84:おもいトビラ
勝利に浸る一途。だが、彼にはまだ試練がある。
『いやぁ、いろいろありすぎて大変でしたが、今日はありがとうございました!! それでは、おるかれさまです~』
【個人応援隊】:「優勝おめでとう! おるかれさま~」
【紅蓮ライガー】:「おるかれー」
波乱のEPEX配信が終わり、俺は長く深いため息をついた。こんなにゲームに熱くなったのは初めてだし、あのEPEXの鬼ともいわれてるジンさんに勝ってしまったというのも驚きだ。
「大変だったぁ......。ってもうゴールデンウィークも終盤か。ラスト3日、頑張らないとな!」
だけど、その前に遥の様子も気になる。でも、今行ったら多分機嫌悪いだろうなぁ......。
部屋でまたため息をつき、少し熱くなったパソコンをシャットダウンして布団にもぐる。
「久しぶりにゆっくり寝るとするか。明日もあるし」
遥のことは明日様子を見よう。あいつの好きなカステラでも買ってやるか......。
あいつが笑顔でカステラを頬張る妄想にふけりながら、瞼を落とす。
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次の日の朝、俺はゆっくり目覚めた。身支度をして少し散歩をする。
何をしたいか、どんなことをしゃべるか......。ずっと座りっぱなしなのも嫌気が差すし、考えもまとまらないときはいつもこうやって適当に歩いている。
「遥、まだ寝てるだろうな......。あいつ、いつも寝起き悪いし」
気づいたら自分の足は遥の家に向いていた。だが、彼の家に向かうこともなく、通り過ぎては自分の部屋に戻る。部屋は配信を始めてから静けさを感じるようになった。今はとても静かで少し不安だ。
「今日は17時から雑談配信だったな。質問なんかきてるかな......」
パソコンを開き、配信の準備を始める。
準備をしているときはいつも、エルちゃんのアーカイブをBGM代わりに使っている。それでも、エルちゃんが気になるから、BGMにもならずに作業が止まっちゃうんだけど......。
『やっぱり新しい子には誰にも負けたくないよねぇ。後輩に負けない配信がしたい! でもさぁ、めっちゃ面白いんだよねえ......。むうまちゃんとかミィア様とかねぇ。 だから、コラボとかもやりたいし、対決とかもしてずっとワイワイしてたい......』
俺も、早く遥とコラボがしたい。EPEXみたいに野良でたまたま出会うとかじゃなくて、しっかり対面で。それで、あいつの嫌いなホラーとか隣でやったり、一緒にスマッシュボーイズとかやったりして俺のプランクトンたちとエルちゃんFCのメンバーに仲の良さ見せてえ......。じゃなっくて、いっしょに楽しく配信したい!
「よし、質問選び終わり! お、もうお昼か......。遥と飯でも、いやどうだろう」
勢いに任せて、遥の元へ飛び込むも予感は当たり不在だった。まだ、拗ねてんのかなとよぎりつつも次の日でも改めてみようと俺はバイト先のコンビニに向かう。すると、店長ともう一人別の子が入っていた。その子はメガネをかけていて短髪の女の子だった。でも、どこかで見たことがある気がする。
「あら、いっくん。最近バイトのシフト減って、アタシ寂しいわよ? そのせいで新しくバイトの子増やしちゃったし」
「すいません......。いろいろ忙しくって。でも、ここが嫌いになったわけじゃないんでまたお願いしますよ」
「確かにあんた見てると、なんかやること見つかったって顔してるわ。あ、そうだ新人の子紹介するね! こちら、高知瑠美さん。高卒なんですって」
「よ、よろしくっす......」
ぼそぼそという彼女の声は少し低くも可愛らしさもあった。彼女はずっと俺と目が合わせようとせず、キョロキョロと周りを見ていた。苦手なのかな......。ちょっと気持ちわかるかも。
「よろしく。俺、小田倉一途っていいます! えと、シフト同じになったらまた話そうね。あ、これ会計よろしくお願いします」
「は、はは。ハイ」
そう言って彼女はバーコードリーダーを俺の買う弁当にあてがった。会計を済ませ、俺は外に出る。
それにしても、俺は彼女のことをどこで見たんだろう......。苗字も、聞いたことがある......。
「思い出せねえ......。まあ、いいか。また、会ったときに聞こう」
そう言って、俺は部屋に戻り、さっそくレンジに弁当を入れた。
ボーっと弁当を食べ終わり、なんとなくUtubeみたり、マンガ読んだりして時間を過ごして、いつのまにか配信の時間となり、配信を始める。
『みなさーん、ごきげんイカが? 深界の乙姫、鯨鮫おるかでーす!』
この声と、この決め台詞にはもう慣れた。私が話す前からいたプランクトンたちは、時に私をいじり、私を愛で、そして私と団らんした。
『じゃあ、今日もありがとう! おるかれさまです~』
そう言って、配信を切りすぐにSNSで自分の配信についてつぶやいたり、エゴサをした。
「【#(ハッシュタグ)配信おるか】 っと」
一通り、ハッシュタグした人にコメントを入れたり、【#おるか絵いるか】で絵を描いてくれた人にも反応したり、楽しく過ごした。でも、エルちゃんもそうだったが、ときおり心無いコメントをちらほらと見かける。個人勢というにも関わらず、ご苦労なことだと少し思った。確かに、この数日で確実に登録者数が一気に増えすぎたせいもある。そのせいで、自分の活動名を検索すると次に検索ワードとして出るのは「ヤラセ」だった。
「無視に限るんだろうけど、無視しきれんわなぁ......。にしてもヤラセなんてするかね」
どうやって、こういう言葉や人を振り切れるんだろう。今の俺には到底わからない。
遥、お前ならどうするんだ? どうしていたんだ......。 でも、遥は次の日もその次の日も俺のドアのノック音に応えてくれなかった。
「明日から学校だし、学校なら強制的に会うだろ......」
ゴールデンウィークも、鯨鮫おるか毎日配信も、そして日も落ち着いてきてパソコンのチャンネル登録者数をふと眺める。登録者数もいつしか100万人になっていた。そっかぁ、俺も100万かぁ......。そう思いながら、明日行く用意をする。
「っておい! この数字、なんじゃこりゃああああ!!!」
1,10,100、1000 ...... 数え間違いじゃないよな!? 俺が100万人......。
確かに、この速さは異常だし、ヤラセって言われるわ。配信を初めておそらく1週間......。いや、まだ1週間しか経ってないのかよ。そんな中で、俺は登録者100万人という壁を優に超えてしまったのだ。
「とにかく、みんなに報告しなきゃ。まずは、冷静に落ち着いて......。SNSで発信して、後、押崎さんに連絡した方が......。いや、遥が先か? って学校どころじゃねえええ!!」
長い夜は、発狂する若者を優しく見守ってくれているようだった。
遥の心の扉を開けろ。
登録者100万のVtuberとなった一途はどう動くのか




