3月5日
計測、中域。
先ずはお風呂へ、ソラちゃんに乾かして貰い、普段着に着替える。
「桜木さん、昨夜の記憶有ります?」
「ギリギリ、寝惚けてる部分は有るが、ギリギリ」
「櫛出して貰えます?」
「あ」
「殆ど目を瞑ってましたもんね」
「あー、お礼を投げ込んでおこうか」
「その前に、一応使っておきましょう」
「あぁ、はい」
長いな。
切りたいな。
「随分伸びましたよね」
「切りたい」
「それも待って貰えませんかね?ひと段落したら切る感じで」
「あぁ、断髪式だな」
「まぁ、近いですけど。一般に戻られるんでしたら、その時にと」
「いつになるか分からんな、却下だ」
「洗いますよ」
「それも却下、もうソラちゃんが洗ってる」
《防水です》
「残念、どんまい。まぁ、直ぐには切らんよ」
「お願いしますね」
からのストレッチ、ココはオヤツ前、暖かい、ポカポカ。
朝食はサンドイッチと果物。
それからニーダベリルへ。
ベリサマへ櫛を翳す。
『あら、良い細工ね』
「ベリサマは絡んで無いのね」
『ん?勝手にされたの?』
「寝惚けてて、受け取ってしまったからお礼に来た」
『いや、それはだな』
『織物と言う仕事も与えてくれたのだしな』
『だから、それが我らからの本来の礼であってだな』
『ふーん、なるほど、ただ了承は得て無いのね』
「しかもだ、どう見ても、見た事が有る。誰かがドリームランドで見て来」
『あ、逃げた』
「なんで、こんな事をするかなぁ」
『思い出って大切だから』
「それは分かるが」
『もし、向こうの誰かが来てくれたら、それを見て何かを思ってくれるかも知れないじゃない?繋がり、前の世界との繋がりを作って上げたかったのよ、多分』
「なんで」
『だって、大事な人に変わりはないでしょう?』
「でも、思い出なら有る、ほら」
『あら、どっちかしら』
「コッチはワンコ、犬神憑きだった」
『可愛い子達ね』
「ワンコはほぼ同い年、見えないんよな」
『コッチの子は?』
「年上だ、30近いウブちゃん」
『ウブちゃん、良い響き』
「ほう」
『んん、この枠も可愛いじゃない』
「何も無いからね。皆で一緒に作った」
『はいはい、良い出来よ、凄く素敵』
「お礼のお礼になるなら、お土産」
『あら、それは良い考え。預かっておくわね』
「うん、宜しくお願いします」
遠くで手を振る鍛冶神達を見届け、再び浮島へ。
コレを、どんな気持ちで持てと言うんだろうか。
《おセンチじゃな》
「燃やすぞ、スーちゃんが」
《ちょっとした焦げ位は大丈夫じゃしぃ》
「火力上げてぇ」
《そう歓迎される力でも無い、伸ばさん方が良い事も有るんじゃよ》
「現代文明では、ワシもな」
《無くして初めて、大事だったのだと気付く事も有るんじゃ》
「人理を曲げられる、だから候補には納得してる。やっぱり、名義はエミールにお願いする」
《諦めるんじゃな》
「拘って良い事と悪い事が有る」
『それを周りに決めさせられる事は、良くない事だと思うがな』
「だって、難民の事以外は困らないんだもの。取るに足らない問題なのよ、マジで」
《はぁ、もう焼け野原子じゃ》
『先ずは、虚栄心にでも相談してみんか、綿の専門家だろう』
「あぁ、確かに!天才、ショナー、行くよー」
早速着替えを済ませ、虚栄心のお店へ。
「そんなに着て無いでしょう」
「何でバレた」
「着慣れてないもの」
「すんません、普段着ばっかです」
「まぁ、でも、着て来てくれたんだから、良いわ、許しましょ」
「あざーっす」
「あらショナ坊や、薄笑いでどうしたの?」
「お腹痛いか?」
「いえ、ちょっと考え事をしてまして」
「何よ、教えないと着替えさせるわよ」
「そうだそうだ」
「それ、女物では」
「ううん、レスドレス、共用。昔のデッサンを引っ張り出して仕立ててみたの」
「へー、流れが綺麗」
「ですけど」
「でしょう。で、何よ」
「飯の事か?野菜なら食うぞ?」
「それはまぁ、ランチはビュッフェでもと」
「はい歯切れ悪ーい、コチラへどうぞー」
「行ってらっしゃーい」
虚栄心とショナが密談している間に、団扇の刺繍へ。
チクチク、縫い縫い。
「ちょっと、なんて格好してんのよ」
「あぁ、すまん、縫い易くて」
「アンタねぇ、あ、何しに来たんだっけ?」
「綿の相談、ショナは大丈夫か?」
「大丈夫、ちょっと向こうで休んでるだけ。ただね、何か空気が変なのよね、ショナ君だけじゃ無いのよ、周りも最近変なの。あんな超常現象が起こったからだと思ったのだけれど、ちょっと違うかも知れないわ」
「シュブニグラスのせいかも、クトゥルフの地母神だから。ドS、人間好き」
「あー、地母神でドSで人間好きって、結構な役満じゃ無いの」
「麻雀出来る?」
「少し、今度しましょ。それより、もうちょっと話してくるから、待ってて頂戴ね」
「へーい」
それから再び刺繍へ。
縫い縫い、チクチク。
「桜木さん」
「へい、はい、失礼しました」
「省庁へお願いしたいんですが」
「ほい」
「じゃ、後でね」
それから省庁へ。
着替える間もなく、小部屋へと赴く。
「桜木さんは少し待ってて下さいね」
「後で教えてくれるのか」
「はい、では、失礼します」
また刺繍。
綿を諦めたのは、こう飽き性でも有るからだ。
飽きた。
塗り絵でもするか。
塗り塗り、カキカキ。
「お、終わった?」
「いえ、柏木さんが、少しお話しをと」
「ふぇい」
今度は柏木さんの部屋へ。
ショナの歩く速度が、ほんの少しだけ早い気がする。
「すみません、お待たせしてしまいまして」
「シュブニグラスのせいで、何か起きてる?」
「はい、予測の段階ですが。全世界規模で感情の起伏が激しくなっている様です」
「柏木さんは平気そう」
「もう若く有りませんから、そう激しく出ないのでしょう。これからお話しする事は、あくまでも予測。宜しいですか?」
「はい」
「報告を確認するまでは、厄災後の影響だけだと思っておりました。ですが、犯罪率、犯罪相談件数、精神科等への受診率、世界的に僅かですが確実に上昇しており。特に、黒い地球を見ていた半球での統計は、想定の範囲を越えていました」
「申し訳ない」
「ちょっ、流れる様に」
「すんません何も感じないで、多分、コレは同系統だからで、多分、ワシが引き金を引いたからで」
「いえ、よいしょ」
「膝は大丈夫ですか」
「よいしょ、幸いにも丈夫で元気です。それより、あの状態で何百人も、まして時代を超えて種の保存が行われたのは、紛れも無くクトゥルフの地母神であったからこそ。それに、この余波も一概に悪いモノでは無いかも知れません、魔法への回帰が議論され初めているんです」
「良い事なんだろうか」
「桜木さん、柏木さんも、取り敢えず椅子へ」
「良いんですよ、落ち着きますからね。それで、魔法回帰論です。どうやら一定周期で起こる現象だそうで、虚栄心から報告を頂き、確認が取れました。大きな厄災中、又は厄災後に必ず起こる事だと、エルフ、セバスさんにも確認が取れました」
「良いか悪いか不明だと」
「はい、それは、個人、社会、国、世界がどう舵を取るかです。良い流れに成る事も有れば、悪い潮目にもなる、良いか悪いかを決めるのは、今いる我々。そして強弱も様々で、どれを取っても今はまだ予測の段階に過ぎませんが、そう言った流れが来る、もしくは既に来ているかと予想されています」
「回避、出来なかった?」
「そうですね、魔法を軽んじたり、蔑ろにして来たつもりは有りませんでしたので、今回は地母神の影響を疑っていますが」
「確認しようが無い?」
「そうですね、大気にも魔素にも変化は有りませんし。それこそ前例の無い事も起こっていますから、予測だけしか出来ない状態なんです」
「桜木さん、痺れちゃいますし、座りましょう」
「あぁ、うん、座ろう柏木さん」
「そうですね、よっこいしょ」
「どうしたら良い?何が出来る?」
「そこが問題でして、大変言い難いのですが、先ずこの事は出来るだけ内密に。そして上記を踏まえた上で、自由な発想で行動して頂きたく」
「好きにしろと、それはずるい」
「今回の異変を察知出来たのも、虚栄心との接触からですし。こう、指示したからと言って得られたかどうか、ハッキリ言って疑問なのですよ」
「神託は、御神託」
「それも、特に降りて来て無いのです」
「もー」
「桜木さん苦手ですからね、ただ待つの」
「そこは、どうでしょう、難民への学習要項等に目を通して頂いたり、蝋燭屋の様に講師を探したり」
「引き籠るのは」
「そこは、それで得られる何かが有れば、それでも構わないと、はい」
「本当に、好きにして良いそうです」
「コレを聞いて?無理では?どうしたって、何か無いか探しに行くと思わない?」
「思いますね」
「もー」
「申し訳無いのですが、どうか、宜しくお願い致します」
伝書鳩かと穿った見方をしたからか、最大級に難しい事を突き付けられた。
自由にしろと言われると、引き籠りたくなるワケで。
でも、何かした方が良さそうで。
ボーっと省庁から出ても、ただ立ち尽くすだけ。
どうしよう。
「買い出しにでも行きませんか?椎茸と三つ葉が旬ですし、蛤とイイダコの旬は今月までですよ」
「天ぷら」
「じゃあ、蜜仍君も、コンスタンティンも呼んでお料理しましょうか」
「蜜仍君、里から出して良いの?」
「大丈夫ですよ、ただ、彼には見せたく無かっただけで。もしかして、遠慮してたんですか?」
「まぁ、側に居ても良い事が無いだろうしと」
「良いんですよ本当に、桜木さんが望む様にして」
「なら、蜜仍君は呼ばない」
「分かりました、取り敢えず買い出しに行きましょう」
お昼近いからか、黒い地球のせいなのか。
市場はガラガラ、シャッターを閉めている店が多い。
以前に買い物をしたお店のお兄さん曰く、そもそも漁が少ないらしい。
黒い地球が消えて尚、悪影響は続いている。
それでも店を開けるのは、怖くても腹が減るんだから、買い物先は必要だからだと。
尊い、有り難い。
《品物が少なくてごめんな、もし気晴らしに旅行でもするなら、蛤の良い取引先を教えるよ》
「それは、ソチラの仕事に差し障りが有るんじゃ?」
《寧ろ、ちょっと励まして来て欲しいなって下心も有るんだ。美味いよ、ありがとうって、漁師は直接聞けないだろ?だから、それを聞いたら、また漁に出てくんねーかなーってな》
「因みに、場所は?」
《今なら千葉の方だな、店も教えてやるからさ、な?》
「桜木さん、蛤フライしましょうか」
《あー、蛤の煮込みうどんも良いんだぁ、美味いぞぉ》
「そんな、行きたいに決まってる」
《おっし、お兄ちゃん連絡先交換な》
「はい」
蛤フライに蛤の煮込みうどんなんて、狡い。
しかもアサリも旬だし、出汁、美味いし。
「ちょっとお腹が空いて来たかも知れない」
「じゃ、ちょっと急ぎで、飛んで行きましょうかね」
《おうおう金持ちかよ、向こうにも急いで連絡しとくが、事故らんでくれな?最近多いらしいから》
「うい、気を付けて行って参ります」
《おう!宜しく頼むな!》
「桜木さん、ドライブしましょうよ、海沿いですよ」
「あぁ、やっぱ蜜仍君も連れて行こう。それと、スーちゃんも」
「はい」
再び省庁へ行き、移動用にとスーちゃんの身分証を受け取る。
戸籍には親も何も無し、少し寂しいなコレ。
そして携帯やタブレット、そして魔法の鞄も。
喜ぶだろうなぁ。
でも先ずは里へ。
小屋で蜜仍君をお呼び出し、コンちゃんは移民達の事も有るのでまだ里に居て貰う事に。
「桜木様!お怪我は?何も無いんですか?」
「無い、問題無し。これから小旅行に行きます、海鮮を探しに」
「行きます!」
そのまま浮島へ、もう陽が落ち始めている。
ショナに下まで行って貰い、スーちゃんを呼んで来て貰う。
「なになに、なにこの可愛い子」
「蜜仍です!桜木様の従者です」
「です」
(ショタ)
「シッ、変な言葉を教えない、つかソッチも合法ショタやんけ」
「鏡そんな見ないし、てかほぼ無いし」
「あぁ。つか小旅行に行きます、千葉に、海鮮を探しに」
「探しに?なんで?」
「不安がって漁に出られる方が少ないんだそうで、店の方に漁師さんを直接案内されたんですよ」
「折角の旬なのに、今高くなっちゃってるんですよね、蛤」
「あわよくば仕入れて、食べ放題します」
「行く!」
そしてクーロンも連れて省庁へ。
車に乗り込み近くのサービスエリアまで転移させ、いざ海沿いへ。
「はー!海臭いですねー!」
「寒いよ元気っ子、テンション高いなぁ」
「君ら同年代だからね?」
「暖かい所に居たんだもの」
「すみません、僕寒い地方で」
「クーロン貸そうか」
「冷たいじゃーん」
「はい、僕の手をどうぞ」
「眼福」
「桜木さん、危ないんで前向いてて下さい」
「えー、ソラちゃん居るし大丈夫やろう」
「資料で知ってるんですよ、交通事故に有ってますよね?」
「え、何処で?」
「第3ですね、教団関係者の」
「教団?」
「かなり後半なんですけど」
「あ、本当だ、しかも入院て」
「ソラちゃん」
《日記は開示しておりません》
「日記って、加害者の方のですよね?」
「え、有るんですか?」
「ハナ、開示」
「いやぁ、他者のプライバシーなんで」
「加害者にプライバシーって有るの?」
「有りますが、ココには居ませんし」
「ココに来るとしたら、余計開示すべきかと。対処しないとですし」
《同意します》
「ソラちゃんまで」
《転移、転生された場合、記憶の復元が問題点になるかと》
「そんな危ない人なら、余計気になるんだけど」
「桜木さん、多勢に無勢ですよ」
「4対1ですね」
『クーロンも気になるの』
「5対1かよ、スー裁判長」
「開示しないと、色々言う」
「開示しますぅ」
途中まではスーちゃんにより音読されていたが、黙読へ変更され。
察した蜜仍君もタブレットを出し、黙読へ。
急に静かになった。
「あの、一体、何が有ったんですか?」
「さ、ドライブ所じゃ無くなって参りましたねショナ君や、どうですか、気になりますか」
「コレは、私はちょっとふざけられないわ」
「凄い、ホラーですね」
「え、桜木さん」
「私はちょっと、本人に言わせたく無いかな」
「そうですね、無理に開示させて、ごめんなさい」
「いや、確かに転生や転移でコレが来たらヤバいから有り、正しい」
《はい》
「うん、そうね」
「え、車止めて良いですか?」
「ダメ、海鮮が最優先」
「そうですね、ショナさんは少し我慢して下さいね」
それから法定速度ギリギリで海辺を通り、直ぐに漁師の家へと到着した。
到着してなお日記が読めないショナ、ソワソワしてんのちょっとオモロ。
お子様とクーロンは車で待機、報告書ガン見中。
「お店のお兄さんから聞いて来ました、お体大丈夫ですか?」
『あぁ、おう、聞いたが、早いな』
「心配で、飛んで来ました」
『ふっ、バカ野郎。遠かったろう、上がってくれよ』
お兄さんと同じ年齢か、30代、嫁子が居る筈だが。
老け込んでるわ、子供の気配も無いわ。
「あの、奥様は」
『実家だ、最後に家族と過ごしたいとさ。俺は、家族じゃ無いらしい』
「えっと、それは」
『だよな、そうなるよな、俺も驚いたよ。黒い地球を見た時に全部変わったんだ、家に帰る、家族と過ごすってな』
「奥様に、一緒に行こうって言われ無かったんですか」
『無かった、俺が残って仕事するとでも思ったんだろうな。だけどな、もうそれで、全部が嫌になったんだ』
「よし、離婚しましょう、お手伝いします、全力で。コレでも結構、凄いんですよ」
『まぁ、アイツの言うのが本当なら、ヘリなり何なりで来たんだろうけど、金だけでもなぁ』
「人脈も有る、信じてくれないかもだけど、出来るだけ手助けします」
『アイツに恩でも有るのか?』
「いや、美味しい蛤が食べたいんです、アサリも」
『は』
「ココのは美味しいからって、美味しい、ありがとうを伝えに行って欲しいって。美味しかったし、ありがとうだし、だから、離婚をお手伝いします」
『そん、そんな理由でか?』
「大事です、美味しいご飯は大事。怖くても悲しくてもお腹は空く、空かないのはもう病院行かないとダメ。店のお兄さんも、他のお客さんも待ってます。だから離婚すべきだし、漁にも出るべきだと思います。お兄さんに怖いって嘘付いたなら、それを突き通すなら、離婚して漁に出るのが1番です。離婚は、後から言えばいい」
『アイツは気付いて』
「無いと思います、多分ですけど」
『そっか、離婚な、面倒そうだ』
「弁護士を紹介出来ますよ、僕の兄は司法関係なので。要望さえ言って頂ければ」
「お金はコッチで出します、その代わり、アサリと蛤下さい」
『何か、新手の詐欺か、狐に化かされてんのかな』
「コン、身分証出しますよ」
『そんな、俺の採った蛤が美味かったか狐さん』
「誰でも良いです、でも困った人が喜んでくれるのは嬉しいです、そしてその人が採った蛤は、何倍も美味しいと思います。コン」
「僕の身分証です、どうぞ」
『あぁ、省庁の関係者か、卸先には悪く無いか』
「コン、今は要らなくても、分かり合える人は必要です。離婚は分かり合える人を探す為の下準備、だから準備が終わったら探さなくても良い。ただ、このままじゃ一生同じ思いに囚われます。コン」
『狐さんは、そんなに蛤とアサリが好きか』
「お出汁が最高です、今日はこのままダメだったら、蛤の煮込みうどんを探しに行きます、お澄ましだそうです。コン」
『そりゃ俺の18番だ、それにここらは店を締めてるし、焼きハマグリが名物だぞ』
「騙されたコン」
「そうですね」
「知ってたのか」
「はい、メールで」
『冷凍のが有る、持ってけ。また明日から漁に出るからな、美味いぞ冷凍も、味が凝縮されるんだ』
「コン、離婚のお手伝いはどうしますか」
『頼む、俺は漁で忙しくなるんでな』
「では、連絡先を」
ショナとお兄さんが連絡先を交換し、要望を伝える事となった。
そして冷凍庫へ、いっぱい有る。
「コンなに」
『狐さんも駄洒落を言うか、コレは余った在庫だ。飯屋に卸すのが溜まっててな、何せ何処も店を閉めてる。ソッチはいつ、取りに来てくれる』
「コン、どの位くれますか」
『そうだなぁ、ココは景気良く全部だ、在庫が有るとどっかで安心しちまうからな。空っぽにして、我武者羅に働きてぇな』
「コン、コンコン」
「後ろをどうぞ」
『狐さん、本当に狐さんじゃ無いよな?』
「ただの金持ちだコン」
『まぁ、そう言う事にしとくか、世話になるんだ、突っ込まないでおくよ』
「ありがとう、皆の美味しいを後でお届けしますね。コン」
『おうおう、期待しないどくよ』
「では、失礼致します」
「お帰りー、揉めた?」
「問題無し」
「桜木さんは狐さんらしいです」
「狐憑きなんですか?」
「コン、お腹が減ったので帰るでコン」
「僕がお料理しておきますよ?」
「私も、結構出来るんだからね」
車から先ずは後部座席の2人を浮島へ、アサリと蛤を渡し、暫し料理をお任せする。
そしてクーロンを抱き、後部座席でまったりと海辺をドライブ。
「狐の発想は、百合車さんですか?」
「狐と聞いてつい。因みにコン等とは言わなかった、京都だか関西弁的な何かだった」
「コン」
「コンコン」
『ご飯何かなぁ』
「パスタ、リゾット、スープ」
「煮込みうどんは良いんですか?」
「それは君が責任を持って作るんだ」
「はい」
『ちゅるちゅる』
そしてサービスエリアで車を転移させ、車庫へ。
懐かしいなこの流れ。
「じゃ、行きましょうか」
「コン」
浮島でお料理。
その前にお着替え、助かった、帽子も有ったし、普段着ならマジで不審がられただろうに。
「お帰りなさーい」
「早いぃ、もっとゆっくりしてれば良かったのに」
「お腹が減ったコン」
「はいはい、パスター」
「パスター、頂きますー、うまー」
「はやい」
「旨さの伝わるスピードが早いとか何とか」
「炊き込みご飯も作ってますよ」
「ありがとう、愛してる」
「やったー」
「私は?」
「美味いなぁ、パスタ美味い、愛してる」
「それ、パスタ愛してない?」
「愛してる愛してる」
「え、雑、なんで、もう飽きたの?」
「飽きない、無限に食える」
「ちょ、ちゃんと噛みなさい」
「胃は消化器官」
「歯は噛む場所」
「はっ」
「初めて知ったみたいな顔しないの」
「歯は、硬いもの専用」
「違うから、絶対違う」
「ワカラナイ」
「“良く噛んで食べなさい”」
「実は高速で噛んでる、見えないだけ」
「もー、ショナ君、何とかして」
「もう諦めました」
「顎が疲れちゃうらしいんで、ちょっと前までは噛まないで良さそうなのばっかりだったんですよね」
「ねー、まぁ、もう足りない事は無いだろうし、噛むは噛む」
「イカとかタコを入れたら噛むんで、まだまだ食材集めですかね」
「もー、猫じゃ無いんだから」
「コン」
「狐はイヌ科ですよ」
「狸もですよね」
「マタタビって効くのかしら」
「桜木さんのマタタビはエビです」
「それはそう」
「もう漁港ごと買ってしまっては?」
「それこそ無人島なんだし、採ったら?」
「はっ」
「確かに温かいかも知れませんが」
「泳ぎってソッチに有るんですか?漁とか」
「一応昔に有ったみたい、お婆さんが潜れたら楽しそうだって言ってたから」
「朝一から潜るか、夜か」
「夜は捕りやすいですけど、ちょっと暗くて危ないですよ?」
「桜木さん、潜れます?」
「泳げる?」
「フィン有りなら何とか」
「炊き込みご飯出来ましたよー」
「うどんもですよ、どうぞ」
「あ、今うどん作りますね」
パスタを程々にし、次は炊き込みご飯、そして煮込みうどん。
もう、アサリと蛤のダブルパンチ、美味い。
「本当に、すっごい食べるわよね」
「腹の皮がパンパンになるまで食う」
「もっと言うと、もっと食べて欲しいんですけどね」
「それでも桜木様には胸は付きませんよ?」
「どうしてそうなりますかね?」
「最近、歴史でふくよかな女性がモテると学びました、並行して、生物学では胸は二足歩行に移行した際に、お尻から胸に性的アピールが移行したとも」
「僕もそうだと学びましたが」
「桜木様の事、ちゃんと人間だと思ってるのかなーと思ったので、突っ込もうかなって」
「ほう、誰の入れ知恵だ」
「クエビコ様とドリアードに、教養をと」
「恐ろしく将来が楽しみです、コレからも勉学に励む様に。花丸」
「やったー」
「甘いなぁ、花丸」
「スーちゃんもじゃん」
「だって、可愛いし」
「おや」
「なんか、眺めてられる」
「並んでくれると嬉しいんだが、そうそう」
「照れる」
「ウケる」
「スーちゃんはどっちを選ぶつもりなんですか?まだ決まりません?」
「ちょっと、女の子になろうか迷い始めたかな」
「罪な子だわ」
「村のお嫁さんになります?」
「あぁ、蜜仍君、鈴木さんに詳しくご説明を」
「あ、はい、土蜘蛛族の次代です、宜しくお願いします。村では随時、お嫁さんもお婿さんも募集しています、村では村全体で子供を育てます。男性は子種だけでも可能ですが、女性は里に来て頂く決まりとなっています」
「ショナは子種候補な」
「あぁ、一夫一婦制?」
「僕はそうするつもりですが、他の方は結構自由な感じです」
「へー」
「蜜仍君、コレで女は有り?」
「はい、抱けると思います」
「なんか、うん、失恋したかも」
「理想が高い、質問が悪い。蜜仍君がウブとは限らないんだ、強くあれ、アナタの顔面偏差値は上位、カースト上位なんですぞ」
「でも、遺伝子レベルで整形出来ちゃうんでしょ?何かなぁ」
「そこでナチュラルボーンで戦えるんだよ?」
「馴染むので手一杯になりそう」
「よしよし、最終手段に再婚するか」
「いまして」
「それはダメ、探し回ってダメだったら、難破船の最終地点。因みにアレクと白雨は従兄弟辺りになります」
「良いなぁ、家族」
「家族だけが味方じゃない、家族だけを味方とまだ思うかね」
「ちょっと、離れて暮らしてたお父さんは、そう思ってた」
「味方なら弟をちゃんと躾けろし」
「そこよねぇ、今は、頭では分かってるのよ」
「呪縛は解かないと、ショナみたいに叱ってくれるのがオススメです」
「もう、なんでも良い」
「あー、自暴自棄だ、なんだ、男の子の日か」
「ねぇ、ショナさん、本当に有るのかな」
「あぁ、毎月赤い玉が出るんですけど、まだ出てませんか?」
「え、僕出てませんけど」
「あぁ、しっかり精通して、安定したら出るんだわ、毎月」
「そうですよ、それを河童に献上しないと」
「方向音痴になって家に帰れなくなる」
「蜜仍君、冗談よね?」
「僕、安定して無いかもです」
「今のウチだな、大変なんだよ、国によっては家が荒らされる、例え既婚者でも逃れられない運命だから、献上しないと怒られる」
「僕らは毎月献上してるんで、この事実を話す権利が有るんですよ」
「え、ちょ、クエビコ様」
「本当なんですか?」
『噂は有るが』
《そうじゃなぁ》
『我の場合は悪夢を見せるでな、献上率が高いんじゃよ』
「そうそう、誰に献上するかも重要だし。でもね、最初は尻子玉を守る約束だったんだよねぇ」
「それが数百年掛けて1年に1回から、半年に1回、そして1月に1回に」
「あ、もしかしたら蜜仍君の所は、誰か代わりに捧げてるのかも」
「それに、献上しない罰が違うかも知れませんし」
『そうじゃなぁ、もしやお主が捧げぬから、父上の飯がキュウリになっておるかも知れんぞ?』
「ぉ父さん」
「ぐっ」
「あー、ハナ」
「いや、消え入りそうなお父さんは狡いわ」
「っですね」
「もー!嘘なんですね」
「半分ね」
「え」
「あー、車で打ち合わせしたの?」
「いや、前の世界でね、ふふ」
「僕は、その資料を覚えてたので」
「えー?そんなの無かったですよ?」
「閲覧権限かな?」
「ふふ、どうなんでしょうねぇ、ショナ君や」
「ですね、ふふ」
「全部嘘ですよね?」
「男の子の日は有る」
「本当ですよ、骨盤の緩み方が周期的に変わりますし」
「それは赤い玉を出す為なんだよ」
「詰まると大変な事になるので」
「ヤバいわこの2人、真面目な顔してとんでも無い事言ってる」
「僕、調べてみます」
「出ない出ない、普通のしか。文章にしたら尻子玉を抜かれるし」
「上位権限者の口伝以外は許されてませんからね」
「あぁ、こうやって都市伝説が出来るのね」
「んー」
「可愛いなぁ、大丈夫、蜜仍君はまだ、18歳超えないと出ないハズなんだよ」
「嘘ですよね?」
「私は嘘つきです」
「嘘つきのパラドックスですね」
「どうしてこう、口が回るのかしら」
《前はこんなんじゃったかのぅ?》
『そういう気配は有ったぞ、後退りに全力なのが、方向性が変わったんだろう』
『確かに、ネガティブオブネガティブじゃったな』
『こう、少し会わん間に、人間はこうも変わるのだな』
《じゃの》
『そうじゃな、あっと言う間じゃ』
「お年寄りは置いといて、ご馳走様でした」
「もう良いの?」
「計測次第で甘いの食べる」
「ねぇ、ハナが溢れると、どうなるの?」
「ドリアードがハイになる」
『ワシは大丈夫じゃぞ』
『ワシもだ』
『クーロンも、耐性付いたかも』
「耐性、付くもんか?」
「それなら、かなり安心ですね」
『でも多分、竜の時だけなの、しかも大きい竜、あの時は大丈夫だったから』
「あぁ、そう思ったからかな?3でもしたから、百鬼夜行」
「確かに、竜に乗って振り撒いたって有りましたね」
『んー』
「グリグリ凄い」
「どうどう、ごはん出ちゃう」
『やー』
「コレは、嫉妬ドリルね」
「えぐれるぅ」
『モヤモヤするの』
「すいませんね」
「神獣さんでも嫉妬するのね」
『する、同位体だと思ってる位に同一視してる』
「急に難しい単語を」
「なら、ハナに恋人が出来ちゃったらどうするの?」
『吟味する、それで良かったら、一緒に家族になる』
「竜種の群れに帰って欲しいんだがなぁ」
『考えとくー』
「あ、嫉妬ドリル」
「えぐれるぅ、計測するからたんま」
『あい』
高値、不味い。
「不味い、高値だ。ショナ」
「はい、大丈夫です、漏れてなさそうです」
『ふぅ、少し緊張したな』
《なんじゃ、つまらん》
『くふふふ』
「えー、具体的には?」
「精神作用が有るらしいです」
「受ける側がおセンチだとおセンチに、楽しいと楽しくなる、かも。増幅させちゃうかも」
「エロいと」
「それは試してないが、多分、エロエロ」
《あぁ、溢れんかのぅ》
『これ。折角だ、向こうの浮島を拡張するかしてはどうだ』
『じゃの』
「ですな」
移民達がすっかり眠ったであろう頃、双護島の様に教会を分割、中央分離帯が出来上がった。
『今日は面白いモノが見れたので、サービスしておきますね』
「どうも」
柵が生え、見慣れた懐かしい場所へと変化した。
コレが、こうやって神話も似るんだろうか。
「第3は、こんな感じだったんですか?」
「まぁ、似せる気は無かったんだが、こうなった。コッチがオリジナルの筈なのにな」
「それこそ、決別する必要も、忌避する必要も無いんじゃない?」
「そうかねぇ、まだ、整理出来て無いのよね」
「そうよね、うん、もう寝るね、おやすみ」
「おう、おやすみ」
「度々申し訳無いんですが、出来たら兄に直接話したいので」
「行こう、遠目から見たい」
「僕もー!」
今度はクーロンを置いて省庁の裏へ。
そこから再び車に乗り、法務課の有る地区へ。
駐車場で待っていると、ショナ兄が現れた。
顔違う、兄弟って似ないもんなのかしら。
「似てないな」
「ですね、お兄さんの方が顔が少しだけ濃いですね、眉骨とか」
「あぁ、確かに」
「背も高いですし、パッと見は役職が逆っぽいですけど」
「らし過ぎるな、近寄り難いし」
「恵体なんですけどね、あ、コッチ向いた」
「ヤベ」
「来ちゃいますよ」
「挨拶せにゃならんかね」
「あ、引き返してった」
「嘘」
「もー」
「覗き込まれてます」
「魔法使っとけば良かったか」
「ダメですよ、ココ魔法禁止ですし、魔道具も限定解除だけだって聞いてますから」
「あー」
「お待たせしました、じゃあ、行きましょうか」
「ふうっ」
「油断しましたね」
「ふふ、バッチリ見られてますねー」
「あー、どもー」
車の窓越しに手を振り、駐車場を後にした。
ビックリした、マジで。
「ビクッってなってましたねぇ、ふふ」
「良い反応が見れて何よりです」
「読唇術を会得したい」
「今回は口頭で相談してませんから、会得してても無駄かと」
「ハンドサインか」
「はい」
「クソ」
そうして省庁へ戻り、小部屋で再び待機。
そして日本のとある孤島の漁業権をゲット、本当に漁に出る事になった。
水着に着替え、真珠の指輪で先ずは海へ。
いける、水温調節有り難い。
それからフィンとシュノーケルを付け、先ずは潜水。
雲丹、アワビ、伊勢海老も居る。
「何が居ましたか?」
「雲丹、アワビ、伊勢海老」
「大丈夫ですか?寒くないですか?」
「無い、行ってくる」
「雲丹とアワビはダメですからね」
「伊勢海老は大きいのでー」
ショナ達は沖釣り。
コチラは素潜り。
何か居ないかとどんどん潜ると、大きく素早い魚影。
人魚。
人魚って。
ゆっくりと岩陰から手を振ってる。
手には水掻き、青白い鱗とヒレ。
人魚って。
暫くボーッと見ていると、近くを通り掛かった魚をガッと掴み、手折ると近くに来た。
そして手渡してくれた。
手掴みて。
【ありがとう】
海水ごとストレージにしまうと、今度は少し離れ、手招きしている。
近寄ると、今度はデカいタコ、素手で手掴みし、岩から引き剥がし投げて来た。
コレは網へ。
なんだ、良いのかコレ。
躊躇いながらも付いて行く。
アワビや雲丹持って来たら手を振りバッテンに、サザエも、そんな好きじゃ無いし。
そしてイカの群れ。
綺麗。
そして美味しそう。
でも綺麗なので、取るのが惜しい。
一旦海面に上がり深呼吸、そして上から眺める。
イカと人魚、綺麗。
再び潜り鑑賞していると、遊び飽きたのかイカを鷲掴みし、網へ入れてくれた。
そして手を引かれ、底へ向かう。
大きな魚。
ソッとエラに手を入れ、そのまま手折った。
凄い。
今度は更に大きな魚、自分と同じかそれ以上。
背後からゆっくりと近づき、エラに両手を入れ、抱き締める様に手折った。
ヤバい、コレだけ見たら恐怖体験よな。
お礼は、どうしようか。
酒瓶も首を振るし、お菓子は出せないし。
試しに果物を出してみる。
食べた。
マスカット似合う。
イチジクも食べるし、リンゴ、サクランボも、果物で有れば良いらしい。
もう1つの網に果物を詰めていくと、途中でもう要らないと手を振られ、口を閉じられた。
そして手を振りながら、海の底へと消えて行った。
海面に浮上すると、かなり沖。
フロートと唱え、コートを羽織り空間移動。
「あ、お帰りなさーい」
「何か採れましたか?」
「採って貰った」
「マダイですかね」
「コッチ、クエですよコレ」
「へ、あの、幻の」
「あ、ヤリイカも」
「ミズダコですかね」
「コレ全部、オスですね」
「そうなんですか?」
「多分」
「それで、コレは誰に?」
「人魚、水色の人魚、果物と交換みたいになった」
「えー良いなぁ、見たかったなぁ」
「ココ、買い取りますか?」
「偶々居ただけかも知れんし、漁師さんが困るだろう」
「そんなに喜んでませんが」
「凄い強い、素手で手折ったんだぞ、クエも」
「それは確かに強い、ムキムキマッチョさんですか?」
「スラっとしてたのがまた恐ろしい、綺麗で恐ろしい」
「ぁあ、何も無くて良かったですね」
「もっと鍛えないと」
ショナ達が下処理をする間に、イイダコ取り。
素潜りで採っても良い、数少ない魚介類。
コレも、海の掟に従いオスだけ。
何か、メス採ったら殺されそうだし。
【もう終わりますから、上がって来て下さい】
【へい】
下処理は鱗と血抜き、内臓取りだけ。
今度はそれをしまい、浮島へ。
「桜木さんはお風呂へどうぞ」
「下処理してますんで、ゆっくりしてて下さいね」
「うい」
一通り洗い、乾かされボーッとする。
眠い、ちょっとお昼寝。
《主》
目を覚ますと、義体ソラちゃんに顎を掴まれ持ち上げられる少年が目の前に。
ちょっと、何が起こったのか。
「報告」
《主に覆い被さって来たので、排除しました》
「“どうしてこんな事をしますか”」
『“しないと、いけないから、しないと、必要無いって言われる”』
「もう、しなくても良いんですよ」
『そうしたら、生きてられないって、ずっと、だから』
「離して宜しい、内密に、穏便に。“ココは新世界です、前の決まり事は一時中止、だからもう、好きじゃ無い人としなくて良い”」
『好き?』
「困ったぞコレは。“一緒に居て嬉しい、楽しい、それが好き”」
『分からないです、すみません』
「“分かる様になるまで、しなくても良い。しなくて、大丈夫”」
『ご飯を、食べても良いんですか?』
「“うん、しなくても食べて良い。皆にも伝えて、好きが分かるまで、したらダメ。新世界の約束、ほら、帰りなさい”」
『はい』
《報告はするでな》
『あぁ、重症だ、と』
「実害は無かった、無防備で有ったと強調せいよ」
タブレットで出入り禁止を再設定。
神獣、転生者、召喚者、従者、神様や妖精、精霊、天使の出入りのみに設定。
コレは無防備過ぎた。
小屋に戻り、ソッと正座。
気配を察したのか、蜜仍君、ショナも目の前に正座した。
「どうしました?桜木さん」
「何か大事なお話しですか?」
「落ち着いて聞いて欲しいのだが、無防備にも外で昼寝をしてたら。難民の少年が来てしまい、ソラちゃんに助けられました、申し訳無い」
「桜木様、お怪我は」
「何かされたなら」
「何も、ソラちゃん説明を」
《覆い被さったので、引き剥がしました。主を拘束する気配も、触れる事も有りませんでした》
「結界は再設定したから、もうコッチには来れない。しないと生きてたらいけないと思ってたらしいので、それは違うと帰しました。性欲では無く、アレは恐怖からの行動、おっ立っても無かったし。不問に付し、向こうに任せたい、アンちゃんやスーちゃんに」
「分かりました、桜木様がそう仰るなら僕は従います」
「ドリアード達は、何をしていたんですか」
《問題が起きぬ限り動けんのは分かるじゃろう》
『もう少し踏み込んだ状態なれば、行動は出来たが』
「コチラの唯一の落ち度は無防備に外で昼寝した事。そして向こうの落ち度は、しないでも生きてて良いと男性陣に良く言い聞かせなかった事。以上、叩き起こして報告してくるから、飯は任せた」
「付いて行きます」
「おう、蜜仍君、後は宜しく」
「はい」
アンちゃんやスーちゃんを起こし、自治区のテントへ。
緊急事態だと言う事で、補佐を呼び出して貰った。
『それで、一体』
「桜木さんが、少年に襲われかけたそうです。被害は未然に防がれましたが、浮島の結界は再設定されました」
「無防備に外で昼寝してた。だから言い聞かせて、再設定してコッチに来た。ついさっき」
「ごめん、ちゃんと言い聞かせたのに」
『申し訳ございませんでした』
「桜木さんとしては、外での昼寝が落ち度。ソチラの落ち度は言い聞かせきれなかった事。そして恐怖からの行為とし、不問に処し、処分はソチラにお任せするそうです」
「自治区の耳にも入れるべきだと思い、即座に報告しに来ました。アレは本当に恐怖から、何故ならおっ立って無かったから。以上」
「ごめん、女性陣への牽制だけで慢心してたのかも」
「いや、ワシも良く考えて想定すべきだった。恐怖が有るなら、形振り構わなくなると」
『代わりに、言い訳をする気は無いのですが、救って頂いたから、こそ、そう言った事になってしまったのかと』
「あぁ、下手したら神様か、なる程」
「本当にごめん」
「いや、目覚めたらソラちゃんに顎を掴まれて宙づりになってた方がビックリなのよ。で、好きの概念が分からないと言ってたので、取り敢えずは好き、一緒に居て嬉しい、楽しいが分かるまで禁止する、好きな人としろと、新世界のルールだから伝えろと言っちゃったから、辻褄合わせを宜しく」
「うん、そうする。そこを軸にする」
『同意します、誠に申し訳ございませんでした』
「出来たら、襲われた、では無く相談されたにしたい。お願い出来ませんかね、補佐」
『はい、その様に』
「ショナもだ、責任を追求するなら助けた竜種、最悪は竜種に一生面倒見させる。だから、納得しなさい」
「はい、分かりました」
『中央分離帯に警備を増やしますか?』
「それはアンちゃん達に夜勤をお願いしたい、礼拝は何時でも自由にさせたいから。午前中はスーちゃんが起きてるだろうし、警備を増やすにしても男、男性陣を性的被害者だと、よくよく言い聞かせて欲しい」
『畏まりました』
「それと。余談だが、ワシは灯台だと月読神に言われた事が有る。現に今日、人魚に会った、黒山羊ちゃんもそれで来た、人面犬にされたのも来たし、だから、フラッと何か来る事を許して欲しい。宜しくどうぞ」
《人面犬の事は開示しておりません》
「開示、じゃ、向こうに報告してきます」
日本のテントに行き、詳細はショナが説明。
そして、相談、と言う形に収まった。
「お帰りなさい」
「相談されたので、相談して来た。最悪は竜種に引き取らせる事で決着が付いた」
「それと新しい情報開示が有りました」
「納得いかんか」
「いえ、納得したく無いだけです」
「働いたらダメな世界に飛ばされて、普通に働いて怒られたら君は納得出来るのか」
「気持ちの問題ですから」
「少年の気持ちになって欲しい」
「自分が許せないんです、目を離したばっかりに」
「子供ちゃうぞ、ハイハイ所か自立歩行するし」
「それでもです、だからこそです」
「男の子の日だな、虚栄心の所に行こう、相談したいし」
「はい」
そして虚栄心のお店へ。
今日はココから激しく動き回ったんよな。
「たのもー」
「随分揉めたのね?」
「いや、まぁ、食料確保してました。御進物です」
「良い匂い、頂くわ。じゃ、話して」
「どこから?」
「全部よ」
「えーっと、シュブさんの余波か虚栄心の言う波か分からないらしい。で、どうにも出来ないので、取り敢えず買い出しに行ったら、漁師を励ましに行く事になって、そのまま行って、買い付けもして昼飯食べて、孤島で漁もして人魚に会って、昼寝してたら、相談された」
「難民の少年に襲われかけたんです」
「何も無かったのね?」
「全く何も、精霊がこう、顎を掴んで宙づりにしてたし」
「なら宜しい、怖い?」
「ビックリしただけで、怖いと言うか、驚いた、本当に、しかもおっ立って無かったし。恐怖からの行動だと思ってる、もしそうじゃ無いなら、拾った竜種に面倒見させるだけだし」
「ショナ君、アンタが過剰に反応する方がハナに宜しく無いわ。守れなかったと思ってるんでしょうけれど、それはハナ自身にも言える事」
「おう、外で無防備に昼寝してた。今はもう立入禁止」
「それをハナは認めてる。あのね、眠らずに、それこそ魔王みたいに四六時中ベッタリは守れないのだし、実際に被害も無く相談だったとハナが言い張る以上は、アナタはそれを呑み込むしか無いのよ、ハナを信じて、ハナの為に」
「そうだな、実際に被害が有ったら君に八つ裂きにして貰うから、宜しく頼む」
「はい、全力でそうさせて頂きます」
「もう、紫苑、男の方で生きようかなぁ」
「その難民問題的に、今度は女に襲われるだけじゃ無いの?」
「あ、あぁ、無くは無いかも」
「孤独だったり不安だったりすると、灯台みたいに見えて、フラフラ寄ってっちゃうのよね」
「なんで知ってる」
「なによ」
「その、灯台の話しは」
「あぁ、実体験よ、こう光が有るとね、人間でも蛾でも寄ってっちゃうのよ、知らぬ間に惹き付けられて、近寄っちゃうの」
「もう、魔道具で抑」
「何もオーラだけの話しじゃ無いわよ、召喚者だからでも無いの。だってほら、話し掛けて無視しそうに見えないでしょう?」
「それはそうですが」
「そして笑顔で応えるから、次は頼み事をしたら聞いてくれそう、受けてくれそう。果ては甘やかしてくれそう、そう見えちゃうのよ」
「整形する」
「仕方無いですね、相談を」
「それが、顔だけでも無いのよ。だから、それをアンタが守るのよ、それも従者の仕事でしょう。ショナ坊が守るべきはソコ、でも決して周りから遠ざけて囲い込むのは良くないわ。普通の人間が囲い込んでしまったら、途端に魅力が失われた様に思えて、図に乗って、蔑ろにしてしまう」
「実体験がお有りか」
「そうね、それを自分は大罪だからと見逃した、コレは実体験を元にした忠告」
「これこそ生まれつきなのか」
「まぁ、良く言えばギフトよね。悪く言えば業。ただねぇ、アナタの場合は自覚が無いのが致命的なのよ、見た目が平凡だから尚更、向こうで高い評価だったなら上手く使う術が学べたんでしょうけれど、こうチャーミングだと蔑まされがちになるって聞くわね」
「ファニーやろ」
「じゃあファーミングにしときましょうか」
「ファーミング、農家?」
「ま、そこを考慮すれば、どう守れば良いかが分かるんじゃ無いかしらね」
「あ、珍獣か、なる程ね」
「珍獣って」
「まぁ、珍獣ね。ふあふあの触り心地が良さそうで可愛いラーテルか、クズリ」
「あぁ」
「納得するんか、何よ、ラーテルって」
「あ、この、動物ですよ」
夜行性、群れない、凶暴、何でも戦う。
何でも食べようとしちゃう、合ってる。
「世界一凶暴だそうで」
「それを認めて良いんだろうか?」
「お任せします」
「それで、綿の話しよね?」
「そう、それ、凄い脱線事故じゃんか」
「まぁまぁ、相談に乗るから戻しましょう」
「譲ろうと思う、難民とエミールに」
「良いの?」
「飽き性だし、刺繍とか仕事に出来そうも無いし、なんか、他に探す」
「書籍の印税で大丈夫だろうとは言ってるんですが」
「見本は有るのかしら?」
「ほい、読める?」
「あぁ、大丈夫よ、何百年生きてると思ってるのよ」
「おっさんか?おばさんか?」
「秘密」
「ショナ読んだ?」
「校正前の日本語訳でしたら」
「どんだけ読んでるのよ」
「第2の地球から桜木さんが帰って来るまで、何も出来無いならと非常勤扱いで、全て読みました」
「さっきのは?」
「今読んでも良いですか?」
「ちょっと、ウブには毒かと」
「なによその話、詳しく」
「いやぁ、女って怖いって、なられたら困るなと」
《印刷物をどうぞ》
「あら、ありがとう」
「まぁ、ホラーだと思って覚悟して読んでくれ。蜜仍君の様子見てくる」
「ココからそのままで良いわよ、行ってらっしゃい」
「直ぐに戻って来て下さいね」
「うい」
店内から浮島へ。
そして小屋へ、良い匂い。
「もう終わったんですか?」
「いいや、様子見に来た」
「でしたらコレ、もう出来上がったのでどうぞ」
「ありがとう、すまんね、大人がこんなんで」
「桜木様は大人2年生なのに、凄く良く、頑張ってらっしゃると思いますよ?」
「良い子良い子」
「男性、怖く無いですか?」
「寧ろ、好みじゃ無い顔がより苦手になったわ。濃い顔苦手」
「僕、濃い方ですよ?」
「少年だし、少年は特例。若いから舐めてるとかじゃ無いんだけど、可愛いから平気」
「全然気にして無さそうなのが、逆に心苦しいんですけど」
「いや、顔面がココに有ったら恐怖や怒りが出てたかもだけど、この距離でこうよ?驚きしか無いわ、なんだコレって、服も互いに着てるワケだし」
「相談で、本当に良いんですね?」
「相談じゃ無い扱いの方が困る、ビッチじゃねぇっつの、それだ、ビッチじゃ無いけどショックでも無い、何故なら、マジで何も無いから」
「分かりました、じゃあ今まで通りにしますね」
「おう、良い子良い子。戻るね」
「はい」
料理をしまい、虚栄心の店内へ。
同情の視線。
「なに、同情するなら何かくれ」
「別に、同情なんてしてしてあげないわよ」
「んー、ツンデレですか」
「そうそう、ちっちゃいわね、本当に」
「胸か、身長か」
「両方よ」
「桜木さん、何故、コレの開示を」
《誤解が生まれる可能性が有ると判断し、開示を制限しました》
「そうよね、ハナを知らないとビッチって言うでしょうし」
「ビッチちゃうわ」
「思ってませんよ、全く」
「な、どう見ても友達だろうに、ほれ、ほら」
「そう見えると思いますよ」
「でもねぇ、ハナ、コッチのこの子に言い寄られ無かった?」
「何で分かった」
「ちょっとした所よ、体の向き、仕草、表情」
「怖い、ショナ怖いぞこの人、人?」
「本当なんですか?」
「犬神憑きの家系、それを引き剥がしたから、尊敬と憧れと、異世界人への同情がゴッチャになったんでしょうよ」
「はぁ、しかもどうせまた無防備だったんでしょう、アンタ」
「トップが仏教系ぞ、来ると思わないだろう」
《お父上からも》
「も」
「あら」
「それは試し行為、男同士で結婚するって誂いに行った時に、息子可愛さに試されただけ。ちゃんと謝罪もされた、女とバレても無い」
「ソレよ、男にしたって、無防備過ぎたんじゃ無いのって言ってんのよこの子わぁ、もう、自覚なさいな」
「へい、無防備がちですぅ」
「凄く、心配になって来たんですが」
「分かるわ、うん。精霊ちゃん、他にも有るなら、今、出すべきよ」
《エンジェルトランペット事件の詳細開示、偽女媧事件のホテルでの詳細開示》
「ソラちゃん、なん、なんで逃げる」
《開示すべきと判断しました、妨害行為回避です》
「いや、もうその開示の流れは、ビッチ認定されかねなさそうなんだが」
《虚栄心を信頼しました》
「あら、ありがとうソラちゃん」
《尚、医師には全開示してあります》
「それは許す」
「ちょっと、ショナ君、何か言いなさいよ」
「それでも、妖精の淡雪を連れて来たんですか?」
「あの子は違う種、悪く無い、身体的にも何かされた感じは残って無かったし、下着もそのままだった」
「それに、このホテルの」
「どう監視されてるか分からなかったんだ、だから、仕方無い」
「だからって全裸は」
「前張りする間を与えられ無かった」
「ハナ、強がりじゃ無いのよね?」
「無い、何も無いのに気にする方がどうかしてる」
「うん、枯れてるだけね、大丈夫よショナ君」
「え、あ、はい」
「そのウチ蘇生する」
「いつになるのよソレ、ただでさえ嫉妬心の欠片も無い位に枯れてるのに、一体いつ蘇れるって言うのよ、しかもまだ若いのよ?」
「何人も見殺しにしたし、今回だって」
「だから何なのよ、戦時下じゃ当たり前よ。だからこそ、生めよ増やせよと国や宗教が後押しするんじゃ無い。あのね、人数を増やす為だけじゃ無いのよ?生きて良いって事なの」
「魔王候補が?しかもタイミング悪く、国が分裂中でしょう」
「それはもうね、100年近くぬるま湯に浸かって、国民が半分バカになっててもしょうがないじゃないのよ、って言うかそこを収めて纏めるのが召喚者でしょうよ、もう、何してんのよ」
「そらマサコちゃんの範囲じゃろうがい、若いし許せ」
「大して離れて無いでしょうよ、少し発破かけてきなさいよ、年上なら」
「無理、相性悪いし、悲嘆に暮れとるわ。もう少し待つ」
「優しいのは良いけど、アナタが損をするかも知れないのが、許せないわ、抗議してくる」
「ちょ、待って、1日、1日だけ」
「大丈夫よ、大した事じゃ無いんだから」
「いや、信じないぞそれは。それより綿、綿の仕事の話、それからまた、話しを再開しような」
「綿だけじゃ厳しいわよ」
「サフラン染め、事業が大きくなれば貝紫も、養殖で安定化させるとか」
「サフラン染めに貝紫ね、まぁ、そう売るなら悪くは無いとは思うけれど、エミール君に広告が務まるかしらね、そう言う時は女性の方が売り上げが伸びるのよ。キメ細やかさで押さないと、品物の繊細さに厳しい目が行くの、所詮、男のイメージはガサツさだから」
「リズちゃん」
「幼過ぎるし、彼女に目が行き過ぎるわ。危険に晒したくは無いでしょう」
「そんな売れる?」
「高級路線から、下のランクの商品へと行くのが通常だから、最初は高級品、そうなると大きいお金が動く。品物のイメージ、下から上は厳しそうでしょ?」
「まぁ」
「だからってのも有るけれど、広告塔なりイメージには女性が良いのよ。しかも、幼過ぎない方が良い」
「難民に転生者が居る、中身は女」
「信用度」
「魔王候補よりマシでは?」
「国民のよ、そんな事は無いって気持ちから買い支える層が出る、でも難民だとそうもいかないのよ、この世界内ならまだしも、違う星の人間でしょう。分からないって、怖いのよ」
「アクトゥリアンに見放されないと良いんだけど」
「あの宇宙人、結構情が深いのよね、ウザい位に。だから、そう心配は無いとは思うけれど、そうね、綿は保留、下準備だけしときましょう」
「お願い」
「もし候補が外れたら、アナタがやるのよ、それが条件」
「のむーお願いしまーす」
「外れないと思って安請け合いして、絶対にアンタにさせるからね」
「おや、話が戻り始めた。ショナ、どうした?」
「いえ、抗議は1日、お待ち頂けたらと思います」
「です」
「まぁ、1日ならね。1日だけ、それ以上は譲らないわよ」
「えー、具合悪くなったら?女の子よ?頭痛とか、腹痛とかさ」
「医師の診断書とペインチェック出させるわ」
「ペインチェック?」
「第三者、外部からの痛みの度合いの診断書です、こう、脳波計の様な電子図で出ます」
「へー、便利、生理復活させたら試そう」
「あら、治して無いの?」
「筈、よね?」
「はい、そこは確認が再度必要だと」
「良かった」
「はぁ、枯れの原因そこじゃ無いかしらね、嘗て女は子宮で物を考えるって馬鹿にされてたのだし」
「なら男はチ○コやんな、脳味噌チ○コマン」
「あら下品」
「脳味噌の代わりに、頭の中いっぱいのチ○コ」
「訂正、グロいわ、エログロナンセンスだわ」
「無いかな、そう言う油絵、家に飾ったるわ」
「あら、画家紹介しましょうか?」
「写実的なのが良い」
「えー、ちょっとはボカシましょうよ」
「額縁は可愛く、余白は綺麗な花にする、それはボカシてファンシーでも良い」
「対比、エログロを突っ走る気ね」
「究極に綺麗な嫌味って、素敵やん」
「それは分かる、そうね、ちょっと連絡してみましょうかね」
虚栄心が何処かにご連絡。
繋がった、古い友達らしい。
「桜木さん、僕が付いて行きますんで、また蜜仍君をお願いしても良いですか?」
「おう」
「でしたら、お刺身をお願いしといて下さい、直ぐにしまった方が良いので。コチラからご連絡差し上げます」
「じゃ、デートね、行ってらっしゃい」
「あいよー」
そして浮島へ。
アラ汁、美味すぎる。
「どうです?」
「美味い、ヤバい。あ、お刺身お願い、ワシも手伝う」
「薄造りでしたよね、お任せを。先ずは見本をお見せしますね」
「宜しくどうぞ」
量が量なので、平皿にみっちりと並べる。
美味そう、端は漬けで丼用だな。
「上手ですよ桜木様」
「先生の教え方が上手い」
「えへへ」
「しかも可愛い、完璧だな」
そして鯛の漬けに、薄造りが完成。
休憩。
ショナ、まだかしら。
「遠いんですかね?」
「ね、何か相談してるか、揉めてるか」
「ショナさんに悩みが?あ、悪い意味じゃ無くてですね、何か有ったのかなと」
「情報開示でね、ワシが男の状態で無防備だったりとか、迫られたりだなんだで心の整理が必要なんでしょう」
「不思議ですね、どうも思って無さそうにしたり、神聖視したり。桜木様を人間だって本当に思ってるんですかね?」
「どうだろな、怪しいわ」
「誰でも、桜木様に惹かれると思うんですけどね」
「お上手ですなぁ、まぁ、灯台下暗しなんでしょう、有り難いよ」
『ココの月読にも確認したが、灯台は正解だそうだ』
「あぁ、ご挨拶を、すみません、追々で」
『ふふ、構わんとさ、平時になったその時に、挨拶に来れば良いと』
「ありがとうございます、寛容な配慮に感謝致します」
【桜木さん】
「はいはい」
【遅くなりました、座標を送りましたので、どうぞ】
「はいよ。蜜仍君、クエはどうするの?」
「寝かせた方が美味しいので、ナイアスさんにお願いしてはどうかと」
「良い?」
『はぃい』
「ありがとう、行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませ」
そして座標地点へ。
図書館、若しくは美術館なのか。
兎に角デカい。
「デカいなぁ、何ココ」
「美術館よ」
確かに、美術品まみれ。
高そう。
「で」
「で、コチラが大罪の強欲」
『おう、ココの管理者でも有る』
「桜木花子です、宜しくお願いします」
『らしいな、ま、入れ入れ』
「何か問題有りました?」
『まぁ、接触の通達をするかで揉めた程度だな』
嘘、何でだ。
「あぁ、それでどうなりました」
『通達する事にした。自治区は自治区だが、我々は我々の地区に対して権利と義務が有る、それをただ行使するだけだ』
コレは本当、誤作動?
「で、油絵か何か欲しいんですって、写実的なやつ。ね?」
「今直ぐには無理かもですけど、出来たら難民に使いたい時期なんで」
『余りに突飛なら描かせる、だから描き上がってからの対価になる。で、どんなんだ』
「こう、切断面で解剖図みたいなやつ」
「で、脳味噌の代わりにめいっぱいチ○コが詰まってるやつ」
『それはどの状態のチ○コだ?』
「嫌味の強度を増すには、バッキバキかな?」
「んー、頭蓋骨突き破っちゃう感じ?」
「いやー、何かそれは違う、脳味噌っぽいのが良いんだけど」
「じゃあ半勃ちね」
『だな』
「美術館でなんつー会話を」
『作家だってこんな会話をしていたかも知れないんだ、可能性は常に否定しない。それがワシのモットー』
「立派、流石強欲ね」
「逆パターン?」
「所有が罪ならそのまま、そして傲慢。見せびらかすのが罪なら虚栄心、私達、生まれも性質も似てるのよ」
『ワシはお前みたいに法的な罪は犯しとらんよ。ただな、所持、維持、展示が罪なら別だがな』
「そこが違うのよね、どちらかと言えば直ぐに手放しちゃうから」
『コイツは新しいモノ、ワシは古きモノを所有したがる。ま、そのウチお前のもココに来るさな、虚栄心』
「ね、ドレスの展示も有るのよ、行きましょ」
『少し連絡して来る、好きに見ててくれ』
「ありがとうございます」
古き良き華美なドレス、質素な下働きのドレス。
大事にされたドレス、中身ごと大事にされなかったドレス。
展示が初心者向けだからか、面白い、時代や背景が分かり易い。
そして近くには同じ時代の絵画や花瓶、生活感が分かる。
「解説、要るかしら?」
「いや、まだ良い、面白い、好き。時代を保存してる」
「そうそう、私達が荒らし回った時のも、その前も、こうして保存してるの。歴史って大事、意外と人間って凄いのよって思うわ」
「ワシの魔剣、展示予定なのよ。多分日本、来れる?」
「見に行くわ、何をしてでも」
「そこまでは別に良いです」
「良いじゃない、あの絵画をバックにドーンとね」
「えー、あー、どう思う?」
「未成年者に見せられないのはちょっと」
「じゃあ、モザイク掛けちゃう?」
「絵画に?そこまでぇ」
『候補者に連絡が付いた、次に下絵を何枚か渡す、その時にまた詳しい好みを聞かせてくれ』
「そんな何人も?」
「卵、芸術家の卵達、時には与えられた題材で描く事も重要なのよ、そして自我を抑えていかに顧客の意を汲むか、どれだけ我を通すか、そのバランスが難しいのよ」
『時代の流れもな、楽しいぞ美術品は』
「ですね、楽しかったです、凄く、ありがとうございま」
「はい、フリーパス、ココの鍵よ」
『また来るだろう、もう顧客も同然、それなのに入場料を取れるもんか』
「大丈夫よ、絵画もフリーパスもそんなに高く無いから」
「ありがとうございます、なんで?」
『面白そうだからだ、それに召喚者の展示も、ワシも噛みたい』
「あぁ、正直で助かります、宜しくお願いします」
「じゃ、そろそろ帰りましょうかね」
ベガスは何時でも年中無休、人通りは少ないが。
日本より人が居る、何でだろう。
「なんで、人が出歩けてるんだろう」
「ま、私達への信頼よね。それに、今安くしてるのよ、皆不安でしょう?だから、少しでも気分転換になれば、少しは平和になるかなーって、安易な発想よ」
「いや、普通に素晴らしいと思うが。あ、ショナ、漁師のお兄さんとか、お店の人を招待したいな、いつか、今でも良いけど」
「漁師?あぁ、さっきの話のね、どうかしらねぇ、離婚、すると思う?」
「別に、どっちでも良い。ただ、チャンスはあげたかった。それで離婚せずに居て幸せになれたら良いが、継続して泣きを見ても知らん、次はもう助けない。そう言う方向で宜しく」
「了解です、もしご招待するなら、何処にします?」
「そりゃもうアソコよ、道変更ね、行きましょ」
以前にも泊まったホテル。
変わらない、懐かしい。
「懐かしい」
『やぁ!お散歩かい』
「そうなのよ、ちょっと下見にね」
「頑張る人に支援したくて、ココの招待状を送ろうかと。1つの家族と独身予定の真面目な漁師さん」
『良いねぇ、実に良い発想だ。ちょっとおいで、良いプランが有るよ』
「奢りよね」
『勿論だ、さ、行こう』
社長、社長オブ社長感がゴイスー。
カフェブースでケーキを食べながら、プランの説明を受ける。
航空券と宿泊券のセット、期限は年内だが、追加料金で引き伸ばせる。
他にも急に帰らないといけない人向けで、回数券に近いシステムも有る。
そうして次に来る時は、座席も部屋もグレードが下がる、ただし、追加料金で元に戻せる。
エグい、商売上手。
「上手い、どうしても行きたかったら追加料金で引き伸ばせるし、引き伸ばしたら絶対行くってなるし、凄い」
『お世辞や社交辞令用も有るよ、ほら』
「無期限、払い戻し可、払い戻し期限有り、ポイント?」
『あぁ、最低金額でね、受け取り人に支払われるんだよ』
「マネロン出来そうだけど」
『受け取り回数の上限が有るんだ、最初の3年は3年に回まで、以降は年に5回、何処のホテルとも合わせてね』
「そういう人用には?」
『アップグレードポイント自体の進呈だね、どのホテルでもポイント数に合わせてアップグレードできる』
「なんで5回」
『誕生日、バレンタインやホワイトデー、クリスマス、結婚記念日、その他』
「その他って」
『例えば、失恋。年に1回で済めば良いけれど、そうもいかない人も居る。だから、ポイント進呈も有るんだ』
「優しいなぁ、良いなぁ、良かった」
「私から、ポイント進呈するわね」
「なんで」
「誕生日」
「まだだが」
「前に、ほら」
「いやでも、そしたら2回に」
「良いじゃないの、お祝いは多い方が良いわよねぇ?」
『勿論、何かの理由で2回なら、2回感謝したら良いんだよ。自分と、周りにね』
「いやぁ、来れるかどうか」
『万が一、来れなくなったら』
「ポイントが尽きるまで毎月ココの特産品や名産品やらが送られてくるから大丈夫。はいポイントカードお願いねー」
『喜んで』
「ショナ」
「じゃあ、僕からも。また来ましょうよ」
「保留で、召喚者特典は、そんなに喜べないんだわ」
「特典て、福利厚生と思いなさいよ、ねぇ?」
「はい、出来たらそう思って欲しいんですが」
「それを捨てるんだから、受け取れない」
「じゃあ、アンタ個人に、以上。問題は有りませーん」
「個人て」
「召喚者に、召喚者だからあげるんじゃ無いもの、ならアンタ個人のじゃない」
「でも、召喚者として」
「アンタがココの人間で、偶々でもウチの店に来て、こういう服が欲しいって言ったらもう、知り合い位にはなるわよ。それでココのホテルが好きってなったら友達で、あんな絵画欲しいって言ったら、もう親友よ」
「親友?」
「なによ、嫌なの」
「嫌じゃないです」
「趣味とか考えが合うから協力してるの、だから一緒に居るのよ、理解なさい」
「はい、ありがとうございます」
「うん、宜しい」
『おや、苛められたかな?』
「苛めてやったわ、だからサービスしてあげて」
『勿論、取り敢えずウチに泊まるかい?』
「いや、また今度で、もっとちゃんと楽しめる気持ちの時に来ます、ありがとうございます」
「フラレたわね、ざまぁ」
『みたいだ、はい、君のカードだよ。本登録はその時に、泊まってくれないと登録出来ないからね。それと招待状2通、後払い設定にしておいたから、使わないと判断したら破棄して構わないよ』
「はい、ありがとうございます」
「じゃ、もう行きましょうかね、さ、忙しい忙しい」
そうしてホテルの裏口でお別れ、浮島へと戻った。
《おう、蜜仍は寝てしもうたわ》
「ちょっと時間食ったから、すまんね」
『何と言うか、微妙な雰囲気なのは気の所為だろうか』
「親友とか言う幻の称号を頂いたので、恐縮するやら何やら」
『虚栄心が、か?』
「あぁ、うん」
《大罪からの称号に喜ぶか、流石候補じゃな》
『もう、いっそなってしまうか』
「冗談でも止めて貰って良いですかね」
『坊は、ハナが魔王となれば職を辞するか』
《まぁ、従者じゃし、人間なんぞ所詮はそんなもんじゃろ》
「どうどう、明日にしよう、もう遅いんだし。少しフワフワさせててくれ」
「失礼しました」
《おうおう、すまんすまん、さ、湯に行こうぞ》
『だな、見張り役よ、頑張ると良い』
温泉に入り、乾かして貰う。
そうしてちゃんとベッドに入り。
鍵を、閉めるべきかしら。
つか、鍵は有ったっけ。
「ショナ、鍵は掛けるべき?」
「え、あ、いや、ココには無いので、もし必要でしたら取り付けますよ?」
「いや、一応聞いただけ、一応気にしてみた。おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
部屋に戻り、ベッドの上でタブレットを開く。
先生との面談。
【眠そうですね】
「とっても、でも昨日は話せなかったので」
【良いんですよ、報告は受けてますから。ですので、無理に面談しなくても大丈夫ですよ】
「いや、ショナの事でお話しが、神々や精霊がちょっとイラついてまして」
【あぁ、立場も何も違いますから。良くある事ですよ】
「それと、魔王化したら辞めるだろうって当たり前の事が、なんか、ちょっぴりショックだった。普通の、当たり前の事なのに。依存だろうか」
【依存は、本当に悪い事なんでしょうか。一切の執着が無い人間の方が私は心配で、そして怖いですけどね。そう言う方は、大概お亡くなりになってしまいますから】
「人への依存の話しでして」
【人も物も物事にも、何も執着が無い人間は存在しないのでは】
「まぁ、即身仏になってそうですが。度合とか距離が心配です」
【従者心得をご存じなら、多少依存しても問題無いとご理解しているのでは】
「その多少が問題、肌感覚で良い距離を保てる自信が無いんです」
【まぁ、まだ帰って来たばかりなんですから、少しづづ距離の微調整をしてはどうでしょう。それと、もし問題が有りそうなら、私からアナタに言う。それでどうですか?】
「宜しくお願いします。本人に言われるより気が楽そう」
【分かりました、では】
そうしてやっと、お布団の中へ。