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57:遥への思い

小田倉一途おだくらいっとととして、霜野遥への思いはなんなのか......。彼はそれを探すため、彼と約束をする。

「あー、講義眠かったぁー!!」


俺は講義室の椅子で伸びをした。隣で眠そうになりながら、ギリギリで耐えている遥のぼんやりとした顔がいつもよりもかわいく見えてしまう。ホラーの配信、めっちゃよかったもん。


「なに? オレの顔になんかついてる? それとも、見とれちゃってる?」


「お前も眠そうだなって思って。 どうする? 今日はもう講義ないし、久しぶりに二人でゲーセンとか行く?」


いつもならダルそうな声で「行くー」と言いそうなのに今日は首を横に振った。相当疲れているのだろうか、声も少ししゃがれている。


「この前の配信で叫び疲れたってのもあるけど、今週オレ案件でさ」


「スケジュールで公開してたな。だいぶ前にマネージャーさんが言ってたガリレオか?」


「そうそう。またホラーかって思うとちょっと緊張っていうか」


「いつものお前でいいと思うぜ。後、のど飴買え。いや、いいや俺が買ってくる。別になんでもいいよな」


遥は喉を抑えて何も言わずにうなずいた。こんな大切な時期だ。体はいたわってほしい。今度また前みたいに風邪ひいたらと思うと、心がキュッとなる。配信者って大変だよな......。俺は講義室を抜け、食堂の隣にある売店でのど飴を買った。ついでに俺が飲むお茶を買って戻る。


 少しの時間とはいえ、講義室から食堂まで外を歩かないといけない。薄着で出歩いてしまった数十分前の自分を呪いたい。


「さっむ」


ペットボトルのフタを開けると少し湯気が立っていた。口元と喉に通る温かな緑茶が体を癒してくる。フウと息をつきながら暖房の効いた教室で待つ遥の元へと向かう。


「ただいま。はい、あめちゃん」


「おかえり、さんきゅーな。はちみつ入りのやつか、いいセンスだ」


そういうと遥は飴を袋から取り出してなめ始めた。机に肘を付けて顔を支えている何か考え事をしているみたいだ。こういうときもかっこよく決まる奴だから少しイラっとする。


「なぁ」


俺の方を一切見ないで遥は窓の外の風景を眺めて俺に話しかける。


「あ?」


「最近、俺が忙しくて遊べてないの気にしてる?」


「前はお前がそんなことしてるなんて知らなかったから、そっけねえ奴だなって思ってた。けど、俺の推しとして頑張ってたって知ったらわがまま言えねえよ。でも、ちょっと寂しいかもな」


そういうと、体を崩して机に突っ伏して腕を組んで頭をそこに乗せた。顔をこちらに向けて顔を赤らめてしっとりと口を開く。


「オレもだわ。配信は楽しいよ。でも、お前といる時間も作りてえ。で、提案なんだけど案件が終わったらどっか行かね? 金なんていっぱいあるんだし」


少し、彼の声が甘く聞こえたのは飴をなめていたからか、それとも本当にさみしさを感じていたから来た猫なで声だったのかはわからない。でも、俺も遥と同じだ。それに俺は確かめたい。この胸の高鳴りが、推しを目の前にしている緊張なのか、『霜野遥』という存在を友情とは別のなにかを抱き始めたところからきているものなのか......。二人きりならそれがわかるはずだ。押崎さんならそういうはずだ。


「嫌な言い方だな。まあ、仕方ねえ。最近ホラーばかりやって疲れてるであろう遥くんに労ってやろう。遊園地なんてどうだ?」


「男二人でか?」


変かもしれない。でも、遊園地くらいじゃないと俺の気持ちはわからない。そんな気がする。


「むしろ、女装するチャンスじゃねえの?」


「女装は趣味じゃねえっての。でも、いいな。お前のきょどる姿みてえし」


「いや、もうさすがに慣れたわ」


「どうだろうね......」


そういうと、遥は立ち上がり鞄を背中に背負った。


「よし。休憩もしたし、配信の準備するか! じゃあな。遊園地、楽しみにしてる」


「お、おう。頑張れよ」


彼の背中は先ほどの憂いが嘘だったかのように明るいように見えた。きっと、今日の配信も楽しんでやってくれるだろう。俺はいつも通りそれを推すだけだ。


 家に戻り、やることもなく本を読んで過ごしていると思っていた以上に時間がつぶれ、配信の10分前になっていた。


「おっと、そろそろ時間だな。待機場所は?」


開いていたパソコンを操作してエルちゃんの元へと駆けつける。今日も人が多く集まってくる。いや、少し増えている気がする。これは本当に嬉しい。自分の推しが他の誰かの支えになってると思うと、また同志が増えることは俺は嬉しいんだ。


『ちょっと待っててね~。よし、見えてますかな? 声も大丈夫?』


【下ネタヘイヘイ】:『大丈夫! あ、でも今日はスパチャできないのかな』


【一途な一号】:「概要欄にもある通り、今日はコメントのみらしいですよ~」


【おかき】:『エルちゃんの叫び声が聞けるならなんでもいいw』



今日は案件としてゲーミングパソコンを紹介するからかいつも通りの配信とはいかない。それでも、俺たちは盛り上がる。なぜなら、今回もエルちゃんの絶叫が聞けるからだ。


『ふう。緊張してきた......。でも、めちゃくちゃ画面綺麗だよね? やっぱゲーミングパソコンいいなあ。お金溜まったら買おっかなぁ。とりあえず、今日はガリレオというゲーミングパソコンを販売している会社さんから案件をいただいたので、ガリレオを利用してゴーストハンターしていきたいと思います。今日は、幽霊の正体を暴くだけでなく、退治もしていきたいと思います!』


画面の解像度といい、ゲームのスムーズさといい、いつもの配信よりもいいように感じる。俺もゲームはほとんどパソコンだし、買ってもいいかもしれない。別にゲーム以外のこともできるだろうし......。

【下ネタヘイヘイ】:『みんな、頑張エールを送るんだ!』

【ジンジャー・エール飲みたい】:『頑張エール!』

一途な一号:「がんばえーる!」

【おかき】:『がんばえーる!』


『みんな、”頑張エール”ありがとう! 幽霊の調査、完了したぜ! 後はハントするだけだね。!? なんか音した! ヘッドホン新しくしてよかったぁ。隠れよう、隠れよう! ロッカー!』


案件動画や配信だと煙たがって見なかったりする人もいるけど、今回の配信は大盛況。多くの人もスパチャ禁止というルールも守っている。なんだかんだ楽しいいつものエルちゃんの配信で終わった。

 遥も初めての案件で緊張しただろうし、ゴーストハンターという一番苦手なホラーゲームで大変だっただろう。これは、本当に労う必要があるな。


「さて、次の土曜はいつだったかな......。」


俺はパソコンから目線を話して近くに置いてあった卓上カレンダーを見る......。


「って、クリスマスじゃねえか! まあ、いっか」


俺はそのまま右手に赤ペンを持ってカレンダーの12/25の部分に〇をつけた。

いよいよ、クリスマス。二人の思いはどう重なっていくのか......。

ようやく1年生編最終章!

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