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86:VtuberたちのタコゲームⅠ

一途パート:夢野の誘いでようやくの目標であった「エルとコラボする」ことに成功した一途。だが、それは欲望の1ページであることでしかないと気づき始める。一方で、コンビニで共にバイトしていた「高知瑠美」には秘密があることにはまるで気づいていなかった。

 勢いで言っちゃったけど、ようやく俺は遥と正式にコラボができる! 他にもいっぱいVtuberの人がいるけど、要はキッカケさえ作っちまえばこっちのもんだ! バイトだって頑張れる!


「いっくん。今日は、やけに張り切っちゃってるわね。そんなに女の子と一緒にバイトできるの楽しい?」


「え?」


モップ掛けをしていた俺がカウンター越しに覗くと、店長は控室のパイプ椅子に足組みしながらゆったりと構えていた。ギャングのボスかよ。そして、カウンターには少し困り顔の新人、高知瑠美さんがいそいそとレジ後ろのタバコを並べていた。


「そ、そんなに女の人のバイトさんって少ないんすか?」


「ええ、そうなのよ。来るのは大体輩。男ばっかでむさくるしいのよ」


「そう、なんすね......。先輩は、私が来て嬉しいんす?」


メガネをクイと持ち上げて上目遣いをするも、俺は特に気にせず本音で答えた。


「新人が来たら、だれでも嬉しいもんでしょ」


俺はそう言い放ってモップ掛けに戻る。休みだからか、いつも以上にこのコンビニは人が少なく感じる。一通り、モップ掛けを終えたので道具をしまいレジへと戻ると店長が愚痴をこぼし始めた。


「ところで、あんたたちなんで二人そろって早上がりなの? もしかして、もう出来ちゃってる?」


「ありえませんよ。この間知り合ったばっかりですよ?」


オレが首を細かく横に振っていると、それに同意するように高知さんもうんうんと頷く。

店長が怪訝そうな顔つきをしつつも、しぶしぶ納得してくれたようで時間になるとすんなり帰してくれた。これで、時間に遅れちまったら遥たちに面目が立たないからな。


「じゃ、店長お疲れ様です!」


「おつかれす」


俺は、早歩きで遥たちの待つスタジオへと向かっていく。だが、高知さんもなぜか同じ方向へと走っていく。家がこっちのほうなんだろうか? だが、駅も同じ、電車も同じ、そして降りる駅も同じと、かなり違和感が出ていた。


「も、もしかしてストーカーさんとか?」


駅を降りてからもずっと、俺たちが行く方向が同じとなると確かにそうなる。

だけど、誓ってそんなことはしない。でも、向こうもよくも知らない人間が同じ方向に向かうとなると君が悪いだろうな。


「いやいや、俺はこっちで用事あるんだよ」


「え、私もそうですよ? 奇遇ですね」


少し、緊張状態から抜け出したのか俺たちの歩幅はゆっくりになっていく。すると、一気に周りが見えるようになってきた。大きな道路を挟んで、オフィス街が並ぶようになってきてVtuberやアイドルのポスターも並ぶのが見えてきた。


「地図によるとここだな」


スタジオに入っていき、同じエレベーターを待っていると高知さんは少し首をかしげながら俺に疑問を投げかけてきた。


「私もここです。もしかしなくてもVtuberの神野エルさん......ではないですよね」


「まあ。Vtuberってのはあってますけどね」


「なるほど、ということはむうまさんの言っていた鯨鮫ちゃん?」


エレベーターが開き、二人してぞろぞろと狭い箱の中に入る。

そして俺は5階のボタンを押した後彼女の方を向いて頷いた。


「はい。自分が、鯨鮫おるかです。ということは、あなたが」


「まあ。そうなりますね......。ひ人前で話すの、苦手なんですけどね」


「いや! ジルさんの配信ちょっと見たことありますけど、そんな風には」


「あー。じ実はそれには、深ーい事情がありまして」


ん?と首を傾げつつ、エレベーターを降りスタジオに入ると夢野、遥、そしてもう一人の女性がいた。女性は高知さんを見るなり、彼女の腕を引っ張る。


「さ、着替えますよ。姉さん」


「ィヤ、ヤァ!!」


「でかい図体して、ダダこねないで下さい! すいません、少しお時間いただきます」



そう言って女性は、高知さんを連れて消えていった。にしても姉妹にしてはそっくりだなぁ。

ボーっとしていると、夢野が遥とともに俺の方へと向かって来た。


「ちーっす先輩」


「遅かったな」


「悪い。さっきまで、高知さんとバイトしてた」


「え、ジルちゃんってバイトしてたの?」


夢野が大きな瞳をさらに大きくして俺に近づいてくる。


「て言っても、こないだ入ったばっかりだけどね」


あれ? 普通に喋っちゃってるけど、俺ってVtuberとしては夢野の後輩だよな?

配信の時は敬語で話さんといけないのか? なんか嫌だなぁ......。大学の後輩に敬語使うの。


「もうすぐ200万行くってのに、バイトするなんてそんなに世知辛いの? Vtuberって」


夢野が遥の方に向くと、遥は渋い表情をしていた。やっぱり、配信だけっていうのも難しいんだろうか......


「ジンさんも仕事の傍らやってるみたいだし......。オレも配信だけじゃなくて、グッズとか買ってもらって何とか活動してる身だしなぁ......。 でも、それでみんなが喜んでくれるならやってよかったなぁってなる」


「そうだよね! やっぱやるなら楽しくて、才能が活かせるところじゃないとね! 私、絶対二人に追いついて見せるから!」


そうこうしているうちに、奥へ消えていったスーツを着た高知さんの妹の方が現れた。


「お待たせしました。我が領主、ジル・デ・ジルコニア公です」


奥から現れたのは、ジルと同じ王子のような衣装コスプレで現れた高知瑠美さんが先ほどとは打って変わって自信に満ち溢れた顔つきで私たちを見つめる。


「待たせたね、君たち。おお! 君が噂の姫君か」


そう言うと、遥かの元に駆け寄り膝をつく。


「妹から話を聞いたよ。やっと、出会えた! 君が、神野エルくんだね! 君と戦えること、楽しみにしていたんだよ? さあ、私たちで盛大にデスゲームと行こうじゃないか」


「それって、どういう」


だが、遥の疑問には答えずジルは大きな身振り手振りで私たちを鼓舞していく。


「さあ、盛大にゲームを始めようではないか! 瑠衣、準備を」


『瑠衣』と呼ばれた妹さんが、準備を始めると俺たちはモーションキャプチャーに袖を通して新たな自分に代わる。そして、ゲーム画面が透過していく。オクトバーストは、EPEXみたいに銃もあるしインクを塗るローラーのようなものまでが武器になっている。


「領民の諸君、待たせたね。今日はこの4人で最近話題のゲーム『オクトバースト』を楽しむぞ! では、各々自己紹介頼む」


ジルの言葉で俺たちは一気に配信の空気が流れていく。ジルの天才的司会進行と、立ったキャラに当てられみんなも気合が入っていく。


「はーい! よぉ、ジルコニア領の愚民ども! ゆーらいぶ所属のばーちゃるサキュバス むま・むうまだ! 純血を捧げお! あぅ、また間違えたぁ!」


「ふふっ。 はい! ゆーらいぶ4期生 バーチャル美少女JK 神野エルでえす! お願いします」


「そっか。みんな所属ゆーらいぶなのか。寂しいけど、頑張ります! 深界の乙姫こと海洋系Vtuber鯨鮫おるかです!  マリアナ海溝で私と握手!」


「いやぁ、話題のやつらがそろったって感じだな!」


「ジルがそれいうか? 逆に私だけキャラ薄く感じてきたゾ?」


「むうまはかなりキャラ濃いと思うよ? 私なんてただのバーチャル美少女だよ?」


「でも男だろがい!」


「それいう? ていうかさぁ、おるかちゃんも混じってよぉ! コラボしたかったんでしょ? うちと」



彼らのトークの展開力にいつの間にか、いつものように一ファンとして見守っていた。

そうだ、今俺は彼女たちと同じVtuberなんだ。やろう、全力で!


「そうですよ! もう、耐えられなくて深海から出てきちゃいました! もう、はやく一緒にゲームしたいんです!」


「ははは! そうだな。今日は4人で協力して天下一を目指そう!」


戦車型のタコたちが砲身スキンを変えて、それぞれ発進していく。俺たちの戦いが、また始まる!

4人での協力とコラボ配信に悪戦苦闘する一途。それをフォローするように、遥は裏でいろいろ指導していく。彼らに降りかかっている火の粉など知らないままに......。

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