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4月16日

 奇跡的に悪夢を見る事無く起きられた。

 マーリンのお陰なのか、ソラちゃんのお陰なのかは分らないけれど、爆睡した。


 今日も晴れ、計測は。

 低値。


 昨晩の計測では中域だったので、ストレスが原因と思われる。

 早速仙薬をコップ1杯飲み、下階へと降りる。


 画面には昨日の死者数、205人と数字が出て居た。


《ごめん、おはよう》

「大丈夫、おはよう。お茶漬け食べる?」


《うん》


 レーヴィは隣に洗濯をしに出向いているらしく、お昼には終わるらしい。


 マティアスも休暇だそうだ、患者が一時的に減ったので職員も一時削減との事。

 有給消化なので、誰にも金銭的な負担は無いらしい。


「なら良かった、上手く回ってそうで何より」

《医師資格の再試験も、私、出来るって》


「早いなぁ、もうそこまでいってるのか」

《でも、迷ってるんだ、結局はそこまで変わらないし》


「変わる部分は?」

《やっぱり大きいのは診断と手術かな。でも、この年から手術の技能で追い付くって、難しいと思うんだよね》


「年を理由に諦めるか」

《そうだね、昔なら喜んで飛びついたけど》


「でもさ、自分より経験も知識も浅い医師にこれからもホイホイ付いてける?そういうのがどんどん出て来るかも知れんのよ?それこそ自分が正しくても、医師の判断には敵わないんでしょ?嫌じゃ無い?」


《それはまぁ、そうなんだけど》

「じゃあ受かるまで書くの禁止。はい、出来た、どうぞ」


《えぇー……美味しい、サラサラのリゾットだ》

「さっぱりサラサラリゾットか、なるほど」


《リタのスープとかもこんな感じだけど、飲み易いね》

「美味しい飲み物、夏の朝は冷やした水で作って食べたりする。胃には悪いけど」


《ふふ、お腹がびっくりしちゃうけど、脱水には良いかも》

「風邪の時にね、良く食べた。お粥よりコレ」


《じゃあラウラが熱を出したら、コレね》

「よろしく」


《ねぇ、さっきの話しは》

「だめ」


《あの着物の人は》

「それはマーリンに聞いて」


《ねぇ》

「嫌な話しになるよ?それでも良いの?せっかく皆がお休みなのに」


《お休みだからだよ、じっくり話すのに仕事があったら集中できないでしょ?》


「父親に、風邪は休みの時にひけ。面倒な話を休みの日にするな、と躾けられまして」

《凄い無茶を言う人なんだね》


「ね、だからそう言う話を休みの日にするのは気が引ける、苦手、だからいつか話すから待ってて」

《うん、分った。でも、何時でも話して良いんだからね》


「おう」


『あ、おはよー。サウナ入る?』

「お、入る」




 マーリンと共にエリクサーで満ちたサウナへと入る、心なしか吸い込みが良い気がする。

 なんだろうか。


『エリクサー飲んだ?』

「昨日飲んだけど、今朝は低値になってた」


『ストレス反応だよ、もー、レーヴィとちゃんと話せた?』

「話したよ、何れはマティアスにも話すか、って事にはなってる」


『あーそれで、でも別に話さなくても良いんじゃ無い?そんなストレスに感じる程は重要な事じゃ無いと思うんだけどなぁ』

「神様程では無いけど、それなりに崇め奉られてるから、せめて正直に話そうと思いまして」


『だからって君が話さなくても良いんじゃ、あ、伝書紙』

「お、蘇生要請かな」


『よいしょ、うーん』

「なに」


『要請3人、だけど団体が絡んでるって』

「あー、不得手、任せた」


『審査するって、まぁ、落ちると思うけどね』

「なら今日は休みか」


『良いの?動いてたいなら方法はあるけど』

「この世界のルールと道筋に甘える、皆が休みは貴重だし」


『うん、じゃあ私を甘やかして』

「なに、どうして欲しい」


『蜂蜜酒が飲んでみたい』

「あ、失念してた」




 マティアスを一旦元の家へと追いやり、樽を確認する。


 強烈なアルコール臭、かなり濃縮されているのか量が少なくなっている。


『うわぁ、強そう。トールが喜ぶだろうなぁ』

「大丈夫なの?飲めるの?」


『多分、消毒液に使えるレベル』

「火が付くか」


『わぁ、蜂蜜に戻ってる?』

「なー、ヤベェなぁ」


『サウナに入れたらどうなるんだろ』

「よし、試そう」


 1滴垂らす、噎せ返る様な甘い香りと濃い魔素が立ち昇った。


 一般人には劇薬だ、浅く呼吸をするだけでもグングンと魔素が体に入り込んでくる。


『この感じ、溢れてる時こんな感じなんだよー、良い感じ』

「濃ゆいなぁ、苦しく無いか?」


『酸素が濃い感じで好き』

「ここら辺はカラカラの砂漠だものね、ご苦労様です」


『最初が魔法の無い世界だったから、この砂漠でもラウラは耐えられるのかな?』

「マジでそんなに?」


『まぁ、重い空気の中で歩いてる感じ、ラウラの側は結構楽』

「だから寝るときアレなのか」


『抱き付かないだけマシでしょう』

「ご配慮ありがとうございます」


 束の間の濃い魔素は直ぐに吸収され、消えてしまった。

 吸収率が高いのは良いが、お酒の酔いまで再現しているのか少しだけクラっとする。


『あー、楽しかった。良いね、また濃縮させよ』

「あの濃さはワシが飲めんし、使い勝手悪いから却下」


『じゃあ余裕ができたら良いでしょ?エリクサーの』

「まぁ、考慮はするが」


『言ったね、じゃあ出掛けよう』


 そして決定されたのは、アヴァロンでのピクニック兼エリクサー作り。


 勿論、空間を開いてロウヒも参加となった。


《良い天気なだけでも、楽しいわね》

『そうだな、本当にアヴァロンの空気は心地良い』

『ねー、ラウラから溢れたのも好き』

「他の言い回しが出来んかね」


『えー、例えば?』


《蜜?とかかしら?》

『おこぼれだろう』

「おこぼれで」

『情緒が無さ過ぎじゃない?』


「無くて宜しい」


『ふふ、無用な心配だったか』

「いえいえ、レーヴィとマーリンのお陰で何とか」

《良いのよ、無理に話さなくても》


『そうだぞ、珍しく天気の良いお茶会なのだからな』

《美味しい物を沢山食べて、お昼寝して、ゆっくり過ごしましょうね》


 良い人に接すると罪悪感が出て、申し訳なく思ってしまう。

 逆に悪い人の話を聞くと安心する、実に歪んで捻くれた状態。

 良い状態には思えないな。


「悪い人の話を聞くと安心します、歪んで捻くれてるんでしょうかね」

『それは違うぞ、心がバランスを取ろうとしてるだけだ。心の均衡を保とうとする事自体は正常、そのバランスの取り方が問題だが。悪い人の話しで安心するなら、寧ろ全く構わん。何かや誰かを害さぬなら問題無い』

『歪んでたり捻くれて何が問題なの?』


「かくあるべきと教わってますからね」

『時と事情によるだろうに、正攻法以外認めんとは、いつの時代の話しやら』

《ふふ、大昔の話しね。今思えば滑稽な決まり事も、今はする方が可笑しいものね、ふふふ》

『名乗ってから戦うとかね、総力戦で城を落とさないとダメとか』


《ハンカチを落として、拾わせたり。靴を拾わせたり、ふふふ》

『もう廃れたマナーだが、逆に今やれば面白いのでは無いか?』


《ブランコを作って貰わないとね》

『当然、私が拾う役目なんだろうね』

『良いでは無いか、何も知らぬラウラがどう出るか楽しみだ』


「ブランコだのハンカチだの、何の話しよ」


 決闘で手袋を投げつけるのは知ってはいたが、右手や左手で意味が違うだとか、今となってはマナー違反な方がどうかしてるシリーズが挙げられた。


 そして1回目のエリクサーを作り終えた頃、知らぬ間にブランコが出来上がっていた。


『それで靴を飛ばすだろう?』

《それで、履かせて貰うのよ、ふふふ》

「で?だから?」


『えーっとね、昔の恰好で考えてみてよ』

『ふふ、下着無しだ』

《ね、ふふふ》


「あ、何とまぁ破廉恥な」


『だろう、宮殿ではそんな事ばっかりだったそうだ』

《ね、面白い話しよね》

『余所で真似しないでね、まかり間違って勘違いされたら困るんだから』


「するかよ、面倒臭い」

『だがハンカチを落とす位なら良いだろう』

『それもダメ、変な虫が付いたらトールに怒られる』


《良い虫なら良いのね?》

「おー、良い虫とはどんなものかね」

『ふむ、聞いてみたいものだな』


『優しくて頭が良くて、誠実で真面目で』

《それだけじゃあ面白く無いわよねぇ》

『職業はどうだ?』


『職業って、まぁ安定してるなら』

『まるで親だな、つまらん』


《私は美味しいお菓子を作れる人がね、良いと思うの。ラウラに元気が無くても、元気な時も美味しい物を作ってくれる人にね、一緒に居て貰いたいわ》

『ガサツだからな、少し手入れが出来る者だと尚良いと思う。めかし込ませて、連れ出さんといかんからな』

『器用な人ねぇ』

「そういうのは既に先約があるか、もう結婚してるか、ヤバいかのどれかだろうに」


『寂しい事を言うで無いよ、ワシの婿はパティシエで猫科の亜人で優しいに決まっておるのだからな』

《良いわね、モフモフしてスベスベして甘い子ね》

「甘い子か、キャラメルかチョコか」


《メープルに生クリーム》

『パンケーキだな、無いのかマーリン』

『あるよ、マティアスお手製のふわふわシフォン』


「新作か」

《素敵》

『素晴らしい』


 分厚くふわふわのシフォンは甘さ控えめ、ロウヒやティターニアはシロップやジャム、生クリームを掛けて食べている。


 紅茶はストレートのアッサム。

 お茶会は穏やかで、まるで絵本の中の様に華やか。


 もしあの絵本に当て嵌めるなら、マーリンは白兎か帽子屋。

 ロウヒがアリスで、ティターニアは良い女王様。

 自分はチェシャ猫辺りが良い。





 目を覚ますと、夕暮れ時。

 オレンジ色の夕日が海へ半分入っている。


『起きた?エリクサーがもう少しで出来上がるってさ』


「起きたら目が覚めるんじゃ無いかと少し思ったけど、夢じゃ無いんだよねぇ」

『夢かもよ』

『そう誂うな、ほら、ミルクティーだ』


「ありがとう」


 紅茶で一服。

 出来上がったエリクサーを受け取り、家に戻ると甘いお菓子の匂い。


 キッチンにはマティアスとレーヴィ、テラスにはバーベキューコンロが置かれている。


『お帰りなさい、夕飯はバーベキューですけどリクエストはありますか?』

「無い、美味しければ何でも」

《後はスープだけなんだけど、簡単で良いからお願い出来る?》


「おかのした」


 玉ねぎをコンソメで煮ただけのスープと、キャベツとカブとサーモンのチーズ焼き、ソーセージにトナカイ肉。


 デザートにはリンゴのパイ。

 質素にしたらしいが、自分1人なら作らない豪華メニュー。


《レーヴィから聞いて、あまりお祝いみたいにならない様にしたんだけど、足りた?》

「足りた、どこまで話したのレーヴィ」

『選択肢があって大変だったと言う事だけですよ』


《うん、本当にソコだけ。選ぶって結構大変だから、労いの夕飯にしたかったんだけど、豪華なのも嫌かなって》

『だから僕らにとって、いつも通りの食事にしようって事になったんです。休みの時はバーベキュー』

「バーベキューってのがもう豪華、でも質素なのも分る。お気遣いありがとうございます」




 夕飯後、シャワーで軽く済ませ、ベッドへ。


 今日は申請が却下された事もあり、蘇生が行われる事は無かった。


 そして明日のお昼が蘇生リミット。

 このままなら、死者数は205人のまま。


 出来るのはただ待つだけ。


 ベッドに突っ伏していると、マーリンが帰って来た。


『お祈りなんて、初めて見た』

「少し道を間違えた程度の人は、蘇生要請されます様にとね。どの神様に祈れば分らんから、ただ神様にお願いした」


『天使さんの、主って言われてる神様の事も信じてるの?』

「信じるの意味によるが、まぁ、信じてはいると思う。あ、天使に祈るのは止めとこ」


『何かあったの?』

「まぁ、向こうで、ヘルが天使にキレてくれた」


『どうしたらそんな事になるの』

「他人の領域で自由奔放に振舞っちゃってね、まぁ、天罰よ」


『冥界の女王の領域でって、うん?ラウラ死んだの?』

「死んで無い、最初はロキに連れてかれた、橋を渡って」


『なんで?』

「娘のお友達にってのと、訓練に。蘇生の」


『そっか、だから話せなかったんだね』

「特にマティアスにはね、遺体を生き返らせたら捕まると思って、躊躇した事もあるから」


『出来たならした?』

「出来なかった事に安心してしまった、罪悪感に耐えられないだろうからしようと思った、でも魂がもう離れてて無理で、安心した」


『もし生き返らす事が出来てたら、また違った道になってたろうね。もっと、大変だったと思う』

「かもね」


『ベッド入ろう』

「もう当たり前になってんな」


『ほら』

「はい」


 でももしかしたら、最もベストだったのはそのルートかも知れない。

 それは言えないでしょうね、追い打ちになるもの。


『ベストなルートだったかもとか思わないでよ、そうならちゃんと言うから』

「追い打ち掛ける事になってもか」


『でもだって、本当の事が知りたいでしょ?』

「まぁ、はい」


『ね、だから言う、言ってからフォローする』

「伝わり難い優しさよな」


『褒めてくれてありがとう』

「いえいえ」


 ほんの少し、布団の中で言葉を交わし眠りについた。

《マティアス》『マーリン』《ティターニア》『ロウヒ』

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