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3月4日

 何度か寝直したのだが、限界。

 起床、計測、中域。

 日本時間は朝の5時、取り敢えずはと身支度を済ませて下階に降りる。


「桜木さん」

「ひっ、おはようございます」


「ひって、おはようございます」

「すまん、叱られると思ってつい」


「もうリズさんに叱られたそうですし、僕は止めときます」

「どうも」


「寝れませんか」

「おう、何回か寝直した」


「難民に会える状況ですが、どうしますか?」

「会う」


 クーロンに牽引され黒山羊が不時着したのは、白雨の居た孤島だったそうで、そのまま居留しているんだと。


 お互いの免疫の事は勿論、守り合う為の選択だそうで、指示は柏木さんとの事。

 的確、助かる。


 島の端に空間を開く、時差は17時間。

 孤島はもう直ぐお昼の時間。


 巨大な船が孤島を挟んでいる。

 日本の船に、アメリカ自治区の船と、英国の護衛船。


 厳つい、ちょっとワクワクしちゃう。


「前方2隻は病院船になります」

「揉めて無いかね」


「はい、コチラは」

「含みの有る物言いをする」


 指定された場所に着陸、最近出来たばかりの道を進むと、大きな竜のクーロンがアレクと共に眠っていた。


 そう、眼福なのだ。

 この世界は、眼福で溢れている。


「死んでませんよ、お昼寝してるだけですから」

「おう、眼福だと改めて思って拝んでるだけ、有り難や」


「眼福ってまた」

「黒山羊ちゃんもか、君は夜行性なのか」


《んー、おはよう》

「おはよう」

「通じるんですね」


「おはよう言うた」

「メーとしか聞こえてないです」


「なんで」

《前と同じ、その子とハナしか分かんない》


「そうか、君はどうするつもりなの、ママと合流するかい」

《うん、だけど今じゃ無い》


「なぜ」

《見届けろって》


「あぁ、見届けるんだって、黒山羊ちゃん」

「なるほど」

《それと、草、美味しい》


「んふ、草、美味いって」

「本当に言ってます?」


「マジだから困る」

「はぁ」

《行こ》


 クーロンの奥にある野営地には、災害救助で良く見るテント群。


 男女別の風呂、トイレ。

 炊き出し、給水所、それと寝泊まりする場所とは別に、教会の相談所、日本の相談所の2つ。




 言い淀んだのはコレか。


「揉めてはいないな」

「はい、揉めてはいません」


「ハナー!」

「夫さんや、ご苦労様です。ショナはもう会った?」


「はい、お世話になっております。後、賢人君に、リズちゃんも!ありがとう、本当に」

「いえいえ、離縁しよう」


「そうね、はい、指輪」

「おう、離婚式な。証人はショナで」

「あ、はい」


「で、スーちゃん呼びで良いの?アポロ君?」

「皆、新しい名前にするって、戸籍も。ほら、おいでって」


『この度は誠に、ありがとうございます。申し訳ございませんでした』

「いえいえ、名前を変えますか」


『ココでの不穏な意味を持つ名を使用したくは無いのと、前の世界との決別をと』

「登録不可能なんだって、特に彼女の」

「あぁ、でも決別せんでも良いのに。全部が全部悪いワケじゃ無いんだし、ずっと続いてきたからココに居るんだし」


「ね、ただ悪しき風習は修正して排除したいかな」

「完全排除は賛成しない、悪い見本として伝えて欲しいが。ショナ、もう話し分かる?」

「翻訳機はまだでして。前の話はソラさんが通信で翻訳を伝えてくれたので」


「あぁ、そこはササッとはいかないか」

「ですね、ただ鈴木さんのお陰でかなり進んでる方です、日本語は」

「英語も出来るのでは?」


「カタカナ語よ。神様に出来るだろ、って、ビビったよぉ、直ぐに刺繍が始まったから」

「あぁ、地下は行った?」


「行って無い、て言うかあんな場所が有るのも知らなかったの。聖櫃みたいなのは有ると知ってたけど、ただ地下が有るだけかと思ってた、遺跡とかの」

「あー。それで、名前ってどうするのよ」


「折角だし、鈴木千佳にしようかと。国籍も日本で、日本語しか出来ないし、翻訳機を使うと脳味噌使って判断鈍るんだ、ちょっと思い出さないといけない感じ」

「なるほど。で、名前と国籍は?」

『出来れば、お願いしたいのですが』


「ショナ、名前も国籍も急いで決めないとイカンかね」

「いえ、幸いにもこの離島は中立地帯、宙に浮いた場所なので大丈夫かと。ただ、税金が3国からの支出になりますので、国籍が決まった段階で再計算になります」


「あー、税金よなー、あー」

「その概念も教えないとねぇ、通貨の概念もだし」


「あー」

「まぁまぁ、世界的に余裕有りそうだし大丈夫でしょ。私も特例で働ける様になるし」


「助けて」

「勿論よ、元お嫁様」


「んー、どうすべか」

「皆と話してみたら?良い子達ばかりだし、何か思い浮かぶかも」


「ショナ、話して良い?」

「はい」




 黒山羊ちゃんの中に居た子達は主に女性、年齢の幅は大きく、お婆ちゃんから妊婦、スーちゃんと同い年位の男の子も居る。


 この年で疑問を持てるとか天才か。


「この子はどうして取り込まれたの」

《疑問を持った事がバレて、侍女に手を付けられた》


「"この年で、天才か、怯えないで良い子"」

『"アナタは怖くないから"』


「"天才だわ、判断付いて理性的、天才"学習を先にさせよう、特待生、スーちゃん補助に使って」

「"あぁ、うん"ショナさん、この子補助にしたいんだけど、だから学習を先行させたい」

「はい、掛け合ってみますね」


「推せ、強めに」

「はい。ですがその前に、何か忘れてません?」


「え、なに」


「食事です、今もですが。昨日、嘘をついたそうですね、もう食べたって。念の為に確認させたんです」

「いや、ほら、お腹減ってる感じが無くて、言い辛くて」

「まぁまぁ、そう言う時も有るわよねぇ、女の子だし」


「有る有る、それそれ」


 スーちゃんと元使節団員にケバブを与え、自分は炊き出しの味見。


 向こうで食べられていた食い物を再現した品、ふかした芋、馬のステーキ、馬のスジの塩煮込み、トマト、リンゴ、以上。


 毎食ほぼコレらしい、緑色は馬の食べ物だから食べるのに躊躇いが有るんだと、赤はトマトとリンゴしか無い。

 基本的には赤は血、血は大地へ還元しなくてはいけないと。


 大昔、まだ鳥が居た時代のお婆さんが、鳥葬の名残だろうと教えてくれた。


 そのまま食事をしつつ、話を聞いて回る。


 妊婦さんは子供が出来た事で疑問が生まれ、そのままシュブさんへ。

 お婆ちゃんはかなり古い時代の人で、それもシュブさんが眠らせていたらしい。


 その他にも黒山羊ちゃんに補助をして貰いながら、其々の話を聞くウチに、役割が元々有るのでは無いかと、スーちゃんとも話し合い、その結論へと至った。


「計算尽くじゃない、怖いんだけど」

「にしてもだ、男の割合が」

「男性はまた向こうに居ます」


「そうなの、区分けしてくれって」




 更に奥に進むと、怪我をしたり怯えたりと様々な男性の姿。


 スーちゃんと同年代も居る。


「竜種が連れて来ちゃったか」

「はい、全員回収は出来たんですが」

「女に怯えるのも居てマジ大変」


「紫苑になるかね」


 テントを借り、妖精紫苑へ。

 ショナ小さいな。


 男衆は警戒心が高い、今度は誰なのか、どんな立場なのか、どんな人間なのかと知りたいらしいが。


「ごめんなさい、怯えちゃってて」

「いや、問題はどんな人間かってのがなぁ」

《神様の加護、特別》


「えー、それは言いたく無いんだけど」

「なによ」


「神様の加護、特別って」

「あぁ!衣装ね、出して」


「ぅう」

「拝見しても」

「はいどうぞ」


 白い薔薇の刺繍がされた衣装、良く見るとレースの端には文字が入っていた。


 ざっと言うと、神様のモノだと。


「この、文字の意味は」

「神様のモノって証拠」


「処分しましょう」

「冗談、展示しないと文化の継承に差し障りが有るわいな」


「そこだけ解きましょう」

「追々な。コレ出すのも保留」

「んー、警戒心高いけど、許してね?」


「おう“じゃ、話を聞きましょう"」

『"私達も、ご一緒させて下さい"』


 使節団員アンちゃんも連れてメンズの領地へ。

 男達の話を補助員の少年にも聞かせるか迷ったが、スーちゃんの判断で同行させる事になった。


 そして紫苑の自己紹介へ、性別と言語の不安だけだったのか、妖精への興味を示された。

 説明は後でと伝え、先ずは状況把握から。


 てメンズ達は以外にも良識的。

 子供も居ると思ってか、控えめに、遠慮がちに、向こうの世界で何をしていたのか話してくれた。


 凄く良く言って種馬、酷い時代のはリアルがち。

 散々持て囃し、持ち上げて囲う。

 最初は喜んで応えていた手前、もうそれで当たり前だと思うしか無いといった雰囲気。


 だから花子に警戒心が高かったんだな。

 精神科医が必要だコレ。


「コレ、精神科医が必要やんな」

「でも、文化も何も違うから、お医者さんを選ぶの難しく無い?」


「確かに、下手したら自我崩壊しそうだよな」

「学習はコッチを優先させるべきかも、色々な事を知って、合うのを選んで欲しい」

『選んで、良いんでしょうか』


「おう、勿論。"君もだよ少年、神様を完全な悪とするか、そう言う神様も居るんだって思ってくれる世界で生きるか、選ぶのは君達だから"」

『"はい"』

『"そう、受け入れてくれる世界が、有るのでしょうか"』


「"ワシは受け入れる、良い悪いだけじゃ無くて、怒ったり悲しんだりする神様達を、実際に見て来たし"」

「"それ聞きたいぃ、あー、どうしよう、時系列でも聞きたいけど、あー"」


「んー、妖精の事もだし、でも最初が肝心だろうし。最初に話すべきは何だろう」

「あ、でも、ご本人様がいらっしゃるのよね?」


「まぁ。そうだ、向こうとも話をするか」

「向こう?あぁ、教会地区ね、でも、アナタを候補にした人間が居るんでしょう?」


「召喚者も居る筈、よね?」

「はい、教会の人間に、天使も」


「おー、天使さんに会いに行くわ」


 使節団員のアンちゃんと少年とは中立地帯でお別れし、テントで花子へ変身。

 そしてスーちゃんとショナと、黒山羊ちゃんと共に教会の領地へ。





 物々しい、厳戒態勢、物騒。


「"ずっとこうなのよ"」

「"警戒心は警戒心を呼びそうだが、まぁ、良いか"天使さんに会いに来ました」


 阿保らしい数々の伝令業務を待っている間、ヘルヘイムで消された天使さんがやって来た。


 良かった、生きてる?のね。


【どうも、お元気そうでなによりです】

「そちらも、良かった、元に戻ってて」


【ご心配お掛けした様で、先ずはお詫びを。他者の領地における振る舞いとしては不適切でした、もう向こうの方にお会いする事は出来ませんので、アナタにお詫び申し上げます】

「承りました。助かったのは事実です、ありがとうございました。でももう踏み入り過ぎないで下さいね、周りがヒヤヒヤするので、凍てついてしまいます」


【はい、つい嬉しくて、すみませんでした】

「いえいえ、そちらはどうですか」


【お会いする顔が無い、と。かなり反省し、落ち込んでいます】

「あー、気にしなくて良いのに」


『お待たせしました、自治区代表補佐のマイケル・ジョンソンです』


 日本語流暢。


「桜木花子です、どうも」

『彼女に、心の準備をする時間を下さい。先ずは、コチラのお話しを出来たらと、どうぞ』


「ココで?」

『はい、申し訳ございませんが』

「少しは顔を立ててあげましょうよ、ね?ハナ」


「あぁ、はい」


 巨大なテントの奥は結界盛り沢山、ここまでするとは。


 なんだ、謝罪を悟られたくも無いの?

 撤回のお願い、やめようかな。


『この度は誠に』

「土下座は却下、ポーズが大嫌いなのは知りませんでしたか」


『すみません、ですが』

「トップか全加担者の土下座以外は意味は全く無い、補佐さん。何の謝罪か詳しく聞きたいです」


『侵攻への荷担、一端を担う結果となり』

「具体的には」


『アナタ様の情報を漏らしました、ただ、意図的にでは無く』

「詳しく、人生は短いので、端的に分かり易く具体的に」


 使節団との世間話から始まり、本当の事を話しているかの証明に原本を提示してしまった。

 字が僅かに読めると言う事を鵜呑みにし、黒塗りもせず、公式の書類を渡して読ませてしまったと。


 いや、内容によっては、別にコレはギリギリ悪く無いのでは。


「黒塗りすべきでしたよね、階級別の情報開示の意味が無くなりますから」

『全くその通りです、申し訳ございません』

「お、怒ってんの珍しい。そのワシの情報見たい、見せたのと、原本と」


『はい、ですが書類は既に廃棄済みで、今、改めて印刷して参ります』

「では、コチラもタブレットを出しますので、ストレージの解禁をお願いします」

「あ、じゃあ更にウチの結界魔道具も出すか、アナタ達は信用ならんので」


『はい、どうぞ』


 見守り君改、そしてショナのタブレットを出し、印刷物待ち。




 そうして渡された印刷物とタブレットを見比べる、内容の差が凄い。


「ショナ」

「はい、僕の権限では、こうです」

「そんな?」


 書類には、無宗教だとか、情に厚くほだされやすい的な内容。

 タブレットの方には。但し、明確な判断基準が有り、無条件に優しいワケでは無いので注意が必要、と。


 大体がどれもこんな感じ、向こうの月読さんもこうしただろうと予想はしてたが、こんな落差だったんかしら。


「スーちゃん、この後に、但し書きが有る。全部に、沢山」

「あー、この提示書類だと、ただのボヤボヤしてるお嬢さんだものね」

「コレが1番だと上との総意でして、これにはコチラにも責任は有ります」


「まぁ、過度に持ち上げられたく無いから良いんだが」

「でもねぇ、能力の開示も全然じゃない」

「コレは元々の国連の総意です、知れる立場に有るのは極一部にすべきだと」


「まぁ、実際にこう言う事が有ったんだし、正しいとは思うけど」

「コレが全てだとは言って無いんですよね、補佐さん」


『正確には、私達の知り得る限りはコレですと』

「それで魔王候補の事は、あぁ、ココか」

「弱いから味方を増やしたって、しかも自治区の私見を鵜呑みに、まぁ、しちゃうか。教義も似てるし、そっちも、自国の事は悪く言わないでしょうし」


『誠に、お恥ずかしい限りです』

「ウチなら、どうしたろうか、ショナ君や」


「そもそも先ずは検疫。その間に宗教観、罪や罰の擦り合わせ、禁止事項と道徳と規範の確認で、少し違和感を感じ取れた筈かと」

「ココと相性が良過ぎたのよきっと、だから確認するまでも無く、同じだと思ったんじゃない?」

『全くその通りで、他国との擦り合わせのノウハウも無いままに、突っ走りました』

「使節団は、最初から分かってたんかな、ココがそうだって」


『聞くに、指定されたと』

「黒山羊ちゃん」

《何もして無い、向こうに行ってママとは共有したけど、何もして無い》


「んー、なら何でだ」

《ココからの転生者居た、船に居る》


「あー、マジか、蘇生させるべきか」

《無理だと思う、脳味噌、もう壊れてる》


「あぁ」


「どうしたの?」

「ココの転生者が居たって、もう脳味噌だけになってて、壊れてるって」


「なら知ってたのね、ココの事を」

「桜木さん、本当にその黒山羊は」


「紋は残ってる筈、嘘を言ってごらん」

《草、まずい》

「ぅあ、赤い紋様、どしたの」

「盟約魔法ですか、でも」


「赦す。助けてくれたか動力にしたんだかは不明だが、助ける行為はしてくれた」

《両方、あんなボロボロ想定外、ママごめん言ってた》


「あぁ、そう」


『その黒山羊は、一体』

「君は、なに」

《ママの子、黒い仔山羊》


「シュブさんの子、黒い仔山羊なんだと。もう仔山羊ちゃうやん」

《小さいと踏み潰されそうなる、草食べるの最適》


「あぁ、助けるのと動力にしたのと。サイズは小さいと踏み潰されるからと、草を食べるに最適なんだと」

「賢い山羊ちゃんだなぁ、よしよし」


『最初に、私達に接触して頂けてれば』

《余計な事はダメ言われた、それに適性無い、意味無い願い》

「余計な接触はダメと、適性無い、無意味な願い。だと」


「どうして、桜木さんなんでしょう」

《同じの、明るいの目指せって》

「同じので大きい光りを目指してたらしい、多分、容量の事。ココでも灯台とは、流石アマテラスさん達だ」

「どうだった?女神?男神?」


「和服の、エロい未亡人風。月読さんはスーツのバリキャリお姉さん。豊乳姉妹」

「はー、尊い」


「ちょっと話を戻そうな、候補はどうなりますか」


『申し訳御座いませんが、今直ぐには無理なのです。より広義の意味で候補を撤回するには、騒動が収まってから、すべきだろうと』

「その事ですが、期限も何も書類には書かれてませんでしたね、実質口約束も同じだと言うのは理解しての行為ですか」

「ショナさんて怖いのね」

「普段は優しいのよ、凄く」


『お約束申し上げたくとも、本当に、申し訳御座いません。もう、分裂状態で、合意に達する事も、もう不可能なのです』

「召喚者権限はどうしました」


『難しい状態でして』

「では、マサコ・リタ・小野坂氏にお会いさせて下さい」

「召喚者権限?知ってる?」

「なんそれ」


「厄災下において、国のトップと同じ権限の発動が可能なんです。ただ、民意の合意は必要ですが」

『そこが、民意も割れているからこそ、不可能なのです』

「いや、そこを纏めろと言いたいが」

「未成年には、難しいんでしょう」


「あぁ、それはそれだろうけど、どんだけ死んでると思ってんの」

『だからこそ、悩まれておられる状況で』


「覚悟も無い、帰ろうともしないとは、ちょっとイラッとするな」

「居て欲しく無い感じ?」


「この、自治区の弱点にもなり得るんだから、意志表明だけしっかりして、最初の願い通り帰るべき」

「そこはほら、責任を」


「だからこそだ、罪悪感に漬け込まれて、結局は良い様に操られて、また沢山の犠牲者を出してしまったら、今度はどう責任を取る。そも未成年に、その判断が正常にできるかね」

「そうだけど」


「罪悪感を逆手に取られて行動しても、結局は後悔する事だって有るんだから、引くべき時は引かないと」

「ささる」


「ごめん、でも本当に、生きる為に罪悪感を抑えないと、思考出来なくなるよ」

「それ、どう抑えたら良いと思う?」


「理想と信念が有る。ただ、スーちゃんを愛する人は、罪悪感を抱えて生きてと願うと思う?ワシは願わんよ?」


「私を好きなら願わないで欲しいけど、今度は自分が、それを受け入れられるか分からない」

「直ぐには無理よ、あくまでも信念と理想であって、ワシだって完全にそう思えてるワケでは無いし」


「でも、だからこそ、罪悪感を取り除くのは難しいって」

「分かるよ、でもだからって、会わない選択肢は無い。不快に思われても殺されても、先ずは直ぐに直接謝る、罪悪感をぶつけてでも、困らせても良い、なんせ若いんだから。そうやって罪を認めるって事は、怒られて叱られる義務が発生するし、許してくれない場合には、無視する権利も出来上がると思う。こりゃ合わないなと」


『そう、今、彼女なりに罪悪感を昇華すべく』

「もう既に罪悪感で判断を鈍らせてるから、分裂したままの国を放置し、ココで自己満足に浸って会うのにすら躊躇いが有るんでしょうよ。こうしてスーちゃんにすら悪い影響を与えてる、分かってるでしょうジョンソンさん、既に悪手を発動させてると、もっと説得すべきでした。残念」


『それこそ、まだ幼いですし』

「残るならそんな言い訳すべきじゃない、いずれは将来の伴侶、子供、子孫に影響が及ぶんだから。現にもう周囲に影響を及ぼしているからこそ分裂してる感も有る、ならもう言い訳してる場合じゃ無い。贖罪に召喚者はこうしてた、なら一般人は、子供はこうしなきゃ、なら孫は、自分は、こうしないとと負の連鎖が生じかねない、本当なら、今からもうそれを絶たなきゃならない。それはそれ、これはこれ、死者に償うより生きてる人間に目を向けるべき、目途と節目は大事。勝手に尽くしたきゃ尽くせば良いけど、ただ、周りに知られずに、ひっそりと個人的に贖罪に勤しむべき。マサコちゃんは、自分の影響力をもっと考えないとダメだ」


「再婚して」

「やだ、お友達で居て、ワシは寄り掛かりたいタイプなの、全力で人に寄り掛かりたい」


「分かる、なら同族じゃ、無理か」

「おう、コレに限っては、マイナスを掛けてもプラスにならない、身近に居たけど無理だったぞ」


「交友関係広いね」

「興味が強いだけ」


『改めて、マサコ様にお話し頂けませんか』

「だが断る。ソッチが来るべきだ。そも洗脳だ誘導だって言われたく無い、そう言われたら殺す自信が有る、絶対に、本気で」

「なんか、経験有る?」


「言う通りにしたのに。アナタがそうしたら良いって言うから。強制された。洗脳された。って、納得して最終的に判断を下したのは自分やんけ、人のせいにするなと」

「あー」


「納得して貰えてると思ったのに、自分の立場が悪くなると翻されて。しかも酷いのだと、その納得したのはフリだったとか、納得した事すら忘れてるとか。お節介だったからだろうけど、もう、そう言いそうなのとは関わりたく無いねん」

「帰りたく無いのが良く分かる、それ、ウチの弟もそうだった。ずっと、私が悪いのかと思ってたけど、違うのよね、もう、そう言う性質なのよ」


「マサコちゃんがそうとは言わないけど、弱ってる時に強い言葉は毒。だけど調節出来る自信は無い。他の、ウチの精神科医とかどうだろうか」

「それも検討されましたが、お断りされるかと。今の患者が最優先で、こう言った事が起った以上は信頼関係に影響を及ぼす事は、一切控えたいと」


「あら、先生、良い奴じゃん」

「ですので、その手は使えません」


「スーちゃん」

「えー、年下の女の子って苦手なんだけど」


「ワシも、アンちゃんと相談して話し合ってみてよ、直ぐに候補が撤回されないと困るワケでも無いし。ワシは違う方面からアプローチ出来ないか考える」


「桜木さん、本当に良いんですか?」

「他に方法無くなったら、また考えるし」

「うん、分かったわ」


「じゃあ。直ぐに撤回出来ないのは納得した、国の事情も把握し納得した、だからこそ余計に直接の接触には再考が必要なので、日を改めさせて頂きます。ただ、事付けはします、桜木花子は許すので罪悪感を持たなくても大丈夫だと、話したい事が有れば赴くとも。こんなんで良いかショナ君」

「はい」


「じゃあそう言う事です、はい」

『ありがとうございます。確かに、お伝えさせて頂きます』


「あ、それと、他国の神々や精霊について、どう受け入れたんですか?それとも、受け入れて無い?」


『我々の神はあくまでも主。ただ、他にも、他の国々にも神が居る。それは過去に悪魔、異端としていたモノであっても、それは我々の主観であり、押し付ける事は戦争を招くと天使様が仰っている、自分達も、そう思っております』

「じゃあ、先ずはそれを教えてあげて下さい、難民に」


『はい、承りました』


 見守り君改を収納し、テントを出る。




 大変じゃん、国が分裂って一大事よコレ。

 でも、それを厄災と呼べるだろうか。


「大変みたいね」

「ね、だからってワシの手を借りるなら、相応の対価は必要よな。持参品無しは門前払いぞ」


「私は、何を対価にしたら良い?」

「羨む位に幸せになる事」


「やっぱり再婚しましょう、第7夫で良いから」

「日替わりってしんどそう」


「ね、体が持たなそうよね」

「毎日って、仕事出来ないのでは」


「そこは夫がするのよ、仕事も家事も。普通は第3までだし」

「あぁ、2日置きか。でも子孫繫栄なら、1周回って逆になりそうだけど」

《子種、薄い》


「生々しい事を」

「なになに」


「子種が薄いからだと」

「あー、確かにそうなのかも。周りが常に妊娠してるってワケでも無かったし」


「それは村だからでは?」

「村では男女同数居たけど、混合なのに妊娠率低かったかも。生める人ほど偉くて、都に献上される子が多い程、偉いから」


「あー、義務じゃ辛いだろう」

「辛いと思ったらダメってのが辛かったみたい、良く泣いてたもの、遺伝学上の父」


「ご愁傷様で」

「良いの、教義に苦しめられてたけど、疑問を抱ける人でも無かったから、ココで生きてても辛かったと思う。母親も、カースト上位だから発狂してるわね、間違いなく」


「お疲れ」

「いえいえ、基本的に子供は村全体でって感じだったから、毎年供養するだけにしとく」


「お墓とかどうなの、そっちの」

「神都の礼拝堂がその役割りだったから、暫くはそれに似たのが欲しいなとは思う」


「あー、浮島に建てて、接岸させるのはどうだろうか、ショナ君」

「桜木さんの聖域なんですよ、そこまで身を削って」


「元はワシのじゃ無いし、例え見返りが無い所か反旗を翻す事は有っても、コレは仕方無い、一種の子離れだ。受け入れないと」

「分かりました、相談させて下さい。浮島で」


「はいよ、スーちゃん来る?」

「やった」


 黒山羊も使節団員(アンちゃん)も連れて浮島へ。




 スーちゃんもう大はしゃぎ、ドリアードとナイアスを拝んでる。


 まさか、百合族か。


「スーちゃん、百合を眺めるのがお好きでらっしゃいますか」

「夏の野の茂みに咲ける姫百合の、知ら得ぬ思いは楽しきものです」


「和歌、無理」

「誰にも知られず楽しんでおります」

『うむ、合っておるな』


「クエビコさんの、杖でございます」

「先ずは今の口語を忘れて下さい、お願いします」

『そう罪でも無いのだ、何も恐れる事はあるまいよ。そこのは夏の野の茂みが好きだそうだしな』


「野薔薇を堪能させて頂く側でござ」

「あぁ、分からないけど分かるわ、うん、ほぼ同志ね」


「「握手」」


『あ、あの、この』

「はっ、えーっと、知恵の神様で、良いのかしら」

『あぁ、その対の1つだな』

「オモイカネさんも居るでな、ソッチはマジトップシークレットなんで無理」


「あぁ、もう神様に性癖を知られてしまうなんて」

「興味無いなら接触して来ないから大丈夫。アンちゃん、ココの知恵の神様の1神、向こうは他国の木の精霊、コッチは水の精霊」

『ご挨拶を、アンリマユ、カイン、リリスでございます』


『うむ、良く挨拶をしてくれた、嬉しく思う』

《我もな、ナイアスもじゃろう》

『ひぇい…』

「あぁ、愛しい、どうしよう」


『この様に、歓迎して頂けるとは、思わず』


 泣くか、そうか。


「次に泣いたらワシは立ち去るぞ、我慢しなさい」

『っ、はい、申し訳ございません』

『構わん、喜んでくれて何よりだ』


「じゃ、休憩、ワシは一服する」


 一服。


 最高。




 そして一服を終えて、計測、中域。

 次はまったりとエリクサー、チビチビ飲みながら皆でオヤツ。

 オヤツは果物、アンちゃんはイチジクに感動しておられる。


「桜木さん、お強くなられましたね」

「あ、ダメだよショナさん、それ良い言葉じゃ無い、何なら私は大嫌い。そうやって、強そうだしって断られた」

「どうどう、もう吐き出そうか」


「甘えるのが怖くて、凄い辛かった、強がりはそのまま受け取られるし、甘えるのが怖いって分かって貰えなくて。最悪、嫌い。私の地雷、ごめん」

「それ辛いな、クソ野郎だな、ココから呪っとこうな。ショナ君、他意は無いとはいえ、謝罪しとこう」

「すみません、全くその意図は無いんですが。以後、気を付けます」


「そうそう、最初から見てたらそうよな、マジで虚弱で弱いの見て来たんだし」

「最初からなの?」

「はい、入院してらした時からです」


「インフルで死にかけで転移」

「そっか、ごめんなさい」

「いえ」


「ハナの地雷は、なに?」

「家族、虐待無しのクソ家庭」


「あぁ、うん、分かる。明確な虐待じゃないと、コッチが非人道的だって、我儘扱いなのよね。情は無いのかとか、薄情、優しくないだこーだ」

「全部、覚えてるの辛いよな」


「ね、何で、全部覚えてるんだろうって思ってた。記憶が無ければ苦しまなかったと思う、疑問に思える程、元の頭が良い方じゃ無かった筈だし」

「分かる、何でワシやねんと」


「そう、何でって。でもこうしてると、理由が有る気がして安心してる所もある、けど、自分が生きたい様に生きたいとも思っちゃう」


「世の中の社長は、如何に上手く仕事を周りに任せちゃうかが重要だと思ってた。親戚の叔父さんがそんなんで、社長ってそうなのかと子供の頃に思って、でも周りは大変そうで。それが1周回って、今は、それが社長なのかとも思う、だからスーちゃんにはそうなって欲しい、仕事を割り振りしまくって、役割はこなしても、役割に飲まれず生きて欲しい。それこそ生まれた時点でその権利は有る筈、例え、大罪人の子供でも、借金は相続拒否が許されてるんだから、相続しない権利も有るべ」


「罪を借金って、まぁ、そうか、そうよね」

「そうじゃ無いなら、罪人ばかりでココは地獄で、天国が別の所に有る事になる。だが現世こそ天国、そこを如何に保つかかと」

「桜木さんは、元魔王や大罪にも、そう思っているんでしょうか」


「いや、アレは子供では無く本人で記憶を保持してるし、償う意志も有る。だからこそ意志を最優先するが、最初から放棄する考えだったなら、強制的に償わせてたと思う。そこまでお人好しに見えるか」


「いえ、ただ、償うつもりが無かったら、どうしていたのかと」

「それこそ、難民の相手とか?急に奪ったら禁断症状出そうだし、あ、もう出てそう?」

「大丈夫、そこは同意無しはダメって分かってくれてるし、アンちゃんか私達に先ずは相談するって約束もしてくれたし」


「あぁ、すまんね、トロトロしてたから、ありがとう」

「いやいやいや、凄い怪我したって聞いてたし。凄いなぁ、魔法。氷や水、風を出す魔法しか知らなかったから」


「凄いよな、コレはマジでビビったもの」

「それで、神様の事、どうする?」


「ショナ君や、どうしようか」

「相談したんですが、お任せするそうです」


「無責任、ひでぇ」

「ねぇ、最初に出会ったのは?」


「あぁ、恵比寿さん」


 魔力が足りないと嘆いていた時に、凄い味のエリクサーを持って現れてくれた。

 次にスクナさん、そして魔王。




「ぅうっ、その話、ズルい」

「それがあのアレク、めっちゃ軽い、軽くてウザいのに、最近は大人しい」


「へー、めっちゃ、イケメンさんじゃない」

「そうそう、それから憤怒さんで、ドリアード。初めての失神やで」

「桜木さんに祝福を授けようとして、失敗したんですよね」

《それは本当に、悪かったと思っておる、すまん》


「それからはもう、ティターニア、オベロン、立て続けよな」

「でしたね」

「ショナ君はずっとなの?」


「だね、良く面倒を見てくれてると思うよ」

「そうですね、直ぐに逃げ出そうとしますし」


「だって、お偉いさんの会議に黙って連れてくんだもの」

「あー、酷い子だなぁ」

「言ったら絶対来ないと思ったので」


「まぁ、そうなんですけどね。だって、顔見せとかアホ言うんだもの」

「凄かったですよ、初戦完勝、無傷で通しましたから」

「なら、どうして囲えると思ったのかな」


「そこは、我々がかなり弱いと思ったのでは」

『すみません、はい、そうです』

「それと、地球に帰れる能力が無いと思ったんでしょうよ」

「でも、来たのよね?」


「そこなんですよ、実際には自力で帰れて無いワケですし」

「シュブさんの助力かも」

《はい》


「だそうです」

「だそうですって、恨み言の1つも無いの?」


「無い、ワシじゃなきゃ出来なかった、と言う言葉を信じる他に無いから」

「うん、悪いけど、私もそう思う」

「ですね」


「いや、公の人はダメよ、公正に公平に出たデータで評価してくれ」

「僕のはダメですか」


「ダメだね、褒めるの禁止も変わらんし」

「流石ハナ、良い子、優しぅ」


「スーちゃんもダメ」

「うぅ、なんね」


「後々覆されたら殺しちゃう、ワシの信頼は重い、お互いの身を護る為、お願い、分かった?」


「分かった、お手紙で出す」

「黒山羊さんに食べさせる」

《紙?羊皮?》


「紙の筈」

「羊皮か、なるほどね。有るかな?」

「はい、取り寄せますね」

《羊皮は多分、食べない》


「煮込むか」

「え」

「え、まさか食べる気?」


「食えないの?」

「化学薬品を使ってますし」

「そこまでする?」


「しちゃダメ?」

「ダメと言うか」

「うん、ショナ君大変だったよね、ご苦労様、許した」


「ありがとうございます」

「仲直りは良い事だ」

「まさか狙ってやってる?」


「いや、偶々」

「そう願ってます」

「あざといと違うジャンル、何、何て言えば良いのかしら、クエビコ様」

『臍曲り、偏屈、頑固、愚直、天邪鬼、お人好し、捻くれ者、寛容で気難しい』


「それ、天邪鬼さんて居るのでしょうか?」

『アメノサグメ、神託の巫女か。雉のナキメと呼ばれる神鳥、どちらの事だろうか』

「大昔の話で。告げ口を、使者に神託を不用意に伝えてしまった事で、神鳥が射殺されてしまったんです」

「あぁ、成り立ちがややこしい」


「それか、精霊の木霊、山彦ですかね。良く人に悪戯するので」

「悪戯はして無いぞ」


「意外、真面目」

「そこは受け取る」

「桜木さん、アレクが起きたみたいですよ。通信機、付けて無いんですか?」


「あぁ、しまったままだわ。終わって無いかもだしな、うん、します」

「まだ、厄災中なの?」


「審議中っぽい、国の分裂って入るんかね」

「国が分裂って相当じゃない?」

「審議が伸びているのも、そのせいかも知れませんし」


「ある意味タイミング良いのかも、今のウチに帰投へ向けさせられるし」

「確かに、本決まりして後悔されても嫌だしね」


「話し合ってくれない?ワシ神様に相性悪いって言われてるねん」

「そうなのね、うん、頑張ってみる」




 下に降りると早速揉め事。

 なんで。


「サクラ、あの女が、小野坂が向こうに入ろうとした、クーロンが止めてる」

「説明はしてあるんだよね?」

「したした、補佐さんにも本人にも。もー、何でだろう」


「足りなかったんじゃ無いだろうか」

「えー」


「ワシは行けないから、頼むスーちゃん、ショナも」

「はい」


 血迷い過ぎだよマサコちゃん。


「ごめん、サクラ」


「いや、君は、治って良いと思ってるかね」

「同意を得なかった事は、良くないと思う。俺は同意を得て貰ったから、本当は、そうしたかった」


「まぁ、答えを聞けるまでに時間が掛かったでしょうよ」

「うん、そこは同意する」


「ですよねぇ」


「やっぱり、嫌だった?」

「まぁ、何かしらの罰は受けた方が安心するからね」


「俺は、罰をまだ受けて無い」

「コレからじゃ無いの、まだかもなんだし、保留で」


「うん」

「何で大人しいの」


「俺でも分からない事を体験してるから、どうしたら良いか分からなくて、それと、怒られたく無い」

「なにした」


「何もしなかった、探しもしなかった。まだ何処かに居ると思ってたから」

「それで宜しい、チャラチャラしてろ、ウザく有れ」


「良いの?ウザいんでしょ?」

「好かれる必要なんか無い、君は君、コッチの事は気にするな」


「それは無理、好かれないと嫌われそう」

「あぁ、嫌われろ」


「むり、嫌でしょ?」

「フルスマイルウザいわ、良いウザさだ、落ち着く」


「ウザいのに落ち着く?」

「おう、落ち着く」


「桜木さん、暫く掛かるので賢人君をと。出来れば、そのまま帰って欲しいそうです」

「良いけど、大丈夫そうなの?」


「少し感情的になってまして、その、小野坂氏が」

「天使さん、落ち着かせられないかね」


【はい、少し、お時間を頂ければと】


「お願いします」

【はい】


 先ずは浮島から省庁へ。




 ふと、自分はただの伝書鳩の様に思えるのは、穿ち過ぎだろうか。


「浮島の件、了承頂けました。それと賢人君ですが、桜木様の従者から鈴木様の従者に移動させようかと」

「どうぞどうぞ、何ならショナもミーシャもどうぞ。ワシ、身を守れるし」

「ココまで来れなくなりますよ桜木さん」


「あぁ、ミーシャ、怒るかな」

「かも知れませんね」

「暫くは男性だけとの要望が御座いますので、それまでに説得頂ければ、可能かと」


「あぁ、はい」


「それと、候補の事、大変申し訳ございませんでした。直接お話ししたいとの申し出を、ご期待させる形になってしまいました」

「いや、分裂してるって知ってたら、そうは受け取らなかったでしょう」


「はい、正直、予想はしていましたが、民意までとは思いませんでした」

「アレが現れて、黒くなって消えたら、ビビるでしょう、仕方無い」


「今暫く、お待ち下さい」

「はい。ただ、出来る事はしたいのですが」


「はい、先ずは礼拝堂ですね、宜しくお願い致します。建築は、神々にお願い出来たらと」

「おう、何でも良いんですね」


「はい、ご協力頂けるのでしたら。我々はどの神も尊び、敬っておりますので」


 早速浮島へ、先ずは賢人君を送り出し。

 眠る為に小屋へと向かう。


「あの、桜木さん、もう見当が付いてそうなんですが」

「秘密。ちょっと昼寝するわ、おやすみ」






『本当に、良いんでしょうかね』

「何故、良くないと思うソロモンさん。見ただろ、今の」


『そうですが』


 目覚めたのは映画館、記憶を再生する施設。

 柏木さん、こんなに白髪有ったかしら。


「察してる口ぶりだし、こう言ってるんだ、大丈夫だべ」

『国としては良いかも知れませんが、アナタ個人の裁量に任せた結果とも言い逃れ出来るんです、いずれはアナタに責任がいくかも知れないんですよ』


「良い、隠してもバレる、なら隠さない。それで何か言うなら開き直る、コレだけ持ってるがやらなかったんだぞ、偉いだろうって」

『世界征服を、ですか。だから魔王候補にされるのでは?』


「そこは良い判断だと思うよ?能力的には正解だと思う」

『もう少し、抗いません?』


「どうやって?聖人君主じゃないのに、聖人と偽れと?」

『んー、良い人間だと、皆に広めて貰うとか』


「拡大解釈されても困る。なに、協力したく無いなら別に良いのに」

『そこです、何故、私達なんでしょう』


「出来るでしょ?」

『出来ますけれど』


「他に理由が欲しい?」

『いえ、必要と言うか、純粋な疑問です』


「最短最速で出来ると思い浮かんだのがソロモンさん達だから、それに、異国の異神の礼拝堂を、他の神様に作らせるには、今回は骨が折れそう、バッキバキに」

『私達なら、良いと』


「思い遣りの無い世界によって追い遣られた神様が作るって、凄い良い事だと思う。思い遣りの無い世界からの復活、思い遣りによって異国の異神の礼拝堂を作るの、エモい、素敵、偉い、好き」


『まぁ、そう言う算段で有るなら呑みましょう』

「上手く行くと思う?」


『そこはアナタにお任せします、我々が人々に姿を見せる事は無いかと』

「なぜ」


『もう、そんなに人間が好きでは無いんですよ』

「スーちゃん良い子よ本当に、リズちゃんもショナも」


『偶々では』

「まぁ、でもスーちゃんだけ、お願い、説明に必要」


『対価次第ですね』

「人間が好きじゃ無いのは、嫌いとは違う?」


『そうですね』

「なら、残滓だけでココに?」


『それと、アナタの闇』

「闇」


『嫉妬、対価は嫉妬心でお願いします』

「無茶を」


『嘗て有ったのは知っていますよ、片思いの嫉妬、最高でしたね、ほら』

「それで勘弁して、今はそれどころじゃ」


『今直ぐは無理でしょうけれど、そうですね、1年以内の対価の支払いで。出来なければ命を頂きます』

「急に悪魔チックな取引っぽい事を、なんで?そんな楽しい?」


『萌え』

「あぁ、凄い性癖だ、ちょっと考えさせてもろても」


『良いんですか、ソロモンに断られたからと他の神々や精霊に頼んで、向こうは快く思うでしょうかね』

「他の人のじゃダメか」


『ダメです、アナタの嫉妬心しか受け取りません』

「なんで」


『アナタの頼みだからですよ』

「いや、元はスーちゃんで」


『実際に願ったのはアナタ』

「あぁ、意地悪だ」


『そうですかね?かなり良心的だと思いますよ』

「人間が取引内容を言わない理由が分かった、言えないなコレ」


『言っても良いですよ、では、頑張って下さいね』

「あぁ、はい、宜しくお願いします」






 映画館を出ると同時に目が覚めた。


 コレは悪魔的取引だ、思考の指向性が強制されて、頼まないと言う選択が出来なかった気がする。


 うん、もう頼むの止めよう。


「桜木さん、あの、人が湧いて来て」

「あぁ、知り合いだから無視して」


 外を見ると、影から物資を取り出し建てる大工達の姿。

 衣服や人種はもろに日本人なのだが、体格は日本人離れしている。


「大丈夫ですか?」

「大丈夫、問題無い」


 便宜を図れるとは思わないが、タバコの葉とお酒を進呈すると、物品が影に沈んでいった。


 喜んでくれたのか、作業人数とスピードが大幅アップ。


 まぁ、もう死んじゃえば良いか。


『ダメですよ、それは許しません』

「出て来ないんじゃ無かったの」


『人間に説明をと言ってましたでしょう?』

「してくれるのね」


『はい、喜んで』

「あの」


『ソロモンです、お見知りおきを』

「関わらないで良いから、休んでて」


「あぁ、はい」


『怒ってます?』

「そこそこ、指向性が歪められるとは思わなかった」


『それは勘違いですよ、本当に、アナタが最適解だと思った方向へ行っただけですから』

「本当かい」


『はい。それに、そんなに難しい対価だとは思わないんですけれどね』


「厄災中だとしたら不謹慎やし、そうで無くともだ」

『平和になるのが楽しみですね』


「もう楽しいか」

『はい』


「それは良かった」

『ふふふ、もう見せに行きましょう、出来上がりを見せるだけでは奇蹟とすら認めて貰えないかも知れませんからね』


「はい、移動」

《了解》


 艦隊の小船が接岸するのとは反対側へ、浮島を移動させ、認識阻害を解除。


 後は架け橋、一直線の道を孤島へ伸ばしていると、職人が柵を作り始めた。


『お酒と葉を頂いたので、オマケです』

「どうも」




 アレク、クーロンだけで無く、スーちゃん、アンちゃん達と続々と橋の袂に集まって来た。


 天使さんも、地上で拍手してくれてる。


【異教の神よ、お久し振りです】

『どうも、弾圧にもめげずに復活を遂げられました、コレも救世主のお陰です』

「ワシを使って喧嘩しないでね」


【とんでもない、祝福と歓迎を】

『それはどうも、ただ祝福は遠慮させて頂きますね。なんせ、出来た建物は墓地でも有りますから』


「ハナ、凄いぃ」

「凄いのは神様達、ワシはお願いしただけ。ソロモンさんです」

『どうも、ソロモンと72柱の愉快な仲間達です、どうかお見知りおきを』


「ありがとうございます。ですが、異教の、異神の神殿だと」

『存じていますよ。それでも、人々の支えでも有った事は間違い無いのですから。受容、寛容、その心を持ち合わせていれば当然の事かと』


「イケメン、素敵です、本当にありがとうございます」

「ね」


「ハナ、対価は」

「後で話す、見せびらかすのが先でしょ」


「うん!」


「あの子じゃダメか」

『薄味は好みじゃ無いんです』


 男女の両陣営が上陸、左右に分かれ鑑賞している間に、礼拝堂が完成した。


 先ずは女性達が内部へ入り見学。

 神様は居ないが、代わりに椅子へとキスを捧げていた。


 次に男性達。

 少し怯えていたが、神様が居ない事で逆にホッとしたらしい。

 あの刺繍、見せないで良かったわ。




 そしてスーちゃん、アンちゃんから神様の説明が始まった。


 もう以前の神様は居ないので、ココの新世界に居られる神々や精霊を自由に選び、信仰する様にと。


 そして、一切信仰せずとも、神罰は下らないと話した。


 動揺はあったが、疑問を持てた人達だけあって、直ぐにどんな神様が居るのかと言う話になった。


 先ずは福の神の恵比寿様。

 日本だけでなく、中つ国にも居られる神様で、7神のグループであると。


 それだけで無く、木の神様、草花の神様、白蛇様に、海の神様も居る。


 嬉しかったのは、だからコレだけ豊かなんだと少年が言ってくれた事。

 それを期に、神様だけで無く精霊、妖精も居ると言う話しへ広がった。


 頃合いを見てアヴァロンへ空間を開き、ティターニアとオベロン、妖精を呼ぶ。

 すると一気に妖精の愛らしさに注目が移動した。


 まだ、ドリアードとナイアスは無理かも知れない。


 そして空間を閉じ、ソロモンさんの話へ。


 異教の神の集合体、大工の神様から恋愛指南の神様、戦の神に天使の姿をした神まで。

 嘗ては様々な神が、悪魔として恐れられていたが、召喚者の呼び掛けで復活したと。


 では何故、我々に協力してくれるのか。

 受容と寛容の気持ちが有ればこそ、施しは当然だと。


 無償じゃ無いけどな。


「桜木さん、対価って」

「あぁ、問題無い」


 意外にもソロモンさんをすんなり受け入れてくれたが、問題は自治区。

 補佐が険しい表情でコチラに向かって来た。


『桜木様、あの方は』

「当て付けじゃ無いんだ、相談したらこうなった」


『いえ、その、対価は大丈夫なのでしょうか。古い言い伝えでは、人に言えぬモノを対価として得ると』

「あぁ、そっち、嫉妬心だそうですよ、欲しいのは」


『嫉妬心、ですか?』

「乙女の涙を嗜好品とする竜も居ましたし、気持ちを対価として受け取るのも珍しくは無いかと、感謝か嫉妬か、その程度の違いっぽい」

「桜木さんにも有るんですね」


「人間なんでね」

『その、答え難い事を話させてしまい、申し訳ございませんでした』


「いえいえ、心配してくれてありがとうございます。それよりどうですか」

『お騒がせし申し訳ございませんでした、ただ、まだ少しお時間を頂ければと』


「そっちには行かないんで安心して下さい。それに、ソロモンさんも説明が終われば消えるので、ご安心下さい」

『何から何まで、本来は我々がすべき事を』


「いやいや、連れて来た連帯責任は平等ですから。ソチラはソチラに集中して下さい、何か手伝いますし、気兼ね無く言って下さいね」

『ありがとうございます、もし何か有れば是非。では、失礼させて頂きます』


「嫉妬心ですか」

「深く追求しないで」


 そして説明も一段落し、ソロモン達は影へと帰って行った。




 もう出ないで良いからね、マジで。


「ハナー、何でソロモンさんなの?」

「追い遣られた神様が、追い遣った宗教へ施すとか気持ち良過ぎるでしょう」


「ドSだ、で、対価は?」

「嫉妬心だそうですよ」

「へい」


「無さそうなのに」

「ですよね、意外でした」

「ね」


「んー、嫉妬心って、どれの事なんだろ」

「どれと言いますと」


「だって、片思い中の嫉妬と、出来る人を羨む嫉妬心て違うじゃない?それとも、ココはまた違う感じ?」

「あぁ、いえ、違いは無いので大丈夫ですよ」


「じゃあ、恋人の浮気を許せないのは、嫉妬心?怒り?」

「それは、怒りじゃ無いですか?権利の危機ですし」


「良かった、それも嫉妬心とか言われたら日本語の定義から話し合わないとイケないのかと思っちゃった、安心」

「ね」


「大丈夫?嫉妬心が消えて腑抜けちゃった?」

「うん」

『嘘は良くないですよ、融和、友好、友愛を大事にしなくては、ね?』


「ちょ、影から」

「そこまで干渉するか」

『助言ですよ、助言。では、失礼しますね』


「ハナ、本当に大丈夫?」

「おう、気にしないで、ただのじゃれ合いだから」

「本当に、対価は嫉妬心なんですか?」


「それはマジ」

「え、本当なんですか?」


「スーちゃん、ちょっとおいで」

「なに、なになに、小屋素敵過ぎなんだけど」


「片思いの方の嫉妬心を対価にさせられた、期限は1年以内、ダメなら命が取られる」


「は」

「マジ」


「え、それ、渡せて無いって事よね」

「おう、ラブコメしろと。萌え、とか言われたわ」


「再現度からして凄いとは思ってたけど、でも嫉妬心って」

「片思いでキュンキュンしろと」


「え、可愛いんですけど、ソロモンさん」

「は、どこが」


「だって、それが見たいのよね?可愛く無い?何なら私も見たいんだけど」

「あれ、相談相手を連チャンで間違えてる?」


「だって、性別指定無いなら、もう、どうしよう、ソロモンさん拝もうかしら」

「相談相手間違えた」


「待って待って、半分冗談。だって、え?何か特殊性癖だったりするの?」

「いや、ただのメンクイです」


「えー、じゃあもうキュンキュンし放題じゃ無い」

「アレクとか普通に身持ちが固いから、そうならんかと」


「なら賢人君」

「好みじゃ無い」


「武光さん?」

「会った?」


「うん、眩しい系統のイケメンよね」

「そうか?アレはほぼお兄ちゃんやで」


「エミール君、すっごい可愛いじゃん」

「スーちゃんとイチャイチャしてたら拝むわ」


「私が、女の子になっても?」

「んー、拝む」


「メンクイ過ぎじゃない?」

「そう言われたのは初めてかも」


「え、じゃあ、ショナ君?」

「アレも身持ち固いから」


「私が女の子になって、イチャイチャしても」


「祈るわ、上手くいけと」

「もー、メンクイ病ね。普通の子とイチャイチャしてても?」


「祈る」


「諦めて無い?」

「なにを?」


「恋愛を。魔王候補のデメリット、聞いたんですけど」

「あぁ、ね、専業主婦ムリポ」


「ガッ。それだけ?」

「お前もか。あのね、付き合うは結婚と考える重い女なんで、もう無理ですね。相手の子供を見たいと思ったら、無理だ。魔王候補の子供って、いくら優しい世界でもちょっと、難しいでしょう」


「でも、撤回するって」

「他の世界にワシの子供居る、多分ね、子種を置いてきたんだわ。片玉ごと」


「え?なんで?」

「それが救う為だったから」


「ぅーん」

「撤回に関しても、分裂がヤバい事ならいつ撤回されるかも分からないし」


「あぁ、だからショナ君がキレてたのね、なるほど」

「でも、別に良いのよ、眺めるのが好きだし、それでいつか、嫉妬心も湧き出て来るかもだし」


「それを知ってて、ソロモンさんは嫉妬心を対価に」

「うん、意地悪でしょう」


「悪く捉えたらね。分裂が大した事無いなら候補が取り下げられるんだし、そしたら恋愛し放題じゃない」


「我儘を承知で言う。もし出来たら、召喚者としてじゃ無く恋愛したかったけど、もう良いんだ、元候補でも不名誉らしいから、言わざる負えないし、なんかもう、どうでも良い、マジで」


「ピュア」

「おう、子供も居るかもだしな」


「居ないかもじゃ無いの?」

「それだと救えなかった事になるかもだし、そう思いたく無いんだ。詳細は、資料かショナに聞いて欲しい」


「そんなに、恋愛は嫌?」

「嫌だね、心を乱されたく無い、平和に漫画とアニメと映画と音楽とハンクラして生きてたいんだ、ワシは本当はこんなんなんだよ」


「引き籠り」

「はい」


「それが、コレだけ、大変だったよね」

「大変よ、もう、何で病弱な引き籠りなんか呼んだんだっつの。いや、嬉しいは嬉しいんだけどもさ」


「良くやってると思う、本当」

「な、自分で自分を褒めるわ」


「なら、ご褒美に」

「無理、フラレたら死んじゃう、引き籠もりの脆さを舐めるな」


「安心出来る人を好きになれば嫉妬心は起きないだろうし、嫉妬しないと死んじゃうのよね」

「積んでるだろ、意地悪だ」


「対価用に、嫉妬させて貰ったら良いじゃない、好きな人に。うん、好きな人を作る所からね」

「しんどい、怠い、もう良い」


「ねー、死んじゃうんだよ?」

「臍曲りでね、指示されるとしたく無くなる」


「もー」

「スーちゃんを信用して相談したんだ、誰かに言ったら。縁を切る、記憶を消す、マジで」


「そりゃあ言わないけど、好きな人、本当に居ないの?」

「皆好きだよ」


「そうじゃ無くて」

「本当に好き、だからこそ幸せを願ってる。今まで生きてきて味わえ無かった幸福を沢山感じた、幸せがいっぱい有った、一生分幸せだった。けど何人も見殺しにした、理由は有ったけど事実だし、今回の事も、マサコちゃんにはそれでも帰りたいと思って欲しい」


「それは、どこの世界の事なの」

「第2、205、妖精も含めたら207。ココ含めたら凄い数になる。引き金はワシ、本当に背負うべきはワシ。資料提供させるから、読んで欲しい」


「誰が記録したの」

「ソラちゃん、精霊、ずっと一緒に居てくれた。ショナに資料開示させるから、行こう」


「うん」


 ショナに第2世界の情報開示をお願いすると、スーちゃんの身分証についての話しになったが、一旦保留にさせ、資料閲覧を優先。


 印刷されていた資料を読み込み始めた。




「桜木さん、どうして第2世界の話を?」

「いずれ知るんだから、早い方が良いかと。ショナは全部読んだかい」


「いえ、開示部分は限定されているので、鈴木さんと同じです」

「花でトリップしたのは?」


「読みました、だからって耐毒を得ようとしますかね」

「だって土蜘蛛さんがヤれば出来る子だって」


「そうですか、後で聞いておきますね」

「会得は難しいって、出会う順序が違えば会得出来たかもって。見殺しにした事について、感想は」


「僕も同じ選択をします、あの数の受刑者を1人でって、支援が有っても無理ですよ。それに、神々が諦めた人間に手を伸ばせる程、自分を有能だとは思って無いので」

「今回も、同じだと思ってる、そこに甘んじてる」


「ダメなんですかね?」

「良いと思う?」


「悪い人達には、まだ、見えませんから」


「今はね」

「ハナ、読んだ」


「はい」


「仕方無い事だった。誰かが何かを言っても、私は、一生、そう言い続ける」

「ありがとう」


「だから、候補の取り下げも、何も、諦めないで欲しいの」

「志は高くね、はい」


「誇りに思って貰える様に、頑張るから」

「それは有り難いけど、自分の人生も生きて欲しい」


「うん、それに分かったの。ソロモンさんが望んだ事」

「なに」


「言わない」

「ひでぇ」


「ぅう」

「ショナ君、アッチいってて」

「はい」


「泣くか」

「自分は結構大変だったって思ってた、バカだった、ごめんね」


「そこは比べるの違う、スーちゃんが大変じゃ無かったと思わん」

「でも、私なら、知り合いの神様なんて殺せない、どんなに悪くても、違う世界のソロモンさん、殺せないもの」


「第3のはもっと優しかったぞぉ」

「優しいよ、ココのソロモンさんも」


「さようで、全部読んでどうぞ。ショナの閲覧クラスの書類らしい」

「やっぱり、制限有るのね」


「何を制限したのかは知らん」

《主のお気持ちです》

「優しい、皆、だからハナの気持ぢも」


「鼻水付けないでくれよぉ」

「っぐ、洗えば良いでしょ」


「長いから面倒なのよ」

「面倒くさがり」


「はい」

「はいじゃ無いの」


「はいはい」

「もー」


「もー」

「どうやって、気持ちを、切り替えたの」


「背負えないと分かってるから、その1人1人の生きたかった人生を背負って真似て、そう生きられる程に強く無いのを分かってる。だから、仕方無かったと、自分は冷酷で我儘であると認めて、自分の人生だけを生きようと思った。今回も同じ、彼ら、彼女達がしたかった生き方、その人生を全て全うできるかよ。スーちゃんは出来る?」


「限界と、矛盾で、無理だと思う」

「そう、誰かの人生を、まして複数のを生きるなんて無理なのよ。しかも今回は桁が違う、そんなの潰れるのが目に見えてる。じゃあ、少なかったらどうするか、少ないなら背負えるのか、3人なら背負うのか。しない、ワシはワシ。ワシの人生だから、誰の未来も背負えない。背負うなら、自分じゃ無くなる。それは今まで世話をしてくれた人達に失礼だから、出来ないし、しない」


「誰かが生きたかった未来」

「それはその人の未来、スーちゃんでもワシでも無い他人の人生。あのね、幽霊を第3で見たんだ、過剰に死者を思えば縛る事になる、それで今にも悪霊化しそうになった子供の霊が居て、可哀想だった。最後には、縛る父親へ恨みそうになってた」


「それって、前なら信じなかったけど、今なら信じられる気がする」

「見える眼鏡有るけど」


「いや、むり、トイレ行けなくなる」

「だよね、分かる、だから見ない」


「第3は、どんな世界?」

「0とココの間って感じ、迦楼羅天さんに会ったよ、マジで蛇に睨まれるを体験した、アレはヤヴァい」


「ヤヴァいって」

「もう頭が上げられないのなんの、向こうも眼福だったなぁ。沖縄、旅行したお」


「良いなぁ、行きたいと思って死んじゃったから」

「行った事が有る場所は?」


「京都、奈良。修学旅行」

「旅行しおな」


「うん。ショナ君、仲間外れは可哀想だから呼んでくる」

「目、治すから閉じて」


「うん」

「ゆっくり治してるけど、何か違和感有る?大丈夫?」


「ううん、なんかスースーする位」

「魔力、溢れた事は無いか」


「無い、ちょっと怖いよね」

「出方が色々だからね」


「まだ?」

「もうちょい、魔力酔いとかも怖いし」


「それも有るの?」

「どうだろ、よし、どう」


「なんも」

「ん、大丈夫そう」


「ありがとう、行ってくる」

「つか行くか、何か寂しそうだし」


「優しいのね」

「でしょう」




 抜け洩れでも探すかの様に、タブレットを眺めるショナ。

 何かあったっけか。


「ありがとうショナさん」

「いえ、お夕飯、どうします?」

「あ、アレクの所に行くわ、ケバブ」


「食べたい」

「おう、ちょっと行ってくる」


 階段を飛び降りて行くと、クーロンがアレクにお勉強を教えていた。


 真面目か。


『何か有りましたか?』

「いや、ケバブ、アレク」

「あぁ、ほい」


「あー、良い匂い。2人は?」

『食べたいです』

「食う」


「どうぞ」

『ありがとうございます』

「おう」


「すまんが上で食べる」

「おう」


 何かしないと伝書鳩に思え、何かしてると安心出来る。

 何か、依存か何かだろうか。




「下、勉強してたわ。あ、どうなってる?」

「教育学の方々にも、授業の組み方を考えて頂いてます」


「早く出してくんねぇかなぁ」

「それで粗が有っても困るけど、いつになるのかな?」

「今週中には枠組みが出来上がるかと」


「待つの大嫌いなんよなぁ」

「待つだけはねぇ、そろそろ飽きるだろうし、刺繍させとく?」


「あぁ、男性陣は?」

「そこよね、いっそ、筋トレさせてみる?」


「あー、もう4組にして女刺繍、男刺繍、女筋トレ、男筋トレで良いんじゃないか?背中合わせにさせてさ」

「道具がなぁ」


「こんなんでどうよ」

「団扇?」


「おう」

「大丈夫だと思うけど、数は?」


「全員分、タケちゃんに聞いてみるか。タケちゃん、今どこ」


【おう、前と同じ場所だぞ、どうした?】

「団扇、刺繍の団扇の道具を揃えたい。結構な数を」


【ソッチで使うのか】

「おう、娯楽と学習兼用、仕入先を教えてくれたら行くでよ」


【いや、俺に任せてくれ、病み上がりなんだ、少しゆっくりしてて欲しいんだがな】

「おう、ただ請求はちゃんとしてくれよ、ソレはソレだから」


【おう、届けさせる。じゃあな】


「あいよ、宜しく。タケちゃんに任せたった」

「筋トレは賢人君と私ね」


「手先が不器用なのか、やる気が無いのか」

「無い、あのスピード見たでしょ、やる気無くなるわ」


「あぁ、ミシンかって位だったしな」

「二重の意味で恐ろしかったわ」


「あー、だよなぁ」

「解きましょう、鈴木さん」

「お婆さんに解き方教えて貰うから待っててショナさん」


「宜しくお願いします」

「じゃあ、時間的に寝る時間だから、そろそろ降りるね」


「うん、こっちこそごめんね、ありがとう、おやすみ」

「うん、おやすみなさい」


 ココでも日の出と共に起き、日の入りと共に就寝の形態を取っている。


 日本時間は、まだお昼。


 さぁ、どうしようか。


「ショナ、買い出しに行く。手芸屋」

「大きいお店が良いですか?」


「うん、何でも揃う所が良い」

「はい、ご案内します」




 この世界の駅に近付いたのは、初めてかも知れない。

 モノレール駅、その近くに有る巨大なビル、その全てが手芸屋。


 デカい。


「はー、全部欲しい」

「どうぞどうぞ」


「少しは止めて欲しいんだが」

「基準はどうします?」


「基本的には1回は止める感じ」

「無理ですね、私用であれ公用であれ、邪魔するなんて無理です」


「甘やかしは良くないと思います」

「通常運転ですので、ご心配無く」


 それもこれも、全ては召喚者だから。


 私用は止めて、公用目線でお買い物。


 先ずは刺繍コーナー。

 トルコ刺繍からクロスステッチ、ビーズ刺繍のキッドが揃っている。


 ビーズ良いな。


「あ」

「一応、買っておきましょうね」


 忘れていた、ちょっと目を留めると籠に入れる人だった。

 この人そう言う人だ、すっかり忘れてた。


「人選を間違えた」

「大丈夫ですよ、皆さんにも同様の行動が取れる様にと教育しましたので」


「うぇぁ」

「取り敢えず、一通り見て回りましょうね」


 そうしてキットより、本を大量購入する事になってしまった。

 それはもうごっそりと。

 ジャンルは製本、石鹸、織物、刺繍等々、領収証は一応省庁だったが、通るのかコレ。


「大丈夫なのか」

「はい、休憩しましょうね」


「いや」

「確認の為も有るので、戻って足りないモノを見付けるより、効率的ですよね?」


「はぃ」


 建物を出て、近くの喫茶店で購入品のチェック。

 無いです、キットに全部入ってるし、完璧だもの。


「調理器具や材料は良いんですか?」

「あぁ、それは、そうか。ただ、使い慣れてる方が良いだろうし、形状の相談が先かな」


「ですね」

「何か、前より強引な気がするんだが」


「どう足掻いても遠慮さなるので、致し方無く」

「言い方よ、卑怯な」


「はい」

「クソ、あ、茶器、各国の茶器」


「はい、少しお待ち下さいね」




 これも巨大な商業施設の1画に存在していた、茶器専門店。

 中つ国の茶器は勿論、英国、日本の茶器等など。


 そして真横には茶葉専門店、反対側は珈琲豆。


 茶器、普通に高い。

 高級品はダメだ。


「ダメダメ、中古で良い、壊す前提、練習用」

「でしたら」


 古道具屋へ。


 揃ってないのも買い周り、骨董屋へ。


 うん、懐かしい。

 一応、魔道具やヤバい品が無いかチェック。


 1個有った。


「ショナ、コレ、宜しく無い気がするんだが」

「何か見えましたか?」


「ちょっと。お兄さん、コレ、どうしたの?」

 《あぁソレね、最近手に入ったんだよ、気に入ったならご新規さんだし安くしとくよ》


「買う」


 そのまま鍛冶神の里へ。


『おう!元気そうだな!』

「吹っ飛ぶ吹っ飛ぶ、叩かないで、急ぎ、コレ」


『あぁ、凄いの持って来たな』

『蠱毒用の壺だ』

『なんだ、なんかすんのか?』

「しないしない、骨董屋で見付けた」


『ほう、供養するか?』

『勿体無いだろう、年季が入ってるんだし』

『どうしたい、このままほっとくと周りに害が出るぞ』


「ショナ、前例有る?」

「管轄外なんですが、噂は耳にしてます。なので買い回る際は新品なんですが」


「管轄の方とお話ししたい。あ、コレ保留で良い?」

『おう!面白いは正義だ』

『もっと持って来い』

『使い方を教えてやるよ』




 物騒なお約束を頂き、省庁から離れた場所に有る警察庁へ。


 場所も建物も似通っているのは、転生者からの配慮らしい。


「どもー、津井薙君のお友達だそうで、物騒な品を見付けたとか」

「へい」

「少し見えたそうです、黒い靄」


「あー、凄い、こりゃ見えますよ、濃いし、溢れてる」

「蠱毒用ではと」


「あぁ、来歴有るんですね、助かります」

「かもなので、コレ、どうなります?」


「えー、安全に保管、後に浄化し、処分になりますね」


 嘘、何でだろ。

 使う用に保存してる?


「何に使うんでしょう、嘘が顔に出てますが」

「いやぁ、使わないですよぉ」

「ちょっと、内密に話を」


「え、あぁ、はいはい」


 遠くで、ワシの身分をバラされた姿を見た。


 すまん、許してくれ。


「すみません桜木さん」

「申し訳ございませんでした、てっきり一般の方かと」

「いや、そう偽装してますので。ご説明を頂けますか」


「はい、って、津井薙君も、許可貰ってくれる?」

「はい、直ぐにソチラに届くかと」


「じゃあちょっと、場所を移動しましょうかね」

「うい」


 7才上の、元従者だそうで、ショナの指導員だったらしい。

 人当たりの良さと魔素を見る目、結婚を期に魔道具管理部門へ。


 やっぱ、結婚に従者は向かないよな。


「魔道具か、憑いてる物か何なのか、普通には分かりませんから、ココで一通り請け負って、神様や精霊の供物にしたり、お返ししたり、処分したりするんです」

「あー、じゃあ、コレは供物?」


「はい、ただ、一般の方や階級次第では教えられない事なんですよ、不安を煽りかねませんから」

「分かります、賢明なご判断かと」


「ご理解頂き感謝致します。それで、この供物は、黄泉へと贈られます」

「あぁ、ヨモツさん」


「あ、ご面識お有りで?」

「無くは無いと言いますか、微妙な感じです」


「そうでしたか、では何となく、分かって頂けますかね?」

「ですね、喜んで受け取ってるなら良いんですが」


「それはもう、滅多に無いので。我々としては、厄災下、疫病が流行った時等にお納めし、気を鎮めて頂こうと思っているのですが」

「大々的に言っては犠牲者が出かねない」


「はい、コレはあくまでも気持ちの問題。そして、安全に処分する最適解だと思っています」

「最適解だとする根拠は」


「品物が、綺麗になって返って来るんです。付喪神の概念はご存知でしょうか」

「はい、向こうの概念と同じなら」


「それと一緒です。綺麗になって返って来た品が、大事に扱われれば、やがて付喪神となり、この国を守るのです。物は大事に扱う、何処でも誰でも良い事に繋がるんです」


「ヨモツさんにお会い出来ます?」

「んー、津井薙君」

「既に、北欧の死の神とお知り合いでらっしゃいます」


「そうでしたか、なるほど。少しお伺いして参りますので、回答にはお時間が掛かるかと。もし宜しければ、倉庫をご案内しましょうか?」

「是非、是非是非」


 先輩さんが何処かに行き、そして再び戻って来た。

 そして言われるがままに壺を持ったまま、綺麗な品物の置かれた倉庫へ入った。


 嫉妬なのか何なのか、壺の黒い靄が増加した。


「可愛い子ですね、神器や魔道具に嫉妬しているんです。良い子になって返って来そうですね」

「嫉妬か、そうか、蠱毒用って、人の為のモノだもんな、そうか、良い子かも知れんな」


「褒められるのがお嫌いみたいですね、高潔でらっしゃる」

「どうどう、誂われてるだけかも知れんよ」


「扱いがお上手で」

「個と思えば、愛着が湧くのも分かります」

「見えないと不便ですね」


「眼鏡を貸そう」

「でしたら1度廊下へ、内部は結界が有りますので」


 倉庫の扉を閉じ、眼鏡を出して再び倉庫へ。


 壺ちゃん、つい反応しちゃうのオモロ。


「あ、更に増えましたけど、大丈夫なんですか桜木さん」

「おう」

「適正の有る方はかなりのモノで無い限り、影響は皆無。だからこそ、魔剣も扱える方も居るとお伺いしております」


「あぁ、その相談もココですかね。引退後の魔道具の引き取り」

「はい」

「その、また消えちゃうのでは?」


「そこは臨機応変よ」


 今度は鑑定所へ。

 魔剣に怯えられても困るので、壺ちゃんをストレージに入れ、魔剣を取り出す。


 試しに写真を撮ろうとすると、相変わらず像がブレる。


「目の錯覚なのか、実際にブレてるのか」

「さぁ、前もこうだった」

「良い子ですね、頑張ってくれてますよ」


「そうなのね、ありがとう」


「鞘を抜いて頂けますかね」

「うい」


 ズルズルと引き抜き、横に並べる。

 頑張れ、良い子だ、頑張れ。


「展示されても問題無さそうですね」

「ほう?」


「魔剣は魔剣ですが、良く言われる悪しき魔剣とは違いますし。明確な意志を持って、切る、切らないを決めてるみたいですから」

「まぁ、ショナの手首を切り落としましたけどね」

「凄かったですよ、殺気も無しにストンと」


「殺気は無いですから。ただ、切るか切らないか、真っ直ぐですからね」

「良い子だねぇ、あ」

「持ち主に似ますかね」


「似ますよ、かなり」

「展示には耐えてくれる、筈」

「そうだと良いんですけど、消えたら戻しに行かないといけないのでは?」


「もう、ショーにしちゃう?ほれ」

「あぁ、凄いですね、花びらですか」

「定期公演を要請されますよ」


「それは面倒」

「あぁ、それで手入れ要らずですか、なるほど」

「バレてますね桜木さん」


「困るな」


 それから眼鏡、見守り君改、臍のピアス等を見せていると、先輩さんの携帯にご連絡が。


 とうとう、ご対面する事になったらしい。


「では、ココからはお1人でお願い致します」

「はい」


「それと、櫛をどうぞ」

「櫛」


「念の為のお守りですから」

「後で買いましょうね」

「へい」




 先ずは羽衣を装備し、灯りに蝶々、壺と櫛を持ち、井戸を降りる。


 怖い、めっちゃ怖いわ。


 どれだけ落ちたのか、地面に着陸。


 一本道を歩き、御簾の前に到着。


《お噂はかねがね》

「ご挨拶が遅れ申し訳ございません、それに死者も生き返らせたりで、すみません」


《生き返らせる事に反対はしていませんので、ご心配無く》

「そうでしたか。あ、壺です、蠱毒用だったそうです」


 御簾の直前の畳に置くと、扇子で御簾が上げられ、スルスルと包んでいた布が引き摺られて行った。


《ありがとう、態々届けてくれて》

「あの、他にもお話が有りまして。自分は異世界を他にも見てきました、そのお話しなんですが」


《そう、話して》

「ココを第1と表現していまして、第2、第3と行って来ました。その第3で、ヨモツオオカミ様と会ったんです、ヘルヘイム。北欧の死の国で」


《え、なにそれ》

「そうなんです。ココと事情が違うのは当たり前なんですが、ヘルヘイムを拡張したら、開通してしまったと」


《んー、え?開通、日本の黄泉と?》

「はい、それで、ヘルヘイムの女王ヘルと、ヨモツ様が仲良くしてらしたので、なら、ココでもどうかと、思いまして」


《それは、その、混乱は起きなかったのかしら》

「多少は有ったみたいですが、北欧のロキとスサノオさんが何とかして、上部はそのまま緊急時用の施設と、宿泊施設になってました」


《それって、本当に大丈夫なのかしら》

「大穴は人間の出入りが規制されてましたし、ロキとして人間とは接触して無かったので。特には」


《それでその、向こうの私は、どんな感じだったのかしら》

「ヘルと同様にレースを被り、直接はお話し頂けなかったのですが、ヘルと仲良く過ごしていました」


《どうして、受け入れてくれたのかしら》

「皆で過ごせば良いじゃないかと、ヘルさんが招いたみたいです。それでその、ココのヘルもレースを被り、接触は忌避される方ですので、気が合うのでは、と、思いまして」


《それは、同情?》

「向こうのヘルは同情と言うより、同じ仲間だと言う感じでした。自分も同情と言うより、選択肢は有ってしかるべきだと思ったので。こういうのも有ると、提示したかったんです」


《その、ヘルヘイムと言うのは、どんな場所なのかしら》

「消毒液の良い匂いで、清潔で常に夜。月は有っても星は無し、それと、中庭に植物を植えさせて貰いました」


《死の国なのに、あぁ、アナタがそうだものね》

「はい、何かお礼になればと」


《私は、本当に何も出来ないわよ。ただ無作為に死者を選んでは、取り上げられ。老年の人間をココへ招くだけ、何も無いのよ、本当に》


「いや、そこは、その、取り上げられるってストレスでしょうし、自分も取り上げる側なので」

《そう?凄い雪崩れ込んで来たわよ、この前》


「あぁ、お忙しいですかね」

《その日だけだから、もう大丈夫だけれど。心配しなくとも、アナタには強力な救い手が有るのだから、このまま行っても少し地獄を見物するだけで、大丈夫だと思うわ》


「あぁ、ちょっと見学しちゃうんですね」

《最近は皆にね、偶に蘇ちゃうから、その方が行いがより良くなるのよ》


「あぁ、なるほど。どうでしょう、社会見学、向こうには改めて話してみようとは思ってて。先ずはヨモツ様にと、思いまして」

《その、ヘル様以外に、誰か居るのかしら》


「レトとラティ、お側仕えが2人、それと偶にロキ、と、自分も偶に、行きます」

《それ、だけ?》


「はい、第3は沢山居ました、ユグドラシルの神々がほぼ全員。それで、拡張が必要になって、と、言うわけです、はい」

《そこに、私が》


「はい、可愛らしい、控え目な方でしたので、ココのヨモツ様も、そうなら先に聞くべきかと」


《そう、ありがとう。少し、話してみます。その、死者の国は、薄く繋がっても居るので》

「あぁ、そうでしたか。すみません、でしゃばったみたいで」


《良いのよ、気遣いは嬉しいから、良いの》


「その、魔道具や何かがお好きでしたら、お見せする事も出来るので。お呼び頂ければと」

《そこまでは良いの、何も、出来ないから》


「いや、チラッと地獄見学程度で済むって仰って下さいましたし、それで本当に充分なんで」

《それは、ほら、生身で召喚者が届けモノをしてくれたのだし》


「その、コレからもそう言う感じで、来たいなと思ったら、来てしまうかも知れないので、その時に、もしかしたら、何かお願いするかも知れないので、その、先払いと言う事で、どうでしょうか」

《そ、それで良いなら良いけれど、本当に何も出来ないから、期待はしないで》


「はい、何か苦手なモノは有りますか?」

《櫛と火、それだけなの。こう、細かいのが集まってるのが苦手で、あ、櫛以外は大丈夫なのよ、火と櫛だけ》


「コレとかは」

《好き、それ、素材は何?紙?え?》


「蝋なんですが」

《あぁ、蝋なのね、良い、可愛い子ね、良い子》


 御簾の裏で、蝶が飛び回っている。

 その蝶に照らされ、陰影が僅かに浮かぶ。

 髪なのかレースなのか、頭部から長い何かが伸びている。


 無言で戯れてるけど、実は嫌がってるんじゃ無かろうか。

 大丈夫だろうか。


「大丈夫、ですか?」

《あぁ、ごめんなさい、つい楽しくて。ありがとう、もうお帰りさないな蝶々さん》


「実は、既にヘルには見せてまして。今まで余裕が無かったとは言え、自国の死の神様にお見せしないのが心苦しくて。もしご興味が有れば、また、来たいのですが」


《忙しいでしょう、過労死した召喚者も見た事が有るのよ。だから無理をしないで、もし、時間に空きが有るならで。そんなに何度も足を運ぶ所では無いのだし、何十年に1度でも大丈夫よ、本当。もう帰った方が良いわ、心配させるといけないし》


「はい、じゃあ、また、いつか」

《うん、長寿を願っているわ、じゃあね》




 帰りの一本道を蝶と共に駆け抜け、長い長い階段を駆け上る。


 そうして地上に出ると、ホッとした顔の2人が待っていた。


「お帰りなさい桜木さん、少し心配してしまいましたよ」

「すまんね、長話をしてた。ヘルヘイムと繋がった話し」

「え、繋がってるんですか?」


「いや、まぁ、色々有りまして。あ、櫛をお返しします、良い方ですね、優しい方でした」

「そうなんです、本当に、誰彼と選んでいるのでは無く、無作為なんですよ、本当に」


「そう言ってらっしゃいましたね、モノが好きみたいで」

「はい、あ、津井薙君も、無作為は内緒で、一応機密なので」

「はい、了解です」


「はぁ、理解して頂ける方で助かりました。中には殺そうとする方々も居られたそうで、苦労してらっしゃるんですよ」

「えー、良く会って下さいましたね」


「まぁ、黄泉の領域は絶対なので。相手は瀕死の状態でココに帰って来るだけでしたから」

「ワシ、神殺しが出来るんですが」

「桜木さん」


「え」

「殺してないですよ、殺そうとも思いませんし。不死反対、死、万歳ですはい」

「すみません、事実です」


「まぁ、それでも心配はしませんけど、記載に無かったですよ?」

「ココでは、無いんです。それ以上は、まだ言えません」

「です、はい」


「あぁ、まさか、そうですか、なるほど。はい、内密に、お互い内密でいきましょうね」

「はい、宜しくどうぞ。それと、何か有ったら、この子を供物に」


「ほた、テントウ虫でしょうか?」

「はい、蛍の様に光るテントウ虫です。蝶をお見せしたら喜んでたみたいなので」


「この素材は?」

「蝋です」


「あぁ、それで、そうですね、普通じゃ無いのがお好きらしいんですよ、そうですか。ありがとうございます、コレで倉庫の明かり要らずですね」

「餌と言うか、魔素たっぷりのお水を上げれば大丈夫かと」


「はい、承りました」

「じゃあ、櫛を買いに行きましょう。また来るかも知れませんし」

「あぁ、はい」


 何故、最初に無理にでも櫛を買わされたのかは分かった、つか普通に。

 言えないか、ヨモツさん居るなんて、それこそ殺しに行くバカも居るんだし。


 次は小物屋へ。

 もう春の品物が並んでいる、桜、梅の柄も有る。


「選ばれないんでしたら、勝手に選びますけど」

「選びます」


 前と同じ櫛。

 これで借りる手間は省けるだろう。


「前と同じですか」

「欲張れと言うか」


「いえ、出来たら使う為に選んで欲しいんですけど」

「高い、どれも良い、悩む」


「ちゃんと選んで頂いて大丈夫ですよ、一応大事な物なんですし」

「そう」


 だが結局は同じ物に。

 収集癖は今度にしとこう。




 そして日暮れ、蝋燭屋発見。


「あ!出来ましたよ!ほら」

「おぉ、黒い月ですか、騒動を作品に昇華とは、凄い」


「だって、召喚者様が居られるそうですし、消えましたし、心配するより創作ですよ。それに、何かしてた方が落ち着きますから」

「みたいですね、品物がいっぱいだ」


「えへ、お安くしときます」

「そこは正規の値段で、出来は素晴らしいんですから」


 百合の花の蠟燭に、薔薇の蝋燭は難民達へ。

 と言うか、石鹸とそう変わらんよな、講師に来て貰えないだろうか。


「あれ、今回はイマイチですかね?」

「いや、知り合いが外国人への講師を探してまして、どうかなって」


「えー、教えるの苦手なんですよ、言葉で上手く伝えられなくて」

「そこです、外国人さんなので、ただ見せるだけで良いんですよ、作るのだけ見せる」


「あー、でもそれで講師になりますかね?」

「手始めに、興味を持って貰うのが望みらしいんで、ちょっと人前で当たり障りないのでも良いんで、作るだけです。お金は、良い値が出ると思いますよ。ね?」

「はい、お時間を頂くので、相応の金額が出るかと」


「んー、詳しい事はメールでお願いしても?もし合わなかったら、他の方をご紹介差し上げますね」

「是非是非、じゃ、買い物続行。この雲、凄く良い」


「そうなんですよ、後ろからコレで照らすと……」


 雲、火山、桜吹雪の四角い蠟燭、そして和蠟燭に紅白の梅が絵付けされたモノ、そして彫を入れたモノも。


 和蠟燭は新しく手を出し始めたのでと、向こうから値切り交渉されたが、応援価格として正規の値段で購入。

 悪く無いんだから、自信を持って欲しいものです。


「いやぁ、眼福、有り難い」

「いえいえコチラこそ、もっと頑張りますね」


「おう、お体にお気を付けて。じゃ、また」

「はい」




「ショナ君、向こうの神様は贔屓しても良いと言って下さったのよ」

「はい」


「治したら、ワシは怒られるだろうか」

「言い訳を一緒に考えましょう」


「おう」


 ほんの少し、前より痩せてる事が気になり、診てしまった。


 腹膜に、黒い影が有った。

 病院で治療可能だろうが、病気は精神を脅かす事も有る。

 まして今の時期だ、平和になったらしない、平和なら病院へ行かせる。

 だから、今だけ、少しだけ。


 路地を曲がり、隠匿の魔法を掛け外灯へ上る。

 そして後方から、ゆっくりと治していく。


 まだ若い、魔素も有るが、少し根深い。

 魔素切れを起こしかけ少しフラフラしているのを、ショナが声を掛けに行きカバーする。


 脱水症状だろうと言い聞かせ、暖かいエリクサーを何口か飲ませる。

 治療続行。


 完治。

 遺伝子は変えて無いから、再発は逃れられない。


「お礼を言っていましたよ、最近食欲が無かったそうです」

「でしょうね、意外と根深かった。若いのに」


「大丈夫です、医療が」

「発達してても、治療に時間を取られるでしょう。万全の状態で創作出来る時間は限られる」


「それでも、生きられます」

「生き延びて、創作してくれたら1番だけど、折れる人も居るでしょう」


「その為に、医師も看護師も介護士だって居るんですから」

「頼むよ、本当に、お願いします。良い人達にめぐり合います様に」


 コレは私的な願い。

 叶えられなくても文句は言わない、だって、神様だって忙しいだろうから。


 そして浮島へ。




『聞こえたぞ、お前の願い』

《珍しいのぅ、肩入れするとは、さては》

「直ぐそう言うのに結び付けて、恋愛脳、下衆、変態」

「スケベ、変態、痴女」


《ミーシャや》

「何でしょう、痴女様」


《ハナとて人間じゃよ、恋だ愛だと》

「桜木様はそんな事しない、厄災が、平和にならないとしない」

「はい」


《なら、平和とは、厄災の終わりとは何処じゃ。難民も居るんじゃ、その解決に一体何年掛かると思っておるんじゃミーシャよ》


「ぅう…最短でも、数年」

《そうじゃよ、数年で済めば良い方じゃ。揉めれば揉める程、ハナの婚期は遠のく》

「しゃーない、バツ2で未亡人で異界で結納しちゃった子持ちだ、どうしたって難しいだろうよ」


「でも、桜木様は良い人だから」

「先の事はその時に、良いのが現れたら考えるわ」

《その、良いのが現れたとて、どうせ認めんじゃろう。枯葉、枯木の枯野原っ子が》


「そう、魅力が無いのが悪いのでは?」

《ふん、どんな魅力より難民じゃろう》

「有り得るかも知れない、困る」


「なんで」

「桜木様の赤ちゃんの面倒を見たいから」


「凄い、遠い、叶うか怪しい願いを」

「誰のでもはダメです、ちゃんと桜木様が選んだ人との赤ちゃんです」

《子守りは上手じゃよ、子守りは》


「痴女から守らないといけませんから」

「おうおう、考えておくが、エミールを優先で頼むよ、きっと可愛いぞ」


「手が空いてれば、ですが順番的に桜木様が先です」

「逆説的に、適当な誰かと結婚し」

「そこは僕が却下させて頂きますね。下手に選べば巻き込む人数が増えますし、一般の方ですとご迷惑が掛かるかと」


「あー、かと言って選んで貰ってもな、向こうも断り難いだろうし。どうしたら候補から外れるアプローチになるだろうか、いっそ難民と」

「余計に、難しくなるかと」


「ならミーシャか」


「え」

「ほら、紫苑で。一般じゃ無いし」

「まだバラすには早いかと」


「んー、婚姻系は無しか」

「はい、今暫くは」


「かと言って妊娠もな、子供を犠牲には出来ないし」

「そうですね、もう少し落ち着いてからが宜しいかと」


「詰んでる?なんも出来ん?」

「コツコツと地道に行動しましょう、焦りは禁物です」


《じゃの》

「へい」

『そうだそうだ、そうしといてくれ』


 今日の夕飯はネギトロ丼。

 それとトッピングに納豆やら何やら、ネギ美味い、お吸い物最高。




 まだ少し眠るには早いので、ニーダベリルへご報告。


「日本の死の神様に上げてきた」

『ほう、アレを気に入るか』

『物は良いからな、物は』

『だな、アレは良いモノだ』


「変わったのが好きらしい、蝋燭のテントウ虫を代理に渡しといた」

『あぁ、そうか、なるほど』

『良い珍品が趣味か』

『あぁ、側仕えが居れども寂しかろう』


「だから、ヘルヘイムと繋いではと、第3世界の様に、そうしたら少しは幸せになれないかと」

『そうかそうか』

『後はヘルに話すだけか』

『ただ、ヘルと同じで在るならば、ベールをやらんとな』


《そうね、一応準備しておきましょうね》

《ハナやハナ、何か素材は有るかしら》

《髪はダメよ、相性が良過ぎるから》

「ほい」


 繭、綿、それと前の蜘蛛の糸。


《あぁ、蜘蛛の糸もダメね》

《やっぱり繭かしら》

《ふふ、コレならいくらでも作れるわ》


 繭を織り機にセットし、いきなり織り上げていく。

 そして端から刺繍が施され、両端に広がっていく。


 スーちゃんが見たら、色んな意味で失神するんじゃ無かろうか。


《ふふ、じゃあコッチは遊びましょうね》

《今日はどんな髪にしましょうか》

《櫛は有る?》

「はい」


 お腹いっぱいで、頭を触られ、機織りの音と動きで眠くなる。


 イカン、凄い眠い。


《大丈夫、出来たら起こしてあげる》

《ふふ、ウトウト》

《少しだけ、おねんね》







《さ、もう少し》

《あの糸、血の糸は有るかしら》

《繭は、返すわね》


「はい」


《はい、櫛も》

《お風呂は明日になさいな》

《もう少し》


「うん」


《うん、出来たわ》

《はい、この糸も返すわね》

《ふふ、ゆっくりおやすみなさい、じゃあね》


「はい、ありがとうございました」

「大丈夫ですか?」


「大丈夫」


 浮島に戻り、小屋へ直行。

 ベッドへ倒れ込み。

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