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6月6日(土)

 暑い。

 最弱にしていたエアコンと布団のせいなのか、日の出から少しして目が覚めた。

 井縫さんは寝てるっぽい。


 6時、早い。

 朝食はルームサービス含めて7時から、折角だし、目の前の海で寝直すか。


 またしても水着に着替えたのは良いが、さぁ、どう外に出るか。

 玄関か窓から直接出ないと不味いのだが。

 まぁ、せいちゃんにも寝直して貰おう。


 テラスから浜へ、水際で横になり半身を漬ける。

 忍さんよろしく打ち上げられたクジラごっこ、若しくは行き倒れ。

 うつ伏せになり暖かい砂浜に頬を付け、遠くの海を眺める。


 ピンク色の魚が近寄って来ている、大きいな。

 

《何してるの?》

「寝転んでる、どうしたアーニァ」


《遊びに来たの》

「人に見られちゃうよ」


《大丈夫、アーニァを知らない人には見えない魔法を教えて貰ったのよ》

「マジか、でもサメとか大丈夫かいな」


《良い子よ、臆病なの》

「人魚してますな」


《この前ね、人魚のお話し初めて聞いたの、可哀想って言うの?大変よね》

「知らなかったんか」


《うん、サンニァーがいっぱいお話ししてくれるのよ。アーニァ、あんな風にならないんだから》

「恋を知らないと断言出来ないかと」


《恋のお話し知ってるもん》

「知ると実際は違うのです」


《あ、合う合わない?残念ねって、バルドルが言ってたのよ》

「そうそう、どうも」


《お腹減ったの?》

「減った、後少し待たないとごはん出ないの」


《取ってくる?》

「それは今度で。どんなお話し聞いた?」


《髪の長い子の話し、塔に住んでる子。サンニァーが悩んでたの、2倍の伸びでも大して高く無いから、5倍位だろうって。でも、直ぐに頭が痒くなりそうよねって》

「あぁ、ね、ふふ」


《ハナは、痒くなる?》

「一気に伸びるとね、普通でも直ぐに痒くなるのかも。伸びが早いって言われてたし」


《栄養が良いのね》

「ですね、皆は元気?」


《元気よ、お魚食べたりお肉食べたり、お芋も食べてる》

「謎肉ね、美味しいよね」


《サンニァーは牛とイノシシの中間じゃないかって言ってるのよ、お魚も鮭?美味しいね》

「チャンイーは何してる?」


《お手入れ?されてるの、毎日日替わりで色んな神様にブラッシングされてるの、サンニァーはミーミルともお喋りしてる、アーニァはハナに会いに来た、見えたから》

「見えてたのか」


《目が良くなったのね、海だと遠くても見えるのよ》

「見守ってくれてるのね、ありがとう」


《ふふ、綺麗なヒレだから見付けられたのよ》

「コレか」


《わぁ、キラキラ。あ、海でもキラキラ見付けたのよ》


 フィンを囲う様に、シーグラスや綺麗な貝殻が飾り付けられる。

 肩下げの小さな鞄から続々と出てくる、明らかに容量オーバーだろうに。


「祭壇みたい」

《ごはんを捧げるのよね、よいしょ》


 出て来たのはナポレオンフィッシュ、カラフルだけども。

 しかもまだ生きてるし。


「ふ、よし、撮影完了。まだ生きてて可哀想だから、魚はカバンに戻しといて」

《えー、分かったー》


 今度はフィンに飾り付け、配置をあれこれ試しているのを眺める。




「え、つか何でココに」

《来たの》

「だそうだ、せいちゃんは?」


「まだ寝てるかと」

『どうしてココに』

「おはよう、フィンで見付けたんだって」


「海でも目立つか灯台は」

『おはようございます、可愛い飾り付けですね』

《キラキラなのよ》

「お腹減ったのよ」


《コレ食べたら良いのに》

『それ、ナポレオンフィッシュじゃ』

「それは、調理が難しいと思うが」

「ね、どう食べれば良いのか分らんもの」


《ミーミルかサンニァーと契約?したら何でも教えてくれるのよ》

「それは、等価交換が発生しそうな予感」


《ミーミルは目とか足、何するか教えてくれないの》

「それこそ知りたい様な、知りたく無い様な」

『あまり踏み入るのはどうかと』

「だな」


「ね」

「腹減りましたか」

『お食事なら、お風呂に入ったら丁度良い時間かと』


「もうか、じゃあまたね」

《キラキラあげるのよ、じゃあまたねー》


 魚は持って帰ってくれたので一安心。

 シャワーを浴びて朝食の会場へ。




 エッグベネディクトにフレンチトースト、オムレツにスパムお握りもある。

 ゴーヤサラダをモリモリ食べる2人を横目に、それ以外のメニューを制覇。

 余裕で完了。


「ふぅ、せいちゃんどのタイミングで起きた?」

『井縫さんがベランダに出て直ぐですね』


「おぉ、ぉお?出入り大丈夫になったのかね」

『慣れですかね?』


「つかワンコ、また観察してたのか」

「一応、安全の為に。ってい言うか最初は幻覚かと思いましたよ、アレ」

『私もですよ、大丈夫なんですかね』


「らしい、知らないのには見えないんだと」

『なら安心ですね』


 全員で食事を終え、チェックアウトまでダラダラ過ごす。

 せいちゃんと井縫さんは目の前の浜辺へ、自分は淡雪を部屋にしまい、ソファーでぬいぐるみとイチャイチャ。

 お腹がいっぱいで眠い。






『もうそろそろ起きて下さい、準備しないと』

「うい」


 スーツケースをしまいロビーへ向かう、お会計は現金で、目玉が飛び出て何処かに行ってしまう金額だった。

 贅沢はお金でも買える。


 お金の掛からない贅沢は、良い天気の日に何もしない事。

 コレから海中道路までせいちゃんが運転し、折り返し地点で井縫さんが運転を代わるらしい。


『じゃあ、行きましょうか』

「宜しくです」

「お願いします」


 今度は海沿いを上へと向かう、コンビニで休憩し1時間程で港へ。

 更に15分、小さな離島へ着いた。


 囲い無し、こうで無いと。


 餌付けして良いらしく、魚肉ソーセージを持ってせいちゃんと海に入ったのだが。

 あの危険生物が居るらしく、海に入りながらキャアキャアと叫ぶ人の声が聞こえた。


 そこは避けて魚の居るポイントへ向かう、少し砕くと凄い勢いで魚が集まって来た。

 ちょっと怖い。


「ちょっと怖いわな」

『ですね、指もつつかれてますし』


 ただ慣れてくると可愛いが勝つ、餌の量をコントロールしながら海中を眺める。

 綺麗な小魚に突付かれるのすら、可愛く思えてきた。


 どの海も綺麗で楽しい。


 餌も無くなり休憩に浜へ向かうと、ニヤニヤした井縫さんがサムズアップしている。

 何かと思えばアクティビティを頼んだらしい。


 バナナボートでは後方に座らされ、見事に吹き飛んだ。

 モンスターと呼ばれる持ち手に掴まるタイプの乗り物も、ジェットスキーのお兄さんによって吹き飛ばされた。


「大丈夫ですか」

『凄い飛ばされてましたよ』

「クソ楽しい」


『本当ですか?』

「マゾですか」


 マジで、とっても楽しいです。


 パラセーリングはせいちゃんと2人、流石に男2人は嫌だったらしい。


 今更ながら、自力で飛べないのは結構怖い。


「コレも少し怖いわ」

『飛んで跳ねてるって聞きましたよ?』


「跳ねてるだけよ、こう滑空して無いもの」


 下に降りると井縫さんが水上バイクに乗っていた、そしてアクティビティのお兄さんに乗せて貰う。

 まぁ楽しい事。


 バイク自体も乗れないし、後ろなのが少し不満だが、跳ねたりしてくれてクソ楽しい。


 最後に少し井縫さんの後ろに乗ったが、上手。

 コレは乗れたら楽しいな。


『免許ってどの位掛かるんですかね?』

「最短で1日ですよ」

「マジか、欲しい」


「戻ってからの方が良いですよ」


 帰って近隣で取るのが1番らしいので、旅行を終えてから余暇で取ろうと言う事になった。

 万が一ココで落ちたら憂鬱だろうと、成程。


 後は浮き輪で漂い、日傘を差す。

 遭難ごっこ、フィンは付けてるので多少は流されても安心。

 上は暑くて尻涼し、飲み物も、出すか。


 本当に、海上に強制転移させられなくて良かった、砂漠もだけど。

 海にはサメが居るし、波高いと溺れる自信も有るし。


 少し顔を上げ辺りを見回す、そう遠くは離れて居ないのだが。

 黒く大きな魚影、マジか。


「まっ」

『ふぅ』


「なんだ、チャンイーか、ビックリしたぁ」


『ごめんなさい、アーニァの事で相談が有って』

「何々」


『用心にと御伽噺を聞かせてたのだけれど、あの子って幼いから。外の海にも直ぐに行っちゃうし、心配なの』

「今日来たね。幼いままなら良いのにね、成長したら困りそう」


『そうなのよ、恋とか愛とか。私も興味は無いけれど、怖い事だって事は分かるから』

「面倒な事だとは理解してるみたいだけど、実感にはほど遠い感じっぽそう」


『私にも経験が無いから上手く言えないし、サンニァーはそもそも恋愛が嫌だって言うし。かと言って神様達に相談するのも、どうなのか分らなくて』

「人を越えた回答が待ってる可能性も有るものね、達観され過ぎた回答は困る」


『そうなのよ、基本的には大丈夫としか言ってくれ無くて』

「恋愛で死人は中々出な…くは無いな、稀に良く有るから。そうだ、ウガリットのソロモンさんとかどうかな、良い中間地点を教えてくれるかも」


『そうね、それが良いかも。ハナは、どう?』

「遠い世界の存在です、醜いアヒルの子が普通のアヒルの子になっただけで、周りは普通の人間だから」


『ふふふ、私は犬の子、ハナはアヒルの子なのね』

「アーニァは人魚の子、サンニァーは水の子かな」


『そうね、ふふふ。じゃあね』

「じゃあね」


 チャンイーとお別れし、少し島から離れてしまったので浮き輪を押して泳ぐ。


 海中は何処までも青い海、光りの加減が地上には無い美しさ。

 光りの梯子が無数に降りている。




「迎えに行くか相談してたんですよ」

「すんません、話し込んでまして。チャンイーと」

『彼女も来ちゃったんですか』


「人魚の心配にね、愛だの恋に疎いから、どうしようかって。ソロモンさん紹介しといた」

「あぁ、なるほど」

『知識は万能じゃ無いんですかね?』


「人の気とか考えは、また別らしいよ。つかマジでビビったわ、黒い大きな魚影で、死んじゃうかと思った」

「どうにも出来そう」


「いやー、ちょっと固まったよ。出すなら剣かね」

「でしょうね、摩擦抵抗とかも有るだろうし」

『本当に、亀とか取らないで下さいね』


「さっき聞いたんですけど、旨いらしい」

「えー、稀少じゃ無い所で頂きたいんだが」

『お腹空いてます?』


「まだだけど」

『コレから先、船を待ったりしますし』

「行きましょう」


 シャワーを浴びて港へ向かい、せいちゃんの運転で本島へ。




 海沿いを走ると、車海老のお店に着いた。


 席に付く頃、すっかりお腹が鳴っている。

 刺身に天ぷらにフライ、全部有る。


「全部」

『でしょうね』

「特大ですかね」


 お刺身は開きにして貰い3人で全盛りセットを頼む、当たり前だが全部美味しい。

 フライとお刺身を追加注文。


「ココん家の子になりたい」

『食べ物に弱過ぎですよ』


 そうして今度は近くの離島へ車で向かう、いくつか有る海中道路の1つ。


 景色良い、眺め最高。

 島を一周し、今度は下る。


 途中で眠くなってしまったせいちゃんと井縫さんが運転を交代、後部座席に移動し、ぬいぐるみの触り心地を楽しんでいる。


 チラチラ観察しているとぬいぐるみを抱えて幸せそうに眠り始めたが、心配。

 本当にどうしたのか、成長期には遅過ぎる。


 井縫さんも心配なのか、暑いのに少し窓を開け、一服し始めた。


「アレは、大丈夫なんだろうか」

「拡張し始めてるらしい」


「不味いのでは」

「ソッチが順調に行けば問題無いと」


「またプレッシャーを」

「朗報は、より丈夫になれるんだとか」


「それは良い事だが」

「いつかこうなってたと、アナタが居ない時より事態はマシなんだとも」


 切っ掛けは、何だ、思い当たる節が有り過ぎて。


 眼鏡?鍵?またはその両方?


 月読さんに相談してどうにか成るものか、拡張を止めるデメリットも聞かないと。


 なのに、眠い。


「すまん、ワシも限界が」

「どうぞ」






 目覚めたのはもう1つの海中道路の手前。

 トイレだ何だと休憩し、島の奥にある浜辺で休憩。

 パラソルとベンチを借り、皆で本格的にお昼寝。







 15時起床、コレは暑いからだ。

 せいちゃんはもう海に入ってるし、井縫さんは水分補給をした後に寝直してる。

 水がマジで美味い。


 そして暑い。

 耐え切れず海へ入る。

 フィンはダメなので浮き輪に寄り掛かり、囲いの中を漂う。


 海は飽きると思ったが、脳みそが空っぽになって、そも飽きると言う概念が無くなる。


 何なら落ち着く。


『借りてきた猫ですね』

「大人しいと言いたいか」


『はい。海も温泉も好きって、水が好きなんですか?』

「だね、プールで溺れたり肺炎になったり碌な思い出が無いけど、好きだわ」


『泳げなくても』

「ても」


『試してみません?』

「いやだ、断る」


 どうして皆、泳がせたがるのか。

 そんなに珍しいか。


 せいちゃんから逃げていると、陸に打ち上げられた。

 そのまま浜辺を見る。


 濃い自分の影と、砂浜。

 小さな砂粒から水が引く、また波が来ると潤う。


 粒の見分けは付かない、神様にもこんな感じで人間が見えてるんだろうか。

 少し目立つ貝殻とかシーグラスなら見分けも付くけど、ただの砂粒なら入れ替わっても分からないだろうに。


『何か居ました?』

「いや、砂粒見てた」


『サンゴの残骸らしいですね』

「なら遺骨か」


『人間で例えてます?』

「うん、だけど砂粒が残骸なら、サンゴ礁が人間よな」


『そうですね、群れですし』

「単一性生殖が可能なら、群れ無いのかどうか」


『脅威によるんじゃ無いですかね、敵が居るかどうか』

「共食いみたいになってるのにか」


『小さな囲いで育つと共食いする動物も居るって聞きますよ』

「広い所で育ってもなぁ、結局群れそう」


『群れの個体数ですよね、良い距離が保てれば付かず離れずになるかと』

「距離の個体差有り過ぎぃ」


『ですよねぇ、楠さんみたいに単独行動したがったり。鈴藤さんみたいに近かったり、性別で行動がこんなに変化しますかね』


「だって、違う生き物だもの」

『はいはい』


「もー」

『休憩しましょうね、水分補給しないと』


 可愛い女子が井縫さんを見たり、せいちゃん見たりしてるのにか。

 マジ無理、女子に恨まれたく無い。


「行ってらっしゃい、もうちょっと居る」


 ナンパされる所が見られないのは残念だが、居たら邪魔になるし。

 見てたら向こうもやりづらいだろうし、チャンスを潰せん。


 浜に背を向け、海に浮かぶ。


 もう何度、鈴藤だったらと思っただろうか。

 コミュ障の言い訳を性別に擦り付けている自覚は有るが、それの問題は変身の事だけだし。


 でもあれか、影に連れ込まれたら元に戻れ無くなる可能性が有るのか。

 それは困るが、イザとなったら鈴藤で出れば良くないか?

 ダメなのかしら。


「おい」

「わ、なに」

『気付いてたんですか?』


「なにを」

「ナンパ」


「あぁ、目ざといんで、気配で」

『言って下さいよ、そしたら一緒に来て貰ったのに』


「行ってどうする、向こうの援護しかせんぞ」

『それは』

「まぁ、居ても粘られた可能性は有るかと」


「まさか断ったのか」

『そんな眉間に皺を寄せなくても』

「流石に、沖縄に居る間だけでもって言われるのは」


「どストレート。でも、良ければ戻ってもって事でしょうに」

『無理ですよ、それこそ距離が近くて、瞬時にダメになっちゃって』


「もー、慣れろよー」

『楠さんには慣れましたけど、全般的に人見知りなんです』


「もう、お見合いしか無いな」

『家同士の結婚って感じも、嫌なんですけど』


「こんな人見知りのウブに見合い以外出来るか」

『無理なら良いです、別に死にませんし』


「死んじゃうならどうするよ」

『そんな極端な』

「真面目に考える良い機会かも」


「ほれ、どうするんじゃ」

『えー』

「見合いの何が嫌なんですかね」


「やっぱ見合い安定よな」

『それ、お見合い相手複数居ます?』


「居る前提にしますが、競争率はそれぞれに存在するものとします」

「そこは恋愛と変わらんかと、良い条件を持ってたら競争率は上がるんで」


「せいちゃんは上位ランカーね、同等以下は選び放題」

「但し、相手も相応の競争率ですよ」

『何か、具体的ですね』


「恋愛とそう変わらんと言ったでしょうよ、で、どうする。それでも恋愛結婚したいかね」

「恋愛の最初は、相手の情報の信頼度も不明。見合いは情報開示が有るメリット付き」


『うーん…好きになろうとする感じがして、何か嫌なんですけど』

「ピュア。確かにそう思ったらそうなるでしょけど」

「そう思わなきゃ良いだけでは」


「友達からでも、それ以上になれないなんて良く有るべ」

「良く聞きます」

『見極めに時間を掛けるのが申し訳無いかと、万が一向こうに好かれてからお断りするのも、心苦しく有りません?』


「せいちゃん、それは大人なんだからさぁ」

「上手く諦めて貰うのも大人の配慮なんで、頑張るしか無いですよ」


『こう、好意を抱かれるのが怖いと言うか、何で自分に?って感じちゃうんですよね、この前の事も有りましたし』

「墓穴掘ったな。何を覚えてる?」


『そうですねー、上がって休憩しますねー』

「何で言わんー、面倒見たのにー。言うぞー井縫さんに色々言うぞー」


『それでも無理です』

「そんな事が、悪かった。もうウブじゃ無いのか」


『そ、違いますってば』

「どうだかな、井縫さん」

「赤飯を炊きましょう」


『もー』

「少しの時間で、成長しちゃったんだなぁ」

「鯛の尾頭付きも買わないと」


『違うんですってばー』

「なにが」

「ナニがでしょうね」


『井縫さんまでー』

「良い性格してるもの」

「アナタが言うか」


「マジで、どうしたら言える?誰かに相談した?」

『上司には、一応全部言いましたけど』


「人間で、誰か居ないの?」

『井縫さんに話そうと思ったんですけど』

「口は堅いですよ」


「それはそう、確実に堅い」

『誂われそうで』

「全部鈴藤の指示ですんで、ご心配無く」


「嘘言うなし。マジで相談した方が良いよ、悪ノリしてくれるけど真面目だし。嫌なら大國さんでも良いんだし」


『そんな大した事無いんですよ、本当に』

「でも教えてくれないし」


『その、それも、井縫さんが良ければなんですが』

「聞きますよ、友達なんですし」

「ワシ、適当にブラブラして来ようか?」


『もう少しまとめたいんで、夜にでもと』

「分かった、したらば配慮するぞい」

「あまり構えないで貰えますかね、大した事言えないと思いますし」


『ありがとう』


 そうして日が落ちる前にと海を切り上げる事になった、シャワーを浴びて車へ。


 そう言えば、どう断ったのかしら。


 ナビが指し示すのは国際通り。

 凡そ1時間、運転はせいちゃん。


 運転してる方が整理し易いんだとか、運転は普通。




 渋滞にハマる事も無く、ホテルの並ぶ駐車場へ着いた。

 国際通りのど真ん中か、高級そうなホテルへ。


 お洒落、高そう。


 最上階との不穏な声に不安に成りながら上へ、案の定マジスイート。


 ただ、ベッドが1つしか無いんだが。


「畳に布団が敷けるので、チェンジ不可」

「えー、油断した」

『ですね、こんなに凄い所だなんて』


 今までで1番大きなベッドに琉球畳の小上がり、ジャグジー、サウナ。

 問題はベッドだ、どうしてくれよう。


「先着順やでぇ」

『え、なんでそっちに』


「お布団有るし」


 お布団を出し、ゴロゴロ、ふかふか。


『やっぱり、ジャンケンしましょう』

「お、やりますか」

「なんだよー、じゃ、出さなきゃ負けよ」


 負けた、何故。


『ちょっと、弱く無いですか?』

「いや、井縫さんが強い、多分ズルしてる」

「ズルも実力のウチ」


『譲りますよ?』

「それはつまらないからダメ、何処が良いの」


『畳で』

「じゃあ俺も、布団貸して」

「えー、臭いからダメだわー残念だわー」


『あ、レンタル有りますね』

「チッ。何か、逆に寂しいんですけど」


『楠さんも来ます?』

「それは何か違くない?ベッドの意味が無くなる」

「和室なら普通でしょう」


「まぁ、そうだけども」

「ちょっと試してみましょう」


 テーブルも座椅子も片付け、布団2組に座布団とぬいぐるみで、ベッドを越えたサイズ、余裕。


 せいちゃん、わろてる。


『本当に、何か、ベッドの意味、無くなっちゃいましたね、ふふ』

「それなー」

「じゃあ、今度はベッドで」


 せいちゃんを真ん中に並んでみる。


 ベッドの弱点、端。

 前よりは広いが、押したら出ちゃいそう。


「落ちた経験は?」

「落とされたのなら」

『1回、寝ぼけて』


「コレ、落ちそうで無い?」

「君は寝相が悪い」

『井縫さんは全く動かないんで心配になるんですよね』


「せいちゃん、ぬいぐるみを、こう」

『なるほど』

「むり、落ちる」


「いけいけ」

『ふふ、怪我しないでくださいね』

「ぬいぐるみ舐めるぞ」


「殴る」

『向こうなら、少しは平和に過ごせますかね?』


「じゃあ向こう行く」

「俺も」


「なんでー」

「勝者ですし」

『もー、枕壊さないで下さいよ』


 枕VSぬいぐるみ。

 リーチの差が埋まったが互角にすらなら無い、完全に弄ばれている。


 大振りの武器の弱点ね、なるほど。


「負けた」

「買った、布団は俺の」


「えー、はぃ」

『ベッド嫌なんですか?』


「いや、ゴロゴロ感がええねん」

『遠慮は、して無いですよね』


「無いね、暗い理由は有るが」

『聞いても良いですか?』


「病院、ベッドじゃん」

『あぁ、私は逆に家での療養が多かったんで、そうなのかも』

「じゃあ譲りますよ、俺はどっちでも平気なんで」


「健康優良児」

「おう」

『良いなぁ』


「なー、夕飯は?」

「外で、お寿司とか」

『良いですね』


「地魚ー」




 まだ夕飯には早いので、外を回る。

 琉球ガラス工房で、各々コップやお皿を作り。

 その隣の紅型染でハンカチを、そして良い感じの時間になり、お寿司屋さんへ。


 ちょっと良いお店、お値段は良心的。

 炙りや塩煮、地魚や深海魚のお寿司を頂いて、次は飲み屋へ。


 半個室も有るお洒落なバー、空いてるので自分はカウンターでお店の人に相手をして貰う事に。

 今せいちゃんが話さないにしても、話す練習にはなるだろう。


「東京の方ですか?」

「です、初めてです。離島も、綺麗ですね」


「潜る割に色白ですね」

「あの付き添い共に日焼け止めを塗らされました、それに水着も長袖なんで」


「ヤキモチ妬きさんなんですね」

「あ、あの2人は違いますよ、従姉弟会なんで」


「あー、アナタを取り合いしてる話かと思っちゃいましたよ」

「上手いなぁ。でも、そんなにモテて楽しいんですかね?」


「毎晩違う女の子と遊んでた男でも、結局は結婚で変わりますからねぇ」

「それは相手がよっぽど良い女なのでは」


「傍から見たら普通でしたよ、でも、きっと何かの相性が良いんでしょうねぇ」


「あぁ、どの相性なんでしょうなぁ」

「ですねぇ」


 常連さんが来た隙きに、スマホいじり。

 井縫さんとかせいちゃんなら延々と話せるのに、何にも話す気になれない、人見知り発動しちゃったよ。


 直らんかなぁ。




『お待たせしました』

「早く無い?」

「予行演習と、まだメシ食いたいらしい」


「あぁ」


 今度は気軽な居酒屋へ。

 度胸試しのヤギ汁は、お口の中でヤギが暴れてる感じ。

 イラブー汁、ウミヘビ汁は旨味が濃くて美味しい。


 そしてヤギの大事な部分とハブ酒、瞬時に罰ゲームにピッタリだと思ってしまった。

 コレが好きな人も居るんだろうな、申し訳無い。


 変り種を酒で流し込みながら、せいちゃんが良い感じになって来た。

 もう話したからスッキリしたのか、コレから話す為の助走か。


 余り勘ぐっても悪いので、流れに任せてお酒を飲む。


 中身イリチーと泡盛のアセロラ割り、最高の組み合わせ。

 スパム卵も、ハッシュドコンビーフも好き。


 全員が程よく酔った所でお会計、コンビニでつまみやお酒を買い足し、ホテルへ戻る。


 楽しい、このまま消えてしまいたい。

 浮島に戻ろうか、でも布団が無いし。


 晶君は、良い人が居たら邪魔になるだろうし。


 忍さんも、大國さんも、渋爺か。

 どうにも神様に頼っちゃうが、渋爺にも拒否されたらどうしよう。


 やっぱり浮島か。


 部屋に入って直ぐに、浮島へ行くとだけ伝え空間を開く。




 大國さんが温泉とは、ちょっとビックリした。


「すまん、少し借りてる」

「どぞどぞ、お疲れ様です、ごゆっくり」


 少し離れた場所で一服。

 ケガは無さそうだけど、大丈夫かな。


 小屋に入ると熾火になった火が炊かれている、隅に置いていた樽をチェック。

 ある程度気温も高いので、ちゃんと発酵している、回収し、セッティング。


「何か有ったか」

「別に無いです、大丈夫ですよ。それより、修行って」


「拡張、マーリン導師や他の神々の検証を任されている」

「少し聞いても?」


「使い切って満タンにする、君と同じ事をして拡張するかの実験だ。概ね成功している」

「あぁ、拡張したくてしてるんじゃ無いんですけどね」


「らしいな、だからこその検証でも有るらしい」

「ご苦労様です、何か手伝える事は?」


「無い、心配しなくとも無理はしてないから大丈夫だ」

「溢れたらどうしてるんです?」


「スクナ彦様や精霊の方々にお願いしている、最初だけ失敗したが、もう溢れてはいない」

「なら良かった、マジに無理はダメですよ」


「あぁ、分かってる」


 良い笑顔。

 そして仙薬の壺を見て溜め息、抑制は解除されてるのかも。


「じゃ、少し出てきますね」

「おう」


 水鏡に月読さんを呼ぶ。


【あら、もう飽きたの?】

「気配り中なんです、せいちゃんへの」


【あぁ、私が言うのもなんだけれど、そんなに気にしなくて良いのよ】

「そう言う事にしときます」


【あら、厄介な子ね。それよりどう?楽しい?】

「そらもう、鈴藤だったら良かったのに」


【そう?絵面がムサ苦しいわよ】

「それでも異物よりマシです」


【大丈夫、せいちゃんは心配いらないわ。添い寝で治したから、今が有るのだし】


「そうなんですかね」

【切っ掛けはアナタでも、原因はアナタじゃないわ。そんな事より、ちゃんと楽しんでくれないと困るわね。お金、全額返して貰っちゃおうかしら】


「すんません、存分に楽しんで参ります」

【ふふ、じゃあね】


 本題の拡張期に触れられないまま、戻れと言われてしまった。

 聞くなと言う事だろうか、でも。


 いや、また呼び掛けても着信拒否とかされそうだし、帰ろう。




 一服し、大國さんに挨拶してから、大人しくホテルに戻る。

 話しはまだ継続中なのか、ソファーの有る部屋には居ない。


 急かすのも何だし、酔いを覚まし刺繍を開始。


 植物園のステンドグラス風の蘭のしおり、それを模した刺繍、銀糸で縁取り青紫の蘭を刺繍する。

 どちらかと言えば自分用。

 誰かに渡すとかの話しを月読さんは聞きたいだろうに、ごめんね枯れてて。


 折角なら誰かにと刺繍したいが、もし最悪の場合は怒られて嫌われる状況の中に帰るかも知れないし。

 それだと心が折れるから、どうしても誰かには無理だ。


「おう、帰ってましたか」

「どうも」


「話しは?」

「大した事無い」


「嘘か分からん」

「ほれ、アナタが心配する事は何も無い」


「良かった」

「ただ、アナタには言わないと思う」


「良いんですよ、別に」


 所詮居なくなるんだし、他人だし。


「ジャグジー入りますけど」

「そうですか、銭湯にでも行ってきます」


「いや来いよ」

「鈴藤で?」


「楠で」

「なぜ」


「慣れて欲しいのでは」

「この体に慣れて頂いても困るのでは?」


「それも含めて、何事も慣れた方が良いでしょうよ」


 それはそうだが。

 ウブが慣れて良いものか。


 まぁ、責任は井縫さんに取って貰おう。


「ふぃー」

「渋った割に」


「開き直れたら早い、水着だし、向こうでも一緒にサウナ入ってたし」

『どっちでですか?』


「両方、もう慣れた」

「流石にそれに慣れるのはどうかと」


「なんぜ」

「いや、向こうで周りがどう思うか」


「別に、怒るのは居らんよ」


 魔王候補だし。


『恥ずかしさは何処へ置いて来たんですか?』

「そら下半身は無理よ、上なんて隠すべきモノが無いんだもの。何を恥ずかしがる事が有るかね」

「有ったら恥ずかしがりますか」


「そらね、そうすべきだし。恥ずかしがる必要が無いのに恥ずかしがって死ぬなんて、アホらしい」

『生き死に関わりますかね』


「全部じゃ無いけど、気にするは拘るって事でしょ、拘らないと死ぬ事なんて早々無いし」


「それ、転移のせいですかね」

「違うけど、せいちゃんも同じじゃ無いの?」

『流石にそこまでは振り切れ無いですよ、生き死に関しては、今も良く考えてますけど。ここ10年位は健康でしたし』


「えー、マジか、極端か」

『そうは思って無いですよ、ただ、自分が全てに当て嵌められてるかと言うと、違うなとは思います』


「全部は無理、それこそ死んじゃう」

「結構、割合が多そうですよね」

『真面目ですもんね』


「超真面目、常に真剣、マジ真面目」

「俺もマジ、凄い貞操、バリ硬め」

『俳句でふざけるって、若い子皆こうなんですか?』


「ふざけてる、若い子皆、こうですか」

「お、返って来てますね」

『返してませんてば』


「若い子って、せいちゃんまだ若いでしょうよ」

『筋肉痛とか無さそうじゃ無いですか』

「鍛えてますんで」


「治した、治す?」


『少し、お願いしても良いですか?』


「良いけど、酔ってる?」

『あんな少ししか飲んで無いんですから、もう素面に近いですよ』


「足りないそうで、じゃあ飲みましょう」

『それより治して欲しいんですけど』

「治して飲もう」


 魔力同士の相性の良さを初めて知った。

 ほんの少し推しただけでグングン治る、そして気を緩めると吸われそう。

 危ない。


『ありがとうございます、この前は、遠慮してすみませんでした』

「いえいえ、お役に立てて何よりです」

「じゃあ、飲み直しますか」


 ジャグジーでお酒を飲みながらダラダラと映画を見る、魔法の国のお話し。

 マティアスのお話しも映画化しないかな、喜ぶだろうに。


『杖って本当に使うんですか?』

「最初に、練習に使った。クエビコさんのとマーリンの、練習にはクエビコさんのが良かった、マーリンのは吸われる感じが強かった」


『どんな感じなんです?』

「ほい、持てば分かる」


『え、無理ですよ、暴発とか怖いですし』

「あー、じゃあ魔石でちょっと吸うか」


『あ、はい、お願いします』


 おでこに手を当て少し吸う、コッチのコントロールも難しいな。

 吸い過ぎそう。


「感覚分かる?」

『凄いですね、初めての感覚です』


「ごめん、ちょっと戻す」

『わぁ、凄いですね』

「俺も」


「はいはい、おでこ出して」


「あぁ、コレは怖い」


「今度は返す」

「コレも、溢れるのが怖い」

『井縫さんが溢れるとどうなるんですか?』


「誰でも襲う」

「あぁ」

『大変ですね、最近だと私は吐いちゃうんですけど』


「本当は頭痛と結石」

「わぁ、地獄やん」

『楠さんは?』


「マジ機密だー、残念だわー」

『予想しましょう井縫さん』

「予想の斜め上でしょうねぇ」


「候補2つまで。3、2、1」


『過眠、痒み』

「襲う、味覚障害」


「近いの出たなぁ、神様達にも言って無いのに。なんで?」

『え、良く眠ってますし、肌触りが良いモノが好きですし』

「襲うで驚かなかった、斜め上ならコレか、食べるの好きだろうからと」


「良く観察してらっしゃる。コレも賭けの対象になりそうよな」

「あぁ、もうしてそう」

『賭けですか?』


「神々や精霊が賭けてるんです、男で帰るか女で帰るか」

『あぁ、とんでも無い事してますねぇ』

「凄いよなぁ、発想力」


 確かに帰り際なら本来の姿に戻っている確率は高いが、鈴藤での移動は無いし。


 つまり、鈴藤で居ると戻りが遅くなる?

 か、戻れ無いのか。

 又はその両方か、それ以外か。


 出来るだけ花子で居るべき理由にはなるが、実際は関係無いかもだし。


『映画、終わっちゃいましたね』

「あ、今日は満月じゃね?」

「ですね、見に行きますか」




 ソラちゃんに全員が全身を乾かして貰い、服を着て下の階に降りた。


 綺麗に見えるじゃない。


 服を脱ぎ水着に着替え、プールに浸かっているベンチへと座り、お月見。


 3人でノンアルコールのホットワインを頂く。

 うまい。


「月が綺麗ですね、が、どうして愛してるになるのよ」

「星が綺麗ですね」

『意訳です、直接伝えるのでは無く……』


 表現に対する講釈、そして討論へと発展。


 ただ、現代においての恋愛では、直接言うべきとの結論に至った。


 月が見えなくなったので、一旦話を終え部屋へと戻る。


 討論の興奮が治まらないので映画の続編を観る事に、3人でベッドへ横並びになりながら、お菓子を食べて夜ふかしへ。


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