6月7日(日)
雷雨。
何故か小上がりでの起床、横には井縫さん、せいちゃんは大きなベッドを独り占め。
珈琲を淹れてソファーでボーッとぬいぐるみを揉む、最初の不安は何処に行ったのか、もう少し楽しみたいと思ってしまっている。
それを、どう思えば良いんだろうか。
「おはようございます」
「ごめん、何かで起こしたか」
「いえ、同衾してる人間が起きると起きちゃうんです。エロい意味で」
「凄い面倒な技能やん」
「2度寝してて浅かったんで」
「見張りよな」
「そうですね、観上さんに手を出さないか見張らないと」
「機嫌が良いね」
「もう1日、ココに居られるんで」
「あぁ、飛行機飛ばないレベルか」
「ですね、その連絡で最初に起きたんで」
昨日まで晴れの予報だったのに、激しい雷雨。
今日帰る予定が、もう既に飛行機も飛ばないとニュースでも確認出来た、強制連泊。
スイートに缶詰めとは贅沢の極み。
「ヤベぇな、嬉しいけどもだよ」
「楽しんでくれてますか」
「ソレ、良いのかね。向こうは大変かもなのに」
「融和政策が成功して、良い意味で酒池肉林状態かも知れませんよ」
「あぁ、それなら安心やな」
「亜人だったら、俺は何だったんでしょうね」
「あぁ、まさに雌豹」
「雄ですけど、見ます?」
「変態じゃぁ」
「蛇の亜人なら、スプリットタンですかね」
「えっろ、クソえっろ」
「まさか副乳には萌えませんよね」
「それは、男なら想像すべきよな、成程」
「真面目ですよねぇ」
「真面目なら、せいちゃん誂わないだろう」
「まだ馴れ馴れしいのダメージ引き摺って、繊細」
「せやねんなぁ、距離の調節が難しいアルよ」
「身体接触が少ないですし、全然大丈夫だと思いますよ。寧ろ逆に、普通に男同士でも結構距離が近かったり、キスとか平気でするのも居ますし」
「腐敗が進む事を、マジかよ」
「酔うとほら、罰ゲームとか度胸試し的な、気軽な感じでしてるの良く見ましたし」
「あぁ成程、度胸試しの系列なのね」
「そうやって身体接触が少ないのも、女性だって論拠なんですよ」
「幾ら賭けた?」
「全財産と人生」
「凄いな君は、無限に話してられるかもだよ」
「昨日、バーで直ぐにスマホ弄ってましたよね、好みじゃ無かったんですか?」
「何を話したら良いか分からないねん」
「じゃあ、次は女性にしときますか」
「鈴藤なら良いけど、同性は、同性も何を話せば良いか。前から分からん」
「興味が、湧かない感じですか」
「まぁ。あ、寝直さないで良いのかね」
「不意に距離を離すの好きですよね」
「気遣いなんだけど、そうか、すまん」
「コレ外しますよ、はい。ちゃんと話してくれませんかね」
「楽しく無いぞ」
「アナタは俺を楽しませる必要無いですよ」
「心配性で繊細で神経質やねん、不快に思われるの怖いわ」
「弱点ですね」
「せやね」
「じゃあコッチから。外見如きで女の子らしく無いとか、俺は別に思いませんよ、寧ろ常に女だとアピールされる方がウザいし」
「女アピール」
「ネイル、服、化粧、ヘアスタイル」
「女子力の事か、戦闘力低いからなぁ」
「マジでほぼ0ですよね」
「前は化粧品で肌が荒れたり、太ってたりでね。髪がこうだからヘアスタイルが。2ではフィンランドのロウヒが音を上げたレベルぞ、ストレートが過ぎるって」
「反動ですか、痩せ過ぎですよ」
「良く言われるぅー」
「もう少しお願いします、周りも不安になるんで」
「ジャンクフード食いまくればとは思うんだけど、普通に健康が心配になるのよね。食欲も、前はストレスだったとハッキリ分かる感じがね、溺れ易いねん」
「でしょうね、真面目で神経質で、何でアナタなんでしょうね」
「それなー、買っても無いのに世界最高額の宝くじに当たった感じやね」
「そう言う意味じゃ無いんですけどね」
「向いては無いよね。もうね、勇者らしい勇者居たから、本当にそう思ったわ、超陽キャのコミュキングで強いねん」
「俺だけの考えなら、アナタで良かったとは思います」
「信徒2号。カラス天狗2号だし、もう君は2号さんだ」
「じゃあ、俺にもアノ魔法、使って下さいよ」
「カルラ天さんに殺されたく無いんじゃが」
「好きにしろって言われてますから大丈夫ですよ」
「信用はしてるから大丈夫。もうね、楠をブスとか思って無さそうだから、君は良い奴だ」
「思ってるかも知れませんよ」
「まぁ、その顔だから仕方無いよね」
「硫酸でも被りましょうか」
「マーリンがそれしたのは知ってる?」
「え、いえ、マジですか」
「あぁ、ある意味でプライバシーだもんな、そうか」
「言えない事が多いって辛いと思うんですけど」
「人死が増えるよりマシ」
「極端」
「ですよねー、一服するわ」
ベランダから戻るとせいちゃんが起きていた、そしてダラダラするウチに朝食の時間に。
朝食を食べに下へ降り、メニュー制覇。
エッグベネディクトにフレンチトースト、可愛いサイズのサンドイッチ、中華粥はせいちゃんとお代わりした。
サラダの種類多めなので、サラダもきちんと食べた。
そして部屋へ帰りボーっとしてから、せいちゃんはベッド、井縫さんはお布団、自分はソファーで少しお昼寝。
起きると既に2人は活動中、せいちゃんはジャグジー、井縫さんはサウナ。
エアコンで少し冷えてしまったので、下階に降り水着に着替え、プール併設のサウナへ。
暖まったら雨の中でプールに入る。
水中ベンチに頭を預け、雨の音を聞く。
たまに響く雷の音が良い感じ。
「ナニしてるんですか」
「雨を体感しとります」
井縫さんを見ると、服と傘で完全装備。
どっか出掛けるんかしら。
「風流ですね」
「でしょう、寒く無いし、レアじゃん、雷の音も」
「それでも風邪引かないで下さいよ、12時、お昼にロビー集合です」
「おう」
井縫さんが去った後も暫く雨を聞く。
そうして集合時間前にシャワーを浴び、ロビーへ。
今日は1日中雨だそうなので、近くのアーケードへ。
『何系にします?』
「そば」
「井縫さん沖縄そばマニアやんな」
ただ誰もヒットするお店が無く、ウロウロしているとタコス屋に目が止まった。
ビーフソフトタコスにブリトー、絶対美味いじゃない。
『良いですね』
「行きましょう」
「ありがとう」
旨い。
持ち帰りメニューも有るので食べてる最中に注文し、完食、そして次の店へ。
近くのそば屋で小3つにイカスミじゅーしーを注文、イカスミは何でも旨い。
じゅーしーも追加でお持ち帰り。
南国食はかなり充実しつつ有る。
『楠さん、タコスのお店、通り道に有ったみたいですね』
「あーマジだー、好きなの忘れてたわ」
「後で行ってみたらどうかと」
「雨だしね、行くわ」
雨が好きな理由の1つ、人手が少ない。
空間移動でもそこまで気にしなくて良いのが好き、ただ一応普通の人を驚かせない為にも、ホテルの部屋から傘を持って電柱をすり抜ける事になった。
早速ホテルへ戻り、部屋からの移動準備、せいちゃん達も食べたいとの事で大量発注へ。
流行り病のお陰でテイクアウト出来る店が増えたのと、大量注文でも注目を浴びない点は助かっている。
向こうに帰ったら、自主的に隔離待機しようか。
2軒程巡る中、もう1軒、良さげな店を見付けたので向かう。
雨の中来てくれたのでと、サービスでコーラフロートを貰った。
こういうお店好き。
しかもワカモレ大盛りにも応えてくれたし、味が気に入ったら間違い無くリピートする。
そしてホテルへ。
雨の方が色々と動きたくなってしまうので、自分だけ少しお店を回ろうとしたのだが、2人も付いて来るらしい。
缶詰、もう飽きたのか。
今度はアーケードの反対側へ、何処へ行くでも無くフラフラしていると、気になるデザインの服を発見。
『鈴藤さんに似合いそうですね』
「でも高そう」
「経済回して下さいよ」
井縫さんに札束を見せられ、ホイホイと店に入る。
どうしよう、凄い好き。
カッコいい。
スカジャンのデザインとでも言えば良いのか、タトゥーちっくなデザインがカッコ良過ぎる。
どうしよう、店ごと買い占めたい。
「鈴藤と井縫さんて」
「身長も体型もそう変わらない」
「試着して」
「うい」
鈴藤はこんなに体型が良いのか、マジか。
似合う、全部着せたい。
『ご自分のも選んでは?』
「あぁ、そうね」
スニーカー、サンダルにキャップ、Tシャツにジーンズ、カバンまで買い揃えてしまった。
そしてショップの紙バックを良く見ると、ハワイの文字。
系列店がハワイにも、どうしよう、凄く行きたい。
『食べ物以外でこんなに食い付いてるの、デジモノ以来ですね』
「言ってくれたら教えたんですけどね」
「疎くて、有名?」
「まぁ、そこそこ」
「似たの有る?」
「もっと厳ついのなら」
「いや、この位が良い」
そのまま喫茶店に入りブランドの名前で調べると、さっき行ったタコス屋の近くのアウトレットショップでも品物が売ってるとの事。
サングラス有るじゃん、カッコいい。
「何か良いの有りましたか」
「有った、北谷に。1人で行くわ」
『えー、一緒に行きましょうよ』
「えー」
「車、出しましょう」
大通りは歩行者天国になって居るので、ホテルの近くに泊めてあった場所から大回りをして北谷へと向かう。
移動時間は1時間弱。
人手はそこそこ、観覧車も有る大きなモールを一直線に歩く。
グアムやハワイにも有るアウトレットショップ、有名なメーカーのジーンズ、サンダルも置いている有名なお店らしい。
ツアーにも組まれる場合が有るとか。
井縫さんはシンプルで男の子らしい感じの品物を選んでる、似合う格好を自覚してるんだろう。
せいちゃんは良い物を長くと言う感じ、ジーンズ選びに迷っていた。
その隙に自分の欲しい物を選ぶ、向こうに無かったジーンズ、系列なのか名前が違う似たデザインのTシャツや何かを詰め込む。
試着は勿論、井縫さん。
『全部合わせるとチンピラ風味が凄いですね』
「流石にこうは着ない、ハズ」
「是非、ガラが悪過ぎる」
ウインドウにはサングラスの他にベルトも有った、オイルライターも。
完全にタガが外れて爆買、ブランドにハマる人の気持ちが分かった気がした。
「ブランドにハマるってこんな感じなのね」
「少し違う気が、デザインなんでしょう。違うのも入ってるし」
「まぁ」
買い物を終え、喫煙所へ。
似たデザインの方は井縫さんも知らないブランドだとか、スマホで調べると、またしてもハワイの名が。
ハワイに呼ばれてる、つか行きたいなマジで。
「ハワイなら交流も有るんで、普通に許可出ると思いますよ」
なんでも王家自体の交流が有るらしい。
国としても王族としても繋がりが有り、親日で友好国なんだそう。
「ステーキやな」
「ですね、夕飯ステーキにしますか」
「いや、井縫さん何か、あ、どうする」
「少し見てましょう」
喫煙所から少し離れたベンチで、せいちゃんがナンパされている。
自分はスマホ越しに、横を見ると井縫さんもスマホでニヤニヤ全開を隠してる。
「そういや、砂浜のはどう断ったのよ」
「好きな子が居るんで無理ですって、それに観上さんも乗っかって逃げてました」
「誤解解く為なら何でもするよ」
「大丈夫です、俺に興味無いし。そんな事を気にする人でも無いんで」
「それでもよ、清廉さをアピールするに越した事は無いでしょう」
「じゃあ、その時はお願いします」
「任せとけ。お、コッチ来た」
せいちゃんが独りでちゃんと断れたらしく、女子達と別れコチラに向かって来た。
少し、恨めしそうな顔をして。
『もー』
「ご苦労様でしたー」
「お疲れ様です」
『今回は楠さんですよ』
「は」
『女の子と一緒だって言ったら、その子が気になるって子が居て』
「あら、ミスったか」
「かもですね」
『私は井縫さんの方便を使って逃げましたけど、楠さん用に連絡先を渡されました』
「マジか、ちょっと行ってくる」
「了解」
メモを受け取りダッシュ、まだ近くに居たので話し掛ける。
くれたのは可愛い女の子、気を使ってか他の子は他のお店を見てくると行ってしまった。
「初めてナンパされました、ありがとうございます。でも、自分の居る状況が複雑で、すみません」
メモを返すと、真っ赤になりながら受け取り頷いてくれた。
良い子、幸せになって欲しい。
握手を求められたので両手で握手、華奢なのに大きな手。
後、マジ可愛い、なんならハグでもキスでもしたい位。
手を振ってお別れ、可愛いな、こんなの好きとか勿体無い。
『何か、男らしいと言うか。慣れてます?』
「聞こえなかった?初めてだって言ったでしょうに」
「聞こえてました」
「嬉しいなぁ、へへ、一生の思い出だ」
『照れてます?』
「そらね、あんな可愛い子、嬉しくてニヤニヤしてる」
『それなら、お友達でも良かったのでは』
「ダメだよ、可能性が全く無いのに」
『真面目なのかチャラいのか』
「真面目系チャラ子」
「それ良いね、それでいくわ」
駐車場に戻る途中、イベントスペースで真珠の貝殻剥きと、貝殻のフォトフレームを手作り出来る体験イベントがやっていた。
持ち込みも良いそうなので少し悩む、2人を誘うと乗ってくれたので体験開始。
先ずは真珠剥き。
自分で選んだ貝殻を剥く、要領はホタテ剥きと同じで直ぐに剥けた。
せいちゃん苦戦してワロス。
白く見えたが3人で見比べると、自分のは水色がかった黒め。
せいちゃんはクリーム色、井縫さんが1番白に近いかも。
取り出し終えた貝殻も磨いて加工してくれるとの事なので、そのまま横の貝殻フォトフレームをしながら待つ。
アーニァから貰った貝やシーグラスを出し、並べる。
元々置いてあったシーグラスも色とりどり、貝殻も様々。
自分と井縫さんはガラスの枠無し、せいちゃんは白い木枠。
コレも個性が出る、まだ仮置きの段階なのだが、井縫さんセンス有り過ぎ。
『井縫さん、出来上がったら交換しません?』
「お洒落、センス有り過ぎ」
「ですかね、そっちも、可愛いと思いますが」
『女子力高いですよね』
「せいちゃんのは商品みたいだけど、平凡よな」
『自覚してます』
会話を聞いていたお店の人の案で、下地を塗る発想が齎された。
そして他の人達のデザインも見てみる事に、うん、傾向が分れている。
せいちゃんの様な密集タイプに、右上と左下だけに飾りをする井縫さんタイプ、一部のみ飾る自分の様な人。
こうなると真似しつつも、無さそうなデザインにしたくなるが。
最初の案を改良、左下に一点集中からのグラデーション。
貝殻でお花を作り、真ん中に真珠を埋め込む。
後は上へと分散させるだけ。
「こんなにしようかと、助言頼む、お洒落に直して」
「大丈夫かと、少しコレをこう」
せいちゃんは乾かし中、持ち込みが無いので貝殻を選び直してる。
普通に夢中。
先に出来上がった井縫さんに手伝って貰いながら組み立て、暫し乾燥を待つ。
『助言、お願いしても?』
井縫さんとアレコレ言いつつも出来上がったのは、1番可愛らしい作品だった。
下地は濃い青から水色に白のグラデーション、適度に分散配置された大きめの貝やヒトデが付けられ、左下の貝殻にはシーグラスや真珠が乗っている。
「1番可愛い」
『何か、こうなっちゃいましたね』
「良いじゃないですか、一番ぽいですよ」
お隣での加工も終わり、螺鈿に光る貝殻をゲット。
形が良いのでケースにしてみてはとのお誘いが、時間と追加費用は掛かるが小物入れにも出来るらしい。
上手い、双方連携取れてるし、商売が上手過ぎる。
『良いですね、凄い綺麗ですし』
「俺のは出来ないんですし、やってみましょう」
受け取りは3日後以降、配送だと時間が掛かるそうなので、後日受け取りに。
そのままホクホクでフォトフレームに入れる写真を取って貰う、3人で撮るのは初めて。
貝殻フレームで顔を少し隠しながら、青い砂浜のバックで縦と横に1枚づつ撮る、せいちゃんも井縫さんもフルスマイル。
「これ、毎回こんな感じで撮ってたら、フレームの中にフレームが、ってなるよね」
『面白そうですね』
「毎年やりますか」
来年は猫山さんか、今度作っといて貰わないと、どんなデザインになるんだろ。
お会計の際にお店のパンフレットが入れられた、1枚そのまま貰い見てみる。
本店は国際通りに有るらしいが、雨なのでコチラのイベントに飛び入り参加したんだそう。
良い時間なのも有って少し混み始めたので、移動。
夕飯にはまだ早いので、休憩にとヨーグルトアイスの店へと向かう。
計量式で、トッピングも全て自分でやる。
ココにもハワイの名前、行くしか無いか。
館内はエアコン強めなので、外で食べようと階段を降りると、外人さんにナンパされてる集団が居た。
揉めてるワケでは無いらしいが、ふと傘から覗き込むとナンパしてくれた女の子達だった。
あの子と目が合ったので、思わず立ち止まってしまった。
そのままコッチに来るし、ちょっと運命を感じてドキドキしてしまう。
他の女の子達も直ぐに気付いてコッチへ来るが、外人さんも押しが強い、コッチ来る。
全員で遊ぼうとか言ってるし。
「お困りですか」
首を横に振る、困っては居ないらしいが。
他の子達も地元だそうで、独り警戒心の高い子が、同郷の男が居ないと嫌だと言ってるとか。
誘われてるのは基地の中だそうで、井縫さん達も警戒心に納得の様子。
「お店は何処なんですかね」
「“お店、何処なんです?出来たら美味しいステーキ屋探してるんですが”」
『“マジか、話せる子が居たんだ、助かるよ。ジョニーだ、宜しく”』
本当に気軽なナンパだったらしい。
新人だそうで日本語に不自由してたんだと、内緒だが、実は度胸試しにと先輩にナンパの命令をされたんだとか。
警戒されてるのは残念だが、身持ちの堅い子は好きだとも。
飲めない仲間も居るので、帰りの運転は任せてとの事。
「らしいんだけど」
誤解は上手く解けたハズなのだが、良いステーキのお店が有るからと一緒に誘われた。
女の子達からもお願いされ、一緒に行く事になった。
車3台、行く先は基地。
勝手に米軍基地だと思っていたが、亜細亜連合の基地だそう。
井縫さんに予習をと言われ、調べる。
フィリピンやベトナムだけで無くイギリスやドイツと、離れた国との共同基地だそうで、中つ国や旧ロシアと敵対関係に有る時代に組まれた連合なんだと。
今は訓練や練習場に近い形になっていて、騒音問題も有るらしいが、1度中つ国に占領された経験から、地元の反発はそこまで無いらしい。
河瀬め、全然違うじゃ無いか。
少し離れた嘉手納の基地へ。
基地初めて、身分証にパスポートと手帳も出した。
初めて使うな楠の。
特に問題無くすんなり入れた、ワクワク。
外とは建物も雰囲気もまるで違う、外国的雰囲気。
ステーキハウスらしいステーキハウス、カジュアルなダイナー的レストラン。
お酒ガッツリと言うよりは、お食事メインな感じ。
飲まない組はノンアルコール、せいちゃんが帰りを運転するらしい。
井縫さんとアルコール組、揃って乾杯。
オススメされたシードル旨し、女子も気に入ったらしい。
大学の同じゼミで仲良くなった子達なんだそう、警戒心高めの子の大学デビューを手伝いに、遊びに来たんだと。
家も北谷周辺なので、帰りは送らなくても大丈夫だそう。
それから少しづつ打ち解けて、話しも弾んでいる。
せいちゃんに声を掛けた子も普通にしてるし、ざっくばらんにネタばらしまで、あの子の付き添いで声を掛けただけらしい。
「“良い子達ばっかだね、お目が高い”」
『“なんだけどね、もっと日本語勉強しないと”』
「“英語圏からだと難しいってマジ?”」
『“マジマジ、言語学校で先生が芝の生えた沼だって言ってたけど、本当、今なら分るよ。カタカナに漢字、同音異義語。最初はひらがなだけで精一杯だったのにさ”』
「“日本人でも書けないの多いし、読めないのも有る。”駅名で読めないの多いよね」
『十三で、じゅうそう』
「特牛で、こっといとか」
女子にも話しが広がる中、あの子だけ喋らない。
スマホで会話に入るのだが、失語症か何かかしら。
少し心配になり、1番警戒心の高い隣の女の子に話し掛ける。
言い難い事なのか、少しその子と話した後、喫煙所へ誘われた。
自分が言うのもなんだが、驚いた。
男の子らしい。
とんでも無くドキドキして来た。
「その、すんません、言ってくれて」
「別に、あの子が良いって言うから」
急に赤くなって、お好きか。
「お好きで」
「マジでストレート過ぎ」
眼鏡のサバサバ系女子が真っ赤になって、可愛い過ぎる。
酷な事をしてるな。
「申し訳無い」
「別に、友達だって線を引いたのは私からで、だからココまで仲良くなれたし」
「切な過ぎ」
「な、マジで、どうしよ」
「お姉さん、キュンキュンしちゃう」
「少し上なだけでしょうに」
「ですな、経験も大したの無いし」
「の割りに、良い断り方だったと思う。私でも、アレは出ないだろうし。ぶっちゃけホッとした」
「逆に興味湧いちゃったんですが」
「やめてよもう、あの子美容系行くの。だからその髪の毛に、どうしても惹かれたんですって」
「なんだ、髪の毛か」
「くせ毛敵に回したよね」
「さーせん」
「はぁ」
「告れば良いのに」
「前言覆すって、かっこ悪いし」
「それは良く分るが、先を考えて奪われるよりマシかと」
「断られたら友達の関係まで崩れるのが嫌」
「分かる、でも時間掛けて良い方になるかね」
「私、友達少ないから、大事にしたい、今も、関係も」
「目の前で奪われたご経験は」
「無いけど、遊びならマジでやめて欲しいんだけど」
「あー、どうしよーかなー」
「ちょ、待ってよ」
席に戻るとステーキが並んでいた、様子見で頼んだが、凄い旨い。
シードルとも合うし、マッシュうまし。
「“ねぇジョニー、実は男だったらどうする?”」
『“君が?まぁ、スリムだなとは思ってたけど、そう言う子も隊に居るし”』
「へー、寛容」
『好きに生きる権利が有るからね、誰にでも』
「じゃあ、他にもココに居るとしたら?」
『そうだなぁ、別に。女の恰好の男が、女を好きでも俺が害されるワケじゃ無いし、逆でもね。ただ、君が男の子なら少し残念かも』
「まぁ、スリムなだけかも知れませんよねぇ」
『優しいね、あの子、そうなんだろ』
「バレますか」
『最初は分らなかったけど、まぁ、身近にも居たから』
警戒心高い子は英語の聞き取りは可能らしく、最初は睨まれたが、後半になりガンつけは解除された。
そしてあの子に何かを話してる。
その子が話し出そうとした所で喫煙所へ連れ出す、また睨まれたが無視。
「あのですね、実は凄いツボ押しの持ち主なんです。声の専門で、内緒でやってます。もし声にコンプレックスが有るなら、少し試してみませんか」
「お願い、します」
可愛い男の子の声なのに、少し勿体無いかも。
「じゃあ、あーーって普通に長く言ってね、好みの声が出たら手を上げて」
ツボを推すフリをして、自分のと比べながら声帯を変えていく。
喉に脂肪で空間を埋め、スタッカートで声帯を癒着させる。
『ありがとう、ございます』
かなり女の子らしい感じ。
「ポリープが出来るかも知れないのと、もし元に戻す時は完全には戻らないのと、また変わるかも知れないのは、ご了承下さいね。後、ワシの事は内緒で」
『はい』
めっちゃ笑顔、可愛いなぁ。
断ったの勿体無かったなぁ。
席に戻ると冷やかしの嵐、井縫さんにせいちゃんまで。
「喉の調子が悪そうで、少し様子を伺っただけです。秘伝ののど飴あげて、発声練習で大丈夫になりました」
『すみません、ご心配お掛けしました』
もう今度は女子が大盛り上がり、マジで皆良い子達。
サバ子ちゃんも喜んでるし、まぁ、神様達にもコレ位は見逃して欲しい。
『“悪く無いかも”』
「“お断りしちゃったんだよなぁ、勿体無い事したわ”」
『マジか、じゃあ俺にしとこう』
「お友達以上は無理だ」
『じゃあ友達で、連絡先交換しよう』
「おう、また連れて来てくれよ」
『勿論!』
そこからは連絡先の交換合戦、前に聞いた事のあるRingSでの交換。
先ずはジョニーの仲間達全員と交換、忙しい時も有るからと、他の友人も含めての交換になった。
せいちゃんに声を掛けた子は、真面目そうなノンアルコールの人とだけ交換、本当に慎重で真面目。
サバ子ちゃんの勧めで、ジョニーとあの子も連絡先を交換していた。
そしてサバ子ちゃんからも、マジか。
「別に、嫌なら良いけど」
「ツンデレか、お願いします」
叩かれながらも交換した、こう可愛い子に弱いんだ。
そしてメンズ同士も交換へ。
独りだけ違う目的っぽいのもせいちゃんと交換してたが、まぁ良い経験になるだろう。
駐車場で女子とお別れし、メンズだけ?で二次会が始まった。
少しだけ奥に行ったフードコート、チーズステーキとタコスを買い、テラスでビールを飲みながら話す。
翻訳機を使いながらも、不安定なイントネーションで打ち解けていく。
『セイは、どの子が良かった』
『ノーです、居ません』
「年上が良いのかせいちゃんは」
「意外ですね」
巫山戯ているとノンアル組の独りが、ホッとしたのかビールを飲み、話し始めた。
ココの子達は、見た目と中身のギャップが凄くて困る、複雑だと。
どこでもステレオタイプ、テンプレは存在するものだが、この国の女子は特に乖離していると熱弁し出した。
早口で話し始めたので、彼の通訳をした。
「はぁ、だそうですよ」
「お疲れ。それが良いのになぁ」
『井縫さんはそうなんですね』
『分かるし、そのままも良い』
「彼は寛容ですが、捻くれてるとも言います。バッド、癖が有るは楽しい」
そうだよなと熱弁君、どうやら真面目ちゃんに少し惚れてしまったらしい。
あら可愛い。
『惚れちゃったんですね』
「あの位で惚れてたら、目移りしそうだが」
『“俺もそう思う”、同意』
父方のお祖父ちゃんが真似してた某芸能人を髣髴とさせる、英語と日本語のミックス。
ちょっとオモロ。
「バット、癖が有り過ぎると大変、ベリーハード」
『ふふふ』
「それこそ、それが良いのに、簡単なのは面白く無いですよ」
『分かります、“同士だ”』
癖が合うのが1番との結論になり、熱弁君は眠ってしまった。
緊張と疲労らしい、昨日まで訓練だったが、今日の雷雨でトレーニングに切り替わり、そのままお休みになったんだと。
ジョニーが駐車場まで送ると言い出したので、今日はお開きとなった。
「“お空ですか、恰好良い”」
『“内緒ね、今日は有難う。じゃあね”』
挨拶に軽くハグから、頬に頂いて、車に乗り込んだ。
疲れた。
「疲れた」
「お疲れ様です」
『お付き合いしちゃいます?』
「無理、雄々し過ぎ。あの子の方が良いな」
『意外?と言って良いんでしょうか、他の子は?』
「興味無い、サバ子、藍ちゃんはまぁ、友達よな」
『一番捻くれてるじゃ無いですか』
「ですね」
「そう?基本は面食いだけぞ?」
『自覚した方が良いですよ、捻くれてるの』
「観上さんもですけどね」
車で1時間、歩行者天国も解除されたので、ホテルへ車を泊める。
三次会、バーラウンジで打ち上げ。
「お疲れ様でした」
『いえいえ、私は少ししか飲めませんし、コレで充分ですから』
「お疲れ様せいちゃん、乾杯」
度数に関係無く甘いのと、アルコール少なめの甘いの、スッキリしたのと三者三様のお酒の頼み方。
うまいが、マジで少しキツめ、ギリギリ。
『それも美味しそうですよね』
「美味いけど、せいちゃん一口で飛びそうよ」
『ぅわぁ、可愛い見た目なのに、結構キツイですね』
赤いお砂糖で縁取られ、白い泡にラズベリーが飾られた可愛い外観、ココナッツ、ラズベリーの香りのするミルキーピンクだもの、油断するわな。
せいちゃんのはシンプルな紅茶ベース、甘さスッキリで度数も低くて飲み易い。
井縫さんはシトラスベース、スッキリさっぱりの炭酸系。
カクテルを選ぶ中で雑談に入っていたワードが取り入れられている、凄い、凄いヤリチンぽいけど。
「凄いなぁ、楽しいなぁ」
『本当に初めてなんですかね』
「そこな、女の子は初めてだから」
『え?』
「あ、いや、この状態でよ」
『ですよね』
「でも、鈴藤も無いんじゃ無いかな」
『またまた、それは無理が有りますよ』
「繋ぎと言うか、数合わせとか様子見係よ。同行してる人の様子見に使われる感じ、あの子、どうかなって」
『あぁ、今日の私みたいな感じですかね』
「そうそう、ご苦労様です」
珍しく置いていたスマホが鳴った、見るとサバ子ちゃん。
グループに招待されたのだが、あの子も居る、なんて子だ。
『楠さんでも赤くなるんですね、それとも、何か有りました?』
「サバ子ちゃん、あの子の事好きなのに、こんなん、良い子過ぎでしょう」
「確かに、ちょっと興味湧きますね」
「ね、凄い良い子なんだよ、押したんだけどさ、強情で」
「気になりますか」
「こんな可愛い子、平常心は無理でしょうよ」
「真っ赤ですね」
「見るな、酒のせいだ」
『照れてる貴重な写真を』
「やめい、せいちゃんの時は撮らなかったのに、酷い」
『冗談ですよ』
「俺は良いのが撮れましたよ、ジョニーに送ってやりましょう」
「ちょ」
うっかり、顔から手を外したばかりに、今、井縫さんに撮られてしまった。
こんな甘い手で、もうRingSのID消そうかしら。
そしたらショック受けちゃうか、サバ子ちゃんも。
『こう見ると、ちゃんと女の子には見えるんですけどね』
「ですね、他の写真も顔隠してますし」
『無反応って、拗ねてますね』
「ですね。昨日も言いましたけど、コンプレックスが凄いんですよ楠は」
「なんつー話をしとるか君らは」
「楠がですよ、対応からして拗れてる様にしか見えない」
「まぁ、こんな姿ですし」
「大体、本来の自分なんてある程度は外部から勝手に形成されるんですから、後は本人がどうしたいかです」
「井縫和尚の説法タイム」
『私は好きですよ、勉強になります』
「ただ観上さん、見る目がちょっと。楠に告白したあの子、どう思います」
『可愛らしい子だなとしか』
「性別、見た通りじゃ無いですよ。疑うべきと言うより、ちゃんと見ないとそれこそ相手に失礼かと。相手が見せたい様に見るだけなのは、素直過ぎです。是非、態度と実際が違う事を念頭に置いて下さい」
『はい。楠さん気付いてました?』
「サバ子ちゃんから聞いた、本人が言って良いって。ジョニーも身近に居るから気付いたって。ジョニーとの連絡先交換を促してたのは、ソレかと」
「ほら、見習って下さい。相手が隠してるからって全部見ないのは甘えです」
「いや、それはそれで良い事も」
「大して無いですよ、それこそ恋愛だったら相手と拗れる理由になるんですから。本当はこうだった、こうして欲しかったなんて、良く聞くセリフなんですから」
『はい、気を付けます』
「先輩、ちょっと来い」
「はい」
ガラス越しの喫煙所へ向かう。
何を考えてるのか、楠が本来と気付かせようと仕向けて、アホか。
「アホか」
「観上さんの為のお説法ですが」
「だけ?ニヤニヤして何を企んでる」
「さぁ、当ててみて下さいよ」
「はー、ムカつくー」
またサバ子ちゃんからの通知、追撃内容は[あの子の為、遠慮すんな、同じ土俵に立て]と。
男らし過ぎる、どこまでも良い子。
もう勢いで友達申請を登録、葵ちゃんか、どっちでも使えそうな良い名前。
直ぐに可愛いスタンプが来た、待機してたんかい、可愛いしか無いなおい。
「俺も、ムカつくんですよね少し、観上さんにも」
「ワシにもか、すまんね」
「ほら、拗れた返答が出る」
「すまん、控える」
「だから友達少ないんですよ」
「日頃は控えてるんだが、すまん、もっと控える」
「まぁ冗談ですけどね、そこじゃ無いんですよ、全然。ただなぁ、楠さん、酔わないのがねぇ」
「いや、今、めっちゃ酔ってるよ」
「プロになりたいなら、もっとちゃんと酔った感じを出して下さいよ」
「マジなのに」
「じゃあ、まだ飲め」
「はい、サーセンでした先輩」
またニコニコ顔になり、タバコを消す井縫さん。
そうして席に戻ると、せいちゃんへ酒を勧め始めた。
「じゃ、もう少し飲みましょか」
『いや、私はもう良いかな』
「限界を試すなら今ですよ、ココで試さないなら帰っても付き合いませんからね」
『それは困るけど、二日酔いも嫌だなぁ』
「そのギリギリじゃない?いざとなれば良いのが有るんだし」
『じゃあ、お言葉に甘えて』
「お酒の種類は変えて下さい、お酒の味と匂いでどの位強いかも覚えて貰わないと」
『はい』
そこは本気で真面目なのね。
今度はフローズンカクテル、ミルクとチョコで美味しいのだが。
ストローとは言え、キツイ、20%は有るか。
せいちゃんも似た感じのイチゴシェイク風で5%位だろうが、それでもせいちゃんにとってはギリギリかと。
井縫さんはコーラシェイク系、キツイ、25とかか。
「はい、どうぞ」
『美味しいですね』
「じゃあ、大体の度数の予想をお願いします」
『んー、私のは8。楠さんのは15、井縫さんのは18とかですかね?』
「俺のは23以上かと、楠さん良いですか」
「どうぞ」
「20位で、観上さんのは6位かと」
「ほぼ同意」
『んー、難しいですね』
「しつこく味わうべきかと。鼻から抜ける感じとか、空気を入れた舌の感じとか、どうでしょうか先輩」
「ですね、アルコールの匂いは多少誤魔化されますから、味わって欲しいですね」
『そう言われると、そんな気もしますけど』
「逃げ手としては、ココならカウンターに注文に行った段階で水頼んでコッソリ飲むとか、早々に静かに吐いちゃうとかも有りかと?」
「そうですね、ただ普通、この位の年齢では学んでるハズなんですけどねぇ」
『すみません、甘やかされてまして。職場の飲み会も無かったもので』
「大学でも?」
『ですね、古い友人が誰かしら居て、ノンアルコールを頼む人間も多かったので』
「恵まれてた時代が終わったと思って、頑張って下さい」
『はい』
「それと、飲むペース、相手に合わせつつ飲むフリも覚えて下さい。楠さんもですが、今は普通に飲んで下さい」
「うい」
コチラのピッチに合わせて飲めば、せいちゃんは眠くなる。
ただ、立場や仕事から飲んで無いと思われるのは困るだろうとのお説法、有り難いねぇ。
「拝んでも手加減しませんよ」
「マジか」
酒が無くなりかけたタイミングで、次が頼まれる。
今度は炭酸、シャンパン系らしい。
井縫さんも同じモノ、せいちゃんは半分残ってるのでまだ。
「後は時間差ですかね、飲んで直ぐ酔うワケじゃ無いんで、今が大丈夫だからって飲むと、めっちゃ酔います」
「マジそれな」
注文の品が来ると乾杯に。
「あれ、飲んでませんねぇ」
『いやぁ、弱くて』
「飲めば強くなるとか、頑張れせいちゃん」
「まぁ、それも嘘ですけどね、お口に合いませんでしたか?他の頼みますよ」
「ですね、それか温かいのとか。有るんですかねぇ」
「じゃあ、頼むだけ頼んでみましょうかね」
井縫さんと悪ノリし、暖かい梅酒風のキツいカクテルをお願いしてみる、何でも出るな。
凄い。
『暖かくて飲み易いですけど、コッチで大丈夫です。ありがとうございます』
「じゃあ、楠。一気な」
「うっす」
『ちょ』
「だって、観上さん飲まないでしょう」
『いや、でも』
「勿体無いですし、な」
「うっす」
『分けましょ、ね?』
「良いんですか?お願いします」
コチラはゆっくり飲むが、器が小さいのでペースが早く見える。
ジワジワとせいちゃんを追い詰める。
もうマイペースに飲むのが1番なのだが、コチラに釣られて、せいちゃんが飲んでしまっている。
そしてとうとう、飲み切ってしまった。
「ダメですよ観上さん、負い目を感じたら。付け込まれます」
「だよ、焦ってペース早いし」
『潰れられたら困るなと思って』
「相手の底にも見当は付けないと、楠はまだ普通に飲めるでしょう」
「うっす」
『そうは見えますけど。井縫さん、楠さんの事分かってます?』
「まぁ、凄い人だと思ってますよ」
「照れちゃうなー」
『大丈夫だと思います?』
「それこそ、観上さんはどうなんですか」
『不安ですよ、だって、良く分らないんですし』
「もう良いよ飲まなくて、コレは練習なんだから」
『そうですか?』
「そうやって、相手から優しさを引き出すのはズルいですよ」
「ワシに刺さってるんだが?」
「観上さんに言ってるんですよ。甘やかされる環境を作れなかったら、コレ飲まされるんですし」
『お会計の必殺技は』
「部屋付けですよ」
『ですよね、あ』
「はい、飲み切った。酔ったなせいちゃん、帰りましょ」
「少しは守ろうとか思わないんですか」
『強いんですよ?私より』
「なー、帰ろうー」
「万が一」
「まぁまぁ、帰ろう、皆で眠ろう」
ほんの小さな声で最低と聞こえたが、本当に苛ついて。
男の子の日かよ井縫さん。
せいちゃんをベッドへ横にならせ、淡雪を側に置いてから、井縫さんと浮島へ向かう。
めっちゃ吸い込むじゃないの、どうした。
「すみません、ちょっと酔ったかも知れません」
「嘘つけ、耳飾り外れてる」
嘘、ちょっと焦ったな。
しっかり付いてる。
「騙しましたね」
「騙される方が悪い。何がそんなに苛つくのさ」
「甘やかされて平和ボケしたボンボンなんて、ムカつくでしょう」
せいちゃんの事を知らないと、こう思うのか。
確かに、知らなかったらそう思ったかも知れないが、悪い人じゃ無いし。
「別に。それに意外に苦労してる面も有るし、妬み?僻み?嫉み?」
「さぁ、どれでしょうね」
「真面目に、無理なら交代の口添えするから。ほれ、耳飾り一旦返して」
「本当に、全然酔わないですね」
「なんだろ、代謝はさせて無いけど、気を張ってるからだろうか。マジでそんなに強く無いよ」
「日焼けも、勝手に自己修復してません?」
「あぁ、かも、便利。リジェネレーターやんけ、かっこよ」
「観上さん、色々と知ってるんですよね。ならもっと敬っても」
「くれてるくれてる、今更なんだい君は。せいちゃんも他の人にそうして憤ってくれたけど、今はコッチの願い通りの態度なだけで。大丈夫、ワシ普通の人間だし」
「普通は犬を引き剥がせませんよ、しかも、他に乗せ換えるなんて」
「魔法は何でも出来るのです」
「じゃあ、その格好で胸を大きくして下さいよ」
「時間が掛かる、大きなオッパイは大きな対価を代償としてるのです」
「本当にふざけてますよね、俺より」
「良い見本が身近に居てくれて助かっておりますよ、本当」
「俺、本当に役に立ててます?」
「居るだけで充分です」
「じゃあ、ソレ返して下さい」
「無理、せいちゃん合わないなら交代して、ワシにとってあの人がこの世界での自分の軸だから。合わないなら交代して欲しい」
「そんなに好きですか」
「いや、可愛いけど、軸、目盛りや基準点であって。君も誤解するとは、残念だ」
「普通、誤解しますよ」
「なんで?」
「バカですか」
「うん。で、なんで?」
「出来るだけ一緒に居たがるとか、自分の世界の中心だとか。普通誤解しますよ」
「あぁ、単語を取ればね。相手は作らんよ」
「あの子、葵って子はどうするんですか」
「あれなー、心が揺さぶられたわ。囃し立てられたといえど、凄い度胸だし。また会った時は運命かってドキッとしたわ」
「男らしいのはダメですか」
「だね、拗れて捻くれてるから、井縫さんでギリ、大國さんもジョニーもアウトよ」
「そこに俺が入りますかね」
「例えでな、すまんね、気を悪くしないでおくれイケメン様」
「拝んでも何にも出ませんよ」
「じゃあ言え、何が合わん」
「楠さんへの態度ですけど、なんか、もう良いです」
「良く無い、言え」
「少しは偉そうにして良いんですよ、あまり卑屈は周りが困るんで」
「卑屈は謝るが、これは自分的に正当な評価なんだよなぁ」
「それでもですよ、少しは上の立場の感覚も覚えておかないと。何か、命令してみて下さいよ」
「お手」
「はい」
「可愛いなおい」
「あと、別に笑顔も媚びてるとは思わないんで、大丈夫ですよ」
「イケメンに笑顔を向けると足が攣る呪いが」
「タマノオヤ様にめっちゃ笑顔だったじゃないですか」
「あー、呪いは人間限定なんですよー」
「アナタのコンプレックス、解消するにはどうすれば良いですかね」
「整形っしょ、鼻と眉骨と顎と」
「殆どじゃ無いですか」
「女性ホルモン作用して無い造形なんだもの、仕方無い」
「らしさですか」
「まぁ、過去の不幸を顔面のせいにしてる節は有る、もしかして、聞いて無い?」
「ココでの事と、タブレットの情報だけです。アナタの深い事は、何も聞いてません」
「父親から化け物呼ばわりされたのがね、何十年も響いて、アホよね」
「それで、顔に自信が無いんですね」
「そも自分に自信無いですお」
「もう、呪いじゃないですか」
「なー、もう化け物で結構だとは思ってるんだが、実の父親だからね。良く血を流すのは、それを排除したいのかもな、父親の血だけ抜きたいって泣いて訴えたし」
「俺も言った事有るんで、分かりますよ。父親に似てるって言われると、最高に腹立ちましたから」
「父親が地雷か、覚えとく」
「もう大丈夫ですよ、受け入れたんで」
「先輩、どうしたら受け入れられますかね」
「この顔とかを利用してるウチに、まぁ、良いかなって」
「良いなぁ、ある意味他人から見たら良い所だし。こちとら肩幅ぞ?女子にそれは無いわぁ」
「クソですね、そいつ」
「なー、でも確かに他の兄姉と比べると、そうなんよな。それと、人が良さそうとか、そう言う雰囲気だって、向こうもコッチもクソなのに」
「そう見えませんよ」
「そうそう、それ。ワシも父親も、皆クソじゃ」
「嫌いなんですね」
「ワシは嫌いになっても、せいちゃんは嫌いにならないで下さい」
「もう少し、対話させて下さい」
「おう、無理すんなよ」
「はい」
「じゃあ、はい、耳飾り」
「楠さんはちょっと」
「マジかー困ったわー」
「良いじゃ無いですか、葵ちゃんも居るんですし」
「だな、食べちゃうか、お菓子みたいに可愛いものな」
「なら、俺が楠さんを食べて隠蔽工作しますよ」
「頼むわ、そして鈴藤が不死鳥の様に蘇るのです」
「それも食べます」
「それは困る、まだ美味しいモノ食べたいのに」
「ココに運んできますよ、美味しいモノ」
「おー、引き籠もり放題やん。話しが、美味すぎるなぁ」
「そうですね、絶対に何か裏が有りますよ」
「ふふ」
「そうやってまた隠しますか」
「お上品な生まれなんどす、顔隠すんは嗜みどすー」
「馬鹿にしてますよねぇ」
「いや、良い風習だと思いますよ、扇子で顔を隠すの。復活して欲しい文化ですな」
「頑固ですよね、観上さんもアナタも」
「しゃーない。せいちゃん心配だから帰ろう」
「はい」
先にシャワーを浴びさせて貰い、せいちゃんを暫し観察。
誤解と言うか、彼なりに苦労が有るし、下手すれば更に苦労するからこそ。
いや、無くてもこう甘やかすだろうな、可愛いは正義ですし。
なんなら苦労は買わんで宜しい。
ベランダに出て、コートを羽織り一服。
井縫さんが濡れた髪のまま、コチラに来た。
「湯上がりイケメンクソエロい」
「本当に、メンクイですよね」
「おう」
湯上がりイケメン。
この感想、魔王にも言った気がするな。
「どうしたら振り向いてくれるんでしょうね」
「あぁ、想い人さんか。つか想い人本人に聞けよ、ワンコも居ないんだし」
「聞いたら、気が有るってバレたら避けられそうなんですよ」
「あぁ、マジなのか」
「はい、犬も取れたんで」
「明確に良い事したなワシ」
「ですね」
「ワシ疎いから、相談には乗れないぞ」
「難しい人なんで、突飛なアナタが最適なんですよ」
「ほう、人物像のヒントくれ」
「優しい人で、潔癖です」
「あー、もう全部黙ってれば?」
「もう知られてるんで無理ですね」
「あら、じゃあ中身と熱意を知って貰うしか無いだろう」
「なので、どう伝えるかなんですけど。思い付かないんですよ」
「潔癖はなぁ、難しいけど。君は百戦錬磨やろ」
「そう言う流れ、した事無いんで」
「即落ちなんだっけ、あ、よもぎちゃんに聞けば?」
「もう相談しましたけど、あの人も即落ち系なんで」
「大國さん」
「結婚を申し込めと」
「それは良い手かも、付き合うとかは不安定な状態だから、先ずは安心をね。それと早い段階で身内に紹介すると良いよ、猫さんでも良いから、好きなら嬉しいし安心すると思う」
「それは、思いつかなかったですね。やっぱり中身は女性っぽい」
「試した?キレるよ?」
「いや、マジで悩んではいます」
「もう抱いちまえよ」
「それで落ちるなら悩みませんて」
「百戦錬磨なのにウブかよ」
「そうなりますかね」
「ウブまで2号か」
「2枚目なんで」
「上手い。そうだ、せいちゃんの良い所を教えるから、来なさい」
せいちゃんの寝付きが良い事を利用し、ベッドに寝転び延々と褒め続けた。
コレがドリームランドを伝わって、自信が付いてくれたら一石二鳥なのにな。