6月5日(金)
【主、井縫が侵入していますが】
ほっとけ。
狸寝入りしていると、それをどう気付かれたのか添い寝され、暫く観察された。
何をするでも無く、布団の上から横になりジッとしている。
『井縫さん。何を』
「観察」
「なぜ」
『あ、起きてたんですね』
「起きてるのに起きないから、どうしてかと」
「どうするのかとはコッチのセリフであって、声を掛ければ良いでしょうに」
「念じてた」
「試すな、心の声は聞こえん」
「なんだ」
「君ねぇ」
「さーせん」
『あの、朝食、どうします?』
「イカ墨汁とか食いたい」
「じゃあ向こうの港で」
荷造りは既に済ませて有るそうで、そのまま高速船に乗り、先ずは昨日の白浜港へ。
そこから車を借り、食堂へ。
イカ墨汁そば、八重山そば、カニ汁定食を3人で食べた。
上原港で車を返しそのまま船へ、1時間半程仮眠。
港から今度はバスで空港へ。
飛行機でも再びせいちゃんと共に眠る。
そうしてやっと沖縄の本島へ。
ココでも車を借り、井縫さんの運転でそのまま水族館の近くの熱帯園へ。
隣接する蝶園の前でせいちゃん達と一旦お別れし、自分は熱帯園へと向かう。
果樹園と蘭に分れているので、先ずは果樹園へ。
音声ガイダンスと共に回る、カニエステル、気になる。
完全に熟しては居ないので少し早目に終わってしまった、蘭園に行くとメールすると、もう終わったので来るとの事。
開けた休憩所で待っていると、2人がやって来た。
「お早い」
『島で歓迎を受けちゃいましたからね』
「ほれ」
「おぉ、行かなくて良かったわ」
『慣れませんか』
「うける」
蘭を見回り、園内バスでイルカショーの場所へ向かう。
もう暑くなってきた。
売店で日傘とカキ氷を買って会場へ。
ガラガラ、当然の様に井縫さんが最前列へと座る。
濡れないんかしら。
一段後ろに座り日傘を差すと、せいちゃんは迷った挙句に隣に来た。
日傘を持って貰う代わりに、一緒に入る。
少ししてショーが始まった、音楽に合わせてジャンプ。
カールラ達に見せたら真似しそう。
そして最後にスプラッシュ、お姉さんが謝っていたので、今回はイルカの気紛れらしい。
「ざまぁ」
「舐めてた」
『助かります、井縫さんが居なかったらもっとずぶ濡れでした』
「いや、どっちかに」
「ワシじゃ無い」
『カップ持って傘を調節してましたもんね、私も何もしてませんよ』
正解はソラちゃん、中々に面白い事をしてくれた。
偉い、良い子。
鞄からストレージを開き、服を選んで貰う、そして近くの蛇口で頭と上半身を流して着替えている。
ワイルド。
選んだのは地味な紺色のTシャツ、何でも似合う。
「乾かそうか」
「そのウチ乾くだろ」
『じゃあ、向こうに行きましょうか』
イルカの餌やり、井縫さんは辞退したので2人で体験。
ついでに触れた。
「ナス」
『洗ったナスでした』
「ほう」
今度はウミガメ館まで歩き、着いた頃には井縫さんが結構乾いていた。
暑い。
中に入ると涼しいが井縫さんには少し寒いらしいので、白シャツを渡す、マジで何でも似合う。
そしてウミガメ鑑賞。
「クソデカい、マジ怖いじゃんよ」
「こんなデカかったか?」
『どうでしょう、一瞬でしたし、距離の感覚も曖昧でしたから』
【ほぼ同じサイズです】
「せいちゃん近くに居た?」
『楠さんの後ろで、この位ですかね』
「じゃあ、このサイズだ」
「ほう」
『海って怖いですね』
「ね」
少し外へ出て近くのパーラーでアイスとミネラルウォーターで休憩、紫イモとアップルマンゴー。
せいちゃんはタンカンとミックスベリー、井縫さんは塩ミルクと島とうふ。
『紫イモ美味しいですねぇ』
「な、ずっと食える」
案内図通り、少し歩き、4Fから下へと降りる。
大の大人3人でワーワー言いながらナマコやヒトデを触り、サンゴ礁や熱帯魚の水槽を眺める。
流石展示物、綺麗で思わず写真を撮る。
じっくり観察しながら、次はサメの水槽へ。
水槽に居た亀よりは速く泳いでいる、歯が凄い。
無限に生え変わるなんて羨ましい。
「羨ましいですよね」
「分かる、歯よな」
『そこですか』
「戦闘で欠けるって聞くんで」
「治してやろうか、人に試した事無いけど」
「何に」
「自分、ほら、虫歯無し」
『元からでは?』
「少しは有ったよ、5本も無いけど詰めただけ」
『本当ですか?』
「外せるが」
『そこまでは大丈夫です、良かった』
「母親には放置されて無いねんマジで」
「見てみないと」
「あーーー」
「確かに。数が本当なら病弱な割りに良い方かと」
「でしょう、歯と髪は専門家にも褒められる」
『人が居ないから良いものを』
「居ないなら問題無いでしょう」
そしてオオトリの大水槽、ジンベイザメが優雅に泳ぐ。
小魚にマンタも居て、少し恐怖を感じる大きさ。
肉食では無いにしても、大きい口が来たら普通にパニくりそう。
「コレもビビるなぁ」
『見る前は一緒に泳ぎたいとか少し思ってましたけど』
「食われそう」
でも写真は撮ってしまう。
人すら良いシルエットとして映るので、そのまま後姿の井縫さんとせいちゃんも激写。
脳裏にも焼き付けた。
井縫さんに気付かれた。
「腐ってやがる」
「早過ぎたんだ」
『何故急に映画のセリフを』
「何でも無い、飯に行こうかせいちゃん」
そのままランチへ。
大水槽の前でごはん、タコライスに三枚肉のピタサンド、ナンドックとオニオンリングを3人で分ける。
当然足りないが、まだ次が有るし。
大水槽のトンネルを通り抜け、深海魚の展示へ向かう。
途中に苦手な造形の子も居たが、概ね可愛い。
スマホのカメラの性能が良くて助かる。
そうして最後にお土産コーナー。
自分とそう変わらないぬいぐるみを1つ、ランチプレート2種類、しおりを3枚。
蓄光のTシャツもゲット、そうして車まで園内バスで戻り、車に乗り込む。
『子供に凄い見られてましたね』
「泣かれるかヒヤヒヤしたわ」
「寧ろ、ぬいぐるみが歩いて来て驚いたんじゃ」
「あぁ、そっち」
運転はせいちゃん、助手席には井縫さん。
自分は後部座席を独占に、ぬいぐるみに寄り掛かる、何か安心する。
スベスベ。
「腹、足りないかと。そばなら調べてますが」
『良いですね』
「お願いします」
少し下り沖縄そば屋へ。
大と小とじゅーしーだけ、潔い。
小3つとじゅーしー1つ、全員完食。
美味しかったし、大でも良かったかも知れない。
それから横に向かい酒造でお買い物、神様達への振る舞い酒なので遠慮せずに買いまくる。
飲み比べセットは個人用、運転手をしてくれてる井縫さんへ献上予定。
更に横に進み、またそば屋へ。
今度はお持ち帰りを5人前、今度は上へ。
『飽きるかもと思ったんですけど、飽きませんね、景色』
「良い天気だもんねぇ」
「男3人じゃなけりゃ、もっと楽しいかもですよ観上さん」
『んー、私は、緊張して楽しめ無さそうですけどね』
「まぁ、楠さんは一応女なんですけどねぇ」
「分からんぞ、下は見て無いだろうが」
「いや、見ました」
「実は記憶消せるねん、全部消してやるよ」
「嘘なんで、見てませんて」
「いや、念の為に、こう、グリグリすると記憶を」
『それも向こうのなんですね、好きなんですよそのドラマ』
「マジか、セット買う」
「注文するんで止めて貰って良いですかね」
「運転して無いし、念の為」
「本当に見てませんてば」
耳飾りを外して見せてきたが。
「いや、念の為に」
「マジで痛いんですけど」
『消えたって気付けるんですかね?』
「どうだろ、気付かなそうだけど、古い記憶から消えそうよね」
「観上さん、マジでコレ止めてくれませんかね」
『無理ですよ、私の言う事は聞かないと思いますよ』
「そうでも無いぞ。あ」
「今度は何ですか」
「こう、男だけで旅行する面白いのが有ってさ、コッチに有るかなって」
『もしかして北海道のですかね?』
「それも有るのかよぉ、散財してしまう」
「観上さん、答え教えるの早過ぎ、再開されちゃったんですけど」
『あ、すみません』
「大丈夫だって、ツボだから安心しろ、ココとかこう」
『あ、秘孔って本当に有るんですかね?』
「今度誰かに聞いてみる」
「俺、肩凝り無い筈なのに痛いんですけど」
「ココ痛く無い人に出会った事が無いが、まぁ、柔らかいわな」
「手があったかい、眠いんですか?」
「いや、元から、じゃ無くて、羞恥心で血圧が上がった」
「マジで胸しか見てませんて」
「それマジなのもどうなのよ」
「観上さん、見ました?凄いですよあの無さ加減」
『一瞬、見せつけられはしました』
「せいちゃん、下には同じの付いてると思って、そうして慣れるのは、不味いのか?」
「違う扉が開きそうですよね」
『こじ開けないで貰って良いでしょうかね』
「それもそうよな、でもなぁ」
「鈴藤のを脳裏に焼き付けて貰うとか」
『どっちもどっちでは?』
「じゃあ、実は半陰陽とかはどうなるの?」
「あぁ、なら鈴藤のも確認しないと」
『良い景色なのになぁ』
「今回は井縫さんが悪い」
「いや、でも半陰陽ならどうかは、マジで考えた方が良いですよ、楠さんみたいな人よりは遥かに数が多いんですし」
「お、真面目だ」
「コレはマジです、色んな人が居るんですし」
『まぁ、はい、考えてみます』
今帰仁の道の駅に到着。
カニステルが有る、シークワーサーや野菜、豆腐や甘味を買った。
近くの酒造にも行き試飲しつつ買い溜め、そのまま少し進み、浜辺で休憩。
「凄い、ピッタリ15時だ」
「なー、なんだろな」
『オヤツ食べます?』
「どこ行こうか」
今度もせいちゃんの運転、マジで考えてるらしい。
車で下り、海沿いに出て暫くするとカフェ発見。
アイスカフェラテとホットドッグ、せいちゃんと井縫さんはホットのブラックとクッキー。
3人で横並びに海を眺めながらの休憩。
ココでもついつい写真を撮ってしまう。
それからまた車に乗り、海沿いから川沿いへ。
海に出たので海沿いを下る。
道の駅で休憩。
謎野菜やお惣菜、お刺身を買い、井縫さんの運転で更に下る。
何処へ向かっているのか聞こうとすると、小島に建つ豪華そうなホテルへ入って行く。
どうやらココに泊まるらしく、促されるままにホテルから少し歩く。
目の前が砂浜のコテージ、2部屋に分かれていてミニキッチンも有る。
「変えないですよね」
「なー、完璧でしょうよ」
『先ずはプールに行きます?』
「だね」
ぬいぐるみをしまい、水着を持って本館へ。
着替えて出ると、少し日が傾き始めていた。
クーラーで冷えたので先ずは日光浴へ。
三つ編みにしていると、井縫さんが半分手伝ってくれた。
なんなら自分より上手い。
「勘ぐってる通りです」
「考える前だったのに、もうコッチもやってくれ」
『じゃあ、日焼け止めをお願いします』
編んで貰っている間に、せいちゃんの背中に日焼け止めを塗る。
受付で従姉弟会だと言ってたらしいが、従姉弟に見えるかね。
一通り準備が終わると各々にストレッチ、ココは皆真面目。
そして手前のプールから順に入って行ったり、いきなりジャグジーへ行ったりと其々。
日が落ちるまでのんびり過ごす。
ただ、夕暮れは最前列のインフィニティプールへと集まってしまった。
もう温泉に入りながら見ている様な状態、良い景色。
日が落ちても気温は下がる事無く暖かい、と言うか丁度良い。
何を話すでも無くボーっとしていると、腹時計が鳴ってしまった。
「飯、行くか」
「お高いやつか」
「鉄板焼き」
それはつまりお高いと言う事、姉に連れられて行った以外は初めて。
しかもこんな場所のとは。
着替えて直ぐにダイナーへ。
贅沢にもシャンパンで乾杯し、前菜を頂く。
もう美味しい、凄い贅沢。
「贅沢、こんな年で知って良い事だろうか」
「年食って胃もたれするより良いのでは」
『あー、ですね。健康で元気じゃ無いと楽しめませんし』
「ね、知り合いが海外の修学旅行で熱出して、お腹壊したって、殆ど記憶に無いって言ってたわ」
『あー、最悪ですね。しかも修学旅行なんて』
「ねー、可哀想よな」
『今はもう何の心配も無いですし、最高ですよね』
「ね、食べ過ぎ位なもんだわな」
『ですね』
お年寄りが如く健康の有難みを痛感しながら、コースを頂く。
フォアグラ、初めて食べた。
レバーとあん肝を足した感じ、別々に食いたいわ。
次の魚介はそれぞれに選んだ品、エビや蛤、ヒラメと全員が分れた。
そしてメインのフィレとロース、塩や山葵醤油で頂く。
うまい、酒が進む。
「頼まないんですか」
「井縫さんが酔わないなら飲まない」
「酔う酔う、頼む」
お肉に赤ワインの理由が分かった気がする、フルボディにお肉。
最高です。
「せいちゃん無理なら甘いのも有るし、お水でも良いんだよ」
『ですね、暫くお水頂いときます』
鉄板焼きが終わるとシェフが直ぐに下がってくれたので、ゆったりといつもの雰囲気へと戻る。
せいちゃんはほろ酔い。
「足りないんじゃ」
「部屋でも頼むから平気だし」
『折角ですし、イタリアンも覗いてみましょうよ』
「食べてるのに食べ物の話ししてる、食える?」
『少しなら、環境ですかね?』
「かねぇ、暖かいもんねぇ」
とても嫌な予感がする、拡張期にでも入ったのか。
良く眠るし良く食べる、運動してるとはいえ大した体重の増減も無さそうだし。
何でだ。
分からん。
次はイタリアン。
前菜2つにメインを2つ、パスタ1つ、それとお酒。
せいちゃんはノンアルコール。
生ハムとチーズのサラダにイイダコのトマト煮、メインは魚のパン粉焼きとサルティンボッカ、ボンゴレ。
お酒はスパークリングワイン。
旨い。
サルティンボッカもトマト煮も懐かしいリタの味がする、仔牛焼きとしか言ってなかったけど、コレなのね。
『お酒のおつまみって感じですね』
「ね、フィンランドで普通にパンに挟んで食ってたわ」
『美味しそうですね』
「上手かった、ココも旨いけど向こうもね。サラブレッド、親がシェフだもの。贅沢だった、もっと食っておけば良かった」
『何で遠慮したんですか?』
「量がね、知られて迷惑掛けたく無くて。後半にはバラされたんだけど、危ないといけないから会わなかった」
『いつか、次に会えたら何が食べたいですか?』
「えー、選べん、フルコース」
『そんなに、本場と比べてもですか?』
「本場ではカフェ位しか行って無いよ、良いお店には行って無い。それなりよな、不味くは無い。多分、味覚が合ったんだと思う」
『ピザはどうです?』
「んー、プロの家庭料理だからなぁ」
『あぁ、それは難しいですね』
「難しい、環境も有るし。寒い時期に暖炉の前で熱々ピザなんて卑怯でしょうよ」
『それ良いですねー、良いなぁ』
「ガラス窓の石の暖炉、レンガじゃ無いのよ。部屋にも暖炉が有って珈琲入れてた、本来はロッジ経営なんよ」
『大変だったとは思うんですけど、贅沢な感じもしますよね』
「なー、雪も有ったし、他人の飯最高」
それでも帰りたいのは1。
もうただの執着なのかも知れないけれど、どうしても帰りたい。
もふもふしたい。
こうして考えて最も安心できるのが、あんなに警戒した1の世界。
危なかろうとも帰りたいけれど、需要が有るんだろうか。
全てを平らげ部屋へと帰る。
淡雪と2人のスーツケース、ぬいぐるみを出しソファーで寛ぐ。
窓の外から波の音、コレも贅沢。
「寝るなら部屋で」
「おう、せいちゃん折角だしさ、あの部屋で寝る?」
『良いんですか?良い景色なのに』
「ココも良い景色だし、ベッドデカいよ」
『それなら運転手をしてくれた井縫さんの方が』
「3人で寝ますか」
「それは流石に狭いかと、つか暑そう」
「なら、ジャンケン」
動体視力が普通な人間は、普通に負けた。
勝ったのは井縫さんとせいちゃん、もう2人で眠ったら良いのに。
ジャンケンは継続、せいちゃんが勝った。
『じゃあ、お言葉に甘えて』
お風呂もジャンケン、また負けた。
勝ったせいちゃんは大きい方へ、小さい方には井縫さんと決まった。
悔しいのでナイトプールへ、後で適当にどっちかに入ろう。
一服し、ライティングされたプールに入る。
点々と青く光る照明に照らされたプールを眺める、海ほたるはこんな感じか。
入ってみたいが、小さな何かにまみれるのはどうなんだろうか。
スマホで調べるとプランクトンらしい、赤潮がどうたらとも。
時期も場所も予測不能、入るなら夢の中にしておこう。
プールの縁に頭を付け、夜空を眺める。
離れ島より少し少ないだろうか、にしても多い、どれがどの星座か分らない程の量。
眠い、眠くなる。
もう癖になってるのか、水の中で寝転ぶと眠くなる、出よう。
部屋へ戻り大きい方のシャワーを浴びる、日焼け止めを落としサッサとソファーへ、流石に肌がパリパリ気味なので化粧水。
島根の温泉水、月読さんはどうしてるだろうか。
『珍しい』
「らしい事をしてますね」
「使うかね、気持ち良いぞ」
「それ、日焼けしたんじゃ」
『マメに塗らないからですよ』
「あー、寝起きにでも治すわ」
『魔法に頼り過ぎでは』
「ですよね。化粧も、三つ編みも下手って、どんな風に生きてたんですかね」
「結うの痛くなるじゃん、やってみ?伸ばしてやろうか?」
『井縫さん、長くても似合いそうですよね』
「何でも似合いそう」
「三つ編みは無理かと」
『ふふっ、今度お願いしますね、おやすみなさい。ふふ』
「おう、おやすみ。試そうか、歯も髪も」
「良いですよ」
「何その信仰心の厚さ」
「いや、歯はマジで大切なんで。飲む仕事で虫歯増えたんですよ」
「歯で身元確認とかしないの?」
「マジでしたんですか?」
「おう」
「じゃあ、髪も自分で」
「実は出来るし、アレ、カツラだったねん」
「じゃあアレ、お節介でしたね」
「いや、神様の気持ちは嬉しかったし、伸ばすと代謝するから痒くなるし。あ、被れ」
「はい」
「似合うかよクソが、写真良いですかね」
「俺の顔、好きですか?」
「クソイケメン野郎、ギリギリ。それで三つ編みしてくれ、一服してくる」
「良いですよ」
「マジかよ」
ゆっくりとテラスへ、網戸の開閉はせいちゃん大丈夫らしい。
つか、イキリ井縫さんの気配が消えたのは何故。
そんなに犬を取ったのは良い事だったのか。
良いのか、自由に恋愛出来る様になったんだし、想い人さんとくっ付けるならそうか。
「終わりましたけど」
「はや、似合わねぇ、凄い、ひひひひ」
「もう良いですかね」
「嫌か?」
「まぁ、結構」
「顔に出ないよなぁ」
「俺も、掛けて貰ってるんで」
「つまんねぇ、そんなに頼りないかね」
「逆ですよ、俺と観上さんで抑える気で居ろと言われてるんで」
「まぁ、無理だろうよ」
「そこは色仕掛けで」
「フルスマイルで嘘を言うか」
「マジですって」
「そんな軽そうか」
「いや、楠さんが軽いなら、もう巫女さん落とせてますよ」
「巫女さんが想い人かぁ、未成年だもんな」
「この前の話、聞いてました?」
「じゃあ、まさかのイタコさん」
「俺の事を何だと思ってるんですかね」
「ヤれば出来る凄い子」
「それ、傷付くんですけど」
「褒めてるのに、男優さんとか凄いなと思うぞ」
「そこまでは、して無いんですけど」
「ごめんごめん、悪かった。可愛いねぇ、三つ編み、ぐふっ」
「もう脱ぎますよ」
「おう、ふふふふふ」
最近では最大のツボに嵌りながら、部屋に戻った。
せいちゃんはテラスに出入りしたのに寝たまま、笑いを噛み締めながらお布団へ。