6月26日(金)
[治さなくても問題無いわ]
との謎の連絡が月読さんから入り、起きてしまった。
そうして暫くすると、部屋に訪問者。
顔を腫らしたせいちゃん。
『おはようございます、謝罪に来ました』
「どしたの、誰にやられたの」
『転びました』
「入りんさい、いつ転んだの」
『今朝』
「じゃあ治そう、仕事に支障が出るでしょ」
『大丈夫です、家で仕事なので』
「せいちゃん」
『どう考えても、無神経でした。当て擦りに巫女さんの事を出して、本当に、ごめんなさい』
「せいちゃん、本当に男の子の日って有るらしいのよ。引き金は女体化かもだし、ホルモンの作用だから、ほら、理屈有りきでしょ?もう良いって」
『それでも、言っちゃいけない言葉だったと思います』
「分かった、謝罪は受け入れるから。誰に怒られたか言いなさい」
『井縫さん、猫山さん、アマテラス様です』
「あー、怖いメンツ」
『懇懇と説明されて、寝て起きて、やっと分かったんです。本当に、すみませんでした』
「ほらまた泣いて、ホルモン可笑しくなっとるんよ、お茶淹れるから待ってなさい」
『はい、すみません』
「分かるよ、生理前とかそんな浮き沈み有ったし。マジで心配だわ、妊娠したらどうなるか」
『ですよね、自分でも怖いです』
「はい、普通のハーブティー、シベリア自治区のやで」
『ありがとうございます』
「ワシ焦って無いから、急いで無いから大丈夫。だからゆっくりでも問題無いのよ」
『すみません、焦って、酷い事を言って』
「そこより響いた所が有るけどね」
『選んでおいてと言われて、否定しないのとか、もう、本当に最低ですよね』
「おー、当たり、良く分かったね、偉い偉い。一旦休憩しようや、考えてどうにか出来る事じゃ無いだろうし、お仕事頑張ってくれ」
『はい、すみません。それと、月読様から来るようにとの伝言です』
「そう、モーニング食ってかない?」
『そんなに気を使って頂かなくても、大丈夫ですから』
「そう見える?」
『いえ、でも、目も思考も曇ってるので。また、何か言ってしまうかも知れませんし』
「鈴藤なら大丈夫かね」
『多分』
「よし、準備してくるから待ってて」
『でも』
「独りで食えと?」
『いえ、でも』
「空いて無いなら良い」
『あ』
「体は正直だねぇ」
何も、せいちゃんには何も言わない方が良かったかも知れない。
せいちゃんは悪くないのに、こんなに追い詰められてるんだし。
「うっし、じゃあ治さないとね」
『すみません』
「はい、もう終わり、違和感は?」
『ありがとうございます、大丈夫です。早いですよね、本当』
「じゃ、行くべ。他の治療師って見た事有る?」
『はい、比べ物にならないですよ』
「ワシすごい」
『ですね、凄いです』
「暗い」
『すみません、自己嫌悪で』
「ワシの肩でも揉む?」
『凝ります?』
「いや」
『ですよね、料理も炊事も出来ますし、何か出来無い事は無いんですか?』
「せいちゃんを落とすこと?」
『すみません』
「立ち直らないと舌を突っ込むぞ」
『もー、誂わないで、許さないで下さいよ』
「無理、良いのか、エレベーターでしちゃうぞ」
『ちょ、人が来たら』
「じゃあいつも通りにしなさい」
『はい。鈴藤さんだと、やっぱり全然違いますよね』
「ついね、花子だと手加減と遠慮が先に出るんだわ」
『鈴藤さんでもして貰えません?』
「コレでもしてる方なんだが?」
『本当ですか?』
「えー、じゃあ許さないわー、泣くわー」
『お、おはよ』
「おう、メシ食いに来た」
『おはようございます』
『もう許しちゃったんだ』
「いや、全然許して無いけどご飯は一緒に食べる」
『お優しい、では窓側のお席にどうぞ』
「どうも」
『私、殺されても可笑しくないって言われて、大袈裟だって思っちゃんたんですけど、大袈裟でも何でも無いんですよね』
「まぁ、殺したいって言われてたね」
『ですよね。皆さんが、凄い好きだってのは分かります』
「凄い進歩では?」
『ですよね、もう恥ずかしくて死んじゃいそうです』
「そういう恥ずかし死は困る、もっと可愛い恥ずかし死じゃないと」
『例えば、どんなのですか?』
「女装して店に出るとか」
『それは、可愛い恥ずかし死なんですかね?』
「赤面有りきよ」
『あぁ、顔が燃え上がりますね』
「燃え尽きない程度が良いんだがね」
今日からモーニングも夏越の大祓。
小豆粥、栗の入ったチマキ、小倉サンド、うずらの卵付きのミニ蕎麦。
おにぎりは丸っこくて縁に海苔が巻いてある、具は旬の焼き魚。
インゲンと枝豆のゴマ和え、シソ入り卵焼き、明日葉とツルムラサキのオイスター炒め、茄子とキクラゲとイカスミ炒め。
毛ガニの味噌汁、カボチャスープ。
殆ど和食、少し中華も有るけれど、全部上手い。
『カボチャ好きですよね』
「塩っぱくされるとキレる」
『カボチャグラタン』
「許さん、スープは例外」
『サツマイモ』
「天ぷらでギリ、スイートポテトしか認めない。アレ作るの簡単よ、バターと生クリームと砂糖少し」
『女子力高いですよね』
「いや、市販のが甘過ぎるのよ」
『確かに、油断すると凄い甘いのに当たりますよね』
「で、沢山食べたい時に作る、冷凍する、美味い」
『へー、冷凍出来るんですね』
「焼く前のでも冷凍出来る。何か持って来る?」
『大丈夫ですよ、先に行ってて下さい』
「じゃあ行ってくる」
サバサンドならぬアジサンド、イワシのトマト煮とおにぎり、味噌汁。
『どれが気に入った?』
「カボチャスープ、アジサンドはもっとパン硬い方が好きかも」
『だよねぇ、万人受けが基本だから。持つよ』
「どうも。硬いですとでも書いときゃ良い、本場は硬いもの」
『あ、拒否されちゃったままなんだっけ』
「まぁ」
『入れる様にしとく?』
「別に良い、次も次で、何処も独自に判断したら良い」
『謙虚』
「ビビりなの」
『お、イカスミ人気だ』
「イカスミ汁、出しんしゃい、美味いのよアレ」
『来月の中旬になったら出そうかな』
「あー、ソバでも良いのよねぇ、悩むわ」
『じゃあ、朝食に汁、お昼はイカスミソバ』
「タコライスにチーズかけ放題にして下さい」
『了解しました、どうぞ』
「ありがとうございました」
『いえいえ』
『なんか、ゴチャゴチャイライラした理由が分かったかも知れません』
「お、なんだなんだ」
『鈴藤さんが羨ましいのかなって、色々な神様や精霊に、愛されてるのが』
「君もでは?」
『腫れ物扱いだったのかもと思ったんですけど、違うんですよね、人間の世界に馴染ませる為に、接触を控えてただけで。でも、その感じとは違くて、良いなって』
「タメ口が?」
『そこなんですかね?』
「丁寧語、止めてくんないよね?」
『もうクセで、つい言っちゃうんです』
「誰にでも?子供にもしちゃう?」
『多分』
「丁寧語話す5歳児か、どうなんだろか」
『会った事無いですよねぇ』
「赤ちゃん言葉使っちゃう?でちゅよ」
『ちょっと、どうなんでしょう、使われてた方ですか?』
「いや、しなかったらしい。そのせいか言葉は早かったっぽい」
『あー、ウチもなんですけど、遅くて心配だったらしいんですよ』
「性差かな、つか和解したんか」
『いえ、結納の話が届いたみたいで。母親の日記が届きました、主に子育ての』
「あぁ、良かったね、そう言うの有るって素敵やん」
『ですね。取ってきますね』
「おうおう、食べなされ」
『はい』
せいちゃんはもう食べ納めなのか、デザート多め。
食欲不振?
「食欲無い?」
『あ、いえ、合間にと思って』
「食べますねぇ」
『止まりませんね』
「何時に起きたのよ」
『実は、寝たり起きたりで、5時には仕事してました。それで井縫さんから呼び出しがあって』
「お説教か、食ったら眠くなるぞ、車で行くの?」
『はい、考えるには1番なので』
「ワシは眠くなりそうだから怖いわ」
『寝付かない時は車が良いらしいですね』
「子供かよ、クソ、運転出来無いからなぁ」
『ふふ、子供舌ではありますよね』
それからたらふく食べ、一緒に休憩にと浮島へ。
「お布団敷くから、添い寝してくれ。お礼に」
『ちょっとだけですよ』
ものの数分で寝息を立て始めた。
出禁を解除し。
空間移動、特別室から月読さんの部屋へ。
「おはようございます、治した」
『聞かない子ね、甘やかして』
「朝ごはんも一緒に食べた、今浮島で布団に寝てる」
『もう、どれだけ甘やかすのよ』
「いっぱい、追い詰めるのは可哀想、ワシに被害何も無い」
『泣いたでしょう』
「ちょっと零れただけ」
「殴ったのはワンコですからね、せいちゃんがお願いしての事ですから、ご心配無く」
「意外と脳筋みたいな事をするのね、せいちゃん」
「まぁ、自傷行為に近いですよ、男の子ですからそれ位しないと、罪悪感で潰れちゃうんでしょうね」
「んー、良く無いなぁ」
「そうですかね?今までの経験を濃縮したと思えば、まだまだかと」
「ワシはあのまんまが好き、カエルのままで別に良いのに」
『その好きは、恋愛より少し違う位置にあるじゃない?庇護欲と友愛』
「コッチのリミッターは外しませんよ、また封印するのに凄い時間が掛かるんですから」
『ダメ?』
「弱いからダメなんです」
『そう、安心したわ』
「へ」
「男性からお声掛けしてこそ、呪いは解けるそうですから」
「あー、そう言う事か」
「はい」
『だからこそ、試しにね』
「でもだ、酷」
『だって、本人も望んでるんだもの、必死なの』
「宥めてやっては」
『気を削ぐなんて甘やかせないわ、あの子の為でも有るんだもの』
「本当に?」
『本当、穏やかに越せる問題じゃ無いもの。だって本当の初恋よ?しかも大人になってからの、本人が覚悟しないと、ネジ曲がってしまう大事な事』
「拗らせ無い様に、スパルタなんです」
「うーん」
『もう、アナタは甘やかす役で良いわ』
「まぁ、1人位は居ないとですね」
「そう言う惚れられ方はちょっと」
『大丈夫、井縫もアレで同情してるのよ』
「ですね、初めてかもですね、人に同情するの」
『そうね、ふふ』
「へー、でも殴るのね」
「同情したからこそ、労力を割いたんですよ」
「んー、それで、何のご用事で」
「この冷凍庫ごと、どうぞ」
「マジですか」
「はい、竜さんが手伝ってくれたので各国の方々のも」
「なんつー事を手伝わせますかね」
「ちゃんと説明しましたよ?そしたら、お姉ちゃんの為に頑張るって」
「なんつー事を」
「コチラ、データになりますぅ」
《受け取らせて頂きます》
「ソラちゃん」
《受け取るべきかと》
「はぃ」
『もう、後は打つ手無しなのだけれど』
「どうです?」
「ちょっと、違う意味で思考停止してます」
「あ、せいちゃんのは無いですよ、無理だったみたいです」
「もっと思考停止する様な事を」
「くふふ、まるでミツバチさんですね、花粉を運ぶ」
「場合によっては廃棄しますからね」
『勿論、お任せするわ』
「ではご自由にお過ごし下さいませ」
「はい」
とんでもないモノをストレージにしまい、特別室から部屋に戻る。
そしてせいちゃんを観察。
布団のギリギリ橋本に居たのが、ズルズルとお布団へ潜り込んだ。
さぁ、どうしたもんかね。
【主、キスをしてみては】
結構な事を言うね。
【絵本を解析するに、正解では無いかと】
絵本や御伽噺ならね、コレ現実よ?
【事実は小説より奇なり、幽霊も居る世界です】
覚悟がちょっと。
準備するわ。
歯磨きは勿論。
置いて行くモノを再確認。
せいちゃんが寝返りをしてビビってしまったが、準備続行。
もう、やり残しは無いだろうか。
井縫さんは生きてるかしら。
メールを打ってみる。
普通に返事が来た、蘇生方法で揉めてるらしい。
帰るなら今か。
ほっぺで良いかしら。
ダメだ、怖いなコレ。
一服しよう。
天気、悪いなぁ。
「まだ、行かないで下さい」
「シーっ、中で寝てるねん」
「行かないで下さい」
「有り難うな、本当なら、0なら秒殺よ。もしずっと1なら、土下座して逆にお願いするわ」
「嘘ですよね、俺みたいに慣れてるのは、苦手だろうって聞いてます」
「ブスにイケメンだぞ?遊ばれそうじゃん。カエルの立場になって考えてくれよ、王子様や」
「アナタの呪いも、解けて欲しい」
「解けたら戻れなくなりそうじゃんか、無理」
「気配はどうですか」
「無いから、せいちゃんに接吻でもしようかと」
「循環に巻き込まれて欲しく無いんですが」
「寝てる時によ、御伽噺をなぞるだけ」
「皆に、別れの挨拶も無しですか」
「アレは余韻だったから、コレはまだ居るかもだし」
「本当ですかね」
「なんだ、1発ヤっとくか?」
「俺と、出来ますか」
「そう可愛いと出来るが、君は外見どうでも良過ぎ。ブス専は無理」
「違いますけど」
「信仰心厚過ぎ、恩義感じ過ぎ。ちゃんと自分を大事にしてくれよ」
「アナタが言いますかね」
「ウチはウチ、余所は余所。この世界の顔面偏差平均を上げといてくれ、いつか生まれ変わるかも知れんし」
「アナタの子が欲しい」
「マジでイカれてんな」
「ロキ神の提案です、死体として付いて行くか、子を孕むか」
「ワシにも究極の2択なんだが」
「どんな誓いもしますから、居て下さい」
「循環に巻き込まれかねないし、帰る選択しか無いのよ」
「なら、連れて行って欲しい」
「せいちゃんをお願いしたい、君は良い奴だから、好きならそうして欲しい」
「ズルいですよそれ」
「泣く方がズルいぞ君、そんなんか」
「凄く、好きです」
「初めてだわこんなん、有り難う、ごめんな」
「出来たら、本当は、戻って来て欲しい」
「長く居たら飽きるかもよ」
「それは俺も、心配してます、美人は3日で飽きるって」
「ブスは3日で限界が来るらしいぞ」
「そんな酷い人間に、見えますか」
「いや、ワシの問題なのよ、すまんね」
「俺も、手を触りたい」
「本当に、何が良いのかね」
「全部」
「雑」
「潔癖なのに、俺を汚いと思わない所。嫌われ様としてくれて、良心の呵責で心が痛んだり、そう優しい所、軽口も楽しいし、素直で、臍曲りな所も、全部」
「【抑制解除】」
「そん、なんで今」
「真心に、応えるのと、帰還の為」
「真っ赤、どれだけ抑えてたんですか」
「わからん、思い出して、外すべきだと思って」
「バカですよね、本当に」
「うん、そう思う」
「幸せになれなさそうなら、戻って来て下さい」
「でもだ、相手を見付ける努力はしてくれ、でないと、戻っても知らせない」
「善処はします。手を良いですかね」
「無理だドS、バカ」
「チョロ過ぎて心配になるんですけど」
「だから、抑制してたんだけど、忘れてた」
「やっぱり、付いて行きたいんですけど」
「連れて行けても、蘇生が許可され無かったら、ワシ、こんなんよ、どうなると思う」
「蘇生が許可されるまで、眠りについてて下さいよ」
「誰が目覚めさせるねんな」
「それは向こうの人間に任せて、俺らはずっと、ドリームランドで過ごすんです」
「それはちょっと、良いな、少し」
「じゃあ、付いて行きますね」
「せいちゃんに試してからだ、意外とそれで、君は無理になるかもだし」
「それでアナタが帰れたら、孕みますからね」
「おう、宜しく」
遠くで雷が鳴っているのに、せいちゃんは寝てる。
【それでもダメなら】
分かってます。
頬に少し触れるかどうかで、大きな雷の音と光が。