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3月14日

カールラの視点。

 ご主人様に会えないのは辛い、会いに行きたい。


 一昨日来た元補佐マイケルの口ぶりからして、教会自治区が完全に反旗を翻したらしい。

 だが、コチラには一切の動きが無い。

 もしかすれば、神託を待っているのかも知れない。

 自分達の都合の良い神託が降るまで、動かないのかも知れない。


 ご主人様が、本物のご主人様が一言、動けと言えば動けるのに。


『つまり、そう言う事なんだろう』

《読まないで》


『なら強い感情は抑えて欲しい』

《言うが易し》


 ピアスの魔法のせいなのか、装着後から心を読まれる様になってしまった。


 面倒、ウザい。

 ご主人様の気持ちが良く分かる。


『ウザいとまでは思われて無かった筈』

《煩い人ですね》


『それは君も、落ち着いて、集中して欲しい』


 今は神託降ろしの真っ最中。

 仕方無い、暫くは無になろう。






『カールラ様、おはようございます』

《マイケルさん、終わりましたか》


『はい、魔王化の兆候有り。と』


《ご主人様は》

『桜木花子とは明言されませんでした、ご安心下さい』

『小型化して。もう帰る時間だ』


《わかった》


 大多数の国では、人間からの信心、神々や精霊から人間への信頼度で神託の回数は変わる。

 抗議の意等により、異常な数の神託が降る例外は有るが。

 基本的にココでは日に1回。


 人理を阻害しない為に、ココでは日に1回だけだったが。

 何にでも例外は有る、厄災下では3回まで請える。

 媒体に神獣を使い、聖女、シスターからお言葉が発せられる。


 神獣を、私を手放せないのはソレ。

 コンスタンティンはキマイラ、私は他国とは言え神鳥、反応は目に見えている。


 コンスタンティンはきっと傷付く。

 そこまで考えてらしたとは、流石ご主人様。


『いや、そこまでじゃ無いと思う』

《うるさいの》

『ふふ、仲がよろしいのですね』


 悪くは無いが、良くは無い。

 少なくとも私は、そう思っているが。


『良い方だと思う』


 白雨とは認識の齟齬が凄いが、揉める程でも無い。

 ご主人様に悪い影響が無ければ、それで良い。


 朝の神託の次は、昼、夜。

 それまでに魔素を蓄える。


 本来の神獣では無い為に、私の魔素を大きく使用する。

 コレは代償、本来の神獣で有れば魔素の消費も少ないと言うのに。


『大きな状態で有れば、お食事も楽でしょうに』

『幼獣の大食いは視聴率が良いらしい、それに、巨鳥での大食いは恐怖、資源枯渇への恐れが出るらしい』

《食べる量、一緒なのに》


 全く不合理。

 信心をライブ配信で荒稼ぎし、お布施まで出させるなんて。

 実に狡猾。


 そして食事を終えた頃、昼の神託の時間となる。


 ご主人様が時折、苦痛を感じながら食事を取っていたのが良く分かる。

 今度から、ちゃんと一緒にお食事を摂ろうと思う。


『そうだぞ、おやすみ』






『終わりましたよ、お疲れ様でした』


 何も疲れてはいない、何ならただ昼寝をしていただけなのに。


《神託は》

『魔王化は、女性で有る』

『まだ召喚者様と決まったワケでは有りません、もう暫く、堪える時期です』


 今ココで桜木花子では無いと出ても、結局は封殺され、修正される可能性が有る。


 我慢、待ち、ご主人様が苦手な事、嫌いな事。


『帰ろう』

《うん》


 再び幼獣化し、部屋に戻りまた食事。


 ただ、この時間には余裕が有る、配信も無しにゆっくり食べられる。


『本当にもう、情けない限りで。申し訳ございません』

『あまり謝ると保釈が伸びそうだが』


『本当の事を言って罰せられるなら、受け止めるだけですからご心配無く。私は天使様を信じてますから』

『その天使様は、何をしてる』


『少なくとも、ココを感知出来ない仕掛けが有るのかと。何度お呼び掛けしても、お答え頂けませんので』

『神託の場でもか』


『はい。それか、罪人として見放されたかですね』


 私のご主人様なら、そんな事はしないのに。

 こんな事も。


『桜木花子なら、こんな事は確かにしない。自身で動き回るから』

『そうですね、毎日浮島から手を振って下さいましたし。その前も、毎日様子を見に来て頂けて、なのに』

《ご主人は魔王違う、優しいから違う》


『ですが、悪者にしてみたら魔王に見えてしまう。例えどんな英雄でも、違う側面からは悪者に見えてしまう。争い事において、全員が英雄と思える史実は存在しないのです』

『召喚者でもか』


『はい。例えば、誰か1人の意にそぐわなかったとしましょう、その者が悪人だと書き立てた本を出せば、悪人かも知れないと広まる。例え悪者が言う事でも、火のないところに煙は立たない筈だと、そうして人は低きに流れるのです。コレは防衛機制、不条理への防御反応なのです』


『もう少し、詳しく聞きたい』

『例えば、今まで聖人君主で有ったものに不幸があったらどうなるか、根も葉もない悪い噂が立つ。それを表すのが公正世界仮説、良い行いをした者には良い事が起こる、悪い事が起こったなら、悪い人だからだ、と』


『拡大解釈』

『そうです、人間なら少し位は悪い事をしてる筈だ、そうして一般化し、拡大解釈し、認知を歪める。良い作用も有るんですが、今は非常時、悪い方に流れ易い。防衛機制、集団心理、同調行動、暴衆現象。調べれば更に詳しく、出ませんか』


『らしい』

《無難な情報しかでないのよね》

『ここまで情報統制をするとは、知る者が気付けば反発が起こってしまうのに』


『気にして無いのは何故』

『それも一般化、いや、見下げてる一部の人間の甘さ、認知バイアスでしょうか。召喚者を得た万能感からの、優越感、自尊心の高まり』


『どんな事を教え、学んでいたんだ?』

『教義や律法と現実を擦り合わせる研究をしつつ、片田舎で教師をしておりました。転生者様の研究にも協力させて頂いており、その推薦で補佐になれたのですが』


『事態は悪化』

『そうですね、改善する為と思っていたのですが。もしかしたら気配を察し、逃がそうとしてくれたのかも知れません』


『その転生者は、無事なんだろうか』

『分かりません』

《お名前は?》


『名越史文(ふみふみ)様、以前は日本の方でして。満1才になります。今の名は、オードリー・フォワード。お名前の意味は、高潔で心の強い方、だそうです』

《名越史文(ふみふみ)、満1才、オードリー・フォワード、転生者》


『助かるべきだと思うか?』

『はい。生き辛さを感じる人々は減り、信仰心はより良く高まった筈、だったんですが。きっと、嘆き、まだ頑張って居られる筈です』


『なら、救援は不用か』

『そうですね、貢献度も有りますし、まず殺す事は無いかと、天使様も付いてますから』

《救援は不用》


『こう考えると、少し安心出来ますね。オードリー様を信じていますから』


【了解しました】


 もしこの通信が筒抜けだとしても、手出しをしないと分かれば向こうに危機は訪れない筈。


 でも、それなら私達は、どうするべきなのか。


『俺達は、どうすべきだと思う』


『下手に動けばプロパガンダに使われかねません、動くのであれば慎重に、もしくは待つ』

《待つの苦手なの》


『準備、下準備、下調べ、体力温存。直ぐに思い付く言葉はそれ位ですが、どうでしょうか?』

『そう思えば、ただ待つだけでは無くなるかも知れない』

《屁理屈かもだけど、そう思ってみる》






 夕方の神託。


【大罪】と一言だけ。


『コレは、大罪に空きが出てる以上は、桜木様が大罪としての兆しが有る。と、読み解くでしょうね』

『俺のか』


『ええ、悲嘆、嫉妬、羨望』

『無い、アレが成るなら全員なる』


『それは、桜木様をご存知だから言える事。知らぬ者は、好きな様に投影出来るのです、自身の鏡の様に』

『投影』


『そうです、自分の中にある嫌な思いを、相手に押し付ける。無意識に憎いと思っていると、相手がコチラを憎いと思っていると思い込む。愛も、妬みも対象になります』

『好きだから、好かれていると思い込む』


『はい』


『やっぱり、人間は複雑で難しい』

『そうですね、複雑で難しいんですよ』


 ご主人様はシンプル。

 エミールも武光もシンプル、マサコは。


《マサコは》

『そうですね、年相応でらっしゃるかと』


 なら、魔王化、大罪化は彼女だろうに。


 こんな複雑な情勢、環境、彼女は耐えられるだろうか。

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