1月25日
目を覚ますと、エミールの髪をモシャモシャと、ハミハミする白い馬と目が合った。
良く見ると角がある、翼も、足は6本も。
コチラをジーッと見つめた後、エミールの手に角をポトりと落とし、一声嘶き天空へ走り去って行った。
ただただ眺めた後、横を向きミーシャを見ると、同じく唖然とし、息を呑むんだまま呼吸を止めていた。
少しして、静かに泉が震え、身体を揺らす。
水面から現れたのは水の精霊ナイアス、ドリアードとは違い普通の少女の外見。
髪と瞳は白く、水中にある体は完全に透明、境目は良く見えない。
起き上がった自分の目を真っ直ぐ見てくる、美人、照れる。
『おはようございます…あの、今のはアリコーンです…』
「おう、おはようナイアス」
「おはようございます桜木様、珍しい神獣でした」
「おはようミーシャ。凄いね今の、全部乗せ欲張りセットみたいな」
そう話しているウチに、エミール手の中にあったアリコーンの捻り角が変形し、卵の形になった。
象牙の彫刻の様に滑らかな造形、乳白色の柔らかく優しい色合い。
「卵でしょうか」
「だね、大きい、賢人君は?」
「武光様と訓練に」
「そっか、何しようかなぁ」
「朝食はまだ少し先です…ストレッチしてみますか、こういう……」
泉から上がりストレッチ。
屈指の硬さぞ。
「…うぐぅ…ぅ」
「凄い、硬い」
「知ってる」
『ん……あ…あの…これって…』
「おはよう、エミールの神獣の卵」
『おはようございま…え、と、卵?神獣の?』
「カールラもクーロンもそうやって産まれた、サイズが随分と違うけれど」
『そうなんですね…本当に……心音が聞こえます』
「ナイアス、ナイアス、アリコーン死んだりしてない?大丈夫?」
『はい、大丈夫です、角はまた生えますから…』
「そっか、ありがとう」
『おはよう!朝ご飯にしましょ!』
朝食は今日もエイル先生やヴァルキュリア達が用意してくれた。
マッシュポテトにサラダ、目玉焼きに謎肉スープ、謎肉ベーコンにサーモンのムニエル。
そして数種類のパン。
昨夜のワイルドな食事とは一転、シンプルイズお洒落メニュー。
「エミール、サンドイッチ的なモノに纏めちゃう?」
『お願いします』
マッシュを伸ばし、ムニエル、サラダの順に挟む。
もう一つはサラダ、ベーコン、目玉焼きを挟む。
色々試した結果、柔らかいパンにマッシュタップリでムニエルを、ベーコンサラダに目玉焼きと、シンプルなモノに落ち着いた。
「「『ごちそうさまでした』」」
後片付けを手伝う間も無く、人海戦術で皿が片付けられ。
食後暫くはゆっくりしろと暖炉前に案内された。
そして暫くしてエイル先生指導の元、徹底的に歯磨き教育が成された。
歯を褒められた。
髪と歯は良く褒められる。
『よし、ハナおいで、薬の調合タイムよ』
泉へ移動し、先ずはエイル先生のお手本を見せて貰う。
ハーブを、彫刻びっしりの神々しい黄金の鍋で煮出すらしい。
先ずは乾燥ハーブと水を入れ、煮出せたら生のハーブを投入、それ以降は煮立たせ無い様に焚き火の火加減を調節しながら追い生ハーブを入れ、良いタイミングで火から降ろす。
らしい。
煮出したモノも神々が造ったすり鉢で、魔力を注ぎながらゆっくり擂り潰す。
早く擂り潰しても上手く出来上がらず、魔力すら回復しないただの軟膏になるらしい。
そしてこの、様々な色合いの瓶達は何なのか。
「この液体は?」
『エッセンス?花や蜜の濃縮液よ、美味しい方が良いでしょ?』
「え、マジで」
『そりゃね、眠れる様にする時は蜂蜜酒も入れたりするし』
試しに渡されたエリクサーを舐めてみたが、美味しかった。
さっぱりしてて美味しい、何でだ。
「何でこうも違うの、何で」
『日本のは、ワザと苦いんじゃない?凄い味の方が、有り難みが出るとか』
「えぇ…にしても…」
『ねぇねぇ、そんなに凄いの?』
「そりゃもう、飲んでみます?」
『良いの?』
「はい」
『悪くない』
「うそ」
サムズアップって。
所詮は子供舌ですよ。
今度は先生に教えられながらエリクサー作りへ。
煮出すだけらしいが、火加減の難しさよ。
ましてや薪の調節なんて初めてだし。
先生に火の調節をして貰いながら、中身へ集中。
最初は乾燥ハーブだけ。
凄い量を鍋に入れるのだが、鍋を覗くと普通の量。
水も、たっぷり入れても持てる重さ。
不思議。
色が滲み出して来たら、程良くかき混ぜつつ生のハーブの準備、茎や葉を仕分け、先ずは硬い部分を。
少ししんなりしてきたら仕分けした薄い葉を入れ、香りが立ったら鍋を降ろす、だけなのだが。
塩梅の難しさよ。
失敗すると何故か酸っぱいの。
慣れないウチは生と乾燥を別々に作っても大丈夫との事。
だがストレージが有る前提なので先送り。
基本はハーブティーと同じ、煮出し10分、蒸らし5分の感覚と同じなんだとか。
ただこの鍋で作る場合は材料が多いは大きいわ、鍋が特殊なので沸くのに時間が掛かる為、煮出しには大体1時間。
生の茎や何かに30分、薄い葉で大体15分と時間が掛かるんだと。
何となくは分かったが、手段は変わらないのね。
そして滓は軟膏や入浴剤にしたりと有用性は有るらしいが、もう1回煮出しのチャレンジ。
『よし、上出来』
「楽しかった」
『葉を毟るの嵌まってたわねぇ』
「繰り返し作業好きです、編み物も」
『ふふ、良い趣味ね…ねぇ、エッセンスやハーブは大量にあるから、持ってってくれない?余ってるのよ』
「いや、でも」
禅問答を繰り返す間に泉の奥に案内されると、直ぐに倉の群れに出くわした。
巨木の隙間に建てられた簡素な倉が、奥の奥までぎっしりと、無限に立ち並んでいる様に見える。
ちょっと怖い。
『ね?倉がパンパンなの。それに必要になるんでしょ?近々』
「…ありがとうございます。近々受け取りに来ます」
『うんうん、じゃあ私はちょっと出掛けて来るから、好きにしてて』
「はい」
『うん、良い子ね、直ぐに帰って来るから』
出来る事が少ない自分はひたすら自主練、魔法を使ってはエリクサーを飲み、疲れたら眠り、また使っては飲み干す。
甘さ無しのエリクサーはお煎餅との相性が絶妙、順調に魔力が溜まっていく感覚があった。
そして気分転換にアヴァロンへ。
初エリクサーを少しティターニアに上げ、魔法の練習をしては試作品を消費するルーティンを繰り返す。
その合間、気持ちの良い風と穏やかな木陰の中で、ドリアードに誘われるがまま少しだけ横になる。
ウトウトと、暖かい日差しと程好い疲労感に、どうしても瞼が落ちていく。
何度か深い瞬きをし、風の音で顔を上げて、周りをゆっくりと見渡す。
左側には小さなクーロンを抱える魔王。
右側ではカールラが泉で眠るエミールに、膝枕をしてあげている。
自分の足先も、泉に浸かっていて気持ち良い。
タケちゃんと賢人君は少し離れた所で、静かにスクワットの回数を競ってる。
ミーシャはドリアードに寄りかかりながら、爆睡中。
とんでも無く平和な風景だと思い、背伸びしながら空を見上げた。
すると丁度雲が影を作り、辺りが暗くなった。
灰色の雲間が燦めく。
魔王の空間魔法の様に鈍い色が発光し
空が裂けた
そこから禍々しい光を発する何かが
落ちた
ひとつ、ふたつと転がり落ちると、どんどん大きくなっていく
沢山の手がうねりながら生え出し、無数の足が蠢く
あっと言う間に巨大化し
駆け寄ってきた
大きな口を開け
襲い掛かり
噛み千切り
食べた
エミールが
タケちゃんが
「なっ!」
「ハナ、ハナ、どうした?」
「タケちゃん、ケガは?エミールは?」
「大丈夫だ、ケガは無いぞ、元気だ」
「恐い夢が、食べられた。皆、何でココに」
「オベロンに新技をと、ハナ、もう大丈夫。息を止めて……まだ…よし、ゆっくり吐いて、吸って」
「ごめん」
「謝らなくて良い。細く長く吸って……ゆっくり吐いて……細く長く……」
タケちゃんの声に合わせ、ゆっくりと息を吸い、吐いては吸ってを繰り返した。
頭の中が少し静かになって、周りの音が聞こえ出した。
鳥の声、木が囁く風の音、タケちゃんが背中をさすってくれる感覚。
あれは夢、ココはアヴァロン。
ココにエミールは居ない。
夢では叫び声以外の音はしなかった、耳鳴りみたいに静かだった、だからコッチが現実。
ゆっくり呼吸して、色んな音を聞く。
「ごめん、ありがとう、大丈夫。ちょっと凄い夢で」
「おう、気にするな」
「叫んでましたね、はなちゃん、何か飲みますか?」
「うん、もう、メチャグロ」
「あの、桜木様、柏木さんと繋いでも?」
「話せるか?」
「うん」
「では」
【桜木様、事情は少し伺いましたが、詳しく聞かせて頂いても?】
「うん。昼間、空が、魔王のみたいに変な色に光って、裂けて、変な色の生き物が落ちてきて、大きくなって、襲い掛かって来た」
【魔王の魔法の様な光ですか?】
「うん、後半セピア色ぽくて、何色か判らなかったけど、魔王のっぽい鈍い色だと思った、そこから2個…2体転がり落ちるのを見た」
「ハナ良いか?どんな生き物だった?」
「手も足もいっぱいで、大きい口で、変な色で…いっぱい生えてた、身体いっぱいに。電柱より大きい」
【それが、何処の何者なのか…】
「ごめん、分かんない。皆食べられた、でも、ただの夢かも知れないし」
【一応警戒させます、情報を集めますのでお時間を下さい】
「うん、お願いします、宜しくお願いします」
「落ち着いたか?」
「表面上は。リアルで本当の記憶みたいで、まだ凄い怖い、不安で堪らない」
「なら、ハナの相談相手と言ったら誰だ?誰に話したい」
タケちゃんの助言に従いクエビコさんの元に向かった、魔王とクーロンだけを連れて。
話さなくても話せる相手が欲しかった、これ以上何か言えば、本当になりそうで怖かった。
「お邪魔します」
『ん、真っ青だな』
「マジ?そんなに?」
『あぁ、余程怖かったのだろう』
「今も怖い、網膜に焼き付いてる感じ、力が無いからかな…それに、魔王をホムンクルスに移して無力化しようと思ってたのに、あんなの見ちゃったら…あぁ成ってしまったらって、怖い、凄く」
『あぁ、ホムンクルスか…だが魔法を精進しろとの警告かもしれんぞ』
「えぇー…まだ練習の前段階で、やっと魔力が満たされ始めたのに」
『だからこそ夢見が強く発動した可能性も有るだろう、夢を見るにも魔力が必要だからな』
「一方的にやられた、あっという間だった」
『お前の能力は雷電、生かすも殺すも可能と聞くぞ』
「生き返らせれる?」
『らしいな、お主の魔法を深く知れば、少しは安心できるのでは無いのか』
「うん、多分…クエビコさんが一緒に居てくれたら良いのに、ドリアードみたいに」
『一緒に居る様なものだろう、その杖だ』
「ほう、でもなぁ、ドリアードみたいに分身をおちょくれないじゃないか」
『それは…馬鹿め茶化しおって、従者に嫌われぬかビビっておる方がまだ可愛げがある』
「おま、だって嫌われるのも恨まれるのも怖いじゃんか」
『ワシや魔王に嫌われる心配はせんのか』
「魔王は主従関係ぽいし不安じゃない、カールラもクーロンも何か平気、神様も妖精も精霊も心配にならない。でも人は苦手、分かり難い」
『それでも人に関わらねばならん、生き続ける限り、人が人を絶つのは難しいだろう』
「クエビコ様、例外が居ますよ。仙人と言う者が居ると」
『それは世界を見て理解した者が成るのだ、まだ多くを見ていない子供にそれを教えるのは、早々に諦める事を教えてしまうのではないか?』
「そうやって生きていって困ったら人を頼れば良いんです、それが出来る様に支えれば良いんじゃ無いかと。例えば、大罪達の」
『お前の大罪は例外だ、人で無いとは言わんがアレは例外だろう。魔王、お前には悪いんだがアレは生きていると言えるのか?大人になった双子に、そんな生活をさせたいか?』
「そうですね…でも、出来るだけ関わらずに生きても良いと思うんですよ、私みたいに傷付く位なら、はなちゃんも双子も人と無理に関わらずに生きても良いと」
『人の成り損ないめ、だからお前は』
「あぁ、魔王の時間は無限だから、だからそう思えるんじゃ?寿命がある者は自分が死んでも困らない様に、子供に色々教えるもんじゃない?」
「……そうかも、知れないですが」
『そうだ、そしてこの世界でもそれは一般的だ。お前も、そう育ったか』
「いやあんまり、でも魔王寄りだな、魔王がパパだったら良かったかも、コッチに生まれたかった」
『他の者は勿論だが、それは今度ショナに話してやると良い、今回の悪夢で心配している』
「ショナ君、耳が早いなぁ」
「ふふ、心配なんですよ」
『ただの悪夢の可能性もあります。歯軋りも叫んで起きるのもストレスが大きいからだとか、ただ何がストレスか、聞けないと対処が出来ないですよね。とな』
「マジでストレス少ないんだけど」
「大体の寝顔は幸せそうですし、単なる癖ですかね?前世の」
「前世?あー、かも、歯軋りは特に。あんな悪夢は早々無いけど」
『となるとだ、夢見の可能性が高くなるのは分かっているか?』
「ね、どうしよう、2人の討論聞いてたら落ち着いちゃった、つかなんの話しだったっけ」
「生かすも殺すも、はなちゃん次第」
「あ、それそれ…頑張る、どっちが簡単かな」
「やっぱり殺すのじゃないですかね?」
『まぁそうだろうな』
「じゃあ、殺す方法を学ぶ」
『そっちか』
「殺す、殺される前に」
『そう気張り過ぎるな、まだ魔力の拡張期で不安定なんだ』
「おう…じゃあクエビコさん、万能薬、エリクサー以外に魔力溜まる系のモノって無い?」
『地中の魔石、宇宙に漂う魔石だな。美しく大きいモノは特に力を持っている』
「宇宙は無茶じゃ」
『クーロンにやらせれば良い、アイツは宇宙でも耐えるさ。竜なのだから』
「クーロン、行ける?」
『わかんない』
「魔王、宇宙空間に開けられる?」
「えー……制限が掛かってるので、宇宙は無理ですね」
「じゃあ出来るだけ高く開いて。クーロンは取り敢えず5個お願い、時間掛かりそうなら戻っておいで」
『あい』
「じゃあ開けますよ~」
クーロンが飛行機雲を造りながら宇宙へ飛んで行った。
余程快適なのか、楽しそうにキラキラと、流星が宇宙を舞う。
「地中の、魔石は?」
『アヴァロンで聞くと良い』
「おう。石って、そのまま使うの?」
『それは勿論磨かせるだろう』
「誰によ」
『ドリアードを頼ってやれ、アレは人脈が広い』
「おう、で魔石って何さ」
『魔力の…電池だ、魔力を蓄積出来る、充電は宇宙に戻すか埋めるか、魔力の濃い場所で回復するか。勿論、人力でも回復可能だが、効率は悪いそうだ』
「にしても便利過ぎるじゃん」
『地の魔石は人には採取出来ぬ、宇宙の魔石も取って来るのが難しい。宇宙へ行ける竜は少ない、西洋の竜は本来怠惰で自ら取りに行かん、東洋の龍はそもそも宇宙へはいけん、そうなると隕石頼りだ』
「ほえー……そうだ、空間移動とかストレージの事なんだけども、伝手はありませんか」
『どちらもヨグ・ソトースかアクトゥリアンにでも協力して貰ったら良い』
「よ、ヨグソトース?」
『クトゥルフ神話を知らんか、ソチラから伝来した筈だが』
「少し、詳しくないけど知っては居るよ、ふんぐるぃ」
『それなら直ぐに使えるようになるだろう』
「ふわっとしてんなぁ…」
『割に、かなりハッキリと言っているがな、で、他に何が欲しいんだ。もう全部言ってしまえ』
「うーん…あ、温泉欲しいんだった、誰か紹介して」
『それか、ならスクナに頼め』
「そんなまた、何でもスクナさんに頼って良いもんか?」
『良いぞハナ、頼られるは楽しい。なぁクエビコ』
「っ、ビックリした…どうもスクナさん」
『何を頼りたいんだ?』
「お暇でしたら…欧州のアヴァロンにある家の近くに、温泉があればなーって思ってまして…いつの日にかですけど」
『そうか、ん、今行こう』
『待て待て、外国への行き来には不可侵条約がある。取り敢えずはドリアードにでも連絡して、土地のモノに許可を得ねばならんのだ』
『そうか、ならそうしてくれ、初めては楽しみだ』
「そうなの?」
『あぁ、早く行きたい』
「じゃあ、一緒に行って下さい」
『うん』
「よし、魔王、クーロン連れ戻して」
「え、私飛べませんよ」
「そうなの?戻って来てくれー」
声が届いたのか偶然なのか、クーロンらしき流星が遠くでUターンしてるのが見えた。
そして魔王が開いた空間から、沢山の魔石を抱えたクーロンが出て来た。
『ご主人様!お待たせしました!』
「ぉおう、おかえり。では、行こうか」
『はい』
「ありがとうクエビコさん。またね」
『ん』
魔王城で庭の手入れをしていたドリアードに話をし、アヴァロンへの一時入国許可を得て、ようやっとアヴァロンに帰れた。
《お疲れ様です、お帰りなさい》
「ただいま、こちらがスクナヒコさん」
『スクナヒコだ、宜しく』
《お話は伺っております、宜しくお願いしますね、ティターニアです。私は良いのですが…ドリアードが少し拗ねていて……》
《んー!何故クエビコばかり!むん!》
「その、魔石の事を、お願いしようかと思ってたんだけど」
《…ほう?》
「ほら、クーロンが持ってるでしょ?魔石磨くのにどうしたもんかと」
《我で良い?》
「マジ、お願いしますよドリアードさん」
《ふふぅん…これから先も、ちゃんと頼ってくれるんじゃな?》
「勿論、色々お願いしたくても予定がいっぱいでさ?ね?いっぺんには無理だから、小出しになるけど、ちゃんと頼むから。先ずはスクナさんの許可をお願い」
《しょうが無いのぅ、許可する》
「後は、オベロン?」
『おう、許可する』
「キサマ、隠れてたな」
『おう、女の面倒事は好かん』
「確かに、正解だ。スクナさんお待たせ、どうぞ」
『うん、スクナヒコだ、宜しく』
《ドリアードじゃ》
『オベロン』
『うん、何処にどう作るか』
「お任せで」
《ちょっと待ったぁぁあああああああ!》
「え、誰」
《あら、ノームさん、お久し振りですね》
《あら、ちゃうわ!ワシの土地で何させるつもりじゃティターニア》
《ノームさん人間がお嫌いでらっしゃるし、お家が出来た時もいらっしゃらなかったので、てっきり協力は見込めないと》
《勇者は別じゃい!》
「女で勇者じゃないけど良いですか?」
《お、おおおん!?お前アレか、召喚者か?!》
「はい、桜木花子です」
『スクナヒコだ』
「魔王ですどうも」
《魔王!?なんでこんなんがおるんじゃぁああああ?!何でなん?召喚者、闇落ちしてしもたん?》
《もう、ちゃんと通達したのに》
「闇落ちしてへん、最近の魔王は無害化されてるんで、つるんでます」
《そうなん?ホンマに大丈夫なん?》
『クーロンより弱いの、殺せないけど弱いの』
《はぁー!可愛い竜ちゃんやないの!飴ちゃんあげようか?魔石がええか?》
「魔石て」
《ノームは金属と鉱石、キノコの精霊やぞ!魔石なんぞいくらでも出せるわい!》
「キノコ、マイタケ、味シメジ」
《マイタケっちゅうんは東のキノコやんな?好きなん?自分》
「好き、次点でナメコ、キクラゲも」
《なんや、ポルチーニは?トリュフは?》
「ごめん、あんまり好きでない。オリーブオイルも好きじゃない、ソバも、臭いがムリ」
《なんでや!美味しいやろが!》
「苦手はしょうがないじゃろが、東のキノコ食べた事あります?」
《無い!》
「もし美味しかったら魔石と交換しません?」
《お!今あるんか?》
「無い、今は」
『ハナ、今から貰って来てやろうか?』
「良いの?何処から?」
『知り合いにキノコの神が居る、西の神に食べさせると知れば喜ぶと思う』
《おう!気前良い奴やな!ワシの許可無しに温泉掘ろうとしたのは許したる!》
『うん、じゃあ行ってくる』
「ちょま、一緒に行こう」
『うん』
再び魔王に空間移動させて貰い、スクナさんの言う近江の方。
草津近くの、クサビラ神社に向かった。
「あー、はなちゃん、私は入れませんね、結界は無いんですけどビリビリしてて」
「そっか、手土産どうしようか」
『ハナが作ったのが良い』
「万能薬?」
『多分喜ぶ』
「じゃあ渡しておきますね、いってらっしゃい、はなちゃん」
「うん、いってきます」
『オオトノや、スクナヒコだ、邪魔するよ』
「お邪魔します、桜木花子です」
スクナさんと同じ様に挨拶し、一礼してから鳥居を潜ると景色が一変。
顔を上げた瞬間に、真っ赤な本殿の入り口に立たされていた。
靴を脱げって事か。
『どうぞ、いらっしゃい』
『良くぞいらして下さった、さぁさぁ』
『ハナ、おいで』
「あ、はい、この子はクーロンです、お邪魔します」
『あい、クーロン』
『可愛い子ね、西の竜の子、いらっしゃい』
『良い子だね、ノベは相手をして貰うと良い』
『ノヂや、キノコ欲しい』
「率直」
『ははは、良いのだよ、僕やノベは孫みたいなもんだから』
「サイズが逆」
『ふふ、スクナヒコは小さいのが良いんだ。それで、キノコはどの位欲しいんだい?』
『1人分と株を多種類、西の地の精霊に食わそうと。そして植え増やして沢山食べたいです』
『それは面白そうだ、よしやろう。だが1人前とはまた謙虚な、今年は豊作だから多めに受け取ってくれると嬉しいんだが』
『貰う』
『助かるよ。ノベや』
『はいはい、どうぞ、竜の子も食べて大きくなるんですよ?』
『あい!』
「ありがとうございます。あの、この万能薬を、スクナさんには及びませんが」
『あら、まぁまぁ、こんなに貰っては困ります』
『半分だけ頂こう、後はスクナヒコの土産話だ』
『感想を聞かせる、きっと美味しいって悔しがる』
『ふふ、楽しみに待ってますからね…最後にハナ、久方振りの雷の子や』
『キノコ、クサビラ神の社へ、良く来てくれた、訪れた。今夜は宴、祝いをやろう』
『良く育って大きくおなり、あなたの雷は正しく使える』
『お前は子であり親でもある、お前を生かし、お前が生かす、強い雷を持つ子ハナ』
『また梅雨に』
『また雨後に』
「はい」
顔を上げると、お礼を言う間もなく景色が戻っていた。
鳥居を出た場所に戻ると、魔王と目が合った。
「お帰りなさい、凄いですね、瞬間移動じゃないですか」
「お礼を言いそびれた気がする…靴も履いてるし」
『大丈夫だ、今伝わった、帰ろう』
「?では、アヴァロンへ」
アヴァロンへ戻り、事情を話しながら早速調理。
話す相手は賢人君、緊張するな。
「それって祝詞みたいな感じですよね」
「賢人君は詳しい方?」
「いや、全然、でも爺ちゃんが能とか好きで見させられて」
「あー…高貴な出身か」
「いえ、庶民っすよ」
《まだなん?東のキノコはまだなん?》
『そうだな、まだか?』
「まだっすよ、七輪なんですから」
「まだなのか?」
「ふふ、はなちゃんの土瓶蒸しはもう良いんですか?」
「蒸らしてる、焼けた頃に良い感じの筈」
『ハナ、酒』
「賢人君」
「はい、適当でも良いっすか?」
『良い』
「ダメよ、日本酒でしょう」
《東の酒やと!?》
『上手いぞー、あの時来ればなぁ、バカだなぁノームは』
《飲んだんかワレ!》
『おう、色々飲んで色々食った。だから来いと言ったのに』
《人間言うたから!》
『そら人間か、女か、って聞かれたら人間で女だと言うさ。その後直ぐに召喚者だぞとも言ったろう』
《オベロンのばか!》
『バカはお前だ、しかもこの子は雷電使い、だからお前を呼んだのに、直ぐ家に引っ込みやがって』
《雷電?!もう!なんやねん!》
「あの、ノームさん?人間に何されたの?」
《あんな?魔王全盛期の頃にな?人間に騙されて奴隷にさせられそうになってん、魔王倒す為に魔石欲しい言うからな?》
『人間の女に騙されて捕まってたのを俺が助けてやったんだ、だから少しは俺の言う事を聞けと何度言えば』
「魔王、ごめんなさいしなさい」
「ごめんなさい、ノームさん、私と人間の争いに巻き込んでしまって。でも、私の事は嫌いでも、はなちゃんは嫌いにならないでくれませんか?」
《ワシ、あんたを良く知らんねんけど、何で暴れてしもたん?》
「ワシがザッと言うと、人間の女が人間の男に虐められてて、殺ったら逆恨みされた、仕舞いには復讐の応酬、果ては人間全体への復讐に移行。合ってるよね?」
「凄くざっくりで大雑把ですけど、合ってます」
《そうか…そうなんやな……やっぱ人間恐いやん!しかも女絡んでるぅ》
「ごめんな、人間の女で。召喚者の男は2人居るから宜しくな、今だけ、勘弁して」
『そうだ、食べよう、話しは後で』
『うん、そうすべき』
「うん、いただきます」
「《『いただきます』》」
舞茸や椎茸、キノコの炭火焼き。
お醤油とか塩とか、カボスとかも使って食べちゃう。
そして土瓶蒸し、美味いに決まってる。
《美味い!やるやん自分!》
『ハナが居たから沢山くれた』
「そうなの?」
『キノコと雷は関係ある、鉄線の花も、ハナは花で雷でキノコだ』
《せやねんな、無下にでけへんけど、恐いんや、女はもう魔王より恐いわ》
「しゃーない」
《あんさんに渡すの恐いねん、でも渡したいねん、けど恐いねん》
『じゃあドワーフ達に渡せば良いだろう、兄弟分なんだろ』
《それもイヤや!なんやご褒美取られる感じでイヤや!》
《きぇー!いい加減にせんかノーム!お互いの為に静かにしておったが!もう我慢ならん!ゴブニュ達に渡せば良かろう!!》
《なんや偉そうに!召喚者独占しおっていけしゃあしゃあと!》
「怒る所はやっぱそこなんすね」
「何か栄誉ぽい」
『えいよなの』
《せやぞぉ!魔力は補充されるわ楽しいわ嬉しいわで、堪らんのじゃい!》
「へー、で、土瓶蒸しどう?」
《美味い!けどソレとコレは別や!》
《もう!構うで無いハナ!分らず屋のとんちんかんにやるで無い!勿体無いわ!》
「いやいや、落ち着いて、嫌なもんは嫌なの、しょうがないでしょうが」
《良く無いのじゃ!元はと言えばその人間の女の話をロクに聞かず、我が止めるのも聞かずに捕まった大馬鹿者なんじゃから!それをぐぐぅ》
「その位で手を打ちましょう、どうどう」
《そうですよ、落ち着いて。ノームさんは、ゴブニュさん達に渡すのは嫌ですか?》
《いやや》
《では男の召喚者に渡すのはどうですか?》
《……本当はハナがええねん、でも…》
「別に魔石は他を当たるんで良いですよ、無理は良くない」
《そんな、殺生な…》
《ふん!自業自得じゃ馬鹿者がっ》
《せやな…堪忍な、本当は協力したいんやけど…堪忍な……な?》
「じゃあ、温泉の許可とキノコ栽培だけとかは?例えば、ノームさんが食べたいだけ生やして、残ったのを勝手にコッチが貰うとか、男の召喚者に渡すとか」
《…ええの?…それ、やらせてくれるん?》
「キノコの精霊とか神様って中々居ないかと。キノコ好きだからココでも沢山食いたいし、あ、男の召喚者からのお裾分けを貰うとかね」
《嫌いでもええのん?》
「ちょっと嫌だけど許す、困らないし。怖いとか嫌とかには理解が有るつもりだし、あ、毒キノコ混入とか家にキノコ生やしたら永久ミンチな」
《そんなんせんわ!……やらしてもらいます、温泉も許可します…ブツは男の召喚者に……土瓶蒸し美味しかったですわ、もう会われへんけど、堪忍な》
「うん、ありがとう、さよなら」
テンション高かったなぁ。
『うん、良いのが掘れそう』
「消えちゃいましたね、キノコ残して」
「フェアリーリングっすね」
《すまんの、強情なやつで》
「いいよ、しょうがない」
《お主は、嫌われるのは嫌では無かったのか?》
「本当に嫌われてるのは自分じゃないし、嫌う理由があって明確で良い、全然おk」
《お主が気にせんなら良いんじゃが》
「ありがとう、マジで全く気にならない」
『豪傑』
「オベロンそれ褒めてる?」
『半分褒めてる』
「そうか、半分なら良い」
『ハナ、温泉はどうする』
「塩っぽいの以外で、後は任せた」
『わかった、任されよう…【ココは良い土地、清い土地、良い土地には良い温泉、穴が空いて、湧いてくる、涌いてくる、沸いてくる…】』
薄い赤茶色の温泉が湧くと、さっきまでゲラゲラ笑っていたおっさん達が真面目な顔になり、黙々と木と岩で大浴場を作ってくれた。
取り敢えず、お酒の追加を進呈。
呑みながらでも、寸法の狂いは一切無し。
酒の肴をと天ぷらを作っていると、完成した。
《まぁまぁ、何て素敵。妖精も生まれて、まぁ可愛らしい》
『これは含鉄泉。それは温泉の守りだ、綺麗に使えば綺麗にしてくれる。どんな薬効も、言えば調整してくれる』
「ありがとうございます。1番風呂どうです?」
『皆で入ろう、それが一番楽しい』
「お、タオル巻いて良い?」
『うん』
《では、呼んでくるかの》
そうこうしていると、人見知りのナイアスが泉から出て来た。
騒がしかったよな。
スクナさんが近寄っても、逃げない。
「騒がしくしてすまんね」
『いぇ…』
『お主は』
『…ナイアス…です…』
『スクナヒコだ、宜しく』
『はい、宜しく、お願いします…』
『頼みがある、そこに滝を作って欲しい』
「お、良いね、風流だ。そのまま川も?」
『あぁ、頼む』
「お願いナイアス」
『はい、分かりました……こうですか?』
『あぁ、良いね、良い感性だ』
「うん、良いね、温泉を分かってる」
『ありがとうございますぅ……』
「おぉ、凄い気分転換だなぁハナ、これが日本の温泉か」
「コチラのスクナヒコさんが湧かしてくれた、滝と川はナイアスが」
『宜しく、スクナヒコだ』
「そうか!宜しくな!李 武光だ」
『ひゃい……』
「ミーシャ、エミール、体調どう?」
『大丈夫ですよ、お疲れ様です』
「万全です、桜木様はどうですか」
「大丈夫、転移の影響は?」
「魔王のとかの転移はダメ、泉を少しなら可と聞きました」
「そっか、ありがとうミーシャ」
《皆さーん、準備は宜しいですかー》
「「「はーい!」」」
各々がタオルを巻き、温泉に入った。
ドリアードとナイアスは見学、かなり人型で無いと影響が有るんだとか。
『溜まらんなぁ、酒が欲しくなってきたぞハナ、出してくれ』
『飲み直そう、酒は百薬の長』
「はいはい、賢人君さっきのある?」
「はい、どうぞ…にしてもまさか混浴何て…しかも世界樹で…」
「俺もだ、コレは、飲めるのか?」
『うん、ハナの体に合わせた。酸っぱくも臭くも出来る』
「今はやめとこう、エミールは大丈夫?痛まない?」
『大丈夫です、瞼が少しジンジンしますけど、エイルさんが大丈夫だって』
『そうだな、瞼は僕でも見れるが大丈夫だ、良い医者に出会えたのだな』
『はい、とっても』
『うん。ハナは何故、治さなかったのか』
「エミールが治ったらお願いしようと思って」
『そうか。後は魔力か、未だ足りて無い』
「エリクサーを自分で作って飲んでみたけど、かなりの量が右から左へで」
『そうか、試したい。ハナのだ』
「おう」
『可』
「次はコレ、エイル先生のエリクサー」
『ん、爽やかで風味が良い』
「中つ国の仙薬」
『うん、濃いな、眠気を誘う。それぞれに良さがある』
「ごめんね、万能薬苦手で」
『僕もです、すみません』
「俺は嫌いじゃ無いぞ、目が覚める味だ」
『そうか、ならやろう、持っておくと良い。だが本来は奥の手だ、苦手で良い、命を救う為の物、そうならないのが1番だ』
「おう、ごめん」
『今のハナは仕方ない、成長途中だ。もっともっと大きくなる』
「膜が?」
『あぁ、修復されてやっと成長を始めたんだ、成長しきれば腹も満たされる。向こうの世界での不調の幾ばくかは、膜が原因だ』
「関節が柔らかいのは?良く捻挫します」
『それは体質だ、体質を治すには、かなり神の力がいる』
「おぉ、体質」
「俺も見立てて欲しい」
『お主は健康そのものだ、膜も柔軟で良い』
「見た目通りだタケちゃん」
『ふふ、目が見えるのが楽しみです』
「エミールはどう?」
『少し固いが良い膜だ、鼻と耳が鋭い、大事にするといい。狩猟は目だけでは無いそうだからな』
『はい!』
『ハナは薄くて柔らかい、目が悪いのが心配だ、早く治って欲しい』
「ごめんね、早く治すよ。ありがとう」
『うん、もう人は先に上がると良い。コレ以上の入浴は良くない』
「うん、またね」
《ほれほれ、はよう。次は我と遊ぶ番じゃぞ、早よう準備せい》
手早く服を着ながらサンドイッチを口にしていると、ドリアードにズルズルと引っ張られ、泉へ向かわされた。
「もう、アチラで食べましょう桜木様」
「おう。で、何処行くの、相手の時間は大丈夫なの」
《寝ておっても飛び起きる話じゃ、それだけ魔石は稀少なんじゃよ》
「ん、で、またこの泉で行けと?」
《そうじゃい!》
「おまっ」
あっと言う間にケルトの世界樹、ロッホランに着いた。
水辺を囲む森の奥には新緑の平地と、なだらかな丘が僅かに見えた。
とても静かで、豊かな水の匂いで溢れてる。
《来たぞー》
《どうも、初めまして、セクアナです》
「初めまして、桜木花子です。お邪魔します」
「従者のミーシャ」
《ゴブニュはもう起きておるかの》
《えぇ、勿論。こちらへどうぞ》
大きな湖の湿地帯の近くにある小さな泉から、少し離れた川沿いを進む。
様々な木々が繁る森の先には建物があり、人が居た。
正確には人の姿をした神々。
挨拶を終えた直後、ドリアードのザックリした説明が始まった。
適当なのに、真剣に聞いてくれてる。
『やる』
《返事が早いのう》
『タダで魔石で遊べるんだろう?しかも加工まで、楽しそうじゃないか』
『俺もやるぞ!』
『サイズが違うんだ、均等に配布にせんと競争にならんな』
若い男性から壮年のいぶし銀まで、様々な鍛冶の神々が和気藹々としている。
少し離れた場所に居るのは妻である対の女神や川の女神達らしい、微笑みつつ見守ってくれている。
《よーい、スタート!》
あっという間に持ち込んだ石が魔石に変わった。
様々なカットやカラーがあり、見た目は完全に宝石。
『ふぅ』
『何だ、もう無いのか』
『もっと持って来るんだろう?』
「はい、そのつもりです」
《久し振りに見ると、やっぱり美しさを感じるわねぇ》
『今度で良いんだが、その、小さいのを少し分けてくれ、妻にやりたい』
「勿論!後…ミーシャ、ガラスの燭台と蝋燭あったっけ」
「はい」
《まぁ!なんて可愛らしいの…素敵ね…》
「あの、更に加工って」
『あぁ勿論、軽くて丈夫で』
『身に付け易く』
『嵩張らずに』
神々が優勝者を囲み、早速加工の相談をし始めた。
白熱しているので任せてみる、眺めていると中々楽しい。
人種は勿論、老いも若きも大きい者も小さい者も、より良い物を作ろうと話し合ってくれている。
女神達は蝋燭細工が大層気に入ったらしく、掲げて眺めては何処に飾るかと相談し。
ドリアードは良くぞ召喚者を連れてきたと、褒められ鼻高々。
『私はベリサマ。今回の件、頼んでくれてありがとう』
「ぇ、いえいえ。些末な仕事を頼んでしまい」
『良いのよ!正直、ずっと戦も無く暇で仕方なかったんだ、仕事をくれてありがとう』
「本当は武器や防具を頼みたかったんですが、まだちょっとあれで…」
『それは既に山ほど倉庫にあるから。それより新しく楽しい方が良い、これで良いんだ。武器が必要になったら取りにおいで、勿論オーダーメイドも受けてるよ!』
「はい、ありがとうございます」
『おい、試作は当分先で良いか?』
『少し揉めていてな』
『少しな』
「直ぐに使わないので大丈夫です、また来ますね」
『おう!必ずだぞ!』
『次の賞品もな!』
『そのエルフもだぞ!』
《誂わないの!》
『だはははははっ!』
再び泉からアヴァロンへ。
泉酔い状態になりつつ、ミーシャの背中をさする。
ワシより酷い酔い方。
「ただいま、面白いおっさん達だった」
「もう行きたく無いです…」
「お疲れ様っす、桜木様。柏木さんから連絡があって、省庁まで来て貰えないかと」
「桜木様…酔いました」
「だよね、分かる。休んでてミーシャ、行こうか賢人君」
「はい」
魔王の空間移動にどれだけ助けられているか、ヨグさんでも何でも良いから。
ストレージと空間移動が欲しい。
「魔王の件、許可が下りました」
「何でまた、早い」
「シュミレーションが成功したんです、分裂の。桜木様の言う様に、魂を分裂させ、器に入れるだけであれば、高い確率で成功します。ですが」
「定着?」
「はい、定着せず消えてしまいます。魔王の分裂体も、全て」
「…名付けた?」
「いえ!そうですか、名付けですか…少し相談して参りますので、応接室でお待ちいただいても?」
「どぞどぞ」
「桜木様、多分時間掛かると思うんで、何か食べます?お昼少なかったですよね?」
「ありがとう、適当に出してくれると助かる。エリクサー飲むから」
「はい…あのー、万能薬ってそんなヤバいんすか?」
「どうなんだろうね…賢人君、似た年だろうし、砕けた話し方を要求したいのだが」
「いやぁ…砕け過ぎちゃうんすよ、こうやって中間すら危うくて」
「それで良い、拒否は万能薬飲ます」
「良いんすか?ひと口と言わず1滴でも」
「お、勇気あんね、では…」
「ごっ…」
「息して」
「く、ひゅ…ショナさんが…ヤバいって……マジ…ヤバいっすね…」
「砕けないともっと飲ます」
「マジムリ」
「万能薬パネェ」
「桜木様もパネェっすよ…この味を大量に…」
「良薬口に」
「苦いってレベルじゃないっすよ、マジ、甘いの出します?」
「いや、しょっぱいのと水を少々」
「大丈夫っすか?コレはマジでクリーム系っすねよ、アンコじゃぜってー消えねぇ」
「そうそう、ジュラのチーズケーキ、マジで助かった」
「ジュラさんのケーキ、マジ旨いっすよね…このケーキ1個良いっすか?」
「どぞどぞ」
「ふふ、賢人君にはお茶を淹れましょうかね」
「あざす」
「いくぜ、自家製エリクサーの一気飲み」
「それ美味しい方じゃ無いっすか」
「ちゃうの、失敗作、凄い酸っぱくなったの」
「うわぁ…匂いは良いのに」
「最早梅酢、胃が溶けそう、ほら」
「…ヤベェ、ヨダレとまんねぇ」
「へへ」
「ひひ、桜木様の失敗作もパネェっす」
「だろぅ…柏木さんのお茶に混ぜるか、苦いの」
「良いっすね、めちゃんこ元気になってくれるかも」
「これこれ、お2人とも」
「冗談冗談、ね」
「そっすよ、ね」
コレ位が自分には良い。
有り難い、普通が1番。
「申し訳ございません。桜木様、シミュレーションが難航しておりまして…」
「議論も?」
「はい、申し訳ございません」
「議論されてるなら良いと思う、許可が出るまで待ちます」
「では後日、改めて」
「うい、了解です」
アヴァロンへ戻る前に、治療、医療の神様を休憩室で調べた結果。
自分の根本的問題を解決してくれそうな神様を見付けてしまった。
ただ、この神様と気が合うかどうか。
キノコ神の様に、どうも気質が合わない、性格が合わない、苦手、等の理由で接触出来なかったり、拒否されたりは良くあるそうだ。
今までが運が良過ぎた、礼を欠かさないように、もっと気を付けないと。
筋を通すためにエイル先生に会って、謝ろう。
そうして先ずはアヴァロンへ、アヴァロンからユグドラシルへ。
フギンとムニンに案内され、エイル先生の居る場所へ。
エミールの様子を見つつも、館の裏の泉でエリクサーを作っていた。
『どしたハナ?暗い顔して』
「ごめんねエイル先生、信用してないんじゃなくて、他の神様にお願いしようと思ってる。理由は目の他にも有るから、リスクを分散したいから、何がリスクになるか分からないから、ただそれだけ。ごめんなさい」
『そんな、別に謝らなくても良いのに。それに私には元から変えるのは不可能だし、エリクサー作りが教えられただけでも私は嬉しいんだから。これでも戦の神の子、リスクについても分かってるから、謝らないで』
「でも、なんか裏切っちゃうみたいで」
『そんな事無い、あなたの願いが叶うのが1番、宛はあるの?』
「シュメールへ行こうかと」
『原初の神話ね、そこに興味があるなんて流石私の弟子、ちゃんと治して学んでらっしゃい』
「うん、ありがとうエイル先生、行ってきます」
『行ってらっしゃい、愛しい教え子』
今度はナイアスの案内で、メソポタミアの聖域に向かった。
川で転移、ココも魔王の把握出来ない空間らしい。
不安げなナイアスと賢人君、カールラと共に川から上がると、目の前には神々しく筋骨隆々な初老の男性。
「…あのー」
『やっと来たか、エリドゥのエンキだ。やっと目を治す気になった様だな』
「すいません、お待たせしました。桜木花子です」
『うむ、お前だけだ、他の者は帰れ』
「桜木様」
《ご主人様》
「大丈夫、事情を説明してきて」
『案ずるな、きちんと治す』
「はい、宜しくお願いします」
《はい、ご主人様、お待ちしております》
川の真ん中にある、簡素で大きな黄土色と水色の神殿。
幾つも有る部屋の中、月光が射す寝台に案内され、寝転ぶと、じっと目を診られた。
『…その目、元から悪いな、疲労で直ぐにぶり返す。少し皮膚も良くない、疲れると痒みがあるだろう…弱いのに良くもココまで生きて来れた』
「少し大変でした」
『膜は良い様だ。先ずは目、良くなれば痛み、痒み、違和感は消え、魔力のコントロールも格段に良くなる。皮膚も治すか?』
「はい、宜しくお願いします」
躊躇う間もなく目薬を刺された。
クソ眩しくて痛くなるやつに似ていて、目が開けられない。
『次ぎは違うヤツだ、閉じたままで良い』
「はい」
さっきまでの痛みが消えて、軽くなった。
奥の方の、鈍い痛みも重さも和らいだ。
『更に目を閉じろ、もう1個の瞼だ』
「ん?んーん?」
『小さな光は追うな、真っ暗な方を見続けろ……そうだ、そのまま…そのまま、次は最初の瞼だけを開けろ。ゆっくりと、何回も試せ……どうだ、漂ってるモノが見えるか』
「ふや~って」
『あぁそれだ、良く見てみろ』
「うねうね、生き物っぽい」
『色はどうだ』
「白と…黄緑」
『次ぎは俺の手だ、血管は分かるか?赤い粒を見付けろ』
「ん、赤血球」
『次はもっと小さいのだ、次も、次も』
「細胞ま…ひぇ、ちょっとキモい」
『もっと小さいのだ、白い結晶が見えるか?』
「ん」
『それが魔素だ』
「ほー」
『血管まで戻ってみろ』
「おー輝いてる」
『それを砂の様に推したり引いたり、加えたり抜いたりすれば相手の魔力を操れる』
「おー」
『肉体も操れるぞ、かき乱したりスパークさせれば、傷を作り物理的に破壊出来る。逆をすれば治せる。普通に見るには全部の瞼を開けろ、ゆっくりだ』
「やった、ありがとうエンキさ、わっ、眩し」
『それがオーラだ』
「しみる」
『だろう、今は一時的に見えてるだけだ。目を瞑り、少し休んでおけ』
「はい、ありがとうございます」
『おい、こら、何をして…』
「ちょっと練習に無駄毛の殲滅をと…」
『焦るな、今は目を休ませろ、やっといてやるから…』
「いや、それはいいっす、すいません…」
『…直ぐ起こす【眠れ】』
「は…」
『全く』
そこは真夜中の海の上。
また見た事のある石の扉が、今度は目の前に。
前よりもリアルでデティールが細かい、ただの灰色の岩では無く、時折虹色に輝く銀色の鉱石で出来た岩の門。
門のレリーフは草花だけでなく人や獣、怪物等の様々な模様が細かく細工されている。
「ぁー、あー、誰か居ませんかー」
《居る》
その声は門の奥で光輝き蠢く何かの声、聞いた事が有る様で、新鮮で。
恐ろしい声。
「…もしかしてヨグ・ソトースさん?」
《あぁ…力が欲しいか?》
「程々に」
《では、程々に、力を授けよう》
「ありがとうございます」
《あぁ、生きろ》
そう一言だけ答えると、光も声も何処へともなく、何も残さず掻き消えた。
そして少し開いた扉から、小さい光が出てきた。
青白く輝く小さな光。
【私は、あなたの次元管理代理人です。名前を下さい】
「…そうこ…くら…そら、ソラちゃん又はソラ」
【了解しました、今日から私はソラ、又はソラちゃんです。ストレージ、転移のお手伝いをします】
ストレージって、どうしたら良いのか。
【指示して頂ければ操作可能です】
「頭に直接なのかコレ」
【主にも出来ます、慣れて下さい】
こうですか?分かりません。
【そうです、お上手です】
量は無限なの?
【はい、環境設定していただければ区画も振り分けられます。そして時間の停止、加速が可能です】
逆行は?
【主は現在お使いになれません】
他の人は使えるのね。
【お答え出来かねます】
魔王と同じ力なん?
【お答え出来かねます】
逆行が使える様になるには?
【大いなる力を受け入れる事です】
『おい、起きてみろ、目はどうだ?』
「あ、ん、おはようございます……ちょっと眩しいです」
『そうか、今日いっぱいは掛かりそうだな、とりあえずココの万能薬だ、飲め』
「でっか、ピッチャーって」
『先ずは1杯、飲め』
「ありがとうございます……お、美味しい」
『日本のは世界1らしいな』
「結構飲みましたけど、慣れない、あの味」
『自分で作るなら、せめて自分の好きな味にしたら良いさ』
「エンキさんは、この味、好きなんですか?」
『もうちょっとサッパリした方が好きだな』
「少し甘めですもんね」
『あぁ、それは子供用だからな』
「これでも一応は成人してるんですが」
『では俺用を少し飲ませてやろう』
「すっっっぱエグぅ!」
『はははは、この良さが子供には分からんか』
「じゃ、酸っぱいのがお好きなら、失敗作ですが、如何でしょう」
『ん、渋味が足らんな、酸味もまだまだだ』
「コレ以上は胃が溶けますよ」
『溶けるかたわけ、お子さまめ』
「へいへい…あー、うめーっす、超旨い、子供用」
『ははは』
「ご馳走さまでした」
『次はこっちだ』
神殿は外から見た以上にデカい。
もう、不思議について深く考えるのは止めよう。
「でけぇー」
『全部持っていけ、ココは予備倉庫だ』
「でもストレージが」
《お困りでしょうか》
『お前の精霊か』
「うーん?なんでしょうね……ソラちゃん?」
《はい、次元管理代理人のソラです》
「ああ、夢のヨグさんの」
『今さっきの睡眠で繋がったのか…新しい神は分からんな』
《ストレージで、お困りでしょうか》
「あ、この倉の中身を回収で」
『あぁ、ココから先、向こうまで全てだ』
「だそうです」
《了解しました》
『ふん、便利な奴だ…今日は何時間も動いていただろう、帰って休むと良い。エリクサーばかりでなく、ちゃんと飯も食うんだぞ』
「はい、ありがとうございました。あの、次は他の部分を何とかして欲しいのですが…」
『その体が安定してからだ。次は、旨いモノだ、用意してこい』
「はい!」
ユグドラシルに帰り、エイル先生を探したのだが、もう眠っているらしい。
そしてエンキさんの言う様に、謎肉をたっぷり食べ。
泉でエミールに新しい神様の話と、酸っぱいエリクサーの話をしている間に。
『ナイアス』「ミーシャ」『エミール』『エイル』「タケちゃん」「魔王」「賢人」「柏木」『クエビコ』『クーロン』『スクナ』《ティターニア》《ドリアード》『オベロン』
《キノコ神、ノーム》
『オオトノのノベ・ノヂ』
『ベリサマ』
『エンキ』
『ヨグ・ソトース』
《ソラ》