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5月22日(金)

 3人でホテルのモーニングを軽く食べ、それぞれ別行動へ。

 忍さんはプール、せいちゃんはホテルのサウナとジムを楽しむらしい。

 そして自分はスクナさんと日本へ、時間的にはお昼過ぎ。


 最初と同じ様に、上空からアマテラスさんの部屋へと向かった。


《何か緊急事態かしら?》

「あれ、何も伝わってませんかね」


《そうね、何の事かしら》

「ウガリットにドリアードとナイアス、クエビコさんの居留地が出来たので、物資運搬は問題無いです。なので、ココでもどうかと」


《動きが早過ぎて、ちょっと追い付かないのだけれど。それはユグドラシルの神々から許可を得ての事なのよね?》

「はい、昨夜」


《そう、なら、何処が良いのかしら》

「それこそ、オモイカネさんの出番では?」


《あぁ、そうねぇ、そう、そうしましょう。会いたがっていたものね、場所はね》


 北海道。

 少し躊躇ったが、教団施設とは全く離れた場所なので向かう事にした。


 陸別の町から少し離れた場所、利別川沿いの平凡な2階建ての施設。

 扉の前で隠匿の魔法を解き、身分証を提示していたのだが平気で銃を突き付けられた。


 確認が取れるまではそのまま、暫く待たされてから漸く中へと入れた。


 全員が軍人の様に規律正しく姿勢も良い、だが制服は良くある灰色の作業服。

 着衣の乱れは、一切無し。


 クリーンルームでマスクや白衣を身に付け、風で埃を吹き飛ばす。

 スクナさんへの要求は無し、神様はフリーパスか。


 そうして入れた先には、円柱状のガラスケースに入った銀色の液体金属が揺れ動いている。


「無機物とは」

【有機物です。初めまして転移者、私はオモイカネ。】


「どうも」


 正確には有機物らしい、コミュニケーションが取れると思えないのだが、画面上には文字が映し出されている。

 背後では、警備が首に付けられたスタンガンのスイッチを握り締めているし。

 迂闊な事をするつもりは無いが、緊張はする。


 そうしていると画面が切り替わり、新たな文字が映し出された。


【神々の事は聞きました、場所は、クエビコの近くで。】

「ナイアスさん人見知り、神見知りなんですが」


【会わせてみれば分かります。】

「さようで。所でご不便は有りませんか」


【お気遣い感謝、問題有りません。】

「そうですか、ありがとうございました」


【またね。】


 フランクなのか簡略化しただけか不明だが、悪い印象では無さそう。


 向こうのオモイカネさんもこんな感じかしら、どんな感じ何だろう。


 緊張する施設を出て、ホテルに置いて来たナイアスとドリアードの欠片を持って、クエビコさんの所に行く。


《久しいのうスクナ彦や》

『だね、久し振り』

「コチラ、ドリアードにナイアス」


《よろしゅう、まぁ、じっくり話そうでは無いか》

『だね、話そう』

『そうじゃな』

『はぃ…』


「遠慮したらダメだよナイアスさん、良さそうな場所が分かったらジャンジャン言わないと、ココんちの子にされちゃうよ」

《そんな事せんわい、ちゃんと余所に当ては有る。今回はナイアスの心配よりドリアードじゃ、流石にマイナス30度では生きれぬじゃろう》

『じゃな、ちとキツい』


『…流石に私も、面積が無いと、無理ですぅ…』


《じゃろう、なので本土でじゃ、好きな場所を選ぶが良いぞ》

『にしてもじゃ、鈴藤。何処が良いかの』

「えー、人間が迂闊に来れない場所で、禁足地的な所が良いと思うけど、物資運搬だからなぁ」


《お主、誰か忘れては居らんか?》

「あ、そうだ、大國さん居たわ。待って、地図見る」


 スマホで見るには関東近隣の筑波山付近が良さそう、見慣れぬ小道が増えても、たまにトラックが通っても大丈夫そうな道を発見。

 クエビ子的にもOKとの事。


《うむ、行って見て来ると良い》

「君も、こう、来たらどうかね」

『行こうよ』

『そうじゃな、どうにか来れぬのか?』


《だって、あの空間、嫌なんじゃもん》

「じゃあ、ココにぶっ刺されよ」


《うむ、そうする》


 縁側に置かれたピッチャーへ見事にクエビ子枝が入った。


「ナイス」

《ふん、よし、着替えい》


「何に」

《ほれ、前に渡したじゃろう、斎服じゃ》


 斎服を出すと、同じ斎服の禰宜と呼ばれる人達が現れた。

 服を脱ぐやいなや着替えさせられ、祠や何かを持たされた。




 真新しい木のお社と何人かの整備班を伴い、候補地の道路へ降り立つ。

 天気が悪いし寒い、辛うじて木々で小雨が防がれているが。

 寒い。


「で、どうしろと?」

《ククノチ、カヤノヒメ、居るかのう》


『久し振りククノチ、抱えて』

《おう》

《はいはい、今、道を開けましょうね》


 木と野草の神様だそう、木霊の様に小さいカヤノヒメに対して、ククノチは大きな山男の風貌。


 向こうでもご挨拶せんと。


「鈴藤です、宜しくどうぞ」

『ナイアスに、ドリアードじゃ、よろしゅう』

『ですぅ…』


《おう》

《はい》


 まるで最初から有った様な獣道を開拓し、先導して貰う。

 整備班は慣れてるのか、驚いてリアクション出来ないのか静かなまま。

 どっちにしろ凄い肝っ玉、凄いぞ整備班。


 15分程歩くと、どん詰まり、カヤノヒメが右側にある小さな湧き水を指した。


 そこへナイアスを1滴。


 今回もドバっと出たが、納得の様子。

 その次にドリアードを反対側に差し、クエビコさんの指示で正面にお社を建てる事に。


 クエビコさんが指差した場所を整備班に教え、少し土が掘られると土台となりそうな石の群れが発掘された。


 それでも、まだ少し足りないらしいと整備班班長。


 それを聞いたククノチさんが脇の木を指差した。

 その木を少し退けると、手頃な石がゴロゴロと出て来た。


 それを見てスクナさんが指で四角を描く。

 触れるように指示され触ると、石が崩れ四角に成形された。


 それを黙って見ていた整備班が、積み始めた。


 モノの数分で出来た土台に、お社を乗せる。


「ほいで」

《戻れ、入口に紙垂付きの注連縄を張るでの》


 空間移動を使い、入口付近まで戻る。


 渡されていた立て看板、注連縄を整備班に取り付けて貰い、作業は終了したが。


「終わったか」

《禰宜らしく礼の1つでもせい、他の人間に見られておるでな》


 2礼2拍手1礼。


 その効果なのか関係無いのか。

 白い霧の様な結界が張られ、魔素が舞い上がった。


《今ですよ、人の気配は御座いませんから》

《うむ、ではまたの》

《おう》


 整備班と共にクエビコ屋敷へ空間移動。


 帰ろうとする整備班へ手土産を渡すついでに話し掛けたのだが。

 不用意に声を上げてはいけないと教えられての事だそう、と言うか声が出ない程に驚いていたらしい。


 手土産を倍にし、労って返した。




「可哀想に」

《ふふ、良い勉強になったじゃろうて》

『大丈夫、僕らの事は良く見えて無い筈だし』


「は、じゃあワシの独り言か、恥ずかしいんだけど、酷い」

《良くある事じゃ、気にするな》


「むり、恥ずかしくて死にそう」

『ふふ、気配は感じてたと思うよ、アレだけ沢山居たんだもの』

《そうじゃよ、誰もお主を可笑しい奴と扱って居らんかったじゃろう》


「まぁ、そうだとは思うけどぉ、許さないかならなぁ、絶対に」

《ふふふ》

『ふふ』

『さて、次はフィンランドかの』


《お、我も行くぞい》


 ホテルへ戻り、着替えて斎服を畳んでいると、せいちゃんが戻って来た。


『手伝いましょうか?』

「たのむ」


 袴の方をお願いしたのだが、手際が良い。

 慣れた手付き。


『親戚と会う時はコレなんです、面倒ですよね』

「汚す自信しか無いわ」


『ですよね、良く汚してました』


 足袋も袴も全て収納し、サウナ側のベランダで一服。


 疲れた、計測。


 低値、何故。


 部屋に戻り、スクナさんに確認。


「スクナさん、減ってる、何でや」

『結界に使ったからだよ』

《適当に(まい)れば良いと言ったのにのぅ、律儀にちゃんとしおるから、持っていかれたんじゃよ》


「もー、コレはワシ悪く無いよね?せいちゃん」

『ですね』


「それにさ、周りに見えてないとか教えてくれなかったし、実質独り言、ハズい、たすけて」

《ふふふ》

『ふふ』

『狼狽えて可愛いのぅ』

『遊ばれちゃったんですね、可哀想に』


「だろう、遊ばれた、せいちゃんまでひどい」

『ふふふ、拗ねないで鈴藤、何か食べないと』


 スクナさんの仙薬を飲みながら、クエビコ屋敷で貰ったお菓子を食べる。

 忍さんの分を残し、仙薬入りのヤカンが空になったので測定。

 中域。


『そうだ、カラクッコのお店見つけましたよ、行きません?』

「いく」


 忍さんを迎えに行くと打ち上げられたイルカの様に、傾斜する水辺に寝転んで居た。

 この、水に浚われそうな感じが良いらしい。


 そうして3人で街へと出掛ける、スクナさんはピッチャーとお留守番。


 パン屋を回ったりスーパーへ行ったりと、バックパッカー的観光地回り、スノードームを見付けたので当然の様にせいちゃんと購入。

 今度も違うデザイン、せいちゃんは犬ゾリ、自分はサンタと雪だるま。

 白い粒々とキラキラのホログラムが舞い、傾けると後方のオーロラの色が変化する。


 忍さんはタペストリー、もう既に天井に何枚か吊しているらしい。


 そうしてそれぞれに好きに買って来たメニューでランチ。

 シーフードスープにカラクッコ、ソーセージとイモ。

 寒い国はイモ多め。


 お腹いっぱい食べてから皆でお昼寝。






 またしても広縁。

 王都の旅館、渋爺(イルマリネン)は温泉が気に入ったらしい。


『おう』

「渋爺、何処に植える?」


『そうだな、トールの館が会った場所、で分かるか?』

「わかる」


『なら、俺もそこで待ってるから来ると良い』

「おう」







 ドリームランド通信により、前の世界でトールの館が有った小島へと出向いた。


 すっかり雪解けし、同じ場所と思えない。


『おう』

「ども、クエビコさん、ドリアードにナイアス」


『宜しく頼むよ、それで、どうだ』

《ちと寒いが》

『結界で何とかなるじゃろ』

『はぃ』

「ココは、どうなってるんです?」


『俺の別荘地、一般人も何も来れない島だ』

「ナイス」


 手入れはされているものの、小屋以外には特に何もない広大な庭。


 指定された場所へナイアスを1滴、ドリアードとクエビコさんをぶっ差して、エリクサーを少しばかり注ぐ。


『ふむ、一段落と言った所かのぅ』

《じゃな》

「コレだけで帰れないもんかねぇ」

『まぁ確かに成果で見れば充分だとは思うが、どうだ』


「全然、まだ足りない」

『なら、竜か』


「ね、暫くは近隣を回ろうかとも思ってる、ドイツとか、ルーマニアとか」

『ルーマニア?』


「吸血鬼が居るかと」

『ほう』


「あれ、居ない?」

『まぁ、居るとは聞いたが』

『おるが、良く知っておるのは、アネモイだのぅ。のう?ナイアスや』


『はぃ…』

「アネモイとは」

『そもな、ナイアスとは「水の精霊」と大まかな呼び名なのじゃよ、そこのお嬢さんと言った感じじゃ。で、アネモイ、風の精霊。と言う事なんじゃが』


「なら、ドリアードにも個別の名前が?」

『国によって呼ばれる名前は違えど、我は同個体。ナイアスも姉妹は多いがほぼ同一個体と言って良い。他国であっても、本質はそう変わらんのじゃが』


「なによ」

『ルーマニアには特定の神が居らんらしい』


「で」

『我すら、向こうで独自の精霊として存在しておるらしくての。本来であれば、情報のやり取りが出来るんじゃが。ことルーマニアに関しては中を伺い知る事が出来んのじゃよ』


「ナイアスも?」

『噂程度なら…』


「くわしく」


『ぅ、吸血鬼も人狼もいらっしゃるらしいんですが…ょい、悪いでは無く、そう産まれ、そう育っただけだと…』

「危ない?」


『…人間と、同じ位には』

「話は通じる?」


『それも…人によります…』

「人扱いなのね」


『はい、不死では無いので…』

「会わない方が良いと思う?」


『…ぇ…分からないですぅ…』

「おふぅ、取り敢えず休憩するべ。ナイアスもお疲れ様、残りはココに戻して良いかね」


『はぃ、お疲れ様でした…』


 さっさとルーマニアに行きたいのだが、ココは我慢。

 今は魔力回復と、エリクサー作り優先。


「あの、ココでエリクサー作っても?」

『おう、この島ごと貸してやる、他のも連れて来ると良い』


 ホテルへ戻り、ダラダラしている忍さんとせいちゃんを島に連れて来た。


 何だかソワソワしている。


「どうしたの」


「だって、神域なんでしょ?落ち着かない感じ」

『私もです、何だかビリビリするんですよね』


「そうそう、そんな感じ」

「なぜ?」

『魔素が濃いんじゃよ、それらから守る為に人間には魔法が掛けられておる』


「はぁ、魔法掛かってるせいらしいよ」

『そうなんですか。鈴藤さんは平気そうですね』


「まぁ」

『あのな鈴藤や、ココではのう、外部からの魔素吸収には訓練が必要なんじゃよ?』


「ほう、なぜ」

『飽和しては害を成すで、取り込めぬ様に生まれた時から加護が与えられておる。まぁ、国によって違うが』

《うむ、我が国もじゃよ》

『うん、害の方が大きいからね』

『ウチもだ、赤子に魔法が操れては危ないだろう』


「でも、向こうでは違った。先ずライトの魔法を刺青で使える様にして、放出させてた。災害とかで光るから便利」

『ほう』


「それはエルフの役目だったんだけど、出来る方、居る?」

『技術は継承されておるよ』


「どの位、一般的なの」

『軍や高官にレジスト等が施されるが、嫌がる者もおる』


「何で広まって無いの」

『色々あるが、主に見た目じゃな』


「見えないインク無いのか、ほれ、こういう」


『ほう。そう言ったモノは無いが、どうじゃ?渋爺や』

『俺も聞いた事は無いが、良いアイデアだ』


「戻してくれるなら、分解しても良いよ」


『そうか、なら分解するか』

『じゃったら、ドワーフを呼ばんか?』


『おう、頼む』


 ライト解剖の合間に淡雪を出す。


 久し振りに樽も出す、中身はドロドロ。

 ドリアード曰く蒸留機と鍋の間に置き温めると良いそうなので、中身を入れ替えてからエリクサーと丸薬作り開始。

 まったりのんびり、お茶をしながら作っていく。


 せいちゃんは渋爺の道具で釣り、忍さんは神々に混ざりライトを観察。


 オヤツの時間を過ぎた頃、1回目のエリクサーが出来上がる寸前。

 ストレッチをしながら、せいちゃんが様子を見に来た。


『鈴藤さん、その氷は魔法で作られたモノなんですか?』

「いんや、向こうの南極だか北極で取って来た、許可貰ってね。1個居る?プチプチ鳴って楽しいよ」


『あ、はい、ありがとうございます』


 折角なのでコップに氷と濃い蜂蜜酒を入れ渡した。


 プチプチと鳴るコップに耳を傾け、珍しくニコニコしている。


「意外と喜んでくれるのね」

『だって、凄いじゃないですか、フィンランドで北極の氷が溶ける音を聞けるなんて。この前の砂漠の虹も、魔法みたいに凄くて楽しかったですよ』


「魔法は魔法よ」

『魔法らしい魔法って意味ですよ』


「虹の魔法って、平和よな」

『あるんですか?』


「ナイアスさんや、虹を見せる魔法はありますかね」


『はい、水の魔法が使えれば…』

「ワシに適性無いよね」


『はぃ、残念ですが…その、その人間は使える素質があるかと』

「ほう、お水なのか、せいちゃんは」


『はぃ…ぁのぅ…魔素の濃い泉や温泉は気を付ける様に、お伝えして貰えますか?』


「あいよ、ありがとう。せいちゃん、虹の魔法あるって。それと魔素の濃い泉や温泉には気を付けろだって」

『はい?まぁ、こう魔素が濃い場所でこうですし、気を付けますね』


 明日にでも島根に行こうと思ってたのだが、濃いとダメなら、せいちゃん置いてこうかしら。




『おーい、終わったぞ』


「ほいほい、ほい、あれ、分解は?」

『組み直した、意外と簡単な仕掛けだったぞ。コレなら人間にも作れそうだ』


「そりゃ良かった、あ、このインク」

『調合されてるんだろう、このライトで分かった』


「ほー、しゅごい」

『ふっ、当たり前だ。後でスオミにも見せて量産体制に入らせる』


「因みに骨にも入ってる、ほら」

『は、そうか、成る程な。面積はそこでも稼ぐのか』


「簡単に破られたら困るのとかね」

『あぁ、確かに、そうだな』


「後はなぁ、神様からの貰い物が殆どだけど、あ、コレ」

『待て…ふむ、魔力の測定機だな、だが、アレだな、こう』


「容量コントロールが下手で急遽人間側に作って貰った」

『ほう、コチラでは飽和しても足りなくても体調に変化が出るんだが、そっちも同じか?』


「全部でそうだった、主に余ると吐くのとか結石出来ちゃうとか」

『そこは同じだな』


「たまに魔素出ちゃうのも居た」

『それは、礎だからでは無く、か?』


「知る限りでは、そんなモノ無かった。ただ、他者の感情を左右するからって、引き籠もってたのも居た」


『そっちではそんな作用があるのか』

「ぽい、コッチは無いのね」


『あぁ、容量の分だけ多く循環出来る』

「同意無き、無理な容量拡張反対」


『あの子がそうなのか』

「みたい、本人はそれすら知らない」


『そうか、構いたくもなるワケだ』

「別に、それが理由じゃないし」


『なら何だ?』

「可愛いじゃん、メンクイなの」


『ふっ。で、夕食はどうする、ウチで食うか?』

「2人が緊張するとアレだし、帰って適当に食べるよ」


『それなら手土産だな。後で魚を捌いて焼いてやろう』


 2回目のエリクサー作り開始と同時に、渋爺がスオミさんの所へライトを持って出掛けた。


 忍さんは焚き火を眺めてボーッとしているし、せいちゃんは釣りに嵌まったのかリラックスしながら釣りを継続。

 神様に緊張してたのね。


 スクナさんは仙薬を作っているし、ドリアードとナイアスは整地。


 クエビコさんはせいちゃんの横で釣りを眺め、ドワーフさん達は渋爺の魔道具を眺めている。


 向こうなら戦闘訓練だなんだと殺し合いしてるシチュエーションだが、コッチはまったり。


 大丈夫かな大國さん。

 仙薬は大國さんに譲ろうか。


「スクナさん、ヤカンごと大國さんに渡したいんだが」

『うん、良いよ』


「おう、ありがとう」

『鈴藤は、本当に何も要らないんだね、少し寂しい気もする』


「じゃあ、後で丸薬作って」

『勿論!』


 バスボムや石鹸を殆ど向こうに置いて来たので、量産しようと思っていたのだが、こう魔素が溢れているので作る必要も無いし。


 目下は従者やら周り用の丸薬が優先、マーリンは元気でやってるだろうか。


「あ、ドリアードさん、妖精の事なんだけど」

『うむ、では先ずティターニアを呼ぶかのぅ』


 少しの間を経て、泉からティターニアが上がって来た。

 濡れる事も無しに泉から出る様は、見慣れた魔法の様。


「鈴藤です、宜しくお願いします」

《改めましてティターニアです、コチラこそ宜しくお願いします》


 渋爺が居なくとも、泉から離れなければ仮の居留が可能らしいが。


 にしてもこの時期に泉の縁に座り、水に足を突っ込んで居るのは寒そうに見える。


「寒く無いですか」

《大丈夫です、寧ろ暖かいですからご心配無く》


 以前より警戒心は薄れて居る様だが、壁がある感じもする。

 当たり前か、会うのはまだ2回目だし。


「あの、妖精の事なんですが。無理にとは言いません、妖精の安全第一ですから」

《えぇ、既に隠匿の魔法を覚えさせています。まだ全員ではありませんが、纏まったグループが出来上がり次第、ココから帰そうと思っています》


「反対しないんですね」

《永遠に眠らせておく事は不可能ですし、元々は仮の処置でしたから》


「魔獣はどうですか」

《妖精では無く、人の悪意が形になったものです》


「あら。じゃあ、ソチラの循環は大丈夫なんですか?」

《完全に個体数は回復しましたし、神々や精霊からも加護して頂けるとの事でしたので、問題有りません》


「そうですか、良かった」


《それと、ルーマニアへ行きたいとお伺いしましたが?》

「あぁ、吸血鬼探しに観光でもしようかと」


《私、ルーマニアで精霊として存在していますが、観光地は存在していませんよ?》


「お、えー、どうしよう」

《確かに吸血鬼も存在していますが、魔堝も存在する危険地帯です》

《あのな鈴藤、渡航警戒数2じゃよ?公式に行くにはかなりの時間を要するんじゃが》


「じゃあ、非公式に行く?」

《それは、お時間を少し頂けますでしょうか。転生者だけで無く、他の精霊等とも相談せねばなりませんので》


「警戒心を解いて貰う方法は?情報の鮮度はかなり落ちてるから無償で現行の情報は開示するよ、タブレットも誰かを指定してくれるなら渡せるし」

《それは有り難いのですが…民族の繋がり、愛国心が強い方々なので、どうしてもお時間が掛かるかと》


「そう、出来るだけはするつもりだから、宜しくお伝え下さいな」

《はい、では》


 立ち上がりお辞儀をすると、足元から溶ける様に泉へ帰って行った。


 警戒心が強い国、まして観光地も無いとは、本当に待つしか無さそう。


《まぁ、我が国も中々に警戒心が強い国ではあるからの。お前は内部から発生した者じゃから良かったが、外部からの接触は厳しいんじゃよ、運が良かったのぅ》

「運かね、そこは意図的なんじゃない」


《誰のじゃ?》

「それこそ、転生者を呼ぶモノと同じでは?」


《転生者を呼ぶモノか、おらんらしいぞ。何の加護も無いのかーと、最近のは言うておったからの》

「なら地球、世界ちゃんやろな」


《この星か、そうか》

「すんなり納得するのね」


《大いなる神秘と言う概念もあると聞く。こうも数々の神々を住まわせる星であるなら、何か足りぬモノを補うは可能じゃろうて》

「補い方よ」


《まぁ、万能では無いのじゃろう》

「まぁ、でしょうねぇ」




 静かな湖畔でせっせと作業していると、1時間もしないウチに渋爺が飛んで帰って来た。


 ライトに関してはまた明日とスオミに言われたらしい、明日にでも義体の解析が終わるそうなので、その時にと。

 先にインクを作って来るようにと言われたそうだ。


『で、早速なんだがドリアード、少し素材を分けてはくれんか』

『良かろう、だが日本も良い素材があろう?なぁスクナ彦や』

『うん、はい』


 束ねられた草花がスクナさんのズボンのポケットから次々に出てくる、どうやら特定のモノ限定のストレージではあるらしいが。

 どう見ても多次元ポケット。


『おう、で、割合いなんだが』


 込み入った話しになりそうなので、エリクサー作りに戻る。


 そうして2回目のエリクサーが出来上がった頃、渋爺が一旦作業を中断し、せいちゃんの魚を捌くと言い始めた。


「もうそんな時間か」

『おう、出来るか?』


「無理」

『教えてやろうか』


「無理、寄生虫むり」

『どうしたんですか?』


「魚捌くの教えるって、けど寄生虫とか無理だから断った」


『あの、私が教えて貰っても宜しいでしょうか?』

「僕もー」

「この2人がやるって」

『おう、来い来い』


『じゃあ、丸薬作ろ』

「おう、すまんね」


 ホルマリン漬け以外の生きた寄生虫は無理。

 医師や看護師になろうとしなかった理由の1つ、だってマジ無理なんだもの。


 雑念を払う様に丸薬作りを行っていると、スクナさんの手伝いもあり、かなりの滓が消費出来た。


 漬物用にと買っていたガラスの密閉容器に移していると、焚火の方から良い匂いが漂う。

 時間を確認すると夕食の時間、まだ日暮れ前だと言うのに、どんだけ日が長いのよココ。


『鈴藤さん、食べて行きましょうよ』

「できたて食べよぅよぉー」

「お、良いですよ」


 焚火で焼かれた魚、魚とキノコのホイル焼き、そしてトナカイスープ。

 キャンプ飯、美味い。


「うまい、はまりそうかも」

「マジか」

『何か、自分でコントロールするのが楽しいんですよ、多分』


「せいちゃんもか」

『ソロは無理ですよ、初心者でプロが付いてくれてるから楽しめるんです』

「僕はこのまま極めたいな、いかに効率的に1人で出来るか試したい」


「稀有」

『興味無いんですか?』


「だって、虫、きらい」

『鈴藤は大丈夫だよ、膜に加護があるもの』


「そうなの?」

『うん、だから森でも平気だったでしょ?』


「確かに、誰のだろう」

『お主、どれだけ神々と関わったんじゃ』


「エジプト方面だとエンキさんとか、中つ国だと仙人ぽいの。鍛冶神はもう殆ど会った、ベリサマとか。後、インディアンの精霊らしきのとか、最後はニュクスさん辺りか」


《待て待て、それを1ヶ月で、じゃと?》

「おう、そう考えると忙しなかったろうな」


【関わった神々を表示しますか?】


 おう。




《ほー、過密過ぎじゃろ》

「だって、動かないと耐えられ無かったんだもの」


《にしてもじゃ》

『それだけ、備えなければイカンかったんだろう』


「まぁ、ドリームランドの家に行けば分るよ、上にずっとある」

『ふむ、後で見て来ようかのう』

『話しは後だ、沢山食えよ』


 本当にアホ程せいちゃんが釣ったので料理は沢山ある。


 折角なので、晶君も呼んでみようかと様子を伺うと、もう夜中だと言うのにまだ勉強していた。

 なんて不摂生。


「晶君、急ぎの勉強?」

『あ、いえ、少し眠れなかったので勉強をと』


「何か悩みでも?」

『少し不穏な話を耳にしたので、どうして居られるかと』


「あら、ごめんね。少し夜食食べない?」

『はい、頂きます』


 晶君に厚着させ、島へと連れて来た。

 やはり忍さんは初対面らしい。


「忍さん、日本でしたい事無い?」

「何、急に」


「この晶君と入れ替わりで移動させようかと」

「その方が都合が良い?」


「別に、どっちでも、思い付きだし。あ、晶君どうぞ」

『頂きます』

「まぁ、少し報告はしたいかな。アマテラス様とRTTに」


『同じ所属の方でしたか』

「あ、そうなんだ。じゃあ、君が外されてる幹部候補さんなんだね」


『はい、団体に所属しているので』

「それね、鈴藤君をどうこうする気は本当に無いの?」


『その事でお話がありまして』

「聞くから先ずはスープ飲んで、美味いよ」


 一心地ついた晶君からの情報では。

 祀り上げる派と、ただ静かに見守る派で分かれ、内部抗争寸前との事。

 上の方が静観派、下へ行く程に祀り上げて団体を大きくしたいと望んでいるらしい。


「何で団体を大きくしたいのさ、結構大きい方なのに」

『誇示したい者の、自己顕示欲ですね。それにまだお会い出来て居ない者が、騒ぎを大きくしているのでは、と』


「いい加減、会いに行くか」

『鈴藤さん、単身で乗り込むのは反対したいんですが』


「身軽な方が良いんだが」

『そうして何か有った時に、何も知らせが無いのが困るんです』


「んー」

《じゃったら、我を連れて行けば良い。ほうれ、杖じゃ》


「あら、いつの間に」

《ふふん、渋爺に加工してもろたの》

『木材本人を目の前にして削るのは中々にスリリングだったな、はははは』


「あらら、ありがとうございます」

《せいちゃん、コレで安心じゃろ?》

『ですが、もし何か有ったら』


《大國が居るじゃろうに》

「せやせや、あ、やっぱ忍さんちょっと帰ってて」

「良いよ、この報告したいし」


「すまんね、ココへはナイアスが帰してくれると思うんだけど、どう?」

『良いのですが、その、もしかしたら、魔力酔いされるかと…』

『俺が魔道具を仕込んでおいてやる』


「ありがとう、晶君泊まってく?」

『その事なんですが、私も同行させて頂けませんか?万が一が有れば見捨てて頂いて構いませんので』


「えー、折角助けたのに?」

『同行者として名乗り出ましたから、同行すべきかと。そうして向こうに信頼頂ければ、より情報が掴めるのではと』

「でもさ、それって諸刃の剣だよね。雑音も増えると思うんだけど」


「なら良いのがあるじゃない」


 渋爺に作って貰った嘘発見器アクセサリー。

 生憎と残りはピアスかペンダントトップしか無いのだが、ピアス取った、マジか。


『研究室では手の周りには付けられませんから、錐か何かありますでしょうか?』

「待て待て、開けてあげるから待って」


 痛覚を切り、ベリサマから貰った簪で穴を開ける。

 自分を含め、もう何度目だろうか。


『ほう、浄化の魔法に身体強化とは、やるのぅ』

「コレも身体強化の範囲なの?」


『じゃよ、痛覚遮断は範囲内じゃて』

「ほう、にしてもチャラくなっちゃったな、晶君」

『そうですか?』

『鈴藤さんには負けますよ』


「は、黒髪じゃん、どこがよ」

『黒髪なだけで、全部ですよ』


「晶君もそう思ってるのか」

『肌が健康的な色ですので』

「良いじゃん別に、チャラいの嫌い?」


「いや、まぁ、そうか、そうなのね」


 花子に戻っても色黒は不味い、後で確かめ無いと。

 最悪は1日掛けて肌を代謝させるしかあるまいか。


『で、どうなったんだ?』

「あ、ごめん。忍さんと晶君と日本に戻る、教団に顔出してくる」


『ほう、教団か。大丈夫なのか?』

「まぁ、せいちゃんを宜しく」


『おう』

「じゃあせいちゃん、今日はココで泊りで良い?」

『はい』


 夕飯を食べ終えた頃、渋爺の魔道具が完成。

 結界系なので簡単だったとか、もう理屈は良く分からん。


 そして予備にスクナさんが作ってくれた酔い覚ましを携えた忍さんと晶君を連れて、月読さんの居る警視庁へ向かった。





『どうぞ』

「お邪魔します、例の協力者の晶君です」

『須藤晶と申します』


「で、教団に顔を出してきます」

『そう、2人で?』


「うい、今日は遅いから直ぐには行きませんよ。後は忍さんからご報告があるかと」

「はい。あ、鈴藤君、僕はこのまま報告して、ココの仮眠室で休むから大丈夫だよ」


「そう?じゃあ後でまた報告に来ますね、おやすみなさい」

「おやすみー」

『気を付けてね、おやすみ』


 晶君を連れフィンランドのホテルへトンボ帰り、早速ホテルで自分の体を戻してみる。


 肌は白いままだが、胸が出ている、困ったぞ。


「ねぇ、晶君。例えばだけど、神様に生殖機能を停止させて、胸も平らにして貰った人間が居ました。その時には男に変身する想定すらありませんでした、ですが変身しました。変身しっぱなしで、久し振りに女に戻ると、胸が復活していました。なぜか」


『門外漢なので仮説しか話せませんが。停止していた機能が男性化により亢進状態に陥った。或いは両者が関係無い場合ですと、変身の単純な副作用、若しくは反動かと』


「叉はその全部か」

『確かめるには血液検査と、どういった状況になれば平らに戻るかが重要かと』


「ほっときゃ戻る筈だが、ただ女で居るのもなぁ、ホルモンぶちこむか」

『それに反応して収まるかどうかですね』


「あー」

『それが望む方向に働くか、です。正常に分泌されるホルモンを体に害無く抑えていたと仮定すると、変身と言う異常動作により、本来の恒常性が復活した可能性もあるかと』


「んーー」

『血液検査の動きでどうすべきか分かる可能性も有りますが』


「研究室使える?」


『いえ、ですが。あの施設なら可能かと』

「あの病院はなぁ」


『未だに、他には知らせては居ないのですね』

「まぁ、大した事では無いし、知らせる意義が見いだせんからね」


『弱味と思ってらっしゃるんですか?』

「ないしょ」


『失礼しました』

「おう、ちょっと風呂行ってから寝るわ。晶君は?」


『既に入ってますので、このまま眠らせて頂こうかと』

「なら、コッチのベッドでどうぞ」


『はい、おやすみなさいませ』


 自分が使っていたベッドへ晶君を寝かせ、風呂上がりに花子のまま、せいちゃんのベッドへ入らせて貰った。

 清掃後なので、せいちゃんの匂いの欠片も無い。

《アマテラスさん》《クエビ子さん》『スクナさん』『ドリアード』『ナイアス』『せいちゃん』

渋爺(イルマリネン)』「忍さん」『晶君』『月読さん』


【オモイカネさん】 有機物らしい、水銀みたいな神様

《ククノチ》 木の神様

《カヤノヒメ》 草花の神様

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