3月22日
蜜仍の視点から。
土蜘蛛族である僕も同行させて貰えるとは思わなくて、少しビックリしたけれど、武光様やエミール様、そして先生にリズさんと、皆さんと共に地上へ向かった。
桜木様はロキ神の腕の中。
そして地上に着くと、ロキ神は桜木様を教会の入口に入るかどうかの場所に、優しく置いた。
そうして正面には小野坂さん、神父さんとシスターだけ。
小野坂さんがコチラを見る目は、僕の中の長の記憶で、魔王や大罪と呼ばれた歴代の人間の目だった。
神託を考えるに、彼女が神託に言われる悪なんだろうか。
『それで、桜木さんは何処にいらっしゃるんでしょうか』
声にまで憎しみが籠っているのに、どうして周りは諫めないんだろう。
《マサコ、この繭が桜木花子じゃよ》
『やっぱり、夢を操り悪夢を見せてるのは、桜木さんなんですね』
悪夢?
僕は何度も行ったけれど、悪夢は見た事が無いのに。
武光様やエミール様を見ると、諦めや落胆の表情。
リズさんも残念だと言った雰囲気。
そして何より僕やロキ神が驚いたのは、声と表情。
桜木様を恨んだリリーさんや、巫女さんの表情と抑揚がダブったから。
どうして、桜木様は何も悪い事はして無いのに。
「桜木様は、何もして無いのに」
黙ってる様にと言われたのに、どうしても言葉が出てしまった。
どうしよう、凄い睨まれてる。
『したんですよ。難民を無許可で連れて来たり、それなのに引き離して他国に分散させようとしたり、それに』
『それは何処の国の情報なの?神父さんだっけ、彼女に全部情報開示してる?』
『勿論です、国からの情報は全て』
『ココの国から渡されたのだけで、それを言ってるの?他から、他国からのは、ドリアードから何か聞いて無いの?』
《我は封殺されておったでな、投げ捨てられた所を天使に拾って貰ったんじゃよ》
『え、だって、自分から去ったって』
《我は、常にお主と共に居ると言うたじゃろ。それは違えん》
『でも、神父様が』
『私も、そう聞いておりま』
『誰から?』
『上の、きっと何か事情が』
『それ、詳しく聞いた?って言うか従者は?』
「もし付けてらっしゃらないなら、国連の規定違反ですよ」
『え?だって、ただの監視要員だって』
『ねぇ、それも誰からの情報?』
『惑わされてはなりません!この様な悪神と呼ば』
「なら僕が。桜木さんの従者として再度お伺いします、何処のどなたが」
「たかが従者に」
「なら俺が聞くが、どうなんだ」
『司祭様』
『それは』
「どう説明を聞いてる」
『守る為、だと』
「ただ情報を遮断すれば良いと思ったのか?」
『誤解ですきっと、私がまだ幼いから、未成年で』
『僕も、蜜仍君も未成年ですが、命を掛けてココに居るんです。知ってますか?ハナさんがどんな姿で帰還したか、どう戦ったか、どう助けたか、知ってますか?』
『私が確認させて頂きました、余りに酷い映像なので』
「判断は召喚者に一任されてる筈だが」
『私は大人の判断に』
『大人かどうか、もうそんなに関係無いんです。僕らには責任が有るんです、知って判断しなきゃいけない事が、沢山有るんですよ』
「大罪と関わりの有る方々です、篭絡され」
『失礼だなぁ、彼らに魅了だとかの魔法は基本的に効かないんだよ?そんな事も知らないの?』
「知っていますよその位、ですが桜木花子はそれを越える能力が有ると」
「その事は、公的文書には載ってない筈ですが」
「おい、何処から、どう、知ったんだ」
『小野坂さんの命令じゃ無いと聞けないんでしょうか、シスター』
『シスター、本当の事なんですか?』
「元大罪、神獣が話していたと、お聞きしました」
「どこから」
「上から、です」
「その、お前らの言う、上は何処の誰なんだ?」
『シスター』
「シスター長です」
「アンタは」
『私は、司教様のご判断を、伺っております』
「シスター、何時、何処で聞いたと教えられた」
「教えられておりません」
「はぁ、良くも悪くも曖昧な口伝だけか。それを真実だと、主観が排除された客観的事実だと、どう判断したんだ」
「書類を見てらっしゃいましたし、嘘を言われる方では」
「神父、アンタもそう思うか」
『はい、同じく嘘は言われない方ですし。きっと、書類に記載が』
「俺は、嘘を言ったかは聞いてない。主観が排除された客観的事実だと、どう判断したかだ」
それからは誰もが押し黙ってしまった、僕はもう終わりなのかと少し下に目を向けると。
繭が。
「ショナさん、繭が」
「何かし」
《いいえ、目覚める時が来た様です》
天使が近付く。
繭が萎み、繭が、髪が解け始めた。
サラサラといつもみたいに流れて、下へと落ちて。
やっと、戻って来てくれる。
そうしてただ皆で黙って見ていると、ロキ神が異変に気付いた。
解けている隙間から、脚が片方しか確認出来ない。
腕も、前に戻ってしまってる。
そして、顔も。
『そんな、私、そんな怪我の事は』
「こうして、アイツは帰還したんだ」
小野坂さんが泣き出すと同時に、従者装備の通信機が一斉に鳴り出した。
横目で確認すると[大罪が降りた]って。
目覚めると、明らかな体の異変に気付いた。
先ず、左腕が無い。
左脚も、無い。
しかも、服は第2世界で主だか何だかに貰った服。
「なんで?」
「桜木さん、どうして元に」
「いや、それはコッチが聞きたいんだが。と言うか、誰か先ずは状況説明を」
『サクラちゃん、今は日本時間の夜中の1時近く、3月22日。召喚者に呼ばれてね、ココは自治区の教会だよ』
「おぉ、神託は」
《やはり、神託の為だけですか》
「おう、ネイハム先生、御機嫌よう」
《おそようございます。神託は、日本の神託は今さっき、アナタの繭が解除されてから、降りました》
「ほう、内容は?ワシが魔王?」
《いいえ、大罪が降りた、と。そしてコチラでも、同じ内容の神託の虹が確認されました》
「天使様、どうも。ん?大罪が降りた?」
《はい》
「だれに」
《ココの召喚者、マサコでしょう》
「なんで、と言うか本人は、つかカールラは」
《神託を知らせる前に、部屋に下がらせました。神獣は、お会いになられては?》
「無い、マジで」
『天使ちゃん、探知出来ない場所は無い?』
《有りますが、プライバシー保護の観点から私達は入れません》
《その場所の案内も不可能なんじゃろか?》
《それは、あの》
「案内して貰っても、良かですか」
《はい、ご案内します》
召喚者の言う事しか聞けないらしい、不便だろうに。
そして天使さんに抱っこされ、そのまま案内される。
ちょっと頭が追い付かないが、神託が降りたのには一安心。
ただ、あの口ぶりだと、ワシのせいなのか。
「先生、ワシのせい?」
《直ぐに断言は出来ませんが、直接は関係無さそうですからご心配無く》
「えぇー、寝ててもダメなのか」
《一般公開は、今後は謹んで下さい。ココに呼ばれたのも、ドリームランドから帰還せず、昏睡状態に陥った者が居るからと呼ばれたんですよ》
『すまんな、それはワシの名のせいらしい。それと、保護して居るだけじゃ、身内が心配すれば送り返す手筈だったんじゃがなぁ』
「お、出ちゃって良いのか、ミニシバッカルさん」
『おう、電子媒体から広まっての、この小さきモノが特に気に入った』
《おうおう、真似するで無いわ》
『なんじゃ嫉妬か、くふふふ』
《ハナ、何か気に食わんのじゃが》
「いや、なんか和むから良しとしましょうよ」
《お待たせしました、コチラです》
『お、もう退散するかの、ではまたの』
《くぅ、いけすかんヤツじゃ》
「普通はノックよな、コンコン、桜木花子ですぞ」
『あぁ、あぁ、桜木様、お怪我を』
「補佐さん、コレは古傷。つか何でカールラと白雨と一緒なのよ」
《囚われてたの》
『あぁ、通信機はどうした』
「あ、ピアスが」
《どうぞ》
「ありがとうソラちゃん、誰も状況を詳しく教えてくれんのだが」
《それはロキ神が適任かと》
『あのねー』
天使さんの手からロキに奪われ、椅子へと座らされた。
要するに、本当にさっきまで、どの国も神託が降りなかったと。
今居るこの自治区を除いては。
そして次は天使さん。
内容は、多分マサコちゃんが嫉妬として大罪になりかけている、と。
「悲嘆じゃ無く、嫉妬なのね。なんで」
《それは私から、承認欲求の変化がココで起き、君を見て更に変化したのではと》
《はい、悪意無きモノ達の言葉でも、人はどうとでも変化してしまいますから》
「天使さん、それを見逃したんすか」
《何度も語り掛けましたが、もう、言葉が届かない程に。ですので、アナタのその姿に賭けたのですが、悪い方向へ行ってしまいました》
「なんで」
《アナタが成した事、もっと自分なら、より良い選択が出来た筈。自分なら、私ならと》
「なんで」
《私がもう少し噛み砕きましょうか、願望の変形でしょう。何も成せなかった焦りと、承認欲求。そして断食で思考力も低下してそうですし》
《はい、断食も軽いモノにと止めたのですが、それすら試されてると思い込んでしまって》
「そう、もう帰って良い?治さないと」
『天使にやられたなら、天使に治させるべきじゃない?』
《私は本当に何もしていません、泉では少しだけ、ドリームランドと体の状態を確認しただけですから》
『って言うか、なんで起きたの?』
「知らん、神託が降りたら起きるとだけ願って眠った。夢もみとらん」
『じゃ、なんでその状態なの?』
『それは私から説明を、良いでしょうかね』
「ソロモンさん、どうぞ」
『認めるべき姿、本来の姿に戻っただけです。そもそも、この姿のままで有れば、彼女の願望の変形もココまでに至らなかった筈。この姿を見ていたなら、もっと早く素直に謝罪し、協調路線が歩めた筈では?』
「それは屁理屈じゃ無いのかい、交わる事が無いとも言われたんだし。そも容姿1つで」
『向こうの世界の人間なんですよ、そしてその助言は大きな厄災までの事かも知れない。ココの人間も天使も彼女を支えたんでしょうけど、アナタに嫉妬したんです。自分ならと、何故、自分では無いのかと』
「それは、結果論では」
『そうですよ、コレでも良い方に転んだ方でしょう。悪くいけば、もっと早くに大罪化し、殺す事になっていたかも知れませんけど、どうにか出来ましたかね?』
《そうなったとしても、私達の介入には限度が有ります。人が選ぶ道を遮ってはいけない、争いを大きくしてはいけない。だからこそ、今回は深く関わり過ぎたのかも知れませんから、もう手を引くしか》
「いや、それじゃあ不安がるでしょうし」
《時代は常に変化し続ける、それに対応すべきで。召喚者を得た時点で、変化すべきでした》
『天使ちゃんも判断を誤るんだねぇ』
《ええ、万能では有りませんから》
「で、どうしたら良いのよ」
《どうぞ、御心のままに》
「でた、でたよ。マサコちゃんに帰って貰うにはどうしたら良いの」
《因みに、今、何かされたい事は?》
「帰ってトイレ行って落ち着いてメシ、お腹減ってる」
《分かりました、では私が》
《いえ、私が、行きましょうご主人様》
今度は大人カールラに抱かれ。
言われるがままに中庭から浮島へ。
ソロモンさんと皆は小屋の中で話し合い、自分は外でネギトロ納豆丼。
とうとう先生に大食いを見せる時が来てしまったが、片手が無いので掻っ込めない。
大きめのスプーンで嚥下。
完食。
「ご感想をどうぞ」
《亜鉛、良く消費するんでしょうかね》
「いやぁ、男じゃ無いんだから。味覚確保したいとか?つか鉄分補給じゃね?」
《男として出てくるんじゃ無いか、最悪は魔王か大罪か、と話してたんですよ》
「繭、変態、なるほど」
《そう思ってたワケじゃ無いんですね》
「まぁ、そう思っとけば良かったとは思う。向こうはきっと無傷だろうし」
《なら、試してみましょうか》
「おう」
今度はお風呂に入り、紫苑に変身。
普通、手足有る。
益々戻る理由が無くなる。
《本当に、大丈夫そうですね》
「もう女じゃ無い方が良いんじゃないかね、嫉妬もされないだろうし」
《それで嫉妬されないとして、嫉妬する方はどうするんですか?》
「あー、先生にはバラしたんか」
《いえ、津井儺君から様子がおかしいと報告を受けてたんですが、映画鑑賞後に全くその話しがされなくなったんです。ソロモン神が妨害したのかとも思ったのですが。寧ろ私に伝えさせ、協力させる事が目的なんじゃないかと、ロキ神が予測しました》
「へー、嫉妬深い方だから、そんな心配しなくても1年以内に何とかなると思いますよ」
《それは本当に嫉妬で、嫉妬と認めて頂けるんでしょうかね》
「大丈夫。それより、どうなってるのよ」
《もう、関わらない方が良いと思いますよ》
「実は男でした、で良くない?嫉妬したり何かする必要無いって言えば、ダメ?それで帰ってくれんかね」
《もう、遅いと思います》
「あー、寝てたの不味かった?」
《いえ、こうなるともう、アナタが起因でもアナタのせいじゃ無いと思いますよ。天使に聞いてみたらどうです?》
「あー、天使さん、おいでませ」
《はい》
「誰のせい?」
《強いて誰のせいと言うなら、良くも悪くも守り囲おうとした自治区の人間達。そしてマサコ自身です》
「関わるべきで無い?」
《私達は、そう伝え聞いております》
「主的な?」
《はい》
「でも、何か出来ない?」
《もう、その時期は終わってしまいました。例え何か出来たとしてもソロモン神が言う様に、妖精の針に糸を通すより難しい事。下手に動けば長引いた可能性も、より悪化した可能性も有ります》
「怒られない?」
《ふふ、誰も怒りませんよ。主も天使も、神も精霊も、あ、人間は別ですよ、アナタを心配した方々が居られますから》
「先生は心配した?」
《いえ、私は長生きですし。ロキ神への召し上げにも賛成しましたから》
「それこそ、召し上げられたら死ぬと思う。嫉妬させる様な神様じゃ無いだろうし」
《そうですね、誠実さは中々の方だと思いますよ》
《召し上げられても等価交換が発生する可能性は、確かに、考えが及ばなかったですね》
「それで死んだらロキが可哀想だ」
『何々』
「話しはもう良いのかい」
『うん、人間が納得出来ないだけだし』
「なら手伝ってあげなさいよ、先輩を」
『えー、俺そういうの得意じゃ無いもの』
「召し上げなくて良かったね、嫉妬出来ないで死んでたかも」
『あー、それは俺の役目じゃ無いと思う。召し上げるったって、お嫁さんとしてだけじゃ無いんだし』
「あぁ」
『まぁまぁ、そろそろ仲裁してあげて?』
「火に油を注ぎそうなんだが」
《あの、では、中和してみては?》
「あぁ」
《あぁって、ココでの実証実験はまだですよね?》
『じゃあ結界石、持って来たら?』
溢れても大丈夫な様に作られたらしい結界石、これは盲点。
そして、心配して泉に突っ込むとは思わなかったわ。
ユグドラシルから、結界石を島に再設置して貰い。
先ず範囲は4人分、ロキ、先生、天使、自分。
特に消費も無かったせいか、直ぐに溢れ出し、先生に影響が出始めた。
亜人扱いなのか。
眠そうな顔が実に可愛い。
《眠いなんて欠片も思って無かったんですけどね、コレは効いている自覚が出来ます》
「1番白熱してそうなのをお願い」
《はい、そうですね》
そうして来たのはショナ、ですよね。
「さ、紫苑さん、体」
「白熱し過ぎて気付か無いのはヤバいな、まぁ、入り給え」
コレも眠気。
ワシ、眠く無いのに。
「少し、睡眠不足だったかも知れないです」
「あぁ、眠気な」
『安心しちゃったからかなぁ』
「天使さんもロキも何も無さそうね」
《どうやら、その様ですね》
『だね、つまんないなぁ。このまま変身してみようよ、もしかして自分に効くかもよ?』
「あぁ、折角だしやってみようか」
止める役のショナが眠ってしまっているので、そのまま実行。
自分には効かず、天使さんとロキまで眠そうにし始めた。
コチラの意志は、全く関係無いのか、有るのか分からん。
『おぉ、天使にも効いたか』
「ね、平和だわ」
《うー、楽しくならんのかぁ》
「楽しいどころじゃ無いでしょうが。でもそうなると、眠る場合でも無いか」
《いや、三大欲求に訴えかけるのやも知れんじゃろう》
「それだとハイになってた説明が付かんが」
《全て満たされて、初めてハイになるのやも知れんぞ》
「あぁ、あぁ?」
《ちょっとショナ坊に触れさせてくれんか》
「へい」
《うむ、生存本能が安心へと傾いた、今回は睡眠への増幅じゃな》
「歩く催眠兵器か、収めに行くから避難してなさい」
《おうおう、逃げるぞ逃げるぞぃ》
『どうしたって面白がるなお前は』
再び紫苑になり、小屋に入ってしばらくすると鎮静化。
紫苑のは神獣には効かない、神扱いなのね。
『ご主人様』
《会いたかった》
「ですよね、すんません」
ただ、幼獣には効くらしく。
完全に鎮圧化成功。
もう、死屍累々。
ソロモン神だけは無傷。
ワシの影に直ぐに入ったからか。
『凄い強制力ですね』
「ね、魔法は何でも出来ますから」
『このまま何処かに逃げましょうか』
「なら海だな、海上から怪獣になって自治区を蹂躙する」
『まだ何かしようとするんですね』
「個人的に恨みが無いので、でも悪化しそうなんで止めときます」
『是非、お願いします』
「どうして分かったんです?こうなるって」
『72柱の殆どが嘗て、天使でしたから』
「その繋がりの感じなのね」
『はい』
「もう今すぐ命を貰って貰うワケにはいかんの?」
『無理ですね、1年後でないと手出しが出来ませんから』
「嫉妬出来ないと思う?」
『いえ、大丈夫だと思いますよ』
「そう」
結局、今日までの詳しい説明が無いままに放置状態へ。
だが折角なので実験再開。
今度はハンに居るリズちゃんを呼び寄せる、コレはマジで影響無し。
紫苑でもだ、有り難い。
「実にクソつまらん」
「いやぁ、効かないでくれて助かるわ」
「あぁ、報告の為に、柏木さんに繋ぐぞ」
「うい」
【あぁ、ご無事で何よりです】
「コレは変身なのでご安心を、それと、何かしらの影響を若干受けてたらしいので、沈静化させました」
「全員息は有ります、寝てます。桜木の影響で中和したそうです」
【そうでしたか、僅かでも、既に発露していたのですね】
「あ、エミールやタケちゃんは」
【自治区で説得なさっています】
「あー、面目無い。ソロモン神に関わるなと言われてしまってます」
【そうでしたか。ただ、もし影響が及んでいるので有れば、1度、呼び戻して頂けませんでしょうか】
「了解」
「俺はココに暫く待機します」
取り敢えずはロキを叩き起こし、天使やショナを小屋に移動させ、結界内部を空にする。
「エミール、タケちゃん、事情が変わった。浮島に戻って来て欲しい」
【紫苑か、大丈夫か?】
【ご無事ですか?】
「その確認も、兎に角戻って来て欲しい」
【はい】
【分かった】
中庭から転移して来た2人と神獣、ドゥシャを結界内に招き入れる。
距離が近い程に効くらしく、雑談する間にエミールが眠った。
ドゥシャは効かず。
ロキを会話に加える。
「小屋の中もこんな感じ、もう作用し始めてるから、中和にと」
「そうか、自覚は無いが。目覚めはどんな感じなんだロキ神」
『なんか、スッキリ、前は効かなかったんだけどね』
「両方浴びたからじゃね」
《あぁ、有り得るかも知れんのぅ》
「ドリアードは入らないんだな」
《ぶっちゃけ、今はちょっとな。向こうの情報を得ておるし》
「俺らには言えない、か」
《すまんの》
「過度の介入か」
「どうにか知れんかね、マジでワシなんも知らんのだけど」
「あぁ、話したいが、どうやらこの距離は効くらしい」
「なんで一律なんだよぅ」
『お前が平和だと思う景色は、どんな景色だ』
「あぁ、じゃあワシの意識なのか」
「眠っているのが、平和、か」
そしてタケちゃんも撃沈。
強い、コレは強いぞワシ。
ソロモンさんを加え、本格的な相談へ。
『アナタの根底の願望の強さか、個々人のそうなりたいと思う強さか、相乗効果等で増減する可能性も有りますね』
「お互いに楽しくなりたいと思えば、効果倍増。あぁ、リズちゃん、ピンク色のスライムの川だ、ワシ」
【あぁ、あの映画の2作品目か】
「そうそう、ただ、お互いの根本の願望で効果の増減有りっぽい」
【拮抗すれば効果が出ない可能性も有るんだな】
「ただ、距離にもよるぽい」
【エロい気持ちなら】
「あぁ、こりゃ大罪格は確実だわな。っつー事は、マサコちゃんも同じ感じなのかね」
【有り得るな。しかも断食と聖水での回復で、強制的に容量の拡張もされてるらしい。守る為だったってのも、無くは無いのかも知れんが。俺が思うに、アレはお前の予備だ】
「予備て。あぁ、良く使えば、こうやって群衆の不安を和らげる事が出来たかもなのに」
【お前ならするか?】
「ギリ、せんな。余程じゃ無いと。個人が抱く不安は個人のモノで、こう強制されるべきじゃ無いだろうに」
【だよな、下手したら弱くさせるだけだろうし】
「生きてたから、嫉妬しちゃったんかも。もう、実は死んでた事にしない?」
【もう遅いだろ】
「ですよね。どうする?」
【他にも起きて貰って、どうだったか、自覚出来るかどうかで拮抗させるか。最悪は、孤島に放置だろう】
「ダメだよ、帰す方向にしてよ、面倒臭い」
【まぁ、確かにな】
持続時間は個人によってバラバラ、コレは純粋に日頃の睡眠時間、その時点での体調や質と量に関係するらしい。
1番最初に起きたのは天使さん、次に先生だった。
「先生、お早い」
《どうも、良い昼寝をさせて頂きました》
「そんな感じなのね」
「俺は純粋に眠いから、もう寝るわ」
「すまんねリズちゃん、何処に帰すか」
「いや、ココで寝る。暖かいし、ソファーが良い」
「オーケー、煩くても知らんからね」
小屋を出て、漸く一服。
《少し、影響は有ったみたいです》
「え、先生も?」
《今思えば、です。妬み、嫉み、僻み、それらしい何かが強く動いた印象。こう、気持ちが、大きな何かに動かされた感じですね》
「全然、表に出ない感じでらっしゃる」
《そうですね。アナタもロキ神も影響を受けては無さそうですし。アナタの性質分類に近いかも知れません》
「そっか、でも関わったらダメで。どうすれば?」
《将来的に、どうしたいですか?》
「難民達とほのぼの暮らしたい。あ、魔王候補は?」
《残念ですが》
「えー」
《体、どうしますか》
「暫く、このままじゃダメ?やっぱり、ゆっくり消化したい」
《意思を尊重します、我々が急いだのが間違いでした》
「先生、賛成はして無いでしょう?」
《強く反対しませんでしたから》
「善意にはそう強く反対出来ないでしょう」
《そうご理解頂けて助かります》
知ってしまったら何かしたくなるだろうし、意識を向ければ何か考えてしまうだろうから。
また眠るか、無視して難民達と暮らすか。
難民達と暮らす方が良いか。
ボーッとしていると、カールラ、白雨が、次にエミールが起きて来た。
今の時間帯に起きてると、目覚め易いらしい。
そして本来は睡眠時間帯であろうタケちゃんを起こし、塩梅を聞く。
タケちゃんや天使、神は大丈夫らしいが、人間と神獣には、マサコちゃんの気がそこそこ効いていたらしい。
後、精霊も効かないっぽい。
コレは、縁切りを使うべき時が来たんじゃなかろうか。
「先生、縁切りで何とかならんかね」
《そうですね、サポートはします、試してみましょう》
眼鏡をし、更に遠見。
見えない、誰の縁も。
「ココでも性別が関わるか」
《見えませんか、なら変身してみてはどうでしょう》
人払いをし、変身。
眼鏡と遠見で見れたが。
「見えたが、どれか分からん」
《ほう、赤色とか無いんじゃろか》
「全部、白い」
《やはり、目の前に行くべきですか》
「そうだね、コレは迂闊に切れないから」
《でしたら、少し相談させて下さい》
そして不便なので紫苑へ戻り、お見送り。
タケちゃん、エミール、先生は省庁へ、非常に珍しいショナの寝顔を鑑賞。
蜜仍君も良いのだが、今はショナ。
《安らかな顔じゃの》
『だな、そんなに珍しいか』
「だね、最近は特に」
人の顔を見る時、1番この時が好きかも知れない。
見られないで、無防備な顔が見れるのが最高に幸せ。
だからか?
幸せを感じたかった?
《ご主人、考え事?》
『何が分らない?』
「見られずに人の顔を見れる安心感と、幸せで。だからそう誘導したのかと、幸せを感じたかったのかな?何でかな?と」
《幸せを感じたく無いは病気じゃろ》
『まぁ、普通はそうだな』
「あぁ、そうか、歪んで無い?」
《もう悪い見本が居るでな、マシ過ぎじゃろ》
『だな』
《相対的にも》
『絶対的にも普通だと思うの』
「そうかな、ワシは見られたく無いから、やっぱ歪んでるんじゃ」
後方のクッションが沈む感覚で振り向くと、白雨が横になった。
どうやら会話を聞いての行動らしい。
眠く無いだろうに、向こうは朝だし。
だが、コレも可愛い。
《媚び媚びじゃのう、イジらしいヤツじゃ》
「な、可愛い所があって宜しい、そんな行動するの意外」
『そう簡単に幸せを上げられる事は無いと思うから』
「あ、私もします」
「俺は?」
「アレクの睡眠時間帯は?」
「日本時間に合わせたまま」
「ミーシャは?」
「私は夜勤に戻ります」
「残念だが白雨はまた今度、起きてて。アレクは寝なさい」
「向こうは寂しいんだけど」
「どうココで寝るのよ、床は体痛いでしょうよ」
「布団、ほら」
「あぁ、ワシも出すかな、ミーシャ仮眠するならどうぞ」
脳が鈍い気がするのは、いつもか、前からか。
取り敢えずソファー前に布団を敷き詰め、ひたすらショナを眺める。
なんか、見るのが止められん。
他の事をすれば良いのに、何かすれば良いのに。
止められない止まらない。
《疲れておるのかの?》
「なんか頭の回転が鈍い気もするし、前からそうな気もするし」
『神託が降りた事で、また腑抜けたか』
「あぁ、それかも。安心して気が抜けてる感じかな、そんな場合じゃ無いのに」
《無理せず気にせんで居られるのは、良い事じゃろ》
『そうだな、せかせかと焦られるよりはずっと良い』
「あまり甘やかさんでくれよ、大罪化しちゃうかも」
『塩梅位は心得ているつもりだがな』
《そうじゃよ、知識は武器じゃ》
「もっと周りと協調したら良かったのに」
《ほれ、考えたら動きたくなるじゃろに》
『寝顔を見る事に集中出来んなら、他の、そうだな、家の事でも調べておけ』
「あぁ、でも家より、今は寝顔だな」
優先順位がおかしいが、考えない、行動しない為にはこうするのが1番なのかも。
かなりモヤっと気にはなるが、思考を持って行かれる程じゃ無いし。
つか、ミーシャとリズちゃんの組み合わせも中々に可愛いかも。
フリフリとか着せたい。
皆、寝付き良過ぎ、ミーシャもまた寝始めたし。
つか、疲れてるのか。
いつの間にか寝ていたらしく、暑くて起きた。
カールラ暑い、クーロンひんやり気持ち良い。
天気が良いし、そりゃ暑いか。
「おはようございます、紫苑さん」
「おうショナ、あっついわ、カールラのココ」
「寒いと良いんですけどね」
《小さいからしかたない》
『多分、大きくてもちょっと暑いと思う』
「だろうよ、布団干すべか」
お布団を干し、お風呂へ。
軽く洗い流してから計測、高値。
リズちゃんは下でアレクとお散歩に、白雨はアレクのお布団で熟睡中。
ミーシャは向こうで本格的に眠ったらしい。
熟睡中の寝顔は大概可愛い。
アレクのは何時でも見れるので、花子と紫苑の確認実験へ。
紫苑のままに魔法を使おうとするも、体内から上手く出ない。
見えてイメージ出来ても、発露しない。
昨日からおかしい、と言うか目覚めてからおかしい気がする。
雷も電解も出せるが、診れるだけで治癒が出来ない。
まぁ、診れるだけでも凄いんだが。
なんでだ。
《やはり変態を起こしておったのかも知れんな、ある種の分化じゃろ》
「は、このまま紫苑が分かれちゃうの無理なんだけど」
《そうでは無い。自身を不便に変え、能力値を下げたんじゃなかろうかの》
「確かに、寝る前に退役するかどうか悩んでたしな。ドリアード天才か?そうなら結構良い感じなんだけど」
《モノは試しじゃ、色々と確かめたら良いじゃろ》
花子では治癒は可能だが、雷電が上手く扱えない。
ドリアードの言葉のお陰か、目覚めた時には既にこうだったのか。
なにが原因かは置いといて、コレは朗報かも知れないが。
紫苑が役立たず過ぎでは。
まぁ、良いか。
「あは、退役キャンセルかも」
「良かった、現役用で家の事を調べてたんですよ。後で見ませんか?」
「見るが、休んだ?」
「今回は、休みました」
「なんで嘘にチャレンジするのよ」
「それは紫苑さんでも変わらないんですね?」
「魔道具は確かに、コレは平気なのな」
「他の魔道具で何か問題が?」
「あぁ、寝てたのか。紫苑じゃ縁の糸が見えないんだ、魔道具付けても」
「あぁ、その事ですね。そもそもどの世界も波長が同じとは限らないので、見え方が違うのではと」
「あぁ、なるほどね。変身」
もう何処に行くでも無いだろうと、花子になり普段着へ。
カールラに着替えを手伝って貰い、クーロンにも支えられながら植物を生やす。
いつ見ても不思議。
淡雪は元気だろうか。
今回の事もあるし、離れといて良かったと思う。
「あれ、ハナ」
「スーちゃん、ちょっと古傷が戻っちゃった」
「痛く無いの?不便じゃ無い?大丈夫なの?」
「大丈夫だから困る、不便は不便だがカールラもクーロンも居るし。つかさ、リズちゃんが早く換装パーツ作ってくれたらええねん」
「難しいんだぞ神経接続系は」
「それ、無機物?有機体とか細胞培養じゃダメなの?」
「お、スーちゃん専門?」
「ううん、普通の経理。たださ、映画とかでいつも思ってたんだけど、無機物の回線より自分の神経培養した方が応用効きそうじゃない?」
「まぁ、つか内臓の細胞ならいけるが、神経は長さに限界が有るんだよ。そう四肢を失う世界じゃ無いから、研究はかなり遅れてる」
「それはハナに何とかしてもらって、本体部品先に作っちゃうとか、パーツに合わせてハナが神経作ったり、繋げれば良いじゃない」
「メタルチックで宜しく、金髪三編みにするわ」
「錬金術はココには無いからな。ただ、それなら全部有機体で良いんじゃ無いか?ホムンクルスの」
「は、天才か」
「何それ見たいんだけど」
「鈴木さんは先に資料な、良い気分しないと思うが」
文字好きなだけ有って、高速で黙読してる。
表情が変わらないのが、また怖い。
「人体錬成じゃない」
「おう、国家機密」
「俺は知らなかった、マジで」
「なんでよ」
「知る権限も、理由も。有ると思って無かったから、調べもしなかった、桜木の報告で初めて知った」
「そうなのね、余所の事は言えないけど、召喚者作るとか何考えてんのかしら」
「それさ、今思うと新規に誰か呼ばれるより、もう色々知ってる人の方が良かったってのも有るかなって思う。こう厄災になられる可能性有るんだし、多分、必死だったんよ」
「まぁ、直接魔王を無力化させられたのは大きいよな、犠牲さえ無きゃ」
「ただなぁ、一般人受け悪いし。何か他の無いかね」
「アンドロイドなら、フィンランドに試作品が有るらしいが。つかな、人工臓器だって血液だって、アレから出た発明品なんだ、純粋にココの人間だけで作り上げた、ココの技術なんだよ」
「そう聞くと、邪険にも出来ないわよねぇ」
「一応、どれだけの試作品か見てみようよ」
「残念、向こうは今は夜中の1時過ぎ。一般の民間企業だ、一応」
「あー、残念」
「一応って」
「転生者絡み。ただ、ホムンクルスからの派生ってより、応用ベース。人工臓器を元にしてる」
「難しいわよね、転生者すら絡んで無いモノを探すって。転生転移嫌いには辛い世の中だなぁ」
「そんな人間、居るには居るか」
「まぁな、ココのを現地民とするなら、俺ら転生者も移民者だからな」
「なら私は真の移民者ね」
「確かに、何か有ったら言ってね。憤怒さんに言い付けるから」
「お前、何処に居るか知ってるのか?」
「知らん」
「自治区だ、隣接してる。ベガスの横は、ロサンゼルス、教会地区だ」
「うへぇぁ、ホイホイ遊びに行っちゃってたわ」
「だよなぁ、挑発行為にならないか審議が有ったんだが、先生が否定してその話も消えた」
「やべぇな、他に何を悪い事してるんだろ」
「悪い事じゃ無いだろう、何も規制されて無いんだ。そも挑発行為に思う方が悪い、一切敵対心が無いのに、行動を控える方が不自然だろ」
「そうね、変に気にしても気にされるんだし。ただ、気にしようが気にしまいが気にされるんじゃ無いの?」
「関わらないのは了承したんだし、何か、しない方が良いってのは無い?何でもかんでも好きにしろは、しんど過ぎる」
「そこはもう、相談してくれよ」
「眠るって言ったら賛成したか?」
「私は賛成したわよ、だって、仕事で言ったら何連勤よ?小休憩は有っても、長い休みが無いじゃない。悪い言い方になるかも知れないけど、死刑執行人ですら長い休みは強制なのよ?」
「執行人じゃ無いにしろ、まぁ、俺は反対するかもな。好きな事をして過ごせって、待つ事を強要したとは思う」
「そこよ、好きな事をするにしたって、出来る事も知ってる事も少ないし。そもそも集中力が必要なんだから、探すのだって労力も要るし。愚痴るワケじゃ無いけど、今、仕事に追われてる感じだから、いきなり休んで何かして良いですよって言われても、探せないわ楽しめないわ、集中出来ない自信が有るし。あ、ハナが悪いんじゃ無いのよ、今は私達の踏ん張り時なだけだから」
「とは言え、すまん」
「大丈夫、充分してくれたもの。関わり合いの度合が政治的にも丁度良かったみたいだし、ね?」
「おう、切り上げるには良かった。すまん、俺はココの歴が短いと言えど、もう6年生とかだもんな、1年生には難しいよな」
「そうそう、相手の立場になるって難しいのよね。つい、今の自分のまま、そこを挿げ替えただけになりがちだし」
「悪癖だよな、違うってココで教育されてても、思考の癖が直らん。マジ、すまん」
「いや、それ結構高等技術だと思うが。ワシ、出来る自信無いぞ」
「私もよ、不便そう、大変そうって思って。ハナが平気で、大丈夫そうなのが納得いかないもの」
「贖罪、原罪?の消化期間、的な?」
《私は凄く嬉しいですよ。何の遠慮も無しに近くに居れて、お世話が出来るんです、必要とされるんですから》
『はい』
「歪んでる」
《子供の世話と一緒ですよ、不自由さを慈しみ、世話をして愛でる。赤ちゃん返りして下さって、尽くせる様にして頂いて、私は嬉しいです》
「赤ちゃん返りは否定したいが」
『そうなんですか?』
「俺も、弟妹が生まれたら成らないか、少し不安なんだよな」
「1人っ子だった?」
「おう、子孫も残さない親不孝者だったわ」
「それ、どうかと思うのよ、多様性的に複数残さなかった親が悪いと思わない?どう生きても先天性、後天性の病気、怪我で残せない状態になる確率は高いんだし」
「まぁ、それはそうよな。ひょんな事で子孫を残せなくなる割合は少なくない、ワシの病気がそうだったけど、ウチは姉と兄が残した」
「場合によっては、世話用の兄弟を作る家庭もあるし。前は、考え方次第だって思ってたけど、絶対的に、余程の何かが無いと、親の資産次第で子供の人生は決まる、人生の半分は親のせいだって実感したわ」
「そこは、スーちゃんの方が先輩か」
「そうね、転生歴はリズちゃんの倍だし。向こうの生活も結構自由で楽しかったし、根が悪い人って、気が付いたら消えてたし、うん、過ごし易かった」
「精霊か神様、どっちだろね」
「良い風に考えると、どっちもだと良いな。全部がクソなら、全員クソって思ったかもだけど、割りに、良かったと思うし、凄い悪い、とか、そんな、無かったから」
「おしおし、ワシも、そこまで悪いと思わんよ、なりに頑張った世界なんだったと思う。現に誰も嘘は言わないし、あの律法だって守る為のモノだと思ったし。必要悪を悪と呼べんよ」
「鈴木さんにも情報規制させるべきなのに、すまん」
「大丈夫、ちょっと、思い出し泣きしただけだから」
《イライラする物質を出すのに最適だそうですよ、だから、出した方が良いです。ハグしましょうね》
「へー」
「元は、向こうにも有る知識らしいが、知らないのか」
「んー、調べなかったなぁ、涙は悪派だったから。周りがね」
「あ、加速した、同じ派閥らしいぞ」
《みたいですね、よしよし》
『頑張っているからこそ、泣いても良いと思いますよ』
カールラにホールドされ、クーロンの言葉で更に涙が加速したスーちゃん、コレは罪悪感が湧く。
眠ってた弊害じゃ無いかと。
「桜木、お前が眠ってた間の難民の報告書。タブレット出せ」
「おぉ、やっとか」
リズちゃんが魔法のポシェットからタブレットを取り出し、操作しスワイプ。
コチラのタブレットに資料が表示された。
冬眠直後に翻訳機が完成し、コミュニケーションが取れるようになり、学習の伸び率が急上昇。
そして現地の人間とも今の所は問題無し、スムーズにやり取りも出来てるらしい。
竜が連れて来た男衆も、問題無く笑顔も増えてきたと。
そして例の少年も、カウンセラーと好きの探求をしてるらしい。
「お前が眠ってても問題無かった」
「あざーす。でも、この少年、これから大変だろうな」
「だな、ギリで犯罪だったからな」
「前段階の未遂だ、セーフ」
《この距離までは見守りました》
「近い、うん、精霊さんが正しいわ」
「別に。起きてたら平気なんだが、可愛いし」
「お前」
「メンクイたるものとことんよ、余裕っすわ。つか、向こうのお作法なのかもだし、どうなのよ」
「そこ知りたがるか」
「良く言ってトラウマ回復?悪く言えば好奇心」
「ほら、これ」
それこそ、夜這いを仕掛けるのがお作法だった。
断られるのを前提としたマナー、致すのは3回目の訪問で、と。
元夫、忠実に則った作法だったんだな。
ただな、告知せいや。
「告知無しかよ」
「今はもう新世界ルールで納得してくれてるらしい、好きと伝えて向こうも好きだと言って、何をするかちゃんと伝える。必ず1回は断られるのは礼儀では無い、諦めろ。諦めて良い、ってな」
「その先や他で問題が起こりそうだが」
「そこはな」
「そこは、大丈夫、うん、ありがとう2人共」
《いえいえ、空いてさえいればいつでもどうぞ》
『僕もです』
「ありがとう。その話は、恋愛関係は大丈夫、だって、ココにはお話がいっぱい有るじゃない」
恋愛ドラマ鑑賞会後、ミーティングをしてるらしい。
注意事項から始まり、疑問質問を話し合う。
コレには現地の男女、マキちゃんなんかも加わって、お話し合いするらしい。
おや、ショナも混ぜたら良いんじゃなかろうか。
「おやおや」
「あ、お前、それショナ君の事だろう」
「おう」
「それ、違うらしいぞ」
「まぁ、マキちゃんは否定してたけど、好みと好きが符号しないのは良く有るし」
「えー、まぁ、そっか、気付かなかったなぁ」
「いやでも、先生が否定してたワケだし」
「えー、先生観たのかな、映画館」
「観てない」
「なんでやねん」
「俺も観たから先生に勧めたんだが、客観性がどうとか言ってた」
「えー、観たいのになぁ」
「スーちゃんは良いでしょ別に」
「それなんだが、報告書、ほれ」
大蜘蛛と黒い繭の都市伝説。
絵本出版に、クトゥルフ神話書の改訂版の出版、売り上げは。
「売り上げは」
「お、気になるか?でもなぁ、退役するんだろ?」
《そこは悩み中じゃよな?》
「おう、能力が分化したぽ。紫苑は雷電、花子は治癒系」
「そうなると、蘇生はどうなるんだ?」
「いやぁ、試すに試せないし」
「良いのが居るだろ、神様に」
「ロキさんか」
「おま、直ぐ来ちゃうぞ」
「分かってる、ロキな、呼びに行かないで良いのが便利よな」
「はぁ」
「ハナのそういう順応性良いわよね」
「でしょ」
『サクラちゃん』
「なんで来た」
『何か、話題になって無いかなって』
「それは勘?」
『うん』
「ほら」
「もう、オイ、より雑よね」
「顎で呼ぶとかと違う次元だもんな」
『なになに』
「色々ありがとう」
『え、なに?日誌の話し?』
「日誌?」
『あれ?違うの?コレ』
「ロキ神、やっぱ俺の返してくれないか」
「なによ」
「んー、ハナの日誌?」
『ううん、サクラちゃんへの日誌』
「ほう、よこせ」
「俺のは見るな、やっぱダメだ」
「そう反応されると気になるぅ」
「なるぅ」
『皆の愛がぎっしりタップリ、虚栄心のも有るよ』
「くっ、物理限界が邪魔を」
「だっこしたげよか」
「にしても足りないだろう」
「投げ付けるとか?」
「それは良いアイデアだ、スーちゃんやったげて」
『良いなぁ、直ぐ仲良くなれて』
「まぁ、お友達?みたいな?」
「ねー」
「友達って、どこから友達なんだろうな」
「ふふふ、若いなぁリズ君は。状態を表す言葉に過ぎないんだよ、経過地点を表すモノ。友達で居続けてれば友達、どちらかが友達じゃ無いなと思ったら、もう友達じゃ無い。ただ、知り合いと友達の垣根は曖昧で、知り合いの知り合いが友達って言ってた、そう話してたって聞けたら友達。第三者の視点からの位置付けも含んでる。ただ、相手が知り合いって言ってても、良い意味も悪い意味も含んでるから、それを踏まえて熟考すべし」
「スーちゃん、凄いな」
「家族とか身内、夫婦か兄弟の概念しか無くてさ。説明大変だったんだから」
「あぁ、そう説明したんだな」
「間違ってる?」
「いや、合ってると思います、凄いぞスーちゃん」
「だな、うん、良く頑張ったと思う」
『そうだね、良く纏まってると思う。ご褒美に高い高いしてあげようか?』
「やった、はい、お願いします」
「そこは素直に受けるんだ」
「コイツも中々の順応性だと思うぞ」
「ね」
「ふふ、だって、子供限定の恩恵じゃない」
「恩恵扱いなんだな、まだ俺はちょっと無理だわ」
『はい、おわり』
「ありがとうございました。勿体無い、折角小さな子供なんだし、子供を存分に楽しまないと」
「まぁ、そうなんだが」
『大人でもしてあげるけど、どう?』
「いや、バランス怖いから良いや、今度で」
「なら水中はどう?ミスると鼻に水が入るけど」
「あぁ、投げられるヤツな、アレは楽しいよな」
『したげよか?』
「いや、マジで赤ちゃん返りちゃうんで、ココ、サメ居るし」
「じゃあ、どっかのプール?海とか?」
「プールは流石に大人を投げたら怒られるぞ」
『えー、じゃあ他の海だね』
「今度ね、他の報告くれ」
「無い、そんな曖昧なのじゃ情報はやれん」
「は、べきなのは無いのかよ」
『はい、日誌と会員証』
「俺のページはまだ」
「じゃあ、やめとく。ロキ、皆に返してきて」
「いや、別にそ」
『うん』
「あーあ」
「気が向いたら読ませてくれるでしょ、一服するから向こう行くお」
ちょっとイラッとしそうになったが、あんな嫌がるのは恥ずかしいからだろうし。
こんな脳味噌空っぽで眠ってたと思ってないから、色々書いちゃったんだろう。
そう思おう、そうしとこう。
『短気ですよね』
「煙吹き掛けるぞソロモンさん」
『図星ですね』
「そうですよ。あぁ言う遣り取りは嫌いなんだよ、面倒」
「すまん」
「なん、なんでもっと早く回収しないのよ」
「悩んでた。色々お前の負担になる事が書いてある、だから、このタイミングじゃ無いと思って」
「良い、もう何も知らんで良い。聞かんし、せん。報告も何も無いのも、もう良い」
「いや、悪かった」
「読まん」
「読め」
「読まん、近い近い」
「魔女、黒いオーラの話が書いて有る」
「別に良いってば」
「なら話す」
「あー」
「器用に、膝で塞ぎやがって」
「あー、態勢がきついー」
「言わない、言わないからもう良い。悪かった、本当に、お前への情報で悩んでたんだよ、何かしら気にさせたら悪いかと思って」
「考える力がもう、そんな無い。前と同じで、神託が降りるまでだけ。触媒に過ぎないの、なんもヤル気無いもの、治すのも何かするのも、なんもヤル気無い」
「お前、それ鬱じゃ無いのか」
「いや、コレが本来だ。本物に失礼だわ」
「いや、でも、学校行こうとしてただろ」
「一応、あれ?話したっけ?」
「映画館で、日常を少し」
「ちょっと恥ずかしいな」
「そう言うのは無いぞ、勉強してるお前の視界とか、憤死を面白く感じたのとか」
「どストライクに不謹慎な所を」
「憤死を調べて鼻で笑ってたインパクトがな」
「いや、だって、そんなんで死ねるって凄いじゃんよ、腹上死並みの都市伝説やろが」
「結構、真面目に勉強してただろ」
「ココではせん、似た資格も取るつもりは無い」
「なら金額は言えないな、宝くじが当たったら仕事を辞めるなって話、知ってるか」
「知ってる、身持ちを崩したり、詐欺に合う可能性が有るからでしょ。そんなか」
「お前が身持ちを崩すとは思わんが」
「引き籠って何が悪い、世間とネットで繋がるんだワシは」
「そのまま孤独死されたく無い」
「せんわ、退役もせんわ、イベント出りゃ良いんだろ。ただしコレで出るからな、コレが本来のワシだ」
「それは、そこを気にしたんじゃ無いからな」
「君はでしょ」
「バカ、周りもだ」
「痛々しい、ワシなら耐えられん、意地でも治す」
「でも治さないんだろ」
「まだ、凄いしっくりくる、安心する。なんも無しに治ったら、アレが夢みたいで、不安になる」
「もう、誰も夢だなんて言わん」
「身内ならでしょ、身内だけ、こう情報が規制されてんのは、良くない話が出てるかもでしょう」
「自治区がバラ撒いた、大蜘蛛の繭はお前だと」
「まぁ別に、本当だし」
「クトゥルフの化身、ニャルラトホテプだと」
「あー、そう、引き籠ってれば良いでしょ。いや、また眠るか」
「正直な。ただ、手足はどうにかして欲しい」
「ホムンクルス施設なら良いのか」
「あぁ、国内だからな」
「島、どうするよ」
「国としては。礼拝堂を残して、日本に帰って欲しい」
「分かった、最初から言えよ。そういうのこそ、大嫌いだわ」
まだ、眠ってたら良かったか。
また寝ようかな。
スーちゃんとお別れし、礼拝堂を切り離し、中央分離帯を付けたまま日本へ。
指定された海上へ。
何も無い、海しか無い。
「すまん」
「構わん、変に気を使うなら知り合い以下だわ」
「分かった」
「見ての通り平気なのに、何でよ」
「楽観視した想像だと、お前は平気だと思った。最悪はショックを受けると」
「君はワシの何を見て来たんだね」
「漫画」
「最新巻、読んだか」
「どれもコレも、全然、進んでねぇじゃねぇか」
「ワシに言うなし」
「まだ少女漫画の方が良かったわ、サクサク読めるし」
「見たのか」
「売れるの有ったら売るべきだろ」
「しかも売る為かよ」
「コアなのは無理だ、作画がパンクする」
「ど、あれか。居るだろ、細かい絵が好きなタイプ」
「作品の雰囲気は大事だろうが」
「アレは作者の好きが詰まってるだけで、作画の人の好きを詰めれば良いんだよ。本人が転生して来ない以上、逆に完コピは失礼だろうに」
「お前、そう言う派か」
「おう、同人かオマージュシリーズしか認めないぞ。オリジナルは本人主導ですべき、何でそう書いたかは、作者のモノだから」
「ならお前がオマージュシリーズの手綱を握るんだぞ」
「知ってるのはリズちゃんがやってよ、数が凄いんだし。スーちゃんにも受け持って欲しいが、大分先かな」
「ドリームランド、どうなってる」
「今、制限付きになってんじゃね」
『しておる、ただ娘は返せんぞ。虐待は見過ごせん』
「通院歴は無かったぞ」
『殴るだけが虐待で無かろうよ、過度な制限もまた、虐待では無いのかの?』
「なら今は病院なん?」
「ダメだ、行かせないぞ、今は時期が悪い」
《私に、ソチラで会わせて頂けないでしょうか》
『ならん。来る事自体ならん、宮殿の外、ハナの世界にすら怯えたんじゃ、まして天使を見れば罰が下ると思うじゃろう。周りに心配を掛け、祈りの時間を眠りで過ごしたともう既に罪悪感を持っておる。ワシはな、各世界のワシと知識も感情も共有した、コレは決して良い傾向とは思わんぞ』
「でも、いつまでも囲っておけないでしょうよ」
『今帰せば、注目を浴び、何を言うか分からん。ワシはもう知っておる、愚かにも弱い人間が、身を守る為に何をするかを』
「で、いつ返すの」
『あの大罪だか魔王が居なくなるまでじゃな』
「すんません、無理っぽい」
《では、私を入れて頂くワケにはいきませんか?》
『あの娘や、天使に怯えるモノと接触せねば良いぞ』
《では、失礼致します》
「あぁ、待って、中にお布団敷くよ」
《大丈夫です、光が有る方が良いので》
野っ原に眠る天使。
何を確認したいんだろうか。
「なぁ、お前で何とか出来ないのか?」
「虐待なら何もする気は無い」
「なら、先生連れては、ダメか。お前専任だもんな」
「さぁ、ワシの事なら良いんでないの」
「そんなガバガバかよ」
「聞いたら良いじゃない」
「確かにそうだな」
残念、睡眠中らしい。
つか、数日でどうこう出来る問題じゃ無いだろうに。
「どうしたって長く掛かると思うが」
「現実の時間はそう関係無いだろう」
「まぁ」
「腕、どうする。最悪は傷跡とか出来るぞ」
「綺麗に治るよりは良い、行く」
そうしてホムンクルス施設へ。
クーロンとアレクは島で警護を続行。
今度はリズちゃん、ショナ、カールラと共に中へ。
「お待ちしておりました」
「すんません」
「いえ、さ、中へどうぞ」
少しも変わらない施設長に案内されながら、地下へと潜る。
行きたかったなフィンランド、食いたかったなカラクッコ。
施設内部も変わらない、前のまま。
血液採取、遺伝子の分離、読み込み。
そして形成へ。
真っ白な腕と足、耳が出来上がっていく。
リズちゃんは、施設長と何かずっと話してるし。
ちょっとお腹が減ったな。
アレはどんな味がするんだろうか。
「ショナ」
「はい」
「アレはどんな味がすると思う」
「え、そこ気になりますか」
「鉄分無しの肉の味が、想像付かんし」
「試すならアレは止めて下さい、材料はギリギリのしかココにはもう、無いそうなので」
「そうか、材料か」
「機密だそうです」
「お腹減った、カラクッコ食いたい、とっとけば良かった」
「後で探しておきますから、くっつけても食べないで下さいね」
「考えとく。もう魔王らしいが、何で辞めない」
「普通の人間に見えますし」
「人間に擬態してるのかも知れん」
「ずっとそのままなら、やっぱり人間なんじゃないですか?」
「変身の弱点を。やれば出来るんだぞ、したぞ」
「読みました、戻るのに手間取っちゃってたじゃ無いですか」
「でも出来る」
「ココでは止めて下さいね、警報が作動して作業が止まる可能性が有るんで」
「イライラしてた割りに落ち着いてる」
「だからですよ、落ち着かせるのが魔王なら、もうどの神も精霊も魔王じゃないですか」
「そう油断させて」
「はいはい、飴か何か貰います?向こうに私室が有るそうですし」
「赤ちゃん返りちゃうからね?」
「分かってますって、それより、気を使わないで下さい。誰も遠ざける必要は無いんですから、国も国民も、桜木さんの味方です」
「国民さんと面識無いんだが」
「向こうは知ってます、絵本も2冊出ましたし。趣味嗜好も、嫌いな食べ物も知ってます」
「SNSか」
「はい、少しずつやってきた成果です。戦略も多少は絡んでますが、ケバブが好きだとか、硬いパンが好きだとか。勿論、匿名掲示板ともなれば自己顕示欲や承認欲求から奇抜な発言は多いですが、誰の事でもそうです、そこは通常通りですから」
「知らん間にワシが召喚者してるのな」
「例の件に似た事案の相談所が、桜木さんの名前で新設されました。万が一、本人が本格的に動く前にと。それの成果も有って、結構国内も静かなんです」
「もうワシ要らんくない?」
「大変なんですよ、桜木さんならどうするかって考えるの。結構難しい時も有るんで、もう深い眠りに、あまり、行かないで欲しいんですが」
「大変だからか」
「何か、拗ねてらっしゃいます?」
「いや、元からです。もう、マトモを装う力が無い」
「あの、万が一にも、次に移動する事になったら、一緒に連れて行って欲しいんですが」
大変心強いが、マキちゃんの事も有るし。
もう恨まれたく無いし。
「考えておく」
「何がいけないんでしょうか」
「いや、考えると言ったんで」
「即答出来ない理由です」
「お腹が減った」
《なんで嘘言うの?》
「おま、お腹は減ってる」
《嬉しいって思った筈なのになんで?》
「こんなんだったっけ君は」
《本当の事を言わなくなるかもって、ネイハムもマイケルも言ってたの》
「完璧な布陣だなおい、参った」
「能力不足ですか?」
「いや、それは問題無いが。君のご家族とかね、お兄さん見たワケだし、周りがね」
「もしかして、雨宮大使館員の事ですか?」
「まぁ、恨む様な人間じゃ無いけど。もう恨まれたく無いし」
「それは誤解だと」
「ワシはワシの見たモノを信じる、好みと好きは一緒とは限らないと知ってる。好みじゃ無いから好きじゃ無いと勘違いしてれば、先生にだって見抜けないかもだ」
「桜木さんが居ない状態でお会いしましたけど、そんな素振り有りませんでしたよ」
「君がマキちゃんを見てない時だ、しかも2回」
「それ、ソロモン神の策略では」
「無い、そんな事しない」
「命を奪うのにですか」
「だからだ、そんな分かり易い仕掛けせんだろう」
「そもそも、僕は興味無いんで心配いりませんてば」
「なんで興味無いのよ、そんなに従者してたいか」
《ご主人様が好きって言っても興味無いの?》
「カールラちゃん、それは駄目だ、パラドックスが起きてこの機械人間壊れちゃうから」
《ショナは人間なのよ?》
「いや、どうせ現役で従者したいとかマニア思考なんだから、困らせたらダメよ、知恵熱出す」
《考えるはダメ?》
「召喚者のワシを使ったらダメ、現にフリーズしてんだし」
「いや、はい、すみません。機械じゃ無いです」
「ほら、バグりかけて答えが1テンポ遅れてる」
「一生現役では居たいですが」
「ほらまたフリーズした。アンドロイドなら可愛いけれど、人間は可哀想だ」
《カールラが困ったら?》
「そんな事有るなら、両方かな、可哀想可愛い」
《ふふふ》
「カールラが困る事は何だろな」
《ない》
「ですよね、可愛いわ」
ちょっと衝撃が走ったが、向こうも枯れ木病の重症者だった。
危ないわ、意識するのは困る。
平常心、もう平常心。
ソロモンさん、余計な事をしたら今度は死ぬまで眠ってやるからな。
フリーズしては思考するショナを眺めていると、リズちゃんがやって来た。
何故、申し訳無さそうなのか。
「で、もう出来る直前なんだが。相談した結果、ソッチの傷口を開く事になるんだが」
「どうぞ」
「本当に、痛覚遮断は出来るのか?」
「出来てる筈」
「では、確かめさせて頂きます」
無菌室へと案内され、消毒、注射針を何箇所か刺す。
痛く無い、オッケー。
「痛く無い」
「では、始めます」
手術っぽい。
ココまで本格的なのは初めて。
先ずは足、何かされてんなって感じ。
見れたらちょっと見たかったのに、繋がるまで寝たまま。
「何か喋って、ヒマ」
「施設長の記憶を元にしてあるんで定かじゃ無いが、遺伝子が僅かに変異してるぽいぞ。上で再確認予定だ、次は病院で検査」
「お、マジか、確認しよう。それとメシはどうなる、この肉片、味見したかったのに」
「おま、そんな事考えて眺めてたのか」
「だって、鉄分無しの肉の味って気になるじゃん。つか人肉気になるじゃん」
「ならんわ」
「自分のぞ?動物だって自分の胎盤食うんだぞ」
「キュンってするから止めろ」
「どっちの話題でも反応すんのか、大変やな」
「お前がそんなんばっかり言うからだ」
「だって、向こうで出産時に胎盤食える産院とか有ったんだもん」
「あぁ、お前の姉ちゃん発信か」
「まぁ、蓄積した水銀とか有るかもだから臍帯血バンクに収まったけど、レバー好きだし」
「吐かせたいのか?」
「見なきゃ良いでしょうが、口だけで息しろ。レバー、牛の肝臓生で食いたいー食いたいー」
【良いお店、探しておきますね】
「食えるのか」
「おう、でも俺は、今日はやめとく」
【交代しましょうか?】
「甘やかすなよショナ、毎月見る事になるかもなんだぞ」
「お前、何、どれだ?何が気に食わなかった」
「いや、別になんもない。日誌のやり取り位だわな」
「マジでピリッとしたもんな、ビックリしたわ」
「女子のああいうやり取り見てて、絶対すまいと思っててさ、つい」
「俺のは違うからな、本当にギリギリまで悩んで、止めようと思ったんだ」
「今、ココで朗読」
「知らない権利は侵害出来ん」
「それ以外の部分」
「普通に恥ずかしいわ、他所様に聞かせる想定まではしてない」
「甘いな、紙の持ち主ロキぞ、ヘルに真似っ子して読み上げて遊んでるかも知れんぞ」
「マジか、それは想定して無かったわ」
「まぁ、冗談半分」
「半分はやってる可能性が有るのか」
「無くは無いだろうな、アレだし」
「確認したい、サッサと終わらそう」
「君の裁量でどうにかならんかね」
「ならんと思うが、どうなんだろうか施設長」
「血管縫合が終わり、神経を繋ぎ合わせてる最中ですよ」
「それ、ちょっと任せてくれんかね」
「はい」
少し圧着して貰い、良い場所で止めて貰う。
この調整に時間が掛かったが、細い神経はいけた。
「いけたわ」
「よし、全部やれ、なる早で」
支えて貰いつつ治癒。
腕の切断が役に立ったな、痛く無いし余裕よ。
「ただ、こっからが問題だな、痛いのは普通に怖い」
「手、握り潰すなよ」
「それの方が怖いわ、施設長、手貸して」
「はい、どうぞ」
もう手汗ベチョベチョ。
向こうは手袋してるけど、絶対気付かれてるわ。
少しずつ開通。
全開。
痛み無し。
「痛み無し」
「じゃあ次は感覚の確認ですね」
「くすぐったがりなので、宜しくどうぞ」
くすぐったく無さそうな部位をやってくれた。
うん、有る。
「有る、動かす」
「お、動いてんじゃん」
「血はいいのか」
「先しか見てないし」
「次は腕にいきますが、大丈夫ですか?」
「ギブ、交代するわ」
「おう、良く頑張ったな」
「お前が言うか」
交代の合間に足を見る。
何か綺麗な気がする。
ちゃんと感覚も有るし、良い子だ。
そしてショナが交代で入って来た。
再び横になり、腕の傷口を切開。
「何か、吻合部を、かっこいい模様になる感じにしたい」
「無茶では」
「あ、やってみるみたいです」
「良いんだ、ありがとうございます」
「良いんですよ。最近の文献で、傷口を入れ墨で生かす技術も有るんだと、研究員の間で話題に上ったので」
「あー、知ってる、隠すんじゃ無くてね、良い個性の出し方だと思う。まぁでも、傷跡は薄い方が良いと思う。どうしたって共感して、痛そうと思っちゃうし」
「だから、以前は反論しなかったんですね」
「そらね、見てる側の事を考えたり、利便性的にね」
「勝手をして、すみませんでした」
「別に、ただ選択肢を提示して欲しかったかも、今治すか、何時までに治すかハッキリしろとか、治さないと同じ状態になるぞ、とか」
「最後のはちょっと、思い付きませんでしたね」
「カールラなら分かるでしょ」
【はい、主には1番効きます】
「ほら。クーロンはどう言ったの」
「表面上は納得されると思います、と。納得するか、聞きましたから」
「質問の仕方が悪かったな」
「ですね、気を付けます」
「そうだぞ、気を付けたまえよ」
【俺も、気を付けるわ】
「お、ゲロってたか」
【違う、報告を纏めてたんだ】
「オラ、何か話せオラ」
【そこはショナ君だろ、日誌書いたか?】
「申し出の日がバタバタしてまして、断っちゃいました」
「目覚めるのが早かったか」
「いえ、召喚状が来て準備してたんです」
「何も教えて貰えんのだけど、どうしてたとか、普通のでも良いのに」
「個人的に書いてたのなら有りますけど、見ますか?」
「良いのか」
「本当に他愛無い事ですよ、家を見に行ったけど、桜木さんはどこまで自分で改築したいだろうか、とか」
「業務日報かぁ、私的なのは無いのか」
「でも、私的見解もちゃんと入ってますよ?」
「そこは黒塗りでも良いや、流れが知りたいねん」
「じゃあ、後で見せますね。それで、壁とか塗りたい派ですか?」
「あー、いや、プロに任せたいけど、皆のは外壁塗装とか、皆でしたら愛着湧かんかね」
「湧くらしいですよ、周りと色合いを合わせれば、地域住民との距離も良い具合になるそうですし」
「あー、色なぁ」
「古い内装だと、意外と青が多いそうですよ、濃いのから薄いのまで」
「マジかぁ、緑も捨て難し」
「色見本帳借りてありますよ」
「何で早く言わんの」
「落ち着いたらと思いまして」
「前と違うぞ、腑抜けて受け身だから宜しくどうぞ」
「了解しました」
「固定、完了した様ですよ」
「おう」
骨を接着、そのまま自分の手で接合。
そして神経へ、めっちゃスムーズ。
そのまま耳もくっつけ、そして腕の痛覚開通へ。
「手を貸しましょうか?」
「もう大丈夫」
どうしてもマキちゃんがチラつくし。
手汗ビッチョリのまま、いざ開通。
痛く無い、感覚も有る、そして動く。
【はぁ、緊張すんなコレ】
「動く、動くぞ」
【今度は、俺のオススメ貸すが】
「おう、宜しく」
左耳も軽く調節、感覚も有る。
聞こえ自体は最初から問題無しだし。
今度は手術台から降り、自力で歩行。
結構血が出てんじゃん、良く耐えたなリズちゃん、後で沢山褒めとこう。
【違和感は】
「左が、長く感じる。冗談、特に無い。ありがとうございました」
「あぁ、貧血の症状が出るかも知れませんから、ゆっくり頭を上げて下さい」
「すんません、つい、うっかり、大丈夫、平気」
「いえいえ、さ、ゆっくり」
手術着から普段着に着替える。
うん、もう1人で出来るもん。
《嬉しいけど、ほんのちょっと寂しいぃ》
「母性が強過ぎ、サッサと番を探させないとな」
《そのうち》
「そこは見習わないでくれ」
地上に戻り、次は病院へ。
普通に戻ったのとは違うからか、ちょっと心が軽い気がする。
念の為に車椅子へ。
既に戻っていた、ネイハム先生に押される。
《悪くなさそうな表情ですね》
「ですな、牛の肝臓食いたいです」
「マジでかよ」
《鉄分補給ですか》
「ですな」
「だけなのか?」
《ビタミンAもですね、なので摂り過ぎ注意ですよ》
「DAKEな、ダケだけ脂溶性」
「語呂合わせか、なるほどね」
「美味いんだぞ、牛と鶏は味も違うし」
「今日のアレ耐えたんだから勘弁してくれよ」
「だな、偉い、凄い、マジヤバい」
「語彙力消えてるが」
「褒める苦手アルよ」
「カタコト」
《じゃあ、先ずは尿検からですね》
「ちょっと散ってくれんかね、普通に恥ずかしいわ」
ショナとリズちゃんには先の検査室前で待ってて貰い、トイレへ。
その後は血液検査、聴覚測定、レントゲン、エコー。
CT、MRI。
検査結果が出るまで、先生と面談へ。
《どうですか》
「フィンランド行ってカラクッコ食べたかった、アンドロイド見たかった、コレ味見したかった」
《どういった興味で》
「鉄分無しの肉の味が気になった、カニバリズムはそんな無い」
《少し、ですか》
「純粋に味の興味と、食べて取り入れる儀式については良いイメージが有る」
《そんなにお腹減ってますか》
「減ってるねぇ、かなり食える気がする。来ます?」
《はい。ただ、どちらの身分で行かれるんですか?顔、治さなかったんですよね》
「あー、考えて無かった。皆のオススメで行く」
《なら、召喚者の身分でお願いします。顔出しの、白髪で》
「インパクトデカ過ぎでは」
《露出は早い方が良いですし、アンチはお気になさらず。アンチのアンチも居ますから》
「プレイヤーキラーキラーか」
《ゲームですね、何かしてみます?》
「皆のオススメが知りたい、そこから探したい」
《私は、本位しか趣味が無いですよ》
「どう読んで集めてるの?」
《同じ作品の初版から重版、翻訳の違いや変更点、遍歴が面白いんですよ。カエルが壁に打ち付けられるのが、キスに変わる過程なんか、特にオススメです》
「クッソ興味有る。特にその話し」
《カエルの話は各国に、ロシア自治区やルーマニアでは3人の王女、王子がカエルを伴侶に選ぶ。そして才能を発揮し、魔法が解け、幸せになる》
「カエルのままは無いのか」
《教訓や異類婚姻譚も含んでますから、どうしても人型になりがちですね》
「性別逆なら、龍なら違うのに」
《そうですね、人間の娘と龍。他国の話は異教絡みでも有りますから》
「あぁ、あぁ?」
《格下を表現するのにも使われるんです。エジプトのヘケト神の様に多産、雨の自然崇拝に通じますから》
「自治区に転生しなくて良かったわ」
《以前なら否定しましたが、まぁ、そうですね》
「カエル好きなら、カエルのままが良いだろうに。どうして変わってしまうのか」
《男性恐怖症克服の話しと絡めた場合ですと、致した後の王女様の心の視点からの変化だそうで。致した事で、他と同じく普通に見えてしまう様になった、と》
「あぁ、天才、なるほど。でもカエルのままが良いなら」
《そうなると、また魔法に掛かりに行く旅が、今度は始まるんでしょうね》
「先生書いて」
《もう少し、書き手を選ぶべきでは》
「感情表現豊かだとウザい時も有るから、先生っぽい感じので読みたい」
《好きですよね、御伽話》
「好き、更に好きになった。王女王子系は好きじゃ無いが、頑張ってるのは好き、民話なんかもう最高」
《結果、出ましたね。異常無しです、検査では》
「心做しか綺麗に見える気がする」
《日焼けの色合いの差では》
「かなぁ、触った時に愛しく感じたわ、繋がってくれてありがとなって」
《そこにまでガジェット好きが出ますか》
「あぁ、それなのかも」
《じゃあ、このまま行きましょうかね》
「いや、召喚者で行く勇気が」
《一服してからにしますか》
「うん、そうする」
病院の向かいの喫煙所で一服。
美味い、寒いと余計に美味いわ。
【桜木さん、他に食べたいモノ有ります?】
「生肉系、焼肉系」
そして一服を終え、着替え、道内の焼肉店へ。
調理場ガラス張りって、凄いな。
しかもリクエストに無い、馬とダチョウのレバーまで有る。
美味い、食べ比べ最高。
でもやっぱ、牛だ。
いくら衛生管理をしていても、生は妊婦や体調不良者には食べさせられないんだそう。
贅沢品、健康有り難い。
「そんな美味いか」
「美味い、加熱の方が苦手」
「普通逆な気もするが」
「ばあちゃんが得意先から良く買って来て食わせてくれた、当たった事は無い」
「あぁ、それでか、俺は加熱が先だったわ」
「勿体無っ」
「炙る位は良いだろ」
「殺菌には無意味だった気が」
《そうですね》
「良いの、あー美味いわ」
「魚は炙り派だから否定出来んわ、どら」
「俺に文句言うなよ」
「やっぱ生だわ、鳥はどうだ」
《コレは大食いしないで下さいね》
「おう、うん、鳥は良い感じ」
「ほう、どらどら」
「ショナは普通に食うのね」
「ウチにも生レバーが出たので、何でも食べれる様にと」
「うん、鳥も炙りだ」
カールラは大人のまま焼肉をパクパク食べてる、美人だし所作が綺麗だし。
良い目の保養。
「実は豚レバが嫌い、絶対加熱だし、家でレバニラ残した」
「あー、分かる、家のクセぇのな」
「0のって、処理が甘いらしいですね」
「「あぁ」」
「凄い」
《シンクロしましたね》
「何か納得したわ、うん、な」
「な、そら生で食う処理と違うかもだしな。リズちゃん、ゲームも、全部オススメ教えろ下さい」
「口語バグってんな。別に良いけど文句は無しな」
「あ、パンツに文句言ったっけ?」
「聞いたわ、次はお前が選べよ」
「スケスケ紐パっ、やめ」
「女同士でもセクハラだぞ」
「お前もな、香水だけよりマシじゃろが」
「古っ、ババァかよ」
「おま、マリリン可愛いだろうが、自分でパンツ洗う淑女ぞ」
「ギャップ好きかよ」
「否定はしない」
「眼鏡」
「最高、もう眼鏡だけで良いもの」
「本末転倒じゃねぇか」
「いや、眼鏡と周りの装飾品だけで良いワケよ、実体はほら、好みが分かれるし」
「六法解説と縁無し眼鏡」
「もう最高じゃんよ、あ、綺麗な手は許すわ」
「クソフェチ野郎」
「ショナ、野郎の反対語は?」
「女郎ですかね」
「偏食馬鹿女郎」
「うっさいわ、お代わり何する」
「ザブトンとハラミと牛タン、コメ、烏龍茶。皆は?」
それから5回程お代わりし、デザートへ。
レモンシャーベット、ほろ苦で美味い。
それと、先生普通にお肉食べるのね。
《なにか?》
「先生も普通にお肉食べるのね」
《まぁ、私は消化酵素が有るので。ミーシャは多分、消化酵素が無いか少ないんですよ。古き良きエルフあるあるです》
「あぁ、そうなのね」
《ところで、さっきの話ですけど。ツボを被った女性の昔話は?》
「知ってるが、中が美人なのが解せん。せめて普通で良いじゃろが」
「獣と娘」
「モフモフが無くなるのはちょっと、しかも途中で美青年に惹かれたりしてるし、ちゃんと帰って来ないし。死にかけに心惹かれるなんて、単なる吊り橋効果やん。しかも、愛して貰いたいなら、もうちょっと紳士に振る舞えよと」
《でも、好きなんですね》
「好きだからこそ、良く考えた。ブスがこんな不幸になった時でも、救われないなんて思いたく無いのよ。せめて普通の顔面でも良いから、良い話が読みたい」
《読みたいですか?普通の顔の灰被り姫の話》
「普通ならそれなりのメンタルで家を乗っ取らせず、自力でお城に遊びに行って、普通に、帰る。才能が有ればね、ワンチャン才能を見初められて結婚して欲しいが」
《その才能も無いと》
「パーティー楽しかった」
《逆に、普通なのに選ばれてしまったら》
「保険金殺人か、妾を黙認するだろって下心を疑うか、顔面そこそこなら、受け入れるかも知れんが。異類婚姻譚は別な」
《大多数は、美人に選ばれる特別感が良いんだと思いますよ》
「外見が普通ならまだしも、こちとら獣や怪物っしょ。逆に相手を疑うわ」
「青ひげ公はどうなるんだ?」
「鍵を返す、受け取らないなら目の前で飲み込むって言う」
《どっちかが悪いとするなら》
「どっちもだわ、試すのも言い付けを破るのもアカン」
《それは異類婚姻譚もそうですが》
「もし自分に飽きたら、開けて下さい。で、諦めがつくし、勿体振るからアカンのや」
《ウッカリ見てしまう場合も有るでしょう》
「もう最初から両目を潰しておけ」
「くっ、段々、何でそうしないんだって思って来たわ」
「だろぉ?好きならそん位はせいや、大概は財産も有って安定してんだし。まぁ、視力落とす位は最低ラインよな」
「くっくっく」
《教訓や身勝手さの描写だと言われてますから、どうしてもそうなりがちなんですよ》
「2種出版せいや、選んで買わせてくれよぉ」
「ブスと美人か?」
「ココなら普通と美人か?いや、もう3種出すか?」
「ならブ女とイケメンはどうなんだよ」
「1周して不安で追い払うわ、せめてブ女と普通だろ」
「ぐっ、どこまでだよマジで」
「クッソ本気だわ」
《このまま、お散歩しながら草案を考えてみましょうか》
先生の発案で、そのまま散歩へ。
流石にベールは付けさせて貰い、買い物兼お散歩。
「ブ女と普通って、もう何の作品の派生か分からんだろうに」
「豚姫と美男?美男かぁ、青ひげっちゃいそう」
「ぶっ、もう全部混ぜちまえよ」
「青ヒゲって、カビ?」
「それはヤバい」
「不潔は無理だ」
「だよな」
「おう、あー、タラの芽が有るぅ」
「買いましょう」
「買い占めたいけど半分で」
「もう山買えよ」
「タラの芽の山、キノコの里」
「理想郷だな」
「桃源郷、マスカットの森」
「もう実質天国だな」
「聞いてる?」
「腹いっぱいなんだよ」
《なら続きを、カエルのお話はご存知ですか?》
「壁に叩き付けるヤツな、大昔にコレ死ぬだろって大爆笑して、女子泣かせたわ」
「素直なヤツめ、ショナは?」
「イボガエルなら、そうなるのかなと」
「ショナや、自分がカエルなら不安にならんか?」
「それこそ、本来がどっちか、じゃ無いですか?」
「じゃあ、本来がカエルなら?」
「魔法が解けないか、不安にはなるかと」
「本来が人間なら不安にならんのか?人間に戻ると知らんで、姫はカエルを愛したのに」
「そう言われるとな、人間の姿でも愛してるだろうとバイアスが掛かるが」
「実はカエルだから愛したかも知れない、と」
「しかもだ、今までと行動は変わるから比べられないワケよ。出掛けるのも、寝るのも食事も、カールラみたいな母性持ちなら、物足りなくなるかも知れない」
「かと言って、カエルの時の生活に戻るのは不可能なんだしなぁ」
「またカエルに戻れる場合はブレ幅が出るじゃん」
「そのままいくか、離別か。コレ、ハッピーエンドか?」
「カエルに戻ってキスされなかった場合は、どうするんですか?」
「そんな情の無い女は捨てろ、次だ次」
「急に冷静だな、そんな追求するか」
「愛はとこんだろう、なぁ?」
《はい》
「神獣に聞くのはズルいぞ」
「立ってるモノは親でも使え」
「それはちょっと違うからな?」
「えへへ、抱っこしような」
「無理すんなよ、モゲたら困、自分で言ってて怖いわ」
「くっついとるわ、触れオラ」
「はー、怖い」
「カールラもショナも居るから大丈夫」
《私は入らないんですね》
「先生はワシの面倒見る方ね」
《なるほど。皆さんに聞きたいんですけど、そんな本が売れると思います?》
「俺は買うぞ、挿絵がシュールなのが良い」
「いっそ、姫や王子は顔無しの描写にしては?」
「あぁ、それ良いね、普通に有るの?」
「じゃあ、市場調査に行きましょうか」
少し行った先の大きな本屋。
晶君、元気だろうか。
「顔、バッチリあるのね」
《人種ごとですから、良いと思いますよ顔無し》
「こう、上手い構図でな、こうとか」
「あー、エロゲあるある」
「お前、雑食よな」
「薄く広く」
「浅くな、まぁ、ほぼ一緒だが」
「コレ良いな、キラキラぞ」
「カラスかよ」
「アッチの方が頭良いんじゃね」
「知能検査するか」
「怖いわ、本気でちょっと怖い」
「大丈夫だろ、こう話せてるんだし。差が広いと会話成立しないとかなんとか」
「ソッチが合わせてるだけでは?おバカ高校出身よ?」
「中の年相応の検査だわ、向こうと同じく100とかだぞ」
「下限80か、ギリだな」
「心配性過ぎだろ」
「おう、せやで」
《大丈夫ですよ、さ、何種類かそれぞれ選んでみて下さい》
自分とカールラはキラキラと綺麗なの、ショナとリズちゃんは見たこと無いモノ、綺麗に分かれたな。
「じゃあ、取り敢えず全部買いますね」
「君等は組んでるのか」
《ちょっと協力しただけですよ》
「ざまぁ」
そして神話や御伽話のコーナーへ。
何か、ちょっと毛色が違うような。
「なんか、違く無い?」
「俺らの金さん、黄門様だ」
「あぁ、あぁ、なるほどね」
ファンタジー世界のファンタジーは、ご本人様方の意向で書かれたモノや、著作権フリーと細部に分かれている。
そうよね、居るんだものね。
《民話集はどうでしょう》
「買う」
コレは普通に買う。
そして休憩に浮島へ。
蜜仍君はお勉強中、偉い。
ダメだな本屋は、無限に居れる。
「なんだよ、どうした」
「住みたい」
「北海道にですか?」
「いや、本屋に」
「あぁ、俺も」
「あの、例えばなんですが。家の事なんですけど、お2人で角に住んで、真ん中をブチ抜きで書庫にしては?」
「悪く無いな、そうするか」
「真ん中は喫茶風な、寝転べて軽食可、トイレも」
「トイレに持ち込み不可な、あと汚すなよ」
「もう別に保存倉庫でも作っとけや。あ、ダメだ、君の婚期が遅れてパパ泣くぞ」
「痛い所を」
「同じ轍を踏むで無いよ、家族好きだろ」
「なら本の虫が好きなのを」
「自分に言う様だが、関わらないと出会えない、結婚出来ないだろうよ」
「鈴木さん」
「手近を、しかもスーちゃんはそのままの性別かも知れんが、良いのか?」
「ぅう、なんでだよ」
「楽だから」
「だよな、くそ」
「バーカバーカ、近いのはやめとけ、それとスーちゃんは普通に結婚しちゃうタイプだぞ」
「そう見えるか?」
「中身が良いもの。友達にはマキちゃんかスーちゃん勧めるね、間違い無く」
「だからって止めて下さいね」
「なんでよ、君もだぞ、孤独死三銃士」
《私も入ってますかね》
「ダルタニアン」
《あぁ》
「でも先生は良いのよ、分かる人系は別だから」
《心は読めませんよ》
「興味無いでしょ」
「僕もなんですけど」
「知らないと興味無いは違う」
「エグるなぁ」
《私が、知らないとは思わないんですね》
「そうなら周りが認めないでしょう」
「何で僕は知らない前提なんでしょう」
「視力落とすで納得して無かった気がした」
「顔が見たいと思うんじゃ無いかと」
「触れば良い、誰にでも見れるけど、触るは特権だろう」
「あぁ、変態だ」
「なんだよ、納得してたやんけ」
「なんか、つい出た」
《確かに、納得が少しいかなそうですね》
「万が一の為に視力を失うって、ちょっと損失が大きいなと」
「もう、その相手しか自分を愛してくれないかも知れんのにか」
「現実に沿うなら、それは有り得ないかと」
「はい童貞」
《誰も、そう思って恋愛はしないでしょうね。頭の片隅には有っても、目の前の恋愛対象に、他に愛してくれる人が居るんだろうと思いながら、喜んでキスしませんよ》
「ウブ2号確定」
「な、お前より重症だわ」
《ちょっとコレでは、津井儺君の証言の信憑性が薄れますね》
「ちょっと待って下さいよ、そうであっても本当に興味無いんですって」
《ならぐぅ》
「だめ、フリーズさせない」
「ショナがフリーズする事ってどんなんだ」
「無し、無し、解散」
《じゃあ、向こうで聞きましょうかね》
「クッソ、ショナから聞き出すわ」
「いや、何でも無いんです、本当」
《なら、両者から聞くまでですね》
もう顛末はカールラに任せ、耳を塞ぎながら一服。
ワシは言わんよ、ワシが言ったんじゃ無いし。
《おわった》
《それで防衛体制だったんですね》
「ワシは何も言ってない」
《態度に出てますよ》
「絶対防衛ラインは死守しないと平和が守られない」
《誰のですか》
「皆の」
《死にたいんですか?》
「もっと適格者を探す、手近はダメだ、今が最高の環境なんだから」
《良くも悪くも、武光さんの事で従者の存在意義はご存知かと》
「でも、ダメだ」
《それでも、好意を向けられるかどうかは別では》
「無くて良い。最初から無いのと、有ったのが無くなるのはワケが違う」
《まぁ、今の所は大丈夫そうですけど》
「あの反応に心底ホッとしてる、見守りたいんだ。得るのは自分じゃ無い」
《幸せにならない宣言にも聞こえますけど》
「それは違う、見てられる事も幸せの範囲。見てるだけでもう良い」
《手酷く振られ過ぎでは》
「振りまくってやったわ」
《嘘をつく意味は》
「強がりでしょうね」
《じゃあ、向こうをどうにかして来ますね。シャキッとしといて下さい、意を向けられたく無かったら》
「おう、宜しくどうぞ」
リズちゃんと先生が交代し、やって来た。
コレは、言うしか無いんだろうな。
「なぁ、どうしたら口を割らせられる」
「カールラが、召喚者に好意を向けられたらどうするか尋ねた」
「あぁ、そらフリーズするだろうな、従者馬鹿だし」
「無いと思うがコッチに意識を向けられたら困る、この環境も、マキちゃんの事も有るから」
「怯え過ぎ、でも無いよな、グサグサ刺されてんだし」
「それより表情、まるで別人で、愛憎だ哀しみだ、凄い顔だったから」
「それこそトラウマで、大使館員がそう見えてるだけじゃ無いのか」
「なのかなぁ、でもあそこまで親しく無かったけど。でも違ったら、マジで虎と馬が大暴れよ?」
「だろうな」
「まぁ、本当に何もしないのが1番だと思う、どれも」
「なんか、紹介出来る人間居たら良いんだが。従者か軍関係なんだよなぁ」
「マッチョ無理、君の周りは」
「研究員も結構信奉者系だぞ」
「それでも良いが、なんかねぇのかよ、図書館員とか」
「あー、それ良いな」
「お前のじゃねぇからな?早過ぎだわ」
「だよな、どんだけ我慢すりゃ良いんだってなるわな」
「プラトニックからの崩壊でもダメージくるだろ」
「な、普通に寝込むわ」
「でも腹が減るんだよな、絶対に、具合悪いと余計に食欲のスイッチ入るわ」
「体って、凄い生きようとしてるよな」
「な、恋煩いとは無縁だわ」
「それ、周りには理解され難いだろ」
「病弱スイッチ、勝手に体が生きようとすんの、凄いんだよ本能って」
「手汗ベチャベチャで、召喚者様も人間だと思い、少し不思議な感覚になりました」
「何読んでんのよ」
「施設長の私信、それと、大丈夫かって」
「おう。良い父親よな、傍から見たら」
「ウチのは正真正銘の良い父親だぞ」
「でしょうね、お前が良い子だし」
「家族になれそうだったのにな」
「ノエルも意外と良い親だぞ、初手ミスっただけ」
「アレ読んでて、マティアスと家族になんのかと思ったわ」
「お荷物になるもの、妹にしろ子供にしろ、毛色が違い過ぎる」
「全部諦めてんじゃねぇかよ」
「そうでもないぞ、お菓子の王子様を探しに、色欲の店に行く予定なんだが」
「マジか」
「そんなヤバいの?」
「ドギツいのは凄いって噂で、マジかぁ」
「え、そんなんか、反対されるかな」
「2号はな、先生は許すんじゃねぇの」
「君はどうだい」
「別に、俺が行きたいわ、早く大人になりてぇ」
「ロキがいっぱい持ってるっぽい、媚とけ」
「効くかよ」
「いや、普通にねだれ」
「桜木さん、それ」
「やっべ」
《色欲の店ですか、なるほど。良いと思いますよ》
「ちょ」
《ただし、単身はダメです。それと、もう少し先でお願いします》
「そんな凄いの?」
《ピンきりだそうで、津井儺君、資料を》
「えーと、本気ですか?」
「何も知らんのに本気もクソも有るかよ」
「ですよね、少しお待ち下さい」
「くそ、もう俺は昼寝してくるわ」
カールラにお布団を持たせ、リズちゃんを小屋へ見送り、資料チェック。
ピンきりと言うか、多種多様。
性癖全種類コンプリートって感じ。
パッと見で過激なSM系やカニバ系は無いが、異性装、同性、複数、プラトニック何でもござれ。
入れ墨さんカッコいいけど、同性か、紫苑の嫉妬心は良いのか?
『まぁ、可能なら良いですよ』
「無さそうってか」
『かなり低いですから、時間の無駄かと』
「なんで」
『周りの検閲で落ちるでしょう、適当な男性は特に』
「あぁ」
《ソロモン神、ご質問宜しいでしょうか》
『どうぞ、先生』
《何故、私を巻き込んだのでしょう》
『要石が無いといけませんからね、地盤沈下が起きる事は願って無いので』
《私に可能でしょうか》
『勿論ですよ』
「信頼されてますな」
『そう、この能天気さんがアナタを信頼してるからです』
《何故でしょうか》
「今までの誰よりも冷静、客観性がブレ無さそう。面白味も有るし、押し付けない、上手くコントロールしてくれる感じが良い、顔が良い」
『恋人の基準点は越えてますね』
「医師と患者な、そこはお互いに気を付ける意志も有るから大丈夫、絶対防衛ラインは崩れ無い」
《当馬にする気ですか》
「いや、違うんだが、そうか、ごめんなさい、違いますが、そうとも使えるのか。コレを超えろと、危ないな」
《そうですよ、余り理想化されても困りますし》
「じゃあ凄い女癖が悪いって事にするわ、それなら有り得ないし」
《バランスの取り方がエグいですが、まぁ、そう言う事にしといて下さい》
『もう良いかな、早く続きが観たいんだ』
《どうも、ありがとうございました》
『はい、では』
《少し、面談しましょうか》
「へい」
ショナも小屋に向かわせ、先生と2人。
なんか怒られるんかしら。
《軸は、津井儺君だったのでは?》
「そこは変わらんよ、1人に何役も被せるのは危ういし」
《なら結構です》
「宜しくどうぞ」
《にしても、顔ですか》
「顔は花、観賞用とコミュニケーションを兼任する部位。良い方が良い」
《本の草案を書きますが、名前は私。代金は全て寄付で良いですか》
「おう」
《なら、他の代金の寄付は禁止。最低条件です》
「他にも有るのか」
《完全な休養、落ち着くまでは国内限定になりますが。良いですね?》
「良いですが、そんなヤバいのね。フィンランド、ちょっと期待してたのに」
《向こうは歓迎してはいますが、飛び火は避けたいでしょう》
「確かに」
《主、緊急連絡、虚栄心からです》
《先生良いかね》
「どうぞ」
【起きたのね】
「へい」
【ちょっと、避難させて】
「おう」
ショナとカールラを呼び戻し虚栄心の店内に空間を開くと、急いで全ての物をストレージに仕舞わされた。
そして小屋では無くハンへ、指定された荷物を出し、部屋にセッティング。
「ふぅ、だからアンタって好き」
「なによ急に」
「真面目だし、なんにも聞かないでホイホイ言う事聞くじゃない」
「緊急避難じゃ無いの?」
「じゃ無くは無いわよ、ほら、緊急避難用の書類も有るもの」
「ショナ」
「拝見します。はい、確かに、受領準備にお時間を下さい」
「そんな危ない?」
「馬鹿じゃ無いんだからギリギリに避難なんてしないわよ」
「他のは大丈夫なの?」
「あら、心配してくれるのね」
「そら、憤怒さんと強欲は会った事が有るんだし」
「意識、本当に無かったのね。皆で映画館に行ったのよ」
「へー」
「私は見て無いわよ、せめて案内して貰ってからって思って。今回は手順をすっ飛ばしただけだから」
「おう?」
《大丈夫です、桜木花子は何も知りませんよ》
「あらそうなの、所でアナタは?」
《侍医のネイハムです》
「宜しくね。で、ちょっと前に抗議したの、大罪一同で」
「あらら、なるほど」
「で、色々あって。憤怒と怠惰以外、ココに避難させたいのだけれど」
「良いけど、自治区の人間は?」
「それは大丈夫、各国が受け入れてるから」
「あぁ、だから浮島の位置がココなのね」
「そうなの、話しが早くて助かるわ」
「良いけど、狭いしバス・トイレ共同よ?」
「別に寝れりゃ何処だって大丈夫よ、屋根も壁もちゃんと有るし、果樹園も畑も、温泉も見えたのだけれど」
「入り放題」
「実質天国じゃない」
「大罪が天国」
「そうよね、ふふふ」
「受領完了しました、申請に他の方も来るとありましたが?」
「そうなの。精霊ちゃん、後で色欲の位置を教えるわね」
《了解》
でも先ずは強欲さん。
美術館内部全てを仕舞い、浮島へ。
次に色欲さんのお店へ、暴食さんも居たのでお酒や何やと仕舞い込み、浮島へ。
怠惰さんは憤怒さんとセットだから大丈夫らしいが。
急に、凄く賑やかになった。
《宜しくね》
『あぁ、挨拶をしないとね、宜しく』
『他はちゃんと避難させて、あの絵も描かせてるから大丈夫だからな、何も心配するな』
「どうも」
「あら、人見知り発動してんじゃない、ウケる」
「いや、ベール付けるの忘れてたから」
「治ってたと思ったのは、気の所為かしら」
「手足は今日、付けたばかりです」
「あら、あらあら、なんでかしらね?」
「治るには、まだ早いかと」
「まぁ、そうよね、チンタラしてたらこうはならなかったかもだし。ほら、気にしないで居られる者達ばっかなんだから、ご挨拶なさい」
「桜木花子です、どうも」
『そうか、大勢は苦手か』
『大勢が苦手な魔王ですか、面白い事実ですね』
《前のよりは良いんじゃ無いかしら?ふふふ、冗談よ召喚者さん》
「本当に、ウケる、人見知り凄いじゃない」
「最近は1人1人、じっくりだったから、面食らってる、日和ってるし、心配」
「大丈夫よ、念の為の緊急避難。場が荒れてから避難するより、コスパ良いし安全だもの」
『ウチの社員には研修やバケーション休暇として、他国で過ごして貰ってるから、心配いらないよ』
『ウチもだ、問題無い』
「あ、ホテルの人」
「それも大丈夫、系列の他国のホテルへバケーションと研修に行ってるわ」
「じゃあ」
「そう、もう空っぽ」
《怠惰と憤怒は最終確認と業務で残ってるけれど、3日徹夜でも平気だから大丈夫よ》
『まぁ、交互に休憩するだろうから、実質無限だろうね』
『仕事だけじゃ無い部分にも向けて欲しいがな』
「不安」
「他にも居るでしょ、そんな頼り無いワケ?」
「いや、でも1人は未成年だし」
「んな事言ったら、向こうも未成年じゃないの。大丈夫よ、しっかりしてるもの」
《可愛い子なんですってね》
『君には誰だって可愛く見えるだろうに』
『そうだな、何でもだろ』
《失礼ね、博愛主義なだけよ。誰かと違って》
「アンタと違ってグルメなのよ」
『そうだ、ウチの商品を試食してくれないだろうか』
『あの映画館の事も話そう、実際に作りたいんだ、頼む』
《ココではなんでしょうから、外の休憩スペースで如何でしょう》
圧が凄い。
ショナも廊下で圧倒されてたし。
コレは、先生居てくれて助かった。
そして休憩スペースへ。
『先ずはお礼と自己紹介かな。暴食、大食、悪食。今は美食と名乗らせて貰っているんだ、ありがとう受け入れてくれて』
「はい、虚栄心の紹介ですし」
『そう緊張しないで、軽く味見程度で構わないよ』
「どうも」
美食はストレージ持ちらしく、空間から料理の載ったプレートを出して来た。
美味そうなおつまみ達。
《私は、色欲、そのままよ。ロキ神から招待状は受け取ってくれたかしら》
「はい、どうも、ありがとうございます」
《良いのよ、私こそ、ありがとう。悩みや何かも有るでしょうから、開店したら気軽に来て頂戴ね》
「まだ軽くしか調べて無いんですけど、そんな気軽に行けるお店ですか?」
「ほら、やっぱり、トップのデザイン変えるべきなのよ」
《そうね、良い機会だし、そうしましょう》
「ハナ、私と色欲のタブレット出してくれる?」
「あぁ、はい」
『映画館の構想なんだが、指定の人間の映像を、特定の誰かに見せたい』
『すみませんね騒がしくて、集まると大概こうなんですよ。頃合いを見て、割って入って頂いて問題有りませんからね、先生に従者さん』
「はい」
《これなら、余計な事を考える暇は無さそうですね》
先生の声が遠くで聞こえた気がした。
確かに、全く余計な事を考える余地が無い。
色気溢れる色欲と虚栄心はタブレットに集中。
シルバーグレーの落ち着いた美食は先生やショナとほのぼの、強欲は目がキラキラ。
個性が凄い。
『それでだ、実現させるには。どんな機械や魔道具で動いていると思うかね』
「んー、映画館の構造を良く知らんので」
『そうかそうか、なら模型が有る、出してくれんかね精霊さんや』
《了解》
『あぁ、君もいつか作品に加えたいものだね』
《主が亡くなりましたら、外殻は不要です》
「そうか、ワシもいつか死ぬのか」
『召し上げではどうなるのだろうかな』
《主と神の選択次第です》
「その主さんは、人間の多数決で決めたいな。能力でも何でも、召し上げの可否すらも」
『うむ、良い御使いになりそうだが。うん、この模型でどうだ』
「おぉ、細密。そうだなぁ、他の模型も良いですかね」
『構わん構わん』
《病院、理化学研究所をお出しします》
「このベッドをこう、ヘッドギアを付けて有線で繋げる」
『どうして有線なんだ?』
「無線は混線しそう、有線は無駄や漏れが無い。デバイスはこんなんかな、脳波計みたいなの」
『なら、規模を調節しよう』
「おぉ、模型も魔道具なのね、便利。それでもやっぱり、映写機を噛ませるかな、安全装置の役割りみたいなの」
『ほうほう、ココに一時蓄積は出来んかね』
「見せる側の人間だけが操作出来ると良い、こうなるとヘッドギアは出力端子だね。最初に映写機を操作して、誰かに観測して貰って固定、確認出来たら上映。観測者は第三者的なのが良いけど」
『ワシは、どうだろうか』
「作品用なんだよね?なら良いんじゃないかな」
『原理は分かった、後はヘッドギアか』
「デザインはねぇ、虚栄心」
「良いけど、ウチが先よ。どうよこの感じ」
「あぁ、未成年かどうかの認証ね、半開きのドアか。大分良いと思うけど。次はどうなのよ」
「こう。それで悩みに回答して、最初から行く方法はこう」
「良いじゃん、色が変わるの。ただ簡素過ぎじゃね?縛り系なら縄でも飾っとこうよ、そのままクリックしたら買えちゃうとか、縛り方が直ぐ出るとか」
「そうよね、本当にポンコツなのよ、この子」
《だって、現場以外に興味無いんだもの、任せるわ》
「で、ヘッドギアね。どうって言ってたかしら」
「こう」
「色は?」
「白と、緑。材料はドリアードかなぁ」
《じゃよね、うん、何となく予感はしておったよ》
「根っこ」
《おふぅ、ゾクゾクするわい》
「等価は有るだろう」
《魔力か》
「それと夢の欠片のコピー、広げないとね」
《であれば、相応か。良かろう》
「なら、こうかな」
『映写機と寝台、ヘッドギアと植木鉢、ガラスケースか』
「持ち出し禁止にさせないと、夢が溢れ出ちゃうから、しまわないと、出られない」
『結界もだな、おや、どうした』
「好きな監督が死んだの思い出して」
『あぁ、辛い事だ、若いのか』
「若い、数年経ってるけど、まだ駄目だわ」
『分かるぞ、未来の作品までも亡くなったのだから、被害は甚大、大きな損失だ』
「本当、次回作も決まってたのに、自分の命を差し出したかったわ」
『そうだな、等価交換出来たらと、何度も思ったものだ』
「生まれ変わりを期待しましょ、はい、直しが有ったら言って頂戴」
「うん、コレ」
「そう、良かった」
『後でその監督の作品を、観ても良いだろうか』
「3つ、4つ有るよ」
『そうかそうか、楽しみだな』
「特に音楽も、是非、虚栄心も観て、凄いのよ本当。あ、後はもう1本、絶対万人に観て欲しいのよ」
「一緒に観ましょうよ」
「今度、涙が決壊して映画館が水浸しになる」
「感動系嫌いよ」
「いや寧ろ、シュール?感動系は1つだけ、感動と言うか、人生。あ、もう1本、どうしよう、オールナイト上映になるかも」
「どんだけよもう」
「絞らなきゃもう、映画館に閉じ込める事になるわ」
『じゃったら、上映しても良いかの?あの子供がそろそろ飽きそうじゃ』
「あぁ、どうぞシバッカルさん、初心者用の順番でね」
『おう、そうしておこう』
「先生にも、ショナにも観て欲しいんだよ、凄いんだ。完璧なのよ、あ、上級者用にもう1本だけど、ホラーだからなぁ」
「あら良いじゃない、サスペンスとか大好きよ」
「なら合う筈、癖になって何回か観たくなるかも、もう1種類も。あ、アクションも有るよショナ、クッソかっこいいのよ、戦闘の型が、真似してくれよ、銃で近接戦闘なんよ」
「じゃあ、相手も必要ですかね?」
「あー、だね、蜜仍君と観て。先生は、本だもんなぁ」
《映画館の画面で本を読むのは斬新ですね》
「映像を観て欲しいんだが」
《アナタの感覚が共有されるそうで》
「あぁ、それはカットされてる筈、作品の邪魔になる、作品重視。そうだ、観覧者にリモコン有るべきよね、はい、リモコン」
『なら読書も目じゃ無いな』
《そうですね》
「はぁ、早く夜にならんかな」
『じゃあ、ワシは早速眠らせて貰うよ』
『僕もそうしようかな、感想は後で』
《私と虚栄心は終わったら行くわ》
「そうね、いってらっしゃい」
《私も直ぐ眠れますよ、実は。体内時計が壊れてるので》
「あぁ、なら寝てくれ、部屋は、家に帰る?」
《ココで良いですよ、ただ、角でお願いしますね》
「母屋から離れた角は空いてますから大丈夫ですよ」
「ショナ達は何処なのよ」
「母屋側の角、ミーシャさんや女性は2階です」
「良いなぁ、ワシも泊まろうかな、2段ベッド良いな」
《ならお昼寝を一緒に如何ですか》
「ダメよ、まだ私達と作業するんですもの。ねー」
《良い誘い文句だわぁ》
《冗談ですよ、では失礼させて頂きますね》
「真顔で冗談言うタイプなのね」
「だから良いのよ」
《本当にメンクイねぇ》
「おう、色欲さんは何を観たの?」
《エロエロ》
「ショナ君、冗談よ、フリーズしないで頂戴」
《ウブ2号じゃし、しょうがない》
「なんですかそのウブ2っ、あ、酷い」
「気付いたか、せいちゃんは未来のお前の姿だ。お前はいずれあぁなる運命ぞ、ウブウブ」
《おぉ怖い、ウブウブじゃ》
《ふふふ、ワンコも、キュンキュンして楽しかったわぁ》
「楽しめましたか」
《だって、私じゃ無いもの、だから楽しめるのよ恋愛ドラマって》
「なるほど」
「ほらコッチに集中」
「はいはい、ついクリックして遊んじゃうわ」
「まぁ、そう言う遊びで適当なジャンルに行くのも有りよね」
「凄いよなぁ、緊縛って」
《簡単よ、何パターンか覚えて組み合わせるだけだもの》
「ほー、サスペンションも、あぁ、あるのねSM系」
《ワンクッション置かないと、ビックリさせちゃうから》
「ほらやっぱり改修して良かったじゃ無いの」
「確かに、前なら辿り着くのに時間掛かっただろうし。どら、自分のからやってみるわ」
「ちょ、履歴に残りますよ?」
「ダメなの?」
「ダメじゃ無いですけど」
《大丈夫よ、アナタよりウブウブじゃ無い筈よ、ウブウブ》
「過保護ねぇ、ウブウブ」
そうしてちゃんと回答し、辿り着いたのは女王様の部屋。
順当と言うか、それらしい質問も無しにココ、怖いわ。
「うん、ココにも動画か何か欲しいな。ワンクッション入れて、音量注意とか」
「動画目当てに来られてもねぇ」
《利益になるなら、別に良いわよ?》
「ええー、凄いな色欲さん、じゃあそうしよう、気軽さ重視」
「じゃあ、音量注意、っと」
「ワンクリックで買えるボタン増やして」
「はいはい」
「モノの見本の動画無いの?」
「動いてるの?過激過ぎじゃ無いかしら」
《それとも使用例?リクエスト多いのよね、良いわよ?》
「アンタねぇ、何でもはいはい言わないの、不死でも体は1つなのよ?」
《今は空いてるじゃない?何時まで空いてるかも分からないのだし、それまで、ね?》
「ご本人様で無くとも、別に。寧ろ、売れ行きが悪いのだけにする方が、お体には宜しいかと」
《そう?じゃあそうするわね》
「ありがとうハナ、ダメなのよこの子、捨て鉢じゃ無いのだけれど、こうなの」
「ご心労の事と、心中お察し申し上げます。じゃあお部屋は別途案内させましょうか」
《別に、外でも大丈夫よ?良い天気だし》
「んー、悩むなぁ、敢えて野外も有りかぁ」
「まぁ、屋内にしても、ウブウブがその部屋をどうするか悩むだけよね」
「なら上の真ん中、色欲さんの撮影部屋をワシの部屋とします」
「フリーズしてるわね」
「面白いよな」
《あら、結界は私張れるから大丈夫よ?中でも外でも、声も姿も見聞きされる事は無いわよ?》
「そこじゃないのだけれど、まぁ、そう言う事だから、私もその部屋を使うから安心してショナ君」
「あぁ、はい」
「最長記録」
「マジでヤバいわねこの子」
フリーズ芸より赤面の方が良いんだが、コレはコレで、アリか。
虚栄心の物を移し替え、ベッド選び。
「上」
「下で良いけど、落ちたり転けないで頂戴よ」
《撮影用も兼ねるなら、下よねぇ》
「やった、競合無し」
「じゃあ撮影機材出して頂戴、だけね、品物はまだよ」
「ほい、コレだけ?」
「高性能なのよコレ、ほら」
「わぉ」
「あ、ちょっと」
「大丈夫よ、星空よ馬鹿ねぇ。そもそもハナは成人してるのよ?」
「そうですけど」
《神聖視はプレッシャーになるのよ?召喚者は排泄行為はしない、神様かなにかなのかしら?》
「急に圧が」
「今までの召喚者を見て来てるのよ、看取って来たりもしてるから」
「凄い、有り難い」
《ふふふ、それで、排泄行為を否定するの?排泄行為をする召喚者を否定するの?先ずはどっちかしら?》
「いえ、すみませんでした。どちらも否定しません、出来ません」
《良かった、排泄も繁殖も歓びも否定するなら、教え込まないとと思っちゃうの、脅かしてごめんなさいね》
「ずっと怖い事を言い続けてるんだが」
「コレが本性、本質なのよ」
「昔の、神聖視されてた召喚者は、救われたんだろうなぁ」
《そうだと良いのだけれど》
「周りがどう言おうと、良い事よ、救われてたわ。でもね、人間側の話も見ときなさい、勉強よ勉強。ショナ君、資料の提出をお願い」
「はい」
「後は、私達のお道具箱ね」
「おう」
しょんぼりショナ、叱られた犬か。
ワンコなら、面白い掛け合いになったろうなぁ。
ショナと、服と道具箱を持った虚栄心と外へ。
チラチラする蜜仍君を呼び、日光浴しながら資料閲覧。
「それ、僕も見れます?」
「ショナ」
「年齢の問題かと」
「色欲さん、のですか?」
「ワシが先に確認するわ」
娼館、宿屋の経営者。
虚栄心と付かず離れず、各国を転々とし財産を築いては持ってかれ、店を接収され、とうとう召喚者と出会う。
興味本位で抱いた召喚者は、もうメロメロ。
権力を使い、本格的に店を開店させた。
困ったのは召喚者の所属国、今で言うスイス。
特段の資源も無い国が、各国から集められた娼婦達の居る娼館で潤いそうになってしまった。
市民達は財を振り撒く色欲と召喚者に協力、受け入れ始めた。
そして召喚者が亡くなるまで、色欲はそこに居続けた。
虚栄心も暫くして、居続ける事になった。
そして召喚者が死んでも、追い出されたり接収される事も無く、娼館と服と、傭兵の街へと育ちつつあった。
だが、異端審問を激化させ始めた教会が介入を始め、貴族も圧政に加担。
とうとう、農民発起が地方で起こった。
瞬く間に広がりを見せ始めたが、同時に魔女狩りも起きてしまった。
戦争は長く続き、1400年頃から、1686年まで、魔女狩り、弾圧、諸外国との戦争の中に国は有った。
だが終焉は呆気ない、それまで主な産業は服飾位のモノで有ったが、避難民によって時計や工業、果ては金融業の発展が目覚ましく、色欲と虚栄心は呆気なく足切りされた。
また虚栄心とは離れ離れになり転々とし、暫くして暴食と悲嘆が生まれた。
暴食と合流し、またフラフラ。
魔女狩りは沈静化を見せて居たが、魔女狩り=色欲の名が轟き、長くは居れなかった。
そして暴食も離れ、またフラフラ。
そして1800年頃、怠惰が誕生。
同じ頃、転生者がベガスを発展させる過程で、面白そうだと色欲を探し出し、呼び寄せた。
そこで娼館を再び経営し始め、カリフォルニア州のゴールドラッシュと相まって、一気に発展。
そこへ暴食を呼び寄せ、ベガスへと発展し始めた。
面白く無いのは近隣の教会自治区、既に大罪の名を付けた事で大罪が強化された事が確認されていた為に、肩身が狭い。
そこで、大罪をベガスに縛り付ける法案を盾に圧力を掛け始めた。
それに文句を付けたのは、嘗て居たスイス。
そして近隣のフランス、ドイツ、暴食の居た日本、そして他の自治区。
暴食、日本に居たのね。
メロメロ転生者は粘った、自治区の独立はもとよりベガスの健全化、法整備にと。
そこに加わったのが怠惰。
その時点で色欲、暴食、怠惰が揃っていた。
教会は更に圧力を掛け、虚栄心を指名手配へ。
既にベガスを独立させていた転生者は、虚栄心を呼び寄せた。
嘘か本当か、大罪を監督する為にココを作ったと言い残し、1860年頃に転生者は死亡。
自治区の人間は独立を推し進めた各国から、それぞれ代表者を擁立、怠惰と共に独立を維持した。
そして1910年、世界大戦と共に憤怒が誕生。
翌年、大罪回収への署名捺印が行われるも、悲嘆が消息不明な為、憤怒への対策へ回される。
1913年、大戦終結。
悲嘆発見、既に自ら隔離措置を施して居るのを確認。
孤島から出ないと署名捺印、結界石設置へ。
1915年、第二次世界大戦勃発。
1921年、憤怒がベガスへ収まり、大戦も終結へ。
「あれ、世界史の勉強になってるんだが」
「どうしても、そうなるんですよ」
「歴史の裏に性欲有り、ですかね?」
「コレは、情愛だと思うよ。ベガス大好きだわ、スイスもちょっと嫌いになりそうになったけど、支援したんだし、依存する事を止めようと親離れした感じっぽいし。愛情、情愛だよ」
「良いなぁ、早く読みたいなぁ」
「何でダメなのよ」
「ちょっと耳を塞いで頂いても」
「はーい」
「娼館、娼婦の検索を避ける為です」
「アホらしか」
「蜜仍君がそれを検索したら、誰から聞いたかの設問に答えないといけないんです。そしてどうして言ったのか、その大人が詰問されます」
「じゃあ、遊郭はどうなるのよ」
「既に長から江戸の歴史で聞いてるので、大丈夫なんですが。若干、性質が違いますから」
「過度な規制に思えるが」
「相当の理由が有れば、問題は有りません」
「ほう、宜しく」
「え、僕ですか」
「色欲への偏見をより取り除く為にと、召喚者にゴリ押しされた。とかは?色欲との直接接触回避とか」
「あぁ、はい、じゃあそれで」
「宜しくどうぞ、一服してくるわ」
そろそろ、パンクしそう。
ちょっとウッカリ泣いちゃったし、もう脳みそ空っぽにしようか。
良いな、愛が有る様に見える話しだったし。
色欲さん、ほわほわしてるけど、良い人、人?っぽい。
『転生者が気になりませんか』
「全く、善人はね。悪人と言うか、理解出来ない思考の持ち主の方が気になる。なんで、そうなる、そう思うのか、と」
『疲れる生き方だな』
《善行は当たり前なんじゃ、問題は問題を起こす方、何故、どうして、じゃな》
「分かれば回避出来る、出来ない時は逃げたい。回避して良いか判断する基準が欲しい、争いと言うか、面倒回避の為の思考。なんだけど、深く考え過ぎー、思い違いー、って批判された」
《理解有る善人ぶりたいんじゃよ、そして知らねば罪とならんと思うは、良く有った事じゃ》
『今でもな、知らなかった、教えて貰え無かったと。では一体、貴様の手許に有る端末機器は何だ、何の為に有るモノだ。とな』
『無知を恥と思える時代の筈が、規制が諸刃の剣となるとは。流石に転生者も召喚者も、想像出来なかったのでしょうかね』
『昔は、知りたがりが多かったモノだ』
《何でも知れるとなると、気が抜けるんじゃろ》
「何でもじゃねぇだろうけどな」
『そうですね、知る必要が無いだろうと言い訳する為に、規制や階級が使われているのでしょうし』
「まぁ、知らない様にしてるワシが言うのもな、なんだかなぁ」
《別に、知っても構わんのじゃよ、ただ動くには相談するだけで良いんじゃし》
『人間に、な』
『まぁ、今回は止める側に回りますし、安心して下さい』
「桜木様ー!なるほどですね」
「でしょう」
「それと、ドリームランドの話もしておきました」
「じゃあ今夜だな、虚栄心ー、今夜ー」
「はいはい、なによ」
「今夜行こう、ドリームランド、案内するよ」
「あら嬉しい。でも、まだよ、私の事も資料で読んで欲しいの」
「知恵熱出るかもだから無理、別に良いのに」
「私がイヤなの、お願い」
「目が疲れたかも、あらまし聞かせて」
「ショナ君、お願いね」
「ご本人を前にですか」
「別に良いの、茶々も入れないわ」
「分かりました」
「ザッとでお願い」
娼館の支援、魔女狩りされた魔女と関わった。
無免許、無許可、違法な医療行為。
指名手配犯への整形、逃亡幇助、自殺幇助、果ては指名手配犯へ。
「うん、合ってるわ」
「で?自殺幇助が引っ掛かってる?」
「そうね、ずっと」
「コレは繊細な問題だから、誰かが絶対悪いは無いだろう。難病で死にたいは難病で無くとも、1度は想像したもの。怖いもの、意思表示も痒いのを掻くのすら出来ないのも、怖い事だもの」
「流石病弱ね」
「精神的なのとかも見て来たし。稀に、死ぬ以外に無いんじゃないのかって状況、有るモノ」
「人面犬の事件ですか?」
「自分を正当化するつもりは無いが、居場所が無いし、将来性がね。戦って居場所を作れって理屈は分かるが、本人のせいじゃ無いのに、本人が戦う理由って何よ。他に、似たのは3人だけで、後続も無いし」
「僕なら、殺しちゃって終わりだったと思うので、良かったと思いますよ?って言うか、アレって召し上げ行為ですよね、桜木様が召し上げた」
「そ、その発想は無かったが。置いてきちゃった」
「もー、桜木様はちゃんと任せてたじゃ無いですか、大丈夫ですよ。居なくなるって、向こうもちゃんと分かってたんですから」
「もっと良い方法が無かったか、不安になる。知らないは罪なのよ、馬鹿は罪、良い方法さえ知ってたら、誰だって人を救えるもの」
「それ、私に刺さるんだけど。アンタの何倍生きてると思うの?知ってただけで救えたら、私はもう大罪じゃ無かった筈だし、もっと沢山の英雄、勇者が居た筈じゃない?」
「立場とか、環境とか違いが有るワケで」
「それだけじゃ無いじゃない、興味が有るか、助け救う価値があると思えるか、能力が有るか。知識で能力の差は埋められる時も有るけれど、天才の2歳児に親の癌の手術は無理よ、器具は大人向け、技術も体力だって大人の方が有るんだもの。そしてアンタはそう育てられたワケじゃ無い、そう育てられたから、この子だって未成年でもしっかりしてるの。マサコも、そう育てられなかった。召喚者は、誰だってそうじゃない」
「そうですよ、誰も桜木様を批判出来無いんです」
「それもイヤ、批判は良いのよ、どうしたら良かったって、言われたい、寧ろ答えが知りたい。それを知らないままに、何となく生きてたく無いのよ。あぁ、そうしたら良かったのか、そうしたら、どうなってたろうって、想像したい」
「それで落ち込まれて死なれても困るのだけれど」
「それは無いわ、既に自死する権利無いもの。責任が有るから、自死は出来ない、粗末にも出来ない」
「しない、じゃ無くて、出来ない、のね」
「義務と権利と言うか、もうとっくに雁字搦めなのよ。その小さい中で、どれだけして良いか納得しないと、出来ない」
「現役で居なきゃいけない、働かなきゃいけない、償わなきゃいけない、のかしら」
「償いは考えない様にしてる、頑張れば死者の声も聞けるから。でもそうすると、死ねって言われたら死ななきゃならなくなるから、償いは責務を全うする事としてる、だから、知るべきを知って、すべきをしなきゃならない。ココに居る以上、エミールの分も、エミールが大人になるまで沢山片付けて、それからエミールと分配する」
「驚くのは、普通に失礼よショナ君」
「酷いなぁ、そこまで考えちゃいますよ桜木様は。だから、映画館に行った方が良いって言ったのに」
「あら、行って無いのね」
「桜木さんの心を覗くみたいで、申し訳無かったんです」
「桜木様?どうしたんですか?」
「なんか、偉そうな事を言って恥ずかしいなと」
「あーぁ、アンタが驚くからよー、もー」
「すみません」
「大丈夫ですよ、僕はちゃんと分りますから」
「観たから?」
「だけじゃ無いですよ、いつもどう振る舞ってるかと、資料との答え合わせです。急にそう思い立ったんじゃ無くて、僕は過程をちゃんと確認しました、崇拝や神聖視じゃ無くて、桜木様なら当然なんです」
「ウブウブ、年下に良い所を全て掻っ攫われたわね」
「はい」
「ありがたいが、信奉者は要らんからね」
「勿論です、文句が有るとするなら。もっと気楽に考えて、僕らに遠慮しないで。ホイホイ手を出しちゃえば良かったんですよ、良い人だったのに、マティアスさんもせいちゃんさんも」
「さっきの学習の弊害か」
「最近の子は早いから大丈夫よ」
「だって、こんなに枯れる必要、無いじゃないですか。節制だけでは経済は回りませんし、人生には花となる愛や恋が必要だって、長が言ってましたから」
「あら素敵、今度会わせて貰いたいわね」
「良いですよ!きっと喜ぶと思います!」
「合いそうだわマジで」
「なら、皆で飲みましょうよ、日本酒勉強したのよ」
「日本酒は酔うからなぁ、シャンペンが良かです」
「それなら、このキラキラしたのどう?」
「わぁ、豪邸何軒買えるんですかコレ」
「うぇ、1杯何軒よ」
「ショナさん、コレ」
「あ、はい、1杯で商店を含むハンが2軒」
「ココだと?」
「1等地で小規模の建物1軒ですかね」
「うげぇ、むり」
「あら、良い寄付先なのに」
「そうなんですか?資料に無かったですよ?」
「現在の資料には有ります、どうぞ」
「んー、本当だぁ、何で分割なんでしょう」
「慈善活動してるなんて、良いイメージになっちゃうでしょう」
「飲む」
「じゃあ奢るわね」
「は、金持ちか」
「そりゃね、ショナ君、資料お願い」
「ココです」
「大金持ち様だ、平伏そう」
「じゃあ僕は五体投地で」
「止めてよ、親友辞めるわよ」
「寧ろ、悪評はコッチが高そうなので」
「ですね」
「蜜仍君」
「もう良いんじゃない、あぁ言ってたんだし」
「おう、眠る前から覚悟してたわ」
「もう、候補じゃ無いんです。国連の非公認とは言え、魔王です」
「おふっ、ちょっとワクワク」
「ふふ、幹部決めましょうよ桜木様ぁ」
「四天王に入れてくれて構わないわよ」
「最弱四天王なら、元魔王と元悲嘆と、やっぱり虚栄心?」
「実質旧友組なら、色欲入れましょうよ、色気と名器だけなんだし」
「いや、美貌も有るじゃない、可愛いと綺麗の中間で、なりたいわぁ、あんな顔」
「ダメよ、モテ過ぎて大変なんだから。セミラミス、シバの女王の再来とまで言われてるのよ。まぁ、身内にしてみたら、整い過ぎてつまらないのよね」
「ブス専か」
「なによ落胆して」
「カエル好きの王子様より、カエルをどうとも思わない王子様に好かれたいの」
「カエルの王子様の話しですね、ショナさんから聞きました」
「大丈夫、そんなの沢山居るわよ、カエルのままで愛してくれる王子様、サイト見てみなさいよ、ほら」
「ブス専がこんなに、なら居るか」
「そうそう、心配する事無いわ」
「でもなぁ、魔王ぞ?」
「ほら、コッチ」
「ショナ君、大変だ、ファンクラブが有る」
「はい、普通に皆さんのが各国に有りますよ」
「わぁ、応援してくれてますよ」
「アンチはコッチ、匿名だしコレは見ちゃダメよ。掃き溜め、ゴミ箱の隅を突く必要無いわ」
「ですね、見当違いや文盲、的外れが殆どですから」
「余計なノイズは入れる必要無いわ、有益なのはちゃんと周りが拾い上げるものね?ショナ君?」
「はい、婚期等について心配する声が出ています」
「気が早いなおい」
「お金や名声は勿論、救世主症候群も居るから気を付けないといけないのよね」
「救世主の救世主って凄いな、面白そう」
「なんて事は無いわよ、同情や自己満足、承認欲求、より上位に立ち褒められたいの」
「究極やんな」
「幸せだから、幸せにしないとってのもね、そこまでは良いのだけれど。自信を補う代替手段なだけ」
「あぁ、なるほど、自分も気を付けないと」
「大丈夫よ、マーリンのあの女、アレよ」
「あぁ、あー、手近に被害者が、聞きたいけど、センシティブ案件だしなぁ。先生に聞くか」
「あら、関係者なのね」
「どうかな、エルフなだけかも、本が面白いって」
「あぁ、良い感じね彼」
「でしょう」
「メンクイ」
「はい」
「ふふふ」
「桜木様、最強の四天王は選ばないんですか?」
「長、入れちゃうか」
「やった、オススメは憤怒さんです」
「憤怒さんと長と、ロキ。後がなぁ」
「ヘル神は良いんですか?」
「悪ふざけとは言え、巻き込むのがなぁ」
「あ、来ましたね。何処に行ってたんでしょう?」
「ウソ、こんな噂話で来ちゃうワケ?」
「おう」
「はい」
『ただいまー!ちょっと出掛けてたら孤島に浮島無くてビックリしたよぉ』
「あぁ、ゴメン」
「初めまして、虚栄心です」
『どうもー、ロキでーす』
「軽い」
『へへ、でね、繋がっちゃったよ、黄泉とヘルヘイム。それでちょっと出てたんだけど、何で移動してるの?魔王の事?』
「ちゃったって、ヨモツさんは」
『うん、今ヘルヘイム側、中庭で仲良くしてる。ありがとうだって』
「いや、国は?」
『調べれば出るんじゃ無いかな』
「あ、え、確かに。今日の日付けで、繋がってしまったと、両方で拡大させた結果だそうで」
「他の死の国は、大丈夫なんだろうか」
『他もやるみたい、何か誰か来てたし』
「大丈夫かね」
『元々、良い意味で縄張り争いみたいな揉め事は有ったみたいだし、逆に全部繋がれば良いんじゃない?区切りの必要無いんだし』
「死後の世界の概念が変わるのでは」
『融通利いて良いんじゃ無い?』
「はぁ、そうですか」
『あ、それと生前供養みたいに、今度地獄巡りはどうかだって、その時にヘルも一緒に行くって』
「半ば決定事項じゃない」
『断っても大丈夫だよ?そしたら死んだ時に一緒に回ろうって』
「心強いと言うか、気が早いと言うか」
『俺らにしたら、あっという間だからね』
「まぁ、そうよね、いつ死ぬか分かんないし」
『大丈夫、サクラちゃんは』
「あ、死んだ」
「桜木様、良い機会ですし紫苑さんで蘇生してみては?」
「そうね、変身」
蘇生出来ない。
コレはマジで不便、そして花子では。
出来た。
そうして紫苑に変身、もう、ずっとコレが良いのに。
『ふぅ、禁止事項だった。ごめんね手間掛けて』
「いや、良い実験になった」
「結構、柔軟性有るわよね」
「体もほら、柔らかくなった」
「そうだ、シオンのも寸法測らせなさいよ」
「おう。ねぇロキ、ヘルの服は神様達のしかダメなの?」
『ベールだけね、後は俺が買ったりもしてるけど、着てくれるの半々』
「どんなのを選ばないのよ」
『紫と金のは派手って怒られた』
「あぁ、虚栄心、寸法無いとダメか」
「仕事のプライド的にね」
『俺知ってるよ、紙とペン有る?』
「はい、どうぞ」
「肌で、直接図るんですねぇ」
「そうよ、ピッタリを知ってないと、ピッタリは作れないもの」
『はい、どうぞ』
「あら、なるほど。でも、私ので良いのかしら」
『サクラちゃんと同じなら、何でも喜ぶと思う』
「魔王とお揃いになりますが」
『もっと喜ぶんじゃないかなぁ、あ、非公式魔王の事、知ってるんだ』
「そうだけど、さっき口を滑らせてたよね。魔王の事って」
『なんか、もう知ってるかなって。おめでとう、後輩かぁ』
「その前に居るでしょう」
『なんか、最初は興味有ったけど、上手く会えなかったり、分化してってどうでも良くなっちゃった』
「良かった、会ってたらどうなってたか」
「意外と良い方向で、早く収束してたかも知れないわね」
『そうかなぁ、悪化させちゃってたかも』
《否定出来んから恐ろしいんじゃよな、マイナスをマイナスへ、とんでも無い加速性能が有るんじゃし》
「お前のせいか」
『なんもして無いよぅ、本当に、サクラちゃん以外に接触して無いし』
「それが逆に良くなかった?」
《どうじゃろなぁ》
『えー、もう来ない方が良い?』
「任せる」
『じゃあ来る』
「何が良いか本当に分からん」
『マスカット美味しい』
「人魚か」
「あら、会えたの?」
「おう、マスカット好きみたい」
「大罪や人魚、珍しいのが周りにいっぱ居るから、ロキ神は好きなんじゃ無いかしら」
「あ、撒くなバカ」
『えー、見たいぃ』
「孤島のも白雨が赤鬼になってまで追い払ったんだから、餌付けしちゃダメ。人間怖いままで良いの」
『へー、そっか、そうだね、また魔女狩りみたいに人魚狩りも復活したらイヤだし』
「何で魔女狩り起こって、いや、今日はもう止める。知恵熱出る」
『看病得意だよ?』
「出させん、しんどいんだアレ」
『ん?意図的に出来そうな予感』
「面倒くせぇ、もう帰れ」
『ショナ君、何か知ってるよね?』
「え、いや」
「凄いわねロキ神、私でも見抜けなかったのに」
「勘と観察眼ですかね?」
「ロキ待て」
『えー、絶対に方法知ってる顔なのにぃ』
「あ」
「何に気付いたんです?」
「あぁ、私はもう分かったわ」
「なによショナ」
「桜木さんを、強制的に沈静化、鎮圧出来る方法です。良く言えば、魔王対策です」
『気になるぅ』
「あぁ、なるほどですね」
「そう、対策が有れば魔王とは認められないのよ。但し、実際に検証して示す必要が有るけれど」
「えー」
『協力するよ?』
「あー、いえ、ソロモン神に先ずご相談しようかと」
『私を、信用して良いんでしょうかね』
「それは、今夜観させて頂いてからです」
『良いですが、精神に影響を及ぼすかも知れませんよ』
「はい、僕以外にも従者は居ますから」
「悲しい事を言わないのショナ君」
『大丈夫、それもサクラちゃんのフェロモンで中和出来るかもだし』
「ロキの発案だと、逆効果になりそうで怖いんだが」
「確かに、要検討ですね」
「任せた、ワシはオススメから趣味を探す」
タブレットでひたすらゲームや漫画を漁る、漁る事に集中。
だが集中力も途切れ、直ぐに眠くなり始めた。
今はまだ15時なのに。
「あら、眠そうじゃない」
「知恵熱の制御装置かも、眠い」
「もう良いんじゃない寝ても」
「鍵を出さないとだし」
「誰かに任せちゃえないの?」
《可能です》
「なら、ショナ君に任せたら良いじゃない、弱いんでしょあの子」
「まぁ、そうだけど、シバッカル、任せた」
『おう、任された。はよ布団に行かぬか』
「うん」
小屋に向かい2階のベッドに潜り込む