5月14日(木)
ウガリット共和国の場所は、キプロスの目の前だと思って頂けると助かります。
移動の合間に日付が過ぎた。
空港から車で20分は走っただろうか、宮殿の様なホテルに付いた。
眠くて語彙力無いが、マジ宮殿。
「マジ宮殿」
《思考漏れてますよ。はい、鍵です》
「1つやんけ」
《安全面を考慮してと思ったのですが、部屋を分けますか?》
『いえ、このままで大丈夫です』
《では、おやすみなさい》
バアルさんとは別れ、案内係の進むままに白い大理石のロビーを抜け、階段を2階へ上る。
ベッドは2つ、取り合う前にせいちゃんが壁際のベッドへダウン、残りは窓際。
外を見るとプールが見える。
入りたいが、眠い。
案内係にはチップ不要との事なので、軽く挨拶し鍵を閉め、見守り君を作動。
そのまま入眠する事に。
『おはようございます』
「おう、おはよう」
せいちゃん早起き。
窓から見えたプールはトルコで見た様な中庭に作られたプールだった。
そして気温も日本と大差無し、室内の日当たりの良い場所に淡雪を置き、交互にシャワーを浴びる。
シャンプー良い匂い、今回は本当に何も要らなそう。
『そこまで暑く無いんですね』
「なー、ちょっと期待外れ」
早速下のテラスに行くと、何も言って無いのに珈琲が出てきた、サービスらしい。
そして数日前は凄い暑い日があったが、当分は過ごし易い気温だとも教えてくれた。
優しいのでチップを渡す、期待とお礼よな。
『流石、慣れてますね』
「いや、コレはストリップバーで」
『は?』
「あぁ、前に連れてって貰ったんよ。ほら、良い匂いの名刺」
『結構です。本当に、何か国語話せるんですか』
「津軽弁と南部弁と、東京弁、沖縄はどうだか分からん」
『そう言われると南と北は凄いですけど』
「まぁまぁ、朝食どうしようか、食べ慣れてないと少しアレだと思う。多分、トルコ料理系だし」
食べるかどうかは別だと前置きし、ホテルの人間にメニューを見せて貰った。
そしてソラちゃんが訳すには、ヨーグルトソースが使われたメニューで、ナスやひよこ豆のペースト等々。
喰った事ある系統。
他にもケバブやなんやと、知ってる料理がある。
せいちゃんからは、お任せとの事なのでミートパイと前菜の盛り合わせにスープを頼んだ。
先ずは味見、香辛料がキツく無くて美味い、普通に喰える。
それを見たせいちゃんも1口、そして2口。
サムズアップ、イケるらしい。
こうなったらケバブのお店探そうかな、絶対美味いヤツあるべや。
《おはようございます、どうです?》
「バアルさん。うまいです、もっと言うとライスに乗った牛かラムのケバブを食べ比べたい、後、浴場あります?」
《えぇ、ご案内致しますよ》
「それは結構、お忙しいでしょうし。案内は他の、一般人にお願いしたい」
《分かりました、では、そのように》
『何を話してたんですか?』
「ケバブと浴場を一般人が案内してくれるって」
朝食も終わり部屋でゴロゴロしていると、ドアがノックされた。
扉越しで既に威圧感が凄いのだが、恐る恐る開く。
裸眼でも眩しく感じるのは、イケメンだからか、神様だからか。
『“おはようございます”』
「“おはようございます、一般人にソロモンさんは含まれ無いかと”」
『“合理的かな、と、ダメでしたか”』
「案内と挨拶が一遍に出来るのは分かりますけど、勘弁して下さい」
『鈴藤さん?』
「ソロモンさん来ちゃった」
『あっ、えっ』
せいちゃんが急いでお辞儀し、何を言うべきか迷っている。
オモロ。
「“あーあ、ビックリさせて”」
『“君が正直に言うからでは?”』
「“後で知る方がよっぽど、心臓とゲロ吐いちゃいますよ”」
『“蛙の化身か”』
『ふふ、スクナ彦だよ、宜しくねソロモン王』
『“初めまして、ソロモンです、コチラこそ宜しくお願いします”』
「あら、通訳不要?」
『大丈夫、そこは伝わってるから、ね?』
『“はい、ですが”』
「せいちゃんには必要だな」
『あ、すみません、何がですか?』
「通訳」
それぞれに一通り挨拶を終え、そのまま散歩となった。
朝市は普通に活気付いてるし、治安も普通。
観光雑誌通り。
0なら銃を持った警官がウロウロしてるイメージだが、それとも都心だからか、ソロモンさんが居るからか。
普通に平和。
『何と言うか、思ったより平和ですね』
「うん“普通に治安良さそう”」
『“一部地域に行けば相応の治安だけれど、ココは都市部だし、観光地だからね。一応は気を使って貰っているよ”』
「“気を使わない者は?”」
『“キプロスに島流し”』
「“からの?”」
『“砂漠で植林”』
『それは難しい問題だ』
「“ね、賽の河原じゃ無いんだから”」
『“冗談ですよ、砂漠でゴミ拾い等の清掃活動等に従事して貰うんです、集団行動と人の言い付けを聞く練習。ラクダの訓練等も行うので、まぁ、職業訓練的な意味合いもありますね”』
「“逃げ出したら死んじゃいそう”」
『“まぁ、逃げ出す自由はありますから、強制では無いと強調はさせて貰いますね”』
全部冗談なのか全く分からないが、治安が良い事は分かった。
特に目を引いたのは、殆どの飲食店などにはお金のマークが書かれている事。
そうして、最低金額が提示されている。
その時の所持金に合わせて、観光客がお店を選べるシステム。
席に付いてメニューを見て驚く事も無い。
内気にもバックパッカーにも良心的。
因みにお金マークが無いのは高級店か、一見さんお断りなんだそう。
『通訳して頂けないと、全部鈴藤さんに任せる事になるんですが』
「だって、冗談か本気か分からないんだもの。治安維持に島流し、砂漠版の賽の河原させるとか言うし」
『砂漠の賽の河原は植林ね』
「他はお店のお金マーク、雑誌にも載ってたけど。ノーマークは高級店より一見さんお断りが多いとか、そんなんよ。翻訳アプリ無いの?」
『早過ぎて途中が飛んじゃうんですよ』
「発展途上か。もう少し耐えてくれ、未来は明るい」
『“随分、進んだ未来から来たんだね”』
「聞き取りは出来ちゃうのね“そうでも無いかと。科学の発展の仕方が違うだけかもだし”」
『“興味深過ぎて地面にめり込んじゃいそうだ”』
「“等価交換、情報を自国にだけ提供するつもりは無いけど、争いの火種になっても困るから。等価で提供する”」
『せいちゃん、王様めり込んじゃいそうって』
『どうしてそうなります?』
『“等価かどうかは”』
「“ワシが決める”」
『“もしそれが不満だとコチラが言ったら”』
「“頑張って言葉で説得して欲しい、力ずくで奪えるもんじゃ無い。そんな事したら全て失われるどころか、デカい損失しか残らんよ。それを他国にも言って欲しい、交渉はそこから”」
『“どうか千日居て欲しい、夜毎物語を聞かせるから”』
「3年は長過ぎ」
『千夜一夜物語を聞かせてくれるって』
『有名なお話しですね』
「それなー、その話しに手を出す前に来ちゃったのよな、読んでおけば良かった」
『スクナ彦様はご存じですか?』
『詳しくは知らないけど、美しい女性が夜伽の代わりに話しをしたのだっけ?』
『“はい、良くご存知で、少しあらましをお話ししましょうか”』
奥様の浮気でちょっと心を痛めて、少し荒れてしまった王様のお話し。
その王様に捧げられた美しく賢い女性が教訓的物語を聞かせ、最後は目出度くハッピーエンドとなるお話し。
『凄い、ザックリですね鈴藤さん』
「マジでそう言ってるんだもの」
『賢くて美しいって、神様みたい』
『“ですね、さ、お茶にしましょうか”』
ソロモンさんの案内で、一見さんお断りのお店へ入る。
金額は良心的。
中に入って分かったのは、ノーマーク店は地元の人間の憩いの場を守る目的でもあると言う事。
観光客のせいで地元民が何処にも行けず寛げないのでは、本末転倒でもあるし、観光が落ち着いた時には結局、地元民の力によって支えられるのだし。
そこを疎かにしたらね、うん。
『鈴藤さん、何か納得されてますが』
「“良いと思います、地元民しか入れぬ場所が有っても、良いと思う”」
『“何処にでも自由に入らせると、何処までも立ち入ろうとするからね、線引きは大切だよ”』
『地元の人々専用なんだって』
『良いんですかね、そんな所に私達を入れてしまって』
「“入れて良いの?”」
『“信頼出来る者として紹介する意味も有るんだよ、逆に要注意人物なら直ぐに広まる。そう言った裏も、君の知りたい所だろうと思って”』
「“あら魅力的”」
『裏も教えてくれるらしい』
『裏って、危ないのは困ります』
「虎穴に宝があるかも知れない」
『その裏や虎の穴には、鈴藤の望むモノはあるんだろうか?』
『“そこはもう、話し合いの中で見出だせればと、思っているよ”』
「具体的な希望がなぁ、好きに何でも知れて、自由に行動できたら良いのよ。多分、そしたらまた勝手に何処かに行くから、そうやって、フラフラさせてて欲しい」
『マレビト、だね。あ、通じるのかな』
『“存じております、それこそ沢山勉強させて頂きました。一見さんお断りは、とても良いと思ったので、少し国に合わせて、こうして使わせて頂いてます”』
「“贔屓は好き”」
『“良い所は真似して、悪い所は見て直す。基本中の基本ですから”』
「“悪い所は、どこ”」
『“神々と近過ぎる事、譲り過ぎている所ですかね”』
《“悪く言うならば、引き際を間違えたのかも知れません。子離れしたく無いのかも知れないのでは、と”どうも、お邪魔しますね》
いつの間にかバアルさんが店に来ていたらしく、珈琲を持ってコチラの席へと着いた。
マジでいつの間に来たのか、周りは全く驚いてもいない。
「“それは、國譲りの話しですか”」
《“えぇ、頼れるモノが居ては自力で立つ事をしなくなる輩も、低きに流れる者も居るでしょう。ですから手を離し、距離を見つめ直す時が来ているのでは、と”》
『耳が痛いね』
「ワシも、めっちゃ気安いから気を付けないと」
《“全てと一線を引けとは言っていませんよ。そう、例えば権力の一極集中などと馬鹿らしい事を恐れる者、神の手から宝を取り上げる者、そう云った馬鹿を気に留めていては、国はいずれ崩壊する可能性も有る。所詮神の理屈と人の理屈、永遠に全ての理屈が添う事は不可能かと”》
「“歪んで見えますか”」
《“いいえ、ですが今にも歪みそうに見えます。美しい歪みだとも思いますよ、ですが、誰かの我慢で救える世界が、良い世界とは思えないんですよ”》
「“そこまでは言わんが、近い事は思っている。それは自壊にも近い事だろうから、自力で何とかせんと、只の先延ばしに過ぎないと。理屈では分かる、でも生きている人が居るから、何とかしたくなるワケで”」
『“ただ、どの道を選ぶにしても、全ては神の理屈で、神の我儘なんだよね”』
「凄い、神様らしい言い分だと思う」
『“それでも、誰かが不幸になると分かっている道は、選びたくは無いかな”』
《“その不幸も迷惑も被って良いと、そう仰りそうな人が居ますよ”ねぇ?》
『それって』
《“はい、アナタの神器のお話ですよ”》
『ダメだよ。それは、鈴藤に迷惑は掛けられないもの』
「“そも不幸とはなんぞや、迷惑とはなんぞや。忌み嫌われるだの敵視されるだのは、流転する者には意味無いし。スクナさんが喜ぶなら泥は被る、但し、実害が無い場合に限る。溶岩は被らんが、適温の普通の泥ならじゃんじゃん被る”」
『鈴藤。僕が普通の泥だと思って掛けたけど、実は溶岩だったらどうするの』
「先ず聞く、溶岩ですよって」
『聞く間が無かったらどうするの』
「“受けた方が良さそうなら、致命傷以外なら受ける”」
『怪我しちゃうじゃない』
「“死ななければどうと言う事は無い”」
《“スクナ彦神、もし彼をお使いにならないなら、私達に下さい。余りに不憫ですよ、力も篩えず役にも立てないなんて、彼が逆に可哀相です”》
「貰われちゃうぞ、良いのか」
『でも、だって』
「“条件の追加。スクナさんに神器返さないとココに移籍しちゃうぞって言ってたとか、何か圧力掛けて下さい”」
《はい、じゃあそろそろ次の場所に行きましょうか》
『“そうだね”』
『ねぇ待ってよ』
「大丈夫大丈夫、ケバブ楽しみだなぁ」
知恵の神と医神。
結局この後、ケバブ屋の前で医神が折れた。
知恵の神々は何枚かの紙をコチラに渡した後、立ち去った。
『あの、どうなったのか伺っても?』
「我々の圧勝です」
『最初から企んでたのか鈴藤、酷い』
「とんでもない、良さそうな口車に乗って転がっただけです」
『あの、具体的には』
「後で分かるから、お食べ」
ソロモンさんから渡された紙には、何軒かのケバブ屋とハマムの名前。
そして夜にまた話しをしようとのメモ、何を差し出そう。
コピータブレットで許してくれんかしら。
『美味しいですけど、大丈夫ですか?』
「何を差し出そうかと、やっぱ体?」
『ごめんね、僕のせいで』
「体は冗談なので真に受けないで貰えませんかね、せいちゃんがまた固まっちゃたじゃないの」
『だって、等価って言ってたから』
『鈴藤さんの体と等価交換する程の事を?』
「そこは多分、大丈夫、機能して無いから交換の対象にはならんと思う」
『機能って、どう言う』
『生殖。呪いか何かみたいで、僕には解き方が良く分からない』
『そんな重大な事をサラッと』
「重大では無い、呪いでも無い」
『良いの?』
「別に、生きるのには邪魔だし」
『どうして宦官の様な事に』
「付いてはいる、見る?」
『少し考えさせて下さい』
秒速で拒否られるかと思ったのに、モロに見せるのは恥ずかしい。
無理。
「やっぱ見せるのは無しで」
『いつからなんですか?健康になった筈では?』
「そこはプライベートじゃね?」
『プライベートと考えて良いんですか?』
「突っ込むなぁ、どした」
『強制や義務や、誰かの、何かしらの為にそうなったのであれば、帰還のお手伝いに対する私の気持ちが変わりますから』
「それは大丈夫、せいちゃんの想像する悪い方向では無い」
『スクナ彦様、私に詳細は省いても宜しいので、詳しくお伺いして頂けませんか?』
『うん、鈴藤は僕に何でも話してくれるものね』
「へい、後でね」
食事を終え、観光雑誌に載っていた商店を練り歩く。
名物のローズウォーター用のハーブ、ヴァクラワ等を買いハマムへと向かった。
ハマムの流儀は、ココでもほぼ変わらない。
興味津々のスクナさんは子供の姿のままで、キャッキャと楽しそうに受けていた。
そしてせいちゃんは頭を整理するので目一杯らしく、全く楽しそうでは無い。
『あー、ちょっとくすぐったかったぁ』
「大人で受けたら良かったのに」
『だって少し怖かったんだもん』
「初めてはそうか。せいちゃん楽しくない?」
『いや、どうしても鈴藤さんの話しが気になって』
「鈴藤の竜胆が」
『嬉しそうに下ネタを』
「どれにしても心配する事無いもの、信じてくれれば良い」
『信じないとどうなります?』
「泣いて岩戸に引きこもる、アマテラスさんと一緒に」
『それは困ります、鏡が2つ必要になるじゃ無いですか』
「益々引きこもるわ、もう接着剤で岩くっつけるね」
『鈴藤は美味しいご飯だね』
「あら、良く分かってらっしゃる」
お国柄もあってか、男同士つるんでいても特に何も思われない感じ。
寧ろ男女なら、そう思われてしまう感じでもある、コレは鈴藤で居るのが正解なのかも知れない。
うん、実に行動し易い。
散々に洗われて、流されて。
ホクホクのままに涼みながら、ケバブを買い漁り、ホテルへと戻った。
午睡と言うモノは実に気持ち良い。
だが、スクナさんに起こされた。
せいちゃんはまだ眠っている、スクナさんは内緒話しがしたいらしい。
『さっきの事、どうして?』
(毎月憂鬱は邪魔、酷い方だったから根本から無くして貰った。帰ったら治療でも治験でも受ける約束をしてる、コレは一時的な処置)
『そっか』
「そうです、なので内緒です」
『うん、分かった』
「あっさり」
『生活に支障があれば病気だもの』
「その認識は有り難い」
部屋に備え付けの珈琲を淹れ、暫く中庭を眺めていると、せいちゃんが起きてきた。
目覚ましを掛けていたらしく、スマートウォッチを弄ってる。
ワシも買えば良かったかしら。
『せいちゃん、体のこと聞いたけど大丈夫だった。問題無い』
『ありがとうございます、お手数おかけしました』
「ました」
お昼は中庭の片隅でケバブ祭り、配膳係に気付かれ炭酸水を頂いてしまった。
ちょっと申し訳無いのでチップ進呈。
『向こうでもこんな感じだったんですか?』
「1はね。2は普通に一般人として生活してた、国に気付かれ無い方が良いと思ってたから、こんな公に大移動はして無い」
【移動行程を表示します】
「移動行程出した、はい」
『結構移動してる』
『ですね』
「縦に長いんだもの、人里も疎らだったし」
『この、イギリスへは?』
「マーリンとかティターニアに」
『バレ無かったんですか?』
「公共機関は使って無い」
『じゃあ、飛行機に乗ったのって』
「乗ってみたかった」
『乗ってみたかったって』
「だって、何処でも行けるってバラすのは後の方が良いかと思ったんだもの」
『もうバラしてますけど、良いんですか?』
「まぁ、ココは警戒しなくても良いかなって」
『もう分かり合えちゃったんですか?』
「そこまでは言わんよ、ただ虎穴に入ったら郷に従う方なのですよ」
『何か混ざってる』
『ココの、一部での評判はご存知ですよね?』
「反対の位置に居る人からしてみたら、そうなんでしょうよ」
【移動行程に主な行動を追加しました】
『あ、仙薬いっぱい作ってる』
「あ、オモイカネさんに渡せば良いのか、コレ。制限解除して各国に配布すりゃ、説明省けるべ」
『良いんですか?無制限は危ないのでは?』
【神々への制限解除は可能です。但し、直接譲渡のみ推奨】
「1国1神、1タブレット」
ソラちゃん凄い。
マクロ組んだり、システム改造したりみたいな事出来る様になったのか、凄いけど、ちゃんと休んでる?
【はい】
なら良いんだが。
『全ての情報を配布しては、何かしらの問題が』
「今でも絞ってるし、後は信頼度で随時個別開示で良いんで無いかな」
【はい】
『鈴藤、信じてくれて無い?』
「情報は命、スクナさんやせいちゃんが知れば危ないかもだし、あえて開示して無いのとかね、信頼度とは別」
『そう?なら良いんだけど』
『我々も、コチラ側も何かを成さないといけないのかも知れませんね』
「うん?あぁ、帰還の条件ね、難しく無い?」
『難しくてもです。前回の場合で仮定すれば、そうなるかと』
「考えた事も無かったが、御使いが何か成すだけでは帰還出来なかった理由に、なるか?」
『あるいは、事象の観測者が神である必要があったとか』
「確かに、帰れてるのは神に関係してるのもあったか、でも偽ロキ関わってる案件あるけど、帰れて無いよ?」
『神としての自覚が無くては、神としての範囲には入らない、とかでしょうか』
「えー、そうなると他の神様と早めに接触して関わってたぞ?」
『或いは、能力毎に帰還の閾値が設定されていれば』
「手を抜いたり諦めたら帰れない」
『帰りたく無い者は、帰らないで済みます。承諾無しの帰還が前提ですが』
「居たかったら、ロキが救えなかったじゃない」
『そう思わぬ人間だからこそ、その位置に配置されたのでは?』
「ポーンがポーンの自覚ありきで盤に配置されたと?チェスか、将棋か、イレギュラーには不向きだろうに」
『確かに、でも逆説的になりますが、勝手に動いて良い盤面なんて有りますかね?』
「面がデカいから良いのかね?でもさ、何か指し示してくれんと時間かかるし、困る」
『時間は、盤面にとって問題が無いのかも知れませんよ』
『ねぇ、勝敗はあるの?』
「絶滅が、負け?」
『それか、一定数の人口を下回るか。でしょうか』
『ある程度の数は必要だものね』
「なら、増やすか維持に必要な某が、帰還の糸口?」
『例えばですが、鈴藤さんが見つけた蚊帳の方、死を偽装されていたと仮定するなら』
「あー、聞いて無いわソコ」
『天使の交代等による医療改革も、もしかしたら、そうなのかも知れませんし』
「一定のラインがソコなのか」
『それか、方向性でしょうか』
「それ、決まったにしてもだ、時差が」
『確実に方向性が定まったのが、その日だったとか』
「あぁ、情報規制有ったから流れは追えないが、無くは無いかも、かも」
『それでもココでの前例が無い以上は、他での前例を踏襲するしか無いかと』
「例えば?」
『他に有って、他に無い』
「んー、治療魔法とかかな」
『確かに、誰にでもは扱えませんからね』
「でもそれを教えるなんて無理よ、ただでさえ基礎の途中で他へ移動してるから、かなり我流。しかも言語化し辛いし」
『分かる』
『もう少し違う方向なのでは?』
「分からん、もう知恵熱出ちゃう」
『せいちゃん、コレは本当。鈴藤は知恵熱出す子』
『小児限定では?』
『鈴藤はそう言う子、今日はもう諦めた方が良い。鈴藤、プールで遊ぼう』
「わーい」
少し肌寒いがプールで遊ぶ。
せいちゃんはお仕事、さっきの話しを纏めてるらしい。
『お仕事して良いの?』
「だめ、アレは悪い大人の見本」
『個人的に軽く纏めてるだけですよ』
【纏めた資料をお送りしましょうか】
「纏めた資料送れるが」
『あ、はい、助かります』
「じゃあプールだな」
ソラちゃんが居ないと困る生活を変えるべきなのか、それは戻ってから考えるべきか。
戻ってから考えよう。
ただ何をするでも無くプールでだらけた後はシャワー、そして日光浴。
珈琲で体を温めたら、再び街をタラタラと散策。
観光客は疎ら、人種も年齢もバラバラ。
商売をしている人は控え目、コチラから話し掛けないと寄っても来ないのが良い、好き。
『押し売り所か、呼ばないと来ないのは少し寂しい気もしますね』
「そう?気楽で好き」
自転車屋に衣料品店、コンビニやスーパーを周ると夕暮れ間近。
夜とはどの時間帯を差すんだろうか、一旦ホテルへ戻りゴロゴロしていると、ノックの音。
扉の外にはバアルさん。
《お迎えに上がりました》
「今更ですが、服装とかどうしましょうか」
《カジュアルなお店ですので、今のままで充分かと》
「せいちゃんも?」
《はい、ご心配でしょう?》
「すまんね、宜しくお願いします」
黒塗りの高級車に乗り込む。
電子制御無しのレトロカー、だが乗り心地は良い。
日が傾き始めた海沿いを20分程走らせた所で車が止まる、案内の先には完全に管理されたビーチやプール。
その眺めの良い場所を少し歩くと、ソロモンさんが手を振っていた。
こんな所、雑誌に載って無かったけど、そうか、特に地元の金持ち用か。
『“ココに住むとかどうかな?”』
「たまんねぇ、ココに住んでるんですか?」
《彼はフラフラしてるんです、セキュリティの意味でも。国内を転々としておいでです》
『“個人的な趣味でもあるかな”』
「良い趣味ですな、今日はこのメンツで?」
《はい、通訳をとの事ですから》
『お手数お掛けします』
《いえ、あまり期待なさらないで下さいね。都合の悪い事は訳しませんから》
『僕が分かるから大丈夫』
『すみません、宜しくお願い致します』
シャンパンで乾杯、イケメンにシャンパンに幸せ。
そして食事の匂いも、良い匂い。
『“それで、ココはどうかな?”』
「良い所です、接客が特に好み。“で、どうでしたか交渉は”」
『“そろそろだと思う、彼の携帯に連絡する様に言ってあるんだけど”』
《観神さん、携帯をお出しになっておいて下さい》
『はい』
数秒後、せいちゃんのスマートウォッチが反応、そのまま電話を取った。
少し目を見開いたり、返事をしようとして口を開きかけてはまた閉じたり。
そうして最後に一言だけ、はい、と返事をし電話を切った。
《スクナ彦神の神器返還の事だとは思いますが、如何でしたでしょうか?》
『即時返還と、風説の流布により管理者が逮捕と』
「逮捕かぁ、そこは要求して無いのに」
『返ってくるの?本当に?』
『はい。噂も、不老不死は都市伝説として完結したそうです』
「お、偉いぞ河瀬、少し許した」
『本当に、何処まで分かってやってるんですか?』
「何も分らんよ、買い被らないで欲しい。流れに任せただけ、自分が責任を負えるであろう範囲内で」
『なら、対価は』
「コピータブレット。今までの情報が入ってる、但し全てでは無い。それか体でおねしゃす」
《体も対価に?》
「戦争や紛争、殺人に使わなければ貸し出します」
《あ、そう言う意味でなんですね、少しビックリしちゃいましたよ》
『“それ以外には?”』
「生殖は無理ですよ、機能が無いので」
『“前からなのかな?機能とは”』
「おや、興味がありますか。血液とかならサンプルは提供しますよ、遺伝子や細胞は少し考えたい」
《結構な対価ですよ、それ》
「そう?」
《はい。それとも、私達を配下にとお考えで?》
「いやー、まぁ、一時は考えましたけど、向こうに一緒に行けないと思うので、遠慮しときます」
《知識や技能をお求めにはならないと?》
「あ、少しは欲しいですよ、敵の殺し方とか、大型のとか大群とかをどう殲滅するかとか、そう言った事の知識は欲しい」
『“それを求めてココへ?”』
「望んで来たのでは無いんですけど、救う為の力や知識を欲しいとは思ってます」
『“その為に、流転していると考えた事は?”』
「あー、でも向こうで結構な神々とはお会いしてるので、まぁ、そうは思わなかったですね」
『“なら、実戦を望んでいるんだろうか”』
「それはまぁ、“殺しの練習すら身内でしてたので、訓練が出来たら良いとは思っています”」
『“それだと、戦争や紛争、殺人に使うなと言っていた事と反するよ”』
「“蘇生が可能ですし”。政治に肩入れしなきゃ良いんですよ、したく無い」
『“それは無理だよ、普通は軍が強化されたら、政治も変わる”』
《“アナタを鍛える為に、仮にウチの軍とやり合わせますよね?そうすると戦闘の経験は双方が得られる、それを重ねていけば”》
「“訓練になっちゃうのか、ココのも”」
《“はい、それを恐れた他国が軍事強化、果ては政治が動きます”》
「“他国との合同訓練でも?”」
《“そこに参加できない国が怯え、軍備を強化しては同じ事”》
「“そもそんな戦えないから、訓練になるかも怪しいのに”」
《0と1には大きな隔たりがあります、何の情報も無いか、接敵した事があるかどうかで大きく変わります。弱いながらも長く生きる者程、正しく怯える事が出来るのです。そして人間は未知を恐れ、取り入れるかの判断が、長く掛かるんですよ》
「“どうしたって訓練までには長丁場になると。なら、怪獣にでもなるか”」
『“映画通りなら、間違いなく総力戦で叩き潰されるけど”』
「国は連携出来るでしょう」
『“お話の通りなら、でも、そう上手く行くだろうか”』
「その話しの原典には、神様は噛んでない無い。“居るのは他の怪物、ただ潰し合うだけ”」
《“まるで神話ですよね、地上に住む者の事を考えず勝手に上陸して、そこら辺でケンカし始めるんですから”》
「なー、何でやとは思いますわな」
《蟻の事を真剣に考える象は、ほぼ居ないかと》
『あの』
『あ、あのねせいちゃん、鈴藤が怪獣になろうとしてる、ガオー』
「がおー」
《失礼しました、まぁ、その通りです》
『“命をとしてまで、何故そこまで君はするのだろうか”』
「その謎はタブレットにあるかも知れません」
『“タブレットを貰い受けると、体が手に入らないだろうに”』
「血液サンプルはあげますよ、でもクローンはダメ」
《タブレットの情報量によっては永住権所の騒ぎではありませんよ、それでもまだ余ります》
「亡命とか?でも引き渡し条約あるよね?んん-」
《死亡偽装、新規の国籍や身分証の提供、住宅や生活の保障に“お相手の斡旋と”》
『“合同訓練は互いの利益になる可能性が有るのだし、計算外としても”』
「“兵器、兵器欲しい、銃でも弾頭でも、魚雷でも良い”」
『“何処に攻め入るつもり?”』
「それもこのタブレットに」
『“んんー、体は惜しい”』
《諦めましょう。現時点でも情報が無いんですから、既に交渉は後手に回ってるんですよ》
「せいちゃんも一緒が良い、じゃないと万が一の亡命は無し」
『“君は、彼の事を分かって言っているのかな?”』
「はい」
『“礎ともなり得る可能性を奪えばどうなるか”』
「“それしか無いなら滅びれ、最大限は救うが、他は滅びれば良い”」
『“本当に憎まれてしまうよ”』
「“どうせ帰るし”」
『“そうしたら、帰還が果たせなくなるかも知れないけれど”』
「“それは困るけど、限界まで頑張って、それでもダメなら討たれましょう、それが悪で魔なら、それが命運ですし”」
『ダメ、それは嫌だよ鈴藤』
「“嫌もへったくれも無いんです、流れとはそう言うもんです”」
『“君は、だからか、そうか”』
《“腑に落ちて、諦めてくれました?どんな手段を取っても彼は帰ってしまう、皆で見てもそうだったんですから、間違いも狂いもありません”》
「帰る未来は見えてるのね、やった」
『“それでも、体は惜しい”』
《頑固ですねー》
『鈴藤が欲しいから悩んでる』
「凄い誤解を生む発言」
『鈴藤さんの軍事転用は避けて頂きたいんですが』
「それもまた凄い、何だろう、なんだ?」
《未知なる兵器ですからね、能力1つ取っても、応用すれば小さな国は滅ぶかと》
「しないよ、面倒臭い」
《あ、ソロモン王。もしかして根負けを狙ってますか?“なら、情に訴えかけた方が宜しいかと”》
『“一晩だけ”』
「“だけ、何をしろと”」
『“そこなんだ、何をして貰えるのかが分らないと勿体無い事になる、だが情報を手に入れたらその機会が失われる可能性が有るし”』
「“試しに、何をして欲しいのよ、例えばだ”」
『“砂漠に虹を掛けるとか”』
「ファンシー」
《一大事業、一大イベントなんですよ。人口オアシスに大きな虹を掛けるには、莫大な費用と時間と人件費が掛かるんです》
「神様がホイホイやったら良いじゃない」
《その神の力無しに成してこそなんです、人の手でいかに大きな事を成し得させるかが、神の導き手としての手腕が問われる。そして、それこそが今の神への信仰へ繋がっているんです》
『“神から人への間に、転生者が居てこそ成し得た事は沢山ある、そうして信仰も保てたんだ。だがその更に中間者とも言える君が居るのだから、もっと何かしら大きい事が出来る可能性が有る、ならそれを最大活用したい”』
「人の役に立つのは好きよ、楽しいとか綺麗なら尚更」
『“砂漠に虹を?”』
「掛けましょう」
デモンストレーションは明日、タブレットはその時に渡す予定。
タブレットの中身を見られて亡命が無しになっても、まぁ、虹は損にならないし。
帰りの夜景も良かったし。
お魚美味しかったし、高級なバーベキュー良かった。
あ、バーベキューコンロ。
『鈴藤さん?どうしました?』
「バーベキューコンロ、アホ程エリクサーを作りたかったねんな、それを交渉材料にすれば良かった」
『場所の提供なら、って、他にどれだけ交渉したんですか』
『せいちゃんの事、大事にしてって』
『そこまで気を使われなくても、日常会話と買い物程度なら翻訳機で何とかなりますし』
「なんだ、嫌か、見たくないのか虹」
『僕は見たい』
『凄くそそられますけど、足手まといになるようでしたら、帰して頂いても構いませんが』
「なんだ、もう男だらけの旅行が嫌になったのか、夜の街に遊びに行くか?」
『別にそう言うワケでは』
「聞いちゃうぞ、良い店聞いちゃうぞ」
『そんな、気軽にそう言う事で向こうに連絡しないで下さいよ、コッチが恐縮しちゃうじゃ無いですか』
「えー、良いでは無いか、親交を深めるにはストリップバーとか、ココに有るのかしら」
『もー、本当に聞こうとしないで下さいってば』
「なんで、見るだけでも楽しいだろうに」
『見るだけってそんな』
「見るだけでは足りないか、そうか」
『違いますってば、もー、危ないから降りて下さいよ』
「大丈夫。もしもし?バアルさん?」
【はい、そうですが。何故窓際に?】
「あれ、見られてる。だってせいちゃんが電話の邪魔するんだもの」
【そのまま同じ場所に泊ってるんですよ、斜め向かいに居ります。どうされました?】
「あ、本当だ」
相談の結果、明日の打ち上げ場所が決まった。
ダンサーの居る飲み屋との事。
『もー』
「お、怒ってる」
『そう言う場所が苦手で行った事も無いんです、しかもそれで何度、誂われたか』
「豊満な双房の何が苦手ぞ、さては貴様、平たい派か」
『っ、穢れる場所だって育ったんです、だから、そう言う所に嫌悪感がどうも』
「場所がそうじゃ無ければ良いのか、それこそ浜辺とか、中庭とか」
『いや、そこまでは考えた事無いですけど』
「そんな構える程の際どい所には連れて行かんだろ、それは流石に引くわ」
明日を楽しみに、早々に眠りについた。
『ほう』
「ほうて、ソロモンさん何て事を」
『いや、巻き込まれたのは私の方だと思うのだけれど』
「そうなの?てっきりだわ」
そこは森の中、見覚えがある様な無い様な。
アヴァロンか、そうか、なら呼んだのはマーリンか。
《正解》
「お、3人目、どうも」
『少し消耗してらっしゃる様に見受けられますが』
「無理矢理来ようとして防御装置に阻まれたんだろうに。一言、言ってくれたら良いのに」
《その一言を言おうとして、こうなったんだが》
「あら、ご苦労様です」
『それにしてもお若くてらっしゃる』
《コレは仮の姿、身体はアヴァロンに眠らせている》
「にしてもお小さい」
《ココまで幼くならねば来れなかったんだ》
「へー」
《いい加減大きくなりたいんだがな》
「同じで良いじゃない」
《お前さんが不便だろうに》
「ソロモンさん居るし」
《ほ、は、ソロモン王とは、お初にお目に掛かります》
『どうも』
「王呼びなのね、自分の所の王様に仕えてたのでは?」
《僕の王はもう既に亡くなっているからね、拘りもどうも無い》
「ほー」
《それだけか》
「おう、3つの世界の3人のマーリン、個性各々だなと思いました。」
『マーリン君は、イギリス代表として接触したと思って良いのだろうか?』
《はい》
「なんで皆、ひと手間加えるの」
『それは、すまないね。招かれなければ、触媒無しでは立ち入りすらも出来ないんだよ』
《そうだぞ、まして立ち入り禁止の脇に穴が有れば、入るだろう》
「電話とか、手紙とかさぁ」
『揉み潰されたり』
《取り次がれない事には始まらない》
「なら直接か。ソロモンさん、あの件の女性には旅行券なりをプレゼントしてあげてよ、換金率が良いモノでも良いし」
『チケットと宿泊券は無事に換金され、慰謝料代わりに受け取って頂けたと報告は受けましたよ』
「なら良いか」
《いい加減、落ち着ける場所に行きたいのだが》
「シバッカルさんの所でも良いか?」
『是非』
《あぁ、まぁ、仕方無い》
シバッカルの名を出すと同時に、目の前に宮殿への扉が出現した。
白い大理石の丸ノブを回し、扉を開ける。
そこには相も変わらず、ただひたすらに作業に没頭する者も居たが。
前の世界にあった施設が増築され、そこで遊ぶ者が数名居た。
「お邪魔します」
《何を堅苦しい事を言ってるんだい、もうココはアンタのモノなんだから、ゆっくりしていきなよ》
《どう言う、意味なのだろうか》
《あ、余所者さんはマーリンさんだったのか、すまないね。ココは私と、鈴藤の世界が交わった場所。逃げ場にして安息の地、マインドパレスだよ》
《それは知っている、何故そのクトゥルフが接触を許されているんだ》
《だって、この子は認められているからね、彼の地のヨグ=ソトースに》
『通りで親和性が高いと思いましたよ、これからもどうぞ末永く宜しくお願いしますね』
「はぁ、どうも」
《日本は不可侵条約内の国だろう》
《コチラからの接触では無いよ、もう既に得ていたんだよ、その子は》
「何か受け入れ難い感じっぽい?」
『我々が魔なら、彼は聖の位置付けだそうですからね』
「内部見学は勝手にしてくれ、それで脅威度判定でも何でもして帰ったら良いよ、合わない者同士で無理矢理仲良くするのは良くない」
《良いのか?》
「荒らさないでね」
《もし荒らせば、さっきの空鬼とか言うお守りが来るだけだ。そしてそして現界も、造作も無い事だろうね》
『だからこそ、限られた世界でのみ許されたクトゥルフなのだからね』
「それ、どう言う事なの」
《あぁ、ココのは知らないのかい》
「おう、教えて」
底知れぬ神に怯えた者が本を纏め、広め、そして実際に信仰が始まってしまった。
信仰は本から神を引きずり出した、クトゥルフの神々が現界してしまった。
海から都市がせり上がり、怪物が近くの街を壊滅状態に追い込む。
そこへ元居た神々が応戦し一帯を焼き払ったが、原典は残った。
《おう、そうだぞ。どうしても破壊出来ない原典は、コピーされ、回収が追い付かない程に広まった》
『原典を太陽に投下するか、図書館で眠らせるかの議論が行われたんだよ』
《それが嫌で我等は図書館で眠る事にしたんだ、熱いのは嫌だからね。そして人々に広まった本は改変された状態で更に広まった、そうする事で原典の力は封じられたんだよ》
「禁書扱いか」
《いや、原典以外は普通に存在してる。下手に禁書にすれば、図書館に人が群がり兼ねないからな》
『なので改変してある本が、本来の原典と違うのは内緒の話しなんです』
《神々だけの、ね。この子は良い子だから大丈夫、寧ろ他の事が気になってるんだろう?》
「転生者は、知ってるのか」
『勿論、彼等の改変能力によって安定していると言っても、過言では無いと思うよ』
《そしてアンタの知るおじさんが、手助けしたのも大きいだろうね》
「お礼を沢山言わないと」
《それにしても3人目とはな、つまらんなぁ》
「あ、君のせいで余計な情報を開示した可能性が有る、どうしてくれる」
『そうだね、少し交渉の邪魔をされてしまったかも知れないね』
《申し訳無い、介入も邪魔もする予定は無かったんだが》
「おう、どうしてくれんねん」
《先ずはアヴァロンへ》
「行くのは良いさ、で、ソロモンさんとの交渉で削れた分はどう補填すんのさ、何が出来るねん自分」
《諸々の渡航費や保証に》
「そんな小さい事で言うてるん違う、もっと大きい事なのに。あーぁ、失敗したかもなぁ、情報開示させられちゃってさ、もうそっちに亡命しか無いかなぁ」
『そうですね、ウチで引き取れなかった場合、何が何でもソチラで面倒見て貰わないと、コレは見合いませんねぇ』
《悪かった。更に何か追加させよう》
「やった」
『では、コレからどうぞ宜しくお願い致しますね、マーリン大魔導師様』
《よし、じゃあ、鈴藤の世界でも見て来て貰おうかね》
シバッカルが指差した方向に目を向けると、懐かしい家の前に居た。
そしてあの日見た光景のまま、砂漠地帯の広がる地球を見上げる。
《お前さん、アレが、敵だとでも》
「半々、良く分からん。ココはワシの家、靴は脱いでおくれね」
久し振りだと言うのに、港のおばちゃんや花街の山菜屋が尋ねて来てくれた。
そして最初のマーリンの話し、2人目の代わりにザックリ説明してくれた。
《2人目もココに来たのか?》
「さぁ?自由にしてと言ったから、来たんじゃ無いの」
『信用してたんだね』
「どうだろ、頭良過ぎて隠す方が面倒だと思った。でもコッチはなぁ」
《魔力と少しの先見だけだ、すまんかったな、こんなんで》
「別に、比べてませんし」
『まぁ、出会い方はコチラも強引でしたし、挽回あるのみですよ』
《そうですね、申し訳ない》
「次の接触は中つ国だろうって言われてたんだけどな」
『それで直ぐに渡航の許可が、成程。手出しされる前に、我々との交渉に赴かせたと』
「そんな、厄介ですか、かの国は」
《ハニートラップに》
『薬物や東洋医学は特に厄介ですね、未だに検査にも引っ掛からない暗殺薬や媚薬が有りますから。もう、いたちごっこですよ』
《検査で出無い物は、無いと同じだからな》
「神々と言うより人々まで知識が浸透してるのか、抜きん出てるな」
『匿うなら、遠くに居る方が安全と考えたのでしょう』
「淡雪すまんな、思ったより遠出になるのかも」
《良いのよ》
《妖精も既に傍に置いているのか》
「良い匂いだぞ、嗅ぐか?」
《それは流石に知っている、エンジェルトランペットだろう。しかも強烈な、原種に近いだろう》
「神様にも効くの?」
《妖精付きはな。全く、何処で手に入れたんだか》
「ナンバリング2、前の世界だ。飛ぶぞぉ」
《使ったのか》
「使われたんだバカ」
『益々興味が湧いてきましたね』
「魔王候補でも?」
《は》
『えぇ、益々、お婿さんに来ません?女の子はいくらでも用意しますよ?』
「家族は遠慮しておく」
《まだダメよ王様、こう見えて人見知りなの》
『そうでしたか、それは失礼しました』
《おい、魔王候補とは何だ》
「面倒だな、もう明日来いよ、迎えに行くから」
『そうですね、お願いします』
「じゃ、もう帰ってくれ」
《ちょ、ま》
『私は良いんですか?』
「巻き込まれただけだろうから、楽しんでっておくれ、案内はあの子がする」
空には、いつもの羽根の子。
今日見た夕焼け空を、綺麗な翼で旋回している。
《バアルさん》『せいちゃん』『スクナさん』《シバッカルさん》《淡雪》
『ソロモンさん』 国家元首の神様
《マーリン》 3人目ともなると、雑
羽根持ちの子の羽根の色や姿形は、妄想して頂けたらと思いますが。
黄色かなと思います。