3月2日
「おい」
「リズちゃん、おはよう」
「なんで、ボロボロになってる」
「ミスった」
「だろうよ」
「一瞬心が折れて、ミスった、すまん」
「精霊が、報告書すら出してくれないんだ」
「あら、出してどうぞ、全部」
《はい》
「やっとか、何が有った」
「影に呑まれて魔道具外れて、本拠地で色々有って。方舟は、どうなった」
「どっちのだ」
「あぁ、どっちも」
「機械のは1台、お前しか認証を受け付けないらしいから、待機状態のまま。黒山羊は」
「なに」
「普通の黒山羊に戻った」
「いや、前は手乗りで」
「しかもメ~、しか言わん」
「なにその狐に化かされた話し」
「俺が聞きたい」
「中身は」
「無事だ、別の病院で検査中。アポロこと、鈴木千佳子も、使節団員3人も無事だ」
「はぁ、マジか、良かった」
「良くない、何で治らない」
「聖痕で原罪的な?」
「んなワケ有るか、有って堪るか。皆で決めたんだ、何でお前だけ背負う必要が有る」
「別に独りで済むなら良くない?そこらの子供に背負わせたく無いし」
「無いんだぞ、脚も、腕も」
「そこはこう、義体で宜しく。頼まれたし、待ってるって」
「誰に」
「向こうの神様の本体、コピーも、頭部2つ有る」
「そんなの殺処分だろう」
「させん、アレはニンフと人間のせい」
「そんなの聞いて無いぞ、鈴木さんから」
「えー、さん付け?スーちゃんを?」
「それもだ、ホイホイホイホイ拾って来て」
「良い子だし」
「で、治さない理由は」
「治さないって意識は無かった、蝶々見てて眠っちゃって、そっから意識が無いんだが?」
「だろうな、クーロンが引っ張って地球に連れて来たら、黒山羊がドロドロ溶けて、お前だ何だと出て来て大変だったんだからな」
「あー、グロそう」
「お前は意識が戻らないわ、再生する気配も無いわ。千切れた腕と脚はどうした」
「知らん」
《即座に吸収されました》
「で」
「だから、そこで心折れて、そこもちょっと意識失ってて、気が付いたら黒山羊ちゃんの中でして」
「あーもー、クーロンが見失ってからもう、大変だったんだからな」
「被害は?」
「竜種が怪我した程度だ」
「あの肌色、ワシ狙いだったんだもの」
「だからって向かうか」
「出来そうかと」
「なら、なんで心が折れてミスった」
「肌色が宇宙に放出された時、ミスったのか不安になった。それで手足が、肉塊に近付いたら、歓声と悲鳴が聞こえて、人間のかと思って、罪悪感で思考停止した。ただ、ニンフの声だったらしいが。あの黒い影に騙されたのかと思った」
「アレ、結局何だったんだろうな」
「シュブニグラス、クトゥルフの地母神らしい」
「どんだけアチコチに居るんだよ」
「ね」
「あの使節団員のせいで、お前はまだ、候補のままだ」
「名前だけで?」
「あぁ」
「クソくだらねぇ」
「それと、検査が終わったら、また動いて欲しい」
「おう」
「下の検査だ」
「何もされとらんよ」
「分かってる、ただ」
「何も無い証明ね、あいよ」
車椅子に乗り込んで検査へ。
当然何も無し、綺麗なモノですねとのお言葉で、漸くリズちゃんの態度が和らいだ。
「心配でな、すまん」
「寝てる間に勝手にしたら良かったのに」
「原因不明の昏睡で、検査中に起きたら流石にビビるだろ」
「まぁ、つか玄海婆さんぽくない?」
「我慢してた事を」
「アレ撃てねぇかなぁ。案件はなに」
「デブリ回収」
「あぁ、了解。クーロンは?」
「駐車場の車の中」
車に載せて貰うまでは良かったが、着替えが実に不便。
ワンピースに服を変更し、クーロンの手助けで何とか着替えられたが、慣れるのに少し時間が掛かりそう。
そして転移可能領域まで車で出て、宇宙へ転移。
完全な方舟はアクトゥリアンへ預け、デブリは片っ端から収納。
その間に現状確認、蜜仍君とコンちゃんは里へ、ショナや賢人君は移民達やスーちゃんのフォローへ。
カールラと白雨は、まだ向こうらしい。
そしてタケちゃんは、もう帰るからとずっと頑張ってくれてるらしい、あの竜と共に。
「エミールは?」
【それはお前のせいだぞ、捜索隊としてずっと探して回ってたんだから。爆睡中だ】
「すんません。黒山羊をどうやって見付けた?」
【蝶々だ、それと精霊。義体で外に出たからな、今修理中だ。それでやっとクーロンが黒山羊を認知出来て、そのまま牽引して来た】
「ごめんね、ありがとう」
『もう、2度と離れないで下さいね』
「それは無理だ、君には本来の生活に戻って貰う。一生一緒に居るのは健全じゃ無い」
『考えておきます』
「善処してくれ」
【で、小野坂だが、難民の介抱中だ】
「さよか」
【どうでも良いか】
「おう、どうでも良い」
【残るらしいぞ】
「は、バカか、罪悪感で一生を潰したいのか。まぁ、顔も良いんだし、誰かが可哀想だって寄り添ってくれるか。つか頼み込めばヤらしてくれそうだな、その決断の仕方」
【結構、キッツい事言うな。前は、言わなかっただけか】
「ワシは最初からこんなん。そもさ、残った先を見ての事なのかね。無罪だとしても、侵攻の手助けはしたんだし」
【無罪では無い、裁判になる】
「ドMかよ、ワシが背負うからさっさと帰っちまえば良いんだよ」
【前言撤回する、優しいよな、バカ優しい】
「優しくない、褒めるなら切るぞ」
【分かった、悪かった】
「神様の名前はエルヒム、最初はただの人間だったんだって、だから、義体の願いを叶えたい。ワシ、優しいから」
【それこそ、無罪の証拠は有るのか】
「中の人達と、黒山羊ちゃん」
【メ~、しか言わんのにか】
「タケちゃんのだってワシらに聞こえないでしょうが」
【まぁ、そうだが】
「待ってるって言うから、それは待つ、ココの人間の判断を」
【長く掛かるかも知れんが】
「ワシが死ぬ前に載せられたら別に良い」
《回収完了、次の区域に移動します》
「あいよぉ、宜しくどうぞ」
それからはエリクサーをがぶ飲みしながら回収。
ただ、実際に回収するのはソラちゃんで、自分はクーロンにがっしり抱えられ、エリクサーがぶ飲みするだけで。
何だかな。
どうしたら、自信が付くんだろうな。
【休憩時間だぞー】
「タケちゃんは?」
【一緒だ、休憩場所を送る】
「おう」
ベールを被り、タケちゃんの元へ。
ハグ、珍しい。
「うん、無事じゃ無いな」
「すまん、集中と信じる心を少し欠いてミスしました」
「生きててくれて良かった」
「おう、ソチラも」
「俺らに興味無さそうでな、ハナが気を引いてくれたんだろう」
「まぁ、知り合いみたいな感じだし」
「また、顔見知りか。辛い事をさせた、すまない」
「タケちゃんまで泣くぅ」
「リズもか」
「いや、ソラちゃん。同族の気に中てられたらしくて、感情的になってた」
「ずっと見て来たんだ、泣きたくもなるだろう」
「どうしたよ、ホームシックか?」
「そうだな、そうかも知れない。もし俺の子供がと思うと」
「ありがとうな、大丈夫だから、マジで」
「大丈夫じゃ無いだろう、治癒魔法はどうした、なんで治って無い」
「多分、治したいと心底思えない、心の問題かと」
「ぐっ」
「ごめんて、多分そうかなって話だけで。治したいよ、でもどう治したら良いか、こういう欠損は治した事が無いんだ」
「うっ」
「もー、子供だって大きくなったら四六時中見てられないんだから、身を守れる様に育てたら良いじゃない。タケちゃんの子なんだし、大丈夫だって、良い子で、元気に健康で、老衰まで生きるって」
「すまん、慰めるべきは俺なのにな」
「どんまい、そういう日も有る」
「ん」
「おう、ちゃんと休憩しような、果物やぞ」
タケちゃんまでシュブニグラスに中てられたのか、完全に泣き止むまで5分は掛かった。
それとも、船の中身を見たからか、またはその両方か。
先生に言うべきだなコレは。
「よし、じゃあ、行くか」
「おう」
「無理するなよ」
「しない、泣くな、行くべ」
「おう」
「リズちゃん、先生に相談したいんだが、タブレットで相談して良いか」
【あぁ、先生が直にって言ってたが、急ぎか?】
「いや、デブリ程では無いがソコソコ、ワシの事じゃ無いが、心配は心配って感じ」
【そうか。コッチで少し聞いてみる】
「おうよ」
エリクサーをがぶ飲みしていると通信が入った。
リズちゃんでは無く、先生。
【聞こえてますかね】
「聞こえてますよ、タケちゃんの相談です」
【どうかしましたか?】
「子供と重ねられて泣かれた、精霊のソラちゃんにも泣かれた。両方、シュブニグラスの影響かも知れん。しかもタケちゃん船の中身見ちゃった、中身は死んだ人間や脳味噌」
【エミール君は】
「分からん、捜索中に見た可能性は有る」
【アナタはどうなんですか】
「1隻救えたから別に、ただ何隻も有ると知ったのはどうしようも無さそうな状態の時、それで、諦めは多少付いてる」
【どうして切り替えられたんでしょう】
「マトモな神様がダメだと思ったんなら、ダメだと納得した。数え切れない程のシミュレーションで、コレしか無いって言ってたから、それを信じてる。ただ」
【ただ】
「シュブさんの事はビックリした、最初はアマルテイアと名乗ってて、優しそうで。あんなドSだと思わなかったから、疑って、信心を一瞬失って、ミスった」
【死なないだけでも良かったとは思うんですが】
「欠損、治せないと思ってて。治せるとしても、治す方法が分からない、治して良いのかと迷う部分も有るし、義体にも、義体の苦痛にも興味有る」
【それ、ドMって言うと思いませんか】
「ですよねぇ、ただ理由が有ってですね、義体に乗り込みたいって方が居るんで、先に試しとこうかと」
【なるほど、ただ、相手がそれを喜びますかね】
「いや、言わなきゃ良い。同じ経験すれば、似た経験なら、有益なフォローし易いでしょ」
【そこは保留で。それより治療なら神々に教えを請うては如何ですか?】
「アレが厄災だったなら、もう終ったんだし、過度の介入になるじゃない。無理とか言わせるのも、しんどいし」
【ちょっと、慮り過ぎかと】
「辛そうな神様見ちゃったからかも、もうお酒を。あぁ、感情転移してるか、罪悪感を、神様に」
【可能性は有るかと】
「労いたいんだけど、コレじゃ加減が分からんな」
【そうですね、そこも保留で。どうです?大掃除】
「なーんも、ソラちゃんとクーロンのお陰で、ワシはエリクサー飲んで先生と話せてる」
【ちょっと、危うい感じがしますよ。勘ですが】
「でしょうね、色々と短期に経験したので。どうしたら良いですかね」
【先ずは、他の召喚者の事はお任せ下さい。ただ、今回の情報は助かりました、コレからも何か有りましたらお知らせ下さい。それと、何か決断はしないで下さい、する場合は、絶対に私に相談して下さい】
「ハイなのか」
【可能性は有るかと】
「あー、作業が有るから鎮静するワケにもいかんか。なるほど、ソラちゃんとクーロンにも言っておきます」
【ただ、受け答えからして躁状態の心配は低いと思いますが、念の為です】
「はい、気を付けます。じゃ」
【はい、では】
「クーロン、ソラちゃん。ワシ、躁状態になるかも知れんから、決め事を勝手にしそうなら止めて、例外措置も有り」
『承りました』
《了解》
トイレに休憩に行ったり、計測したり、また戻ってエリクサーがぶ飲みしながら宇宙を彷徨ったり。
何だかんだで、日が暮れて。
エミールとタケちゃんが交代する時間となった。
『ハナさん』
「ミスりました、ご心配お掛けしました、ごめんなさい」
『治るんですよね?』
「すまん、分からん。神様に聞くか悩んでる、厄災が終わりなら介入出来無いから」
『そんな、僕からも』
「対価支払う様な事になったら不味い、と言うか、改めてご挨拶しても?」
『あぁ、名乗りは良い、コッチはしがない古竜だ。良く生きて帰った、苦労を掛けたな』
「いえいえ、コチラこそ。あの、対価を教えて下さい」
『ならん、プライバシー、ワシとコイツの問題だ』
「ならエミールに対価を払う。どうぞ、死ぬまでこき使って下さい」
『ちょ、ダメですそんなの、僕が勝手に』
「なら、コッチも勝手にやる」
『ロキの系譜はコレだから恐ろしい。観念するか、白状するかだな』
『涙を、年に1回』
「ほう」
『美少年の涙は甘露だ、年がいってもコイツは良い男になる、間違い無く良い味を出す。何だ、文句でも有るか』
「いや、好みの問題は触れないでおきます。なら、ワシの涙じゃダメよな、失礼しました」
『女子は笑え、泣かせる奴はワシが食ってやる』
「急にイケメン発言、イケメンに見えて来たかも。あ、変身した涙じゃダメ?」
『んー、お前のは塩っぱそうだ、好かん』
「ふられた」
『ですね』
「泣ける映画を探しとく」
『はい、お願いします』
『では、出発するかな』
良いお爺竜、趣味はアレだが、良い竜さん。
「クーロンも良い子よ、ソラちゃんも良い子」
《はい》
『勿論です』
またしてもエリクサー尽くし。
嚥下がお仕事。
まぁ、飲むだけよりマシだが。
何か虚しい。
【桜木、終了時間だ】
「おう」
【病院に戻って貰いたいんだが】
「了解」
リズちゃん、ココにずっと居るのか。
病院に到着後、先ずは計測。
中域、コレ、もう1段階欲しいよな。
《中域です》
「もう1段階欲しいな」
「上か?下か?」
「上、下は目眩とか出るから察知し易い」
「あぁ、でもそれマジのギリギリだからな」
「へい」
「よし、検査だ」
「今から?」
「おう、ちょっと眠ってて貰う」
「おう」