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5月26日(火)

 3時間程眠っていただろうか、ふと目を覚ますと若いのがまた火の番をしていた。

 だが既にテントもお婆さんの姿も無く、若者と馬と布にくるまった自分だけ。


 鈴藤へと戻り、急いで着替えていると火の始末を始めた。

 移動日だったのだろうか、申し訳無い。


「すみません、お世話になりました」


 言語は伝わっている筈なのだが、黙って頷くと馬に乗り行ってしまった。

 1人残されてしまったので、フィンランドへと移動した。


『おう、顔色が悪いぞ』

「多分、使い果たしました」


 フィンランドはまだ25日の18時過ぎ、日本では夜中の12時過ぎ。

 計測。


 低値。


 良く思い出してみれば低値を抜け出た様な感覚が有った気もするし、使った様な気も無くは無いが、良く分からない。

 超回復的な何かだろうか。


『危ないなおい』


「飯食ったらちょっとサウナもお借りします」

『おう、好きにしとけ』


 渋爺は国境沿いの警備へお出掛け、転移が使えるとはいえマメに顔を出して世話を焼いてくれる。

 軽く食事を取り、サウナで変身を解き、花子も計測。


 コチラも低値、修復にガッツリ使ったらしく、計測に立ち会ったスクナさんも同意見。


『ご飯いっぱい食べないとだよ』

「な、回復出来る所で食うべ」


 3精霊とスクナさんにせいちゃんを任せ、泉からユグドラシルへ向かう。




 日の出輝く時間帯、文句も言わずにバルドルさんが迎え入れてくれた。

 回復の泉が有るかと思ったのだが、ミーミルの泉と呼ばれる叡智の泉のみらしい。


《すまないね》

「いえ」


 立ち去ろうとすると、後方のミーミルの泉から声が聞こえた。

 性別不明の声に振り向くと、生首が浮かび声を発している。


『君の中から同じモノの存在を感じるんだが』


「彼女は、体を見付けたら生き返らせるつもりです」

『彼女なら叡智と繋がれる』


「それでも戻します、欲しくなったら改めて他を探します」


『そう』


 何か言う間もなくトプンと泉へ戻ってしまった。

 生首だけ、凄いホラーの筈なのに、美形だと平気なのは補正効果か。


「ありがとうございました」

《どうやら踏み入ったみたいだね、すまない》


「いや別に、名前も知らない子で。今は向こうに調査を任せてるので進捗は分かりませんが、首の事はいつかバレると思ってました、言わずに申し訳無いです」


《いや、良いんだよ。それにしても、争い事に巻き込まれた子なんだね》

「みたいです、だから他国に居ろとも言われてます」


《お役に立てず申し訳ない、ハンガリーの温泉かアヴァロンの泉なら良いと思うのだけれど》

「内密で国に帰れるんで、大丈夫です」


《そうだったね、ゆっくりしておいで》




 魔力容量が戻らないまま、月読さんへ報告と温泉の要請に向かった。


『んー、ハバスの滝近くで族長らしきのに会ったのね?』

「うい」


『そう、ご挨拶しておくわ。それでまた温泉に?』

「うい、晶君を連れてく。点滴出来るから」


『そうね、うん、行ってらっしゃい』


 もう真夜中なのだが、起きてた。

 フィンランド時間に少し合わせてくれたらしい、有り難い半分、申し訳無い半分。

 研修は遠隔のままだそうなので、付き添って貰う事になった。


 そろそろ晶君離れも検討せねば。




 1度フィンランドへ空間を開き、晶君、スクナさんと共に真夜中の神社へ。


 気温差も相まって、いよいよ目眩がして来た。


「あ、大國さん、おばんどす」

「あぁ、準備が出来たら少し良いだろうか」


「うい」


 花子へ戻り、行水用の白装束を着せられ点滴をセット。


 そうして納豆丼を食べながら、大國さんの話しを聞ける段階になったので、スクナさんと晶君には下がって貰う事になった。


「体が見つかったが、既に腐敗が始まり魂もかなり離れているらしい。火葬の手続きに入っているが」


「準備万端にしちゃってから言うかね」

「すまない、そう指示されていた。ウチの課のシャーマンが、蘇生は無理だと言っていたんだ」


「あー、んんー、でも行く、一応、このまま」


 幸いにも湯に浸かる前だったので、点滴を止めて貰い、コートを羽織り遺体が安置されている病院へと向かった。


 そのまま大國さんの特権を使い、安置所まで直行。

 黒い袋に入ったままでも、かなり腐敗臭がしていた。


 確かに、蘇生は無理だ。


「切断直後に沼へ投棄されていたらしい」


 腹部を裂かれ、石が詰め込まれていた為に発見が遅れたそうで、その直後でも救えたかどうか。

 魔力と言うか、何かが弱い感じがする。


「普通の、一般の方?」

「いや、不法入国者の筈だが某国には登録されていない、有る意味無戸籍者なんだが。最近の、身元不明者達と共通する遺伝子を持って居るらしい」


「シャーマン系っぽいのは、そのせい?」

「そうなのか?」


「いや、なんか、何かが薄い感じで。どうしようか、戻すって言い切ったのに」


 それを大國さんに聞いたとて、答えは出ないワケで。

 後はもう、彼女に聞くしか無いのだが、どう聞くか。


 鍵は使えるのだろうか。


【可能です】


「取り敢えず、戻った方が良いと思うんだが」

「そうしときます」


 掛け湯をし、点滴を再開させ、温泉に入りながら仙薬をダブルで流し込む。

 晶君を先に寝床へ行かせ、スクナさんは横で薬をゴリゴリ。


 大國さんは、まだ何かありそう。


「その、婚姻の事は俺が深く考えず発案してしまった、申し訳無い」

「ほう、くわしく」


「君の事だとは知らず、若い女性を繋ぎ留めるにはどうするべきか聞かれ、結婚はその役目を担わないのかと訪ねたら、こう、話しがこじれてしまったらしい」


「それは聞き方も悪いが、違う方向の某を聞こうとしたんでしょうよ」

「今となっては、そうだと思う」


「良い考えだとか言って具体的に考える方もどうかと思うが、そんな尻軽に見えるかね」

「いや、そうでは無いと思うんだが」


 渦中の神様、月読さんが白装束を着て現れた。

 そうして何食わぬ顔で、温泉へ浸かる。


『ふぅ』

「ふぅて」


『え?まだその話しの最中だったの?』

「ですよ、さっき安置所行ってましたから」


『もー、足りない体でフラフラして』

「ね、どうしましょ」


『一緒に火葬するわよ?』

「まだギリギリなんです。北欧のミーミルさんから知恵の泉にと誘われてるんで、本人に聞こうかと思ってます」


『スパイかも知れないわよ』

「それならそう、夢で、向こうで分かるかと」


『そんな状態で不用意に霊力を使えば、今度は昏倒所の騒ぎじゃ収まらないわよ』

「使いません、多分」


『大國、付き添いなさい』

「はい」

「えー」


『えー、じゃないの、お守りが居るとは聞いてるけれど、不安なの』

「マーリンが居るから勘弁してくれん?人間は処理が重くなるのよ。それより食料調達お願いしたいんだが」


『じゃあ、ちゃんと付き添って貰うのよ、良いわね』

「へい」


 漸く大國さん、月読さんと退場してくれたのでゆっくり温泉に入れる。

 点滴の刺さる左手を上げ、口元まで一気に浸かった。


『温まったら、また飲んでね』

「うい」


 レバーや馬肉ジャーキーをツマミに仙薬を飲む、もうやっちゃいけない事の合わせ技をしまくって、トイレに合わせて温泉を出た。


 そうして晶君の隣で仮眠を取る。






 宮殿にはマーリンとシバッカルさん。

 それと頭部だけの少女。


《それで、僕が立ち会いかね》

「うん、シバッカルもお願いね」

《おうよ、任せときな》


 透明な鍵を出し、額に鍵を挿すだけで目を開けた。

 辺りをキョロキョロ見回し、ニッコリと微笑む。


《ココは天国?》

「近い、でもまだ君は完全には死んで無い」


《体は?》

「ごめんね」


《いいの、聞こえてたの思い出したの、体は捨てるって言ってた。今なら分かるの、全部思い出せる》

「そっか、名前は?」


《アーニァ、お姉ちゃんはチャンイー、妹はサンニァーって言うのよ》

「姓、苗字は?」


(ヤン)


「アーニァは、泉の精霊に成れるらしいけど、どうする?」

《アーニァ、ココが良い》


「ココだと多分、いつか消えちゃうよ?」

《えー、アーニァ、ココが良いのに》


《そんなに気に入ってくれたのか、じゃあ、ココでどうしたいか言ってご覧》

《アーニァね、人魚に連れてって貰うの、綺麗な海を見るのよ、そうしたら動けなくても色々見れるでしょう?》


《マーリン、ちょうど首の無い人魚の人形を持ってるだろう、出しな》

《あ、あぁ》


《コレを大きくして、ほら、鱗は何色が良い?》

《ピンク、お姉ちゃんは青でね、サンニァーは黄色だから、アーニァはピンクなんだって》


《はい、出来た。ほら、くっ付いたからもう動くよ》

《本当だぁ、ねぇ、連れてって》


 腕を伸ばすアーニァを抱きかかえ、一緒に水槽に入る。

 ひとしきり水槽を泳ぎ回ると、そのまま海へと行ってしまった。






 枕も耳も、びしょびしょに濡れていた。

 悲しいと言うか、何と言うか。

 何と言ったら良いか分からない、ストレージに有ったほんの微かな感覚も喪失している。


 体の死を告げたせいなのか、魂がクトゥルフに飲まれたのか。

 もう蘇生出来ない事がハッキリと分かる。


 トイレに行き片手で顔を洗ってから、夕日の美しい温泉へと入ったのだが。


 もう気分はだだ下がり、ショックなのか何なのか、思い出すのすら辛い。


『大丈夫?』

「人魚になって、どっかに行っちゃった」


 温泉に顔を浸けては、暖かい仙薬を飲んでいると、大國さんが大きな寿司桶を抱えてやって来た。


「おはよう、差し入れだそうだ」

「ありがとう」


 豪勢で整ったちらし寿司、種類毎に盛り付けられ、理路整然とした感じ。

 鍋にはジャガイモのお味噌汁、箸休めの野菜の天麩羅、煮浸し、枇杷やマンゴーのゼリーと、ストレージいっぱいに持って来てくれた。


 美味しいが、うっかりすると涙腺が緩みそうになる。

 いくらなんでも食事をしながら湯船に顔は付けられない、危ない。


「何か苦手なモノが有ったのか?」

「いや、大丈夫です」


 何か少しでも考えてしまうといけないので、無我の境地へ行こうとボーッと食べ、思い出す前に刺激が強い方の仙薬を飲んで、色々と誤魔化した。


 今の弱点は、おセンチかも知れない。


「預かろうと思うんだが」

「行くます」


 晶君を起こし点滴を止めて貰い、コートを羽織り安置所へと向かった。

 大國さんが用意していた遺体袋へ頭を入れ、霊柩車と共に大國さんの運転で火葬場へ向かう。


 エンバーミングとかゾンビとか、無理にでも生き返らせる方法はあったかも知れないが、焼き場へ入る袋を見ると、アレで良かったのかとも思ってしまう。


 休憩室で終わるまで仮眠、今頃せいちゃんはどうしてるんだろうか。






『何で泣いてるんですか?』

「海が綺麗だもんで」


 水槽の上から海を眺める。

 朝日が昇る海はとても綺麗。


『確かに凄く綺麗ですね』


「せいちゃんはそろそろ空港?」

『もう少しですかね、今回も少し起きてようかと。朝の10時過ぎに到着予定ですから』


「時差ね、参っちゃうよね」

『鈴藤さんでもですか?』


「色々と会いに行く時間がね、常識的な時間は考えてるが、自分でもビックリする時が有る」


『何の報告も無くて心配なんですけど』

「直接言ってるから大丈夫」


『飛行機の中で報告書を書こうと思ってたんですけど、時間が余っちゃいますね。何か私にも出来ませんか?』


「島根の観光雑誌渡そうか、何か良いのが発見出来るかも」

『流石に国内の観光雑誌じゃ何時間も掛かりませんよ』


「ハンガリーは?」

『良いですね、温泉もありますし。コッチでも買っておきますね』


「心配だなぁ、1人で大丈夫?」

『大丈夫ですよ、お陰で慣れましたし』


「帰ったら何食べたい?」

『焼き鳥丼ですかね』


「どんだけ」

『手作り感が有るのに家じゃ再現できないからこそ、良いんじゃないですか』


「お祖母ちゃん焼鳥屋だった」

『え、羨ましいんですけど。もしかして食べ飽きてます?』


「いんや、家のご飯はちゃんと作ってくれたから、アレはオヤツ。丼も無かったし、もっと甘めだったから、別物」

『良いなぁ、羨ましい』


「お陰でこんなムチムチでしたよ」

『良いじゃないですか、あだ名ガリガリ君ですよ』


「キャシャリン」

『それ中学と高校で言われてました、英語の時間にキャサリンをキャシャリンって噛んじゃって』


「楽し過ぎる逸話」

『楽しく無いですよ、体調不良の合間に筋トレして、高校3年の頃にやっと言われなくなったんですから』


「努力家」

『食べれる様になったのが大きいですけどね、プロテインなんてストレートに出ちゃってましたし』


「お、せいちゃんも言う様になりましたな」

『それ位は別に、普通の事ですし』


「照れんなって」

『もー、そう言われると恥ずかしくなるじゃないですか』


「あ、目覚ましの音だ、凄いな、初めてだ」

『じゃあ、また後で』


「待って、ピンク色の鱗の人魚、アーニァって子が居たら、宜しくね」

『え、あ、はい』






「大國さん」

「まだ時間が掛かるが、どうした?」


「少し出て来る」

「あぁ、分かった。移動するなら車の後部座席に目隠しがある、スペアキーだ」


 先ずは月読さんへ。


『あら、もう終わったの?』

(ヤン)、アーニァ。姉はチャンイー、妹は」


『サンニァー?それはね、長女、次女、三女って意味なの、名前では無い記号なの。大國から、前の身元不明者の事は聞いたかしら』

「似た遺伝子とだけ」


『同じ女性から産まれているの。相手は、女媧(じょか)と名乗っているわ』

「は」


『大丈夫、ただの人間だそうよ。中つ国と連絡が取れたの、穏健派の転生者グループとね。河瀬と大國が頑張ったのよ、後で労ってあげて頂戴ね』

「危ない事を、言ってくれたら良かったのに」


『コレは国の仕事だから良いのよ、それに、戦争や政治に荷担したくは無いのでしょ』

「時と事情によります、自分より弱い者に危ない事はさせたく無い。それに大國さんは、せいちゃんの友達だし」


『良いの?関われば荷担も同じよ?』

「そんなヤバいなら、精査します」


『ふふ、鈴藤が知らずに巻き込まれたなら、どうかしらね』

「そらもうね、知らなかったが通る小さな事なら良いんじゃないですかね。火葬終わって無いので、また後で来ますね」


『そうね、いってらっしゃい』


 近くの本屋で島根とハンガリーの雑誌を買い漁り、火葬場へ戻った。


 暫く仮眠し、一服するとアーニァはすっかり骨と灰になり、お坊さんに引き取られ、無縁仏として葬られる事になった。


 再び月読さんの所へ戻ると、大國さんは仮眠室へ。

 コチラは月読さんと温泉へと入る事になった。




『お疲れ様』

「流石に少し疲れました」


『そうよね、まだ回復しきれていないものね』

「まぁ、それは追々で。それより、話しの続きをお願いします」


『先ずは昨日の事からね。転生者経由で確認させたんだけど、周辺で居留した部族は居ないそうよ、多分だけど、ご本人達じゃ無いかしらね』

「全部ですか、若いのが居た筈なんですが」


『それか、公式であれ非公式であれ。会った事は認めないか、よ』

「ややこしい感じでしょうか」


『そうね、どんな感じだったの?』

「普通に体を回復させて貰いましたよ、ほらぺったんこ」


『それなら、公式には接触して無い事にしてるのかも知れないわね。なら都合が良いわ、もし何か有れば逃げ込んでも良いって事よね、多分』

「拡大解釈をしなさる」


『嫌なら何かしら言うわよ、来るなとか予約しろとか、言われなかったのでしょう』

「また来いとも言われてませんが」


『来るなと言われて無いなら、好きにしろって事よ』

「神様の解釈は分かりません」


『ふふ、それと女媧(じょか)ね、本物がお怒りだそうよ、ふふふ。ただね、偽者は治外法権の大使館に守られてるのよね』

「この国に居るんすか」


『ええ、色々聞けたのだけれど、人間は黄帝派と女媧(じょか)派、天使の派閥の三つ巴らしいの』

「ややこし」


『本当に。ざっと言うと、技術や何かを盗み出して女媧に取り入ろうとして失敗したらしいわ』


「は、巻き添え?」

『そうみたい、文章ではね。それなのに公式な面談は、まだ出来ないのよ』


「あらー、結局は真偽不明では?」

『そうなのよ、女媧側からも一致する話しは届いたのだけれど、天使派はね、連絡が無いの』


「なぜ」

『河瀬からは「第六天魔王」と言えば分かると言われたのだけど』


「あぁ、織田さんですか」

『そうなのよ、手酷く追い返しちゃったのと、大して根付かなかったのが悪印象らしいのよね』


「好きだけどな、見た目とか」

『他は色々と取り入れても、何か浮いてるのよねぇ』


「あぁ、馴染んではいませんなぁ」

『ミカエルさんは人気よ、羽根を捥いだなんて男らしいって。まぁ、性別無いらしいけれど、それも向こうは嫌みたい』


「面倒」

『本当にね…大人しいのね、彼女の事?』


「まぁ、それと少し、心が折れそうなのもあります。循環出来るか自信が無くなったのです」

『大丈夫よ、帰れるってウガリットの王から言われているのでしょう?だから心配して無いわ。それに純粋に長居は嬉しいのよ、沢山好きになって貰える様に頑張るから、見ててらっしゃいよ』


「もー、充分好きですから変に頑張らないで下さいよ」

『はいはい、少しおねんねなさい』


 何だかんだ言っても、神様の懐は心地よい。






 うっかり温泉で眠ってしまった。

 月読さんが居た場所には、白装束のスクナさんが大人の姿で支えて居てくれた。


「すまん、うっかり眠ってしまった。月読さんは?」

『ふふ、名残惜しそうにお社から帰って行ったよ』


「なんだ、自分で帰れるのね」

『人間は通れないし、この前のは大國の訓練だから』


「そっか」

『お夕飯の時間だよ、何か食べないと』


 先ずは計測、中域。


 鈴藤でも中域。


 点滴を外して貰い、晶君と共に昼食を頂く。


 試しに出した馬のレバーもステーキも食べちゃうし、盛り合わせにも文句を言わない。

 医者だから?


「好き嫌い無いの?」

『昆虫食は無理ですね、雛になりかけの卵も無理ですよ』


「キビヤック」

『ギリギリ、状況によっては食べるかも知れませんね』


「何で、何でも食える?」

『酸味は苦手な方ですよ、レモンを齧れと言われたら流石に悩みますし。それでも、嗅覚が無くなった時期も有ったので、臭みも愛しいんですよ』


「変態だ、苦手なら食べないで良いんだからね」

『はい、無理はしてませんよ』


 寿司桶を空にし、ボーっと縁側で休憩。


 測定。


 高値。


「お」

『体が治ったから直ぐに貯まったか、圧縮されてたのかも』


「圧縮て」

『だって、本当は溢れさせたく無いんでしょ?だから、抑圧、圧縮したのかなって』


「予測?」

『膜もそうだけど、ココまで拗れる子、そんなに居ないもの』


「稀有」

『拗れるのは良い稀有じゃ無いからね』


「うい」


 晶君を家に届けてから、スクナさんと共に月読さんの所へと戻った。




『うん、大分良さそうね』

「お世話様です。それで、せいちゃんの事、何をすれば宜しいか」


 黒子ズに寿司桶とアイスクリームを渡し、月読さんの横に座る。

 勿論、月読さんにもアイスクリーム、業務用サイズ。


『ありがとう。なんて事は無いのよ、せいちゃんの護衛と、中つ国への渡航のお願いだけだから』

「最後のがちょっと、先に天使に会いに行っちゃダメですかね」


『行ってくれるのね、助かるわぁ』

「は、そゆことですか。で、場所は?」


『思い付く先は?』

「そらもう、バチカンですかね」


『鈴藤で、公式に行って貰う事になるわよ』

「飛行機ですか」


『えぇ、向こうで待ってて頂戴ね』




 そのまま渋爺の島へと向かうと、せいちゃんが帰国の準備を終えていた。


『あ、今出ようかって話してた所ですよ』

「すまんね、ほい、雑誌」


『ありがとうございます、すみません、荷物も預かって貰って』

「良いよ、ロストのダメージはデカいし」


『“お前はまた帰って来るんだろ?”』

「“そのつもりなんですが、すみません、先が読めなくて”」


『“良いさ、また来い”』


 渋爺とはココでお別れ。


 ヘルシンキ空港に止めてあるスオミさんの社用車に直接転移し、空港でスクナさんとせいちゃんとお別れ。




 コチラはたった3時間半、ウトウトしながらイタリアのフィウミチーノ空港へ着いた。


 現地時間は23時前、2人の女性が待っていてくれた。


 イタリアもまた情勢が変わっており、イタリアのローマ特区にバチカンが隣接している形なので、近くまではイタリアの大使館員が乗せてくれるらしいのだが。


 バチカンには知らせて無いんだそうで、断られた際にはローマ特区で待つ事になるんだとか。

 綺麗なブルネットの転生者の女性と、日本人の大使館員の女性が説明してくれた。

 仲が良さそう。


「陽気に説明されましても、門前払い確実では?」

『先手を譲って上げるのに、門前払いなら私達に先を譲ると言う事だから、私達には都合が良いのだけれどね、そこまで考えられる人間まで情報が届くかよ』

「月読様からもその様にと伺っております、速攻で行けなければ長期戦を見込めと」


「入れると思います?」

『半々ねー、内部も転生者を認めるかどうかで分かれてるって聞いてるから』

「そうですね、運ですね」


 車で30分程走った所で休憩となった、今夜はこのままホテルへ向かうとの事。

 飲み屋以外はしまっているそうなので、軽食をとピザ屋に案内されたのだが。


 立ち食いなのにクオリティが高過ぎる、全部美味しそうなので持ち帰り用に沢山買わせて貰った、ユーロ有り難い。


「もう帰っても良いかも」

「まだ美味しいモノは有りますから、もう少し我慢してくださいね」

『そうよ、さ、もう少し』


 そこからさらに10分程進むと、塀に囲われた場所が見えて来た。

 塀の中がバチカンらしい。


 そして更にバチカンから10分も掛からない、川を超えた先のホテルへ案内された。

 ベランダと屋上でタバコが吸えるのは有り難い。


 一服しつつ淡雪を出す。


「どっこいしょ」


《ふぅ、景色はアレだけど、綺麗な所じゃない》

「ね」


「あの、スーツケースは?」

『何か買い足したいなら案内するわよ?』

「明日で大丈夫ですよ、おやすみなさい」


 解散後、一先ずはベランダで一服。


 お風呂に入り、せいちゃんが家に着く頃まで仮眠。

『渋爺』『スクナさん』《バルドル》『月読さん』「大國さん」《マーリン》《シバッカルさん》

『せいちゃん』『晶君』《淡雪》


『ミーミル』 ユグドラシルの知恵の泉の神様

《アーニァ》 人工件の少女

『ローマの転生者』 ブルネット美人

「ローマ大使館員」 可愛い

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