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5月30日(土)

 曇り。

 計測、高値。


 あの後、スクナさんを説得し家に帰って眠った。

 今日は一緒に通勤しろと月読さんからメールが来たのと、残りの洗濯物もあるので徒歩でせいちゃんの家に向かい、朝食も頂く。


『おはようございます』

「おはようです」


 ついでに風呂を借り、抑制魔法を掛ける。


 後の問題は、どの服を着るべきか、半袖にジーンズはダメか。

 服を選んで居ると、せいちゃんに横からちょっかいをかけられた、マジで慣れて来てんな。


『どれも似合うから大丈夫ですって』

「マジで視力矯正した方が良い」


『喧嘩は買いませんよ』

「じゃあ真剣に決めてくれ、真面目に、頼む」


『コレとコレで』

「合コンか」


『そんなに派手じゃ無いと思うんですけど』

「ぅう、もう良い、月読さんに選んで貰ぅ」


『良いですけど、署内で補導され無いで下さいね』


 成人済みTシャツでも買って着てやろうか。


 せいちゃんは眼鏡を掛け、かたや自分はいつも通りの服装で悶々としたまま車に乗り込み、送迎して頂く。


 目の前の公園で補導も洒落にならんし、本当に化粧しか無いのか。


 何事も無く警視庁に付き、先ずは月読さんの部屋へ向かう。


「おはようございます」

『あら?買った服はどうしたのかしら?』


「持ってます、選べなかったです」

『あらあら、選んであげる。それとね、浮島が正式に認可されたから何時でも使って頂戴ね、あ、鈴藤にも伝えておいてねせいちゃん』

『はい』


「はい」

『それから、伝書紙、眼鏡の生産も決まったわ』


「あ、真珠の加工」

『それね、金山彦達もウッカリしてて、今日また蓬と行って頂戴ね』


「うへぃ」

『頑張って下さいね』

『あら、せいちゃんもよ?』


「ざまぁ」

『あ、はい』

『以降は向こうにご挨拶に行ってらっしゃいね、8課に、蓬も連れて』


『はい』

「はぁ」


『はい出来た、こうして着回しなさい』

「うへぇ」


『お化粧もね』


 ソラちゃん出来ない?


【可能です】


 助かる。


「頑張りますぅ」


『はい、じゃあせいちゃんはスクナ彦と一緒に倉庫で蓬と合流、車で待機。楠はココでお着替えよ』

『はい』

『はーい』

「ふぇぃ」


 服を着替え、適当にファンデーションを塗り、他はソラちゃんがやってくれた。


 一応の合格点を貰い、駐車場へ向かう。


 制服を期待してたのだが、良く考えたら時間掛かるよな。


 駐車場で待っていると、和やかな感じでせいちゃんとよもぎちゃんがやって来た。

 何処でバラそうか。


『お待たせしました』

《おはよう》

「おはようございます」

『いこぅー』


 そのままスクナさんを抱え助手席に乗り込み、せいちゃんの後ろはよもぎちゃん。

 怪獣大決戦の話しと、霊元の事で盛り上がっているらしい、このままそのままで居て欲しい。


 1時間もしないで神社に着き、真珠を渡す。

 取り敢えずは7つ、転移者4、従者3の想定。


 長椅子で少し待って居ると奥さんが先に何個か持って来てくれた。

 倉庫に置いておく分は、まだ掛かるので先にお寺へとの事。


 真珠のピアス3、残りは指輪2とブレスレット2個となる予定だそう。

 ネックレスが無いのは真珠には汗が良くないからだそう。

 そして自分のもピアス、そろそろ耳がパンパン、ファンキーだ。


 次はお寺さん。

 よもぎちゃんを神社に残し、せいちゃんとスクナさんと転移。





 お寺では縁側でお茶をしながらスクナさんと遊ぶ、おはじきの遊び方を始めて知った。


 お手玉は出来る、これはお祖母ちゃんに教わった。


「もっとアクロバティックにしたいな」

『ふふ、3つのは?』


「交差は無理、練習しないと」

『ココを近付けて……』


 散々遊んでお菓子を食べていると、せいちゃんとお坊さんのお話しが終わったらしい。


 コレから檀家さんが来るんだそう。

 そうして神社へ引き返し、古道具屋を回る。

 だが店には行くなと月読さんに言われたので、近くの電気屋でスマホを購入。




 ルンルンで車へ戻る途中。


【タチバサミを持った女性が着いて来ています】


 致命傷以外受ける。


【了解】


 一旦立ち止まり、せいちゃんに店に留まる様にメール、返事が来たので駐車場へ向かう。


 何に引かれて来たのか、服か?


 何処から付けてたんだ?


【電気屋です】


 そうか、目的が分からんな。


 もう駐車場に着いてしまうが。

 防犯カメラのある場所で何かをするのか、少し切羽詰まってるだけなのか。


 駐車場で立ち止まり、再び携帯に視線を落とす。


 今度は止まらず距離を詰めて来た。


 そして真後ろで立ち止まる。


 痛感遮断をした直後、頭を引っ張られ、ザクザクと音がした。

 一つ結びにしていた髪が切られたらしい。


 こういうの、男がするもんだと思ってたが。


 後ろを振り向くと髪とハサミを持つ女性の姿。

 帽子で顔が見えない。


 何を言おうか、言うまいか。


 逃げようと顔を上げた帽子の下から酷い円形脱毛が見えた。

 顔色は悪く痩せてはいるが、目はギラギラしている。


「あの」

『また生えてくるでしょ!』


 頂戴と言われたら黙って上げたのに。

 イラッとして、体が動いた。

 斜め前へ1歩踏み込み右手で帽子を跳ね上げ、そのまま思い切り下へと手刀を振り下ろす。


 その間に蛇紐ちゃんが出動、お縄となった。

 先ずは、せいちゃんにお電話。


「せいちゃん、もう良いよ、増援願います」


 1分もしないウチに角の古道具屋から出て来た。

 ワシ被害者だし、女性は叫んで煩いし離れておこう。


『髪が』

「切られた、傷害?暴行?」


『いやそれより、怪我は無いんですか?』

「ない、応援呼んでくれた?」


『今呼びます、救急車は』

「ワシはいらん」


 数分して、近隣所轄からパトカーが来た。


 女性の所持品は一切無し、身分証や名前の分かる所持品も一切無いらしい。


 鍵を使って判明するか怪しい感じか、錯乱と言うか、大暴れだし。


『本当に大丈夫なんですか?』

「問題無いです、ご心配無く。それよりお昼、なに食べましょうか」


『そんな悠長な、襲われたんですよ』

「髪がね、無傷です」


 証拠品袋に入ったハサミがやって来た、黒い靄無し。

 よもぎちゃんも声は聞こえないとの事、だが彼女は切れと言われたと言っているらしい、他の物が影響して居るんだろうか。


 だが彼女を眼鏡で見ても何も見えない。


『髪の毛、どうしますか?』

「返して欲しいな、材料になるし」


『付き添いますよ』

「まだ仕事が残ってるでしょうから、お仕事お先にどうぞ。聴取されに行ってきます」


 スクナさんを剥がして、せいちゃんに渡しパトカーに乗り込む。


 所轄で後ろ姿と髪を写真撮影、そして一応コチラも仕事中なのと、防犯カメラの映像も有るので、調書は軽いもので終わった。


 そして彼女は入院らしい、手錠と蛇紐を交換しといて助かった。


 そうして月読さんにお電話。


【大丈夫なの?】

「ピンピンしとります、次はどうすればいいでしょうか」


【蓬に連絡して、せいちゃんと合流して貰える?】

「了解でおます」


 よもぎちゃんにメールすると、せいちゃんと今はお茶の水の古道具屋との事。

 歩いて直ぐなので、少し電柱でズルをしながら向かう。


『おかえり』

『早かったですね』

「電柱したわ、よもぎちゃんは?」


『まだ中です。私は、月読様からお寺を案内する様にと』

「おう」


 直ぐ近くのお寺さん。

 ただお参りするだけで良いらしく、一通り周ると手水とは別の井戸水が祀られていた。


 御利益は美髪。

 カツラだし、お参りだけして過ぎようとすると、折角だからとせいちゃんに髪に水を付けられた。


 そうして何事も無く境内を出ると、振り向いたせいちゃんが固まっている。


『わぁ、前より伸びたね、良かったね』

「あぁ、うん、はい」

『いつの間に』


「さぁ」

『嬉しく無いの?』


「嬉しい、配慮は嬉しい、けど洗うの大変だなと」

『洗ってあげる』


「そう?助かります」


『楠さん、もう少し』

「らしくねー、気を付けまーす」

『ふふ、良かったぁ』


 古道具屋近くのお土産屋さんまで行くと、よもぎちゃんが出て来た。

 良い笑顔。


「戻るどころか伸びました、ご心配おかけしました」

《いえいえ、良かったですね》


「あぁ、はい。お昼行きましょうか」


 そうして近くの喫茶店へ。

 せいちゃんと同じくピザトースト、よもぎちゃんはミックスサンド。


『髪留め、買いに行こうね』

「黒ゴムじゃダメか」

『そう隙を作ったら、また狙われるのでは?』

《金山彦様に何かお願いしておきましょうか?》


「大丈夫で。あ、コレで良いですか」

『綺麗、付けたら良いのに』


「忘れてました、後で付けます」

《少し良いですか?》


「ダメです、聴風軒さんは道具が話しちゃうのでダメです」

《変な事は聞きませんよ、それに、大事な事は教えて貰えませんから》


「本当に?」

《世間話をするだけですよ》


 お会計を終え、車に戻る。

 車中では先程出したピンク色の髪留めに、何やら話し掛けてニコニコするよもぎちゃん。

 ずっとこんなんはしんどいな、マジでいつバラそうか。




 そうして警察庁へ。

 車を降りるとよもぎちゃんが髪留めを付けてくれた、流石、付けるのも上手。


「ありがとうございます、流石、色々と慣れてらっしゃいますね」

《あぁ、鈴藤さんから何か聞いたのかな》


「あ、嫌味じゃ無いんです、すみません。こう言う品は慣れてなくて、助かります」

《後で付け方を教えようか?》


「はい、お願いします」

『ふふ、取られちゃうよ?せいちゃん』

『そうですね』


 変な感じで8課へ、巫女さんはどうしようか。

 いや、それよりイタコ婆ちゃんに先手を打つべきか、それともココは頑張るか。


 相手の出方次第か。


《聴風軒蓬です、向こうで倉庫番をしています》

「楠花子、灯台です。どうぞ宜しくお願いします」


 新しい牧師さんは真面目そう。

 イタリア系神父は普通にニコニコ手を振ってくれてる、流石イタリア系。


 そしてスーツ組にも変化が、昨日のカラス天狗2号さんが暴力男の席に。


 暴力さん、また問題起こしたか。


「ほぉー、役儀さんと同じやねぇ」

「また、もう、すみません楠さん」

「あぁ、大丈夫です、鈴藤から聞いてますんで」


「本当に、ピッタリのお役目じゃいな」

「ダメですよ、もう」


「俺も今日から配属なんです、宜しくどうぞ」

「あ、はい、どうも」


 ふとせいちゃんを見ると、少し機嫌が良さそう。

 さてはこの状況を楽しんでおられるか、意外と良い性格をしてらしゃる。


 カラス天狗さん以外のスーツ組からは挨拶無し、コレは前と同じ。


「あの、鈴藤さんから聞いてらっしゃるなら、前の方はその、お辞めになられたんですよ」

「セクハラじゃ、この娘にな、ふぉっふぉ」

「大変でしたね、ちゃんと罰は有ったんですかね」


「じゃのう、警察や警備関係では、もう働けないじゃろなぁ」

「そうなると、何処に行くんですかね」


「清掃じゃろうな、それか探偵会社じゃろ」

「スーちゃんですか」


「あぁ、そこも鈴藤かいな」

「はい、世間知らずなので、色々と教えて頂きました」

「あの、お元気でらっしゃいます?近頃お会いする事も無いので」


「元気にしてるかと。あ、お土産お預かりしてますよ、皆さんでどうぞ」

「わぁ、ありがとうございます」

「某国のか、成程ねぇ」


 ストールだお菓子だと、スーツ組へもバラ撒く。

 この姿だと男性陣の敵対心は無さそう、前のは縄張り争いか、馬鹿らしい。


 そして盛り上がってる間に、トイレに逃げ込む。

 落ち着く、このままココで時間を過ごそうか。


 いや、逃げ込むなら用具入れか。

 用具入れだな。


 かと言ってスマホ、スマホ買ったんだった。

 事件で忘れてた、このままセッティングしてしまおう。


 メールアドレス、パスワードと。

 業務中だから不味いのか?

 鈴藤と違ってマジで一般人扱いなんだし、でも世間知らずと言う事で、情報収集の一環でと。


 昨日流れていた新曲を調べる、やはり年代がズレてるから曲も微妙にズレてるが、好きな曲は存在してくれている。

 やはり多次元者なのか、転生者は把握してるんだろうか、それとも取りこぼしか。


 いや、流石に無いだろう、0的には結構昔からの人なんだし。


「ねぇ、さっきの子」

《ね、気合い入ってるよね》


 お、楠の事かしら。


「ね、聴風軒さんと一緒に来て、お菓子配っちゃって」

《でも、新しい子も良くない?》


「それを言うなら、観上さんも」

《ねー、何か眼鏡似合ってるよね》


「ね、あんなイケメンだったっけって感じよね」

《ねー、でも、それこそ、あの楠って子と噂が有るとかって》


「嘘でしょ、マジなんなのよ」

《噂よ、公園で聞いただけだから》


「あぁ、でもマジでどれかに行くなら、もう止めなとなぁ」

《ね、私も今日から止める、気合い入れないと》


 出て行こうとしていたので、用具入れの上から覗き見る。

 スーツ組の中の女性陣だったらしい、声を初めて聞いた。


 つか、公園って百合車か、巻き込むなと言ったのに。

 このままダキニ天さんの所に行くか?


 いや、先ずはアマテラスさんか。


 8課に戻ると、場は大分和やか。

 よもぎちゃんと巫女さんとイタコさんが仲良く話してるし。


「観上さん、用事が出来たのでアマテラス様の所に行って来ます」

『はい、いってらっしゃいませ』


 すっかり楠の事は広まっているらしく、エレベーターへ向かう時も誰も止めなかった。


 そうしてアマテラスさんへ。


「お邪魔します」

《まぁまぁ、いらっしゃい、さ、コッチへ来て見せて》


「回りますか」

《ふふ、お願い》


「で、お狐さんが楠の事をバラ撒いてるみたいなんですが」

《ふふふ、似合うわね、ありがとう。さ、その話しは座ってから》


「へい」

《ダキニ天ともお話して、寧ろ、広めさせてるのよ、せいちゃんにはアナタが居るって》


「なーぜー」

《灯台でしょ?》


「らしいですね」

《そう、狐ちゃんは知らないでしてる事だから、怒らないで上げて頂戴ね》


「寧ろ、後で知ったら怒りそうですけど」

《そこはダキニ天が上手にやるから、大丈夫よ》


「連携、取れてるんですね」

《裏の繋役は天狗なの、神仏混交の権化とも言えるわね。神道仏教、それが完全に融合した存在が天狗なの。人の知らない裏道は、繋がり続けているのよ》


「素晴らしい」

《ふふ、喜んでくれるのね。じゃあ、もう少しバラしちゃうわね、カラスの色は?》


「黒」

《ココに居るのは?》


「黒の子で黒子?」

《そう、カラス天狗の見習いさん》


「はぁ、天才か。土蜘蛛系かと思ったのに」

《それはスーちゃんの方だから、ふふふ》


「まだ秘密が有りそう、ワクワクしますな」

《ふふふ、黙っててごめんなさいね》


「いえ、自分には害が無いですし。大事な秘密は大事な事なので、問題有りません」

《ありがとう。それで、灯台役は大丈夫そうかしら?》


「まぁ、誘蛾灯らしく早速、忌避感情を感じたんですけど、どう対処すれば?」


《もうなの、詳しく良いかしら?》

「女子トイレで自分の悪口と、公園で楠の噂を聞いたってのと、眼鏡せいちゃん好評と、聞きました。スーツ組の女性陣」


《思う様に動いて大丈夫よ。それにしても成績は良い子達で、素行も問題無かったのだけれど。流石ね、灯台ちゃん》

「コレはちょっと、ただ掻き回してるだけなのでは?」


《滞留、停滞がスクナ彦の神器返還を遅らせたの。だから少し風通しを、流れを良くしなくてはね。アナタのお仕事は、波風を立てる事、大掛かりな舞台装置であり、それを動かす者》


「善き人に被害が行かない様に、お願いします」

《大丈夫、任せて頂戴》


「じゃあ、本当に好きに動きますからね」

《覚悟してるわ》


「はい、行ってきます」

《行ってらっしゃい》


 櫂であり、洗濯機であり、灯台で、誘蛾灯。

 コレが本当にココでの役割なら、こなせば帰れる。

 頑張らなくては。




 下へ戻り、先ずはイタリア系神父とお話し。


「鈴藤からの伝言なのですが、宜しいでしょうか」

『日本語は少し不得手だけれど、頑張らせて貰うよ』


 せいちゃんを見ると、隣の部屋を指差した。

 その部屋へと向かい、お茶を出す。


「では。“ラテン語で、バチカンから鈴藤の事は何か”」

『”驚いた、君もか”』


「詳しくは言えませんが、まぁ、そう言う事です」

『そうか、バチカンから鈴藤の事を聞かれたよ、まぁ、君も知る通り少し挨拶をして終わっただけだから、その事と魔力が多い事、色に黒が混ざってる事は伝えた。あ、コレは職務規程内の事だからね、君の上も承知してるハズだ』


「それで、何を知ってらっしゃいますか」

『何も、知らされてないからこそ監視役としても派遣されてるんだ』


「何か、どうにか出来ませんかね?」

『そんなに兄弟が心配かい?』


「そこはスルーします。心配というよりは、無駄な時間を過ごすのが惜しいだけです、時間は有限。どうしたら、向こうの立場を伺えますかね」

『無理だろうね、弱みを見せないのがスタンスだから。ただ、憶測は出来る、オフレコでなら』


 見守り君を発動。

 結界も見えているらしい、結構見える人だ。


「お願いします」

『最初から悪しき目的では行って無い筈なんだ、布教活動か仲裁か、勉強に向かったんだと思う。そこで自分の手に余るか、かえって余計な手出しになると悟ったか、何かに惹かれたか。そうして道を転がり落ちたか、誰かの手に落ちたか、何かに気付いたか』


「手助けは無いんですか」

『責任はその者にあるからね、国を出たら個人の責任になるんだ。自由への対価、問題が有っても良い様に、どんな会議や評決にも、常に反対者が居る位に自己防衛に長けている』


「天使さんは居られますか、会わせないと言われたと」

『居るよ、各地に。だから問題は全て、その天使と司祭の責任になる、消耗品、使い捨て。天使はまた新たに再生するからね』


「助けたら、ご迷惑になりますか」

『助けた所で、司祭にはもう居場所は無いんだよ。破門され、宗派や派閥を変え、小さくなって生きるしか無くなる』


「ココへ亡命は」

『はっきり言って、役に立つ所か迷惑になるだけの者に成り下がっていると思うよ。高慢で尊大で、そうなるのが多いんだ』


「良い子なら」

『言語に馴染めず、世間や基本、基礎を知らない子供同然の大人を、君が面倒見るのかい?僕はね、この国が好きだから忠告するんだ、そんな事をしていたら難民で溢れかえって、国が崩壊してしまうよ』


「バチカンにも転生者が?」

『いいや、だけれど話しは聞いているよ、僕は外用の人間だから。ローマの話しは自然と入って来るんだ』


「でも、どうにか出来ませんかね」

『そもそも、この話しはあくまでも憶測なんだ。意外と逆に取り込んでる可能性もあるし、横槍を入れられたくないから、黙ってる可能性もあるんだし』


「んー、良い子が困ってるなら、助けたいんですよ鈴藤は」

『難しいね。そもそも君もだが、黒い色のある子は信用されないんだよ、余程の事が無いとね』


「そんな、黒いですか?」

『少しでも混ざっていたらね。その点、ココは黒をあくまでも色の1つだと考えて、決して排斥しない。何なら重用する位だから好きだよ、あの新人君みたいにね』


「見えないので、なんとも」

『そうなのかい?君は本当に、眩しい子だよ』


「はぁ、灯台で誘蛾灯だそうです」

『灯台は、自身が見えないか。今度何処か遊びに行こうか、ご飯でもどう?』


「イタリア系の方はお優しい、ありがとうございます。遠慮させて頂きます」

『遠慮なんて良いのに、君の輝きを自覚させてあげるよ』


「自覚はしております。あ、セクハラで処分は本当なんですか?」

『連絡先をね、交換は原則禁止だから。彼女も4回は我慢したらしいんだけど、5回目はね、少し強引だったみたいだ』


「司祭様は、自分とどう食事に行くつもりで?」

『定時だからね、そこで偶然一緒にと』


「自分、多分、定時無いですよ」

『あぁ、そうなのか、残念』


「ご配慮頂きありがとう御座いました」

『あ、じゃあ美味しいお店を教えてあげよう、そこで偶然会う分には問題無いからね』


「おぉ抜け道、なるほど」


 テクノロジーが発展しても、紙媒体はこうして消えないのだろう。

 なんせ証拠はコレ限りだし、便利な道具である。


 お店の名前と電話番号、そしてお名前をメモで教えて頂いた。

 陽気なおっさんは何処でも強い。

 優しいし、抜け道教授はありがたい。


 見守り君をしまい、部屋を出る。

 カフェインか緊張か、またしてもトイレへ。


 あぁ、一服したい。


 戻ると次は髪イジリへと呼ばれた、よもぎちゃんや巫女さんに髪を暫く弄られ、オヤツの時間になった。

 巫女さんもイタコさんも、お坊さん達もさっきのお菓子でお茶。


 それからは巫女さんはお勉強、イタコさんはテレビと漸く解放された。

 神父と牧師は聖書と業務用タブレットと睨めっこ、お坊ズは紙の本。

 スマホで調べると、仏教書と言うのがあるらしいので、多分ソレ。


 よもぎちゃんもタブレット、スーツ組はパソコン。

 どうしましょうか。


 せいちゃんにメール。


 [暇です、内部を見て回るか外に行きたいです、かしこ。]


『楠さん、内部の案内もうされましたか?』

「あ、なら俺も良いですか、まだなので」

「まだです、お願いします」


 天狗2号さんと3人で部屋を出る、行きたい場所は前駆部隊、銃火器が気になるのですよ。


『すみません、気が付かなくて』

「全くですね、銃火器が見たいのです」

「ソッチか、一服にでも行きたいのかと」


「行きたいですか?」

「頼む、銃火器は後でウチの方の見せますよ」


「助かる」

「外回り行って来ますね、じゃ」

『あ、はい』




 そうして特別室から浮島の中央分離帯へ空間移動。

 コレが続くのかと思うと、あの場所が地獄に思える。


「本当に助かりました、ありがとうございます」

「君、やっぱり鈴藤さんだよね。そんな珍しいコート、早々無いし」


「そうなんですかね、複製品とか、模造品とか」

「そうですかね?」


「そうかと」

「それに、双子にしたって珍しい、一卵性の男女の双子なんて」


「似てます?」

「遺伝子が、医療データ。河瀬がビックリして通知して来ましたよ」


「殺すか」

「止めて下さい、俺とアマテラス様だけなんで」


「折角、見直し掛けたのに」

「あの少年と今同居中、自分の親を説得して、里親にならせました」


「そんな事を、暇なんですかね?」

「勉強には余裕が有るらしいから、まぁ、良いとは思いますよ」


「そうですか、でもまだ見直しませんよ」

「その繋がりで、病院が再検査に来いって言ってるらしいんですけど、ポスト見ました?」


「いや、行かないとどうなりますかね」

「保健師が家に来る。ただ、もう大丈夫ならそこまで介入は無いそうです」


「あぁ、行きます。今行っても?」

「なら俺は帰って事情を話してきますよ」


「助かります、行ってきます」


 またもすっかり忘れてたが、ポストか。

 取り敢えず病院に直接行って、再検査して貰おう。


 電柱の合間から病院へ。

 土曜の午後だが、少し混む前なのだろうか。


 受付で、職場で再検査の事を耳にしたと伝え、診察券を渡す。

 そのまま一気に検査室へと行く事になった。


 また血液を3本、尿検査、最低でも30分は掛かるそうなので売店チェック。


 何か珍しいモノは無いかと見て周り、売られている雑誌に目を通し、食べ物を見て、待合室へ。


 スマホは弄って良いそうなので、また温泉チェック。


 そうこうしていると、診察室へと呼ばれた。


 急に数値が正常値になった事を驚かれたので、職場が警察、警視庁であると伝えると何となく納得して貰えた。

 良いんかい。


《何が有ったか分かりませんが、余り無茶をしない様にして下さいね。今は良くても、酷使すれば負荷が掛かって、劣化や病気が早く起こるかも知れませんから》


「月経が有って収まったんですが、気を付けたいんですが、特殊な事情でして。あの時は、どんな状況になってたと思われますか?憶測でも良いので伺えませんか」


《憶測ね、じゃあ僕の見解的には。タガが外れた様に見える、今は君にとっての正常になってはいるが、この前はホルモンの制御が効いてない感じ。原因無しにあの数値になるのは考え難い、今の数値的に見ても薬物か何か、外因性だと思うよ》


「あぁ、詳しく調べる方法は、定期的な血液検査ですか?」

《そうだけど、働いてるなら毎日病院は無理だろうから、排卵日予測検査薬かな、尿を掛けるヤツね、この前の数値になる前に、反応が出ると思う》


「あぁ、はい」

《でもそれで原因が分かって解決するかは別だよ》


「原因は思い当たる節が有って、今回は始めて一線を越えた感じなので、制御出来たらとは思います」

《そこなんだけど、君は今が正常な状態だと言っているけれど、排卵も何もが止まって、いわば初潮前の状態で止まっているんだ。その一線を越えたら、排卵、生殖機能が回復する可能性もあると思うんだが》


「それで有ってると思います、ただ事情が有るので、色々と検討してみます」

《そう、じゃあ検査薬出しておくね》


「いや、自分で、自費で買います」

《そう?なら特定の薬局で買うと良いよ、一定額を超えると医療控除が出るから》


「はい、ありがとうございます」


 まさか自分が使う事も無いだろう試験薬を使う日が来るとは、ただコレでギリギリが見極められるかも知れない。

 ココでいつまで過ごすか分からないのだし、エンキさんやクヌムさん居るか、どうにかしてくれるかも不明だし、取り敢えず買っとこう。


 近所は恥ずかしいので、病院前の薬局で購入。

 先ずは全種類、それと次に失敗した時用のも買い揃え、電柱から特別室へと戻った。




 廊下に出ると、カラス天狗さんが待っていた。


「おう、大丈夫でしたか」

「はい、少し気を付けろとの事で、大丈夫でした」


「それでも無理しないで下さいよ、何でも酷くなる前に言った方が良いんですし、その方が絶対に楽なんで」

「ありがとうございます」


 仕事の絡みとは言え、お優しい。

 8課に戻ると、今度はせいちゃんに部屋へと連れて行かれた、なんだ。


『具合は大丈夫なんですか?』

「ココで聞く事かね、まぁ、大丈夫ですけど」


『個人的な事ですから。それにしてもビックリしましたよ、急に病院へ行ったって言われて、何処が具合が悪かったんですか?』

「予備検査みたいなので、特には無い、元気です」


『本当ですか?』

「スクナさんが何も言ってないでしょ、なら元気なんです」


『余り食事を取らないのは?』

「高値だから、普通には食ってるべ」


『なら良いんですけれど』

「それより、スーツの女性陣が褒めてましたよ、眼鏡」


『え、あ、それをどこで』

「余りココに長居するとアレなんで、じゃ」


『あ、後で話し合いましょうね』


 部屋を出ると女性陣と目が合った、そのまま前に進み出て、スマホを弄りながら中座を謝罪する。


「少し抜けてまして申し訳無いです」

「あ、良いんですよ」

《はい、別に私達に》


 [眼鏡が似合うと褒めてたと伝えておきましたよ]


 2人に画面を見せると大きく目を見開いた。

 すまない女子よ、コレは八つ当たりに近いんだが。

 スッキリした。


 よもぎちゃんが居ないので巫女さんの横に座り、お勉強を覗く。


 英語、読むも書くも普通以下だからなぁ。


「コレ、入試用なんです」

「大学ですか、凄い」


「ふふ、ただの詰め込みですから、鈴藤さんみたいに話せるのが1番ですよ」

「両方大切かと、学歴も無いよりは有った方が良いですよ、きっと。お邪魔しました、飴ちゃんどうぞ」


 残り数時間。

 もう面倒なので仮眠室へ行くと、よもぎちゃんが眠っていた、良い逃げ場、自分も眠ろう。






『楠さん、定時ですよ』

「あぁ、おはよう。顔洗ってくる」


『お化粧してるの忘れないで下さいね』


 トイレに行き、口元だけ洗いファンデーションとリップを塗り直し、廊下へ出た。


「コレで良いか」

『大丈夫そうですね、じゃあ帰りましょうか』


「帰りも一緒?殺されちゃう」

『なんでそうなるんですか、月読様からの命令ですよ、さ、行きましょう』


 少し先では、よもぎちゃんが待って居た、どうやらよもぎちゃんを送って、家へ帰るルートらしい。


《少し早いですけど、3人で何か食べませんか?》

『良いですね』

「あ、神父さんから教えて貰ったのが有るよ」


 よもぎちゃんの家の方向、イタリアン。

 調べた限りはカジュアルとの事なので、そのまま車で向かった。


 カジュアルだが大人っぽい感じで、この服で良かったと初めて思えたかも知れん、有り難い。


《良いお店ですね》

「有り難い、改めてお礼を言っておきます」

『そうですね』


 よもぎちゃんはお酒が弱く飲めないんだそう、せいちゃんは運転があるし。

 なので自分だけが飲む、飲んだ上で即分解。


《飲めるのが羨ましい》

『珍しいですね、飲むなんて』

「お酒の評価も含めて感想を伝えねばと思いまして」


『不意に真面目が出ますよね』

「不真面目有りました?」


『いや、そう言われると確かに、無いですね』

「鈴藤の対みたいに思うからですよ、勘弁して下さい」

《鈴藤君も不真面目では無いと思うんだけれど》


『何て言うか、気安いと言うか、チャラく無いですか?』

《格好だけじゃないかな?》


『凄い誂ってくるんですよ?』

《僕には無いよ?》

「年の近い兄だと思って接してるんじゃ無いですかね」


『それでも誂うは弟扱いでは?』

《観上さん、ほわほわしてそうだから、そうなっちゃうのかもね?》

「はい、良く分かります、凄く」


『そんな、ほわほわしてます?』

《雰囲気と言うか、それこそ隙が有りそうな、無さそうな。最初は掴み所が無くて、とっつき難い感じがするよ?》

「完全同意」


『それが誂うになります?』

「リアクションを引き出すには、突っ込んで行った方が楽かと」

《そうだね、観上さん何考えてるか分からない時が有るから、それかもね》


「いつも何考えてます?因みに今日は何したら良いか分からんし、暇だ、どうしようと思ってました」

《ふふ、そうなんだ》

『すみません、少し配慮に欠けました』


「全くです、スマホ弄って良いかも分からないし」

『情報収集、あ、楠さんは特に問題無いですよ、何を調べていても構いません』


「そう?明日もあんな感じなら地獄なんだが」

『どうなんでしょう、あ、眼鏡を誰かが褒めてたって話は』


「スーツ組女性陣のをトイレで聞いた」

『そうなんですか?他には何か話したんですか?』


「いいや、トイレに籠もってたら色々聞こえただけ」

『色々って』

《大丈夫?》


「案の定なので、問題有りません。役目通りです」

《直属の上司でも良いけど、観上さんにも言った方が良いんじゃ無い?彼も一応上司なんだし》

『そうですよ、私に言ってくれても大丈夫ですからね』


「気合い入れてんなって言われて、どう対処出来ます?直接は言われてませんし」

『あぁ、そう言う事を言っちゃう人達だったんですね』

《ワザとかな?》


「いや、用具入れに隠れてたんで。褒めてた事は伝えましたと伝えたら驚いてたし」

《用具入れって》

『あ、それでワザワザ謝って画面を見せてたんですか』


「声の確認に、ドンピシャでした」

『慣れてますね』


「とんでも無い、初めてでドキドキしましたよ」

『その割りに鉄仮面ですよ?』


《観上君もだよ?》

『そうなんですか?結構…術のせいですかね?』


《だと思う》

「それとは別に、ガードが硬い、高い」


《確かに、無愛想ギリギリだよね》

「微笑んでる風の作り笑いが、凄いなと鈴藤が言ってました」

『でもそれって、楠さんもじゃありません?』


『女の人と、僕には笑うものね?』

「スクナさんは可愛いもの、勝手にニヤケちゃう」

『それこそ、鈴藤さんみたいですよね』


 ナイスパスせいちゃん。


《でも鈴藤君は僕らにも笑うし、慣れかな?》

「営業用は出来ますよ、不細工でも愛嬌は大切だと教わったので、ただ不用意な笑顔は媚びへつらいになるとも教わりました」

『じゃあ、営業用を1つ』


「20万円からになります」

『またリアルな金額を』

《下ろして来るから待っててね》


「勘弁して下さい、聴風軒さんは5000万円にしときます」


《じゃあ、借金して来ようかな》

『連帯保証人になりましょうか?』

「とめろ」


『何でです?』


「あ、酔ったフリして脱ぎますね」

『分かりました、もう止めときましょうか』

《脱ぎだしてからでも遅くないのに、個室なんだし》

『ふふふ、よもぎちゃんは何が良いの?』


《秘密です》

「職場はお断りするのでは」


《向こうからアプローチして来る職場の方限定で、お断りさせて頂いてるんです》

「隠れた但し書きが有ったか」

『いつの間にそんな事に』


「初日に受付さんからとだけ、鈴藤から聞いとります」

《そうそう、泣く人は苦手だから》


「スクナさん、涙腺を弄る方法を」

『教えなーい』

『勿体無いと思うのは、モテない人間の発想ですかね』

《かも。でも観上さんなら大丈夫、頑張って》


「がんばれ」


 ピザ、ピンチョス、生ハムにチーズと軽く食べ、よもぎちゃんを家に送った。




 アルコール分解の結果コンビニのトイレに寄り、新商品を買いまくり、再び車に乗り込んだ。


『呼気検査機使ってみます?』

「使う」


 0.03、検問もOK。


『凄いですよね、本当に』

「なー、直ぐ分解してたから勿体無いっちゃ勿体無いよな」

『ね、勿体無い』


『酔うのが怖いですか?』

「まぁね」


『本当に具合は大丈夫なんですか?』

「大丈夫、元気」

『ね、元気』


『何だか、大食いじゃないと不安で』

「女子は少食なんじゃね」

『ふふ、らしいなのかな』


『そこは気にしないで下さいよ、健康第一なんですから』

「大丈夫」


 今日は家に送って貰い、そのまま解散。

 帰りの道中、少し大國さんの事が気になったので、家から特別室に向かう。




 そうして廊下で携帯を取り出すと、タイミング良く大國さんが出て来た。


「どうした」

「過労死して無いかと心配で来ました」


「大丈夫だ、それよりそっちが大変そうだが。また、事件に遭遇したんだろう」

「ね、困ったちゃんですな」


 携帯が鳴り、出てみると月読さん。


【病院へ行って頂戴、例の女性が心肺停止なの】

「はい、向かいます」


 特別室から警察病院近くの電柱へ。

 入り口には観上女史、その案内のままに進むと蘇生処置を施されている女性の姿。


「観上さん、何が有ったんでしょうか」

《それがね、全く大人しくなってくれなくて、医師が鎮静剤を打って暫くしてこの状態に。アレルギーも調べて打ったらしいのだけれど》


 目を瞑り、蘇生処置を施される彼女を診る。

 実に不可思議な色の液体が体内で鎮静剤と思われる薬品と結合し、黒く淀んでいた。


「あの、薬物検査は」

《したのだけれど、何も出なくて》


「通常の検査で出ない場合は、無いに成るんですか?」


《出ないだけで、有ると踏んでるけど》

「サンプル沢山取って下さい」


 蘇生開始から5分経過、血液サンプルを取り終え。

 体内を無毒化させる、そこから再び蘇生処置。


 魔素がギリギリ、魔石を握らせコチラからも魔力を更に流す。


 そうして何とか、息を吹き返した。


 脳へのダメージは無理矢理血流を促し回避出来たが、意識は覚醒するか分からない。


 看護師が取った血液サンプルは回収済み、中には入ってるのだが。


「楠」

「うん、入ってはいるけど、検査してもダメならどうかな」

《回復したって事は、少なくとも何かが体内には有った。それだけでもかなりの収穫よ》


「預かっててくれないか、それと、スクナ彦様にお見せして欲しい」

「はい」


《じゃあ、少し向こうに…》


 直ぐに意識が回復したが、また暴れている。

 だが、今回は鎮静剤で何とか無事に眠ってくれた。


 改めて彼女の体内を観察、特に何も無さそうだが。


 心配なので脳を再確認。


 問題無し。


 聞こえると言ってたし、ついでに耳も。


「あの、耳が少し、耳小骨が黒く見える気が」


 それからCT、MRIで検査へ。


 結果。

 最近置換されたらしい耳小骨の代わりになる物だそうで、緊急手術で取り出され、科捜班が持って帰る事になった。


《お手柄よ、楠さん》

「どうも」

「コレで落ち着くと良いんだが」


 本当に、コレのせいなら彼女は被害者。

 どうにも心配で、この場から離れ難い。


《また何か有ったら先ずアナタに連絡するわ、だからスクナ彦様へ、ね?》

「はい、ありがとうございます。失礼します」

「一応、送る」


 病院の外どころか、電柱から特別室、そこから更にせいちゃんの家まで付いて来た。

 楠に過保護。


『あ、大國だ』

『大國、どうしたの?』

「お邪魔します、お仕事を頼みたく」

「コレ、何か入ってる、見てみて」


『んー、舐めてみないと』

「え、それはどうなのよ」

「問題無い、お願い致します」


『菌、菌糸かな、単独だと無害だけど、混ざると害が出る、患者は?』

「心肺停止した、鎮静剤でこうなったっぽい。今は落ち着いてる」


『ハナは何か見えた?』

「そう言われると、ヒカリゴケみたいな色が見えた、黄緑と言うか緑と言うか」


『んー、混ざってる感じだよね。青酸系じゃ無いけど、天然の何かの組合せ、もう1滴』

「合食禁、食べ合わせの問題でしょうか」

「それを舐めるって、本当に大丈夫かね」


『大丈夫だよぉ、んー、まだ有る?』

「デカいの3本」


『じゃあ、1本頂戴』


 まるでテイスティング。


 だが半分程舐めても分らないらしい。


「もうそろそろ、ウガイして欲しいんだが?」

『んー、医者からも話しが聞きたいな』

「ご案内致します」


「ワシも」

「少し休んでてくれ、朝から動いてただろう」

『大丈夫、待っててハナ』

『そうですよ、一応被害者なんですし』


「へい」


 ベランダで一服。

 こんな事にコートを使って申し訳無いが、まぁ、許して欲しい。


 にしても心配だ。

 スクナさんも女性も、事故で変な食べ合わせをしちゃったのだとしても、心配。


 あれでも安定しなかったら、最悪は頭を見て、どうにかするしか。


『大丈夫ですか?』

「大丈夫、臭いが移るでよ」


『あ、はい』


 面倒見れないから、頭を弄る。

 独断でも、良かれと思って、やる。


 手を洗って、心を落ち着かせて、切り替える。


 やる。


「ふぅ、まだかな」

『もしかしたら録画映像を観てるのかも知れませんね』


「あぁ、有るんだね」

『一般の病室には無いですが、ああ言った場合には有りますよ、事故や事件は当然有りますから』


「変な事してるワシの姿が映ってるのか」

『接触したんですか?』


「死にかけてたし、手伝った」

『嫌な気持ちは、大丈夫なんですか?』


「別に。ただ、また伸びるから良いでしょ、って言われた時はイラッと来たけど、被害者かもだし」


『切られたり、嫌味言われたり、嫌じゃ無いんですか?』


「伸びるのは本当、気合い入ってる格好なのも本当、機嫌取ろうとしたのが媚びへつらいに見えたなら、それも事実で。嫌な気持ちは有るけど、本当の事でショックを受けるのも、何か、違うかと」


『一応ショックなんですね』

「少しはね、だけど不細工が不細工言われて、酷く落ち込むのはおかしくない?事実なんだから、相手にしてみたら、個性を言っただけでしょ」


『凄い鍛え方されてますよね』

「鍛える?鋼の心?」


『何と言うか、強制的に打たれ強くなってる感じがして』

「まさしく鋼は打って鍛えますな、なるほど、そう言う意味なのか」


『少し違うんですけど』

「違うの?」


『いや、意味は合ってると思いますが』


『ただいま、分かったよ』

「おぉ、凄い」

「蜂蜜と釈迦頭と言われる果物、それとヒトヨタケ。具体的な物質名は分からないが、それの化合物らしい」

『新しい化合物なら、引っ掛かりませんしね』


「あぁ、ただそれ用の検査薬、検査法をそっちの近藤忍と合同で開発する事になった。だから、それまで保存していて欲しい」

「被害者が持ってて良いのかね」


「公安案件になった、報道も規制中だ」

「国家の、なんで」


「ココは話しても」

「大丈夫、結界、見守り君を発動してる」


「そうか、で、例の物が呪具だと」

『小さくて弱いから最初は分からなかったけど、取り出したのを見たんだ、呪具だね、悪意ある呪いの道具を埋め込まれてた、中つ国のだよ』


「あぁ、それで」

『情勢は安定してると聞いてますが』

「最近、怪しい動きをしてるらしい」


「女性の身元はまだ?」

「あぁ、コレから潜る」


「付き添うよ、初めてだろうし」

「頼む」

『じゃあ、待ってるから、帰って来てね?』


「うい」


 再び玄関から病院へ。


 そしてICU特別室へ。

 厳重な監視と管理の元、大國さんが透明な鍵を出し、彼女へ差し込む。

 その鍵に触れ。






 シバッカルさんの宮殿には自分と大國さん。

 そして例の女性。


《あの、ココは》

「まぁまぁ、座って」

《紅茶かい?薔薇の砂糖漬けがあるよ》


《あぁ、はい、ありがとうございます》


 痩せてはいるが、髪も普通でギラギラもして無い。

 ただ吐きダコが気になる所だ。


「楠です、お名前は?」

《濱野結衣です》


「あ、知ってるかも、東京の方ですよね」

《あ、イメディアトレイ見てくれてる方ですか?嬉しい》


「こんばんは、失礼します」

「イメディアトレイの濱野結衣さんだよ」


「あぁ、SNSですね。楠から聞いてます」


《嬉しいな、イケメンさんと女の子にも知って貰えてるなんて》

「でも最近、どうなんです?」


《そうなのよ、耳鳴りが酷くて、何軒かお医者さん行ったのだけれど、手術しか無いって言われて》

「耳ですし、怖いですもんね」


《だから、知り合いの知り合いに良い人が居るって、タダで良いって言われて、眠って、起きたら、もっと酷くなって》

「合わなかったみたいですね、良くあるんですよ、ね?」


「あぁ、今はもう大丈夫だそうですが」

《あ、本当だ》

「緊急手術したみたいですね」


《私、酷い事しちゃった、女の子の髪を、切って、怒鳴っちゃった》

「みたいですね?でもどうして?」


《耳鳴りが酷くなって、だんだん声になって、話し掛けて来たの。怖くなって病院の先生に言ったけど、お薬が増えただけで、どんどん酷くなって》

「声は、何て言ってたんでしょうか」

「あ、お菓子もどうぞ、ウガリットのお菓子なんですよ」


《ありがとう!美味しい…うん、声はね、1番綺麗な髪を切れ、そうしたら楽にしてやるって。綺麗って何か分からないし、切るのも怖くて、電気屋だと静かになるから、そこでボーッとしてたら》

「長髪の女が居たと、あ、紅茶のおかわりどうぞ」


《ありがとう。そうなの、綺麗な髪って、この事なんだって思ったの、キラキラオーラみたいなのがね、凄く綺麗だったの。もしかしたら、助けてくれるかもって思って、それで付いてったんだけど》

「声が戻ってきた」


《そう、電気屋から離れたらまた五月蠅くなって、そしてその髪から聞こえて来る様な感じになって。切れ、切れ、切れって》

「動物は何が好きです?今なら何でも触れますよ、ほら」


《あぁ!でも豹って》

「凄く優しいんですよ、ね、ほら」


《わぁ、ふわふわ、さらさらでスベスベ、思った通り、素敵ね豹さん》

「切って声は収まりました?」


《髪に触れてる時は収まったのに、切り離されたらまた声が戻ってきて。そしたら振り向かれて、怖くなって怒鳴ったの、怒らせてしまって、それからもう終わりだって聞こえて、怖くて、自分の声でかき消そうとして》

「もう大丈夫、もう変な声は聞こえない、でしょ」


《本当、寝てても、夢の中でも聞こえて、ずっと怖かったの。眠れなくて、また食べれなくて》

「このイケメンさんが付いてるから大丈夫、次も良く思い出して、また話してあげて欲しい。彼は忘れっぽいから、助けてあげて。だからそれまで、ゆっくりしてて」


《ふふ、ありがとう》






「濱野結衣か」

「うん、イメディアトレイって何」


「観上さん」

《えぇ、見つけたわ、彼女で間違い無さそうね》


 現実の今の容姿とは全く違う彼女の画像、イメディアトレイは動画や画像を主に載せるSNSらしい。

 更新が途絶えて心配するコメントが多数、そして更新最終日時は5月19日。

 知り合いの知り合いが手術無しで治してくれるらしいので、行って来ます。との書き込みが最後。


「証言と一致してるな」

「ですね」

《大國君、顔認証と名前から身元引受人が居ないかお願いね》


「はい」

「自分は何をしましょうか」

《他に怪異が出ないとも限らないから、休んで下さい》


「はい」


 電柱から近くのコンビニへ、炭酸ジュースとお菓子を買って浮島へ。

 そこから、せいちゃんの家へと帰った。


『おかえりー』

『お帰りなさい』

「寝てて良かったのに」


『明日は日曜日ですし、私は公休なので』

「あぁ、今日土曜だったっけ。取り敢えずお風呂行って来る」

『洗ってあげるよ?』


「大丈夫、今日は頑張る」


 カツラを取ると、カツラと同じ長さになっていた。

 昔なら大喜びなのに、素直に喜べなくてごめんなさい、ありがとう。


 何とか重たい髪を洗い、ソラちゃんに乾かして貰ってから、洗面所を出た。


 そこからスマホを弄りながらお菓子と炭酸ジュース、ウマい、ジャンクうまし。


『霊元が全然無いんですね、お菓子って』

「有るのも有るが、加工が込み入ってる程に無い感じよな」


 明日はハンバーガーとか、ジャンクフードだな。

 せいちゃん、食べるイメージ無いな。


『珍しいですね、お菓子食べるなんて』

「好きだけど、容量いっぱいじゃないと食えない嗜好品で至高品。せいちゃん、ハンバーガーとか食べる人?」


『食べますよ普通に』

「明日食べようかと」


『朝メニューですか?』

「そもメニューを知らんで、ちょっと調べます」


 0ともそんなに変わらない、ただ、どこの味が合うのか分からないので、食べ比べはしたいが。


 計測、高値。

 中域が1番安心なのだが、食べ比べもしたいし、どうしよう。


『凄い悩んでますけど』

「食べたいけど溢れるとイカンから、食べるのは浮島かなって、せいちゃん用事有る?」


『ジムに行こうかと』

「あぁ、じゃあ今から別行動にしとこか、おやすみ」

『おやすみハナ』


 朝メニューは今度、タップリ寝て起きてから考えよう。


 何があるか分からんし。

『せいちゃん』『月読さん』『スクナさん』《よもぎちゃん》「イタコさん」「巫女さん」「天狗2号さん」《アマテラスさん》『イタリア系神父さん』「大國さん」《観上女史》《シバッカルさん》


「スーツ女子」

《スーツ女子2》

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