物語が大変です
物事は突然に訪れるものだ。
僕たちはそれに満足して生きていくしかない。
「白龍の奴はどこに行ったのだ?」
「おい、こっちにいるぞ」
大きな声が聞こえ振り返ると、学生服を着た人たちが僕に向かって走ってきている。
僕はあたりを見渡す。そこには僕一人しかいない。明らかに僕の事を見てこちらに向かってきている。僕はそうして5分以上彼らに追われている。
「おらぁ!!」
もう逃げるのも限界だ。僕は振り返り力を込めた拳を振りぬいた。
追ってきて来た先頭の男に拳が当たると大きな衝撃が起きて、他の男たちも吹き飛んだ。
「僕を追ってきた理由はなんだ。」
男たちの中で一人だけ意識がある者に聞いてみた。
「あれ……白龍じゃない……」
男は最後の力を振り絞り、人違いで追いかけていた事を告げて意識を失なった。
そして10秒もしない内に曲がり角から新しい男たちが走って出てきた。
「白龍だ!!こっちにいたぞ!!」
「なんだってんだ」と僕は再び走り出した。
白龍。その名前をこの街で知らないものはいないだろう。
この辺りの高校を牛耳っているものの名前だ。
歴代最強の番長と言う事で、38校あるこの地区を初めて統一した男だ。
当然、白龍というのはあだ名になるのだが、本名を知る者は多くはいないだろう。
今頃、番長なんて存在するのか。時代錯誤もいい所だ。
「白龍が追われると言う事はどういう事だ。」
「それがわかんないんですよ、喜納さん、何が原因なんでしょうか」
初見さん昨日に続いて、また男たちに追われている。校内から窓を通して外を見ると学校の回りを不良たちが行ったり来たりしているが見える。
「昨日から追われているって聞いたけど、初見が何かしたって訳じゃないの?」と喜納さんが聞いた。
「白龍さん、どういう事ですか?」僕も同じ質問を続けて聞いた。
「お前こそ、どういう事だ。おれの名前まで使って悪さをするとは」
「悪さなんてしてないですよ」
「じゃあカッパぁ、お前か?」
「あぁ、俺だってなにもしてねぇって。あとカッパって呼ぶんじゃねぇ。」
喜納さんは白龍さんからよくカッパと言われる。前世がカッパなんだそうだ。
「じゃあ、誰の事をカッパと呼べばいいんだぁ?」
「どうでもいいんですけど。初見さんは今でも追われているし、喜納さんだって追われているんですよ」
「んあぁ」と白龍さんはあくびをした。「それはお前らが俺の名前を使って」
「そんなことするわけないだろ」
白龍さんも追われている理由がわからないらしい。それに白龍さんを追いかけるなんて、そんな度胸を持った人間がまだこの街にいるとは思えなかった。
「追われているのは良いとして、初見にカッパは仮にも俺に間違えられているんだから逃げるんじゃあねぇよ。俺の拍がが落ちるだろうが」
「それが白龍、初見のやつが昨日、追っ手を全部コテンパンにしたんだって」
「僕はそんな事してませんよ」
「そんなことないだろ。俺は目の前で見たんだ」
喜納さんが行っていることは確かに事実だが、僕には実感がない。ここ数日、もう一人の人間が僕の中に入り、操っているような異変があった。
「僕じゃないです。それは本当なんです、僕ではないんです」
「じゃあ、誰が?」
「誰がじゃないだろ。カッパ、初見が違うんだって言ってんだから違うんだよ。それは認めてやれよ。」
「でも、白龍」
「でも、じゃあないだろ。カッパ」
「じゃあ、俺が見たのは」
「初見、お前がやったのは違うっていのはわかった。じゃあ、誰がやったんだ」
白龍さんは、僕の言葉をすぐに信じる。
それは今に始まったことではなく、僕だけへの話ではない。
僕は僕の抱えている異変をうまく言葉にできなった。しかし、昨日の一件から外的な異変が起きていた。
「腕に変なものが」と僕は言った。
「それは知ってる。俺にもそれがある」
俺にもそれがある。白龍さんは当たり前のように言った。僕はまだそれを彼に見えていない。
「初見、一人で悩む事も重要だが、その異変に気付いた時には相談しておくべきだったな」
「どういう意味ですか。白龍さん」
白龍さんはゆっくりと袖をまくった。
腕には黒い線が入っており、それは腕を一周し丸く腕輪のようになってる。
「それって、僕のものと一緒の」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガと大きな音が外から聞こえ、窓が震えた。
僕たちの世界は動き出した。
昨日の些細な喧嘩から。腕にある黒い印から。そして物語は回り始めた。
「白龍!!空だ!!」
佐古田さんが大きな声を上げた。
「動けるか!?」と白龍さんが僕に手を差し伸べる。
黒い物体が空から落ちてくる。
その巨大な物体は僕が今まで見た物の中で一番大きい。
僕は体が震えている。佐古田さんも顔が青ざめている。
「ミラノ!!」
白龍さんが叫んで僕の顔を見た。
僕は心臓に痛みを感じた。頭も締め付けたてたように痛む。僕の中で何かかがはじけ飛ぶ音が聞こえた。
「…テン……ジさん」
勝手に口から出た言葉は僕の知らない男の名前だった。
それを聞いて白龍さんは少し笑いながら僕の手を取った。
「うおりゃぁぁ」
僕は空高く投げ飛ばされ、窓ガラスが割れ、校内の外に掘り出された。
「ミラノ!!記憶は戻ったか?」
僕は何もかもを思い出した。輪廻が回ったように、すべてが元に戻ったようだ。頭の痛みもなくなり、気分はすっきりとしている。
「はい、天冶さん、もう大丈夫です。でもやっぱり初見さんはすごい人です。この平和な時代でもしっかりと生きている。誰よりも強い信念をもって」そして僕の中になった異変がすべてなくなり、彼が僕の中からいなくなったのが分かった。
「そうか。」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガと黒い物体が地球に刺さっていく様子が見える。
「しかし、あれだな。他の仲間が見れないがどういうことだ」
「いえ、今、さえぎさんが集めています」
「さえぎか、懐かしい名前だ」
天治さんと僕はモノリスの上についた。
地上ではあの日と同じようにパニックになっているようだ。
これから起きる出来事を何も知らない人たちに、この輪廻の記憶を戻して闘うのはあまりにも残酷だ。
「ミラノ!天治さん!」
モノリスの上で僕たちは再開した。
「秋永さん」
「よくやったミラノ。ついに輪廻に達したな」
「はい」
「秋永、今回はヘマ出来ないぞ」
「大丈夫です、天冶さん」
「っちょっと、私たちの事も忘れないでよね」
そこには西木さんと喜納さんの姿もあった。
「ミラノちゃん元気だった?」
「よく、決断したね、ミラノくん」
「すみません、また巻き込むような形になって」
懐かしい声だ。僕は涙を堪えて返事をした。
「なに言ってるの。最初に巻き込んだのはこっちでしょ。戻してくれてありがとう。気合い入れていくわよ。」
「そうだな、明日も学校だ。」
喜納さんの足には子どもになった河童が隠れている。
「天治さん、空です。その節はありがとうございました。」
どんどんみんなが集まってくる。僕たちの記憶には確かに残酷な出来事が刻まれている。
それでも、僕はこの戦いが永遠に続けばいいなと思ってしまうほど、もう一度みんなに会えたことが嬉しかった。
「ミーちゃん、まだ終わっていないわ」
「……さえぎねえちゃん」
「みんなが集まってくれたからってまだ終わりじゃない」
「はい!!」と僕は腕を捲って黒い線を見た。「リストの埋め込みありがとうございました」
天治さんが僕らを見渡して大きく頷いた。
「よぉーし、行くか!!」
ジュワっと僕の体に何かが走る。血液が一気に蒸発しそうな感覚だ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガ。モノリスが大地に向かっていく。あの日と同じ、地球が思い出そうとしているのだ。
自分にリストを埋め込み。
それはこの男が導いたこと。
「ゼェン!!」
「善さん」僕たちはそこに立つ一人の男を見つめた。
「輪廻を進めるためには必要な事だ」と善さんは言った。
西木さんは銃口を向けて発砲した。
「善野天治、吉本秋永、西木清、喜納ユメジロウ、おっと、空弌にカッパまでいるとは驚きだ。それにさえぎ鈴、ミラノ=パルシオ、こんなに大勢で……」
「あれ?」と西木さんの銃が銃の形をとっていない。
「…どうして」
「西木清、君ではダメだ。その銃では僕を撃てない」
「んなわけぇあるかぁー」
西木さんが力を込める、あの男の前でそんな無茶が出来るのは簡単な事ではない。そしていびつではあるが銃の形を取り戻した。
「西木清。そこまでやるとは」
「ゼェン!!」
天治さんが叫ぶ。
「俺たちはこのモノリスを潰しにきた。」
「善野天治、もう一人見えてないようだが、初見くんはどうした?」
「ここにいるよ。この体は初見さんの体だ」
「ミラノ=パルシオ、まだそんなことを……しかし君たちは確か、私を消滅させたのでは」
善さんは感じ取っている。今の現状を。
「それを今ここで、形にするんだよぉ」
天治さんの拳が当たり、善さんは倒れた。
そして血を流しながら立ち上がる
「そういう事か。吉本秋永、君の言っていたことができたと言う事だな。」
「善さん、あなたはもう、ここでは存在できない」
「吉本秋永、過去の流れはいつしか未来になり、未来に起こりうることは我々の過去になるのが、輪廻だが…地球が記憶を戻すと言う事が、理解ができないのか?」
「善さん、ここで終わりです。僕はあなたのおかげでこんなにも強くなれた。多くの悲しみも乗り越えることができた。」
「ミーちゃん」
「善さんは一人で輪廻を進めようとしている。それは普通の人には出来なことです。どんなに優れた人間でも出来る事ではない」と僕は言った。「そしてあなたは優しすぎる」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガ。
「理解は結果から生まれることもある。このモノリスで地球が記憶を戻すことが輪廻から抜け出し、真理に近づくことになる。その過程での犠牲は必要なんだ」
「僕たちは輪廻を進むための形にはなっていない。輪廻を廻るうちに形は変わり、やがて朽ちて消えていく。初見さんがそうだったように。誰もが消えていく」
「それを正す為に、地球が記憶を取り戻そうとしている」
「それでも、それでも」地球が記憶を取り戻す。モノリスに触った猿たちが知識を得たように。
「善さんが言うように誰もが輪廻を超える世界が来るとしても。明日がなくても僕たちは立ち止まらない。」
「それで良いというのなら、壊せるのかミラノ=パルシオ、君にこの人類の希望が」
「できるよ。もう迷わない」
僕の手が赤く燃える。モノリスが僕の頭に入ってくる。平和な世界、誰もが幸せな世界を見せる。僕は今からそれを壊す。
そして、壊せば、秋永さんも、天治さんも、みんな消える。
輪廻から外れた存在だからだ。そして回り続ける輪廻の世界を。
「ミラノ 一発だ。一発で壊せ。それが最後の修行だ」
みんなが笑顔で送ってくれる。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ。
この時代ではもう過去も未来もない、
時間軸を自由に移動することができるようになったからだ。
しかし、その危険性に政府が気づく前に規制をかけたのは、天治さんである。
過去に行くことをすぐに規制し、時間軸を捻じ曲げたのである。
過去への移動はあまりにも危険で、タイムパラドックスが起きるからである。
そして、天治さんが過去への移動をできなくした時代を新世界元年とした。
「ミーちゃん」さえぎねぇちゃんが僕の振り下ろした拳を握る。
腕に激痛が走っているが意識ははっきりとしている。
「全部終わったよ、これで全部終わった。天治さんたちもみんな消えたわ」
「輪廻を廻る形で……ミラノ=パルシオ」
「っえ」
「まだ終わっていない。君たちは失敗したのだ、初見くんの意志もここで終わりの用だね」
大地にモノリスが刺さっている。
「……壊した…はずじゃ」
「壊れたよ。でも輪廻の中では何も変わらない。繰り返すだけだ」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ。
新世界。そんな世界に僕はこの世界に生を受けた。