3月8日
シバッカルの膝枕で起きた。
ココも久しぶりな気がする。
『ふふ、ちゃんとは久し振りじゃのう』
「そうじゃのう、ショナは?」
『ほれ』
「人魚に釘付けか、ショナ」
「桜木さん、凄いですね、色々、沢山有りますよ」
『第2、第3と増設を繰り返してな、ふふ』
「すまんね、好き勝手したわ」
『良いんじゃよ、何も無いよりずっと良い』
「ありがとう。遊びに行こうかショナ」
「はい」
先ずは王都、生憎と王様は忙しいらしく、謁見は先延ばしに。
なので旅館をサラリと紹介し、王都の家を案内する。
「どうよ」
「凄い素敵です、波の床。夜になれば、夜光虫とか見れるんですかね」
「見えるよ、ちょっと目を瞑って。はい」
「わぁ、本当に、凄いですよ桜木さん」
そうして暫く堪能し、次は川上り。
天の川を追い掛ける様に、舟を走らせる。
そうして花街に付くと、お寺には百合車に良く似たお狐さんが待っていた。
コッチのお狐さん?
『そうじゃな、白百合とでも名乗ろうかの』
「桜木花子です、宜しくお願い致します」
『ふふふ、宜しゅう。今日は顔合わせだけやし、またの』
「はい」
「百合車さんも、こんな感じだったんですか?」
「近い、ただ出会いは遊郭だった」
そして今度は湯の郷へ。
吊り橋を渡り旅館へ向かう。
「何処かで見た様な」
「港街のね、さぁさぁどうぞ」
館内を巡り番頭の部屋へ。
百合車に少し似た息子、もう代替わりか。
『どうも、父と母からお噂は聞いております』
「息子さんですか、どうもお邪魔しとります。どうですか、商売は」
『ぼちぼちです』
笑った顔は灯台のに良く似ている、良かったな灯台の。
そして滝へ、月に滝、綺麗。
「前は少し怖かった筈なのに、今は凄く綺麗で、ビックリしました」
「そう?前からこうよ」
そして龍神さんの洞窟へ。
龍神さんは前のまま、なんだか少し安心。
『久しぶりだな』
「お久しぶりです」
お酒と真珠を1つ。
泉に入れると、水中が光り輝いた。
『仲良くしている様で安心したぞ』
「そこそこ」
「以前はお世話に、お騒がせしました」
『気にするな、気にしいの気にし過ぎなだけだ』
「過ぎじゃ無いしぃ。何か、変わりは無いですか」
『あぁ、特には無い、平穏そのものだ』
「えー、この前大変だったんだがぁ」
『アレか、ちゃんと手伝ったぞ?お主の逆鱗は守ったつもりだったがなぁ?』
「アレで?」
『あぁ、アレより酷い干渉が有ってな。まぁ、思い出せんでも問題無いさ』
「そっか、有り難う」
『おうおう、もう呑まれてくれるなよ』
「あ」
「桜木さん、呑まれるとは」
「遊園地を忘れてたな、行こうな」
向こうのマーリンが開拓してくれた波止場の遊園地。
水族館、動物園。
「楽しくて、誤魔化されちゃいそうですね」
「竜種の出産の手伝いをしただけ、卵と一緒に出たから大丈夫」
「それは、クーロンがヤキモチを妬きそうですね」
「なー、言えんわ。他意は無いんだけどなぁ」
「桜木さんは、どんな時にヤキモチを妬くんですか?」
「イマイチなんよな、ショナは?」
「クーロンの気持ちが分かる程度ですかね」
「良いなぁ、競争心を芽生えさせるコツは?」
「褒めて、ベタベタするとか」
「ん?誰が?」
「桜木さんが」
「いや、クーロンとか難民じゃ無くて、ワシのね」
「あぁ、やっぱり褒められるしか無いんじゃないですかね?」
「難易度爆高、次は染物の村に行こう」
観覧車を降り染物の村へ。
以前と変わらぬノンビリした風景。
「他とまた違って、落ち着いた雰囲気ですね」
「炭焼き小屋も有るしね」
「炭も仕入れ候補に入れときますね」
「そうね、便利だし」
そうして村々を周り、終点へ。
そこから先は砂漠地帯、砂嵐で良く見えない。
「ココはちょっと、怖い感じが。まだまだ未開の場所が有るんですね」
「そうね、広大だから。じゃあ、帰るか」
「はい」
村まで引き返し、宿へ。
お布団を敷き透明な鍵に触れさせると、マーリンが窓からやって来た。
『珍しいな』
「先触れにね、ココの事は報告書に無いみたいだし」
『一応、候補を外れる努力はするんだな』
「ポーズな」
『嫉妬心、どうするつもりだ』
「まだ1年有るんだぞ、少し待ってくれよ」
『どうにもならなかったら、対価有りで手伝ってやる』
「ありがとう。何が良い?」
『乙女の涙』
「貴様は竜か」
『少し、場所を移動するか』
マーリンに手を引かれ、塔の上へ。
そして瞬き1つで、目の前に白い竜が現れた。
「どう言う事でしょうか」
『父親はプーカ、妖精、変身も悪戯もする。その元を辿るとサテュロス、パーンとも呼ばれている森の精霊。サテュロスの仲間にはデュオニソス、別名バッカスが居る、そしてドリアードも』
「あー、言いたい事は分かったが、変身なの?」
『父親が白い竜に化けて母を、その時に出来た子。竜人とも言える、人間で在り竜で在り、夢魔』
「お好みは」
『涙に耐えられる竜は、そう居ない。ただ、悲しみか嬉しさか感動か、そこは其々』
「それか?」
『淫夢』
「それは生命維持に必要なんだろう、涙だけが嗜好品なのか」
『ドリームランドを覗く事、だから対価は必要じゃ無い』
「最も受け入れ難い事実だな、何か差し出せないのはもどかしい」
『過剰な対価は、そっちの結納と呼ばれるモノと同等になる』
「やっべ、上げ過ぎが不味い理由はそこか、なるほど」
『だから、問題は無い』
「なんか、竜の方が穏やか」
『窮屈では有る、不自由も有る。それに、人間界では、人の形で居る事が条件』
「別に、ドリームランドでなら好きな形で居たら良いのに、格好良いじゃない、スルスルしてるし」
『この巨体に合う場所が無い』
「山に囲まれた盆地に、塔が有る。行くには跳んで行かないと無理で、ドリアードの蔦が守ってる」
『行ってみるか』
「はい、宜しく」
マーリン竜の手の中に収まり、山へと向かう。
理想的な山並み、四方は四季其々の山の色。
ピンク、緑、オレンジ、白。
広い、デカい、カラフル。
下を覗くと真っ白な霧。
だが少し近付くと、塔の先が見えて来た。
着陸する為に更に近付くと、塔がどんどん大きくなる。
端が見えないが、マーリンにしたら丁度良いらしい。
竜と共に階段が有りそうな場所へと向かう。
デカい穴、暗くて下が良く見えない。
『先に見てくる』
「おう」
その間に周囲を見渡す。
グラデーションの山脈、綺麗。
地面は遥か彼方、霧まみれ。
高度どんだけ有るんだろうか。
『灯りを灯しておいた』
「助かる」
大きなベッド。
上を向くと穴からは空が見える、にしてもデカい。
小人が巨人の部屋に来た様な、ちょっと距離感が掴めない感じ。
ベッドに辿り着くまで何歩かかるのよ、しかも高い。
マーリン竜に掴み上げて貰い、ベッドの上へ。
遠くの方に、ソファーやテーブルが見える、ワンルームか、お風呂は?
『下に降りてみるか』
キラキラとした水、大浴場。
そしてその次には、大きな木の生えた開けた空間。
木にはツリーハウスと言うか、幹が家を覆っている。
サイズは人間サイズらしい。
そして最下層に着陸。
真ん中に空間の有るのは森。
正面にはドア。
泉も有る、とても等の中とは思えない。
ドアを開け外へ出ると、一面ピンク。
正面は春色の山。
「凄いなぁ」
塔沿いにグルグル周る。
四季が、グラデーションとなって色とりどりに変わって行く、延々と眺めてられる。
塔が四季の中心なら、ココはヘソ?
地図の真ん中、ココがおヘソ。
『中心に据えるのか』
「何か問題でも」
『いや』
「誰をココに入れるかはマーリン次第、ワシじゃ無い。それを守るのがドリアード」
《承ろう》
後ろからの声に振り向くと、塔の下から蔦が伸び始めた。
そして全体を覆い囲うと、ドリアードが姿を現した。
『宜しく』
《おうおう、良い別荘地じゃな》
『コッチにする』
《そうかそうか、良いぞ良いぞ》
「別にそこまでしなくとも良いんだが」
『人間サイズの空間も有るから問題無い』
《じゃな、ちょっと見てみい》
人型になったマーリンと共に、壁沿いの階段を登る。
時折現れる窓からは、四季折々の風景が見える。
そうして辿り着いた部屋は、前とはそう変わらない部屋。
何なら丸々移設したのかと思うレベル、窓には夏の景色。
『変えるには、こうか』
「便利」
《山もか、こうじゃな》
「グラデーション、グラデーション最高」
『ココも報告した方が良い』
《じゃったら、応接間も用意せんとな。うん、下階に有るぞぃ》
階段を降りて暫くすると、更にツリーハウスが出来上がっていた。
中は立派な応接間、中央のテーブルには地図。
竜の駒が地図の中央に有り、地図の端は海。
海沿いには漁村、迷いの森、花街や王都が描画されているが、他は空欄。
まだまだ探索しないと。
特に気になるのが染物の先の砂漠地帯、大きな埋め漏れは気になるタイプ。
「気になるわぁ、埋めてぇ」
《砂漠を埋めるとな?》
「あぁ、その埋めるじゃ無くて」
《あぁ、そうかそうか》
『それはもう少し先だろうな、まだ忙しいだろう』
「だな、帰るか」
『あぁ、コッチに良いのが在る』
寝室のクローゼットを開けると、子供用のベッドが有った。
ピッタリサイズ、横になる。
「ふぅ、今何時だねショナ君」
「夕方の5時前です」
曇り時々晴れ。
計測、低値。
ですよね。
「低値でーす、飲みまーす」
イスタンブール出発まで、ライブ映像を流しながらエリクサーの一気飲み。
自分の好きな曲順でライブ有ったら失神しちゃうだろうなぁ、勿体無いから失神しないだろうけど。
中つ国組の出発時間、見送りに出向くとマサコちゃんも後方に居た。
マサコちゃんなりに何かしようと思っての事なんだろうか、まぁ、頑張れ。
今度は入浴しつつエリクサー。
「おにぎりを用意したんですが」
「ありがたい」
小さめのお握りを食べつつ、エリクサーを流し込む。
美味い。
休憩の合間に計測。
中域、意外にもそこまで使わなかったらしい。
今日はイスタンブールには男性陣と共に向かう、なので妖精紫苑へ変身し、そのまま風呂を出る。
服を着てストレッチ。
ちょっと硬い、サボってるもんな。
筋トレも。
ショナに手伝って貰いながら、マジストレッチ。
楽勝。
「以前からは想像出来ない位に柔らかくなってますよね」
「ズルっ子したからね、筋トレも」
「この状態で戦闘はして無いですよね?」
「模擬戦以外はしてない筈、所詮は素体の能力は最弱よ、ワンコに平気で負けるし」
「魔剣を授けたんでしたっけ」
「向こうも非戦闘員な、ワシ非力過ぎ、飾り筋肉」
「それなんですけど、薔薇の魔剣の本来の持ち主の性別って」
「肉体の性別に性能が左右されてる可能性は指摘された」
「なら、僕のは、紫苑さんの状態の方がより良く使えるんですかね?」
「どうだろ、そこは拘りが無いし、特に何も考えて無いから。どうも無いと思う」
「そうなんですね」
「あ」
「なんですか?何を思い付きました?」
「いや」
「危ない事ですね」
「自刃ゴッコ出来るなって、つかそうすりゃ良かったなって」
「あぁ、でも背中から刃物が出ないと、誤魔化せないのでは?」
「壁に寄っ掛かれば、ただ、血がなぁ」
「それこそ血液を事前には、無理ですよね」
「だね。ただ、今ならストック出来るし、アリよな」
「そうですね、万が一にも同じ状況になるんでしたら。輸血用として準備する分には問題無いでしょうし、連絡してみますね」
「協力的」
「本当に自刃されるよりマシですから」
「ですよね」
ちゃんとした輸血パックを造る為、病院へと向かう。
コレはアナログ、と言うか0でも見た様な機械。
献血するのは初めて、ニギニギすんのも一緒なのね。
先生襲来。
《まだ戦の準備ですか》
「いや、自刃ゴッコ用」
《物騒なゴッコ遊びですね》
「遊びちゃう、本気や。イザと言う時用」
《なるほど。ショナ君をドリームランドに連れて行ったそうで》
「候補外し用のポーズ、また増設した」
《それは報告に無いですが》
「帰した後、マーリンが来たから。マーリンの居場所を作った」
《そうでしたか、ご苦労様です》
「写真に撮れたら見せたい位に良い風景、お願いすれば見れる筈」
《アナタの領地では無いんですね》
「だね、マーリンのだから」
《一応、こまめにエリクサー飲んで頂けますか》
「へい。マサコちゃん、どうしたいんだろう」
《挽回はしたいでしょうね》
「空回り感が有るから心配」
《それでも、交わる事の無い運命だそうですし、どうにも出来ないでしょう。ただ、アナタが引く場合では無いですからね、向こうに引いて貰いたいんですが》
「今はタケちゃんにお願いしてるが、どうだかな。フォローしといてって言ったままだし」
《なら難しいでしょうね。エミール君には》
「年上の事をお願いするのはちょっと、頭硬そうだし」
《でしょうね、個人裁量の範囲、良く出ましたね》
「喫煙者ですし、言い訳は蓄えとります」
《現職を退いた場合、禁煙ですか?能力も封印するそうですし》
「あー、今までのってどうしてたのか、中央値的に」
《女性ですと仕事と家庭の両立に悩み、仕事を引退、家庭が落ち着き復帰。男性は家庭を持つもその場には収まらず、仕事優先。基本的にはお相手の方から相談される事が多いですね、本人達は痛々しい程に仕事を優先させますし》
「あぁ、どっちも面倒」
《内容は其々ですから比較は難しいですけれど、各地を周り仕事をし、人間の偉い方と謁見、話を聞いて周ったり、魔獣退治に紛争解決、色々ですね》
「今の時代的には、どうなると」
《今なら、紛争解決位でしょうか》
「あぁ、政治に関わりたく無い、嫌、無理、面倒、したくない」
《責務とは、一体何処まで担えば良いんでしょうね》
「大多数が決めれば良いでしょう、従うかは別だが」
《そうですね。何か映像でも流しましょうか》
「先生の、ネイハム先生のオススメは?」
《最近ですと……》
女刑事さんと、解剖医が事件を解決するドラマ。
良い、面白い。
エリクサーとジャンクフードをポリポリしながら、一緒に鑑賞。
あっという間に1話が終わってしまった、コレもリピート確定。
もう少しで終わりそうな頃、予定量の採血を終え針が外れた。
そろそろ、おトイレに行きたい。
「トイレ行きたい」
《後は血圧ですね》
「低いんだよなぁ」
《ですね、車椅子確定です》
「そこの距離なのに」
《倒れられては困りますから》
ほんの僅かな距離で車椅子、しかも座ってしないとダメと。
いや、いつも座ってるから良いんだが。
致し終わって直ぐにドアを半開きにし、流し終わった後、一息付いてから立ち上がり、しまう。
そして手を洗う。
採血直後は転倒防止にコレだけしないといけないんだそう、今度からもっと前に言おう。
それでも普通の人はもっと、水分摂取調整や何やと難しいだろうに。
それとも、既に人工血液が有るんだろうか。
「まだ休憩しないとダメか」
《血圧が戻ったのを確認したらですね》
「背骨を擦ってくれないだろうか」
《造血が促されますかね》
映像をイメージせずに造血する練習。
部位に適当に集中、意識するだけで出来たら楽なのにと思ったのだが。
そう上手くは行かないモノで。
背骨の骨髄をイメージし、ジュワっと増やす。
1個1個。
「適当にはダメみたい、どうでしょうか」
《はい、良いですね。でも一応出口まで送ります》
「へい」
そうして病院から浮島に戻ると、タケちゃん達がご帰宅していた。
折角なので孤島に向かい、聞き耳を立てる。
田畑にも魅力を感じたらしく、コチラも上々の様子。
蜜仍君からも報告を受けていると、マサコちゃんが近寄って来た。
『あの、妖精の紫苑さんでしょうか?』
「そうでしたら何か」
『桜木さんについて、お話をさせて頂きたいんですが』
「はい」
そうして何故かテント内へ、初めて見る天使さんと話しを聞く事に。
『ご様子はどうでしょうか?』
「どう、お伺いしてますか」
『それが、誰も仰って頂けなくて。それで、最近1番一緒にいらっしゃると聞く方に、伺えればと』
「怒っているか聞いてるんでしょうか」
『そうですね、はい』
見当違いだが、コレはチャンスかも知れない。
兎に角、話しを聞きたいだけなんだコッチは。
「微妙ですね。出来るだけ早くに、直接お話しに行った方が良いですよ。面と向かってちゃんと腹を割って話せば、分かり合える場合も有るかと」
『そんなにですか』
「嘘かも知れませんので、ご確認をどうぞ」
『その、どういう方なんでしょうか』
「優しくて真面目。魔王候補だけあって、残忍、狡猾、冷徹で非情。まぁ、コレも嘘かも知れないんで、是非ご確認をどうぞ」
『そうですか、分かりました。ありがとうございました』
「いえいえ、お話しに行かれますか?」
『今日はもう遅いですし、後日改めてご連絡させて頂きたいと思います』
「分かりました、では失礼します」
でも、コレでも話し合わないかもだよな。
つかバレて無いのが不思議、天使さんも居るのに。
それとも何かの罠?
「紫苑さん」
「大丈夫だショナ君、怒ってるか、どんな人間か聞かれただけだ」
「それで、どう答えたんですか?」
「何か知らん天使さんも居たし、優しくて真面目。冷酷非道かも知れんから、話し合えって言っといた」
「鵜呑みにしないと良いんですけど」
「天使さん居たし、今頃バレてるっしょ、全部」
「だと良いんですが」
「天使さんを疑うかね、アレは多分ミカちゃんだろうから大丈夫だべさ」
「そう願ってます」
そうして今度こそ浮島に帰り、飯。
お昼寝用にスープとパンとサラダで軽く済ます。
暫くして、回復の為にもお昼寝。
22時少し前、今度は紫苑のまま、タケちゃんとイスタンブールへ。
マキちゃんキラキラ、何だろう、前のはマジで見間違えなのか。
勘が鈍ったか。
ココも先頭はタケちゃんに譲り、後方へ。
話せはしなくともソコソココミュニケーションが取れてる、流石大人、父親だ。
そうして難なく案内は進み、最初の休憩へ。
完全に統率が取れている、順番に質問が行き交い、疑問が解消されて行く。
流石お父ちゃん、見習わないとな。
「流石お父ちゃん、見習わさせて頂きます」
「おう、教員免許取得中だからな」
「は、あぁ、それでウッカリ眠っちゃって」
「あぁ、引退後に運動を教えるだけじゃ限界が有る」
「はー、偉い、凄い、格の違いを見せ付けられてるぅ」
「ハナは自分の面倒で手一杯だったんだろう、だから、紫苑もコレからだ」
「何が向いてそう?」
「社長だろうな、向こうではそう言う相だぞ。福耳、手の厚さ、鼻も口をもだ」
「それは、誘導して無いか?言われた事無いぞ」
「本当だ、コッチもそう変わらないんだ、今度見て貰えば良いさ」
「見窄らしい格好で行ってやろ」
「おうおう、腕の良いのは見抜くんだから、精々変装して行け」
コレはちょっと楽しみ、意外な何かが見つかるかも知れないし。
本当なら嬉しいし。
そうして大きなバザールも周り終わり、2回目の休憩へ。
タブレットも使いこなし、仲間内で仕事について相談中。
例の少年も真剣、何かしたい事は出て来ただろうか。
「“気になる仕事、有りましたか”」
『“はい、男は、刺繍を仕事には出来ませんか?”』
「出来る。性別で仕事が決められる事は少ない」
『1人で出来る事がしたいです、島で生きたいです』
「人が居る似た島も有るよ」
『物覚えが悪いので迷惑を掛けたく無いんです、いつもそうやって怒られてました』
「この新世界で怒られた?」
『いいえ、皆優しいから怒りません、色々、沢山、優しく教えてくれます』
「じゃあ、沢山怒られるまで色々と勉強してから、島に住むか決めよう」
『はい』
可愛いのに、可愛いから苛められたのか。
プレイの一貫か、又はその両方か。
「タケちゃん、あの子、物覚えが悪いと良く叱られてたらしい。プレイの一貫か又はその両方か」
「なら、相談するのも有り得るかもな」
「なー、最初が怖いと相談しても仕方無いかも知れん。一応、馴染ませたいんだが」
「だからって手を出せば良いワケでも無いしな、周りに構われてると思われれば外される、悪目立ちすれば本人の為にならん。出来るだけはするが、長い目で見ないといけない、結局は任せる事になるんだが」
「構わん、居る覚悟をしてるんだから当然。それをどうしたら良いかだけでも助かる」
「下手に手を出さない、ギリギリまで見守る、手出しも最小限。甘やかしは禁物」
「うげぇ、苦手かも」
「あの子の為だけじゃ無い、全員だ。頼むぞ」
「頑張る」
なんと頼もしい事か。
タケちゃんが通訳役なら良かったのに。
そうして社会科見学も終わり、孤島へ帰投。
問題も無く終了し、浮島へ。
お風呂に入ると空腹感。
ガッツリと牛丼、サラダを食べ休憩。
一服。
《順調に候補への道を歩んでおるの》
「なに」
『本格的に周りにも探りを入れ始めた』
「ほう」
《ほれ、蜜仍じゃ》
「桜木様、宜しいですか?」
「どうした蜜仍君、探りでも入れられたか。マサコちゃんに」
「はい、何か不満は無いかと。なので、不満は有りますと。是非、お話し合いをお願いしたいと」
「結構、良いね。コレで話しに来てくれると良いんだけど」
「桜木様に不満は無いんですよ本当。周りの、向こうの評価に不満なだけですから」
「おう、心配はしてない」
「ふふ、桜木様に抱っこされるなんて、新鮮です」
「ハナで出来てたら毎日してるわ」
「子供扱いが不満だって言えば良かったかも」
「ハナか?紫苑か?」
「そうですね、今は紫苑さんですもんね、ふふ」
「君も、くすぐりが効かんか」
「死ぬかって思う位に土蜘蛛様にくすぐられたので」
「くそ、後で文句言わないと」
「お願いします、酸欠で何度死に掛けた事か」
「良いなぁ、見たかったなぁ」
「嫌ですよ、涎垂れちゃったりしますし」
「なにそれ、許せんな、実に許せん、怒っとくわ」
「ふふ」
代わりにたっぷり甘やかし、紫苑のままベッドへ。
「土蜘蛛さん、どうですか」
《おぉ、ココは、王都だったか?》
「そう、王都の旅館、神様達用」
《あぁ、なるほど。だが、たかが地霊を神扱いは、どうなんだろうか》
「区別せんとダメですか」
《いや、お前が良いなら良いんだが。どうしてココへ》
「くすぐりを効かん様にして、どうして面白い事を取り上げますか」
《いや、ほら、油断はいかんから》
「ですよねぇ」
《本当は、何故なんだ?》
「暇だったら、と」
《え、いや、うん、暇では有るが》
「人間は負荷が凄いけど、神様は増えても大丈夫だったんで」
《あぁ、うん》
「花街に映画館も有るから、知りたい事は全部そこにある」
《そうか、何人にも話すよりは楽か》
「だね、何回同じ事を話せっちゅうのよ。面倒が先に立つ、マジで」
《まぁ、そうだろうが》
「ソロモンさんも、どうぞ」
『良いんですかね、お邪魔して』
「もう既に楽しんでんじゃん」
『はい、お先に失礼させて頂いてます』
「土蜘蛛さんもどうぞ、花街も。家の2階はダメ、それ以外は自己責任で」
《自己責任。なら例えば、マーリンには会えるんだろうか》
「マーリン」
『なんだ』
「アマゾネス扱いってマジ?」
『少し、見た目が違うが』
《先々代だな、もう少し屈強だった》
『筋肉が、凄かった、圧も』
《戦には見た目も大事だからな、仕方無いだろう》
『2倍はデカかった』
「それはちょっと、凄いかも知れんが」
《こう、だったか》
「コレは、アマゾネス」
『ほら』
《威圧用、無駄な争いを避ける為だ》
「威圧、欲しい」
《見下し、蔑み、怒りを混ぜ合わせんとな。無念を背負い、正義を翳す》
「むっず」
《得ようとして得られる事は、意外と少ない。技も魔法も、そう簡単に得られるもんなら、皆が得て、技も魔法も、もっと発展しているだろうよ》
「君等の所の、そうじゃん」
《最初から君が里に来てれば耐毒も得られてただろうが、今は難しい。それと同じく、元の素質だけで全て得られるワケでも、元の素質のモノだけしか得られないワケでも無い》
「性格さえ、弊害さえ無視すりゃ得られる」
《許さんよ、なんせ後が面倒なんだから》
「ですよね。まぁ、楽しんでって下さいよ」
《おう、そうさせて貰うよ》
そう言うと、花街の映画館へと入って行った。
マーリンもソロモンも、まだ通りに突っ立っている。
『お人好し』
「そうですね、地獄で長居しない様に善行を積まねばね、南無三、南無南無」
『蜘蛛の糸か』
「良くご存知で、死んだら垂らして貰わないと」
『死ぬ事が前提なのは、つまらないですね』
「つまるかどうかの話しか、そうだった。他の条件では?」
『受け取り拒否で』
『悪趣味だ』
『どうも、良く言われますが。アナタに言われたくは無いですね』
『命までは取らない』
『私もですよ』
「いや、取るやん」
『最悪は、です。無茶では無いでしょう?前例も有るんですし』
「その時からは血液も細胞もすっかり入れ替わってるんだ、そうなると同一人物と言い切れないでしょうよ」
『私がそう思わないので、無理ですね』
「人間用の屁理屈が通じない」
『だろうな』
『なら、失恋の涙でも良いですよ』
「むっず、難しい事ばかり言う」
『当て擦るなよ』
『してませんよ、本当に良いなと思っただけですし』
「じゃあ、失恋の涙でも良いんだな」
『良いですよ、出せるなら』
「ぐぅ」
『コイツにココを使わせるのは勿体無い』
「それはそれ、死んだらココは公共と化すのだし」
『だから俺を隔離したのか』
「隔離と言うか」
『守る行為に難癖は良く無いかと』
『元はお前のせいだ』
『そうかも知れませんね、ですが早死にしない様に宜しくお願いします、早々に死なれるのは本意では無いので』
『面倒な奴を引き入れて』
「さーせん」
『ドリアードに報告させる』
《そうカッカするで無いよ》
『ロキですよー、宜しく』
『ほう、面白い組合せだな』
『賑やかになって来ましたね、少し失礼しますよ』
「あ、逃げた」
『じゃあ俺も』
《まぁまぁ、良いでは無いかぁ》
『お、ドリアードが凄い絡み方してる』
『ハナに良くしてくれているそうで、ワシからも礼を言う。ありがとう』
「クエビコさん、お爺ちゃんみたいな事を言う」
『いや、俺は何も』
『って言うか人型なんだね、もっと木なのかと思ってたよー』
《どうせこう、木に顔が付いてるとでも思っておったんじゃろ、幼稚じゃのぅ》
『まぁ、似た様なモノだ』
「あ、逃げた」
《すまんの、こう言う場が苦手と言うか、慣れとらんで》
「ウブ」
『そう言ってやるな』
『ココ、新しいよね?古いけど』
「まぁ、どうぞどうぞ」
《よし、行くかの》
『あぁ、少し回らせて貰う』
『じゃーねー』