6月25日(木)
「おはようございます」
「おう、爆睡しちゃったか」
「ですね」
「おう、おトイレ行くわ」
トイレを出て、そのまま風呂へ。
鈴藤とは言えど、昨日は赤面してたのに良く入るな。
「なにか」
「昨日は照れてたのに入るんかいと」
「好きだと言わないだけで、分かって貰えないなんて馬鹿だなと思ったのと同時に、自分が調子に乗ってるなと。それと、素直だなと」
「複雑性でそうなるかね」
「今までのは、本当に子供っぽいと言うか、本能的過ぎたなと反省と羞恥と、色々で」
「ブラドさんも竜も、責められないわな。こう弱点を晒されると愛しいと思うもの」
「友愛でしたっけ、似てるからですかね」
「顔は似てないが。信仰心と崇拝具合とか、捻くれて捩じ切れたら、ワンチャンこうなるかなと。向こうは純朴っぽいし、素直だぞ」
「そう見せてるだけでは」
「だとしてもよ、それでワシが満足してるから問題無し」
「霊元はどうなんですか」
「だからそう言うのじゃねぇよ」
「素直に弱点晒されてもですか」
「君らの言う庇護の対象だと言えば理解してくれるかね」
「好みじゃ無いなら安心なんですけどね」
「君ねぇ。じゃあ、従者じゃ無いなら良いんかい」
「全部ダメです」
「全部かよ、戻り間違って前に戻っちゃったりして」
「その情報、俺、皆無なんですけど」
「あら安心」
「誰か居たんですか、成程」
「居ねぇよ、意外と嫉妬深いな」
「この立場、経験無いんで」
「即落ちの悩みってマジで凄いな」
「アナタもそうでしょう、見てましたよ、イギリスの少将」
「死んだと思った?」
「いえ、でも、少し不安にはなりました」
「それよ、錯覚してるだけでは?」
「じゃあ、1回だけしてみますか。諦めるかも知れませんよ」
「即落ちの技術は舐めて無いから無理」
「噂ですけど、アナタの方が凄いらしい」
「知らんわ」
「お、ウブですか」
「嬉しいかヤリチン」
「別に、どっちでも、鈴藤さんでも良いですよ」
「朝っぱらから盛、ドリアードに抜いて貰えば?」
「傷付けるの好きですよね」
「嫌なら諦めろ」
「その程度なら悩みませんよ」
「実質ウブじゃん」
「アナタの方がウブ好きですよね」
「ドリアード、コレどうにかして」
『良いが、お主の姿でヤる事になりそうじゃよ?』
「マジで?」
「マジで、マジです」
「205人も」
「俺も観上さんも、とっくに納得してますが」
「他人の方が納得出来てもだ」
「真面目な所も好きです」
「無視して出ます」
水鏡で月読さんに相談した結果、先ずは朝食をホテルでと。
井縫さんと共に行くと、先生まで居た。
『おはようございます』
《おはようございます、泊まらせて頂きました》
「ほう」
《ヤキモチですか?》
「ちゃんと相談乗ってくれたのか不安なだけだわ」
『はい、色々と聞かせて頂きました』
「益々不安だわぁ」
「腹鳴ってますね、行きましょうか」
今日はロキ無し。
ややこしいのが居ないのは良いんだが、先生が居るとプラマイ0な気がするが。
《昨夜は、好きとは何か、からでしたね》
「すまん、それワシもや」
『本当に、先生が言った通りですね』
「何を話してんねん」
《アナタの好きはどんなモノかを話し合ったんですよ》
「ほいで」
《分かり難いだけで、基準は有りそう。今はヤれるかヤれないかの判断だけで、見定めようとしてるかと》
「ほう」
《当たってそうですね、では続けますよ。そうなると、そのお相手の子を産めるかが、好きのラインかと》
「ほう」
《好きになる方が先だと、スムーズだろうなと》
「大概はそうじゃね」
《好かれて好きになる人も居るんですよ?》
「それ、純粋な好意なのかね」
《多少は打算的かも知れませんけど、まぁ、彼の場合はウブですし。考えさせるには良い手段かと》
「ほう」
「何か、塩対応ですね」
《私の好意が伝わってる証拠ですね》
『じゃあ、まだ井縫さんのは』
《勘違いや錯覚と思い込もうとしてそうですね》
「暴くねぇ」
「さっき、実際に言われました」
『それ、何か言われたから脊髄反射しちゃうって聞いたんですけど』
「凄い暴くじゃんかー」
《理解し合うのは、恋愛の基本では?》
「まぁ、そうだとは思うますけど。せいちゃんのせいじゃんか」
『すみません、ウブなもので』
「それは受け入れられる様になったのね」
『はい。周りの配慮もそうですけど、良い事も有ると教えて頂いたので』
《潔癖な方には特に、信じて頂くには良い結果にはなりますし。ある程度の潔癖なら、問題有りませんから》
「俺はどうしたら良いんでしょうかね」
《記憶を消して頂いては?》
「暴論じゃい」
「それでも受け入れてくれなさそうですけどね」
「慣れて無いし」
『グイグイ来られると、怖いですか?』
「井縫さんは平気だが、まぁ、引く。何でやねんって」
『ですよね。何でってなりますよね』
《まぁ、引かれ無いだけマシかと》
「でも、じゃあどうアプローチすれば良いんでしょうね」
《先ずは性欲を排して、自然体で居るのが1番かと》
「井縫さんは性欲の塊を好きと勘違いしてるみたいなんだが」
《それも1つの好きでしょう。恋愛の始まり方は人其々ですし》
「そこ寛容かよ」
《寛容と言うか、相性って有りますから》
「それは聞きたい」
「それは聞くんですね」
「後学の為に。上手い下手じゃねぇの?」
《雑でも問題無い、寧ろ過剰なテクニックに嫌悪するなら、相性が悪いのでは?》
「あぁ、ほう」
「思い当たる節がありそうですね」
「ねちっこいのが嫌とか聞くやん」
「まぁ、聞きますけど」
《そのねちっこさが良いか、悪いか。上手いと萎える、下手だと萎えるは聞きますし》
「でも、結局は下手より上手い方が」
《童貞、処女喰い》
「居ますね、顔すら関係無いのとか、俺はそれに引っ掛かかったらしいです」
『ショックでは?』
「自分が馬鹿なだけで、相手は別に悪く無いと思うんで、別にもう良いかなと」
「調べたんかい」
「普通の人と、普通に結婚してました」
「実は隠れた性癖が」
《それも相性と、上手が居ればこそかと》
『先生は、井縫さんがオススメですか?』
《誰の、でしょう?》
「真っ赤って事は」
「ヤキモチ、少しは妬いてくれませんかね」
「0から想定してたけど、それって妬ける立場にすら無いと思うのよ。人工で作って本物に敵うのか、そうなって好かれて、自分が納得出来るのか。それも有って、しなかった」
《性転換、既に考えていたんですね》
「まぁ、色々有ったんで」
《では、それは後で聞きましょうかね。お代わり如何ですか》
「手伝いますよ観上さん」
『あ、はい』
腐ってるのは勿論、井縫さんとせいちゃんなら問題無く受け入れられると言うか。
もう、自分でなければ誰でも相応しく見えるのは、流石に可笑しいよな。
《眼福でしょうに、悩みますか》
「自分でなければ誰でも相応しく思える、それは異常かもなと」
《自信も、経験も無ければ陥り易いかと》
「だとしても、性転換の事とか、変かね」
《いえ、性的な事で嫌な目に合えば、誰しも考える事かと》
「そう嫌な目に合ってはないから安心してくれ」
《そこは心配してませんよ。ただ、思慮深いなとは思いますよ》
「どうも」
「鈴藤さんも、何か持って来ますか」
「自分で行くよ、ゆっくり食ってろ」
《ほら優しい、本当に酷な人ですね》
「嫌われるには?」
《教えませんよ、さ、私も取ってきますね》
入れ代わり立ち代わり。
懐かしい。
魔王が居た時、こんなんだったな。
また、食べに行けるんだろうか。
『食欲、無いんですか?』
「懐かしいなと」
「他の男を思い出してましたか」
「魔王な、世話好きの父性の塊のクセしてフェロモン凄かったねん」
「よくファザコンになりませんでしたね」
「寧ろ、ショタコン」
「年齢なら下げられますけど」
「いや、それ、性別違えばロリコンやん、マジロリコンは反対」
「結構下を想定しましたね」
「猫さんに君の昔の写真を」
「そこまで下ですか」
「なら平気かなって程度、結局はコッチの精神性の問題よな」
「じゃあ先生はダメそうですね」
「魔王的な優しさを感じるから怪しいわ」
「そこですか」
「もっと分かり易い。分かり易いのが良いです」
「そこも好きです」
「無視して取ってきます」
そこからマジで食事に集中して無視。
意外と無視出来るのな、自分でもビックリしたわ。
そして食事を終えた後、浮島へ。
《じゃあ、神器、使いましょう》
「ワシはどの状態が良いかね」
《今回は鈴藤のままでお願いします》
「うい」
「じゃあ、向こうで支度しましょうか」
『はい』
「そんな怯えるかね、真っ青だったやん」
《アナタの場合と違って感情の問題ですからね、色々と不安なのも分かりますよ》
「例えば?」
《女性の姿を嫌われたらどうしよう、自分が女性として鈴藤を好きになれなかったらどうしよう、好きになったらどうしよう》
「あぁ、生むんだものね。自分の遺伝子弄ろうかしら」
《愛が重いですよ》
「そう?」
《結構》
《じゃの》
『出来たとしても、ホイホイ普通は弄らんじゃろ。我らの中でも相手によって姿を変えるは、精霊か夢魔位じゃて』
「ロキもじゃね。あ、戻したし、してみる?」
『じゃの』
《では2番手でお願いしますね》
「譲る余裕よ」
『おうおう、譲っても我は余裕ぞ?』
《ならお言葉に甘えさせて頂きます》
「あら、ちょっとそこは待ったを掛けたいんだが」
「ナニで揉めてるんですかね」
「ちょっとね、お、美人さんだ」
『見られるのすら恥ずかしいって感覚が、今、分かりました』
「だろう、撮ったる」
『もー』
《ふふ、誰が最初に鈴藤さんと致すか揉めてただけですよ、ね?》
『じゃな、我は譲ってやった』
『え、冗談ですよね』
《いえ、本気ですよ》
『モテモテですね』
《ですよね、まぁ、待ったを掛けられたので揉めてたんですけどね》
「精霊の方が後腐れなく出来るかと」
『不遜と言うか、不敬と言うか』
『まぁ、我はそう言う精霊じゃし、ほうれ』
「色気MAXじゃろ」
「エロいはエロいですね」
《そして美しいですね》
『鈴藤さんは、こういうのが良いんですね』
「んー、反応してるか見るか?」
『ちょ、遠慮します』
「じゃあ、井縫さんに見せるか」
「ちょっと、流石に、気持ちの整理をさせて下さい」
《大丈夫ですよ、何にも反応して無さそうですし》
「服で隠れてるのに」
《経験と勘ですかね》
「おー」
《じゃあ、少しお2人でお話しでもして頂きましょうかね》
「ですね」
『この状況でですか』
《まさに見合いじゃな》
『じゃのう』
《キラキラ無いの》
そらね、花子の顔面知ってるんだし。
見殺しも、神殺しも知って、神殺しはしってるのかしら。
『すみません、まだ決めきれなくて』
「205人の見殺しに、ココでも神殺しだからね」
『どうやったんですか?』
「知ってるのね」
『あ、はい、昨夜』
「相応しく無いけど、ごめんね」
『私は納得しちゃってるんですけど、納得は出来てませんか?』
「そらね、居着く覚悟が無いから出来なかった事だし。誰かに頼れば出来たかも知れない、もっと何か方法が有ったかも知れない」
『それでも、神々が考えて実行した事なんですよね?』
「そこは河瀬と少し同じなのよ。そう神々だけに任せて良いのか、負担は減らしたいし、嫌な思いをさせたくは無いし」
『すみません、当事者なのに、何も考えられなくて』
「いや、凄い考えてるでしょ、ワシなら知恵熱で寝込む」
『お昼寝って、その回避法なんですかね。起きたら凄いスッキリして、それで先生とも話せたので』
「ワンチャン、先生のでも良いかもね、凄い綺麗な子が生まれそう」
『でも、巻き込むかもなんですよね。あ、だからって鈴藤さんを選ぶのも違うなって、思って』
「巻き込まなかったらで考えても良いんじゃない、全体の循環が始まったばかりだし。よもぎちゃんでも良いかもね、優しい子になりそう」
『大國は無理ですよ、本当に』
「幼馴染はエグいべな」
『鈴藤さんもですよ、そう言う方が存在してるのは知ってますし、周りにもいましたけど。そもそも、自分に当て嵌めて想定して無くて』
「大丈夫だってば、焦らなくて大丈夫だから」
『それでも、邪魔して、引き留めてるのかも知れないと思うと、申し訳無くて』
「泣かんでおくれよ、時間は本当に有るから大丈夫だって。お地蔵様がね、夢で大丈夫だって言ってくれたんよ、だから焦って無いのよ本当に」
『でも、ジッとしてられ無いじゃないですか』
「元の人の良さよ」
『もー』
「泣くぅ」
『だって、何度体に傷を負ってるか、私に言えますか?』
「両手で収まる、筈」
『ココでだけじゃ無くです』
「正直、数は覚えて無い」
『ウチは、古いかもしれませんけど、女子供は守るべきだって躾けられたんです。だから、余計に、凄く』
「せいちゃん自分の今の性別認識してる?ワシもだけど、コレが正しいなら、問題無くない?」
『でも、私なんかの為に、色々』
「君は君が思うより良い奴だ。不敬が無いか心配してくれたり、帰還方法を考えてくれたり、ちゃんとしてたじゃない」
『守られてたから、そうなれただけで。なのに、家族の事も半ば誤解で、それに巻き込んで』
「断れたけどやった。自分の復讐心も織り交ぜてしたから、スッキリしたし。年を食えば父親と言うモノがこうなるのかと知れて良かったし」
『鈴藤さんは、良く育った方だと思います』
「ワシもマジでそう思う、せいちゃんも。大人になったから許せるだけで、子供に許されない事をしたのは事実だし、両方持ってても良いんじゃ無いの」
『自分も、そうしてしまいそうで怖いんです』
「子育てのプロなロキに先生、井縫さんに忍さん、アマテラスさんに月読さんにスクナさんに。まだ足りないかね」
『自分に、どうしても自信が無いんです』
「空気扱いって無いから分からんけど、無視と違うの?」
『無視と言うか、凄い、塩対応な感じで』
「あぁ、じゃあ塩対応してるの見るの嫌か」
『そう言うのじゃ無くて、興味を持たれ無い感じと言うか』
「百合車のせいだとでも思っておきなさいよ、楠が凄い威嚇されたんよね」
『すみません、そこも迷惑掛けて』
「ほら、繊細じゃんか」
『ですね、すみません』
「もう、井縫さんに体外受精して貰おうよ。何だかんだ良い親になるかもだし」
『でも、後回しにと』
「産後鬱を舐めたらイカン、アレは酷いと死ぬし。あ、晶君も居るじゃん、きっと喜んで構ってくれるよ」
『コレ以上、ご迷惑をお掛けするのは』
「そこはもう、神様達のせい。ワシの知らん間に巻き込んでるし、喜んで巻き込まれちゃうし、アレで既婚者だったんだぞ」
『優しくて、気配り上手ですもんね』
「天ぷら上手いのよ、ご家族に教えて貰ったんだって」
『もう餌付けされちゃったんですね』
「おう、家族に誘われたけど断ったわ」
『年齢ですか?』
「そう見て無いし、良い人間には遺伝子を残して欲しい。ご安全に、せいちゃんのも、井縫さんのも、そうして顔面偏差値を高めて貰ってから、転生しに来るかも」
『嫌じゃ無いんですか?ココ』
「0より遥かにマシだから良いんだけど。転生って逆に複雑そうで、引き籠もる自信が有るのよね」
『複雑そうですか?』
「今とは全く違う、それこそ、このせいちゃんの姿でモテモテになって喜べる?楽しめる?男と結婚出来る?」
『でも鈴藤さんは、両方大丈夫なんじゃ?』
「ワシ、こうじゃん?だからじゃあ、中身の問題じゃない?ましてや向こうでは遺伝子レベルで整形が可能らしいし、そうなるとやっぱり、中身の問題じゃん?」
『そこまで考えるのに、メンクイなんですね』
「これはもう、生まれ付きかも。紫苑は母親似、花子は父親似らしい」
『らしいと言うのは?』
「年がいってて良く分からん。せいちゃんも、父親似なのか分からんし」
『母親似です』
「それ聞いて無いんだけど」
『交通事故に巻き込まれて。それも、再婚したい父親の策略だと思ってたんですけど、違いました』
「親が居ても苦労するし、居なくても苦労すると思うんだが」
『でも、見本が欲しいんですよね』
「居てもクソみたいなのなら悪影響ぞ」
『そこを、そう考えて来なかったんですよね、すみません』
「ウブだから仕方無いべさ、それも良い所になるかもだし、皆で育てたら良いじゃない」
『本当に良いんですか?』
「同じ事を聞くわ」
『どう、選べば良いんでしょうかね』
「似ててムカつかないなら良いべ」
『鈴藤さんにムカついた事は無いですからね?』
「良く怒るじゃん、誂うと」
『誂うからですよ』
「あ、もう禁煙しないとねぇ、一服してくるわー」
『それでもムカつきませんし』
「はいはい」
可愛いなとは思うけど、昔ならマジでヤらんといけなかったのよな。
やっぱり、医療大事。
『臭わないのは魔道具なんですね』
「便利に使っちゃってるわ」
『その、この姿で、大丈夫ですかね』
「痴漢に注意だな、君も引き籠もるか、誰かと一緒に行動しないとね。何か違和感は?」
『真っ先に下着ですね、簡単なのを付けてるんですけど、もう気になって気になって』
「分かるぅ、更にちゃんとしたワイヤー入りはヤバいぞ、肩ヒモ細いと食い込むし、激しい運動でズレるし」
『しかも、こうなるとムダ毛って気になるものですね』
「何か、剃って他の人と同じにしたくなるよね、これぞ群集心理?更に気合い入れると」
『お化粧ですよね、はぁ』
「君はせんでも良いべ、元が良いんだし」
『何で恥ずかしいんでしょうね』
「あ、浴衣に着替えて貰おうか」
『え、まさか復讐ですか』
「良く覚えてるねぇ、せいちゃんが撮った写真、ロキのスマホから見付けちゃったのよ」
『あ、いや、月読様には送りましたけど』
「あの神様、ワシのストーカーらしいのよ。井縫さんから聞かなかった?」
『いえ、なにも』
「ほう、可哀想に、着付けてやろうか」
『いや、無理しないで大丈夫ですし』
「いやぁ、見たいから頑張るよぅ」
『いや、本当にちょっと』
「身柱じゃ無かったら普通に幸せになれたのにね。普通に拘るのも分かるよ」
『拘ってると言うか、今思えば、かくあるべきだと思ってただけで。現実を伴わない妄想だったんですよね』
「そこまでは言わんよ、呪いの影響も有るんだし、それがそうさせたのかも知れんのだし」
『元からだと思います、子供の頃からウチは普通じゃ無いって分かってましたし』
「分家でもレアなのか」
『そうですね、普通のサラリーマンの家庭の話を聞いて、良いなと思ってましたし』
「例えば?」
『食事は父親とも一緒に食べるとか、仲が良いとか』
「食事は難しいよなぁ、時間帯が合わないと無理だろうし」
『と言うか、メニューも食卓も別だったんですよね』
「あぁ、そっちか、他には?」
『昼夜を問わず急に呼び出されないとか、部活の指定が無いとか。中学時代から本当は写真部に行きたかったんですけど、体が弱かったので帰宅部で我慢して、高校からは家訓で剣道と柔道で』
「だから警察関係になれたのでは。専門職は親がノウハウ知らないと苦労すると思うよ。医者とかもさ」
『今ならそう思えるんですが、そこを先に聞きたかったんですけど、親の再婚だ何だで、遠慮して聞けなかったんですよね。何で警察関係なのか、どうして剣道や柔道なのか』
「今なら分かる、と」
『そうですね、人と関わるのがそこまで得意とまでは言えないので、何で警察なのかって。でも、実は凄い事務作業多いんですよね、内部に行く程、外部と関わる方が珍しくなりますし』
「普通なら、巡回中のお巡りさんしか見ないからねぇ。実際は私服かスーツなんだし」
『そうなんですよね、良く考えれば自分の為だったって分かるんですけど。まだ、幼いんですかね』
「かもねぇ、ウブだし」
『やっぱり、影響しますかね?』
「いやぁ、関係無いのでは?」
『そうなんですかね、なんせウブなんで』
「恋愛ドラマとか興味有る?」
『無いんですよねぇ、それこそ別次元の話に思えて。あぁ、そうなんだー、みたいな』
「間近で見ても?」
『何処か遠い国の話しで、実感から遠いと言うか、壁が有る感じですかね』
「それが急に近くなるなら怖いか、まぁ、焦らんで良いんだし。先ずは頑張って慣れればいいさね」
『ワンクッション置いて、他人だったらと思えば。その言葉の優しさも分かるんですけど、不快ですよね、すみません』
「もう、泣ける映画見たら撃沈するんじゃないかね」
『それも怖いと言うか、嫌なんですよ、感情的になるの』
「それこそ慣れないと、抑圧より制御かと。折角プロ居るんだし」
『綺麗な方ですよね』
「しかもあの人はどっちでも有るよ、異性で同性だから良いと思う」
『へ、居るんですね実際に、初めてお会いしますよ』
「聞いて無かったか、すまん。実はロキも、アレでも経産婦」
『は』
「ワシもなろうかな、そしたら、どう思う?」
『え、あー、んー。外見てどっちに傾くんですかね?』
「やっぱ男じゃない?コレに胸が乗る感じ?まぁ、どっちに傾いて欲しいかで変えるけど」
『普通に考えたら女性なんですけどね』
「君だしなぁ、緊張し過ぎてもだし」
『本気でやろうとしてます?』
「おう、かこつけてやっちまおうかと」
『正直ですよね本当』
「でしょう。ちょっと休憩、お昼寝しよう」
『はい』
せいちゃんをホテルまで送ると、男に戻った、そうして一緒に一休み。
人の声に目を覚ますと、せいちゃんが井縫さんとお話し中。
先生は少し離れた場所で読書、時間はお昼前。
「おはよ、揉めて無いよね」
《大丈夫ですよ、おはようございます。少し、向こうで宜しいでしょうかね》
「おう」
《では、少し行ってきますね》
先ずは浮島のトイレへ、一服し、そのまま入浴する事に。
「先生、勝手にカムアウトしてごめんね」
《察しましたので良いですけど、そう言う話しになりましたか》
「おう、結局はどの中身を選ぶかなんだと思うのよね。鈴藤が良いのか、花子か」
《このまま続けると、アナタが傷付きそうで不安なんですが》
「まぁ、その程度じゃ死なないし、ウブなら仕方無いでしょう」
《悠長ですね》
「大丈夫、まだ気配は無いから」
《そうなると、帰還の条件が身柱の事になるのでは》
「まぁ、そうなのかも。大丈夫かね、せいちゃん」
《ハッキリ言って、我らも模索中じゃ》
『うっかり男のままに惚れられて、循環に巻き込まれても困るんじゃし』
《かと言って、女性の体では感情が高ぶってしまうと困惑してますし》
「すまんね、深い話になったもんで」
《寧ろ、身柱がウブ故の事ですから大丈夫ですよ》
「今日はどっちで居るべきだろうか」
『もう少し試されてくれんか』
《呼び出すで、そのまま少し胸でも付けてくれんかの》
「おうよ」
胸を膨らませ、浴槽で待機。
まだ低値なのか、温泉が心地良い。
ココでも女せいちゃん、スパルタ過ぎでは。
「鈴藤さん、それ、何したんですか」
「目ざといな君は」
『もー』
《どうです観上さん》
『直視は、出来ないです』
《じゃあ、ハナさんになって頂いても?》
「うい」
《さ、どうでしょう》
『あの、胸はどうなってますでしょうか』
「君と同じやで」
《全部じゃ無いですよ》
『うー』
「可愛いなぁ」
「なんか、やっぱり犯罪的ですよね、絵面が」
「君に見て良いとは言って無いが」
「失礼しました」
《厳しいですねぇ。あ、目を閉じるなんて、そんなに嫌ですか、失礼な人ですね》
『違うんです、本当』
「ドSやん」
《はい》
「はいて。せいちゃん、すまんね」
『嫌とかじゃ無いんです、本当、ただどうしても、見ちゃいけない気がして』
「なら。コッチならどうよ」
形状記憶かよ、胸有り鈴藤って何か不思議。
《ほら、頑張って見ないと、それこそ失礼ですよ》
『はぃ』
《では、先ずは目の端に置く所からですかね》
「これは我慢して、触れって言ってるんじゃ無いんだから」
『そうですけど』
「もう少し筋肉有った方が良い?それとも痩せる?」
《良い御身分ですよね本当、羨ましい限りです》
『そんなに、魅力的なんですか?』
《と言うか、自分の為にコレだけ姿を変えてくれる誰かが、他に存在しますか?》
「醜形恐怖症の気が有るからじゃね?」
《鈴藤には無いでしょう》
「まぁ、割りと気に入っては居るが。拘りが無い」
『居ないですけど、そこは望んでないと言うか』
《ムカつくのでショック療法に切り替えましょうかね、はい、手》
「そりゃ大変だ、多分、触れた事無いぞ、鈴藤ですら」
《どんだけ潔癖なんですか》
『別に、意識してそうしてるワケでは』
「なら呪いかね」
《そうですねぇ、いっそキスでもしてみますか》
「そこは手を繋ぐとこからで、御伽噺だってカエルを手に乗せるって段階踏んでるんだし」
《そうですね、じゃあ顔を逸らしてて良いので、手の力を抜いて下さい》
『はぃ』
「手汗凄いなおい」
『緊張してるんです』
「お湯休憩どうぞ、どうどう」
『どうも、って』
「鈴藤の顔すら触るのダメか」
《みたいですねぇ》
『すみません、嫌とかじゃ無いんですけど』
《嫌じゃ無いなら良いんですが、重症だって自覚有ります?井縫さん、ちょっと来て下さい》
「はい」
《鈴藤さんと握手か何かお願いします》
「はい」
「お手」
「はい」
「握手」
「はい」
「ハグしてやろう」
「ワザとですよね」
「おう、乾かしてあげて」
《ドライ》
「チューもしとくか」
「良いですよ」
「じゃあ止めとく」
《ほらね、赤面して無いでしょう?》
『彼らって、普通ですかね?』
《少し通常とは違うかも知れませんが、普通の範囲内ですよ。そして欧米を基準にすれば、普通です》
「国際派」
「もう動画とか見せる方が早いのでは」
《段階を踏まないと、汚らわしいと感じてしまうので、それは危ない手段ですよ》
「女同士のでも?」
「寧ろ逆では、かなり本能的ですし、過激過ぎかと」
『それ位は、少しは見た事有りますよ』
「どこまでの?」
「ちゃんと全裸でした?」
『っ、下着は付けてましたけど』
《もう中学生と思うしか無いですね》
『すみません』
《良いんですよ、遅咲きの方が良く開花する場合も有りますし》
「エロい意味でか」
「でしょうね」
『もー』
「可愛いわ、本当」
「確かに、全然有りですね」
《程々にして上げて下さいね、なんせ女子中学生レベルですんで》
「それは難しいお年頃だわ」
「ですね、嫌悪期とも言われてますし」
《そうですよ、今日はココまでで。鈴藤さんも、胸を元に戻して大丈夫ですよ》
「ういー、揉んどく?」
「はい」
「嘘だ馬鹿、少しは悩んで欲しいんだが」
「でしょうね、だから即答してるんです」
「可愛く無い」
「どうでなら格好良いと思われたいんですけど」
「それは可愛い」
《彼まで赤面させて、タラシですよね本当》
「鈴藤だと無双出来る、マジでコレで生きていきたい」
《ですが、敵の懐に入り込むなら女性と相場が決まってますよ?良いんですか?その利点を逃して》
「んー、それは悩むなぁ」
「そう悩むって、結構な戦闘脳ですよね」
「あの戦闘能力だからねぇ、出来る事は考えないとだし」
「俺に負けましたもんね、素体が弱いのは良く分かりました」
《それは、どっちの体で、ですか?》
「鈴藤」
《なら、花子だと》
「負けはすると思うが」
《そこですよ、本来は女性の剣なんですよね?》
「あぁ、だね、ただ実際の性別は関係無しに出るからなぁ」
『魔剣なればこそ、性能を引き出すには性別は重要じゃろうに』
《そうじゃなぁ、まぁ、追々比べてみるが良いじゃろ》
《あ、計測をお願いします》
お湯から上がり、バスローブに着替え計測。
中域。
花子に変身。
中域。
何故。
《どうですか?》
「何故か両方中域」
《プレッシャーからの解放か、循環装置に飲まれかけているか》
「コレは前者だと思う、意識もハッキリしてるし」
《ですよね》
「取り敢えず上がるわ」
《では、花子でお願いしますね》
要望通り、花子のままに服を着る。
「ほいで」
《観上さんのお礼の件ですかね》
「あぁ、せいちゃん、良いお礼を思い付いた」
『何でしょう』
「ちょっと触れますよ。先生、そっちのオススメ武器無いかね」
《双刀、胡蝶刀なんか素敵だと思いますよ。1つの鞘に2つの剣が入っていて、一見するとただの剣に見えるんです》
「ほう。こんなんか」
『大丈夫なんですか』
「大丈夫」
柄が2つに分かれた剣、鞘に収まってはいるが。
まだ仕掛けが有るかも。
「3つ目が仕込みですか」
《ですね、素敵ですよ》
「じゃあ、コレ貰う。お礼はコレで終わりね」
『コレじゃ、私の労力が全然掛かって無いじゃ無いですか』
「じゃあ、お料理して。河瀬を家に呼びたい」
『良いですけど、ソレだけで良いんですか?』
「えー、じゃあ膝枕とかも足す?」
『別に、全然良いですけど』
「それも赤くなりますか」
《女性同士、親しかったら良く有る事ですよ、特に姉妹にもなると当たり前かと》
《お姉ちゃんはお腹の上で寝る》
『それはちょっと、羨ましくは有りますけど』
《どうぞ、はい》
「水枕よりヤバいぞ、皆さんを良いかね」
《うん、どうぞ》
《ありがとうございます》
「ヤバいっすね」
『じゃあ、お邪魔します』
「どうよ」
《コレはもう、大きな人体ですね》
「確かに、少し硬めの尻枕的な」
『もう、恥ずかしくなるじゃ無いですか』
《大丈夫、恥ずかしい事じゃ無いから》
『そうですか?』
《うん。私は大地で太陽で、月で雨。そしていつかは母親になるから、恥ずかしい事はもっと違う場所に有る》
《1番効きそうな言葉ですね》
「凄い、偉いねぇ」
「そうですね、立派でらっしゃいます」
《うん、私は私を1番理解してるから、周りも自分も良く見通せる》
『そうなると、私は凄く自己中心的でしたね、反省します』
《徐々にですよ、急に大人の女性に成れる方は居ませんから》
「ほら優しいでしょ、良い先生だから大丈夫」
「飴と鞭がお上手ですね」
《見習って頂いて結構ですよ》
「はい」
「眼福、コレぞ幸福な時間」
『本当に好きですね、綺麗な人』
《「綺麗が嫌いは少ないと思う」》
「流石、姉妹ですね」
《良い所が似て良かったですね》
『まぁ、確かにそうですよね、景色や風景でもそうですし』
「でも廃墟も好きよ、完全だった時の名残りだし」
『名残り、ですか?』
「マジでダメな不完全品なら、とっくに壊されてるでしょ。完全な完成品だったから残ってるんだし、嘗ての栄光の名残が有る、最初からゴミとはワケが違う。昔綺麗だったお婆さんとか、やっぱ綺麗じゃない」
『廃墟は興味無いんですよね、危険な場所の認識ですし』
「そういう職業だもんなぁ」
『はい、そこで問題が起きたら、もう大変なんですよ』
「特に所有者不明だと、結局は国の責任になりますしね」
《大変なお仕事ですよね、いつも有難う御座います》
「いえ、俺は裏方なんで」
『そうですね、交番や署に勤務してる方々が1番大変でしょうから、労いはそちらにお願いします』
《ご職業が関わると立派でらっしゃるのに、同情します》
「いえいえ、そのまま優しくしてあげて」
《そうですね、では家にご招待しましょうか》
「良いねぇ、眺めが良いのよね」
《河瀬さんもお呼びして、引っ越し祝いをお願いします》
「おう、何が嫌い?」
《香りの強い花と、臭いモノ、ブルーチーズとか。それ位ですかね》
「色は?」
《嫌いなのはパステルカラー》
「何か性格出てるっぽい」
《人が身に着ける分には好きですよ、淡いピンクの下着を付けて来てくれても喜びますし》
「鈴藤で?」
《ええ、どちらでも》
「強いですね」
「ね、そこは見習わないでね、君の場合は可愛さ減るから」
『こなれてますよね本当、聞いてるコッチが恥ずかしいのに』
「向こうでこんな話し普通に友達としてたけど、そんな貞淑なの?この世界」
「いや、違いますけど。飲みの席の話では」
《まぁ、お酒が入ってませんしね。じゃあ、少し準備して来ますから、井縫さん、お願いします》
「はい」
「じゃあ後でなー」
『何にでも慣れてる感じですよね』
「いや、想定して無いと普通に思考停止するが」
『それ、見てみたいんですけど』
「せいちゃんが井縫さんに迫ったら普通に止まると思うが」
『もー、無理な事を』
「よし、河瀬に連絡するべや。もしもーし」
『繋がりません?』
「持ち歩いて無いのかな、もしー、もしもしもー」
【聞こえてる、クソしてたわ、なんだ】
「今家?遊びに行こうよ」
【分かった、準備するからちょっと待ってろ】
「なんだよぅ、早くしろよぅ」
【女の子が遊びに行くなら普通は準備するんだバカ】
「へーい。準備するから待ってって」
『忙しいんですかね?』
「いや、クソしてたって」
『はぁ』
【なぁ、何処らへんとか予定してんの】
「引っ越し祝いに家に遊びに行く」
【なるほど、ちょっと待ってろ、じゃあな】
「化粧か風呂か、女子は大変よなぁ」
『本当に、手軽に済ます方法探さないとですね』
「ネコさんにして貰えば、覚えないかね」
『して貰って、覚えました?』
「頻度が低いから覚えてにゃい、プロ凄過ぎて無理」
『程々で良いんですけどね』
「仮に妊娠したとして、どうするの?働くの?」
『病気療養名目で休職、別荘地で過ごすらしいです』
「編み物はダメよ、目を疲れさせるのは良く無いってお祖母ちゃんが姉ちゃんに言ってた」
『じゃあ、映画もダメですかね?』
「目に優しい環境で休憩しながらで、1本位は良いのでは?他にも散歩だなんだでする事、無いか。布オムツでも縫う?」
『そうですよね、趣味と言っても鑑賞する事が殆どですし。何か始めるのに良い機会かも知れませんね』
「子供服は簡単らしいぞ、お祖母ちゃんがミシンでワンピース縫ってくれたし。保育園で使うのとかもね」
『それは、性別が分かってからでは?』
「葵ちゃんみたいな子かも知れんよ?緑色とか黄色ならならどっちにでも使えそうだし、何よりカブリが低い」
『あぁ、確かに。お裁縫、ちょっとやってみましょうかね』
「器用さは有るんだし、それこそ余裕が出たらマフラーとか帽子だな。太いので編めば一瞬よ」
『そう聞くと、女子力高いですよね』
「だろう、学校の先生に小5でお嫁さんに行ける認定もろた」
『それは凄い、自炊してたんですか?』
「いや、お菓子もちょっとは作れたからでは?」
『計量が大変なんじゃ?』
「最初はね、ただクッキーはクソ楽、大体の生地の感覚で食えるもんが出来る」
『同性だったら、本来はどっちなのか分かったかも知れない、って考えたんですけど』
「無理だろう、常識外れ感が有るもの」
『本当に、無理だと実感しましたね。まだ、少し、信じ切れてませんし』
【準備出来たぞー、部屋で待ってる】
「あいよー、今行くー」
河瀬の部屋の玄関に空間を開く。
お洒落して、偉いな。
「あの、その女性は」
『どうも、観上です』
「は、お、あ、そうか、うん、どうも」
「1番動揺してるじゃん」
「忘れてたんだよ、んで、誰かと似てるなってなって、動揺した」
「ウケる。プレゼント買いたいんだが、良い場所知らん?」
「そうだなぁ、先生なんだろう。なら大人向けで、んー、横浜」
「中華街行きてぇ」
『食べ物も良いかも知れませんね』
「確かになぁ、でも本場の人間だしなぁ」
「あ、昼は?」
「遅い時間に食ってまだ減って無い」
「ワシも、せいちゃんは?」
『ですね、まだ減った感じは無いです』
「買い食いは」
「許す」
「やったー。せいちゃん、先輩だからね、敬う様に」
『確かに、宜しくお願い致します』
「おう」
「じゃあ河瀬と腕組んで、女子デートや」
『え、あ、はい』
流石にと言うか、河瀬は大丈夫だそうで。
間に河瀬を挟み、腕を組んで女子デートを普通にこなしている。
「なんか逆にショックかも」
『すみません。不思議なもので、河瀬さんが平気とは』
「内外共に同性なワケだし。それに1的には正しい反応だと思うぞ、一種の同族として捉えてる。まして未成熟だからな、ストライクゾーンにすら入らないんだろう」
「つまりワシはストライクゾーン?ワンコも?」
「マジかよ、流石イケメン」
『いや、何と言うか、つい緊張しちゃうんですよ』
「なら忍さんもかね」
「あー、要検証だな」
『想像するに大丈夫なんですけどね、実際はどうなのか』
「肉まんだー、全種類3つづつ下さい、すぐに食べます」
「俺はまだ疑ってるからな、ここまでの女子は兄弟ですら俺の周りに居なかった」
『私もそう思ってたんですけど、居たんですよ、忍さんが』
「こんなんなのか」
『ええ、姉弟かと疑う程に行動が似てて』
「男として見てないからな、どんなのも猫被りしなきゃこんなんだべ」
「それにしてもだ、お淑やかさ0じゃねぇか」
「お淑やかって何。あ、どうもー。どれか食べたいの有る?」
「じゃあ、王道のだな」
『海鮮で、半分こしません?』
「おう、コッチちぎってくれ」
「仲良き事は美しき事なりや」
「ババァか」
「ビビりクソジジイが」
「ほらな、すぐ買い言葉が出る、お淑やか0」
「兄ぃも友達も居たんでね、見様見真似ですお」
『それなりにワイルドな環境ですよね』
「下町はこんなもんかと」
「らしいな、チャリで遊びに行ったり、毎日公園で遊んだりだろ」
「それウチの地区ギリギリだったわ、まぁ、近所にデカい広場有ったから遊べたけど。あ、小籠包、ハオツーよねぇ」
《発音上手ねお嬢さん、オマケして上げるよ》
「謝謝」
「時間は決めて有るのか?」
「いや?ワンコに聞けば分かると思う」
「聞け、今直ぐ聞きなさい」
「うい、あの栗買って」
「はいはい」
「ワンコ、何時」
【1時間後にと、今飲み物の買い出し中です】
「ご苦労、頑張れ」
【はい】
「1時間後だって」
「簡素。真っ直ぐ通りを抜けたら場所移動だな」
「えー」
「目的」
「プレゼント」
「よし」
『しっかり者の妹と姉の組み合わせですね』
「いや、姉はもう良い」
「中身オッサンぞ」
「やめて、現実を突き付けないでくれ」
「あは、焼売だー、全種類下さーい」
『あ、逃げましたね』
「まぁ、中身オッサンは本当だしな」
『それを言うなら私もなんですけどね』
「ねぇねぇ、ココでゾンビ論出したら怒る?」
「怒る」
『それ、思考実験でしたっけ』
「おう、ただコイツが言いたいのは、全人類中身が逆転してたらって事だろうよ」
「正解、君が好きだったあの子も、実は男だったとしたら」
『そうしたら』
「全部なら簡単、逆を選べば良いだけだし」
「問題は割合だよな、半分とか言われるともうね」
「知り合いじゃ無ければもう、良くない?」
「そう切り替えられないから俺らは悩むワケで」
『ですね』
「中身に拘り過ぎでは」
「そう言い切れるお前が可笑しい」
「だって、ならどうやって君らは中身を確認するのよ。脳を覗けるでもあるまいに」
「それな、チートだ」
「なら向こうじゃ死なないな」
「だろうな」
『だからこそ、逆に外見に拘るんですか?』
「んー、そこまでの理由じゃ無いけど。最悪は子種だけ貰って育てれば中身は関係無くない?遺伝子が左右する事も有るけど、それも運の要素有るだろうし」
「振り切れ過ぎ」
「そう?君もいつかこうなるんじゃ?」
「否定出来んから恐ろしいわ」
「勿論、両親が揃ってた方が、ケガや病気で提供できるパーツ確保には重要、親族が多ければ尚更。でもだからって中身は別だから、どこまで天秤に掛けるかだよね」
「なんだ、既往歴に白血病は無かった筈だぞ」
「向こうでドラマ多かったじゃん、真剣に考えたのよ、自分ならどうするかって」
「あぁ、病弱はそう考えるのか」
『昔から大人びてたのかも知れませんね、そして私は幼くて、はぁ』
「どんまい、男なんかそんなものと思おう、今だけでも。後は先生に相談しよう、な?」
『はい、すみません』
「よし、じゃあ行きますか」
赤レンガ倉庫前のショッピングモールへ。
案内を見ると、ハワイアンタウンが。
「何が気になる、ハワイアンか」
「個人的に見たい、つか水族館も有るのか」
「デートの定番だろう」
「東京か千葉しか動いとらん」
「ダッセ」
「とう」
「やめろって」
『どうします?家具かお花か』
「とうとうスルーし出したぞ観上さん」
「じゃれてるだけだしね、家具系見ようか」
4Fまで来て家具系を見てもピンと来ず、下の階に降りながら見て回る。
チラチラハワイアンが気になりながらも、結局は無難に花と花瓶に決まった。
珍しいウランガラスの花瓶と、青や紫をミックスした花束。
ウランガラスは個人的に欲しいな。
「後は、やっぱ食い物か?」
『1番難しくないですか?』
「数打ちゃ当たる、コイツが居るんだし大丈夫だろう」
「臭いの以外、ばっちこい。あ、やっぱ良いなぁ、ハワイアンメニュー」
「なら、コレ買って帰るか」
「わーい」
『私の料理、良いんですか?』
「おう、今度ね」
ガーリックシュリンプにパンケーキ、フライドチキンにロコモコ、スパムおむすびにスパムチャーハン、BBQメニュー各種に揚げドーナッツを買い揃え。
裏道から先生の家へ。
《はいはい、どうぞ》
「お邪魔します。はい、平凡ですが」
《とんでもない、頂けるだけでも有り難いのに。ちゃんと選んで頂けたようで、嬉しいですよ》
「いえいえ」
夕飯には少し早いが、買って来た品物を並べる。
先ずは中華街で買ったモノから。
「あの、本場の方のお口に合うかどうか」
《そんなに気を使わなくて大丈夫ですよ、結構本場でも不味いモノは不味いので》
「焼売は試食で美味かったよ」
『いつの間に』
「ただいま戻りました」
《じゃあ、始めましょうかね》
「では、引っ越し完了おめでとうございまーす」
《ふふ、どうも》
『良い眺めですよね、風通しも良くて』
《一緒に選んだんですよね》
「おう、バスローブで誘惑されて死ぬかと思った」
『それはそれは、おモテになられて大変ですね』
「それは君もだろうに、こう、心得と言うか何か、お願い出来ます?」
《そうですねぇ、相手の事を慮る事無くバッサリ切り捨てる事ですかね。どう断っても恨む方は居りますから》
『そうなんでしょうか』
《彼なんかもう無理の一言で終わらせられてますけど、恨んでる様に見えます?》
『寧ろ、全く諦めて無い様に見えるんですが』
《そうそう、相手によっては無理、でも無理なんですよ。まぁ、お相手が居ると言う断り方が1番無難でしょうけれど》
『嘘はちょっと』
「それこそ桜木で良いだろうに」
「桜木呼びか」
「いやか」
「いや、問題無い」
『最初は止めてましたよね、桜木って名乗るの。どうしてなんですか?』
「様とかさん付けが嫌だったのから、拗れて変える事にした。真名なんかの概念も有ったし」
「今でも嫌がりますよね」
「君は、従者っぽいからこそばゆい」
「従者ねぇ、本当に何も無かったのかよ」
「ワシは無い、脳筋には有ったけどキレて断ってた」
「良かったな、ワンコ」
「俺は信じてませんよ、この人迂闊ですし」
「土蜘蛛さんから意外はマジで何も無いってば、敬われる存在だから無いの、そういうのが」
《新情報ですね》
「あれ、言って無かった?」
《従者が請われてるとは聞きましたけれどね》
「あら、まぁ、閉じた世界だから外部の血が欲しいんだと。もうこうなるとバラ撒いてやろうかしらね」
《良いと思いますよ、親は無くとも子は育ちますし》
「ですね」
「冗談なのに止めてくれない」
「お前が思うより評価してくれてるんだろ」
「能力抜きで評価して欲しいのにな、クソぞ」
「料理スキルと家事は良い方だろうよ」
「上には上が」
「下には下が居るんだが」
「まぁ、オッサンの話は脇に置いておくが。せいちゃん戻さないの?」
《そうですね、お試しですし。適当な部屋を使って大丈夫ですよ》
「だそうですし、行きましょうか」
『はい』
「戻った状態で会うの怖いな」
《そう思いますか?理由は?》
「なんとなくだけど、ワシ、鈴藤になっとく」
《でしたら、上へどうぞ》
「すまんね」
上に居た井縫さんに促された部屋に入り、変身と着替えを終え部屋を出た。
鈴藤と普通のせいちゃん、ちょっとホッとする。
『何か有ったんですか?』
「いや、ワシも待機用にと思っただけ、食べようぜぃ」
何かスープが欲しいとのリクエストが先生から出たので、鳥スープをご提供。
普通に、美味しいと言って頂けた。
「コレでモテない世界が間違ってるな」
「お父さんみたいな事を言うか」
「はぁ、それだよなぁ。俺は寧ろ、中身が不安なんだよ。素が出て引かれたら、ショック死する自信が有る」
「かと言って性転換する気も無いんでしょう」
「無い、今、幸せ」
「元々そう言った気質でらっしゃる?」
「いや、でも、なんだかんだ鏡を見るのが楽しい。こんな事は前は無かった、興味も無かったが。楽しい」
「そうですか、良かったですね。じゃあハワイアンシリーズ出しますね」
「冷たい。なぁ、観上さんなら分かるだろ?」
『まだ、女性の自分に慣れて無くて、それどころじゃ無い感じでして』
「はー、可愛いのに勿体無い、先生はどうですか」
《自分は好きですよ、鏡を見て楽しいとまでは思いませんけど》
「ほら、特殊性癖やんけ」
「腐女子に言われたく無い」
「どっこいだべや」
「まぁ、どっこいですね」
「どっこい扱いかよ」
「だろうよ」
《誰かをちゃんと好きになったら、またご相談下さい》
『好きって、どんな感じなんでしょう?』
《そこは少し難しくて、人其々なんですけれど。そうですね、分かり易いのは独占欲ですかね?》
「ですな」
『鈴藤さんにも有るんですかね?』
「おう、めちゃんこ有る」
『なら嫉妬心も?』
「そこが難しい。恋愛の嫉妬心は有ると思ってるんだが、その他の嫉妬心が薄い、競争心も。だから、本当に嫉妬心なのかちょっと曖昧」
『具体的には、どう嫉妬するんですか?』
「恋人の前で恋人以上に他者を褒められたら、イラッとくる」
「だろうよ、クソだなそいつ」
「本当、どういう神経してるんでしょうね」
『それは確かに嫌ですけど、上司と部下でも成立しません?』
「腑甲斐無い部下ですまんねってなるだけ」
《お互いを認め合ってる関係の筈ですからね、例えるなら共同経営者で、他社製品ばかり褒める。ですかね》
『それって嫉妬なんですかね?』
「純粋な怒りっぽいよな、見下げられたり貶められた事への怒り」
「ですね」
「そうなると、そういうのばっかなんだが」
「うん、戻りたく無い気持ちが良く分かった。0って銘を打つのも、そりゃそうだ。うん、クソばっかだよな」
「ちょっと酷過ぎて逆に不安なんですけど」
「と言いますと」
「どんだけ甘やかしたんですか」
「何も。別に靴下履かせるとか、3歩下がるとかもしてないけど。コッチが聞きたい位よ?」
《なるほど》
「先生分かったんですか」
「マジか」
《まぁ、かなりの憶測を含みますし、プライバシーの問題も有りますからね。向こうの先生に任せますよ》
「気になるぅ」
「なー」
《それより、嫉妬心の話に戻しましょうかね。もしかしたら観上さんも、嫉妬心が薄い方なのかも知れませんね》
『競争心は有るとは思ってるんですが』
《では、想像して欲しいんですが、恋人が他の人にキスされてしまったら、どう思います?》
『自分じゃなければですけど。その、他の人に怒りが向きそうです』
《なら有りそうですね、嫉妬心。後は色々と妄想して、想像する練習からですかね》
「それで、どうですか先生。ココらへんは」
《治安も良いですし、程好く人とも交流出来ますし。このマンションでは無いですけれど、何人か移住する予定だそうです》
「その女官達は今」
《ジェット機で一旦帰り、何人かは再入国し、寮で生活してますよ》
「寮?」
《アパートを買い上げて、天之伊さんのお店で下働きや、夜のお店に付くそうです》
「まさかお姉さんの所?」
《詳しく言うと、その2号店が計画されてるそうで。今は準備とお勉強中ですね》
「どんだけ繁盛してんの」
《ですね》
「いっそ、ガールズバー位なら蘭ちゃんも働けるかしら」
「なんそれ」
「おや。飲食店扱いでカウンター越しの接客」
「知らんが、メイドカフェ的なのか」
「まぁ、深夜営業帯までは若い子も安全に働ける利点が有る」
「行った事有るんか」
「知り合いの知り合いに誘われて、遊びに」
「なんだ、そっちか」
「顔面偏差値低子ぞ、何処でだって客だわ」
『じゃあ、あの話も』
「本当、成人してすぐに低子で遊びに行って楽しかった。無茶振りにも答える姿に感動すら覚えた」
「流石下町」
「千葉じゃい」
「あー、千葉は1周回って上級者が居そうだな」
「あぁ、そうなのか」
『殆ど本当なんですか?』
「酷いな、嘘はほぼ無い」
「信じられん気持ちも分かるが、報告書的にも整合性が保ててるぞ。読んで無いのか?」
『すみません、業務の合間に来るモノを流し見する程度でして』
「必要最低限と思われるモノしか行ってないですね、なんせプライバシーの観点も有りますから」
《受け入れず、疑う方が楽ですからね》
『すみません』
「そこまで真剣に謝られても、煙に巻いてるのは事実だし」
「そうか?翌々考えたら嘘無いって、俺でも分かったぞ?」
「あれ見りゃ嫌でも分かるべ」
『え、また何を』
《晶君と2人で河瀬に拘束され、死にかけたんですよね》
「濁したのに」
《知りたがってるなら教えるまでですよ》
「本当、すまん。悪かった」
「それ、俺も知らないんですけど」
『何したんですか?』
「俺がさせた。嘘がバレる魔法に掛かった人間に、嘘を付かせた。それでその人間が血まみれになって、それをコイツが治した。それでも俺がちゃんと信じなくて、コイツが嘘発見器に掛かってくれて、俺が不用意な発言して、両手を切断して拘束を解いた」
「半分ワザとだ、この程度の拘束じゃ意味無いぞって威嚇」
「威嚇の仕方がちょっとどうなんですかね、2でもトール神に殴られて拘束されたのも有りますし」
『鈴藤さん』
「トールのは計画だから大丈夫だってば」
「いや、アレは酷いですよ。取り調べ室で布団も無しに軟禁されて」
「良い精神修行だった」
『もー、そんな事ばっかり』
「引き籠ってたけど、結局目立つんだよな」
「まぁ、帰還方法を探らないとだろ。本当ごめんな、マジでもう大丈夫なのか?」
「何にも、跡も無い」
《そう言えば下も戻したんですよね?何処か誰かに確認させました?》
「いや、自分ですら確認して無い」
《確認しても?》
「ココではちょっと」
「なんだ、恥ずかしいのか」
「足を、こうだぞ」
「わお」
「お前もいずれ産婦人科で」
「やめて、まだ乙女なんだしマジ無理」
『もしかして、私のせいですかね』
「いや、それは殆ど無い。殆どがワシの為」
「にしてもな、その区別が付くのはお前だけだし」
「純粋にせいちゃんの為って無いかも」
《巫女さんは、そうでは?》
『やっぱり』
「いや、元はラウラの招いた事で。どんな事でも、ルーマニアにも繋がればと思ってたワケだし」
《なら、パーティー会場の事はどうです?》
「あぁ、アレはな、治したく無いと駄々をこねられて困ったわ」
『すみません』
「余裕無さ過ぎない?冗談よ?アレはせいちゃんに落ち度無いんだし」
『知らない事が多過ぎてちょっと、申し訳無くて』
「なんで」
『見下げて穿った考えをしてたので』
「例えば」
『最初はどこぞの神様かと疑って、人間なんだと安心して、大丈夫かと心配して。しまいには頼りなさそうとすら思ってしまって』
「呪いのせいか何かじゃ?」
『それにしても、当然、私の知らない何かをしてると思うべきだったのに』
「知られない様に動いてた」
『何も知らないのに知った気になって心配して、それが恥ずかしいのと、申し訳無いのが混ざって』
「親を受け入れる段階みたいよな。それと、勝手にコッチがやった事で恩だの罪悪感だの持たれても困る」
『いえ、私が知ろうとすれば知れる段階に留めてくれたのに。ずっと知ろうとしなくて』
「知らないで居る権利も、知られない権利も有ると思う」
『それでも、こんな自分に子供を託すなんて』
「哺乳類は群れで子育てするでしょう、それで良いじゃない。皆で育てて下さいよ」
《自信を喪失してらっしゃるんですよ、何処か良いところを言ってみては?》
「顔、穏やかな所、良い性格してる」
『良い性格とは』
「義理堅い、真面目、意外と効率重視、少し小心者、何が有っても横柄に成らなそう。前向き、ウブ、気は使える方、振り切れられる、順応性有り、まだ聞く?」
『いや、もう、大丈夫です』
「所作が綺麗、年下と競える競争心も有る、酔って呆けてる顔が可愛い、可愛い」
『ちょっと、もう大丈夫って聞こえませんでした?』
「凄い惚気だよなぁ」
「悔しかったら河瀬さんも恋愛してみては」
「鈴藤、ワンコに喧嘩売られた」
「惚気られたので八つ当たりしました」
「え、これ惚気なの?」
「え、違うのか?」
「良い所をと言われたから、個人的に良い所をと」
「察し悪いぞコイツ、井縫さんマジで良いのか?」
「枯れてるんで仕方無いんですよ」
《それでも充分、効いてそうですね》
『面と向かって褒められるって、そう無くないですか』
「わかる」
「なぁ、枯れてるとは言え、嫁になるんだし、少しは好きな所も言うべきなんじゃないか?」
「嫁て」
「結納したんだろ?櫛、上げたって聞いたが」
「は?」
「へ、違うのか?」
「違わなくは無いです、循環には龍脈、龍神様に取り込まれる事なので。そことの縁切りの願いも込められての、櫛なんです」
「こっわ、ロキこっわ」
「もう本当、神様を侮れる奴の気が知れないわ」
「そも鈴藤さんが半返しみたいにお菓子を渡すからですよ、皆さん1度は断ったって仰ってますし」
「あぁ、結納品の半額返すとかどうとかか」
「いやだって、お手間を取らせたワケだし」
『えー、じゃあ、鈴藤さんが』
《旦那さんですか、おめでとうございます》
「せいちゃんが男の状態だと違う喜びが」
「どんだけ腐ってやがる」
「まぁ、そう言う経緯が有るので、上が結納として認めたんだそうです」
『確かに、宿す話にはなってますけど』
「形式を重んじますから、念には念をと」
『そうですけど、本人に先ず言うべきでは』
「一応、断れる道筋として本人が知らない様にとの事だったんですが」
「すまん、聞かなかった事に俺は出来るぞ、なんならもう消えた」
「本当に消してやろうか」
《どうします?こんなに好かれるってそう無いですよ?》
『ぅー』
「パンク寸前の音だ、他にして」
「だな、動画全部見たか?」
「みてないが」
《引っ越し祝いにとプロジェクター頂いたんですが、どうです?》
「それ使わせて下さい」
《どうぞどうぞ》
「観上さん、食べて気を紛らわす方法も有りますよ」
『はぃ、ありがとうございます』
「ここを、こう、ほい。俺ので繋ぐか」
「上映会やぁ」
そして動画鑑賞から、最近のアニメ、ドラマ。
せいちゃんがやっと食い付いたのがドラマ。
意外にもミステリーモノ。
「意外だな、しかも初回で警察が」
「ね、関係者的にどうなのよ」
『貴重なご意見として留意させて頂いてます』
「おー、立派」
「こんな大学生居たらウチに秒で勧誘するわ」
「そうですね、知能指数も高そうですし」
《でも、難しそうですよ?群れを好まないタイプそうですし》
『カレーと子供で釣れますよ、原作読んだので』
「へー」
「マジか、俺も読もう」
「これって少女マンガ原作でしたっけ、珍しいですね」
『あれだけ店で洗脳されましたからね、買っちゃいましたよ』
「買ったんか、ワシも買ったわ、電子書籍」
「読ませろ」
「はい、どうぞ」
《観上さんも電子書籍ですか?他には何を?》
『そうですね、電子書籍です。他には』
「取って来る?」
『お願いします』
この前店に行った時に、ウブでも読める本を滾々と教えられての事らしい。
進歩しようとはしてる。
《この女優さんになる話し、面白いですねぇ》
「鈴藤と枯れてる所が似てるな」
「そんなん?」
「ですね、読み進めると枯れ具合が秀逸ですよ」
『ちょっと自分の事の様で、ハッとさせられるんですよね』
「ワシこんなん違う、こんな前向き違う」
「おま、またアングラ作品買い込んで」
「そんなアングラ?まだ読んで無いんだわ」
「そこそこな、なんでコレよ」
「店で紹介された」
『私も、ハズレ無しなんで、ついオススメを買っちゃうんですよね』
「はー、経済回してるなおい、恵比寿様でもバックに居るんかね」
「は、有り得るかも?」
「こわー、贔屓にしよ」
『本当なんですかね?』
「ノーコメントで」
《じゃあ、今度は私のオススメで》
後宮モノ、美術小道具と服のクオリティやべぇ。
しかも連ドラ、歴史知らんから先が気になる。
「すっご、衣装のクオリティやべぇ」
「確かに、チープさ0だな」
『華やかでドロドロで、先が気になっちゃいますね』
「俺はちょっと、下剋上出来ないのは」
《じゃあ、今度は逆バージョンで》
「は、逆大奥か」
「思うんだけどさ、遺伝子継ぐなら俺はこうだと思うんだよ。ミトコンドリアだっけか、女性だけに継げるの有るだろ」
「ね、パラサイトイブ」
「懐かしいなおい」
「玉石混交感が有りますね」
《逆バージョンの良い所なんですよね、リアリティがあって》
『私、この人みたいに、自分をこんな感じに捉えてたんですけど』
「最初は俺もそう見えてた、見えてたと言うか、そう言う印象だな」
「最初からこんなイケメンやで」
「俺、この位の顔で良いんですけど」
「嫌味やわぁ、逆整形か、はよ結婚しろ」
「お、既婚者ムーブ早く無いか」
「そういう扱いになる?」
「一応な」
『もー』
「すまんて。でも、井縫さんも候補なんだろ」
「まぁ、はい」
「良い所聞いとく?」
『断固遠慮させて下さい』
《そうですね、情報量は適量で》
「だな。河瀬はどれイケそうよ」
「んー、頑張って、この可愛い子かなぁ」
「薄いですけど、メンクイですよね」
「で、お前は」
「ワシは、この子。井縫さんはどれよ」
「どの立場で、ですかね」
「えー、じゃあそれぞれ」
「女だったらもうどれでも良いんですけど、男の立場だと、ちょっと」
「ダメ、無理にでも選べ」
「俺はやっぱこの子だな、ただし、この外見で」
「おー、そういうのも有りにします」
「ならココとココで、鈴藤さんの好みかと」
「好き」
「把握されてんのか、キンモー」
「黙れショタ」
「泣く泣く選んだのでショタは酷く無いか?」
「目の前に現れたら?」
「まぁ、粉はかけるかも」
「ほらぁ」
「昔は違ったんだよ、マジで。先生みたいな美人さんが好きだったんだけど、何だろうな、遺伝子のせい?」
《有ると思いますよ、そして経験からも出ますし。記憶とは本来曖昧なモノですが、転生者の方は特に、記憶は保持していても、視点ごとズレてる可能性が有りますからね》
「先生も薄い方よな」
「アジア圏内の話しでも、そうか、確かに」
「欧米諸国を入れたらどうなるんですかね」
《そうですね、美人百景でも流しておきましょうかね》
「なんでそんなモノを?」
《へし折る為ですよ》
「あぁ。せいちゃんは?」
『ちょっと、ノーコメントで良いですかね』
「なんだ、イケそうなのが居たのか」
『ノーコメントで、鈴藤さんはどうなんですか』
「鈴藤なら殆どイケると思う、花子ならココとココとココと」
『少し傾向が違いますよね』
「女子は濃いのが良い、この子とか結構好き」
「中東系だな」
『じゃあ、私は無理では?』
「呪い効果凄いな、そんな薄くは無いぞ」
「俺はヤれる」
「おぉ、河瀬の方が革新的」
「0での選考基準な。凄い酷い言い方すると、ヤれそうならだれでも良い」
《身体的に基準は下がりますからね、リスクヘッジですよ》
「最悪はもう、どんなんでも、ヤれれば良いとすら思った時も有る」
「でみだ、ヤれない顔と付き合うのはおかしくね?」
「失敗したく無いから、安パイに行く」
「それで振られたら死ぬじゃん」
「まぁ、そこは内心悪態ついて、冗談か無かった事にする」
「クソやん」
「んなもんだろ普通、なぁ?」
「まぁ、少なくは無いかと」
《良く無い普通も有りますからね》
『普通って難しいんですよね、そう頭では分かってても』
「もう鈴藤と本当にキスでもして解け無いもんか」
「お前な、今のワシと出来る?」
「おう、腐ってても中身は女子だしな」
「君の居ぬ間に、腐男子なる幻獣が発生しましてな」
「え、うそ」
「実物は見た事は無いが、もう作品にはなってる」
「ちょっと、保留で」
「ほらぁ。コレから先にしたって、凄い整形のだって遭遇するかも知れんのだぞ、君が絡まずとも技術は進歩するんだし、じゃあ何で選ぶのって成るじゃない」
「例の、遺伝子ごと整形するってか」
「おう、ワシ変えて貰いたいもの」
『本気なんですね』
「せめて中の下か中になりたい」
「今はどの位だと思ってるんだ?」
「頑張って下の上」
「上の中はどんなんだよ」
「上からは好みになる」
「おぉ、そうか、そうだな」
「先生は上、せいちゃんは中の上。アマテラスさんも月読さんも上」
《神様と同列ですか、恐縮です》
「ワザと俺を抜いてますよね」
「聴風軒はどうだ」
「上、河瀬は中の中」
「実質最下位かよ、納得」
「あの従者はどうなんですか」
「しつこいな、中だ」
《これが嫉妬ですよ観上さん》
『見知らぬ存在にですか?』
「なー、なんでよ」
「自分より近い立場の人間が嫌なんですよ。本当に誰のモノにもならないで居てくれたら嫉妬もしませんけど、無理でしょうから」
《独占欲》
『なるほど』
「付いてけないのかね、即死させて収納するとかで」
「天才ですね、見直しましたよ」
「怖いわ、死体だけコッチに残るとか嫌だし」
《コチラの手段でも生き返らせられる様にしては?》
「なんで乗り気?」
《私も一緒に行けるチャンスですから》
「無理無理、守れる自信が無いわ」
「それは俺がしますよ」
《ありがとうございます》
「モテるって怖いなコレ」
「な、よもぎちゃんの苦労が慮られる」
「中の中に感謝」
「何が良いんだろな」
《こう優しい人はそう居ないですよ》
「普通だと思うが、面倒くさがりでビビりの自覚は有るし」
「ビビりな割りに大演習したよな」
「ビビりだから安全に自分の能力を探ってるだけでして」
「落差が激しいわ」
《そろそろ、解散しましょうかね。上と相談しないとですし》
「ですね」
「ダメダメ、しないぞ、話を進めるな」
《蘇生がダメなら盾にでも餌にでもして下さい》
「ですね、数秒の時間稼ぎが大事な時も有りますし」
「守れないかもしれんのは負わない、却下。困る、無理、有り得ない」
「良く考えればお前でも思い付いてた事なのにな、だから、誰とも何も無かったのか」
「無意識に避けてた可能性は有るが、連れてくメリット無いし」
《マティアスさん、喜んで付いて来たと思いますよ》
「あぁ、喜んでココに居たでしょうね。ただ、マティアスは言わなかった」
《淡雪さんの成果ありきですし、仮に考えていたとしても、負担の方が大きいと思ったのかも知れませんね》
「負担です、アナタ達」
《私はそうかも知れませんが、井縫さんはどうです?》
「素体なら勝ちましたし、それに、俺も先生も召喚者に成り得るのでは」
「賭けが過ぎる、蘇生出来無い状態になってるかも知れないし。蘇生出来ても魂まで持ってけるワケじゃ無いかも知れない」
《どうなんですかね、精霊さん》
《不明です》
「ほら。妖精はデータ量が少ないから成功しただけかも知れん、空っぽの体2つ守るのは厳しい」
「なら処分して下さい」
「バカじゃないか、ちょっと親御さんから説教受けなさいよ」
「俺が聞くと思います?しかも鍵持ちですよ」
「その加護が有るにしたって、それはココでの加護。向こうには向こうのシバッカルが居るんだ、それが受け入れるかは別。そして君等が変異しない理由も無い、化け物になって切り捨てるなんて嫌だわ」
「練習台で良いんで、どうぞ」
「君の方が自身を軽く扱って無い?」
「いえ、信じてるんで」
「はい負けー、兎に角、1度相談だな」
《そうですね》
『そんなに、好きなんですか』
「はい、何で観上さんが好きじゃ無いのか不思議な位に執着してます」
「どうしたら諦めてくれるかね」
「無いです、何をされてもされなくても、付いて行きます」
「なんか、羨ましいな」
《正常な反応ですね》
『私は、ちょっと、怖いです』
《何でも、信じるかどうかですよ。どう信じて、どう思うか。井縫さんは幸せになれるって思っての思考ですし、私もそうです》
「なにをどう信じてるの」
《向こうに行けば、生き残れば、受け入れて貰えるかと》
「ですね」
『そんな』
「そんな事で」
《それに、凄く楽しそうですし》
「平和で良い所なんですよね、鈴藤さん」
「ダメ、解散、君らは勝手に帰りなさい、さようなら」
ダッシュで逃げ出し浮島へ。
早く帰してくれ、頼む。
《聞いたぞぅ、死体転移計画》
「却下」
『ビビりじゃのぅ』
「はいそうです」
《予想外じゃったか》
「はいそうです、妖精の1例しか無いのに、狂っとる。妖精だって、次は同じ状態で戻れるかも分からないのに」
『その割に、すんなり受け入れたでは無いか』
「失敗しても、コッチで蘇る可能性が有るかと」
《ふむ、好かれたお主が悪い、諦めい》
『じゃの、恋は盲目じゃて』
「ワシは心配無いと示しても」
『無理じゃろな、心配より恋じゃて』
「マジでもう、ヤれば良いのか」
『1度で冷める場合に限るが、アレは余計に執着するタイプじゃろな』
「先生と井縫さん出入り禁止」
《了解》
《おうおう、とうとう引き籠りか》
『我らも余計な事を言うては出禁になりかねん、気を付けんとな』
「説得してくれないと出禁」
《難しい事を言いおる》
『そうじゃよ、分かるじゃろうて、その気持ちが』
「でもだ、説得しないなら出禁。誘惑でも魅了でも何でもして引き止めてくれよ」
『人間にはそう介入せんと言う約束じゃし』
《少し前じゃったら出来たんじゃがのぅ》
「はい出禁」
《了解》
《少し落ち着こう、思い草でも嗜めると良い》
「うん、すまんね白蛇さん」
《まぁ、結論は直ぐには出ぬだろうよ》
「分からんよ、ロキが絡めば一瞬かもだし」
《あぁ、それはそうだな》
「だから説得したいんだが、良い案が浮かばない。かと言って、下手に相談に行けば説得されそうだし」
《ふむ、頭を抑えるが1番だろうが》
「やっぱロキに賭けるしか無いかなぁ」
《案ずるよりとは言えんが、邪魔は出来るかも知れんよ》
「確かに、天才、愛してる、行ってくる」
《おうおう、気を付けてな》
空間を開きホテルの地下へ。
そして緊急時用のボタンを押そうとすると、ロキが息を切らせてやって来た。
『ちょ、待った』
「あの2人を説得せい」
『するする、だから待って、押されたら困る』
「でしょうね。で、どう、説得する」
『先ずは俺も行くほ、ちょ、待ってってば』
「死にたがりは困る、止めさせなさい」
『止めさせる理由が無いんだもの』
「有る、鈴藤の代わりは井縫さんだけだ」
『それだって井縫君に何か有ったら代わりが必要でしょ、だからその準備は既に成されてるし。それに、コチラには居なくても困らない人間だし、コチラ側にデメリットが無いんだもの』
「少しは有るでしょうよ」
『だって、女王や陛下なら止めるけれど。そこまで重要な役割を担って無いし、代わりは居るし。結婚もして無い、子供も居ない人を君は、どうやって引き留めるのよ』
「なんとかしてよ、神様」
『無理、俺だって行こうとしてるんだし』
「なんでよ」
『なんか、出来そうなんだもの』
「もー」
『だからね、手を退けて貰えないかな?』
「井縫さんの親に顔向けが」
『大丈夫、先にそっちに説得しに行ったみたい』
「クソ、そっちが先だったか」
『だね』
「どうしたら止めてくれる」
『君が今すぐ帰還すれば、計画は頓挫するよね』
「気配も無い」
『気付けるもんなの?』
「流石に3回目だし、多分」
『それも不安だよね、何かが足りないって事だし』
「もう見当が付かん」
『それなんだけど、種の運び手の可能性は無い?』
「子種持ち帰れってか」
『元は女性なんだし、2の絵本の事も有るから』
「腹に持って帰っても、無事に産めるかどうか」
『だから、子種を君が持って帰るんだよ。冷凍保存の』
「2と条件違くないか」
『そもそも帰還方法が同じとは限らないじゃない』
「まぁ、そうだけど」
『現に君は手にしてないんだし』
「なんか、話を逸らされてる」
『いや、子種だけ収納して帰還の気配が有れば、説得すら必要無いでしょ?』
「どうしてそこに至った」
『等価交換を皆がすんなり受け入れた事かな、そして君への対価を支払いきれてないと悩んでる。コレが1つの事象なら、君に何かを与えるべきって事』
「子種はじゃあ、持ち帰る」
『ただ、それでもダメなら』
「ほぼワンセットか」
『勿論、最終手段。それまでに神々、精霊からの対価が支払われるから、それで済めば止める必要も無くなる』
「でも君はダメ、パラドックスが」
『何でも有りのトリックスターなのに?』
「ぐぬぬ」
『納得出来無いなら、一緒に考えよう、だから手を退けて?』
「わかった」
『ふぅ、ビビったぁ、突拍子も無い事をするねぇ本当』
「押すとどうなるの」
『上がパージされて宇宙に飛び出る』
「そら凄い」
『嘘、ココだけ隔離される。ごめんね、命を背負わせる事になるかも』
「なら止めろ」
『だって、楽しそうなんだもの』
「全く楽しく無い」
『大丈夫だって、良い結果になりそうだから』
「もうその話は無視するわ。にしても対価を貰うって発想は無かった」
『君が先払いしまくったからだよ、帰還が目前になってるなら、返すなら今だろうって』
「律儀、とんとんだろうに」
『そうでも無いみたい、本来は与える側だからね』
「あぁ、そうか、そうよね」
『しかもダメ押しで魔剣バラ撒くし』
「不味かった?」
『いや、それで何かを返さないとってなった』
「あー、もう、どうしよう」
『もう普通に過ごせば良いんじゃ無い?』
「もう普通が分からん」
『ココの普通に倣ってみるとか?』
「ほう、例えば」
『君はココの人間で、宝くじが当たって休暇でココに泊まりに来た。食べて飲んで遊んで過ごす』
「何して遊ぶの」
『恋愛ごっこ、天之伊君の服を少しは着てあげないと』
「女だからか」
『男でもだよ、寧ろ、鈴藤ならそうしそうじゃない?』
「鈴藤で良いの?」
『ハナちゃんが良いなぁ、何か惹き付ける運命みたいだし、急に戻れる様になるかもよ?』
「だとしても、護衛が欲しいわ」
『ちゃんと上で見てるから大丈夫』
「分かった」
『うん、上がろう、部屋を用意するよ』
「小さいので頼む」
『うん』
時間稼ぎ感も有るが、最も苦手で今までして来なかった待つ事自体は、すべきかも知れないとは思うが。
焦らなくて良いってのは、本当にココでの時間経過の事だったんだろうか。
「お、ちゃんと小さい」
『後で鍵を届けるから、着替え終わったらそのまま出て。先に上に行ってるね』
「何で良くしてくれるの」
『殺してくれた事だけじゃ無くて、バルドル達に新しい家族をくれたし、循環させて余裕まで与えてくれたんだもの。コレでも遠慮してるし、足りないと思ってるんだからね?』
「分かった、ありがとう」
『いえいえ、じゃあね』
変身し、シャワーを浴びてお着替え。
確かに、もうすぐ帰ると思えば、着ないのは色々と勿体無い。
そのまま部屋を出て、上のバーラウンジへ。
顔さえ隠れてりゃ、今なら鏡を見るのは好きだ。
ぺったんこにドレスが倒錯的で面白いし。
エレベーターを降りて直ぐ、人間のロキに部屋のカードキーを渡された。
そしてそのままロキは上へ。
自分はそのまま廊下を歩き、バーへ。
お酒を頼み、そのままテラスへ。
《改めて見るとお似合いですね》
「ベスクちゃん居たの?」
《いえ、ほら》
「あぁ、子孫の方とね。お世話になりました」
《いえ、コチラこそ》
「何か変わりは有りますか」
《循環が安定したおかげか、ズメウの挙動がかなり落ち着いて、魔獣化も近々心配要らなくなるかも知れません》
「そんなにか、そうか、だから対価なのね」
《はい、ですが何も思い浮かばないと言われ、取り敢えず私をと言う事になりまして》
「もー要らん、何も要らんのに」
《ですよね、結構暴言も吐きましたから》
「そうじゃ無くて、そう言った感じの先約が既に有るんだ」
《そうでしたか、では何か望んで頂けませんか?魔石なりなんなりと》
「平和。魔石」
《では、コレで》
「デッカ、綺麗、地の魔石か」
《はい、シベリア自治区との共同です。浮島に使われたと聞きましたので》
「大丈夫なん?」
《循環のお陰で、いずれ宇宙にも取らせに行きますので》
「加減してくれよ」
《はい、勿論ですよ。どうぞ》
「受け取ります」
《中身だけでお願いします、箱、そのバッグには入らないでしょうから》
「確かに、用意が良いねソチラは」
《あの君主ですから》
「あー、ロキ感有るものね、飄々としてて」
《ふふ、褒めていたと伝えておきます。では》
「おう、お疲れ様でした」
火を付けると、今度はフィンランド大使館員の名刺を差し出す女性が現れた。
また少佐的雰囲気の綺麗な人。
《お初にお目に掛かります》
「どうも」
《コチラの座標の品物をお受け取り頂きたく》
【了解、携帯を覗き込みご確認を】
「はいはい、はい」
スマホの画面上には空間が開き、物の回収は確認出来たが、中身は不明。
《はい、確認が取れました。足りないとは思いますが》
「いえ、充分ですんでお気遣いなく。栄光と繁栄と、平和を」
《はい、栄光と繁栄と、平和を。では、失礼致します》
忙しくなるかしらコレ。
《モテモテですねぇ》
「あ、お疲れ様ですバアルさん」
《ウチも座標指定と味気無いんですが、どうぞ》
「大丈夫かコレ」
《廃棄品ですからご心配無く、まぁ、買い漁っただけの品物なんですけど。平和の為にお受け取り下さい》
「ありがとう、有意義、大丈夫、使わない時は処分するし」
《もっと良いモノを差し上げられたら良かったんですけれどね、お代わり如何です?》
「頂く。つか君らには先払いだし、余れば子孫に頼みます」
《良いんですかね、本当に関わってしまって》
「別に、それ位は言い聞かせてくれんと」
《期待してらっしゃるんですね、人間にも、身柱にも》
「ワシよりは良い親になりそうだから」
《アナタも、愛情深い相ですから、充分かと》
「そのうちな」
《では、ゆっくりお楽しみ下さい》
「あいよ、どうも」
続いては中つ国のイケメンと、イギリスの大使館員。
もう要らんのだが。
《そう機嫌悪くなるならんでくれよ》
「マ、どうやって来たのよ」
《竜にな、楽しいなアレは》
「はぁ、ほう、で」
《期待して無いだろう》
「つかもう充分やし」
《僕が付いてくとか》
「殺すぞ」
《冗談だよ、どんだけ余裕無いんだね君は》
「無いね、命は重いから」
《自信無いのかい》
「止めろ、逃げ場無くすな」
《ま、良いさ、ウチはココだ》
「ほう、苗?」
《おう、他国のも含めての、ありとあらゆる植物の種と根。それと書物》
『私共はコチラになります』
「青系の、こんなに」
『女媧様、仙人様方からです、それから書物の写しも』
「何でも載ってそうね」
《おう》
『はい』
「怖いから読むのは向こうでするわ」
《だな、じゃ、帰らせて貰うほ》
『では、失礼致します』
もう終わりかな。
すぐに消したシケモクに火を付け一服。
やっと静かに飲めるべか。
トイレに行き、席に戻る。
うん、静か。
『あの、少しだけご一緒させて下さい』
上等なスーツ、年は同じ頃か。
せいちゃんみたいに顔を真っ赤にして可愛いが、トイレから帰る時には男2人組だった様な。
「良いですけど、お連れ様はどうしましたか」
『置いて行かれました』
「あら、度胸試しにしては酷い」
『あ、度胸試しとかじゃ無いんです、仕事だそうで。男なら行けと』
「そうでしたか、何を話しましょうかね、ちょっと世間に疎いので」
『ココへは良く来られるんですか?』
「2回目です、紹介されて何となく。ソチラは?」
『私もです、友人に連れられて』
「なのに置いてけぼり」
『はい。すみません、こういうのに慣れて無くてぎこちなくて』
「その年頃で慣れてたら疑いますよ、色々」
『そうですか?アナタは慣れてそうですけど』
「ただ酒を飲むだけなら慣れてますよ、お酒苦手ですか」
『あまり』
「良く来ましたね」
『慣れだって言われて』
「遺伝子の作用には勝てませんよ、ノンアルコールにしては?」
『次はそうしときます』
「なんなら今頼みましょう、お水も、おつまみも頼みますから、食べて下さい」
『あ、ありがとうございます』
「いえいえ」
「紳士的ですね」
「お、どうしたワンコ」
「少し様子見に、怒ってるかと」
「怒ってるんで邪魔しないでくれるかね」
「そうしときます、じゃ」
『お知り合いですか?』
「同僚みたいな感じです、気にしないで下さい」
『ご職業を聞いても?』
「失業したてです」
『失礼しました』
「いえいえ、ソチラのご職業は?」
『警察関係とだけ、新人なんです』
「へー、可愛らしいお巡りさんでらっしゃる」
『その、交番勤務とかじゃ無いですよ、事務みたいな事ばかりで』
「あー、聞いた事有りますよ、書類が多いって」
『本当に、徹夜もざらで』
「寝袋買うんでしたっけ、近くのスーパーで」
『お詳しいですね』
「知り合いの知り合いに聞きました、面白いなと思って覚えてただけですよ」
『面白いですかね?』
「スーパーに寝袋置かせるって権力だけじゃ出来無いでしょうし、それだけ買う人間が居るって新鮮で、だって寝袋ですよ?スーパーに、他で聞いた事有ります?」
『確かに無いですけど、警察ってだけで嫌がる人も多くて』
「何が嫌なんでしょうね?守ってくれてるし、結局頼りになるのは警察なのに」
『偉そうだとか横柄だとか』
「下っ端のチンピラだって同じでは?上がマトモなら、いずれバカは排除されるでしょうし、アホは排斥される様にすべきかと」
『そうなんですけど』
「程好く自信をお持ちになりなさいな、若いし可愛いんだし、妬みや何かの戯言は聞き流すが1番かと。吸います?」
『ありがとうございます、いただきます』
「んー、もっと良い女性居るでしょうし、繋ぎになりましょうか?声掛けてきますよ?」
『あ、すみません、何か不快にさせましたか?』
「いや、見合う方が他に居るかと。自分の顔面は良く無い方なので」
『お怪我か何か?』
「いや、不細工気味でらっしゃるので。もうちょっと上を狙えるぞと」
『大丈夫です、お気遣い無く。他に気になる方も居ないので』
「そうですか?でも遠慮せずに、マジでいつでも言って下さいよ、お手伝いしますから」
『ありがとうございます』
「そんな照れます?」
『こう優しくされた事が無くて、すみません』
「その顔で?何かの間違いでは?」
『前は、眼鏡をしてまして』
「あー、んー、眼鏡好きですけど、そんな変わります?」
『みたいです』
「可愛いは嫌かも知れませんけど、可愛いし、中位は確実に行ってますよ、自信持って。因みに自分は下の上」
『そうは見えませんけどね』
「なんせ半分隠してますからね」
『本当に、自信も有ってこなれた感じなのに、不思議ですね』
「顔を隠すと自信が回復するんですかね?安心しますよ、どうです、仮面でも」
『何処から出ました?』
「手品です、ほら、安心しません?」
『んー』
「慣れ慣れ、そうだ、パッと見で褒めちぎりましょうか?知り合いが褒め屋やってたんですよ」
『褒め屋?』
「お金貰って褒める、5分だけ。貶し屋の方は10分」
『まだ会ったばかりなのに出来ます?』
「育ちが良いから所作が綺麗、仕草も大人しいし、丁寧。手が綺麗だし、うん、事務系。聞き方に気配りが出来るから、大事に育てられた。雰囲気から、可愛いくて末っ子的に可愛がられる、だから年上が良いのかも」
『年上の方って、教えて頂く立場に思える場合は?』
「ハッキリ言っても?」
『はい、お願いします』
「多分、自信の無さや押しの弱さ、経験不足なら、同い年にしたら物足りないかも知れませんね」
『それは、占い的な?』
「あ、勘なので外れてたら心の中で笑ってて下さい、ブスなのに繊細なんで。あ、年下は、未成年は止めて下さいね」
『はい、気を付けます』
「まぁ、年を気にしないで居られるのが1番ですけどね。あの、髪が短い女性とか、どうです?」
『ちょっとキツそうじゃ無いですか?』
「んー、可愛い系かぁ。それか場慣れするか、そうだ、お店をご紹介しましょう、是非ご友人とどうぞ」
『ココは』
「知り合いの知り合いに連れてって貰いました、良い子ばかりですよ」
『私には全然、興味無いですかね?』
「すっごい好みですけど、自分は下の上ですし、もうすぐ遠くに行っちゃうんで」
『それは、いつ頃で?』
「辞令みたいなの次第ですね、自分じゃ決められなくて」
『寂しいとかは?』
「寂しいですけど、仕方無い事なので」
『残る方法は無いんですか?』
「んー、妊娠する位ですかねぇ」
『じゃあ、お相手がいらっしゃるんですね』
「いや、何処にも居ないんですよね、残念ながら」
『モテそうなのに』
「首から下はね、興味本位で声を掛けられはします。あ、男と思ってたなら申し訳無い、ただの無乳なんです」
『いえ、女性だと思って話させて頂いてるので』
「そうでしたか、少しは慣れました?」
『優しいんですね』
「ブスなんでイケメンには優しいんですよ」
『じゃあ、美人なら優しくてくれないんですね』
「どうなんだろうなぁ、美人で優しいは居るけど。心配になるでしょう、自分で良いのかって」
『そんなに分かり易いですかね?』
「知り合いもイケメンなのにこんな感じが居ましてね。自分はブスだけどそうだから、そうかなと」
『こんな感じなんですか?』
「もうね、引き合せたい位だわ。可愛くて、あ、そのキャバクラで合うかも。真っ赤なイケメン居たら、多分それ」
『行けば慣れますかね』
「だね、でもお金掛かるし、手でも繋いでみます?」
『良いんですか?』
「ブスで良いならどうぞ」
『小さいんですね』
「トップクラスの小ささですよコレ、自分より背が小さい人より、小さい」
『これで良く、戦いましたね』
「だれ」
『観上です、すみません』
「バカじゃないのかね、目覚めちゃったらどうするの」
『こうじゃないと、永遠に目覚めないんだそうです』
「だからって無許可で」
『すみません、自分じゃ無い状態で話したくて。なのに、いつも通りで、寧ろ、優しいんですね』
「そら、知らん人には意識させない様にとか考えて無いし」
『凄い考えてくれてたのに、本当にすみません』
「そんな追い込まなくても良いのに」
『早く帰りたいって知ってて、ボーッと出来ないですよ』
「だからって、え、永遠に目覚めないって?どういう事?」
『男の状態でしか目覚めないんだそうです』
「じゃあ、女体化は不可能?」
『いえ、コレは本当に呪いだそうで、受け入れて貰う事が、条件なんだそうです』
「あー、ワシ、条件に最適ね」
『だから実は、自分が利用する為に一緒に居たみたいで、すみません』
「無い無い、超無意識でしたにせよ君は悪く無い、休みなさいよ、強制的に休ませるか?」
『もう寝れないですよ、申し訳無さ過ぎて』
「飲酒しなされ」
『その前に、もう少し怒って貰えません?騙した事』
「いや、普通を願う王子様なワケだし、仕方無い」
『もー』
「もう、泣かんでくれよ」
『責めて貰わないと、申し訳無さ過ぎて』
「可愛いぞドM、泣き止まないともっと苛めるぞウブちゃん、やーいウブウブ。手が綺麗、笑った顔も可愛いぞ」
『違くて』
「そもビックリしてそれどころじゃ無かったし、理由が有って納得したから終わり」
『だから恋人が付け上がるんですよ』
「はー、なんでそんな、そんな事で付け上がる方が悪く無いか?」
『そんな事って、許してばっかりだから、調子に乗られて嫌な思いをしたんじゃ無いかって』
「いや、許さんよ?」
『本当ですか?河瀬さんの事も、私の事だって直ぐに』
「親を見て、好きなら多少は許さないとって勘違いしてたのと、何処かで自分なんてと思ってたけど。でも今は違うぞ、今なら良く無いって思えるし、自己評価低過ぎだからって過度に許しちゃいかんと、ちゃんと分かってる」
『じゃあ、なんで私を許しちゃうんですか』
「この結論で行くと、好きだから?」
『っつ』
「ほぼ自爆やん君。何もワシで目覚める必要が、有るのか。何か改造するが、要望は?」
『別に、そのままで良いかと』
「強がるなよ、元に戻せるし、胸も、君は高望み出来るんだ。ワシは汚点に成りたくないのよ」
『じゃあ、巫女さんの外見と要望されても良いんですか?』
「まぁ、ちょっと傷付く感じだけど呑む」
『すみません、ちょっと無神経でした』
「なんで君がイライラしてるの」
『何でですかね?』
「もう好きとか?」
『いや、それは、まだかと』
「ほら、コレじゃダメなんだし、要望考えといてよ。お風呂に入って落ち着いて、それからまた話し合おうな?」
『すみません』
「ワシこそごめんね、こんなんで。井縫さんに連絡しよか?」
『大丈夫です、自分でするんで……あ、もしもし、はい、すみませんでした、はい、待ってます』
「井縫さんと考えたの?」
『はい、それとロキ神と月読様にお手伝い頂きました』
「クッソ、あの野郎」
『すみません』
「焦らんで、追い詰められ過ぎよ。マジで大丈夫なんだから」
「お待たせしました、行きましょうか」
「良い見本選んでくれな、じゃあね、おやすみ」
『はい、おやすみなさい』
一服。
せいちゃんもイライラするのね、やっぱり追い詰め過ぎじゃなかろうか。
『あーぁ、無神経な子だね、殺しちゃいたい』
「うるさいクソ野郎、追い詰め過ぎ。この外見が悪いんだ、せいちゃんは悪く無い」
『そうやって優しいから、付け上がられるんだよ』
「自己評価が低くて扱い易い、利用され易い」
『今は凄く扱い難いから大丈夫だよ』
「そうですか」
『慰めたいのに』
「涙腺弱いからすぐ崩壊しちゃうんだわ、やめてくれ」
『もう帰ろう?明日からちゃんと、ココで遊ばせるから』
「もう良い、引き籠りたい」
『ダメ、強くならないと』
「だね、帰るか」
『ついてく』
「送り狼か」
『かも』
「えー、面倒くさい」
『えー、モテるって事で自己評価上げてよ』
「その程度で上がる自己評価は下がり易そう」
『何でモテるかだよ、君のは優しさ』
「優しく無くなったら下がる評価ね、要らん」
『どうしたら上がる?』
「もうコレは生まれ持ったモノって事で良いんじゃん、気を付ける。じゃ、おやすみ」
『うん、おやすみ』
お風呂に入ってベッドへ直行。