けてくれー」
階段の終わりの赤い鳥居をくぐり、青々とした木々に囲まれた神社にようやく辿り着いた。
手水場の竹筒から流れる岩清水で手と顔を洗い終えた頃、水色の袴に白い着物の若い男性が、箒を持って神社の奥から出て来た。
《おはようございます》
「あ、おはようございます。小屋のお爺さんに教えて貰って来ました」
「おはようございます、ココはどんな神様が祀られてるんですか?」
《ココは白蛇神社です、良くおいで下さいました》
「白蛇」
《はい》
山の神であり水の神である白蛇さんをお祀りする神社らしい、お祀りしないと麓の街が土砂崩れ、日照りに合うそうだ。
確かに良く見れば、本殿に白蛇さんが描かれている。
「そうなんですね、ありがとうございます。お参りします?」
「うん、しよう」
お賽銭箱に五円玉を入れ、鈴を鳴らし手を叩く。
二礼二拍手一礼。
《ありがとうございました、気を付けてお帰り下さいね。動物が出ますから》
『じゃあ気を付けて下りないとね』
「うん、ありがとうございました」
ゆっくり景色を眺めながら階段を降りていると、言われた通り動物が出た。
目の前で親子の鹿が石階段を大きく飛び越えると、何処かへと消えて行った。
「立派な鹿でしたね」
「うん、綺麗だったね」
雲海に沈む山々を眺めながら、ゆっくりと階段を下りた。
そしてお爺さんに挨拶しに家へ向かうと、手紙と木箱を渡された、街の息子夫婦に渡して欲しいそうだ。
「すまないね、次に来たときにでも渡そうと思ってたんだが、早く渡してやりたくて」
「行こうと思ってたから大丈夫」
「山菜屋を探せば直ぐ見付かる筈だ、街には1軒しか無いからね」
「あいよ、行って来まーす」
「あぁ、気を付けて」
朝日を浴びながら山道を降り街に向かった、怪物の気配も無いまま街の近くまで来ると、大きな道へと合流した。
目の前の谷からは水が流れ、川は道と共に続いていた、少し遠回りしてしまったらしい。
「遠回りしたかも?」
「ふふ、有意義な遠回りでしたね」
『あぁ、良い回り道だったね』
少しばかり話ながら歩いていると、2頭引きの馬車を引くお婆さんに出会った。
着ている物は大正辺りのハイソな柄のモンペ、中々お洒落。
《お嬢ちゃん達、大通りを抜けて来たんでねべな?》
「山を通ってきた」
《そりゃ良がった、ちょっと前にこの大通りの先で崖崩れが起きてまってな。今、工事の人さ連れてった帰りなんだわ》
「そら大変だ」
《なんもなんも、街さ行くなら乗ってくけ?》
「宜しくお願いします」
馬車の中で聞いた話によると、山側から木が倒れて道を塞いでしまったらしい。
災いでは無く大きな木が朽ちて、倒木しただけだそうだ。
「そうだったんですかー。良かったですね遠回りして」
「ねー」
《んだんだ。したっけ、お嬢ちゃん達は何処さ行くんずな》
「山菜屋さんへ届け物があるのです」
《あぁ、通り道だでば、前まで乗せてくはんで、このままゆくっりしなが》
「うん、ありがとうございます」
石畳を抜け煉瓦の道へと変わると、大きな街が見えて来た、瓦屋根と白壁の塀と門。
中に入ると京都の町よろしく桝目の様に理路整然と家屋が並び、朱塗りの家屋に洋館もある。
《着いたじゃ、ココだでば》
「ありがとうございました」
顔を上げると、颯爽と馬車を走らせ曲がり角へ消えていってしまった。
目の前の山菜屋は昔ながらの木造家屋、山菜屋とガラス戸に漆で書かれている引き戸を開け、中へ。
「はーい、いらっしゃい!」
「山小屋のお爺さんの、息子さんは居ますか?」
「あらお嬢ちゃん、山から来たんだね。今、旦那を呼んで来るから座って待ってて」
「はーい」
八百屋の様に段々に置かれた蕨や椎茸、筍、水に浸かった山葵等が青臭い匂いを漂わせている。
その棚の横にあるカウンター席に座っていると、暖簾の奥から優しそうな男性が出て来た。
「毎度!父ちゃんからお使い頼まれたんだって?」
「うん、手紙と木箱、早く渡したかったんだって」
話を聞きながら、うんうんと手紙を読むと箱に手を掛け何かを唱えた。
結わえられた紐がほどけ、木箱を開ける、入っていたのは木綿の袋、中には小さな金の粒が入っていた。
「ありがとうなお嬢ちゃん、孫の誕生日に何か買えってさ。こんなに良いのに」
「へー、何歳になるの?」
「1番下の子がな、もう直ぐ2才だ、ホレ可愛いだろう」
お嫁さんが抱っこしてきたのは女の子、まん丸だ。
黄色い着物を振り乱し、イヤイヤと暴れていた。
「うんち!うんちー!いやー!あぁぁぁー!」
「あらやだごめんねぇ、もう」
「ありがとうなお嬢ちゃん。そうだ、宿を紹介するよ、山を超えて来たんならそこでゆっくり休むと良い」
「うん、ありがとうお兄さん」
「じゃ、送って来るから店番頼むよ!」
「あいよ!」
「ばいばい赤ちゃん、お姉さん」
「あいあい」
「あら、挨拶して良い子ねぇ、ばいばい」
「いあいあ」
「ばいばい」
お兄さんに案内された宿は、もう1本先の大きな十字路の角、茶色いレンガ造りの洋館。
中は白い壁に黒茶色の木で出来た床と柱、お洒落。
《いらっしゃいませ、3名様で宜しいですか》
「はーい」
「マスター、ウチの父ちゃんのお使いしてくれたんだ、サービスしてやってくれよ」
《そうでしたか、ではお食事をサービスさせて頂きましょう》
「おう、頼むぜ。ゆっくりしていってくれよな、じゃ!」
「ありがとー、バイバーイ」
部屋もシックで落ち着いた洋室、ベッドが3つに机と椅子とシンプルな部屋。
シルクのカバーがすべすべで気持ち良い、暫く横になっていると辺りが暗くなってきた。
「桜木様、おはようございます、体調はどうです?」
「疲れは取れてる気はする、ダルいとか疲労感は無い、トイレ行きたい」
睡眠に入ってから8時間経っていた、眠気は無く、体調は良い感じ。
ロキさんはソワソワ。
『良いなぁ、俺も行きたいぃ』
「おう、そのうち」
「戦闘が無かったんですけど、僕に遠慮して戦闘を回避して下さったんですか?」
「いやいや、そこまでコントロールは、偶々だと思う」
『ねぇねぇ、どうしたら俺も連れてってくれる?』
「遊びに来られても責任取れない」
『違う違う、心配だし様子見したいんだ』
「本当に?」
『うんうん、あ!戦い方のノウハウとか教えてあげる』
「交渉上手」
特に拒否する理由も無いので、交渉に乗せられるがままドリームランド行きを許可し。
食事を取り、中庭を眺めていると、強烈な眠気が襲ってきた。
ベッドから起き上がると、窓から朝日が出たばかり。
その窓辺には見覚えのある人影、ロキだ。
『やぁ!ちっちゃいねぇサクラちゃん』
「褒めたら帰す」
『お嬢ちゃん、この人は…』
『どうも!トリックスター、元魔王の異名を持つ北欧神話の神、ロキ。君がおじ様かい?』
『あぁ、どうも、この子にはそう呼ばれています』
『なるほどねぇ、帽子で顔が良く見えないなぁ』
「ロキ、威嚇しない」
『はいはい、抱っこするー?おんぶがいいかな?』
「抱っこで」
椅子が2つしか無いので、ロキに抱えられながら。
おじさんとテーブルを挟んで、相対する形となった。
『おじ様、早速だけど少し話をしよう。ココで死んだらどうなる?』
『通常は覚醒し、2度とココへは帰って来れなくなる。だけれど銀の鍵があれば別だ』
『サクラちゃんが死ぬワケじゃ無いんだね?』
『程度によっては眠ったままの事もある、そこは、どうにも出来ない理なんだ』
「つまんない、ベッドいく」
『はいはい、で、だとするとやっぱり危ないじゃない』
『向こうでの身体が無事なら、運次第では元に戻る事もあると聞いてるよ』
『うーん…守る為にはどうしたら良いんだい?』
『後少し、地図が出来上がる迄は誰かの補佐が欲しいね。それと万一の為に、悪い侵入者を撃退する門番が欲しい。醜い姿で、誰もを恐怖させられる様な門番を』
『サクラちゃん、どんな奴が良いかな?』
『ある程度知能があって、人型だとなお良い』
折角ベッドでゴロゴロしていたのに、突然話がコチラに向いた。
怖い門番と言えば、当然ミイラだろう。
「太い肌色の包帯をぐるぐる巻きにしてるミイラ、その包帯は色々な人間の皮膚で出来てる。伸縮自在、頭に鹿みたいな大きな角、包帯の隙間からは目や口が見える。良い子の時は普通の白い包帯ミイラで、悪い子を見付けたら変身して、瞬間移動して懲らしめる」
『それは怖そうだ、良く出来ているね、名前は空鬼と付けさせてくれないか?』
「いいよ」
『ここの魔力はどうなってるんだい?サクラちゃんの魔力?』
『いいや、ココは強大な宇宙から無限の魔力を得ているんだよ』
『どうしたら地図は完成するのかな?』
『空白地帯を散策し、埋めるしかないね』
「お散歩か!」
早速3人で外へ出る、直ぐ近くには酒屋に飲み屋、蕎麦屋、キャバレーに花屋、各国の美男美女が並ぶ娼館まで。
川沿いには桜が咲いて屋形船も行き来し、明るく華やかな花街が咲いている。
『飲み屋に娼館か、和風の大人の街だねぇ』
「綺麗なの見るの楽しい」
『確かに、綺麗な人や物が多いね。お嬢ちゃんらしくて素敵な街だ』
桜の花を眺めていると、突然にわか雨が降って来た、晴れた青空から小雨。
水色の空から、テグスの様な細い雨が柔らかく降ってくる。
「狐の嫁入りだ」
『狐?』
『ロキ君、ほら、後ろの事じゃ無いだろうか?』
騒がしい声に後ろを向くと、白無垢の花嫁や仲人達の行列があった。
赤く大きな和傘を差し、皆が狐のお面を被って大通りへ歩いて行く。
《目出度いなぁ》
《これは今年も豊作だ》
《お祝いだ、今日は宴だ》
「綺麗で素敵」
『とっても素敵だねサクラちゃん』
『お、向こうに虹が出ているね』
おじさんが指す方へ目を向けると、行列の後方に虹が出ている。
大きな虹が二重になって、花嫁さんを見送っている様だった。
《お嬢ちゃん、お稲荷さんは要らんかね》
声が聞こえた方へ少し顔を向けると、おにぎり屋さんのおばちゃんが手招きしている。
良く見ると通りの奥のその先に、千本鳥居と神社が見えた。
「おー、お揚げの炊けた良い匂い」
《お稲荷さん出来立てだよ。黒糖で煮たの、紅生姜入りもあるでよ》
「金の粒でも大丈夫?」
《勿論さ、全種類、3個づつ入れてあげようね》
「神社にも1個欲しい」
《良い子だね、それはオマケに包んであげよう》
「ありがとう」
千本鳥居を潜り抜けると、小さな狐のお社があった、白いお猪口と葉っぱを模したお皿がちょこんと置いてある。
別に包んでくれたお稲荷さんを置き、手を合わせてから、そのまま川沿いを歩く。
『こんな近くにも神様かぁ…あちこちに居るのが不思議』
「いっぱい居るよ、池や水には竜神さん、町には狐さん。小豆洗う妖怪も枕をひっくり返すのもいる」
『竜神さんか、会ってみたいものだね』
『良いねぇ、楽しそうだ』
「何処に居るかなぁ」
《街の先の、洞窟の中に居るよ》
「な!河童!」
《きゅうり無いか?》
「ごめん、無い。ワカメで良い?」
《きゅうりが良い。1本、今度川に投げといて》
「うん、わかった」
それから街の中心に戻り、本屋に画廊に画材屋、染物屋などを見て回っていると、辺りはもう真っ暗だった。
月の無い、新月の夜。
『お店も段々閉まって来たね、今日はこれ位にしてホテルに帰ろう』
『本当に、もう真っ暗だぁ』
「うん」
ホテルの1階部分はバーになっていて、今はとっても騒がしい。
狐の嫁入りは縁起が良いそうで、コレは祝杯だそうだ。
《おい兄ちゃん達!》
《1杯飲んでけ!》
《祝杯だ!》
《振る舞い酒だ!遠慮はすんな!》
『お!良いねぇ!頂くよ!』
『1杯だけ、頂きます』
《お嬢ちゃんにはパフェだ!》
「ありがとー」
宴会が1杯だけで終わる筈も無く、またしてもおじさんは飲まれ、呑まされている。
パフェを食べ終わる頃になると、上手く逃げたロキにマスターが話し掛けた。
『この辺で、何か注意事項は有る?』
《お客様、真夜中の川の橋を渡らないで下さいね、今夜は特に》
『うん?なんで?』
川向こうの林の奥に最近になって怪物が出る様になって危ないらしい、今では誰もが怖がってお墓お参りも出来ないそう。
ほろ酔いのおじさんを尻目に、ロキがグイグイと話を聞き出す。
《魚の様な顔をした怪物だそうで》
『何か悪さを?』
《どうやら墓を荒らしているらしく…川を渡りコチラに来ないのがせめてもの救いです》
『拐われた者は?』
《今の所は居ません、最初に見た者が怯えて騒いで以来、誰も近づきませんから》
「ほうほう、君子危うきに」
『よし、行ってみよう!』
ほろ酔いのおじさんとロキと3人で、川に1本だけ掛かる真っ赤な橋を渡った。
真っ暗闇に満月を出し風船の様に浮かせると、お墓が照らされ海の臭いも僅かに漂う。
何かの気配を感じ、満月を前へ進める。
照らされた墓は倒され、骨壺は開けられていた。
ゴトン、と音がした方を見ると。
魚の顔をした半魚人が、白い骨をくわえたまま転けていた。
「あ」
『追い掛けてみよー』
半魚人は走るのが遅いので、ゆっくりにじり寄る、その合間にロキが燈籠に火を入れ。
1個、また1個と海の鳴る方へ進むと、半魚人の群れが照らし出された。
気付いた半魚人達が、ギギギッギギギッギギと、歯を擦り合わせた様な音を出しながら次々に逃げ出すと。
ロキが最初に駆け出そうとしたので、思わず止めてしまった。
半魚人達はそのまま断崖絶壁を駆け下り、真っ暗海へ逃げる、酔いがやっと覚めたおじさんが望遠鏡で追跡。
どうやら、離れ小島の洞窟に逃げ込んだらしい。
『行く?』
『遠くは無いけれど』
「うん、行く」
そしてそのままロキに手を引かれ空を飛び、洞窟に入った。
満月で出口に蓋をし、剣を手に取る。
『危なくなったら援護するから、無理しないでねサクラちゃん』
『そうだね、いつも通り気張らずに行こう』
「うん」
洞窟に入ってなお、襲ってくる気配は無い。
観念したのか、追い詰められた半魚人は代表者らしき者を前へ促した。
《参ッタ、降参》
《ダずけて、くデ》
《ギギッギギギ》
《エサ、ほじがっだ、だけ》
《食う、無くなっタ》
《怪物に、貝、食われタ》
「でもお墓はダメだ、荒らしたらダメ」
《ご飯ない》
《怪物つよイ、カテない》
『サクラちゃん、その怪物を倒しに行こうよ』
「じゃあロキは遠くで見ててよ?」
『えー、俺も戦う』
「強そうじゃないんだもん」
『いやいや、結構強いよ?』
『ロキ神はフェンリルやヨルムンガンドを産める程に強いんだ、大丈夫』
『うんうん、喧嘩相手はトールだし』
「そっか、じゃあ行こうか」
1番良く話せる半魚人の案内で、廃墟となった海底神殿へと向かった。
長い長い海底洞窟を進むと、そこには一回り小さい半魚人達の石像で溢れ、最奥には象に良く似た巨大なタコ人間、王座らしきモノにもたれ掛かっているらしい。
頭はタコそのもので、灰色の触手が生えている、顔の中心には象の鼻の様な一際大きな触手。
目は金色で、半月を真横にした様な瞳孔だそう。
『フェンリルよりは小さいね、20m位かなぁ』
『コレは参った、想定外だ。ガタノソアじゃないか』
「見えない、何で隠すのロキ」
『石化の呪いを持ってるみたいだからね、サクラちゃんマントも何も、防御の道具持って無いでしょ?』
「ぐぬぬ、素材が無くて材料造ってる最中、コレで」
女神達から貰った繭をロキに見せる為に取り出すと、思った以上に繭が光り輝いてしまった。
巨体がコチラへ向かって来ているのか、ズシ、ズシン、と振動が近づいて来た。
『おじ様、撤退する?』
『そうだね、すまないが撤退だ』
ロキに小脇に抱えられながら、猛スピードで来た道を引き返す。
おじさんはと言うと、半魚人を抱え同じ様に跳ね飛びながら駆けていた。
《な、アイヅ、強イ》
『確かにそうだ、対抗できるモノが無ければ太刀打ち出来ない。お嬢ちゃん、すまないが暫くは満月でココを封じて貰えないだろうか』
「おかのした」
満月蝋燭を呼び戻し巨大化させ、海底トンネルを塞いだ。
おじさんは申し訳なさそうに、何度も謝って来る。
『すまないね』
「おじさん、何でそんな謝るの」
『ガタノソアは、僕のせいだ、本当にすまない』
「詳しく」
『まだ言えないんだ、本当にすまない』
「今度、教えてくれる?」
『あぁ、今度なら』
「なら良いよ、約束ね」
『うんうん。よし、じゃあこれからの話をしようか。どうするサクラちゃん?』
半魚人の住む洞窟で、そのまま作戦会議となった。
怪物を倒すまで、半魚人達には漁村の貝殻を提供し、他の場所でマントの素材を探す事となった。
《貝殻くデるノか》
「人の場所に来ないのが条件」
《もウ人間、骨、食い二行かなイ》
《いガ無イ》
そうして急場の約束を取り付け洞窟を出て、次の場所へと向かった。
石畳からコンクリートの道を進むと、途端に濃霧に包まれた。
【主、従者がお呼びです】
その声に目を覚まし起き上がると、ショナが居た。
どうやって来た。
「どうやって来たの」
「途中まで、武光さんに送って頂きました」
「そう、で、術はどした」
「免許皆伝とはいきませんが、ドリームランド行きは了承頂きました」
『残念ショナ君、これから武器を受け取りにニーダベリルに行って貰うんだ、防具もね。強敵が現れちゃったから』
「でしたら僕もご一緒させて下さい」
「お、おう」
『じゃあ俺は訓練用に、ニブヘルムで待ってるよ』
時間はお昼前。
髪を落とし、身支度を整えてから少しだけオヤツを食べた。
そうしてショナや蜜仍君と共に、ニーダベリルへ。
『やぁハナ!待ってたよ!』
「ベリサマ!お待たせ」
攻撃特化型と日常用のベルトが2本用意されていた。
両方共バックル部分は大きな魔石が付け替え可能で、緩やかなラインを描くベルト。
真後ろは細く作られキツく無いのに腰にピッタリとフィットした。
黒い鞣し革の攻撃特化型は急所を守る様に太股まで革があり、毒が仕込まれているそう。
右前には杖の収納が、左前の太股には細い細工が施されらた簪や針が3本入っていた。
『それは投げナイフも兼ねてるの、必中付き、かすっても効く毒が仕込んであるわ』
「ほうほう」
日常用の白い鞣し革のベルトは細い二重ベルト、腰に小さな鞄がついている。
ベルトの裏には大中小の針が3本、コチラも毒針らしい。
両方共に水に浮く魔法が刻んであり、水に囲まれれば酸素の膜を張り、自動で安全地帯まで浮上してくれるそうだ。
『装備したら【泡】って唱えるんだよ、さ、着替えて』
「ありがとう、【泡】簪はつけられないし返そうか?」
『いや、持っといて、返したら女神達が悲しむから…』
「ごめんなさい、ローブとか欲しくてつい…」
ベリサマの視線の先へと振り向くと、女神達が悲しそうに立っていた。
《まぁ…》
《なんて事なの…》
《あぁ、そんな…》
「申し訳ない、生やすんで許して欲しい」
《…約束よ?》
《もう…ローブね?》
《まぁまぁ、とりあえず繭を見てみましょう》
残念、渋々と言った雰囲気を出す女神が、繭から糸を縒る。
キラキラして綺麗。
《あら》
《早い》
《でも1着分ね》
「あの、桜木さん。そもそもなんですが、綿はダメなんでしょうか?」
「あ」
《あら》
《あらあら有るじゃないの》
《しかもこんなに》
「普通の綿だし」
《アナタの魔素タップリよ。何よもう、髪を切らなくても良かったじゃない》
《もう、うっかりさんねぇ》
《それで、どんなのが良いのかしら?》
「顔が隠せるベールみたいなやつ、ヘルのみたいなのと。ローブ、石化を防ぎたい」
《あら、ヘルに会ったのね》
《あのベールは私達お手製なのよ》
《そろそろ新しいのを繕をうと思ってたのよね》
《でも先ずはこの子のね》
《そうね、浄化のベールかしら》
《折角なら他にも付与しましょうよ》
《そうね、コッチへいらっしゃい》
女神達に案内され向かった先は、川辺に機織り機が何台か置いてある場所だった。
握ったままの魔法の繭から細く輝く滑らかな糸を出したとかと思うと、髪と綿も縒り合わせ、織り合わせて行く。
丁寧なのに高速な機織りの技術に見とれていると、アッと言う間に織り上がり、次は刺繍を施しいていった。
細いレース編みにシンプルな刺繍、首まですっぽり隠れるベールが出来上がった。
そのショートベールを被ってみると、軽く柔らかく、真っ黒な筈なのに着けている感覚はまるで無い。
《不透過と浄化の魔法が常に発動してますよ》
《程よく見えないの》
《ほら、鏡を見てみて》
魔法を唱え、久し振りに鏡を見ると、確かに目鼻が隠されていた。
濃いサングラスの様に微かに陰影が分かる程度なのに、コチラからはクリアに見える。
「良い!凄く良い!」
続いては待望のローブだが、早々に出来上がっていた。
肌触りが良く、とても柔らかい、形も美しく高級感のある仕上がり。
何より肌触りと、リバーシブルなのが特に良い。
ベルベット素材と、シンプルな綿の素材。
着回しにまで気を配ってくれて、ありがたい。
《火も熱も通さないし》
《石化も酸も防ぐわ》
《勿論、不可視も》
《誰にでもは作りませんよ、悪用されては困りますからね》
《そうそう、ロキになんて渡ったらどうなる事か》
《そうね、だからアナタだけが使える様になってるのよ》
《えぇ、他の者が使ったら灰になる様にもしておいたわ》
「ありがとうございます。あの、従者用は出来ますか?」
《まだ綿はあるのかしら?》
「山程」
《それなら、この袋にお願いね。全部》
《もう、本当に髪を切る必要無かったじゃないの》
《まぁまぁ、また直ぐに伸びるわ》
ストレージから袋に綿を入れていく、ある程度大きくなったら、そこからは大きくならずにどんどん入っていった。
全ての綿を入れ終わる頃には、ドレス用なのか裾の広いローブが出来上がっていた。
表は黒く裏はグレー、どちらも質素ながらも程良い光沢があり、上品。
袖や裾にはベールと同じく、たっぷりと刺繍が施されている。
ホンの僅かに重さもあるが、それがかえって着心地を良くしていて、暖かくて落ち着く。
《ベルトに合わせて日常用に》
《どんな時も落ち着ける様に、沈静の魔法も付けといたの【抱擁】と唱えれば発動するわ》
《あ、不可視の魔法はね【隠す】よ》
《そこの従者にも、ね》
《シンプルにね》
《待ってて頂戴ね》
『お、良いローブだ』
『流石だな』
『それは良いが、少し地味じゃないか?』
《良いのよ、色付きは他の子達に織ったから》
《派手好きねぇ》
《あら、この子専用の武器はもう出来たのかしら?》
『『『おう!勿論だ!』』』
広場に行くと、深く濃い飴色の美しい槍達が積まれていた。
木製でありながら、艶があり滑らか、まるで琥珀飴の様。
『溶け無い様に』
『燃え無い様に』
『素早く鋭く貫く、必中の槍だ!』
手にしっくりくる握り心地、どうやらストレージから射出する前提らしい。
言われるがまま魔力を通し、ストレージへ。
滞空での停止は無理だけれど、直ぐに早く飛んでくれた。
『コッチもだ』
『マスケットの魔法銃』
『お前の身長と同じにしたぞ、クックック』
ロングライフルと言うか、銃剣と言うか。
本当に同じサイズ。
機能は覚えられないんじゃ無いかと思える程に詰め込まれてるし、厳つい。
カッコいい。
『ふふふ、全部、詰め込んじゃったみたい』
「ありがとう、日本酒は如何でしょうか?」
『『『飲む!』』』
日本酒とツマミを渡し、女神達へはケーキを渡し。
魔道具の試運転の為に、ニブルヘイムへ向かった。
『お帰りサクラちゃん、良いねぇそのローブ』
「着させらんないよ、着れば炭になるって」
『もー、分かってるよぉ。ショナ君達も貰ったんだね』
「はい、僕らのも名前入りです」
『抜け目無いなぁ』
「槍を貰った、試したい」
『よし!フェンリルちゃーん、ヨルムンガンドちゃーん、おいでー』
轟音を巻き上げながら、巨大な蛇と狼が姿を表した。
お目々キラキラで、可愛いのよね。
《パパー、ハナー》
《遊ぶー?》
『フェンリルちゃん、グングニルの後継機が出来たんだ、それで遊ぼう』
《やる!絶対負けないんだからね!》
《僕はー?》
『ヨルムンガンドちゃんは、クーロンとコンスタンティンと遊んでおくれ。殺しても良いけど、頭と形はちゃんと残すんだよ』
「な」
《分かったー》
合図も無しに急遽戦闘が始まった。
ヨルムンガンド対クーロン、コンスタンティン。
あまりにも大きいヨルムンガンドに対して、大きくなったクーロンとコンスタンティンですらサイズ差が過ぎる。
見た目的にはXL対Sサイズの怪獣決戦だ。
『じゃ、こっちはフェンリル対サクラちゃん、ショナ君、蜜仍君、アレク。よーい、始め!』
「潜ります!」
「「【クンチェアル】」」
「あ、ずるっ」
蜜仍君が影に入ると同時にショナも姿を消し、自分は後方に飛び退いた。
ローブを着ている者同士は認識出来る設計らしく、コチラからは前方に居るショナの姿が見えている。
アレクは装備無し、良い囮状態。
フェンリルはヨルムンガンドよりは小さく、クーロンより大きい。
ストレージから直接何本かの槍を飛ばしてみるが。
《かゆい》
何本か身体に当たって貫通するが、アレクを遊び半分で追いかけ回し、ダメージを気にする様子が無い。
蜜仍君も影から出ては後方で影縛りをするが、フェンリルが半身を翻し噛み付こうとしたりで、上手く縛れ無い様子。
思い切って全ての槍を束ね、心臓を狙う。
巨大な槍の姿を捉えたフェンリルが身を翻し、飛び退いては走る、上手に槍を何度もかわす。
自動追尾で最早自分は操作していないので、更に後方に下がり、槍の行方を山から見下ろす。
大きな鎌を持ち出したアレクがフェンリルの左前脚を切断し、蜜仍君とショナが後ろから影を縛る。
そして槍がフェンリルの顔を目掛けて飛ぶ。
が、フェンリルはそれを呑み込んでしまった。
『サクラちゃーん、オーディンとグングニルを呑み込んで倒したのはフェンリルなんだよー』
その間にも雪を撒き散らし体勢を立て直したフェンリルが、再びアレクを追い掛ける。
空間移動の隙を狙われ、噛みつかれそうになった。
だが直前にショナの防御魔法が発動し、アレクが弾け飛ぶ。
一足飛びに駆け寄るフェンリルに、ショナの防御魔法が再び一瞬にして食い破られ、蜜仍君がアレクを影へと引きずり込むも、左足が噛み千切られた。
飲まれた槍を1本にまとめ、肋骨の間を通過させ、体外へ。
次は飲み込まれ無い様にしないと。
ソラ、アレクの左足回収、おっきな盾で足止めしよう。
【はい】
その間にもマントで見えて居ない筈のショナへ、フェンリルが駆け寄る。
飛び退くのが遅れたショナの右足首が、軽々と噛み千切られた。
盾、首へ投下。
フェンリルの首を目掛け、巨大な盾を上空から高速落下させる。
爆音を立ててV字型の盾が地面へ刺さり、首を挟んだ。
すかさず心臓へと巨大な1本の槍を射出。
耳をつんざくような轟音と爆風を立て、脇から皮と肉を裂き、心臓のペースメーカーを貫くと、ようやっとフェンリルは倒れた。
ヨルムンガンドに目を向けると、片目を失っていたが、クーロンもコンスタンティンもボロボロに負けていた。
『ヨルムンガンド対全員、そのまま始め!』
盾と槍をストレージに仕舞ってから、再び槍の射出準備。
今度の標的は脳幹、心臓の数が多すぎるからだ。
目へと一直線に槍を撃ち込む。
槍は瞼を裂き、瞳を破壊し、頭蓋骨の眼神経の穴から脳を避け、脳幹へと到達し、切断された。
「はぁ、これで…」
『じゃあ、次は俺と!始め!』
ローブを脱ぎ掛けたショナが銃を撃ち込むが、魔法の靴を履いたロキには当たらなかった。
クーロン、コンスタンティンも牽制するが、小回りの効くロキに翻弄される。
アレクが援護に入るが、足が片方無いので踏み込みが甘く避けられた。
蜜仍君が影縛りをしようとしても、天高く逃げられ、姿も影も消えてしまっていた。
思い切って槍をバラし、上空から人を気にせず全て撃ち込んだ。
空中を舞うロキと神獣達に槍が向かう。
数本がロキに当たるも、避けられた槍が自分に飛んで来た。
真横を通り抜けた槍達が、軌道を変え上空へと再び爆音を響かせる。
ロキも不可視のローブがあるのか、何処にも見当たらない。
皆も完全に見失ったのか、ショナがコチラに向かって来た。
もう、槍に任せよう。
しゃがみ込んだ瞬間、頭上で何かが砕け散る音がした。
自分の前に着地したロキの胸を貫いたらしい。
上を向く間も無く、胸に穴の空いたロキが眼前にドサリと倒れた。
生は、現実はやっぱり恐ろしい。
とりあえず、先ずはロキを治す。
「びっくりした」
『そうなの?居るって分かったのかと思ったよ』
「分かっては無いよ、諦めて座り込んだだけ」
『本当に?』
「本当、そっちこそ何でコッチが分かったの」
『勘、良く当たるんだ』
「あ?」
『本当だってばぁ、とりあえず皆治そう?』
アレクやクーロン達を治し、次に巨大生物ヨルムンガンドとフェンリルを治す。
巨体はどうしても時間が掛かる。
魔素はこの大地からのモノが殆ど、神獣同様に圧せば良いだけだが、つい構造が気になってしまう。
そして傷口が治ると、蘇生はせずとも息を吹き返した。
「大きいのは大変だ」
『だよねー、お。お疲れー』
《負けたー》
《何アレ怖い、首抑えたの、スレイブニル?》
「?ただの盾だよ」
《あの槍は?グングニルじゃ無いんでしょ?》
《グングニルより数ある》
「んー、ファンネル?かなぁ」
《へー、お腹で溶けなかった》
《ねー、強かった》
『よしよし2人とも良く頑張ったね、お家に帰ってご飯にしなさい』
《うん!またねー!》
《ばいばーい》
巨大生物達は、再び轟音を轟かせながら吹雪の奥に消えて行った。
『サクラちゃんもお腹減ったでしょ、ヴァルハラで食事にしようか』
「うん」
ヴァルハラの食卓に着くと、早速反省会へ。
エイル先生曰く、ロキが来るのは珍しいらしい。
『何で回復しながら戦わなかったの?』
「余裕無かった」
『なら回復しながら戦える様に練習だね』
「精進しまふ」
『うんうん。にしても全部コッチに向かって射出したのはビビったよぉ、躊躇おうよぉ』
「槍が敵だけ狙うと聞いたので」
『そうだけどアレも欠点があってね、躊躇えば速度が落ちたり、無意識に狙いがぶれたりするんだ。だからあの時、俺にちゃんと当たらなかったの』
「じゃあわざと盾にしたのか」
『おうよ』
「で、フェンリルがショナに気付いてたのは?」
『不可視しか付与されて無いなら、臭いじゃないかな?』
「あ、消すの忘れてました…すいません」
「なるほど。上空でひたすら逃げてた?」
『うん、飛び回って逃げてた。影が視認されなきゃ蜜仍君の影には捕まらないかと思って』
「正解です、直ぐに欠点を見抜かれてしまいましたね。僕も精進しないと」
「うん、がんばれ蜜仍君。にしても巨体は難しいね、時間が掛かる」
『何でも応用だよ』
「つかさ、いきなり戦闘は、やっぱずるいでしょ」
『戦闘って時に突然じゃん?』
「貴方は毎回突然だ」
『えへへ』
「褒めて無いからね」
「ショナ、俺もローブ欲しい。有ったらもうちょっといけた気がする」
「無理ですよ。元魔王には流石に、不可視のローブは無理だと上にも言われました」
「あらー、残念アレク」
「えーやだー、ほーしーいー」
『おーれーもー』
「椅子ガタガタさせないロキ、そもそも貴方は絶対無理でしょ。ほらアレクも止めなさい、頼んでみるから」
「やった!」
『ねぇねぇショナ君、戦闘の感想は?』
「防御は桜木さんの盾を借りた方がましかと」
『だね。でも、自信を無くされるのも困るな、魔法の知識も応用力もサクラちゃんより君が上なんだし』
「でも、今日は完全に役に立てませんでした」
「大丈夫、応用応用」
『そうそう、応用。じゃあお腹も満たされたし、ヘルヘイムへ戻ろうか』
「おう」
ヘルヘイムは万年夜中。
月の満ち欠けがただただゆっくりと変化する以外は、曇りや雨、雪が舞う以外何も無い。
とても静かで、匂いも色も少なくて、落ち着く。
《お帰りなさい、ハナ以外はボロボロね》
「ただいまヘル、ロキが急襲してきた」
《まぁ、またパパが悪さをしたのね》
『返り討ちにされちゃった』
「心臓を一突きさせて貰いました」
《ふふ、今度私にも見せてね、戦うところ》
「おうよ」
『うんうん、とりあえずお風呂に行っておいで』
「ありがとう。ショナ、入浴前に髪を整えておくれ」
「はい」
笑顔で応じてくれたものの、この上なく気まずい。
凄い気まずい。
「前髪はいつも通りで、後ろとかは伸ばすから整える程度で宜しく」
「はい」
「それからショナとかには怒ってないので、それは理解して欲しい」
「はい、大丈夫です。でももし良かったらなんですけれど、言い訳をさせて欲しいです」
「了承した、端的に短く頼む、3行以内で」
「え、あ、はい」
言わない事に違和感があったが
結果的に賛成した事を後悔してる
浅はかでごめんなさい。
「手が止まってるけど、髪は終わったのだろうか」
「すみません、考えて手が止まっただけで、もう少しです」
「了承した、了解した、許す」
「ありがとうございます」
切った髪はストレージにしまい、入浴。
風呂から上がり、中庭へ。
ロキがコチラに振り向いた。
『何?どうかした?』
「血の盟約は、言わない事には効かない?」
『うん、言わない事がバレて無ければね。精神に関わる魔法は強力だけど抜けがある、完全無欠の魔法なんてのは、そう無いんだ』
「あるにはあるのか」
『それこそギアスは使用方法によっては完璧な精神魔法だよ、抜けの無い制約を掛ければだけど。その代わり、ソレを知る者、使える者は限られてる』
「そうか、ありがとう」
『まだ難しい顔を…もしかして言わなかったの怒ってる?』
「お前もか」
『だって、ドリームランドに行きたかったんだもの。行くにはサクラちゃんの精神安定が大事っぽかったし、そうなるとストレスは排除したいから、言わないのが1番かなーって。それにね、もうサクラちゃんは何となく気付いてるっぽいし、良いかなーって…』
「ほう、ドリームランド目当てか」
『それだけじゃ無いんだよ、安全確認したかったんだよ。モルペウス達がアノおじ様に質問しようとしても、何故か上手くいかなくて、探れなかったから。じゃあ俺が行けば、何とかなるんじゃ無いかってなって…』
「話し合いの結果で、そうなったと」
『うん…危ないのはドリアードから聞いてたし、どうにかしたい一心で…うっ……』
ひとしきり喋り倒した後、突然ロキが座っていた長椅子から滑り落ちた。
そして少し離れた所に居たヘルが、盛大な溜め息をつきながらコチラヘ向かって来る。
《気にしないでハナ、倒れる直前に何を話していたの?》
「へ、えー…どうにかしたい一心でって倒れた。ドリームランドとかの話しで」
《そう、じゃあ起こすわね》
ベールの合間から指先を出し、スッと人差し指を上げるとロキの呼吸が一瞬にして戻り、起き上がった。
「一体、なにが」
《ロキ、私の国で嘘はダメって言ったでしょう?ドリームランドに興味があったのよね?心配なだけじゃ無いわよね?》
『ごめんよ、言葉のアヤで。心配だったのは本当なんだ、関われる神は限られてるし、本当に危ない目にあって欲しく無かったんだよ』
「いや、まぁ良いんだけど。それよりも、その嘘吐いたら死ぬルールは我らも適応されてる?」
《ロキのルールはロキ専用よ。でも、この国で私に酷い嘘を話したら、皆、ね。でも大丈夫、こうやって直ぐに生き返らせて真意を聞いてあげるから安心して、言い間違いなんて良くある事よ》
『うんうん。嘘、大袈裟、紛らわしいは罪だからね』
「強い」
結局は生き返らせるし害が無いから言わなかっただけなのだろうけれど、心臓に悪い。
いきなり死なれるのはビックリする。
「あの、ロキ神、様、1つ宜しいですか?」
『様だけで良いよ。なんだい、蜜仍君』
「死ぬのは、どんな感じでしたか?」
『そうだねぇ、今のは失神する感じかなぁ。急に真っ暗になるみたいに、意識が無くなる。でも、起きてみて初めて、真っ暗に失神したなって思い出せる感じ。起きなかったらそのままだね、途切れた事にも気付かないまま』
「じゃあ死に方によりますか?」
『だねぇ、でもヘルは優しいからジワジワ殺すなんて滅多にしない。因みにジワジワ死ぬのは超苦しい、マジ辛い。マジ辛いまんま死ぬから、無事に生き返ってもマジ辛いからスタートだから、寝覚め悪い感じが凄い』
「じゃあ寝覚め悪い時は、どっかの次元の自分が死んだ時なのかもねぇ」
『そうなのかもねぇ、どうなんだろ?』
「またどっか飛ばされて、ロキが死んだら報告してあげるよ」
『お、良いねぇ、頼む』
「行かない様に願掛けしないといけませんね、ショナさん」
「ですね」
歓談も程々に、身体の熱も冷めたのでベッドへ向かった。
邪魔な髪を気にする事も無く、無造作に枕に頭を置くと瞼が自然と落ちて。
濃霧の中、誰かと手を繋いでいる。
温かくて、懐かしい。
『やぁ、もう防具を揃えられたのかい?』
「おじさん!うん、武器も防具も貰った」
『綺麗な黒いローブだね』
『ねー、俺は石化除けの指輪だけ、不可視も付いてるなんて羨ましいよ』
『そりゃ良いね、僕もお揃いにしようかな』
「うん!似合う、良い感じ」
ロキの指輪は金色の蛇の目玉の付いた指輪、おじさんは鞄から同じローブを取り出して羽織った。
そうして再び洞窟まで戻り、海底神殿の満月前で作戦会議。
『作戦は?』
「難しいのは良く分かんない」
『うーん、おじ様の意見は?』
『本当は一気にミンチでとお願いしたいけど、最低でも頭と心臓、両方を潰す作戦で行けたらと思う』
「うん、わかった」
不可視の魔法を唱え、半魚人の石像に隠れながら、玉座に寄り掛かるガタノソアに近付いた。
牡蠣やホタテをガリガリと、殻のままに貪り食べている。
目を閉じてガタノソアの全身を見ると、胸に心臓は無く、頭部には軟骨ばかりで骨が無い。
目の間には、脳らしき神経細胞の塊が触手や身体へと繋がり、心臓は3つ、どれも頭頂部にあった。
身体は筋肉質、瞬発力の高いアスリートの様。
先ずはストレージ内で槍を4分割にし、脳と心臓へ最短距離で一斉射撃。
正面と頭上から突然現れた槍に、気付く事も無くタコ人間は玉座から崩れ落ちた。
いけたか。
『わぁ、一瞬だ』
『まだダメだ、触手を全部切り落とさないと』
まだ神経が活動している触手に近寄る事無く、ストレージの剣を全て使いタコ人間の全身を小間切れにした。
青と黒の体液が大量に溢れ出し神殿に広がると、石像が煙を上げ始めた。
『サクラちゃん、コッチにおいで』
『マスクがあるなら付けた方が良い、この煙は毒だ』
皆で石造りの本棚によじ登り、ベールを羽織る。
半魚人の石像達が胸まで溶けた頃、地鳴りと共に神殿が揺れ始めた。
「トンネルまで戻れるかな」
『大丈夫、どうやら石像で中和されたらしい』
『本当だ、煙も収まってるね、行こうサクラちゃん』
ロキに抱えられながら、海底トンネルを抜ける。
後方では落石が起きているのか、轟音と地鳴りが響き続けていた。
「後ろは大丈夫?」
『崩れてるけど大丈夫』
『もう出口だよ、お嬢ちゃん』
その言葉と共に光が見え、洞窟の中心が昼の日差しに照らされていた。
丁度その中心に下ろされると、半魚人達が寄って来た。
《倒したノカ?》
《石像、壊れタ?》
「うん、石像救えなかった、ごめんね」
《埋まったタ、ノか?》
「半分溶けた」
《そうカ、そウか》
《オレ達、卵セイ》
《溶けテ帰っタ、良イこト》
《海、帰ル、良いコと》
「なら良かった」
《良かタ》
《お前二、やル》
《宝やル》
洞窟の1番奥から取り出して来たのは、米俵一俵分の真珠だった。
魚の皮に包まれた真珠達は、色々な色とサイズをしていた。
『貝を取るのが上手なんだねぇ』
《オデたチ殻食う》
《中身、今、いナナい》
『どうして殻ばかり?』
《産卵期、殻、必要》
《卵、殻、必要》
「そっか、皆はお母さんなのか」
そのでっぷりとした身体は、子供を宿した身体だった。
案内されるがままに洞窟の脇を抜けた先へ行くと、海藻に産みつけられた真珠色の卵が漂っている。
《真珠、守ルもノ》
《昔かラ、言いつケ》
「追い掛けてごめんね」
《人間、骨、大切》
《知ってタ、食べタ》
「万が一、食べる時は人間に許可を得てね」
《うン》
《ワかタ》
「魚も貝も取り過ぎないで」
《ワガっだ》
「うん、じゃあ」
《待テ、ダメ》
《真珠やル、言いツけ、受け取レ》
『サクラちゃん、受け取らないと向こうが困る事もあるから、貰っとこう?』
「うん、わかった。ありがとう」
《アりがトウ》
《あリガとウ》
真珠を仕舞い、離島から漁村へひとっ飛び。
おじさんがノードンスさんに離島の事を説明し、見回りと貝殻を頼んでから、始まりの森の白いガグに会いに行った。
ココでもおじさんが事情を話し、墓場の骨の一部を分けて貰う事に。
それでも、えも言えぬ沈んだ気持ちでホテルのマスターに報告しに向かった。
「解決はしました」
『そうそう、終わったよマスター』
『正体は半魚人だったが、害は無いから大丈夫。また来ても、今度は貝を渡せば素直に帰る筈だ』
《そうなんですね、ありがとうございます》
「この真珠、お詫びだって。それとお墓の事は任せるね、墓石倒れたままだから」
『本物の怪物が居てさぁ、超ヤバかったんだよー』
『怪物が半魚人を追い詰めていたんですが、この子が退治しましたからもう安心ですよ』
《はい、はい、ありがとうございます。是非お寺に伝えておきます》
「うん」
『じゃあ1杯やろうか、おじ様』
『あぁ、そうしよう』
そうしてそのままカウンターで夕焼けを眺めていると、だんだん瞼が落ちて来た。
「…エイル先生、ロキは?」
『コンちゃんにまみれて…まだ眠ってるわね、一緒じゃ無かったの?』
「一緒だったけど、今はおじ様と飲んでるっぽい」
『あー、ザルだから暫く掛かるわよ』
「おじさんは下戸だから直ぐ終わるよ」
『ふふ、そうなの。何か食べる?』
「うん」
足元で眠るコンちゃんとロキが居るベッドを出て、暖炉前のテーブルへ移動する。
ほかほかの鍋を、ショナがストレージから出してくれた。
このヘルヘイムの気温は小春日和の気温で気に入ってるのだが、普通に過ごすと身体が冷えるからこその配慮らしい。
猫舌なんだけどな。
「はいどうぞ、僕とショナさんで作ったお粥ですよ」
「ありがとう、いただきます」
どうやら眠っている間に色々と決まっていた様で、ショナや蜜仍君は日本時間通りに夜には就寝し、場合によってはドリームランドへ。
エイル先生は定期的に回診し。
昼間のドリームランドはロキと、勝手に決まっていた。
「うーん、ロキは確定かぁ」
『え、嫌?ダメ?』
「あ、起きた」
『うん、おじ様がもう少し一緒に行動しようってさ。でも嫌なら断るよ?』
「おじさんがそう言うならそうする」
『おじ様の言う事は聞くんだよなぁ』
「昔から?の知り合いみたいな感じだし、仕方無い」
「桜木様、今回はどんな感じだったんです?」
「うーん、ロキおじちゃんに聞いておくれ」
「はーい!」
腹ごなしにと、タブレットを取り出しながら中庭へ。
同行者が居ると説明の手間が省けて助かる、反面、魔力の消費が激しい気がする。
実際にタブレットで確認すると、想定通り魔力の消費は中々のモノだ。
他に何で消費してるかは不明だが。
《あら、おはよう。何回目のおはようかしら》
「3回目のおはようかも、ロキも部屋も貸してくれて、ありがとう」
《良いのよ、離れが賑やかなのは好き》
「ココ静かで好き、暗いのも好き、温度も匂いも。良い匂い」
《殆どは消毒液よ?》
「綺麗な匂いじゃん、色々な臭いが混ざったのは嫌い」
《綺麗な匂い》
「清潔で綺麗な匂いじゃん。洗い立てのシーツの匂いとかも良いよね、ふわスベの毛布も好き、コンちゃんみたいな肌触りのやつ」
《あの子から聞いたわ、あなたが拾ったのね》
「そうなるのかなぁ、落ちてたんじゃ無いんだけど」
《良い子なのに、残念》
「ね、窮屈な生き方よな」
ぐるるるる、と盛大にお腹が鳴った。
お粥で胃が活性化したのだろう、一気に空腹感が湧いて来た。
《ふふふ、見せてくれる?》
「おうよ」
エリクサーと共に牛丼のキングサイズを頂く。
味変に温泉卵、とろろ、紅生姜、七味、ねぎ。
付け合わせはほうれん草とブロッコリーのポタージュ、アサリの出汁と白味噌が良い感じ。
「ポタージュどうですか?大丈夫ですか?」
「美味しいよ蜜仍君、君のお手製?」
「良かった!ショナさんとの合作です、栄養が偏らない様にって、一緒に作ったんですよ」
「そっか、良いパパになるねぇショナ君は」
「当分は遠慮したいです」
「ケチ」
ちゃんと噛まなきゃと思いつつ、とろろの勢いであっという間に食べてしまった。
今日はとろろが特に旨い。
《ふふふ、まだ食べれそうね?》
「まだ食べれるんだけど、お腹の皮膚が物理的限界なのよ、残念」
《医神に伸ばして貰ったら?》
「あー…皮がたるたるするの嫌だなぁ、誰に見せるでも無いけど。今のお腹の触り心地が好き」
《ふふ、触り心地は大事ね》
「大事」
食後の休憩を挟み、歯磨きをしてから時計を見ると夜中の12時近い。
急いでベッドへ行くと、直ぐに瞼が重力に負けた。
眩しい西日の当たるベッドから起きると、誰も居ない、まだバーに居るのかとホテルの1階に降りる。
案の定、宴会のあった奥のバーでロキとおじさんが待っていた。
『おっし、次は竜神の居る洞窟かな!』
『そうだね』
「おう」
《もう行かれるのですか?》
「うん」
《では、お礼の品を、コチラをお持ちください》
白く薄く半透明な布が半紙に包まれていた、軽くて柔らかくて、雲を触っている様だった。
お寺にあった羽衣で、鷹や人魚、何にでも成れるらしい。
「すげー、きれい」
《大昔に川辺で見つけた物だそうですが、住職が持って行って欲しいと。それから…》
テーブルにこの花街の地図を広げたマスターが言うには、街に住んで欲しいそうだ。
漁村のノードンスさん、山のお爺さんに、その息子家族も推薦してくれてるらしい。
「おじさん」
『良いじゃないか、お家があれば安心出来る』
「うん、じゃあ…次来たら」
《宜しくお願い致します》
「うん、行って来ます」
《お気を付けて》
街を出て谷沿いの道を進むと、幾重にも流水が連なる女滝が見えてきた。
滝が落ちる真横に道があり、竜神洞窟と書かれた古ぼけた看板が傾いている。
『凄い廃れてるねぇ』
『行ってみるかい?』
「うん」
荒れた道を進むと直ぐに、細長い怪物が居た。
小枝のように痩せ細り、手には水掻きが付いている。
目鼻の無いそれには歯が無く、ギャーギャーと騒ぎながら、背中に背負っていた出刃包丁で襲って来た。
『わ、警告とか無いんだね』
『あぁ、悪いのは大概突然襲ってくるんだ』
「ロキみたい」
『えぇー、一緒にしないでよー』
「しないけど戦ってよ、数が多い」
『えー、サクラちゃんが一遍に倒しちゃえば良いじゃん』
『満月に吸い取らせるかい?』
『んー、満月以外無い?サクラちゃん』
「ある」
斬りかかって来るカッパモドキを切り捨てつつ、蝋燭屋さんがオマケにくれた雪の結晶を出し。
問答無用で魔力を結晶へと吸い上げるが、叫び声に引き寄せられているのか、左右の山からワラワラとモドキが湧き出て来る。
『凄い量だなぁ』
『少し見て来てくれないか、ロキ神』
『了解ー』
天高く飛び上がったロキが、遠見をする様に見やる。
どうやら凄い量らしい。
「どうよ」
『凄い、どこに居たんだろって位。上がって見ておいで』
ロキの手で跳ね上げられ、下を見やると谷一面に存在していた。
着地まで、見える限りのモドキから魔力を吸い上げたが、遠くの敵は討ち漏らしてしまった。
「討ち漏らした」
『とりあえず死体を辿って、洞窟を目指そう』
「うん」
死体を避けつつ道を進むと、討ち漏らしが逃げて行く。
それを追いかける様に進むと、洞窟の入り口を塞ぐ怪物の親玉が居た。
『大きいねぇ、サクラちゃん蝋燭以外ある?』
「蝶々」
鞄から取り出したのは5匹の青い色をした蝶々、少し魔力を流すと、ヒラヒラと怪物の親玉に向かった。
その怪物の攻撃をすり抜ける様に舞い、1番大きな蝶が頭に留まると一気に魔力を吸い上げた。
『あっと言う間だね、吸うのが早いなぁ』
「ね、流石蝶々」
蝶の案内のまま亡骸の横を通り抜け、洞窟に入る。
真っ暗闇を青く光る蝶々が先へ先へと照らすので、そのまま進んで行く。
暗くなる程青白く発光する蝶はとても綺麗、洞窟の内部はとても入り組んでいて、蝶が居なければ確実に迷う作りの迷宮。
風の流れも、光も一切無い。
ひんやりと冷たい洞窟をひたすら下り降りると、やっとこさ最深部に辿り着いた。
湖のあったであろう場所に、特大の割れた宝珠が転がっているだけの殺風景な景色。
『居ないねぇ、竜神さん』
『その割れた宝珠は?』
「勿体無い、くっつけたら治らんかしら」
鞄から宝珠と同じ色の魔石を取り出し、ロキに粉々にして貰い、湖の底に残った僅かな水で溶き粘土状にする。
それから宝珠を抱え、粘土と落ちていた欠片で隙間を埋め、暫く磨いているとヒビが消え、輝き出した。
《後少し、力を分けてくれないか》
「いいよー」
渋い声が聞こえた宝珠を抱えたまま、魔力をゆっくり流し込む。
暫くして完全に光を取り戻した宝珠から、再び声が聞こえた。
《もう良いぞ、岸の端まで行くと良い》
そう言われ、元は岸だった場所に飛び退くと、アッと言う間に綺麗な水が満ち、天井が開いた。
蝶を手に輝く湖を眺めていると、大きな青龍が修復された宝珠を手に、水面へと上がって来た。
「もう良いの?」
《あぁ、助かった》
「ん、じゃあね」
《待て待て、礼をさせろ、何が欲しい》
「んー、落ちた鱗とか?」
《そんな物で良いのか?》
「うん、綺麗だから」
《わかった》
そう言うと、青龍は湖の底から拾い集めた髭や鱗を分けてくれた。
透明で水色の大きな鱗は、木の年輪の様な波模様が美しい。
「ありがとう、ところで何で割れちゃったの?」
《あぁ、それはな…》
土砂崩れと共に迷い込んで来た人間に宝珠を割られ、魔力が抜けて力を失ったそう。
暫く話した後、またいつか遊びに来ると約束し、湖を後にした。
蝶々に道案内をして貰い、洞窟の出口付近まで行くとグール達が居た。
白い毛を生やしたグール達が、怪物を片付けている最中だった。
《ココと森ノ間に、小屋つくた、薪作る》
「うん」
《大きい骨、邪魔、洞窟捨てル、良イか》
「海に投げ捨ててくんない?ココ青龍さんが居るから」
《ワガっだ、海に捨てル》
「ん」
『喋れたんだねぇ』
『お嬢ちゃんが殆どの怪物を掃除してくれたから、認めてくれた様だね』
「やった、まじか」
『あぁ、花街へ帰ろう、もう少しだ』
谷沿いの道を戻り花街へ辿り着くと、垢抜けたと言うか、明るい印象に変わっていた。
季節も変わったのか、そこら中に紫陽花が咲いている。
『少し見ぬ間に変わったねぇ』
「お嬢ちゃん!久し振りじゃないか!」
「お、山菜屋のおじちゃん、元気だった?」
「おう!隣に大きな港街が出来てから繁盛してねぇ、子供も増えたし大忙しだよ」
「おー、お爺さんも元気?」
「あぁ、丁度昨日行って来たんだ、達者にやってるよ」
「そっか、良かった」
「そうだ、マスターの所に寄ってってやんな、家の事で話があるんだってさ。俺はこれから配達だ」
「うん、じゃあね!」
「おう!」
そのまま大通りを直進し、角のホテルへ入ると、マスターが受付で待っていた。
軽く挨拶を済ませた後、カウンターへ移り話を聞く事に。
《お久し振りです》
「うん、お家の事でって聞いたんだけど」
《えぇ、どんな家がお好みでしょう?》
「うーん…」
『お嬢ちゃん、例えば和風か洋風か。外の景色はどんなのが良いか、そう言えばマスターも探しやすい筈だよ』
『そうだね、とりあえずの要望でね。きっと良いのが有ると思うよ』
「うん…縁側とか広縁があって、中はここみたいな洋風のが良い、川が近くにあって、庭も欲しい」
《でしたら、丁度ココに良い物件が》
それは街から少し離れた山近くの川沿いにあった、白と黒で建てられた洋館。
庭の大きな木には白い梟が住んでいる、静かで穏やかな良い匂いのする場所。
「素敵」
『洒落てる』
『良い家だね』
「うん」
《中も素敵ですよ、ご覧になってみて下さい》
大きな玄関の横には土間と竈、小上がりの先には掘り炬燵に縁側。
新しい畳の匂い、大きな広間には鮮やかな夕日が射し込んでいる。
そうして庭を眺めていると、いつの間にやら山菜屋夫婦が子連れでお祝いに来てくれていた。
それから直ぐにノードンスさん、定食屋とお握り屋のおばちゃんも来てくれた。
ノードンスさんからは食器のセット、定食屋とお握り屋のおばちゃんは引っ越しそばとお稲荷さん。
山菜屋夫婦からはお酒とオツマミを貰って、早速宴会が始まった。
飲めや唄えや踊れやの大宴会の広間を見渡すと、見覚えのある様な無い様な人影が。
よくよく目を凝らすと、ショナが座っていた。
「ひぇ」
「あ、桜木さん」
「な、ロキ、ショナが」
『ローテーションの話ししたでしょ?時間帯によっては蜜仍君やショナ君も来るって』
「あ…あ?うー…」
『まぁまぁ、ショナ君も飲もうよ、今は宴会なんだし』
「あ、はい」
『さ、少しだけ。初めましての乾杯だショナ君』
「はい、初めまして、頂きます」
『ショナ君、驚くなかれ、ここの酒は旨くて強いんだぁ』
《ここの名産の一つだからねぇ》
《ここのお米は美味しいのよ》
「水も山菜もだ!」
《えぇ、ここらじゃ1番ですよ》
『魚もな!』
『美味しいがいっぱいだね、サクラちゃん』
『良い家を貰ったね、コレで安心だ』
「うん」
「う…本当に強いですね…」
『水の様に飲みやすいのに強烈なんだよねぇ、恐ろしい』
「何てお酒なんですか?」
《甘露と申します》
『もう1杯どう?』
「ありがとうございます、最後に1杯だけ」
『君は強くて羨ましいよ、僕はどうもお酒に嫌われてる様だ』
「良いなぁ、飲みたい」
『小さい子にはちょっとなぁ』
『もうちょっと大きくならないと、飲ませて上げられないよ』
「大人です」
「いやいや桜木さん…本当に、こんなに小さくて、可愛」
『あ』
『あ、君それは…』
頭をポンポンとサイズを確かめる様に触り、高い高いをされてしまった。
羽衣を取り出し暴れ、そのまま夜空へ飛び立った。
気の向くまま飛び、洞窟のある山を見下ろすと、小さな穴を見つけた。
そのまま近づくと、青龍の放つ青い光が見えたので降りた。
《おぉ久しいな、白鷺の格好とは、一体どうした》
「居た堪れなくなって飛んできた」
《何があった?》
「大したことは何も無いけど、何となく来た」
直後に大きな地震が起き、洞窟の一部が崩壊してしまった。
その隙間から頭は馬、上半身は人間の馬が這い出て蹄を鳴らす、口角に泡を吹き目は血走っている。
《お、待っておれ、ワシが食うてやるからな》
そう言って青龍が恐ろしい顔になると、馬人間を丸呑みした。
それから尾びれで穴を塞ぐと、湖に浮かぶ自分の前に戻って来た、元の穏やかな青龍の顔で。
「美味しい?」
《あぁ、中々だったぞ。怖かったか?》
「いいや」
《ワシは怖く無いのか?》
「うん、竜神さんは神様だし」
《お主より大きいぞ、牙も爪も鋭いぞ》
「綺麗だから良いじゃん」
《ふふん、磨かれておるからな》
「ん?」
《あれから良い人間がこの洞窟へ再び来る様になったのだ。ホレ見ろ、立派な社を》
「良かった、お祝いしないとね」
湖の奥底の綺麗な社に向かって一升瓶のお酒を放す。
放り込まれた酒瓶は光り輝くと、何処かへと吸い込まれていった。
《お前が驚いて逃げるとは、余程怖いモノなのだろうな》
「褒め言葉が怖い。褒めるには裏がある、褒めるには理由がある」
《お前にも裏があるのか?》
「無い、無いけど周りにはある、それをずっと気付かないで馬鹿を見た」
《今はもう気付けるのだろう?》
「いんや、分からん。だから全て疑ってる」
《そうか、それは疲れるな》
「ほんまやで」
《だが迎えが来た様だな。まぁ、言い訳位は聞いてやれ》
洞窟の出入り口を塞いでいた岩が、青龍の尾によって砕かれ道が出来た。
そのトンネルから人影が3つ、何やら叫んでいる様子。
『サクラちゃーん、迎えに来たよー』
『お嬢ちゃーん、怒っておいたから、出ておいでー』
「桜木さーん、ごめんなさーい」
『子供扱いが嬉しい子では無いんだ、他に理由があってのあの姿で。あまり気にさせないであげて欲しい』
『レディに子供扱いは、普通に失礼だよねぇ』
「そうだそうだ、バーカバーカ」
『よし、捕まえたぞサクラちゃん。変身は解けそうかい?無理ならマーリンを呼んで来て貰おうか?』
「大丈夫」
『あぁ、無理に大きくならなくても大丈夫だよお嬢ちゃん、それに姿はローブで隠れて見えないんだから、心配いらない』
「ほんと?」
『本当だよ、さぁ戻っておいで、お家へ帰ろう』
おじさんに抱かれ家へ帰ると、何事も無かった様に宴会は続いていた。
暫くして山菜屋の子供達が疲れて眠ると、ノードンスさんが風呂敷を渡してきた。
『お嬢ちゃん、コレは離れ島の半魚人からの礼と、村と花街からの礼だ、商品が色々と港街で高く売れる様になってな。安定したお礼も入ってる』
「港街で?そんなに栄えてるの?」
『まだ行って無いのか、花街よりデカいぞ』
「へー、何処にあるの?」
『花街の先だ、何でも外国ってのからも港に来て、大賑わいだそうだ』
「おぉ、行かねば」
そう思い振り向くと外は真っ暗。
ショナはロキからの誘いを断れず、また酒を飲まされていた。
縁側から見えるのは、明るい満月と梟。
川の音と、梟の鳴き声が静かに響く。
『あら、ショナ君はギブアップかな?』
《じゃあ今日はもう解散するかねぇ》
《そうねぇ、もうすっかり真っ暗だよ》
「でも今日は満月だ、夜道もこれで安心だな」
《そうですね、では、お邪魔しました》
『またなお嬢ちゃん、表札を書いておくんだよ』
「うん、またね!」
縁側に戻ると和室の襖が空いていた、そこには机に空の表札と墨、【桜木】と書きロキに担がれ玄関に付けた。
川にはホタルが飛び、その向こうの山には大きな満月が浮かんでいた。
『綺麗だねぇ』
「ね、天の川も」
『本当に、良い家を貰ったね』
「うん、ありがとうおじさん」
話し声をかき消す様に白梟が鳴くと、遠くから狼の遠吠えが聞こえた。
山を見ると、真っ赤な鬼火がこちらを見ている。
『コッチには来ないから大丈夫』
『だろうね、じゃあショナ君のお布団の準備をしてくるから待っててね』
「うん」
ロキがショナの為に布団を敷いていると、花街の方から音が聞こえた。
お祭りの様な楽しそうな笛の音と太鼓、甘い匂いと人々の笑い声。
「ちょっと行ってくる」
今度は白い鷹になり満月の夜を飛んだ。
街の明かりが月以上に煌々と輝いている。
その光の端に着地すると、そこはお酒とお化粧臭い人ばかり。
明るかった筈のお祭りの様に賑やかな場所とは、かけ離れた所だった。
《君、迷子かい?》
「ううん、迷って無いから大丈夫」
《嘘ツキね、こんな真夜中に子供1人は可笑しいじゃない》
「じゃあ帰る」
《ふん、嘘ツキの化け物め》
《化け物》
《ばけもの》
《バケモノ》
《ほら、鏡を見てご覧よ、化け物が映ってる》
白鷹だった筈の自分の手が真っ黒になっていた。
真っ黒な鉤爪。
また、まただ。
またこれ。
何で、どうして。
折角楽しかったのに。
ムカつく。
邪魔をされてムカつく。
「ムカつく!」
顔を抑えられていた両手を引っ掻き、噛み付く。
ついでに顔も引っ掻くと、か細い悲鳴を上げながら赤い女は黒い霧となって霧散した。
次に振り向くと、そこは家族の居るマンションの中。
化け物みたいな父親と母親は、変わらずコチラに向かって来る。
もう構わずに抵抗した、上手く話せ無くても叫んで暴れた。
驚いたのか途端に2人は小さくなって、鉤爪で引き裂かれた傷口から燃え始めた。
炎は部屋中に広がって、天井も椅子も焦がしていく。
不思議と熱くない。
ずっと見ていると後ろでガラスを叩く音がした。
振り向くと、マーリンが迎えに来てくれていた。
『派手』
「せやね」
『帰るぞ』
「おう」
マーリンの手を取る頃には、身体も元に戻り。
振り返ると既にマンションも街灯も全てが燃え尽き、黒い煙が立ち上る山となっていた。
『お前の新しい家はアレか?』
「おう」
着地したのは2階の大きな窓のある和室、窓の下に収納があり、長椅子の様に座れる。
そこにそのまま腰掛け、鬼火が彷徨い赤黒く燻る山を暫く眺めていた。
『燕の子安貝は返す、俺には必要無い』
「じゃあ何が良いのさ」
『ココ、この部屋』
「いいよ」
『もう少し悩め、お前の領域なんだ』
「禄なおもてなしも出来ませんが、どうぞ」
正座し頭を下げ、口上を述べ頭を上げると。
外は明るい陽射しの空へと変わっていた。
『バカ、容易いかバカ』
「うるせぇなぁ、羊羮食わすぞ」
「桜木さん!」
「おうショナ君、こちらマーリン」
『おう、今日からココは俺の部屋だから、無闇に入るな』
「あのねぇ、もちょっとおしとやかに、ワシの家ぞ」
『はいはいチビガキ…羊羹うまいな』
「でしょ……何か、リズちゃんみたい。転生者か何かなの?」
『いや、俺は誰かの投影に影響される、他意は無いんだ許せ』
「どうりで口調がコロコロ…ローブ脱げや、室内やぞ」
『はいよ、家主様』
素直に脱いだローブの中は、質素な白い綿の服に、相変わらず綺麗な赤毛。
顔の傷は消え、中性的で美しい顔立ちの男性らしき何かが、ふてぶてしく座っている。
「美人」
「え、女性だったんですか?」
『そう見えるか』
「え、あぁ、失礼しました」
『君は素直なのは良いが、もう少しコントロールしてくれると助かるんだけどね』
『サクラちゃんが流せれば万事オーケーでしょう。ね?大丈夫だった?』
「大丈夫、倒してきたから、もうおじさんは襲われない」
『君もだよ、良く頑張ったねお嬢ちゃん』
「ムカついたので、ついカッとなってやった、後悔はしてない所か、清々しい」
『あははは、僕も早くにそう出来たら良かったんだけれどね。おめでとう』
「ありがとうおじさん」
『マーリン、お嬢ちゃんを頼むよ』
「どこいくの」
『どこにも行かないよ、ただ君が危なく無い様に先に見て回るだけだ。君が困れば直ぐに駆け付けるし、君が呼べばいつでも会いに来るから、心配しないで』
「それは危なくない?1人で大丈夫?」
『勿論、月にも味方がいるしね、大丈夫』
「ありがとう、家をくれて、ずっと、遊んでくれてありがとう」
『また直ぐ会えるよ、じゃあまたね』
「うん、またね」
おじさんが月へ向かい、離れれば離れる程、意識が鮮明になっていった。
何処の誰なのか分らないけど、せめて名前を聞ければ良かったのに。
『お月様の神様なのかな?』
『今度聞けば良いだろ、とりあえずだ。まだやり残しがある、付き合え』
「ショナ君や、意識はどうだい」
「大丈夫です、酔っていたような霞は消えました」
『よし、今から山狩りだ、コイツを惑わせた鬼火を退治する。お前は子供に戻れ』
「はーい」
都への道から大きく逸れた獣道を行くと、焼け焦げた禿げ山にどす黒い鬼火が漂っていた。
どうやらこの鬼火が悪夢への誘引の1つらしい。
『ほれ、出番だぞ』
「はーい」
今度は紫色の蝶々を取り出し、放した。
朝焼けの中の禿げ山に、赤黒い鬼火と紫色の蝶々が舞う。
追い詰められた鬼火は山姥と化し、コチラへ向かって来た。
昔ながらの山姥、クソ怖い。
『お前、そんなにアレが怖いか?』
「昔アイツに追い掛けられた、出刃包丁持ってダッシュで山越えてきた」
『そら怖いなぁ』
「絵本で有名ですもんね、どう倒すか良く兄と話してました」
『絵本が怖いんじゃ本末転倒だろう』
『教訓だよ教訓』
「桜木さん、僕が倒して来ましょうか?」
『お手並み拝見』
『良いねぇ、行ってらっしゃいショナ君』
「いてら」
ショナが素早く地雷を仕掛け、対戦車ライフルを山姥へ向けた。
地雷を踏んだ山姥は宙に舞い、対戦車ライフルの的になると、煙と共に跡形もなく消えていった。
『近代兵器って、ショナ君やるねぇ』
『派手』
「せやね」
「兄と考え抜いた結果がコレなんですけど、ダメでしたか?」
「派手は褒め言葉」
『だな』
「本当にそう思ってる?」
『シケてるの逆だからそうだろ』
『そういう発想かぁ』
「成程」
「まぁ良いや、次は?」
『次は港街だ、どんな場所だと思う』
「外国の船も来るんでしょ…宝石屋さんもドレス屋さんもありそう」
『面白そうだねぇ』
『あぁ、良さそうだ』
「ですね」
「山小屋のお爺さん」《白蛇神社の神主》「山菜屋」《花街の宿屋のマスター》《お稲荷屋のお婆ちゃん》
《河童》《竜神さん》
抱擁は古ノルド語
隠すはラテン語
泡は古ノルド語からですが、間違ってたら教えて下さい。