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6月2日(火)

ちょっとシモい。

 曇り。

 月読さんからの着信で起きた、白子の携帯だ。


【良かった、大丈夫そうね】

「まだ怠いし、関節がギチギチします」

『それは痛みで力んだから、筋肉痛』


「あら、そうなのか、治そ」

【そうして頂戴、釣れたわ。本番よ】


「昨日のは違うんか」

【えぇ、残念だけど。新しいのを届けるから着て来て頂戴。古いのは直しに出すわ】


「了解」

『大丈夫?』


「全快、寒気も何も無し。計測する」


 中域、良い感じ。


『血液検査に行こうね、リシンの抗体出来てるかも』

「かも?無いかもなのね」


『ハナは自己治癒力高いんだもん』

「あぁ、ね、今回は大丈夫だと思う」


《一緒に行く、お話しする』

「無理はだめよ」


《うん』

『もう来たみたいじゃな、隣で待っておったのかの』


 偽装の魔法を自分に掛け、中央分離帯まで行くと黒子が白子の衣装を持って待っていた。

 向こうに行くの面倒。


「一時許可を出すので、コッチへどうぞ」


 恐る恐る結界内に入ったので、その場で服を脱ぐと着付けてくれた。


 今日はゆっくり、これなら覚えられそうかも。

 袖の無い衣装を渡すと、前回同様に下界へと降りて行った。


『じゃ、車椅子に乗って』

「おう、ココへどうぞ」

《うん』


 膝の上に乗ったチャンイーにウガリットで買ったストールを掛ける、色はピンク。


 体が馴染んだのか、尻尾が振られている。

 良いのか悪いのか、ただ痛みが無いのは良い事ではある。




 空間を開き、先ずは病院へ。

 チャンイーが寝かされていた場所に戻ると、警視庁の科捜班と、この病院の医療チームが待っていた。

 大勢の人間か白衣にビビっているのか、チャンイーは震えて尻尾も丸まっている。


「一緒よ」

《うん、ありがとう』


 周りを良く見ると、自分が尋問された部屋に似ていた。


 似ていると言うか、多分ココだな。

 河瀬の姿は無し。


『じゃあ、2人の血液検査からしようね』


 チャンイーを膝の上に乗せたまま、2人で血を採って貰う。

 凄く怯えているので採血部分だけ痛覚を切ると、針を刺した後でもかなり落ち着いた様子。


「盾出します、弾が残ってるので」


 科捜班が頷いたので、2枚の盾を出す。


 写真撮影から始まり、弾丸採取。

 直ぐに周りの魔素を吸い上げながら、盾は自己修復して行った。


 それを見たからなのか、盾が返って来たのでストレージにしまう。


『他のも一緒が良いかな』

「出来るなら」

《痛く無いなら大丈夫よ』


「凄い音するのも有るかもよ」

《アレは大丈夫、痛く無いもの。皆も優しい人だから、大丈夫』


『じゃあ、白子さんは上だね』

《行ってらっしゃい、またね』

「おう」


 白子の頭巾は付けたままレントゲンや何やと撮る、服はスクナさんが直してくれた。

 そうして車椅子で下の階へと戻ると、向こうも終わったらしいが、少し落ち着かない様子。


 トイレか、どうするべか。


『人払いを』

「トイレで出来そう?」

《多分』


 自分に見られる分には良いらしく、ドアは開けたままで良いんだそう、器用に便器に座り用を足している。

 我慢は体に良くないのに。


「いつでも言ってね」

《うん』


 車椅子で戻り、チャンイーへの尋問が始まった。

 担当は警察庁の科捜班リーダー、忍さんの代理の女性。

 キツそうな顔立ちで少し心配だったが、とても優しい穏やかな口調で、ゆっくりと質問してくれている。


 2、3個質問し休憩になった。


「怖かった?」

《優しいから大丈夫、お仕事有るでしょ?1人で大丈夫よ』


「それは大丈夫だと思」


 鏡が僅かに振動したので取り出すと、月読さんだった。


【どう?】

「順調です」


【じゃあ、来て頂戴ね、宜しく】

《ほらね?』

「何で分かったんかしら」


《勘?』

「前から?」


《ううん、アーニァ、サンニァーは有ったけど、私は無かったの。この姿のお陰かも、嬉しいな、一緒よ』


「うん。じゃあ、行ってくるね」

《うん、行ってらっしゃい』


 車椅子とスクナさんと別れ、そのまま特別室へ転移。




 エレベーターで月読さんの部屋へと向かった。


『おはよう、あの子は単なる囮、大國が狙われたみたいね』

「おはようございます、そうですか」


『それでアナタを排除しようとした、見知らぬ白子をね。流石、良くやったわね』

「どうも」


『元気無いわね?まだ不調なの?』

「空腹なのです」


『あら、ごめんなさい。何処かで食べてらっしゃい、休憩、待機』

「了解」


 特別室から浮島に戻り、納豆丼を嚥下。


 コートを羽織り、一服。


「お、ご苦労様でした白子様」

「どうも、クソ大変でしたわ」


 井縫さん、ココまで休憩に来るとは。

 多分せいちゃんの護衛なのだろうが、大丈夫かしら。


「大國さんが来たんで、休憩です」

「それは良かったが」


「それと、アナタへの呼び出しも有る」

「飯食ったばっかなのに」


「頑張れ後輩、忙しくなるらしい」

「ですよねぇ」


「おう、行くぞ」

「ふぇい」


 差し出された携帯灰皿に吸い殻を突っ込み、羽衣に着替え下へと降りる。

 大國さんにせいちゃん、2人共ビックリしていると言う事は何も知らない反応なのだろう、それで良い。


「連れてきました、後輩の」

「白子です、どうも」


「月読隊の新人なので、まぁ、簡単な研修と思って下さい」

『はい』

「そうか、頼む」

「宜しくお願いします」


『宜しくお願いしますね、白子さん』

「はい」

「じゃあ、車の中で詳しくご説明しますね」


「俺は向こうだ、じゃあな」


 車に乗り込むと珍しくピリピリした様子のせいちゃん、警戒心は井縫さんへと向けられている。

 不味いな、嘘見抜けるんだ。


「あの、忘れ物ですよ先輩。耳、寂しいでしょう」

「あ?あぁ、どうも」


 周囲からの吸い上げタイプらしく、装着すると魔素を吸収し作動した。

 本人は良く分かって無い筈、後で説明しとこう。


 取り敢えずと井縫さんが見守り君らしきモノを展開すると、真っ先に口を開いたのはせいちゃんだった。


『何故、嘘をついたんですか?井縫さん』

「え」

「今回は自分がお願いしました。緊張させまいと嘘をついて頂きました、コチラの配慮ミスです、申し訳ない。本当は研修では無くて、すみません」


『あ、いや、疑って、コチラこそ申し訳無い。白子と言う役職を始めて聞いたので』

「ですよね、申し訳ない。先輩、ご説明を」

「日頃は表に出ずで、研修と言うか本場なんですよ。緊張されては困るからとの配慮だったんですが」


『緊急事態と言う事ですかね』

「いえ、ですがそう構えて頂きたく無くて、こうしたんですがね」

「はい、ぶっちゃけ予行演習です。本番は別なので」


『そうなんですね、不要な詮索をしてすみませんでした』

「いえいえ、何かご事情がお有りかと。お伺いしても?」


『仕事でと言うか』

「ぶっちゃけ、プライベートだ白子、察しろ」


『あ、その、女性関係で』

「わお」

「誤解するな新人、急にモテてビビってるだけだ」


「あら、お眼鏡が似合う様になったとは聞いてましたが、凄い眼鏡なんですね」

『ですね、最近は外してるんですが』

「地が良いからね観上さんは、眼鏡でモテるなら俺も欲しいし、今度貸して」


「先輩、口調はそれで宜しいんでしょうか」

『良いんです、私がお願いしたので』

「なー、こう言う場は砕けないと」


「観上さん、付き合う人間は選ぶべきかと」

『彼は良い方ですよ、気さくで、相談にも乗って頂いてますし』

「お前とは違うの、コミュ障君」


「それにしても、馴れ馴れし過ぎでは」

「俺は良いの」

『大丈夫ですよ、白子さんも砕けて頂いて』


「大丈夫です、凄く馴れ馴れしくなってしまうので」

「ほらコミュ障」


「ほら、観上さん人を選んだ方が良いですよ」

『大丈夫ですよ、本当に』


「そうなんですか、もっと堅い方と聞いてたんですが」


『前よりはマシになった方かも知れませんね、堅さが全てでは無いと教わったので』

「鈴藤さんですか。ダメですよあんなフラフラしてそうなチンピラ、悪影響ですね、排除すべきです」


『見た目より真面目で良い人ですよ?』

「眼鏡で目が曇りましたか。上っ面のキョロ充、八方美人なだけですよ、きっと」

「お、嫌いか白子」


「悪影響を受けるのが嫌なんですよ、芯をお持ち下さい」

『私は大丈夫ですけど、鈴藤さんてそんなに評判悪いんですか?』

「チャラいに免疫無いのが多いから、良い反応も悪い反応も過剰に出るんですよね。例えば、真面目な男子校にギャルが来た感じ」


『「なるほど」』

「お前も納得するのね」


「でも、悪影響は見逃せません」

「誰にとっての悪影響?」


「観上さんの、将来の伴侶?とか?」

『かなり先かも知れませんから、ご心配無く』

「幾ら嫌な事が続いたからって、女全員を一緒に扱うのは流石に失礼では。違う毛色も居ますよ」


『頭では、分かってる筈なんですけどね』

「灯台は違うって聞きましたけどね、化粧も可愛い服も嫌がる面倒臭がりだって」

「万人が可愛い服好きでは無いかと」


「俺はチョイエロが良い」

「ムッツリ足首フェチ」


「お前、まだ言って無いのに」

「さーせん」

『白子さんは?』


「胸のデカい未亡人」

『ふふ、鈴藤さんと同じですね』

「良かったな白子」


「良くないです、自分は甘やかされたいだけですし」

「お前の方がムッツリじゃん」


「健康足首フェチが言いますか」

『健康的なのは良いですよね、儚い人って心配が先に出ちゃって、保護対象になっちゃうんですよ』

「そうそう、守るって意識がね。スーツ組は巫女さんが良いらしいけど、繊細そうで苦手」


「可愛いのに」

『庇護欲をそそる可愛いさが苦手なんですよ』

「それそれ」


「ほう、可愛いの種類が有りますか」

「そうだぞウブ」


「そう分類するのは女性だけかと思っただけです、それ位は分かりますよ」

「お前、灯台の方がまだ可愛いぞ、素直で」

『井縫さんは楠さんが良いんですか?』


「意外と、楽そう」

『まぁ、楽では有りますけど』

「楽は良い事ですけども」


「恋愛ならまだしも、夫婦になるなら楽が1番だって噂だし」

『でも、男っぽ過ぎでは?』


「普通の時は別に、付き合えば意外と乙女かもだし」

「妄想力逞しいムッツリですね」


「白子、恋人と知り合いじゃ対応が違う方が普通だろ?中身が分からん内に決め付けるのは良くない。鈴藤にも」

「そうですが」


「見せたいと思うのと、実の中身の乖離は良く有るし。普通の人間でも有る事なんだから、ちゃんと受け止めるべきじゃないの」

「あれ?自分が説教受けてる感じになってます?」


『鈴藤さんも楠さんも、やっぱり、無理してらっしゃるんでしょうかね』

「それは無いかと」

「無いでしょうね。ただ、何かしらの偽りは有るかと。男らしさ女らしさに縛られて生きるのも、どっちにも成らないのも、良い事と悪い事が有ると思いますよ」


 コイツ、知ってて何を誘導しようとしてるのか。

 作戦の内か、面白がってるだけか、その両方か。


 貸したのは失敗だったか。

 マジで話し合わないと。


「先輩、後で」

「お説教な」


「なんで」

『あの、本当に大丈夫ですから』

「俺が受けるの、別の事で」


「はい、嘘が下手っぴなので」

『違うんですよ、その、勘です、カマかけしただけなので』


 せいちゃんの嘘の音色は、可愛い嘘の音だった。

 愛嬌の有る不協和音、玩具のピアノみたいに跳ねてんの。


「あら、じゃあやっぱり説教ですね」

「まぁまぁ、少し仮眠させて」


「有料ですが」


 秒速で寝るとか、過労じゃん。


『疲れてらっしゃるみたいですね』

「過労か、狸寝入りか」


『仲が良いんですね』

「目が曇ってらっしゃる。観上さんも仮眠されますか?」


『私は大丈夫ですんで、良ければどうぞ』

「いや、自分も大丈夫です」


 コレ、ワシ、オスと思われてるんでしょうかね。

 声も低くしたし、まぁ、そうか。




 高速乗ったり、そして降りたり。

 都内だろうが、森多め。


「よし、着いたな」

「起きてたならどけよ」


「先輩なんだけど」

「そうっすねー」

「交代するぞ」


 降りたのは郊外の大きな高級ホテル。

 前の車に乗っていた大國さんにせいちゃんを預け、羽衣を出し休憩に浮島へと飛ぶ。


「ありがとうございました。すみません、役儀様」

「ギャップ。先輩ムーブのままでどうぞ」


「はい、まぁ、頑張ってみます」


「にしてもだ、準備も無しにアドリブが過ぎる」

「ですよね。それと、全部アナタの思う通りだそうです」


「その耳飾りもか」

「いや、コレは知らなかった、でも多分月読様の手の内だとは思う」


「お、ムーブ変更の過程オモロ」

「精々、余裕ぶっこいてて下さい」


 イケメンのフルスマイル、眩しい。


「本当は、楽しんでません?」

「おう、楽しい、君がヤキモキしてるかと思うと堪らない」


「ドS」

「我慢してくれ、ヤキモチも、馴れ馴れしいのも」


「ヤキモチ?あぁ、それは無い、単なる意趣返しで」

「それがヤキモチ」


「友情にもヤキモチが?」

「有るでしょう、女でも男でも」


「マジで?初めてかも」

「コミュ障」


「ウブなだけですわ」

「そうやって、普通にしてやれば良いのに」


「命令なら頑張ります」

「命令は無い、アナタの自由に合わせろってだけです」


「それはまた、ご苦労お掛けします」

「大丈夫、楽しんでるから」


「こんな良い性格してるとは」

「好きになれそうですかね?」


「はいはい、そうですね」

「マジで眼鏡も欲しい、実は俺も見えない」


「それは貸すだけ、それに眼鏡は先輩に意味無いですよ」

「そうなの?」


「イケメンの自覚有るでしょう」

「勿論」


「クソが、厠行く」

「俺も」


 着付けはまだ井縫さんに直されてしまうので、暫くは連れションに成りそう。


 下へ降りホテルの中へと入る、警備も全て警視庁の人間らしく、手帳を軽く確認して終わった。


「ユルガバで大丈夫ですかね」

「他のも居るから」


 視線の先には制服の違う人間、軍服。

 アジア系だが。


「中つ国ですか」

「あぁ、会合」


『あ、井縫さん、ちょっと困った事が』

「はい、なんでしょう」


『会合と言えど表はパーティーなので、女性の追加をと』

「ウチで用意出来ますが」


『申し訳無いんですが、お願いします。はぁ』

「大丈夫ですよ、な?」

「あ、はい」


「何処に案内すれば?」

『助かります、衣装合わせの部屋にお願いしたいんですが』


「分かりました、後は全部任せて下さい」

『ありがとうございます、向こうにも話して来ますね』


「ういー……よし、行くか」

「は?」


「楽しみですねぇ」

「は?」


 そのまま衣装合わせの部屋に、まさかこのまま行くのか。


 入った、マジか。


「ウチのです、胸は無いですけど、どうぞ」

「はぁ、宜しくお願いします」


 井縫さんは追い出され、自分だけが招き入れられた。

 他の女性達は美人から可愛いまで揃ってる、しかもナイスバディ。


 良いのか日本よ、こんなん出して。


 そんな中、見慣れた顔が1人。

 忍さんまで、大丈夫か。


 様子見しながら全て脱ぐと、お直しの女性が悩み始めた。

 ですよね、だって上の下着無しのツルペッタンなんですもの。


《待ってて、頑張る》

『これは挑戦状、私達、腕の見せ所ね。お顔、確認させて』


 顔も見せると空気が変わった、楠を知る間者が居るのだろう。

 もう危ないから忍さんには帰って欲しいんだが、目が合うとニコニコ駆け寄ってくるし。


「楠さん?」

「いえ、この衣装の、白子と申します。楠さんは沖縄です」


「あぁ、そっかー」

「あの、忍さんとお呼びしても?」


「あ、そうそう忍です。向こうにも何人か居るよ、警備の為に」


 8課の女子、凄い圧。

 コッチにも殺されるんじゃ無いか。


《ちょっと退いてねー、マジな衣装合わせだからー》

「あ、ごめんなさい、またね白子さん」


 着せられたのは背中が大胆に空いたチャイナドレス、ホルターネックで大胆過ぎる。

 こんな小さい人間のが良く有ったな。


 肩、治しとけば良かったか。


「こんなサイズでも有るんですね」

《オーダーメイド、仮縫いね、小さいのも居る聞いたから作っといたよ》


「凄いですね、流石です」

《まだまだよ、寸法合わせて直すから。針気を付けてね、脱がすよー》


 首元と、胸から骨盤に僅かなボタンが有る意外は留める場所が無いのだが。

 オートクチュール凄い、ズレない、虚栄心にも出来るんだろうか。


「さむい」

『あぁ、ごめんねー、バスローブねー』

《ちょっと時間掛かるー、ヘア宜しくー》


 髪に大量のカーラーが巻き付けられ、放置。


 キビキビドタバタガヤガヤ。


 成人式レベルの戦場か、集団着付けには行って無いけど多分こんなんだろう。


 警察関係者用のお茶菓子と、中つ国用のお茶菓子が有るらしい。

 色々な意味での安全の為の配慮だろうが、向こうの月餅が魅力的過ぎる。


 人混みを避けながら、何とか月餅に辿り着いた。

 日本の月餅と向こうの持ち込みらしきモノが有る、美味そう、食べ比べしたい。


 近くに居た綺麗なお姉さんにお菓子を指差すと、ニコッと勧めて貰った。


 美味い、お茶も淹れてくれた。

 コレも美味い、高級な気がする。


《美味しい?》

「とっても美味しいです」


《ふふふ、何才なのかしら?》

「何才に見えます?」


《あら、ふふ、今日はお酒が出るハズだから、18?16なら帰りなさいね、皆にご迷惑が掛かるから》

「ですよねー、帰りたいけど人が足りないって」


《そうなの、じゃあお酒は飲んだらダメよ?アナタも周りも困るわ》

「大人なら?」


《じゃんじゃん飲んで空にしましょう、ふふふ》

「頑張ります、ありがとうございます。お姉さん綺麗ですね、全部」


《ありがとう、アナタももっと可愛くなれるわ、凄腕が居るもの》

「みたいですね」


 整形メイクどころか、マジで別人にしまくるメイクさん達。

 怖い、色んな意味で怖い。


『あー、休憩今のウチね、服出来たらヘア、メイク一緒にやるからね』

「あい」


 視線を戻すと、お姉さんは他の人のお手伝いに行ってしまっていた。

 優しくて美人とは、天が何物与えたのだろうか。


 一通り食べ比べ、部屋を出ると目の前には井縫さんと、せいちゃん。


『楠さん?』

「白子だよ観上さん、楠は沖縄。コレは変化」

「白子です」


『そうですか……ちょっと電話して来ますね』

「おう。休憩行くか」

「うい」


 喫煙所と言うより、テラス。

 中庭で他の人間も居るのに堂々と喫煙とは、コッチがビビるわ。


「コート、臭い付くぞ」

「あぁ、はい」


 井縫さんも惜しげも無く神器で臭い除けをしている、他のもだ、どう言う事だろう。


「親睦会」

「さようで」


 流石に嘘だろう。

 警察関係者用の茶菓子が別に用意されてたのに、懇親会風会合って、最高にややこしい事態。


 そら大國さんも過労で倒れるわ。


《あ、井縫さん》


 げ、8課の女子。

 可愛い系の方。


「お疲れ様です、やっぱり止めるの難しいですよね」

《緊張しちゃって、白子さんもですか?》

「はい、大変緊張しております」


「新人でコミュ障なんで、仲良くしてやって下さい」

《勿論ですよ、何でも聞いて下さいね》

「はい、宜しくお願い致します」


 あら好意的、白子と信じてくれたか。

 しかも君は井縫さん狙い、そうか、応援しますぞ。


「俺は先に行くんで、じゃ、お願いします」

《はい……あの、井縫さんて》

「特定の方は居ません。足首フェチです、健康的なのが良いらしい」


《えー、足首って、考えた事も無かったなぁ》

「充分綺麗かと、鍛えればなお、お好みかと」


《そっかぁ、ありがとう》


 根は良い子なのかしら、素直だし。

 一緒に部屋まで帰る途中、またせいちゃん、どんだけ走り廻ってるの。


『白子さん、ちょっと良いですか?』

「はい」


 大國さんを伴い、駐車場の車の中に入った。


 なんだ、もうバレたか。


『楠さんの身代わりだそうですが、大丈夫ですか?』


 そっちね。


「大丈夫です、大國さんと同じく色々使えるので」

『それにしても、本人の真似は程々で良いと上も仰ってますから、無理はしないで下さいね』


 ほう。


 愛想振りまくか。

 どうすべか。


「はい、程々にしときますね」

『えぇ、それと砕けて頂くのは、本当に大丈夫ですからね』


 そんなにか、じゃあ、砕けるか。


「ありがとう、せいちゃん」

『ふふ、そんな顔見た事無いですけど、本当に似てますね』


「へへ」

『あ、鈴藤さんにも。白子さんこそ変な影響受けないで下さいね、彼は独特ですから』


「承知で」

「観上」

『じゃあ、行きましょうか…くれぐれも食い意地を張って、食べ過ぎないで下さいね』


「バレてましたか、承知でおま」




 衣装合わせに向かう。

 ぴったりと言うか、ピッチリ。


《ふぅ、後は、任せた》

『はいよー、着慣れるお時間ねー、ヘアメイクするよー』


 カーラーを取られながらスキンケアをされる、要望を聞かれたのでお任せでと答えると、ニッコリ笑って眉の半分を剃刀で落とされた。


 それからはもう上を見たり下を見たり、半目になったり目を閉じたり。

 ウブな男子が卒倒する様な顔をしながら、化粧が施される。


 頭はもうどうなってるのか、顔もそうだが鏡が無いので確認しようが無い。


 ピンが刺さる過程が痛い、こんな苦労を毎日とか、アホかと。


 美人や可愛い人はもっと楽なのか、確認したくても余所見禁止なので、ただ窓の外を眺めるだけ。

 リアル人形遊びはマジ大変。


 脳みそで昔の人形遊びを再生させて居る間に、ヘアメイクが出来上がった。

 差し出された鏡の中は意外にもナチュラルな方だが、別人の様で恐ろしい、何をされたんだ。


「恐ろしい、誰これ」

『ふふ、楽しかったねー、稚児さんも偶には良いねー、もう行って良いよー』

《あぁ、可愛いけどまだよー、パンツ、はい、変えて、出てる、ほら》


 うん、パンツ凄い出てる。


『替えあるかー?』

《用意有るよ、ほらー》


「そう言うのですね、大丈夫、持ってます、ほら」


《あー、それ惜しいね、出ちゃうよー》

『洗ってある新品よ、上げるねー』


「ぐ、一応、頂きます」


 トイレで履き替えたが、確かに微かに出る。

 頂いたのは出ない、履くしか無さそう。


「お、凄い化けた」

「眉を半分も剃られました」


「後は接待、出来るか?」

「あぁ、まぁ」


「機嫌悪いなぁ」

「病院でも無いのに人に用意されたパンツ履いてるんですよ、しかもいんずい」


「履き心地最悪か」

「うい、何もかんも最悪です」


「ふ、観上さんどんな顔するかなぁ」

「引くんじゃ無いですかね」


 可愛らしいのはお団子位なもので、付けマツゲに濃いアイライン、テカテカの口だもの。

 しかも背中バックりだし、他の人は露出は控え目なのに。


 胸か、胸が無いからか。


「他の女子には?」

「いや、パンツ履き替えに出たんで、これから行って来ます」


「おう、頑張れ」


 衣裳部屋の隣に有る控室に向かう、8課女子は楽しそうにお喋り中。

 社交的だな忍さん。


「お、お疲れ様白子さん」

「お疲れ様でした」

「まだですよ、これから本番なんですから」

《私達は飲むなって言われてるんですけど、白子さんは?》


「あ、特に何も。未成年なら飲むなとは隣でお姉さんには言われました」

「ふふ、僕もそうなるかと思ったけど、意外とこうなって、楽しいね」

「忍さん似合ってますよ」

《白子さんも、可愛らしくなって良かったですね》


「皆さんも、胸も羨ましいです」


「大丈夫、良いお薬が有るよ」

《らしいですよ、まだまだですよ》

「そうそう、頑張りましょ」


 井縫さんラバーは別珍の黒いロングチャイナ、せいちゃん好きは白地に緑の絵が掛かれた清楚系、2人ともスタイルが良いので良く似合う。


 忍さんは自模様のある水色の生地の上に白いレースが二重になった脛丈チャイナ、皆は袖と言うか肩が有る。


 自分のは自模様の有る白い生地に黄緑と薄いピンクで草花が刺繍されている、ひざ丈だし、肩出まくりでマナー違反にならんかね。


 違反で退場なら、このままで良いか。


 中つ国のお姉様方は古典からワンピース、ロングドレスまで美女揃い。

 白地に濃い青の陶磁器的デザインとか、良いなぁ、見るのが1番。


 そしてどうしても目が行くのが下着、殆どの方が付けてらっしゃらない様に見える。


《白子さん?》

「あ、向こうの方達、下着どうなっとるのかと」

「あぁ、付けて無いかTみたいだね」

「そこまではちょっと厳しいわよね、白子さんも付けてるみたいだし」


「渡されました、変えろと」

「履いたんだぁ勇気有るー」

《出ちゃいそうですもんね、普通のだと》

「稚児風だけど1番露出しちゃってるし、良いのかなぁ」


「ね、一応向こうに聞いてきます」

「おー、がんばー」

《あんまり食べたらダメですよー》

「そうよー、お腹空かせとかないと」


 お姉様方の処へ向かうと、歓迎の雰囲気。

 と言うか完全に子供扱い、これはこれで嬉しい。


『もっとお菓子食べて良いのよ?』

『お茶を淹れて上げましょうね』

《子供には浅淹れにして上げないと》

「ありがとうございます、綺麗な日本語ですね、自分より綺麗です」


《ありがとう》

『練習したの、ね』

『そうでないと、こういった場所には呼ばれないから』

「ご苦労様です。あの、この服装に問題は無いんでしょうか?」


『ふふふ、大丈夫』

《偉いわね、大丈夫よ、ふふ》

『稚児は何を着ても良いのよ』


「そんなに、成人に見えませんかねぇ」

《ふふ、そうね、でもそのままで良いと思うわよ》

『そうそう、コッチのお酒は強いから』

『飲み慣れ無いと美味しく感じないと思うわ』


「白酒なら、飲んだ事有りますよ。消毒液みたいでした」

《あらあら、甘党かしら》

『紹興酒はどうかしら』

『お砂糖を入れるのよ』


「有ります、あれは美味しい」

『甘党でお酒飲みなのね、気を付けて飲んでね?』

《そうよ、困ったら良い嘔吐剤が有るから》

『凄いのよ、蛙みたいに胃が引っ繰り返ったのかって思う程に出て、スッキリするの』


「蛙みたいに、凄い」

『そうそう』

『ふふふ、そうだ、今日のお料理って蛙も出るのよね』

《ふふ、楽しみね》


 蛙は美容に良いらしい、ただ仕込みが悪いと美味しく無いので、今日みたいな場所では確実に美味しいからオススメなのだそう。

 他にもスッポン、田ウナギ、木耳や山芋と、薬膳中華が出るらしい。


 だから8課女子も気合が入ってるのね。


 ただ毒が心配、スクナさんの姿は無いし。

 何処行ったのかしら、心配だ。

 取り敢えずせいちゃんに箸渡すか。


 お食事会は15時から、今は14時半、会合は既に始まっているらしい。


 居心地良いな、ココにずっと居ようかな。


「もう少し、ココに居ても良いですか?」


《良いけれど、何か有ったの?》

『苛められてるの?大丈夫?』

『凄い睨まれてたものね、良いのよ、ずっと居て大丈夫』

「いや、苛めは無いです、誤解が少し有っただけで、それは解けました」


『良かったわ、でも、今日は一緒に居ましょうか?』

『そうね、お酌やマナーの事も有るのだし』

《そうだけれど、向こうの方なのだし。そうね、会食が始まって困ったら、何時でもいらっしゃいね》

「助かります、ありがとうございます」


 存分にお言葉に甘えて、ギリギリまで居座った。

 分からないと思ってかブラフなのか、中つ国の言葉で話している事も有る。

 内容は他愛無い事、子供だから心配だとか、向こうの女性は品が無いとか。


 聞かないフリは得意。




「お時間です、宜しくお願い致します」

《“皆さん、ご準備願います”》


 井縫さんと中つ国の人間が迎えに来た、せいちゃんの付き添いは大國さんなら安心。


 ただ、どのタイミングで箸を渡すか。

 そも立食なのか着席なのかも知らないし、どうしよう、何も知らん。


「井縫さん」

「どした、美女に囲まれてたが」


「羨ましいでしょ」

「あぁ、まぁまぁ」


「立食ですか?」

「さぁ?」


「さぁって」

「防犯上の理由から最低限の用意以外、コッチには何も知らされて無い。同伴者もだ、今日知らされた」


「向こうは最初から用意してたみたいですよ」

「だろうな」


 大丈夫かよ、大掛かりだからこそ死人は出ないと思いたいが。


 せいちゃんにハニトラ?

 なら可哀想に、マジでトラウマにならんかね。


 会場に入ると、せいちゃんだけのハニトラでは無い事が分かった。

 イケメン揃ってる、なんか、怖い。


 目を瞑り覗き見ると薄い傷跡が浮かんで見えた、整形か。

 お姉様方は天然なのに、仕事の為とは言え凄いなおい。


 立食、着席も出来るが席は決まっている。

 テーブルに白子と書かれた紙、食材かよ、ウケる。


 お箸の確認、銀箸、もう堂々とせいちゃんに渡すか。


「失礼します、観上さん」


『あ、はい』

《あら可愛い子ね、ご紹介頂いても?》

《観上、お願いね》


『白子と言う役職です、本来は黒子なのですが』

《新人ですの》

《まぁ、そうなの、宜しくね新人さん。一緒にお食事を取りに行くと良いわ、美味しい筈よ》


《そうね、行ってらっしゃい》

『はい、失礼します』


 食事は全て大皿か大鍋、飲茶も竹かごに1人前づつ入っている。

 狙うならお酒か、箸は意味無いかも。


「お箸はコレどうぞ」

『ありがとうございます』


 どれも美味しい。

 スープも、スッポンうまし。


「うまし」

『ふふ、良かったですね』


「ピリッとしたら止めといて下さい、お酒は、程々に」

『はい』


 食事を置き、お酒を持って改めてご挨拶。

 お姉様方の見様見真似。


《あらあら、お上手ね白子ちゃん》

《良い子ね、お食事はどうかしら》

「ありがとうございます、お姉様方のお陰です。お食事も、とても美味しいです」


《美容と滋養強壮に良いのよ》

「蛙ですね、鳥より好きかもしれません」


《ふふ、席を用意させるわね。コッチいらっしゃい》

「ありがとうございます、お邪魔します」


《未成年では無いのよね?》

「はい、甘いのなら飲めます」


《ねら紹興酒の、お砂糖入りにしましょうね、月餅が気に入ってたそうだから》

「助かります」


《それか、コレはコケモモ酒、食前酒なのだけれど。コレも美容に良いの》

「美味しかったです、何杯でもいけそうです」


《なら、両方用意させるわね》


 美人だからか何だか怖い、お酒を飲む時に覗き見。

 整形か、お姉様方の1人に似てるが、影武者なんだろうか。


「ありがとうございます、でも、そろそろお邪魔では?」

《良いのよ、お仕事の話しはコレから。あら、肩に傷が、大丈夫?》


「あぁ、古い傷で。お酒で出たみたいです」


《綺麗な肌なのに、ちゃんと治して貰いなさいね?》

「お気遣いありがとうございます、そんな大したこと無いのに」


《若さって大事よ、直ぐに過ぎてしまう美しい時間。その刺繍も、若さと瑞々しさを表してるの》

「おぉ、そんな意味が。他の方のもですか?」


《ふふ、可愛いわね。そうね、アノ子は》

「龍ですね、コッチの字の」


《そうよ、良い子ね》


 凄い触られる、何か探られてるんかしら。

 何かバレてる?


『白子さん、何か向こうから取ってきましょうか?』

《あら、ヤキモチかしら、もう行ってらっしゃいな。観上氏も、向こうでゆっくりしてらっして》

《そうね、行ってらっしゃい、観上》


「失礼します」

『失礼します』


「ふう」

『腕、大丈夫ですか?』


「はい、特に何も。言われなかったら気付かない位なんで」

『良かった、お酒強いんですね』


「笊ですね、そんな好きじゃ無いんですが」

『羨ましいです、食前酒でもうフワフワしてますから』


「安上がりで良いじゃ無いですか」

『楽しみたいんですけどね、眠くなっちゃうんですよ』


「それこそ羨ましい。あ、向こうに来ます?」

『あ、それはちょっと』


「あぁ、彼女ですか」

『はい、露骨で。正直苦手なんですよね』


「今日の印象でもダメですか」

『ですね』


「ハッキリ断った方が相手の為になるかと」

『そうしたいんですが、自意識過剰って思われたく無くて』


「あぁ、分かります。でも、ハッキリアピールされたら?」

『断ります』


「分かりました、根回ししますので頑張って下さいね」

『はい』


 気の強そうな方、せいちゃんラバーへと向かう。


 ちょっとジェラシーが見え隠れしてるが、コレがダメなのかしら。


「あの、ちょっと良いですか?少し」

「あ、うん」


「観上さんをお好きで?」

「え、その事?」


「今、少し観上さんからお聞きして、勘違いかと」

「良かった、伝わっては居るのね」


「えぇ、彼は奥手ですし、どうしたものかと相談されまして」

「やっぱり、私から行くしか無いか」


「どうでしょう、かなり言い淀んでましたので。好きかどうか、自分も余り、そう言った事は不得手で」


「脈無さそう?」


「自分から見る限りは」

「でもなぁ、ちゃんと言いたかったのよねぇ」


「こう言う席ですし、向こうも多少は大丈夫かと。少し酔ってらっしゃいますし」

「あら可愛い、有り難う。少し時間貰うわね」


「はい」


 これから失恋するであろう女性を見送り、お姉様方を見る。

 井縫さんは無難にこなしているが、スーツ組は結構デレデレ。


 だが主賓と思われる女性に似た美人さんが見えない、休憩でもしてるんだろうか。


 違った、ベランダで大國さんと談笑してる。


 8課の女性陣はイケメンに囲まれながらも、せいちゃんと彼女の動向を見守っている。


『お困りですか?』

「あ、いいえ、居場所を探してました」


『ご一緒しますよ、賓客をお1人にしては怒られますので』

「恐れ入ります」


 天然イケメン、軍服イケメンはグッと来るな。

 ハニトラってどんなんだろ、有るかな、楽しみ。


『お砂糖入りの温かい紹興酒ですよ、どうぞ』


「美味しいです、コレは酔いますね」

『無理なさらないで下さいね、普通の白湯も有りますから』


「どうも。皆さん、語学の勉強をどの位したんですか?」

『僕は幼少の頃からです、ラテン語と日本語を。父も軍人なので、大国の言語は学ぶべきと教えられました』


「田舎者って分かります?箱入りとか、自分はそう言う人間なんで、そちらの歴史を教えて頂いても?」

『はい、喜んで』


 彼から聞く歴史としては、大昔に女媧が人間を作り出した。

 暫くして饕餮(とうてつ)と黄帝が同時に現れ、黄帝が勝利。

 以降の統治は代々、帝が行っているんだそう。


 女媧は、ただ見守る存在らしい。

 地球、世界ちゃん的存在なのだろうか、なら表には出ない筈だが。


「見守るだけって、歯痒そう」

『そうですね、ただ見守るだけなら、さぞ歯痒いでしょう』


「可哀想は、失礼でしょうかね」

『いいえ、お優しい方は誰でもお好きでしょう、きっとお喜びになるかと思います』


「失礼、白子ちゃん、ちょっと良いかしら」


 フラれたか、ごめんよ。


「はい」

『では、失礼致します』


「大丈夫ですか」

「ちょっと、付き合って」


「はい」


 テラスへ行くと、少ないながらも喫煙者が居る。

 彼女へ1本差し出すと、受け取った。


「あー、振られたわ」

「すみません」


「良いの、アレじゃ時間を掛けても無理だったって分かったし。ありがとう」

「いえ、ご苦労様でした」


「はぁ、私も飲みたいわ」

「コレ、何時までなんでしょうね」


「長いらしいわ、ゆっくりオヤツしながらって感じみたい。あー、帰りたい」

「スタイル良いですし、大丈夫ですって」


「見た目で言い寄ったけど、見た目で来られるの嫌いなのよね」

「複雑」


「昔ね、太ってたの。今はこの見た目だけど、その時の男からの扱いが脳裏にチラつくの。だから中身で選んで欲しいんだけど」

「時間が掛かるかと」


「ね、灯台に取られるって思って、焦っちゃったのよね、失敗したわ」

「灯台に?」


「前に、イタコさんが聞き出してね。あの子みたいなのが良いって、そうよね、変わったのも彼女が来てからだし」

「体よく名前を出しただけでは」


「もう良いの、プロに清楚系にして貰ってこのザマだもの」

「お顔が派手でらっしゃるのは、良い事かと」


「アナタもよ、モテそう」

「楠が、ですね」


「そうだった、忘れてた。謝らないとね、嫌な視線送った事も有ったし」

「全く気付いてもいらっしゃらないかと、鈍感ですから」


「そう?まぁ、様子見ね。ありがとう付き合ってくれて」

「いえいえ、じゃあ、戻りましょうか」


「えー、おウチに帰りたぁい」

「イケメンいっぱいですよ、目の保養、目を潤しましょ」


「ふふふ、そうね」


 悪い人じゃない、この人も。

 複雑で嫉妬深くて、ある意味同族嫌悪からの苦手意識だったのかも知れない。


 部屋に戻り、井縫さんと寛ぐせいちゃんへと向かうが、お姉様と一緒だ。

 近寄るの止めよ。


《あら、いらっしゃいな》

「来いよ白子」

「えー、お邪魔は遠慮したいー」

『噂してたんですよ、物怖じしない良い子だって』


《ふふ、それでお相手が居るか気になっちゃったの》

「居ないですよ、お姉様が良いな」

「俺が先ね」

『ふふ、モテモテですね』


「せいちゃんもね。振ったのに元気って何かなぁ」

『あぁ、すみません、お手数お掛けしました』


「全くです」

「お、ちゃんと言えたんだ。偉いですね」

《あらあら、ヤキモチ妬かれないかしら》

『大丈夫です、円満に平和にお話し出来たので。白子さんのお陰です、有り難う御座いました』


「あざーっす」

《ふふ、チャーミングな所も良いわね、道化は難しいのよ?王様を笑わせる、大事なお仕事》


「それは無理かと、頭良くないし」

「分数の割り算ギリギリだものな」

《あら、学校は?》


「病気がちだったのと、見ての通り繊細でして」

《まぁ、大変だったのね、少し見せて頂戴。少し東医を齧った事が有るのよ》


「望診ですか」

《知ってるのね、でも脈は見させて、舌も》


「あー」


 天然さんは魅入る様な美しさが有る、永遠に眺めてたい。

 綺麗で、美しい。


《はい、終わり。最近、怪我や病気をしたわね、もっと栄養を取らないと血が薄くなってるわ。それとストレス、我慢は良くないわよ、舌に歯形が付いてるもの》

「だって、髪の毛もお化粧も慣れて無いんですもの」

「元もすっぴんでフラフラしてるものな」


《良い素材なのに勿体無いわ、ねぇ?》

「せいちゃんに聞いても無駄ですよ、適当に名前出すバカなんで」

『楠さんみたいに自然な感じが良い、と言っただけで』

「大丈夫ですよ観上さん、後で俺からも言っとくんで」


『やめて下さいよ、引かれたら困るんで』

《良い人が居るのね》


『違うんです、楽なのは認めますけど、それだけで別に』

《大事よ、自然体で居られるのが1番。偽って繕っても、いつか終わりが来るもの》

「そうそう、マジでくっついちゃえばい良いのに」

「無責任な事を、向こうにも選ぶ権利は有るかと」


「嫌われて無いならイケますよ、イケメンなんだし」

『嫌われて無いとは思いますけど』

《なら良いじゃない》

「女性らしく無いので、ダメかと」


「男っぽいのがそんなに嫌ですかね」

『嫌と言うか』

《あら、男でも女でも良いじゃない。大事なのは中身よ、ね?》

「せいちゃんには無理ですよ、お堅いので」


《勿体無いわ、世界が広がるのに》

「ですよね本当、皮膚の中はさほど変わらないんだし」

『まぁ、どうでしょうけど』

「だとしても、無責任ですよ先輩」


《アナタも反対なの?》

「もっと、見合う方が居るかと」


《見合うかより、もっと大事な事が有るんじゃ無いかしら?》

「コイツもウブなんですよ、な、新米」

「へーい、さーせーん」

『ふふ』


 せいちゃんがニコニコと笑うのは良いのだが、赤さが度を越してる様な。


「せいちゃん、真っ赤過ぎ、それ」

『あ、お酒ですけど薄めて貰いました』

《それでも良くなかったかも知れないわね、お水を用意させるわ》

「俺持って来ますんで、待ってて下さい」


『すみません、大丈夫なんですけど』

「真っ赤過ぎ、熱いもの」

《下品が混ざってたのかしら、薬効がキツくて副作用が出るのよ》


「あれま、吐かせますか」

《余計にお酒が回りそうね、お水を飲んでゆっくりしてる方が良いわ》

『はい、そうしときます』


《何が使われたかお料理見てくるわね、ゆっくりしてらして》

「はい、有り難う御座います」

『助かります、すみません』


「良かったね、東洋医学知ってる人が居て」

『ですね、でも、食べ合わせでこんなポカポカするんですね』


「ね、ハニトラ来ちゃうかも」

『私にですか?こんな下っ端、無いですよ』


 お姉様が料理を見て回る中、井縫さんがお水を置いて何処かに行ってしまった。


 そして別のグループのお姉様が来た。

 清楚系、ナチュラル、可愛い。


《大丈夫ですか?体調不良の方の為に、お部屋が用意されてるそうですが》

「助かります、指示を仰いで来ますね」

『お願いします』


 競歩並の速歩きをし、そしてアマテラスさん達の卓へ。


「失礼致します、体調不良手前の者が出ました。様子見の為にお部屋をお借りしたく」


《それは大変、宜しくお願いね白子ちゃん》

《あぁ、あの真っ赤になってる子ね、下品が混じったのかしら。案内させるから、アナタはコッチにいらっしゃい》

「はい、お邪魔します」


《気を回してくれて助かるわ》

「いえいえ、落ち着きが無いだけです」


《良い胆力ね、全く怯えも無い》

「無知でして、お許し下さい」


《良いのよ、教えるのも好きだから》

「イケメンさんに歴史を教えて頂きました」


《そう、良かったわ。それで、私が誰だか分かる?》

「申し訳御座いません、田舎者の箱入り娘でして」


《ふふ、素直な子は好きよ。私は女媧、中つ国の女媧》


 不協和音では無く、声が歪んで聞こえた。

 ホラーだ、怖いわ、なんだろう。


「申し訳ございませんせした、お許し下さい」

《大丈夫よ、良い子ね》


 何で影武者がこんなにアピールするんだろうか?

 どういう事だろう。


《あらあら、緊張しちゃったのね、白子ちゃん》

「すみません、緊張で、お手洗いに」

《ふふ、それも可愛いわね、ゆっくりしてらっしゃい》




 廊下を出てトイレに向かうも清掃中。

 もう1ヶ所は混んでるし、仕方無く2階へ行くと井縫さんが待っていた。


 不意に抱き締められたがお尻に違和感、そのまま黙ってトイレに入ると、ケツに手紙が。


 [各所に盗聴器有り、カメラ不明。観上は1003]


 行けと言う事か。


 今?


 両手の隙間から空間を開き、1003を覗き見る。


 ベッドに横になるせいちゃん、遠くからシャワーの音が聞こえてる。

 凄い、マジのハニトラやん。


 どうすべか。


 用を済ませ手を洗い、表に出るとまだ井縫さんが居た。


「分かってるな」

「はい」


 分かって無いけど、黙って手を引かれエレベーターへ。

 そうして1103の部屋に入る。


 目の前には月読隊と月読さん。


『どう?楽しかったかしら?』

「まぁまぁ、シャワー浴びられちゃってますが」


『あら、黒子、髪を解いてあげて。それで、どうする?』

「ギリギリまで様子見しますかね」

「それは意地悪過ぎる」


『そう?』

「チャック閉まってたし、まだ抱かれて無いから大丈夫じゃね」

「勘弁して下さいよ、泣き付かれたく無い」


「命令なら行きますが」


『解けたわね、しゃあ浴室から制圧をお願い、治療は無し』

「了解」


 空間を開け、浴室へ侵入。

 あの案内してくれた清楚さん、上がる寸前じゃん。


《アナタど》


 取り敢えずは1103に放り込み、シャワーを出したままタオルを被り、せいちゃんの様子見。


 ヤるフリでもした方が良いのかしら。

 治すなと言われてるし、どうすべ。


 シャワーを出したまま、空間を開きご相談。


『する?』

「見られる趣味は無いんですが」


『残念、先ずは脱いで、せいちゃんをそこのベッドに連れて来て頂戴』


「うい」


 カメラ対策。

 服も下着も脱ぎ、タオルとバスローブを羽織る。


 そうしてベッドへ。

 せいちゃん爆睡、寝ててくれて助かるかも。


 そのままお布団の中へ、ベッドの底からベッドへ、せいちゃんを空間移動させた直後、紙が差し出された。


 [隣のベッドに井縫と黒子を用意する、入れ替われ]と。


 空間を1度閉め、もう1つのベッドの上に空間を開く。

 せいちゃんの服と髪の長い黒子を抱えた、全裸の井縫さんがフルスマイルでコッチ見てる。


 クソが。

 憎らしく思っていると、せいちゃんに変身した。

 なるほどね。


 先ずは黒子を抱えた井縫さんをベッドに迎え入れつつ、足元から入れ替わる。


 多分、完璧。


 起き上がると、月読さん以外は皆が後ろを向いててくれた、助かる。


『うん、完璧。彼女は特別室送りでお願いね』

「了解。バスローブ、良いですかね」


 羽織ってせいちゃんの方を見ると、血を採られている、それでも起きない。

 採尿もしたいらしいが。


『ぐっすりねぇ、可哀想だけど、楠でお願い』


 声を楠に変え、せいちゃんを起こす。


「せいちゃん、起きて、トイレ、検尿」


『ん、楠さん?』

「起きて、検尿タイム、ほれ」


『あ、あの、後じゃダメですか』

「ダメ、毒盛られたかも」


『え、は、あ、皆さん、どうしてココに』

『内緒』

「先ずは検尿」


『あの、寝起きなんで、少しお時間を』


「怖い話ししてやろうか」

『お願いします』


 入院時の高熱からくる幻覚と幻聴の話。


 怖がってはくれたのだが、収まらないらしい。

 それだけの毒なら良いんだが、どうすべ。


「ダメか」


『すみません』

「もう、膀胱に注射しときます?」

『それしか無さそうねぇ』


『え、他の方法は無いですか?』


「有るが、君には。普通ならまだしも、その状態だとカテーテルは」


 医療班を見ると手で×を作っている。


『残念』

「うん、無理だって。出来たとしても、かなり痛いし感染症が」


『注射しか無さそうよ。痛みは、消してあげてくれる?』

「せいちゃん次第」


『あ、針を見てからでも?』

「了解」


 太い針を見て尚、せいちゃんの()()()()()は収まる事が無かったらしく、再度下腹部の痛覚遮断を頼まれたので実行。


 月読さんと後ろを向いて暫し待つ。


 採尿完了後、痛覚を戻した。


 それから無理にでも吐いて貰い、検体と共に科捜班を病院へと送った。


 残ったのはぐったりとベッドで横になるせいちゃん、隣のベッドにはマネキン、月読さんと数人の黒子。

 早くも撤収作業が始まっているが。


『ま、そんな感じだから、後は宜しく』

「なーんも説明されてなーい」


『ふふ、良いじゃない、偶には。休暇だと思って楽しんで頂戴、宜しく』

「もー、絶対に後で教えて下さい」


『はいはい、じゃあね』




 全員を特別室へ送ると、バスローブを羽織ったせいちゃんが起き上がった、狸寝入りか。

 まだ真っ赤、マジで可哀想なせいちゃん。


「大丈夫?」

『あの、飲み物お願いしても』


「あぁ、はい、お水」

『すみません』


「せいちゃんは被害者なので気にするな」

『いや、連れ込まれたのは自分のミスですよ』


「それな、どう連れ込まれたのよ」


『最初は知らない女性と軍人に案内されて、そしたら楠さんで、部屋の電話が、入って直ぐに鳴って、忍さんが白子さんを褒めろって怒ってて、話しを聞いてたら、眠くなっちゃって、そのままです』


「仕方無い、向こうが上手かった」

『それでもですよ、すみません、休暇中なのに』


 寝ぼけてるのか酔ってるのか、まだ顔は赤いし蕩けてるし。

 持続時間長いな。


「治そうか?」

『お願いしたいんですけど、やっぱり怖くて』


「そのままじゃ排泄しきれなくて、長引くと思うけど」


『その、どう治すんです?』


「内臓に代謝させる予定」

『もしですよ、後に肝硬変にでもなったら、楠さんを恨んじゃうかもと思って。有ったんですよ、本当に治せる人が居たんですけど、逆恨みされた事件。実際の原因はお酒らしいんですけどね』


「恨めば良いじゃん、その頃にはどうせ居ないし」

『怨みたく無いんです』


「酔ってるなぁ」

『ですよね、なんか、少し、支離滅裂ですよね』


「うらやま、心配で直ぐに代謝させちゃうからなぁ」

『あの食事に行った時もですか?』


「おう」

『すみません、負担掛けちゃって』


「別に死なんし」

『それでも、嫌なんです』


「いつかは死ぬ」

『死なないで貰えませんか?』


「不死は嫌」


『帰ったら、どうするんですか?』


「引き籠もる」

『じゃあ、ココでも良くないですか?』


「ね、引き籠もるだけなら、そんな変わらないよね」

『本気で引き籠るんですか?』


「ダメかね」

『寂しくなりませんか?』


「それは…泣くぅ?」

『すみません』


「もう寂しいか」

『はい』


「井縫さんが居るでしょ」

『鈴藤さんが居たから、話せたんです』


「偉大だな鈴藤ちゃん」

『鈴藤さん、楠さんは、本当は、どっちなんですか?』


「それぞれのパターン聞かせてよ」


『鈴藤さんならこのままですけど、楠さんが本来なら、謝ります、色々』


「どっちにしろ謝っては欲しく無いなぁ、楠が本来なら謝るのはコッチだ、騙してごめんって」

『でも、それは事情が有ってでしょうし』


「大した理由無いかもよ?」

『それでも、女性を男扱いは良くないかと』


「そう仕向けて、望んでても?」

『どうなんでしょう、そんな事って、有るんですかね?』


「有るんじゃない、突拍子も無いし、独特だし」

『そうなんですかね』


 全く頭が回らないらしい、まとまりも無いし。


「治さないなら寝た方が良いよ?」


『じゃあ、少し』


 泣き上戸まで見れるとは、コレは面白かった。


 でもココまで治すの拒否されると、ちょっとショック。

 何とかしたいのに出来ないとは。


 暇だし、一緒に寝たら早く治らんかな。

 ベッドを移り、布団越しにせいちゃんの背中にくっ付く。


 治れ、早く治れ。






 マジで眠ってしまった、そしてせいちゃんは。


 顔の赤みも発熱も無し。


 あ、起きちゃった。


「おはよ」

『あ、は、え』


「バスローブ着てるし、何もして無いぞ」

『あ、すみません、何か、寝ぼけてて』


「おう、お飲み」

『はい、有り難う御座います』


「どんな夢を」

『ちょっと、お手洗いに』


「えー」


 ベッドを移り暫く待っていると、身支度を整えたいつものせいちゃんが出て来た。

 全て、収まったらしい。


『すみません、記憶が曖昧なんですが』

「マジか、どんだけ弱いのよ」


『そんなに飲んだつもりは…あの、声、楠さんですか?白子さんなんですか?』

「さぁ、どっちでしょうかね」


『え、もしかして』

「白子は楠さんです」


『もー』

「可愛いなせいちゃん」


『もう、どうなってるんですか』

「知らん」


『知らないんですか?』

「うん、今も」


『はぁ。何か変な事を口走ったかも知れませんけど、全部、忘れて下さい』

「イ・ヤ、要求すんなら対価くれ」


『もー』

「せいちゃんの手料理で手を打とうか」


『それで忘れてくれます?』

「一考する」


『一考って』

「たんま、はいはい」


 仕事用携帯に月読さんの着信。


【した?】

「寝られました」


【あら可哀想に。せいちゃんにも聞こえる様にして】

「はいはい、どうぞ」


【ダメよせいちゃん、据え膳は食べるモノよ?】

『そん』

「ゲテモノは据え膳に値しないかと。それだけですか?」


【あら冷たい】

「何も教えてくれないんですもん」


【だって、楽しんで欲しくて】

「あ、井縫さん達は」


【カメラ無しを確認したから、交代してくれる?それから、少しらしく過ごして頂戴。窓辺で】

「了解」


【それが終わったら、井縫の部屋にベッドから戻って】

「了解」


【じゃあね】

「うい」


『あの、らしくって』

「多分、事後」


『ええ』

「確認するか」


 机の隙間から部屋を覗く、ベッドには居ない、服も無い。

 シャワーに行ったらしい、助かった。


 浴室を覗くと、浴槽の外で脱力し座り込んでいる黒子と、機嫌良くシャワーを浴びる井縫さん。

 目が合ってちょっとドキッとしてしまった、悔しい。


『どうでした?』

「一緒に浴室に居た、取り敢えずシャワー、一緒に入るか。ほれ、脱げ」


『そこまでします?』

「バスローブ脱いでる音なんておかしいだろうに」


『下着はいいですかね?』

「どうぞ、ワシも履いてるし。我慢してくれよ」


 再び空間を開くと、フルスマイルじゃん。


「妬けますね」

「さっさと移動してくれ」


 2人を部屋に回収し、井縫さんはお着替え、黒子は特別室へ。

 そうしてやっと、お風呂場へ移動。


 コレ、どうオチがつくんだろうか。


『あの』

「お先にどうぞ」


 浴槽から出て暫し待つ、暇なので化粧を落とすか、勿体ないけど。


 眉が、書いて貰わんと。


『あの、どうぞ』

「どうも」


 頭を流し、せいちゃんを様子見、まだドライヤーで乾かし中。


 窓辺ねぇ、カーテン少し開けるか。

 いや、胸。

 あ、バスローブ、タオルだな。


 バスローブを羽織り、タオルを頭に掛けてカーテンを開ける。


 ソラちゃん。


【窓を】


 開けるか。


 森林の匂い、あぁ、一服したい。


【超望遠光学レンズ1台、写画確認完了】


 写画ね、任せた。


 浴室へ戻り、バスローブのまま黙って窓辺まで来る様にだけ伝える。


『あの』


 目を瞑って貰い、ソラちゃんの指示に従い色々とポージング、暫し撮影会。


【撤収しています】


 お互いに黙ったまま、カーテンを閉め、自分はベッドへ。

 せいちゃんが服を着る音がしたかと思うと、部屋を出て行ったので、マネキンが居る筈の空間を開いてみる。

 マネキンの横にはフルスマイルの井縫さん、マジでぶん殴ってやろうか。


 だが井縫さんに入れ替わりを手伝って貰ったので、文句が言い難い。




「髪、半乾きにして下さい」

《了解しました》

「ありがとう」


 ソラちゃんにドライヤーで髪を乾かされつつ、服を着る。

 そうしてエレベーターに乗ると、直ぐに止まった、携帯をしまうせいちゃんが乗って来た。

 こうなる為の時間稼ぎに通話させられていたらしい。


「観上さん、髪濡れてるのってエロいですよね」

『へ』

「もう殴って良いだろうか」


「良いじゃないですか、俺らも事後なんですし」

『あ、いや、私は』

「赤面死しちゃうんで、もう勘弁してあげて」


「じゃあ、追々で」

「鬼」


 下へ到着すると、お見送りタイムらしい、間に合ったのかコレは。

 小走りせいちゃん、ゆっくり行く井縫さんと、ワシどうしよう。


『すみません、遅くなりました』

《あらあら、まだ赤いのに。後で大國に送らせるわね》


『いえ、大変申し訳御座いませんでした』

「部屋、助かりました。彼は下品に中ったそうです」

《あらごめんなさいね、気を付けさせてはいたのだけれど。後程、調べさせるわ》

《良いのよ、食べ合わせやお酒で具合が悪くなるのは良くある事ですし、仕方無いわ》


《そう言って頂けて助かりますわ》

《無事にお仕事も終わったのだし、大丈夫よ。じゃあ》


《えぇ、じゃあまた》

《えぇ、さようなら》


 何台もの車を見送る、良いのか帰して。


 まだ続くんかしら。


『あの』

《大丈夫、大変だったわね》

「念の為に俺も家まで送るので、お任せ下さい」


《お願いね、じゃあ先に帰るけれど。宜しく》


 アマテラスさんの車を見送り、中へと戻った。

 残ってるのは8課の人間と大國さん、自分達だけらしい。


「先輩、この状態で8課女子は不味いでしょう」

「だな、観上さんと先に車に行ってろ」


「うい、行こうせいちゃん」

『はい』


 怒ってるのか早足、不機嫌なのか拗ねてるのか、またはその両方か。

 今回は仕方無いでしょうに、命令なんだし。


 車に乗ってもだ、赤面しながらムスっとされましても。


「せいちゃん、ごめんて」


『色々と聞きたいんですけど、嘘を分らなくする魔道具か何か、持ってますよね』

「そりゃね、心を読めなくする魔道具、1で読めるのが近くに居たから、ほれ」


『コレだけですか?』

「さぁ」


『もー、道具を過信してたのも悪いですけど』

「もう毎回、目の前のが本人と思うしか無い」


『だって、それが違っても、失礼になりませんか?』

「真面目か、白子と楠は同一だと大國さんは知ってたハズだが」


『大國とは最近会って無かったんです』

「井縫さん」


『今思うと、誤魔化されてたかも知れません。楠さんは仕事だとしか』

「知らない方が良いからでしょう、騙すには味方からと」


『もー』

「抗議は上司へ、ワシ何も噛んで無いし」


『本当ですか?女性に囲まれて楽しそうにしてたって聞きましたけど』

「美人に優しくされて楽しく無い事なんてあるかね」


『私は、緊張します』

「楽しかったぞ、子供扱いされて甘やかされて」


『ほら、鈴藤さんじゃ無いですか』

「ウブめ、こんな女も居るわい」


『え、じゃあ、本来は』

「うっし終わりましたんで、行くぞ白子」

「ういー、ナイスタイミング」




 にしても小腹が空いた。


 酔うから携帯も見れないし。


 暇だし。


 せいちゃんはまた黙ってるし、井縫さんは寝てるし。


 珍しく不機嫌なのに喋らないのは。

 お、井縫さん起きたらケンカか?

 出来るか、せいちゃんに。


「なにニヤニヤしてんの」

「お、起きた」


「携帯、着信あったから。なに」


「いやぁ、せいちゃん不機嫌だから先輩とケンカにでもなるかなと」

『別に、そんなんじゃ』

「まだ、整理出来てませんか」


『イベント多過ぎて無理ですよ、色々と聞きたい事も有り過ぎで』


「まさか、俺にも?」

『整理中です』

「どう過ごしてたのかは気になる、黒子うなだれたし」


「手の甲とか使って、音声も再現して遊んでた」

「違う意味のテクニックが」


「おう、当分再起不能だろうな、男だし」

「えぇ、可哀想と言うか、女性で無くて良かったと言うか」


「体系で選んだからな」

「そっち?3号はどうなったんだろ」

『3号?まだ居るんですか?』


「君を誘惑した人なんだが」

「無事」


「予想外、自害でもしてるかと」

「まさか無いですよ、準備してたみたいですし」

『そこです、いつからなんですか?』


「俺は昨日聞いた」

「今朝と言うか、昼前に準備されてた」


『はぁ』

「どんまいやで」

「とうとう上司に歯向かう時が来たか、観上さんも」


『無理ですよ』

「いやいや、苦言位は呈そうよ、せいちゃん」

「それな」


『私の為を思っての事も有るでしょうし、コレが最善だったんだろうとは思いますし』

「半分は面白がってると思う、井縫さんもそうだし」

「面白い業務では有った、あのベッドの入れ替え作戦とか」


「ガン見する人が居ますかね」

「凄い睨んでたものな、意外と、ちゃんと人間ぽい」


「そう言う勘違いしますかね、こんな人間らしい人間を」

「霊元」


「見えないねんもん」

『え、見えないんですか?本当に』


「こうしたら、見える。最近教えて貰った遠見、本当だ、少し似てる」

『本当だ、でも、前見た時と違う気が』


「抑えてるからね」

「そんな事出来る人間、中々居ないんだよなぁ」


「そう?黒子は皆出来てそうなのに」

「衣装で隠してる。お前のは普通のだけど」


「服の数少なそう」

「おう」


「じゃあ、せいちゃんへの謝罪に寄付するか、素材」

『やめて下さいよ、コレ以上は貰えないとお達しが有ったんですから』

「相談だなぁ」


『井縫さんまで誤魔化そうとしてますよね』

「半ば」

「何聞きたいのさ」


『最新は、ベッドの入れ替えです』

「コイツが全裸で覆いかぶさって空間を作った」


『ええ』

「君が起きないからだ」

「カメラも有るか分らん、とか言われてたんで」


『すみません』

「そも、何を覚えているのかね」


『それは、断片的で』

「後でじっくり聞こうな白子、着いたぞ」




 駐車場からエレベーターへ、そして月読さんの部屋へ。

 今日も黒子無し、まだ終わって無いらしい。


『お帰り』

「まだですか」


『そうなの、大きいから釣り上げるのが大変で』

「まだ何かする事有ります?」


『今日はもう無いわ』

「明日かぁ」


『ふふ、どうかしらね。その服、科捜班に提出お願いね』

「うい。黒子の素材要ります?ついでに」


『あら、あらあら』

『そんな、何も今脱がなくても』

「行く所があるねん。加工が必要なので、そこに行く許可を貰えると良いんですけど」


『何処かしら』

「ギリシャ、機織りさんと糸紬さんが居るかと」


『お願いするわ、せいちゃんはまだお話足りなさそうだから、私が聞いておくわね』

「うい」




 特別室から浮島へ、ドリアードへご相談。


『やっとか、長かったのぅ』

「すみませんね」


『冗談じゃよ、ナイアスで渡って貰う事になるが』

「あいよ、よろしくお願いしますね、ナイアスさん」

《はぃ…》


 ギリシャは聖域が2つに分れて居るらしい、地上と浮島。

 浮島にはニュクスやモイライ達が居るんだそう。


「モイライ?モイラでは無く?」

『あぁ、少し違うのぅ。三神に分かれる前の名がモイラ、今はクロート、ラケシス、アトロポスに分れておる』


「あぁ、そうなのね」

『お、居ったな、連れて来たぞい』


『どぞー』

『いらっしゃい』

『良く来たねぇ』


 年の離れた三つ子、顔がそっくりな3神は前と同じ様に河辺で糸紬や機織りをしている。

 今更だけど、良いのかしら。


「楠花子と名乗って居ます、お忙しい中失礼します」

『お、しおらしいの、どうした』


「いや、人間の布地を作って貰うのは烏滸がましいかと思い始めてまして」

『別に良いのにー』

『そうよ、遠慮なさらないで』

『あぁ、初めてのお客さんだ、歓迎するよ』


『じゃったら、アラクネも呼ぶかの』

『やった』

『そうね』

『こう機会も無いと会えんでな、頼むよドリアード』

「お手数お掛けします、手土産です」


『いただきまーす』

『あら、不思議な感じ』

『柔らかくて甘いのう』


「あと、材料なんですが」


『魔力いっぱいだ』

『あらあら、コレを人間に?』

『それで、何がしたいんだい?』


「あ、この魔法みたいなのが出来たらと思ったんです」

『すげー魔力だぁ』

『それにしてもよ、他に何か混ぜないと力が余ってしまうわ』

『そうさな、普通のも無いとなぁ』


「このコートだと?」

『本当に人間なんだろうかねぇ?』


「人間です」

『ふふ、そうかいそうかい。そのコートなら丁度良いが、普通の素材も無いとね、量はどうするんだい』


「そこなんですよ、パワーバランスを考え無くてならんのです。あ、普通のは土地をお借り出来たら作ります」

『だからドリアードなのかぁ』

『お願いね、あの畑に注げば大丈夫』

『ほっほ、見物といこうかねぇ』


 ちょっと小腹は空いてるが、この位なら大丈夫なハズ。


 指定された場所へ魔力を注ぐと、無造作に撒かれた種が発芽していく。

 プチプチとした感触から、地面へ空へと根と芽が伸びる。


 後はもう伸びるまま、ただ促す。


「有り難うナイアスさん」

『ふぇぃ』

『ナイアスも仲良しかぁ、良いなぁ』

『下界へは降りられないもの、仕方無いわ』

『降りたら大混乱になる、接しないのが1番なんだよ』


「運命の女神とは存じてるんですが」

『簡単に言うと寿命じゃな』


「あぁ、興味無いのでご安心を。それよりアラクネさんは?大丈夫なの?」

『そこに居るんじゃが、見目を気にしてのぅ』


「あぁ、蜘蛛だそうで」

『ほれ、早うこんかね』


《嫌がら無いで下さいね、本当》


 下半身は大きなスカートで覆われている、嫌がるも何も見えて無いし。

 少し警戒したカサカサ音も無し。


「見えてませんし大丈夫かと」

《でも、蜘蛛なのよ?》


「虫全体が苦手ですけど、益虫なので、ギリかと」

《それなら織る時は見ない方が良いかと、足も使うの》


「足を見る事が下品な文化も有るので、見ないでおきます」

《お願いね》


『なんでみないの?』

「内臓が好きで常時見せたいと思う人は変態です、見て欲しく無いなら見ない」


『見て欲しかったら?』

「頑張る、見る努力はします。無理なら無理と言う」


『普通だぁ』

「普通の人間です」


『ふふ、さ、お手伝いして』

『デザインはどうするかねぇ』


「布地だけでもと思ったんですが」

『余分が出たら勿体無いでしょう?』

『下界の服装に合わせるで、案を頼むよ』


「えぇ、ネクタイとかでしょうか、理想はハンカチなんですが」

『覆うか囲わねば発動せんじゃろ、ネクタイの下地、裏地が良かろう』


「あぁ、ならスカーフも、お願いします」


『スカーフはシンプルなのを多めに』

『裏地は好きに織るかの』

《そうですね、ふふ》

『ねぇ、もっと見せて』


「あいよ」


 1番年下に見える神様と共に畑を回る、染料用の草花や麻、綿に桑も。


『どうしたの?』

「コレも、有るのを忘れてました」


『わぁ、ねー!また凄いの出たー!』


 正面を向いて追い掛けるワケにもいかず、ドリアードに手引きされながら河辺へ戻る。


『置いてけぼりは良くないわ』

『見せたかったんだねぇ、良い子良い子』


『ちょっと貰って良い?』

「どうぞ」

『有り難う』

『ちゃんと、良いのを作るんだよ』


 若いクロートが糸を紡ぎ、ラケシスは糸を測り織る、仕上げのハサミはお婆さんのアトロポス。

 自分は絹糸紡ぎ。


 一方後方では、まるで機械の様に素早く動く機織り機の音がする。


「あの、急ぎでは無いので」

《大丈夫、これ普通だから》

『もっと凄いんだよ、アテナ様と競った位なんだから』


《それは本当無しで、黒歴史なので》

「あら、聞かなかった事にします」


《お願いします》

『ねぇ、最速で織ってよう』


《少しだけですよ》


 鎌鼬か飛行機でも飛んでるのか、偶に音速を越えているらしく爆音が響く。


 怖い、何て丈夫な機織り機。


「凄い、丈夫な機織り機ですね」

《そうなの、分る?コレに耐えられる子って少ないのよ》

『ダイダロスのしかダメなんだよねぇ、直ぐ壊れちゃうの』


「でしょうね、音速越えてそうですし」

『それなのに繊細なんだよ、ほら、そっち』


「おぉ、ハイスピードなのに綺麗に目が揃ってる」

《その、余り褒めないで下さい》


「あ、はい、気を付けます」


 自分も良く言うが逆の立場は初めて、少し自重しないと。


 うっかりまた褒めてもいかんので、絹糸紡ぎに集中。

 糸車をひたすら回すと、紡ぎ玉が完成した。


『よし、できたー』


 スカーフにネクタイの裏地の束、それとコートが何着か。

 どうすっか、コレはバランスを考えないと。


「早い、有り難う御座います」

『楽しかったわ』

『偶には良いもんだろう』

《はい、お招き頂き有り難う御座いました》


「あの、お礼は」

『コレで充分だよ』

『そうね、ちょっと遊んだだけだもの』

『そうさね、菓子も貰った、充分だ』

《あの、出来たら私の名は出さないで下さい》


「承知しました、本当に有り難う御座いました」

『またの。さ、帰るかの』




 川から浮島へ、そして特別室へ、時間にして1時間も掛かって無いらしい。

 後の問題は、どうバランスを取るか。


『お帰りなさい』


 月読さんだけ、もしかして忙しいのか黒子達。


「ただいまです、どうしましょね」


『まぁまぁ、凄い量。連盟国で分配するわ』

「連盟国とな」


『説明するから座って』

《お疲れでしょうから私が》


『あら、タブレットから。良いわ、お願い』


《ウガリット、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシア自治区、イギリス、カナダ自治区、ローマ、ギリシャ、中つ国、そして日本の大連盟が成立する予定です。手土産は女媧の偽物》


『有り難う。まぁ、そんな感じ。アイス食べたぁい』

「どうぞ、向こうで見つけた新作です」


『んー、美味しい』

「バチカンは無しですか」


『向こうがね。中つ国の加盟には驚かないのね』

「本物に心当たりが有るので」


『あら、捕捉出来てたのね』

「まぁ、かも、ですけど。本物なら、ちゃんと挨拶しとけば良かったかなぁ、凄い美人だったし」


『ふふ、向こうから改めて紹介状が来てるから、今度にでも行ってらっしゃい』

「うい。それより、せいちゃんは大丈夫でしたか」


『アナタの事ばかりで参ったわ』

「お疲れ様です」


『完全に枯れてるわね、元から?』

「いいえ、昔は夢も見ましたよ」


『教えてはくれないのね』

「知りたきゃ映画館にでもどうぞ、喜劇だか悲劇が見れますよ」


『大國にでも任せようかしら』

「引かれそう」


『井縫?』

「笑われそうですけど、適任かと」


『そう』

「お腹減ったんですが」


『あぁ、せいちゃんの家に用意させてあるから、食べてらっしゃいな。白子で、直行して大丈夫よ』

「了解、お疲れ様でした」




 声を変えつつエレベーターに乗り、特別室からせいちゃんの家へ。

 大國さんも井縫さんも、よもぎちゃんまで居る、せいちゃんへのご機嫌取りか懐柔か、誤魔化しか?


『あ、どうぞ』

「早かったな白子」

「どうも、お邪魔しますが」

「おう」

《白子さんですね、初めまして》


「あぁ、どうも。スクナさんは?」

『病院だそうです、患者の付き添いだそうで』


「あぁ」

「なんだよ、テンション低いぞ白子」


「聴風軒さんも居ると思わず」

《あれ、僕評判悪いのかな?》


「いえ、楠さんにご興味が有るそうで」

《あぁ、大丈夫ですよ、男の白子さんをどうにかする事は考えても居ないので》


 井縫さん、フルスマイル。

 大國さんはビックリしてるし、そのビックリする大國さんにせいちゃんがビックリしてるし。

 よもぎちゃんは困惑してるし。


 井縫さんの立場に成りたい。


「先輩」

「はいはい、何食べるよ」


 そうじゃないんだが。


 テーブルの上はツマミが溢れている。

 江戸前の握りにモツ鍋、瓶詰め各種とピザ。


「持ち寄り?」

「正解ー、1人1品好きなのを持ち寄りにした」

《足りないと寂しいので、色々持って来ちゃいました》

「それと酒だ」


「酒の失敗を酒で忘れさせるって、暴力的な」

《慰労と聞いてたんですけど》

『その方向でお願いします』


「飲むんかい」

『事情は聞けたので、半分自棄酒です』

「良い飲み方では無いが、仕方無いだろう」

「ですね」

《え、何が有ったんです?》


「先輩が多分詳しいと思います」

「観上さんが襲われかけた」

《あぁ、最近評判が良いですし。分かりますよ、大変でしたね》


『もしかして、蓬さんもですか?』

《えぇ、そんなに数は多く無いですけど》

「有るだけで凄いと思うんだが」

「聞きたい様な、怖い様な」

「それな」


《昔、アパートに住んでた頃に、バイト先の人に、仕事中に合い鍵を作られてしまって。寒くて起きたら目の前に》

「大丈夫か清一」

『そうなりかけてたんですよね、ゾッとすると言うか』

「それはどうじゃろ、寝ぼけるは酔うわで。致せても、記憶にも無いかと」

「白子は駄目押しで抉るなぁ」


「あ、すまん」

『流石に気付くかと。記憶は有るんですよ、断片的ですけど』

《好きな人なら嬉しいんだけどね》


「経験豊富ですなぁ」

《楠さん嫌がるかな》


「どうですかね先輩」

「俺?適任はお前だろう」

《そうなんですか?》


「先輩もそこそこ顔見知りじゃないですか」

「お前の方が知ってるだろ。で、どうなんだ」

《少しで良いんで、お願いします》


「そう言う話しはした事無いんで」

「お前から見て、どうかじゃん」


「せいちゃん止めないのか」

『あ、いや、個人的見解なら大丈夫かと』


「童貞好きっぽそうですね、一応せいちゃんとお付き合いするかもって話しなんですし」

「ほー、なるほどねぇ」

「ほう」

《そっかぁ、残念》

『何で童貞って事になってるんですか』


「観上さん、墓穴掘っちゃって」

《そりゃもう良い年だ、し?》

『そうですよ、高校生じゃ無いんですし』

「素人に限る」


「白子も結構な鬼畜だと思うぞ」


《その、ご職業がその場合は、どうなんですかね?》

「金銭が絡まないなら?」


《貰った場合もですか?》

「え、待って、整理させて」


《そういうご職業の方と致して、ご褒美にと、お金を頂きまして》

「しゅごい、尊敬しちゃう」

『白子さん』

「いや、もう崇めたい位ですよね?」

「あぁ、新しく教団を設立して貰おう」


「教祖様、お恵みを」

《変なのも来ちゃいますよ?》

「どんな割合いなんですかね」


《8:2ですかね。井縫さん、敬語も何も大丈夫ですよ、そんなに年も離れて無いでしょうし》

「いや、俺、23なんですけど」

「はマジでほぼタメかよ」


「5月5日生まれ」

「何だ、何で?貫禄か?」

《ごめんね、年が近いなんて言っちゃって》

「余裕だろうな、羨ましい」


『珍しい、大國が羨ましがるなんて』


「先輩の余裕と聴風軒さんのモテ、得るならどっち、10、9、8」

「えー、俺は大國さんの移動能力で」

《僕は井縫さんの口の上手さですね》

『私は大國の強さですね、戦えて羨ましいです』

「井縫の余裕だな、戦いにも余裕が欲しい」


「先輩モテてるなぁ、腹立つなぁ」

《白子さんは?》


「えー、せいちゃんのウブさ?」

「そうだ、清一、相手は」

『なっ、何で話し戻しちゃうんですか』


「ほら面白い」

「悪い子だな白子は」


「だはっ、くすぐりはマジ無理、殴るよ」

「そんな事言うなよお兄ちゃん、あ、感覚切ったな」

「それも羨ましいんだが」


「無い様なもんでは?」

「薄いだけで有るには有る、この前のも結構きた」


「ごめんよ、平然としてたし。うっかり」

「耐えられる範囲だ、問題無い」

『前はそれなりに泣いてたのに、心配になるんですよね』

《幼馴染なんだっけ?》


『はい、昔は普通の男の子だったんですよ、本当』

「今は警視庁の化け物だもんなぁ」

「それはもう代替わりしている、鈴藤と楠に。俺は3番手だ」


「頑張って下さいよ、あんなぽっと出に負けずに、後続も育てないとだし」

「後続ねぇ、あんなの見たら自信無くすでしょう」

《井縫君、見たんですか?戦う所》


「一瞬ですよ、2人共、打ち合い無しの一撃」

「どうすれば、そう成れるんだろうか」


「数、桁が違うかと。ドリームランドが有るんですし」

「年数が少ないんじゃ?」


「中身が濃いんでしょうね、圧縮されて濃縮されたら、あぁ成るかと」

「へー、運とか、偶々じゃ無いんですかねぇ」

《懐疑的だね白子さんは》


「まだどんな人間か分かりませんしー」

「いやー、単純そうだぞ?」

『ですよね、美人で巨乳なら何でも良さそうですし』

「そうなのか?」

《そうですかね?意外と深追いもしてなさそうですし、興味無さそうですけど》


「まさか同性が」

《あぁ、かも知れませんね》

「おぉ、面白い事になるなぁ」

「だから清一と住みたがったのか」

『そんな素振りは』


「ほぅ、ウブに判断出来ますか」

《でもそれが本当なら、当然慎重だろうし》

『もー』

「ふふ」

「お、大國さんも笑うんですね」


「一応、人間だからな」

「鈴藤もそう言うんですけどねぇ」

《僕は人のは見えないんだけど、そんなに?》


「えぇ、人間ですって自己紹介、最高でした」

「あぁ、何処の神様を連れて来たのかと思ったな」

『あぁ、病院に行った時、そんな意味だったんですね』

《じゃあ楠さんも?》


「もっとですよ」

「だな、勝てないと直ぐに分かる感じだ」

《じゃあ余計に競争激しくて無理かもなぁ》


「聴風軒さんが諦めかけるレベルって、そんなん?」

「まぁ、政略結婚は確実だろう」

「それか、敢えて未婚で沢山産んで貰うかって、人間側は考える可能性は有りそう」


「こわー」

《身代わりと言えど、白子さんも気を付けて下さいね》

「そうだぞ白子、お前用のも後ろに居た」


「マジか、いつ」

「ケツに紙差し込んだ時」

『ごほっ』

《大丈夫?お水持って来るね》


「抱き締めて尻に紙を差し込んだ時に確認した、大國さんが捕縛してくれた、お礼は?」

「有り難う御座いますた」

「おう」


『何か、凄い事になってたんですね』

「本当に、ただ今回の勤労者は大國さんですよ」

「お疲れ様でした、あ」

「いや、どうした白子」


「用事を思い出しました、ちょっと行ってきますんで、続けてて下さい」

「待て、一応行く先を聞いても良いか」


(タマノオヤさんです)

「分かった」

『戻って来ますよね?』


「勿論、行ってきます」

《行ってらっしゃい》




 玄関から浮島へ、そしてタマノオヤさんの神社の裏手へ。

 あら、スクナさんも居る。


『あ!本当に来た、凄いなぁ月読は』

《ですね。あら、お酒の匂いだ》

「特別なのを、どうぞ」


『ハナも飲んでくれる?』

《そうですよ、一緒に飲みましょう》

「じゃあ、おつまみも」


『うん。お疲れ様』

《消費してますね、大丈夫ですか?》

「そんなつもりは……本当だ、何でだろ」


『せいちゃんを外側から治したからだよ、一緒に眠ってあげてたでしょ?』

「見られてましたか」


『様子見にって少しだけ、余り良くないよ、酷く消耗しちゃうから』

「だって、せいちゃんが我儘言うんですもん」

《ふふ、お世話になったね。何か用が有って来たんだよね?》


「もう遅いですけど、毒消しをと。完全に失念してました、宝の持ち腐れですね」

『それだけハナが弱かった証拠で、強くなった証拠だよ』

《そうですね。それに、彼に演技は出来ませんから、どう足掻いてもこの結末なんでしょう。コレで良かったんですよ》


「にしても、面目無い」

『それより、何で使わないの?』


「免疫、耐性を付けたくて。対処も」

『治せるのに?』


「知りたがりなので、少しでも余裕がある内にと」

《真面目だねぇ、良い子良い子》


「有り難う、御座います」

『素直だ、偉いね、良い子良い子』

《ハナはコレと同じモノを授けたいんだね》


「せいちゃんに」

《良い機会だから渡そう、もう前例も有るから、過度な加護には成らないだろう》

『大國にもね。ほら、覗き見して無いで出ておいでよー』


「申し訳ない」

「すみません、観上さんが楠さんを心配しちゃって」

『段々、井縫さんの事が分かって来た気がします』


《ん?楠さん?》


「ごめんねよもぎちゃん、鈴藤で楠で白子なんです」


《えぇー》

「マジごめん」

『分かりますよ蓬さん、私も同じ目に合いましたから』

「しかも2回だ」

「極悪人だよなぁ」

《ふふふ、大勢は楽しいね》

『宴会だぁ』


 真っ赤になりながらゴロゴロとのた打ち回るよもぎちゃん、それを慰めるせいちゃん。

 笊なのを良い事に飲みまくる井縫さん、お仕事の話をする大國さんとスクナさん。

 隣で微笑むイケメンのタマノオヤさん。


 今が最高に怖い。


 また同じ様に、また違う場所へ転移させられるかも知れない恐怖。


 楽しい時ほど壊される。


 怖い、緊張する。


 でも、帰れるなら受け入れる。

 帰れるなら、出来るだけの事はする。


《離れた場所で、緊張しているのは何故?》

「こんな楽しい時間の後に、知らない世界の知らない場所に、放り出されました」


《それは楽しめないハズだ、意地悪な事が起きてしまったんだね》

「ここの前はお別れが出来ました、ただ夢に浮かされた様な感覚で、きちんとお別れ出来たかと言うと、心残りが沢山有ります」


《葛藤と焦り》

「はい」


《1日1日を精一杯生きるのは、難しい事だと思う。毎日そう思っていたら、いつか張り裂けてしまうよ》

《そうじゃぞ、休暇にとほっておけば清一を勝手に治すし、ボーッと出来んかね》


「えー、あれで配慮?」

《まぁ、少し分かり難いがの、沖縄もじゃ、もっとゆっくりしておっても良いものを》


「エリクサー作りが有るしぃ」

《我等に任せれば良かろう》


「遠慮しちゃう」


《うぬの世界を見習う事にしたんじゃ、請われた場合のみ手助けする。歯痒さも有るが、過剰な接触は抑えられる。じゃから、どうか請うておくれ》


《そうだよ、請われ無いと寂しいから、お願い》

「イケメンはズルい」

《面食いめ、向こうの我が羨ましいぞ》


「愛してる愛してる」

《その割に頼ってくれんのじゃ、うぅ》

《可哀想にね、こんなにも思ってるのに》


「神の愛は平等に注がれた方が」

《いやじゃ、余剰分を何処に分配するかの権利は我等に有る》

《ね、寵愛なんて言葉はその為に有る様なものだし》


「2人掛かりはズルい」

《それも神じゃ》

《ね、良い子良い子》

『甘やかされてるー、僕もする』




 神々の悪ノリに、あっぷあっぷしていると、井縫さんがやって来た。

 この場面、救ってくれないだろうなぁ。


「危ないですよねぇ、こう神の寵愛を一身に受けてるなんて、そら狙われもしますよ」

「井縫さんも愛されてるでしょうに」


「あの方の余剰は有りませんし、少し違うんで」

「注がれてると分かってるだけでも良いじゃない、昔は疑ったもの。それで、神様は忙しい、もっと大変な人へ注いでると自分に納得させたんだもの」

《じゃからか、うぶいのぅ》


「その、居ない世界って」

「映画館有るから見て来たら良いよ」

『良いの?見せちゃうの?』


「信頼を示す必要は有るでしょ」

「信頼は既に得てますけど」


「マジ?」

「割とマジで信用はしてます」


「じゃあ、何で知りたい」


「興味、それから派生するのは何か出来ないかの模索です。神々が興味を示し、応えようとしてるんですよ、今以上に」

「プレッシャーだ」


「でしょうねぇ」

「素面だなぁ、凄い」


「毒抜きの輪、俺持ってるんで」

「酒が勿体無い」


「味は好きだし、お前が言うか、と」

「うっせ、事情が事情じゃい」


「ですよね」

「しんみりしてくれるな、辛気臭い」


「お、先輩に言う」

「くすぐるなよマジで、盾出すぞ」


「無防備に寝転がってる方が悪いんですよ」

「君、絶対お兄ちゃんだ、こんな弟居て堪るか」


「可愛げが無いとは良く言われました」

「コッチは末っ子だぞ、可愛がれよ」


「俺の可愛がり方は独特ですけど」

「じゃあやめときます、放置でお願いします」

『ふふ、本当に弟妹みたいだね』

《じゃの、気配も似ておるし。曾祖父かも知れんのう》


「あぁ、全部知ってるの?」

「俺だけ、自害用の呪詛も毒も受け取ってるんで」


「そんな大事な情報無いから秒で吐け、生きろ」

「他にも色々知ってるから、死んだ方が早いんです」


「生き返らせてやるから、ちゃんと言えよ」

「あ、お、聴風軒さんが復活した」


「マジかぁ、宜しくお祖父ちゃん」

「いやだね、頑張れ曾孫」


《楠さん》

「お断りします」


《えぇ、まだ何も言って無いのに》

「ふふ、なんでしょうか」


《観上さんは本来の性別に拘ってますけど、僕は気にしませんから》

《色々な意味でじゃろ、エロオヤジめ》


《僕ってそんな風に見えます?》

「淡白では無さそう」

《足の指まで舐め回しそうじゃ》


《あら、バレてますか》

《ひゃー、あっち行け変態》

「ウブはこの戦争に立ち入るとケガしますぞ」

《ふふ、神様を誂うなんて良い度胸ですね、好きですよそう言う子》


《有り難う御座います》


「はぁ、眼福」

《枯れ木に花が咲いたか、難儀じゃの》

《楠さんは、そう言うお好みで?》


「はい」

《ふふふ、私にその趣味は無いんだ、残念》

《そうでしたか、残念です》


「よもぎちゃんも否定して、ワクワクしちゃう」

《喜んで貰えるなら否定しませんよ》


「はー、有り難いぃ」

《ふふ、本当は女性なんですね?》


「男が、綺麗な男を好きじゃ無いと錯覚してませんか」


《確かに、ならご自身もその場に身を置かれては?》

「より綺麗で可愛い者に場を譲ります、それが紳士よ」

《ふふふ、それを眺めるんだね、良い趣味だよ君は》


「綺麗な花瓶にぺんぺん草は似合いません」

《それを良しとする人も居るかも知れないよ》


「ワシは許さん」

《強情ですよねぇ》

《本当にそうだね》


《じゃあ既成事実からにしますね、付き合って貰える事になったって、向こうに言いふらして来ます》

「ちょ、意外と凄い手を」

《行っておいで、いつでもココに居るから》


「うい、すみません、誂われてきます」

《楽しみに待っておるぞぃ》




 人間組に合流。

 せいちゃん寝てるし、大國さんは腕輪で素面になっちゃってるし。


「飲む時は外して下さいよ、勿体無い」

「勤務中だ、味が好きなんだ、許せ」

「お前もだろ、ほれ」

《ふふ、心配しました?言ってませんよ》


「一晩でも一生でも相手は作りませんよ、どうせ居なくなるんですし」

「白子、誰でも明日いきなり死ぬかも知れない、ある意味条件は皆が同じ、何でそこまで拒否するんだ?」


「子供に責任持てません。避妊100%はしない事、したら出来ると思えが家訓です」

《真面目ですよね》


「それだけじゃ無くて、病気も心配だし、寝首掻かれても嫌だし。なら、しないのが1番では?」

「この世界の人間は、この場のすら信頼出来ないか?」


「大國さん、目が怖い」

「すまん、真面目だとこうなる」

「俺もダメなんだろ」


「井縫さんは、よもぎちゃんよりヤってそう」

「お前」

《だから楠さんは童貞狙いなんですね》


「それは語弊が」


「検査結果でも出す?」

「潜伏期間」

《医療の知識が有るとこう拗れますか、ロマンの欠片も無いですね》


「ロマンで病気は治りまへん」

《信頼と実績が必要なんだね》


「童貞なら、良いのか」

「シューちゃん、実は酔ってる?」


「雰囲気かも知れん。で、どうなんだ?」


「ウブで顔が良くて真面目で、物忘れが激しい人が良いですね、居なくなる可能性は非常に高いので。でも、思い出に引き摺られる事が無さそうな人が良いとは思います。ただ、改めて言いますけど、そのつもりでせいちゃんに接触したんでも無いですから、是非ご留意を」


《だそうですよ、良かったですね観上君》

「は」

「仕返しだってさ」

「すまんな」


『すみません、真意が知りたくて』

「有る程度の責任有る役職の人間が指標になると思っただけで、だから大國さんでも良かったんだけど、面白そうなのはせいちゃんだってだけで」

「ツンデレか」

《そう聞くと、そう聞こえますね》

「なるほどな」


「はー、始まった。大人が寄ってたかってさ、苛めだわ、ハラだわ」

『すみません、でも面白そうは聞き捨てならないんですけど』


「じゃあ、童貞の匂い」

『もー、違いますってば』


「へー」

『あ、もー』

《明確に回答しちゃいましたね》

「白子、判別出来そう」

「なら頼む」


「さぁ、帰りましょう。長居してもアレなので」


 失望の声を浴びつつ神様達にご挨拶し、家へ帰る準備。


 先ずはよもぎちゃんを送り帰し、大國さんもご帰還。

 スクナさんはまだ宴会するそうなので、せいちゃんと家へ帰る。




『あの、やっぱり恥ずかしい事なんですかね』

「いや、あっさり落とされる城は好きじゃないけど、攻め込まれない城に価値が無いと言う世間の評価も分る。けど、価値も卑下も程々で良いと思う」


『鈴藤さんは』

「童貞に決まってるでしょうに、そして処女」


『えー』

「お、魔道具外すか?」


『お願いします』


「よし、はい、どうぞ」

『何で服も』


「風呂に入ろうかと」

『あぁ、鈴藤さん童貞ですか?』


「はい」

『本当だ、見えないのに』


「井縫さんもだったりして、分からんよね外からじゃ。行ってくる」

『ですね、どうぞ』


 それから交代でせいちゃんがお風呂に入った、盛り合わせを食べていると、風呂上がりのせいちゃんも少しつまんでいった。


 淡雪をベランダに置き、歯磨きをしてから浮島へ戻った。

New!  《中つ国のお姉様》

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