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2月4日

血の描写アリ。


《土蜘蛛さん》「蜜仍君」「アレク」『セバス』「ショナ」『エミール』『エイル』「タケちゃん」《フギン、ムニン》『ナイアス』『ロキ』『マサコ』《カールラ》《ドリアード》『クーロン』

「おはよう土蜘蛛さん、誰から習得させる感じ?」


《そうだなぁ、朝ご飯の後に、セバスからだな》


 洗面所は、厠から少し離れた場所に桶が置かれていて、湧き水が貯まった大きな壺から水が流れてるシステム。

 中々和風レトロで宜しい。


「準備できましたよー!食べましょー!」


 とろろに雑穀米、卵焼きには大根おろし、茸の煮浸し、昨日のクジラ汁はより具沢山にアレンジされて出された。


 アレクとセバスはお粥に、茸の煮浸し。

 昨晩はクジラ汁の油がお腹に来て、大変だったらしい。


「自分より貧弱は久し振りに見るなぁ」

「しょうがないじゃんか、生まれたばっかりなんだから」


「ベイビーちゃん」

「そうそう、まだ生後3日位」


「でもいくらなんでもな、何とかして貰わないと、短命で脆いは困る。双子もおちおち成長出来んだろうに」

『成人までとは言いませんから、せめてもう5年、10年は生きたいですね』


「あんまり謙虚でも困る、老人特有のソレは面倒臭いぞセバス爺。成人までは生きろ、何なら孫抱いて死ね」

『孫ですか、良いんですかね、私なんかが抱いちゃって』


「双子次第、がんばれ」

『はい』


 朝にすべき会話では無いなと少し思いつつも、じゃあいつなら良いのかと考えている間、ショナが全く喋らないのが気になる。


 凄く気になる。


「朝から余り不謹慎な会話をしないで下さいよ、桜木さん。とか言わないの?」

「あ、いえ、大事な事だと思うので、問題無いかと」


「何か元気無い、クジラ汁が今頃きた?」

「いえ、大丈夫です。桜木さんの適性が気になってるだけですよ」


「上手い切り返し、でも秘密だ、土蜘蛛さんから頑張って聞き出し給え」

《蜜仍、この子を諦めさすにはショナ君に教えた方が良いんだろうか》

「どうなんでしょう?止められた場合、僕ならもっと意固地になるかもです」


「それはさもありなん」

「ですね、少なくともリスクのあるモノだとは理解しました」


「正解、ご馳走様でした」

《はい、お粗末様。因みにショナ君は1番最後だ、アレク君は2番目。2人共蜜仍と外へ出てると良い、陽の光は大切だ。さぁセバスチャン、行こうか》




 セバスと土蜘蛛さんと3人で洞窟の奥へ進む。


 昨日とは違う道なのは確かだけれど、帰り道がさっぱり分からん。

 空間移動が使えない場所は、どうも少し不安になる。


「迷ったらどうしたらいいの」

《何だ、その事か。灯籠無しで進めば直ぐに出口に付く、そういう構造だ。後で試すと良い》


「真っ暗になるじゃん」

《あぁ、発光は入れてないんだったな、何か光る物でも出して使えば良い。灯籠かワシと離れれば、道具は取り出せる》


「なるほど、正しく土蜘蛛さんのテリトリーなんだなぁ」

《この国屈指の砦だ、いつでも逃げ込んで来ると良い》


 昨日より広いどん詰まりに辿り着くと、小さな池のような水場のある場所。

 水面に一切の揺らめきは無いが、透明度は抜群。


「水の甘い匂い」

《そうそう、2日酔いに最高な甘露だ。ココにセバスに立って貰う。感が良ければ直ぐに歩けるさね》

『はい』


 土蜘蛛さんが灯籠をゆっくり動かし、地面に伸びたセバスの影に何かを囁く。

 そして、いつの間にか高い天井に移動した灯籠が影を揺らめかせ、セバスの影を濃くした。


《少し柔らかい土をや、雪の上を歩くと思ってくれたら良い、君のさじ加減でどうとでも沈む。水は冷たいから心臓に気を付けてくれたまえよ》


 全く臆する事も疑う事も無く、言われるがまま池へ進みそのまま水面を歩いてしまった。

 池の中央まで歩き、そのまま何事もなく帰って来てしまった。


「簡単過ぎ無い?」

《だから恐れられたんだ、あまりにアッサリでな。西洋人の驚愕し悲壮な顔は壮絶だった。そして良くも悪くもこの術を得ようとして、魔法が魔術へ移行する一端を担った面もある》


「魔術は良く知らないけど、逆の位置にありそうな」

『例えばですが、神々から与えられた魔法印を人が模倣し施せば魔術印になります、発光魔法の印がそうですね。人の手が加えられたモノ全て、魔術の系統ですよ』

《爺は博識だな。人が手を加えれば魔術だ、そのせいでより複雑になったモノも多いと聞くがね》


「へー」

《さ、爺や、次は沈む練習だ。雪や土に埋る感じだ、それが終われば次はワシらを連れて水上移動だ、頑張れ》

「はい」


 昔から魔王はこんなに素直だったんだろうか、だとしたらどんな酷い目に会って大暴れしまくったのだろう。

 どんな理不尽を目の当たりにしたのだろう。


「セバス爺や、暴れた理由って何さ、くわしく」


『そうですね、追い剥ぎから助けたのに密告されたので一家惨殺したり、助けた人間が私の仲間と認定され惨殺されたので仕返しに村を壊滅させたり。そんな感じでしたね』

「そら暴れるわ」


『もう少し根気良く話せば、何人かは、少しは分かってくれたんじゃ無いかと思うんですけどね。どうも直ぐにキレてしまって、若かったからでしょうかね』

「うーん、他には?」


『知らずにエルフの里の近くに寝城を構えてしまって、人とエルフから総攻撃を喰らった時があるんですけれど。その時はエルフから理由を聞いたので直ぐに引き上げたんですけどね、道中にどさくさ紛れでエルフを襲ってる人が居まして。うっかり殺したら偉い人の息子さんだったらしく、大変な事になりました。本当に殺す気は無かったんですけど、加減を間違えてしまったらしくて、私もビックリしました』


「モヤモヤするなぁ、そんなんで魔王ならワシ直ぐに魔王っちゃうよ」

『大丈夫ですよ、皆が付いてるんですから』

《よし、次はワシを連れて水上移動だ》


 それからもスムーズに2人、3人と水上移動し終わると、土蜘蛛さんが指をクイッと下げ、セバスとアレクが入れ代わった。


 マジ便利。




「いいなぁ、それ」

《コレは長の専売特許だ、一子相伝。影と相性の悪い君みたいなのには使えんがね》

「うんちなのも影響してるんかね」


「んなわけ、無いよね?」

《無い無い。始めるぞアレク君、セバスチャンは感が良くて直ぐに出来たんだから、君も頑張りたまえよ》

「はい」


 先程と同様に土蜘蛛さんがしゃがみ、アレクの影に血を1滴。

 そして今度はアレクが血を1滴垂らし、再び土蜘蛛さんが何かを囁くと、影が色濃くなった。


《魔王も元は狼だったと聞いた、狼にでも変身してみると良い。影を被り皮を被る様に、ほれ、見本だ》


 土蜘蛛さんが自身の影をつまみ、背後からひょいと被ると、影を通り抜け真っ白な狼へと変身した。

 体積が明らかに増えてる、どうなってるの。


 見様見真似でアレクも影を被ると、真っ黒な狼へと変身した。

 体積は、同じか、少なくなっている印象。


 土蜘蛛さんよりかなり小さいが。

 あっという間だった、元が狼だったからか、魔王だったからなのか。


 アレク狼が水辺へ行き、自身の姿を確認したのか、下を覗き込んだまま尻尾を大きく振っている。

 今度は満足したのかコチラに猛ダッシュで駆け寄ってくると、撫でろと言わんばかりにピッシリとお座りした。


「凄いっす、アレクさん。いいこ」


 何度か撫でていると、土蜘蛛さんもやってきたのでついでに撫でた。


 土蜘蛛さんも満足したのか、狐の様に飛び跳ね影へ飛び込むと、同等の勢いで変身の解けた姿で飛び上がってきた。


《変身の解き方は自由だ。脱いでも溶けても構わない、元の姿になる事が重要だ。馴染みの有る行為が1番簡単な解除方法だろう》


 そう言われ、大きく身震いすると一瞬にして元の人間のアレクに戻った。


 飛び散った毛皮は影へと吸い込まれ、跡形も無い。


「わお」

《飲み込みが早いなぁ》

「神獣達を見てたからだと思う、アイツらポンポン変身するから」


「なるほど」

《そうかそうか、神獣がもう居たんだったな。じゃあ後はひたすら変身と解除の練習だ。最も簡単で素早い方法を探ると良い、確実に出来る事が何より重要だ》

「はいよ」


 様々な変身と解除方法を試した結果。

 影へ潜る方法が1番しっくり来たらしい。




「ワシもやりたい」


《じゃあアレク、ハナは帰って来れなくなるかも知れんから、影から引き摺り出す練習だ。捕まえるのに適した姿になって待つと良い。ハナ、指輪は預かるよ》

「はい、やった」


 戻って来れない事を前提とされつつも、アレク同様に影へ血を垂らす。


 土蜘蛛さんが囁き終えた瞬間に、足元から落ちる様に影へ入ってしまった。


 呼吸は出来る、地面から見上げる影の外は、ガラス張りの様に透けて見えて、サングラスを掛けた様に薄暗い。


 影の中はとろとろ、フワフワとした空気感。

 アレク同様に狼をイメージするも、変身と同時に浮上とは行かないもので。


 犬掻きをしながら、何とか影から出る事が出来た。


《変身は出来たな、次は解除だ。元の人間の身体だぞ、間違えるな》


 試しに身震いしてみたが、変わらず。


 土蜘蛛さんの様に影へ飛び込む、今度は水掻きが付いた。

 とりあえず浮上しようともがく、一向に地面へ近付けない。


 その内に手が真っ黒な鉤爪に成り出した。


 今では正直コレもアリなのかと思う、戦闘に向いてそうだし。

 良く見ればダークヒーローみたいで格好良い、鬼婆も全然倒せそう。


【土蜘蛛さん、コレ格好良く無い?】

《悪くは無いが、今は解除の練習だろう。人間の元の姿に戻っておいで》


 手指は5本あるし、人型だしと捻くれた考えが邪魔をして、肌が肌色と真っ黒を行き来する。


【やっぱり上手く戻れない、コツは?】

《自慢の部位は何処だい?良く褒められる場所は?》


【髪】

《そこから始めると良い、鏡に写った自分だ》


 鏡なんて久方見てない、鼻毛と産毛のチェック以外、全身像を見たのはいつだろう。


 お風呂か。


 本当の元の姿は嫌だなぁ。


 エンキさんが作ってくれた胸は好き。


 胴体は何とか戻せたが、特に手足がどうにも戻らない。


 もうこのままで良いんじゃ無いかと本気で思い始めてきた。


 でも、そしたらショナに怒られそうだ。


【ダメかも】

《アレクや、捕まえて引き摺り出しておいで》


 水へ飛び込む様にアレクが影に跳ね入って来た、犬掻きでコチラへ泳いでくる。


 気が付けば大分深い所に沈んでいたらしい。

 アレクの泳ぎはとても早くて、あっという間に手首を甘噛みされ、上へ上へと泳いで行く。


【ごめんね、ありがとうね】


 影から出された自分の姿を確認。

 一時より巻き戻ってしまって、少し小さくて髪の長い鉤爪子供になっていた。


《気にするな、セバスやアレクの飲み込みが異常に早いだけだよ。里の子も最初はこんなモノ、髪は上手に出来ているし、姿も人のカタチだ。良く出来たね》


 そう土蜘蛛さんが良いながら指輪を嵌め、頭を撫でてくれた。


 ほわほわして上手く反応出来ないが、改めて指輪を見ると手も体も元に戻っていた。


 惜しむらくは服が消えてしまった事、脱いでおけば良かった。


「勿体無い」

《服はほれ、引き摺り出しといた》


「ありがとう」


 後ろを向き着替え、終え振り向くと、アレクは既に変身を解除していた。

 服もちゃんと着ている、なんとも羨ましい。


《アレク君、服は誰かに買って貰ったのかい?》

「サクラが選んでくれた」


《その姿も?》

「おう、一緒に選んだ。サクラの血も少し入ってる」


《それはさぞや思い入れがあるだろうね》

「勿論」

「分かった、言わんでも失敗の理由は分かってる」


《では言ってみようか》


「この姿に何ら思い入れは無い、何なら好きでも無い。この体を作った親も嫌いだ、自分も嫌いだ。だから素直に戻れない」

《そうそう、そう思わなくなるまでは変幻はして欲しく無い。君の為だからね、いいね?》


「うん、分かった」

「撫でさせてやるから落ち込むな、な?」


 早速狼に変身したアレクをたっぷり犬可愛がりして、少し気持ちが静まった。


 少しだけ。


《次は少し早いけれどショナ君を呼ぶよ、アレクは戻って》




 変身を解除したアレクが影に飲まれ、ショナと入れ代わる。


 正直、アレクがショナに変身したと言われても疑わないかも知れない。


「がんばれ」

「はい」

《先ずは君の正式な名前を聞いておこうか、重要なんだ、成り立ちや意味を知れるとなお良い》


「ワシの時は聞かんかった」

《どうせ君は名にも思い入れは無いだろう。さ、ショナ君や、名字は?》


津井儺(ついなぎ)、ついなぎは元々、追儺(ついな)と呼ばれる儀式から付けられました、鬼払いの家系で。祥那(しょうな)も鬼を払う役の名です。少し呼び難いので、いつもショナと呼ばれてます」


《じゃあハナはそこでショナ君の影だけを見てて、ショナ君はそこ》


「「はい」」


 向き合い、足元へ視線を落とす。

 天井の灯篭が後方に移動したらしく、ショナと自分の影をぼんやりと写している。


 そして今度は土蜘蛛さんが横に来ると、跪き、ショナの影へ血を垂らし、囁く。


《よし。影に入れたら、次はハナの影に入らせるけれど、ハナには影響は無い。良いかな?》

「はい」

「うっす」


 促されるままにショナが片膝を付き、手を出すと土蜘蛛さんの鋭い爪で深く切り付けられた。

 そうして次には土蜘蛛さんが自分の後ろに下がり、影が重なる。


 灯篭が頭上で動いているのか、自分の影の形がはっきりとし始め、縮み、僅かばかりの影となる。


 ショナの血は、灯籠の揺らめきに同調する様に、ゆっくりと拍動に合わせ広がっていく。


《…ショナ君、先ずは血と影だけを見ろ。そう、同じだと思って、影と同化して、混ざって、同じになる》


「はい」


《血が真っ暗になったら、血と影は同化して同じになった。視点が下がる、低く見える、低い視点から見る、そう、地面から見上げる》


 一言ずつ、土蜘蛛さんが言葉を重ねる毎に、血が影の形に合わせる様に動き。

 血がショナの影を覆っていく。


 血と影が完全に同化したかどうかで、ショナの体が少しずつ沈んで、とうとう影に飲み込まれた。


 1メートルも無いショナの影が、自分の周りを1周すると、再び目の前で止まった。

 繋がる事の無い影と影が、灯籠の火に合わせて揺らめく。


「良いなぁ」

《少なくとも、お前は他が修得してからだな。ショナ君、ハナの影に触れてみると良い。大丈夫、混ざり合う事は無い》


 ショナの影が自分の影に触れようとすると、柔らかいゼリーの様に自分の影が少しばかり反発する。

 混ざらないなら、大丈夫だよな。


 ショナが何度か触れると、不意に影と影が混ざった。

 良く見ると影の濃さが違う、マーブル模様に混ざり合っては、また纏まる。


 入ってるけど混ざらないは、こう言う事か。


「なるほど」


《そろそろだ、名を呼んでやってはくれまいか》

「ショナ、ショナ君、しょうな君」


「……はい、桜木さん、土蜘蛛さん、もう良いんですか」


《あぁ、ハナ、手当てを》

「おう」




 深い傷、なのに最低限だけ。

 血は止まっているから良いものの。

 結構痛そう。


《ショナ君、傷の痛みが消えるのと同時に意識が溶けて、そして少し固まる感覚があっただろう?慣れれば出血無しで行える。そして早く溶けて、早く固まる程良い》


「それもあったんですけど…溶け出して消えてしまう様な、混ざってしまいそうで、怖かったんですが」


《変幻の気もあるからな、暫くは移動の時だけ影に入れさせて貰う方が良いだろう。ホラ見てみろ、本来の影はこうやっても混ざらないだろう、重なるだけで混ざらず消えもしない。移動は形を合わせるだけ、隠してもらうだけだ。こう重なってもピッタリは合わない、薄く境界線は見える》


 土蜘蛛さんが影遊びの様に地面の影を動かす、合わせては離すを繰り返しながら優しく説明してくれた。

 本当に優しい、実質無償だし。


「そうですね、確かに。もう1回良いですか?」

《どうぞどうぞ、後は君の頑張り次第だ。慣れれば外の声も聞こえる、ワシとの会話も可能になるだろう。頑張り給え》


「はい」


 それからショナは自分の手にザックリと傷を付け、ゆっくりと影へ沈み込んでいった。

 お前こそ少しは躊躇えと思うんだが。


 痛覚を何とか出来る誰かと、アレク達を何とかしてくれる誰かをマジで探さんと。


 それと、この体勢で居続けるべきなのだろうか。

 長のおっぱいが背中いっぱい。




「土蜘蛛さん、後どれ位練習したら良いの?」

《最低限の会得は、1週間以内だろう》


「んー、影の練習はココじゃ無いとダメかね」


《いや、何処でやっても良いが、外部の者に見られてはダメだからな》

「夢の中は?」


《それはダメだ。溶け易いけど混ざり易い、夢で溶け合ってしまったら、簡単には分離出来なくなる。外部に居る切り絵師を呼ばないと離れられない、昔はその方法での心中が多かったんだ。恥ずかしい限りだよ》

「ロマンチック」


《身体は影に呑まれ、夢の中ではただの呻く肉塊さね。ほっておけば化け物に喰われるのがオチ。運良く見付けられた者は破門にして里を出したが。まぁ記憶も殆ど無い筈なのに、幸せそうに去っていったよ》

「グロい、そんなに良いものなんか」


《相手の分からない事が無くなるからね、不安も不満も消えて無くなっちまう。尚且つ、完全に分かり合えるんだから…たまらなく幸せだろうよ》

「グロロマンチックの回避方法は?」


《そもそも想い合わなければ問題無い、現実では結界で容易く弾かれるんで、防御は意外と簡単だ。知り合いなら、混ざりそうな感覚があれば、名を呼べば引きずり出せる》


「ほう、痛み消しても練習になる?」

《あぁ、でも変な薬はオススメしない。悪影響だ》


「痛覚を切るだけ」

《それなら局所で最小限にすると良い、体の感覚が重要なんだ》


「お、ショナ、自力で」


「話が聞こえたので。混ざりそう、から聞こえてました」


《そうかそうか、夢で影移動を使うのは少し危険だって話だ。夢で人の影に入ってはいけないよ》

「はい、ですが本当に桜木さんに危険は無いんですか?途切れ途切れに結界がどうとも聞こえたんですけれど」


《確かに夢で無くとも影同士の相性が良いと混ざる事もあるが、今の君達は大丈夫さね。万が一君が混ざりかけたら結界を起動するし、引き摺り出してやる。本来は混ざらないから、心配はいらない。だから、慣れたら少しずつハナの影に重なると良い》

「はい」


 ホッとした様子で、再び開いたままの傷口をショナが切った。

 しゃがみこんだ足元から血が広がって、影に沿って流れて、先程より早いスピードでショナの体が沈んでいった。




「痛々しい」

《仕方ない。にしても良い才能だ、熱意も忠義もあって実に宜しい》


「従者が夢だったんだって」

《そうか、なるほど。だとしても里に生まれてくれていれば、従者も次代も夢じゃ無かったろうに。惜しいなぁ》


「でも里の子なら従者になれんじゃろ」

《ハナがこの近くに流れ着けば良い》


「あはは、確かに、そしたら良かったかも。もうちょっとスムーズで、自分の身を1人で守れたかもね」

《直ぐにクエビコ様にお声掛けして、蜜仍とショナ君を従者に捩じ込んで、スクナヒコ様にご同行願って》


「魔王の入る隙が無い」

《そうだなぁ、ただアレがウロウロしてれば炭焼き小屋のが気付くだろう。ショナ君が先駆けとして向かい、顔を見るなり取り敢えず2~3回は殺してしまっているだろうなぁ》


「それは面白いから見てみたいかも、ムカついてそうなのに遠慮がちだったから」


《そしてお子達の事を知って、落ち込む》

「ありそう」


《ふふ、反論したくば再び自力で上がってくると良い、ショナ君や》

「すっかり聞こえてるのか、おちおち女子トークも出来んな」


《おや、疲れたか。そろそろ名を呼んであげてくれ》


 自分の影と付いては離れを繰り返していたショナの影の動きが、確かに鈍い。

 取り敢えず言われるがまま、ショナの名を呼ぶ。


「ショナ、出ておいで」


 瞳を閉じ、地面から生える様にゆっくりせり上がって来たショナ。

 手を治療し、少し薄めたエリクサーを飲ませた。


「そんなに僕って魔王に殺気立ってましたか?」

「いや、でも何かイラ立ってる感じは少ししてたよ」

《確かに、少しピリピリしていたな》


「すいません。私的な、余計な感情が出てしまって、未熟者で申し訳ないです」

「いや、理由があるんだろうし仕方無い。問題無い」

《ハナもワシも少しそういうのに敏感なだけだ、問題無い。普通にはさほど感じ取れんよ。流せ、忘れろ》


「敏感でも無い筈なんだが」

《まぁ、それはそれとして、ワシの影での声が聞こえぬのは君に壁があるからだが、警戒心だよ、まぁ今は問題無い。君はハナの従者だから仕方あるまい、蜜仍とは会話出来るかも知れんから、暫くは2人で練習すると良い》


「はい」

「ワシも声聞きたい」

《声だけなぁ…もう少し意思の強い者なら可能なんだがなぁ》


「う、意志か…タケちゃんかエミールかなぁ…あ、卵もう孵ったかな」


「様子見に行かれますか?」

《他の召喚者との交流は有った方が良い、協力せねばならん時に困るぞ?》

「ふぇい、行きます」


《その前に少し食っていけ、皆も腹が空いただろう》


 蜜仍家が用意してくれていた昼食。


 山菜と茸の炊き込みご飯と、みぞれ鍋を頂いてから里を出て、ヴァルハラへと向かった。




『ハナさん!お久し振りです!ちゃんと食べてます?この前は大丈夫でしたか?』

「大丈夫、食べてる、問題無いよ。そして人が増えましたので紹介します」

「山乃蜜仍です!桜木様の専属で、土蜘蛛の里から参りました!同い年ですよエミール様!宜しくお願いしますね!」


『同い年なら様は無しでお願いします、仲良くしましょうね』

「はい!」

「微笑ましい、そして眩しい、ずっと見てたいわ」

『わかる、おかえり』


「ただいまです、エイル先生」

『本当にじっとしてらんない運命なのねぇ、ちゃんと休めた?美味しいモノ食べてる?》


「たべてまひゅ、ねてまひゅ」

『寝てるかどうかじゃ無くて、休んだかどうか聞いてるの』


「しぇんしぇいのやひゅむって、どんなんれひか」

『好きな事だけして、食っちゃ寝』


「それはしてないでひゅぅう」

『ちょっとショナ君、どういう事かしら』


「未だに、欲しがりません勝つまでは、の精神で好きな事を遠ざけてるので、難しいんですよ」

「精神科医に好きそうな動画は強制的に探させられたけど、見る間ぐぅ」

『その間をぉ、作るのよぉ』


「ぅうおたひゅけぇ」

「お、お帰りハナ、マッサージか?」

『おタケもどう?楽しいわよ』


「どれどれ」

「たらいま」


「おう、忙しくしてるみたいだな」

「うん、だはらおこらへた」


「そらこんな痩せたら心配もするさ」


「ひょう?」

「そうだ、可愛くないぞ」


「べひゅにかわぅぐぅ」

「そういう口答えはしない、健康的じゃないって話だ。分かったか?」


「ひゃいぃ」

「宜しい。そういえば、この2人が元魔王で合ってるか?」


「おひぃちゃんの方がセバスチャン、若いのがアレクシス」

『初めましてで良いんでしょうかね、セバスチャンの名を貰いました。どうぞ宜しくお願い致します』

「おう」


「おう、宜しく。雰囲気は似ているが、こうも変わるか、不思議だ。どうやったんだ?」

「ひみつ」


「お、なんだ、危ない事でもしたんじゃあるまいな」

「ひてなぃ」

「してないしてない、コレはマジ。ね?セバス」

『ですね、ちゃんと正規の手順も踏みましたし。危ない事は何も有りませんでしたよ』


「なら良い、無茶はダメだからな、本当に怒るぞ、良いな?」

「ひぇぃ」

『で、来て早々悪いんだけど、エミールとおタケの卵を見て上げてくれない?ちょっと元気が無くて、もしかしたらハナの近くに居たから、アナタの魔力も必要なんじゃ無いかって』


「何故それを早く言わない」

『様子見してたのよ、元気が無い理由は昨日辺りにやっと気付いたしぃ』

《不測の事態ですぞ》

《致し方なしですぞ》


「マジか、ごめん」

『こっちこそごめんね。じゃあ、エミール』

『はい、お願いしますハナさん』


「おう、お願いしますと言われましても」


 以前触れた時よりも、ほんの少し温度が低い。

 膜の弊害で辛い思いをさせたか、なんだろか、ごめんよ。


 暫く抱えて撫でていると、大分温度が戻り温かくなってきた。

 あの荒くれアリコーンも、寂しいと死んでしまう類いなのか。


『良さそうね、エミール触ってみたらどう?』


『あ、温かくなってますね。僕だけじゃダメだったんでしょうか』


『あのぉ…ちょっと違くて…欲張りさんだから…ハナさんの匂いを覚えちゃったから、どうしてるのかって…拗ねてただけみたいで…』


「お、ナイアスお久。…卵ちゃん、すまんねぇ、忙しいわ魔力漏れるわで大変だったんですよぉ。どうかエミールの為に、元気に生まれておくれ」


 返事でもするかの様にぐるりと胎動すると、再び静かになった。

 温度も戻りエミールに返すと、次はおタケさんの卵。


「こいつも拗ねてるんだろうか」


 小さな卵を手で包み込むと、さっきのよりは温かいが。

 前は、もう少し温かかった様な気もするが、なんだろう。


《ハナ様も主として認定したらしいですぞ》

《弱いので守らねばとなったそうですぞ》


「ぅ、忍びない。もうそこまで弱く無いので、タケちゃんの為だけに生まれてくれて大丈夫ですよ、ご心配お掛けしました」


 温かくなったものの、胎動しない。

 納得していないのか。


『うーん、温度は戻ったみたいだからおタケに返すけど…一応今日はココらに居てくれる?ハナ』

「おうさ」


 取り敢えず暫くは、小野坂さんや神獣の卵には近くまいと固く決心した。


 アレクとセバスはエイル先生に診て貰い、エミールやタケちゃんに付いた新しい従者と挨拶した。

 名前はサイラさん、ミーシャより表情は多めの優しい感じの美人エルフ。


 アレク達は脆さ以外は問題無し、ただエイル先生が治せる範囲では無いらしい。

 エンキさんか。


 でも、リスクは分散したいし。


『まぁ悩むのは程々に、それより神獣達に会いに行ったら?寂しがってたわよぅ』

「あぁ、はい」




 そして、久しぶりにカールラとクーロンに会いに行った。

 すまん、見せられない聞かせられないばっかだったのよ。


 それとロキ、何でお世話になってんの。


『サクラちゃーん!久し振りー!』

「なんでココなの、さむぅ」


『訓練。フェンリルとヨルムンガンドなら、神獣の戦闘練習に丁度良いサイズだと思って』


《こんにちは、僕フェンリル》

《こんにちはー、ヨルムンガンドだよー》


「初めまして、こんにちは。桜木花子です」


『御主人様!』

《会いたかったんですよ、お元気でしたか?》


「ぐぇ、ごめんよぉ」

《ちゃんと食べてますか?意地悪されてませんか?》

『僕らが居なくても寝れてますか?あ、前髪をそろそろ』


「食べてる、寝れてる、大丈夫、今日切って貰う。心配掛けました、ちょっとややこしい用事で連れて行けなかったんだ、すまんね」

《はい、私達の為ですよね》

『分かってはいますが、それでも寂しいです』


「多分、もう行かないよ、行ってももう意味が無いだろうし」

「えー、桜木様、里は嫌ですか?」


「そうじゃないけど、修練はショナだけでも大丈夫でしょ。自分が行っても出来ることは無いし」

「桜木さん、僕だけ置いてく気ですか?」

『えー、なになに、何処行って来たの?』


「ひみつ」

『けちー』

《けちー?》

《パパ、けちって?》


『意地悪の事だよー』

《意地悪かー》

《パパまた悪い事したの?》


『え、そうなのかな、そうなの?』

「荷物みたいに抱えられたのは参ったなぁ、あれは誘拐じゃんよ」


《誘拐はダメだよー》

《ヘルに怒られちゃうよ?》

「もう怒られたと思う」

『うん、直ぐに怒られた』


《そっかー》

《パパがごめんね?》

「いいよ」

『ごめんね?そんなに嫌だった?』


「勝手に何処かに連れ去られるのは普通に嫌、従者も心配するから止めて欲しい」

『はい、すいません、もうしません』


「うん、で、まだ修行中?」

『見てく?』


「見たいけど寒い、カールラと離れると死ぬ」


『あ、サクラちゃんは魔法のマントとか無いのか、ごめん。作りに行ったら?』

「鍛冶の神様達の所?」


『そうそう、ココで戦闘訓練するって言えば、きっと作ってくれるよ』

「おう、分かった。じゃあまたね」


《《またねー》》


 名残惜しそうにするカールラ、クーロンを置いて、今度は鍛冶神の地へ。




「桜木様って本当に忙しいですね」

「そう?君の挨拶回りに丁度良いべ」


『おう!待ってたぞ!』


 魔法のマントはエミールや小野坂さん達に作ってしまって、原料が切れているらしい。

 完全フルオーダーだそう。

 大昔に倉庫に置いといた所、ロキに根こそぎ持って行かれた事が有り、それ以来は置いて無いんだと。


 その犯人から紹介されたのだが、良いんだろうか。

 材料も置かないって、どんだけよ。


「この髪の毛とかどうでしょ」

『良いんじゃないか、魔力も豊富で申し分無い』


《勿体無いわ!》

《そうよ、ダメ》

《櫛を通させて?ね?さ、座って》


「うーん、何処かに素材取りに行こうか?」


《そうねぇ》

《危ない目に会わせるのはダメよ》

《アレがあるじゃない、倉に繭が》


《あ!確かにそうね、持ってて貰えば数日で良い絹が出来そうね》

《私持ってくるわ》

《彼女の飾りもお願いね!》


『甘やかしてよぉ、為にならねぇんじゃねぇの?』


《アナタ。腕があるんでしょう、心配ならこの子を甘やかしても大丈夫な武器の1つでも作んなさいな》

《そうよ、運動が苦手なのと戦闘に向かないのは別だって、昔に言ってたわよね》

《あら、じゃあきっと良い武器が出来上がるわね、楽しみだわ》


『…やってやるよ、待ってろよ!』


「凄いなぁ、煽り方が尋常じゃない」

「勉強になりますね!」

「そうですね、凄い妙技です」


《ふふふ、はい、この繭を持っていて。虫は出ないから大丈夫よ》

《魔力から絹糸を作る繭なの、前は暇があれば作っていたのだけれど、糸は生物だから使わないと霧散しちゃうのよね》

《最近は平和だったから仕舞いっぱなしだったのよ、悪い事をしたわ》


「では、預かります」


《そうして頂戴。さ、出来た、飾りは上げるわ》

《今度は私よ》

《その次は…》


《もうそろそろ夕飯ですぞ》

《ヴァルハラへ来ますかな?》


《あら、もうそんな時間だったのね、またいらっしゃい》


「はい、ありがとうございました」




 ヴァルハラにはカールラ、クーロンの他に小野坂さんも居た。


 幸いな事に神獣はもう孵ったらしく、裏庭に居るらしい。


 どんだけデカイのか、まさか巨人系か。


「「『いただきまーす』」」


 食事中ずっと、小野坂さんの視線が刺さっている様な気がする。

 でも視線を向けると逸らされる、なんだ。


『あの、桜木花子さん、頂いた剣なのですが、少しお返ししてもよろしいですか?』

「うん、じゃあ食後に外で」


『はい』

「お代わりは大丈夫?食欲無い?」


『いえ、大丈夫です。その、現地の子供を戦闘に加えるのは、どうなんでしょう』

「ねー、出来るなら避けたいよね」


『はい…そうですね』


「そういや神獸は?」

『外で待たせてあります、人型にならず巨体なので、ご迷惑かと思いまして』


「そっか、一旦ご馳走様。挨拶してくる、カールラ、クーロン行こう」

『あ、じゃあ私も、ご馳走様でした』


 外に出て辺りを見回すと、木陰からライオンの様な大きな前足が見えた。


 回り込んで見てみると、下半身はライオン、背と言うか腰の付け根に黒い翼を持ち、尻尾は蛇。

 上半身は人間だが、頭に山羊の角を携えている。


 ウエーブのかかった黒髪に、金色の瞳がとても綺麗。


「こんばんは、お名前は?」

『キメラです、その子話せないみたいで』


「それは種族名でしょ、ちゃんと名前をつけてあげたら?そしたら人化するかもよ」

『あ、え…』


「呼びやすくて愛着が湧くのが良いと思う」

『でも…その…』


「ニコニコして可愛いし、強そうな前足じゃん、目も綺麗でイケメンだし」


『…私の願望じゃ無いですから』

「誰もそうは思って無いよ。どうやって卵が来たの?」


『…アヴァロンの森で、泉で休憩していて。気が付いたら、後ろに有ったんです』

「この子の親は恥ずかしがり屋だったんだね、自分とエミールの時はケガしそうになったから羨ましいよ」


『……私は…桜木さんのカールラが羨ましいです』


「じゃあ少しの間、交換しようか」

『え、良いんですか?』


「うん、カールラ、お願いできる?」

《はい、ご命令でしたら》


「宜しく、君も良いかな?」


 とても悲しそうに寂しそうに頷く、この子の何が気に食わないんだろうか。


 あ、男が苦手とかか。


『ありがとうございます、本当に』

「いえいえ、先輩ですし」


『あ、あの、剣をお返ししますね。本当に、ありがとうございました』

「いえいえ、じゃあ解散かな」


『あ、はい、おやすみなさい、失礼致します』

「はい、おやすみなさい」


《ハナ、名付けてやってたもう》


「コンスタンティン」


《はぁ、名が付かんかったらとヒヤヒヤしておったが、何とかなったの。にしてもあの》

「まぁまぁ、小野坂さんは女の子だし。ココに慣れるまでの間の交換だから、辛抱してねコンちゃん」

《はい、ありがとうございます》


「お、喋れる」

《はい、嬉しいです》


「誰か忠言しなかったのか、何で誰も名前を注意しなかったのか」

《勿論、ミーシャも我もしたがな、聞き入れんかったんじゃ。悪魔みたいのは認められぬとな》


「あら、そっか。ごめんねコンちゃん、慣れ無い場所で不安定なんだよ、少しだけ同情してあげておくれ」

《私は大丈夫です》


「人に成れそう?」

《はい》


「よし、飯の続きにしよう」


 コンちゃんにはアレクの予備の服を着せ、まだ食事中だったエミールとタケちゃんの元へ帰った。


 マジで小野坂さん帰ったのね。


『お帰りなさい、カールラはどうしたんですか?』

「交換した、女の子だし、同性が良いと思って」


「は、桜木さんも一応女性ですよ?」

「ワシ先輩だし。優しいし、もうこの環境に慣れたし、無問題」

「おぉ、無問題、か、結構結構」


「おうおう、それで蜜仍君の話なんだけれど、今良いかな?」

「結界を良いでしょうか?」

『良いわよー』




 エイル先生の許可を得て、蜜仍君にも食堂に結界を張って貰い、里の話を始めた。


「何か無いかと探してたら、土蜘蛛族の話を耳にしたんで里に行ったのよ。したら里の術マジ便利だけど諸刃の剣。で、向こうは半ば隠居状態だったけど、協力してくれるって話になった。んで、迂闊に口外出来ない位に術が凄いので、こうして貰って話してる感じ」


「凄い端折ってますけど、概ねその通りかと」

「ですね、はい。詳しくは僕がお答えしますね」


「そんなに凄いのか?」

「タケちゃんが会得出来たら、凄い戦闘能力が上がってマジでヤバそう」

「身体強化ですね、心身を消耗しますが、飛躍的に運動能力は向上する事間違いないです。ただ、会得は簡単ですが、誰でも出来るワケでは無いんです」

『他には何が出来るんですか?』


「忍術的な感じの、忍者分かる?」


「マジか、忍者が本当に…俺も里に行けるだろうか?」

『え、僕も行きたいんですけど!』

「忍者パワーつよい」

「ご案内は後日でも宜しいですかね、ややこし内情もご説明したいので」


「おう、勿論だ。じゃあ向こうの時間に合わせて、今日はもう休もうか」

『はい!楽しみですねぇ』

「では結界を解きますが、神々にも他の方にも口外禁止で宜しくお願いします。じゃないと国連が五月蝿いらしいので」


 結界を解くと、少し悪い顔をしたエイル先生が直ぐさま近付いて来た。

 気になるよね、わかる。


『良いなぁ、私も何か秘密の会議したいぃ』

「じゃあしましょうか、女子会」


『するする!』

 《するのじゃー!》


「じゃあ、クーロンは皆とお風呂に行ってらっしゃい」

『はい』

『ハナさん、お風呂の間、この子をお願いしますね』

「俺の子も頼む」


「あいよ、行ってらっしゃい」




 泉に服のままどっぷりと浸かり、膝の上に卵を2つ乗せ、女子会が始まった。


 何を話せば、エイル先生が喜ぶのか。


『あのぉ…本当に私も宜しいのでしょうか…』

「おうおう、女子女子」

《大勢の方が楽しいじゃろぅ》

『まだお菓子あるから、食べて食べて』


「んで、アレクとセバスなんだけど、どう人間にしたら良い?」

『そうねー、エンキ神はどうなの?』


「リスク分散と、何か出生が不謹慎なので、ちょっと、頼み難い」

《気にするとはも思えんがのぅ》


「コッチが勝手に気にする。理想はピノキオの妖精さんとかが良いんだけど」

『あら、あの子達って木で出来てるの?』


「いんや、素材は知らんが無機物的っぽいから」

『なるほど…』


「居るかどうかなんだけど」


『あの…その方でしたら、いらっしゃいますけど…?』

《うむ、ブルーフェアリーじゃろ》

『へぇ、悪さしたら鼻が伸びる様にするの?』

「いや、天罰はヘルさんに頼んで、死んで貰う予定」


『わぉ、その、手前のお願いを考えたら?いきなり死ぬのは、いくらなんでも可哀想よ』

《じゃの、手足がもげるとかで良かろう》

『…もう少し弛い方が良いのでは…?』


「んー、じゃあ、体がだんだん木になるとか」


『賛成』

《じゃの》

『1番穏やかですね』


「何処に居るの?」




 そして帰って来た2人に卵を返し、そのままローマの世界樹。

 パラティヌスへ行く事になった。


『まぁ、ドリアード、お久し振り』

『あらまぁ、召喚者も一緒よポストウォルタ』


《久しいの2人とも。ブルーフェアリーは居るか?》


『居ますけれど、先ずは自己紹介させて下さい。どうも初めまして、ポストウォルタです』

『どうも、初めまして、アンテウォルタよ』


「どうも初めまして、桜木花子です。友人を、人間と同じ脆さにしたくて来ました」


『ふふ、面白いお願いね。ポストウォルタ』

『ええ、ではブルーフェアリーですね、この花畑に向かって呼んでみて下さい』


「ブルーフェアリーさーん」


《あいよ!》


 目先の青い小花から、小さな妖精が飛び出した。

 青い羽根に青いロングドレス、金色のまとめ髪でビュンビュン飛び回る。


「おー、凄い。お願いがあります」

《ん、何》


「友人を人間にして欲しい」

《いいよ》


 早い、話が早い。


《では我が案内しようぞ、ハナはここで少し休んでおれ》

「え?いいの?」


《ん、直ぐ戻るでの》

「ありがとう、ドリアード。気を利かせてくれたんだろうか」

『ふふ、アナタが良い子だからね』

『そうですね、頑張ってらっしゃるのはコチラの耳にも入っていますから』


「あらら、皆さんに挨拶出来れば良いんですけど、面目無い」

『運命と言うモノがありますから、お気になさらないで』

『はい、運命に逆らうのは、とても大変ですから』


「お気遣い感謝します」


 美人姉妹は威厳のある尋常じゃない美しさで、少し近寄りがたい。

 でもとてもニコニコ微笑んでくれるからこそ、何とか話せるレベル、共通点が無くて何を話せば良いのやら。


 彫刻の様に堀の深い美人、甘い良い匂いするし、本当にどうしよう。


『緊張なさってるのね』

『どうかされました?』

「甘い匂いがするなと」


『ふふ、この匂いはね?イチジクよ、お1つ如何?』

『えぇ、どれでもどうぞ、お召し上がり下さい』


「では、頂きます」


 天高く頭上に有った枝がしなだれ、手元にまで降りてきたので、適当な実をもいで食べる。


 ゴロゴロと大ぶりなのに、甘くてジューシー。

 プチプチを噛むのに、つい集中してしまう。


『ふふ、可愛いわねぇ。ねぇ、ポストウォルタ、もっと差し上げましょうよ』

『ふふ、ですわね。さぁ、お持ち下さいな』


 ただ訪ねに来ただけで、クソデカい籠いっぱいのイチジクを頂いた。

 申し訳無い。


「ありがとうございます」

『いえ、良いのよ。私はもう行きますけど、どうぞゆっくりしてらして』


「はい、うん、ありがとうございました、アンテウォルタ」

『ふふ、寛いで下さい、なんて難しいですよね。戸惑ってしまいますよね、神だのなんだのと』


「はぃ、申し訳無い」


『でも、どうか遠慮なさらず神々へお会いなって下さいね。怖じ気づき、立ち止まる事こそ、時間の無駄ですから。大丈夫、ご自分をお信じになって』

「最後の、それが、1番難しいんですが」


『ふふ、ですよね。私も、どうすれば良いんでしょうね?』

「ね、本当に、それは誰に聞けば良いんでしょうね?」


『ね?ふふふ』


《おーぅ、終わったのじゃよー》

「早い、もうお帰りか」


《それなんじゃが》

《私が出来たのは老人の寿命を伸ばしただけ、もう片方は拒絶が激しくて無理だった。脆さは他を当たってくれないか》


「はい、ありがとうございます」


《ついでにだが、悪さをすれば木になる魔法は両方に掛けておいた》

「ありがたい」


《礼はいいからな、また呼んでくれるのが、来てくれるのが礼だ。暇だ、構え、遊べ》

『えぇ、また来て下さいね』

「ありがとうございました。じゃあイチジクのお礼に蝋燭を受け取って下さい、ポストウォルタさん」


『まぁ、花束みたい…ふふふ、頂きます』


 そして泉からユグドラシルへ帰り、ドリアードに見守られながらエイル先生と共にお風呂を頂いて。


 ようやっと、クーロンと共に眠りについた。

《フェンリル》

《ヨルムンガンド》  

《コンスタンティン》

『ポストウォルタ』

『アンテウォルタ』

《ブルーフェアリー》

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