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1月23日

《ハナー、起きるのじゃー、家が出来たそうじゃぞー》


「おー、おはよ。風呂行って、ご飯食ったらソッチ行く」

《うむ、伝えておくぞぃ》


 朝食へ向かう準備を済ませミーシャに目をやると、またおにぎりを頬張っていた。


「おにぎり好き?」

「はい、とても気に入りました」


「それは良かった」

「はなちゃん、欧州に行かれるんですよね?でしたら今日にでも旅館に頼んで、おにぎりも買い足しておこうかと」


「お願い。じゃ、食べに行ってきます」


 先ずはフォーに中華粥。

 エッグベネディクトにハッシュポテト、薄いチーズトーストにベーコンやソーセージとオムレツを添えて。

 合間にフレンチトーストやパンケーキ、ワッフルで味変。

 サラダにはステーキを。

 またオムレツへ戻ってから、朝食を食べ終えた。


 部屋に戻り、裏口からお城まで転移。




 そして再び手透きになる魔王とクーロンには、食品の買い出しに行って貰う。


 自分とミーシャは迎えに来てくれた白いカラスの背に乗り、タケちゃんはカールラが優しく咥えつつも背にはショナを乗せ、アヴァロンへと向かった。


「お邪魔しまーす」

《どうぞハナ、いらっしゃいませ》


「その口のは、李 武光君、まだ目覚めなくて」

《はい、聞いております。コチラへどうぞ》


「うん、ちょっと待ってて」

《ハナ、その変な降り方はもう止めんか?》


「運動音痴なんで無理っすねぇ、飛び降りたら足捻る自信がある」


 ズルズルと這う様に降りるのは気に食わないらしいが、巨鳥の体毛を楽しめるので当分は止めない。

 もふもふ、ツルツル。


 そして周りの違和感に目を向けると、以前カールラが薙ぎ倒した木々達がすっかり片付けられていた。


「すっかり片付いて、木をごめんよドリアード」

《良い良い、我らの不手際が原因じゃしの、気にするでない》


《ココは森に閉ざされて居ましたし、返って道が出来て良かったのかも知れませんね》

《じゃの!》


《ではこのままお家まで行きましょうね、泉を過ぎた先です》

《ごー!》


 ドリアードを先頭に泉の奥、更に深い森を進むと、眩しく開けた空間に出た。




《お!おでましだ!》

《どうぞどうぞ!》

《おいミーシャ嬢!ちゃんと案内するんだぞ!》


 家の前にはドワーフ的風貌の男性達が沢山居た、年齢もサイズも容姿もバラバラ。

 ただ、筋骨隆々。


《まぁまぁ、落ち着くのじゃ。カールラや、泉にそやつを入れてやるのじゃよ》

《はい》

「お願いね。どうも、桜木花子です、今回はどうもありがとうございます」


《良いから良いから》

《先ずは中に入ってくれ》

《話はそれからだ》


 外観からしてまさに理想の山小屋とも言うべき家、しかも2階建て。

 石の煙突にウッドデッキ、大きな窓。


 中に入ると真新しい家の匂い、木の良い匂いがする。


 1階の玄関兼キッチンは日本家屋の土間の様、大きな玄関の横がそのままキッチンになっている。

 窓辺には縦長の大きな薪窯、と焼台とピザ窯まで有る。


 向かい側には大理石の調理台にタイル貼りの洗い場、手押しポンプが2つ、青味を帯びた銀色の方は冷たい水が、赤味の強い銅色はお湯が出る。

 レトロ可愛い過ぎだろ。


 そして靴を脱ぎリビングに上がると、暖炉にテーブルと椅子が一式揃い、窓辺には棚と腰掛け。

 本を読むのにピッタリ。


 そして暖炉、憧れの暖炉よ。

 その横に有る1番奥の部屋にはトイレ、タンク無しで常時流れ続けるタイプ、青い絵付けのされた陶器の便器に木の便座がくっ付いている、文字通りくっ付いてはいるが、掃除は簡単そう。


 そのトイレの真横には脱衣所とシャワーと小さな洗面所、階段横には大きな洗面所。

 シャワーは固定式、ハンドル部分やシャワーヘッドは、手押しポンプと同じ赤銅や青い銀色で出来ている。


 水は全て地下水、下水は島の下水処理場に集められるらしい。

 下水処理場に関しては、もう本当に魔法らしい。


 魔法で下水処理。


 2階には寝室が2つに主寝室が1つ、窓が多くて風通しも完璧。


「特に変更が無ければ、布製品はこれから設置します。明かりも、人間用の方が使い易いだろうと」

「ほう」


 一通り見終わると、家の前に棟梁達が集まっていた。


《どうでしたかな?》


「完璧。皆さん、ありがとうございます」


《ははは!やったぞ!完璧だとよ!》

《ミーシャ嬢とほぼ同じ身長って聞いたからな》

《おう、お陰でパーフェクトだ》


『お、ハナ!来ていたのか!どうだ?』

「おっすオベロン、完璧に素敵」


『では、礼は酒とツマミで良いぞ!』

「うっす、鮭の燻製やジャーキーと、ショナ君」


「はい、どうぞ」


《酒だー!》

《ツマミだー!》

《《《うぉおおおおおおお!》》》


「ティターニアにはコンポートを」

《有り難う御座います、アチラでお茶にしましょう》


 家の脇には大木と泉とテーブルセット。


 裏手には薪割り場もあるらしい。


 テーブルには妖精やエルフ達が作ってくれたスコーンやシフォンケーキ、紅茶もお菓子も温かくて美味しい。


「美味しい」

《うふっ、ありがとうございます。一息ついたら魔法の練習をしましょうか?》


「やる!やります」

《はい》




 最初にマーリンの杖を持ってみたが、少しふわふわしたキモい感じがしたので、クエビコさんの杖に持ち替えた。

 コレは特に違和感も無かったので、今回はコチラを使う事に。


 やはり、道具との相性と言うものがあるらしい。


《先ずはアレを、木にするんじゃ》


 ドリアードが指差す先には1粒の胡桃の実、好きなやつ。


《先ずは杖を。光を見付けて、集中して探せば見えて来ますから》


「ん……少しキラキラして…杖に空洞がある?」


《そうです。次に自身の光と繋げ、通し流すのです》


「んー、自分の見えない。光、有る?」


《しっかり目を閉じて手を見て、光は見えていますよ》


 再び杖を持つ自分の手に集中する。


 最初は杖だけキラキラしていたが、再び目を閉じると今は混ざり合う様に手もキラキラしている。

 そして言われた通り杖の先へ、少しずつ上昇させる様に伸ばしていく。


「杖の先まできた」


《目を開けて、そこの種まで糸を繋げる様に導いて》


「おー…ぉ、う…」


 ふよふよと不均等な光る糸を、なんとか種まで繋げる。


《注ぐ光を多く、濃くして。纏めて、圧縮、濃縮》


 巧くコントロール出来ないので、再び目を瞑り光へ集中。

 散漫としている光を見えない手で寄せ集める様にし、ちゃんとキラキラを集めてから、再び種まで繋げる。


 いけた。

 そして暫くすると、種の中身が目の前に有るかの様に大きく感じた。


 それは膨張し芽が殻を割り、うねりながら空を目指す。

 根は四方に広がり、土へ潜り石を避け根付く。


 大きく太く、長く高く、這い、生え、栄える。


《よし、もう良いぞ……ハナ、ストップ、ストップじゃ!!》


 目を開けると種は大きな木になり、白い花を咲かせていた。


《とってもお上手です、ほら、妖精も沢山生まれて》

《最初がまだまだじゃ、もっと練習が必要じゃの》


《そうですね、では、森を造って頂きましょうか。丁度良い更地が有りますし》

「お!やるやる」


 家を建てる為に資材の木を切り出した更地に案内された。


 切り株はドリアードが加工するんだそう、手を下に向け広げると、一瞬にして光が地面に広がった。

 その光は特に切り株に集中していて、土へ流れ込んでいる。

 周りの枯れ葉や枝の光も土へ向かい、消えていく。


 そして光が無くなるのと共に朽ち、やがて土に返っていった。

 ほんの数分、あっという間に殺風景な更地が肥沃な土地となった。


 そこに何処からともなく現れた妖精達が、泉から拾ってきた種をそこかしこへと撒き散らす。

 楽しそうな囁き声と星の様に輝く光が忙しなく動き回ると、また何処かへ消えていった。




《では、ハナ。次は雨の様に満遍なく、出来るだけ全体へ》


「あい」


 先ずは杖に集中、そして次は杖の先へ。

 糸からリボンへ、何本もの糸を縒り編み幅を広げる。


 リボンからベールへ、端を広げカーテンへ、光を広げ大きくする。


 そしてオーロラの様に広げた光を、杖を振り更に広げる、残像が輝き大きく広くなっていく。


《良いですね、濃く増やして》


 光の濃度を濃くすると、プチプチと種の割れる手応えが手に響く感覚。

 根が地面に触れ、土に割り入る感覚は心地好く、根付くと温かく安心する様な感覚に包まれる。


 ティターニアが恵みの雨を降らせてくれると、水を感じ、初めて渇いていたと実感する。

 砂漠に降った雨の様に全身で雨を感じ、喜び嬉しくなる。


 そして、空へ太陽を求める。

 二酸化炭素を求めて広がる。

 上へ横へ伸びていく、手足を伸ばす様に広がる。


 風を感じ、日の暖かさを感じ、もう直ぐ咲くと感じる。


 遂にシャボン玉が割れる様に、ポンポンと蕾が咲き始めた。

 蕾からは色とりどりの妖精が産まれ、雨を感じる以上の喜びに口元が綻ぶ、嬉しくて楽しくて堪らない。


《良いですよ、とても良いです。さぁ、目を開けて》


 目を開け顔を上げると、色とりどりの花が咲き乱れ、妖精達が踊り回っている。

 花の良い匂い、木が擦れる音がサワサワと広がり、妖精達の歓声が響く。


「凄い、魔法、出来た」


《まだですよ、次は実を成らせましょうね》

《アレが良いじゃろう、妖精達や受粉させい》


 1番手前にある、白い花を付けた木に妖精達が群がる。

 昨日見た流星群の様に光が木の周りを明滅しながら、止まっては動き回る。


《さぁ、木の全体に光を注ぎましょうね、最初は薄く、ゆっくりと》


 今度は目を開けたまま。

 言われた通りゆっくりと、大きな如雨露で水をあげる様に薄く全体へ降らせる。

 その間も妖精達は忙しなく動いている、時に実に寄り添い、時に摘果をし、葉の剪定をする。


 妖精達の動きが収まったので、光を濃くする。

 緑色の小さい実は、やがて黄色になり、赤く成った。


「さくらんぼ」

《そうじゃ、うぬの木じゃろ?》


「ありがとう、凄い、できた」

《うふふふ、上手に出来ましたねハナ、もう泣いても良いですよ》


「ありがとぅ」


 ティターニアに抱き締められ、続いてドリアードにも抱き締められ、カールラの大きな羽根に包まれる音がして、我慢出来なくなった。

 嬉しくて気が抜けて、精一杯堪えたけどダメだった。


「桜木様、私も抱き締めて褒めて良いですか」

「どぅぞ」




 エラい、しゅごい等の褒め言葉を受け取っていると、ショナの声が聞こえた。


「桜木さーん!武光さんが起きましたよー!」


「いまいくー」


 しこたまティッシュでハナをかみ、声の方へ向かうとタケちゃんが柔軟をしていた。

 元気っぽい。


「おはようハナ、迷惑を掛けたな」

「いやいや、何もして無いよ。ココは欧州のアヴァロン、世界樹って浮島」


「そうか、欧州とはアッチと同じ欧州なのか?」

「地理分らんが、情報的にはほぼ同じっぽい」


「これは武光さんのタブレットです、虹彩と指紋の登録をして下さい、でないと使えないので」

「おう」


「それでこの、コチラのコレがマニュアルです、どうぞ」

「そうか、ありがとう。この卵は?」

「神獣の卵、そのうち孵るから名前を考えといて。お腹減ってない?」


「おう、腹ペコだ」

「じゃあ仙薬と桃を貰ってあるよ、ちょっと貰ったけど美味しかった」


「毒味してくれたのか、すまないな。頂く」

「それは違うんさ、仙人達が自分にも力をくれたんだけど、何故か魔力が尽きかけちゃって、んで貰った」


「そうだったのか、今は大丈夫か?お、旨い桃だな」

「ね、うん、大丈夫」


「この仙薬…良く飲めたな…」

「甘酒とかどぶろくっぽくて良いじゃ…ダメ?」


「酒は苦手なんだ、直ぐに気持ち悪くなって、寝て起きん」

「じゃあ予備の、日本の万能薬をあげよう」


「不味い!が、仙薬よりマシだな、アレの匂いが特にダメだ」

「タケちゃん、交換して、万能薬と」


「あぁ、コチラこ…頼む…すまん、眠気が…」


「うん、おやすみ」

「桜木さんも少し眠っては?」


《ほれ、膝枕じゃぞ》


「ん、ちょっと、ちょっとだけ……」






《ハナや、起きてたもう、虚栄心から魔王に連絡があった様じゃぞ》


「ん、おはよう…今何時?」

「ベガスはランチタイムですよ、戻りますか?」


「うん、うん。タケちゃん、ごはん食べに行こう」


「ん、あ、んん」


 タケちゃんの点滴を一時的に外し、ホテルへ。

 魔王とミーシャは部屋へ向かわせ、自分達はそのまま食堂へ向かう。


 道すがら出会ったダンディ紳士の案内で進むと、虚栄心と会う事が出来た。


「待ってたわよー!」


「おー、おまたー」

「良いのよ。あ、お腹が空いてるのよね、服は部屋に運ばせるから一緒に食べましょ、新しい勇者さんも。宜しく、虚栄心よ」

「宜しく、李 武光だ」


 挨拶を簡潔に済ませ、早速各自の好きな物を好きなだけ運び、食べる。


 タケちゃんはフォーに始まり、中華粥、腸扮を往復。

 本場的にも旨いらしい。


「ハナ、野菜だぞ」

「へい」


 タケちゃんに山盛りサラダとステーキの乗った皿を渡された、お兄ちゃんか。


 折角なので今回はシーフードとカットフルーツ等々、シンプルな料理ばかりを食べてみた。

 キラキラ光るのは魔素、魔素が多い物はシンプルな料理ばかり。


 つまり、シンプルな物を食べ続ければ、お腹がポッコリしないんじゃ無いかと。


 だがムダだった、圧倒的に足りてないのだ、魔力が。

 結局はお腹の皮膚が張って、顎が疲れて汗だくになるから食べるのを止めるだけ。


 中つ国以降は特に、コレはちょっと、ストレスだ。

 カロリーと魔素は≠、しかも加工が多い程に減ってしまうからお菓子系は最下位。


 その結果、今日のランチで最もバランスが完璧で美味しいのは、タコスとケバブ。

 好き。

 結局は好きな物を食べるのが1番となった。




 食事を終え、虚栄心と共に部屋に戻ると、2着の洋服が外に有るお届け物ボックスに掛けられていた。

 濃い紺色の燕尾服とシンプルなメイド服、そして下着一式。


「わお」

「ベースの服は数種類、カタログを入れておいたわ。で、ココからダウンロードして頂戴。服を変えたい時は、アナタ達がイメージするだけよ」

『《はい》』


 2人に成人の姿になって着て貰うと、ピッタリとフィット、シワ1つ無い。

 チビに変身すると愛らしい姿にも服が良く似合っている、カールラは青と白のドレス、クーロンは水色のスーツ。


「このままでも良い気がする。凄いね、ありがとう虚栄心」

『《ありがとうございます》』


「うふふ、もっと褒めてくれて良いのよ」


「完璧、よっ!凄腕!超一流!美の職人!センスの塊!」


 パチパチパチパチ。

 全員で拍手喝采、ミーシャも普通に感心してる。


「ふふふ、有難う。ところで貴女は?」

「ミーシャ。桜木様の従者」


「まあまあ、可愛い子、宜しくね。それじゃ私は戻るわ。魔王!他のも出来上がったら連絡するわ、じゃあね!」

「はい」

「ありがとう、またねー……じゃあ、タケちゃんに詳しく説明をするかね」


「おう」


 とてもザックリと説明した。

 ココはハイテクがあり魔法がある平和な世界で、神も精霊も居る。


 以上だ。


《ざっくりじゃのう》

「あ、タケちゃんこれ、ドリアード。アヴァロンにも居たのの分身」


《宜しく頼むぞぃ》

「宜しく頼む」

「凄い嚥下力、馴染む速度よ」


「で、次は国の説明を頼む」

「それはショナが、宜しく」

「はい」


 向こうの一定の層には受け入れがたい世界かも知れないが、違いはそれなりに有る。

 地理はほぼ同じだが、国境や住む民族、その分布までもが違う。

 戦争の理由も終結も結末も。

 日本は戦争に負けず、大日本帝国のままで領土も少しだけ多め。


 中つ国には今でもエンペラーが居るし、このベガスも先住民の領地をお借りしてるだけの自治区。


「ふむ、召喚者の出現した国が国連の中心になる。加盟補助国は情報が制限されるが、後の旨味もあるんだな」

「はい、協力割合によって恩恵が受けられますから」


「で、非加盟国と未加入国の違いは、協力的かどうかか」

「はい、未加入国は今までに召喚者が出現した事が無い国が殆どで、神や精霊は否定しない中立性の高い国です。逆に非加盟国は神にも召喚者にも頼らない主義の国で、恩恵も受け入れずで…なので基本は立ち入らない方が安全かと」


「分かった、ありがとう。後は都度聞くから宜しく頼む」

「はい」


 現実と言うか、現状を受け入れ嚥下する力よ。

 凄いな。


「随分とすんなり受け入れるね」

「ハナが良い奴だと直感したし、魔法も見せてもらったからな、それで尚も疑うのは面倒だ。こう言った場合は、筋が通っていれば信じる、裏切られたその時には、どうするかその場で考える」


「つよい、かてない」

「おう、俺は強いぞ!」


「頼もしい、これぞ勇者よな」

「おう。で、次はどうするつもりだ?」


「中つ国に行こうかと、起きたよって」

「うん、そうだな、そうしよう」


「じゃあ、行こうか」


 裏道から空間移動。


 宮殿の守衛は前回と同じ人だったので、問題無くスムーズに入れた。




「心配を掛けたな」

「いえ、ご無事で何よりです」


 挨拶等はタケちゃんとミーシャに任せ、副官らしき人と話をする。

 分厚いファイルを抱え、右往左往して大変そう。


「どもー、従者は決まりました?」

「あ、桜木様……それが、少し派閥で揉めてまして…」


「あー、デカい国ですもんね、大変でしょう」

「ええ、召喚者様の嫁候補も兼ねてしまっていて…混乱の極みです…」


「タケちゃんに決めさせたら良いよ、自分の所もそうした。周りは大変そうだったけど」

「どの様になされたのですか?」


「それは僕が」

「ありがとうショナ、お願い」


「はい」


 次にインテリっぽい人に声を掛ける、科学や理系っぽい感じ。

 薬品の良い匂いの人。


「どうも、お伺いしても宜しいですか?」

「はい桜木様、何なりと」


「ホムンクルスとかクローンとかって作って無いの?」

「我が国には無いです、無理ですね」


「我が国、には?」

「コレ以上の事は言えません」


「そこを何とか、先っちょだけ」


「……何を為さるおつもりですか?」

「世界平和」


「それは分かるのですが」

「技術的に不可能なら諦める」


「その、現在は禁止されていまして」

「何でも良いから教えて、どうしたら良い?」


「……再度、向こうへお戻りになって聞かれるのが宜しいかと…」

「マジか」


「本当に、平和のお役に立つんですよね?」

「勿論」


「分かりました。では、コチラからも話はしておきますが、期待なさらないで下さい」

「ありがとう、宜しく」


「桜木さん、説明は終わりました。武光さんと再度、話し合いをするそうです」

「おう、ありがとう」


 待ち時間はひたすらタブレット学習。

 医神の情報を探す。

 治すのでは無く根本的に変えてくれる医神、もう直ぐそこに体の期限が迫っている。


「ハナ、話は聞いた。だが何故あの選び方になったんだ?」


「お祖母ちゃんが、昔から重い物を沢山持って、沢山苦労して。それで、女性特有の手術をして、何とかなったけど、それ以来女は重い物を持つな、無理するなって言い聞かされてまして」


「うむ」


「ストレートに言うと膣脱ね、調べたらコッチでも症例は少なくないみたいだし。命に関わらなくても、下半身切るのは出産の時だけで充分かと、なので、そゆ事」


「平和になった後の事も考えてか、偉いな。よし!その方法で選ぼう。副官!採用条件を提示する、名簿の選定を」

「はい!」


 人々が更に慌ただしく動き出した。

 戦後の事まで考えて出たモノでも無いのだけれど、良く捉えて貰えて助かる。


「そこまで考えて出たんじゃ無いんだけど、皆が好意的で助かる」

「私は良いと思います」

「はい、結果的に退役従者の負担が減るのは良い事だと思いますよ」


「ありがとう、でも反感は買いそうよな」




「お待たせしました、剪定後の名簿です」


「分かった、更に条件を絞る」


 案の定、書類選考とデータ選考で半分以上が篩い落とされ、集まってくれていた従者全員は落ちてしまった。

 嫁の面接は改めて後日行う、それまで自身を磨き内面を高めよとのタケちゃんからのお達しで、面接は無事解散となった。


「では改めて、従者の件でご連絡をさせて頂ければと思います」

「ん」

「んじゃ、お邪魔しました」


 宮殿を後にし部屋に戻ると、夕日が眩しい。

 暫し自由時間、タケちゃんは魔王とカールラ、ミーシャと運動しに行ってしまった。


「桜木さん、泳ぎに行きませんか?」

「今度ね。交代っていつするの?」


「明日がリミットです」

「ショナとは今日で最後か」


「そんな、また戻って来ますよ」

「仕事好きなのは良いけど、プライベートは大切にしないと良くないよ」


「プライベートと言われましても。家族や友人にはこの旅の事は言えませんし、正直困るんですよね、休みを頂いても」


「仕事人間、人生をもっと豊かにだね」

「今が一番豊かですよ、従者が僕の人生ですから、お気になさらず」


「何がそんなに従者の魅力が」


「長い話ですよ」

「聞こう」


 昔々、ヒーローごっこが大好きな男の子が居ました。

 3つ上のお兄ちゃんも居て、兄弟揃ってヒーローが大好き。

 休みの日には、ヒーローショーや映画に連れて行って貰っていました。


 そのまま少し大きくなった男の子は、9歳の誕生日にプレゼントを貰いました、年齢制限で観れなかった映画のソフト。

 弟が可哀想なので兄は話題に出さず、一緒に観れる様になるまで我慢してくれたのです、そしてその日の内に一緒に観ました。


 映画の名前は【仮面ライダー偽王。最終章】


 近未来、召喚者が悪の組織によって改造されてしまい、ライダーになった。

 だが、悪の組織を倒し、各国を救い、遂には元の世界へ戻り人々を救った。


 が、新しく現れた異世界のライダーに敗れてしまう。


 その直後、偽王を失った相棒がライダーに戦いを挑む。

 偽王と共に行動していた人間の相棒が、平和になった世界で尚、誤解を解く為だけに挑んだのだ。

 ただ弱いだけの人間は何度も何度も立ち上がり、話し続けた。


 そして誤解がようやっと解け、落ち込むライダーに亡き偽王のベルトが語り掛ける。


 次は君が戦い続ける番だと。


 意を決し意思を継ぎ、ライダーは時王ジオウとなり、自分の居た世界を救いに旅に出る、偽王の相棒であった人間と共に。


 誤解の元である悪の組織を倒しに、亡き偽王のメダルと共に、新たに旅立つ。




 最後まで見た男の子は人生で初めて大泣きしました、勿論お兄ちゃんも大泣きです。


 兄弟は誓いました、早く大人になってこんな事を防ごうと。

 そして兄は法務関係に、弟は何故か従者に。


「何度やられても立ち上がる相棒が好きで、僕も相棒みたいになりたいって言ったら、父が従者はどうだって」

「そもそも3年も我慢してくれたのか、兄よ」


「はい、優しいんです、僕が拗ねるし煩く言ってたのもあるんですけど、内容を言おうとする友達と喧嘩までしてくれたんです」

「良い兄だ」


「はい、父も、母も…躾のつもりで言ったそうなんですよ、勉強も運動もちゃんとしないと相棒みたいに成れないぞって。で、僕はそのまま真剣になろうとして、なったんです、だから従者が人生なんです」


「なんて罪深い作品、従者の学校とかあるの?」


「はい、中学生を卒業し全寮制で3年間専門の高校へ。中学までは運動は父が、勉強は兄が教えてくれて。従者の高校では料理や裁縫以外にも、家事全般の勉強があると知った時は、母に付いて回りました。家事は、やって初めて有り難みが分かるんだと衝撃的でしたね」

「わかる」


「その時ちょっと調子に乗ってたんですよ、勉強も運動もそこそこ出来てたので、普通に生活する位は出来るだろうって…で、両親に言っちゃったんです。そして次の週、長い学校休みの期間に挑戦したんです、母と僕の最低2人分、バランスとコスパの良い献立に料理、掃除に洗濯、時には裁縫やケガの手当ても。1週間で弱音を吐いたら、神獣様や他の協力者、つまり父と兄の分もまだじゃないかと」


「厳しっ」


「そうでも無いですよ、献立も一緒に考えてくれて、料理も心配して付きっ切りで。僕が甘かったんです。根拠の無い自信を消してくれて、目が覚めたんですよね。全然だ、勉強も運動も家事ももっと頑張らないとって。それからは基礎さえ覚えておけば家事は応用だからと、少しづつ両親に教えて貰いました」


「ひゃー、良い家族過ぎる…お兄ちゃんは?」


「兄は魔法の習得が不得手で、法務関係の学校へ。その頃から既に怠惰さんに憧れていて、良く憤怒さんの話を聞いてたんです」

「成る程、寮はどうだった?」


「寮に入って改めて、生活するのって大変だって思いましたね、男女混合でしたから。他人との長い共同生活が特に苦戦しました。大半は男女別の軍の士官学校に転校しちゃうんですよね……召喚者様が現れなければ、軍人と変わりませんから」


「従者≧軍人なの?」


「いえ、能力の振り分けの結果なだけで上下はありません。従者に必要なのは忠誠心、応用力、適応力、根気です」


「最後だけ根性論」

「ふふ、そうなんですよ。軍人に必要なのは忠誠心、団結力、結束力、思いやりです。軍事はチームプレーですから」


「ふむ、凄いなショナは」


《ハナの家はどんなじゃ?》

「両親はサラリーマン、お父さんは特に仕事ばかりで殆ど家に居なかった。病気の時はお母さんが、それ以外は年の離れたお姉ちゃんとお兄ちゃんが相手してくれた。夏休みとかには親戚とか、お祖母ちゃんが面倒見てくれた」


《兄に姉か、末っ子っぽいしのぅ》

「凄い年が離れてたから喧嘩にもならんかった。ショナ、他に召喚者が題材の作品ある?転生者でも」


「はい、ありますよ、子供向けですと……」


【風の谷のナナシ】

 別世界で科学者であった前世の記憶を持つ少女(転生者)が、有毒ガスや巨大な蟲が謳歌する世界で生き抜く話。


【7人の召喚者】

 今まで各国でリメイクされまくりの名作、大作等など。

 聞いた事あんな。


「聞いた事ある様な名前ばかり」

「監修が歴代の転生、召喚者様ですからね。桜木さんも1本書くだけで、借金の悩みも直ぐに消えるかと」


「恥ずかしいから考えとくだけ考えとく、ありがとうねショナ」

「はい」




 空腹を訴え帰って来たタケちゃん達と食事へ、魔王は買い出しや子供達に会いに行った。


 ミーシャはキュウリのサンドイッチが気に入ったらしく、ひたすらモグモグして可愛い。

 タケちゃんはタコスのスパイシーさが気に入って爆食いしていた。

 ショナはバランス良く食べてエライ、ムニエルをお代わりしていた。


 自分はエビ餃子、ムニエル、ケバブ、パエリア。


「タコスかケバブなら、僅差でケバブだわ」

「俺はタコスだな」


「本場で食べたい、ケバブ」

「ほう、エビかケバブか」


「ケバブにエビ入れて食う」

「はは、良いな」

「ケバブがちょっと勝ってますね」


「エビは万能調味料みたいなもんだから」

「調味料」

「俺のナンプラーだな!」




 タケちゃんは皆を引き連れて今度はプールへ、自分はもう眠いのでお風呂へ、その前に前髪を切って貰う。


 本当に、爪も髪も良く伸びる。


「ショナ、前髪をお願いします」

「はい、いつも通りの長さで?」


「おうよ」


「明日はどうします?」

「省庁行って、クエビコさんの所か、アヴァロンかなぁ」


「はい、了解です。所で、髪を伸ばしてるのは願掛けか何かですか?」

「いや、寄付するのにね。医療用の小児のカツラにって、コッチってそう言うのある?」


「いえ、残念ですが。カツラは人工毛が一般的です」

「そっかー、じゃ、切るか」


「え、ここまで伸ばしたんですし、今度にしましょう」

「えー、洗うのとか面倒なんじゃが」


「僕が洗いますよ、お手入れなら任せて下さい」

「やだ、なんか恥ずかしい」


「遠慮しないで下さい、寮でも評判だったんですよ」

「どん、つか従者ってそこまでやるもんかい」


「いえ、母の指導で。何でも出来るに越したことはない。って、この理容もヘアメイクも教えられました……今考えると、女の子が欲しかった母の悪戯だったんじゃ無いかと…」

「楽しそうだった?」


「ですね、はい、兄のお嫁さんが嫁いできてくれた時と、僕を化粧した時の表情が一緒でした……はい、終わりました」

「ありがとう。悪戯かは別としても、嬉しかったんだろうね、立派に育って」


「そう思っておきます」


 2人でお風呂場を片付け、入浴後にハーブティーを淹れて貰った。

 至れり尽くせり。


 暫く神獣達相手をしていると、強烈な睡魔が。

 なんとかタブレットを触って日本の時刻を確認。

 お昼寝タイムには良い時間だなと思う。


《ドリアード》

「ミーシャ」

「魔王

《ティターニア》

『オベロン』

「ショナ」

「タケちゃん」

「虚栄心」

『クーロン』

《カールラ》

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