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6月16日(火)

 ベスクちゃんの曾孫からスマホに連絡が来た。

 先日と同じ場所に、ベスクちゃんを迎えに行って欲しいと。


 まだ眠っている蘭ちゃんの横で布団を仕舞い、浮島へ行ってから空間を開いた。


《おはようございます》

「おはよう、そちらは、どうなりましたか」


《全く分かりません》

「は」


《今は拒否してはいない段階としか言えません。それと、もうアピールは必要無い、との伝言です》

「アピールって」


《良い意味で受け止めて頂く場合ですと、好きに待てと》

「悪い意味では」


《忙しいから待て》


「ほう、月読さんにご報告は」

《はい、お願います》


 ベスクちゃんが影に入ったのを見届け、警視庁の目の前の公園へ。


 そして月読さんの部屋へと向かった。


「おはようございます。待て、をされてるらしいです」

『おはよう。そう、じゃあ、せいちゃんとごはんにでも行ってらっしゃいな』


「ベスクちゃんから詳しく聞かなくても?」

『聞かされて無いのでしょう、ね?』

《はい》


『ほら。じゃ、今日から自由行動ね、待機は鈴藤で。ベスクちゃん、今日から特別室に梟なら入れる様にしたわよ』

「ういー」

《どうも》


 先ずは朝食を食べに、久しぶりにせいちゃんの家に向かう。


 特別室から玄関へ。


 女物の靴は無し。

 まだ少し早いので、大量に紅茶を淹れながら待つ。




『あ、おはようございます』

「おはよう、ごはん行こうや」


 少し前に、せいちゃんの携帯にホテルの場所だけ送られていたそう、場所は少し遠目。

 ちょっとドライブして食べに行く。


『あの子は、どうなりました?』

「弟の様で楽しいが、お兄ちゃん心配で過保護になりそうだわ」


『そんなに。中つ国関連の被害者の方とは聞いてますが、医師には診て貰ってるんですよね?』

「うん、定期的にネットで面談はするらしい。虐待っつーか、常識の無さが大きい。世間の普通が分からんのよ」


『普通、大多数って思うと、難しいですよね』

「綺麗事が含まれてたり、あくまでも理想の1つだったり、但し書きが有るのがな、面倒。親に成れる自信無いわ」


『しかも時間が掛かるでしょうし。帰還の事も、余計心配になりますよね』

「そこは大丈夫、焦らなくて良いって凄いお方に言って貰えたから」


『どの神様かお伺いしても?』

「無理かもー、残念だわー、あ、着いた?」


『ですね』


 駅と一体化したホテル。


 少し入口で迷ったが、物々しい廊下の先には種類豊富なビュッフェが鎮座していた。


 一口うな重、グラタンにタマゴサンド、シェフがグリルするシーフードにステーキ。

 江戸時代の雪消飯なる珍しい物に、定番の温泉卵まで、多分、ココには何でも有る。


「せいちゃん、ちょっと減らしとこうか」

『お願いします』


 窓際のテーブルで目を瞑って貰い、おでこに触れる。

 せいちゃんには悪いが一瞬でかなりの量を吸い上げたが、体調に変化は無いだろうか。


「眩暈とか大丈夫?」

『はい、特には何も』


 それからはもう遠慮なしに取っては食べ、取っては食べ。


 ちょっと自信は無かったのだが、何とか制覇は出来た。

 せいちゃん自身も大食いに慣れた様子で、残り3割が食べれなかった事を普通に悔しがっている。


「まだまだですな」

『仕事が有りますから、手加減しただけですし』


 イキリも上手になった。


 今日はこのまま出社らしい。




 警察庁まで付いて行き、特別室から蘭ちゃんの部屋へと戻る。


「おはよう、起きて」


『んー、おはようございます』


 朝ご飯の準備を手伝い、蘭ちゃんが朝食を食べている間に単身下階へ降りる。

 そうして河瀬の部屋へ。


「お引越しのご挨拶に参りましたー、上の階の者ですー」


【げっ】

「どうも、もうお分かりで?」


【まぁ、今開ける】


「どうも、お邪魔します」

「おう」


「君ね、げっ、って酷く無い?」

「すまん、顔を見たら言おうと思ってた事が吹き飛んだんだ」


「なに」


「いや、大変だったなと」

「別に。ご心配お掛けしました、実質無傷なので問題無し」


「いやでもお前、玉を」

「取ったが、毎日血液検査だけだし。で、何処のケーキ食いたいよ」


「いや、別にそう言うのは」

「蘭ちゃんの教育の為、改めて挨拶に来るから。手土産無しはアカンやろ」


「そこらのでも別に」

「は、は?」


「いや、じゃあ、ベリー系でお願いします」

「おう、待っとれよ。あ、用事有る?」


「いや、在宅だから問題無い」

「どうりで汚ねぇ」


「すまん、忙しくて」

「さよか、ほれ、先ずはタオルだけ入れたから洗濯しろ、柔軟剤入れ過ぎんな」


「助かる、すまんな」

「いえいえ、じゃあまた後で」


 上へと戻り、蘭ちゃんの後片付けを見守る。

 そして精神科医へ繋いだ所で、お菓子を買いにおフランスへ。


 面談の合間の30分間、フランボワーズやラズベリーのケーキを片っ端から買い漁り、部屋に戻り蘭ちゃんの精神科医と面談。


 蘭ちゃんにヘッドホンで音楽を流しつつ、背中合わせで話を聞く。


 若干だが分離不安の気配が有るが、正常な反応なので問題無しとの事、ただ、酷くなる様なら要相談。

 その話が終わると、今度は蘭ちゃんと一緒に話を聞く。


 カリキュラムとしては学業はネットで、字と算数中心。

 生活のルーティンを築ければ次のステップへ、との事。


 面談が終わったので、次は河瀬へご挨拶。




(リュウ) 静蘭(ジンラン)です』

「河瀬 美琴」

「あら可愛いお名前ですこと」


「別に好きで」

「で、どれが良い?」


「っアホみたいな量を」

「ワシも食べたいのじゃ、台所を片すぞい」


「あ、すまん」


「アノ子はどうしたよ」

「寮に行った、引き籠もってても勉強続けててさ、俺より頭良い。週末は帰って来るから、そこで一緒に過ごしてる」


「偉いじゃん」

「知ってるのに、まだ話を聞けて無い、すまん」


「話を聞くのだけが全てじゃ無いし、良いべさ」

「そうかな、楽しそうにはしてくれてるけど、不安だわ」


「よし、話を変えるぞ。全部ったって、ナニのどこまでよ」

「資料に有る限り、ただ被害者に会ったのは初めてだな」


『やはり僕は被害者なんでしょうか』

「いや、それは」

「難しいが、加害者か被害者で言ったら被害者なのでは?違う?」


「合ってるが」

『でも、加害者になる筈だったから』

「大体、皆そんなもんよ。でしょ?」


「あぁ、俺も、そう思う」

「汚部屋住人がすまし顔しやがって、次は冷蔵庫掃除だバカ者め」


「なんで今」

「じゃあいつやるんだよ」


「い、いま」


 そこまで汚れてはいないが、今ココで綺麗にすれば年末の大掃除が楽になると教えると、素直に掃除し始めた。

 蘭ちゃんは字の練習、最初は名前から。


「蘭ちゃん、寂しい時や悩んだ時は、乗り気で無くとも掃除や片付けをするとスッキリする場合も有るから試して。因みに自分は問題を先延ばしにする手段としか思っとらんけどな」

「時間薬か、アレの意味が未だに納得出来んよな」


「分かるー、納得が先よな、それからの時間薬。いきなり時間薬出されても苛つくわ」

「だよな、無理に時間を過ごさせられても困る。せめて意味の有る時間を過ごしたい」


「あ、コッチに無いぽい案が有るんだけど、次の人に取っておくか迷ってんだけど」

「あぁ、なら言ってくれればストックに上げとく。それが得意なのが来れば渡す」


「おぉ、じゃあそれで」


 口頭では蘭ちゃんに聞かれてしまうので、また背中合わせで紙に書きながら説明する。

 向こうに合った金平糖の味、宝石糖と呼ばれていたカラフルな琥珀糖、それに合わせて石鹸も。

 高くて買えなかったんよな。


「他にも、欲しいと思う物でも、何か有れば言ってくれ」

「コッチは貢物にと思ってて。じゃあ、個人的なのはねぇ」


 平たい胸族用の服。

 中つ国のお陰でモダンガール服が気になっている、と話しながらデッサンしていると月読さんから鏡でのご連絡。


【見せて】

「ほい」


【作りましょ、じゃ、待ってるわね】

「は」


「いつもこうか」

「まぁ」


「ご苦労様」




 蘭ちゃんを任せろとの事なので、河瀬に任せ特別室へ。

 目の前に月読さんが居て、ちょっとビビった。


「っくりした」

『待ちきれなくて、じゃ、行きましょう』


 そのまま連れ出され車で向かった先は、またしても都心の一等地。


 の、裏にある小さなショップ。


天之伊(あまのい)?」

『そうそう、お邪魔するわね』

「わ、あ、はい、どうしましたか」


『今日は案を持って来たの、はい、出して』


「粗末な、モノですが」

「モダンガール、モガですね。でも急にどうして?恵比寿様ですか?」


『個人的によ、その服の良いモデルが居るからね、お願い』

「まぁ、一段落したので良いですけど。何です?この、平たい胸族とは」

「そのモデルが無乳なので、と言うか女装にも良いかと」


「あぁ、まぁでしたら似合うでしょうけれど」

『出来たら夜の、際どいのが良いわね、と言うかギリギリ出ちゃう感じでも良いわね。性別不明な感じ』

「そのモデルさんの写真て」


『はい、コレ』

「アナタまで持って、そうか、ですよね」

「成程、大変スリムでらっしゃる、ですが骨格は女性かと」


『それとこの子と、この子のもお願い』

「もう着せ替え人形ですやん」

「このお2方は男性ですね」


『コッチの子は性転換予定なの、コッチはまだ』

「分かりました、何枚かラフを描きますね」


 プロらしく紙にササッと描き、そして水性ペンでざっくり塗り、あっという間に仕上げてしまった。


「流石プロ」

『んー、背中も胸も、もっとざっくりが良いのだけれど』

「下品になりますよ」


『プロでしょう、頑張って』


 そう言われ描きあげられたのは夜会服、黒のレースにビーズの刺繍。

 もう、マジざっくり


「お胸が見えてしまわれるが」

『良いじゃない、無いからって隠そうとしないんだし』

「大胆な発想の方でらっしゃる、一応追加パーツと普通のも描きますよ」


 試しに湯呑で紅茶を出し、買って来たケーキを出す。

 無言でモグモグ食べては何枚も描きあげていく、ノリは良い人らしい。


 5枚で1ケーキ消費、試しに2個目を差し出すと一口食べ、再び描き始めた。


『扱いが上手ね鈴藤』

「いや、頭使うと欲しくなるって聞いたんで」

「助かります」


 3つ目のケーキが終わった頃、15枚も仕上がった。

 そうして出来上がったラフを見ながら、月読さんとあーでもないこーでも無いと始まった。


 普段着用なら控え目に、出来たら上下分かれてる方が着回せるだの。

 重ね着用の下に着るのは地模様有りも欲しいだの、顔が隠せる帽子が欲しいだのと言いたい放題、それでも4つ目のケーキを食べながら嫌な顔1つせずに加筆修正してくれた。


 そうして出来上がったのは、黒くてシックなワンピース。

 ラウラ用みたい、つか確かにラウラでも良いかも。


 それから更に追加でラウラ用も何着か描いて頂き、フィニッシュ。


 お昼寝してから更に詰めるとの事で、店は臨時休業の看板が出た。


 お店を後にし警視庁へ。




「良いんですかね」

『流行れば経済を回す事になるんだから大丈夫よ。はぁ、楽しみ』


「流行ればねぇ」

『着て恵比寿に会って貰うから、ちゃんと綺麗にしないと。そうだ、4人で仲良く美容室なんて良いわね、猫山、予約』

「あいあーい」


 そうして明日、河瀬、葵ちゃん、蘭ちゃん、楠で行く事が決定された。

 つか4人纏めてって、既に予約してんじゃ無かろうか。


 だとすると、一体いつから。


「いつから」

『アナタのデッサンみた瞬間に。それと予約は財力、先行投資よ、じゃんじゃん増やすわよ』


「うい」


 もう先が見えてるなら着なくても良いのでは。


 ただ、そう逆らう事も出来ずに特別室へ、そして浮島で一服。


《いつもこうですか》

「わりかし」


《ご不満では》

「有ったとしても、ココ以上にお互いを利用し合える環境は無いと思うし。半分は息抜きに付き合ってる感もあるけど、そこも問題無い。それ含めての仕事だし」


《プライベートな時間が有って無い様なモノでは》

「しゃーない」


《普通は訴える案件ですよ、労働基準法は調べさせて頂きました》

「普通じゃ無いもの、1人2役はそゆ事になるんでしょうよ」


《過労で倒れられても困るのですが》

「大丈夫よ、寝られたら回復するから。じゃ、行くべかね」




 再び河瀬の部屋へ。

 玄関に出現してからドアをノックする。


 ビックリさせない様にしたつもりだが、ビビりには厳しいらしい。


「っう、心臓に悪い」

「じゃあ洗面所からにしとく?」


「もっと怖いから止めてくれ、今のままで良い、慣れる様にはする」

「すまんね、それで、どうよ」


「蘭ちゃんは、まぁ、こんな感じだ」

「果てしなく像形文字に戻っている平仮名、漢字は見慣れてるから大丈夫なのかね」

『多分、そうだと思う』


「お、丁寧語が抜けてる」

「対等ならな、慣れれば大丈夫らしい」

『うん、もっとがんば、る』


「あー、可愛いわぁ、どこぞのアホと違うわ、コレよコレ、弟感。居なかったけど」

「この程度で収まってくれたら良いんだがな、長く居ると可愛く思えん。特に年が近いとな」


「あぁ、良く聞くわそれ」

「姉の方が欲しかったわ、今居るけど」


「どうですかね、ご家庭の方は」

「明後日にその姉が来る。正直、片付けてくれて助かった」


「お礼は?」

「ありがとう」

『緊張感が有るのは、仲が悪い?』


「いや、前はビビりのクソガキだと思ってただけで、それは誤解だと分かった」

「いや、ビビりでクソだよ、さっきまでこの子がスパイなんじゃないかと疑ってた」


「お、なんで疑い晴れたの」

「前は識字障害だったから、そこは見分けが付く。コイツはマジで読めん、漢字は多少平気だが平仮名が全くダメだ。耳が良くても、ここまでだとスパイの役に立たんだろう」

『だから捨てられた?』


「すまん、そんなつもりは無かったんだけど」

「確信に迫るねぇ。捨てられてはいないと思うが、迎えに来ない理由は知ってる?」

『捕まったからだって、でも、何でも出来るって豪語してた人だから、自分にだけ迎えが来ないのかも』


「魂抜けてたから、もう無理かと」

「素直に供述してるとは報告を受けてるぞ、一応、君らの心配はしていた」


「ほう、どんな風に」

「聞かせる事になるが」


「書類」

「紙媒体は無い、君らが居ると読めないシステムになってる」


「じゃあ、さらっと書いて」


 実験体としての心配をしているらしいが、コレを心配と言うべきか。

 そして他にどう言い換えれば良いのか。


 親としての自覚は一切無いらしく、ペット、実験体。

 一応それなりの情も有り、出来る限りの苦痛は取り除かれていたらしいが、そも実験の内容がエグ過ぎて何とも言えないと。


「はぁ、しんど」

「ご苦労様です。明日、リフレッシュ休暇が有りますよ」


「不穏な気配は気のせいか」

「いや、その勘は当たってる。美容室に連行される、4人で」


「は」

「はい」


「はいじゃないが」

「だって、もう予約取れてるんだもの、しかも予約は財力でゴリ押したみたいな事を言ってたし」


「4人って、内訳は」

「楠、蘭ちゃん、お前、葵ちゃん。葵ちゃんと面識は?」


「無い無い、挨拶が来たのと書類上で名前を知ってるだけだし」

「あー、そっちまでそんな内容が」


「すまんな、安全の為に身元確認とかで調べさせて貰っただけだ、データは保存されて無いから安心してくれ」

「高貴な身分の方は大体こんな感じなんかな」


「まぁな、それより昼はどうする。俺はまだケーキのお陰で減りそうも無いが」

「あー、蘭ちゃんお腹はどんな感じ?」

『食べられますが、減ってはいないです』


「ならまだ良いか、健康には6時間位開けた方が良いみたいだし」

「決まった時間に食うべきでは」


「出来たらね、出来る時だけ。あ、オヤツは比較的決まってるから良いべさ」

「貴様の腹には猫耳の白い人形が詰まってるんだろうな」


「あぁ、そうかも、カステラ食いたいな、あ」

「次は何だ」


「誘致は?このカステラ、フワフワなんよ」

「コレもか」


「そう、かき氷も、時差は有るけど流入はしてた」

「ほう、少し相談してみるか」


「じゃあ、外に出た方が良いかな?」

「おう、結果は後で伝える」


「待て待て、洗濯第2弾だバカ者」


 今は曇りだが午後から晴れとの事なので、乾燥で回していたタオルを確認、乾いていたので籠へ。

 そうして次は服や下着、ざっと詰めてザザッと回す。


 手洗い品は上でやる事に。


「すまん、ありがとう」

「おう、じゃ、また後で」




 上に戻り蘭ちゃんにお洒落着洗いの講習。

 と言っても先ずは動画を探す所から。


 一緒に動画を見て、良さそうなモノで予習。

 そして実際にやってみる、計量は読み聞かせて自分でやらせる。

 押し洗いも。


 加減を伝える事の難しさよ、どうしても実技の見本を見せる事になる。


 何とか濯ぎを終え、洗濯機で脱水。

 そうして今度は干す。


 念の為に干す動画も見させてから。


 うん、干せた。


『ありがとうございました』

「いえいえ、じゃあ次は、試しに何を調べたい」


『楠、意味と成り立ちを』

「そうか、なら葵ちゃんと河瀬のも送ろうか」


『ありがとうございます』


 自分に備わっている万能翻訳機能をチートだと思っていたが、字もセットじゃ無いと効果半減よな。

 漢文分からんから教えられんし、契約書とかもうね、どうなる事か。


 最初も海外じゃ無くて助かった。


 でも、識字障害はどうなるんだろうか。

 治してくれるんかな。


「お、絵を描くのか、成程」

『一緒に描くと覚え易いって、河瀬さんが教えてくれた』


「はー、丁寧語が外れるだけでキュンキュンする、可愛いなぁ」

『可愛いは可哀想から来たと教えられたんですが』


「それは東京弁か関西弁だからでは、青森は、めんこい。愛でるが語源らしいって覚えたんだが…ちょっと調べてみるべ」


 サラッと調べるつもりが、結構な文量が表示された。

 古語のアクセントやイントネーションは無視して頂いて、可愛いには複数の成り立ちや意味が有ると伝える事は出来た。


『複雑』

「似たのが有るから、まだこの程度の表現で理解してくれて助かるけど、欧米に無いのがね。未熟好きに捉えられるのは解せんわ」


『解せんとは』

「理解はするが納得がいかない、感嘆詞?なんだろ、後で河瀬に聞こう」


『はい』


 それから暫くは蘭ちゃんの書き取り、お絵描きを眺めていると河瀬から連絡が来た。


 1人で上に来てくれと。


「合言葉は、風って言ったら谷って言うわ」

『はい』




 上に行くと、画面にはお佐予ちゃんが映っていた。


「お元気そうで」

【そうなのよ、安心したらすっかり元気になったわ】

「申し訳ない、今後とも精進させて頂きます」


【是非、そうして頂戴ね。それで、案を聞かせて貰ったわ、素晴らしい案を有り難う】

「いえいえ、所詮はパクリですから」


【それでも、アナタがそれだけ知見を広げていてくれたからだわ。ウチのは役に立つ事に直結する事ばかりで、何か楽しい事は無いかと思ってたの。是非、アナタの名で事業を起こさせて頂戴】

「それは、匿名ではダメでしょうか」


【ダメよ、絵本と同じ。道標になって欲しいの】

「じゃあ、向こうでは顔半分隠して、芸名で出店してる者も居るんですが、そんな感じのは」

「あぁ、それで調べれば君の名が出る事にするが、信用が大事だから。本当に良いのか?」


「構わんよ、楠の顔が嫌なだけ。でも、似た人間に悪用されてもなぁ、名前使われるってのは良く有るし」

「顔写真にイメージ図と表記すれば良いんじゃ無いか、ただ、本人では無いとは言って無い。と」


「あぁ、オモロ」

「そうするか、ならホクロの追加修正も使えるだろうし」


「成程ね」

【仲良くしてくれて、本当にありがとう】


「いえいえ、実は画面外でつねり合ってますよ」

「嘘ですからご心配しないで下さい、仲良くして頂いております」


「あ、洗濯終わった、次借りて良いか」

「あぁ、どうぞ」


「あ、お話しどうぞ」

【ふふふ、試食はアナタ達にお願いしても良いかしら。出店についてはコチラで請け負うから】

「俺もですか、食べた事無いですよ?」


【だからよ、ココの人間に受けるかはアナタ次第。それに、他のお友達に手伝って頂いても良いのだし】

「あぁ、頑張れ河瀬、嫌なら今のウチだぞ」

「別に、大丈夫ですが」


【仕事の事は大丈夫、年相応の事をしなさいな。月読様からも休暇をと進言して頂いたのですから、存分に楽しみなさい】

「でも俺、元は男だし」

「なんだ、その体、嫌か」


「嫌と言うか、この心でこの体だろ。対象も女性だし、でも周りは女として扱う。何か、騙してるみたいでイヤなんだが、でもだからって改造したい気も無いし」

「ほう、向こうと違うな」


「居たのか」

「おう、泣いて嫌がってたわ、特に女の子の日に怯えて」


「あぁ、俺もだった。でも姉が居たから助かった、軽くて済んだしな」

「健康体め、クソが、うらやま」


「それで、その子はどうしたんだ?」

「神様に会わせた、んで説教喰らってお預け、まだ10才にも成って無いからな」


「じゃあ」

「あぁ、お前より巻数は読んでる」


「ぐっ」

「それで、痛みを感じるチャンスだし、家族にしっかり話してからって事になった。まぁ、知ってれば妊婦を労わる心は間違いなく身に付くだろうしな」


「それなんだよな、それは流石に怖い」

「女だって怖いさ、麻酔無しでちょん切られるとか聞いた時は無理だろうって思ったもの。しかも顔の毛細血管切れた顔で言われてさ、マジヤバいっしょ」


「あぁ、聞きたく無かった」

【それでも、面倒を見ているウチにまた欲しくなってしまうモノなのよ、ふふふ】


「可愛いのは認める、3才までは可愛いってクソ親父も言ってたし」

「ココ基準でも凄い暴言だぞそれ」

【それを過ぎても可愛いのだけれど、幼い方だったのね、残念だわ】


「悪く言って貰う度に溜飲が下がる、有り難い」

「捻くれて捩切れそうだなおい」


「捩切れ無くてワシ偉い」

【そうね、良い子よ2人共】

「ありがとうございます」


「じゃあ、話戻しましょか、写真撮るならちゃんとしないとな」

【ただアナタの事だから最速を想定して、早目にした方が良いわよね】

「でも大手は予約が」


「ホストとかの写真館で良いんじゃん?」

「は、ホスト」


「ほら、こういうの」

【あら、綺麗なお嬢さん達ね】

「あー、ちょっと羨ましい」


「だろ」

「探しとく。後は、宝石糖の事なんだが、コレは最年少の名前で出させる事になった」


「まだ0才児では」

「一応親御さん名義だ。資金はある程度は有るべきだからな、財団管理になる」


「あぁ」

「それと金平糖は今からだ、台湾スイーツ含め君はアドバイザーになる」


「副業規定に」

「スサ隊は別だ」

【民間の団体、有志の自警団に近いから定額の最低賃金、且つ歩合制で審査も厳しい。代わりに副業は職務に触れてしまいそうな事以外は大丈夫、動物のお医者さんも加盟して居るわ】


「あぁ、でもアドバイザーって、クソ胡散臭いんだが」

「だからだろ、スサ隊の良い宣伝にもなるしな」


「どこまで月読さんの掌なんだろか」

「俺はもう考える事をやめた」


「宇宙で漂っちゃうか」

「それなんだが、単身で宇宙に行くのは控えて欲しい。ルーマニアからの要請だ」


「なんぜ」

「お前、弾道ミサイルの自覚無いのか、あ、すまん」


「もう良いよ、お前でも。そうか、ワシ弾道ミサイルか、そうか」

「あぁ、自由落下で落ちられでもしたら小国は吹き飛ぶ、お前が無事でも地球がヤバい」


「あー、そんな事しないって言っても証明が出来ないとな」

「それに、大気圏外でまかり間違って意識を失っても、地面が吹き飛ぶ可能性も。意図しなくともヒューマンエラーは起きるからな、ましてだ」


「な、出来そうな人間はワシ1人だし、ソラちゃんが守るって言っても例外も有ると、そう危惧されてるか」

「その精霊の悪口を言う気は無いんだが、異世界の転移が防げていないだろ、そも転移をその精霊が引き起こしていると思われても、それの反証は難しいだろう」


「なー、魔法で縛られてるワケでも無いし、縛って欲しくも無いが」

《私は構いませんが》

「はっ、事前に、一言言ってくれ」


「すまん。ワシが望んでないからダメ、君は自由で無くては気がすまん」

《帰投の為、アナタの為の私ですが》


「でもダメ、手垢が付く事は許さん」

「手垢って、まぁ、そう考えるか」


「つか自分だけのモノで居て欲しいの、自分の一部だし、高潔なの()()()

「はぁ、お前は、そうか、そうだよな」

【ふふ、私も、良く分かるわ。大事な物は誰にも見せたく無い、そんな時も有るのよね】


「それでもだ、精霊の意を汲ん」

「ダメ、許さん」

《分かりました、以後その方針で》


「頼むよ、ワシが死にそうな時以外は、方針変更不可」

《了解》

「もっと、こう、縛りやルールが有るのかと思っていたが」


「思いも寄らない発想が出るかも知れんし、そも誓約をワシが忘れたら意味無いし。脳のキャパ低いんでね、てへ」

【ふふ、素直で良い子、頭も悪く無いから大丈夫、私は信じてるわ】


「期待を裏切らない様に努力はします」

【ええ、ではまたね】


「はい」

「では、失礼します……はぁ、厄介なのか簡単なのか。観察の感想の酷さが今、分かったぞ」


「井縫さん?」

「あぁ、すまん。俺らが提出させてる」


「まぁ、ワシに興味湧くなんて普通は無いだろうし」

「そこは何とも言えんが、短文で簡潔過ぎと何度も言ったんだがな、そうなる理由が分かった」


「あはー」

「怒らないんだな、そんな事もしてたのかと」


「魔王候補ぞ、そんなんで怒ってたら何回滅亡してると」

「すまん。にしても見えんよな、その能天気な笑い方とアホ回答。俺も結構な固定観念の持ち主だが、相当だな、認定した奴も」


「プライドと愛国心と恥でしょう、なんせ大罪を排出したんだし」

「どう排出したんだ」


「さぁ」


【主、回答しても】


「洗濯終わったな、手伝うが」

「いや、ソラちゃんが解説してくれるが、どうする」


「そうか、頼む」


 ソラちゃん曰く。

 と言ってもタブレットデータからの情報なのだが、「大罪」と名指しにより力を与えたのが某国。

 名を与えればより強力になるとの恐れから各国は情報を封鎖していたが、某国は打倒大罪と宣伝し、広めてしまった。

 その認知度は一気に跳ね上がり、大罪として不死までも与えてしまった。

 だが同時にその国に縛り付ける事にも成功した、良くも悪くも、自国で責任を取った形になったと。


「実に皮肉ですなぁ」

「な、しかも今回の魔王認定もなんだろう、学習しないのかね。ラベリングしたら固着し兼ねないと」


「言ったもん勝ち感が有るとか?責任逃れの為に」

「あぁ、馬鹿だ」


「な。所で、貴様、百合る気か、中身女の俺みたいなのはどうするんだ」

「皮の問題だ、中身なんか、イヤ、お前は違うけど」


「で、どうなの」

「百合好きか」


「なんでもイケる」

「それお前、どっちの。つか便利だなおい、その魔法、乾燥か、何で俺のにしてくれ無い」


「いや、なんか影響したら不味いかと。で、どうなん」

「何でお前に言うかよ」


「お友達じゃないのぅ、いけずやわぁ」

「それはお佐予さんが勝手に」


「良いじゃんか、貴重な話し相手じゃね?お互いに」

「そうだが、引かれても困る」


「貴様なんぞ乳臭い貧乳は無理だから大丈夫」

「お前なぁ」


「ワシはメンクイ、おっぱい大きい方が良い」


「その、お前みたいなのは良いが。男らしいのとか、雄々しいのはイヤだ、なんか、怖いんだよ」


「玉が無いから?」

「ひゅんてするからやめろ、無いのに感覚は思い出せるんだから……虐めだ、同性からの」


「あぁ、楠で今度から会おうか?」

「いや、もうお前は慣れた、が、どうにも、特に顔の良いのがダメなんだ」


「井縫さんも、最近のせいちゃんもか」

「蓬さんとかの女顔はギリ、大國さんとか多分、マジ無理。緊張する、昔よりマシになったが。ココでも、パニック発作で倒れた、だから、通学免除されてる」


「でも無理すんなよ、別に楠でも構わんのだし」

「お前は違うだろ、それに、本当にかなり慣れたし。多分、多少は慣れるべきなんだと思う」


「倒れる前に言ってくれよ、変身にも準備が要るから」

「おう、助かる、ありがとう」


「いえいえ」


 自分も雄々しいの苦手だし、男男しいのも好きじゃ無いから分かるが。

 でも少しは克服しようとするのが偉い、少しは見習うか。




 今度は2人で上に行き、勉強のお時間へ。


『風』

「谷」

「それ映画のか」


「おう。ただいま、お、進んでるね」

『うん』

「楠か、上手いな。だが」


『向こうには見せませんし、詳しくも言いません』

「すまん、コレは疑いからの事じゃ無いんだ、ヒューマンエラーの問題。情報は思わぬ所から漏れて広がる」

「ならコッチの精神科医にも見せては?」


「それは向こうに情報共有して貰っている、面談の録画データの共有」

「あぁ、だから余計にシビアなのね」


「貧すれば鈍する、普通は法律も契約も破らない。だが問題は、問題が起きた場合だ、医師が人質なんか取られてみろ、バラすだろう」

「でしょうね」

『外でもですよね』


「そこはあだ名で回避しようや」


「お前は、チャラ男だったな」

「そうそう、白子、ウブちゃん、ワンコ、デカメン」


「良いなぁ、俺も早く行きたい」

「行けば良いじゃん、蘭ちゃんもアルコール無しで行ったんだし」


「好きになっちゃったらどうしてくれる」

「付き合えば良いじゃない」


「男が好きなら無理だろ、それで既に失恋してんだコッチは」


「それは、テクで落とせ」

『お教えしましょうか?』

「色んな意味で重いパンチが」


『あ、すみません、お礼にと思って』

「大丈夫じゃよ。コレは君が若いから少しダメージを負っただけだよ、耳年増の処女には刺激が強かったんだ」

「それと、君の年で教えられる程の技量と知識は、分不相応と言うか、なんと言うか」


「だな、世間の理想を含んだ一般常識、処女信仰は衛生観念も含んでるから仕方無いっちゃ仕方無い。ただ、数百年前なら有りだろうよ」

「遊郭限定でな」

『遊郭は風俗で宜しいですか?』


「それは知ってるのね」

「ムラが凄い」


「あ、葵ちゃんはどうよ」

「は、また急に」


「良いじゃん、蘭ちゃんは?」

「蘭ちゃんは無理だ、俺の保護下に有るから無理」


「ほう、その言い方は」

「いや、まぁ、まだ何も知らんけど、まぁ、可愛いとは思うけど」

『美琴さんは優しくて、親切です』


「つかお前が勧めるなよ、葵ちゃんとかお前目当てなんだし」

「ワシより君の方が幸せに出来るでしょう、居なくなるのよりは」

『何処かに行っちゃうんですか』


「そのウチね、遠い所に行くんだわ」

「だからって勧めるかよ、あんな可愛い子」


「それこそ、自分には分不相応でござる」

「拙者、ちょっと無理、友人のはちょっと」


「でも迫られたら」


「中身が、合えば」

「あぁ、永遠に処女なのか、良いのか悪いのか。真の巫女さんやな」


「あぁ」

「ごめんて、マジで忘れてたわ、なんだろ、マジごめん」


「何も無しに思い出す方が特例なんだろうし、少し弊害も有るんだろ」

「そうなんかな、危ないな、気を付けないと」


「にしても良く出来たな、知ってたんだろう、どうなるか」

「おう。あ、蘭ちゃん次は自分の蘭ね、いっぱい有るよ、ほれ、ヘッドホンも」

『はい』




「ソラちゃん、リリーちゃんの開示はして無いんだよね」

《はい、申し訳ございませんでした》


「良いんだよ、ありがとう。開示、はい」


「すまん、俺の方こそ何か、気を使うべきだった」

「いや、月読さんには内緒な、引き籠られたら困る」


「でも、ならなんで」


「自分も似た現象を喰らうべきとは思ってた、人格まで変えたっぽいから。だから似たのを、体験すべきだって、何処かで思ってたのかも、無意識怖いな」

「大事な事を、誰にでも出来るのか」


「多分、最初は夢遊病的にした事だから、今も出来るかは不明。ただ、ワシが気に入らない場所が有る人間だけっぽい、他のは向こうで1回見ただけで、後は見もして無い」


「それ、俺にすべきだったんじゃ無いのか」

「人格変えるっぽいって言ったでしょ、極悪人でも無い限りしたくないわ、んな事」


「それなら、巫女さん救済出来ないか?」

「まだダメか」


「自傷行為を周りが止めては戻って、また思い出してはの繰り返しになってる」

「はー、すまんな、俺のせいで」


「いや、俺もアレを読んだが、報告書も読んでる、お前は悪く無いだろう。こう接してたってお前が何かしたとも思えんし、それこそ踏み留まる機会は沢山有って、あの子が選んだんだ、地獄の道を」


「最終手段なら良いぞ」

「良いのか、ルーマニアが遠のくかも知れないぞ」


「巫女さんの責任は取る、関わった責任。あ、ベスクちゃんにも開示を」

《少し、失礼しますね》

「うっ、もう、命がいくつ有っても足りない」


「すまん、事前に言いなさいよ」

「いや、居るのは知ってたが、こう出るか。せめて梟で居て欲しいんだが」

《では、ココではそうしておきましょう。それで、その記憶に関する事ですが、情報開示は待った方が宜しいかと》


「だが断る」

「ポーズ完璧か」


《確実に、遠のきますよ》

「焦らなくても大丈夫と言われたし、それを信じる、それに大事な情報を後出しにする方が遺恨が残るかもだし、現にもう、問題も起きたし」


《言わないでいるつもりだったのでは?》

「言わないつもりは無かった、何ならスクナさんとか想定してたんじゃなかろうか。ただ言うタイミングが無かっただけ、下手に言って不安を煽るのも望んで無いし、ホイホイと使う気も無かったし」


《それ、誓えますか?他の事もそうですが、魔法を使っても言えますか?》

「おう、ワシは良い、ソラちゃんがダメなだけ」

《主》


「何でもはせんよ、信頼を得られる為なら一時的な拘束も尋問も魔法も受ける、ただ苦痛は断る」

「はぁ、あの光景は俺はもう見たく無いからな、あんな大量な血」


《自傷行為ですか?》

「そうなるのか、お前、ドMか」

「アレは違うだろ、当て付け半分、キレ半分だし」


「普通にキレてくれよ」

「地球の半分吹き飛んじゃうかもよ」


「はぁ」

《兎に角、血を流すのがお好きな様で》

「らしい、多血症かしらね」


「そんな結果は無いんだがな」

「お腹減って無い?飲む?」

《検査をお先にしては》


「だな、出来るなら向こうでして欲しいんだが」

《では、行きましょう》


「来れないでしょう」

《いいえ、私も取りましたので》

「なんで皆そんなにホイホイ取りますかね、おぞけが」


「見せてやろうか」

「本当にやめて、ごめんなさいするからマジ無理」


「良い弱みゲットだわ、じゃ、行ってくるかな。ランちゃん、里帰りするけどどうする?」

『良いんでしょうか』

「おう、そこは制限して無い。さっきの事を気を付けてくれたら問題無い、それと、女媧神に見せる分にも問題は無い」


『じゃあ、少し』

「おっし、ちょっと行ってくるわ」

「おう、じゃ、また。お邪魔しました」




 今度はベスクちゃんと蘭ちゃんの3人で脇道から門へ、そうして守衛さんに追加の者が居るが、どうすべきか伝える。

 またしても時代錯誤、インカムで連絡の後に女媧さんが迎えに来た。


《まぁまぁ、お取りになるなんて素敵なお心掛けね。モノはどうしてらっしゃるのかしら?》

《コチラに》

「あら、まだ繋げられそう」


《そうね、アナタが預かって》

「え、良いの?悪用しちゃうかも」

《子供が増える場合は一言言って頂ければ》


「えー、いや、そんな事はしないと思うけど、良いの?大事な大事なモノだろうに」

《どうぞ、つまらないモノ質ですが、納めて頂ければと思います》

『これだけ人種が集まって居るのに、共通言語が日本語なのが不思議です』

《そうね、ふふふ。じゃあ時間も限られてる事だし、静蘭(ジンラン)は私と。2人は医官へ見せに行って頂戴な》


「うい」

《承知しました》


 生憎とベスクちゃんはココの言葉がダメらしいく、守衛の案内で歩く道すがら、ソラちゃんから翻訳するとの申し出が。

 ワイヤレスヘッドホンを乗っ取ったらしくそれを活用するんだと、マジ便利、お願いした。


 そしてコチラの血液検査と同時並行で、ベスクちゃんが後方でお股を開く。

 仕事とは言え少し可哀想、終わったら繋げてあげたいな。


「はい、傷口軽く消毒して、ガーゼも変えますね」

「あら、治そうか?」

《お願いします》


 痛覚は普通に有るらしく、痛みが見えた。

 どんだけ耐えてたのよ、薬、効かないんかな。


 痛覚を遮断し、処理は自分と同じに、そうして傷口を閉じた。


「ほい」

「早いねぇ、ちょっと洗浄するから冷たいよ」

《はい》


「うん、腫れも赤味もなし、いいね、お疲れ様」

「お疲れ様でした」

《はい、ありがとうございました》


 それから女媧さんの元へ、守衛に案内されて向かう。


「お仕事と言えど大変ですな、お疲れ様です」

《そちらも、同じ事をしてらっしゃいますが》


「ワシは良いの、ある意味個人的な事も含んでの事だから」

《そうなると、私も同じ様な事ですからご心配無く》




《お帰り》

『やっぱり、痛いですか?』

《いえ、そんなには》

「いやいや、滅茶苦茶痛かったでしょうよ、薬効かないの?」


《バレますか。薬が効き難い体質なんです》

《あらあら、それで無理を?》


《いえ、この体になれば、痛覚も鈍るので》

「あんな反応してたのに」


《受容体の問題だそうです》

「へー」

《まぁでも、何も無いに越した事は無いわ、さ、お茶をどうぞ》

『美味しいですよ、カフェイン無しの紅茶です』


「じゃあ、ケーキを出しましょうか」

《あぁん、愛してる》


 ちょっと百合車を思い出す反応、繋がり有るのはマジらしい。


「それで、成果は報告出来た?」

『お花、好きかも知れません。生殖器なのに綺麗で、良い匂いがするから』

《人間も相性が良いと良い匂いに感じるのよ、ね?》

《あ、はい、そうらしいとの研究結果は出ていますね》


「それ大事なのよ、ソース、情報元の信頼度大事」

『紫苑は良い匂いに感じた事は有りますか』


「それなぁ、ほぼ無臭なイメージだったけど、この前初めて感じたかも知れん、甘いお菓子の匂いだった」

《ふふ、それは少し違う物かも知れないわ、でも、アナタならお菓子の匂いに感じるかも知れないわね、ふふふ》

《フェロモンと魔素の混じったモノには、感じたいと思う匂いに感じられるそうですね》


「そう、とは、事例は?」

《言えません》

《あらあら、じゃあ話を変えましょうかね。何のお花が好きかしら?》

『大きいのは余り』


《なら、桜なんてどうかしら、ほら、雪みたいでしょう?》

『これは好きかも』


「女媧さん、タブレット渡して無いですよね、良いんですか」

《要らないわ。アナタ個人には興味が有っても、アナタの持つ情報はアナタから聞きたいの。それに、周りが充分教えてくれるし。1番はね、人間が要らぬ野心を抱くだろうから、無い方が良いの》


「そうでしたか、なら対価は」

《それはコッチのセリフよ、対価を払うべきはコチラ。だから国も黙って見てるだけ、我儘も言わないで我慢してくれてるわ》


「じゃあ、渡さない方向で」

《ええ、そうして頂戴。あら、上手ね、そうだ、こんなのも有るのよ。花文字って言うの》


「お、綺麗、文字と絵の融合」

『難しそう』

《大丈夫よ、後はセンスだけよ》


「ワシ、単色系が良いな」

《そうね、リンドウも紫苑も紫だからピッタリよ、地は、黒が良いかしら、ほら》


「あー、良い、こう覚えられたら良かったのにな、絶対に勉強楽しいもの」

《あら、なら向こうの塾を紹介するわね、それと道具屋も》


「やった、後で行こうね。そうだ、河瀬にも上げよう」

『はい』

《うん、行ってらっしゃいな》

《お邪魔しました》


「お邪魔しました」

『お邪魔しました、ありがとうございました』


 3人で城を後にし脇道へ行こうとすると、ちっさい爺さんが手招きしている。

 2人に聞いても見えては居らず、近寄ると逃げて一定の距離を保とうとする。


 遠見や眼鏡で見ても黒さは無し、そして離れると少し困った顔をして、追い掛けて来る。


 ベスクちゃんを影にしまっても、蘭ちゃんを部屋に送り帰しても消える事は無いが、守衛にも誰にも見えない。


 取り敢えず帰ろうとすると困った顔をされるので、着いて行く事に。


【お知り合いで?】


 いや、ただ恵比寿さんには似てるから、その系譜かも知れんが。


【福の神とご縁が有るとは聞いてはいましたが】


 それがコレかは分からんよ、化かされるだけかも知れんし、何か有ったら頼むよ。


【はい】




 案内されたのは外宮の小さなお社。


 そのお社の裏に行ったかと思うと、大きな木箱が現れた。

 屈んで見ると、3人に増え、長い頭と腕を使って運んで来てくれた。

 重そうなので受け取ると、またお社の裏に引っ込んだまま帰って来ない。


 どうしましょうか。


【恵比寿神ではと仰っていましたが】


 分からん、ちょっと聞いてから帰るか。


 木箱を持ったまま再び守衛さんに伝言、直ぐに女媧さんが走って来た。


 お転婆。


《外宮の?3人出て来たのね?》

「よろよろして重そうだから持って、それからうんともすんとも言わないでそれっきりでして」


《福禄寿だと思うのだけれど、もう、私が対価を返すって言ったにの、ゴメンさないね、受け取って》

「いや、先ず中身が不明でして」


《あら、何かしら》

「あら、可愛いらしい」


《そうね!気に入ってたものね、今度送らせるから、じゃあねー》


 有無を言わさずダッシュされた。


 貰っても困る、着る場所が無いのに。

 もしかして蘭ちゃんにかしら。


 取り敢えずは持ったまま脇道へ、そして蘭ちゃんのお部屋へ。




 タブレットで食い入る様に花文字を見てる、可愛いなおい。


「ただいま」

『お帰りなさい、それは?』


「さっき言った老人さん、福禄寿さんらしいんだが、君にかも」

『僕ですか?』


「開けてみて」


『何も無いですが』


「いや、さっきは入ってたのよ。ちょっと聞いてくるわ、あ、お昼どうしようか」

『お任せします』


「米か麺かパンか、その他か言いなさい」

『じゃあ、麺で』


「なら上で相談してきて、3人で行こ」

『はい』


 忙しい。




 先ずは月読さんへご報告。


「なんか、貰いました。女媧さん曰く福禄寿さんらしいと」

『んー、気配は恵比寿なのよねぇ』


「ワシも最初はそうかと思ったんですが、お社から3人で現れたので」

『それは福禄寿だわ』


「だけど縁が有るのは」

『恵比寿なのよねぇ』


「どうしましょ、蘭ちゃんのかと思って開けさせたら中身が消えてるし」

『それだと福禄寿っぽいのよねぇ、封録だし』


「まさか両方?」

『有り得るわね、恵比寿は日本古来のモノとされてるから、後で改めて社の由来を聞いておくわ。もし恵比寿なら、直近で行くから待っててくれたら良かったのに』


「あ、女媧さんも似た事を、何か送るとか不穏な事を。着る場所無いのに」

『あら、場所が有ればいいのね。じゃあ、用意しましょうね。それと巫女の事、お願いしたいのだけれど』


「畳み掛ける様に言って、前項は復唱致しかねます、後者は、ご両親は納得されてますか」

『ええ、弟さんもね』


「あぁ、小さきものを出しますか」

『年はそう変わらないけれど、可愛がっていたそうよ』


「縁を繋ぎ直しては」

『神無月まで無理なのよ、それに、それは根本を解決するモノでは無いわ』


「判断をミスりましたか」

『いいえ、それはあの子の判断。アナタは最善を尽くそうと彼女の為にしてくれたわ、もう、あの子はダメなのよ、信仰も大きく揺らぎ清らかさも失っていた、そうして神の加護を失ったままで、それが余計に立ち直れなくさせているの』


「清らかじゃ無いとダメなんですか」

『乙女を喪失した事が問題じゃ無いの、問題は失い方、それに伴う願い。そして主に彼女の信仰の揺らぎが原因なの、そしてその神の求める条件からも外れてしまった。ずっと有った加護を失って初めて、大きな損失だと分かったのよ』


「ワシがお願いしても」

『アナタとは相性が悪いし無理ね。もう身内で無いとは言え、何もかも見放してはね』


「他に方法は」

『薬物療法だけれど、数年単位、下手をすればもっと』


「どうすれば良かったんでしょうか」

『アナタが躊躇い無しに人格を弄れば、医療費は抑えられたかも知れないけれど。それが彼女の為になるかは別でしょう、あの子が踏み留まるだけで良かったのよ』


「酷ですが、せいちゃんとの縁を切っては」

『眠らせた巫女さんの前に連れて行くの?きっと知りたがるわよ、どうしてかって。そしてまたいつか思い出し、探ってショックを受ける』


「手酷く受けますか」

『でしょうね、そしてアナタへの罪悪感が芽生える』


「じゃあワシにとっての善人の幸福を取ります、後者は承ります」

『良いじゃないの、気晴らしの場所が有ったって』


「キャバクラで遊びます」


『鈴藤と葵ちゃんって相性悪いのよねぇ、1人だとあまり良い事は起きないわよ』

「クッソ」


『ふふ、それに楠で行くにしてももう面倒でしょうから、ね?アナタの安全の為でも有るの、それと、せいちゃんも』


「せいちゃんの練習に?」

『そう、あのお店でも良いのだけれど、より向上して欲しいでしょう?』


「まぁ、良き進化をする分には」

『だからよ、それに猫山も少しは遊びたいでしょう?』

「お酒大好きですよぅ。旦那唯一の欠点は下戸な事ですから」


「この前酔い潰れてたのは」

「あんなんじゃ潰れませんよ、笊と言えば猫山、猫山と言えば笊ですから」

『そゆ事、新人の訓練にも使うから、ね?お願い』


「いやぁ、コレはちょっと考えたい、なんなら河瀬と相談したい」

『向こうはきっと乗るわ、だって飢えた乙女だもの』


「ぐっ」

「出た、ぐうの音」

『ま、時間は有るんでしょう、ゆっくり考えるだけ考えると良いわ、おほほほほほほ』


「たんま、コレのお礼は」

『着てあげなさいな、それとお酒ね』


「じゃあ、後で。でもまださっきの話は飲んだワケじゃ無いですよ、保留ですからね」

『はいはいもうお昼よ、食べに行ってらっしゃいな』

「そうですよぅ、行ってらっしゃいまし」


「行ってきますぅ」


 特別室から浮島へ、そして一服。




 もうイヤ。


《着飾るのはお好きでは無さそうですね》

「着飾ってる人を見るのは好き、それこそ巫女さんが着飾ったって可愛いって今なら言えるわ」


《許せますか》

「許すとかの問題とは少し違う様な、実質無傷だし。理由が有ったとは言え、男とばかりつるんでビッチムーブかましたのはコッチだし、悪人に踊らされたとは言え一応被害者だし。加害者だけど、もう罰は受けるの確定だし。お、店決まったか、蕎麦か、良いね」


 半分程で、火を消し部屋へ。

 今度は2人で花文字見てる、気が合うらしい。


『あ、おかえりなさい』

「おう、蕎麦だ、大盛りのな」

「レッツチャレンジよ」


 少し歩いてお蕎麦屋さんへ、良くある屋号の地元のお店と言った感じだが。


 雑誌に載ってても可笑しくない大盛り、分厚いヒレカツのカツ丼、天ぷら盛り合わせは何人前だコレ、完全にしくじった。


「どうだ、舐めてたろ」

「舐めてました」


「大丈夫、天ぷらは余れば持ち帰れる」

「神か」


 掛け蕎麦とカツ丼は制覇、蘭ちゃんと河瀬が辛そうな分と、天ぷらは海老天は1本で止めといた。


 甘いのも食べたいし。


『ご馳走様でした』

「はい、ご馳走様でした。支払いは河瀬さんかな」

「ジャンケンだろ、勝った方な」


 勝った、お支払いさせて頂く事に。


 それからそのまま花文字の塾へ、電車に乗り都心へ出る。




 お道具屋は塾の下。

 ネットでの講習もしてるそうで、通わない人は何割かお安くなるそう、ネットが苦手だったりお散歩を兼ねての方は、通いなんだとか。


 お道具セット3つ、講習すら受けられるか分からないので教材も購入、2人は道具だけ、仲良くネットで講習を受けるらしい。


 つか河瀬、そんなのに興味あるとは。


「意外、そこまで興味無さそうなのに」

「絵が苦手でもイケるっつんだし、良い趣味になりそうだろ、親も女らしい趣味で安心するだろうしな」

『女らしいですかね?』


「すこしね、だけど性別は関係無さそう」

「だな、先生も男だし。ただ俺らの偏見的意見だ、可愛い綺麗は女、カッコイイは男」


「別にどっちで何したって良いのにな」

「な、誰かに実害及ぼす悪い事してんじゃあるまいに、らしさらしさ煩いんだよ」


「正式な場でちゃんとすれば良いべなぁ?」

「な、それだってさ、男がスカート履いて騒がれる時代は終わってんのにさ」

『騒がれる時代が有るんですか?』


「どうなのよ」

「ココはもう自由だ、他国の方が遅れてる。歴史的に見たって、衆道も普通に有ったしな」


「やっぱ大奥のせいかね」

「あれな、アイツがちゃんと世継ぎ作れば良かったんだ、あそこからだろう後世の首締めたのは。重罪犯だわ」


「あー、私見?」

「まぁな、現に阻止されたコッチは大らかだし、戦争に負けなかったのもソコだと思ってる」


「マジか、論争が起きそうな私見だ」

「思考位、勝手にさせろっての」


「なー」

「な、マジで」

『本当に仲が悪かったんでしょうか、もしかして僕、騙されてませんか?』


「いや、マジだった、コイツが全部悪い」

「さーせんでしたー」


『ふふ、悪いって思ってない顔』

「なー、謝罪が足りんわ、甘いの足りんわ」

「まだ食うの!?マジで、凄いわ」


 次は近くの喫茶店へ。

 可愛らしいお店、もうブリブリよ。


「コレは、作為的だよな?」

「勿論、お前が恥ずかしがると思ってな。蘭ちゃんはイヤか?」

『いえ、特には』


「こときんに引っ掛からんか」

「きんせんな」

『前のお店の方が落ち着きます』


「あぁ、潤子さんのお店な、でもケーキ上手そうやぞ」

「1口くれ、1口」


 折角の女子ズがケーキ食わんで、メンズのワシが食うって、まぁ、良いか。


 ラズベリーとショコラ、レモンチーズケーキにナポレオンパイ。

 コッチでもナポレオンパイなのね。


「はいあーん」

『あー』

「俺は良い、自分で食う」


「なんだ、トラウマクソ野郎か」

「違う、恥ずかしいだけだし」

『恥ずかしい事でしたか』


「俺はな。主に恋人同士か親子、友人同士だって同性が殆どだろうよ」

「俺の性別を越えていけ」


「嫌だ、お前、ゲームもするのか」

「あ、続編出てさ、そっちはそんなだったわ」


「あー、良いなぁ、良いなぁ、でもやっぱ2はダメか」

「ワシも忙しかったから、私見な、誤解せんでよ」


「あーあ、もう作って貰おうかな、モンスターのとか」

「は、無いの、馬鹿じゃん」


「お前、プレッシャー凄いんだからな、周りからの。代表はあんなんだから良いけど、それで周りが余計にさ、もう、焦って追い詰められてさ」

「ご愁傷様でおま、君も1歩間違えたら加害者だったもんな」


「いいや、アレはもう加害者だと思ってる。冷静に考えたら他の選択肢が取れたんだし、俺は加害者だ、あの子もな」

「そんな大人、修正してやる」


「やるのか」

「おう、大事なものを守る為なら、僕は悪にでもなります」


「あぁ、懐かしいなぁ」

「ちょっとモノマネ練習するよね」


「いや、キーが」

「今ならイケるやろ」


「曲が無いと恥ずかしいわ」

「あ、この人知ってる?」


「あぁ、調べたけど俺らと違うんだよ、多次元者って呼んでるが、彼位しか確認出来て無いんだよな」

「はー、サイン欲しす、何とかしてくれ、謝罪はそれでチャラ」


「好きか、アングロビッチ」

「おう、童貞糞野郎」


『ニコニコして悪口は、仲が良いで、良いんでしょうか?』

「コレはだな」

「男のじゃれ合いの摸倣、な、美琴ちゃん」


「お、おう」

「マジか、無かったのか」


「有ったには有ったが。言っただろ、虐められてたって」

「なん、切っ掛けは有るの?」


「思い当たるのは有る、女みたいな趣味と、リーダー格と好きな子が被った」

「うわぁ、くだらねぇ、あ、河瀬の事じゃ無いよ、相手がね」


「な、今ならそう思えるが、マジで地獄だった」

「ワシ無いし、ご愁傷様でしたとしか言えん」


「お前が気付かなかっただけでは?」

「あーん、否定でけへん」

『その喋りは、訛り、方言ですか?』


「関西弁やでぇ」

「似非関西弁だ」

『東京は東京弁で、関東弁とは言わないんですね』


「田舎では言うかも?」

「まぁ、関東も場所で訛りが有るからな」


「茨城」

「その読みは正しいなおい」


「さ、コレは何と読むでしょうか」

「川内、せんだい、な」


「ほー、コレ」

「遙堪、ようかん、関西舐めんな」


「貴様」

「おう、岡山だけどな」


「きびだんご」

「桃、マスカット、果物王国だぞこの野郎」


「なら余計に大変だったろうに、同情するわ」

「おう、しろ、金もくれ」


 ケーキと紅茶で腹がパンパンになり、再び電車へ。




 そうしてお家の周りをお散歩、パン屋、気になる。


 固そうなナイスバゲット、篭に入って立ってらっしゃる。

 購入。


「夜はパン」

「もうか、凄いなマジで」


「いや、パンパン。朝は米で昼が麺なら、夜はパンかと」

「まぁ、消化早い気がするしな、良いんじゃ無いか」


「蘭ちゃんは、パオが良いかね」

「手作り肉まんか、冷凍か」


「冷凍、だと」

「コンビニの冷凍系見て無いのか」


「無い」

「はっ、折角の努力を」


「お、マジか」

「おう、親のだ。ただ父親は良い奴なんだが、母親と揉めた」


「おー、逆か、逆なら良かったのにな」

「どうなんだろうな、ウチのクズはマジでダメだから、アレは死んでも治らん」


「あー、ウチのも、そうだったのかも」


『親がクズは、常識?』

「ちゃうよ、それは違うぞマジで、な、河瀬さんや」

「そうだぞ、ココは偶々外れの塊なだけだ」


「もう玉無いけどな」

「マジでやめろ、ひゅんきたわ」

『ひゅん?』


「ジェットコースター、乗った事無いか」

『はい』

「俺は無理、高く無くても無理」


「じゃあ、今度出掛けるか、葵ちゃんも入れて」

「だな。で、どうする、ウチで預かるが」

『1人でも大丈夫ですよ』


「まぁまぁ、こう言う時は甘えるのが1番よ、じゃ、任せるかね。お邪魔しまう」

「おう、どうぞ」


 そうして河瀬の部屋から浮島へ。


 一服し、覚悟を決めて月読さんにご連絡。


 井縫さんが連れてくとの事なので、警察庁の特別室へ。

 そこから駐車場へ。


「宜しくどうぞ」

「はい」


 運転は井縫さん、向かう先は例の病院。


 同じ所に居たのか。




 看護師が、鍵を開けて行く。


 他害に自害、コントロールを失った患者の居る場所。

 コレを治したらダメなんか、つか、治した事は無いし、無理なんだろうか。


 巫女さんは井縫さんの顔を見ても反応し、鈴藤でも記憶を更に蘇らせてしまった。


 ただ、今回は鎮静剤は無い、反応を過剰に抑える可能性が有るからとの事。


「全部知ってるんですか」

「全部って、なにを」


「分かるんですよ!分かるんですってば!皆!全部知ってるって!」

「で、だからなんで騒ぐの」


「馬鹿にしに来たんですよね!」

「それはマジで違う」


「じゃあ、じゃあ、なんなんですか?ヤリに来たんですか?」

「いや、そんなに困っても無い」


「じゃあなんなのよ!」

「穏やかになって貰おうかと、ただ、人格が変わる可能性が有る」


「それなら、私、戻れますか?」

「それは知らん」


「嘘、無理なんですね、知ってるんです、加護から外れたって、だって、分かるんですもん!」

「人格変えたら加護が戻るかまでは知らん、ただ、落ち着ける状態になって欲しいだけ」


「どうして、あの子を、虐めたのに」

「ザックザクにな、凄い出血だったもんな、あの場所」


「恨んでる」

「いや」


「じゃあ、なんで」

「だから、穏やかに罪を償って欲しい、せいちゃんの為にも」


「為に、なるんですか、私が罪を償って」

「万が一知ったら悲しむ、楠への罪悪感で傾く、それはイヤでしょう」


「イヤ、もう、誰のモノにもなって欲しく無い」

「せいちゃんに幸せになって欲しく無いの?」


「なって欲しいに決まってるでしょ!ずっと、ずっと一緒だったんだから!」


「一緒なだけでしょう、何をした?何を話した?」

「無い!関係無いでしょ!」


「じゃあ関係無いとするけど、せいちゃんが全部知ったら、どう思うと思うの」


「守ろうとしてくれて有り難うって」

「それは君が逆の立場な場合でしょう、本当のせいちゃんならどう思うか」


「それは、それは、それは」

「ちゃんと考えられる様になりたいでしょう」


「考えられてる!私は!ちゃんと考えてる!」

「鈴藤さん、もう止めて貰って良いですか」

「おう、すまんな、ワシも素人だし、ごめんな」


「何よ!何なのよ!何で、何で同情して、何で」


 手を合わせ、目を閉じて巫女さんの中を覗く。




 今回は花の毒々しいイメージ、キノコの胞子の様に香りが黄色く放出している。


 茎に生える棘は花も葉も貫き、赤黒い液体を垂らす。

 時折轟く雷鳴と稲光に花が萎れては、白い霧が全体を包み、また元気に棘が貫く。


 赤い薔薇、黒い薔薇、紫の薔薇、牡丹に芍薬、本来は綺麗な筈なのに、毒々しさが恐怖心を煽る。


 コレは、自分から見た彼女の世界なのか、本当に彼女の世界なのか。


 蝶を1匹、彼女の中で発生させる。

 青い蝶、迷う事無く奥へと進み、青緑色の湖へ飛び込み、深く深く潜る。


 見えたのは大きな庭、どの木も巨大で森の様。


 泣きながら彷徨う彼女に、学生服のせいちゃんが声を掛けた。

 近くの花を手折り、彼女に渡して手を引いた。


 画面は一気に明るくなり、世界がキラキラして見える。

 こう見えてたら、こうなるのか。


 ただ、蝶が止まった影を見ると、それが蔦となり茎となり、表層で棘を生やしていた。


 ココを守るだけの棘なら分かるが、花も葉もはダメだろう。

 ただ、茎を切るのもなんだし、手入れするか。


 棘付きの茎を引っ張る、もう花も葉も傷付いて向こうは血の池地獄。

 でもココは無傷。


 なのでズルズルと蔦を引っ張っては、庭を囲む様に巻き、また引っ張ってきては巻き付ける。

 茎を引っ張っては巻き、引っ張っては巻き付ける。


 そうすると毒々しい花は枯れ始め、薄いピンク色の花が咲き始めた。


 それにつられ、黄色、白、濃いピンクに竜胆も。


 毒々しい花と真っ赤な液体を養分とし、可憐で可愛い花が一面に咲いた。


 後ろを振り返り庭を確認すると、すっかり棘は落ち、蔓が庭を飾る様に囲んでいる。


 多分、コレで少しはマシになるかも。




「鈴藤さん、鈴藤さん、鈴藤さん」

「はいはい」


「手、血」


「あら、握り過ぎたかも」


「あの、ごめんなさい、私、酷い事を言ったから」

「嘘嘘、鼻血かも」


「前も、誰か、そうやって、言ってくれたのに」

「大丈夫大丈夫ごめんな、お見舞いに来たのに嫌なの見せちゃって、すまんね、手当してくるわ」

「案内します」


 今までがお酒に酔ってた状態ならば、今の巫女さんは完全に素面の態度。


 前もこんなだったか、そうか。

 こんな虚しかったっけか。


 手を洗う合間に傷口が治っていく、意識もして無いのに。


 めっちゃ生きたがって、丈夫になってるな自分。


「すまんね、前は倒れただけなんだけどな」

「倒れ方次第で頭も」


「な、すまんね。痛くは無いのよ、マジで」

「泣くとかしたらどうですか」


「なんかな、泣くのも違うんよな」

「どうすれば良いですか」


「紫苑は思い草で自家発電ですかな」


 病院の駐車場から浮島へ。


 どうもこう、フワッとしてしまうのは自己防衛本能だろうか。


 なんも考えられん。


 足りないのか?

 計測。


 中域。


「どんな感じですか」

「フワッとしとる、前とそう変わらんと思う」


「何か、代償を支払っては」

「無い無い、身を削る程の思い入れは無いもの」


「観上さんですか」

「そうね、あの子よりは重要だから。でも、勝手に取捨選択なんて烏滸がましいよなぁ、知って嫌にならんかな、あの子」


「じゃあ、記憶は」

「いずれ戻るんでないの、精神の耐久値で変わるんだろうし。多分、今回はその耐久値を無理に上げたのかも、悪い意味で鈍感にさせてんのよ、確信は無いけどね」


「罪悪感は」

「今は無いが、凄い揺り返しが来ると思う。じゃないとね、多分、処置出来んよ、あんな繊細な場所。凄いよ、スクナさんは」


『褒めてくれる?』

「おうおう、凄いよ、女媧さんの遺伝子見たけどヤバいよな、なんだアレ」


『アレキサンドライト』

「あぁ、偏光石つのか、凄いよな、酔って目が開けられなかったもの」


『試しちゃったんだ』

「ちょっとな、治す間も無かった。自分の目が恨めしいよ」


『それ以上見えたら、黄泉の国が透けて見えちゃうよ』

「それは困る、虫はやっぱり苦手だもの」

《そうか、じゃあ私も無理だな》


「咲ちゃんは今は蝶じゃん、綺麗だよ」

《ありがとう、あの子は天の系譜の子なんだ》


「おー、なんだろな、風?雨かね」

《ミズハノヒメ、選ばれなかった片方だ》


「そんな系譜が有るのね」






《鈴藤、紫苑》

「おう、すまんな咲ちゃん、今回は何処よココ」


《眩しい?》

「だな、なんも見えんわ」


《浮島の温泉だよ》

「マジか、真っ白だわ。ソラちゃん、計測して」


《中域を維持しています》

「じゃあなんだ、この眩しいのは」

《目も耳もやられてるから》


「なんぜ」

《循環に巻き込まれた、コレは救済措置》


「あぁ、まだドリームランドなんだ、ウムル」

《うん》


「うんじゃない、戻る」

《もう少し。まだ混線した神経が繋がって無いから》


「マジか、(ことわり)を外れた罰か」

《寧ろ、その(ことわり)に巻き込まれた。君が、せいちゃんを本当に大事に思っているから、巻き込まれた》


「あら、まぁ、皆心配してるでしょ、早く起きないと」


《痛いよ》

「大丈夫、痛覚切る」


《じゃあ、またね》

「おうよ」






 痛覚を切る、痛覚を切る、痛覚を切る。

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