6月10日(水)
探し出し治すまでに平均1人30分、この調子だと全国都道府県を回ると、1日じゃ済まないかも。
まだ、並んでくれてた巡礼の方が良かったんだと痛感。
公園で一服しながらも、思案。
《鈴藤ちゃーん、何処に居るん?本当に居てはるの?》
「わっ」
《きゃっ、あぁん、鈴藤ちゃん、見えてへんけど触れるぅ》
「忙しい、なに」
《あんな、何か手伝えって言われてん》
「この名簿、病室探すのに時間掛かってる」
《あぁ、そやったら八咫さんにも手伝うて貰ったら簡単やん。八咫さーん、居るやろー》
『発情期の猫が、五月蝿いぞ』
《しゃあ無いやん、この時間帯の猫なんてこんなもんやし》
『にしてもだ』
「コッチでは初めまして、鈴藤紫苑で楠花子です」
『あぁ、すまんな、八咫烏だ』
《何処で会ったん?》
「それは後で、宜しくどうぞ」
病院上空へ空間移動し、八咫烏さんの案内で病室へ。
治療し、次の病院の上空へ。
平均10分まで短縮されたが、残り40人。
7時間か。
《主、ネットへの侵入許可を》
「最速で病室へ直接行けるか、でもなぁ痕跡は不味い。百合車、スマホ使えるかね」
《もち》
「貸すから、協力して座標送れんかね」
『ほう、使い走りにするか』
「すんません、宜しくお願いします」
『冗談だ、やるか』
《あいよぅ!》
情報が揃い、慣れるまでは10分だったのが、9分8分と縮む。
そうして休憩を挟みながら、残り25人。
休憩、トイレ。
一服し、計測。
中域、念の為にエリクサーを飲む。
眠いけど、絶対に気になって寝れないヤツだコレ。
お祖母ちゃんが看護師止めろって言ってたのは、こう言う事を見越してか。
クソ親父の言う事も、現に魔王候補なんだしな。
「よし、行きます」
《あいよ!》
『おう』
浮島から病院のトイレへ、病室へ行き半分治し。
また病院の上空から病室へ。
そしてまた病室へ。
残り5人。
空が白み始めた。
また病室へ。
最後の1人。
全快させてあげたいが、我慢。
病巣と痛覚を半分に。
そうして何とか浮島へと戻った。
《やーん、めっちゃ良い所やん》
『あぁ、そうだな』
「お疲れ様でした、有難う御座いました」
《そんなええんよ、良い事は楽しい事》
『だな、久し振りにこんなに働けた、楽しかったぞ』
「まぁまぁ、お酒でもどうですか」
『泡盛か、日本酒の方が良いんだが』
「じゃあ、コッチで」
『おうおう、頂こう』
《私わぁ、チュウ》
「おう、ハグもだ」
《うふっ、ふふ、やーいカラス天狗ー、あっかんべー》
「お、井縫さんおはよう」
「朝から盛ってますか」
「いや、ただのご褒美、ほっぺに」
《あーん、バラしてぇ》
「お狐さん、そいつ女ですよ」
《だから?楠ちゃんなんも知ってるし、別にええやん》
『節操の無い奴だ』
《アッチの方が節操無いやん。ねぇ、ワンコちゃん》
「さぁ、何の事だか」
「眠いんだ、もう寝て」
【主、メールです】
患者が追加された、場所は東京。
病院の名前に聞き覚えが有る様な、無い様な。
病室番号だけで名前無し、男性、年齢は、67。
何でまた、行ってから聞くか。
《追加なん?手伝おか?》
「近くだし大丈夫。井縫さんか池で帰れる筈よ、じゃあね、有難うね」
《うん、またね》
『またな』
カメラ無しの病室へ直接向う。
月読さん、なぜ。
「おはようございます、誰ですか」
『せいちゃんのお父さん』
「治せと」
『いいえ、ただ、話しを聞いてからどうするのかを見たいだけ』
「ほう」
『病巣が脳に転移してるのよ、本人の判断は不明。ただご家族はせいちゃん以外、賛成してるの。延命のね』
「せいちゃんには聞いて無いと」
『ええ、アナタ次第では事後に話すつもり』
「生かす意味は」
『政治的にはまぁまぁ、日本にとっても、まぁまぁね』
「起こしても」
『ええ、どうぞ』
「起きて下さい、大事な話しがあります。せいちゃんの友達です」
「清一が、清一は、元気だろうか」
「元気です、とっても幸せそう。でも何であんな事を?」
「アイツの為だと思った、本当に。我慢強い子で、無理をさせてしまった」
「幸せも元気も嘘ですよ、なのでこれから殺しに行きます。あんまりにも可哀想、恋人も結婚も、アナタが全部ダメにしたんですよ、お父さん」
「嘘だ、ダメだ、神様に、仏様にも頼んだのに」
「アナタへの罰、せいちゃんへの救い。一挙両得、一石二鳥。せいちゃんが幸せだったら、殺さなかったのになぁ」
「悪かった、頼む、全部、命も何でもやるから、頼む、どうか清一を、あの子を殺さないでくれ、頼む、悪かった私が、全部」
顔をグチャグチャにして涙を流しながら、嗄れた手を必死に合わせて願い請う。
病人をこんなにも精神的に追い詰めて、まさに魔王候補。
お父さん、アナタは見る目が有った。
「駄目、無理、殺しに行きます。今日は入梅の日、もう梅雨です、雨を見る度に、永遠に苦しんで下さいね」
「待ってくれ、頼む、私が死ぬから、頼む、待ってくれ、今、死ぬから」
「せいちゃんが大事ですか」
「大事に決まってるだろう!すまない、頼む、今、死ぬ、頼む」
点滴を外し、ベッドからズリ落ちながら、這い蹲り窓へと向う。
鍵を開けてあげると、手を合わせながら躊躇いも無しに身を投げた。
せいちゃん、こんな復讐で満足してくれるだろうか。
空間を開き、ベッドへ転移させ戻す。
そして脳の病巣を取り除く。
「今回は一旦見逃しますけど、以降は全身全霊を持って、神々に尽くして下さいね」
「清一は」
「大丈夫、幸せに過ごしてますよ」
「頼む、どうか」
「今後はアナタ次第です、そして他の家族も」
「分かった、有難う御座います、有難う御座います」
涙を流しながら、せいちゃんの名を呼び手を擦り合わせ続けている、肺癌の病巣は骨にまで転移している。
そこだけ治してもまた、再び骨へと転移するだろう、けど治す。
せいちゃんへの贖罪はして欲しい、例え本人に一切届かないとしても。
強烈な痛みが消えたからか、痩せこけて嗄れた老人は手を合わせたまま眠った。
『じゃあ浮島へ行きましょう』
月読さんがナースコールを押したので、浮島へと移動した。
一服、うまい。
「ふぅ、スッキリした」
『有難う』
「なぜ」
『だって、せいちゃんの為でしょう?昨日も、本当に助かったわ』
「また試して」
『違うのよ、ココではちょっと、ね』
思草を持ったまま結界に入る、一応小屋も確認。
井縫さんは居ない。
「で」
『私達では、もう制御出来無いの。あぁなってはもう、下手をすれば精霊すら循環装置に組み込まれてしまうの』
「クソでけぇミスしてんな」
『本当に、油断してたわ。せいちゃんにお父さんの事を話さなかった事も関係するの、拡張期とは最も多感で幸せを感じる期間、ある種の思春期と同じ状態になるのよ。そうして次の血族を残し、循環装置となる』
「途中で言えたろうに」
『アナタは鈴藤として近付き、鈴藤を進んで演じてくれた。だから、もっと遅いと思ったのよ、あの子の恋心が芽生えるのが』
「は、眠いからか分からんのだが」
『今のあの子には、全てが綺麗に新鮮に見えてるの、そうして恋心と言うモノに真剣に興味を抱いた』
「んー、循環を遅らせる対価をせいちゃん自らが払ってたのか」
『そう、そして目覚めた。今回は上手く逃がせられたけれど、次はもっと大きな発露になるわ』
「発露の条件は」
『霊元が高まり、恋心を完全に自覚した時』
「はー、取り敢えず定期的に吸い上げるんで、協力して下さいよ」
『ええ、お願い』
「それと井縫さん、せいちゃんの事を知らないですよね」
『普通のお友達をと思ったのだけれど、刺激が強過ぎたみたいね』
「普通って、今引き離したら悲しみますよ、ただ、少しは」
『時期を見て言うつもりだったのだけれど』
「お父さんの事も、せいちゃんの事も言います」
『そう言ってくれると思ってたわ、宜しく、じゃあね』
余りに眠くて、頬のキスへ反応も出来なかった。
もうこのまま
「あっつ」
「おはようございます、外で寝るってどう言う事でしょうか」
「寝落ち、つか薪焚きすぎ」
「嫌がらせです」
「すまんって、薪、しまうよ」
「何を無茶しましたか」
「待てって、計測と一服させてくれ」
「雨ですよ」
「あら」
「裏の軒下に行きましょう」
軒下で一服、計測。
中域。
「ふぅ」
「寝タバコ、本当にガラ悪いですよ」
「元から、疲れてんだもん、仕方無いじゃない」
「何してたんですか」
「月読さんに聞け」
「お話を聞いて上げて頂戴と」
「じゃあ、八咫烏さん」
「酒美味かった、本人から聞けと」
「百合車」
「ムカつく態度で逃げられました」
「嫌われてる?」
「まぁ、出自が出自なんで」
「なんだそれ。トイレ、風呂行く」
何処までも着いて来る、トイレには入って来なかったが。
普通に風呂にまで入って来て、頭を洗ってくれたのは助かったが。
「親がイトコ同士」
「だから何で嫌われる」
「法律では禁止されてませんが、血族的にアウトなんです。1人で何匹も背負う事になるので」
「へー、ん?1匹しか居なかったが」
「共食いです」
「あらー、強い子なんだなあの子」
「少しは嫌がっても良いんですよ」
「何を?」
「もう、バカですか」
「だから何でそうなる」
「懐が深そうなのが嫌なんです」
「深くて広く見えるらしいが、それは単なる勘違い。一時は人間に興味無いのか不安になったけど、ただ良く考えたら、好き嫌いとどうでも良いがチグハグで、普通に人間に興味有るし、普通に嫌いな人も居る」
「じゃあ、例えば」
「自分みたいなの、卑屈で根暗でどうせが口癖で、それに加え何もしない人、楽しい事無いかなとか言う奴マジ無理。顔で判断して対応の差を見せる人。怒鳴る人、口の悪い人、固定観念が変に凝り固まってる人、省みれない、省みない人、自分本意な嘘を良く言う人、利用する人。まだ有るが」
「正義感が強くて、無茶する人が嫌いです」
「へー、正しい正義感なら別に、コッチに押し付け無きゃ良い」
「心配になるんですよ、見てる方は」
「見なきゃ良いのに」
「それが出来たら苦労しないですよ」
「ですよねー」
「自己肯定感が低過ぎるのも、嫌なんです。自分を見てるみたいで」
「自分が好きじゃ無いんでしょうなぁ」
「この出自で好きになれると」
「選んでも無いのに背負うとかアホやろ。親の借金は相続放棄出来るんですよ、それにもう犬は居ないんだから、気にしてどうすんの」
「自分の恋人、結婚相手がそうでも言えますか」
「すまんが上がる、飯良いか、ちゃんと考えるから」
腹も頭も空っぽの状態。
13時、まだ眠い。
服を着て、軒下で昨日の炊き込みご飯と味噌汁を1杯。
美味い、染みる。
でもパン食いたい、出来たら耳無しサンドイッチ。
「もう良いんですか」
「頭回る程度は食った、で、結婚相手だな。子供はどうなるんだろうか」
「1度離れた者には、その血族には憑きません」
「じゃあ良いじゃん、別に普通に。いや、凄い数を相手にしてると知ってる場合って事?」
「はい」
「あー、忍さんは気にしないか喜びそうだけど、ワシじゃろ、んー、そも対象が不適当かと」
「それでもです」
「んんー、比べられたりすると秒でキレるし、自信が無いから常に不安がるだろうし。かなり繊細な作業を必要とする関係になるかと、結婚でも恋愛でも、逆に君が苦労すると思うが」
「仕事で相手をしてても、愛せますか」
「事情による、内容によっては同情するし、なんなら自分が相手で大丈夫か聞くわ、満足させられる自信が無いもの。大トロの良さを知って半永久的にカッパ巻きしか食えないのは愛が有っても地獄かと。カッパ巻きは所詮カッパ巻き、梅だ何だと具材を足しても、大トロの味に近付く事すら無いでしょう」
「カッパ巻きって」
「じゃあ納豆巻き、ワシは好き、魚食えなくなる時有るし、マジ安定。相手は猫山さん?」
「どうしたらそうなるんですか」
「良く知ってる相手で、君が不安になる相手なんて限られてるだろうに。それとも君が猫山さんの旦那さんなの?」
「違います」
「あらー、でも黒子さん全員知らないし」
「腹、鳴ってますけど」
「パン食いたいねん、サンドイッチ、耳無しの」
クソデカ溜め息を吐かれながら、スマホをイジり差し出してきた。
案内された場所へ移動すると、食べ放題もしているパン屋さん。
デカフェの紅茶が有ったので、それとコーンスープを注文、サンドイッチ豊富、卵サンド良い塩梅、ツナも、ミックスも、もう何でもうめぇ。
浮気して取った生ハムパニーニも、後で買って帰ろう。
「で」
「あ、すまん、他に何が聞きたい?」
「もう良いです、それよりなにしてたんですか」
「ココでは言えない様な事」
「じゃあ後でなら」
「言う言う、どうした、監視対象にでもなったか」
「違います」
「怒るなって、君も思春期か?」
「もって、他に誰ですか」
「それも後でな、もう食わんのか」
「男の子の日なんで」
「じゃあ特別に優しくしないとな、待ってておれよ、直ぐ済ませるから」
「是非そうして下さい」
トレー2枚にサンドイッチを山盛りに、紅茶で流し込みながらもしっかり味わう。
うん、ココ好きだわ。
帰りにパンを袋いっぱいに買い込み、コンビニでカフェオレを買ってから公園へ、そして浮島へと帰った。
まだ不機嫌そう。
「先ずは、昨日は治して回ってた」
「聞き取りだけじゃ無かったんですか」
「あ、そうなの?聞き取りから治す流れかと、でも半分よ、全部じゃ無い」
「全員の間違いでは無く」
「全員を半分、時間短縮に百合車と八咫さんに手伝って貰った」
「申し訳御座いませんでした」
「なにが」
「俺が、任せても良いと言われて、何も考えず。良く考えたら無理しても治す人だって分かってたのに、実質連勤にさせたのは俺のせいです」
「別に、良いが。ツライっての嘘だったら」
「それは嘘じゃ無いです、本当に。自分の健康が分けられたらと思ったら、辛かったです」
「今日もその影響?」
「自覚は無かったんですが、多分それも有るかと」
「お、耳飾り無い」
「月読様が預かってます、話しを聞けるまで返さないと」
「無いと不安は良くない、触る癖出てる。依存は良く無い」
「いや、効果より耳飾りが無いのが不安で」
「じゃあ、何か買おう、あの服に合うブランド知らん?」
「なら、コレとか…」
初めてちゃんと素を見た様な。
弱ってる時と言うか、普通の時。
いつもはワザとイキってんの、オモロ。
「何か、弟と思える気がして来た」
「最近の双子は先に生まれた方が、弟ってのが主流らしいですよ」
「1月は離れ過ぎじゃろう」
「超難産」
「マジかぁ、お兄ちゃんかぁ、頼りないなぁ」
「だからこう言う話し嫌いなんですよ、折角像を作り上げたのに」
「せいちゃんの前ではそのままで頼むよ、イキリ兄貴」
「それもなんですけど、やっぱ相性悪いかと」
「幸せ平和ボンボン?」
「どうせ僻みだって言うんでしょうけど、まぁ、半分はそうです」
「君より不幸なら?」
「それって、俺が嫌味な人間みたいに聞こえるんですが」
「え、違うの」
「クソ失礼な後輩」
「ふふふ、さーせん。でもどうなのよ」
「何を知ってるんですか」
「凄い事、ただ、聞かない権利も有る。覚悟も居るし、最悪は本当に死んで貰う事になる」
「殺してくれますか」
「折角だからキリの良い300人目とかで宜しく、友達殺すとかそう無いだろうし」
「そこまで重大ですか」
「おう、で、どうなのよ」
「やっぱ相性悪いかと、自分より不幸な出自とか早々無いんでムカつくかも」
「出自では無い」
「それで不幸って、なら呪われてるんですかね」
「まぁ、近い」
「それなら親近感が湧くかも、多分」
「人身御供なの、いずれ発情期が来る、そうしたらせいちゃんの人生はそこで終わり、日本の循環装置に組み込まれて。多分、自我も何も消える」
「冗談を、聞いた事も無いですよ」
「ね、クソみたいだ。本人は知らない、自身を対価として延命してただけ、でも目覚めちゃったから、神様も精霊ももう抑え込めない」
「マジですか」
「一緒に月読さんの所に行こうか」
浮島から特別室へ。
そして月読さんの部屋へ。
「マジですか」
『そうよ』
「何で。俺だけが、知らないんでしょうか」
『知ってるモノは極一部、黒子なら猫山位ね』
「ほう」
『焦ってるでしょうけれど、ごめんなさいね、コチラの事に巻き込んで』
「いえ、なるようにしかならんです」
「鈴藤さんは、いつから」
「んー、最初は分からんかったけど、直ぐにアマテラスさんから聞いた」
『どう出るか見てみたくて、らしいわ』
「どエライ賭けっすよな」
『そうね、でも勘は正確に働いてくれたわ。アナタは優しいって』
「今朝の見て良く言えますね」
『表面は流し見する方なの、ふふ』
「月読様、鈴藤に」
『大丈夫よ、大概の事は出来るものね?』
「大丈夫、ちょっと懲らしめただけ。あまり苛めないで下さい、井縫さん男の子の日なんですから」
『ほら優しい』
「偶々、気まぐれです」
「俺やっぱり、観上さんと相性悪いです」
「そんな嫌か」
「皆に、愛情注がれてるじゃ無いですか」
『アナタもよ、それをアナタが認めないだけ』
「なんだ、じゃあ君は嫌いだ。どう解釈しても足掻いても、マジで家族から愛されて無かったとしか思えない仲間だと思ってたのに、嫌いになりました」
『ふふ、じゃあもう神の子になっちゃいましょうよ』
「それは無理、帰る」
「向こうになら、仲間が居るんですか」
「いや、愛された人間ばっか。神様とか精霊は別な、マーリンは悲惨だが、また違う」
「じゃあ、なんで帰りたがるんですか」
「君等が嫌いだから?」
「観上さんもですか」
「ちょっとイラッとした事は有った、立ち向かえる相手が存在してるのに立ち向かわない事に。もうね、コッチは相手が死んだも同然なのよ、立ち向かうも何も無いわ。今はもう、暴れてボコボコにしとけば良かったと思う。伝わらないって事をちゃんと確認しとけば良かったって後悔してるから、今すぐそれが出来るせいちゃんにイラつく。でも、何でも立ち向かえば良いってもんでも無いし、優しいせいちゃんが好きだから、そのまんまでも良いと思う」
「好きですか」
「面白くて可愛いじゃん」
『恋愛感情ならもっと良かったのだけれどね』
「帰るが1番なんで、無理っすね」
「何とかなりませんかね」
「精々仲良くしようや」
「嫌いなんじゃ無いんですか」
「なんだよ、君が先に沖縄で嫌いって言ったんだろうに」
「そ、自分自身に言われてると気付いてるなら言って下さいよ」
「なぜ」
「こうやって後から指摘されると気まずいからです」
「なんで?」
「本当に嫌いになりますよ」
「それは困るなぁー」
「月読様、俺にも嘘を見抜ける」
『ダメー、耳飾りだけよ、はい。黒子が道具に頼っちゃダメよ』
「そうだぞ、バカ井縫」
「アンタも良い性格してますよね」
『失礼します』
『せいちゃん、入って』
『あ、おはようございます、少しご相談が』
『お父さんの事ね』
『はい』
「井縫さん、席を外しましょうかね」
「おう」
『忙しく無ければ、井縫さんも、鈴藤さんにも聞いて欲しいんですが』
「良いよ、病気のお父さんだっけか」
「聞いて良いなら」
『病気が脳にまで転移してまして、どうやら大騒ぎしてるらしく、面会要請が来たんです。私はもう籍を抜けてるんですが』
「誰からの要請なん」
『長男です、顔だけ見せてくれれば良いと。もう、そろそろなんですかね』
「恨んでるんじゃろ、向こうは勝手に苦しんだらええが」
『会わないまま後悔すれば良いと思ってたんですけど、ちゃんと話しを聞くべきかとも思いまして』
「酷い雑音だけかも知れんよ」
『反対ですか?』
「おう、せいちゃんが傷付くのは嫌だもの。過去に置き去りにしたり、忘れ去って良い事も有るし」
「どうなんですかね、死んだら話しも何も出来無いんですよ」
「話す必要無いなら話さない方が良いべさ」
「なら相談に来て無いんじゃ無いですか」
『そうなんですよね、初めての事ってだけじゃ無くて。ちゃんと聞いてみたいなって』
「望む答えどころか、最悪のパターンだって想像しないと。マジで歪むよ」
「でしょうね、その点で言えば会うことには反対です」
『鈴藤さん、井縫さんにお父さんのお話は』
「したはず」
「うっすら」
『私もその話しを聞いて、それを聞いたら、もう多分、コレ以上の最悪って無さそうだなって、思っちゃったんですよね』
「ひでー」
『すみません。本当に、想像では無く実体を持った父親と、先ずは会って対峙するか決めたいんです』
「予習なら反対しない」
「俺は、まぁ、嫌な事が有ったら酒飲ますだけなんで、それには付き合います」
『ありがとうございます』
『じゃあ善は急げ、病院は分かってるの?』
『はい、部屋番号も送られて来ました』
「そっか、いってら」
『一緒に来て貰っても、良いでしょうか』
「えー、どうしよかなー」
『良いじゃない、行ってらっしゃい』
「じゃあ俺も、不幸の見物に」
『是非お願いします、何か有ったら笑い者にしてください』
御簾を借り、楠に変身。
そうして3人で病院へ。
こうもココに来るのが早いとは、会ったら脳みその修復手伝うか。
今朝来た部屋とは別の場所、極普通の一般病棟。
消毒液に汚物の臭いが混ざる、老人が多い病棟なのだろうか。
せいちゃんが親族らしき人と挨拶している、奥さん若くて美人。
「ゲスい話で悪いが、自分より遥かに若いの娶って心配にならんのかね」
「相当の自信家か、それも含めてかも知れませんね」
「マジか、考えられんな」
『どうしたんですか、どうぞ』
「何でも無いわさ、お邪魔します」
「失礼します」
『清一ですが、お呼びでしょうか』
「清一、無事か、生きてるんだな」
『はい、今は健康そのものです』
「夢を見たんだ、お前を殺すと脅す若い男の夢でな。何遍謝っても、お前が可哀想だから殺すと、だから頼んだ、私の命でと。でもダメだったんだ、受け取って貰えなくてな、まだ生きてる、だから、心配だったんだ」
話しの間に脳の修復を促す、血流を増加させ変形していた脳の位置が元に戻るのを手伝うが。
今朝より修復スピードが遅い、せいちゃんと会えて死んでも良いと思ってしまっているらしい。
もう少し生きて苦しんで欲しい、もし循環が失敗したら、そこで後悔しながら生きて欲しいのに。
『随分、お元気そうで』
「あぁ、その夢以来頭がスッキリしている。昔、お前にした事も、全部。後悔している」
『後悔で時間は戻りません、帰っても来ません』
「そうだな、そう思う。お前、恋人や結婚相手はどうなんだ」
『出来ると思いますか、あんな事も会ったのに』
「邪魔するつもりは無かったんだ、本当に。兄さんに聞いてくれ」
『それでも』
「今更信じてくれとは言えないが。資料は残してある、お前に渡す、見ずに処分してくれて構わない」
『受け取るだけは、受け取ります』
「あぁ、思い出した。楠と言う子が居るんだろう、可愛い子だと聞いた」
「お、どうも、楠です」
「あぁ、君がそうか、そうか、綺麗な髪だ」
「良く言われます」
「あぁ、愛想の良い子は良い、どうだ、ウチの息子に。清一と言うんだが、良い子なんだ」
「そうですか、お優しいお子さんで?」
「あぁ、優しい子でな、ちょうどそこの人位に良い男なんだ」
「あら、素敵」
「そうだろう、体が弱くてね、大変だったんだ」
「心配でしたでしょうね」
「あぁ、本当に、後悔している、良くしようと、苦しませてしまった」
「謝りに行きましょう」
「出来ない、恨まれていると分かってるんだ、だから、忘れた方があの子の為なんだ」
「お優しいんですね」
「あぁ、愛想の良い子は良い、どうだ、ウチの息子の清一に」
「是非、ご紹介下さい」
「私からは出来ないが、そうだな、後で長男に連絡させようか、それとも、そうだな、清一の番号を渡そう、番号を変えないでくれてる優しい子なんだ」
「はい、紙とペンです」
「ありがとう。コレに、何を書けば良いんだろうか」
「清一さんの電話番号です」
「あぁ、あの子は良い子なんだ」
「イケメンさんですね」
「あぁ、そこの人位に良い男でね、優しい子なんだ」
「愛してらっしゃるんですね」
「当たり前だ、命に変えたって良い」
「羨ましいです」
「そうかそうか、愛想の良い子だ、きっと清一が大事にしてくれる」
「だと良いんですけど、見守ってて下さいね、結婚するんで」
「そうか、式に呼んでくれるだろうか」
「勿論、説得しますから元気になって下さいね」
「あぁ、ちょっと肺炎になっただけだ、大丈夫。愛想の良い子だ、清一を、宜しく頼むよ」
「はい」
話し疲れたのか眠ってしまった。
重い沈黙の中、2人が扉へ向いたので。
奥さんに1礼し廊下を歩く。
せいちゃん泣くと思ったけど、恨み強いな。
殺しとけば良かったかしら。
『ありがとうございました』
「浮島行く?」
『はい、お願いします』
「俺、戻って観上さんの家に車置いて来ますよ、ゆっくりしていって下さい」
『ありがとうございます』
車の中から浮島へ。
今日は木陰のベンチから海を眺める。
スベスベのお布団を渡すと、何も言わずに受け取り包まった。
「泣きますか」
『今までの自分の怒りに失礼な気がして、どう泣けば良いかも、どう受け取ったら良いかも分からないんです』
「昔の記憶と違いますか」
『いいえ、妄想だと思っていた父親そのものでした』
「想像の逆が来ましたか」
『ですね、この怒りは何処へ向ければ良いんでしょう』
「ソレはソレ、コレはコレ。事実には怒って良いかと、善意で人を殺しても、殺しは殺し。善意は善意」
『楠さん、凄く優しかったですね』
「いつも優しいよぅ」
『もっと辛く当たってくれるのかと期待しちゃいました』
「それはもう鈴藤でやった」
『じゃあ、あの夢は』
「マジで実行した、躊躇い無しに窓から落ちて感心しちゃった」
『私を殺すんでしたっけ』
「嘘よ、せいちゃんにお願いされない限りは、せいちゃんを殺さないよ」
『可哀想とも』
「それは半分本当、親に辛さを分かって貰えないのは、子供にはツライでしょうよ。もう半分は、ウブだから」
『さっきの話し、聞いてくれますか』
「どれだ?恋愛系?」
『もう親元を離れるってなった時に、好きになりそうになった時が有って、父親が割って入ってダメに』
「向こうも本気で好きなら、それでも来たんじゃ無いの」
『それを認めたく無いんですかね、何か、反抗期みたいですよね』
「必ず有るらしいよ、んで若い方が良いって、お祖母ちゃんが言ってた」
『経験談なんでしょうね』
「親戚の伯父さんと、今思うと、多分母ちゃんの事だと思う。勘弁して欲しいわ、子持ちで反抗期」
『書類、見た方が良いですよね』
「イヤ、絶対に見ない方が良い、止めとけ、良い事無いぞ。破棄しよう」
『凄いですね、そう言われると意地でも見たくなっちゃうんですから』
「見て上げるよ、で、口頭で説明する」
『駄目ですよ、私が先です。取りに行っても?』
「良いと思うが、楠で行く?結婚するんだし」
『多分、あの調子だと覚えて無いでしょうし、大丈夫ですよ』
「遠慮するなってー」
『それこそ不吉な事を言う様で申し訳無いんですが』
「大丈夫、意地でも帰るから。でもまぁ、困ったら挨拶に行くわ」
『困ったら、お願いします』
「あいよ、実家何処よ」
『えっと、長男は別で、地図だと……』
永田町へ1本の沿線、程々の高級住宅街。
鈴藤に変身し、偽装と隠匿の魔法を使い、付き添い。
ほんの少し緊張しながらインターホンを押すせいちゃん、可愛いな。
生憎と長男さんは居なかったので、玄関先でのやり取りとなったが、奥さんが金庫から書類を出し渡してくれるとの事。
長男さんの奥さんも美人、面食い一家だ。
書類を受け取り近くの公園へ行き、浮島の小屋へと入る。
黙読から、クソデカ溜め息を吐き出した。
「1本どうですか」
『頂きます』
裏の軒下で一服。
「別に言わんでも良いよ」
『いえ、話させて下さい』
「ほう」
曰く、ハニートラップだったと。
父親では無く、義母の手書きのメモに経緯が書かれていたそう。
最初は月読さんの助言で調査が始まり、某国からの間者で有ったと発覚。
もう既に親子間での関係が拗れていた為、どう伝えるか相談し合った。
ただもう既に自棄になっていた父親が、自分が伝えると言って書類を持って出てしまったと。
足が早くて困る、と最後に書かれていたらしい。
『私、学習してませんよね』
「ガキの頃でしょう」
修復させようと一応試みたのね月読さん達、偉い。
それと、これが本当なら良い後妻さんだと思う、まぁ、明らかに古い紙と色違いのペンだから、本当だとは思うが。
『あの、出来たらボコボコに言って欲しいんですけど』
「あぁ、甘酸っぱい初恋が脆くも崩れ去って可哀想ですね、でもどうせ、もう20年もしたら皆が皆、初恋の人に幻滅する時が来るんでしょうけど」
『初恋だったのかすら怪しいですけどね、その前に終わった感じなんで』
「だから奥手なのか?」
『ストレートな、まぁ、そうかも知れません』
「井縫さんが知ったら、誂うかなぁ」
『誤解が生まれる前に自分で言います』
「遠慮すんなって、言い難いだろう?言ってやるよぅ」
『あ、待って下さいよ私、自力じゃ降りられないのに』
「まぁまぁ、待ってなさいよ」
『ダメですってばもう、絶対変に言うじゃ無いですか』
「信用無いなぁ。大丈夫だって、初恋を引き裂かれたから反抗期が続いてるとか、失恋から奥手になっちゃったとか言わないから」
「ほう」
『もう、どんなタイミングで来るんですか井縫さん』
「まぁ、そう言う事です」
『違いますってば』
「そう言い切れる根拠は何よ、論拠は」
「つか資料見て良いですか」
『あ、どうぞ』
「ワシには」
『追々で』
「で、論拠は」
『憧れとか、初めての女性の友達だって喜びの印象が強くて』
「ヤれるかヤれないかで言うと」
『それは、そう言う事を考えなかった年なんです』
「観上さん、高校生でそれはウブ過ぎますよ」
「ひゅー、ウブー」
『もー』
「マジで言うと、ヤバいっすよ観上さん、どうしたらそんなウブ道を歩めるんですか」
『どうもこうも、女性から無視されがちだったんです、居ない扱いって結構キツイんですよ』
「どうしてそんなに相手にされなかったんですか」
『分かんないですよ、呪いか何かみたいらしいんですけど、最近それが外れて』
「全部、綺麗に見えちゃうんよな、せいちゃん。だからまた気を付け無いと」
「あのホテルの時も、そうなんですかね」
『いや、分らないですけど、多分、そうかと』
「盛りの付いた高校生の視点か、ウブめ」
「ですね、気を付けて貰わないと」
『もー……ぶっちゃけ言いますけど、普通って、どんな感じなんでしょう、どう世界が見えてるんですか?』
「ワシ変だから分らーん」
「基本は白黒で、興味の有るモノだけに色が付いてるとか。映画の手法で有りますよね」
「あー、全部極彩色なんだが」
「変な薬物摂取してませんか」
「して無いして無い、ただマジで白黒の世界が分らん。夢も最初から色が有ったし、どう達観したらそう見えるのか興味有る。余分な情報処理しなくて良さそうじゃない」
「興味無いモノの色を省けば良いのでは」
「それで死んだら嫌だから無理」
「死にたく無いから見えるんですかね」
「死にたくても見えるでしょう、あそこで死ねるとか、アレは辛そうだから止めとこうとか」
「どんだけ死ぬ事考えてるんですか」
「生き苦しかったんだもの、仕方無いじゃん」
『病弱だと、そうなっちゃうんですかね。凄い辛い時、死んじゃいそうって良く思ってましたし』
「コイツ、健康優良児だったんすよ」
『えー、良いなぁ、羨ましい。遠足とか楽しかったですか?辛いって記憶しか無いんですけど』
「いや、まぁ、辛いけど楽しいと言うか」
「ほら、あーあ、健康優良児だと白黒かぁ、羨ましいわぁ」
『ですね、もう子供に戻るなんて無理ですし』
「鈴藤さん夢で子供じゃないですか」
「あのまんまよ、見えてる世界」
『綺麗だったんですね、私なんて襖と障子と天井ばっかですよ』
「それ言ったら病院の天井とベッドと廊下よ、だから外が新鮮で。だから、空が見えない病室だったからかも、目の前団地だったし。後は共用の小さいテレビとか、消毒液のに、井縫さんダメージ受けたか」
『どうしたんですか?』
「慰問で病院回ったらしくてさ、大ダメージよ」
『あぁ、変な事言いますけど、病院と病気には慣れといた方が良いですよ、ウチの父なんて倒れてから病院で目覚めた時に、大暴れしたらしいですから』
「父と認めますか」
『ですね、汚点と言うか、行き違いや善意の間違いなんですし』
「寛容だと井縫さんに嫌われますよ、なんせネジくれて捻くれてるんで」
「そうですよ、心広いアピールとかマジウザいです」
『昔の自分が、そう思ってそうですよね』
「あぁ、全部許すは無理でしょうよ」
『また今度顔を会わせる機会が有ったら、絶対に嫌味が出る自信がありますし』
「アレ面白かったなぁ、マジで嫌味言うせいちゃん新鮮だったもの」
「ですね、それと楠さんも。凄い優しい感じで、一瞬誰かと思いましたよ」
「まぁ、クソ追い詰めた張本人なんですけどね、泣いて手を摺り合わせて拝んでたし」
『私が可哀想だから殺すらしいですよ』
「何をしたんですか」
「口で脅しただけ、アナタのせいであの子が不幸せだから、殺してアナタを苦しめるって」
『それなんですけど、まさか治して無いですよね』
「より多く苦しんで貰う為に脳の病巣と骨のは取り除いた、でも脳はね、元に戻らないかもしれない」
「アレ、凄いダメージ来たんですけど、よく対応出来ましたね」
『すみません、私が誘ったばかりに』
「いや、俺が行くって言ったんで、後悔はしましたけど。慣れてますよね」
「お祖母ちゃんがあんな感じになりかけて、色々試して遊んでただけ」
『ありがとうございます、私なんかの為に』
「それ、鈴藤も楠も嫌いらしいですよ。なんか、って言葉」
「ね、同族嫌悪よな」
『鈴藤さんにも、そんな気持ち有るんですね』
「一寸の虫にも五分の脳みそは有りますし」
「魂ですからね」
『信用して無いワケじゃ無いんですけど、あの昔話しは本当の事なんですよね?別に悪い意味じゃ無くて、なんと言うか、鈴藤さんには陰が無さ過ぎて』
「薄暗い過去が有るからって根暗になると思うなよぅ」
『それもそうなんですけど、寧ろ楠さんの方がしっくり来ると言うか』
「あぁ、実は双子の片割れなんですよ」
『え』
「1卵性の男女の双子、クソ珍しいらしい。だからアレは花子の記憶、ワシは別に何も言われて無いからこんなんよ」
「はいはい、マジで隣人症みたいな事言わないで下さいよ、どう足掻いても同一人物じゃないですか」
『そうですかね?』
「本当に頭の悪い人ですよね、どうしてそんな固定観念にしがみつくんですか」
「まぁまぁ、固定観念の全部が全部悪いでも無いし」
「だから、前にも言いましたけど固定観念に縛られてると分かった時点で、改めて全てを考え直すべきなんですよ」
「ごめんなせいちゃん、男の子の日なんだわ。あのね、楠が本来だと思わせたいのは分かったけど、本人が利点が無いと判断しての事なんだから、別に良いじゃない」
「楠の人格否定も同義じゃ無いですか」
「別に死なんし」
「死ぬかも知れなかったらどうするんですか、そのせいで変化出来ないんじゃないんですか」
「その程度で死ぬなら何しても死ぬでしょうよ」
『楠さんが、本来の性別って事ですか』
「例えばよ、例えば」
「そうだったとしたら、マジで酷い事してると思わない頭の悪さにイライラするんですよ。その無神経さ、誰も何も言ってくれ無かったんですかね、本当に友達居ました?」
『それは鈴藤さんが』
「そうやって他人のせいにして、自分で責任負う気が無さ過ぎですよね。こんだけ甘々に育てられて幸せだったってのは分かりましたけど、自分で判断出来ないんですか?他人に頼ってばかりで、本当に良く生きて来れましたね」
「機嫌が悪過ぎる、自分の生い立ちと比べて何が楽しいの」
「鈴藤さんだって比べてますよね」
「比べて比較して、自分の生い立ちの判断をしてるだけ。ここは普通だなとか、ココは異常だなとか。羨ましいとは言うけど、別に本当に羨ましいと思えた事が無い、自分にとっての羨ましいは素敵ですねの変形に過ぎない。だけど井縫さんの比べる意味は何よ、自分が不幸だって証明に過ぎないでしょうよ、違うなら反論してみい」
「確かにそうかも知れませんが、そんなに頼られて嬉しいですか」
「おう、でもだからってせいちゃんを甘やかしてるワケじゃ無い、居なくなるからそれの下準備をしてるだけ、終生活動みたいなもんよ。どうした和尚、気に中てられた?」
「自分が好きだと思う人が、蔑ろにされるのが嫌なんです」
「君も良い育ち方してると思うけどな、迦楼羅さんの教育が良かったんだろうね」
『あの、楠さんが本来なら。私、殺されるべきかと』
「深刻、だがそれは普通の女の子ならでしょう、前提に不備が有ります、やり直し。で、井縫さん、尊敬してくれるのは有り難いんだが、マジで普通の人間だから勘弁してくれ無い?せいちゃんのお父さんを苛めて少し気持ちがスカッとしたし、完治させりゃ良いのに周りの意見に流されて半分しか治さなかったりで、どう見ても立派な人間では無いのよ。迦楼羅さんの方が絶対立派なのは間違い無いんだから、無暗によそ見しなくてもそのままで良いと思います。反論は認めません」
《ふふふ、子育てはほんに大変じゃのう》
『そうじゃな、思う様に育たんは何でも同じじゃのう』
「助けてくれ、コイツら面倒い」
《そうじゃな、先ずはワンコや。両親がお前を捨てたのには理由が有るとは思わんか、それを直視せんのは結局は、清一と同じでは無いのか?》
「まぁ、特段の理由も無く捨てるのも居ますけどね」
《それでもじゃよ、見ようとして見るのと、見ないフリを続けるとはワケが違う。同じ場所に立ちたいなら、同じ目線に立たねばならんよ》
「まぁ、しゃがんで貰う立場ですけどね」
《ふ、それから清一、しがみつくのは安心するじゃろうが、その支えが急に崩壊した時に人は闇に落ちる、そう言った人間を見て来たろうに。複数の支えが無くては他人様も不安に思う、視野の広さは心の広さ、見え方が変わり戸惑うのは分るが、改めて見直し考え直すのは無駄では無いと思うぞ?》
「良いお言葉、流石です」
《それと最後にお前じゃ》
「えー、流れ弾やん」
《本命はお主じゃ馬鹿者め、油断しおって》
「逃げて良い?」
《咲に捕まえさせるが良いか》
「ぐぇ、しんどい」
《どうせマジで面倒だからそろそろ去るかとでも考えておろうが、もう既に貴様の思考は月読によって読まれておるわい。居場所もな、行動範囲の小さいお前の事だ、どうせあの医者の所に逃げ込もうとしておるんじゃろう、だがな、余計拗れる》
「なんで」
《だから馬鹿と言われるんじゃ馬鹿者、急に人が離れたらどう思う》
「あぁ、興味無くしちゃったか、嫌われる事したかな、自分が悪いのかも、って凄い悩んで1ヶ月後には好きな本読んでる」
《清一ならどう思うと》
「さぁ、死なないなら別にどうでも良く無い?」
《それは普通じゃ無いぞ》
「そこは別に普通じゃ無くても良いでしょうよ」
《向こうに戻ってもそうやって隠居するつもりじゃろう、この魔王候補め》
『は』
「馬鹿、それは」
《阿呆、だから魔王候補なんじゃろと言っておる、他人様が不安がると何故分らん》
『ちょっと、魔王候補って』
「すまんね、1でね、マジだ」
『井縫さん』
「知ってました」
『字面からして不穏なんですが』
「大変不名誉らしいが、結婚も何もする気無いし、別に良いかなって」
『いやいやいや、魔王って悪者って事ですよね?』
「まぁ、詳しく言うと。大罪を生み出したのが魔王と言う事になってる、今は大罪は無害所か有益、ただ国の事情から制限は有るみたい。で、その魔王を人間にしたのがワシで、他の大罪とも仲が良いし、その大罪を毛嫌いしてる国がワシを不安がってる、大罪や魔王と同じ様に毛嫌いする土蜘蛛族を取り込んだのもあって、不安から脅威判定的に魔王認定された。こう言うとすげえなワシ」
『それだけで、ですか』
「治癒魔法を使う最後の人間が死んだ、それと同時に転移したらしい。雷電魔法も廃れてる。医学も科学も発達してるから。だから、子孫か何かは作らないといけない可能性が有るが、医療が発達してるんで、まぁ、人工授精で他人に育てられるかと」
『そんな所に、戻りたがってるんですか?』
「おう、だって健康にしてくれて、魔法まで使える様にしてくれたんだもの。皆優しくて、良い人で、それを眺めてられたら、それで良いし」
『何で言っ、言ったら反対されると』
「まぁ、反対されても帰るけどね、最悪は召し上げ制度も有るし」
『それは』
「神様が気に入ったら、その神に近い存在になれる。候補はロキ、娘さんと仲良くさせて頂いてる」
「俺は、召し上げの意味が他に有ると思ってるんですが」
「嫁婿的なね、まぁあのロキなら何も気にしないだろうし」
『は、何で何も、いくら安全の為とはいえ』
「鈴藤さん、観上さんに事情は話したって言ってませんでしたか」
「言いましたけど、全部とは言って無いが」
「すみませんでした、全部知ってるのかと」
『いやいやいや、コレを知っててアレなら、イライラするのも仕方無いかと』
「いえ、俺も先走って、確認すべきでした」
『帰したく無いですよね、女性だったとしたら余計に』
「はい、引き籠もるか、妊娠させられ続けるかもとか。有り得ないですし」
「あれ、すまん、ワシのせいか」
「俺もですけど。ぶっちゃけ、そうです」
『はい』
《ほぅれ》
「すいませんでした」
仲直りを兼ね下界に降り、遅めのオヤツタイムへ。
咲ちゃんに案内して貰った喫茶店へと向かう、せいちゃんがいたく感動して通う宣言までした。
今日のセットは焼きタラコお握り、茄子の揚げ浸しおろし付き、甘い卵焼き。
小腹にピッタリ。
あんな話しが有ったのに、オーナーさんに興味が有りそう。
面食い一族なのに、普通で可愛い感じが良いらしい。
『良いなぁ、近所に欲しい』
「オーナーさんごとでしょうよ」
『明るくて良いとは思いますけど』
「まぁ、楠がもっとふくよかに、女性らしくなったら、あんな感じかと」
「えー、そうかー?楠はもっと目つき悪いぞ?」
「殆ど鏡見ないくせに」
「うるせぇな、井縫さんと違ってナルシストじゃ無いんですわ」
「最低限の身嗜みの話しです、眉毛、前髪で隠れるからって良くサボってますよね」
「良いじゃんか、大して見えないし、見られるワケでも無いんだし」
「ほら、楠の言い訳がスラスラ出るんです」
「また誘導して」
「協力してるんですよ、楠のイメージ足りなさそうなんで」
『助かってますよ、有難う御座います』
「素直に好意擬きを受け取るな、流され野郎のあんぽんたん」
「また来てくれてありがとう、名前なんだっけ?」
「鈴藤紫苑です」
「字は?」
「すずふじむらさきえん。鈴、藤、紫、苑です」
「あー、良いな、カッコイイ綺麗な名前、羨まし」
「オーナーさんのお名前って」
「田中、潤子。固くて少し古い感じでしょ、名前マジ似合わないし」
「確かに、明るいから明子の方が良いかも」
「それに改名しちゃうかな、このお2方はお友達?」
「いいえ、ただの仕事仲間ですよ」
「お兄ちゃん酷いなぁ」
『友達って言ってくれたのに、悲しいですね』
「ふふ、仲が良い事で。ねぇ、お2人さん、本当にこの人も警察関係?見えないんだけど」
「あぁ、実は犯罪者です」
『違いますよ、ただの情報屋です』
「あぁ、通りでチャラい」
「嘘ですよ、マジでほら」
「えー、見えなーい」
「良く言われますぅー」
「ふっ」
『なんかお2人って、似てますね』
「実は生き別れの兄弟が」
「姉さんなのかい」
「生きてたのね弟よ、あ、呼ばれちゃった、またね」
「なんか一瞬キャバクラに来た感覚が甦りました」
「わかる」
『こんなに楽しいなら、行ってみても良いかも知れませんね』
「お、視野を広げますか」
「今日、行きますか。お姉ちゃん、注文したいー」
「はいよー、待っててー………はい、はいはい、ご注文で」
「お持ち帰り、コレ3つ。後お姉ちゃん、良いキャバクラ知らん?」
「ワシ良く誤解されるんじゃけど、お水未体験なのよ、女子が行って楽しいお店なら案内出来るけど」
『え、女性でも行くんですか?』
「おう、男の先輩に誘われて、楽しかったから地元も一通り回った」
「じゃあオススメお願い、後、そのままお会計で」
「あいよ、ちょっと待っててね」
「なんか、マジで似てますね」
『実は楠さんなのでは』
「無い無い、楠あんなに明るく無い」
『そこは鈴藤さんと言うか』
「軽妙に軽口が出る感じですね」
「ただ合わせてくれてるだけでしょうよ」
「何か、興味が湧いてきましたね」
「咲ちゃんのお気に入りで良いなら、どうぞ」
『ご好意が?』
「友情と親心」
そうしてお持ち帰りのお握りと、お会計が出来上がるまで神様談義となった。
結論は、良く分らん、で落ち着いた。
「ありがとね、はいウチの名刺、裏にキャバクラのお店の名前と電話番号書いといた。お会計はコレね、紹介料込み」
「わぁ、安いなぁ、ありがとうございますぅ」
「良いのよ弟、しっかり楽しんでらっしゃい、アナタならゲットも可能なハズ」
「はい、行って参ります」
敬礼し、そのままお店へと向う。
マジ近所やん。
時間短め、女性多めの、面白い子中心でと井縫さんがリクエスト、配慮凄いし慣れてるし。
まぁ、せいちゃんにはこの位で良いのかも。
女の子の自己紹介からお酒へ、井縫さんはお酒が弱いと嘘をつき、せいちゃんも同意、自分は飲めると宣言した。
《お酒、弱めに作りますね》
『あ、いや、出来たら自分で調節したいんですけど』
『どうぞどうぞ』
《初めってって聞いたけど、マジでウブっぽいですよね》
《初めてが私達で良いのかなぁ》
「勿論ですよ。ねー、マジウブちゃん」
《《キャー!》》
『でも潤子さんの紹介なんですよね』
《ね、きっと向こうに直ぐ奪い返されちゃうわね》
「潤子さん、結構通ってるんですか?」
『忙しいから今は月1程度です』
《毎週どこかを回ってる感じね、地元の子なのよ》
《流行り病の時は毎週ね、あ、でもお金とお弁当だけ置いてね、向こうも仕事が有るから》
《あー、お握り食べたい、今日食べ損ねちゃったんだよね》
「持ち込み有りなら上げれるのになぁ」
《マジ、もう内緒にしとくから1個頂戴》
《えー良いな、私も》
『梅』
《鮭は有るかしら》
「凄いモテてる風」
《モテるモテる、お兄さんマジモテるでしょう、恋人は?》
「早くない?まだ1杯も飲み切って無いのに」
《良いじゃん、どうせ通い慣れてるでしょ》
『うまー』
《ねぇ、出前で頼んでくれ無い?お願い》
「俺、キャバクラでお握り強請られたの初めてですよ」
『メニューに有るんですか?』
《潤子ちゃんの知り合い限定》
『裏メニュー』
《馴染みじゃ無いとビックリされちゃうから》
《ねー、美味しいのに》
「そんな特別に美味しいって言うか」
「ね、隣のオバちゃんの家の味」
《それが良いんですよ》
《ウチ養護施設出だし》
《私の親の味に似てる》
『贅沢だけが幸せじゃない、健気な女が装える』
「本音漏れてるぅ」
《ふふ、マジでお腹空くと脳みそラジオ流しちゃうの、この子》
「あー、疲れてるとなる奴居たわ」
『マジで最悪は払うんで、良いですかね』
《出す出す》
《お願い出来るかしら?》
「どうぞどうぞ、頼めるだけ頼みましょ」
『愛してる』
「俺も」
《早いぃ、せめて来てから言わないと》
《もう食べた気になって、ふふ》
《すみませんね、こんな感じなんですけど大丈夫ですか?》
『あ、はい、楽しいです』
「カッチカチじゃないですか、トラウマになり過ぎですよ」
「実はそこの先輩」
「酒に薬盛られちゃったんですよ、最近」
《あぁーだから、良いですよ全部自分で作って頂いても》
《そうですよ、お酒だって、全部この人が飲んでくれそうだし》
『私も飲めますよ』
《ボトルキープも出来ますから、気にしないで下さいね》
『はい、ありがとうございます』
《もー、超、可愛いんですけど》
「いじらしい」
『それ、いじらしい』
《なにそれウブいと出るオーラ?ズルいわぁ》
《ウブウブ言っちゃ可哀想ですよ、ほら、真っ赤》
『マジ可愛いんだけど、何この生物』
「でしょう」
《良いなぁ、お友達で楽しいでしょう》
《実は恋人だったりして》
《え、やだ尊いんですけど》
「腐女子の匂いがしますな」
『腐女子は駄目ですか』
《眼福、眼福》
《私は百合派》
《両方で良いじゃない》
「何か、既視感が、知り合いに似てるかも」
「井縫さん、今更ココでナンパの手口をせんでも」』
「いや、マジで、テンションとか、ね、観上さん」
『あぁ、もう1人の仕事仲間に似てるんですよ』
「楠さん、呼びますか」
「おいやめろ」
《女の前で他の女の名前出すなんて酷い》
『女って言ってない』
《マジ尊い4角関係?》
《この言い方は女の子ね》
「一応、戸籍は女ですね」
《ほらー》
《どんな女の子なのかしら》
「そこの子に似てる感じですよ、言葉のチョイスも」
《ご職業を聞いても?》
『待って、当てたい』
「じゃあ、当たったらシャンパンで」
「井縫さんノリノリやんけ」
《んー、政治系?》
「ぶー」
《法律関係かしら》
「それは観上さんのせいでしょうね、残念」
《えー、サラリーマンは、あ、外資系、銀行?》
『それは鈴藤さんの事ですよねぇ』
『まさか、警察関係』
『凄い、勘が良いのまで似てますね』
『いや、皆が大体の言ってくれたんで』
「でもドンピシャは凄いですよ」
「潤子さんに疑われたのに、凄い、結婚しましょう」
『あ、シャンパンのリストです、どうぞ』
《こんな感じだから珍しがられるんですけど、意外とチヤホヤされ慣れてるのよねー、良い子良い子》
《甘いのが良いなぁ》
《今月初だーやったー》
『まぁ、珍獣ですよ珍獣、珍獣ハンター意外と多い』
「くっ、楠のっ」
『彼が本気で笑ってるの初めて見たかも知れません』
「だね、井縫さんのツボが分らん」
『聞きたいんですけど、何が良いんですかね、キャバクラにワーキャーしに来たのに』
《緩急かしらね》
《でも楽しくなるとちゃんとテンション上がるじゃない》
《だから飲ませちゃうのよねお客さん、上手いやり口》
『是非皆さんも』
《無理無理、顔がキツイからそのテンションだと不機嫌に見られちゃう、笑顔もここまでしないとだし、じゃない?ほら》
『確かに』
「ですよね、俺も言われるんで分かりますよ」
「イケメンと美人さんの辛いとこですな」
《穏やかな感じが良いのよね》
《家に遊びに行くと、なんか眠くなっちゃうんですよ、彼女の家》
『何も無いからじゃない?』
《本めがっさ有るじゃんよ》
《マンガとアニメが好きなんですよ、流行前に勧めてくれるんで助かってるわ》
《凄い泣けるの仕事前に持ってくるんだもん、意地悪》
『泣ける言うた』
《だって号泣レベルと思わないじゃんよう》
《永遠のあなたへ、読みました?》
《思い出してまた泣けそう》
「せいちゃん知ってる?」
『今度電子書籍でまとめ買いしようと思ってたんですよ』
「鈴藤さん、観上さんが読んでるのを横で観察しましょうか」
《えー、私も》
『それを見ていたい』
「ぶふっ」
『もー』
《おしぼりお願い》
《そんな似てるんですか、その子と》
「顔はコッチの方が超可愛い」
『直視はちょっと、自信無いんで止めて貰って良いですかね』
《口説くの早いですってばぁ、まだ素面同然なんですから》
《あー、まだ飲み足りないから真っ赤にさして、責任取って下さいね》
《おしぼりどうぞ》
「すみません、どうも」
『なんか、もっとギラギラして、際どいやり取りがされてそうなイメージだったんですけど、そうでも無いんですね』
《今はグループですからね》
《単独になるとエグいとこはエグい》
《チャラ男さん腕失礼しますね、もうマジな子はこんな感じで、こうですよ》
『接待だと、こう』
「ほらせいちゃん、両手に花ですぞ」
『良かったですね』
『やっぱり尊い系男子か』
「コレはせいちゃんが悪い」
「実は俺達」
「兄弟なんですー」
「そこは恋人とか言いましょうよ」
《えー、見えなーい》
《それこそ潤子ちゃんの方が似てるわよね?》
《何かよく似た感じの友達かなー位》
『もしや違う意味の』
《《キャー、拝まないと》》
《すみません、イケメンさん達見るといつもこうで》
『でも実際に来て頂ける方も居るんですよ、意外と』
《ね、お似合いですねって喜んでくれる方はそのまま、軽いボディタッチすら無しで過ごして頂きますから》
《そうですよ、もしそうならちょっと表現して頂ければ構いませんし》
《ね、どっちにしたってお客さんはお客さんですから》
「気を使われてるぞ、せいちゃん、それはつまり違うならどの子が好みか言えとの事かと」
『短縮してくれて助かりますチャラ男さん』
『え、あ、私は女性が好きな方なんで』
「で、どうなんですか観上さん、ココで女性を喜ばせるのもマナーですよ」
「そうそう、俺はお姉さんかな」
《ありがとうございます、おっぱいかしら、顔かしら》
「両方、全部」
《嬉しい、でもどうせ遊び相手なんでしょう?》
「実はもう既に心に決めた人が」
「だからですか、他の同僚に誰にも興味無さそうだって言われてるんですよ、コイツ」
『言われてましたねぇ』
「心外だなぁ、こんな興味津々なのに」
『胸の』
「弾力に」
「ふっ、そこの掛け合い止めてくれませんかね、俺からしたら鏡で漫才してるみたいで」
《あら、楠ちゃんに似てるんじゃ無かったかしら》
《あー、兄妹なのかな》
《見てみたーい、出来たら呼んで欲しい》
『並べたらこのお兄さん死んじゃうんじゃなかろうか』
『そうですね、出来たらそうしたいんですけど、井縫さん、出来ますかね』
「あぁ、聞いてみますよ、ちょっと出ますね」
《お写真とか無いんですか?》
《警察関係なら仕事仲間の写真て、あまり持って無いんじゃないですかね》
《えー、意地でも見たいー》
『楠さんの方が可愛かったら、もう口聞きませんよチャラ男』
「えー、困るぅー」
『有りますよ、ほら』
「ちょ、せいちゃん」
『大丈夫ですよ、コレです』
「あぁ」
《あら、ご旅行の》
《やはり三角関係の匂いが》
《もし来たらどっちらが良いか聞きましょう》
『顔、隠れてるじゃ無いですか』
『お顔に自信が無い方なので』
『お化粧したら殆どが化けます、私もだし、お化粧させましょう』
《ならドレスも貸そうよ》
《体入して貰えばお酒もお金もゲットですよ》
《そこは副業に引っ掛からないかしら、本業に影響が有っては困るのだし》
「どうなんでしょ、俺新人なんで」
『大丈夫だと思いますよ、何某かの書類や履歴に残らなければ。残っても潜入調査とかでいけるんじゃ無いですかね』
「投げやり、無責任な」
『だって、ちょっと特殊で私でも分らない扱いなんですし』
「お待たせしました、良いって、ちょっとしたら来ますよ、近くなんで」
「マジか、女子来るの気まずぅ」
『慣れてお上手そうですからチョロいでしょうよ、チャラいし』
「いや、根は真面目よ、ね?」
『どうですかねぇ、あしらいを見て評価が変わったかも知れません』
「真面目系クズって単語も有りますしね」
「え、井縫さんまで、じゃあもう良いです。マンガの話ししましょ、オススメお願いします、今から買うんで」
『ほら上手い』
「止めといた方が良いですよ本当」
『大事な話しはしない、肝心な事を言わない、仕事は出来ますよ、でも、友達となると、どうなんでしょうね』
「根に持ってますな」
『そりゃ持ちますよ、誤解まで産まれかけてたんですから』
「かけと言うか、誤解してました、本当に申し訳ない」
『チャラ男、なんで言わないんですか』
「いや、言わなくても良いとか、言うと不味いかなとか、なんなら言った気になってたのも有ったり」
「俺には観上さんに話したって言ってて、それを全部だと誤解した俺も悪いんですけど。大事な事なんで話したとばかり」
『普通そう思いますし、悪いのはこの人なんですから、気にしないで下さい。逆の立場でも、そう思いますから』
「やべぇ、結束されてる、助けて」
『近い、やめい』
「ふっ、楽しみですね観上さん」
『ですね』
『私で楽しみたいならシャンパン入れてくれないと今直ぐ黙ります』
「困る、入れましょう、何が良いかねせいちゃん」
『高いのも良いんですけど、楠さんが喜びそうなのにしましょうか』
「じゃあ、コレですかね、甘いハズなんで」
《良く知ってらっしゃいますね、マスカット風味の甘めのシャンパンです》
《ありがとうございます、私コレ好きなんですよ》
《分かるぅ、無理して高いのよりコレが良いよね》
『アナタも中々に慣れてらっしゃる』
「昔、似た感じのお店で働かされてたんで」
『え、書類とかどうしてました?楠さんを体入?させるとかって話しが有って』
「あぁ、大丈夫ですよ現金払いなら、もし違う場合でも俺が処理しときますよ」
「あらー、大変だ楠さん、抵抗して逃げ帰っちゃうかも」
『鈴藤さんと違って真面目な方ですから、心配いりませんよ』
『取って食うでもあるまいよ』
《ね、心外だわー》
《はい、お酒どうぞ》
《楽しみね》
本当に直ぐに来た、送りは大國さんか。
困るな。
「お、コッチですよ楠さん」
「ども、お邪魔しまーす」
『どうぞコチラへ』
「いや、男性方のご好意で呼ばれたんで、ココが良いです」
『シンパシー。大丈夫ですよ、同数ですし、私女の子もイケますんで』
「マジっすか、すげぇ、可愛いからモテますでしょう」
『いや、私目当てでココに来る人って殆どが珍獣ハンターなんで』
「珍獣?可愛いのに?」
『お酒足りないとテンション低くて、飲ませるとアガる』
「ほう、飲めますか」
『うい、そこそこ。シャンパン頼んでありますよ、どうぞ』
「ありがとうございます、お邪魔しちゃってるのに」
『どうぞ、乾杯しましょ』
乾杯したのは良いが、猫山さんの擬態が上手過ぎる。
鏡が2つとは。
自分を顧みろと言う事か。
勿論、自省します。
喫煙所は区切られた場所に有るので、井縫さんと連れ一服。
「大人しくなって、何考えてるんですか鈴藤さん」
「いや、鏡をプレゼントするのはもっと自分を見ろって意味で、失礼になるって話を思い出してました」
「それ考え出したらキリが無いですよ、時計だってもっとちゃんとしろって意味になっちゃいますし」
「月が綺麗だの星が綺麗だの、つかせいちゃんが言ってた状況によるって話しさ、既にそう言う仲じゃろがい」
「でしょうね、そう伝わるって事は、そう言う仲なんでしょう」
「なんだ君は、呼んどいて面白そうにしとらんが」
「アナタなら良いんですけどね、ただアノ人だと思うと」
「そんな、どんなご関係なのよ」
「姉、育ての親みたいなモノです」
「あー、それキャバに居るのしんどいわぁ、ごめんな誤解して、そら無理だわ」
「なので、どっかでどうにかなりませんかね。良い経験になると思いますよ」
「えー、やだ」
「観上さんに一泡吹かせるのは」
「別に良い」
「なら、アノ人に観上さんへ積極的にさせますね、じゃ」
「ま、分かった、ただタイミングは見させて欲しい」
「良いですよ」
出た、フルスマイル。
負い目、誤解を生んだ負い目と。
せいちゃんが猫山さんのテクで楠に落ちられても困るワケで。
分かっては居るんだが、気が進まない。
『お酒、進んで無いですよ?』
「あぁ、どうも」
『そんなに嫌ですか、楠さん見てるの』
「まぁ、君らみたいに良く見えて無いから」
『何処が嫌なんですか?』
「鼻、顎、眉骨、女らしく無い」
『問題無いと思いますけど、らしいを気にします?』
「島でも、井縫さんにその話ししたんよ、騙された時」
『あ、そうなんですね、でも、何でバレちゃったんですかね?』
「井縫さんが油断してフルスマイルした」
『あぁ、あの悪い笑顔ですね、どんなんでした?』
「そりゃもうね、イケメンだから綺麗だったよ」
『あ、口説いてますね』
「いけませんね鈴藤さん、こんなに女の子が居るのに「それな」
「いや、別にそう言うワケでは」
『違うんですって』
《真っ赤、可愛い生き物だわぁ》
《あぁ、正面に座ってたかった》
《ふふ、延長どうなさいますか?》
「延長で」
「井縫さん何て事を」
「良いんですかね、自分がそのまま居ても」
『ココはつらの皮厚くいきましょう』
『そうですね、そうしましょう』
《やったー》
《あぁ、マジ久し振りに楽しいかも》
《ボトルも入れておきますね》
「あ、その前に業務連絡をしたく、鈴藤さん宜しいでしょうか」
「はいはい」
「できたら、外で」
「うい」
暗がりの電柱の隙間から浮島へ、強制的に楠への交代の時間が来てしまった。
楽しかったのになぁ。
「お疲れ様ですよぅ、ま、本番はコレからなんですけどね」
「はぁ」
「気負う必要無いですよ、あの子良い子ですし、嫌だって言ったら分かってくれますよぅ」
「それだけなら良いんですけどね」
「はいはい、話しは聞こえてたでしょうから、合わせでお願いしますね、着替えましょ」
「え、鈴藤は誰が?」
「あ、業務連絡はその事です、私も鈴藤になってはダメですか?」
「いや、非常事態ならまだしも、こう言う事は」
「非常事態に備えての事です、ただ非常事態になったら遅いんです、練習です、練習」
「分かりました、許可します」
反論材料も思い浮かばず押し負けた。
変身し服を着替えると、猫山さんは鈴藤へすっかり変化していた。
自分で言うのもなんだが、性別まで変わるの凄いな。
「男子トイレと性交渉は無理ですが、この位ならチョロいっすよ」
「すげぇ」
「アナタも充分すげぇですよぅ」
「ちょっとは自覚しようと思います」
「良い子ですね、じゃあ一服してから行きましょう」
店に戻るとフルーツ盛りでは無く、お握りとお惣菜が盛り皿に並んで居た、どうやら奮発してお米を炊いてくれたらしいが。
延長しなかったら食えなかったじゃん、ココでも共同戦線か、上手い。
「お握り」
『美味しいですよ、どうぞ。ウーロンハイも』
小さいサイズの俵お握りが可愛い感じに盛られてるけど、お握りて。
お惣菜もお洒落に盛ってるけど、卵焼きにタコさんウインナー、プチトマトにお漬物、中身は実質お弁当。
皆、普通に食ってるし、下町にしたってシュール過ぎる。
「せいちゃん、コレが普通と思わない様に」
「ね、普通はこの器にフルーツだよね?」
「それかバーで出るおつまみ系です」
『良いと思うんですけどね、悪酔い防止にもなりそうですし』
『なる、お客さんの飲み過ぎ防止と』
《早く帰らせたい時には、眠くなって気分良く帰ってくれるのと》
《結構長時間だから、お腹空いちゃうのよね》
《もっと都心のお店ならサンドイッチとかも出るけど、あ、早く帰れって意味じゃ無いからね、出来たら閉店まで居てね》
「圧、権力者はアッチですよ」
《そんな事無いわよ、男同士に呼ぶって事は信頼の証か》
《財務握ってるか》
『狙ってるか』
《あら、じゃあ逆指名しよ、せーの》
ピッタリ息の合った指差し、全員バラけて上手い。
せいちゃんちょっと赤くなってるし、マジチョロ過ぎ。
『もう、君もだよ、逆指名なんだから』
「あ、すんません。にしても綺麗にバラけましたね」
『あの子ウブいの好きだから』
《うん、でもそっちだって何だかんだでチャラ男指してるじゃんよー》
《苦手だって言ってたのに、どうしたんよ面食い》
《オシボリ交換しましょね》
『私に興味無さそうだし、意外と害無さそう』
《そこ?》
《もしかして譲ってくれた?》
《あら、遠慮はダメよ、ココは戦場なんだから》
「安牌配置ですか鈴藤さん、ざまぁ」
「君ねぇ、井縫さんみたいに悪い笑顔になって、似ちゃ駄目だよこんなんに」
「鈴藤さんに言われたく無いなぁ」
『どんぐりの背比べですね』
「小さい言うかせいちゃん、飲ますぞ」
『そんな事言ってませんよ』
「言ったもんねー?」
『うん、間違い無く言った、飲まそう』
《シャンパンのリストどうぞ》
《テキーラでも良いよー》
《うー、吸って良いですか?》
「おー吸えるんですか、どうぞ」
《時間、ほら》
《もう20時、早いですねぇ、楽しいからー》
《ジュースもありますよ、ほら》
『トラウマには曝露療法、無理せず飲んで楽しいを増やすべきかと』
『そうですね、じゃあ皆さんでテキーラどうぞ』
《《やったー!》》
『ウブちゃんやるねぇ』
《ありがとうございます、種類はコチラで》
「はー、せいちゃんマジかよ」
『ふふ、シャンパンもどうぞ』
「よし、俺らはダブルですな先輩」
「巻き添えが、鈴藤さん潰れ無いで下さいよ」
「なんで」
「運ぶの大変そうなんで」
「貧弱」
「じゃあ置いてきます」
《あら、その時は私と一緒に帰りましょね》
「はーい、鈴藤いきまーす」
テキーラダブルショット一気、猫山さんやべぇ奴だ。
黙って井縫さんまで、アホか。
『飲める?半分こしよか』
「この位、チョロいっすよ」
あっつい、鈴藤の残りをせいちゃんが舐めて、凄い眉間に皺寄せて、ウケる。
オモロ。
『顔、嫌い?』
「自信は無い方です」
『お化粧は?』
「自分じゃそんな出来無い」
《どんなのが良いかなぁ、可愛い系?》
《服がカッコイイからカッコイイ感じでしょ》
《綺麗めでも良いんじゃ無いかしら、ね?》
『しない?』
「そんな変わらんかと」
『ホラコレすっぴん』
「うそ」
《もうそれ絶対私のじゃんよー》
《可愛いじゃんねぇ》
《そうよ、可愛い系よね》
「白子、やれ」
「先輩命令でも無理っす」
「えー、じゃあ後でどんなんか教えてよー?」
『そんなに変わるんですか?』
『楠ちゃんはそうでも無いかな』
《まぁ、私の落差ヤバいよね》
《目って大事だなって思うわぁ》
《そうね、楠ちゃんはお目々パッチリだものね》
「目だけね」
「くっ、目だけとかって、ふっ」
「あ、井縫さんの変なツボルーレット来た」
『楠さんがツボなのは分かりました』
「何だよ、何がオモロいねんな」
「ふぅ、素直な所ですかね、予測し易い」
「舐められてるな楠ちゃん」
「ベロベロベロ」
『もー、挑発して』
『見返そう、化粧で』
《ちょっとだけ》
《そうそう先っちょだけ》
《痛くしないから、ね?》
「あ、じゃあコレ再現出来ませんかね」
《あら可愛い》
《えー、チャイナ似合ぅ》
「ちょ、いつの間に」
「トイレに出た時」
《あら、意外と変態ね》
『連絡先を交換しましょう』
「は、だめだめ」
「良いですよ」
「あー疑似クラウドが」
「オモロ、俺にも後で頂戴」
「観上さんにも送っておきますね」
『いや、私は、大丈夫ですんで』
『ウブちゃん失礼』
《ね、冗談でも乗らないと傷付くよ》
「いや、大丈夫っすマジ」
《慣れちゃダメよ、良く無い事に》
《そうそう、幻滅しちゃった》
「せいちゃん、コレの何がダメなの?」
《真っ赤じゃない、あらあら》
《幻滅撤回、許した》
《えー、そゆことー?》
『ウブちゃん、それでもだよ、楠さんが自信無いって知ら』
「違うんよ、この時」
『いえ、すみませんでした楠さん、似合うと思って恥ずかしくて』
「いや、だから別に、本当に気にして無くて」
《気にして良いのよ?》
『うん、男でも女でもどっちでも無くても、自分を蔑ろにされたら何か思わないと』
《そうそう、自分しか自分を大切に出来無いんだから》
《じゃあ大事にする為にお化粧しに行こうねぇ、休憩入りまーす》
おっぱい姐さんに3人を任せ、コチラは3人に囲まれた。
楽屋らしき場所で髪を巻かれ、化粧水を揉み込まれる。
《あー堪んない、触り心地良いのに、何で手入れしないのよ》
『執着無いんでしょ、自分に、分かる』
《しても良いのに、胸無くたって有ったって女の子なんだから》
『それとも性転換前?』
「いや、特に予定はして無いです」
《あー、でももし男の子になったら1番頂戴ね》
《ウブマニア過ぎ》
「せいちゃん、やっぱりウブに見えますか」
『見える』
《モロ出し》
《溢れてる、でもまだ若そうなんだし、気にしなくて良いのにね》
『勉強ばっかだった人って結構そうみたい』
《ね、良い家の真面目な子に多いの、うふっ》
《アンタにしたらイケメン過ぎじゃない、あ、目瞑って》
《そうなのよねぇ、ヤッて直ぐに忘れられるのイヤだから、ちょっと悩みどころよね》
《つか落とすの時間掛かりそう》
『落ちるかも怪しい』
《ねー、ちょっとハードモードの匂いするよね、それはそれで良いんだけど》
《はい目開けて、上見て》
『キスまでいけるかな』
「最近モテ初めて困ってるとか、恋もまだなウブなんですが」
《え、燃えちゃうんだけど》
《ちょっと可能性出たかもね》
『良いの?そんな情報出すと取られちゃうよ』
「別に、自分のモノじゃ無いんで」
《コッチもウブだったぁ》
《え、今夜ウチ泊まる?》
『節操無さ過ぎ。楠さん、良くウブちゃん見てたの自分で気付いてる?』
「え、均等に見てたツモリなんですが」
《業務連絡前までずっと見てたじゃんよう》
《あぁ、ウブとウブとかマジで覗き見したいんだけど》
『帰って来たらちょっと変わってたけど、注意された?』
「いや、純粋な業務連絡だけでした、注意も特には」
猫山さん何て事をしてくれるのか。
『良かった、なら良いんだけど。チャラ男とは姉弟?双子?』
「そんな似てます?」
『耳の形、一緒だから、だから隠してるの?』
「うーん」
『ごめん、言えない事も有るよね』
《だね、他の話しにしようか》
《好きな食べ物にでもしとく?》
「マンガで、疎いんで」
それからは沢山のオススメのマンガを教えて貰った、それこそ少女マンガに少年マンガ。
青年誌にアクションまで、本を貸してくれると言って貰えたが、ココまでチヤホヤしてくれただけで充分です、お腹いっぱい。
《出来た》
『良い感じ』
《鏡出そうか》
『待って、見たら不安にならない?』
「事実を受け止める度量は有ります」
『良かった、じゃあ、はい』
「ありがとうございます、お姉様方の努力の賜物かと」
《表情が固いぃ》
《大丈夫、何を言われても、私達は味方だから》
いや、そこは心配して無い。
何と言うか、勿体無い。
こんなに良くしてくれても、好きに慣れないし。
『出来たよー』
《あらあら、カッコイイけど綺麗めね、上手、流石だわ》
《編み込みしてて楽しかったぁ、スルッスルなんだもん》
《ね、モデルに来て欲しいわウチの学校に》
「美容系に?」
《うん》
《お、興味持ってくれた?》
「実は沖縄で知り合った子が今度、東京に来るって言ってて」
《おー、学校見学来てた子なら面白いのに》
《名前は?》
「葵ちゃんです」
《マジか、寧ろココの店に来る子じゃない?》
《かも、男の子?》
「マジっすか」
《マジマジ》
《なんだぁ、もうお手付きも同然じゃぁん》
『残念、可愛い子だものね』
「いや、それは断ったんで」
《は》
《なんで》
『女の子じゃ無いから?』
「いや、最初気付かなくて、男の子って聞いたら逆に興味が」
《えー、じゃあやっぱ付き合うの?》
『大丈夫、ココ結構安全だから』
《私達も居るし》
「いや、仕事とかちょっと複雑で」
「なー、俺ら言えない事が沢山有るから、気使ってんのよ」
「お陰で誤解が生まれましたし」
『ですね』
《それは、お仕事かしら?》
「俺や楠は特に。プライベートが無かったり、嫌な事もしないとなんで、悩んでても相談出来無いんですよね、色々」
「とは言っても、ワシはそんな悩みも無いんですけどねぇ」
「本当か楠ちゃん?井縫さんから聞いたぞ、ドキドキしたって」
「うるせぇなぁチャラ男」
《くぅー、もうお金良いから遊びに来てよ》
《つか普通に外で遊べば良く無い?》
『だね、でも葵ちゃん来るまで我慢する』
《良い子ね、お店が忙しくなっちゃうわねぇ》
「俺がお姉さん指名しますから、ゆっくりしましょうね」
《あら、ありがとう》
《男子、静かで不安なんだけど》
『ウブちゃん大丈夫か?酔ったか?』
『あ、いや、いつ褒め様かと』
《偉いぞ、さ、どうぞ》
『あの、そう言われると』
『大丈夫、過剰に褒めなきゃ怒らない、ね』
「まぁ、無理されても困るんで」
「井縫先輩、見本見せて下さいよぅ」
「いや、ココは観上さんに譲ってからにします」
『カッコよくて綺麗な感じで、似合うと思います』
《っしゃ!》
《やった!》
『うんうん、上手に褒められて素晴らしいと思います』
《そうね、あらあらアナタも赤くなって》
「誰でも赤くなりますよ」
《分かる、私も褒めて》
『ウブ返上のチャンス』
《ね、頑張って》
《全体を見てからポイントを言うと良いわよ》
「優しいなぁお姉さん」
「鈴藤メロメロやんけ」
「本当、カッコイイ感じ似合ってますよ」
「カッコイイは好き、お姉様方の賜物です、有り難い」
『拝むより』
《お酒が》
《欲しーの》
《はい、メニューです》
「とんでも無い店に来ちゃいましたね」
「ですな、マジ楽しい。あ、よもぎちゃん呼ぼうよ井縫さん」
「それは勘弁してよマジで」
《なになに》
《どんな人?》
『呼びましょう』
《延長どうです?》
「来たらしちゃうぅ」
「鈴藤さん…分かりました、連絡してみますけど期待しないで下さいね」
「はぁ、マジか、もう吸っちゃおうかな」
『どぞどぞ、大変でしょう、買うの』
「毎回身分証出してますよ」
『良く補導されかけるんですよ、ね?』
「なー、そうやって化粧したら、少しは聞かれないだろうに」
「コレ再現出来る自信が」
《それは練習有るのみ》
《それか葵ちゃんにして貰うか》
『葵ちゃんに習うか、マジ強力なライバル出現』
《ふふ、頑張らないとね》
「せいちゃんもだぞ、先ずは女に慣れないと」
『可愛い過ぎたり綺麗過ぎる方って、ちょっと緊張しちゃうんですよね』
《うっ、ウブの破壊力凄ぃ》
《キュンってしたわ、ヤバ》
『やりますな、楠ちゃんには響いて無いけど』
《そうねぇ可愛いのに》
「過ぎる所が無いんでセーフです、それにもうワシに慣れてますし」
「まぁ、こんな緊張して無い感じよなぁ」
『緊張はしてましたよ、だけど年下の女性の部下が来るなら、しっかりしなきゃと思って』
「じゃあ全員部下と思えば良いのでは」
《もしくは同僚か仕事仲間》
《そうね、そうしましょ》
『実は潜入中なんです』
《そうそう、同業ですよ》
「洒落にならんよなぁ、マジでこういう事してるから」
『確かに、違う意味の緊張が出ますね』
「ウブちゃん我儘」
《だねぇ、困るねぇ》
《まぁ、世の中には色々な女性が居ますから》
《ね、良い女も悪い女も居るし》
『普通も最高も、色々ですよ』
『それを、どう見分ければ?』
《そうねぇ、先ずは友人かしら》
《持ち物や衣服かな、一般家庭の学生がブランドバックはヤバい》
《ねー、わかる》
『会話、ご職業柄きっと違和感が有る筈』
「為になります」
「だってよせいちゃん、何落ち込んでんの」
『いや、実は初恋モドキを思い返しても、今言われた事が当て嵌ってて』
《あら、高校生でブランドバック?》
『家は普通で、でも親が買ってくれたと、でも服は普通で』
《あー、ヤバいわ》
《あちゃー》
『会話はどうでしたか』
『実は良く知らないなって、ただ偶然の割には良く出会ったり、私の事知ってたりで』
「ご愁傷様でした」
「初恋ご供養に」
『初恋ご供養に』
《献杯》
《献杯》
《頂きます》
《お通夜みたいな空気はどうしてでしょう?》
「げ、よもぎちゃん」
「すげー、マジで来てくれた」
『どうも、今ちょっと供養してました』
「楠ちゃんが初恋ご供養した、せいちゃんの初恋モドキが砕け散った」
「です、南無三」
「あぁ、成程」
《それはそれは、ご愁傷様でした。綺麗でかっこいい楠さんが居るんですから、元気出さないと》
《ナチュラルに褒めたわ》
《イケメン過ぎて私怖い》
『楠ちゃん狙いがもう1人、どうしよ』
《お酒、どうお作りしましょうか?》
《弱いので垂らす程度でお願いします》
《はい、数滴垂らしておきますね》
《あーでも男の隣に居てくれたらイケる》
《ビビリ過ぎ》
『ね、どうせ楠ちゃん狙いなんでしょお兄さん》
《はい》
《《キャー!》》
《あら、良い笑顔》
『もう、モテモテなのに、どうして自信が無いですか』
「それこそ、この人珍獣ハンターかと」
『あぁ、興味本位ですか』
《最初はそうでしたけど、今は違いますよ》
「一応聞きますけど、何が良いんでしょう」
《楠さんだけになら言います》
「こわいわ」
「せいちゃん、モテて慣れると君もこんな感じに成れるぞ」
『憧れるべきなのか、ちょっと悩むと言うか』
「ですね、俺より慣れ過ぎですよ蓬さん。ウブの反対、玄人、プロかと」
「プロ師範か」
『プロ師範』
「ぐっ」
「あ、ツボった」
『もう、大好き過ぎじゃ無いですか』
『ココにもか、どんだけモテる気だ』
「アレは違いますよ、ワシ、意外と凄いから尊敬してくれてるのです」
『そうなの?』
「む、マジックでも見せますか」
『んー、ウブ子は良い子』
「え?何が?」
《ウブ子も可愛いよ》
《良い子良い子》
《ふふ、お暇な時はそんなに無いでしょうけど、ウチで働いて欲しいわね》
『ダメ、ウブ子は囲うの』
「それは少し魅力的」
『でしょう』
《モテモテですね楠さん》
「そうなんだよよもぎちゃん、あの葵ちゃんも来るんだって」
「お前は何でもバラすの」
《ココで働くんです》
《運命感じちゃう、キュンだわ》
「それは少し有る」
『うー、もうヤキモチ焼けそう』
《あらあら、出会いの順番は結婚までは関係無いから大丈夫、焦らない焦らない》
《本当なんですか?》
「ビビる程にマジ」
「らしいよ、ヤバいねプロ師範」
『大変ですね楠さん』
《あらあら、余裕そうだけれど、褒めるのがまだよねぇ》
「流石お姉さん、次は井縫さんかなぁ」
「おー、頑張れせいちゃん」
「介錯はしますんで」
『上品な仕草やお姿が美しいと思います』
「お、良いぞ」
『お綺麗なのに朗らかで、素敵だと思います』
「良いね、頑張れ」
『可愛らしいのにどこか綺麗で、素晴らしい方だと思います』
「良いよ、言えてる」
『センスも可愛いらしさも有って、楽しくお話しさせて頂けて助かりました』
「おー、完走おめでとう」
《まぁ、最初はこんなものかしらね》
『多分、凄い進歩かと』
《このままで居て欲しい様な、成長して欲しい様な。コレが、恋》
《ただの性欲でしょう、ま、次に期待ですね》
《手厳しいなぁ、僕には無理だよ》
「またまた、プロ師範よもぎちゃんには容易いでしょうに」
「だよなー、すげぇもん」
「ですね」
《好きな人の前で、他の人を褒めるなんて出来ませんよ》
『本気なら100点満点の答え、どうしよ、マジでライバルかも』
《あー言われたいー》
《怖いわ、やっぱプロ師範だわ》
《こ慣れ過ぎて引かれてるから私は30点ね》
『寧ろ楠ちゃんは、誂ってると思ってるでしょ』
「そらそうよ、色々言えない経緯が有るし」
「なー、面白いのに言えないのがマジで残念だわー」
《気になりますねー》
「マジでポロッとも言えませんからね」
『こう秘密ってバレそうになるんですね、気を付け無いと』
あっと言う間にお会計のお時間。
サービスして貰ったが、結構飲んだからこんなもんかしら。
せいちゃんビックリしてる、だよな、ヘタな高級ホテルの1室位はするんだもの。
『また来てね、絶対』
「頑張ります」
《他のイケメンも、お願い》
「凄い堅物の男臭いので良いなら」
《あら、お願い》
《マジでお願いしますね》
「うっす、じゃ、また」
『またねー』
《バイバーイ》
《絶対だからねー》
《お気を付けてお帰り下さい》
『ふぅ、金額見て素面に戻った気がします』
《ね、最初は驚いちゃうよね》
「まぁ、結構飲んじゃったもんね」
「鈴藤さんに巻き添えテキーラいかされたんですよ」
「元はせいちゃんだしー」
「飲めないのを良い事にねぇ」
「自分以外全員テキーラはエグいのー」
「しかも鈴藤さんがダブルとか言うし」
《あら、悪い遊びを覚えちゃいましたか》
『ですね、でも皆で飲む方が良いです、お金の事も有りますし』
《安い勉強代ですよ、それとも他で女性慣れする練習しますか?》
『楠さんにお願いしときますかね』
「同じ時給で金取ってやろうかな」
『えー、オマケしてくれません?友達割り』
「友達だったっけ?それは鈴藤じゃ?」
「固い事言うなよぅ、ある意味一心同体じゃん?」
「さ、公園付きましたけど、どうしますか」
《流石に少し飲み足りないかなぁ》
「だよね、すまんねよもぎちゃん」
「ごめんねー、どっかで飲み直す?」
『焼き鳥、食べません?』
そうしてせいちゃんの家の近くの公園へ移動し、焼き鳥屋へ。
良い匂い、ヤバい。
「ワシはねぇ、塩タレ全部」
「どんだけよ、俺は盛り合わせで良いや」
「盛り合わせでお願いします」
《僕も》
『楠さん、全部って丼もですか?』
「うん、余ったら持ち帰って良いよねオッチャン」
コチラを見ずに無言でサムズアップ。
そうして串盛りと、全部セットが来た。
流石に丼は最後にと配慮してくれたらしい。
コーラ割りで乾杯、染みるぅ。
『ふぅ』
《美味しいですね、タレも塩も》
「このタレで丼が来るんですかね」
「うん、せいちゃんの好物だよねー」
「うまー、何が良いって薬味、柚子胡椒に黒七味、カボスってもうね、下味しっかりしてるから楽しめる、何周も出来る、永遠に飽きない」
「本当に君は食うの好きだよねぇ」
「好き、せいちゃんに感謝」
「観上さんが見つけた店なんですね」
《いつ頃?》
『配属が決まって直ぐに、家の下見で気になって。帰りに食べたら感動しちゃって、それで家を決めたんです』
《へー、じゃあ長いんだね》
『お酒が殆ど飲めなくて申し訳無いんですけど、特に丼が好きで』
「オッチャンには悪いけど、ちょっと冷めたのが好き、米が落ち着いて染みたのが良い」
『出来立ても美味しいんですけど、ですよねぇ』
《良いなぁ、今度持って帰ろうかなぁ》
『ウチで、食べては?』
《出来立てはココで食べて、持ち帰りはかなり冷めたのを食べてそのまま寝たい》
「わかる、体に悪いけどしたい」
『食道がやられちゃいますからね、ちょっと時間空け無いと』
「ね、病弱ズの悲しい性よ」
『もうそんなに、ちゃんと噛んでます?』
「噛んでる、油断すると早食いになる」
《寝ちゃってますね2人共》
「オッチャン、丼はお弁当で持ち帰るね。出来上がったら帰るよ」
コクコクと頷くと、サムズアップ。
もう10時近いもの、皆眠いよな、一服するのに井縫さん起こすか。
揺り起こすと比較的直ぐに起きてくれた、外を指すと頷く。
寝惚けてる感じの顔は可愛いのに、愛想の落差が勿体無い。
「どうでしたか」
「楽しかった」
「そりゃ良かった」
「井縫さんは楽しめませんでしたか」
「いや、楽しいですよ、ほら」
「貴様、寝たフリして撮ったんか」
「いやぁ、隙だらけだったんで」
「殺意なら気付く、ハズ」
「ほう」
「消せ」
「なんで、気に入ってるなら見本有った方が良いでしょう」
「良い、ソラちゃんにして貰う」
「ダメですよ黒子が道具に頼っちゃ」
「へいへい、スマホ壊して良い?」
「良いですけど、バックアップ有るんで資源の無駄かと」
「はぁ、後世の笑いモノになるんか。アホが浮かれてるって」
「大丈夫ですよ、そんな事はさせませんから」
「写真撮って笑いものにしてるくせに」
「してませんよ。ほら、弁当出来そうですよ」
「マジか」
席に戻ったが、まだ少し掛かりそうなので串を平らげた。
ついでに鈴藤のも。
そうして出て来たのは人数分のお弁当、オバちゃんとお金での激しいやり取りをせいちゃんと共にし、半額は受け取って貰った。
オッチャン褒め過ぎたか、今度大量注文したろか。
『いやぁ、あんな事初めてでビックリしましたよ』
《美味しそうに食べる人のお陰だね》
「いや、そこはせいちゃんだろ。送るよ」
《お願いします》
先ずはよもぎちゃん、公園へ向う。
「よもぎちゃん理系得意?」
《うん、まぁ、年代測定も大事だから》
「電界、電場、静電界とか、分かる?」
《少しなら》
「静電界には何が漂ってるの?」
《+と−、イオンだね》
「あぁ、読み飛ばした中に有ったかも、どんなん?イメージでも良いんだけど」
《んー、ホタルとか》
「おぉ、成程。有難う、じゃあね」
《はい、またね》
次は井縫さんと思ったが、自力で浮島に帰ったらしい。
せいちゃんの家に歩いて着くと、鈴藤姿の猫山さんがトイレに。
戻って来ると、猫山さんになってる。
「お疲れ様でした」
「いえいえコチラこそ、可愛いですね、似合ってますよ」
「あぁ、どうも」
「ふふ、せいちゃんもお疲れ様でした」
『コチラこそ。お見事でした。お疲れ様でした』
「いえいえ、じゃあ着替えたら特別室へお願いしても?」
「うい」
せいちゃんはお風呂へ。
猫山さんを送り届けて漸く、ベランダで一息つけた。
もう寝たい。
『お風呂空きましたよ、それとも島へ?』
「どうしよ、面倒だぁ、脱がして洗ってくれぃ」
『良いですけど恥ずかしいのでは?』
「うー鈴藤なら良いか」
『それもちょっと、ほら、せめて歯磨きはしないと』
「じゃあ髪、解いてくれ」
『それなら良いですよ』
せいちゃんに髪を解かれながら歯磨き。
痛く無いし眠くなる。
「ほどくのうまい」
『どうも、手先は器用なんで』
「うがい」
『はいはい、付いてきますから』
歯磨きを終えた後は化粧を落とす。
眠い。
髪も解け何とか、お風呂へ。
そうして部屋に戻り就寝。