4月26日
晴れ。
肘とおでこは変わらず。
夢は見なかった。
カーテンを開けられ、眩しくて起きた。
最近じゃ珍しい、日の出の時間が早くなっているんだろう。
《おはよう》
「おはようございます」
《そのぬいぐるみには秘密が?》
「宇宙の秘密が詰まってます」
《買い物に行く話しだけれど、もしロキが嫌なら予定変更は出来るよ》
「大丈夫です」
《昨日の答えは見付かった?》
「また知恵熱出そうだったので、考えるのを一旦止めました」
《ふふ、じゃあ、ヒントその2は要るかな?》
「保留で」
《うん、じゃあキッチンに朝食が出来てるからね、お好きにどうぞ》
「ありがとうございます」
心を閉ざすには良い機会だ、今日からイヤーカフ解禁。
軽く歯磨きをして、涎の跡を洗い流し、下へと降りた。
『おはよう』
「おはようございます」
洗濯物を干す神様、何とも可笑しな風景。
そして、良い様に囲われてるとすら思わず普通に暮らす神様、こう聞けば被害者感が凄いが相手はロキ。
全部作戦なのかと思うと、寒気すら覚える恐ろしさ。
朝食はオートミール、味覚が無いと凄い不味く感じる。
咀嚼するのも嫌なので仙薬を足し、飲む。
上に向かい服を着替え、身支度をして再び下へ降りる途中で、ノエルに声を掛けられた。
《敷いてあるシーツも洗いたいから、剥いで来て貰えるかな》
「はーい」
一服持ったり、大事な妖精を殺さなきゃ直ぐにでも家族になれたのに。
多分。
それとも、試練を乗り越えないと家族に成れないと思い込んでるタイプか?
試練好き?
食事の時に祈っても無いし、ネックレスも無しだし。
シーツを剥ぎ取り下へ降りると、ロキが指し示す方へと向かう。
本当にただのお父さんなのに、残念でしょうが無い。
《はい、ありがとう》
「何で妖精を殺したの」
《力を誇示する為だけ、君への威嚇攻撃。まさか知り合いとは思わなかった、本当に。試した時に君の周りを飛んでいる匂いと風に気付いた、御使いだからこそ君が気付かずに連れて居るのかと思ったんだ。そうしてタイミングが良いからと、殺してしまった、浅はかだった、すまない》
「それだけ必死だった?」
《必死だよ、今でも。怯まない様にするので手一杯だ。君がもし神なら、天罰が子々孫々と降り続くだろうからね》
「絶滅は考えて無いんだ」
《それより怖いのが、未来永劫子孫が不幸になる事だよ》
「そんな弱みを話して良いの?」
《あぁ、私の最初の償い》
「他には何を考えてくれてる?」
《私への拷問、最後には死》
「そう、お勧めの拷問を後で教えてね」
《あぁ》
そうして促されるまま玄関へ向かい、車に乗り込み。
ノエルの外見をしたロキと共に、街へと向かう。
昨日からの天気で雪は解け、道路は舗装された地面がハッキリと見えた。
道路は快適。
買い物はスムーズ、ただ。
また何処で拾って来たのかとノエル(偽)が誂われているが、コチラへの嫌味では無くノエルを心配して言っているのが分った。
誰かが軽口を言えば、誰かがフォローする。
ノエルやシオンを心配してくれている。
『最後に香水屋だね』
「おう」
香水と化粧のお店は苦手なのだが、ココは少し違ってかなり匂わない。
何とか鼻呼吸できるレベル、最初の世界のドラックストア位だろうか。
『エンジェルトランペットをお願いしますね』
花の形の香水瓶、花の縁はピンク色で上へとグラデーションになっている。
そして花の根元にあたる部分の蓋を開け、僅かに香る。
同じ匂い、化学薬品的な残り香も無し、凄い出来。
「良い匂い」
『頑張って天然成分オンリーに仕上げたんだよ。ココのお店と協力してね』
「フェミニンだから付け難いな」
『そんな事無いよ、香水に性別は付いて無いんだから。好きに付けたら良いんだよ』
「確かにそりゃそうだ。でも、お高いんでしょう?」
高かった、アールト社が好きで買いに来る客用でも有るらしい。
まして天然素材オンリー。
考え抜いての2瓶、日本円で凡そ1万円。
ラッピングは遠慮して、紙袋に入れ店を出る。
陽射しが強い、ノエル(偽)は暑そう。
「休憩する?」
『うん、そうしようか』
お昼前のオヤツタイム、買い物客も多い。
久し振りの晴天に皆がソワソワ、命を握られているとも知らずに楽しそうにしている。
オヤツはゼリー、それと珈琲を楽しむ。
味が無くとも綺麗な色のゼリーは食べ易い、後で今度ストックしとこう。
「後で追加の買い物良いですか、ゼリー作りたい」
『もしかしてまだ味がしてないの?』
「いや、暑くて美味しいなって」
『じゃあ甘いか酸っぱいか教えて』
「甘酸っぱい」
『酸味が無くて、凄い甘いんだよ』
「リンゴンベリーなのに?」
『祖父の好物だったんだ、凄く甘く煮たベリーのゼリー』
「またまたぁ、引っ掛けようとしてるでしょ」
『いつから?退院してから?』
「なんで分かった」
『私も昔になった事が有るから、表情で』
「出さないでいた筈なのに」
『だからだよ、前なら美味しそうに食べてたのに。最初は機嫌が悪かったのかと思ったけど、どうして言っ。病院か治療師に治して貰おう』
「もう少し様子見で、匂いは有るから。薬の副作用とか風邪でも良くなってたし、直ぐ治る、落ち着け」
『そうなら良いんだけど、3日待つからそれでも治らなかったら行こう』
「1週間、心配し過ぎ。死ぬわけじゃあるまいに」
『それはそうだけど』
一服盛っといて良く言うよな。
あぁ、だからか、どうして言ってくれなかったのかと言い淀んだのか。
そう、君らのせいですよと、言われたら困るものな。
珈琲とゼリーを完食し、店を出て洋菓子店でゼリーの素とケーキを買う。
そして車に乗り込んだ。
家に着くのはお昼頃だろうか。
「ただいま」
《おかえり》
「見せたい物があるんだけど、温室の鍵くれたら見せる」
《そんな事をしなくても、鍵は渡すよ》
温室まで行き、鍵が本物か開閉チェック。
本物、良いモノゲットしたかも。
「ありがと、ほれ」
昨日貰った鉢植えを見せる。
作り物とは思えない表情で驚いてくれた。
《君が?》
「宇宙人じゃ無くて天使かも知れないね」
その言葉で真っ青になったノエルを見て、先日の事件を思い出した。
普通ならこの反応になってしまうのか、気を付けないといかんな。
《すまない、本当にすまなかった》
「妖精女王と勘違いしてる?それは違うからね、もっと怖いって聞いたよ」
《君は、本当に》
「なんだろな、死神だったりしてね、死天使?冥府の神とか、本物のロキだったりして」
固まってる、そんなに驚くか。
面白い。
《だからそんなに》
「どっちのロキの話を信じてる?喰い尽くされた方?行方不明の方?」
いよいよ手が震えてる、脅かし過ぎただろうか。
演技にしたって大袈裟過ぎ、何を恐れてるんだろうか。
《君がロキなら、家に居るのは》
「考えといて、ご飯食べよう。低血糖で手が震えてるよ」
花をしまい家へと戻る、その時には既に元のノエルに戻っていた。
演技派なのは分かるんだが、戻すの早過ぎだ。
味覚が無い事がロキにもバレてしまったので、どれが1番食べ易いか探す事になってしまった。
ノエルはリビングで1人パスタランチ、キッチンではロキと共に試食会を開催させられた。
『無理しないでね』
「死なないのに、ココまでやるかね」
『死なないけど、楽しい事では無いでしょう』
「まぁ、はい」
そこまで考慮してくれるなら、温室を燃やしてくれたら良かったのに。
危ないって分かってたでしょうに、それとも医神でも無いのに薬に手を出した罪悪感?
『大丈夫そう?』
「何で花の時も薬の時も反対しなかった?」
『したけど、ごめん。上手く言ったら死ねるって言葉に弱くて』
「でも、怪我したりしてるんですが」
『最悪は私が移動魔法で医者を呼べるからと思ったんだけど、ごめん、薬を侮ってた』
「そう」
どれもコレも味がしない、試しに辛いソースを舐めたら痛覚はあった。
痛みで辛いか分かる、のが分かっただけ。
そして食べ易いのはゼリー、サラッとしたスープ、リゾット。
あるなら素麺も食べ易そう。
ダメなのはパサパサした物、咀嚼が必要だったり、ドロドロした物。
食べられなくは無いのだが、不快。
そして意外に良かったのが果物、特にリンゴ。
シャキシャキと食べる感覚と、食べなくても匂いだけで味が思い出せる程に脳に味が染み付いていたらしく、それが返って良い作用になり1番食べ易かった。
『じゃあ、リンゴのゼリーを作ろうか』
「角切りのが入ってると良いかも」
『そうだね、何種類か作ろう』
自分は、少し神様に甘いのかも知れない。
何より、妖精を殺さなかった方だから、コチラに比重が少し傾いているだけなのかも知れないけれど。
まだ断罪する気持ちになれない、加害者で有る事に代わりはないのに、共犯である事には間違いがないのに、もしトールが目の前に現れたら庇ってしまうかも知れない。
良くない、何かしらの心理的作用が働いてる。
多分、ストックホルム何とかとか、その辺の何かだ。
「任せて良い?ノエルと話そうと思って」
『うん、行って』
開け放たれた資料室の扉をノックする。
ノエルは金庫にもたれ掛かり、本を読んでいた。
「宜しいか」
《どうぞ》
「掃除は?」
《もうしたよ、後は換気だけ》
「何を読んでるの?」
《他社の、神様大辞典》
「ビビってんなぁ」
《もしそうなら計画が変わるからね、全て考え直しだよ》
「家族計画も?」
《そうだね、少し》
「そこは少しなんだ」
《君とどう共存するか、どう共存して貰うかだね。私達や、人類と》
「追われるのは嫌だから普通にするよ。もしロキでも、御使いでも。どう?何か分かった?」
《見当も付かないよ》
「なんだ、著者は絵本マニアだから頼ってみるか?」
《そうだね、お願いしようかな》
小窓へ行くと、梟の姿に折られた伝書紙が何かの紙を加える形で待っていた。
伝言が無いのか小窓から手を出すと、そこに紙を落として空へと戻ってしまった。
その紙は写真で、裏には文字が書かれている。
【親愛なるシオンへ、君が居ないと寂しいよ、養子の事はコチラでも話し合いたい、何時でも戻って来てくれ。マーリンより】
「だって」
《そうだね、戻るべきかも知れないね》
「考えとく」
【マティアスとマーリンへ、もし偽物のロキが居るとするなら、そう偽る神の候補を幾つか教えて下さい、社長からの宿題です。シオンより】
《その、マーリンと言うのは》
「魔法使いの知り合い。まぁまぁ、そう固くならないで」
《あぁ、すまない》
「御使いと認めたら、どうしてくれます?その先はどうすれば良いんですか?」
《そこはまだ少し、考えさせて欲しい》
「簡単に当初の目的を言ってくれるだけで良いのに」
《ロキの真偽が確定しない限りは言えない、目的達成にはソレを言う事は障害にしかならないんだ、すまない》
「複雑」
《そう、複雑なんだよ》
もしかしたら、本当にサイコパスじゃ無い?
安心したり悩んだり、顔色をコロコロ変えて溜息まで吐くし。
ロキの前でだけ、誰か他の人間が居る時は見せてない。
何故。
ロキをそれなりに警戒してるからか?
主導権の事がいよいよ分らなくなってきたぞ、どっちが上だ。
「主導権は君なのに、何でそんなにロキに顔色を隠す?警戒してるだけで、そこまでするか?」
《見ててくれるんだね、ありがとう》
「見られてるからな、寝室のカメラ壊したらどんな罰がある?」
《肘と言ってしまったものね、気付かないだろうと期待したんだけど、希望的観測は良くないね。罰は無いよ、プライバシーを侵害するのは家族でもイケない事だからね、私が罰を受ける方だよ》
「あ、ちょっとドアまで来て」
ストレージが使える範囲まで移動し、仙薬を少し飲ませた。
凄い眉間に皺が寄って、目玉なんか飛び出そう。
そうしてよろよろと資料室に戻り、床へと崩れ落ちた。
《何の毒なんだい?》
「何でしょうね、味はどう?」
《最悪だ、腐った山羊の腸を食べたみたいに臭い、エグい、酸っぱい》
「魔力容量を越えるとどうなる?」
《下痢嘔吐、頭痛に眩暈、それと全身の関節が痛む》
「あら、結構酷いね。そこまで酷いの初めて聞いたかも」
《亜人で魔力容量があるからね、その反動か反作用なんだろう》
「見たいな、亜人の姿」
《分かった》
おもむろにベルトを緩めたかと思うと、目を塞がれた。
それは一瞬の事で、手をずらした先には黒く艶やかな獣毛を生やしたノエルが居た。
「触っても?」
《あぁ、どうぞ》
人間の耳と狼の耳、両方ある。
髪は金と黒のコントラストが格好いい、触り心地もふわふわ。
金色の目に黒い睫毛、かなり印象が変わる。
そして尻尾、念願の尻尾。
ふわふわ、尾てい骨から生えている、ぶっちゃけ少しエロい。
「他に知ってるのは?」
《ロキと例の医者とサラだけだよ、もう良いかな》
「ダメ、尻尾はやっぱくすぐったいのか」
《いや、耳の方がね。それも有るけど、恥ずかしいんだ。人に見せたのはサラと祖父だけだから》
「ずっとお祖父さんと?」
《いや、変身できる様になるまでココで育ててくれた、それからは親元でサラに協力して貰い、寮へ行ったんだ。最初2人は私を拒絶したから、仕方が無かったんだ》
「そうか。それにしても本当にフェンリルと毛並みがそっくり、きっと人間に変身出来たら、こんな感じなんだろうね」
暫く尻尾を堪能していると、パタパタと小さな音が聞こえた。
絨毯には水滴の跡、何処に泣く要素が有る。
何でだ。
親の事か?
《本当は、君がロキなのか?》
「御使いとロキに関してはイイエを貫く、ハイと言って良い事が無い限りはね。まぁ泣くなよマイファミリー」
なんだ、そっちか、ビックリした。
マジでビビりの演技が過ぎるだろうに、なんでこんなオーバーリアクションなんだ?
アレか?男の子の日か?
それか、定説や常識がひっくり返ったからか?
この書庫で読んだ精神科系の本に、サイコパスには長期計画は不可能と有ったし。
サイコパスだからこそ、計画破綻して悔し涙?
《もしアナタがロキなら、余りに大きな間違いをしていた事になる。そして計画は完全破綻、それが恐ろしいんです》
「まだ結論を出すには早いんで無いの?何せ、もし偽物なら偽ってる神は誰かって事になるんだしさ、そこを考えて恐怖を凌いでよ。大丈夫か?ハグでもするか?」
暫く顔を覆い隠すと、スッと表情が消えた。
《あぁ、はい、もう大丈夫です》
確かに涙は止まったし、表情や雰囲気も落ち着いた。
でも、何でこんな急に変えられる。
「それ、魔法?」
《はい、流石ロキ神ですね》
「いや、それややこしいからやっぱり宇宙人にしとこう。で、そんな抑圧するには理由があるんだろうけど、今回の事に関係する?」
《はい》
「そっか、辛く無いの?反動は?」
《魔力消費が多いので、エリクサーの調達が大変な位ですよ》
「だから教会関連の嫁か、しかも科学者一家なら薬物の情報も得られるし」
《その通りです》
「愛は、いいや、話を戻そう。整理したいんだけど、家族になるって話しはどうする?宇宙人でも良いの?」
《こんな事になってもまだ、協力して頂けるんでしょうか?》
「おう、ロキの事が気になるから」
《分かりました、ありがとうございます》
「換気終わるまでモフモフの刑な」
キーワード的には。
ロキ、平和、若しくは世界平和、家族、なんだコレは。
コチラの都合の良い想定なら、ロキのルールに合った殺し方をしようとしてくれている。
都合が悪い方は、本当に家族として取り込んで良い様にする。
後は、何だろうか。
情報が足りないけど、マーリンは何某かを予測出来てるんだろうか。
それとも、妖精の事から既に想定を越える何かが起こってるのか。
もう、皆で協力すれば良いのに。
《あの、そろそろ》
「だめ、何か協力して欲しい事ある?誰か必要?」
《当初の予定ではアナタだけです。あの、そろそろ仕事に戻らないといけないんですが》
「あ、どうぞ。口調は戻してくれ」
《はい》
ノエルが元の姿に戻り、ベルトを閉めて戸締りをした後、資料室の部屋を出て行った。
服を直してる所を傍から見たら、凄い誤解されるよな。
資料室の鍵を閉め、中庭を見る。
ロキが日向ぼっこしてる。
何だか、引っ搔き回しただけな気もしてきた。
冷蔵庫に作り置きしてあったアイスコーヒーを手に、中庭へ。
「ねぇ、家族って何?」
『あ、え?』
「血が繋がらなくても」
夫婦か。
ならロキが息子や娘にあたるとは何だ、吸血鬼みたいに血でも入れるのか?
でも害さないと言ってるし、盛った以降は特に無いし。
『あの、質問が良く分らないのだけど』
「いや、ノエルのクイズがね。家族って何?ってなって、まともな家族が居なかったから、良く分らない」
『私で言うなら、看取りたい、看取られたいって思い合える相手。側に居て苦痛を感じない相手かな』
「息子は看取りたいと思わんけど、良い親なら看取りたいと思うけど」
生かすも殺すもシオン次第とも言ってるなら、単純にどちらを選ぶかなのだろうか。
愚息なら殺す=看取る覚悟があるか、無理なら手を出さないか?
逆か?
正解はどっちだ?
でも、それだとやっぱり息子の解決にならんし、答えに何か足りない?
『そんなに難しいクイズを?』
「いや、うん、難しい。見た目年上を息子は、キツい」
『低年齢化も出来るけれど』
「いや、可愛くなられたら殺しにくいからヤメテ」
『ならせめて、同い年位にしようか?』
そうか、夫婦じゃ無くて恋人か、ロキは性別変えられるし。
息子を恋人の様に可愛がるとか聞くし、マジか、そんな風に見られてたのか?
でも違うか、それならメスロキで出会わせた方が良いし、となるとコッチが性転換させられる?
え、困る。
「困る」
『あ、うん、分かった』
「性別は変えられる?」
『うん』
あー、ダメだ、どうする。
困るから違う仮説を立てよう。
何で兄弟じゃ無いんだ?
いや、言って無いだけで兄弟は除外されてないのか。
兄弟の神話と言ったらアベルとカインだろう、なら殺す。
子供なら、殺す。
親なら、殺す。
全部神話的には殺す対象じゃんか、なら恋人や夫婦は?
殺してるの有るぅ、全部じゃ無いけど。
ロキルールが有るなら、身内となって御使いか何かが殺すって事か?
ややこしい。
ややこしいからこそ、有り得る。
でも、それだけか?
それでも足りないから、ココまでの事をするんだろう?
違うのか?ソレだけか?
「うん、わからん」
『お菓子食べる?』
「食べる」
原点に返って、ノエルの当初の計画を考えてみよう。
御使いを家族にして、ロキを生かすか殺すかする。
だけか?
まだ何か隠れた条件がありそうだけど、何だ。
花が効いてれば、薬が効いてたなら、2回目の薬が無かった。
そして多分、妖精も殺さなかった。
自分のせいだ。
イレギュラーな事をしたから、最初から薬が効かないと分かってれば、向こうの行動がまた変わった筈だし。
治さずに居れば、ロキに気付かれなければ。
どうしてロキは気付いた?
脈拍も何もかもコントロールした筈なのに、どうして気付いた。
『はい、どうぞ』
「薬が効いて無いと、何故気付いた?」
『ごめんね、一瞬、意識が有る気がしたんだ、前にも見たから。でもそれはココに来た子の、親や恋人からの洗脳を解く為で、でももしあの場で言ってたら、ノエルへ不信感が行くと思って』
ロキにも鈴が効かない、嘘が全く分らなかった。
心を抑圧する魔法をロキも使える?
ノエルはロキから教わった?
何故、それを言わなかった?
まだ家族試験継続中だからか?
何で、どうしてそこまでする。
本当の家族になる為?
「ノエルは家族?子孫?」
『息子の様に思っていた時もあるけれど、今は孫の様な感じだと思ってるよ』
遠いな、だから近く感じられそうな者を探した?
余所から?
「ノエルは、亜人の姿じゃ無いとダメ?」
『違うんだ、離れてる時間が長過ぎたみたい。久し振りに会った時にはもう、すっかり大人になっていて、まるで別人の様で。元々ココはノエルの祖父と私の家なんだ、だからなのか、余計に孫みたいに遠く感じてしまうのかも知れない』
「そんなに変わった?」
『そうだね、無邪気な子供が愛想笑いを浮かべたら、遠く感じてしまうよ』
「それでも、少しは歩み寄るべきでは?」
『ね、どうしたら良いんだろう』
知らんよ、分からんよ。
楽しいかロキ、グダグダと馬鹿が悩むのを見て楽しいか?
どうせ心を読んで。
「あ、この子に加護与えた?」
『うん、ノエルの友達に良いかなと思って。蛇の亜人だし、少しだけ』
「何をあげた?」
『読心術、聞こえる様にしたんだけど。もしかして何かあったの?そのせいで苦しんでる?』
「いや、ただロキの事を覚えて無いから、加護をくれた神様にお礼が言えないって」
『お礼なんて良いのに』
「等価交換で未だに未婚ですけどね」
『え、あー、制御の仕方は教えた筈なんだけれど』
「ゴッソリ忘れてたそうですよ」
『久し振りに使う魔法だったから加減を間違えてしまったのかも、悪い事をしちゃったね』
「本人の問題も含んでるでしょうから、気にしなくても大丈夫でしょ」
『そうだと良いんだけれど』
「他に何人に与えました?」
『500人位かな、アールト家を除外してね』
「ロキ独断のは?」
『200位だと思う、あ、危ないのは与えて無いよ?』
「読心術でもかなりのものですよ、もしかして読んでます?」
『雰囲気は分かるのだけれど、具体的には何も見えないし聞こえないよ』
「昔は?」
『大昔でもそう、ただ予想は良く当たった。今は全然だけれどね』
「もう、それも嘘かも知れないと思うと、全てを疑ってしまう」
『ごめんね、嘘を見抜く魔道具が私に使えたら良いのだけれど。自殺衝動を抑えるのに魔法を使っているから、無効化されてしまうんだ』
「それを解除したら死んじゃう?」
『魔法を重ね掛けして、何十年も解いていないから、どうなるか分らないんだ』
「魔力が切れたらどの道ヤバいのでは?」
『だから重ね掛けをしてるんだよ、効果は残るからね』
「ワシも出来るかな」
『何を抑えたいの?』
「え、感情全般」
『難しいよ?普通は定期的に解除しないと反動で暴走してしまうし、余りお勧めしないな』
「アールト家には教えてるんでしょう?商売に役立つし」
『逆だよ、アールト家が教えてくれたんだ』
「だとしても、どうしてそんなにアールト家に尽くしてるの?」
『君は薬を盛られたから不信感が有るのだろうけれど、神として敬ってくれるし、間違えた事はしないのがアールト家なんだ。私の死への協力にも、惜しみなく金と時間、知恵を搾ってくれるから。だから期待と希望と信頼があるんだよ』
「マジで君が気に食わなかったら逃げ出せるしね」
『君もだよ、ノエルはあんな風に言ったけれど。君が家族になれそうもなかったら、手を引くと思う』
「無事にか?どこかしらで強請のネタを掴んでるだろうに、全く安心出来んが」
『強請ったら、強請返される事まで想定しているだろうし。そこの取り決めはキチンとする筈だよ、だから今までゴシップも無かったんだし』
「確かに、上手くやってるから何も無かったんだろうけど、今回はどうかね」
『強引だよね、焦ってるみたいに』
「病気でもしてるのかね」
『それは無いと思う、体重や食事量の増減は無いし』
ノエルに訪ねたくとも、今は仕事中。
でも、仕事中でも話せる人だしなぁ。
「じゃあ何だろな、老いかな」
『君よりは年上だけれど、彼はまだまだ元気だよ』
「じゃ無いと困るものな、ダニーとマリーが居るんだし」
そこから解放したいんだろうか。
ロキを管理する役割からの解放。
で、自分が出来そうだからする?
ロキをロキと信じて?
『いくら春でも、こんな所で寝たら冷えるよ』
「おう、ちょっとベッド行ってくる」
『うん、シーツは1番下の引き出しにあるからね』
忘れてた、干してたんだった。
2階へ行き、雑にシーツを敷いて寝転がる。
掛け布団が無いと少し寒い、折角だしお気に入りの毛布を出してみる。
落ち着く。
夕飯の少し前、陽が傾き始めた頃に目が覚めた。
干してあった掛け布団が掛けられ、ベッド脇の椅子には乾いたシーツが置かれていた。
どんだけ安眠したのよ自分。
下へ降りるとロキが薪を暖炉へ入れていた、信頼だけでココまで神がこき使われる事があるんだろうか。
出来ない、気が引けちゃうかも。
どんだけ肝が据わってるのよノエルは。
中庭へ目をやると、梟の伝書紙が手紙を咥えて待って居た。
前と同じ子っぽいが、こう使い回すかね、天才か、マーリンか。
手紙には一言だけ書かれていた。
【君なら分かる】
バカか、それが聞きたかったのに。
探られても良い様な返事なのは分かるが、ヒドイ、これは酷いよマーリン。
本当に酷いよな、スズランの君よ、花を飾ろうか。
ロキから小さな花瓶を借り、枕元の窓辺に1輪花を差す。
それと洋菓子店で買った花の形の小さなお菓子と、鈴蘭の形をした白いベルを置いた。
マーリンがティターニアにお願いしてくれてれば、もしかしたらもう生き返ってるかも知れない。
もしかしたら、もう元気に何処かに植わってるかも知れない。
出来たら最初の家に戻って、静かに楽しく暮らしていて欲しい。
ただボーっとカスミソウを見ていたら、背後でノック音が聞こえた。
ビックリして振り向くと、ノエルだった。
「ビックリした」
《すまないね、祭壇を作ってるのが見えたから》
「どうやって」
《カメラから》
「あ、止めろとは言って無いものね」
《そうだね、止める?》
「いや、良い。偽物のロキに殺されない様に見てて貰わないといけないし」
冗談のつもりが真っ青になり始めた、良く動揺する様になったな。
魔法が剥がれ掛けているんだろうか。
《あ、いや》
「冗談だってば、エリクサー要るか?」
《持ってるのかい?》
「君、飲んだじゃない」
《あんな不味、いや、凄い味のが》
「そう、知り合いから貰った」
《そうか、なら幾らか払うよ》
「宇宙人は相場を知りません、適当にくれ。つか何だと思って飲んだのよ」
《嫌がらせの為だけに、そこらで摘んだ雑草やレモンの搾り汁》
「まぁ、味はそうだけど。溢れさせようと思って飲ませたのに平気そうだし、そんなに消費する?」
《感情全般への魔法だからね、強い衝撃を受けると膜が剥がれる様に解けてしまうんだ。都度重ね掛けしてるんだけれど、そろそろリセットするよ》
「反動ってどんなん?」
《直近に起きた感情が強く出る、今回は恐怖だろうね。落ち着くまで迷惑を掛けるだろうけど、気にしないでおくれね》
「ごめんよ、少し誂っただけなのに。ほら、コレ貸すから落ち着け」
《肌触りが良いモノが好きなんだね、ありがとう》
「おう、落ち着くよ、好きにしたまえ」
さっきまで使っていた肌触りの良い毛布の替えを貸し出し、一緒に下へ降りると夕飯が用意されていた。
具沢山の野菜トマトスープとフライドポテト、デザートはミルクプリン。
一緒に食卓に着かされるかと思ったが、キッチンで良いらしい。
ノエルはまた1人、コッチにはロキ。
『どう?』
「まだだけど、食える」
『うん、良かった』
「ノエルのとこに行きなよ、寂しそうだぞ」
『君が人と食事するのに慣れて貰いたいから、先ずは私』
「良い大人なのに、毎回誰かと一緒じゃないといかんのか?洗い物ならやるぞ、食洗器に入れるだけなんだし」
『何処かで1日1回は顔を合わせる時間が有った方が良いってノエルが、ならフィーカは?』
「それは大丈夫、そっちの方がありがたい」
『じゃあそうしよう』
午後3時のフィーカに家族で集まる事が決定された。
家族のステップ的には問題無いのだが、ゴールが見えない。
家族になれたと思える時がロキに来るんだろうか、来なければ殺処分か放逐か。
食事を終え、後片付けをし中庭で一服。
そうしてノエルの仕事部屋へ向かった。
「確認したい、ノエルはどの立場?お父さん?」
《そうだね、親戚でも良いよ。希望が叶うなら、父親の様なものかな》
「お父さんや、何で焦って行動した?」
《知り合いが死んだのと、子供の事。そしてイレギュラーが多くて焦ってしまった、薬の効きが悪かった時点で。花まで効いてるかどうか不安に、それと目の事とケガ。どれも初めての事だったからね、リカバリしたかったんだ》
「それだけ手放したく無かった?」
《あぁ、君は自分を無能だと言っていたけれど、私にはとても有用なんだよ》
「そう。相談相手を手配しようか?良い占い師が居るよ」
《占いは余り信じないのだけれど、相談した方が良いだろうか?》
「そうだね、心の準備が出来たら言って」
《あぁ、そうさせて貰うよ》
「カメラもマイクも無い所は?」
《私の私室、奥の部屋だ。それとバスルームや湿気のある場所には無いよ》
「サウナ無いの?」
《あぁ、入りたいならプールの横にある、準備しようか?》
「うん、入らないの?」
《最近は入ってないね、入ろうか。今から準備すれば仕事後に丁度良くなるよ》
ノエルに付いて行くと、2階の奥にプールがあった。
しかもインフィニティプール、テラスまで完璧。
「デカいとは思ってたけど、マジかよ、凄い、ジャグジーまで有るし」
《宇宙人にも喜んで貰えるとは、早く見せておけば良かったね》
「そうだよ、どれだけ余裕無かったのよ」
《すまない、こう喜ばれると、何故焦っていたのか分らなくなりそうだ》
「物欲無さそうだからかな、家も土地も要らないし。それなのに、ある意味即物的だし」
《そうかも知れないね、よし、出来た。プールに入るかい?それなら少し準備が必要なのだけど》
「あー、フィンが無いと泳げない」
《ふふふ、宇宙人は泳げないんだね》
「そう、泳げない。温水に出来るの?」
《出来るよ、フィンも私のが有るから、道具はそこ、好きに使っておくれ》
「やった」
そのままテラスで星空を眺めてから、中庭への階段を降り煙を吸い込む。
ラウラだったら出来ない事。
酒も飲めるし裸でウロウロしても怒られない、化粧もしなくて良いし。
やっぱり、ラウラに戻る理由が無い。
向こうに戻れても、このままで居させて貰える様にお願いしようか。
それとパイプカット。
1本吸い終わり、暖炉の前に行き久し振りのストレッチ。
すっかり固まってしまったので、痛覚を切り無理矢理伸ばす。
腱を傷付け無いギリギリまで伸ばして治す、チートだ、ズルっこだ。
でもズルしないと戻るんだもの、仕方無い。
全身くまなくストレッチし終えた頃には汗だくに、それでもノエルの仕事が終わるまで更にストレッチ。
大人になって初めて開脚からのうつ伏せで床に顎が付いた頃、ノエルが仕事部屋から出て来た。
《筋トレを?》
「ストレッチ、終わった?」
《あぁ、タオルや寝間着を用意するから先にシャワーを浴びてておくれね》
「あいよー」
プールサイドのシャワーブースで体を流し、タオルを腰に巻いてサウナへ入った。
ウチのサウナと同じ位の大きさ、大人2人が横になれる。
ハンドタオルを枕に横になっていると、水の入った木桶を持ってやって来た。
タオルを巻いてくれてて助かる。
水桶には白樺のエキスも入っているらしく、装置に掛けると良い匂いが広がった。
《ロキは後で来るらしい、外に水差しも置いてあるからね》
「そう。今日リセット出来そう?無理そうなら実験したいんだけど」
《痛いのは困るな》
「ビビり、痛くしないよ別に」
《実験内容を聞いても?》
「秘密、場合によってはリセットし易くなる」
《分かった、受けよう》
何て事は無い、壺を出し仙薬をがぶ飲みするだけ。
そして溢れた時の影響を観察、コチラの精神に影響されるのか、ノエルの精神が増強されるのか。
上手く行けば魔法でガードされた状態を崩せる。
ノエル、そんな奇異な目で見ないで欲しい。
「ほれ、君には美味しいのあげよう」
噎せてる、ワロス。
今度は普通の蜂蜜酒、少し警戒し、匂いを嗅いでから飲んだ。
《美味しいね、さっきのは強烈だけれど、体がポカポカしてきたよ》
「だろう」
思ったよりも魔力を使っていたのか、何杯目かの仙薬で魔素が溢れる感覚があった。
問題はココから、神の血が出るのか人間の血に影響されるのか。
《何だかフワフワして来たよ、酒には弱くない筈なんだけれど》
「楽しい思い出の話しをしてよ、ノエルが面白かった話でも良いから」
《そうだね》
子供の頃、寮になんとか慣れた頃に部屋替えが有り、話した事も無い子と同室になった。
勉強はギリギリ、運動の成績もギリギリ、素行は悪く無いが少し変わり者扱いされている子。
その子は絵を描くのが上手で、美術だけはズバ抜けて良かった。
同室になったのだし勉強を教えないとなと思って過ごしていると、彼がワザと答えを間違えている事に気付いた。
理由を尋ねると、画家になりたいからだと。
彼の家も金持ちで、しかも金融関係、美術とはかなり遠い職業。
そこで彼は姉と弟が居るので、姉か弟に継がせて自分は美術関係に行くんだと、だから落ちこぼれに見せて、生きたい道筋を作っているんだと答えた。
お互いにまだ10才、衝撃的で絶句した。
自分なんかはただ祖父の様に本に関われたら良いと、ただ漠然と考えていただけなのに。
何て彼は凄いんだ、初めて追い付けそうも無い人間、自分より凄い人間に出会ったと。
神様に会ったんだと思った。
それからは更に本を読んで、沢山勉強して、彼の絵を売るには人脈が必要だと思い、友人を沢山作る様にした。
そしてあっという間に1年が経ち、部屋は別々になってしまったけれど、一緒に図書室へ行って勉強したり、どう間違うのが自然か相談し合ったりして過ごした。
そして進学を選ぶ時、彼はそのまま美術の大学に、自分は社会学に進んだ。
そして社会に出ても彼は描き続けた、例え売れなくても。
でもお姉さんが事故で社長を続けられなくなって、彼が継ぐ事になった。
反対してた者も居たけど、元々お姉さんの相談相手になってた事、業績を伸ばした事で手のひら替えし、オマケに絵も売れ始めた。
彼が社長になった次の年、夏休みにキャンプに行き、何処まで計画通りなんだと聞いたら。
大学に行ってから全て予想外、売れないのも計算外だったと大笑い。
あぁ、君も人間だったんだな、と零したら、また大笑いされた。
君の方こそ勉強も運動も出来て本当に人間なのかって、そう思っていたと。
しかも実は彼、本当に運動音痴だったらしい。
そうしてお互いに神聖視してた事を打ち明けて、それ以来毎年夏を一緒に過ごす事になった、女に振られても何をしても、ずっと続けようと。
「親友かぁ、良いなぁ」
《まぁ、そのせいなのか彼は未だに独身で、長続きしないのはアナタのせいよって、彼の昔の女に殴られた事も有るよ》
「ゲンコか、凄い嫉妬やな」
《ふふ、私も彼も女が好きなのに、良く恋人だ何だと噂されてね。噂好きの男に仕返しにと彼が口説いたら、本気にされて。ふふふ、大変だったよ本当に、彼の周りには面白い人間が集まるんだ、ふふ》
それからは彼の大学での出来事をまるで自分が体験したかの様に、とても楽しそうに話すノエル。
畜産系の大学にスケッチに行って、荒くれ馬を乗りこなそうして怪我をして、入院先で車椅子なのに口説き回る。
モデルを頼んだ子に振られたと言っていたのに、何故か家がバレて追いかけ回されるようになったり。
悪戯描きで捕まりそうになったのを、講釈を付けて有耶無耶にしたり。
頭良くて無邪気は無敵だ。
「女癖」
《向こうの言い分としては、3回は口説くべきってね。凄いビックリしてたよ、ふふふ》
「楽しい友人よなぁ」
《あぁ、ずっと笑ってられる程にね、ふふ》
「リセットしてみない?エリクサーもあるし」
《そうだね、そうしてみようかな》
口元を両手で抑え、何かを詠唱した様子は有ったのだが、それ以降の変化は無し。
コレでもし反動が抑えられるなら、ロキにも効果が有るかも知れない。
「いい加減暑いな」
《よし、出ようか》
出て直ぐに、ノエルがタオルを取りプールへと飛び込んだ。
マジか。
「心臓に悪い」
《気持ち良いよ、おいで》
ザバザバ泳いでる。
ハイだ、かなりハイになってやがる。
タオルを近くの椅子に掛け、一気に頭まで入る。
気持ち良いけど、心臓がキュンとした気がする。
直ぐに上がってタオルを腰に巻き直し、水差しの元へ向かう。
陽が出てる間なら暖かいのに、夜は冬に逆戻り。
水差しの水を飲み、ノエルを呼び戻す。
「ノエル、お水飲まないと」
《あぁ、今行くよ》
目を逸らすのはシオン的には違うので、そのまま病気や怪我が無いかチェック。
少し懸念していたガンも何も無しで一安心、本当にイレギュラーまみれで焦ってしまったのだろうか。
「健康そうやね」
《一応は気を付けているし、健康診断もキチンと行っているからね》
「えらい」
そうして再びサウナへ戻ると、ノエルが再び手で口元を覆い呪文を唱え始めた。
先程より長く目を瞑りながらの詠唱、集中力が要るんだろうか。
《ふう、ありがとう》
「じゃあソレ教えて」
《文字にしないと私が君に魔法を掛ける事になるから、後で紙を渡すよ》
「良いのか、そんな危ない魔法」
《親密で無いと掛かりが悪いし、呪文の途中で聞こえなくなれば問題無いよ》
「何にでも抜け道はありますものな」
《そう、何処かに必ずね》
「重ね掛けした?」
《数時間は開けないと意味が無いんだ、心の膜だからね》
「牛乳の薄い膜みたいな」
《そうそう、ふふふ》
明るく朗らかで何より。
ノエルに仙薬1杯を何回かに分けて飲ませた所で、頭痛が発生。
気のせいだと誤魔化しながら吸い取り、一緒にサウナを出た。
そしてノエルはそのままシャワーを浴びに行き、戻って行った。
すっかり冷えてサウナに入るとロキがやって来た。
全裸で。
「巻いてくれ」
『ハンドタオルで良いなら』
ロキがエリクサー断食しても、多分強制摂取は可能なんだよな、ココでなら。
まだしないけど。
「飲む?」
『私の事をまだ、ちゃんと話せてないから』
「嫌われると思ってる口振りよな」
『それよりもっと、嫌悪されたり蔑んだり、したくなると思う』
「なんで」
『卑怯者だから』
「何を今更、卑怯者こそロキでしょうに。まぁ良いや、倒れたら飲むんでしょ」
『うん』
「毒って嘘ついたら?」
『口に入れたら解るもの』
「お菓子に混ぜる」
『それはあの味で分かっちゃうと思うけれど』
「あー、誤魔化す方法はあるが。なぁ?どうなったら家族?もう家族?」
『そこだよね、難しい。私は思ってても、シオンが思って無いのなら、家族じゃ無いと思う』
「家族を家族って思う時って何?何時?」
『シオンは?』
「無かったから聞いてる、思い返せば返す程に嫌な記憶しか蘇らない」
『同じ本を読んで同じ感想が出た時、好みの食べ物が同じだった時、同じ時が多いと家族なんだなって思える。それと似顔絵、ノエルが小さい時に描いてくれてね、お祖父さんの絵だけだと可哀想だからと、私も描いてくれたんだ、本能的に機嫌を取ろうとした行為だとしても、嬉しかった。家族なんだって思えたんだ』
「そういうのは、同じ事を言ったりしたりすると、真似するなって否定されたからなぁ」
『それは中々、強烈な親御さんだね』
「ね、ましてこの状況は信頼が崩れてるから難しいよなぁ」
『そうだよね、ごめんね』
「友達から家族は有りなのかな」
『私はあると思うよ、現にアールト家は友人であり家族だと思っているし』
「お互いに責任が有るからか」
『うん、そうだね』
そしてそのまま外へ出て、中庭へ降り、コートを羽織って一服。
吸い終わり頭がキンキンに冷えた頃、またサウナへと入った。
ロキは泳いでた、しかもノエルと同じ泳ぎ方。
そして暖まってから、シャワーを浴びて布団へ入った。
《ノエル》『ロキ』