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3月6日

 雨。


 計測、高値。


 綿を成長させ収穫する間に、サフランを成長、収穫と成長を交互に行う。

 その合間に、こまめに計測。


 中域。


 収穫を終え、朝食へ。

 ケバブ、安定の旨さ。


 ココが何処か良く知らないが、雨が降っていても暖かい。

 そして大概雲が有る。


「よし、潜ります」


 先ずは妖精紫苑になり、水着にお着替え。

 真珠の指輪、フィンとシュノーケルを付け、浮島の下へ空間移動で着水。


 どういう原理か知らないが、浮島の下から空を見上げると、曇り空が見える。


 海を見ると、影は無い。

 不思議。


 綺麗。


 マスカットを水着の紐に括り付けウロウロしていると、引っ張られる感覚が有った。


 エメラルドグリーンの人魚、ヒレも鱗も前より豪華、綺麗。


 ココは人間の居る島からかなり離れた場所、目立っても問題無いからだろうが。

 だが警戒心は有る様で、コチラが気付くなり岩礁に隠れてしまった。


 海流に乗せ、マスカットを1粒投げる。


 果物強い、水掻き付きの手がキャッチした。

 何粒か投げるも出ては来ない。


 苦しくなって来たので、海面へ。

 白雨に呼び掛けてみる。


【白雨、聞こえる】


【はい、誰でしょうか】

【ハナの紫苑、この島にエメラルドグリーン色のデカい魚を見たんだけど】


【あぁ、はい、人間には近付かぬ様にと、色々しました】

【効果有ったね、何したの】


【最初は人間の話しを聞かせ、石を投げて追い払ったり、大声を出したり、色々しました】

【あー、お疲れ様です、じゃ】


 餌付け禁止だな。

 果物をしまい、遊泳続行。


 クエに似た赤い魚、ウツボ、黄色い魚に、サメ。

 サメはヤバい。


 顔を向けたまま後退、追い掛けてくる。

 浮上、まだ追い掛けてくる。


 槍、行けるか。


【はい】


 最終手段、殺生は最低限。


【はい】


 サメの鼻先とフィンが触れ合いそうになった時、エメラルドグリーンの魚影が割って入り、サメを殴った。


 殴った。


 そうして追い払うと、また岩礁に隠れた。


 マスカット分はと助けてくれたのか、マスカットの神様と思ったのか。

 兎に角、マスカットで助かった気がするので、一房海流を使い投げ渡し、上陸した。




「紫苑?」

「スーちゃん、ココ泳げないわ、好奇心旺盛なサメ居る」


「えー、サメ追い払うとか出来ないかな」

「生態系がね、この位で小型っぽいし、漁は舟の方が良いかも」


「それで小型って、まぁ、そうか」

「それか、ココはそのままで、浮島で何処かに行った方が良いかも。固有種居たら面倒だし、ココは仮が良いっぽい」


「それはそうかも、砂漠気候だったから湿気苦手みたいで文句増えてきた、海風もベタベタするって」

「あー、暖かさ以外は真逆だもんな、あ、トルコどうよ、イスタンブール、あのケバブ有るでよ」


「あー、宗教どんな感じなんだろ」

「ストール多く無いよ、宗教は多分、青い灰色狼」


「元の神話体系が残ってる感じ?」

「多分、っぽい、ハマム最高ぞ、垢すりヤベェ」


「あはー行きたいー」

「ちょっと掛け合ってみようかね、ソッチは宗教とか調べといて、補佐さんにも言っといて」


「了解ー」


 暫くは日光浴、暖かいなぁ。




『“あの”』


 振り向くと、花子に相談した少年だった。

 この前とは違い、目をキラキラさせている。


 なに、そっちの子?


「“はい、何でしょうか」

『人魚ですか?』


「人魚をご存知で?」

『昨日、シラウと言う方から聞きました、海には綺麗で強い人魚が居るって、足先に綺麗なヒレが有るって』


「残念、コレは偽物、本物はもっと綺麗」

『そうなんですか、海は綺麗ですか?中はもっと、綺麗ですか?』


「とっても綺麗ですよ、でも怖い生き物も居るので入らないで下さい、今、サメと言う生き物に食べられそうになりました」

『それで、ココに?』


「はい、人魚はサメより強いので、サメからは逃げません、人魚はサメを殴ります」

『アナタは、弱い?』


「人魚より弱い人間です」

『人魚は、昔、人間に狩られたって聞きました』


「だから人間より強くなって、今でも生き残ってる」

『そうなんだ、凄いなぁ、良いなぁ』


「ココは好きですか?」

『好き、好きです、雲も雨も、虹、虹も見えて、海が有って、好きです、嬉しいです、ココとずっと一緒が良いです』


「ココは仮の住まい、不便、それでもずっとココに住みますか?1人でも」

『良いんですか?』


「“他の偉い人間と、神様と精霊に相談してみましょうかね”」

『“はい、宜しくお願いします”』


「クエビコさん、ドリアード。この子ココが好きだって、ずっと住みたいってさ」


《まぁ、竜種が面倒を見るとなれば最適では有るじゃろうが》

『白雨が住めていたんだ、そう問題は無いだろうが。受け取り方次第では、優遇になりかねん、例え孤島であってもだ』


「外の世界を見せた上で適応出来ないなら、ココで」

《ほう》


「学習すれば自分がした事を理解する時が来る、それからココに住み着いてもおかしくは無いかと」

『そう遠くは無いだろうな、だが、立ち向かわせ無いのか、新世界に』


「シュブさんと神様に選ばれなかったって事は、適応出来ない可能性が高い。それに、もう少しその事を知らずに成長してから、立ち向かわせたって良いでしょうよ」

『竜種の尻拭いか』

《であればこそ、より慎重にせねばなるまいよ》


「そこは相談してくしか無いでしょう、専門家に。だから専門家なんだし、ね」

《お、ショナ坊じゃ、退散退散》

『饅頭怖いぞ海坊主』


「紫苑さん」

「おう、ちょっと相談してたんだわ、この子、好きが分かったらしい。ココが好きで住みたいって」


「鈴木さんから移住するかもと聞いたんですが」

「他のはね、竜種が面倒見るには最適だから、海にも人魚にも興味有るみたいだし、ほら」

『“綺麗”』


「綺麗って」

「本当に、許してるんですね」


「相談を許すも何も無いべ。“相談してるけど長くなるから、暫く待ってて、皆とお勉強してて”」

『“はい”』


「あれが強姦魔に見えるなら、君はヤバいと思うぞ」

「犯罪者が、犯罪者らしく見えない時も有ります」


「それは専門家に任せる、グレーは裁かない。ただサイコパスやソシオパスなら、どの道隔離で良いでしょう」

「そうですが。それより、どうしてココへ?」


「サメ、追い掛けられた」

「小型のは居ると聞きましたけど」


「マスカットと人魚に助けられた、サメ、殴ってた」

「え、もう1回良いですか?」


「マスカットと人魚に助けられた、人魚がサメを殴った」

「あぁ、すいません、マスカットと人間がサメを殴ったって脳で変換されちゃって」


「まぁ、省略したらそうなるかも知れん。マスカットは凄い、人魚はもっと凄い、アレはヤバい」

「人魚ってそんなに強いんですね」




 浮島に戻り温泉に入っていると、賢人君がやって来た。

 そして何も無しに温泉へ。


「どもー」


「どうも、賢人君」

「うっす、いやー、やっぱり温泉て良いっすよねー」


「そうですね」

「あれ?妖精の方の紫苑さんですよね?」


「あぁ、はい」

「妖精さんも温泉入るんすね」


「えぇ、まぁ」


 え、コレは、なんだ?どうしたら良いんだコレ。

 誰かの悪戯?情報制限の弊害?このままにしとく?


 まだ厄災継続かもだし、念の為に、このままにしとくか。


「桜木さんて、今どんな感じなんすかね?」

「どんな感じと言いますと」


「色々、大変な事がいっぱい有ったじゃ無いっすか、だから、落ち込んだり、変なテンションだったりしてないかなーって」

「あぁ、頗る平常運転で、ショナさんと赤い玉の話で盛り上がってましたよ」


「あー!アレっすね、蜜仍君が確認に来たんで俺もちょっとやっちゃいました」

「上乗せしましたか」


「はい、つい、だって反応がもう、くふふ」

「もう、18まで信じてて貰うしか無いですね」


「それまで信じててくれますかねぇ」

「次の標的はエミール君だそうですから、相乗効果が望めるかと」


「あー、わりぃーなー桜木さん、流石っすね、俺も乗っけてもらお」

「是非是非、悪ノリしてなんぼですから」


「ですよねー」


「ちょ、賢人君」

「あ、ショナさんも一緒にどうっすか」

「良い湯加減ですよ、ショナさん。妖精との混浴は初めてでしょうよ」


「俺も、幻術っぽくないし、凄いっすねぇ」

「ティターニア様のお力です」

「あ、賢人さん」


「妖精さんと混浴っすよ、蜜仍君もどうっすか」

「へ」

「どうぞ、激レアですよ、妖精との混浴なんて、ショナさんも誘ったんですけど、嫌みたいですね」


「嫌とかでは無く、その、話し声が聞こえて来たので」

「そうそう、ショナさんが帰って来ないから何か有ったのかと」

「男同士で入るのはおかしいんでしょうかね?」

「いやー、あ、でも国によっては素っ裸は珍しいみたいっすよ」


「じゃあ、何で遠慮してるんでしょうかね、ハナも居ないのに」

「ウブだからじゃ無いっすか?くふふ」

「えー、まだちょっと仕事が残ってるんで、それじゃ」

「僕もー」


「何だったんでしょうね」

「心配症っすからね、ショナさん」


「ですね」


 賢人君が上がるまで我慢。




 何とかやり過ごした。


《ふふふふふ》

「お前か」


《ちょっと悪戯したつもりが、くふふふふ》

『中々だったな、うん、悪く無い』

「人をオモチャに」


《そんな事はしとらんよぅ?桜木花子は居らんと言うただけじゃしぃ》

『遺伝学上は事実だしな、ふふ』

「事前に言ってくれんかね」


《我らもぉ3の月読神みたいな事がしたいんじゃぁ》

『だそうだ』

「悪影響ぉぉ」


「桜、紫苑さん」

「おうショナさん、そんなに俺が嫌いか」


「いや、分かってては無理ですよ」

「紫苑ぞ、妖精ぞ、何を恥ずかしがる。なんだ、何が嫌なんだ、見られるのが嫌か」


「なんか、性格変わってません?」

「いいや、話しを逸らすなよ?」

《くふふふふ》

『こんな未来も有ったのだろうな』


「で、なに」

「その、バレて無い状態のままですけど」


「良いんじゃない、出来たらこのまま下に行きたいから広めて欲しいし」

「もう奥の手を出しますか」


「唐突感を無くすには良いんじゃない」

「まぁ」

《よし、では更に広めてくるかのぅ》

『だな』


「ショナさんや、ドリアードとクエビコさんと喧嘩しましたか」

「いや、寧ろ、避けられてます」


「ほう、良く考えて欲しいんでしょう。最悪、魔王化した場合の事を」

「考えたく無い、は甘えですよね」


「はい」

「はい、すみません」


「人間らしくて結構、宜しい。髪の色どうしようか?チャラいでしょコレ」

「そうですかね?難民の方々を見慣れたせいか、特には」


「写真撮り直しか、真っ黒にいつか戻すか」

「真っ黒は逆に、もう違和感が。日焼けしてますし、本当に、結構黒いですよね」


「3の海で、何か、固定化されたんよね」

「桜木さんの理想ですかね?」


「いやぁ、チャラ過ぎない?」

「後姿は完全に外国の方ですし…そも、服のせいでは?」


「他は着ないぞ、もうコレ以外は着ない」

「そこは何も言いませんよ、似合ってますし」


「でしょう、肌もそのウチ落ち着けるかな。理想は、黒髪色白だわ」

「何か、本当に性別が違っていたら、どうなっていたんでしょうね」


「蜜仍君とミーシャ溺愛」

「そこは変わらないんですね」


「魔法が使えなかったかも。健康男子なら結構ボーッと生きてた可能性が有るから、魔剣は出なさそう」

「病弱男子だと」


「もっと卑屈になってるかも」

「素直な方だと思いますけどね」


「意外とね。でもなぁ、1周回って変わらんかもなぁ、女は楽だろうって論調の家だったから、女に成りたいと思ったかも知れんし」

「そして痛みに打ち震えると」


「馬鹿だぁ、有り得る」

「ふふ、有り得るんですね、じゃあそう変わらないかも知れませんね」


《広めてまいったぞー》

『ハナは里に行き、妖精紫苑が代理を務めるとな。意外と納得しておって、少し期待外れだ』

「ありがとう。ショナはもう少し考えるみたいだから、優しくしてあげておくれね」


《しょうがないのぅ》

『ハナの頼みだ、仕方無い、聞き入れよう』

「ありがとうございます」

「では、行って参るぞぃ」




 階段を降りた先ではすっかり歓迎ムード。

 パワーバランス、影響力、と言葉巧みにスーちゃんが難民と補佐に言い聞かせていた。


「“じゃあ、そう言う事だから、紫苑さんと一緒に聞いて下さいね”」


 先ずは通貨の説明、そして外界の話へと。

 そしてトルコ、英雄を育てた青い灰色狼の神様と、その子孫達の居る国だと。


 そして今度は狼の説明にはアンちゃん。


 何か、聞いた事が有る様な。


(ドリアード、アマンテイアさんはコチラに?)

《おう、共感した事に共感しておったわ。ただ、トルコのとは別モノらしい》


(あぁ、ソッチには行かないか)

《どうじゃろかね》


 なら、何処か少し似通った、親しみの有る方が良いんだろうか。


 そして向こうも行こうかどうしようかと、先ずは女達が相談を始めた。


「“行った事が有りますけど、良い場所ですよ。少し行けば砂漠も川も、湖も海も有りますし、食べ物も豊富ですから”」


 何を出すべきか悩んだ結界、ドライフルーツに至った。

 アンちゃんも喜んだイチジク。


『“大地へ還元され乾燥していますね、萎れているのが何よりの証拠、コレなら食べられますね”』


 ナイス、アンちゃんナイス、食材が少なかった事が更に追い風になった。

 魚も馬も同様に血抜きすれば食べても良いだろうとか、なんなら昔は食べてただとか、果てはもっと果物が有ったと。


 そうして話に出た最古の果物こそイチジク、コレはもう運命かも知れないと浮き立つ皆を鎮め、話に一定の方向性が生まれた。

 本格的に移住するという方向性。


 一方男性は、やはり女性の意見に発言する事も無く大人しい。

 余りに静か過ぎて、全く興味が無いんじゃないかと心配になるレベル。


「“興味は無いですか?”」

『“女性の決める事に反論してはいけないと、育てられたので”』


「もうその律法は停止しました、新世界では意見を歓迎していますよ」


『ココでは何もしなくとも衣食住が有ります、でも外では、私達は何をすれば良いんでしょうか』

「“そうですね、不安ですね。じゃあ少し休憩にして、アポロ君達に聞いてみますね”アポロ君、休憩をお願いします」


「はい“少し休憩しましょう、まだまだ話は沢山有りますから”」

『“お茶にして、今はイチジクを楽しみましょう”』


 集合、作戦会議。


「アカン、外で何すりゃ良いか、何させられるか不安だと。しかもまだ意見言うのも怖がってるし」

「あー、コッチも何だかんだ女尊男卑感有るし。うん、アンちゃんお願い」

『は、え、無理ですよそんな』


「大丈夫、フォローするから。ね?」

「おう、そうじゃないと話が進まない、そうしたら鬱憤溜まって問題が起きるかも?」


『ぅう、やらせて、頂きます』


 次は、アンちゃん主導で移民の話が再開された。


 やはり女性主導が良いらしく、先程よりスムーズ、それに平行してスーちゃんと共に男性陣へ考えのサポート。

 再びアンちゃんへのフォローを繰り返し、合意に至れた。


 トルコが受け入れてくれるなら、見学に行ってみると。

 全員が全員完全に納得したワケでは無いが、男女共に半数以上の合意は得られた。




 問題は、トルコが受け入れてくれるか。


「“うん、じゃあコレで大丈夫かな”」

「せやね“ではハナさんに聞きに行かせますね。お疲れ様でした、一旦解散しましょう”」

『“はい、では解散で”』


「あー、海に入りたかったなぁ」

「最悪はハワイまで我慢、我慢貯金」


「もうすっごい貯まりそう、つかもう貯まってるわ」


『あ、あの方は』

「中つ国の武光様やね、どうしたんじゃろ」


「おう、紫苑だったか?」

「うい、紫苑でおま」


「あぁ、うん、この返事はそうだな」

「ハグかよぉ」


「それと、団扇の刺繍セットだ、遅くなった」

「ありがとう、最悪は中つ国は受け入れてくれそう?」


「問題無い、元は多民族国家なんだ、1つ増えたと言ってもそう変わらんが。今の候補はトルコなんだろう?」

「コレから聞きに行く、最悪を想定しないと」


「そうだな、もしダメなら言ってくれ、公文書で宣言させる」

「ありがとう」

「ありがとうございます、助かります」


「よしよし、君も頑張ってるそうで何よりだ」

「すっごい大変、マジ大変ですぅ」

「毛色の違う兄弟やな。本も渡しとくわ、セットも。じゃあね、黒曜(シャオヘイ)も」


 メ~と言う返事を受け、浮島へ。




 変身と着替えを済ませ、ちょっとマジ休憩。


 一服。


「桜木さん、向こうに連絡しておきましたから。何時でも向えますよ」

「3でな、拒否られたねん、ちょっぴりショックだったわ」


「読みました、桜木さんから溢れ出る魔素の影響を恐れた可能性が有るそうですね」

「まぁ、だから納得したし、ちょっぴりなんだけどね、はぁ」


「大丈夫です、中つ国にもイチジクも海も有りますし」

「お?翻訳機出来た?」


「まだ試運転で、単語を拾える程度なんですが」

「充分充分。よし、行きますかね」


 先ずは大使館へ。


「お久しぶりです」

「お久しぶりです、おっぱいデカくなりました?」


「あ、太ったのバレちゃいましたか」

「いや、ウエストは前と同じかと。もしかして、まだおっぱいが成長期を」

「桜木さん」


「あぁ、すまん。太ってない、確実におっぱいデカくなってる」

「そうですか?今度測り直しに行ってみます」


「是非。それで、言い難いんですが」

「移民の事ですね、国としては多民族国家でも有りますし、問題は無いのですが。最終決定には同意が必要でして、先ずはココの神様や精霊達にお伺いを立てて頂きたいのですが」


「はい、します、宜しくお願いします」




 案内されたのは、バシリカ・シスタンと呼ばれる水中地下神殿。


「階段を降りた先に禊ぎ場が有ります、そこに行けばもう分かるそうです」

「心配だ」


「大丈夫ですよきっと、少なくともお心が広い方達だと私は信じてますから。そうだ、終わったらご飯か何か行きましょう?それ位は絶対に許して下さいますから、ね?」

「そうですね。向こうは、ほら、もうお昼ですし」

「ぉぅ」


 階段を降りると、正装らしき姿のお婆さんが居た。

 指示に従い、先ずは正面で服を脱ぎ、禊ぎを済ます。


 更に階段を降り。


 それから。

 神聖な場所なのに、全裸で入るとは。


 《大丈夫大丈夫、ちょっとキツいのは最初だけだよ》


 覚悟を決めて、水の満たされた階段を更に降りる。


 1段1段、凄く、冷たい。


 ギュッと目を瞑り、次に目を開けた時には水中だった。


 温かいというか、ぬるい。


 そして目の前には、沢山の神様達。

 ただ、像がブレて良く見えない。

 認識が出来ない。


《私はイシャラ》

『アラニ』

「桜木花子です」


《ごめんなさいね、他の神々もお話しをしたがっているのだけれど》

『併合し過ぎて縁が強く無いと像を保てないの、無理しないで、目が良くないのだから』

「すみません、お気遣いありがとうございます」


『良いの良いの、それで、移民の話ね』

《アナタにも気に入って頂けたんですもの、歓迎致します》


『でも先ずは見学よね』

《そうね、相性は大事だから》

「大変ありがたいのですが、アッサリでらっしゃるのは一体」


『一旦受け入れるのが、この国だから』

《併合や継続を上手く出来なかった神々も居るけれど、でも居るの。それが私達、この国なのよ》


『そうそう、受け入れてみて流れに身を任せる。正直ちょっと、ソッチみたいに成りたかったんだけど』

《やっぱり地理的要因かしらね、羨ましいけれど、でもコレはコレで、許せちゃうのよね》


『なんだかんだ良い距離だと思ってる』

《そうね、コレからも、また遊びに来て頂戴ね》


『あ、住みたいって言ってたんだよ』

《あぁ、是非、ふふふ、ごめんなさいね、うっかりで》


『まぁ、伝わってるし……』

《そうね……》






 水中で目覚めた。

 溺れる。


《終わったみたいだねぇ》

「おふぶ、深ぃ」


《そこに手すりが有るよ》


「あぁ、ビビったぁ」


《まだ泳げないのかい》

「フィン無いと、しかも急だったし」


《ふふ、精々練習しないとねぇ、また来たら、また溺れかけちまうよ、ふふふ》

「頑張るけどぉ、寒いぃ」


《はいはい、乾かしてやるから》

「ありがとう」


《服を着なね、上に上がるよ》

「うい」


 服を着て魔道具も付け、階段を登る。

 お婆さん、大変でしょうに。


《あぁ楽だ、このまま寄り掛かろうかね》

「それは無理、無理しないでね」


《はいはい、もうちょっとだよ》

「はいはい、頑張りましょう」


《もう少し》

「おう」


《ほら着いた、開けとくれ》

「あいよ」


 お婆さんの代わりに扉を開き、振り向くと既にお婆さんの姿は無かった。


 狼に化かされた?


「あら、忘れ物ですか?」

「いや?禊もしたし、階段も普通に登り降りを」

「桜木さん、今さっき入ったばっかりですよ」


「ぅえ?」

「時間、見て下さい」


 扉を閉めた瞬間から、今まで数分しか経ってない。

 ちょっと、凄いけど、どうしよう。


 どう証明すれば?


「いや、水がくっそ冷たかったんだけど」

「あ!鐘が、御神託ですよハナさん、神様からのお返事です!行きましょう!」


 3人でアヤソフィアに向かうと、聖堂から神託の内容が聞こえて来た。


 移民を受け入れる可能性が有る事、住む事を許可する事、そして日本の召喚者の魔王候補を取り下げる様に進言しろと。


 最後の、圧が強いが。


「桜木さん」

「おめでとうございます!ハンを探して有るんですよ!お祝いしましょう!ケバブにします?サバサンド?ムール貝も」

「お店、開いてる?」


「あ、はい!」




 案内されたのは街のデリカテッセンと呼ばれる場所、全てオーダー制で注文すると目の前でお皿に盛ってくれるシステム。


 種類が凄い。

 全部イケるかしら。


 苦いか臭いか聞きながら、先ずは前菜を3人前、スープは後でチャイと一緒に持って来てくれるらしい。

 マキさんがハムやチーズを担当し、ショナは少し手前のパイやオムレツを。


 スープとチャイが到着、全員一緒に頂きます。


 あぁ、ありがとう神様、マジ住むわ。


「そんな祈る位に美味しいですか?」

「感謝してた、マジ住む」

「ふふ、ハンのご案内が楽しみです」


 一通り食べ終わると2人は満腹、もう1周するか悩んだので計測。

 中域。


「ちょっと行ってくる」


「桜木さん、手伝いますよ」

「大丈夫」


「届きます?ほら」

「ぐ、お願いします」


 紫苑なら届くのに。

 受け取り口は、高さ奥行きも有って手が届き難いんだ、仕方無い。


 今日ドハマリしたのは酸っぱいぶどうの葉のドルマと、マントゥ、ミニミニ水餃子のヨーグルトソース掛け。

 それと挽肉入りパイのビョメル、この3種をずっと無限ループ出来るが、高値が怖いので終了。


 そしてハンへ。




 少し街外れのハン。

 ナイスハン。


「素敵な中庭ですね」

「噴水と木ですよ、どうです?」

「素敵だけど」


「ダメですか?」

「さっき言われてた通り、アレの候補なんで」


「私は、私はココの国にも所属しているからこそ、だから何だと思っているんです。もしご結婚の事を気にされていても、ココの人間で気にする者は居ない筈。ただ先程の事は、日本との繋がりが有っての宣言だと思うんです、人間の体裁を気にして下さる、良い神様達だとお聞きしているので」


「もう少し、落ち着いたらで、待って貰って良いですかね。良ければ、手付金とか払うので」

「はい。手付金は大丈夫なのでご心配無く、こう言う情勢ですし」

「良かったですね。少しだけでも、中を見てみましょうよ」


 2階の角部屋。

 西向き、玄関方向からの採光も有り、そこまで暗くは無い。


 バストイレ別、部屋数も多く台所も大きい。

 部屋、大き過ぎる気が。


「凄く良いんですが、大きい」

「ハンの基本的なサイズですよ?」


「隣は?」

「桜木さん、安全面的に角でお願いします」


「広過ぎでない?」

「前の基準ならそうかも知れませんが、ココの経済も安定してますし。クーロン達が暫くは一緒に住むかも知れませんし」


「にしても」


「掃除、面倒とか思ってますか?」

「少し」

「ふふ、コチラでは主に掃き掃除だけですよ、週1でササッとする家庭が殆どですし」


「土足文化では?」

「田舎や昔の方はそうですが、もう少ない方ですよ」

「気になるのは広さだけですか?」


「家賃」


「ココは購入可能ですし、収入の予想金額内で収まりますよ」

「予想金額」

「知らない方が良いと思いますよ、気が緩むかと」


「んー」

「他にも有りますし、見てみましょう」

「ですね」




 次は小さな井戸だけのハン。

 かなり古いがサイズはほぼ変わらず。


 そして次はかなり古く、中庭には何も無い結構ボロボロなハン。

 手入れが必要だが、かなり安いとの事。


 完全に、向こうの不動産屋と同じやり口。


「何かの作為性が見える、最初のが良い様に見える」

「綺麗なハン自体少ないそうですよ」

「すみません、実はこう、古いのが殆どで」


「あぁ、良いのになぁ、勿体無い」

「長年住むので有れば、改修しても費用はかなり抑えられるんじゃないんですかね?」

「その手間を省くなら、最初のって感じなんです。ただ、もう1件、まだ事前にお伝え出来なかった場所が有りまして」


「そうなんですね、見るだけ見てみましょうよ桜木さん」




 中庭は土、木の植わったハン。

 良いサイズ感。


「あぁ、こう言うので良いんだよ」

「もう少し欲張って頂いても大丈夫なんですからね?」


「試算では、だろうに」

「それはもう確実に大丈夫です」

「さ、どうぞ」


 あぁ、ダメだ、住む情景が秒で思い浮かんだ。

 ココに絨毯と低いソファーだろう、西日がこう入って、ココで本を読む。


 玄関から丸見えだから、棚を。


 おや、マキさんがキラキラした目でショナを見てる。

 おや、おやおや。


「マキさん、ココに、目隠しに背板の無い棚を置こうかと」

「良いですね!建具屋さんも有るので、備え付けにしてしまっても構わないそうですし」


「普通なん?」

「はい、普通は家具付きですし、相談してみて大家さんが気に入ったら、費用を負担してくれるんですよ」


「へー、ハマム行こう」

「はい!」

「僕は遠慮しておきます、まだ読めてない資料が有るので」


「そんな読みたいか」

「もう既に何割か読んでて、続きが気になるので」


「どれ」

「言いません」


「女性不振にならんでよ」

「大丈夫ですよ、ホラー好きなので」




 そして早朝から開いているハマムへ。


 人は疎ら、単に早朝だかららしい。


「夜勤明けの方が良く来るらしいんですよ、病院とか、警備とか」

「あー、市場も有るから、やっぱここらよなぁ」


「地方の方がよりハンも少ないですし、不便ですよぉ」

「そうだよなぁ、普通なら移動の手間も有るし、やっぱ都心よなぁ」


「それか、別荘としてどうです?ココの人間はそうやって夏と冬に住み替える方々も居ますし」


「机上の空論としてはアリ。マキさん、さっきなんでお目目キラキラしてたん?」


「ひぇ、いや、そんな、なってました?」

「うん、ショナ見てキラキラしてたから、驚いた」


「違います違います、そう言うのじゃ無いんです本当」

「こう、マメに連絡を取るウチに」


「無いですってば、私の好みはもっと男性ホルモンが多い方です」


 嘘じゃ無いし、見間違いか。


「じゃあ見間違いか」

「そうです、本当に違います」


 もっと攻めた質問でも良いんだが、立ち入るのもアレだし。

 まぁ、干渉しない程度で、ショナと繋がれる様にしとこうかな。


「改装工事して入るのも魅力的よなぁ、難民の事も有るし」

「そうですねぇ、それならより探しやすいかも知れません。丸ごとってのもソコソコ有りますから、下は商業用、上は住居として改装すれば、移動しなくても良いですし、警備も楽かと」


「後はどの位の人間が気に入るか、その仕事をしようと思ってくれるか。だよなぁ」

「職業って意外と沢山有りますからね」


《“垢すりの方ー!”》

「「“はーい!”」」


 久し振りに、ゴシゴシ、アワアワ、つるつるに。


「如何でしたか」

「たまんねぇです」

「ジュース買って来ますねー」


「ホラーはどうでした」

「コレは、夜トイレに行けなくなりますね」


「女子高生の幽霊か」

「いえ、日記です。コチラに、有名なストーカー殺人事件が有りまして」


「くわしく」

「ベッドの下に、こう、待ち伏せて殺したそうです」


「あぁ、こっわ、ベッドこっわ」

「しかも、浮気したから制裁したんだそうです。ですが、被害者の方と何も繋がりが無いと証明されて」


「鍵は、どうしたんやろ」

「ストーキング中に被害者が鍵を落とした直後に拾い、後を付け家を特定し、合鍵を作り、交番に届けた。書類を偽造しての合鍵作りだったので、以降は家の契約者しか、合鍵が作れなくなりましたけど」

「お待たせしましたー、ショナさんもどうぞ」


「ありがとうございます」


 おや、普通。

 本当に、ただの見間違いだたんだろうか。


「今、ストーカー殺人の話を聞いてた」

「有名な事件ですね、ベッド下に居たって。しかも毎日、入り浸ってたとか」

「そうなんですよね、実際には全く接触して無いらしいと」


「死んだら証言出来、いや、出来るか、イタコさん」

「それなんですけど、証言が本当か鑑定する術が無いので、弱いんですよね」


「あぁ、でも扱われはするのね」

「的確な質問をすれば、証拠も出ますから」

「目が合っただけでなんて、凄いですよね」


「それと、雰囲気みたいです。ね、桜木さん」

「コインランドリーもか」


「はい、一瞬コチラを見ただけで向かって来たと、ソラさんの証言です」


【はい、その通りです】


「微笑んでも無いぞ、何ならヤベェとすら思ってたし」

「気を付けて下さいね、ココではそう言う方に出会ったら即通報ですから」

「病識が無いそうですからね、お互いの為ですよ」


「遭遇する前提」

「はい、だから警備の為にも、辞めないで頂きたいんですけどね」

「え、役職と言ったら良いんでしょうか、降りられてしまうんですか?」


「謁見とかしたく無いし、責任とか嫌だし、追々、問題が安定したら」

「コチラでしたらお作法を私もお教えしますし、数も減らさせますし。そんな大きな事を沢山、って事は無いですよ?」


「実際の中身次第、対価と労働内容次第、貰い過ぎは胃にくるし、でも働きたく無いでござる」

「趣味を沢山増やして頂かないといけませんからね」

「刺繡、どうなりました?」


「はい」

「可愛い!素敵ですね!」

「売り物みたいですね」


「ゆっくり丁寧にやってるから、売り物はもう、高速で縫わないと商売にならんよ」

「やっぱり、練習しようかなぁ」

「この前、何種類かセットを買ったんですよね」


「おう、こんなん」

「わぁ、お金出しますんで譲って頂けませんか」


「お、おう」




 そして、ハマムを出て日当たりの良いバザールのハンへ。


『“おう!久し振りだなお嬢ちゃん”』

「“お久しぶりです、刺繡しに来ました”」


『お、ココとは違うが綺麗だな、姉ちゃんもか。出来るのかこんな難しそうなの』

「教えて貰うんで大丈夫ですし、ね?」

「おう」


 珈琲を頂きながら、日光浴もしながら刺繡。

 今頃、向こうも刺繡しているんだろうか。


 ふと顔を上げると、またマキさんがキラキラしている。

 そして今度はバッチリ目が合った。


 もしかして、好みと違う事を受け入れられないとか?


「あ、えっと」

「分からないとこあった?」


「いえ、大丈夫です」


 今度は赤くなったのがハッキリ分かったが。

 どうしようか、どう応援すべきか。




 糸替えも順調に覚え、珈琲も無くなったのでココで終了。


 マキさんと共に大使館に行き、浮島に戻った。


「ショナ、マキさんどう思う?」

「どうと言いますと」


「良い人だから、関わるのどうしようかなって」

「それは、普通に悲しむと思うので、距離を取るのは良くないかと」


「ですよね」


 せいちゃんが強烈過ぎて忘れてたが、ショナもワンチャン、ウブかも知れないんだった。


 コレはちょっと、全く干渉しないのはダメだろう。


「ハナー、見て見て、刺繡」

「おう、良いねぇ。許可貰えたよ、おいでって」


「はー!いつ、日帰り?よね、服とかどうしよう、寒いんだっけ」

「どうどう、焦らんで、それこそ相談しては?」

「そうですね、自分達で決めたとなれば不満も少なくなりますし。服をどうするか、日帰りにするか」


「うん、そうする」

「あ、賛成反対で左右に分かれる方法が楽ですよ、男女で背中合わせなら少しは気が楽でしょうし」


「ありがとう、そうしてくるー」


「どう、労おうかしらね」

「鈴木さんも似た感想を洩らしてましたよ、桜木さんに、どうお礼をしたら良いんだろうって」


「それは、馴染んでからよねぇ」

「じゃあ、桜木さんもですね」


「上手い、そうですね」

「はい」


 ウブウブ同士、良いのかも知れんなぁ。

 今日もショナの相談かな。


 つか、今でも良いのか。


「ショナ、ちょっと先生と面談するわ」

「はい、何か有りましたか?」


「家の事とかね、色々」




 部屋に行き、タブレットを開ける。

 先生にメールすると、直ぐに連絡が来た。


【どうしました?】

「トルコ大使館員のマキちゃんが、ショナを好きかも知れんのだが。ショナもウブっぽいし、どうしようかと」


【人の恋愛に首を突っ込むと、馬に蹴られて犬に食べられますよ】

「えー、ちょっと圧せば良くなりそうなのに無視出来ない、無理」


【そもそも何故、好きかも知れないと思われたんでしょうか?】

「キラキラした目で見てた、それに気付いたと分かったら、赤くなってた。ただ」


【ただ】

「好みじゃ無いとは否定された。でも、好みと違うからこそ認められないだけなのかなって」


【なるほど】

「ドリアードとかに確認しても良いが、余計な事を勝手にされても向こうが困るだろうし、かと言ってお節介もなぁと」


【ショナ君はどうなんですか?】

「従者の仕事中だし、ウブなら無視しそうかなと。仕事人間だし」


【どうして、くっ付けたいんでしょう】

「少し強引にでもくっ付けないと、一生独身で仕事だけで死んでいきそう。出来たらショナの子供が見てみたいし、マキさんのも。ミーシャも賢人君も、クーロンもカールラも、皆のが見たい」


【アナタより可愛い方ですか】

「おう、胸も有るしな」


【なるほど。今は時期が時期ですし、情勢が安定してから進めるべきかと。この状態でくっ付けても、長続きしないのは分かりますよね】

「あぁ、うん、分かった」


【それで、家は確認出来たんですか?】

「改装して住むのに惹かれる、広い家も良いけど、寒いと狭い方が暖房効率良いし、掃除がね」


【カスタム好きなら、改装して売りに出す手段も有りますよ。より良くして、地域に還元】

「それ!それ良いなぁ、したいなぁ」


【なら、そう言う方向性で話を進めてはどうでしょう。それと、そう言った方々の意見もネットで調べてみたりと】

「天才、してみる」


【はい、では】


 お天気雨が続いているので、下に降りネット検索。

 禁断のネットサーフィン。




「桜木さん、そろそろ休憩して下さい」

「えー」


「目、疲れて悪くなるかもですよ」

「へい」


「何か飲みますか?」


「新商品のジュースとか興味有るんですが」

「じゃあ、買い出しに行きますか?」


「行く」


 日本へ転移。


 スーパー、初めてかも知れんな。

 デカい、ヤバい。


 カートいっぱいお買い物。


 ヤバい、お金使いまくりやん。


「経費ですよ、経費」

「読むな」


「勘です」


 嘘、表情読まれたか。

 悔しい。


「くそぅ」

「もう1軒、オススメが有るんですけど」




 スーパーと言うか、コス〇コ。

 カート2倍サイズ、しかも品物は各国の。


 なに、もう、旅行不要じゃん。


「イクラァ、あ、ロシアなんだ」

「不思議ですよね、国もそう変わりませんから。そう言えば、イクラの為に行ってましたね、漁師に会いに」


「なんか、恥ずかしいな、行動歴全部バレんの」

「今でも、結構抜けが有る気がするんですよね」


「引っ掛からんぞ、ソラちゃんもダメだからな」

「やっぱり、まだ何か有るんですね」


「そうとは言ってないだろう」

「言いきれます?」


「どうでしょうねぇ、あ、クマ、でけぇ」


「いつも、ソラさんが入り込んでコレが動いたら、どう見えるんだろと思ってたんですよね」


「あぁ、怖いだろうこのサイズは」

「あ、動いた」


「これ、展示品で遊ばない」

《失礼しました》

「うん、怖いですね」


 0世界とは店のコンセプトがそもそも違い、大入り商品はほぼ無い。

 各国の人気のお土産や名産品、そして現地で良く食べられる食材や調味料が売られている。

 主なターゲット層は、仕事や何かで国に小まめに戻れない人、現地の味が恋しい人の為の商品が殆どなんだとか。


 しかも地域によって品揃えが違うらしく、中つ国の人間が多い場所には、中つ国の商品が多め。

 英国人が多ければ欧州の製品が多めにと、そして特に分布や要望が無い場所は、従業員や店長、そして顧客のリクエストで仕入れが決まるんだと。


 周りたいな、各店舗。


「キャンプ用品とか無いのね」

「別棟に有りますけど、ココから1度出ないとなんですよ。異業種品を取り入れるのは禁止されてるそうで、ココはあくまでも食品販売小売り店だからだそうです。住み分けしないと一部が独占状態になり、全体の価格競争も落ちるからだそうで。ただ、デパート等の総合店舗は別で、業種によって税率も違うんだとか」


「もしかして、それ基本知識?勉強した?」

「社会勉強に、休みの日に勉強させて頂きました。実費で」


「すまん」

「経費だったとしても謝りますよね?」


「だね、税金にすまんと謝るわ」

「社会勉強ですから、僕にとっても無駄にはなりませんし、気にしないで頂きたいんですけど」


「気にするわ、勉強好きかよ」

「好きかも知れませんね、面白かったですし」


「本?借りて良い?」

「はい、後でお出ししますね」


「あ、イカ墨良いな」


 そうして選んだ商品は、簡単な料理キットやお惣菜。

 ピザ、サーモンスープ、フェジョアーダ、生春巻き、タコス、プロフ。

 試食で感動したクロワッサン、フランスパン、ティラミス等々。


 そして1番面白かったのが、ルーローハン。

 糸巻された豚肉と、香辛料や調味料、ジャスミンライスのセット。

 調味料セットの上に肉がドンっと乗ってて、つい買ってしまった。


「ちょっと休憩しましょうか」

「うぇーい」


 少し移動し、デパート屋上へ。




 久しぶり、懐かしぶり。


「まだ夕飯には早いですけど、何か食べます?」

「ちょっとだけ」


 魚介と山菜以外は物流に問題が無いらしく、デコポンゼリーやキノコのグラタンが有った。

 田畑で収穫するのと取りに行くのじゃ違いも有るだろうし、仕方無いよな。


 マンゴーパフェを頂きながら、花や苗木をタブレットでチェック。


 上手い、マンゴーの木も欲しいな。


 つか、農家に仕入れに行けば良いのか。


「ん?何か思い付きました?それとも顔に何かついてます?」

「苗木、仕入れ、農家」


「直ぐ調べますので、行ってみましょう」




 地方の農村部に有る苗木屋さんへ。

 まだ開店時間内なのに、もう店が閉まっている。


 臨時休業の張り紙だけ、時期も何も無し。


 そして今さっき閉めたのか、店の脇から制服を着た男性が出て来た。


「すみません、この臨時休業って、事故か何かですか?」

「あぁ、いや、違うんですよ、すみません」

「顔色が悪いですし、もしかしてご病気ですか?」


「いえ、あの、夫がお金持って何処かに消えちゃって、探しに行こうかと思ってて」

「あぁ、当座のお金は大丈夫なんですか?今、大量に仕入れようと思って来てて」


「え、あ、でも、このまま潰れちゃったら返品交換も、フォローも難しいんで。他のお店を紹介しますよ」

「いや、ココのが良いって言われてて、信頼できる良い所だと」

「捜索願いでしたら、最寄りの警察署の方に来て頂いた方が良いですよ。万が一も有りますし」


「万が一?」

「脅迫されてお金を持ち出す場合も有りますし、事件性が絶対に無いと言い切れない以上は、ご相談すべきかと」

「だね、脅迫されて自ら偽装工作も有るかもですし」


「お詳しい方ですか?」

「コッチの、お兄さんが司法関係者だそうです」

「はい、万が一ただの持ち出しだとしても、ご助力出来ますよ」


「はぁ」

「おぉ、持病がお有りですか」

「糖尿病ですかね」


「すみません、何も無いんですけど、ちょっと、混乱してて」

「何処か座れる所に行きましょうよ」


「あぁ、店の裏でも良いですかね、見られたくなくて」

「良いんであれば、お邪魔します」


 試しにタバコを勧めてみると吸い始めた。


 そして、くそデカ溜息。

 ですよね。


「すみません、ありがとうございます」

「お茶も要ります?」


「あぁ、ストレージをお持ちなんですね」

「はい、なのでマジで仕入れに来ました」


「すみません、こんなタイミングで」

「いやいや、コレも何かの運命だと思って、詳しく教えて貰えません?」


「さっき、気付いたんですよ」


 スマホに、銀行から多額の引き出しが有ったとメールが入ったと。

 念の為にと設定しておいただけで、設定した事すら忘れていたらしい。


 夫との共同口座、何か有った時にと金庫に入れていた委任状を使い、半額が下ろされていた。

 支払い直前の引き出し、その半額が支払い分なのでカツカツ。

 そして自分個人の預金は、何と全額イカれたと。


「失礼ですが、日付けも記入していたんですか?」

「いえ、空欄にしてましたし、もっと正式な委任状は弁護士に。予備を、やられてしまったんです」


「でしたら、公文書偽造で犯罪なんですが。強盗の線は?」

「無いです、本人が金庫を開けている映像を、さっき、確認したので」

「通報するか迷うね、夫さんから連絡は?」


「これです、多分、本人です」


【人生を見つめ直したくなったので、旅に出ます。暫くしたら帰るので、探さないで下さい】


「うぇあ、ココもか」

「ココも?何か事件なんですか?」


「いや、知り合いの漁師が似た感じで、奥さんに出ていかれたんです」

「あぁ、自分の所が、まさかって感じですよね」


「ですね、会いに行ったら抜け殻になりかけてましたから」

「何か、もう、すみません。本当に、どうでも良くなっちゃって」


「ダメですよ、怒りに変えないと、少しは怒らないと、アホかと、バカかと」


「ビックリしてるんです、真面目で、優しくて良い人で。だから、あの黒い地球が怖くなって、何処かに逃げ出したかっただけで、また戻って来てくれるなら、良いかなって」

「アナタのお金なんですよね?お店だって、半分アナタのでしょうし」


「家の権利書は無事ですし、少し借金すれば何とかなるんで。警察に相談は止めときます、メールの既読も付きますし」


「そうですか。引き留めてすみません、せめて買い物させて貰えませんか?」

「あ、はい、ありがとうございます。どうぞ」


 欲しかった物を片っ端から、現金で購入。

 雀の涙かも知れんが、無いより良いだろう。


「すみませんね、こんな時に」

「いえいえ、買って頂けて助かります」

「もし少しでも違和感が有れば、遠慮無く警察へご相談下さいね。弁護士も、名刺お渡ししておきます」


「ありがとうございます、お話も聞いて頂けて。本当に」

「いえ、ショナ運転出来ない?」

「ですね、家は近いですか?それで運転は危ないですよ」


「大丈夫です、事故もした事無いですし」

「ショナ」

「強盗として通報するか、我々に送迎サービスに電話させるか選んで下さい。こういった場合、貰い事故にも遭遇し易いんですよ」


「すみません、何から何まで」

「強引ですんません、あ、送迎の合間に誰かにご連絡すべきかと。相談無しで、ちょっとお喋りしようって」

「そうですね、今直ぐにご相談は難しいでしょうから、夕飯を一緒に過ごすだけでも良いそうですよ」


「有り難うございます、はい、連絡してみますね」


 遠巻きに送迎サービスが来るまで付き添い、乗車するのを見送ってから浮島へ。




「クエビコさん」

『気の毒だったな』


「うん。ククノチさんやカヤノヒメさんにご挨拶したいんだが」

『あぁ、なら先ずはワシの所に来ると良い』


「了解、ショナは待機」

「はい」


 浮島から浮島へ。

 久しぶりのクエビコさんの聖域へ。


『呼んでおいたぞ』

《カヤノヒメ》

『ククノチ、宜しく』


「すみません、お呼び出し申し上げて。桜木花子と申します、そして男の姿では紫苑と名乗っています」

《固くならんで良い、先ずは何を企んでおるか聞かせておくれ》


「探し出し、連れ戻します」

《うん、良い案よのう》

『飛行機に乗った迄は追えたが、到着地はハワイ。日本領では有るが、確認が必要だぞ』

『俺らも手出しは出来ないが』


「飛行中は、何処の国の権利とか有るかね」

『所属によるが、我が国のだ。飛び乗る気か?』


「もち」


 ククノチさん、カヤノヒメさんには苗木屋で落ち合う事にし、先ずは飛行機へ。


 取り敢えずは隠匿の魔法を使い、浮島の端で空間を開き待機する。


《3、2、1》


 落下と同時に鞭を振り、飛行機の胴体に巻き付ける。

 そして飛行機へ着陸、そのまま機内へ空間移動。


 ガラガラのファーストクラス。


 クエビコさんにより座席は既に把握済。


 男と逃げるとは、実に許せんな。

 そのまま2人を苗木屋へ移動させ、自分も付いて行く。


《ほう、コレが犯罪者の顔と言うモノか、実に面白い顔をしおる》

『ククノチ、カヤノヒメ。名前だけなら知っているだろう』

「神罰と言う言葉もご存知でしょうか」


 声にならない悲鳴を上げ、若いのが逃げ出そうとするので蛇紐で捕縛。

 そして腰を抜かしたままの人間が、ココの共同経営者らしい。


《犯罪者の言い訳と言うモノを、聞いてみたいのう》

『あぁ、詳しく聞かせて貰おうか、言い訳を』


 唆されただ付け込まれただ、知らなかった遊びだと。

 懇願から秒で罵り合いに発展し、怒号へ。


 優しくて真面目がこうなるのは、シュブさんのせい?


《なんぞつまらんな、縛り付けて帰るかの》

『そうだな』


 そう言って2神が消えると、今度は絶句。


 そして震え出し、また懇願を始めた。


 もう居ないのに。


 そしてクエビコさんの聖域に戻ると、酒宴が始まっていた。

 機嫌は悪くなさそうで一安心。


「ありがとうございました」

《うむ、良い興で有った》

『少し物足り無いが、まぁ良い』

『また罵り始めたぞ、なんと気の合う。実は本当に、運命の相手なのかも知れんな』


「運命の相手ねぇ」

『気が合うのは間違い無いだろう、罵りも懇願も息が合って居たからな』

《たかが普通の人間同士に、運命も何も無かろうよ》

『ココに自称普通の人間が居るんだ、そう夢を壊すな』


《そなたは運命を信じるべき人間》

『強い運の力が有る、普通とは異なるモノだ』

『まぁ、少しは慣れただろう』

「少し。もし宜しければ、異界のお酒をどうぞ」


《あぁ、コレが噂の》

『うむ、1つだけ頂こう』

『ショナに怪しまれ始めたぞ、もう帰った方が良いな』

「すみませんが、お先に失礼させて頂きます」


《うむ、またいつか》

『いつでもな』




 そうして浮島へ。


「あ、座席空いたままだ」

《宛名不明のメールが届きました》


 荷物が誤配送として送り返されるとの支持書のデータ、そして記載されたURLをクリックすると、座席表から2人の名前が消えていた。


 添乗員にしてみたら、ホラーだろうな。


「桜木さん」

「航空会社に新たなホラーが」


「殺しちゃったんですか?」

「樹木と植物に縛り上げられてるだけ、苗木屋で」


「もう見つけたんですね」

「まぁ、飛行機乗ってた」


「なら」

「鞭を巻き付けて入った、大丈夫かね安全性」


「周囲に何も無い場合は、結界が自動で切れるんです」

「内部もだよ」


「空間を限定してますので、座席には何も。本当にしたんですか?」

「おう、今放置してる」


「でもそうしたら添乗員が」

「データ上は乗って無い」


「流石にハッキングは」

「して無い、よね?」

《はい》


「コレは、ちょっと問題に。航空会社は」

「日本の」


「荷物は」

「誤配送」


「一体どうやって」

「分からん。頭の良い、気概の有る優しくて良い神様が手伝ってくれたんでしょう」


「そんな、某国の罠だったらどうするんですか」

「法に則って処罰される」

『だが難しいだろうな、何せ証拠に乏しいだろうに』


「クエビコ様まで」

『何だ?酒宴をしていただけだろう、ハナ』

「お酒あげた、ククノチさんとカヤノヒメさん」


『人間の証人は居らんが、ハナはワシらと居たぞ?なぁ?』

「居た」

「庇い立て出来ませんよ」


「問題無い」

「ならなんで僕に言っちゃうんですか」


「信じてるから、神様も。それに、起訴されたらちゃんと出廷する、大々的にな」

『見せしめか、なるほど』

「そうなったら余計に候補が、成りたいんですか?」


「こんなんが横行するならな、憤怒さんは難しい立場だろうから動けないんだろうけど。目に余るんだもの、ココってこんなクソ世界なの?」


「いえ、ですが」

「救って良かったと思えない世界で有って欲しくないのは、召喚者全員の思いだと思うんだけど。現役も歴代も。そう思いたく無いから行動してる面も有る、それを法が裁くなら裁かれる。ただ、最悪はエミールにも帰還して貰う、説得する、居る価値は無いと」


「それでも、私刑は」

「厄災中は全員平等に助けないといけないの?取捨選択は禁止?それとも今は厄災中?後?前だとしたら、厄災事態を減らす行為でも罰せられる?」

《余り苛めるで無いよ、所詮は普通の人間なんじゃし、まだ若いんじゃ》

『ただ、この屁理屈を人間がどう答えるのかは気になるだろう。特に、厄災後の事後処理と認めるかどうかだな』


「そこまでは詰めんよ、判断を下す立場に無いんだし。柏木さんに報告どうぞ、はい」

《酷じゃぁ》

『まぁ、人間の判断を楽しみに待つとしよう』


「はよ、行かんならワシが行くぞ」


「いえ、行きます」

「行ってらっしゃい」


《報告するならもう口をきかん》

『それでは報告の報告が聞けんぞ』


《聞いておいてくれれば良かろう》

『告げ口はせん方針でな』

「あーあ、このまま辞めてくんねぇかなぁ、ワシの従者」


《それも狙いじゃったか》

「少し」

『なら、行った段階でショナ坊の悪手だな』


「良いのよ、ショナが軸だから。魔王になるなら、軸は近くに居たらダメ」

《こんな魔王が居ては堪らんわ、もう少し小狡く冷酷で有らねばならんよ》

『そうだな、もっと欲張り我を通し、周りを振り回せ』


「それもなぁ、苦手」

《じゃろうなぁ》

『あぁ』


『お邪魔し、何か有った?』

「タイミング」

『あぁロキ神、今丁度、話がしたかったんだが』

《珍しいのぅ》


『良いよ、なになに』

『ハナが、もし万が一魔王となれば、どんな二つ名が付くと予想する。予測は苦手でな』


『んー、ニャルラトホテップかなぁ』

《顔の無い神、じゃったか》

『どうしてそう思う』


『俺と同じトリックスターであって欲しいし、二面性、多次元性とか有るし』

《なら我はマイノグーラじゃの、エキゾチックな容姿に、シュブ神とも関わったのじゃし》


『でもでも、展示会の電気装置とも言える映画館が有るし、紫苑の時は肌の色もまさしくだし』

《引き籠もりじゃし、人間好きじゃしぃ》


「コレは、まぁ良いか。そのニャルさんはココには居らんのかね」

《マイノグーラもニャルも未だ出現は未確認じゃ》

『資料にのみだ、居ないとは断言出来んが、居る証拠は無い』

『ほらー、難癖当て擦るのに最適じゃーん』


「ん?何をどうすんの?」

『どっちもだけど、混乱を招くって広めるかも』

《まぁ、この現状をそう評するなら、受けて立つのも有りじゃしな》

『だがそう煽る事でもあるまいよ』


「煽ってない?」

《ちょびぃっと、つい気持ちの先走りがウッカリ滲み出ている可能性は、否定せんぞぃ》

『ワシはただ、ハナの味方であるだけだ』

『俺もー!』


 過保護。

 取り敢えずは裁判所でキレるか、キレ無いかだな。




【桜木さん、迎えに来て頂いても宜しいでしょうか】

「あいよ」


「お手数お掛けしました」

「どう?刑務所?」


「はい、そうですね」

「嘘が効けばビビったわ」


「ですよね、すみません嘘言って。問題になれば対処するだけで、もし気に入らないなら桜木さんの従者は不適格だと言われました」

「お、マサコちゃんに宜し」

《まだ早いんじゃよぅ》


「もしかして、そのつもりでバラしました?」

『なになに、何か有ったの?ショナ君、どうしたのかな?』


「別に、何でも有りません」

「飛行機から人間浚って縛り上げて、放置してる最中」

『雪山に全裸で?』


「人里に衣類有りで」

『え?何が問題なの?』

「さ、夕飯にしましょうか桜木さん」


「いや、ちゃんと気に入らないなら言わないと」


「気に入らなく無いから問題でして」

《それでもじゃ、身を賭ける気が無いなら、本当に手を引いた方が良いかも知れん》

『そうだな、ハナはお前の将来も心配している、そこを良く汲み取り再考すべきだ』

『だね、最悪は捏造してでも魔王認定するかもだし、逃げ出すなら今のウチだよ』


「だそうだ。じゃあ、夕飯にします」




 さっき買った料理キットで夕飯の準備。


 サーモンスープは牛乳を足して煮込むだけ、タコスは生地を焼くだけ。

 そしてトルコで買ったドルマも出す。


 皆で頂く、旨い。

 また買う。


「桜木様、今日は買い出しを?」

「おう、イスタンブールに、家も見て来た、改築して住みたい。蜜仍君は?」


「刺繡してました!面白いですねぇ、種類が多くて、競争も出来ますし」

「競争」


「誰が1番早いか!速くて綺麗に縫える人が1番なんですよ」

「良い争いだなぁ。雰囲気はどうでしたか」


「何も無いより良いみたいです。それと、文字が読める人は、文字の方が納得が得やすかったですね」

「あー、口語苦手な人が居ても不思議じゃ無いしな」


「図解は良く伝わる感じですね、絵柄とか。花の種類をもう覚えた人も居るんですよ、日本語で!」

「候補地トルコやし、トルコ語の方が良さそうだが」

「もし観光客の相手もするなら、覚えていても問題無いかと」


「あー、確かに、異国で聞く母国語は何だかんだ嬉しいものね」


 そして、もう明日にはトルコへ行く事となった。


 ただ問題は人数で、コントロールの効く範囲と言う事で10人ずつ、順次日帰りで観光する事に。

 そしてもう1グループ、中つ国へと男性陣は向かうらしく、同伴者はタケちゃん。


 マサコちゃん、まだダメか。


『あれ?もう1人召喚者いなかったっけ、女の子の』

「まだ立ち直れて無いそうで、大変ですね繊細だと」

「ワシも繊細よ。仕方無い、時間が。あ、食ったら行ってくるわ。虚栄心止めないと」


 そしてベガスへ。




 虚栄心、バッチリ正装してヤル気満々や。


「さ、行きましょうか」

「いや、明日からトルコ行くんで、もう1日待ってくれない?」


「あら、移住先の候補?」

「おう、中つ国も。そこでまた何か有るかもだし、人員を割く事は控えたいんだが」


「大丈夫、お手間は掛けないわ、私だけでも行くし」

「一時停止を」


「ショナ君、どう思うワケ、その無能者」

「今回は、待つ選択を支持する桜木さんを支持します。珍しく、接触も我慢して待ってて下さっているので」


「どうせ忙しくてほっといてるだけでしょう?違う?何してたの今日は」

「色々」


「ほら」

「それでもです。待つと言った以上は」

「魔王候補の意見を鵜呑みはいかんな、本当はワシも行動したいのよ。でも、待つと言ったから待つだけで。気の向くままに好きにしろと言われてる事と矛盾するから、悩んではいる」


「あら、どうしたいの?」

「乗り込んで腹を割って話したい、何某かの意見を直接聞きたい。けど、周りに気を使ってしないだけで、何なら考えただけでイラッとしてるから、会おうか悩む」

「すみません、そこまでとは」


「もうちょっと、ハナを人間扱いしなさいよショナ君。普通に考えて従者がストライキなんて起こしたら、少しはイラッとするでしょう」

「はい、すみません」

「どう、人間と証明するんだろう。傍から見たら不死者みたいな事も出来るし」


《巫女事件における自刃の詳細開示》

「あ」

「え、自刃って」

「ちょっとアンタ、また自分を傷付けたの?!」


「もー、ソラちゃん」


「桜木さん、コレ、何してるんですか」

「魔女裁判を真っ向から受け止めた」

「男気溢れるのは良いんだけど、そこは強かに何とかして貰いたかったわね」


「ショナ、回避方法有る?」


「コレも、神々の計略内なんですよね」

「らしい。成功する自信も有ったし、驚かせてやろうかとも思った。ムカついたので」

「ベクトル。全員ブッ殺せ無かったの?」


「いや、部屋が事故物件になっちゃうし、それじゃ反省して貰えないだろうし、司法に委ねるには、コレかと」

「そう。魔王が、こんな事をすると思っているのかしらね」


「ニャルさんがどうとか言ってた、ロキが」

「あぁ、混沌を齎すって見れば、そうかも知れないけれど、それはちょっと、人間的視野過ぎるわよね」


「人間扱いしれ」

「人間と神の間、使者とか代行者で。そうね、ニャルは納得しちゃうかも」


「それか、マイノグーラ。シュブさんと関係有るからって」

「ニャルの従姉妹ね。エキゾチックヘアーですもんね、また、何にもしないで」


「引っ張られる、突っ張る感覚が嫌」

「ならカール位させなさいよ、ネイルも」


「ネイルは紫苑になったら落ちちゃう」

「じゃあ磨きなさいよ」


「忙しい」

「ほら、やっぱり忙しいだけじゃない。ちょっとショナ君、寝てる時にでもしちゃいなさいよ、髪だの爪だの」

「え、あ、はい」


「安眠妨害」

「もうちょっとやそっとじゃ起きないでしょ、図太くなってるんだから」


「まぁ、否定出来んな」

「なによショナ君」

「聞き慣れぬ名前らしき何かが気になりまして」


「あぁ、人間には制限が有る情報だもの。忘れなさいな」

「だそうだ」

「候補の、二つ名の事ですよね」


「おう、クエビコさんがロキに珍しく話が有るって、で、候補が2つ出た。そういう習慣なん?虚栄心」

「まぁ、どんな性質か類推して傾向と対策を決める感じよね?」

「はい、そして。対抗出来そうな者を集めます」


「あー、不味いなそれ」

「はい、某国に適格者が居れば、更に祭り上げられます」

「その子がその可能性は。火は、扱えるのかしら」


「そう聞いては居ます」

「最悪、最適じゃないの」

「あらー」


「あらーって、ニャルの苦手なのは火なのよ。もうこうなるとマイノグーラより有力かも知れないわね」

「ラベリングして作り上げるって、アホか」


「片付け魔に分類不能は天敵、分からないは怖い。なら、ラベリングした方が却って安心するのよ、例え現兆して無い何かでも。当て嵌めれば安心する、枠に嵌れば、型に嵌れば対処も出来るって」


「そんな恨まれる覚えが無いんだが」

「恨みが無くたって平気で他人の人生を潰せる人間って居るのよ、働かない蟻を取り除いても、必ず働かない蟻が出てくる。自然の摂理」


「えー、じゃあもう控える」

「もうって、何したのよ」

「何も無いですよ、何にも」


「飛ぶ飛行機から浚って縛り上げて放置の最中」

「あら凄い、前人未到の快挙ね」


「いやぁ、叱ってくれて良いのよ?不味い事したんだし」

「バレなきゃ良いのよ、バレたらバレた事を怒るから」


「甘い、甘過ぎる。ショナ叱れ」

「程々でお願いします、甘過ぎると逆に不安になる方なので」

「そうね、そうするわ。私達も、下手に動かない方が良さそうだし」


「そうして下さい、お願いします、控えますぅ」

「そうねぇ、コレは困ったわね。正装しちゃったし、お腹は空いて無い?」

「実はお夕飯の途中で来ちゃったんですよ」


「あら、じゃあ行きましょう。お夕飯の続き」




 ビュッフェ。

 美味しいビュッフェ、フェジョアーダやフォー、タコスを食い比べたり、エビをひたすら食べたりで、ようやっと腹パンパンになった。


「成長期終わらんな」

「それ、成長期なのかしらね。餓鬼って概念、ソッチに有るでしょう?」

「はい、六道輪廻ですね」


「心が満たされないから、不安や不満が有るから、お腹も満たされないって事は無いの?」

「実は、それも指摘されてはいますが。桜木さんが対処してくれないので無理ですね」

「ワシ?」


「好きな事を見付けるって、してます?」

「忙しくて」

「時間は作るモノよ。探して見付けて熱中しなさい、アナタと周りの為よ」


「コントロール上手いな、好き」

「私もよ。じゃ、もう帰って早速探しなさい、あ、オススメのドラマ送っておくわね」


「ありがとー」




 ホテルから浮島へ。

 先ずは歯磨きをしながら、送られて来たドラマをチェック。


「虚栄心さんのオススメって、やっぱり医療関係なんですねー」

「サヴァン症候群ですかね」

「かわいい」


「庇護欲強いですよね、桜木様」

「しかもちょっと偏愛的では」

《どちらかと言えば男性的じゃな》

『一体何なら、一筋縄でいくのだろうか』


「んんんんん、んん」

「メンクイな、とこ?」

「良く分かりましたね蜜仍君」

《まぁ、言いそうじゃしなぁ》

『一貫性はあるな』


「ペッ、クエビコさんまで把握し始めたか」

『まぁな』

《向こうの身柱に、良く手を出さんかったもんじゃ》


「えはいはほ」

「えらいだろ」

「どんな方なんですか?」

《有料じゃ、子胤1回分》

『エゲツない事を言う』


「僕の、赤い玉は、どう言う扱いになりますか?」

《おう、とうとう出たんじゃな》


「実は、今朝起きたら、コレが」


 ツヤツヤした赤い玉、トンボ玉にも見えるが。


 誰だコレ、賢人君か?


《おぉ、立派な赤玉じゃな。うんうん、安定供給は無理じゃろうが、もしまた出たら我に寄越すと良い、良い情報を教えて進ぜよぅ》

「はい!ありがとうございます!」


 ショナを見ると少し眉間を歪めたので違う、となると、賢人君かアレクだ。


 やるなぁ、後で供給先を聞いておこう。


 歯磨き、お風呂を終え、見終えた感想は。


 凄く良い、見続けます。

 日本語字幕で、翻訳の違いがまた面白いんだわ。


 そして就寝。

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