2月3日
「アレク」『ジュラ』「ミーシャ」「柏木さん」【アクトゥリアン】『クエビコさん』《ドリアード》「ショナ」「蜜仍君」《土蜘蛛さん》《セバス》『クエビコ』
「新しい召喚者が来たって、行くか?」
「ん…だれ」
「アレクだよ、元魔王、ホムンクルス」
「あ…そか…行く」
「ショナに連絡させとく、風呂と飯は?」
「はいる、サンドイッチ」
「おう、準備しとく」
ミーシャとドリアードを連れ、先ずは省庁へ。
現れた先はロサンゼルス自治区。
旧米国初の召喚者なので、生憎と専用の省庁も従者の準備も0。
なのでコチラに緊急要請したらしい。
省庁に寄って備品を預かり、ボストンの病院へ。
受付には柏木さん、少し離れた椅子にジュラが。
久し振りに会うジュラは、結婚式の為なのか特にお肌が艶々で綺麗。
「おはようジュラ、この前のありがとう、美味しかった」
『おはようございます桜木様、良かった。あ、初めましてミーシャさん』
「おはようございます、初めましてジュラ」
ココは仲良く出来そう。
「おはようございます、柏木さん」
「おはようございます桜木様、ミーシャさん。さ、御案内致しますね」
そのまま柏木さんに案内され院内を進む、北海道とは違い少し豪華と言うか、華やか。
薄いピンク色の壁と、茶色と白の格子柄の床が実にファンシー。
「柏木さん、新しい人は大丈夫そう?」
「えぇ、体は大丈夫だそうですが、少し混乱してまして」
「でしょうね」
「えぇ、何か失礼があるかもしれませんが、どうかご容赦下さい」
「おう、がんばる」
病室の前まで行くと、警備の人に其々の身分証を見せ、柏木さんがノックし入室した。
隙間から見えたのは、ベッドに座って窓を眺めている緩いパーマの黒髪、健康的な褐色の女の子。
「少し宜しいでしょうか?」
『はい、どうぞ』
「お邪魔します、桜木花子と申します」
「その従者のミーシャ」
『アナタも召喚者なんですか?』
「そう言われてます、1月の日本から来ました。不便は無いですか?聞きたい事があったらどうぞ、あまり詳しくは無いけれど」
『…異世界だと、どうやって信じたんですか?』
「先ずは言語。ただ、今でも全部を、完全には信じてませんけど。痛いのと、眠ると夢を見る所と、魔法が使える所で、かなり信じました」
『使えるんですか?』
「少しだけ。あの、アッチで何かやってた運動とかあります?」
『あ、はい、真剣の居合いを、刀が好きで』
「おぉ!カッコいい、夢は良く見る方ですか?」
『え?いいえ?』
「じゃあアクトゥリアンの方かな、宇宙人とか詳しいですか?」
『いえ…良くは知らないですけど』
「アクトゥリアン、おいでませアクトゥリアン」
【どもー!お久しぶりです桜木さん!初めましてマサコ・リタ・小野坂さん】
『ひぃ』
「おひさ、見ての通り宇宙人のアクトゥリアンです、友好的な宇宙人だから大丈夫」
【はい!人間大好き!】
「アクトゥリアン、外見チェンジで。柏木さん、タブレットは?」
「はい、こちらに。国連仕様です」
「おぉ、良いなコレ。コレの認証登録したら、色々と便利な機能が使える様になるから、どうぞ」
『騙してません?』
「いや、ノーです。自分は何も嘘ついて無いし、騙してない、けど。心配なら世界を見て回ると良いかと、精霊も神様も居るし。嘘を見抜ける魔法もあるし。この杖は、日本の知恵神クエビコさんの分身」
『今度、ワシの所にも来ると良い、知恵を授けよう』
「あ、腹話術じゃないよ。あーーーー」
『まぁ、今直ぐに信じるのは難しいだろう』
「だよねぇ」
《我の紹介は?》
「あ、コレ、ドリアード。木の精霊、上げる」
《雑じゃ、実に雑》
『え、はい、あ、ありがとうございます……指紋と虹彩の登録で魔法が使えるんですか?』
タブレットとこちらを交互に見る彼女は、毛先を不安そうに弄っている。
分かる。
「まぁ、近い。便利な魔法やアイテムが使い易くなる感じ」
『…分かりました、仮にアナタを信用』
「いいよ別に、無理して信用しなくても大丈夫。先ずは落ち着いて、ご飯食べて、お風呂に入ったりして。色々と考えてから、決めた方が良いと思う」
《そうじゃな、それが良かろう。先ずは静養じゃ》
『え?あ、はい…』
「従者の付き添いがこの国だと準備出来ないんだけど、この人とかどう?ミーシャ、エルフなのよ」
『あ、えっと』
「従者は何でも教えてくれる、味方。余計な事は言わないし優しい。こっちのジュラも良いけど少ししたら休職予定なんだ。もし気に入らなかったら交替は出来るから、最低限覚える迄の付き添いに、常識が違う部分も有るから絶対に必要、コレは信じて欲しい。どう?」
『はい…宜しくお願いします、ミーシャさん』
「よし、後で従者に剣とエリクサーを渡しておくから。じゃあね」
「では私達もこれにて、一旦失礼致しますね小野坂様」
部屋を出て柏木さんが警備に事情を話し、仮契約でミーシャが小野坂さんの従者になった。
そしてミーシャは少し怒ってる。
「何でですか、私が嫌いですか桜木様」
「いや、大好き、信頼してる。宜しく頼む」
「う…分かりました、頑張ります」
ありったけの剣とエリクサーを複数種類、雑貨等もミーシャに渡し帰る事に。
流石に迷わない造りなので1人で帰ろうと思ったが、柏木さんとジュラに病院裏まで送って貰う事に。
本当に、1人になる時間が無い。
「あの、柏木さん、小野坂さんの今後の予定は?」
「午後には退院の予定です、暫くは近くのホテルでお過ごし頂く予定だそうで。にしても大変助かりました、従者の付き添いを頑なに拒んでいたので、困っていたのです」
「あら、それはそれは…ミーシャには悪い事した、何も知らなかったのに騙し討ちみたいになった」
「そうでしたか、でしたら誤解は解いておきますから、お気になさらず。本当に、ありがとうございました」
「いえいえ、助けられたんなら何よりです。ミーシャの事、宜しくお願いします」
「はい、お任せ下さい」
今度は病院裏から浮島へ移動し、ショナを連れて買い物へ。
シャンプーのテスターや雑貨も上げてしまったのと、セバスとアレクの衣類を買いに。
以前とは違い早朝なのもあってか、百貨店は買い物客が疎らに居る。
テスターで気に入ったシャンプーと、トリートメントに固形石鹼。
各種ツマミに、日本酒とジャーキーを追加。
雑貨屋では目に留めただけなのに、ガラスで出来た蓮の花や薔薇、蝶々のモビール等を数点購入され、終了。
「桜木さん、他には良いんですか?」
「いや…苗、欲しい。ヘルさんに」
「でしたら休憩にも、最上階ですね」
屋上はカフェと花屋の複合施設、ビニールハウスの様に特殊なガラスで囲まれていて、かなり暖かい。
少し甘い花の匂いと、パンケーキの匂いがする。
「あったかい、酸素濃い感じ」
「今は春の展示ですしね。夏前には、熱帯植物や朝顔とか鬼灯が並ぶんですよ」
「おぉ、季節ずらしての販売か、粋」
《いらっしゃいませ、カフェのご利用ですか?》
「両方お願いします、初めての方が居るので、眺めの良い場所をお願いします」
《畏まりました、コチラへどうぞ》
案内されたのはエレベーター上部。
2階席になっていて、街の景色と植物が一編に見える。
1階には出勤前なのかスーツ姿の人、子供や老人も朝食を楽しんでいる。
優雅だ、でも値段はお手頃。
「お手頃価格」
「そうなんですよ、僕もたまに来るんです。ホットケーキが食べたい時とか、自炊してると、どうも自分の料理に飽きちゃうんですよね」
「分かる、ホットケーキ食う、あ、パスタグラタン、神か」
「ストレージが一般化された時に、この百貨店が経営危機に陥ったそうで。建て直しの為に周辺の喫茶店が協力して、自慢のメニューを出そうってなったんだそうです」
「言い出しっぺ偉い、尊い。このクロックマダムも頼む」
「柏木さんの遠い親戚の方も賛同者だそうです。元は柏木さんに紹介して貰ったんです、僕は上京組でしたんで、良いお店を教えて上げようって」
「上京は珍しいの?お、お雑煮だ」
「はい、引っ越しは珍しく無いんですが。僕の職業は年々少なくなってまして、喜ばれました。飲み物はいいんですか?」
「デカフェのアイスミルクティー。平和なら良い事だよね、少ないのは。あ、アイスココア先に飲む」
「はい、そうですね」
最初に来たアイスココアを飲み、ショナの勧めで他の注文が来るまで、お店のタブレットと共に店内を見て回る事に。
今の季節だと果物の苗はまだ店頭に置いてないそうで、農家からの直接配送になるらしく。
果物の苗は早々に諦めて、花の売り場に向かった。
薔薇にすずらん、藤や桜、チューリップにクレマチス、どれも一般的な種類から珍しいモノ、切り花に植木に鉢と、多種多様に並んでいる。
花とタブレットを往復しながら、欲しい苗や種を見ているとメッセージが通知された。
《お雑煮が出来上がりました、只今テーブルにお運びいたします》
最高か。
急いで席に戻ると既にお雑煮が届いていたので、早速食べ始めた。
薄い色のお出汁に焼いた丸餅、お麩に三つ葉に椎茸、貝柱と鳥つくねに里芋まで。
美味しい、毎日食べたい。
「毎日食べたい」
「ですよね、季節やその日の材料で味も具材も変わるんですよ、この前は蛤と筍の潮汁風でした」
「羨ましい、毎日食べたい。お味噌汁より好き」
「そんなに気に入って頂けたなら、前回来た時に少しでもご案内すれば良かったですね」
「あんな遅くもやってるの?」
「下の店舗同様に24時間です、この日替わりもストックが切れたら変わるシステムですから、悩んでる間に逃す時もあるんですよ」
「発案者偉い、うまい」
「ですよね」
それから続々とクロックマダムとアイスミルクティー、パスタグラタンにサンドイッチ、最後にホットケーキと到着した。
器にはバターとメープルがたっぷり入っていて、生クリームが甘過ぎないのが最高。
どれも懐かしい味ながら、凄く美味しい。
「またお雑煮いこうかな」
「メニュー見てみますね…合鴨と里芋のお雑煮に変わってますよ」
「マジか…頼む」
「はい、気に入りました?」
「とっても、本店にも行きたい」
「僕は行った事が無いんですけど、近くの市場にあるそうですよ」
「行こう、蛤とアサリ大量に欲しい」
「ボンゴレ食べたいって言ってましたもんね、売り切れて無いと良いんですけど」
「そっか、もう少し早朝がベストか」
「空いてるお店もあるでしょうし、行ってみましょうか」
「うむ、でもその前に少し寄りたい所がある」
お雑煮が来るまで苗と種を更に注文し、お雑煮を味わってからお会計。
種や苗は下階の受け取り場で。
アレクとセバスが注文していた物や、今日買った品物を受け取り。
蝋燭屋へ向かった。
「どうも!前にも買って頂いた方ですよね?夜に」
「うん、ども、気に入ったので買い足しに」
「え!ありがとうございます!」
「コレとコレとコレ…」
白と紫、白と緑といったグラデーションの大輪の薔薇を色違いで全種類と、真ん中が青や紫の軸で白い花が何種類も咲いたのや、蝶々、木の台座の藤の花を選んだ。
「あの、こんなに買って頂いて、本当に…あの、ありがとうございます」
「いえいえ、最高です、部屋を埋め尽くしたい位に好きです」
「本当ですか?何か意見があれば言って下さいね?使い難いとか、もっと燃焼時間を長持ちさせたいとか…」
「ならリクエストとか出来ます?贈りたい人が居るので」
「はい!是非!」
「じゃあ……優しい死の女神、薄い長い白いベールを何枚も被ってる人で、可愛いは嫌い。太陽の無い黒くて暗い地下の世界で、真っ白い大理石のお屋敷に住んでる子。って設定、イメージで、何か綺麗なの、サイズも個数も問いません」
「ふふ、面白い設定ですね。もし出来上がりましたら、連絡差し上げても?」
「ショナ、連絡先ってどう教えれば?」
「あ、じゃあ僕が連絡係を」
「はい、では連絡します、ありがとうございました」
「いえいえ、コチラこそ」
ウキウキのその足で裏道に向かい、市場へ空間移動した。
海沿いの築地市場は良く整備されていて、危惧していた様な品薄感も無い。
人手は良くある商店街と同様で、それなりに人が行き来していた。
想像より混んで無い。
「あ、ありましたよ蛤、やっぱり卸値は違いますね」
《いっらっしゃい!今日はウチが一番安いよ!》
「なんで」
《そりゃ今日はデートだからね!早く閉めて嫁の誕生日祝いに行くんだよ!昼前に閉めりゃステーキだ!》
《だからってバカみたいな叩き売りすんじゃねーぞ!バレたら飲みに連れてってやんねーからな!》
《《あははは!》》
「よし、アサリと蛤、買い占めるから、値下げしてくんね?」
《お!ありがたいねぇ!魚は良いのかい?隣のオススメは鮟鱇だ、暖まるぜ》
「じゃあ鮟鱇とカワハギ3匹、捌いてくれるならだけど」
《勿論よ!おい、たか兄!ウチのお客さんが鮟鱇とカワハギ3だ!捌きでな!!》
《おう!今行く!!》
「桜木さん、アッチにボタン海老と車エビありますよ」
《行ってきな行ってきな!準備しててやっから、ウチより安いのあったらそんだけマケてやんよ!》
「良いの?」
《おうさ!このタブレット持ってきな!準備出来たら連絡すんぜ》
「うん、ありがとうねお兄さん」
後ろには山岸◯貝のマーク、どうやら市場にもタブレットは普及してるらしい。
お兄さんの言う通り魚河岸を1周してみると、あの店が1番安い店だった。
他の店ではヤリイカとイイダコ、ボタン海老と車エビ、セミエビを1箱ずつ買い、店に戻りタブレットを返した。
どの店も競合店なのに、どうしてこうも仲良くやれるのか不思議でしょうがない。
《ありがとな!また来てくれよ!》
「いえいえ、コチラこそ、また今度!」
それからも里芋やネギ、合鴨等を業者が如く買い、お雑煮の出る喫茶店へ向かうも。
メニューは丁度、鴨と里芋のお雑煮。
混んでいたのもあり、次回への楽しみにと来店を諦めた。
島へ帰ってからは料理の下拵え。
セバスにアレク、蜜仍君にショナと総出で下準備に取り掛かる。
サービスで貰った魚のアラ、合鴨の出汁を蜜仍君と共に。
セバスとアレクは里芋を剥き、ショナは海老剥き。
それが終わると今度はアサリを煮出し、蛤も半分を煮出した。
後はイカ、タコの下処理。
エビの殻は出汁を取る為に軽く炒って煮出し、長ネギと小ネギはアレクとセバスに刻んでもらった。
下拵えを終えたのはお昼過ぎ、アレク達に合わせて昼食はお粥にした。
勿論、中華粥。
「節分のお祝いがこんなに豪華なのって僕、初めてです!」
「節分のお祝い?」
「ウチの里では、朝ごはんに麦飯とろろを食べて、玄関に柊鰯を飾るんです。お昼は恵方巻きで、オヤツには福茶に年の数だけのいり豆と、きな粉餅のお汁粉、お夕飯にはクジラ蕎麦なんですけど…コレ、違うんですか?」
「面白そうだけど、今日のは単に食事の下拵えしただけ」
「なんだか諸国の風習が混ざってますね、桜木さんはアチラで何かしてました?」
「節分は…豆まきとお祖母ちゃんのクジラ汁かな、豚汁にクジラ入ってる感じの」
「桜木様!それ!食べましょう!里で一緒に他のも、一緒に食べましょうよー!」
「アレクとセバスはどうするの」
「大丈夫ですよ!国から無害認定下りましたし!折角食べられる様になったんですから、皆で一緒に食べましょうよー」
「ショナ、良い?」
「ちょっと待って下さい、柏木さんと相談させて下さいね」
「おう」
「早く早く、オヤツが無くなっちゃいますよ!早く!」
親交を深める為のお食事会だけ、ということで特別に里へ入る許可が出た。
以前同様に炭焼小屋に行くと、前と同じお爺さんが炭を焼いていた。
《お話は伺っております、どうぞお入り下さい》
「はーい!さ、行きましょう桜木様!」
今日は穏やかな口調、どうやら前回の人とは違うらしい。
鼻歌交じりの蜜仍君に案内され、迷路を抜けた先には長が待っていた。
《良う来た》
「ども、お邪魔します」
「土蜘蛛様、お料理しに一旦家に帰っても良いですか?桜木様にクジラ汁を食べさせてあげたいんです!」
《行っておいで、美味しく作って来るんだぞ》
「はい!行ってきます!」
《さ、ウチで待つと良い》
「お邪魔します、にしてもクジラ汁がメジャー料理だとは思わなかった」
《あれの親が北国の出身でな、お前の話で同じ物だと分かったんだとさ》
「その無線みたいなの便利よな」
《土蜘蛛族に仲間入りすればお前も出来るぞ?》
「諸国漫遊したいから無理だなぁ」
《それは残念だ。所で、その2人は?》
「元魔王。おじいちゃんがセバスチャン、若いのがアレクシス」
『はい、セバスチャンですどうも』
「殴るなら俺で」
《いやいや、今日は止めておく…が、人々を100年近く悩ませていた魔王がこうなるとはね、どうやった》
「これは科学者達の血と涙の結晶、自分は名付けをしただけで何もしとらん」
《そうか、科学か、里とは最も正反対な場所の力だな》
「へー」
「みなさーん!オヤツお持ちしました〜!福茶と、いり豆です。桜木様、先ずは豆まきしましょ?」
《それは外だぞ》
「はい!豆は外にありますから、ね?行きましょ?」
「よし、アレクが鬼な。行くぞショナ、ダッシュだ」
「え、はい」
「おう、全部避けちゃる」
洞窟の外に準備してあったのは、殻付きの落花生。
枝からもぎつつ投げ、拾っては投げるも2割も当たらない、当たっても手足にふんわりとだけ。
ワシの肩は弱い。
そうして、自分が運痴である事を久しぶりに思い出した。
「桜木様!今です!」
見かねた蜜仍君がそう言って影縛りをしてくれて、ようやっと至近距離から思いきりちゃんと当てられそうだ。
この距離なら少しは痛かろう。
「鬼は外ぉ!!」
「近い!近いって!」
「だって当たらないんだもの」
「うんち」
「鬼は外ぉ!!」
「ごめん!痛い!」
「逃げなきゃ加減する」
「いや、逃げる役だし」
「忖度せい!」
「意外と痛いって!いつもはそういうの嫌がるじゃんか!」
「今日は例外!」
「たんま!蜜仍!解除!」
「あはは!じゃあ今度はアソコからソコまでしか逃げちゃダメですからね!」
「分かったってば!早く!」
「はい解除!あはは!」
「今度はショナが捕まえて!ほら、当たれ!」
「嫌ですよ!当たるじゃ、ないです、か!」
「あはははは、バテて来たかアレク」
「あははは!アレクさん追い詰めたー!」
「ギブ、ギブアップ、酸欠、疲れた、はぁ、はぁ」
「ワシより体力無いのじゃ」
「やっと、昼に、まともな、お粥、だったんだぞ、はぁ」
「にしてもだ。もうちょっと何とかして貰おうよ、誰かに。里芋で酷くかぶれちゃうし、うわ、落花生のアザあるじゃん、脆すぎ」
「確かに、こんなんじゃ、競争相手にもなれないしな。前は、俺が負けるなんて、想像して無かったのに」
「今は?」
「参った。もう少し動ける体が欲しい、今のままじゃ、双子にも負ける」
「じゃあ治す練習台よ、アザ治そう」
「おう、ありがとう」
「わぁ、治療の魔法ですね、凄いなぁ、もうアザが消えてる」
「もっと練習出来たら良いんだけど、酷い怪我の人が周りに居なくて」
「だからドリームランドなんですよね?いつ行きます?」
「心の準備が出来たら。先ずは鬼婆を倒さなきゃいけないんだ」
「鬼婆なら首を切るか、溺れさせるのが定番ですよね!」
「成る程…寒っ」
「そろそろ中に戻りましょ!」
蜜仍君と灯籠を片手に戻ると、セバスと長は変わらず談笑していた。
最初はあんなにトゲトゲしてたから殺してるかと思ってたのに、土蜘蛛さんは随分と優しい。
「殺してないなんて何て優しいの、土蜘蛛さん」
《そりゃね、もう魔王じゃないんだし。ヤルなら名乗り出たアレクの方だ》
「良いけど、やり合うなら少し待って欲しい、体が脆いから」
《そうか、身体強化でも難しいのか?》
「なにそれ」
《筋力の増強や、反射神経を向上させる術だ》
「国連で一般人の仕様は禁止されている魔法と、同じものでしょうか?」
《あぁ、だが術はアレより強力で継続時間も長い。元が違うからな》
「うーん、クエビコさん呼んで良い?」
《あぁ、クエビコ様はココの監視役でもある》
『土蜘蛛の情報を知るには、ワシかオモイカネしかおらんからな』
「お、生きる広辞苑、土蜘蛛族は安全なの?」
『どの意味においても安全だ。すまんな土蜘蛛、こういう奴でな』
《良い良い》
「土蜘蛛族の術の情報おくれ」
『魔法とは異なる体系を持った、魔力を使う技術。一時は国の半分まで普及した術ではあるが、身体強化の暴走、変化の悪用等が多発した為に規制の方向へ向かっていった。土蜘蛛族も本来は国へ尽くす一族、今で言う従者の役割を担い、国を支える一族であったからこそ規制にも賛同した。だが何度目かの規制強化に反発する者が現れ、内戦がおきかけた』
「従者の原型、エリートか。そら負ける」
『で、魔法との違いだが。それは土蜘蛛に任せよう』
《承った。術自体にさほど技術は要らんし、当人と術の相性で直ぐに誰にでも使いこなせてしまう。直感的、体感的に行える。但し、相性が悪ければ術に呑まれ廃人になるか、暴走するかの2択だ》
「誰でもだけど誰でもじゃ無いやん」
《そう、そして最大の欠点は土蜘蛛族に入ると相性を見る能力が消えてしまう事。敵を見極めるのは可能だが、一旦身内となると長以外は術の相性を見極める事は不可能。外の占い師に見てもらうか、長が見極めを行うかだ》
「安全装置か、かしこい」
《そう、だが戦乱の時代には一族のはみ出し者が術をやたらめったら広めてな、一層の混乱を招いてしまった事もある。一概に魔王を責められん。従者としても支援していたが、それも結局は規制されてな、今はこうだ。容易く扱え、容易く壊れるからこそ、こうも厳しく制限されている》
「万が一相性が悪いのばっかりだった子はどうしてんの?」
《密かに外の養子に出している。いずれは、里にいては疎外感に苦悩してしまうからな。だが、夢見同様に、適応力の高い子供は年々少なくなって来ている、蜜仍は久しぶりの優秀な子なんだ》
「うむ、術の教えを請うかめっちゃ悩む。諸外国に流出したり乱用されるのを防いでるワケじゃん、自白剤でも使われて何か吐いちゃったら、ココがヤバいじゃん」
《その対策は出来上がっている、コチラが糸を切れば里の場所も術も脳から消える様に糸の仕様を変えてある。いつでも国に仕えられる様にな、ダテに里に引きこもっておらんよ》
「なら蜜仍君は記憶喪失になっちゃうじゃんか」
《術と場所が主だ。薄っすらと親が居た、何をしたかは覚えていたな》
「1回試したんですけど、糸を繋げばある程度は補強されるんで大丈夫です!」
「なんつー事を」
《私は大元だから不可能でな。そもそも里を出たがる子に行っていたんだ、ほっておけば何れ記憶は薄れ新たな人生を歩める。だが、里にいれば記憶は補強され、完全に元には戻らんが不自由は無い様だ》
「はい!不自由は無いですよ!従者になれない方が不自由です」
「本気か、ずっと考えてたのか、いつ協力者が現れるか分からないのに、その努力が叶わないかも知れなかったのに。とんでもない根気」
《外に出たがる里の者の願いを聞いただろう、それに、国に協力するにはコレしか無いと思ってな。私の寿命の範囲で叶わないならそれも運命、次代の蜜仍が継いでくれる。その次、そのまた次でも改良し、叶えば報われる。国にも、恩返しが出来る》
「そんなに好き?この国が、監視して規制する国が」
《おう、先ずメシが旨い。気候も良い。先代達の記憶には沢山の諸外国の記憶があってな、思い返しても、やっぱりココが一番なんだ。比べれば比べる程に良い》
「溺愛じゃん」
《あぁ、何でも取り入れて自己流にする所が特に好きだ、宗教に食べ物、クリスマスにハロウィンに節分》
「節分も?」
『節分も渡来の行事だ、3月の流し雛も渡来の行事が混ざり合ったもの。実はクトゥルフもこの国の所属だ、諸外国が受け持ちを拒否してな』
《クエビコ様は相性が悪くて、私らが調査したんだよな、アレは楽しかった》
『あぁ、あの時は大変だった』
「…そうか、成程。やっぱショナは子種を提供すべきなんじゃ?従者の祖先なんだし、術も教えて貰うんだし」
「そこは曲げません、承服しかねます」
「けち」
《まぁまぁ、従者への道筋を立てて貰ったんだ、それに今は蜜仍が桜木に付き添えてるのだから、もう願いは半分叶ったも同然》
「はい!後は術ですね、桜木様」
「相性次第かな、何もないのに蜘蛛の糸に繋がるのはリスク大きい気がする」
《あぁ、では見極めようか。蜜仍、お前は家に手伝いに行ってなさい》
「はい!行ってきまーす」
「そんなサッと出来んのか、見極め」
《おうさ、コッチだ》
クエビコさんの気配が消えた後、土蜘蛛さんが灯籠を持ち社の奥へ進んだ。
薄暗い複雑な分かれ道を迷う事も無く。
突き当たりの小さな空間には赤い和蝋燭が1本飾られ、小さな鏡が1つだけ。
「更に暗い」
《すまんね、気付いているだろうが目ではあまり見ていなくてな、明かりは最小限なんだ。で、先ずは誰から試すんだ?》
「では僕が」
「ダメ、アレク」
「おう、良いのか?」
《あぁ、見るだけだからな》
土蜘蛛さんが座り、掌サイズの鏡を地面に置いた。
同じく地面に座り込んだアレクの手に、鋭い爪で傷を付け、血を1滴鏡に垂らした。
鏡に付くなり、蒸発し、霧散した。
《術は長くは使えんな、瞬発的、特攻・先行型。術は身体強化と変幻》
「身体強化のリスクは?」
《ある、ざっと言うと寿命が縮む。体が、四肢がボロボロになる》
「あら、じゃあ変幻だけでお願いします」
「やだ、強化もやりたい」
「短命の分際で何を」
「なんとかして」
「は」
「治療魔法でも治せないんだろ?なら何とかして」
《四肢は治せてもお前は特に脆いようだから、費用対効果的には、身体強化は割りに合わないだろうな》
「丈夫なら良いんだろ?」
《見合う、釣りが来る》
「成程、じゃあ強化は保留で。次はセバス」
アレクの時と同様に血が霧散した、違いが全く分からん。
《あははっ、全く逆だな。広範囲の長期型。しかも水蜘蛛とは、本当に無害なただの老人だな!》
「すいません、お役に立てそうにありませんね」
《そうでも無いぞ?どんなに足場の悪い場所でも移動出来るんだからな、特に釣りに最適だ。食いっぱぐれるなんて事は先ず無い。湖を水上散歩なんてのも楽しいぞー》
「使い途が平和」
《戦においての逃げ隠れには最適だ、守りの魔法を使える者が居れば、集団での避難に優れた術だ》
「双子を守るのに丁度いいかもね、お願いします」
『ですね』
《うむ、では次はショナ君かな?》
2人の時と同様に血が霧散するが、少し何か薫った様な気がした。
もしかして見るんで無く、嗅ぐ感じ?
「なんか匂った?」
《お、鼻が良いなぁ。ショナ君は適性があるから濃いんだ、影縫いに影移動、身体強化、変幻も少し。良いなぁ、本当に里に欲しくなってきたよ》
「土蜘蛛さんの色香で頑張って」
《ワシに、全く興味が無さそうだが》
「見ない振りしてるだけですよきっと、ナイスおっぱいですもん」
《そう?揉む?》
「はい、是非」
《じゃあ、後で風呂にでも行こうか》
「了解で」
「話を戻して頂いても?」
「婿入りの話?」
「違います、術の話です」
「寿命が縮むのは嫌なんだよなぁ」
《ショナ君程に丈夫であれば、後々、大きな病に見舞われ易くなる程度だ。現代の医療で気を付けてさえいれば、寿命はほぼ全うできるだろう》
「それ、遺伝子が傷付くって事じゃんか。却下、健やかに老衰で亡くなって戴きたいので却下」
「俺は?」
「程々に苦しんで少し早めに亡くなれば良い」
「僕も反対されてもお願いしますよ、極力使いませんが。いざという時に使える様にしたいです」
《里に、婿入りしてくれないか?》
「それは」
「子種だけでも可?」
《勿論だ!里には父親の居ない者も多い、慣れているのもあるし、不自由はさせんよ》
「それで出来た子に適性が無かった場合はどうなるの?」
《そもそも適性の全く無い子は稀だ、外からの血で出た事は1度も無い。性格も含め適性の無い子供のみが外へ出される、ショナ君の子であればどの面でも大丈夫だろう。だが、もしそうなればショナ君に引き取って貰う事も有り得る。億が1にも無いだろうがね》
「億ね、2〜3発に1回あるかどうかか」
「何をどう計算してるんですか」
「精子の数、どうだねショナ君や、里への恩返しに1発」
「話を逸らそうとしてますよね」
「いや、本気。強化も影使うのも覚悟が必要でしょうよ、今回の交渉はそれを示すのと同時に等価交換でもあると思う。3発以上の何かを提供せねばいかんのじゃない?そもそもだ、貰いっぱなしはどうなのよ。強化反対だから何かしらの提供に関しては、一切ワシは協力しないし」
《提供は容器にで構わないぞ、お相手には1度面通しはしてもらうが、それきりだ》
「ちょっと待って下さい、それは少し時間を下さい」
「だめ」
《まぁ、強化以外にも術はあるんだ、良く考えておくれね》
「優しいなぁ、土蜘蛛さんは」
《だろう?さ、次はお前さんだね》
「人払いをして貰いたい」
《おう、承ろう》
土蜘蛛さんが人差し指をクイッと下げると、一瞬にして音も無く3人が影に呑み込まれた。
便利。
「便利、ワクワク」
《先程の居間に戻しておいたぞ、さぁ、始めようか》
ちょっと痛い、痛覚をどうにかできる魔法が欲しいが。
霧散した血の匂いは、ショナと違って何かが薫る事も無く消えていった。
「匂わなかった」
《自分のは分からないもんさ。でだ、適性はあるが術との相性が悪い相が出ている。変幻や口寄せ、影移動だが、最悪の相性だ。禁忌の毒手の気はあるが、魔法と反発し、会得するにも時間が掛りそうだ》
「禁忌なのでは?」
《里を含めた一般人の使用が禁忌なのであって、召喚者には禁忌では無い。だが、治療魔法を会得してしまっている以上は、長く苦しい修行が必要になるかも知れん》
「出会うタイミングを間違えてしまったのか」
《お前さんの膜を治す前であれば特に良かったんだがな、命掛けではあるが、会得は容易かっただろうに》
「時を戻したいなぁ」
《そうだなぁ》
「あ、変幻はどう相性が悪いの?」
《お前さんは不安定だからだよ、影からも変幻からも戻って来れなくなる事が懸念される。まぁ、相性が良過ぎるとも言うがな。性格の、育ちの問題だ》
「ぐぇ、心当たりしかない。でも会得したい」
《普通は自分の為、誰かの為、何かの為に戻ろうとする。恒常性、普通であろうとするもんだ、だけど今のお前さんにその気配は薄い。心の礎になる者が出来るか、無理にでも引っ張ってくれる者が居なければ、使い物にならん》
「人質になったら活きそうだけどなぁ」
《そうならん様にな》
「指輪貰ったから、変幻なら元に戻り易そう」
《その道具が無くては戻れんのでは、些か不安が残る》
「ね、マーリンが協力的ならなぁ」
《そう言えば会ったんだったな、相変わらず捻ているのか?》
「まぁ、そこそこ。ただ事情は薄っすら聞いてるので、無理強いし難い」
《だからこそ、この里に誘ったんだが、めっちゃ怯えられたなぁ。繊細な癖に夢見は大変だろうに、お前さんもマーリンも》
「鬼婆退治せにゃならんの」
《それは蜜仍が居れば叶うさね、そろそろ戻るか。汁粉が出来たそうだ》
灯籠を片手に来た道を戻ると、きな粉餅のお汁粉が置かれていた。
熱々、お餅は小さいのがゴロゴロと入ってる、ほの甘くて美味しい。
煎茶と添えられた梅昆布が、また堪らん。
「どうでしたか、桜木さんは」
「美味かった。そして成果は無し、どれも会得はちょっとって感じ。暫く保留かな」
《巡り合いの順番がな、少し歯痒いが。嫁には欲しい》
「孕むのは平和になってからじゃなきゃ無理じゃない?そんなん、下手したら口約束以下になっちゃうじゃん」
《卵子さえ提供してくれれば構わんよ、同様に面通しはしてもらうがね》
「じゃあ、ショナがケチ言ったら提供するかなぁ」
「んっ!ゲホッゲホッ」
《まぁまぁ、もし良ければの話だ。お前さんとの等価交換は既に出来ている。寧ろ、コチラが貰い過ぎている位だ》
「なら良かった、じゃあ絶対にショナの分には回さん、ショナが身体をもってして返せ」
《そうケンケンしなさんな、夕飯前の風呂にでも行こうぞ》
こういった田舎の風呂とは、時として温泉を指す場合がある。
今回はそう、温泉だ、天然露天風呂だ。
「すてき」
《男共や、御簾は薄いからあまりコチラ側を見るで無いよ》
そう言いながら着物をスルスルと脱ぎ、髪を上げる仕草が実に色っぽい、とんでもない土蜘蛛さんの色気。
視線はどこか儚げで、物憂げで、男なら誰もが飛び付きそうなもんだが。
マーリンもショナも、一体何が不満ぞ。
「マーリンは何で怯えたのか」
《向こうにはアマゾネスとやらの話があるらしくてな、それとワシを暫く混同して勘違いしておったらしい。誤解は解けた筈なんだが、どうにもアマゾネスの印象が拭えず、つい構えてしまうそうだ》
「あー、成程」
《本物の蜘蛛と同じく、交われば食べられるとも思ったそうだよ》
「マーリン面白いなぁ、今度会えたら土蜘蛛さんの話して良い?」
《先代の話だから問題無いだろう、単なる昔話だしな》
「うん、ありがとう」
《にしても、従者をあまり苛めては可愛そうだ。子種の話も、貰えるモノは貰うつもりで話に乗ったが、そもそもは愛情や善意からの提供が前提だからな?》
「死ぬ覚悟ばっかりの人を止めるには最適かと、子供を作るってのは違うベクトルの覚悟が必要だろうから。容易く命を使わない為のストッパーになりそうじゃん」
《だがなぁ、酷だ》
「従者のプライドがズタズタだろうから、無茶しないで戴きたい。本当は全員救いたいさね、犠牲は少ない方が良い。だけど自己犠牲はワシのモノ、ワシだけで良い」
《危うい考えなのは分かっているな?》
「もちよ、良い面も悪い面もある」
《はぁ、誰かとくっついてしまってくれれば、その相も逆転一発サヨナラ満塁ホームランなんだがな》
「なんて難しい事を言うのか、酷だ、酷い」
《せめて、親友だの運命の人だのと感じる者は居らんのか》
「血反吐吐かせたいの?ダメージが凄い、エグい」
《ま、コチラに来てまだ日が浅い、そういった者に出会って無いのも無理は無いが。にしてもなぁ、大事な人がおらんのはなぁ》
「攻撃の手を緩めるフリをして、追撃しようなんて、とんでもなく酷い人だ」
《あははは、打てば響く感じが堪らん》
「ショナー、土蜘蛛さんが苛めるよー、君のせいだー」
「何で僕のせいなんですかー」
「ショナを苛めるなってー、苛められてるー」
《そうだぞー、苛められるなー、主を苛めるぞー》
「無茶言わないで下さいよー」
《あはははは、がんばれー》
「あはははは、そうだー、がんばれー」
寒い地方の熱湯は堪らん。
湯樋には竹を使い、冷ましながら浴場に流し入れ、あまり熱ければ川の水も入れられる。
年4回、竹を新しく変えた日は特に匂いが香るので、その日は良く混むそうだ。
寝湯の枕木は特に頻繁に削っているそうで、今日がその日だったらしく、杉の良い匂いがする。
《なぁ、ちゃんと食事は摂っているんだよな?》
「そらもう面白がられる程によく食べてますよ」
《里の心配をしてくれるのはありがたいが、お前さんこそ何か不自由はしていないか?》
「ちゃんとした召喚者になりたい、ほんの少しでも。だから毒手の話が出た時にちょっと嬉しかったんだけど、上手く行かないもんだ」
《それこそ血反吐を吐く思いで毒を摂取しまくれば、いずれその体液は毒になる。が、番う相手を選ぶ事になるかもしれんぞ?》
「体外受精だか人工授精で良かろうが」
《相性が悪ければ、精子すら殺す体液になるが》
「あら便利」
《諦めんか。本来は子供の頃から鍛錬するんだ。今更毒を摂取して本当に毒手使いになるかも分からんし、なれぬかも分からん。相性は悪いとは出ておらんが、余りに賭けが過ぎる》
「ちょっと毒を摂取してみたら分かるんじゃね?」
《下痢嘔吐、内臓が灼熱に焼ける様な痛み。痺れ、麻痺、呼吸困難等が出るぞ?》
「それ一遍にはしぬ」
《近道は一遍にだ》
「ぐえ、むり。折角手に入れた健康を手放すのは惜しい」
《諦めてくれて助かるよ》
「まだだ、苦痛への対策が出来たら頼む」
《諦めの悪い奴だなぁ》
「影も変幻も諦めて無いからね」
《分かった、ならショナ君の修練に立ち会わせてやろう》
「やった」
《泊まっていくなら明朝にでも行なうが》
「宜しく」
《おうさ》
思いがけず泊まる事となったが、夕飯のクジラ汁に気が緩み。
あっという間に眠ってしまった。
『マサコ・リタ・小野坂』
「蝋燭屋」
《山岸魚河岸店》