6月1日(月)
グロ注意。
後書きのテンプレ方法を変更します。
飛行機の中、朝食だと脳内ソラちゃんに起こされる。
思うに、日本に着くまでの食事はフィンランドやローマの食事が良いのだが、和食が選択肢に入っているのはどうなんだ。
これから山ほど食えるのに、何故なのか。
魔素の少ない食事を終え、ボーっと窓の外を眺める。
今日の予定はどうなってるのか、誰か迎えに来るのか、行けば良いのか。
トイレに行ったり、ニュースを眺めたりしていると着陸のお時間。
荷物の受け取り場所をスルーし、パスポートを提示してやっと外へ出れた。
着信、月読さん。
【おはよ】
「おはようございます」
【ゆっくりで良いから、来てくれるかしら】
「了解です」
囮なのか向こうが忙しいのか、ダラダラ出勤が始まった。
先ずは喫煙所で一服。
食事が少し物足りなかったので、お蕎麦屋で温かい天ぷら蕎麦を1杯。
もう1回喫煙所。
それから電車へ。
車内が空いていたので、ナビに従い階段が近くになる場所まで車内を歩く。
最寄り駅で降り、デパートを2軒ハシゴ。
更にコンビニに寄り道し、公園へと向かう。
《あぁん!鈴藤ちゃん、おはよぅ》
「おはよ、もふもふやねぇ」
《ふふ、カラス天狗も言ってはったけど、ホンマに付けられてはるんやねぇ》
「そうなのね」
【3人、殺気は有りません】
《3人、殺す気は無さそうやけど、何やろ》
「ちゅーちゅーあげようか」
《餌付け禁止やでココ》
「あら、じゃあ今度ね」
《うん!楽しみにしとくわ、じゃあね》
百合車猫とお別れし、警視庁へ入る。
【入っては来ませんでした】
内部じゃないのか。
廊下を抜けエレベーターを上がり、月読さんの部屋へ。
今日も黒子無し、内々のお話か。
「おはようございます」
『何人?』
「3人らしいです」
『特徴は分るかしら』
《データを転送します》
『有難う』
「どうやったの」
《隙間からカメラ撮影しました》
「ほう」
『照合に回すわ、ご苦労様。で、釣りをしようと思うの』
「危なく無いですか」
『命の危険は無いわ、ただ少し手間は掛かるのよね』
「ほう」
『鈴藤はウガリットへ、自家用ジェットが用意してあるから、準備が出来たら直ぐに行って貰うわ。ハナちゃんは、何処か行きたい所はあるかしら』
「花は特に無いかと」
『じゃあ、沖縄の露天温泉付き旅行ね』
「何しに」
『ご挨拶、かしらね?』
「はあ、買い物させないと」
『是非、そうさせて頂戴。じゃ、お隣に挨拶回りしてる間に使者が来る筈よ。ハナは、お買い物かしらね』
「了解です」
『じゃ、行ってらっしゃい』
取り敢えずは徒歩で警察庁へ、そうして8課へ。
「おはようございます、お久しぶりです」
『おはようございます、鈴藤さん』
「わぁ!おはようございます、お久しぶりです、お元気でした?」
「はい、お土産です」
「今度は何処じゃね」
「もぉ、聞いたらダメですよぉ」
「ローマの方です」
「ほうほう」
「良いんですか?この前も貰っちゃいましたよ?」
「それはそれ、コレはコレなので。皆さんもどうぞ」
「初めまして、お噂はかねがね」
「どうも、コチラも灯台から聞いてます。鈴藤です」
「どうも、すみません、名乗れなくて」
「いえいえ」
「やっぱり、灯台さんとご家族なんですか?」
「お嬢ちゃんも禁忌を聞いとるじゃないか」
「あ、違うんですよ、すみません」
「似てますかねぇ」
「外見はそうでも無いがの、ふひひ、お嬢は気にしいじゃ」
「違うんです本当に、出しゃばった事を聞いて、すみませんでした」
「大丈夫です別に、探られて痛い腹も疑われる様な事も無いんで。美味しいですか?他のも有りますよ」
「あ、美味しいです、はい、大丈夫です」
「ワシ、他のも欲しいんじゃが」
「しょっぱいのです、どうぞ」
「お、俺コッチにしときます、どうも」
大きいチップスに、小さいチップスをどっさり置いた。
問題は、どう井縫さんを呼び出すか。
「あの、灯台から伝言が」
「あぁ、例の件ですね。じゃ、ちょっと良いですかね」
『どうぞ』
「うい、じゃあ、失礼します」
前よりマシだが、何だか針のムシロ感が凄かった。
何だろう、出張し過ぎ?
「はぁ、灯台が居る時の方がマシですね」
「すんません、出張のし過ぎでしょうか」
「巫女さんですよ」
「あぁ、新しモノ好きなんでしょうよ」
外へ出て再び警視庁へ、どうやら武器登録にこのまま行くらしいが。
その前に公園で一服。
「あの、俺には何も無かったんですよ、あの巫女さん」
「霊元だろうか」
「愛想が良いから、らしい」
「そこ?」
「男らしいのが苦手だそうですよ」
「はぁ、なら、よもぎちゃんが居るのに」
「イケメン過ぎもダメらしい。婆さんが牽制の為に、この前言わせてました」
「あぁ、居ない間にそんな事が、よもぎちゃん可哀想に」
「それで大分落ち着いてたんですけど、アナタが来るとどうも悪意が増える」
「ですね、何もして無いのに、何もして無いから?」
「いや、仕事で出張とだけは皆に聞かされてるから、ソコは問題無い筈」
「そっか、どうも」
百合車猫は他の人間に撫でられて居る。
それを井縫さんとボーっと眺める。
「まだ居ますね、さっさと行きましょうか」
「うい」
喫煙所から早々に立ち去り、警視庁へ。
そのまま武器庫へ向かい、魔法銃を取り出す。
自分専用では無いからか、割と素直に写真に撮られてくれた。
それでもブレは数枚出たが、多分、製作者の性格のせいだと思う。
「後で聴風軒にも見せます、それまでこの倉庫、保管庫の預かりになりますが」
「大丈夫よな、さっきのも多分、ふざけてたダケだと思う」
反論の様な反応も無いまま、倉庫から保管庫に変わった場所へとしまわれて行った。
「ふぅ」
「他には良い?」
「コレ以上はバランスが崩れるそうです、全体の、情勢の」
「あぁ、満遍なく配れば、ダメか」
「持たない国が焦り怯えるから、と」
「欲しいって言われたら考えるのに」
再び警視庁から出て、警視庁の前で立ち話。
炭酸ジュース、うまし。
「ただでさえ、開発に乗れなかった国が慌て出してるんだとか。誰も戦争なんか考えても無くとも」
「どっか行った方が良いんすかねぇ」
「どうでしょうね、何処に行ったって何かしら来そうですけど」
「厄介者」
「余所から見たら、まぁ悩んでも仕方無いですよ。余所は余所、ウチはウチ論法で」
「どっかで聞いたなぁ」
「俺は昨日聞きました」
「あぁ、灯台は灯台ですしね」
「切り返しに切り返してどうすんですか」
「へへへ」
自販機の飲み物で茶をしばきながら軽く雑談をしていると。
見慣れたナンバーの高級車が目の前に止まる、ウガリットの車。
当然、出て来たのはバアルさん。
《お待たせしました、じゃあ、行きましょうか》
「うい。じゃ、また」
「はい、じゃ」
《ふふ、可愛い子ですね》
「そうですか」
《あら、ご興味無いんですか?》
「アレの上が怖いんで、そう考える隙が無かったわ」
《似た気配でらっしゃるのに》
「じゃあ、同族嫌悪と言う事で」
《成程、参考になります》
「まだ諦めてませんか」
《えぇ、私も王もまだ諦めてませんよ》
「そうですか。あ、ジェットで?」
《えぇ、許可も降りましたから、触媒を乗せて》
「ほう、そう来ましたか」
《えぇ、コレでも忙しいので》
「お手数おかけします」
《良いんですよ、他の用事もありましたから》
車は羽田へ、そしてプライベートジェット用のセキュリティーを通り、そのまま離発着場へ。
今回は大きなスーツケースとバアルさんと共に乗り込むと、早々にドアが閉められた。
案内のままに座ると、窓も閉じられ魔法が発動された。
展開が終わると、前方のドアから見慣れぬ日本人が出て来た。
『カラス天狗の猿子、空心です』
「鈴藤紫苑です、仏名っぽいのは」
『えぇ、親は寺の人間です』
「あぁ、すみません、前はお騒がせしました」
『いえいえ、寺の失敗ですからお気になさらず』
《彼は身代わりです、変身魔法を得て居るそうですよ》
『はい、パスポートとお洋服を何着かお借りしても?』
「あぁ、はい、どうぞ」
『有難う御座います。では、少しお待ち下さいね』
「はい」
《じゃあ、コチラの話を進めましょうね。本の事で来たんですよ、見本です》
「おぉ、もう本に」
《挿絵を見本に使いましたが、どうでしょう?》
「いやもう全然、出るだけでも感動なのに」
《じゃあ、サイン頂けます?》
「は」
《あら、考えて無かったんですか?偽名とは言え、アナタの名前で出るんですよ?》
「聞いて無いが」
ジャラス・アラスタリアク・ナスフィジケイン。
アラビア語で鈴藤紫苑らしいが、聞いて無い。
《だって、原作者のお名前聞いてませんもの》
「あ、マティアスです、マティアス・ローリゼン」
《じゃあ、同名が居ないか調べてから、追加しておきますね》
「えぇー」
《アナタへ繋がる何かが有った方が良いんですよ、向こうでもきっと、アナタの名前も合わせて出てると思いますよ?》
「えぇー、まさか、なんで」
《同じ理由ですよ、散らばった者への道標》
「でも、教えて欲しかった」
《反対するでしょう》
「多分」
《はい、サインの原案です。この中から選んで下さい》
「これも必要?」
《少し、面白半分も有りますけど、最低限の繋がり、存在してた痕跡が必要なんですよ》
「ほう」
「お待たせしました」
「おぉ、声まで」
《じゃあ、離陸しましょうかね、それまで練習して下さい》
サインの練習をして暫くするとシートベルトサインが出た、そうして離陸。
「この感じ、楽しいよな」
「初めてですが、楽しいですね」
《はい、じゃあ練習終わりです。コッチに書いて下さい》
「えー」
《後は彼が続編のサインを残しますから、上手く無くても良いんですよ》
「ほう、じゃあ、適当に」
《はい、良いですね。じゃあ出来上がった本は改めて渡しますから、それにもお願いしますね》
「うい」
《はい、着替えはアチラでどうぞ、帰還も浮島なら問題無いかと》
「じゃあ、失礼します」
「はい、行ってらっしゃいませ」
トイレで服を脱ぎ花子になり、そのまま浮島へ向かう。
そうして家へ、1度お風呂に入り、買い物に出ようと外へ出ると着信が。
月読さんだ。
【おはよう花ちゃん】
「おはようございます」
【この前言ってた沖縄のチケットが有るから、来てくれるかしら。あ、ゆっくりで大丈夫よ】
「はい」
コンビニに寄ってから電車へ、そうして警視庁の月読さんの部屋に入った。
黒子無し、警戒してるのか。
『はい、チケット』
「はい…今日ですか」
『そうなの、部屋は一旦引き上げてから行って頂戴』
「はい、行ってきます」
それからプラトン・テレスでお買い物、水着と持ち込み出来るスーツケースを買って家へと帰り、見守り君を引き上げた。
そこからまた電車に乗り、空港へ。
【後方に4人】
ウガリットの車の時は無かったのに。
【いえ、バイクと車の追跡でした】
そうなのね。
空港で沖縄の観光雑誌を数冊買い、時間まで眺める。
搭乗時間、今回はエコノミー。
時間も短いし鈴藤よりは小さいので問題無し。
【2名、搭乗する様です】
あらー、念入り。
マジで何する気かしら。
ガラガラ。
観光客はほぼ居ないのか、外国人とスーツ姿の人間が多め。
座席はほぼ真ん中の位置、どっちのトイレも行き放題。
ココでも観光雑誌を読む。
隣に誰も来る事無く、離陸。
流石に読み飽きたので仮眠。
何事も無く石垣島へ到着。
カンカン照りでクソ暑いので、トイレでお着替え
ついでにホテルを確認。
ナビによると今度は船、本数は有るのでバスでフェリー乗り場へ向かう。
その道すがら、お店でソーキソバを食べ、フェリー乗り場で暫し待つ。
高速船に乗り、西表島へ到着。
そこからはレンタサイクルを借り自転車で向かう、どう付いて来てるのか。
そも、付いて来て無いのか。
車の往来はそこそこ、寧ろチャリの方が少ないので目立つ。
【1名、通り過ぎます】
お、見てやろうか。
その甲斐も無く、サングラスを掛けた女とだけしか分からなかった。
素体は普通だものね、仕方無い。
そうして着いたコテージへチェックイン、2食付で3泊との事。
部屋数は3棟だけ、しかも天蓋とジャグジー付き。
テレビは無い、外には海が見える。
着信有り、月読さんだ。
【どう?】
「最高なんですが、雲が出て来てます」
【大丈夫、暫く晴れるみたいだから。じゃ、またね】
「はい」
【ふふふ】
過保護なお母ちゃんなのか、それともブラフなのか、何だあの含み笑い。
見守り君を発動、範囲はテラスとジャグジーまでだった。
エアコンを付け、テラスで一服。
【来訪者有り、敵意無し】
視認は出来ないが、気配からして前方からか。
緊張する。
そんな中、テラスへ1枚の紙が吹いて来た。
拾い上げると、字が書いてある。
[遣いの者です、井縫と猿子がお世話になって居ります。]
「どうぞ」
窓を開けると気配が動き、室内に入ったらしい。
窓とカーテンを閉めると。
「ふぅ、カラス天狗の猫山、深雨です」
声は違うが、楠の姿。
「可愛い名前、アイス食べます?」
「あぁ、ありがとう御座いますぅ」
「お水もどうぞ」
汗びっちょり、待ってたのか飛んで来たのか。
どっちにしろ暑くて大変だったろうに。
「ふう、ありがとう御座いました楠さん。私、身代わりで来ました」
「マジか、どうやって」
「あ、大丈夫ですよ、ちょっと飛んで来ただけですから、暑がりなだけなんです」
「お疲れ様です、あ、お洋服可愛いの沢山詰めときますから、楽しんで下さいね」
「ふふ、ありがとう御座います」
「あ、オヤツとお化粧も、アイスも入れときます。他に何か要ります?」
「大丈夫です、身分証も大丈夫ですよ」
「ほう?」
「詳しくはこの鏡でどうぞ」
「うい、あ、シャワー浴びます?」
「助かります…あ、あのぉ、いつも使ってらっしゃるシャンプーとか有ります?」
「あぁ、有りますけど、そこまでします?新品出しましょうか?」
「念には念をと思いまして、あ、新品じゃ無くて、寧ろ、使いかけをお願いします」
「うい、どうぞ」
お風呂場へ行ったのを確認し、鏡に魔力を注ぐと、そこには月読さんの姿が浮かび上がった。
【で、何すると思う?】
「さっぱり」
【ふふ、ま、アナタは挨拶が終わったら、浮島でエリクサー作りでもしてて頂戴な】
「そうするとトイレ問題が発生するかと」
【そこは大丈夫、大國に手伝わせて作ったから】
「ほう、有り難う御座います」
【じゃあ、鏡を置いてご挨拶へお願いね、後は水鏡で連絡しましょうね】
「うい」
鏡を置いて暫くすると、もう猫山さんが出て来た。
自分と同じ姿と匂いで、不思議。
「どうでしょ」
「似てます、中味が猫山さんだと思うと可愛く見えますね」
「有り難う御座います、楠さん充分可愛いですよ?」
「どうも」
猫山さんには暫く休憩して貰い、取り敢えずは滝へと向かう。
挨拶と言っても、どの向こうでも会った事すら無いのに、会えるんだろうか。
作法も分からないまま、取り敢えず聖域と思われる場所の前でお辞儀をし、中へと入る。
今居るのは掃除中のお婆さんとお孫さんだけ、観光客は居ない。
《珍しい、お客さんだ》
「どうも、お邪魔しとります」
『どっから来たの?』
「遠い所」
《良く似て違うとこじゃねぇ、帰りたいか》
「はい、東京の楠花子です」
『本当は違うのは、嫌じゃない?』
「別に、苗字に拘りは無いので」
『お母、用意してやろうか?』
「いや、要らないです」
《帰りたいは、2個目だね》
「はい」
『好きな人が居るの?』
「皆、好きです」
『そうじゃ無いのにー』
《聞き方が悪いんじゃ、愛しい者が居るかだ》
「居ませんが、作れ言うなら頑張ります」
《おう、言うたな。作れ》
『作るなら、良い事教える』
「頑張ります」
《ふふ、強情だ。良いよ、その分だけ教えよう》
『行けば分かる』
《答えも何も、そこに有るさ》
『コレ以上はダメ、いっぱい作るって約束しないとダメ』
「いっぱいはちょっと、お菓子はどうです?」
『食べるけど教えなーい』
《ふっふっふ、頑張れば、いっぱいも目じゃないさ》
いっぱいって配偶者では無く、もしかして子供の事かしら。
体も丈夫になったし、医療も発達してるから、確かにいっぱい産むのは出来るかも知れんが。
相手が居ればだ。
『なぁ、怖く無いか』
「怖いですよ、人間かと思いましたもの」
《見え過ぎなんだ》
「眼鏡しときますかね」
『ずっとは良くない、悪くなるよ』
《偶になら良いが、そうさね、遠見を教えるか》
『こうやって、こうするの』
《遠くも見えるさ》
「ほう」
人差し指で親指を握り込み、そのまま輪にして覗き込む。
お婆さんもお孫さんも、神々レベルで発光している。
『お菓子のお礼』
《そうだね、もう直ぐ通り雨が来る。もう行くと良い》
「有り難う御座いました」
有り難い事に東京弁で話してくれた、しかも挨拶だけのつもりが何か教えてくれたし。
【1名、後方に居ます。確認しますか】
うい。
小さく開いた空間を遠見で覗き込み、指を大きく広げると拡大した。
自転車に乗るサングラスをした男性、南国でサングラスズルい。
猫山さんに知らせるか。
【既にカメラに記録しました】
オッケー、見せよう。
コテージへと引き返している途中、本当に通り雨が来て入る直前に降られた。
大して濡れても居ないので、そのまま猫山さんにカメラを見せる。
普通の人間なのだが、何処の者なんだろうか。
「助かりますぅ」
「うい、気を付けて下さいね」
「大丈夫ですよ、命に関わる事は無いと聞いてますので」
「それでもですよ、怪我しても直ぐ言って下さいね」
「はい」
そしてココから入れ替わり、今日着た服も着替えて渡し、浮島へ向かう。
別小屋のトイレチェック。
マジで水洗トイレ付き、ただ水は流れっぱなしのボットン便所に近い感じでは有るが、綺麗。
向こうにも同じ建物、便器運んだのか大國さん、申し訳無いと言うか、有り難いと言うか。
母屋に行くと、寝袋に入って大國さんが眠って居た。
焚き火は上手に出来ているので、そのままエリクサー作りが出来そう。
先ずは淡雪を出し、樽チェック。
今日は良い感じ。
淡雪は大國の胸に乗り顔を眺めている、どうやら好みらしい。
それから薪を足し、中途半端だった鍋と蒸留器をセット。
後はただ混ぜるだけ。
曇りで暗くなったと思うと、テントウ虫と蝶がやって来た。
良い子。
「おう」
「お、大國さん、有り難う、申し訳無い」
「いや、カラス天狗からの要望だそうだ。問題無い」
「調子悪そう、飲む?」
「あぁ、少し」
暖かく甘く無いエリクサーを湯呑みに注ぎ、渡す。
溢れる心配をしないのは、使い過ぎを自覚しての事だろうか。
「溢れそうなら言ってね、吸い出せるから」
「あぁ」
「過労?ごめんね?」
「大丈夫だが、もう少し眠る」
「おう、お休み」
直ぐに眠った大國さんを見る。
溢れる気配は無い、病気も怪我も無し。
そして夕暮れ前にエリクサーが出来上がった、このまま2回目に突入。
夕暮れ時、起きる気配無し。
心配なので月読さんに水鏡で確認。
【はぁい?】
「大國さん、眠りっぱなしなんだが」
【大丈夫、少し足りないだけだから、寝かせてあげて頂戴】
「仙薬上げてもだよ?夜勤、どうにかして出ましょうか?」
【あら助かるわ、じゃあ白子の衣装が出来てるから、届けさせるわね】
「お見通しですか」
【ふふ、勘よ、勘。じゃあね】
鍋に戻り、衣装を待つ。
どの位で来るかしら。
と言うか、1人で着れるかしら。
『お、来たようじゃな』
「有り難うドリアード」
分離帯へ向かうと、黒子さんが白い衣装を持って手招きしている。
分離帯まで出ると、今度は向こうと指差す。
流石に、最初は着替えを手伝ってくれるらしい。
『直ぐじゃろ、鍋は見るでな、行ってまいれ』
「頼みます」
下着姿になると、凄い早さでしっかりと着付けてくれたのは良いんだが、学ぶ暇無し。
後で調べよう。
そうして鏡も携帯もゲットした、便利。
黒子にお礼を良い、鍋へ戻る。
『随分早かったのぅ』
「有り難う、着付けを学ぶ暇も無かったわ」
『にしても顔が見えんとは不便じゃな』
「こんなもんよ」
煮え立つ間も無かったので、また混ぜては足すだけの作業へ戻る。
そうして居ると鏡が光った。
【あら、似合うじゃない】
「どうも、声も変えますか」
【そうして頂戴】
「あー、あー、あー、どうでしょう」
【うん、良いわ】
「霊元は」
【抑えて頂戴】
「他は」
【大丈夫、後は宜しくね。待機】
「了解」
1人3役、教団のも入れたら4役か。
しんど。
『ふふ、人間の世界は難儀じゃのう』
「じゃろう、変身出来たら、もっと楽なのかな、周りも」
『どうじゃろうな、そう変わらんかも知れん』
「自分の姿ね、鈴藤が1番好き、2番は今だな」
『可哀想に、母親の腹に大事なモノを置いて来てしまったんじゃな』
「ふ、かも知れん」
《ふふふ、起きちゃいなさいよ、イケメンさん》
「すまない、聞くつもりは無かったんだ。厠に行こうと」
「コチラこそ別に、良いのに、どうぞ、行ってらっしゃい」
《ふふ、可愛い人》
「お好みで」
《そうね、でもアナタが1番よ》
「はいはい、魔力ね」
《それもそうだけど、堅い子が大好きなの》
『分かるぅ』
「流石ニンフ」
『お、ニンフ差別じゃ、清純なのも居るわい』
《そうよ、偶々よねー?》
「はいはい、サドめ」
《『それはそう』》
「こわいわー」
「すまなかった、もう少し寝て良いか」
「お帰り、まだ飲めると思うけど、飲む?」
「頼む」
「あいよ」
今度はエリクサーのお湯割り。
飲む間は気まずそうな雰囲気だったが、飲み終わりまた直ぐに眠った。
どんだけ。
『睡眠不足と過労と容量不足じゃな』
《一体、何してたのかしら》
《いつもの仕事に厠じゃろ、カラス天狗には運べぬからの》
「重い物ダメなのか」
《うむ、ホイホイ運べても落としても、危ないからのぅ》
「あぁ、確かに。労ってあげないとな、何も起きませんように」
その願いも虚しく、エリクサー作り2回目を終え休憩している時に、鏡から連絡が来た。
今回は珍しく移送命令、場所は亀戸の天満宮前。
この状態での公の空間移動は良いそうで、ストレージからいつもと違う刀を取り出し、電柱の間から移動した。
人払いされたばかりで前駆部隊も居ない、赤い鳥居の前には、毛足の長い犬。
また女顔の人面犬、どこかアーニァに似た顔。
少し大人っぽい顔立ち。
目を瞑り内部を見るが異常無し、健康体。
『大きくて、綺麗な人、に、会うの、会わないと、ダメ、なの》
日本語、真っ赤な顔をしながら泣いている。
まだココでは何も出来ない。
黙って空間を開き指差すと、理解したのかその方向へゆっくりと歩いている。
【対象者へ殺意】
守って。
人面犬の後方に盾が出現すると同時に、弾が当たる音が2回。
3回目、確実に殺す気だ。
【続いて左後方、毒の付着の可能性有り】
受ける。
斜め後ろへとソラちゃんに腕を引かれ、弾が肩へとめり込み、2発は地面へ。
痛覚切るタイミングよ、熱かった。
明らかに違う方向からの狙撃、ハナか大國狙いだろうか。
もう受けんぞ。
人面犬の居る方へ、一緒に空間へと逃げ込む。
そこは病院、尋問された病院の駐車場、警視庁の科捜班の人間も居る。
待機していた白衣がストレッチャーに優しく犬を載せ、点滴を始めた。
安全の為にも、先ずは生理食塩水。
《あの、アナタも手当てを》
「証拠品なので、まだ良いです」
《あ、はい》
科捜班の前に行き、傷口を見せる。
弾が空気に触れぬよう皮膚で覆ったが、どう判断するか。
「毒の付着の可能性有り、取り出しますか。どの毒か反応を見ますか」
「耐えてくれますか」
「はい」
「彼女をもう運びますので、一旦処置を」
「はい」
処置室へ行くと、スクナさんが居た。
成人型のスクナさん、手袋している。
『僕がやるよ、おいで』
もう安心か、症状を見たいと言ってたな。
痛覚を戻そう。
凄い、痛い、もう何も考えられない程に熱く痛い。
『白子さん』
「スクナ、彦様、お願い、します」
『うん、今血を取るからね、待ってて』
「はい」
注射すら痛い。
もう目を瞑っているだけで、集中せずとも見える、前より毒々しい赤色。
弾から赤い何かが広がっている。
だから、赤は嫌いなんだ。
『もう少し』
「多分、致死性かと」
『取り出そう』
「揮発したら、困るので、抉って、下さい」
『痛いよ』
「今も、痛いです、焼けるみたいに」
『じゃあ』
「症状を、見る、べきかと」
『死ぬのはダメ、弾は血に浸すから取り出すよ』
有無を言わさず腕が切り裂かれた。
痛い、繋ぐ時より鋭く激しい痛み、空気に触れるだけで痛い。
更に傷口周辺が絞り上げられ、もういっそ失神したい。
痛い痛い熱い、痛い、熱い。
「もう無理です」
『うん、取り出すよ』
「まだなの」
『耐えて』
剣山で引き千切ったのか、弾だ、弾が血の入ったガラスの容器に入った。
なのに、また絞り上げられる、痛い熱い痛い熱い。
「まだ」
『もう少し、検査用だから、頑張って』
「むり」
痛覚を切ると、目の前が真っ白になった。
失神出来るのかも。
『だめ、起きて』
「ひどい」
『前は腕切ったんでしょ、このまま見るからね』
傷口を写真で撮られ、顕微で覗かれる。
もう頭がホウっとして、何も考えられない。
傷口は更に薄くスライスされ、他の顕微に乗った。
グロいのは分かるが。
疲れた。
「寒い」
『もう治療しよう』
「はい」
スクナさんが人払いをし、傷口を寄せてくれた。
細胞を繋ぎ合わせ、皮膚は完全には治さないでいる。
『残して良いの?』
「証拠なので」
スクナさんはそのまま皮膚に付着する血を舐め、毒を確認している。
吸血鬼もこんな感じから派生したんだろうか。
『リシンだ、解毒剤が無いけど、今は大丈夫?』
「今は何か、ほわほわしてます」
『脳内麻薬かな。霊元で治しても良いけれど、この毒は蛋白質だから、抗体が出来上がれば免疫が付くよ』
「じゃあ頑張ります」
『うん、じゃあ帰ろう?』
「ダメ、あの子の話を聞かないと、会いたがってたから」
『そうなんだ、じゃあ、点滴をしてからね』
人を呼び点滴が施された、中身は同じ生理食塩水。
鎖骨では無く、手の甲にして貰えた。
これは温泉直行だろうか。
血液は洗い流され拭き取られ、気が付けば袖が無くなっていた。
いつの間に。
車椅子に乗せられ、彼女の居るらしい何処かへと向かっている。
結構早い、グングン景色が変わって飛行機みたいで少し楽しい。
でも酔いそう。
「酔いそう」
『もう直ぐ、後ちょっとだよ』
そう言って長かったら後でくすぐろう。
1,2,3,4,5,6…
エレベーターを降りてから更に秒読み、1,2,3,4,5…
「20秒」
『待って、ほら、着いた。人払いを、お願い』
「息が切れてる」
『大丈夫、はい、どうぞ』
「お待たせ、コレで分るかな」
《うん、アナタの事、探せって、言われたの』
「それからは?」
《それだけなの、そしたら戻れるって、言ってたわ』
「そっか、じゃあお家に帰りたいね」
《ううん、良いの、体もお家も、戻ったら、また痛い、苦しいが有ると思うの』
「お名前は?」
《チャンイー、ねぇ、妹を知らない?』
「アーニァかな」
《良かった、会えたのね。じゃあ、きっと元に』
「もっと良いよ、人魚になって海に居る」
《良いなぁ、アナタが?』
「うん」
《会いたいなぁ、サンニャーが次に来るから、その子もお願いね』
「うん。痛く無いなら、人間の体に戻りたい?」
《良く分らないの、この姿になったらね、初めて、マーマが褒めてくれたの』
「そっか、それは悩ましいね」
《マーマも良く言ってたわ、悩ましいって』
「あら、何の事にだろう」
《私達、他にも居る子達、悪い子は悩ましいって』
「家は、何処か分る?」
《分らないの、途中まで車の中だったから、途切れ途切れ』
「じゃあ、元気になったら探そうか、一緒に行ったら褒めてくれるかも」
《良いの?痛いと苦しいが、有るかも』
「余裕、大丈夫、無問題」
《謝謝、ありがとう』
撫でて居たからか、すっかり眠ってしまった。
暖かくて綺麗、前よりも大丈夫そう。
『一緒に、行こうか』
「うん」
膝の上にチャンイーを乗せて貰い、空間を開き浮島へと戻った。
『大國は出たんじゃが』
『誰も、入れないで欲しい』
《そうじゃな》
「すまんね」
寒いので川では無く温泉に入れて貰った、チャンイーも一緒。
向き合って、点滴の刺さるチャンイーの腕はコチラの肩へ。
自分の手は湯船の縁にある桶へ、桶なんて有ったっけか。
『飲める?』
「おう、酒が良いな」
『今度ね、もう充分楽しいでしょ?』
「まあね、スクナさんも入らんかね」
『ハナが良くなったらね』
「もう良い感じなんだけどな」
『もう少し、暫く眠って』
宮殿の水槽の縁に腰掛け、海を眺めていると。
ピンク色の魚影がコチラへ向かって来た。
「アーニァ、戻って来ちゃったの?」
《チャンイーの匂いがしたから、大丈夫?元気?》
「うん、大丈夫」
《違う、アナタの事》
「大丈夫だよ」
《嘘言う人嫌い、来て》
暖かい海に引きずり込まれ、抱き締められると良い子良い子と頭を撫でられた。
そしてほっぺにキスをし、今度はギュッとハグ。
「今は痛く無いから、大丈夫だよ、本当に」
《痛いはしたでしょ、慰めてるから邪魔しないで》
「はい」
《いっぱい見て来たのよ、励ますのと、慰めるのと、覚えたのよ》
「偉いね、凄い」
《チャンイーと、サンニァーにして上げるのよ》
「今度はサンニァーが来るって、その前に止めたいな」
《お家探すのね》
「うん、そうしたい。それで君達のマーマも止めたい」
《殺す?》
「かも、イヤだよね」
《マーマにはココに来て欲しく無い》
「マーマは死んだら違う場所だよ」
《やっぱり、マーマ悪い人なのね》
「かも」
《鴨美味しい》
「ね、鳩は?」
《美味しいけど骨多いの、鴎は海の味》
「カラス」
《捕まってくれないの、頭良いのよねきっと》
「そうだね、頭良い」
《サンニァーが1番頭良いのよ、1番良い子なの、次にチャンイーで、アーニァ頭良くないの》
「慰めるも励ますも覚えたんだから頭良いよ」
《そう?マーマは間違い?》
「マーマも失敗や間違い有るんじゃないかな」
《有る、言ってた。もっと早く、いっぱい、卵子?保存すれば良かったって、失敗って言ってた。アーニァの事、間違えたって》
「間違えが間違いかもね」
《むずかしい、アーニァ動く方が好き、歌も好き。歌って踊るの好きよ》
とても綺麗な歌声、透明な硝子、青空みたいな歌声。
踊りも上手、コチラを抱っこしながらなのに、優雅で綺麗。
『アーニァ』
《チャンイー!チャンイーもなのね》
『大丈夫、もう何処も痛く無いし、苦しくも無いから』
《体有るのね》
『ううん、もう無いと思う。ココって何でも思い出せるのね、私も聞こえたの、処分したって』
《だからハナ、止めたいのね》
「出来たら」
『この体になって目覚めた時、多分車の中だったの、焦げ臭くて、排気ガスの臭いだったと思う、揺れてたわ』
《アーニァも、揺れて痛くて、目が覚めてばっかりだったの》
『それから、歩く練習をして、出たの』
《練習無かったー》
「向こうでも、話して欲しいのだけれど」
『お洋服、お布団でも良いから体に掛けてくれない?私、恥ずかしくて』
《えー、楽なのに》
『私は恥ずかしいの』
「うん、何色が良い?」
『アーニァと同じピンクをお願い』
《一緒ね》
『えぇ、一緒よ、ずっと』
強烈な吐き気で目覚めた、スクナさんが差し出した桶が無かったら温泉を汚していた。
「ごめん」
『大丈夫、上がろう』
チャンイーは相変わらず眠っているので、ゆっくりと位置を変え、縁に置いた。
全身をソラちゃんに乾かして貰い、急いで服を着る。
そして桶を抱えながら、トイレに引き籠もる。
腹痛と嘔吐、腕も関節も痛い、地獄だ。
寒い。
貧血か、造血、増血、増えろ。
抗体、免疫よ早く。
干からびる前に早く、痛い、全部痛い。
細胞、早く食べて、免疫付けて、早く、早く。
1個、2個、4個、8個、倍になってやっつけて。
16、32、64、128、倍々になって食べて、早く。
痛い、この下腹部痛が1番嫌い、頭痛も嫌い、痛いの嫌い、痛い。
嫌いだ。
『ハナ、痛み切って良いんだよ』
「早く言って」
一気に楽になる。
腹部の違和感と吐き気はそのままだが、凄い楽。
また少し、ホウっとして来た。
でも吐き気。
でも楽。
コレが、ランナーズハイか。
下痢と嘔吐を繰り返し、ある瞬間からふと軽くなった。
違和感も、嘔吐も消えた。
裏返ったか。
恐る恐る痛覚を切る。
腕や関節の痛みは有るが、腹部の痛みは無し。
桶の中身をトイレに流し、濯いでから外へ出る。
『うん、大丈夫そうだね』
「おう、歯磨きする」
桶に清浄魔法を掛け、更に川の水で洗い流す。
うがいはトイレへ、念入りに磨き、吐き出す。
『よし、また少し入ろうか』
何度も掛け湯をして貰い、チャンイーの隣に入る。
ニコニコして、気持ち良さそう。
《あ、アナタ、大丈夫?』
「大丈夫」
『2人とも上がろうね』
ソラちゃんに乾かして貰い、寝間着に着替える。
まだ関節も肩も痛い、このまま療養だ。
「一緒に寝ようね」
《うん』
『おやすみ』
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人面犬の 『チャンイー』
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