58:二人で過ごすクリスマスは
配信が終わりひと段落がついた遥に一途から一通のメールがくる。
それは、クリスマスに遊園地に遊びに行かないかということだった。
配信が終わった後、一途から連絡があった。
それは、次の土曜日に遊園地に行かないかということだった。
「『おっけー』っと。一途、あいつオレとの約束ちゃんと覚えてたんだな」
きっと、この前オレが「遊びにいきたい」という言葉を真に受けて計画してくれたんだろう。
なんにせよ、オレ達のクリスマスの予定は決まった。そう思うと、ゲッツさんの時の配信とはまるで違う結果になってしまったな。ま、配信もするけど......。
「何着ていこうかな」
取り出すものは自然と女性ものの服を選んでいた。いや、これはデートでもないし、というかなんであいつのために女装しようとしてんだよ。オレはオレ自身が着たい服を着ていたいだけだし......。いつものジーパンにパーカーでいっか。寒いし......。
......。結局、ジーンズにパーカーというのも味気ない気もするしせっかく遊園地行くなら
そう思い、オレはロングスカートと白のタートルネック、そしてグレーのコートを羽織って外に出た。待ち合わせは自分たちの家の近くの最寄り駅。
「一途、遅えな」
そう思っていた矢先に一途が歩いてきやがった。特に服装に動じるわけでもなく、彼は淡々と話しかけてきた。
「待たせたな......。さ、行くか! 遊園地!」
「ちょちょちょ! 待てって。なんかあるだろ! いうことが」
そういうと少し考えた後、駅の方へ眼をそらしながら
「あ? あ、今日もかわいいな。じゃあ」
「なんだよその反応は! 遥様の久しぶりの女装なんだぞ!? もっと“おっふ”とかしろよ」
「そんなことより俺は早く遊園地行きたいの! 俺、実は遊園地行ったことないんだよね」
「ま、行ってくれるような友達も彼女もいないしね」
「うるせえ。は、早く行こうぜ」
そういって一途はオレの手をぎこちなくつなぎ始めて改札へと向かった。寒いのに関わらず彼の体温は少し暖かい。マフラーから少し見える耳が赤みがかっている。
二人で改札を通り、電車に揺られ、しばらくすると遊園地の入場口にまで目と鼻の先となった。夕方はオレの配信があるため朝から1日のフルコースとは言わないが、今日は一途と二人で遊園地を散策する。1dayパスを買い求めていざ中へ入っていく。
「うおおおおお! いいな、なんかおとぎの国に来たみたいでテンション上がる!」
「あんまりはしゃぐと目立つぞ? オレが女装だってバレて変な雰囲気になったら嫌だぜ?」
「大丈夫だって、今日のお前女にしか見えねえよ」
すると、オレのつけていたウィッグに手を触れて撫で始める。頭を撫でられているような感覚というより、帽子の上から押さえつけられているみたいだ。
「さっさと乗ろうぜ。予定いっぱいあるんだろ?」
「まずは、ジェットコースターかな」
「いいね! オレ高いところ好きだぜ」
「怖いのは苦手なのに高いとこはいいんだな」
「関係ないだろ? ジェットコースターは人前でも恥ずかしがらずに大声で叫べるから気持ちいいんだよ」
「まぁ、気持ちはわからなくないかな? 天気のいい日ほど気持ちいいかもね」
オレと一途はスマホをいじりながらジェットコースターの列を待っていると、ようやくオレ達の番が回ってきた。オレと一途は隣に座って席に座った。
「緊張するね」
「そう、だな。座ると一気に風景が変わるというか......」
お互いに顔を見合わせながら息をのむ。係員の人が発車の合図を出して、コースターが動き始める。
ガタ、ガタと乗り物が上へ上へと昇っていく。寒空のせいか青空が少し高い。
「ひええ、高えええ!」
「ちょっと寒いね......」
「勢いに乗って走り出したらそんな悠長なこと......ってもう頂上!?」
心臓の鼓動もコースターも最高潮の中、一途はそっとオレの手を握る。恐れからなのか、それとも狙ってなのかはわからない。でも、目をつぶってるから前者だろう。オレはそっとしておいた。前列が落ちはじめ、そしてスピードに乗ってコースターは流れる。
「ひいいいい!」
「ぎゃあははははああああああ! いえーーーーーーー! 一途、もっと景色楽しめって!」
「む、むりぃぃぃいいいい!」
まったくあきれたやつだ。いつもはかっこよくリードしようとするくせに、今となってはオレより女子みたいに泣き叫ぶ。ほんと、面白いやつだな。
「あ、きれい......」
「あっ!?」
いよいよ終盤というときに一瞬だけ、一途と目があった。俺を見ていたのか空を見ていたのか、その瞳はいつも以上に澄んでいて優しかった。コースターは仕上げのコースへと入っていく。
だんだんと減速して平坦な道へとつながり、元の出発地点へと戻る。
「ふう、気持ちよかったぁ~! 一途、次何乗る?」
「ちょっと、休憩......」
階段を下りていく一途は少しげっそりしていた。よほど怖かったのだろう。でも、こういう情けない姿を見るのは初めてだからいいな。オレはゆっくりと彼の手を引っ張る。そして、微笑みながら一途に振り向いて
「ええ? まだ始まったばかりなのに」
「始まったばかりなのに飛ばしすぎなんだよ。ゆっくりとしたものならいいけど」
「じゃあ、次メリーゴーランドしながら休む?」
「いや、たしかゆっくりめの奴が......。ワールド・アドベンチャーが船旅をイメージしたアトラクションだったような」
「面白そうだね。それにしようか」
オレはそのまま彼を引っ張りながら、彼の指示通りワールド・アドベンチャーというアトラクションへと向かった。まだまだ夜までは時間がある。精一杯、二人の時間を楽しもう。
一途と遥はともに遊園地を満喫していく。だが、時間が過ぎるのはあっという間だ。




