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6月24日(水)

 せいちゃんと共に久し振りに家に帰る。


 自分の物は何も無いが、自分の家の感覚。

 落ち着く。


『あ、天華君も鈴藤さんなんですよね?』

「おう、話した?」


『いえ、最初に挨拶してから特には』

「あら、何でなのよ天華ちゃん」


『お邪魔かと』

「だそうよ」

『お気遣い感謝します』


『いえ、用が有ったら言って下さい』

「洗濯機借りるわ」

『あ、はい、どうぞ』


 洗濯機を回しながらご飯、他にも鶏スープに里芋の煮っ転がし。

 夜中なのに珍しい。


「いつもは食べ無いのに」

『気になって眠れる気がしないので、それにお腹も空いちゃいましたし』


「すまんね」

『それはこっちのセリフで、もう、資料見ますから良いです』


「何を話せば良いの」

『今まで、どうしてたんですか』


「いつから会って無いんだっけ」

『中つ国以降です』


「あー、それで玉取ったのよね」

『は、性別を変えれば良いだけでは』


「中で変身出来て、何か罪を擦り付けられたら終わるじゃん。それで無くとも邪魔だと思ってたし」

『だからって』


「そんなに見たい?」

『キュってするんで止めて貰って良いですかね』


「はーい」

『それからずっと向こうに?』


「割と直ぐに帰って来た。つか君さ、井縫さんとバーラウンジに居たべ、ヤリチンめ」


『なん、居たなら』

「逃げた、花子だったし、めかし込んでたから、恥ずかちい」


『だからって逃げますかね』

「顔が隠れてるからね、人間って勝手に良い方へ脳内補完すんのよ。だから万が一ね」


『私って、そんな惚れっぽく見えますか』

「いいや、寧ろ逆に誰にも惚れ無さそうで心配だわ」


『まして、子持ちになりますしね』

「ね。あ、女が気に入ったらそのままも有りなのでは」


『え、ずっと女じゃ』

「違うと思うが、それこそ乳離で男に戻って、そのまま男親でも良いのでは?」


『そうなんですね、てっきり永遠に女性のままなのかと』

「そこか、ごめんな。天華ちゃん、クエビコさんに確認してくれる?女に変身したらずっとそのままなのかって」


『変身を解けば戻れるそうです』

「そう、ありがとう」

『解けば、なんですね』


「せいちゃんに気を使って欲しく無かったから、女だと言わなかったのと。何なら向こうでもこのままが良い位だわ」


『そんなに大変ですか?』

「夏場は特に、全身のムダ毛処理がもう怠い、毛深いから余計に。生理用品でカブレるし、下着が透ける服を着ればブスのクセにと文句を言われるし、そうなると暑いし。化粧は気にしないとだし、ヒールやサンダルで靴擦れ起きるし、髪は長いともう。引き籠り万歳」


『それは、確かに引き籠りたくもなると言うか』

「鈴藤なら何の下準備も無しに、いちでもプールに入れるし。あ、月経前からもう、痛みや気分の落差、味覚も嗅覚も変わって、今までのシャンプーや何やら使えなくなるかもよ。因みに、悪阻で炊きたての米の匂いがダメとかも出るとか、つかワシは月経でなって悪阻で死ぬかもと経産婦に脅された」


『それを、生き抜いてるんですよね、女性って』

「生理も悪阻も軽くてなんの変化も無く安産だったり、悪阻酷くて難産も有るし、経産婦凄い、万歳」


『ちょっと、結構、怖くなってきたんですけど』

「究極の賭けは、井縫さんにも女になって貰って、受精卵を体外受精とか?」


『トリッキー過ぎません?』

「ダメかなぁ、喜んでやりそうだけど」


『何処に惹かれたんですかね?』

「さぁ」


『興味無いんですか?』

「無い、世界平和まで心は闘争あるのみ」


『それでも、平和になっても引き籠るなら』

「良い人が現れたらね、燕の子安貝を取って来て貰う所から始めるわ」


『それで、受け取る前に月に帰っちゃうんですね』

「火星かな、月には猫が居るから」


『兎では?』

「異国ではワニらしい」


『食べられちゃいますね』

「ワニ食った事有る?」


『無いですけど』

「食べたく無い?蛋白で美味しいらしい、ダチョウも」


『馬なら』

「猪鹿、あー、クマも気になるよなぁ」


『あの竜の子は、何を食べるんですか?』

「魔獣食ってた、それも好みが有るらしい」


『へー、有り難いですね』

「ね」


 食事を終え、歯磨きをして洗濯物を乾かす。


 いつも通り、少し違うのはせいちゃんが夜ふかししてる所。


『事故の時だったんですね、巫女さんの事件』


「もう読んだのか」

『概要だけです、それと日記を少し』


「せめて寝て起きたらにしなさいよ」

『すみませんでした、私が鈍感だったばかりに』


「全部読めば分かるけど、それは無いから大丈夫。本当に向こうの一方的な横恋慕」


『全部、読んだんですね』

「墓穴を掘った。寝ようや、寝かし付けたる」


『ビッチじゃ無いと私も思いますよ、井縫さんと何か有るなんて私も思いませんし』

「ウブなのに?」


『そうですけど、ちゃんと一線を引いてるのは見てますから』

「あ、バーラウンジで何してたのよ」


『じゃ、寝ましょうかね』

「何だよ、言えない事か」


『観察ですよ、観察』

「ナンパの練習かと思ったのに、ビビりめ」


『違いますよ、もう、なんで寝室まで来るんですか』

「ちゃんと寝るかの確認、確認したら浮島に戻る」


『別に、居ても良いんですよ?』

「独りで考えたい時も有るでしょ」


『どうしたら、お礼が出来ますか』


「考えとく。今は眠りたまえよ、取り敢えずは目を瞑れや」


 せいちゃんが目を瞑った所で透明なカギを出し、額に触れさせた。

 寝た。


 そして浮島に戻り一服。


 竜の腹の上で目を閉じた。






『おはようございます、昨日はやってくれましたね。鍵を使うなんて』


 浮島なのにせいちゃんが居る。

 つか井縫さんが運んだのか、健気過ぎ。


「それ、エロく聞こうとすると、エロく聞こえるよなぁ」

『もー』

「鈴藤さん、体外受精の話は予測が付かなさ過ぎるので、後回しだそうです」


「早いな、想定されてたか。ちょっとトイレ」


 用を足して身支度も済ませる。


 からの計測。

 高値。


 花子でも高値。


 コレはコレで困る。

 取り敢えずは鈴藤へ変身。


「どうでしたか」

「高値」


「雷でも落としますか」

「いや、どうしたら良いか聞くわ」


 白蛇池の水鏡から月読さんへ。


【おはよう】

「おはようございます、力が余ってます」


【浮島の待機所を分離して、そちらを1と同じ位に拡大させてくれるかしら】

「了解」


 魔力を注ぎ、中央分離帯を切り離す。


 そしてコチラは上昇しながら拡大させる。


 顔を上げ目を開けると、かなり模様替えされていた。


 似てるけど違う感じ、まぁ、良いでしょう。


 計測、中域。


『こんなに広いんですね』

「おう、その時も余ってたから」

「飯行きましょう」


 ランチタイムにバイキング。

 ロキのホテルは夏越の大祓いフェア。


 各地方のお赤飯やお赤飯入りのお稲荷さん、雑穀米入り栗ご飯。

 お吸い物には車海老団子、お味噌汁はシジミ。


 お魚は旬を先取りしたハモやウナギ、アワビ、太刀魚の昆布〆、お刺身に焼き物に、蒸しに煮魚と和食の王道が並ぶ。


 他にも丸ナスの煮浸し、ラッキョウの紅白漬け、ニンニクの味噌漬け。

 トウモロコシと枝豆のかき揚げ、冬瓜のひき肉餡掛け、オクラとモロヘイヤとアオリイカの納豆和え。

 丸い器に丸い食材、茅の輪をイメージしてるらしい。


 デザートは水無月とカボチャの茶巾、小豆も多いのは厄払いの為らしい。


 ロキさん北欧の人なのに、良くやるよ。


『どう?美味しい?』

「美味しいです、北欧出身とは思えませんな」

『そうですね、美味しく頂けました』

「また来ます、全部食べ切れて無いんで」


「へっぽこ」

「大食いに張り合う気は無いですよ、どれだけ食べる気ですか、イチジクとマスカット」


「旬で美味いは正義」

『マスカットのストックは無いの?要る?』


「このタネで量産しようと思います」

『流石破壊神、流通に乗ったら市場崩壊だね』


「しないしない、農家大事」

『こんなに優しいのにねぇ、可哀想に』

『そうですよね、力だけなら候補かも知れませんけど、こう保護する側なんですし』

「ですね」


『主導権を奪われるかもってだけで怖いんじゃ無いかなぁ、弱いから』

「あー、(おびや)かされたくも無いと、ほう、なるほど」

『そう納得されるのも、何か、納得出来ませんけどね』

「ですよね、抑えて控えるのが当たり前は嫌ですね」


「力ある者は」

『義務を伴う。ノブレス・オブリージュだねぇ、良いねぇ、高貴』

「その義務が不自由ですか」

『ですよね』


「なにさ、引き籠りを不自由とは偏見が過ぎる、映画だって何だって家で見れるじゃないか」

『それでも、映画館で見る方が良くないですか?』


「豪邸に映画館作れば良くない?」

『そうでした、規模が違うんですもんね』

『そうそう、誰か招けば良いんだし』


「招かんよ、出来たら居ないモノとして扱って欲しい」

『なんで?』


「国賓だとか接待とか嫌」

『あー、今の所、英国の女王様コンプリートしてるんだっけ』


「おう、毎回不意打ち、寿命が縮むわ」

『それで誰も招かないのは極端では?』


「国賓を退くんだし、特別扱いも嫌だし、我儘言う対価と。自分を知らない人間と普通に接したいから」

『分かる』

『少しは分かりますけど、得られる事も有るんじゃ無いですか?』


「役儀としての職を降りるなら、その利も排さないと公平じゃ無く無い?あー、向こうでもこの話しで揉めるんだろうなぁ」

『だろうねぇ、利用したい者は勿論、その重責を分からない者も反対するだろうねぇ』


「何か良い方法無いかな」


『んー、話すしかないんじゃない?それかいきなり雲隠れか』

「それは不味い、既に先手を取られてる」

『もう逃げ出したんですか?』


「従者からな、側に居たら危ないかなと思って。阻止されたけど」

『それは、怒られなかったんですか?』


「怒られた、幼い竜にめっちゃ窘められた」

「従者も良く怒りませんでしたね」


「弱いと自覚してるからか、特に言われなかった」

「あぁ、本当に可哀想な事をしますね、同情します」


「伝えとく」

「何かお代わり要りますか」


「もう止めとく、糖分ヤヴァい、美味い」


『ならオヤツの時間にデザートビュッフェはどう?旬の果物と野菜の』

「行くでしょう」

『勿論』

「ちょっと運動してきます」


「ならちょっと訓練しよう」

『えー、見たいぃ、場所貸すよぉ』


「え、下で?無理じゃないワンコ」

「怖気が止まらなくなるんで嫌なんですが」

『大丈夫、櫛を作って貰ったから。あ、俺は触れないから取りに行って欲しいんだけど』


「ほう」




 せいちゃんと井縫さんにはプールで遊んでて頂き、金山彦夫婦の神社へ向かう。

 鳥居の直ぐ近くで何やら揉めている。


『櫛なのだけれど、1つ材料が足りなくて。何か持って無い?』

「そも櫛を渡すのはダメでしょうか」

『おお、それを少し借りるかな』


 お社に戻って行ったので、手水やお参りをし終えた頃。

 再び現れ、3つの櫛を持って来た。


「お礼は」

『コレはお礼。お礼にお礼は要らないわよ』

『おう、持ってけ、次はクシナダヒメだな』


「ありがとうございます」


 循環のお礼と言えど、せめてお菓子をと渡すと受け取って貰えた。

 そして次はクシナダさんの神社へ。




 島根の山奥、鳥居をくぐり、手水をし、階段を登る。


 森の中の質素なお社、静か。


 そしてクシナダさんも物静か、清楚で控え目。

 スサノオさんの奥さんとは思えない、真反対。


 櫛を差し出すとお社の中に持って行き、そして再び返してくれた。


 キラキラが溢れてる。

 凄い、一体何が行われたのか。


《私で最後、コレでもう大丈夫》

「ありがとうございます、どちらかをお受け取りをば」


《ふふ、お酒にしておくわね》


 一升瓶を大事そうに抱えてお社へ戻って行った。




 そして浮島へ。

 一服。


「クエビコさんや、何で3つなの」

《神話的には3が常識じゃろ、三種の神器然り、三神然り》


「あぁ、全部渡せば良いのかコレ」

《それは清一の、それはワンコじゃな》


「良いのかね、ワシの提供物で」

《うむ。ほれ、はよう行かんか》


「へい」


 そのままホテルのプールへ着地。


 そして言われた通り、普通のツゲ櫛、彫りと螺鈿細工と真珠の加工がなされた櫛をせいちゃんに。

 黒と赤の漆塗りの櫛を井縫さんに渡す。


『凄いキラキラしてますね』

「眼鏡無いのに見えるのね」

「俺でも見えてますし、凄いですよコレ」

『それ位はしないとね』


「ありがとう、お礼はヘルさんにするわ」


 2人の着替えを待ち、地下へと降りる。

 そして穴へ、今回は地面に着地出来た、井縫さんは自力で、せいちゃんはロキに抱っこされ。


 橋を渡り、死の国へ。


《いらっしゃい、ヨモっちゃんもよく来たねって》

『「お邪魔致します」』

「お邪魔致します、はい、ロキへのお礼」


《ふふ、向こうの私の言い付けね。はい、お裾分けよロキ》

『わーい』


 お菓子を渡し、そして中庭へ。


「じゃあ、始めましょか」

「宜しくお願い致します」


 試合の合図と共に、無手から鞭へ。


 向こうは真剣で挑むも、刃を避け右手が切断された。


 止血し続行、またしても刃を避け左手に命中。


「どやぁ」

「もう1回お願いします。鞭以外で」


 治療後再戦。


 今度は無手からの魔剣、読んでか読まずか突っ込んで来た。


 重心が前のめりなので、そのまま槍を降らせ地面へ縫い付ける。


「フェイクだ」

「魔剣だけでお願いします」


 また治して再再戦。

 ソラちゃんも魔道具も無しはキツいと思ったが。


 逆に軽くなって一撃で仕留められた。


 仕留めると言うか、その一歩手前でソラちゃんが盾を出した。


「危ない、もう模擬対人戦禁止かなコレ」

「貸して貰えませんか」


「ほれ」

《わぁ、可愛いピンクの花弁に変わるのね》

『薔薇だ、洒落てるねぇ』


「でしょう。あ、ワシは色で言ったら何色だワンコ」


「白」

「剣で言うなら」


「大太刀」

「よし、手を貸せ」


「へ」

《わぁ!凄いわ!》

『俺もそれやりたいぃ』


「ヘルさん、触れ無くても大丈夫よ」

《ふふ、勿論紫よね、形はフランベルジュ》

『おぉ、ヘルの魔力たっぷりだね』


「任せられる人間が来たら、宜しくお願いします」

《えー、ずっと飾ってたいのだけれど、そうよね。分かったわ、任せて》


「ヨモっちゃんも、どうぞ」

《素敵、一緒に飾りましょうね》

『弓かぁ、なるほどね。で、俺は?』


「却下」

『えー』


「何が出るか分からんから却下、よし、ヤるぞワンコ」

「はい」


 今までの自分の動きを完全にコピーされた。

 そして当然負けた、鈴藤だと能力落ちるのかも。


「ワンコ怖いわ」

「すいません、つい夢中に」

『鈴藤さんが負けるって、凄い事なんじゃ』


「寧ろ当然よ、基礎が違うもの。あげる」

「いや、こんな物を貰っても」


「なら白蛇さんか誰かに預けろ、託します」


「はい、分かりました」

『大丈夫なんですか霊元』

「あ、測る」


 計測、中域。


『大丈夫そうだけど』

「おう、ちょっと他も行ってくるわ。お邪魔しました」


《気を付けて、じゃあね》


 皆で橋を渡り川へ。

 そして穴から飛び出る、ロキがせいちゃんをキャッチ。


「眼福」

『もー』

『チューもしとこうか』

「流石に止めてあげて下さい」


『なんで』

「マジで、お願いします」

『降ろして頂いても』

「オモロ」


『あの、これって』

『ごめんなさい』

「櫛強い」

「じゃあ俺も」


『止めて、すっごい無理』


 地下から地上へ。

 そしてせいちゃんは再びプールへ、コチラは井縫さんと浮島へ。


《コレを預かれと、鞘はどうした》

「あぁ、井縫さん、手」

「はい」


《うむ、預かろう。ただ、お主が手入れをするのが条件だ》

「そうさせて頂きます」

「よし、じゃあ行ってくるわ」


《おう、気を付けて行くんだぞ》

「行ってらっしゃいませ」




 先ずは渋爺(イルマリネン)の別荘へ。

 お邪魔をしては悪いかと庭を覗いたが、良い雰囲気で焚き火を眺めて居た。


「お邪魔しても?」

『おう、珈琲でも飲むか』

《お菓子も有るわよ》


「じゃあ少しだけ。あ、お菓子の詰め合わせをどうぞ」

《まぁ!こんなに、ありがとう》

『おうおう、今度は何を思い付いた』


「2人から見てワシは何色?白と紫はダメね」

『お前は嫌いかも知れんが、赤だな』

《そうね、命に溢れているものね》


「剣とか武器で言うと?」

『そうだな、どう思う』

《バスタードソードじゃないかしら、両手剣であり片手剣でも有る。そして扱いが難しい》


「なに言ったの」

《うふふ、少しだけれど感じる事は出来てたのよ、ふふ》

『何重ものベールの向こうで現実と、時にドリームランドを感じて居たらしい』


「ほう、では、お手を拝借」

《あら》

『魔法は何でも出来る、か』


「おう、託しますんで、お願いしますね」

《分かったわ》

『おう、預からせて貰う』


「じゃ」

『次か』

《気を付けて行ってらっしゃいね》




 お次はアヴァロン、指輪を翳し島へと向かう。


《おう、緑、双剣だ》

「早いよマーリン」


《おう、実際に見ると、凄いもんだな》

「だろう」


《おう、預かれば良いんだな》

「おう、宜しく、じゃあな」


《おう》




 そのままユグドラシルへ。


《青ですかね、戦斧、バルディッシュ》

「バルドルさんも早い、しかもまた大物を」


《大は小を兼ねる、と聞きましたよ》

「まぁ、そうですが。任せます」


《はい、承りました》

「じゃあ」


《はい、行ってらっしゃい》




 そしてウガリットのオアシスへ。

 偶々なのか、入り浸っているのか、王が普通に居る。


『久し振りだね』

「ご無沙汰しております」


『うん、君の色が残っててくれて助かったよ。色は黒、ランタンシールド』

「ほう、珍妙な」

《在庫に似た物がございます》


「ほう、どう使うの」

『こうとか、こう』


「光るのか、オモロ」

『ふふ、でしょう。帰れそうかな?』


「いや、何か、足りないのかも」

『そうだね、内臓が欠けてるものね』


「そこ?」

『戻してみる価値は有るんじゃない?』


「うん、じゃ」

『うん、行ってらっしゃい』




 そしてエンキさんの元へ。


『おう、戻すか』

「ちょっとだけ」


 向こうと同じく石の寝台に全裸で寝転ぶ。


 そしてストレージから出した精巣が光に包まれ、体の中に入っていく。


『色は銀、ソードブレイカー』

「凄い凶悪な絵面と名前」


『剣をぶっ壊す為に有るからな』

「へー」

《それも御座います》


「在庫ヤバいな、ちゃんと管理するわ」

『ふ、俺もそうさせて貰う。で、どうだ』


「分からんです、変わらんと思うが」

『ま、時間が掛かるのかも知れんしな、そう焦るな。仲間内と過ごしておけ』


「うっす」

『おう』




 そして浮島へ。

 念の為に先ずは計測。


 低値。


「ですよねー、低値ー」

《おうおう、随分と巡ったのぅ》

『早う回復せぬか』


「一服させい」

『ちょっとだけじゃよ』

《ま、もう落ちる心配は無いじゃろしな》


「セレーナは?」

《海神の所じゃ》

『挨拶周りと食事で忙しくしておる』


「もう独り立ちか、寂しいな」

《おうおう、悲しめ》

『そうじゃぞ、我らの気持ちを味わうが良い』


「へい」


 エリクサーもそこそこに、一服終えてホテルへ。


 プールには楽しそうな井縫さんとナンパされるせいちゃん、微笑ましく観察するロキ、楽しそうで何より。


『おかえりー』

「おう、アレで何人目だ」


『まだ1組だよ、一応守らないといけないからね』

「そうか、つまらん」


『顔色悪いよ?』

「ガッツリ使った、泳ぐ元気も無い」


『じゃ、オヤツに行こうか』


 ロキと先に2人で降り、ディナー前のデザートビュッフェへ。


 兎に角キラキラ多めを摂取、味はどれも上手いが、エリクサーで流し込む。

 ちょっと勿体無いが、仕方無い。


「マスカットうめぇ」

『好きだねぇ』


「好き」


『もっと言って』

「キモ」

「流石にイチャイチャしないんですね」


「ビックリしたぁ」

『あれ、気付いて言ったんじゃ無かったの?』


「あぁ、癖で」

『えー』

『ふふ、どんな関係だったんですかね』


「溺愛してくるお父さん」

「それは確かにウザそうですね」

『あー、想像付くわームカつくー』

『ヤキモチですか?』


『そりゃもう、こんなに波長の合う子は滅多に居ないからね』

「波長ってなに」


『気が合う?みたいな?』

「お前か、その口癖の持ち主は」


『えへっ』

「あーウザいって言っちゃいそうだった、危ない」

『言ってるも同然じゃないですか』

「放っといて取りに行きましょう」


『いつもこんな鈍チンなの君は』

「背後を取られる事が早々無い。強者っぽいなセリフよなコレ」


『なんか、その元気な感じ、風前の灯みたいで怖いな』

「良く言われるぅ」


『辛く無い?』

「辛いよ、執着が出た頃に帰還するんだもの。しかも今回は長かったし」


『気配する?』

「どうだろ、何か失礼な事したらごめん」


『気にしないで、そう言うのも好きだから』

「ドMや」


『うん』

「うんて」


 ロキは、コレだけしても帰れないワシのフォローをしてくれてる。

 コレだけ言ってくれてるが、自分の事を言われてる実感は無し、勿論井縫さんの事も。

 誰か赤の他人の事の様な。

 イカンなコレ。




『ふぅ、どれも美味しそうで迷っちゃいますね』

「観上さんは良いじゃないですか、制覇出来る胃袋持ってるんですし」

「おぉ、取って来たねぇ」


「殆ど観上さんのですよ」

『甘過ぎないのを教えて貰おうかと』

「どれもそう甘過ぎないけどな」


「本当ですかね」

「ピアスに誓ってマジ」

『じゃあ、コレはどうでした?』


「普通」

『あ、確かに、一口どうぞ』


「嘘つきましたね」

「てへっ」

『結構アッサリ騙されるもんですね』

『好きな子の言う事は信じたくなるよねぇ、分かるなぁ』


「はぁ、どうも」

「凄い塩対応されてワロス」

『嫌い、この子嫌い』

『コレが、相性悪いって事なんですかね?』


『そうだねぇ。ノリとかもそうだけど、自分が考える間もなく正解の行動を取ってくれたり、言って欲しい言葉を言ってくれるとかかな。勿論、経験や知識で合わせる事は出来るけど、もっと本質的な所でお互いの意に沿うって感じ』

「めっちゃ真面目に喋るじゃん。井縫さんには分からん感覚か?」

「そうでも無いですよ」

『なるほど、例えば?』


「え」

『何処が良いのかなって』

『ウブちゃん、ストレートに聞いちゃう所が可愛いなぁ』

「でしょ」


『あ、ダメですかね?』


「いや……意外性と、優しさとか」

「意外性は初めて言われたわ」

『そうなの?』


「と言うか、変わってるとかなら言われた事は有るけど。1番は、気にし過ぎ、深く考え過ぎとか」

「結構クソな人間が周りに多いですよね」


「今思うとな。でも、実際にそうだと思ったから引き籠ってたワケだし」

『意外性も変わってるも、元は同じ事への言葉だろうけど、見てる立場が違うからねぇ、見下すかどうか。似てるけど、全然違うよねぇ』


「一瞬日本人かと錯覚しそうになるわ、マジで流暢よな」

『長いからねぇ』


『そうやって、直ぐに茶化しちゃうのはどうしてですかね?』

『君ならさっきの問題、どう答える?』


『取り敢えずは、意見を返すかと』

『意見する度に出る杭が打たれるなら?』


『茶化す?』

『みたいな?』

「より強い意見で捻じ伏せられるか、バカにされるかだから。話を変えちゃうんだ、気を付けてるんだけど、すまんね」

「それって、凄い舐められてますよね」


「ですよねー、思い返すともうね、情けないですよ、そうなんだーって納得してた時も有るから」

『でも、全部じゃ無いでしょ?』


「どうだろ、試しに他の人に他人事として言ったらさぁ、ワシじゃ無いとなると相手が間違ってるって、でもワシの事として話すと何故か反対の意見になる。人選ミスかも知れんけど、ね、顔面偏差値低いから」

「顔のせいだけですかね」


「どうでしょうね」

「いや、そうじゃ無くて。向こうには神様は居ないって言ってましたけど、犬神憑きみたいな、何かが有ったりするんじゃ無いんですか?」


「無いな、両家どっちも普通だったもの。片方は新興宗教だったけど、ウチは巻き込まれて無いハズだし」

「じゃあ、舐められ顔なんですね本当に」


「お多福顔やしな」


『時代が時代ならモテますけど?』

「そう思ってた時期がワシにも有りました。でもなんで、男の顔の評価は時代でそんなに変わらないのかね」

『結局選ぶのは女性だからね、妊娠を継続させるのも、全て女性の決める事だから』


「だそうだ、宜しく」

『え、あ』

『困っちゃうよねぇ、理性では分かってても。本能が拒絶するの、分かるよ』


『すみません、違うんですよ、最善の案だとは思いますし。つい、忘れちゃうというか、実感が湧かなくて』

『だよねぇ。そうだ、ちょっと良い案が』

「果物取って来て、それで冷静に考えてからワシにだけ言え」


『えー、分かったー』


「流石、扱いに慣れてらっしゃる」

「と言うか察したわ」

『どんな内容なんです?』


「言わん、月読さんに相談してからだ」

「なら今のウチに俺も取って来ますね、何か持って来ましょうか」

『あ、ありがとう、適当にお願いします』


「はい」


『凄い勢いで飲みますね』

「ちょっとね、低いねん」


『それなら悠長に食べてる場合じゃ』

「そこまでじゃ無いから大丈夫、それより適当で良いってどうしたのよ」


『さっきの続きが気になって、名前とか考えてます?』

「いや。実感無い割に考えてるのね」


『逆ですよ、名前を考えるって行為から、実感が湧かないかなって思いまして』

「そうだよなぁ、そんな気持ちのままだと、目覚めないままなら着床すらしないかも知れないもんなぁ」


『そんなに、神経に左右されるんですかね?』

「フィードバックし合ってると思う。楽しいから受け入れられる、継続できる、でも体が拒絶したら脳から心へ影響を受けて、それがまた脳へ。条件付けが強化されて、だから悪い印象が覆る事も起きるとは思うんだけど。ワシの場合は直観を信じた方が結果が良かったから、まぁ、その悪い印象のまま継続しちゃうし」


『真面目ですよね』

「人間関係で苦しんだから、拒絶を選んだから、勉強関係が欠落してる。話を戻すけど、神経質になると考えた方が良いとは思う」


『そんな繊細に見えます?』

「繊細になると思った方が良いのでは」


『確かに、そうなるのかも知れませんね』


『おまたー、さっきの話。相談してくるね』

「おう、宜しくどうぞ」

『それ、少し良いですか?』


「どうぞどうぞ」


「お待たせしました。内容、聞いたんですか?」

「聞いて無い、先に相談に行った」


「不穏な、過激な内容じゃ無いと良いですね」

『そんな不穏な?』

「有り得るぞぅ、トリッキーさんなんだから」


『たしかに』

「そう言えば、鈴藤のままで良いんですか?」

「あぁ、そのうちね、楽なのよ、溢れても」


『溢れるのも、性別で違うんですか?』

「多少、昨日は大丈夫だった?井縫さんや」

「いや、はい、大丈夫です」


「ん?誰か襲ってしまった?」

「いえ、詳しく聞かないで貰えますかね」


「気になる」

「想像にお任せします」


「それは止めときます」


 デザートを食べ終わり、そのまま浮島へ行く事となった。




《おかえりなさい》

「セレーナちゃんもお帰り」


《お腹いっぱい》

「いっぱいは良い事です」

《じゃの、早う入浴せい》

『皆もじゃ、お主は少し吸い上げて貰え』

『はい』


 せいちゃんの魔素を吸い上げた後、本当に強制的に入浴させられた。


 井縫さんはまだ良いが、せいちゃん真っ赤。


「大丈夫か」

『何でしょうね、もう、条件反射ですかね』

「まだ慣れませんか」


『そうですね、元が女性となると、どうにも落ち着かなくて』

「景色でも見てなさい」


『そうしときます』

「鈴藤さんも鈴藤さんで、少しは振り向かせようとか無いんですかね」

「無いな、顔面偏差値の低い子に厳しいぞそれは」


「今は、中の中じゃないですか」

「君に言われると嫌味か本音か分からん」


「ピアスに誓って」

「すまんね、さっきの、マジでそんな甘くないと思ったのよ」

『先にイチジクを食べてましたもんね、甘かったですよイチジク』


「確かに甘かったですけど」

『マスカットも、ハマる気持ちが良く分かりました』

「植えようぜ少し」


『大丈夫なんですか?』

「そん位は余裕っすよ」

『ふふ、長引いて湯あたりされても困るでな、少し手伝ってやろう』


 ドリアードに種を渡すと、モリモリ生えて立派な木になった。

 試しに一房。


「うめぇ、ありがとぅ」

『本当に、遜色無い美味しさですね』

「確かに、悪用すれば農家全滅しますね」


「引き籠りの飽き性だから無理」

『引き籠りには飽きないんですね?』


「皆さ、そんなに人間と関わりたいかね?」

『んー、そこそこ、ですかね』

「俺は好きな人と一緒なら永遠に引き籠りたいですけどね」


「それは無視するね」

「モテない割に、いなすのが慣れてますよね」


「変人が奇行を仕掛けて来る事って良く有るじゃん?」

「愛人契約持ちかけたオッサン以下ですか」


「おま、先生殺さないと」

「その事は月読様に、俺の目の前で聞き出したので」


『愛人契約を持ち掛けられるなんて、モテてるじゃ無いですか』

「ですよね」

「お爺ちゃんぞ、中年とお爺ちゃんの狭間のお爺ちゃん」


『因みにどんな内容なんですか?』

「エメラルドのジュエリーセットだそうです」

「実は詐欺師かも知れんよ」


「それ以外にも何か隠してそうだって言ってましたけどね」

『どうなんです?』


「近くの学校のと遊ぶ機会が会って、ヤバいのがいきなり絡んで来て、付き合おうとか言われたのは有ったが。皆で笑って終わりだったぞ」

『へー、それでモテ無いなら私。もっとモテ無かったんですけどねぇ』


「それは普通じゃ無いからでしょうよ、今はもうモテモテなんだし」

「そうですよ、もうすっかりモテモテで。さっきのも観上さん目当てでしたからね」


「ほう」

『なんでしょうね、全然嬉しくも楽しくも無いのは』

「そんなもんですよ」


「流石モテ王」

「いや、モテ王は聴風軒さんでしょう」


「アレは殿堂入り」

「あぁ、確かに」


《その殿堂入りの人に近付けば、キラキラ沢山見れるかな》

「いやー、ちょっと違うと思うなぁ」

「ですね、ちょっと違うかと」


『その、キラキラとは』

《恋愛感情の行き交う様》

「どんどん流暢になってくな」


『井縫さんは、巫女さんの事件を知ってるんですよね?』

「はい、橘の死体袋を運びましたし、演習の狙撃も、他の狙撃も見てました」


『え、他のって』

「白子のか」

「はい」


『どれだけ死にかければ気が済むんですかね』

「それは実質0、死ぬなコレと思ったのは演習の爆風で真空になった時だな」

「ルーマニアでも何か起きたとか」

《お父さんが悪夢を見せたから、怒って影から無理矢理出ちゃった、それから色々有って丸呑みされて、一緒に生まれた。生まれた、で良いの?食い破られて出たのに》


「そうだねぇ、生まれた、で良いんじゃ無いかなぁ」

『鈴藤さん、丸呑みって』


「詳しく聞くなと言われまして、腹に収まりました」

《起きたら肉片まみれでビックリしてた》


「おう、そこから意識が有るのね」

《うん》

『危ない事ばかりに巻き込まれてる様に見えるんですけど』


「似ないで欲しいモノですな」

「俺のなら心配いりませんよ、それにいくら失敗しても気軽に追加出来ますし」


「お父ちゃんクソイケメンだしなぁ」

『お会いに?』

「会ったと言うか、襲われたらしいですよ」


「誤解を招くわアホ。鈴藤の状態で、本当に息子の恋人か試されたんだわ」

『偏見の無い方でらっしゃる』

「無さ過ぎなのが逆に怖いですけどね」


「あ、バーラウンジで何してたん」

「人間観察ですよ、女装も男装も居たので」


「つまらん、ナンパでもせいや」

『無理ですよ、普通は鈴藤さんみたいにどっちでもいけるワケじゃないんですから』


「普通はその年でウブじゃ無いわ」

『そこは普通じゃ無いんで仕方無いじゃないですか』


「受け入れるの早い」


『鈴藤さんを見て来たからですかね?』

「雑にはならんでよ」


『雑な自覚は有るんですね』

「いや、傍から見たらそうなんだろうなと」


「雑ですよ、治療魔法習得の為に腕を」

「これ」


『腕を?』

《切り落としたそうじゃよ》

『痛覚遮断も無しに、アホじゃよなぁ』

「もー、ココは余計な茶々が入るぅ」


『扱いが、ぞんざい過ぎませんか』

「雑には扱って無いぞ、他に方法が無かったんだから仕方無い」


『それこそ戦闘訓練の負傷者なり』

「当時は居なかった。居てもワシと戦った味方ぞ」


『それは、酷ですけど、だからって』

「医学の進歩で患者も何も少ないんだよ。しかも人権が守られてるから死刑囚にも手を出せない、なら、自分自身で実験するしか無いべ。ほれ、他の方法を提示してみい」


『それにしたって、切り落とさなくたって良いじゃ無いですか』

「骨も何も繋げる練習ぞ」

「でも、せめて足ですよね」


「あぁ、確かに」

『そこですか』

「ですね、失敗したそうですし」


「アレは本当、繋げ終わって油断した」

『もー、周りを心配させる事を』


「それは本当、マジ謝ったわ」


《無線連絡が入っていますが》

「はいはい、はい」


【報告書見たぞ、ルーマニアからの】

「やべぇ、河瀬だ、お説教連チャンか」


【お前なぁ、泣くなら他の方法も有ったろうが。それとも何か、お前のファン魂はそんなものか】

「なによ」


【手のひらを太陽にとか有るだろう】

「それは涙腺が崩壊するからダメ、コントロールが効かん」


【別にコントロールする必要無いだろうが】

「セカンドのOPの歌詞を思い出せバカ、溜めてんだ」


【あ、良いの有ったんだ。全部に送るわ】

「もう泣かせなくて良いんだが?動画?」


【まぁ聞けって】


「ふわぁあ、声も似てるし、やべぇなおい、感動しちゃうんだけど」

【ふふん、シベリア自治区の転生者が作ったんだぞ】


「あー、ヤバい、他のは」

【有るぞ。ほら】


「知ってたらコレ利用してたわ」

【だよなぁ、もっと早く知ってたらな】


「他にも有るとか言うなよ」

【有る、今日の日はさようなら。とか、自治区のオタクやべぇ、才能が羨ましいわ】


「接触しとけば良かったぁ」

【俺よりビビりだから無理だろな、顔も名前も知らん】


「あー」

【それと、循環は安定してるって報告だな】


「だけか」

【だけだが】


「お説教かと思ったわ、今せいちゃんにお説教されてるねん、井縫さんも加わってさ」

【どの事にしたって、安全な立場でビビってた俺は何も言えんし、お前なりに考えて出した答えなんだろ。ただな、身の扱い方が雑っぽいのは目に余る】


「それだよ、他に方法を提示しろっての」

【凶悪犯使うとか有るだろ】


「人権守られてて無理」

【あぁ、じゃあ仕方無いな】


「ほらぁ、河瀬だって仕方無いって言ってるぞ」

【俺を話しに加えるな】

『もう、じゃあそれは置いときますけど、全体的に雑なのが心配なんですって』

「それはそうですね」


「戦士が死に怯えてどうする」

【そこなんだよなぁ、ま、そっちで考えといてくれ、じゃあな】


「切られた」

『本当に、戦闘員なんですかね』


「いや、回復補助要員だったとしても、戦える技能が有るなら戦うべきでしょ」

『それと雑なのが、直結しないんですけど』


「なら、君ならどうする。君はワシにどう礼をする、その礼に制限を設ける気か」


『それは、私は、制限を設ける気も命を捧げる気も無いです』

「ワシも命は捧げない、場合によるが」


『でも、鈴藤さんがその道筋を作ってくれたから、私は選ばないで居られるんですよね』

「で、お礼は」


『すみません、何も浮かばなくて』

「幸せになる程度じゃ許さんよ、最低限、誰かとは結婚して頂かないと」


『あの事件見ちゃうと、ちょっと』

「全部読んだとか言う?」


『読みました、日記の写しも。良く読めましたね』

「省かれたのをバアルさんに朗読された」


『キツ過ぎません?』

「ちょっとね、凄いなって思ったわ」

「殺して良いなら何回でも殺したいんですけどね、優しいですよね」


「フルスマイルで言う事じゃ無いのよ」

「実行しない事を褒めて欲しいんですけど」

『本当に好きなんですね』


「まぁ」

「赤くなったの初めて見たわ、可愛いなおい」

『凄い、あの井縫さんが顔を隠して』


「君もいつかこうなるんだよ、せいちゃん」

《キラキラいっぱい》


 2人が顔を抑える代わりに湯船に沈んだ。

 勝った。




「勝った」

《くふふ、確かに沈めたら勝ちじゃな》

『まぁ、こういうヤツじゃし、惚れられん気持ちも分かるぞ、身柱や』


『私の、事ですよね?』

『そうじゃよ、惚れては苦労するのが目に見えておるからの。初めてがコヤツでは怯えるのも仕方あるまいて』

「なんか、怯えられまくりやんな」

「どんまいです」


『苦労とは』

『きっと、コヤツは真正面から愛するんじゃ、そしてその愛の重さに耐えられず目を背ける者、図に乗り見下げる者が出る。のう?浮気を疑われた事は殆ど無いじゃろう、それどころか浮気をされる側なんじゃろ』


「人相に出てますか、精神分析ですか」

『ふふ、そのまま真正面から受け止めるだけで良いモノを。何もかも許してくれそうな愛に、つい調子に乗ってしまうんじゃろうなぁ』


「…ダメ人間製造機だろうなと揶揄(やゆ)された事は認めます」

『まぁ、それも見る立場じゃて』


『あの、そう言う話で、嫌な範囲じゃ無い事を、もっと聞きたいんですが』

「分析結果ならどうぞ、ワシからは暗い話しか出ないぞ」

《ならしょうがないのぅ、専門家を連れて来るしかなかろぅ、ワンコや》

「了解です」


「くそー、調子乗って、低値じゃ無きゃ逃げるのに」

『そんなに嫌なら聞きませんよ』


「恥ずかしいと言う気持ちはワシにも有るんですが」

『胸と一緒に何処かに置いて来たのかと』


「言うぅ」

『お陰様で』


「無理せず上がり給えよ」

『はい、もう少ししたら上がります』

『“冷ましてあげようか”』


「“ウーちゃん、ありがとう”」

『“お礼を言われたくない、居なくなる感じで嫌”』

《キラキラ》


『好きなんですか?』

『うん』

「好き好き」

《お姉ちゃんのは、あれ、お兄ちゃん?あれ》


「どっちでも良いよ」

《お姉ちゃん、お姉ちゃんのは違うの、友愛って言うって教えて貰った。ワンコ?にも友愛だって、皆を友愛してるって》


「向こうでは一歩間違うと恐ろしい言葉なんよなぁ」

『私もそれに入ってるんですかね?』


「たんま、その先の、もしもの答えを考えた上で言ってるのかね君は」

『あ』

《男の子って潜水好きみたい》

『“みたいだね”』


「アイス上げるからもう出なさい」

『そうしときます』




 暫くして井縫さんと共に先生が来た。

 久し振りの眼福に合掌。


「本当にメンクイですよね」

「理解しております。お久しぶりです先生、良くも個人情報を」

《誤解しないで下さい、それを使用した者に罰則が行きますので》


「井縫さん」

「俺個人の為じゃ無いですよ、観上さんの為です」

『なんで私に』


「知りたがってたじゃないですか、内面や過去を」

『そうですけど』

《じゃあ、そう言う事なので私は無罪ですね》

「お、おう」


《では、先ずは点滴をさせて頂いても?》

「助かります」


《いえいえ。それで、観上さんでしたっけ、何が知りたいんですか?鈴藤さんは隠し事は有っても、そう内面は隠さない方だと思うんですけどね》

『そうでしょうか、嫌だったり辛い事をあまり言わないですし』


《嫌な事を共有して無いんですか?》

『過去の事は聞いた事はありますけど、今はどうなのか分からなくて』


「別に、特段嫌な事は。あ、幽霊は怖い、アレはもういいや。つか普通に入るのね」

《点滴業務も終わりましたしね、お邪魔しますね》


「どうぞ」


『普通、こう言う時に嫌がりません?』

《普通じゃ無いアナタが普通じゃ無い鈴藤さんを、普通に心配する意味が有るんでしょうかね?》

「ちょっとトゲがないかい?」


《えぇ、転生者もですが。安全に過ごせてる分際で平凡な事しか言わない方が嫌いなんですよ、私》

「揉めないでくれる?」


《揉めはしませんよ。ね?私、何か間違った事を言いました?普通じゃ無いのに、普通に当て嵌める方が間違ってません?》


『はい』

「河瀬もそうやって調教したんか」

《そうかも知れませんね》


「もー、慰めとかんと」

《こう言う優しさが好きなんですよ、そして好きと言っても反応しない優しさ。周りにも私にも気を使っての事なんです。分かりますよね?まだ呪いの残滓が残ってると自覚出来ました?》


『はい、そうですね。制限が掛かったみたいに思考が停止して、言われれば分かるのに、自力では到達出来ないんです』

「あら、解かないと」

《今解けたら危ないのでは?》


「そう直ぐ解けるもん?」

《そこもご相談を受けてココへ来たんです。ロキ神から月読神へ、性転換させて対面させるべきかの見極めをと》


「ココでアナタが言うか」


『それで、解けて、覚悟も出来るんでしょうか』

《大丈夫そうですね、呪いがかなり根付いてますから》

「まさにカエルの王子様だ」


『性転換ならお姫様では?』

「ルーマニアの御伽噺に王子様になった王女様ってのが有ったよ」

《お姉ちゃんの事みたいなお話》

「寧ろ、幸福の王子様では」


「クソみたいな悲劇やん」

「そうならないか心配してるんです」


「あんな風に、ただ与えるなんて愚策せんわ。そして現世で幸せになりたい」

「是非、そうして下さい」


《真っ青ですよ、大丈夫ですか?》

『いえ、少し不安が有りまして』

「どれだ」


『自覚したら、自分を保てるのか不安なんです』

《枯れているからこそ、過去の事や最近の事件を穏やかに捉える事が出来た可能性は有ります。ただ、感性が蘇ってもショックを受ける可能性は低いかと。なんせ、もう過ぎてしまった事ですし、最近の事件の加害者に対しては、本当に興味が無いでしょうからね》


『その、興味が無いのも』

《周りからお話を聞く限り、幾ばくかの罪悪感以外は有り得ないかと。寧ろ自責の念、理解出来なかった事を嘆く事の方が心配です》

「確かに、それは心配」

「ですね。どう捻っても、勘違い女の暴走ですし」


《はい、私もそう思いますよ。力も金も有り、チヤホヤされると大概の人間は調子に乗るモノです、そして調子に乗っている事に気付かないまま生き、都合が悪くなると他人のせいにする。警察関係でらっしゃるなら、良くご存知かと》


『そうなんですよね、他人の事なら分かるんですけど。自分の事となると分からなくなってしまって、不安なんです』

《それだと負のループ入りですね。少し休憩にしましょうか、上がりますね》

「おう、アイス要る?」


《はい、頂きます》


 丸ごとみかんアイスは好評。

 丸ごとシリーズにブドウ無いのかしら。


 そして先生と井縫さんは向こうの浮島へ。




「不安しか無いかね」

『ですね。でも、女性は皆、こうなんですよね』


「全員では無いから、コインロッカーベイビーが起こるんだろう。女子トイレとかもさ、近所で事件が起きて、その場所に行けなくなったもの」

『詳細は知ってるんですか?』


「ダストボックス、亡くなってる」

『あぁ、それは行きたくなくなりますよね』


「赤ちゃんポスト有るのにね」

『パニックになるそうですね、健康的な方は特に』


「あぁ、そこも病慣(やまいな)れか」

『そこもなんですけど、体調が悪くなれば病院へ、そうして結局は病院から通報が来ますから』


「はぁ」

『桜木花子として、考えた事は有るんですか?』


「有るよ、病気が再発した時。出来難くなるかも知れないから、良く考えろって。結局は妊娠が1番だからって」

『でも、その為にって何か。でも、自分もなんですよね』


「割合よね。産むついでに病気が治るかもって思うか、病気を治す為だけに作るって思うか。ワシは流産するか悩まれたのよ、母親から直接言われた、酔っぱらってて向こうは覚えて無いけどね」

『それ、ご兄弟は』


「今思うと、知ってたのかも。その話になった時、口ごもったから」

『私の事、ムカつきますよね』


「ほんの少し、でも対峙すら必要無い場合も有るから。寧ろ、そこを聞けない感じがムカついたのかも、踏み込むのを躊躇う自分とか、踏み込んでどうするんだとか」

『本当に真面目ですよね』


「他の感想は?」

『引き籠りの割に、社交性と言うか社会性が有るなと』


「祖母ちゃんの店の手伝いしてたから、そこは居心地が良い事も有ったし」

『ご家族の思い出を聞いても?』


「家族旅行、した事が無い」


『私、小さい頃なら有るんですよね』

「相性良くない感じよな」


『言われましたし、自分でもそう感じてます。今思うと、義母の方が楽でしたし』

「それそれ、君の家系はメンクイよな、すまんね」


『いえ、それが引っ掛かってるんじゃ無い筈なんですけど、すみません』

「イカンな、お昼寝しよか」


『ですね』


 クエビコさんに井縫さんを呼んで貰い、せいちゃんはロキのホテルへ。

 ワシはバスローブのまま、セレーナさんのお腹の上へ。


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