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6月23日(火)

 体の不快感で目を覚ました。


 傍らには子供サイズの卵、周りは血と肉片と骨片で溢れ、竜がそれを(ついば)んでいる。

 自分は、胎盤の様な被膜にまみれボーッとしている。


『息、してる?』

「ちょっと止まってたかも。ブラドさん、コレは、なに」


『散らばってるのが35代目、その卵は君が一緒に宇宙へ行く竜の子』

「コレはなに」


『元々、長を1人に絞る事を止めて3人に支えて貰う予定だった、その時期を早めた。コレは継承の儀、そしてその卵は抜け道、君の兄妹』

「それで」


『その子に戸籍は無い、なんせ最初から竜として生まれたからね。だから自由だよ』

「1人ぼっちになっちゃうんじゃ」


『ちゃんと迎えに行かせるし、その子がココに来れる様に最善を尽くす。少し待って貰う事にはなるけれど、竜の寿命にしたら一瞬だから』

「この子がどう思うかだろ、一瞬だって苦痛は苦痛なんだから」


『それでも、その子と国民と君を守る為だから我慢して貰う。それに、こんな小さい国だけより、沢山の神々に会える方が有意義だと思うよ』

「だから詳しく聞くなと」


『うん、元々国で決めてた事に君が巻き込まれただけ、例え君が呑み込まれ無くとも、誰かを呑み込ませた。その場合は君を一旦拘束するか、この場から遠ざける手間が発生してたかな』


「んー、ちょっと寝起きで頭が」

『だよね、寒いだろうけど水浴びして来なよ。卵はベスクに渡して大丈夫だから』

《え、はい》


 横の水場の桶を使い、体を流す。


 膜や羊水、体液や何やらを洗い流す。

 くっそ冷たい、風邪を引きそう。


 バスローブを羽織り、今度は城の中庭へ。

 そうして浴室へと案内され、しっかり洗い、暖まる。


 それでも寒気が酷い。

 自前の鶏スープを飲むが、温まる気配は無い。


 コレは異常、計測。


 低値。


 ですよね。

 暖かいエリクサーをがぶ飲み、それでも寒気は収まらない。

 コレは温泉じゃ無いとキツイかも知れん。


『どう?』

「ダメだ、何でこんな持ってかれた」


『そら命を新しく作ったんだもの、多分、君の遺伝子入ってると思うよ。君を異物として卵を創ったワケだし』

「それは、片親がワシなのでは」


『割合は少ないかもだし、だから兄妹なんだし』

「うーん?屁理屈では?」


『そうかもね。それで、君が回復出来る場所は?』

「浮島か、ユグドラシルか、アヴァロンか」


『先ずはユグドラシルかなぁ』




 またしてもバスローブを羽織り、先ずは卵とユグドラシルへ。

 水場からそのままユグドラシルの川へと向かうと、暗闇の水中からアーニァが迎えに来てくれた。


《ふあぁ、あの竜の卵だぁ》

「分かるのね」


《同じ、卵生?だから?》

『そうねぇ、アーニァも卵から生まれたものね』

《いつ生まれるか知りたいだろうけど、それは後のお楽しみ》

《名前を付け無いとね》

「そうなるのか、生まれたら付ける」


 その言葉と同時に卵に衝撃が走り、ヒビが入る。


 桜色の可愛い子、ツヤツヤの鱗は半透明な水晶の様で丈夫そう。


《水晶みたいねぇ》

「出来たらルーマニア由来の名前が良いんだが、調べてからで良いかね」


 言語も聞き取りも大丈夫そう、竜は頷き、アーニァと海へ遊びに行ってしまった。


 そしてサンニァーから名前の候補が出され、ソラちゃんがタブレットに書き起こす。

 それを一通り見てから、一服。


 セレーナ、と名付けた。


 海の方へセレーナと呼ぶと、コチラへピンク色の竜が飛んで来る。

 羽ばたく度に大きくなり、間近に来る頃には35代目と変わらぬ大きさになった。


《お姉ちゃん、宜しく》

「そうなるのね、名付けってこんな変化するのが常識なのか」

《名は役割だからね、そうなって欲しいと願われると力の方向性が確定する。それが素直に出るのが人間とは違う所だから》


「ならアーニァとかは」

《アーニァはアーニァよ》

『良いんです、もう違う名で呼ばれても自分の事とは認識出来ないと思うので』

《私達の中で役割が有るし、認識出来れば充分だもの》


《アーニァは人魚もあるから良いの》

『そうね、私は犬神』

《泉の精。これ以上はもう邪魔になるわ》


「本当に、コレで良いのね」

《うん、完全に完璧。誰が何を言おうとも、それは揺るがない》

『お互いに補完出来てるから大丈夫、それが私達の絆で、願いなの』

《だからもう泣かなくても大丈夫なのよ?》


「おう」

《お父さんは悪趣味だったと思う》


「まぁ、好みは其々だから。セレーナの好きなモノは何」


《人間の、人と人との電界がぶつかって、キラキラする所。お話したり、仲良くするとキラキラして見えるから》

「一瞬ドキッとしたが、そっちね」


《番うの見るのは許可が必要だから》

「あぁ、その知識も有るのか」


《お父さんとお姉ちゃんの記憶、知識が有る。それより魔力、危ない》

「ですよね」

《お魚あるのよ》

『お肉も』

《野菜はジャガイモとキノコで我慢して》


 干し肉とキノコとジャガイモのスープ、焼き魚にお肉。

 合間にエリクサーを飲みながら、焚火に当たる。


 暗いからか、竜の腹が暖かいからか、眠い。


「眠い」

《全部低い》

《代謝が追い付いて無いんだね、温泉に行ったらどうだろう。アヴァロンの》

《セレーナちゃん、見せに行かないとだね》

『そうですね、さ、行って下さいな』


《乗って》


「おう、失礼します」


 セレーナの鼻先で背中に乗せられ、そのまま川を通りアヴァロンへ。


 挨拶も程々に、ぬるい炭酸温泉へと入る。


 セレーナを褒めてくれている風景を眺め。






《どうだ》

「お、おう、おはようマーリン」


《大変だったとは聞いたが、大丈夫か》

「どうだろ」


 計測、低値。

 つか、トイレ行きたい。


《んー、やっぱり浮島か》

「良いのかね、セレーナも居るんだし」


《竜の信仰自体は有るだろう》

「竜と言うか、蛇的な龍の方ね」

『問題無いそうじゃ、白蛇が許可を出したでな。そしてその系譜にある龍神もじゃと』


「早く無い?」

『月読神とロキのタッグじゃし、準備しとったんじゃろ』


「にしてもなぁ、トイレ行きたい」

《おうおう、早く浮島に行ってこい》


 バスローブを羽織り浮島へ。

 トイレへ直行、外では穏やかに交流してるっぽい、一安心。


 そして温泉へ直行し、セレーナの体に頭を預ける。

 ひんやりとして気持ち良い。


「ふぅ、仙薬祭りしか無いよなぁ」

『そうだね、ふふ、白い髪と桜色の鱗、本物の桜みたいだね』


「悠長な」

《コチラの交渉は上手く行ってるでな、悠長も悠長じゃ》


「大丈夫かね、天使付き」

《あの娘なら大丈夫じゃ。まぁ、井縫とあの神父が対応してるでの、くふふふふ》


「あぁ、そう」

《ヤキモチすら妬かんか》


「それどころじゃ無いし」

《じゃの、そして正式に楠花子の死亡届が受理された》


「遺体も無しにか」

《そこは、アーニァの骨を使わせて貰ったんじゃよ。遺髪だけでは流石に難しいでな》


「本人が生きてるから良いものを」

《墓代の節約にもなるじゃろ、なんせ生きてるんじゃし》


「でもその遺骨は」

《もう散骨したぞ、海にな》


「早い」

《長引けば、楠家にも迷惑が掛かるでな》


「あぁ、そうか。トイレ行くわ」


 バスローブがこんなに便利だと思ったの初めて。

 もっと買っておけば良かった。


 半身浴状態で苦い仙薬祭りをしていると、井縫さんが天使付きと飛んで来た。

 仲が良い事で。


「仲が良さそうとか思ってませんよね」

「思ってますが何か」


《“あの、亡命させて頂き、感謝しております”》


 好奇心旺盛な少女らしい、竜に目が釘付け。

 素直。


「“触る?竜”」

《“良いんですか?”》

《“どうぞ、見えてる場所だけ”》


「冷えませんか」

「暑いねん、痣見たら分かるでしょ」


「もう、直視出来ないんで」

「じゃあ鈴藤になるわ」


 温泉に潜り鈴藤へ。

 濁り湯便利。


《“あぁ、凄い、御伽噺みたいですね”》

「“昨日聞いたやつかな、王子になった王女”」


《それです!私の名前、そのお話しからだそうなんです》

「イレアナさんね、シオンでハナコです」


《はい、お伺いしております》

「ガブちゃんは?」


《下で他の天使付きとお話し中で、居ない方が良いと言われてしまって》

「成程、それでお散歩に」


《改めてお礼をと思ったのですが、お邪魔しました、ご入浴中とは》

「別に気にしないでどうぞ、何のお構いも出来ませんが」

《私の相手をお願いします、どうして天使は犯罪を犯さないと離れられないのですか?》


「セレーナさんや」

《私で良ければお答えさせて頂きます》


 犯罪にすらならない小さな罪で離れては、天使付きが居なくなってしまう。

 まして原罪と言う概念が有るので、人間の法律を明確に侵さない限りは離れる事が出来ない。

 だからこそ、どんなに天使が人を諫めても、離れなければ良いと思い込んでしまったと。

 嫌々居るなどとは、精神衛生上思えないからだとも。


 そして偽者の侵した罪は奥さんを見殺しにした、保護責任者遺棄致死罪。


 天使はその罪を報告すら出来ぬまま、重い罪と共に即座に天界へと帰るしか無かった。

 普通なら天使が離れたショックで暴走も止まる筈が、加速しただけ、教会の庇護無しでも揺らがない地盤を手に入れていた偽者は気にも止めなかったと、本人が言っているらしい。


「それは聞いたのね」

《同じ天使付きとして、コレは例外無く知るべき事ですから》


「小さい子も居るのでは」

《今はもう居りません、私も昨年付いたばかりですし》


「どんな感じ?」

《感覚や感情、記憶や知識を共有させて頂けて、あ、全部じゃ無いですよ。天使様が教えても良いと思った事だけですから》


「便利」

《そうでも無いんですよ、自分で調べろって事が多くて。自分の学業もだし》


「頑張れ、ワシは余り学校行かなかった事を後悔しとりますから」

《今からでも通われては?》


「だるい」

《ですよね、早く大人になりたい》


「責任が出るから、ゆっくりをオススメします」

《はい》


 それからもセレーナが色々と質問し、イリアナが答えると言う形式がとられた。


 非常に初歩的な恋愛話、接待なのか興味が有っての事なのか不明。


「セレーナは、興味が有るのかね」

《お父さんは、ズメウは特に直情型で本能的なので、こう言った話が新鮮なんです》

《詳しくお伺いしても?》


《どの種族もですが、近親者を匂いで嗅ぎ分けるので。近親者で無ければ、もう、直ぐ手を出してしまう。ただ、それでも選ぶのは女ですが、現実的な条件で相手を決めますので。ロマンスと言うより、最早商談に近いです》

「素晴らしい」

《だからこそ、キラキラした関係に惹かれるのですね》


《実際に見えるので、はい》

《わぁ、ハナがお相手なのですね、コレは諦めるしか無さそう》

「諦めたらそこで試合終了ですぞ、少しは頑張れ」


《見込みが無さ過ぎですね、他の方の方が時間効率的には正しいかと思います》

《ですよねぇ》

「セレーナも現実主義者か、親の反面教師?」


《自分がもし人間なら、と考えました。人の寿命、脆さ等から考えて、そうすべきかと》

《そうですよね、いつ死ぬか分からないんですし》

「それはそう思うが、だからって焦るのは良く無いからね?」


《《はい》》


「終わったそうですが」

「“終わったみたいよ”」

《“そうでしたか、有難う御座いました、失礼致します”》




 井縫さんが送り届けると、直ぐに戻って来た。

 何が不満ぞ。


「何が不満ぞワンコ」

「言語、年下、幼さ。それと」


「と」

「先程の言っていた環境に、不用心に花子で居た事です」


「知らんかったし、生殖機能が無いからか竜は見向きもせんかったぞ」

《それはもう身内だから、あの3匹にとってお姉ちゃんも私も身内。なので生殖本能から外れただけ、ただもう城から出たら面倒にはなります、身内の香りを纏った新しい遺伝子の持ち主だから》

「戻らないで頂きたいんですが、ルーマニアには」


《それは大丈夫、私が成人するまで。16年後まで入らないと約束したので》

「寂しくなるのでは」


《学びが多く、それどころでは無いのと、キラキラは何物にも代えがたい》

「キラキラ強いな」


《だからこそ仲良くして欲しいのを我慢するのが辛い》

「君と仲良くするキラキラではイカンのか」


《天才ですね》

「でしょう」


《ふ、上手くいかんもんじゃなワンコや》

「君らは何処まで関知してんの」

『まぁ、お主に漏れて問題無い程度、じゃの』


「なら助言の1つもしてやれば」

『それをすれば道が変わる可能性も有るじゃろ』


「そこをさぁ、次のが心配なんだが。どうにか出来ない?宣託の巫女とかさぁ」

『向こうの宣託の巫女とは、どう関わっておったんじゃ?』


「直接は何も」

『そうじゃったか、やはり、直接介入する事で歪みが生じる可能性が有るんじゃろな』

《だが今、宣託の巫女の立場を作っても再び人間の権力主義が頭を擡げるじゃろうし。まぁ、いきなり全てを整えたからと言って、上手く機能するとは限らんよ》


「でもなぁ、他に何が出来る?」

『魔力の回復じゃろうな』

《そうじゃぞ、これスクナ彦や、苦いのばかりは可哀想じゃろうに》

『ふふ、もう苦く無いよ、ね?』


「おう、猫舌なの」


 苦いのも苦いので、たまに口にすると食欲増進にはなるから良いんだが。

 にしても冷えが止まらない、風邪みたい。

 アレ、感染症かコレ。


『ん?どうしたの?』

「コレ、風邪、感染症では」


『ううん、今回も低値障害。体が低値を学習して方向性を変えたみたい』

「便利」


『油断しないでよ、最悪は突然の欠神だって有るんだから』

「へい、養生します」


 腹を満たす事無く程々におつまみを食し、仙薬を飲む。


 外側が暖かいのに、常温のエリクサーでは体が直ぐに冷えてしまう。

 便利だとは思ったが、少し不便も有る。


「それで、名義の事なんですが」

「楠のやん、顔写真も、ヤバくないか」


「ですので、以降は警視庁、警察庁の出入りが不可能になりまして」

「は、まぁ、良いけど」


「住居も、以降は例のホテルへと」

「なんで」


「まだ居るからです、反対派が」

「もう自由に動けないのか」


「それは花子だけで。橘の場合は例のマンションに居住となりました」

「鈴藤は」


「観上さんの家です」


「あぁ、戻って来ちゃったから、説得しないとダメなのか」

《その事、成功してからでも良いのでは》


「それもそうよな、そも成功確定とも言えないんだし」

「なので、戻って来たら、お願いします」


「酷な伝達だな」

「いえ、俺が願い出ました。俺はアナタの付き添いなので」


「従者とでも言えば良いのに」

「なんか悔しいんで止めときます」


「素直で宜しい、寝る」


 体も何とか暖まったので、バスローブを羽織り、竜のお腹の上でお昼寝。

 暖かくてふにふに、呼吸する度に揺れ動くので良いゆりかご。






 起床、計測。

 中域。


 花子へ変身し計測、低値。

 鈴藤へ戻る。

 点滴もセットじゃ無いと明日に継続しそうだ。


「点滴しますか」

「おう」


「呼んで来ますよ」

「すまん」


 井縫さんが晶君を連れて来てくれた、休憩の合間に抜けてくれたらしい。

 これは本当にもう、申し訳無い。


『良かった、いや、今は良くない状態ですけど、安心しました』

「すまん」


 点滴を首元へ。

 コレが最後かも知れないのに、頭が回らん。

 冷えは鈴藤としての低値障害だったらしく、今は花子の影響なのか眩暈が凄い。


『無理しないで下さい、事情は伺っておりますから』

「ありがとう、結婚して」


『はい、良い人が見付かったら』

「見付けに行くんだよ」


『はい』

「そろそろ」

「ありがとう、ごめんね」


『いえ、ではまた』


 眩暈も収まり冷えが大分マシになったので、エリクサーをがぶ飲みし、ケバブを貪る。

 ほんのりと辛みの有るソースが食欲をそそる、美味い、肉一口でエリクサー1㍑はイケる。


 お肉を頬張る時だけ目を開け、エリクサーをがぶ飲み。


 もう、1周回って不健康よなコレ、うん、何て事を無許可でしてくれたんだ竜よ。

 せめて魔力を使うと言えよ。


《生殖行為をし、回復しないのですか》

「なんで」


《竜の知識として、夢見とはそういった行為で回復すると》

「それは夢魔な、ワシは違う、筈」

『ふふ、知識の整理がまだなんじゃな、面白い現象じゃ。ハナに夢魔の気は無い、しかも今は無理じゃろ』


「無理、吐いちゃう」

『じゃが、マーリンの加護なら』


「やめろ、もういらん」

『良い作用じゃと思うんじゃがなぁ』


「色んな意味で制御効かなそうだからマジでやめろ」

『余裕無いのぅ』


「花子だと低値障害が眩暈に変化した、話すか食うと気が紛れる」

《そもさん》


「せっぱ」

《ふふ、お主の知識の歪さが移ったのかも知れんな、その竜は、くふふ》

「良く知ってますね」


「お帰りワンコ、雑食系腐女子を舐めるなよ」

「だからって男になりますかね」


「そうじゃ無いが、有りだな」

「冗談ですよね」


「半分な、だって大変だろうよ、事前準備と事後処理が、良くなるのも解剖生理学的に時間が掛かるだろうし」

『そこはほれ、お主の力を使ってじゃな』


「不純過ぎないかそれ」

『加護有りなら仕方あるまい?』


「泣かれそう」

「従者に、ですか」


「おう、ミーシャにな。女の子だぞ、エルフでワシサイズで年上だ、可愛いぞ、綺麗な色なんだ」

「同性も居たんですね」


「居るわバカ、最初の看護師だって全部同性じゃ」

《それでも、戦闘には出るなと控えさせた記憶が有ります》


「だって、子宮下がって膣を切り取るなんて事になって欲しく無いし。ストレスで不妊とか、怪我で婚期が遅れるなんぞもっての他だ」

「それだと男性が多くなるのでは」


「仕方無いだろ、それで女性増やそうとしてドリームランドで失敗したんだし、もう、マジで相性が良く無い」

《アレは私も叫びます》


「それで土蜘蛛族の次代だ、それだって14才とかだぞ、射手もだ。クソ可愛いんだわぁ」

《召喚者同士は惹かれないって記憶が》


「脳筋は中つ国なのも有って無理だが、射手はどう見ても被る遺伝子無いもの、金髪よ?碧眼でもうね、お人形さん」

「面食い」

《ショナは違いますよ》


「そうそう、違う違う、でも観賞用。皆そう、眺める対象物」

「自信無さ過ぎですよ」


「うるさいヤリチン、引っこ抜くぞ」

「そうしますか、女なら俺は初物ですし」


「え、じゃあケツは」

「一通りは」


「でも加護が有るなら、少しは好きだったのね」

「加護を失わない為に必死で良い所を探しましたよ、まぁ、そんな事をしなくても加護は外れないって知った時は暴れましたが」


「懐ゆる過ぎでは」

「どちらかと言えば密教ですし」


「あぁ、なら擬似的に愛を知って、更生して欲しかっただけでは」

「そう気付いた時にはもう、また暴れました」


「どんまい」

「どうも」


「ワンコの女姿はなぁ、キツそう、ネコさん系なら良いのにな」

「遠縁では有りますから、可能性は有るかと」


「あら」

「無いですよ、誂われてばっかりで、一時はマジで嫌いでしたし」


「抑制がしっかり効いてるのね」

「お陰様で」


「でもな、人は躊躇う」

「人じゃ無い何かとする方が普通は躊躇うかと」


「そこはほら、1周して?みたいな?」

『タイミングがのぅ』


「ね」

『ワンコも邪魔して来そうじゃしぃ』

「そりゃしますよ」


「邪魔してどうする、神器無いだろう」

「予備は有ります」


「うわぁ、あっち行け、しっしっ」

「自尊心が低いと好意を寄せられたら逃げるそうですね」

《詳しく、お姉ちゃんの状況で逃げるのは当然では?》


「それは」

「ナイス、任せたセレーナ」


 それから更にエリクサーがぶ飲みを加速させる。

 もう作業。


 飲んでは眠り、起きてはトイレに行き飲み。




 少しやけくそになりながら飲んでいると、突如溢れた。

 セレーナの羽根で起こされた風で魔素は吹き飛んだが、少し影響が出てしまっている。


《キラキラ凄かった》

「自在に操れたら見せるのに、君には影響せんか」


《どうだろ、分からない》

「じゃあ大丈夫かも、普通はこうなる」

『良い匂いじゃし、キラキラして、しゅき』

「キラキラって、こう見えてるんですか」


《うん》

「ドリアードを一時排除、井縫さんも帰りなさい」

「そうしときます、じゃあまた」


「にしても何でだ、鈴藤のは神様には効かない筈なのに」

《ドリアードは、ココでは精霊と同等だから》

『そうだね、格が下がってるとかじゃ無いけど、ココのモノじゃ無いし』

《じゃの》

《精霊枠か、成程な》


「あぁ、またリスト更新しないと」


 誰にどんな効果が出るか、項目に精霊が追加された。


 計測、高値。

 次は花子に変身し、計測。


 高値。


《安定したお知らせ?》

「そう言う考えも有るか」

『だね、どうする?』


「セレーナ、行けるかね」

《うん》


「一応、確認を」

『行って来なさいな』


「月読さん、良いの?」


『大丈夫、好きにして良いのよ』

『気を付けてね、無理しないで欲しい』

《そうじゃよ、無事に帰らねばならんのじゃし》

『まだ約束も残っておるんじゃし』

《だからこそ、無理は禁物だ》


「あいよ、行ってきます」


 髪を黒に戻し準備を整え。

 セレーナの頭に乗り、先ずは南極の空へ急上昇。

 加護無しなら失神する勢い。




 先ずはお試し。

 だから無理は無し。


 なのだが、膜に届いてしまうとは。


《ふわふわ》

「もちもち、良いのかね、切って」


《試しに刃を入れてみては》

「少しだけね」


 先ずは一刺し。

 宇宙へ風なのか魔素なのか、何かを噴き出している。


 このままでは搾んじゃうのでは。

 人間の傷と同じく修復は可能、治して再考。


《もう帰りますか》

「いや、簡単過ぎるんで、何かの罠か間違いかと」


《治せるなら、試してみては》

「ですよねぇ、誰もコレの事は分からんのだろうし」


 竜の羽根をコンパスに、片翼に掴まりながら刃を入れる。

 取り敢えずはSの字。


 穴を抜け宇宙へ、次は北極へ。


 試しに投げて貰い加護から外れてみたが、息が出来ず失神しかけた。


 うん、宇宙までは想定してない魔道具だコレ。


《意識飛んでましたね》

「そうなのか、やべぇな」


 湾曲する地球を眺め、音速飛行。


 投げ出されたら死んじゃうと思うと普通に怖い、ついしがみ付いてしまう。


《怖いですか》

「おう」




 今度は頭上から手元に、ガッチリガード。

 景色も見えるし、コレは楽しい。


 あっという間に北極圏へ。


 地図上の北極点を目指し、到達。


 外側から穴を開けると、半分程刃を入れた所で勝手に割け始め。

 地球へと魔素を吸い込み始めた。


【無線から連絡有り】


「はい、はいはい」


【一言言ってからするもんじゃ無いか?】

「いや、お試しと思って」


【あぁ、でもな、まぁ良いか。後は呼び水なんだが】

「ほう」


【任せる、なんせ前例が無いんでな】

「あー、はい」


 魔素の循環する光景を想像したが、もう百鬼夜行しか思い付かない。


 セレーナの頭に乗り、エリクサーをがぶ飲みしながら魔剣を振り回す。


 コレか、魔素が溢れた時の、この感じか。

 楽しいな。


 切り伏せた魔獣達を網に入れ、黒いサンタ宜しく魔素を振り撒いて進む。


 海面スレスレを飛んでは、セレーナがパクパク食べていき。

 美味しく無さそうなのは上空に放り出され、ソラちゃんの刃物の餌食に。

 そして網に入り、霧散していく。


【最初からこうしとけば良かったのかもな】

「結果論なんよなぁ」


【それな】


 時計回りに海上を蛇行しながら地球を1周半。

 そろそろ、南極に着くが。


「どうなっとる」

【まだだな】


「マジか、トイレ行きたい」


 空間移動で自分だけ戻り、おトイレ。


 うん、スッキリ。

 そして再び南極に戻り、残りの処理。


 氷河の上に魔獣を置いては清浄魔法を掛ける、置いては魔法と繰り返し、昇華させて行く。


 魔素が空へと勢い良く立ち上る。


 白紫のオーロラ、そして暫くすると北極でもオーロラが観測されたらしい。


【成されたみたいだな、どうだ?】

「別に、まだ。ちょっとガッカリだな、もしかしたら成す事を間違えたのかも知れん」


【なら、何だと思う】

「何だろうね、分からん。どうしたら良いんだろ」


【誰か、何か、目覚めさせたら良いんじゃ無いか】

「ロウヒ、ロウヒに会いに行く」




 フィンランドの別荘へ行くと、渋爺が空を見ていた。

 オーロラ、ココでも見えて大丈夫だろうか。


『おう、観測所が大騒ぎだぞ。それと黒いサンタの行脚もな』

「好きにして良いって言われたから。ロウヒは何処?」


『そうだな、案内する』


 前の世界でもロウヒの家が有った島。

 その地下の永久凍土、氷漬けになっていた。


 美人、向こうのロウヒもこんな美人になるんだろうに、モテて大変だろうな。


「どうしたら良い、溶かす能力は無いよ」

『あの魔素を撒き散らすのを頼みたいんだが』


「良いけど、魔獣が来るかもよ」

『ソレは俺が外で何とかする、まぁ、モノは試しだ。頼む』


「おう」


 エリクサーをがぶ飲み。

 清浄魔法で使ったからか、溢れるまで少し時間が掛かったが魔素が溢れた。


 キラキラが氷に吸い込まれ、表面が溶け始める。


 焦れったい。

 魔石を握り、目一杯溢れさせる。


 ある程度吸い込まれると、ヒビが入りロウヒが氷の隙間から浮かんで来た。

 氷を回収しつつ、ソラちゃんに乾かして貰う。


 ロウヒに触れる。


 温かい、どんな原理よ。


 全身を診るも異常無し。

 魔力を少し注ぐと、呼吸が深く早くなった。


 体温が上がり、目を開けた。


《アナタは?》

「ハナコです、イルマリネンが待ってますよ」


 支えながら表に出ると、渋爺にしっかりと抱き付いた。

 セレーナはキラキラをキラキラしながら見ている、良い意味で良い性格だ。


 良いエンディングなのに、迎えが来る気配も無い。


 本当に、間違えたのかもかも知れん。


『バカめ、不安そうな顔をして。少し時間が掛かるだけかも知れんだけだろう。大丈夫、他の方法が必要なら、また一緒に探す』

「お迎えの気配が無い恐怖は久し振りだわ、慣れないもんだ。送りますぞお2方」


 別荘へ送り、浮島へと戻る。




 絶望から来る恐怖。

 間違えたんじゃ無いかと言う恐怖。


 そも帰れないんじゃ無いかと絶望する。

 その奥には、捨てられたんじゃ無いかと言う不安。


《お姉ちゃんを要らない世界なら、逆に安心じゃない?》

「天才か。そうか、それは確かに安心だわ」


《前の世界も、その前の世界も、お姉ちゃんが居なくても大丈夫だから、手放したなら》

「なら良いな、ワシの遺伝子型、廃棄命令しなきゃ良かったかな」


《ソレはどうだろ》

「ダメか、議論の的になるか」


「良かった、まだ居るんですね」

「良く無いわ、気配もクソも無いわ、泣きそうだわ」


「意外と、観上さんの事だけで済むかも知れませんよ」

「それ凄い腰抜けるよなぁ。ソレだけとか、覚悟すんのが難しいのに」


「アナタの元が男でもですか」

「どうだろうね、何もかも違う道だったかも知れんが。どうだろう、気軽に提供しちゃうかも知れん」


「生まれる性別間違えたのでは」

「だったらどうなってたろね」


「健康な男児」

「思い付きで行動して怪我してばかりで、結局は母親が過保護になって父親に疎まれて、兄姉に居ない人間扱いされて、外に、女の家に逃げ込む。適当に働いて適当に生きて、姪甥の面倒見て死ぬかな」


「俺の考えてた将来みたいな事を、ワザとですか」

「クソ野郎だな君は。分からんよ、健康な男児なんて真逆過ぎる」


「じゃあ、病弱な男児ならどうですか」

「さっきとそう変わらんけど、もっとちゃんと勉強してたんじゃない。結婚の逃げ道は女にしか無いって教育だったから、家は長男に継がせるとかで居場所は無いだろうし」


「家庭がクソですよね」

「持って生まれたモノも有るだろうけど、結局は環境によると思ってるが、どうなんですかね」


「大事だと思いますよ」

「でしょ、だから、せいちゃんをどう説得すべきか分からん。逃げ出したいわ」


「どうぞどうぞ、それで帰還が遅れても俺は嬉しいんで」

「発破は効かんよ、人の人生を左右するんだから」


「どっちの、ですか」

「どっちもよ、お子とせいちゃん、両方の人生を左右する」


「もう、気付いて貰えませんかね」

「なにに」


「観上さん、居ますよそこに」


「なん」

「前に言ったじゃ無いですか、ガラが悪いから寝タバコ止めろって」


「にしたって、フリーズしてるじゃんか」

「あぁ、驚かせようって連れて来たんで」


「なら何も」

「はい、話してません」


「分からない事だらけよな?せいちゃん」


『お子と、元の性別と、です』

「すまんね、最初に名乗った通り、桜木、花子です」


『お子とは』

「せいちゃんとワシの子、せいちゃんには女に成って貰って、妊娠して頂く。人工授精で」


『どこからが冗談なんですか?』

「全部、マジ」


『何故』

「ですよね」


『くすの、桜木さんの帰還の為ですか』

「何割かはそうなる可能性は有るが、ひいては君の為になる」


『どう』


『それは流石に私に説明させて頂戴』

『月読様』

「お願いします」


『冗談じゃ無いんですか?』


『本当、アナタには資料で見せたわね?各国に神々や人柱が眠っていると』

『はい、先程フィンランドのロウヒ大魔女が目覚めたと』


『この国も例外じゃ無いの、それがアナタ、観上清一なのよ』

『私は、死ぬんですか?』


『このまま男で居れば死と同義の事が待っているわ、それを避ける為にもと、ハナは動いてくれてたの。今回起きた大循環、それを起こす事で身柱としての役目を解除させようとしたのだけれど』

「遅かった、それは失敗したらしい、ごめん」


『遅かったと言うか、下準備ね。でもまだ道は1つ有るの、アナタが女になり子を宿せば、循環の運命から逃れられる可能性が有る』


『いつから知ってたんですか』

『直ぐに半分だけ教えたの、そしてもう半分は最近。アナタが身柱へ近付いた時にね』


『その、身柱が事実だとして、親は、他の人間は』

『本家数人、アナタの親は知らないわ。そして大國、井縫、猫山と神々だけ』


『身柱に、近付くとは』

『恋を知る事、子孫を残す事』


『それで、何でその、鈴藤さんのなんですか』

「条件が色々有って、それしか無いから、我慢して欲しい」


『我慢て、10月10日身に宿すんですよ』

「うん、生まれたのが嫌なら井縫さんに面倒を頼んで」

「喜んで引き受けますよ」


『そんな、それじゃあ私の代わりに子供に』

『そうじゃ無いの、少なくともその子供が身柱になる事は無いわ。身柱の期限は50年から100年、この地を安定させるの』

「だからそこは心配しなくて大丈夫、ただ文献も無い様な事だから成功するか分からないんだ、だから、他の方法を探したんだけど」


『ヨモツオオカミからの情報なの、コレ以上は無いと思うのだけれど』

『やっぱり死んだんですか?大丈夫なんですか?』

「大丈夫、死んで無い。演習の方が死ぬと思ったわ」


『それですよ、あの白髪の人は』

「ワシじゃ、凄い丈夫でね」


『また、どう無茶したんですか』

「ちょっとこう、貫通させて直に傷を閉じただけ」


『もう、凄い心配したんですよ、ニュースで見た時』

「凄い写真よな、流石に貰ったわ画像」


『科捜班はお通夜状態ですよ』

「すまんね」


『それで、どうして鈴藤さんじゃ無いとダメなんですか』

『じゃあ、誰なら良いのかしら』


『それは、まだ、誰とかは無いんですけど』

「俺ので良いならどうぞ、提供は済ませてますんで」


『それもちょっと』

『悩む時間は必要よね』

「更に他も模索するからゆっくり考えてよ、時間は有るし」


『でも、そしたら帰還が』

「焦らなくて大丈夫って言われてるから大丈夫、問題無し。大事な事だから、落ち着いて考えておくれ」

「送りますよ」


『あの、もう少し話させて貰っても』

『勿論よ、じゃあ、帰りましょ井縫』

「はい、失礼します」




「なんで居るって言わなかった」

『驚かせようって話が、こうとは思わなくて』


「紹介が遅れたが、竜のセレーナちゃんです」

《妹です、宜しくどうぞ》

『だから桜色なんですね』


《桜は何処に咲いているのですか》

「近くだとお堀?」

『そうですね、来年の春に咲くのが見れますよ』

《じゃの。つかドリアードが良い加減解除して欲しいと煩いんじゃが》


「あぁ、解除ね、はい」

『ふぅ、良い所を見逃した気がするんじゃが?』

《じゃの、良かったぞ、清一が目を白黒させてのぅ》

『知ってたんですね、私の役目』


《悪手だったかも知れんが、お主には出来るだけ長く生きていて欲しかったんじゃ。皆が同じ意見じゃよ》

『良くも悪くもハナに希望を持った、それぞれが希望を抱いて託したんじゃよ』

『だから、せいちゃんにも託して欲しいんだけど』

「急かすな、呑み込むので手一杯なんだから」


『ですね、まだ信じられません、自分がそんな人間だったなんて』

「分かるー、ワシも」


『茶化すなって怒ってすみませんでした、もう、茶化さないとやってられませんよね』

「でしょう」


『それでも、本当に元から』

「女、前の世界のフィンランドで魔道具ゲットした」


『よりによって、どうしてあんな事を』

「だって、演出の一環かと思ったし」


『え』

《なんも知らんぞハナは》

「流れに身を任せてみた」

『じゃの』


『もう少し、大事に出来ませんか?』

「良い方に転がったでしょうよ」


『そうですけど、政治に関わらないのでは』

「関わっては居らん、周りが勝手にしてるだけ」


『私の知る、女性像とズレが』

「白いワンピース着て、箸以外重たいモノを持たない系?」


『そこまでは言いませんけど。着飾るのも嫌がって、自分で何でもしちゃって、泣く事も無いですし』

《お父さんが泣かした》

「おう、泣かされた」


『拷問でもされたんですか?』

「まぁ、似た感じ」

《お父さんはもう死んだから大丈夫》


『それは、ご愁傷様です』

《お粗末様です》

「ちょっと語彙のチョイスミスだが、まぁ、間違っては無いかも知れない」


『こうやって飄々としてて、巫山戯てばかりで、下ネタも平気で言っちゃうし』

「召喚者だからね、普通に生きられないでしょう」


『そうかも知れないですけど』

「着飾るのが好きじゃ無いのも普通に居る、一匹狼も居る、下ネタ平気なのも居る。君の生きて来たテリトリーに居なかったか、居ても隠してるだけかもだし。普通に居るよ、その顔と歳でウブなのも現に居るワケだし」


『そうなんですかね?』

《じゃの、忍なんかも頑張って普通を装っとるんじゃぞ、本来は風呂も飯も面倒がる機械オタクじゃし》

『化粧が好きなのも居るし、しなくて済むならせん者も居る。ヒゲと一緒じゃな』


『あぁ、確かに』

「薄いよなぁ、ちゃんと成長期来たか?」


『鈴藤さんもじゃ無いですか』

「ホルモン薄男なんじゃろ」


『コレだけ言われても、実感が湧かないんですよね』

「生殖機能無いからじゃない、取っちゃったし」


『は』

「片方は医療機関に寄付した、万が一受精が上手く行かなかったら、そこから取り出せるかと」


『なら、もう片方は』

「取ったの見る?」


『そんな、取ったままなんですか?戻さないと帰還出来ないとかは』

「無いじゃろ、元から機能して無かったんだし」


『本当に大丈夫なんですか?』

「体は万全じゃよ、こっちの製造元にも確認したし」


『私の為にですか?』

「だけじゃ無いから大丈夫、そこは気にしないで」


『鈴藤さんか、井縫さんだけなんですね、候補』


「帰還したら受精して貰う手筈、男側が循環に呑み込まれるから」


『なら何で井縫さんが』

「ワシが手に入らんからヤケなのでは」


『え』

「ウブめ」


『えー』

「可愛いなぁ」


『それって、いつの事なんですか』

「知らん、ちゃんと言われたのは直近だ、断ったのにしつこいの、助けて」


『モテモテじゃ無いですか』

「ワシね、溢れるとフェロモン出ちゃうのよ、もしかしたら井縫さんはそれに中てられて勘違いしたかも知れんし、信仰心と憧れとがごっちゃになっただけかもだ。葵ちゃんも、似た匂いを感じ取って好意を抱いたのかも知れんし。それをモテモテとは思えんよ」


《少将の事はどう説明するんじゃ?それに中つ国の大使館員じゃろ》

『ソロモンも数に入れんとな、ロキも、アレでも真剣じゃし』

《あの侍医もだな》

「口を挟むのは余計な事ばかりだなおい」


『ロキとは』

「ホテルの支配人ぽい事をしてる、向こうの死の国と黄泉が繋がっちゃったからって、スサノオさんが許可したらしい」


『は。その、ちょっと知恵熱が出そうな』

「あ、気分転換にお風呂はどうかね、新しい綺麗なお湯よ」


『はぁ』

「まぁまぁ、念の為に吸い上げとこう」


 魔力をフラフラになるまで吸い上げ、お風呂へ強制連行。




 アイスで誤魔化し、ご機嫌を取る。


『考えたいのに、吸い上げ過ぎですよ』

「すまんね、加減を間違えた。でも長湯出来るから良いべ」


『なんか、私だけ入るのって』

「なんだ、鈴藤で一緒に入ってやろうか?」


『いや、それは。それより、引き戻される可能性は無いんですか?』

「その時は普通に戻って来るよ、こんなウブちゃんじゃ心配だし」


『それは申し訳無い気が』

「井縫さんが確実に呑み込まれるよりマシ」


『桜木さんは、呑み込まれる心配はして無いんですか?』

「無いな」


『もしかして、身柱になる条件て他にも有るんじゃ』


「恋をして愛を知る事」

『それで、生殖行為に繋がるんですね、なるほど』


「意外と受け入れるのね」

『眼鏡の事も有りますし、冗談を言う理由も無いでしょうから』


「でも、出産が待ってるのよ?」

『無痛分娩で良いですかね?』


「どうぞどうぞ、ワシでもそうする」

『本当に、女性だったんですね』


「おう、そしてお父さんになる」

『他に方法は』


「無い、ただこの話が終わったら他でも何か無いか聞くけど。鈴藤の何がイヤか」

『それこそ、友人と思ってた人間の子供を宿すんですよ?』


「後からでも恋人と思えば良かろう、何が不満かハッキリ言えし」

『そこをスッ飛ばして妊娠って事になるから躊躇うんですよ』


「まさに処女懐胎」

『もー』


「すまんな、顔面偏差値低くて。鈴藤に似るか君に似る事を願っとるよ」


『だから、そこじゃ無いんですってば』


「ならデートでもするか?」

『その場合、私の性別は女の状態であるべきなんでしょうか?』


「さぁ?好きな方で良いんじゃ無い?」

『待て待て、他の方法も有るじゃろう』

『同性って事ですか?』

《アホじゃあ、女装の事を言っとるぞコヤツ》


「ほう、オモロ」

『え、それはちょっと』

『ならどれが良いんじゃ』

《セレーナ、コレは良く無い大人じゃよ》

《いえ、面白いは正義です》


「ロキも大國さんも井縫さんも居るから、せいちゃんが無理して育て無くても良いんだよ。実の親じゃ無きゃ幸せになれないってのは幻想だし」

『そうかも知れませんけど、無責任過ぎでは?』


「ワシにそれ言う?」

『あ、すみません。でも、良いんですか?』


「何が?」


『私がもう片方の親で』


「せいちゃん可愛いからね、何も無いなら土下座してお願いするレベルよ」

《赤くなりおって、可愛いのぅ》

『はぁー、初いいのぅ』

《キラキラいっぱい》


「セレーナ、溢れてるのと違うよね」

《うん、大丈夫》

『もしかして、私が溢れるのも良く無いんですか?』


「恋愛感情と溢れるの組み合わせは良く無いみたい、吸い上げるのにココの神様は手を出せないんだ、だからワシ」

『眼鏡のせいで、桜木さんに、余計な負担を掛けたんですね、私も、神々も』


「なんでそうなる?」

『私が恋愛に興味を全く抱かなければ、この問題をスルーして他の事が、もっとスムーズに出来たんじゃ無いかって。ずっと、守っててくれたんですよね、きっと』


「あの襲われそうになったのは君は関係無い、何ならワシのせい」

《巫女もな》

『どうして巫女さんの話が?』


《ココはワシが言うぞ。真相は、ハナに横恋慕した巫女の仕業じゃ、清一を得る為に偽者と組んで毒を盛ってしもうた。それも失敗し、ハナに怨嗟が向かった》

「まぁ、無傷ですけどね。せいちゃんが恋愛感情を抱かなくても、周りがザワ付いたら一緒でしょ、だから」

『自刃までしおった、そして巫女に何度も刺され、切られた』


「嘘嘘、そこまで妊娠に仕向けなくても良いでしょうよ」

《本当じゃよ、清一や。全てを知って決めい》


「なんでそこまでする」

《お主なら知りたいと思わんか、お主なら、自分の親がどんな人間か知りたくなるじゃろう。それをもう片方の親が何も知らんでは、何かを察してしまうじゃろう》


「アホちゃんかも知れんやろ」

《そこに希望的観測を入れるか馬鹿者め》

『なんで私の知らない所で、私のせいで傷付いてるんですか』


「知らせないつもりだったから、強姦計画が有ったんですよって被害者に詳しく言うかね」

『それでも、私の』

《中つ国の事も有ってな、知らせるに時期を見とった。ハナが帰った後に知る事となれば、罪悪感で母体を壊すやも知れんじゃろ?》


「ちょっと、トイレ行くけど、もう余計な事を言うなよマジで」

《はよ行かんか》

『我慢は良く無いぞぃ』


「せいちゃん、耳塞いでて」

『あ、はい』




 はい、と返事したのに。


 トイレから帰ると色々と聞いてる様子、こんな場所で話すべきじゃ無かった。


「言うなと言ったが」

『余計な事じゃ無いわぃ』

《じゃよ、資料番号と暗証番号を言っただけじゃしぃ》

『はい、資料を後で見ますんで』


「場所を移動しよう」

《ならロキ神に会わせるが良かろう》

『じゃの、世話になるつもりなら、顔を見せてやると良い』


「アレは今はダメだ、洗脳されちゃうぞせいちゃん」

『でも、お世話に成る可能性も考慮したいですし』


「全部ロキの掌だったんだぞ」

『お世話に成らない方が良いですか?』


「今はダメ、洗脳されちゃう。ただでさえパンクしそうでしょ?お腹減らない?焼き鳥丼行こな?」

『そんなに言うなら』


《動くなら鈴藤か橘じゃぞい》

『橘ならベールをな』

「必然的に鈴藤じゃ無いの」

『ベールとは?』


「まだ知りたがる?」

『はい』


「分かった、着替える。タオルどうぞ」

『はい』


 鈴藤になり焼き鳥屋へ。

 終い際、お客さんも疎らなので丼は持ち帰り、一服したいので表で立呑。




「飲んで忘れてくれんかねぇ」

『無理ですね、衝撃的過ぎですし』


「ですよねぇ」

『もっと教えて下さい。確かに何も知らないのは良くないと思うので』


「そこは上手くやってよ、井縫さんとか他のが知ってるんだし。そこが上手くやってくれるってば」

『内面を知られるのが恥ずかしいんですか?』


「もう、この会話からして恥ずかしいわ、付き合いたての高校生みたいで。ほら、ウブめ」

『だって、どうしたら良いか他に分からなくて』


「可愛いなぁ」

『もー、やっぱり、余計に信じられませんよ』


「皆こんなもんよ、協調と調和を乱さない為に表立って口に出さないだけで。恋人同士を見てみなさいよ、可愛いだの好きだの言ってるべ」

『その、経験者的余裕がムカつくんですけど』


「ウブじゃ無いもーん」

『童貞で処女だって』


「付き合ったら直ぐヤるんか、直結か君は」

『うー』


「花子はそう見えんか」

『そう言う目で見た事が無いので。でも、モテ方を聞く限り、ウブでは無さそうですよね』


「前はもっとプニプニだったし、全くモテませんでしたが」

『プニプニでモテないって有るんですね』


「控え目に言ってプニプニ、深く突っ込むな」

『失礼しました、でも、健康的で良いと思うんですけどね』


「大丈夫だって分かったら、恋愛したら良いじゃない。子持ちだって良いでしょうよ、本能に引っ張られない恋愛、甘酸っぱい青春」

『出来るんですかね、こんな色々有って』


「大丈夫、さ、帰るべ」

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