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6月13日(土)




 いつもの木立に梟が2羽、いつもの大きいのと可愛らしい小さいの。

 腕を差し出してみると、小さいのが飛んで来て止まった。


《映画館は、何処でしょうか》

「まぁまぁ、ちょっとおいでや」


 肩に乗せ、跳躍。

 温泉宿へとご案内。


『おう、可愛らしいのを連れてるな』

《習性には抗えないので、止めて頂けると助かるんですが》

「扱いが上手い、コチラ渋爺ことイルマリネン爺。コチラルーマニアのベスクちゃん」


『おう、吸血鬼か、初めてお会いする』

《はい、どうも》

「別に、人型になっても宜しいのに」


《はい、では》

『おうおうおう、また色男だな』

「間者だからでしょう」


『中々に良いハーレムだと褒めたかったんだがな』

「ワシの魅力で集まってはいないのでね、残念でした。あ、髪切ろうかな、どうにも誘蛾灯の役割が過ぎる」


『勿体無い、折角の』

「褒める場所が無くなる?」


『まだ有るぞ、可愛い鼻に、お目目もだ』

「にゅこかわいがりが、しゅぎるんでふが」


『猫だな猫、髪は毛艶で尻尾だろう』

「ハダカデバネズミみたいな猫も居ます」


『ウチでは飼えんな、あんまりにも寒そうだ』

「南国に行くから良いのです、あ、ハワイ、行きたかったのに」


『中つ国に行くのだろう』

「良いのかねぇ、つか人間に良くない噂が広まり過ぎでは」


『あぁ、らしいが、問題はどの立場からの意見か、だ』

「ね、あの女媧さんの旦那さんなら、悪い様にはしなさそうなのに」


 其々に服を脱いで温泉へ。

 温かいなぁ。


《混浴と言うモノは知ってはいますが》

「子供はどっち入っても良いの」

『気にするな、ココで何かを気にしたら損だぞ』


 その言葉を受け入れたのか諦めたのか、滝から覗く太陽をただ眺めている。

 大丈夫なのかしら、陽の光。


「太陽は大丈夫ですか」

《強い光りを見ると、強烈な眠気に襲われるだけですから》


「だから暗かったんですか」

《紫外線、電飾に含まれるのでそれも眠気を誘うんです》

『他に注意すべき事はあるか?まぁ、ウチに電気は無いんだがな』


《特には、ニンニクも銀も好きですし、人間と同じく心臓を止められれば死にます。ただ、2つ有りますが》

「狭そう、サイズが小さいのか、どうなっとるのか」

『ココで解剖してくれるなよ』


「見るだけ」

《どうぞ》


「後でね」

『不老であって、不死では無いのだな』

《不死は、公爵だけです。それから精霊と神々、ただ、それが脅かされているからこそ、怯えてもいるのです》


「あー、ロキだけなのに」

《それだけでも充分なのです、死は何処か遠い存在だったハズが、新星によって神々にも与えられるモノだと思い出させられた》

『あぁ、そうだな』

《人間を舐めていたら、そう怯えるのも分るぞ》


「マーリン、ごめんね。求められないのがこんな寂しいとは思わんかったわ、無力感よな」

《だろう、凹んだぞ。まぁ、万能神では無いからな、自分達の立場を確認させられたのは、ソッチと同じだ》

『それと、エルフを手放した事だろう。刺青、時間が掛かっているな』


《仕方無い、魔法慣れして無いんだ、修得には時間が掛かる》

「何でも出来るのが魔法の良い所なのに」


『皆、お前さんの様に想像力豊かじゃ無いんだよ』

「病気や怪我しまくれば嫌でも成ると思うんだが」

《あのねぇ、そう病気に掛かりまくる事も、怪我しまくる事も稀有なんだからな》


「なんだよ、ちゃんと育てられたぞ、ちょっと病弱だっただけだ」

《病歴も何も確認したが、どうしたらこうなる》


「ちょっとづつ何か足りなかったんだろうよ、全部膜のせいらしいが。再発したら不妊って言われて再発したし、子供も諦めてたのにな、ハーレム言われても喜べん」

『そこの心積もりを直ぐに変えるには、時間も掛かるだろう』

《逆ならなぁ、ハーレムなんだがな》


「あぁ、それはそうだな、マジで。何で腹に置いてきちゃったんだろ」

《面倒だぞぅ、男の子の日が有ってだな》

『あぁ、アレだろ、赤い玉が出るんだ』


《は》

《君まだなのか、若いなぁ》

『だな、ウチは毎月トントゥに、家の妖精に赤い玉を捧げないと家が荒らされる。トントゥの赤い帽子の着色料になってるんだ』


《ウチはケットシーでな、与えないと触らせて貰えなくなるどころか、家は荒らすし毛玉は吐くし》

『絨毯に吐かれたらもうな』


《あぁ、毎月が憂鬱だ》


《ふふ》

『お、思い当たる節が有ったか』

《良いんだぞ言っても、女に聞かせちゃイカンが、コイツは例外だ》

「そうそう、両方経験してますから」


《そうですね、独身の者はヘメンナーと言う道端の妖精に定期的に捧げないと、道に迷って家に帰れないんです。既婚者ですと、牝馬のマーレが相手の胸に乗り悪夢を見せてしまうのが何とも》

《気まずいったら無いな》

『お互い大変だな、隠れてしなきゃならんのだし』

「ぶふっ」


《はい、アウトー》

「具体的、ズルい、むり、ふふ」

『まだまだだな、修行が足りん』

《コレのルールとは一体》


「如何に真面目に言い切るか、だ」


《どうホラを面白くするか》

『見栄を張って話しを広げる、真顔でな』

「マジでお国柄だったのか」


《まぁ、ココら位だろうな》

『だろうな、下手な国の人間にすると本気で信じられる、ウカウカ冗談も言えん』

「あぁ、イギリスもそうなのね」


《陰気臭いと言われる国で》

『真面目な印象の国』

「何処もやるかと思ってたんだが」


《中つ国は、少し方向性が違うだろうな》


『えぇ、そうですね』


「だれ」

『伏犠と申します、女媧がお世話になっております』


「あぁ、どうも、ご丁寧に」


《土下座か、溺れるぞ》


「意外と息出来る」

『白蛇の真珠に、効果が有るらしい』


「あぁ、今度付けて潜ってみるか、ハワイで」

『私は行けないので、もし良ければ女媧をお願い致します』


「なぜ出れん」

『そう言う決まりですから』


「ほう、何か欲しい物は?」

『そちらの美味し物をお願い致します、同じく出れぬ者も多いので』


「おう、準備させときます。よし、映画館へ行くべかベスクちゃん」

《はい》


 花街へと向かい、映画館の前まで案内する。

 見終わるまでと、河童と川で遊ぶ。


「もう見終わったか」

《はい、必要な事は。やはり候補者選びには、この記憶を持ち越したいのですが》


「無いとダメか」

《はい、私にギアスと血の盟約を》


「でっきるっかな」


 掛かった。

 何が良かったのか。


《出来ましたね》


「何を知ったの」

《弱さ、弱味。公爵はそれを人間の核とお考えですので、説得には充分かと》


「あぁ、言ってくれれば良かったのに」

《それ以上を得られたと考えています》


「そう、じゃあ、どうぞ。ワシ帰るから好きにしてて」


《映画館もでしょうか》

「どうそ、じゃあね」






《時間の感覚が狂いそうです》

「おはよう、もふもふ」


《おはようございます》

「慣れてくれ。眠い?」


《ですね、影に入らせて頂きます》

「どうぞ」


 外は雨、エアコンの効きが良いから少し寒いのかも知れない。

 検温、36,6度。


 検尿、車椅子でMRI検査へ。


 高熱で魘されている時の音に似ている、ヒマだ。

 膝痒いし。


 ベスクちゃん何か話して。


【昔々、赤い玉が毎日出る男の子が】


 動いちゃダメだからそれは無理、他の、なんか良い話しの。


【では、竜の話を1つ】


 昔々あるところに7匹の竜が大きなお城に住んでいました。

 平和に暮らしていたある時、1人の人間が城へ押し入りました。

 戦いを知らぬ兄弟達は次々に殺され、最後に7番目の部屋に居た子供だけとなりました。


 その美しさのあまり殺す事を躊躇った人間は子供を閉じ込め、お城と竜人を手に入れました。

 ですがお城は大きく手入れが間に合いません、そこで人間は自分の母親を呼び寄せ城の手入れを任せます。


 7番目の部屋には入っていけない。

 と、息子は強く言い聞かせましたが、母親は漂う花の香りと好奇心に負け部屋を開けます。

 そうして美しい竜人の男の子と恋に落ちました。


 竜人と母親は互いに一目で恋に落ち、暫くは仲睦まじく過ごそうとしましたが、英雄と呼ばれている息子が毎日帰って来てしまい、とても邪魔に思います。

 そうして2人は相談し、母親は病を装って何度も何度も危ない旅へと行かせましたが、どうしても無事に帰って来ます。


 思案した2人は、ベッドへ罠を張りました。

 そうして母親は罠に嵌った息子の腕をもぎ取り、竜人は英雄の刀を取り上げました。

 そして首を撥ね、体をバラバラにし、恋人の元へ馬を使い届けてあげました。


 怒ったのはその恋人、魔法の水を使い蘇らせると、復讐へと焚き付けました。

 生き返った英雄は、恋人と共に城へと向かいます。

 またしても不意打ちし、飛んで逃げようとする竜人をリンゴの木に駆け上り、引き摺り降ろします。

 自分がされたのと同じ様にバラバラにし、恋人の差し金で鉄の竈へ投げ込みました。

 そして母親も同じく竈へ投げ込もうとすると、竜人の心臓が竈から飛び出し母親の目を奪いました。


 そして英雄は城を捨て、恋人と結婚し幸せに暮らしました。


【おしまい】


 解せん。


【教訓的民話ですから】


 にしても、解せん。




 検査も終わり、やっと遅めの朝食へ。

 パン2枚、ジャム、ワカメスープ、ヨーグルト、カットフルーツ、卵の掛かったサラダ。


 0よりは豪華だけど、やっぱ拷問よな、病院の食事って。


『おはようございます』

「まだ面会時間では無いのでは」


『外交官特権です、追加の朝食は如何ですか?』

「頂きます」


 コンビニお握りでも有り難いが、自前の有るんよなぁ。

 お味噌汁欲しいわ。


『もう宜しいんですか?』

「隣の方には」


『はい、先にお渡ししてあります』

「そうですか。吉岡沙里に会いたいのですが、退院は無理でしょうかね」


『抜け出せば宜しいかと』

「病院の管理責任に成りますし、誰かしらに迷惑が掛かりますが、それを良しとしますか」


『いえ、失礼致しました。結果が出次第、退院の手続きに入らせて頂きます』

「そうして下さい」


 彼らが手を回したからか、月読さん達の采配なのか。

 直ぐに検査結果を持った医師が病室を訪ね、即時退院となった。

 経過観察だそうで、異常が有れば直ちに病院へとの事。


 そうして彼らの用意した服に着替え、駐車場へ向かうと外交官ナンバーの車へ乗り込んだ。


 ちょっとオッサン臭い、加齢臭、気を付けないと。

 ベール被ろう。


《コレからご案内差し上げますが、宜しいでしょうか》

「はい」


 案の定と言うか、割りと近くに居た。

 隣駅程度の距離を車で走ると、古びたアパートへ。

 家賃、この人が出してるんかしら。


 2人に案内され、ドアを開けて貰うと小綺麗にした可愛らしい女性が、何個ものクッションを使いベッドに座っていた。


 そして教団で見た女性が2人、他は何処へ。


「お呼び出しして申し訳御座いません、生憎とこの状態でして」


 少し棘を感じる、多分、晶君の事だろうか。


 嘗ては可愛かったのだろうが、最低限の手入れと長年の寝たきり生活でかなり窶れ衰えている。

 嫌味も言いたくなるか、仕方無い。


「そうですね、ご用件を伺います」

《どうぞお入り下さい、今、お茶をお入れしますね》

「良いのよ、退院したばかりでしょう?さぁ、どうぞ、何も御座いませんが」


「はい、それで他の方達は何処へ」

《一棟借り上げていますので、ココへ。今日はラウラ様にお会いできるとあって、皆が部屋で待機をしています》

『同居に慣れてる者ばかりなので、ご心配無く』

「そうですね、皆さんにはとてもお世話になっています、ありがとうございます。ラウラ様も、本当にありがとうございました」


 何だろうか、悪意なのか。

 残念や警備課の人間とは違う悪態の香り、皆のついでにお礼ね。


 上げる割りに扱いは下げって、なんで敵対心的な思いを持ってるのか、そんなにリハビリ嫌か。


「そうですか」


 残念はマジで変態らしく彼女に興味は無さそう、反対に外交官は彼女に何か思う所が有るのか、完全にコントロールされているのか、チラチラと彼女の様子を伺うのに余念が無さそう。


 そして信徒2人、もう彼女に心酔している雰囲気、コチラを伺う気配はさほど無い。

 こんな態度取ってたならごめんね、神様達。


「それで、ラウラ様のご意向を改めてお伺いしたいのですが」


「アレでは伝わりませんか」

「あの時、私はまだ回復して無くて、病気で朦朧と、キチンと真意を汲めたのかと不安なのです」


「では、覚えている限りで結構ですから、出来るだけ全文を通しでお願いします」

「え、あ、はい。伝聞も混ざりますが」


「いえ、アナタが覚えているだけで結構ですよ」


「分かりました。私は目立つ事を嫌います、理解して下さい。と」

「はい、その通り」


「ですが、お力を広められていると耳にしました」

「何処の誰からでしょう」


「そちらの内部で働いていると名乗る少女、河瀬さんです」

「身分は確かめましたか」

《それは僕が、ココでは皆さんに危険が及んではいけないので言えませんが、住所も有る少女です》


「その少女が?」

《はい、警察の協力者で有るとの調べも付いています》


「そうですか」

「少女を、まして未成年を協力させる事に不安を覚えますし、良くない事だと思うんです」


「そうですか。因みに力は広めていません、目立つ事を嫌うと言った以上、目立つ行動は避けてますから」

「ですが、病気を治していると河瀬からお伺いしました、もしお力を発揮したいのであれば、ご協力したいと」


「どう、協力して頂けるのでしょう」


《矛盾するとは思いますが、新団体を設立し、治療行脚を行う事です。ゆっくりと各地を巡って頂き、治したい者だけを治す。アナタ様のご意向次第で、いかようにもして頂けるかと》

「今はまだご提供出来るモノは少ないですが、1部屋空けておりますから、ご自由にお過ごし頂ければと思っているんですが、不足ですよね、我々の願いだけでは」


「願いが不明です、簡潔かつ具体的にお願い致します。皆さんの個人的な願いも添えて下さい」

『私はお側に仕えられればと、ただそれだけです』

《僕は、ラウラ様の幸せです、願いはもう叶えられましたから》

「私は、ご一緒に皆様の願いを叶えられたらと思います」


 他2人も同じ意見らしい。

 残念は下心を除けば従者には良い。

 外交官は、お前は俺か、もう少し欲張れよ、自分の立場を再確認して幸せになろうとしてくれ、ブーメランだけど。


 問題はお前だ。

 吉岡沙里、最後のは嘘、大嘘。

 ただ、多勢に無勢、嘘を証明する手立てが無い。


「もし協力不要と言ったら、どうなるんでしょうか」

《それはまた日を改めて、お考え頂きたく》

「いえ、もしお断りになると言う事は、信仰を必要とするハズの神では無いと同義です。この刀でご証明を、どうか神であるとお示し下さい」


 確かにギリギリ理屈は通ってるが、ギリギリ過ぎだろう。


 誰も止めないのか、そうか。


 吉岡沙里の両手に乗る脇差は、倉庫で見た暴れん坊。

 今は気配も無く静か、刀を手に取り鞘から抜くも。

 とても綺麗な刀身で、あんな暴れん坊だったとは思えない。


 取り敢えず痛覚を切り、胸骨の下から体内へと差し込む。

 良くて仮死状態だろうか、自分を刺す手応えは不思議な感触。


 皮膚が抵抗し、横隔膜が抵抗する。

 内臓は刃物を受け入れ、血管はプチプチと切断されていくと、腹部から血液が溢れ出した。

 間も無く心臓、少しの手応えの後にすんなりと刃物を受け入れ、背部に有る肋骨を切断し、突き抜けた。


 そうして異物を取り込んだまま、体を再生させる。

 刃物を覆う様に心臓の細胞を増殖させ、出血を止めていく。


 出来た、マジ不死風。


 だけど人間だし、死んだフリしてみるか。


 徐々に脈拍を遅くし、呼吸も浅くしていく。


 感覚が塞がれる、覆われる、どこか遠くの出来事の様。


『え、ラウラ様?』

《き、救急車を》

「まさか、神を騙る人間だったなんて、どうしましょう」


『どう言う事ですか』

《そんな事より》

「万が一、神を騙る者が現れたらとお預かりしていたのです、スサノオ様から」


《そうだとしても》

『この死体、どうするんですか』

「正直に話します、連絡先を頂いていますから」


 いや、その体でどうやってゲットしたんよ。


【大丈夫ですか】


 おう、どうしようか。


【考えて無かったのですか】


 おう、流れで死んだフリやで。


【失敗したらとは考えもせずに、どうしてココまでの無茶を】


 だって、多分スクナさんとか控えてるだろうし、いざとなったら突入してくれるんじゃ無い。


【確認してませんよね】


 おう、大丈夫っしょ。


 寒いな、怠いし、まさか、これが失血死の感覚なのか。


【まだ大丈夫かと】


 あ、ごめん、血、大丈夫?


【勿体無いとは思いますね、空気に触れる程に魔素は逃げますから】


 失礼を承知で聞くが、飲む?


【ですね、勿体無いですし】


 でも床だぜ?


【もう少し自分の体について自覚するべきかと】


 別に稀少な血液でも無いし、やっぱ味違う?


【寧ろ魔素の含有量の方が味を左右するかと、それと脂肪分ですかね。脱水も、軟水と硬水程度には違いが分かりますよ】


 あぁ、魔素ってどんな味?


【酸素、綺麗な場所の空気、美味しい水、ですかね】


 ギュッと詰まってますか。


【えぇ、ギュッと詰まっています。アナタで言う、海老と牛のケバブですかね】


 あー、食いたいな。




 もう15分は経ったろうか、ドアが乱暴にノックされると吉岡沙里の指示で、残念がドアを開けに向かった。


 外交官は茫然としては諫められ、我に返ってはまた呆然としている。

 女2人は謎の祈りを続けているし、吉岡沙里はスサノオさんに狼狽えたフリをしている。


『で、自刃したと』

「はい、お話しを聞いて頂く為に、足止めする為にと思い、まさかこんな事になるなんて」


『そうか、抜くぞ』


 どうぞ。


 横向きのまま倒れた体から脇差が抜かれ、血を振り払った音がした。

 ヒッと女の悲鳴、吉岡沙里の声では無い、とんだ度胸だ。


《あの、本当に彼女は》

『女かどうか、解剖してみんとな』

「コチラを、とある方から入手しました」


『ほう、橘桜子か』

「はい、神々を信じる方々のご協力で、もしやこの方ではと」

《吉岡さん、最初から》


「いえ、とんでも無い、コレはこんな方が居たら注意をと」

『一応聞くが、何処の誰からだ』


「信者の須藤晶です、彼だけが完全に健康な状態で完治したそうで、お話しをと伺った際に頂きました。ただ、彼はまだ信じてらっしゃるので、どうしたら良いのか」

『そうか、そこの2人は顔を洗いに行っててくれ、出来たらこの部屋以外で頼みたいんだが』


「大丈夫、心配しないで、私が何とかするから」


 そうして2人の女性を部屋から出させた音がした。


 まだかな、もう眠いやパトラッシュ。


【誰ですかそれは】


 架空の犬の名前。


『で、アンタら男2人もそろそろ出て貰おうか、もう警察も来る。自刃と言えど形だけでも事情聴取が必要になるが、ただ、そのままを話せば良い、俺が何とかする』

『分かりました』

《僕は、側に居させて下さい》

「気にしなくて良いの、私がした事も同然なのだから」


《そうじゃ無いんです、出来たら、弔わせて下さい》

『分かった、だが一応話を合わせられたと思われても困る、少しだけ、出ていて欲しい』

「願い」


《分かりました、どうか宜しくお願い致します》


 1人出て、2人目が出て行った音がした。


 まだかな、ヒマだ。


『で、アンタもこの部屋には居たく無いだろう』

「ですが私が責任者も同然ですから、ココに居させて下さい」


『そうか、もう直ぐ警察が来るだろうから、少し出る。くれぐれも触らんでくれよ』

「はい」


 あぁ、このまま真相が聞け無いままなのか、残念。


【もしかしたら、もう少しで真相が分るかも知れませんよ】


 どう言う事よ。


【ハンリックが本を読んでいたんです、推理物、ジャンルはアームチェア・ディテクティブ】


 安楽椅子探偵?聞いた事は有るが。


【座っているだけで、事件が解決されるそうですから。もう暫く待ちましょう】


 安楽椅子死体ごっこか、アリだな。




 パトカーと救急車のサイレンが聞こえて来た、そうしてスサさんの声、忍さんの声も聞こえた。


 井縫さんは居ないらしい、せいちゃんはコレ見たらどうなるか、見ないで欲しいな。


『じゃあ、井縫。抱えてやって欲しいんだが』

「もし宜しければ女性警官を呼びますが」

「大丈夫です、慣れてますし訴える事もしません、お願い致します」


「はい、分かりました」

『じゃあ写真撮ったら袋だったか』

「はい、お任せを」


『じゃ、頼む』


「楠さん、もう起きて良いですよぅ」


 脈拍をゆっくり戻し、呼吸を深くする。


 薄膜を張っていた様な感覚から、現実のリアルな感触へと引き戻される。


 血の匂い、古い家の匂い、猫山さんの良い匂い。


「なんだ、忍さんじゃ無いのか」

「いくらなんでもショック受けちゃうかと。なので、他の者は全て黒子ですよぅ、どうかご心配無く」


「コレで良かったんかしら」

「バッチのグーですよ、ふふふ、全部録音されてるんですよねぇ、もうコレだけで自殺教唆や幇助ですよぅ」


「協力者が?」


「女性2人です」

「あぁ、ソッチか、外交官だったら良かったのに」


「残念ですよね、少し違えばまだマシな人生が歩めたでしょうに」

「そうでしょうかね。あ、ベスクさん、飲みます?」

《もう魔素が無くなってしまってますね》


「ですよねぇ、後で新鮮なのを差し出しましょう」

「ふふ、じゃあ記念撮影をば」

《私も顔は隠させて頂きますよ》


 ベールをしたまま起き上がりピースサイン、ベスクさんは床の血溜まりから顔を半分出し、猫山さんは忍さんの顔でフルスマイルのピース。


 どうやら井縫さんのフルスマイルの起源はココらしい。


「じゃ、袋詰めして運びますけど、トイレ行かれます?」

「ですな」


 トイレに行き、それからエリクサーをガブ飲みし、袋へ。

 死体自ら入るってオモロ。


《本当に、そのまま行くんですか》

「このまま居れば、真相が聞けるかもなんでしょう?」

「おぉ、安楽椅子探偵をご存じで、月読様の案ですよ、ふふ」


「だそうだ、行きましょう」


 真っ黒い袋の中に入りながらも運ばれる、外の明かりは一切見えない。


 人々の騒めきと、運ばれる振動、袋に当たる雨の音。


 車のドアが閉められ、暫くして走り出すとチャックが開けられた。


「そのベール、汚れないんですか」


 井縫さんか、ちょっと黙っててみようか。


 どうするか見物。

 なんせ向こうから見えてなくともコッチはバッチリ見えてますから。


「あれ?反応しませんか?寝ちゃいましたかねぇ」

「確認しましたか、脈とか」


「しませんよぉ、パッと見死んでましたし、話し掛けただけです」

「失血で気を失ってるんじゃ」


「あぁ、確かに、ちょっと確認してみて下さい」

「失礼します」

「テッテレー」


「じゃ、閉めますね」

「ちょ、本当に閉めんなや、胸だって良く見りゃ動いてるでしょうに」


「車揺れてるんで、目の錯覚を疑いました」

「くふふ、マジで心配しちゃってましたねぇ、可愛いなぁ井縫わぁ」

「あらあら、信用無いですかねぇ」


「信用はしてます、ただ今回は」

「反対してましたもんねぇ、やっと反抗期が来たんですよぅ」

「遅い反抗期は面倒だぞぅ」


「そうですか」

「な、閉めんなって、ごめんよぅ、ちょっと誂っただけだわさ」


「開けた時、信じてましたけど、心臓が止まるかと思いました」

「まさかそれって」

「恋。いやぁ、井縫も思春期ですかぁ、大きくなったねぇ」


「ちょ、閉めんな、ワシ何も言って無いって」

「もぅ、照れちゃってぇ」


「本当に、貧血は大丈夫なんですか」

「このままギリギリで行こうかと、ベール取るかも知れないし、つか起き上がって良いか、酔いそう」

「どうぞどうぞ、目隠しも結界も有りますから」


「傷はどうなってるんですか」

「そのまんま、心臓は治した」

「聞きたいんですけど、どうやったんです?」


「直ぐに死なないと思って、心臓を囲う様に細胞をこう」

「あぁ、包んだんですねぇ」


「血が出ないと変だし、首切っても直ぐに死なないならいけるかと。ギロチンの実験、コッチも有るんかしら」

「それ、筋肉の痙攣だって説も有りますよ」

「ギリギリの事をしますねぇ、ヒリヒリしますよぅ」


「まぁ、造血出来るし、だから存分にお飲みなせい」

「何も手伝ってはくれ無かったんですか」


「お願いして無いし」

「しても、何か出来たんですかね」


「どうなんでしょうね、能力を秘匿する権利有るでしょうし」


《そうですね、人間ですし、吸血鬼にでもしようかとは思いましたね》

「おぉ、原理は知りたい」


《血液を媒介にはしません。ウイルス、しかも魔素に乗ったウイルスですから、一瞬でも空気に触れただけで消滅します。ですので体内に大量に直接送り込まねばなりません》

「どう」


《大昔は首元に噛みついて犬歯に魔素を乗せ流しましたが、今は手首からですね》

「へー、死んだら無理?」


《少し意識を失い掛けてましたでしょう、あの感覚のままになります》

「それはつまらんな、いざとなったら頼みたいが。デメリット有る?」


《申し出られた以上、お答えしないといけないんですが。ざっと言うと人によって老化が極端に遅くなる事、生殖が不可能である以外、人間と特に変わりは有りません》

「老化の差は?」


《血液からの魔素を摂取するかどうか、一切摂取しなければ老化速度は同じになります》

「便利、病気は?」


《それも同じです、感染症にも掛かりますし、癌にもなります。それによって死を迎える事も、通常は脈拍も遅く体温も低いので、感染症での温床になり易いんです》

「おぉ、病弱友達だ。死ぬより良い、お願いします、お代は血液で」


《はい、承りました》


「楠さん、何か約束させてませんか」

「おう、今度死にかけたら吸血鬼になるお」


「は、なんでそんな」

「だって、死ぬわけじゃ無いし、向こうで役立つかも知れんし」


「弊害は無いんですか」

「大した事じゃない」


「言えませんか」

「彼の能力にも関わるからね」


「着きますよぅ、入って下さい」


 あっという間に警察庁に着いてしまった。


 袋に戻り、また死を仮想体験。


 車が止まってドアが開く、搬送台に載せられたまま、車を降り、ガラガラと押され運ばれる。


 また人々の声、それを通り過ぎ、何かの台へと乗せ換えられた。


 チャックが開く。


 スサさんか。


『おう、お前とは一応初顔合わせだな。ベール取っといてくれないか』

「楠花子ですどうも、すみません、お世話になります」


『いや良い、普通の警官ごっこも楽しかったからな』

「ご迷惑をお掛けします」


『コレは公安、国の仕事の1つだ。準テロリスト、国家転覆罪だ不敬罪だと容疑が掛かっている、と言うか。もう犯罪者だ』

「外交官さんも?」


『身を呈して止めてたらまだな、お前ならそうするだろう』

「まぁ、他の方法で確認はするとは思いますが。今回は自分の力足らずかと」


『つかな、良くあるんだよ。簡潔に分かり易く言おうが、長ったらしく言おうが、解釈をすり替えたり良い様に使う奴は絶えない。だから、そう言うのを見張るのが居るんだよ、気にすんな』

「ありがとうございます」


『コレが終わったら風呂だな、血臭いぞ』

「如何ですか、浮島」


『今度だな、血塗れの乙女差し置いて楽しく入れねぇよ。そろそろだ、楽しみに待ってろよ』


 むさくるしいのに爽やかと言うか、何と表現すれば良いのか。

 雄々しいのに繊細さが有る?

 サバサバ感は誰かに通じる様な、向こうのオベロンかな。


 そうこうしていると、扉が開く音がした。


 チャックは顔まで開いたまま、目を閉じ脈拍と呼吸を遅くする。


 先程よりは早めだが、死んでると思ってるなら充分だろう。

 つか死の淵は良くない。


「ベールを外したので、改めてご確認頂けますかね」


 井縫さんの声だ。

 不機嫌そうなのは誂い過ぎたせいか、後でちゃんと謝ろう。


「はい、ただ暫くは寝たきりでしたし、お役に立てるかどうか…支えて頂けませんでしょうか」

「あぁ、はい、どうぞ」


 覗き込まれているのか、顔に影が掛かる。


 寒いなマジで。


「どうですかね」

「見覚えは無いかと、あの、教祖様には」


「コチラからご連絡差し上げましたが、お顔に見覚えも無く、橘桜子にも覚えが無いそうです」


「もしかして匿ってるのでは…私達、騙されてたんでしょうかね」

「それは何とも、西洋でも蘇る事が有ると聞きますから、解剖にはまだ時間を置きますので。もし宜しかったら、ココで祈りを捧げる等のお時間を差し上げますが」


「あぁ、是非。可哀想な彼女の為にも、お願い致します」


 独白、自白してくれるんかな。


 流石に無いか、結構慎重そうだし。


『吉岡さん』

「あ、須藤さん、有難う御座います。すみません、急な連絡なのに」


『いえ、私も信徒ですし、少し抜けれそうだったので。それより、彼女が?』

「えぇ、顔を見てビックリしました、アナタから見せて頂いた画像の方と同じでしたから」


『あぁ、本当ですね、瓜2つです』

「あ、触れない方が、解剖がまだ先だそうですし」


『そうですね、つい出入りしていたので気が緩みました。有難う御座います、まさか神様が死ぬだなんて』

「えぇ、私も残念です。本当の神様だと思っていたのに、私」


『私もです。すみません、連絡が』

「あぁ、すみません泣いて困らせるなんてはしたない事を、是非お戻り下さい、私は大丈夫ですから」


『では、失礼します』


 フルメンツで出てくるなら、後は誰だ。


 マジ誰、女媧さん?


 んー、バアルさん。


《どうも、ご無事でしたか?》


 バアルさん、当たりだ。

 なら女媧さんもかしら。


「凄く怖かったんです、刀を見せた途端に自刃を」

《あぁ、大変でしたねぇ、怖かったでしょう、さ、もう行きましょう》


「それが、あの、本当に彼女なのでしょうか」

《えぇ、間違い無く癒し手です。ただ、アナタにはどうやらその器が無い様ですねぇ、残念です。ウチはコレで手を引かせて頂きますね》


「ちょっと待って下さい、折角コレだけ準備したのに」

《いやぁ、だってアナタ、癒しの力も何も無いですよ?少しはコレで変化すると思ったんですけど、全く才能が無いんですねぇ。あ、居たいならどうぞご自由に、じゃ》


「ちょ」


 帰る事も無くブツブツと何かを呟く彼女、生憎と袋に邪魔され上手く聞き取れない。


 まだ誰か来るらしい。


 ひとしきり彼女の呪詛を聞いていると、今度は巫女さんがやって来た。


 巫女さんにも協力させて、後で何か差し入れしないと。


「どうです?」

「全然ですよ!ウガリットの大使館員には才能が無いと見捨てられるし、向こうは、お人形を必要としてるって言ってたじゃ無いですか!」


「落ち着いて下さい、少し見誤ったのは謝りますが、まだ道は有りますよ。私の知り合いに治癒出来る方が居りますし」


「それで教団設立したって、こんな泥が付いたんじゃ」

「大丈夫、関係者ですから秘匿されて事件は葬り去られますし。お金も、地位も名声も、翠さんより得られますって」


「本当に、協力して頂けますか?」

「勿論ですよ、女媧様の御助力が御座いますから、大丈夫」


 ん?巫女さんも共犯?


 なんで?


「それで、アナタは何を得られるんですか。私も手を汚したんです、そろそろ教えてくれても」

「同僚です、観上清一さん。絶対に手出ししないで下さいね、ずっとずーっと、好きだったんですから」


 あぁ、ふざけないで欲しい。

 そんな事で、こんな事を。

 本当に、ふざけないで欲しい。

 せいちゃんが知ったら悲しむのに、なんて事を企むんだろうか。

 神様も人間も警察も舐めて、でもそうか、だから膿出しをして。


 辛いだろうに、アマテラスさんも月読さんも、辛いだろうに。

 ふざけて、どうして分らないんだろう、こんなに近くに居てくれてるのに。

 生かす価値無いだろう、酸素が魔素が、勿体無いもの。


「マジかぁ」

「あぁ、起きたんですね楠さん、本当に神様だったなんて。でもフラフラですよ、一応塗っておいた毒、効いてますかね」

「すみません、申し訳御座いません、すみません、許して」


「操られたとか誘導されたとか無いよね、供述を引き出す為の嘘だとかも」

「はい、全て私の意志です。あ、女媧さん、お願いします」

《あら、なんの事かしら?》


「え、イヤだなぁ、邪魔者を排除するって話しですよ」

《あぁ、それね。はいどうぞ、ご自分の手で勝ち取ると良いわ、それからお話しをしましょうね》


「でも、排除するって」

《排除する手助け、ね、武器は上げたじゃない、長さも同じよ?》


「あんな化け物、無理に決まってるじゃないですか」

《何もしないで諦めるのは良く無いわ、さ、頑張って》


「アナタもですか、あんな年増の不細工を」

《その刀、ちゃんと霊元も能力も引き継げるとしても、悪態だけで終わらせるのかしら?》

「あまり唆さないで下さいよ」


「そうやって、馬鹿にしないでよ」


 振り上げられた刀を避けようと思ったのだが、泣きそうな巫女さんの目を見て、怒る気もやる気も無くなってしまった。


 見抜けなかった自分が悪い部分も有るし、嫉妬で可笑しくなる事も知ってるし。


 自分が現れなかったら、ちゃんと告白出来て、せいちゃんだって受け入れたかも知れない。


 それが本来の道筋で、邪魔者は自分なら怒りも嫉妬もぶつけられる義務が有る。


 痛覚切ったままだし、治せるんだし。


《ハナ、私、自己犠牲が嫌いなのだけれど》

「自分も同感です、流石に死にませんて。ヤバいの盾が防いでますし」

「そうやって、余裕で、全部、知ってたんでしょ!」


「いや、さっき知って凄くショックだった、ごめんなさい。恋人は偽装です」

「知ってる!そんな事!だって、観上さん、私に」

《あぁ、それね、本人じゃ無いわよ?》


「え、だって、匂いだって、霊元も」

《それは何時の事?アナタ、感覚が薄れる時期が有るんじゃ?》


「そうやって全部、邪魔して!そうやって!」

《般若ってこう言う顔の事を言うのねぇ》

《楠、今なら正当防衛よ》


「月読様、アナタまで」

《最初に裏切ったのはアナタ、そしてこの女媧は本物。アナタが接触したのは偽物なのだけれど、どうして分らなかったのかしらね?》


「それは、体調が悪くて、だって」

《女の子の日、アナタは家でジッとしてるべきだった。伝えるべきだった、正直に生きるべきだったのよ》


「そうやって、罠に掛けて騙して!」

《偽女媧の情報は漏らしたわ、でも裏切らないって信頼と期待を込めてね。でもアナタは行ってしまった、会ってしまった。私から電話もしたわよね?それでもアナタは嘘を吐いた》


「だって、皆が邪魔するから」

《して無いわ、本当に。ただ力も一切貸さなかった、だって、アナタの道は彼には繋がってはいないもの》


「邪魔をするから、この女が」

《いいえ、彼女が居なくても繋がって無いのよ。あの子はアナタを選ばない、早過ぎたのよ。だからもう、何をどうしようとも、この世界が終わるとしても。淡い恋心で処理して欲しかった、アナタがずっと、立ち止まるのを待って居たのよ》


「月読さん」

「アンタのせいよ、絶対、だって、普通に接してくれるのは」

《鈴藤だって、普通に接してくれたハズよ》


「あんな男、あんなチャラい男、絶対遊んでる、絶対」

《前は違ったじゃない、どうしてなの》

《そうやって見た目に騙されるから繋がれ無いのよ、ねぇ》

「女媧さんも煽らないで」


「そうやって良い子ぶって、そうやって全部奪って」

《それは違うわ、アナタのモノじゃ無いのよ、お願いよ》

「どうしたら許してくれる」


「死んでよ!全部代わってよ!必要とされるのも、全部!取り替えてよ!」


「女媧さん、この刀の話し」

《嘘よ、そんなモノ有ったとしても危ないし、持ち出せないわ》

《だからもう良いの、良いのよハナ、もう止めて、お願い》

「代わらないで良いから、死んでよ」


「それも無理、ごめんねクソ女」


 簪で糸を切った。

 自分と巫女さんとの糸。


 斬り付けていた手が止まった。




 ところで。

 彼女は、誰だろう。


「あの、私、何で」

「さぁ、それより怪我は?返り血だけ?」


「あ、え、返り血?」

「あ、違うかも、痛い所は?」


「え、あ、お、おかさん、おかあさーん、どこー、おかあさーん」


 子供の様に泣き出してしまった、現に凄く幼いし、巫女服だし。


 多分、8課の人間だろうか。


「あの、この子」

《大丈夫、もう全部治して良いのよ》

《そうよ、もう終わったの》


「服が汚れて、それにこの子」

《猫山、連れてって》

「はいな、さぁ、行きましょうね、行ってお着替えしましょうね」

《私は空港で待ってるわ、じゃあね》


「あ、はい。それで、この事件の真相って」

《それは後で、浮島に行って着替えてらっしゃいな》


「いや、でも、そこの、吉岡沙里も」

《大丈夫、ほら、人が来る前に》


「あぁ、はい」


 なんだろうか、上手く記憶が引き出せないと言うか。

 靄が掛かって思い出せない、ただ、大事な事を忘れてるという感覚だけは確かに有る。


 なんでだろう、血が足りないんだろうか。


 コートを羽織り隠匿の魔法を掛けて、特別室へと向かった。


 そうして浮島へ着いたのだが。


 浮島で血を洗い流すのは気が引けるので、花子の家へと向かった。


 靴はすっかり血を吸っていたので、そのまま風呂場へ移動し、脱ぎながら血を洗い流す。

 浴槽へ衣類を移動させ、改めて体を洗い流す。


 すっかり落ちた所で、浴槽へ清浄魔法を掛ける、魔素が立ち昇る浴槽をボーっと眺め。


 浴室から出て体を拭いていると、ベスクさんが姿を表した。


《全部治せと言われて居ましたが》

「あぁ、ね、何か、思い出せるかと思って。それとほら、魔素がね、お腹減ったもの」


《もうお昼ですよ》

「あぁ、そうなんだ」


 お腹は減ったが食欲は無い。

 女の子の日だろうか。


 浮島へ戻り、血の足跡へ清浄魔法を掛ける。


 エリクサーを飲みながら菊の紋を一服しつつ、計測。


 高値。


 明らかにおかしい、壊れたか。


 

《主、その煙が誤作動を起こさせているかと》

「マジか、でも吸い終わったらな」






 庭では子供達が動物と遊んで居る、そして縁側には白い金平糖を食べながらニコニコしているお坊さん。

 子供の中にはあの男の子も居る、あの女子高生の子も、ラクダがお気に入りらしい。


《良い場所ですね》

「どうも、お茶どうぞ」


 誰だろうこのお坊さんは、知っているのに具体的な言葉が出ない。

 文字も、確かに知ってるのに。


《あぁ、有難う御座います。でも気にしないで下さいね、少し寄っただけですから》

「あぁ、はい」


《今なら、アナタの望む世界に帰す事が出来るとしたら、どうしますか?》

「いや、そこはもう少し居たいです、向こうに悪影響が無ければですが」


《そうですか、大丈夫、焦らなくても、大丈夫ですよ》


 無性で有りながら、両性具有的な優しい微笑み。

 見た事有るのに、思い出せない。






 顔が水に濡れた様な感覚で目を開けた。


 ココは浮島の温泉、辺りはもう真っ暗。


 目の前には井縫さんと、薄絹を羽織り一緒に湯に浸かる月読さん。

 その奥ではプリプリと怒っている様子で薬を作るスクナさんと、心配そうにコチラを見る晶君。


「大丈夫ですか」

「すまん、全部、思い出した。ごめんね、月読さん」

《良いのよ、良いの、忘れても良かったのに、馬鹿正直で、困る、本当》


「女神を泣かしてしまったー」

《本当よもう、何でかは分かるわ、でも、なんであんな事をしたのよ》


「罰を受けたい気分だったのです、嫌な思いさせてごめんなさい、完全に自傷行為だった」

《だったら、痕も治して欲しいのだけれど》


「イヤ、そんな目立たないし、あの子も覚えて無いんだし、これなら変態も来ないでしょうよ」

「俺はイヤなんですが」


「君も居たのか、あの場に」

「はい、全部見聞きしました」


「ごめんなさい、嫌な思いをさせて、誂って不機嫌にさせて申し訳無い」

「誂いで不機嫌になったんじゃ有りませんよ」

《私も嫌なの、もう見てるだけで辛くって、だから、お願い》


「じゃあ酒で浮き出る位も、ダメか、本物だってバレちゃうし」

《そうそう、ね?お願い》

「何も知らない観上さんが心配しますよ」


「そうか、名誉の負傷でも無いし。でも、1個位は?ココの、脱がなきゃ見えないし、ね、薄く」

《どうして残したいの?》


「また忘れたら困るから、少しは思い出す切欠が無いと…あの父親も、あんな感じなのかな」

《そうね、何か大事な事なのに思い出せない、そうして修行僧で有る限り、思い出せないハズ》


「良いのかな、楽させてしまって」

《アナタとは違うから、きっと苦しいハズ》


「月読さんも付き合い長いだろうから、辛いよな、ごめんな」

《そうね、でも大丈夫、アナタが全部背負ってくれたわ》


「斬られただけで?大袈裟な、痛覚切ってたし」

《倒れるまで無理をさせたわ、ごめんなさい。アナタが斬ってくれると、期待したの》


「なー、罪悪感て良くないな。さっさと斬って終わらせたら、月読さん辛く無かったんよな」

《違うのよ、本当に。威圧、覇気、会得させようと思ったのだけれど、完全に方法を間違えたわ、ごめんなさい》


「ありがとう、罪悪感が強過ぎた、次は頑張る」

《もうあんな事させないわ、絶対》


「別に良いのに、結局は平和に解決出来たんだろうし。ね、井縫さん」

「吉岡沙里は国家転覆罪、外交官も運転手も」


 罪が重過ぎるのではとも思ったが、神々への不敬罪も含んでの事らしい。

 独居房での無期懲役刑。


 そして巫女さんは医療保護、あのまま幼児返りし戻って無いらしいが、一時的な事で直ぐに戻るとの事。


 そして内通者をしてくれて居たのは、交代で教団を長年監視していた黒子達だそうで、ああ言った集団は変化の修行に最適なんだそう。


「他のは」

「空の死体袋と血痕を見て、やはりラウラ様は本物だと言ってさっさと教団に戻りましたよ。だから嫌いなんですよね、ああいうの」

《まぁまぁ、程よい信仰も大事よ。さ、コレで神様の仲間入りね》


「いや、それはラウラ、ワシは花子、別物。晶君も、こんなに巻き込んでごめんね」


『いえ、お役に立てるならと志願したのですが、こうなるなら止めていました。申し訳』

《それは本当にごめんなさい、斬ってから生き返らせると思ったの、本当に》

『僕も、井縫も反対したじゃ無いか、怒りに身を任せて斬るなんてしないって』

「そうですね、でも、少し殺意は有ったんですよ。なのに、急に消えたんです」


「だって、可哀想って言ったら可哀想だけど、可哀想じゃんか」

「だからってボロクソに斬られますか、異常ですよ」


「な、だから自傷行為だと言った。もう見える所ではしない、つもり」

「見えないって」


「ウソ嘘、冗談だってば。あ、あのびしょ濡れの衣類はどうしたら?血は落としたんだけど」

「預かりますよ」


「脱水してから捨てないとな、臭くなりそ」

「はいはい、そうするつもりです」

『月読、ハナが平気でも僕は絶対に』

《ごめんなさい》


「月読さん、巫女さんがせいちゃんと繋がれないって本当?」

《本当、庇護下に有る年下に手を出すとでも?》


「んー、年がいけば」

《無理よ、幼子の印象のままだもの、それこそ出会うのが早過ぎたの》


「あー、そこまで頭回らんかったな、そうか、そうよね。でもな、無理だったと思う」

『ほらぁ、だから言ったのに』


《そうですね、私に見せ付ける為と言えど、やり過ぎかと》

「あぁ、居たのねベスクさん」

《それもね、違うのよ本当に。彼女がちゃんと出来る子だって見せたかったのは有るわ、だけど、本当に》


《アレではただの、殺意を手放す軟弱者にしか見えません》

「それは不味った、今ならやるぞ」


《ヤルべき時にやらなくては、死んでしまいますよ》

「彼女に殺意は少し有ったけど、そんなんでも無かったし。1匹の蟻の殺意に象が対処しますかね」


《窮鼠》

「所詮は小さな子鼠、大きな猫には勝てんだろうよ。埃がいくら積もっても山にならんで吹き飛ぶし、猫又は小判を扱える可能性が有る」


《屁理屈と言われた事は》

「そらもう小さい頃から、馬鹿な家族に言われてましたぁ。あ、お祖母ちゃんは別。イタコさん悲しむんだろうなぁ」

《大丈夫、ちょっと思春期で悩んで休むとは言って有るわ、ただ、気付いてはいるでしょうねぇ、厄介なのよね、年の功って》

「棺桶に片足突っ込んで黄泉と連絡取ってるんでしょう」


「便利だなぁ、良いなそれ」

「しないで頂けますかね」


「しないしない、必要無い事はしない。あ、せいちゃんは?」

「大國が付いてます、見舞いと称して入り浸ってますよ」


「あらー、治したいんだが邪魔するのもなぁ。あ、飛行機」

「行く気ですか、その体で」


「だって、チャーター機ちゃんと乗って無いし」

《ふふ、そうね。でも、ルーマニアの方、宮中にアナタは入れないわよ》

《そうらしいですが、1度現地で確認させて頂きます》


《そう、まだ女媧はお買い物中だから。せいちゃんに会って行く?》

「お邪魔では?」


《大丈夫》




 点滴を仮止めし、病院着に着替えてせいちゃんの家に空間を開く。


 今は23時なのだが、黙って映画観てポップコーンで夜更かしかよ、仲良いな。


『あ、病院抜け出して、どうしたんですか?』

「せいちゃんが心配でね」


『大丈夫ですよ、直ぐにスクナ彦様に治して頂いたので。コレは偽装の休暇です』

「ズル休みか大國さんまで」

「あぁ、ズル休みした」


「マジかよ、平和かよ」

「あぁ、スサノオ様と隊のお陰だ。それと雷」

『凄いんですよ、ほら、お陰で靄も散ってるらしいんです』


「おぉ、稲光、音、凄いな」

『ほら、楠さんじゃ無いんですよやっぱり』

「みたいだな」


「なにが」

「病院食に不満が有って、雷を落としてると」

『だそうです、でも、そこまではしないですもんね?』


「あぁ、酷かったけど我慢してるわ、朝パン2枚とか無理やろ」

『絶対足りないじゃ無いですか、大丈夫ですか?顔色悪いのは、ワザとで?』


「そらね、健康に見えたら退院させられちゃうし、コッチも偽装」

『それでもちゃんと食べて下さいよ、どう見たって痩せ過ぎなんですから』


「あぁ、もうちょっと食うかな」

『是非そうして下さい、儚くて折れそうで、中身と違い過ぎですよ』

「清一はふっくらしたのが良いらしい」


「あぁ、潤子さんか」

『もー、違いますってば』

「それだ、何処の誰か知ってるか」


「ココの人」

「裏に手書きの電話番号が有るんだが」

『それはキャバクラの』


「行ったのか、やっと」

「お、大國さんは」

『さぞモテモテでしょうね』


「あぁ、凄い困るな」

「でしょうねぇ」

『ソコ、面白かったですよ、皆良い人達でしたし』


「んだんだ、今度一緒に行ったら良いよ」

『楠さんもですよ、居てくれないと困ります』


「いっそ副業で働こうかしら」

『それは、スリム過ぎでは?』

「尻は良いぞ、尻は」


「尻派か貴様」

「楠のは形が良い」

『へー、知らなかった、お尻だったんですねぇ』


「こうやってさ、胸とか嘘言うし、自分の言わないのズルいよな。俺はおっぱいって言ったのに」

「見損なったぞ」

『だって、特に考えた事が無くて。無いんです、そう言うの』


「ウブちゃん。キャバクラでのあだ名はウブちゃん」

「ほう、良い名を貰ったな」

『もー、ココでバラしますかね、素面なのに』


「腹、鳴ってるな」

『食べて行きます?』

「いや、帰るわ、長居したね、じゃあね」


「いや、早く帰って来い。寂しがってるからな、清一が」

『そんな事は無いですけど、待ってますよ』

「おう、じゃあね」




 空間を開き浮島の中央分離帯へ。


 心配されてるのは分かるが、どうにも一服したかった。


 依存でも良いさね、あんな思い詰めるよりマシ。


「また倒れたら困るんですが」

「あ、誰が、どうしてくれたん」


『僕』

「ありがとう、ウーちゃん」

《譲ったのだから、次は私の番だよ》


「そんな譲り合いを、随分余裕が有りましたか」

《あぁ、落ちて受け止めた。とっても心配したぞ。私も、ウルトゥヌスも》


「すんません、痛覚切りっぱなしでミスったっぽい、怠さも無かったんだが」

「巫女さんもですが、負荷からの失神ですよ。心の、どうしてソコを無視しますかね」


「すまんね、気を付ける」

「どうやって気を付けるつもりですか」


「より、モフモフを触る?」

「もー、もっと他でも発散してくださいよ、それこそ遊びに行ったり買い物したり」


「なんか、似て来たな従者に、説教臭い」

「アナタの近くに居たら誰でもこうもなりますよ」


「あぁ、そうか、気を付けます、ごめんなさい。てか顔付けて嗅がないで」

《ご褒美ご褒美》


 一服が終わり、温泉に戻るも月読さんの姿は無かった。

 そしてまだむくれるスクナさんと、困った顔の晶君。


 点滴を繋ぎ直す前に計測、中域。


 点滴はそのまま外される事となった。

 煙でバグるか、そうか、魔素盛り盛りだからか。


『低値じゃ無くても倒れるの、人は脆いの、分かってるでしょう』

「すいませんでした」

『あの、お食事は取れますか?』


「うい、食べれる」


 そのまま足湯をしながらサンドイッチを食べる、卵サンド上手い。


 安心してくれたのか、スクナさんが小さくなって背中にベッタリと張り付いた。


『皆が心配する事はダメだよ』

「すいません、申し訳なさに呑まれました」


『良くない、悪く無いのに罪悪感を抱いたらダメだよ』

「ですよね、想像で罪悪感に負けた」


『良くない、自己肯定とか良いから、粗末にするのが良くない』

「はい、身に染みております」


『心配したんだからね』

「ですよね、申し訳無い」


『月読に、怒って良いのに』


「威圧欲しかったのはマジだし、あの読みは良かったと思う、最初は怒りでいっぱいだったし。でも、目を見たらダメだった。今回は不甲斐ない自分が悪い、コレはマジで、殺すのに躊躇うのはマジでダメだと思う」

『人間だと思うから目なんか見ちゃうんだよ、殺すつもりなら害虫と思わないと』

《そうじゃよ、殺意を向ける者全て、害虫じゃ》


「普通の人間には無茶なんだよ、ソレ。所詮は非戦闘員だし、知り合いなんだし」

『そうですね、人間でらっしゃいますものね』


「お、嫌味か晶君」

『滅相もない、神経性の欠神を起こしたと聞いて、本当に人間なのだと噛み締めていたんですよ』

『倒れたって聞いた時は僕らも倒れ掛けたけどね』


『ですね、お顔を見た時も、心臓が止まり掛けました』

『そう言うのは本当に心臓が狂っちゃうから、良く無いから、皆の寿命を縮めちゃダメだよ』

「はい、肝に命じます」


「楠、良いか」

「大國さん、どした」


「清一はもう寝た、買い物代行だ」

「あぁ、ありがとう、お手数お掛けしました」


「本当に行くのか」

「貞操具でも付けまひょか」


「あぁ、そうしてくれ」

「冗談、でも面白そうだから探しとくよ」


「あぁ、そうしてくれ、じゃあな」

「お勤めご苦労さんでした」

「俺のも渡しときます」


「大國さんより容量有るね」

「移動も、中つ国の端までなら何とか」


「そんな不安か、貞操が」

「自分が弱ってる自覚有りませんか」


「有りますよ。それでいて潔癖で、面倒、とっても自覚してるので、寂しい時はソラちゃんに慰めて貰ってる」


 人形でとも思ったが、クマさんで現れハグしてくれた。

 こんな風にハグしてくれたの初めてかも。

 ソラちゃんにまで心配掛けた、すまん。


《送ろうか、ウルトゥヌスが》

「優しいね、譲るなんて」

『雷は、飛行機が飛ばなくなる』


「あぁ、確かに」


 病院着は不味いので、適当な服に着替える。

 もうパジャマで良くないか、ダメか。


『私は信じてます、ずっと。だから、行ってらっしゃいませ』

「ありがとう晶君、ごめんね、じゃあね」


『はい』

「俺が送るんで、じゃあ」

「おう、じゃ」

『しがみついて』


「へいよ」


 感触は人間なのに、ウルトゥヌスは精霊だし。


 人間と精霊と神様を分けるのは何だろうか、不老?不死?


『もう帰っちゃうの?』

「は、なんで」


『だって、雰囲気が変わるって聞いてたから』

「あぁ、焦らないでも大丈夫だって聞いたからかも。そんな違うかね」


『んー、分かんない』

「ちょ、風の神様で窒息死は洒落にならん」


 ぎゅうぎゅうと抱き締められて、仕方無く腕を回す。

 肩越しに黒い曇り空が流れ、遠くには雷光。


 ある意味自家用ジェットかコレ、贅沢よな。




 空港近くに来ると、他の飛行機への影響を避ける為にと思案した結果、お願いして投げ飛ばして貰った。

 あの子供がグルグルされるやつ、そうしてフワリと飛ばされ、女媧さんの目の前にゆっくり落ちた。


《天女みたいね、ふふふ》

「こんな不細工逆にビックリされちゃう」


《時に人は他人の顔を鏡として使うの、アナタを醜女と謗る者は、己の醜さを宣伝してるも同義》

「お待たせしたのに慰めて頂けるなんて、有り難いなぁ」


《もう、本当の事なんだから》

「はいはい、行きましょうねぇ」


《一筋縄じゃいかないのねぇ》

「じゃないと渡れませんよぅ」


 飛行機に乗り込むと、バアルさんも居た。

 似た機体だとも思ったが、ウガリットの所有機らしい。


《どうも、直ぐ検査員が来ますから座ってお待ち下さいね》

「ご迷惑をお掛けしました、ご協力有難う御座います」


《いえいえ、私は賛成派ですし。威圧、会得して欲しかったんですけどねぇ、残念です》

「さーせん、精進します」

《もうちょっとだったのに、アプローチを変えなくてはいけないみたいね》


《ですね、かなりズレてる子ですから》

《飛行機にソワソワして、ココは普通の子よね》

「普通です、普通。稀に良く有る子」


《それにしても、自傷行為を他人を使ってするとは、良い考えですねぇ》

《人間としてはダメだけれど、良い拷問官には成りそうよねぇ》

「ちょいちょい出るその残虐性は一体」


《転生者曰く、妲己、楊貴妃、玉藻前は彼女だとか》

《違うわよ、私の分身、ちょっと遊びに行ってただけよ、それなのに、何も指示して無いのに勝手に周りが暴走するんだもの》

「偽女媧さんは」


《それは違うわよ本当、勝手に可哀想だって思わてれ、何なのかしら本当》

「タラシだ」

《天然なのがまた恐ろしいんですよ、本当》


《何よその“天然”て》

《お勉強下さいませ、あ、来ましたね》

「パスポートプリーズか」


 パスポート、身分証を見せ出発。


 スピードに乗り、角度を変え、上昇していく。


 この感覚がね、楽しいのよ。


《さ、お食事を用意させました、着陸までご堪能下さいね》

《ふふ、明日からに備えて、質素にね、ふふふ》


 出て来たのは寸胴鍋に入った中華スープ、卵の白身とカニの身とフカヒレ。

 トロトロ、うまうま。


 そして白いチャーハン、具材は白身とニンニクと、同じくカニの身、上には黄身の醤油漬け。

 シンプル旨い、スープを餡掛けにしても旨い、飲めるし、実質無限。


 そしてコレまたデカいタッパーに醤油と卵黄がたっぷり漬かっている、もうコレだけでごはんが何杯食える事か。


 そう言えば、大國さんからもデカい器貰ったな。

 中身は後で確認するべか。


「有難う御座います、マジで感謝」

《少しは気分転換になりましたか?》


「全然、まだ少し真相が気になる」

《ですよねぇ》

《ふふ、はい、じゃあ説明お願いね》

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