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1月28日

《ドリアード》「ショナ」『エミール』『ナイアス』『白蛇神社の白蛇さん』《弁財天さん》『クーロン』《カールラ》「賢人君」「タケちゃん」「ミーシャ」「リズちゃん」「加治田父」「柏木さん」『クエビコさん』【ソラちゃん】『エンキさん』《ティターニア》『エイル先生』『オベロン』

《ハナ、迎えじゃぞ》


「んー……ん?誰が?」

《ショナじゃ、アヴァロンにおる、泉での転移許可申請が来ておるのじゃ》


「おう?うん、宜しくお願い」


 何の事か良く分からないまま、泉の前でボーっとしていると、泉からショナが出て来た。

 復帰、早いのでは。


「おはようございます、桜木さん」


「ショナ、もう復帰って早くないか?」

「それは後でお話ししますね、朝会の予定が決まりました、約2時間後です」


「朝会?エミールは?」

「欠席でも大丈夫だそうですよ」

『あ、僕、出たいです、何の顔合わせも出ないのはちょっと』


「でも魔王の転移はダメだし」


『あのぅ…スクナ様に仮のご許可を戴いてるので、近くの弁財天様か蛇神様、龍神様の神社があれば…行けると、思いますぅ…』


「そうなの?じゃあちょっと行きたい所が」




 ナイアスの助言に従い、アッチで行こうと思っていた白蛇神社さんへ。

 先ずはショナと魔王と転移。


 悪夢を食べてくれる白蛇さんと、多才な弁財天さんが奉られている有名な神社。

 思っていた場所と少し違う所にあったが、白い石畳が綺麗。


 鳥居をくぐり本殿に挨拶し、更に奥の池の神社に手を合わせると、2人の神様が現れた。

 大きな白蛇さんと、絶世の美女神様。


《いらっしゃい》

『うむうむ、遠縁が世話になったそうだな』


「いえいえ、お邪魔します、桜木花子です。友達を呼ぶのに場所をお借りしたいです」


《それだけで良いの?》

「はい、スクナさんが許可した子を仲介して、泉の転移をさせたいので」

『酒一升と温泉玉子だな』


《もう、勝手に決めて。才は何か要らないの?武芸はどう?》

「ありがとうございます…素養あるんですかね?」


《そうね……微妙ね》

「ほらぁ」


《まぁまぁ、そう拗ねないで。仲介の子はどちらの子?》

「西の水の精霊、ナイアスちゃんです」


《あぁ、スクナの。いらっしゃい、西の水の精、ナイアス》


 弁財天さんが池の水鏡に手を触れ、呼び掛ける。

 水が人型に盛り上がり、ナイアスが出て来た。


『宜しくお願い致します、ナイアスですぅ…』


《いらっしゃい、ナイアスちゃん》

『良くぞ来た。スクナから聞いているぞ、一緒に召喚者の温泉を作ったと』


《あら羨ましい、お話を聞かせて頂戴な》

『そうだな、酒のツマミにピッタリだ』


『ありがとうございます…あの、お呼びしてからでも?』

『そうだったな』

《そうね、今日からココはあなたの寄り城、依り水、お好きにお使いになって》


 ショナから温泉玉子とお酒を一升受け取り白蛇さんに渡すと、3人は池の中へと消えていった。

 と同時に水が跳ね、エミール達が池の端に立っていた。


「オッス、帰りもココです。後はカールラとクーロンに飛んで貰います」


『《はい!》』


 タケちゃん、ミーシャ、賢人君は魔王の空間転移で先に省庁へ。


 ショナはクーロンに乗り先行、カールラにはエミールと一緒に乗り、省庁へ向かった。




「大丈夫だった?寒く無かった?」

『はい、フワフワで暖かかったので大丈夫でした』

「以外と大丈夫でしたけど、少しでも動いたら吹き飛ぶ緊張感はありましたね」


『え、クーロンはそんな感じだったんですか?』

「えぇ、アレは音速越えかと」

『先にっていわれたから』


「なるほど、一応聞くけど朝会って何すんの?」

「朝食を食べながら会議します」


「朝礼とか挨拶のレベルじゃないのか」

「中つ国の方や、欧州の方も来られますから、そのレベルは超えますね」


「マジか…途中まで穏やかそうと思ったのに…マナー良く知らないから人前って嫌だ」

「大丈夫ですって、お教えしますから。先ずは前髪を切りましょうね桜木さん」


「会議終わってからが良い」

「ダメですよ、もうマスクと前髪で顔が見えないじゃないですか」


「断る、終わってからで」

「ダメですって、各国の関係者に顔見せも兼ねてるんですから」


 ショナを先頭に廊下を歩き、右手でエミールの行く先を誘導していたが。

 その手をショナに渡す、本当に申し訳ないが無理なもんは無理。


「すまないエミール」


 走って逃げたものの、最後方に居た筈の賢人君に秒で捕まった。


 そのまま会議室の中に連行され、顔を上げると、それぞれの国の朝食が用意されたバイキングが見えた。


 顔合わせが無いなら最高なのに。


(どうして逃げたんすか?桜木様)

「顔見せだから髪切るってショナが言うので」


「成程、恥ずかしがり屋さんなんすね」

「そうそう、なので見逃してくれ」


「じゃあ、もうお腹か減ってキモイって事でココに籠城しちゃいますか」

「ありがたい、頼む」


 賢人君がショナを説得するのに成功すると、ショナは柏木さんの元へ。

 自分達は先に席につき、早々に朝食にありついた。


 各種サンドイッチにアスパラガススープの欧州セット、中つ国はしょっぱい豆花に揚げパンと1口飲茶、タケちゃんがめちゃめちゃ喜んでる。


 最後には多彩なお握りと豚汁に、箸休めのかまぼこの梅和え、タコさんウィンナー等が小鉢に入り並んでいた。


「懐かしい味だ、旨い」

「うん、ザーサイうまい」

『日本ではお豆腐でしたっけ、不思議な感じですね』


「桜木様、この形はなんですか」

「タコを模してるのです」


「なぜ肉がタコに」

「昔のウインナーが赤かったから?」


「なるほど…?このカマボコはお魚ですか」

「魚の擂り身を蒸しました」


「何故そんな手間を」

「昔はサメとかの身の活用法だったらしい、コレはクセが無くて食べやすいよ」

『どんなモノでも手が込んでて美味しいですよね、国の環境は似てるのに、何故こんなに違うんでしょう…』


「不思議だよね…そっちの本場は微妙って、本当?」


『朝と日曜は良いんですよ、本当。それに、本格的な中華料理とか日本食を食べちゃうと、やっぱり比べちゃいますよね』

「向こうで食べた事あるの?」


『遠征で何度か、天ぷらで愕然としました。臭くないし、サッパリ軽くて』

「そこか」

「ははは、確かにアレは良いモノだ、しっとりもサクサクも味も選べるしな」

「おにぎりこそ至高です」


「どんだけ米好き…米に天ぷらonした天丼なる物もこの世にはありますよ、ミーシャさんや」


「桜木様も好きですよね、お米」

「確かにお米大好きだわ、ユグドラシルで何か物足りないと思ったら米だったし」

『ふふ、僕は元の食事と近かったので楽でしたけど、ずっと違うのはストレスなんじゃ?』


「ストレスって程でも無いんだ、ちょっと物足りない感じ」

「だな、お代わりしてくる」


『あの、僕、御手洗いに…』

「あ、案内するっすよ」


「桜木様、お代わりします。如何ですか」


「じゃあ、おにぎり全種類で」

「はい」




「おはよう、食いしん坊」

「万歳。リズちゃんか、おはよう」


「古い、まだやってんのかソレ…髪を切らんか髪を。目を悪くするぞ」

「ジジイみてぇな事を言いやがって。顔を見られるのは嫌です、マスクは外すから勘弁して」


「従者が居なきゃ不審者だな」

「おう、居るから問題無し。座る?膝で良ければ」


「ん。体調は良さそうだな」

「おう、膝の上で偉そうだな」


「おう、敬えチビ」

「そっちこそ、チビの癖に生意気だ」


「ガキ」

「ミクロ」


「あ、こら、リズちゃん。召喚者様に座って、すみません桜木様」

「あ、いや、座らせたんです。パパさんも一緒に朝食如何ですか?」


「そうなんですか、ありがとうございます。私はまだ仕事があるので。リズちゃん、良い子で居てくれね?」


「はいパパ…で、調子は良いんだな?」

「良い、目が疲れにくくなった」


「その割りにタブレット学習が疎かだぞ」

「直ぐ寝ちゃ…監視されているだと」


「アホ、さっき受け取ったデータを少し見ただけだ。まだ魔力が足りないのか?」

「みたい、どんだけ成長するんだろうか」


「さぁな。ほれ、魔力の測定器兼安全装置だ、睡魔に襲われる程の低値1歩手前で、タブレットのアラームが鳴る、はず」


「あい、ありがとう」


「クソ、チビ、ガキが…俺も会いたいよ神様に」

「良いよ、後で行く?」


「体を作り替えてくれる神様なら最高なんだが」

「なんで」


「中身は男ぞ」

「コッチに性転換手術無いの?」


「痛いのはイヤ、子孫残すのに少し問題も出るし、副作用もイヤ」

「リスクはつきものぞ」


「だけどー、親に貰った体を傷つけたくないしー」

「ぶりっ子は卑怯だ」


「お、その子は迷子かハナ」

「違う、加治田リズ、日本の転生者やで」


「そうか噂の。李 武光だ、宜しく」

「おう、宜しく頼む」


「あ、リズちゃんじゃ無いっすか。お久し振りっす」

『リズちゃん?』

「おう、俺がリズちゃんだ」


 リズちゃんやエミールが挨拶を交わしていると、ショナが戻って来て円座の正面に座った。

 機嫌が分からんな、鉄仮面発動しとる。


「お話の途中で申し訳無いんですけれど、今回の進行を軽く説明しても良いですか?」

「なんだ、まだ聞いてないのか」

「さっきまで何も知らんかったが」


「急に決まってしまいましたしね、急いで動いたんですけれど」

「お疲れ。休暇が潰れてしまったか」


「いえ、凄い暇だったので大丈夫です。で、説明ですが、桜木さんの憂慮する召喚者の紹介は最初に行われます。パパッと終わる予定なので、堂々としていれば大丈夫です、次に従者関連の話し合いと、通信関連……」


 ザックリ言って合同業務連絡。

 最初は中つ国からの要請が有り、3国と協力国での顔合わせにと。


 コレ、ただ詳しい内容を黙ってただけでは。

 ショナ君め。




 そうして暫くしてから、柏木さん主導の会議が始まった。


【では、会議を始めます】


 リズちゃんは満腹になったのか、そのまま膝の上で昼寝をし出した。

 徹夜は怒られるので、早朝から作業していたそうだ。

 暖かい。


 説明通り、先ずは召喚者の紹介から。

 タケちゃん、自分、エミールの年齢順に行われた、仮の所属国と名前を言われるので、立ってお辞儀をして着席。


 自分の時はリズちゃんを賢人君に預け、会釈して終わり、と簡素で安心。


 したのも束の間、従者の話しに入ると、さっそく空気が氷ついた。

 タケちゃんだ。


「俺は、余程有能で無い限り、女性の従者は要らんと言った筈だが、この資料はなんだ。事情は話した筈だが、一体何を考えている」


『僕もお願いします、まだ子供ですが男ですし。女性なら、それは国を越えても、ハナさんに付けるべきかと』


「おぉ!それ良いなエミール!我らの国でもそうしよう、有能であればハナに付ける、これは共通の決定事項として貰いたい」


 動揺が広がりまくってる。


 資料の説明をしてるのかと思ったが、タケちゃんとエミールがこの話しをしてたとは。

 標的がコッチに来るじゃないか。


 ほら、重役席がコッチ見てザワザワしてるし。


(いや、そんないらねぇんですけど)

(そうっすよね、大人数なりの大変さも有りますし)

《なんじゃ、イヤか?》


(ちょっと、女は)


《何を言っておる》

(群れ方を知らない)


《ジュラもイヤじゃったか?》

(んー…短期間だったし大丈夫)


《エイルはどうじゃ》

(神様で先生だから平気)


《ふふ…クエビコ杖を出すのじゃ》

(おう?)

『人見知りか、難儀な』


(だって、つかなによ)

『ドリアードが面白いモノが見れると言うんで来た』

《この喧騒が堪らんじゃろぅ、人の激しい感情のぶつかり合いじゃ》


『確かに、空気がピリピリしている気配が、実に刺激的だ』

(ばか、野次馬どもめ)

《きひひひひ》


 騒ぎが全く収まる気配が無い、ざわざわが凄い。


 そして視線が死ぬ程痛い。


 ショナ越しに凄い睨まれてるし。


(視線が死ぬ程痛い)

《ふむ、お主が何か言わなければ収まらなそうじゃな…きひひひひ》


「あのー…」

【はい、桜木様】


 喧騒が収まり視線が完全にコチラに集中した、席を立ち、声を絞り出す。


「た、武光君は実力主義なんで、練習試合をしてみてはどうかと。今度、次回にでも。主に戦いで背中を預ける武光君やエミールに、選ぶ権利があると思うので、どれ程の熟練度か見せれば、いつかは2人とも、納得するかと」


「そうだなハナ、そうしよう」


《では早速、次の休憩後にでもお見せしましょう!》


 斜め前の欧州の美人従者め、思い切りが良過ぎる。

 怖いわ。


「よし分かった、それは俺が受けよう」

《ブリジットと申します、宜しくお願いします武光様》


「あぁ、では話を続けてくれ。通信関連だったか?」


【はい、ありがとうございました。では、衛星基地の活用で通信網の拡張を……】


 各国共通の防衛システムの構築、通信設備等の話し合いが進む。


 長い、眠ったリズちゃん暑い、トイレ行きたい。


(賢人君、リズちゃん預かって、トイレ行きたい)

(はい、場所分かります?)


(いいや)

(ですよね)


 賢人君とショナが視線を交わし、スマートにスムーズにトイレに案内された。


 会議と言うモノに初めて出席したが、結婚式の様に出入りし難い雰囲気。


 帰りたい。




「お疲れ様です桜木さん」

「お疲れ、もうやだ世界樹に帰りたい」


「ちょっとここで休憩しましょうか」

「うん、食べる雰囲気じゃ無いし、視線が痛いし、マジ帰りたいし」


「少し度が過ぎてらっしゃる方も居ますけど、大丈夫ですよ。半分は羨望の眼差しかと」

「そうかー?楽天的過ぎねーか?」

《じゃな、流石にそれは楽観的過ぎるぞぃ?》

『人の感情の機微に少々難ありだが、護衛の才能は我々の所属に欲しい人材』


「クエビコ様、最初の人事の時の話し合いを出さないで下さいよ…今は視線の区別は付きますって」

《本当かのぅ》

『まぁ結果は自ずと出るだろう』


 部屋に戻ると、自分が見た夢や神託が紹介されていて、何だか少し恥ずかしかった。


 たかが自分が見た夢が、神託と同列に語られている。


 トイレに戻りたい。


(なにこれ恥ずかしい、トイレに戻りたい)

《何を言う、誇って良い能力じゃぞ?》

『クトゥルフに渡れる程の夢見の力があるんだ、誇れ』


(ぅうん…でもタケちゃんやエミールのストレージはどうすれば?)


『クトゥルフの素質が無いとなれば、アクトゥリアンが力を貸すだろう』


(そのアクトゥリアンってのは何処の誰なのさ)


【はい!呼びました?呼びましたよね?名前】

「ひっ!」


 どう見ても宇宙人が。


 銀色のぬるっとした人型が。


 真横に。


【どもー?】


 手をひらひらと。


「あ、うちゅ、うじ、ん」

【はい!宇宙人です!】


『ハナ落ち着け、その銀色のがアクトゥリアンだ』

《ほんに存在しておったのか、初めて見たわい》


 ショナや賢人君を見ると、ちょっとビックリした程度。

 周りの人間も直ぐ話に戻りだした。


 ただ、タケちゃんは絶句している。


 アクトゥリアンの説明では、この地球を宇宙から観察し、時には助ける守護者だそうだ。


 だが介入は最低限に留めつつ人間を見守るが、時には召喚者の成長を促す役割もあるらしい。


 クエビコさん曰く、ここ何十年以内に接触して来た新顔、クトゥルフ以降の新種だそう。


【宜しくお願いしますね!】


「あ、うん、宜しく…宇宙の石取っちゃったけど大丈夫?」

【えぇ、私達には必要ありませんから】


「そう…」


【私達を必要として頂けるのを楽しみに、ずっーーーと、お待ちしておりましたんですよ!】

「あ、ごめんね、ありがとう…」


「あ!アクトゥリアンさん見た目、見た目チェンジっすよ」

【あ!ですね、失礼しました!】


 アクトゥリアンが腕輪を操作すると、人の姿に変わった。

 賢人君が機転を利かせてくれたけど、ちょっと違う、何か違う。


 ダメだ、また夢か妄想なんじゃないかと疑い始めてしまった。


 ココは精神病棟で、みんなお薬でハッピーで。


《これこれ、我らを見た時より驚いておらんか?》

『何を惚けている』

「これはちょっと、おいつかない…」

【この姿が気に入りませんでしたか?】


「いや、宇宙人が居る事実を受け止め切れなくて…」


【慎重な方ですものね…大丈夫です、ご安心ください!先ずは私達の能力を体感して頂きましょう!】


 アクトゥリアンが腕を伸ばすと、魔王の様に何も無い空間から、ケバブ屋の大きな紙袋を取り出した。


 とても良い匂い、食べたかった匂い。


「そのケバブは…」

【はい!食べたがっていたケバブですよ!】


「誰にも言って無いのに…ネットのプライバシーが…」

【お気になさらず!全てを愛するのがアクトゥリアンですから!】


「あの、いや、もう良いや。つかその能力はどうやって?」


【では早速!武光様とエミール様にダウンロード致しますね!お2人とも、指を貸して下さい】


 2人が指を差し出すとアクトゥリアンも指を近づけ、その先端が輝く。




 長い沈黙の後、エミールが話し出した。


「慣れるまでは、喋りながらは難しそうですね」


 どうやら脳内で能力の解説をして貰ったのだろう、アクトゥリアンがタブレットにも触れ、説明書を入れたのかタケちゃんは一気に黙読しだした。


「こんなに介入して大丈夫?」

【はい!標準装備ですから介入にすらなりません!】


「そうか、感謝する、アクトゥリアン」

『ありがとうございます、アクトゥリアンさん』


「…いいなぁ…ちょっとウラヤマ」

【うふふ、少しお裾分けです】


 右手の人差し指を差し出されたので、左手の小指を合わせた。


 その後アクトゥリアンがタブレットにも触れると、良くある宇宙人マークが現れた。


【データを再構築します、暫くお待ち下さい】


 ソラちゃん、データなのか。


 干渉し合わないの?


 大丈夫?


 ソラちゃん?

 おソラさん?


「お2人とも、コレで空間移動やストレージゲットっすか?」


『はい、そうみたいです』

「ん、早く移動したいな」


「ん?移動?」

「魔王と同じ空間移動だ、マニュアル読んでないのか?」

『ハナさん忙しそうでしたもんね』


「いや、全部読んで無いし、そもそも空間移動は抜けてたわ。魔王居るし…後で読む、ます」

「遂に私の存在意義が…」


「どんまい、心置きなく転化出来るね。エミールは何処行きたい?」


『あっちで、自分が住んでた同じ場所でしょうか、座標は覚えてるので』

「それ良いなエミール、俺もそうするかな」


【拡張機能再構築、完了しました】


 お疲れ様、不具合無し?


【問題はありません】


 そっか。


「桜木さんは大丈夫ですか?」

「うん」


「では、僕は柏木さんに報告してきますね」


 この能力も即座に議題に上がり、益々戦闘力重視の従者を随行させる方向に傾いていったので、また視線が痛くなった。




【では午前の会議を一旦終了、1時間後に会議を再開致します】


 各々が一旦解散し、柏木さんが早速コチラに来た。

 怒られるのか。


「柏木さん、ごめんなさい」

「いえ、上手く纏めて下さって感謝してます。あれで良かったのです」


「もうちょっと、どうにか出来たんじゃ無いかと後悔しとります」

「皆、充分に分かっています。従者に誇りを持つ者も居ます、そう、簡単には引けないのですよ」


「ぅーん」

「気になさらないで下さい、午後の食事は甘味が増えますよ、楽しみにしてて下さいね」


「ぅん」


「大丈夫ですよ、桜木さん」


「…敵は作りたくなかったんだけども、どうしてこうなった、何か、ごめんな?」

「力を示せればいいんだ、気にするな。それに、新しい技を習得出来るかも知れないしな…よし、準備運動をしに行くか」


『僕は少し健診する事になりました、ハナさんはどうします?』


「ちょっと神様に会いに行く」




 初めての空間移動はエンキさんの神殿。

 魔王は出来ないのに、不思議。


『で、その子はどうしたんだ?』

「加治田リズ、転生者です。男の体になりたいんです」

「だそうです、エンキ様。相談に来ました」


『うむ…人の手でも、どうにか出来るのでは無いか?』


「…怖いんです、月のモノが怖い。痛いのが怖い、死んだ時の事を覚えていて、痛みが怖くて、今でもまだ夢に見ます」

「麻酔するっしょ?術後の痛み止だってくれるべ」


「薬にだって限界がある…コッチで盲腸した時に体感した……前世では怪我も病気も無くて。死ぬ時に、初めて痛みを思い知ったんだ。だから怖い」

「逆か、そら怖いか、けどうらやま」


「それからホルモン療法も怖い…ママが妊娠して今はツワリが酷くて…可哀想で、怖くて見ていられない。辛いんだ、凄く」


「なるほど…ごはん好きだけど、例の時期に米の炊き立ての匂いがダメになる、って言ったら恐怖に慄く?」


「もうちびりそう。本来はカウンセラーを挟むんだが、こういう事例が初めてで、年も年だし難航してる……許可が貰え無ければ最悪この体のままなんだ…成長するのが怖い、全部が怖い」


「その怖さがイマイチ分からんくてごめんな…でもツワリ怖いの分かる、出産なんてもうな、怖いよな」


『普通に、穏やかに死ねていたら、お前はその性を受け入れたか?痛みが無ければ、その性を受け入れるのか?』


「それは……分からないけど…記憶なんて無くて、普通が良かった、何も無いのが良かった。そうしたらこんな怖くなかった、普通に生きて親にも心配掛けなかった!普通に生きたかった!」


『ギフトと思えないか…これからお前は大きくなって、そして老いて死んでいく。時には他人のせいで病気や怪我を負う可能性もあるだろう、それなら、苦痛を受け入れられるのか?治療に苦痛が伴うなら、治療を止めるのか?』


「受け入れるけど!でも、それとコレとは違うじゃ無いか!このままで病気なんて来たら、もう…」


「怖いよなぁ…自分も今、変えられるなら変えたいから気持ちは分かる。更にリハビリも副作用も無しなら、超魅力的よね」


『…永久に、か?』

「一時的に。今の自分には特に邪魔だから色々無くしたい、その代わり、反動は受け入れる」

「お前、そこまで…そこまでするのか?」


「いや、そうじゃなくて。向こうでお腹の病気が再発して、治療中にコッチ来ちゃってさ。神様達に体を良くして貰ったし、軽くなるかと思ったけど、そもそも邪魔。しかも、もう不調が来てる、リズちゃんが体を変えたいの分かるよ、元の理由が少し違うけど」


『そうか、オチビにはこの覚悟はあるか?親に嫌われてもするのか?』

「その位、説得する。ママが安定したら説得するつもりだったし」


『ダメだ。今日から母に付き添い、手伝い、説得してから来い、お前にはまだ時間がある、話しはそれからだ』

「お、やったね、事実上の許可じゃん」

「え、でも」


『逃げるなら手助けはしない、いずれお前の嫁が、娘が苦しんでいたら目を背け逃げるのか?そんな奴を、助ける価値なんぞあると思うのか』


「うっ……はい…」

「やったね、がんばれ。一緒に家に行ってやろうか?」


「…いいや、先ずはパパと話す……ごめんなさい、エンキ様」

『あぁ、帰って良く親と話せ。ハナ、お前は送ったら戻って来い、話がある』


「すんません、人間の用事の休憩中に来ちゃったんで、いつ戻って来れるか」


『一通り落ち着いたらだ、待っているぞ』


「はい」




 休憩後、泣きじゃくるリズちゃんをパパさんに渡し、賢人君達と合流して午後の予定を聞いた。

 どうやら午後イチで、庭で決闘が行われる事となったそう。

 ショナと柏木さんは室内で小会議中。


 自分達はそのまま庭で日向ぼっこ。


 暫くして、キラキラした結界を従者達が何枚も張り、時間になると審判が中央へ進んだ。

 次にドクター、タケちゃん、ブリジットと揃い。


 合図と共に戦いが始まった。


 ブリジットの槍はしなやかで早いけど、タケちゃん自身はもっとしなやかで、凄く柔らかくて早い。


 槍を寸前でかわしつつ、槍に沿う様に攻撃の手数を増やしていく。


 時に離れ、時に近接まで寄っては、弾ける様に距離を置く。


 ブリジットに合わせていたタケちゃんが、少しずつ速度を上げ本格的に撃ち込んでいく。

 引き離されても瞬時に近付き、1撃1撃、手刀や蹴り、打撃を的確に撃ち込んでいく。


 凄く痛そう。


『おぉ』

「痛そう」

《じゃのぅ》


「わ、また入った」

『相手は硬いな』

《ふむ》


 そして遂にはブリジットの反応が完全に遅れ出した、汗が吹き出し始め、顔に一切の余裕が無くなる。


「ブリジットは緊張してるのかな、タケちゃんは余裕」

『柔らかさが違うな』

《美しいのぅ》


「見えるんすか?目で追い掛けるのでギリギリっすよ」

「うそだー、カールラもクーロンも見えてるでしょ?」


《はい、手加減してますね》

『はい、僕らならしません』


「ほらー、あ」


 呼吸を調えたブリジットの一閃を避けた時、タケちゃんが体勢を崩した。

 槍への視線が外れ、地面へと手を伸ばす。


 ブリジットの瞳孔が開き、全身に力が入った。

 大きく踏み込み、背を向け始めたタケちゃんへと、槍を大きく振り上げる。


 が、タケちゃんのスリップはワザとだった。


 大振りの槍を背を向けたまま避け、翻りながら槍を弾き、つま先で胸元からアゴまでを切り裂いた。


 どんな体幹してんだ、しかもいつの間にあんな仕込み武器を。


 ブリジットは悲鳴すら上げずに再び距離を取り、体勢を立て直し攻撃態勢へ。


「凄いね」

「はい、一応従者は精鋭揃いなんすよ」

《くぅ、手加減し過ぎじゃぞ!おタケ!》

『実際に見ると楽しいものだな、演舞とはこういうモノなのか』


 ブリジットは暗器を警戒し距離を取ろうとするも、一切離れる事なくタケちゃんが連打し続ける。

 呼吸を乱す事も無く、ひたすら攻撃を繰り出していく。


 避けるも叶わず槍が弾かれ、とうとうボディに数発入ってしまった。


 膝から崩れ落ちたブリジットは、カウント後もまともに立てず、試合は終了した。




「お疲れ様タケちゃん、汗ぐらい出してあげなよ」

「ハナ、汗はコントロールしてないぞ」

《随分と手加減しおってつまらんぞ!》


「そりゃあ模擬なんだ、敵じゃ無いんでな」

「流石武光様です!素晴らしいお手並みでした!次は私と手合わせ願います、桜木様!中つ国のシェリーと申します!」


「ひぇい」

「お手合わせして頂けるんですね!ありがとうございます!ではお待ちしてますね!」


 返事をしたつもりは無いのだが、大声で宣言し、庭の中央へ向かってしまった。


「なにあれ帰りたい」

「すまん…直ぐにギブアップしてくれ」

「病欠にしときます?」

「私が、ショナと柏木氏に止める様に言って来ます」


「おう…」


 この騒ぎにショナや柏木さん達はまだ気付いて無い、ミーシャが急いで連絡に行ったが。


 視線が痛い。


 欧州の従者も中つ国の従者も静観の構え、自分が出るしか無いのだろうか。


 カールラとクーロン使ったら、ダメか、納得しなさそう、困った。


 困ったぞソラちゃん。


 もう、行くしか。


【よろしいですか主】


 へい、もちろん。


【以前提案させていただいた、盾の射出の許可を】


 あぁ、お願いします。


【はい】


 あ、手持ちの盾を1個出して、程良いサイズで軽いの。


 ひそひそ話と冷ややかな視線に耐えられず、腕半分程の大きさの、軽めの盾を装備。


 立ち位置に向かった。




「宜しくお願いします!」

「へい」


 武器無しの体術。

 凄いスピードの打撃、斜め上からの重い1撃。


 いなし方を知らないので、真っ正面から受け止めてしまった。

 持ち手と肘がジンジンする。


 受けて立ったものの、急にムカついてきた。


 良く考えればケンカを売られたのだ。

 少しはやり返さなくちゃ気が済まない。


【射出しますか】


 ん、先ずは牽制。


 何も無い空間から、いきなり盾が飛び出して来て相当面食らったのか、一気に離れてくれた。


 呼吸を整えた後、怖い顔をしながら走り込んできた。


 何でそんな睨むのか。


 膝に。


【はい】


 気配も音も無く、後方からシェリーの膝裏に盾が直撃した。

 思いも寄らぬ痛みと攻撃に転けて2、3回転し、膝間を付く。

 くそ痛そう。


「あ、ごめん…」

「まだです!」


 更に勢い良く跳躍して来ようとしたので、盾を構えしゃがみ、ソラちゃんに。


 任せた。


【はい、腕を折ります】


 止める間も無くゴンッと鈍い音がした。

 直後、倒れ混むドサッという音と絶叫が。


「っあ゛あ゛あーー!」


 盾から覗くと腕を抱え、絶叫している。

 明らかに変な方向に途中から捻れ、手先が鬱血しだした。


「あ、ごめ」

「まだっ!」


【鳩尾に】


 顔を真っ赤にして向かってくる瞬間、目の前でシェリーが宙に浮いた。

 下から抉る様に、鳩尾に鋭利な盾がめり込んだ。


 嫌な音が。


「ごぇっ…っふ…ぐ」


 嘔吐し膝を付いても、まだ立ち上がろうとする。


 まだ戦意が。


【こめかみに】

「ダメ!ソラ!!」


 任せるんじゃ無かった。

 辛うじて盾は収納され、直撃はまぬがれたが。


 シェリーの手は完全に紫色になり、地べたに嘔吐し続けていた。


 まだフラフラと立ち上がろうとするシェリーにセコンドドクターが近づき、終了の合図を出した。


『…っ試合終了!』


 ありがとうソラちゃん、盾しまって。


 それと今後、人との模擬戦では首から上への攻撃も、どこか折るのも基本的にはダメ。


【はい、お疲れ様でした】


 キラキラと結界が解け舞い散り、各国の人間の表情やざわめきがより明確に確認出来る。


 タケちゃんの時とは違う雰囲気。

 困惑や畏怖なのか、重苦しい空気と視線。


 盾が直撃する直前の周囲からの悲鳴や、今も聞こえる動揺の声が耳に痛い。


 皆に、タケちゃんに何て言われるだろうか。




「凄いな!圧倒的じゃないかハナ!どうやったんだ?凄いスピードだったぞ?」


「…自分の力じゃ無い、ストレージから盾を射出させた。後半はソラちゃんに任せて失敗した、あんな怪我を負わすなんて」


「なるほどな!そんな、何を落ち込んで…向こうは弱いから負けただけだ、それに初めて戦ったのなら、手加減出来なくても無理は無い。落ち込むなハナ、治らない怪我じゃない」


「卑怯ちっくだから、タケちゃんには怒られるかと思った」

「戦に卑怯も何もあるもんか、使えるモノは何でも使うのが戦いだ。俺は思い付かなかったんだ、ハナは凄い」

「そうっすよ、桜木様ケガは?」


「うん、無傷、それより相手が」

「気にするな、負けた方は負けた事にイライラして気が立ってる、暫くはそっとしといてやれ…お互いに落ち着いて、また後で様子を見に行ってやればいい」


「うん、ありがとう」

《にしてもじゃよ、こうも物理的に攻撃力が高いとは、実に鼻が高いぞぅ》


「怖いのはソラちゃん、ソラちゃんに制限掛けずに任せたのが間違いだった」

『クトゥルフの本質がそうだから仕方あるまい、今後はコントロールをしっかりな』


「はい、反省します」

『ご主人は、武器出さなかったの』

《優しいから良いの》

「そうっすよね!まだ戦おうとしてましたし、遠慮せずに当てちゃえば良かったんすよ、アイツ、ずっと嫌な視線で睨んで、しまいに不意打ちで絡んで来たんすから」


「まぁまぁ、もうショナが来るからそこら辺で止めておけ。ハナ、元は俺の国の人間が発端だ、何かあって責められるべきは、責を負うべきは俺だ。ハナは何も気にするな、桃やるから落ち着け」

「でもあれはあんまりにも」


「良いんだ、ハナは巻き込まれただけ、火の粉を払ったに過ぎない。蝿や火の粉に気を使うなら、歩くのすら謝罪が必要になる。大丈夫、何も気に病むな」

《そうじゃな、今は気にするな。次に植えるモノでも選んでおくが良い、ティターニア達が待っているぞい》

『たらの芽だろう。腹一杯、天ぷらにして食べたいと言っていたしな』

『僕食べたいです、天ぷら』

「おう、ハナは天ぷら嫌いか?」


「…すき」


『ふふ、その、たらの芽は、どんな味なんですか?』

「山菜…野菜、アスパラみたいに、苦くない、良い匂い」

「ナニで食うんだ?塩か?」


「塩とか、天つゆとか…」


「桜木様の一番は、やっぱ海老天すか?穴子天?イカ天あるのに何でタコ天は無いんすかねー」


「タコ天は、さつま揚げで既に有名だからじゃ?」

「タコ天、さつま揚げは何ですか」


「カマボコを揚げたのが、さつま揚げ。それにタコを加えて上げたのがタコ天。さつま揚げは天ぷらとも呼ばれていたらしい、向こうで」

『そうだ、そういった説がある。食い物と人体の知識は豊富だな』


「あんま学校行って無かったから、知識の偏りが激しい」

「ははは、面白い知識の偏りだな。俺も武術ばかりで、数学は苦手だ」

『数学、楽しく無いですか?』




 皆が気を紛らわせてくれてる間に、ようやっとショナが来た。


 時計を見たら宣戦布告から20分も経ってない。

 待つの苦手過ぎる。


「桜木さん!大丈夫で…バイタルチェックしましょう。皆さんは先に席に戻っていて下さい、直ぐに終わりますから」

「ただの武者震いだと思う、大丈夫」


「大丈夫じゃ無いですよ、今朝の魔力の半分以下じゃ無いですか、取り敢えずココに色々持ってくるんで、食べて下さい」

「はい」


《ふふ、早速、過保護じゃ》

『まぁ、仕方あるまい』

「はい、一通り持ってきたのでどうぞ」

「ありがとう」


「どれが一番ですかね?」


「…スイートポテト」

「会議が終わったら、何が食べたいですか?」


「天ぷら、エミールとタケちゃんが食べたいって」

「良いですね、お店で食べますか?アヴァロンで食べますか?材料用意しますよ」


「穴子捌くの?」

「流石に穴子は魚屋で捌いて貰いますよ」


「さっき、たらの芽の話しした」

「お好きですもんね。そう言えばキノコを沢山戴いたとか」


「旨かった、舞茸の天ぷらも良いか、お蕎麦と合う。十割蕎麦は好きでないけど」


「細めのうどんとかどうでしょう」

「いいね、エミール啜れるかな」


「オヤツ、もっと持って来ます?」

「もう大丈夫。戻ろう、今戻らないと、一生戻れない」




 席に戻ると、旧米国からの報告が上がっていた。


 神託を疑い疎かにする一派が介入し、情報が混乱する様に細工されていたと申している。


 その者達は国際裁判になり氏名と顔写真が全世界に発信され、一族郎党即時出国、以後永久に加盟国への入国禁止、無色国家への所属変更措置となったそう。


 無色国家とは、入国は自由だが出国が非常に難しい、非加盟国。

 科学の発展も既存の神も信じない者達の楽園、病弱な自分にはペニシリンすら拒否する国家なワケで、考えられん。


 何回死んでる事か。


 2桁いくか?


【病歴へのアクセスを許可して戴ければカウント出来ます】


 面白い事を、やって。


【はい】


 ソラちゃん、ストレージを使うと魔力って消費するの?


【はい、今回は重量のある物体をストレージ内で加速させ射出したので、消費が大きくなりました】


 なるほど、手加減しろって言わないでごめん。


【はい】




 合間に1度だけ、小休憩が入り。

 会議の最後には再び従者の話しになった、今度の進行役は中つ国。


 欧州とも話し合った結果、各国の従者の交流や交換が了解されたそうだ。

 より良い人材の育成、完全実力主義の復活、従来の従者の原点に立ち返るとか、何とかかんとか。


 何だかお腹が痛いのでトイレへ。


 直ぐに帰って来たのだが、既に会議が終わっていて、人々が忙しなく動いている。


 ドアの近くに柏木さんが来た、気まずい。


「桜木様、お疲れ様でした…落ち着かれましたか?」


「柏木さん、ごめんなさい」

「いえ、お強くなられて…これで私も一安心です」


「いや、自分の能力じゃ無くて、精霊のお蔭なんです」


「それも実力の内です…それでその…中つ国のシェリーがお会いしたいそうで、武光様が仲立ちして頂けるそうですが。お断りしても全く問題が無」

「いく」


 医務室へ行くとベッドにシェリーが横になっていた、手足はギプスを填められ、あちこち包帯まみれ。

 ハッキリ言って可哀想な状態。


「桜木様、この様な格好で失礼致します。先程は大変な失態をお見せし、お心遣いを無下にする所か失礼を重ねてしまい、申し訳ございませんでした」

「こちらこそ、痛くしてごめんなさい」


「いえ、今さっき聞きました、全て、最後の1撃もお止めになって下さっていたと。無礼な私の行いにも関わらず、それなのに、本当に恥ずかしい限りで……本当に申し訳ございません」


「ハナ。上役が面倒臭がって、女だから排除したとしか聞いていなかったそうだ、後でみっちり絞めて来る。すまなかった」


「いやいや、そうか、ごめん。事情を聞いてもシェリーは納得出来ない?」


「いえ、とんでもございません、我々の将来の事まで考えて下さっていたのに……お婆様にも、顔向けできません」

「シェリーの祖母が例の病気をしてたと分かってな、従者反対の育ての祖母が従者だったと、そしてその反対の理由も、例の病気も理解してくれた」


「はい、体の事は先ほど知って…だから早く孫を欲しがって、従者も反対してて。ごめんなさい…死に目にも会え無くて…ごめんなさい」


「お墓参りの習慣は?」

「有る、後で送ってやるから行くと良い」

「はい…はい、ありがとうございます…」


 事が済んだと判断し、早々に医務室を出た。


 会場はすっかり片付き、本当に終わったのだと分かった。

 やっと、終わった。




 そのまま外へ出てから近隣で買い出しをし、アヴァロンで少し遅いオヤツに天ぷらを食べ、そのまま泉でエミールと横になる。


 凄く、とっても疲れた。


 妄想や夢と言う杞憂は戦闘で吹き飛んだ、自分の知ってる夢は何かがあんなに高速で動かない。


 万が一妄想なら、もう覚めた時点で殺して貰えば良いワケで。


「あの、申し訳ありませんでした桜木さん」


《あの視線が、嫉妬や羨望だけだとでも思っておったか馬鹿者め》

「はい、申し訳御座いません」

《まぁまぁ、ハナの事を憎い訳が無いと思い込んでしまっていたのでしょう、良い子だから、恨まれるワケが無いと思っていたのよね?》


「…はい」

「そう良い子じゃ無いんだけ…あ、エンキさんとこ行って来る」


「では、ご一緒さ」

「1人で行く、じゃ、もう今日は謝るのも褒めるのも無し。以上だ」


 空間移動でエンキさんの神殿へ。




『なるほど、で、その天ぷらはどうした』

「食べますか?」


『ん……良い香りだ』

「ですよね、ショナは料理上手」


『うむ、では本題に入る。体を変えたいんだな?』


「はい、何がどうなるか分からないので、今暫くは便利でいたいのです。例の時期の1週間前から、酷く煩わしくなるので止めたいのです。つか、もう煩わしいが来てます、直ぐそこまで」


『今の状態でお主が病気かどうか見極める事は難しい、だが体質的に重く出易い傾向は認めよう。以前に患っていたなら、その機能の停止もやぶさかではない』


「完治から再発しました、再発したのも体質だと向こうで言われました。改善するには、コチラでも妊娠か薬で止める以外に方法が無いと…で、次のが来てから決めようと思ったんですが、今日色々あって…今日お願いします」


『その機能を戻すには止めた月日と同じ歳月が必要になるかも知れん、場合によっては、倍以上の苦痛が伴うかも知れんぞ』


「了解です。生き抜くのが先です。それに、神様を頼るのは他にも理由が」

『なんだ?』


「気のせいかも知れませんが、薬の副作用に良く当たるのです。稀な副作用が強めに出て、治療がスムーズに行かない事が多い…気がして、だから今は、人の医療には頼る気になれないんです、そんな調整する余裕は無い……どう症状が出たとか話します?」


『いや、嘘は言って居ないのは判る。詐病を見抜くのも医神の仕事、嘘は見破れる。膜が薄かった事や繊細さが影響しているんだろう』


「…ありがとう、信じてくれて…」


『どうした、どうした、何処か痛いのか?』

「目に、ゴミが、入っただけです。痛くないです、何でも無いです」


『そうか?だが話しは明日にしよう、休んでからまた来るといい』


「嫌です、ダメです。お願いします、平和になったら戻します、薬の治験も実験も献体でも何でもします、だから変えて下さい、お願いします」


『こら、何でもするなどと言ってはダメだ、少しの間だけ変えてやる。だがまず今後一切、どんな願いを叶える為であっても、何でもはダメだ、分かったな?』


「はい、ごめんなさい。ありがとう、ありがとうございます」


『少し時間が掛かる、それにお前の魔力も使うんでな、エリクサーを飲んでからだ』

「はい、後もう1個お話が」


 胸を平地にとお願いした。

 もう、本当に色々と邪魔だと。

 走るにも、弓道でも、何をするにしても邪魔だと熱弁した。




「お帰りなさい桜木さん、定時のバイタルチェックしますね」

「おうよ」


 意外にも結果は異常無し、また少し魔素が低下していたので、目の前でエリクサーをがぶ飲みさせられた。

 アッチでも飲んでお腹はタプンタプン、の筈なのに、特になんとも無い。

 実際はどう吸収されているのか、何故尿意が普通なのかが気になるが。


 考えても分からなそう。


『おー、お帰りハナ』

「エイル先生、ちょっとお話が…」


『なになに、皆と離れて恋バナ?』

「違います」


『え、愛の告白?』

「好きですけど違います、体を少し変えました」


『は?え?どして?具合悪かったの?』

「いや、暫くは皆に内緒でお願いします、先生にはバレる前に言い訳しようと思って」


『その、何を………また何でそんな、いや、私も女だけど…そんな、アマゾネスじゃ無いんだから』

「いや、アマゾネス合理的で良いじゃ無いですか」


『そうだけども…なんで、今日は色々あったって聞いたけど、他にも何かあったの?』

「まぁ…少し……ちょっと、ケンカ売られて嫌になりました」


『…エミールの事は任せて温泉に行ってらっしゃいな、あっちには家があるんでしょ?夢の事は知ってる…心配なのは分かるけど、自分も大事にしなきゃ』


「…近くで守りたいけど、近くに居るのも怖い。でも逃げちゃダメなのは今日で良く分かったから、逃げたくは無い、でも失敗したく無い」


『おタケもエミールも、もうストレージがあるんでしょ?それにココに神様や精霊が何人居ると思ってるの?私だってかなり強いんだから、だから大丈夫』


「…はい、ごめんなさい、ありがとう」


 流石に従者を振り切る事は出来ず、ショナが付き添う事に。


 魔王には休暇を与え、双子達に慰めて貰えと病院へ送り出した。


 賢人君はエミールに付き添い、ミーシャは移動酔いでユグドラシルから動けなくなっていた。

 生まれつき少しだけ耳と目が良くないので、酷く酔ってしまうらしい。


 でも召喚者じゃ無いから、吐き気止め程度しか処方出来ない、完治させるのは過度の介入になるとエイル先生が教えてくれた。




『天ぷら、旨い、良い酒のツマミだ』

《貰い過ぎはいけませんよオベロン、少しは遠慮なさって》


『これはおタケの訓練の対価だ』

《そんな、本人から貰って下さいな》


『アイツが、ハナに全部任せると言ったんだ』

「なに勝手に決めてんの、別に良いけど」


『ほらな?良いと言った』

《もう、ややこしい約束をして》

「はー、他にも誰かに約束してなかろうな」


《鍛冶神達とじゃな、対価はハナが払うと》


「もう、なんだあの人は」

《お主に気を使わせぬ様にじゃと》


「それがどうしてこうなる、治世者の考える事は分からん」

『甘えれば甘えてくれるかと思って、だと。面白い事を企む奴だ』


「なにそのネジ切れそうな愛情表現」

『お前が捻れてるから合わせたんだろう』


「あぁ、どこが」

『親しい振りをしつつ内心の壁が分厚い、警戒心が強いのか、酷く一定の距離を取ろうとするだろう』


「距離を取ろうとしては、それは、身の上話したら毎回ドン引きされたから。最早、普通に話せないだけですし」

『向こうの普通の人間には、だろ。じゃあ何か話せ、お前の家族の話し』


「え、今日はしんどい、今度で良い?」


『あぁ、絶対だぞ』


 酔っ払いはティターニアに任せ、18時には久し振りのベッドに横になった。


 フワフワのカールラ、スルスルのクーロンを撫でながら。

《ブリジット》

【アクトゥリアン】

「シェリー」

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